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特許7215870Al-Mg-Si系アルミニウム合金塑性加工材およびAl-Mg-Si系アルミニウム合金押出材の製造方法
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  • 特許-Al-Mg-Si系アルミニウム合金塑性加工材およびAl-Mg-Si系アルミニウム合金押出材の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-23
(45)【発行日】2023-01-31
(54)【発明の名称】Al-Mg-Si系アルミニウム合金塑性加工材およびAl-Mg-Si系アルミニウム合金押出材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/02 20060101AFI20230124BHJP
   C22C 21/06 20060101ALI20230124BHJP
   B21C 23/00 20060101ALI20230124BHJP
   C22F 1/05 20060101ALI20230124BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20230124BHJP
【FI】
C22C21/02
C22C21/06
B21C23/00 A
C22F1/05
C22F1/00 602
C22F1/00 604
C22F1/00 612
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 640A
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 684A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 692B
C22F1/00 694B
C22F1/00 694Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018198343
(22)【出願日】2018-10-22
(65)【公開番号】P2020066751
(43)【公開日】2020-04-30
【審査請求日】2021-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109911
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義仁
(74)【代理人】
【識別番号】100071168
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 久義
(74)【代理人】
【識別番号】100099885
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 健市
(72)【発明者】
【氏名】北村 恵造
【審査官】岡田 眞理
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-322198(JP,A)
【文献】特開2007-009273(JP,A)
【文献】特開平10-317113(JP,A)
【文献】特開平06-212336(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1714318(KR,B1)
【文献】特開2020-066752(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00-21/18
C22F 1/04- 1/057
B21C 23/00
F16B 19/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルフピアスリベット接合に供される塑性加工材であって、
Si:0.95質量%~1.25質量%、Mg:0.80質量%~1.05質量%、Cu:0.30質量%~0.50質量%、Mn:0.40質量%~0.60質量%、Fe:0.15質量%~0.30質量%、Cr:0.09質量%~0.21質量%、B:0.0001質量%~0.03質量%を含有し、Znの含有率が0.25質量%以下、Zrの含有率が0.05質量%以下、Tiの含有率が0.10質量%以下であり、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金塑性加工材であり、
前記アルミニウム合金塑性加工材同士のセルフピアスリベット接合体についてJIS Z3136-1999に準拠して測定したせん断引張最大荷重が8.5kN以上であることを特徴とするAl-Mg-Si系アルミニウム合金塑性加工材。
【請求項2】
セルフピアスリベット接合に供される塑性加工材であって、
Si:0.95質量%~1.25質量%、Mg:0.80質量%~1.05質量%、Cu:0.30質量%~0.50質量%、Mn:0.40質量%~0.60質量%、Fe:0.15質量%~0.30質量%、Cr:0.09質量%~0.21質量%、B:0.0001質量%~0.03質量%を含有し、Znの含有率が0.25質量%以下、Zrの含有率が0.05質量%以下、Tiの含有率が0.10質量%以下であり、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金塑性加工材であり、
前記アルミニウム合金塑性加工材同士のセルフピアスリベット接合体についてJIS Z3137-1999に準拠して測定した十字引張最大荷重が5.0kN以上であることを特徴とするAl-Mg-Si系アルミニウム合金塑性加工材。
