(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-23
(45)【発行日】2023-01-31
(54)【発明の名称】歯科組成物用粉剤
(51)【国際特許分類】
A61K 6/60 20200101AFI20230124BHJP
【FI】
A61K6/60
(21)【出願番号】P 2018179945
(22)【出願日】2018-09-26
【審査請求日】2021-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】515279946
【氏名又は名称】株式会社ジーシー
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100099645
【氏名又は名称】山本 晃司
(72)【発明者】
【氏名】野村 美栄
(72)【発明者】
【氏名】小島 健嗣
(72)【発明者】
【氏名】藤本 達也
【審査官】福山 則明
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-225281(JP,A)
【文献】特開2013-100255(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/60
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液剤に混ぜて用いられて歯科パターンレジンとなる歯科組成物のための粉剤であって、
前記粉剤には、
前記粉剤に対して5質量%より多く98%質量%以下で含まれる(メタ)アクリル酸エステル共重合体、
(メタ)アクリル酸エステル重合体、及び、
ポリメチル(メタ)アクリレートによる体積中位粒径が0.02μm以上50μm以下の粉末状の流動性改質剤が含有されている、歯科組成物用粉剤。
【請求項2】
前記流動
性改質剤が、前記粉剤の全体に対して0.1質量%以上30質量%以下で含まれる請求項1に記載の歯科組成物用粉剤。
【請求項3】
前記(メタ)アクリル酸エステル重合体は体積中位粒径が50μmより大きい粉末状
である、請求項1又は2に記載の歯科組成物用粉剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科組成物に用いられる粉剤に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1のように、歯科用の重合レジンとして粉末成分と液体成分からなるものが提供されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、このような液剤と粉剤とを用いて最終的にレジンとする際には粉剤が凝集してしまい、適切な分量の粉剤を得難いことがあった。また、レジンとした後にこれを焼却すると焼却残渣が多くなる問題があった。焼却残渣の発生は、例えばレジンが焼失した後に形成された空間に対して歯科材料を流し込んだときに該歯科材料にこの残渣が混濁する等のように、後に何らかの工程があるときに不具合の発生の原因となることがある。
【0005】
そこで本発明は、凝集を防止して適切な分量を得易く、液剤と混ぜてレジンとした後には焼却残渣の発生を抑えることができる、歯科組成物用粉剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの態様は、歯科組成物のための粉剤であって、粉剤には、ポリメチル(メタ)アクリレートによる体積中位粒径が0.02μm以上50μm以下の粉末状の流動性改質剤が含有されている、歯科組成物用粉剤である。
【0007】
流動改質剤が、粉剤の全体に対して0.1質量%以上30質量%以下で含まれるように構成してもよい。
【0008】
さらに、体積中位粒径が50μmより大きい粉末状の(メタ)アクリル酸エステル重合体が含まれるように構成してもよい。
【0009】
さらに、(メタ)アクリル酸エステル共重合体が含まれるように構成してもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、含まれる粉末の凝集を抑えることができ、適切な分量の歯科組成物用粉剤を計量することができるとともに、取り扱いもしやすくなる。またこの粉剤を歯科組成物用液剤に混ぜてレジンとし、これを焼却したときには残渣の発生を抑えることもできる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明を実施するための形態を説明する。
【0012】
本発明の1つの形態にかかる歯科組成物用粉剤は、歯科パターンレジン用の組成物に用いられる歯科組成物用粉剤である。歯科パターンレジン用組成物は、この歯科組成物用粉剤が、歯科組成物用液剤に混合されてなるものである。以下、それぞれについて説明する。なお、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味する。
