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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-23
(45)【発行日】2023-01-31
(54)【発明の名称】チューブ及び該チューブの製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16L 11/12 20060101AFI20230124BHJP
   B29C 48/32 20190101ALI20230124BHJP
【FI】
F16L11/12 N
B29C48/32
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018142400
(22)【出願日】2018-07-30
(62)【分割の表示】P 2018067430の分割
【原出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2019184048
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100179213
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100170542
【弁理士】
【氏名又は名称】桝田 剛
(72)【発明者】
【氏名】小林 大記
(72)【発明者】
【氏名】大島 浩
(72)【発明者】
【氏名】関谷 一剛
【審査官】伊藤 紀史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/043317(WO,A1)
【文献】特開2016-037597(JP,A)
【文献】特開2016-070414(JP,A)
【文献】特表2012-514547(JP,A)
【文献】国際公開第2013/077452(WO,A1)
【文献】特表2017-524491(JP,A)
【文献】特開2014-129883(JP,A)
【文献】国際公開第2016/204174(WO,A1)
【文献】特開平11-210941(JP,A)
【文献】特開2016-169856(JP,A)
【文献】特開2017-044335(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 11/12
B29C 48/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂製のチューブであって、
前記チューブには、軸方向に前記フッ素樹脂の配向が均一な領域と、前記領域と比べ前記軸方向の前記フッ素樹脂の配向が不均一な光学的位相差ラインとが、周方向に交互に形成されており、ウエルドラインが形成されておらず、
前記チューブは、前記光学的位相差ラインによって、前記チューブの軸方向に引裂き性を有するとともに、熱収縮性を有し、
前記チューブの周方向に離れた箇所において測定されたリタデーションに差を有する、チューブ。
【請求項2】
前記チューブの外表面の表面粗さRzが2.0μm以下である、請求項1に記載のチューブ。
【請求項3】
前記チューブの外表面の表面粗さRaが1.0μm以下である、請求項1又は請求項2に記載のチューブ。
【請求項4】
前記フッ素樹脂は、加熱溶融押出成形が可能である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のチューブ。
【請求項5】
前記フッ素樹脂は、三元以上の多元共重合体である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のチューブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チューブ及び該チューブの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
WO2017/043317(特許文献1)は、引裂き性を有するフッ素樹脂製のチューブを開示する。このチューブにおいては、ウエルドラインが形成されることによって、長さ方向の引裂き性がチューブに付与されている。このチューブはカテーテルの製造等に利用されるため、このチューブにおいては高い内表面平滑性が実現されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】WO2017/043317
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、チューブにウエルドラインが形成されると、チューブ表面の平滑性が低下する。上記特許文献1に開示されているチューブにおいては、ウエルドラインが形成された上で、高い内表面平滑性が実現されている。
【0005】