【請求項3】
自動車フレーム用構造部材として用いられる請求項1または2に記載のAl-Mg-Si系アルミニウム合金塑性加工材。
【請求項4】
Si:0.95質量%~1.25質量%、Mg:0.80質量%~1.05質量%、Cu:0.30質量%~0.50質量%、Mn:0.40質量%~0.60質量%、Fe:0.15質量%~0.30質量%、Cr:0.09質量%~0.21質量%、B:0.0001質量%~0.03質量%を含有し、Znの含有率が0.25質量%以下、Zrの含有率が0.05質量%以下、Tiの含有率が0.10質量%以下であり、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金の溶湯を得る溶湯形成工程と、
前記得られた溶湯を鋳造加工することによってビレットを得る鋳造工程と、
前記ビレットを480℃~530℃の温度に2時間~15時間保持する均質化熱処理を行う均質化熱処理工程と、
前記均質化熱処理後のビレットを150℃/時間以上の平均冷却速度で200℃以下まで冷却する冷却工程と、
前記冷却工程を経たビレットを500℃~560℃にした状態で3m/分~25m/分の押出速度で熱間押出加工を行って押出材を得る押出工程と、
前記得られた押出材の温度を500℃~570℃にした状態から100℃/秒~500℃/秒の冷却速度で150℃以下まで急冷する急冷工程と、
前記急冷工程を経た押出材を160℃~200℃の温度で1時間~24時間加熱することによって、アルミニウム合金押出材を得る時効処理工程と、を含み、
前記得られたアルミニウム合金押出材は、該アルミニウム合金押出材同士のセルフピアスリベット接合体についてJIS Z3136-1999に準拠して測定したせん断引張最大荷重が8.5kN以上であることを特徴とするAl-Mg-Si系アルミニウム合金押出材の製造方法。
【請求項5】
Si:0.95質量%~1.25質量%、Mg:0.80質量%~1.05質量%、Cu:0.30質量%~0.50質量%、Mn:0.40質量%~0.60質量%、Fe:0.15質量%~0.30質量%、Cr:0.09質量%~0.21質量%、B:0.0001質量%~0.03質量%を含有し、Znの含有率が0.25質量%以下、Zrの含有率が0.05質量%以下、Tiの含有率が0.10質量%以下であり、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金の溶湯を得る溶湯形成工程と、
前記得られた溶湯を鋳造加工することによってビレットを得る鋳造工程と、
前記ビレットを480℃~530℃の温度に2時間~15時間保持する均質化熱処理を行う均質化熱処理工程と、
前記均質化熱処理後のビレットを150℃/時間以上の平均冷却速度で200℃以下まで冷却する冷却工程と、
前記冷却工程を経たビレットを500℃~560℃にした状態で3m/分~25m/分の押出速度で熱間押出加工を行って押出材を得る押出工程と、
前記得られた押出材の温度を500℃~570℃にした状態から100℃/秒~500℃/秒の冷却速度で150℃以下まで急冷する急冷工程と、
前記急冷工程を経た押出材を160℃~200℃の温度で1時間~24時間加熱することによって、アルミニウム合金押出材を得る時効処理工程と、を含み、
前記得られたアルミニウム合金押出材は、該アルミニウム合金押出材同士のセルフピアスリベット接合体についてJIS Z3137-1999に準拠して測定した十字引張最大荷重が5.0kN以上であることを特徴とするAl-Mg-Si系アルミニウム合金押出材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルフピアスリベット接合強度に優れたAl-Mg-Si系高強度アルミニウム合金塑性加工材およびセルフピアスリベット接合強度に優れたAl-Mg-Si系アルミニウム合金押出材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Al-Mg-Si系アルミニウム合金は、強度を有しながら耐食性やリサイクル性に優れる点で実用的な合金であることから、高強度と耐食性が要求される車両、船舶、自動車、自動二輪車等の輸送機の構造材として用いられている。
【0003】
Al-Mg-Si系アルミニウム合金の中では、特に6061が多用されているが、車体構造の軽量化による輸送効率向上のために、更なる軽量化が求められており、そのために材料としての高強度化を図ることが要求されている。このような高強度化を図るべくアルミニウム合金の添加金属種及びその含有率の変更等による改良が検討されている。
【0004】
また、Al-Mg-Si系アルミニウム合金を構造材として用いる場合、その接合にはMIG溶接等が用いられてきたが、HAZ(熱影響部)が強度低下を引き起こすため、摩擦撹拌接合法による接合も行われている。一方、このようなMIG溶接や摩擦撹拌接合よりも簡便に接合を行うことができる機械締結による接合方法が注目されている。セルフピアスリベットによる接合は、その代表例であり、自動車フレーム部材の接合で既に実績がある。