【0013】
[歯科組成物用粉剤]
<(メタ)アクリル酸エステル共重合体>
本形態の歯科組成物用粉剤には、(メタ)アクリル酸エステル共重合体の粉末が含まれる。このような共重合体を歯科組成物用粉剤全体に対して5質量%より多く含めることによりパターンレジンの重合時における収縮を抑制することができる。(メタ)アクリル酸エステル共重合体の具体例は、エチル(メタ)アクリレートとメチル(メタ)アクリレートとの共重合体である。
【0014】
(メタ)アクリル酸エステル共重合体における、エチル(メタ)アクリレートとメチル(メタ)アクリレートとの組成の割合は、メチル(メタ)アクリレートが10質量%以上80質量%以下、エチル(メタ)アクリレートが20質量%以上90質量%以下である。
メチル(メタ)アクリレートが80質量%を超えて含まれると膨潤し難くなるため形がいびつになりやすく、エチル(メタ)アクリレートが90質量%を超えて含まれると流動性が高すぎて形を作り難くなる傾向にある。より好ましくはメチル(メタ)アクリレートが20質量%以上60質量%以下、エチル(メタ)アクリレートが30質量%以上80質量%以下、さらに好ましくは、メチル(メタ)アクリレートが20質量%以上40質量%以下、エチル(メタ)アクリレートが45質量%以上75質量%以下である。
【0015】
また、(メタ)アクリル酸エステル共重合体の体積中位粒径(平均粒径、D50)は、40μm以上130μm以下であることが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル共重合体をこの範囲の粒子径で含有することにより、歯科パターンレジン用組成物を重合する際に、該組成物の収縮をより確実に抑え、形状の変形や模型からの取り外しが難しくなる不具合を防止することができる。体積中位粒径が40μmより小さいと、膨潤速度が上がり、硬化時間が短くなるとともに、筆積み法で一度に取れる量が減り、操作性が低下する傾向にある。一方、体積中位粒径が130μmより大きいと上記のような組成物の収縮を抑える効果が小さくなる虞がある。
より好ましくは、40μm以上100μm以下、歯科パターンレジン用組成物の重合硬化時における収縮をさらに抑える観点からは40μm以上80μm以下がさらに好ましい。
ここで、「体積中位粒径」は、平均粒径、D50と呼ばれることもあり、体積分率で計算した累積体積頻度が、粒径の小さい方から積算して50%になる粒径を意味する。このような体積中位粒径はレーザー回折散乱法により測定することができる。
【0016】
歯科パターンレジン用組成物の歯科組成物用粉剤における(メタ)アクリル酸エステル共重合体が含有される割合は、5質量%より多く98質量%以下であることが好ましい。これにより確実にパターンレジンの重合時における収縮を抑制することが可能となる。より好ましくは、50質量%以上95質量%以下である。これにより操作性も高めることができる。
【0017】
<(メタ)アクリル酸エステル重合体>
本形態の歯科パターンレジン用組成物の歯科組成物用粉剤には、メチル(メタ)アクリレートモノマーのみによる重合体の粉末が含まれてもよい。
歯科組成物用粉剤全体に対する当該重合体の粉末の含有割合は5質量%以上50質量%以下であることが好ましい。含有割合が50質量%を超えると操作性の低下が懸念される。
また当該重合体の粉末の粒子径は、体積中位粒径(平均粒径、D50)で50μmより大きく130μm以下であることが好ましい。粒子径が130μmを超えると歯科パターンレジン用組成物の重合硬化時における収縮が大きくなりすぎる傾向にある。
【0018】
<流動性改質剤>
歯科パターンレジン用組成物の歯科組成物用粉剤には流動性改質剤の粉末が含まれる。これにより歯科組成物用粉剤の粉末が凝集することを防止することができる。
【0019】
流動性改質剤は、ポリメチル(メタ)アクリレートが適用される。流動性改質剤としてポリメチル(メタ)アクリレートを用いることで、歯科パターンレジン用組成物を焼却した後における残渣の発生を抑えることができる。残渣の発生は、歯科パターンレジン用組成物が焼失した後に形成された空間に対して義歯床材料を流し込んだときに、該義歯床材料にこの残渣が混濁することを意味し、不具合の発生の原因となる。
従って流動性改質剤としてポリメチル(メタ)アクリレートを用いることで、歯科組成物用粉剤の凝集を防止するとともに、歯科パターンレジン用組成物の焼却後における残渣の発生防止も可能となる。
【0020】
流動性改質剤の体積中位粒径(平均粒径、D50)は、0.02μm以上50μm以下であることが好ましい。体積中位粒径が0.02μmより小さいと、歯科組成物用粉剤が飛散しやすくなることによる取り扱い上の不便さが生じる虞がある。一方、体積中位粒径が50μmより大きいと、他のポリマー周囲に吸着し凝集を防止することができなくなる虞がある。より好ましくは、0.05μm以上20μm以下である。