しかしながら、ウエルドラインが形成されているため、外表面平滑性は低下している可能性が高い。たとえば、チューブの外表面に微小な凹みスジが形成されていたり、チューブに熱収縮性を付与する拡径工程においてチューブの裂けが発生していたりする可能性が高い。また、ウエルドラインが形成されることによって、チューブにおける厚み分布の広がりが大きくなっている可能性もある。厚み分布の広がりが大きくなることによって、たとえば、チューブにおける熱伝導性にムラが生じ、収縮ムラが生じる。
【0006】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであって、その目的は、引裂き性を有するフッ素樹脂製のチューブであって、内表面及び外表面の平滑性が高く、厚み分布の広がりが小さいチューブ、及び、該チューブの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある局面に従うチューブは、フッ素樹脂製のチューブである。このチューブは、チューブの軸方向に引裂き性を有するとともに、熱収縮性を有する。チューブは、以下の条件(1)及び(2)の両方を満たす点a,b,c及びdを含む。
【0008】
(1)0.9<Rea/Rec<1.1、かつ、0.9<Reb/Red<1.1
(2)Rea/Reb≦0.9、又は、Rea/Reb≧1.1
点a,b,c及びdは、軸方向におけるチューブの任意の断面で、円周上において周方向にこの順に並ぶ任意の4点である。Rea,Reb,Rec及びRedは、それぞれ点a,b,c及びdにおけるリタデーションである。チューブは、以下の条件(3)を満たす。
【0009】
(3)集合A,B,C及びDの各々において、(10点標準偏差/10点平均)×100≦2
集合A,B,C及びDは、それぞれ点a,b,c及びdから軸方向へ5mmの範囲内に存在する任意の10点の各々におけるリタデーションを含む。
【0010】
本発明者らは、上記条件(1)、(2)及び(3)を満たすチューブは、引裂き性があり、内面平滑性及び外面平滑性が高く、さらに厚み分布の広がりが小さいことを見出した。このチューブにおいては、上記条件(1)、(2)及び(3)が満たされる。したがって、このチューブによれば、引裂き性とともに、高い内表面平滑性及び外表面平滑性、並びに、広がりの小さい厚み分布を実現することができる。
【0011】
また、好ましくは、上記チューブの外表面の表面粗さRzが2.0μm以下である。
【0012】
また、好ましくは、上記チューブの外表面の表面粗さRaが1.0μm以下である。
【0013】
また、好ましくは、上記チューブにおいて、点a,b間の距離がチューブの周長の1/4未満である。
【0014】
このチューブにおいては、リタデーションの差が大きい点a,bが近くに配置されている。したがって、このチューブによれば、高い引裂き性を実現することができる。
【0015】
また、好ましくは、点a,b間の距離が0.4mm以下である。
【0016】
また、好ましくは、上記チューブにおいて、フッ素樹脂は、加熱溶融押出成形が可能である。
【0017】
加熱溶融押出成形によれば、チューブにおいてリタデーションの差が発生しやすい。このチューブにおいて、フッ素樹脂は加熱溶融押出成形が可能である。したがって、このチューブによれば、リタデーションの差を発生させることによって高い引裂き性を実現することができる。
【0018】
また、好ましくは、上記チューブにおいて、フッ素樹脂は、三元以上の多元共重合体である。
【0019】
このチューブにおいては、フッ素樹脂が三元以上の多元共重合体であり結晶性が低いため、高い透明性が実現される。したがって、このチューブによれば、ユーザは、チューブによる被覆対象を外部から視認することができる。また、フッ素樹脂が三元以上の多元重合体であるため、フッ素樹脂が二元共重合体である場合と比較して、フッ素樹脂の成形加工温度が低い。一方、フッ素樹脂の分解温度は変わらない。したがって、このチューブによれば、たとえば、フッ素樹脂が二元共重合体である場合と比較して、フッ素樹脂の成型加工温度、及び、チューブに熱収縮性を付与するための拡径加工温度の選択の幅を広げることができる。
【0020】
また、本発明の別の局面に従う製造方法は、フッ素樹脂製のチューブの製造方法である。チューブは、チューブの軸方向に引裂き性を有するとともに、熱収縮性を有する。軸方向におけるチューブの任意の断面で、円周上において周方向にこの順に並ぶ任意の4点を点a,b,c及びdとする。点a,b,c及びdのそれぞれにおけるリタデーションをRea,Reb,Rec及びRedとする。点a,b,c及びdから軸方向へ5mmの範囲内に存在する任意の10点の各々におけるリタデーションを含む集合をそれぞれ集合A,B,C及びDとする。製造方法は、製造装置によって製造されたチューブにおける複数のリタデーションを測定するステップと、測定された複数のリタデーションに基づいて、製造されるチューブが以下の条件(1)、(2)及び(3)を満たすように製造装置を調整するステップとを含む。