例えば、特許文献1に、Mg:0.40~0.60%(mass%、以下同じ)、Si:0.50~0.70%、Cu:0.05~0.40%、Mn:0.05~0.30%、Zr:0.05~0.20%、Ti:0.005~0.2%を含み、残部Al及び不可避不純物からなるAl-Mg-Si系アルミニウム合金押出材からなり、空冷によるプレス焼入れ後時効処理が行われ、200N/mm2以上の耐力を有し、3.5%以上の局部伸びを有する、セルフピアスリベット接合される自動車フレーム用アルミニウム合金押出材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4540209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のアルミニウム合金押出材では、耐力値が約240MPa(N/mm2)程度であり、一般にフレーム材に使用されている鉄系材料をこのアルミニウム合金材に置き換えることで軽量化を実現しようとする場合、鉄系材料と同等の強度や剛性を確保するのは困難であった。また、特許文献1では、セルフピアスリベット接合に関して、セルフピアスリベット接合後の受け金型側の被接合材に表裏を貫通する貫通割れの発生の有無のみでセルフピアスリベット接合性を評価しているだけであり、接合強度については開示がなく、従ってセルフピアスリベット接合の接合強度を十分に向上させるにはいかなる構成にすればよいかについての知見は、特許文献1からは得られない。
【0007】
本発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、セルフピアスリベット接合強度に優れるAl-Mg-Si系アルミニウム合金塑性加工材およびセルフピアスリベット接合強度に優れるAl-Mg-Si系アルミニウム合金押出材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
【0009】
[1]セルフピアスリベット接合に供される塑性加工材であって、
Si:0.95質量%~1.25質量%、Mg:0.80質量%~1.05質量%、Cu:0.30質量%~0.50質量%、Mn:0.40質量%~0.60質量%、Fe:0.15質量%~0.30質量%、Cr:0.09質量%~0.21質量%、B:0.0001質量%~0.03質量%を含有し、Znの含有率が0.25質量%以下、Zrの含有率が0.05質量%以下、Tiの含有率が0.10質量%以下であり、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金塑性加工材であり、
前記アルミニウム合金塑性加工材同士のセルフピアスリベット接合体についてJIS Z3136-1999に準拠して測定したせん断引張最大荷重が8.5kN以上であることを特徴とするAl-Mg-Si系アルミニウム合金塑性加工材。
【0010】
[2]セルフピアスリベット接合に供される塑性加工材であって、
Si:0.95質量%~1.25質量%、Mg:0.80質量%~1.05質量%、Cu:0.30質量%~0.50質量%、Mn:0.40質量%~0.60質量%、Fe:0.15質量%~0.30質量%、Cr:0.09質量%~0.21質量%、B:0.0001質量%~0.03質量%を含有し、Znの含有率が0.25質量%以下、Zrの含有率が0.05質量%以下、Tiの含有率が0.10質量%以下であり、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金塑性加工材であり、
前記アルミニウム合金塑性加工材同士のセルフピアスリベット接合体についてJIS Z3137-1999に準拠して測定した十字引張最大荷重が5.0kN以上であることを特徴とするAl-Mg-Si系アルミニウム合金塑性加工材。
【0011】
[3]自動車フレーム用構造部材として用いられる前項1または2に記載のAl-Mg-Si系アルミニウム合金塑性加工材。
【0012】
[4]Si:0.95質量%~1.25質量%、Mg:0.80質量%~1.05質量%、Cu:0.30質量%~0.50質量%、Mn:0.40質量%~0.60質量%、Fe:0.15質量%~0.30質量%、Cr:0.09質量%~0.21質量%、B:0.0001質量%~0.03質量%を含有し、Znの含有率が0.25質量%以下、Zrの含有率が0.05質量%以下、Tiの含有率が0.10質量%以下であり、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金の溶湯を得る溶湯形成工程と、
前記得られた溶湯を鋳造加工することによってビレットを得る鋳造工程と、
前記ビレットを480℃~530℃の温度に2時間~15時間保持する均質化熱処理を行う均質化熱処理工程と、
前記均質化熱処理後のビレットを150℃/時間以上の平均冷却速度で200℃以下まで冷却する冷却工程と、
前記冷却工程を経たビレットを500℃~560℃にした状態で3m/分~25m/分の押出速度で熱間押出加工を行って押出材を得る押出工程と、
前記得られた押出材の温度を500℃~570℃にした状態から100℃/秒~500℃/秒の冷却速度で150℃以下まで急冷する急冷工程と、
前記急冷工程を経た押出材を160℃~200℃の温度で1時間~24時間加熱することによって、アルミニウム合金押出材を得る時効処理工程と、を含み、
前記得られたアルミニウム合金押出材は、該アルミニウム合金押出材同士のセルフピアスリベット接合体についてJIS Z3136-1999に準拠して測定したせん断引張最大荷重が8.5kN以上であることを特徴とするAl-Mg-Si系アルミニウム合金押出材の製造方法。
【0013】
[5]Si:0.95質量%~1.25質量%、Mg:0.80質量%~1.05質量%、Cu:0.30質量%~0.50質量%、Mn:0.40質量%~0.60質量%、Fe:0.15質量%~0.30質量%、Cr:0.09質量%~0.21質量%、B:0.0001質量%~0.03質量%を含有し、Znの含有率が0.25質量%以下、Zrの含有率が0.05質量%以下、Tiの含有率が0.10質量%以下であり、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金の溶湯を得る溶湯形成工程と、