【0021】
また、歯科組成物用粉剤におけるポリメチル(メタ)アクリレート微粒子の含有割合は0.05質量%以上30質量%以下であることが好ましい。含有割合が0.05質量%より少ないと流動性が下がり、操作性および保存性が低下する虞がある。一方、含有割合が30質量%を超えると微粒子が飛散しやすくなり、操作性の低下の虞がある。0.1質量%以上であることが好ましく、さらには20質量%以下であることが好ましい。なお、特に粒子径が小さいポリメチル(メタ)アクリレート微粒子は高価であることも考慮すると、さらに好ましくは5質量%以下である。
【0022】
<重合開始剤>
歯科パターンレジン用組成物の歯科組成物用粉剤は重合開始剤を含んでもよい。重合開始剤の種類は重合させるモノマーの重合の態様によって適宜選択することができる。上記した好ましい態様のように、単官能(メタ)アクリレートモノマー、及び、多官能(メタ)アクリレートモノマーをラジカル重合させることが可能とする場合には、ラジカルを形成するような重合開始剤を用いることができる。
【0023】
重合開始剤はこのように適宜選択すればよいが、例えばカンファーキノン、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール、ベンジルジ(2-メトキシエチル)ケタール、4,4’-ジメチルベンジル-ジメチルケタール、アントラキノン、1-クロロアントラキノン、2-クロロアントラキノン、1,2-ベンズアントラキノン、1-ヒドロキシアントラキノン、1-メチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン、1-ブロモアントラキノン、チオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2-ニトロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン、2-クロロ-7-トリフルオロメチルチオキサントン、チオキサントン-10,10-ジオキシド、チオキサントン-10-オキサイド、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、イソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾフェノン、ビス(4-ジメチルアミノフェニル)ケトン、4,4’-ビスジエチルアミノベンゾフェノン、(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ジフェニルフォスフィンオキサイド等のアシルフォスフィンオキサイド、アジド基を含む化合物等が例示される。これらは単独または2種以上を混合して使用することができる。
【0024】
歯科パターンレジン用組成物の歯科組成物用粉剤に対する重合開始剤の含有割合は必要に応じて適宜調整することができるが、0.1質量%以上5質量%以下であることが好ましい。0.1質量%に満たない場合には必要な硬化ができない可能性があり、5質量%を越えると硬化が速くなりすぎて操作時間に余裕がなくなる虞がある。
【0025】
[歯科組成物用液剤]
<単官能(メタ)アクリレートモノマー>
歯科パターンレジン用組成物の歯科組成物用液剤は、重合性の炭素2重結合の官能基を1つ有する構造(単官能)である、単官能(メタ)アクリレートモノマーを含んでいる。その中でもラジカル重合が可能な単官能(メタ)アクリレートモノマーであることが好ましい。
【0026】
歯科パターンレジン用組成物の歯科組成物用液剤中における単官能(メタ)アクリレートモノマーの含有割合は、65質量%以上97質量%以下であることが好ましい。このように単官能(メタ)アクリレートモノマーを主要な成分として(50質量%より多く。)含有することにより、重合硬化時の温度上昇が抑えられ、操作中のやけどの問題回避や気泡混入が抑制され、操作性の低下を防止することができる。より好ましくは75質量%以上である。一方、単官能(メタ)アクリレートモノマーの含有割合が97質量%より多いと、焼却時の加熱で歯科パターンレジン用組成物の膨張が大きくなり、埋没材(耐火材)が破壊されたり、亀裂が入ったりする虞がある。
【0027】