【0021】
(1)0.9<Rea/Rec<1.1、かつ、0.9<Reb/Red<1.1
(2)Rea/Reb≦0.9、又は、Rea/Reb≧1.1
(3)集合A,B,C及びDの各々において、(10点標準偏差/10点平均)×100≦2
この製造方法においては、チューブにおける複数のリタデーションの測定結果をフィードバックすることによって、製造されるチューブが上記条件(1)、(2)及び(3)を満たすように製造装置が調整される。したがって、この製造方法によれば、たとえば、樹脂原料の流動性に個体差があったり、樹脂種が変更されたりしたとしても、適切なフィードバック制御が行なわれるため、引裂き性とともに、高い内表面平滑性及び外表面平滑性、並びに、小さい厚み分布の散布度を実現したチューブを製造することができる。また、引裂き性の評価は裂け易い、裂けにくいなどの官能的評価でありフィードバック制御には向かないが、この製造方法によれば、リタデーションのような光学特性によってチューブの品質を数値管理できるため、製造工程における不良の発生率を抑制することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、引裂き性を有するフッ素樹脂製のチューブであって、内表面及び外表面の平滑性が高く、厚み分布の広がりが小さいチューブ、及び、該チューブの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】チューブの模式的な平面図である。
図2図1のII-II断面図である。
図3図2の位置P1において切り開かれたチューブを模式的に示す図である。
図4図1のIV-IV断面を示し、チューブの円周上の任意の4点の一例を示す図である。
図5図4の位置P2において切り開かれたチューブを模式的に示し、各集合の一例を示す図である。
図6】製造装置の模式的な側方断面図である。
図7図6におけるスパイダーのVII-VII断面図である。
図8】チューブの製造手順を示すフローチャートである。
図9】実施例1におけるフッ素樹脂製チューブのリタデーション分布の一部を示す図である。
図10】実施例2におけるフッ素樹脂製チューブのリタデーション分布の一部を示す図である。
図11】実施例3におけるフッ素樹脂製チューブのリタデーション分布の一部を示す図である。
図12】比較例におけるフッ素樹脂製チューブのリタデーション分布の一部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0025】
[1.概要]
図1は、本実施の形態に従うチューブ10の模式的な平面図である。図2は、図1のII-II断面図である。図1及び図2を参照して、チューブ10は、熱収縮性を有し、内部に空間12が形成されたフッ素樹脂製のチューブである。
【0026】
チューブ10は、たとえば、カテーテルの製造時にカテーテルを仮被覆するために用いられる。たとえば、空間12にカテーテルが収容された状態で、チューブ10に熱が加えられる。これにより、チューブ10が収縮し、溶融したカテーテル材料がチューブの収縮力により圧着され、金属ブレード層、カテーテル内層材料など、カテーテルを構成する複数の層が複合化される。カテーテルに仮被覆されたチューブ10は、カテーテルの出荷前に引き裂かれることによって、カテーテルから取り外される。
【0027】
フッ素樹脂製のチューブに引裂き性を付与する公知の方法として、チューブの軸方向に複数のウエルドラインを形成する方法がある。しかしながら、ウエルドラインが形成された場合、ウエルドラインが形成されていない場合と比較して、少なくともチューブの外表面平滑性が低下する。また、ウエルドラインが形成されることによって、チューブにおける厚み分布の広がりが大きくなり得る。厚み分布の広がりが大きくなることによって、たとえば、チューブにおける熱伝導性にムラが生じる。熱伝導性にムラが生じると収縮のムラが生じ、カテーテルの仮被覆時にチューブの位置によってカテーテルに加わる力に差が生じ、好ましくない。
【0028】
本実施の形態に従うチューブ10においては、軸方向にウエルドラインを形成することなく、軸方向の引裂き性が実現されている。チューブ10においては、高い引裂き性とともに、内表面及び外表面の高い平滑性、並びに、広がりの小さい厚み分布が実現されている。以下、チューブ10の具体的な構成及び製造方法について順に説明する。
【0029】
[2.チューブの構成]
チューブ10は、ポリテトラフルオロエチレンとは異なる熱可塑性フッ素樹脂によって形成されている。熱可塑性フッ素樹脂は、たとえば、260℃-450℃程度、好ましくは280℃-420℃程度の温度で加熱溶融押出成形によってチューブ状に成形可能な熱可塑性樹脂であることが好ましい。
【0030】
熱可塑性フッ素樹脂の一例としては、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)が挙げられる。
【0031】