前記得られた溶湯を鋳造加工することによってビレットを得る鋳造工程と、
前記ビレットを480℃~530℃の温度に2時間~15時間保持する均質化熱処理を行う均質化熱処理工程と、
前記均質化熱処理後のビレットを150℃/時間以上の平均冷却速度で200℃以下まで冷却する冷却工程と、
前記冷却工程を経たビレットを500℃~560℃にした状態で3m/分~25m/分の押出速度で熱間押出加工を行って押出材を得る押出工程と、
前記得られた押出材の温度を500℃~570℃にした状態から100℃/秒~500℃/秒の冷却速度で150℃以下まで急冷する急冷工程と、
前記急冷工程を経た押出材を160℃~200℃の温度で1時間~24時間加熱することによって、アルミニウム合金押出材を得る時効処理工程と、を含み、
前記得られたアルミニウム合金押出材は、該アルミニウム合金押出材同士のセルフピアスリベット接合体についてJIS Z3137-1999に準拠して測定した十字引張最大荷重が5.0kN以上であることを特徴とするAl-Mg-Si系アルミニウム合金押出材の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
[1]及び[2]の発明では、セルフピアスリベット接合の接合強度に優れるAl-Mg-Si系アルミニウム合金塑性加工材を提供できる。
【0015】
[3]の発明では、セルフピアスリベット接合の接合強度に優れる自動車フレーム用構造部材を提供できる。
【0016】
[4]及び[5]の発明では、セルフピアスリベット接合の接合強度に優れるAl-Mg-Si系アルミニウム合金押出材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】セルフピアスリベットによる接合方法の説明図であって、(A)はパンチの打ち込み開始状態を示す断面図、(B)はリベットが上側板材を貫通した状態を示す断面図、(C)はパンチの更なる打ち込みによりセルフピアスリベット接合が行われた完成状態を示す断面図である。
図2】本発明に係るAl-Mg-Si系アルミニウム合金塑性加工材の一例である押出材の一実施形態を示す断面図である。
図3】引張せん断試験用の試験片(セルフピアスリベット接合体)を示す斜視図である。
図4】十字引張試験用の試験片(十字状のセルフピアスリベット接合体)を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係るアルミニウム合金塑性加工材は、セルフピアスリベット接合に供される塑性加工材であって、Si:0.95質量%~1.25質量%、Mg:0.80質量%~1.05質量%、Cu:0.30質量%~0.50質量%、Mn:0.40質量%~0.60質量%、Fe:0.15質量%~0.30質量%、Cr:0.09質量%~0.21質量%、B:0.0001質量%~0.03質量%を含有し、Znの含有率が0.25質量%以下、Zrの含有率が0.05質量%以下、Tiの含有率が0.1質量%以下であり、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金塑性加工材であり、前記アルミニウム合金塑性加工材同士のセルフピアスリベット接合体についてJIS Z3136(1999年)に準拠して測定したせん断引張最大荷重が8.5kN以上であることを特徴とする。前記アルミニウム合金塑性加工材としては、アルミニウム合金押出材またはアルミニウム合金圧延材が挙げられる。
【0019】
上記構成のアルミニウム合金塑性加工材(押出材または圧延材)は、セルフピアスリベット接合の接合強度に優れており、例えば、自動車、自動二輪車、鉄道等の車両の車体の構造材(フレーム等)として好適である。
【0020】
なお、アルミニウム合金の組成(各成分の含有率範囲の限定意義等)については、本発明の製造方法を説明した後の段落においてまとめて詳細に説明する。
【0021】
本発明では、本発明に係るアルミニウム合金塑性加工材を2つ準備し、これら2つのアルミニウム合金塑性加工材同士をセルフピアスリベット接合して得たセルフピアスリベット接合体についてJIS Z3136-1999に準拠して測定したせん断引張最大荷重が8.5kN以上である。上述したアルミニウム合金組成を備えていることによって、せん断引張最大荷重が8.5kN以上という優れた接合強度を有したセルフピアスリベット接合体を得ることができる。
【0022】
前記セルフピアスリベット接合について図1を参照しつつ説明する。図1(A)に示すように、上側頭部11aの下面に管状の軸部11bが連接されてなるセルフピアスリベット11の下方に、接合されるべき2枚の板状のアルミニウム合金塑性加工材1を重ね合わせて配置し、前記アルミニウム合金塑性加工材1の下にダイ(受け金型)12を配置し、前記セルフピアスリベット11の上側頭部11aの上面をパンチ13により下方に押し込んでセルフピアスリベット11の打ち込みを行うと、図1(B)に示すように、軸部11bが上側のアルミニウム合金塑性加工材1を打ち抜いた後、ダイ12の中央の凸部により押し拡げられることにより、上下のアルミニウム合金塑性加工材1、1同士が係止される(図1(C)参照)。前記セルフピアスリベット接合とは、セルフピアスリベット11を用いたこのような係止構造により上下のアルミニウム合金塑性加工材1、1同士が接合されるものである。図1において、14は、板押さえ部材である。
【0023】