単官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、種々ものを用いることができるが、1種類を単独で用いてもよく、複数種類を合わせて用いてもよい。具体的な材料としては例えば、メチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2,3-ジブロモプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10-ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、エリトリトールモノ(メタ)アクリレート、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-(ジヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルピリジニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシデシルアンモニウムクロライド、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-1,3-ジメタクリロキシプロパン、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヘキシルエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、エチレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0028】
その中でも、単官能(メタ)アクリレートモノマーとして、メチル(メタ)アクリレートモノマーを用いることが好ましい。これにより、気泡の発生が起こりにくく、より確実に良好な操作性が得られる。
【0029】
<多官能(メタ)アクリレートモノマー>
歯科パターンレジン用組成物の歯科組成物用液剤は、重合性の炭素2重結合の官能基を2つ以上有する構造(多官能)である、多官能(メタ)アクリレートモノマーを含んでいる。その中でもラジカル重合が可能な多官能(メタ)アクリレートモノマーであることが好ましい。
【0030】
歯科パターンレジン用組成物の歯科組成物用液剤中における多官能(メタ)アクリレートモノマーの含有割合は、2質量%以上30質量%以下であることが好ましい。これにより歯科パターンレジン用組成物を焼却して加熱する際にも、該組成物の膨張が抑制され、埋没材(耐火材)の破壊や亀裂の発生を防止することができる。これは多官能(メタ)アクリレートモノマーが重合により架橋構造が形成され、加熱時にも膨張が抑制されると考えられる。
多官能(メタ)アクリレートモノマーの含有割合が2質量%未満であると、当該膨張の抑制効果が不十分の虞がある。一方、多官能(メタ)アクリレートモノマーが30質量%より多いと上記した単官能(メタ)アクリレートモノマーが相対的に減ることになり、歯科パターンレジン用組成物の重合硬化時の温度上昇、気泡混入、操作性の低下が生じる可能性が高まる。より好ましくは15質量%以下である。
【0031】
多官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、種々ものを用いることができ、1種類を単独で用いてもよく、複数種類を合わせて用いてもよい。
【0032】
例えば2つの官能基を有する多官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、2,2-ビス[4-〔3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ〕フェニル]プロパン、2,2-ビス〔4-(2-(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル〕プロパン、1,2-ビス〔3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ〕エタン、ペンタエリトリトールジ(メタ)アクリレート、[2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)]ジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0033】
また3つ以上の官能基を有する多官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、N,N'-(2,2,4-トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2-(アミノカルボキシ)プロパン-1,3-ジオール〕テトラメタクリレート、1,7-ジアクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラアクリロイルオキシメチル-4-オキシヘプタン等が挙げられる。
【0034】
その中でも、2つの官能基を有する多官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレートモノマーであることが好ましい。一方、3つの官能基を有する多官能メタクリレートとしては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートであることが好ましい。これにより、さらに良好な物性および操作性が得られる。
【0035】