これらの中でも特に優れた引裂き性、及び、高い表面平滑性をチューブ10に付与する観点から、熱可塑性フッ素樹脂は、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、又は、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)であることが好ましい。
【0032】
チューブ10にさらに透明性を付与する観点から、熱可塑性フッ素樹脂は、三元以上のテトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)であることが特に好ましい。チューブ10に透明性が付与されることによって、ユーザは、チューブ10によって被覆された内容物を外部から視認することができる。また、フッ素樹脂が三元以上の多元重合体であるため、フッ素樹脂が二元共重合体である場合と比較して、フッ素樹脂の成形加工温度が低い。一方、フッ素樹脂の分解温度は変わらない。したがって、チューブ10によれば、たとえば、フッ素樹脂が二元共重合体である場合と比較して、フッ素樹脂の成型加工温度、及び、チューブ10に熱収縮性を付与するための拡径加工温度の選択の幅を広げることができる。
【0033】
図3は、図2の位置P1において切り開かれたチューブ10を模式的に示す図である。図3において、各点は、チューブ10を構成するフッ素樹脂の配向のイメージを示す。チューブ10においては、MD(Machine Direction)方向にフッ素樹脂の配向が均一な領域T1と、領域T1と比較してMD方向にフッ素樹脂の配向が不均一なライン(以下、「光学的位相差ライン」とも称する。)LN1とが交互に配置されている。
【0034】
すなわち、チューブ10においては、周方向の所定間隔置きに光学的位相差ラインが形成されている。この光学的位相差ラインによって、チューブ10に引裂き性が付与されている。光学的位相差ラインが形成された位置におけるチューブ10の外表面は、チューブにウエルドラインが形成されている場合と比較して高い平滑性を有する(たとえば、表面粗さRz≦2.0μm、Ra≦1.0μm)。また、光学的位相差ラインが形成されているチューブ10の厚み分布の広がりは、チューブにウエルドラインが形成されている場合と比較して小さい。
【0035】
本発明者らは、チューブにおいて所定条件が満たされている場合に、チューブが複数の光学的位相差ラインを含むことを見出した。すなわち、チューブ10は、該所定条件を満たす。以下、該所定条件について説明する。
【0036】
チューブ10は、以下の条件(1)、(2)の両方を満たす点a,b,c及びdを含む。点a,b,c及びdは、軸方向におけるチューブ10の任意の断面で、チューブ10の円周上において周方向にこの順に並ぶ任意の4点である。
【0037】
図4は、図1のIV-IV断面を示し、点a,b,c及びd(チューブ10の円周上の任意の4点)の一例を示す図である。図4に示されるように、点a,b,c及びdは、チューブ10の円周上において周方向にa,b,c及びdの順に並んでいる。点a,b,c及びdにおけるリタデーションをそれぞれRea,Reb,Rec及びRedとする。
【0038】
条件(1):0.9<Rea/Rec<1.1、かつ、0.9<Reb/Red<1.1
条件(2):Rea/Reb≦0.9、又は、Rea/Reb≧1.1
チューブ10は、さらに以下の条件(3)を満たす。点a,b,c及びdから軸方向へ5mmの範囲内に存在する任意の10点の各々におけるリタデーションを含む集合をそれぞれ集合A1,B1,C1及びD1とする。
【0039】
図5は、図4の位置P2において切り開かれたチューブ10を模式的に示し、集合A1,B1,C1及びD1の一例を示す図である。図5に示されるように、集合A1は、点a1,a2,a3・・・a10の各々におけるリタデーション(Rea1,Rea2,Rea3・・・Rea10)を含む。集合D1は、点d1,d2・・・d10の各々におけるリタデーション(Red1,Red2・・・Red10)を含む。集合C1は、点c1,c2・・・c10の各々におけるリタデーション(Rec1,Rec2・・・Rec10)を含む。集合B1は、点b1,b2・・・b10の各々におけるリタデーション(Reb1,Reb2・・・Reb10)を含む。
【0040】
条件(3):集合A,B,C及びDの各々において、(10点標準偏差/10点平均)×100≦2
すなわち、チューブ10においては、点a,c間、及び、点b,d間のリタデーション差が小さく(条件(1))、点a,b間のリタデーション差が大きくなっている(条件(2))。さらに、条件(1)、(2)に示される傾向がMD方向において少なくとも部分的に継続している(条件(3))。
【0041】