本発明に係るアルミニウム合金塑性加工材1の一実施形態を図2に示す。この図2に示すアルミニウム合金塑性加工材1は、横断面形状がいわゆる日の字形状であるが、特にこのような形状に限定されるものではない。前記塑性加工材1の断面形状としては、特に限定されるものではないが、車両構造部材の軽量化を実現できて、且つ構造材としての十分な剛性と強度を確保できる断面形状を採用するのが好ましく、具体的には断面形状として、例えば、口の字形状、田の字形状等の中空断面形状のほか、中実体等が挙げられる。
【0024】
次に、本発明に係る、アルミニウム合金押出材1の製造方法について説明する。本製造方法は、Si:0.95質量%~1.25質量%、Mg:0.80質量%~1.05質量%、Cu:0.30質量%~0.50質量%、Mn:0.40質量%~0.60質量%、Fe:0.15質量%~0.30質量%、Cr:0.09質量%~0.21質量%、B:0.0001質量%~0.03質量%を含有し、Znの含有率が0.25質量%以下、Zrの含有率が0.05質量%以下、Tiの含有率が0.1質量%以下であり、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金の溶湯を得る溶湯形成工程と、前記得られた溶湯を鋳造加工することによってビレットを得る鋳造工程と、を含む。
【0025】
(溶湯形成工程)
前記溶湯形成工程では、Si:0.95質量%~1.25質量%、Mg:0.80質量%~1.05質量%、Cu:0.30質量%~0.50質量%、Mn:0.40質量%~0.60質量%、Fe:0.15質量%~0.30質量%、Cr:0.09質量%~0.21質量%、B:0.0001質量%~0.03質量%を含有し、Znの含有率が0.25質量%以下、Zrの含有率が0.05質量%以下、Tiの含有率が0.1質量%以下であり、残部がAl及び不可避不純物からなる組成となるように溶解調製されたアルミニウム合金溶湯を得る。
【0026】
(鋳造工程)
次に、前記得られた溶湯を鋳造加工することによって鋳造材を得る(鋳造工程)。鋳造方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いればよく、例えば、連続鋳造圧延法、ホットトップ鋳造法、フロート鋳造法、半連続鋳造法(DC鋳造法)等が挙げられる。この鋳造工程において、冷却速度の速い鋳造加工を行うことによって鋳塊(ビレット)中に形成される金属組織や晶出物の結晶粒径を小さくするのが好ましい。
【0027】
以下、順に、均質化熱処理工程、冷却工程、押出工程、急冷工程、時効処理工程を実施する。
【0028】
(均質化熱処理工程)
得られたビレットに対して均質化熱処理を行う。即ち、ビレットを480℃~530℃の温度で2時間~15時間保持する均質化熱処理を行う。480℃未満では、鋳塊ビレットの軟化が不十分となり、熱間押出加工時の圧力が著しく高くなって、外観品質が低下するし、生産性も低下する。一方、530℃を超えると、MnとCrの析出物が粗大化することで再結晶を抑制する効果が低下し、再結晶の発生により、押出材の靱性が低下するし、高強度も得られ難い。中でも、均質化熱処理の温度は、485℃~525℃に設定するのが好ましい。
【0029】
また、均質化熱処理の時間が2時間未満では、鋳塊ビレットの軟化が不十分となり、熱間押出加工時の圧力が著しく高くなって、外観品質が低下するし、生産性も低下する。また、2時間未満では、鋳塊組織中の結晶粒内の偏析を無くして均質化することが不十分になり、押出材の靱性が低下するし、高強度も得られ難い。一方、均質化熱処理の時間が15時間を超えると、均質化熱処理によるそれ以上の効果は得られず、かえって生産性を低下させるものとなる。
【0030】
(冷却工程)
次に、前記均質化熱処理後のビレットを150℃/時間以上の平均冷却速度で200℃以下の温度まで冷却する。平均冷却速度は、大きい方がより好ましい。この冷却工程における冷却方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、ファン冷却、ミスト冷却などが挙げられる。このようにビレットを150℃/時間以上の平均冷却速度で強制冷却する理由は、均質化熱処理後の冷却過程で固溶元素の析出物が粗大に成長するのを抑制するためである。粗大成長を抑制することで、後の時効処理による強度向上を十分に実現できると共に、押出材の靱性を十分に確保できる。
【0031】
(押出工程)
前記冷却工程を経たビレットを500℃~560℃にした状態で3m/分~25m/分の押出速度で熱間押出加工を行って押出材を得る。加熱温度が500℃未満では、鋳塊に添加されている元素がマトリックス中に溶けずに残留することで時効処理による強度向上を実現できない。一方、加熱温度が560℃を超えると、押出加工後の加工発熱により押出材に局所的に共晶融解(バーニング)が発生する恐れがある。従って、熱間押出加工時の加熱温度は500℃~560℃に設定する。中でも、熱間押出加工時の加熱温度は510℃~550℃に設定するのが好ましい。なお、ビレットの加熱時間は、特に限定されるものではないが、加熱装置が押出工程のオンライン上に設置されていることを考慮して、良好な生産性を確保できる時間に設定されるが、30分以内に設定されるのが好ましく、15分以内に設定されるのが特に好ましい。
【0032】
前記熱間押出加工の際の押出速度は、3m/分~25m/分に設定する。押出速度は、生産性を考慮すると、速ければ速いほど好ましいものの、押出速度が25m/分を超えると、押出材の表面に剥離や割れが生じる恐れがある。一方、押出速度が3m/分未満では、生産性が低下する。
【0033】
(急冷工程)