2つの官能基を有する多官能(メタ)アクリレートモノマー及び3つの官能基を有する多官能(メタ)アクリレートモノマーは、いずれかのみであってもよく、両者を含んでもよい。焼却時の加熱による膨張抑制効果をより効果的に得る観点から、3つの官能基を有する多官能(メタ)アクリレートモノマーを含むことが好ましい。かかる観点から、多官能(メタ)アクリレートモノマー全体のうち、3つの官能基を有する多官能(メタ)アクリレートモノマーが占める割合は0質量%より大きく20質量%以下であることが好ましい。これが20質量%を超えると歯科パターンレジン用組成物の重合硬化時における収縮が大きくなり過ぎる傾向にある。
【0036】
<重合促進剤>
歯科パターンレジン用組成物の歯科組成物用液剤は重合促進剤を含んでもよい。これにより、歯科パターンレジン用組成物を焼却するために加熱したときに、さらに膨張を抑制することができ、埋没材(耐火材)の破壊や亀裂の発生を防止することができる。これは、重合促進剤により重合がより確実に行われ、未重合のモノマーを減らすことができることによると考えられる。
【0037】
重合促進剤として具体的な材料は適宜選択することができるが、主に3級アミン等が使用できる。3級アミンとしては、例えば、N,N’-ジメチルパラトルイジン、N,N’-ジメチルアミノエチルメタクリレート、トリエタノールアミン、4-ジメチルアミノ安息香酸メチル、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル等が挙げられる例示される。またその他、ベンゾイルパーオキサイド、スルフィン酸ソーダ誘導体、有機金属化合物等が挙げられる。これらは単独または2種以上を混合して使用することができる。
【0038】
その中でもN,N’-ジメチルパラトルイジンが好ましい。これにより、効率よく重合が促進され上記効果を大きくすることができる。
【0039】
歯科パターンレジン用組成物の歯科組成物用液剤に対する重合促進剤の含有割合は、3質量%以上30質量%以下であることが好ましい。これにより上記効果をより確実に得ることができる。これが3質量%より少ないと重合促進剤としての効果が十分に得られない可能性がある。一方、30質量%より大きいと保存安定性が低下する傾向がある。
【0040】
<その他>
その他、必要に応じて紫外線吸収剤、着色剤、重合禁止剤を含めても良い。これらは公知のものを用いることができる。
【0041】
[歯科パターンレジン用組成物の態様]
以上のような歯科組成物用液剤と歯科組成物用粉剤とが混ぜられていることにより、歯科パターンレジン用組成物とされている。
歯科組成物用液剤と歯科組成物用粉剤との配合割合は必要に応じて適宜設定することができるが、歯科パターンレジン用組成物全体に対して歯科組成物用液剤が23質量%以上43質量%以下、歯科組成物用粉剤が57質量%以上77質量%以下とする範囲で問題なく使用することができるように構成することが好ましい。歯科組成物用液剤:歯科組成物用粉剤=1ml:2gを目安とすることが多い。
【0042】
このような歯科パターンレジン用組成物では、歯科パターンレジン用組成物を構成する歯科組成物用粉剤に流動性改質剤が含まれることにより、歯科組成物用粉剤が凝集することが防止され、適切な分量の歯科組成物用粉剤を得ることができる。
そして他の上記した材料と合わされることによって、歯科精密鋳造の過程において、成形、重合、焼却がなされる各過程の際に、成形のための操作性を維持したまま、重合における収縮、及び、焼却時の加熱時における膨張を防ぐことができる。従って、操作性及び精度の高い歯科パターンレジン用組成物とすることが可能となる。
流動性改質剤がポリメチル(メタ)アクリレートであることから、さらに焼却後における残渣の発生も防止することが可能となる。
【0043】
歯科組成物用液剤については、特に、このような膨張を防ぐために歯科組成物用液剤に多官能モノマーを含めることで重合時には収縮が大きくなる傾向にある。これに対して、上記した歯科組成物用粉剤を適用することで、この収縮を防止することができ、総合的に機能の高い歯科パターンレジン用組成物となり得る。
【0044】
[製造方法]
以上のような歯科パターンレジン用組成物は例えば次のように製造することができる。
歯科組成物用粉剤については、原料を計量し、混合機、乳鉢、または袋などを用いて混合して攪拌する。このときには顔料を定着させるために有機溶媒などを入れても良い。また、攪拌効率をあげるために水やアルミナボールなどを入れることもできる。攪拌後には、得られた粉末は篩にかけても良い。流動性改質剤は事前に解砕する工程を入れても良い。
一方、歯科組成物用液剤については、原料を計量して混合機などを用いて混合して攪拌する。
【0045】
[他の態様の歯科組成物用粉剤]
ここでは、歯科用組成物用粉剤が適用される一つの形態として歯科パターンレジンのための歯科用組成物用粉剤を説明したが、これに限らず、義歯床用レジンのための歯科用組成物用粉剤、常温重合レジンのための歯科用組成物用粉剤等、他のレジンのための歯科用組成物用粉剤として用いることもできる。