本発明者らは、上記条件(1)、(2)及び(3)が満たされるときに、チューブが複数の光学的位相差ラインを含み、複数の光学的位相差ラインによってチューブに引裂き性が付与されることを見出した。さらに言えば、本発明者らは、上記条件(1)、(2)及び(3)に加えて、複数の光学的位相差ラインを含みながらも、チューブの表面平滑性が高く(たとえば、表面粗さRz≦2.0μm、Ra≦1.0μm)、チューブの厚み分布の広がりを(ウエルドラインが形成されている場合よりも)小さくする方法を見出した。本実施の形態に従うチューブ10は、これらの条件をすべて満たす。したがって、チューブ10によれば、引裂き性とともに、内表面及び外表面の高い平滑性、及び、広がりの小さい厚み分布を実現することができる。
【0042】
なお、本実施の形態において、点a,b間の距離は、たとえば、チューブ10の周長(外周長と内周長との中間長)の1/4未満である(たとえば、0.4mm以下)。スパイダー24(後述(図7))における脚部27の数が8本である場合に、好ましくは、点a,b間の距離は、たとえば、チューブ10の周長の1/8未満である。さらに好ましくは、点a,b間の距離は、たとえば、チューブ10の周長の1/16未満である。チューブ10においては、リタデーション差が大きい2点(点a,b)が近くに配置されているため、高い引裂き性が実現されている。
【0043】
[3.チューブの製造方法]
チューブ10の製造方法を説明する前に、まずチューブ10の製造装置20について説明する。
【0044】
図6は、製造装置20の模式的な側方断面図である。図6に示されるように、製造装置20は、押出成形機であり、たとえば、単軸押出機である。製造装置20は、たとえば、断面が円形のシリンダ22と、シリンダ22の内部に配置されたスパイダー24とを含む。
【0045】
製造装置20の作動時にシリンダ22の内部は加熱され、内部を流れる材料の溶融状態が維持される。スパイダー24は、金型であり、シリンダ22の内部において矢印LR方向に移動可能である。チューブ10の材料である熱可塑性フッ素樹脂は、溶融した状態で、シリンダ22の上流方向(矢印L方向)から下流方向(矢印R方向)に押し出される。
【0046】
図7は、図6におけるスパイダー24のVII-VII断面図である。図7に示されるように、スパイダー24は、内周側基部25と、外周側基部26と、内周側基部25及び外周側基部26の間に設けられた複数の脚部27(この例では8本)とを含む。各脚部27は、内周側基部25から外周側基部26へ放射状に延びている。シリンダ22内を流れるフッ素樹脂は、脚部27によって一時的に分岐され、流路28を通過した後に再び合流する。
【0047】
これにより、チューブ10においては、一旦ウエルドラインが形成される。スパイダー24よりも下流側に十分な長さLG1(図6)が設けられることにより、チューブ10がシリンダ22を抜ける段階では、ウエルドラインが消え、光学的位相差ラインだけが残る(脚部27に対応する位置に光学的位相差ラインが形成される。)。すなわち、十分な長さLG1を経ることで、チューブ10の表面の平滑性が増すとともに、チューブ10の厚み分布の広がりが小さくなる一方、フッ素樹脂の配向が不均一である状態が残る。これにより、引裂き性、高い表面平滑性、及び、広がりの小さい厚み分布を有するチューブ10が実現される。
【0048】
ただし、長さLG1が長すぎると、チューブ10において、ウエルドラインだけでなく、光学的位相差ラインも消えてしまう。したがって、本実施の形態においては、光学的位相差ラインだけがチューブ10に残るように、製造方法上の工夫が施されている。すなわち、本実施の形態においては、光学的位相差ラインだけがチューブ10に残るように、スパイダー24の位置が調整されている。
【0049】
図8は、チューブ10の製造手順(スパイダー24の位置の調整手順)を示すフローチャートである。図8を参照して、作業者は、シリンダ22内の初期位置にスパイダー24をセットする(ステップS100)。作業者は、スパイダー24が初期位置にセットされた状態で、チューブの製造を行なう(ステップS110)。
【0050】
作業者は、製造されたチューブにおけるリタデーションの分布を測定する(ステップS120)。作業者は、測定されたリタデーション分布に基づいて、所定条件(上記条件(1)、(2)及び(3)を含む。)が満たされるかを判断する(ステップS130)。
【0051】
所定条件が満たされたと判断されると(ステップS130においてYES)、作業者は、スパイダー24の位置を変更することなく、チューブ10の製造停止指示があるか否かを判断し(ステップS150)、製造停止指示があるまでチューブ10の製造を継続する。
【0052】
一方、所定条件が満たされないと判断されると(ステップS130においてNO)、作業者は、スパイダー24の位置を調整する(ステップS140)。たとえば、光学的位相差ラインが消えてしまっていると判断される場合には、作業者は、長さLG1が短くなるようにスパイダー24の位置を調整する。一方、ウエルドラインが残っていると判断される場合には(たとえば、チューブ10の表面平滑性が低い場合(たとえば、表面粗さRz≦2.0μm、Ra≦1.0μm))、作業者は、長さLG1が長くなるようにスパイダー24の位置を調整する。