前記熱間押出加工後の押出材の温度が500℃~570℃になっていることを要する。金型から排出された直後の押出材の温度を非接触温度計または接触温度計で計測する。この計測温度が500℃未満では、鋳塊に添加されている元素がマトリックス中に溶けずに残留することで時効処理による強度向上を実現できない。前記計測温度が570℃を超えている場合には、押出材に局所的に共晶融解(バーニング)が発生する恐れがある。中でも、前記熱間押出加工後の押出材の温度が510℃~560℃になっているのが好ましい。
【0034】
前記熱間押出加工直後の500℃~570℃の温度の押出材を100℃/秒~500℃/秒の冷却速度で150℃以下まで急冷する。このような急冷は、例えば、押出出口側に設置してある冷却装置を用いて実施することができる。このような条件での急冷は、押出材の金属組織が繊維状組織を有し、かつ押出材の断面の全体面積に占める繊維状組織の面積の割合が95%以上である金属組織を形成させる上で重要な工程である。この急冷工程において、冷却速度が100℃/秒未満では、冷却時の焼き入れが不十分となって、押出材の靱性が低下するし、高強度も得られ難い。一方、冷却速度が500℃/秒を超えると、肉厚の厚い部分と薄い部分で熱収縮差による変形が生じて寸法精度が悪くなる。
【0035】
前記急冷工程における冷却方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、ファン空冷、ミスト冷却、シャワー冷却、液体窒素冷却、水冷等の方法が挙げられる。また、前記例示の冷却方法を適宜組み合わせて急冷を実施するようにしてもよい。
【0036】
前記急冷工程において、前記押出材の冷却速度を150℃/秒~450℃/秒に設定するのが好ましく、200℃/秒~400℃/秒に設定するのが特に好ましい。
【0037】
(時効処理工程)
次に、前記急冷工程を経た押出材を160℃~200℃の温度で1時間~24時間加熱して時効処理を行う。時効処理温度が160℃未満では、析出物が微細になりすぎて時効硬化が十分になされず、高強度の押出材が得られなくなる。一方、時効処理温度が200℃を超えると、過時効処理となって析出物が粗大化して、高強度の押出材が得られなくなる。また、時効処理時間が1時間未満では、亜時効処理となって高強度の押出材が得られなくなる。時効処理時間が24時間を超えると、過時効処理となって高強度の押出材が得られなくなる。中でも、前記時効処理温度を170℃~190℃に設定するのが好ましい。また、前記時効処理時間は1時間~16時間に設定するのが好ましい。
【0038】
上述した溶湯形成工程、鋳造工程、均質化熱処理工程、冷却工程、押出工程、急冷工程、時効処理工程を経て得られたアルミニウム合金押出材は、該アルミニウム合金押出材同士のセルフピアスリベット接合体についてJIS Z3136-1999に準拠して測定したせん断引張最大荷重が8.5kN以上であるし、前記得られたアルミニウム合金押出材は、該アルミニウム合金押出材同士のセルフピアスリベット接合体についてJIS Z3137-1999に準拠して測定した十字引張最大荷重が5.0kN以上であり、セルフピアスリベット接合強度に優れている。
【0039】
なお、本発明の上記製造方法において、押出工程以降に、溶体化処理や焼き入れ処理を行うと、形成された繊維状組織が損なわれてしまうので、このような溶体化処理や焼き入れ処理を行うのは望ましくない。
【0040】
また、本発明の上記製造方法において、例えば、自動車、自動二輪車、鉄道等の車両の車体構造材(フレーム等)等として適用するために、必要に応じて、押出工程以降に、引抜加工、切削加工、曲げ加工、潰し加工、溶接加工、機械締結加工等のうちの1種又は2種以上の加工を実施してもよい。
【0041】
次に、上述した本発明に係るアルミニウム合金塑性加工材および本発明に係るアルミニウム合金押出材の製造方法における「アルミニウム合金」の組成について、以下詳述する。前記アルミニウム合金は、Si:0.95質量%~1.25質量%、Mg:0.80質量%~1.05質量%、Cu:0.30質量%~0.50質量%、Mn:0.40質量%~0.60質量%、Fe:0.15質量%~0.30質量%、Cr:0.09質量%~0.21質量%、B:0.0001質量%~0.03質量%を含有し、Znの含有率が0.25質量%以下、Zrの含有率が0.05質量%以下、Tiの含有率が0.10質量%以下であり、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金である。
【0042】
前記Siは、Mgと共存してMg2Si系析出物を形成し、押出材の強度向上に寄与する。Siは、上述したとおりMgの含有量に対してMg2Siを生成する量を超えて過剰に添加することにより、時効処理による強度向上を十分に実現できることから、Si含有率は、0.95質量%以上に設定する。一方、Si含有率が1.25質量%を超えると、Siの粒界析出が多くなり、押出材の靱性が低下するし、熱間押出加工時の押出性が悪くなる。従って、Si含有率は、0.95質量%~1.25質量%に設定する。中でも、Si含有率は、1.00質量%~1.20質量%に設定するのが好ましく、1.05質量%~1.15質量%に設定するのがより好ましい。
【0043】
前記Mgは、Siと共存してMg2Si系析出物を形成し、押出材の強度向上に寄与する。Mg含有率が0.80質量%より小さいと、析出強化の効果が十分に得られず高強度を確保することができない。一方、Mg含有率が1.05質量%を超えると、Mg2Si系析出物が増加し過ぎることによって、押出材の靱性を低下させるし、熱間押出加工時の押出圧力が著しく高くなることにより外観品質を悪化させ、生産性も低下させる。従って、Mg含有率は、0.80質量%~1.05質量%に設定する。中でも、Mg含有率は、0.85質量%~1.00質量%に設定するのが好ましい。