【実施例】
【0046】
[実施例A]
実施例Aでは上記説明した歯科組成物用粉剤及び歯科組成物用液剤を準備し、歯科組成物用粉剤における凝集性及び容器からの吐出性を評価するとともに、歯科組成物用粉剤と歯科組成物用液剤とを混ぜて歯科パターンレジンとし、その焼却残渣の評価を行った。実施例Aでは実施例1、比較例1、及び、比較例2の3つを評価対象とした。表1に各例における歯科組成物用粉剤及び歯科組成物用液剤の材料、並びに、含有量を示した。各材料については次の通りである。なお、表1における数値はいずれも質量%である。
【0047】
・歯科組成物用粉剤の「(メタ)アクリル酸エステル共重合体」は、エチルメタクリレートとメチルメタクリレートとの共重合体であり、エチルメタクリレートとメチルメタクリレートとの組成の割合はエチルメタクリレートが70質量%、メチルメタクリレートが30質量%である。また体積中位粒径で60μmである。
・歯科組成物用粉剤の「(メタ)アクリル酸エステル重合体」は、ポリメチルメタクリレートである。その体積中位粒径で90μmである。
・歯科組成物用粉剤の「流動性改質剤(PMMA)」は、ポリメチルメタクリレートである。その体積中位粒径で0.5μmである。
・歯科組成物用粉剤の「流動性改質剤(PMMA以外)」は、シリカによるものである。
【0048】
・歯科組成物用液剤の「単官能(メタ)アクリレートモノマー」は、メチルメタクリレートである。
・歯科組成物用液剤の「2官能(メタ)アクリレートモノマー」は、ジメタクリル酸エチレングリコールである。
・歯科組成物用液剤の「3官能(メタ)アクリレートモノマー」は、トリメチロールプロパントリメタクリレートである。
・歯科組成物用液剤の「重合促進剤」は3級アミンであり、より詳しくはN,N’-ジメチルパラトルイジンである。
【0049】
各例に対して歯科組成物用粉剤における凝集性及び容器からの吐出性を評価するとともに、歯科組成物用粉剤と歯科組成物用液剤とを混ぜて歯科パターンレジンとし、焼却残渣の評価を行った。各評価は次のように行った。
【0050】
凝集性は次のように評価を行った。
透明な容器に歯科組成物用粉剤を充填して45℃で一週間保存した。その後、当該歯科組成物用粉剤を充填した透明な容器を10回振った後、上下反転させて歯科組成物用粉剤が落ちる様子を観察した。
【0051】
容器からの吐出性は次のように評価を行った。
開口が細いキャップ付きの容器に歯科組成物用粉剤を充填し、連続して引っかかり無く粉を吐出できるかを観察した。
【0052】
焼却残渣は次のように評価を行った。
歯科組成物用粉剤と歯科組成物用液剤とを2g:1mlで重合させた固体をルツボに入れ、室温から700℃まで昇温させて焼却した。焼却後、残渣量を計測した。
【0053】
いずれの評価も従来製品(ジーシーパターンレジン、株式会社ジーシー)に対して、特に良い場合は優、同程度の場合は良、劣る場合は不可とした。
【0054】
表1に、上記各例の材料と共に評価の結果も合わせて示した。
【0055】
【0056】
表1からわかるように、歯科組成物用粉剤に流動性改質剤を含めることにより凝集性及び容器からの吐出性が良好なものとなる。一方、流動性改質剤としてPMMAを用いることによりレジンとして硬化させたあとの焼却において残渣を抑制することができる。
【0057】
[実施例B]
実施例Bでは、流動性改質剤としてPMMAを用いると共に、その体積中位粒径を変化させた実施例11~実施例16を評価した。具体的な材料成分及び評価結果を表2に示す。表2の記載内容は実施例Aと同様であるが、「材料」のうち、流動性改質剤に記載された数値(単位「μm」)はPMMAの体積中位粒径を表している。
【0058】
【0059】
表2からわかるように、PMMAの体積中位粒径を0.05μm以上20μm以下とすることにより、特に凝集性及び容器からの吐出性に優れたものとなる。
【0060】
[実施例C]
実施例Cでは、流動性改質剤として体積中位粒径が0.5μmであるPMMAの粒子を用いると共に、その含有量を変化させた実施例21~実施例26を評価した。具体的な材料成分及び評価結果を表3に示す。本例ではさらに操作性についても評価を行った。
操作性は、筆積みにより評価し、具体的には、歯科組成物用液剤に浸漬した筆を歯科組成物用粉剤につけ、筆先に歯科組成物用粉剤の塊を形成し、これを練和紙にとり、歯科組成物用粉剤と歯科組成物用液剤とが膨潤する速度、及び筆から練和紙に移す際の筆離れのよさ、硬化物の形状を観察した。評価基準は他の評価項目と同じである。
その他における表3の記載内容は実施例Aと同様である。
【0061】
【0062】
表3からわかるように、流動性改質剤としてのPMMAの含有量が0.1質量%以上で凝集性及び容器からからの吐出性が優れたものとなり、流動性改質剤としてのPMMAの含有量が0.1質量%以上20質量%以下であることにより、さらに操作性についても特に優れたものとなる。