【0053】
その後、作業者は、チューブ10の製造停止指示があるか否かを判断する(ステップS150)。製造停止指示があったと判断されると(ステップS150においてYES)、作業者は、チューブ10の製造が停止するように製造装置20を操作する。一方、製造停止指示がないと判断されると(ステップS150においてNO)、作業者は、チューブ10の製造を継続する(ステップS110-S140)。
【0054】
このように、本実施の形態に従う製造方法においては、製造されたチューブにおけるリタデーションの測定結果をフィードバックすることによって、製造されるチューブが所定条件を満たすようにスパイダー24の位置が調整される。したがって、この製造方法によれば、たとえば、樹脂原料の流動性に個体差があったり、樹脂種が変更されたりしたとしても、適切なフィードバック制御が行なわれるため、引裂き性とともに、高い内表面平滑性及び外表面平滑性、並びに、小さい厚み分布の散布度を実現したチューブ10を製造することができる。また、この製造方法によれば、リタデーションのような光学特性によってチューブの品質を数値管理できるため、製造工程における不良の発生率を抑制することができる。
【0055】
[4.特徴]
以上のように、本実施の形態に従うチューブ10は、所定条件(上記条件(1)、(2)及び(3)を含む。)を満たす。したがって、チューブ10によれば、引裂き性とともに、高い内表面平滑性及び外表面平滑性、並びに、広がりの小さい厚み分布を実現することができる。
【0056】
また、本実施の形態に従うチューブ10の製造方法においては、製造されたチューブにおけるリタデーションの測定結果をフィードバックすることによって、製造されるチューブ10が所定条件(上記条件(1)、(2)及び(3)を含む。)を満たすようにスパイダー24の位置が調整される。したがって、この製造方法によれば、たとえば、フッ素樹脂の流動性に個体差があったり、樹脂種が変更されたりしたとしても、適切なフィードバック制御が行なわれるため、引裂き性とともに、高い内表面平滑性及び外表面平滑性、並びに、小さい厚み分布の散布度を実現したチューブ10を製造することができる。また、この製造方法によれば、リタデーションのような光学特性によってチューブの品質を数値管理できるため、製造工程における不良の発生率を抑制することができる。
【0057】
[5.変形例]
以上、実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。以下、変形例について説明する。但し、以下の変形例は適宜組合せ可能である。
【0058】
(5-1)
上記実施の形態においては、スパイダー24のシリンダ22内における位置(長さLG1(図6))を調整することによって、チューブ10に光学的位相差ラインが形成された。しかしながら、調整される対象は、長さLG1に限られない。たとえば、スパイダー24の加熱温度を調整することによって、チューブ10に光学的位相差ラインが形成されてもよい。
【0059】
また、たとえば、シリンダ22内におけるフッ素樹脂材料の流速を調整することによって、チューブ10に光学的位相差ラインが形成されてもよい。
【0060】
(5-2)
また、上記実施の形態においては、製造過程において、作業者が各種作業及び判断を行なった。しかしながら、これらの作業及び判断は、必ずしも人間によって行なわれる必要はない。たとえば、これらの作業及び判断は、コンピュータを含む装置によって自動的に実行されてもよい。
【0061】
[6.実施例]
以下、実施例1,2及び3について説明するとともに、比較例について説明する。実施例1,2及び3の各々においては、フッ素樹脂として、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP、三井・デュポンフロロケミカル製FEP-130J)が用いられた。実施例1,2及び3の各々においては、上記実施の形態において説明された製造方法が用いられ、フッ素樹脂製チューブが製造された。
【0062】
実施例1におけるフッ素樹脂製チューブの内径は、3.5mmであり、Rea/Rec,Reb/Redは、0.968~1.070であり、Rea/Rebは、0.887であり、10点標準偏差/10点平均は、0.353~0.701であった。さらに、外表面の粗さRzは、0.7であり、粗さRaは、0.27であった。
【0063】
なお、各リタデーションの測定には、測定機器として、王子計測機器株式会社製のKOBRA-CCD/X20P、及び、分析ソフトver4.5.0.5が用いられた。測定原理としては、平行ニコル回転法が用いられた。偏光子及び検光子(偏光子と同様)の透過軸が平行な状態で機器が組み上げられた。機器を回転ピッチ30°で0°~150°の範囲で回転させ、各角度における透過光光量を用いて位相差及び配向角が算出された。測定条件としては、標準モード、1視野が採用され、計算条件としては、2ピクセル、次数2(複屈折次数の決定は常法により行ない、2次のデータを採用した。)が採用された。製造されたチューブを切り開き、切り開かれたチューブをガラス板に挟み、チューブが浮かないようにしながら各チューブのリタデーションが測定された。