【0044】
前記Feは、AlFeSi相として晶出することで結晶粒の粗大化を防止する効果がある。Fe含有率が0.15質量%より小さいと、結晶粒の粗大化防止効果が十分に得られない。一方、Fe含有率が0.30質量%を超えると、粗大な金属間化合物を生成し、押出材の靱性を低下させるし、熱間押出加工時にピックアップと呼ばれる外観不良が発生する恐れがある。従って、Fe含有率は、0.15質量%~0.30質量%に設定する。中でも、Fe含有率は、0.15質量%~0.25質量%に設定するのが好ましい。
【0045】
前記Mnは、AlMnSi相として晶出し、晶出しないMnは析出して再結晶を抑制する効果がある。この再結晶を抑制する作用により、熱間押出加工後の組織を繊維状組織化できることで高強度を実現できる。Mn含有率が0.40質量%より小さいと、上記の再結晶抑制効果が得られなくなり、再結晶組織が粗大化して成長することで強度が低下する(高強度を確保できない)上に、組織制御が困難になり繊維状組織と再結晶組織とが混合した組織状態になって靱性が低下する。一方、Mn含有率が0.60質量%を超えると、粗大な金属間化合物を生成し、押出材の靱性を低下させる。従って、Mn含有率は、0.40質量%~0.60質量%に設定する。中でも、Mn含有率は、0.44質量%~0.56質量%に設定するのが好ましい。なお、Mnは、同様の効果を有するCrと複合的に添加することにより、上記の効果を相乗的に向上させることができる。
【0046】
前記Cuは、Mg2Si系析出物の見かけの過飽和量を増加させ、Mg2Si析出量を増加させることによって最終製品の押出材の時効硬化を著しく促進させる。Cu含有率が0.30質量%より小さいと、時効硬化が十分に得られない。一方、Cu含有率が0.50質量%を超えると、押出材の靱性が低下するし、熱間押出加工時の押出性が悪くなる。また、過度に添加量を増やし過ぎると、耐食性を低下させ、粒界腐食の感受性を高め、応力腐食割れを引き起こす恐れがある。従って、Cu含有率は、0.30質量%~0.50質量%に設定する。中でも、Cu含有率は、0.35質量%~0.50質量%に設定するのが好ましく、0.40質量%~0.50質量%に設定するのがより好ましい。
【0047】
前記Crは、AlCrSi相として晶出し、晶出しないCrは析出して再結晶を抑制する効果がある。この再結晶を抑制する作用により、熱間押出加工後の組織を繊維状組織化できることで高強度を実現できる。Cr含有率が0.09質量%より小さいと、上記の再結晶抑制効果が得られなくなり、再結晶組織が粗大化して成長することで強度が低下する(高強度を確保できない)上に、組織制御が困難になり繊維状組織と再結晶組織とが混合した組織状態になって靱性が低下する。一方、Cr含有率が0.21質量%を超えると、粗大な金属間化合物を生成し、押出材の靱性を低下させる。従って、Cr含有率は、0.09質量%~0.21質量%に設定する。中でも、Cr含有率は、0.11質量%~0.19質量%に設定するのが好ましい。なお、Crは、同様の効果を有するMnと複合的に添加することにより、上記の効果を相乗的に向上させることができる。
【0048】
前記B(硼素)は、Tiとの共存により結晶粒の微細化を図る上で有効な元素である。B含有率が0.0001質量%より小さいと、結晶粒の微細化の効果が十分に得られない恐れがある。一方、B含有率が0.03質量%を超えると、TiB2が過剰に生成されて切削加工性が低下する恐れがある。従って、B含有率は、0.0001質量%~0.03質量%に設定する。
【0049】
前記Tiは、結晶粒の微細化を図る上で有効な元素であるが、Ti含有率が0.10質量%を超えると、粗大なTi化合物が晶出し、押出材の靱性を低下させる。従って、Ti含有率は0.10質量%以下(Ti非含有;即ちTi含有率0質量%を含む)に設定する。
【0050】
前記Zrは、MnやCrと同様に再結晶を抑制する効果を有する元素であるが、このZrの含有率は0.05質量%以下に設定する。Zr含有率が0.05質量%を超えると、上述したTiの結晶粒微細化効果を阻害する上に、押出材の靱性を低下させる。従って、Zr含有率は0.05質量%以下に設定する。Zr非含有であってもよい(Zr含有率は0質量%であってもよい)。中でも、Zr含有率は0.01質量%以下(0質量%を含む;即ちZr非含有を含む)に設定するのが好ましい。
【0051】
前記Znは、鋳造性の向上を図る上で有効な元素であるが、Zn含有率が0.25質量%を超えると、耐食性や靱性を低下させる恐れがある。従って、Zn含有率は0.25質量%以下(Zn非含有;即ちZn含有率0質量%を含む)に設定する。
【実施例
【0052】
次に、本発明の具体的実施例について説明するが、本発明はこれら実施例のものに特に限定されるものではない。
【0053】
<実施例1>
Si:0.95質量%、Fe:0.18質量%、Cu:0.30質量%、Mn:0.44質量%、Mg:0.80質量%、Cr:0.09質量%、B:0.005質量%、Zn:0.03質量%、Zr:0.01質量%、Ti:0.02質量%を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金を加熱してアルミニウム合金溶湯を得た後、該アルミニウム合金溶湯を用いてホットトップ鋳造法により直径156mm、長さ450mmの鋳塊ビレットを作製した。
【0054】