【0064】
図9は、実施例1におけるフッ素樹脂製チューブのリタデーション分布の一部を示す図である。横軸は、切り開かれたフッ素樹脂製チューブにおけるTD方向(Transverse Direction)を示し、縦軸は、リタデーションを示す。各系列は、MD方向に0.071mmずれている。図9に示されるように、TD方向にはリタデーションの山と谷が交互に現れ、MD方向にはリタデーションの変化がほとんどない。
【0065】
実施例2におけるフッ素樹脂製チューブの内径は、2.1mmであり、Rea/Rec,Reb/Redは、0.970~1.064であり、Rea/Rebは、0.832であり、10点標準偏差/10点平均は、0.354~0.947であった。さらに、外表面の粗さRzは、0.67であり、粗さRaは、0.17であった。
【0066】
図10は、実施例2におけるフッ素樹脂製チューブのリタデーション分布の一部を示す図である。横軸は、切り開かれたフッ素樹脂製チューブにおけるTD方向を示し、縦軸は、リタデーションを示す。各系列は、MD方向に0.071mmずれている。図10に示されるように、TD方向にはリタデーションの山と谷が交互に現れ、MD方向にはリタデーションの変化がほとんどない。
【0067】
実施例3におけるフッ素製樹脂チューブの内径は、1.2mmであり、Rea/Rec,Reb/Redは、0.96~1.09であり、Rea/Rebは、0.9であり、10点標準偏差/10点平均は、0.69~1.13であった。さらに、外表面の粗さRzは、1.26であり、粗さRaは、0.67であった。
【0068】
図11は、実施例3におけるフッ素樹脂製チューブのリタデーション分布の一部を示す図である。横軸は、切り開かれたフッ素樹脂製チューブにおけるTD方向を示し、縦軸は、リタデーションを示す。各系列は、MD方向に0.071mmずれている。図11に示されるように、TD方向にはリタデーションの山と谷が交互に現れ、MD方向にはリタデーションの変化がほとんどない。
【0069】
比較例においても各実施例と同様、フッ素樹脂として、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP、三井・デュポンフロロケミカル製FEP-130J)が用いられた。比較例においては、上記実施の形態において説明されたシリンダ22にスパイダー24が取り付けられることなく、さらに、リタデーションのフィードバックが行なわれることなく、フッ素樹脂製チューブが製造された。
【0070】
比較例におけるフッ素樹脂製チューブの内径は、2.5mmであり、Rea/Rec,Reb/Redは、0.473~1.595であり、Rea/Rebは、0.982であり、10点標準偏差/10点平均は、3.929~8.463であった。
【0071】
図12は、比較例におけるフッ素樹脂製チューブのリタデーション分布の一部を示す図である。横軸は、切り開かれたフッ素樹脂製チューブにおけるTD方向を示し、縦軸は、リタデーションを示す。各系列は、MD方向に0.071mmずれている。図12に示されるように、ほとんどの系列において、TD方向におけるリタデーションの変化がない。また、MD方向におけるリタデーションの違いが大きい。以上の測定結果をまとめると、以下の表1のようになる。
【0072】
【表1】
実施例1,2及び3、並びに、比較例の引裂き性試験を行なった。引裂き性試験は、フッ素樹脂製チューブ(長さ100mm)の端部に40mmの切り込みを設けて、引張試験機によって、200mm/minの速度で引き裂くことによって行い、8.0N/mm以下で引裂けたものを○、引裂けず途中で千切れたものを×、引き裂けたが8.0N/mm以上の引裂き強度のものを△として行われた。以下の表2は、引裂き性試験の結果をまとめた表である。
【0073】
【表2】
表2に示されるように、引裂き性試験において、実施例1,2及び3におけるフッ素樹脂製チューブは引き裂かれた。一方、比較例におけるフッ素樹脂製チューブは、引き裂かれなかった。以上の結果から、実施例1,2及び3が比較例と比べて、引裂き性の観点において優れていることが分かる。
【符号の説明】
【0074】
10 チューブ、12 空間、20 製造装置、22 シリンダ、24 スパイダー、25 内周側基部、26 外周側基部、27 脚部、28 流路、A1,B1,C1,D1 集合、a,b,c,d 点、LG1 長さ、LN1 ライン、P1,P2 位置、T1 領域。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
図12