次に、前記鋳塊ビレットに対して495℃で8時間の均質化熱処理を行った(均質化熱処理工程)。前記均質化熱処理工程を経た後の鋳塊ビレットを220℃/時間の鋳塊冷却速度で鋳塊が150℃以下の温度になるまで強制冷却を行った(冷却工程)。次に、前記冷却工程を経た鋳塊ビレットに、鋳塊加熱温度535℃、押出速度12m/分の条件で熱間押出加工を行うことによって、縦17mm×横80mmの日の字形状で、角部のRが1.0mm、管壁厚さ(肉厚)Tが3.0mmの中空押出材(図2参照)を得た(押出工程)。次いで、前記熱間押出加工で得られた550℃の中空押出材(押出ダイス出口での中空押出材の温度を接触温度計で測定した)を400℃/秒の冷却速度で100℃以下の温度になるまで急冷した(急冷工程)。前記急冷工程を経た中空押出材を300mmの長さに切断した後、170℃で8時間加熱して時効処理を行った(時効処理工程)。こうして図2に示すAl-Mg-Si系アルミニウム合金中空押出材1を得た。
【0055】
<実施例2~15>
前記アルミニウム合金溶湯として、表1に示すアルミニウム合金組成(表1に示す元素を表に記載の含有率で含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金)からなるアルミニウム合金溶湯を用いた以外は、実施例1と同様にして、図2に示すAl-Mg-Si系アルミニウム合金中空押出材1を得た。
【0056】
<比較例1>
Si:1.00質量%、Fe:0.15質量%、Cu:0.05質量%、Mn:0.70質量%、Mg:0.85質量%、Cr:0.11質量%、B:0.005質量%、Zn:0.03質量%、Zr:0.01質量%、Ti:0.02質量%を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金を加熱してアルミニウム合金溶湯を得た後、該アルミニウム合金溶湯を用いてホットトップ鋳造法により直径156mm、長さ450mmの鋳塊ビレットを作製した。
【0057】
次に、前記鋳塊ビレットに対して495℃で8時間の均質化熱処理を行った(均質化熱処理工程)。前記均質化熱処理工程を経た後の鋳塊ビレットを250℃/時間の鋳塊冷却速度で鋳塊が150℃以下の温度になるまで強制冷却を行った(冷却工程)。次に、前記冷却工程を経た鋳塊ビレットに、鋳塊加熱温度530℃、押出速度12m/分の条件で熱間押出加工を行うことによって、縦17mm×横80mmの日の字形状で、角部のRが1.0mm、管壁厚さ(肉厚)Tが3.0mmの中空押出材(図2参照)を得た(押出工程)。次いで、前記熱間押出加工で得られた545℃の中空押出材(押出ダイス出口での中空押出材の温度を接触温度計で測定した)を400℃/秒の冷却速度で100℃以下の温度になるまで急冷した(急冷工程)。前記急冷工程を経た中空押出材を300mmの長さに切断した後、180℃で6時間加熱して時効処理を行った(時効処理工程)。こうしてAl-Mg-Si系アルミニウム合金中空押出材を得た。
【0058】
<比較例2>
前記アルミニウム合金溶湯として、表2に示すアルミニウム合金組成(表1に示す元素を表に記載の含有率で含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金)からなるアルミニウム合金溶湯を用い、前記鋳塊ビレットに対して565℃で8時間の均質化熱処理を行った以外は、比較例1と同様にして、Al-Mg-Si系アルミニウム合金中空押出材を得た。
【0059】
<比較例3>
Si:1.10質量%、Fe:0.18質量%、Cu:0.40質量%、Mn:0.50質量%、Mg:0.95質量%、Cr:0.15質量%、B:0.004質量%、Zn:0.03質量%、Zr:0.01質量%、Ti:0.02質量%を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金を加熱してアルミニウム合金溶湯を得た後、該アルミニウム合金溶湯を用いてホットトップ鋳造法により直径156mm、長さ450mmの鋳塊ビレットを作製した。
【0060】
次に、前記鋳塊ビレットに対して495℃で7時間の均質化熱処理を行った(均質化熱処理工程)。前記均質化熱処理工程を経た後の鋳塊ビレットを220℃/時間の鋳塊冷却速度で鋳塊が150℃以下の温度になるまで強制冷却を行った(冷却工程)。次に、前記冷却工程を経た鋳塊ビレットに、鋳塊加熱温度535℃、押出速度12m/分の条件で熱間押出加工を行うことによって、縦17mm×横80mmの日の字形状で、角部のRが1.0mm、管壁厚さ(肉厚)Tが3.0mmの中空押出材(図2参照)を得た(押出工程)。次いで、前記熱間押出加工で得られた550℃の中空押出材(押出ダイス出口での中空押出材の温度を接触温度計で測定した)を50℃/秒の冷却速度で100℃以下の温度になるまで急冷した(急冷工程)。前記急冷工程を経た中空押出材を300mmの長さに切断した後、180℃で6時間加熱して時効処理を行った(時効処理工程)。こうしてAl-Mg-Si系アルミニウム合金中空押出材を得た。
【0061】
<比較例4>
Si:1.10質量%、Fe:0.20質量%、Cu:0.40質量%、Mn:0.50質量%、Mg:0.85質量%、Cr:0.15質量%、B:0.004質量%、Zn:0.03質量%、Zr:0.01質量%、Ti:0.02質量%を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金を加熱してアルミニウム合金溶湯を得た後、該アルミニウム合金溶湯を用いてホットトップ鋳造法により直径80mm、長さ80mmの鋳塊ビレットを作製した。
【0062】
次に、前記鋳塊ビレットに対して500℃で7時間の均質化熱処理を行った(均質化熱処理工程)。前記均質化熱処理工程を経た後の鋳塊ビレットを150℃/時間の鋳塊冷却速度で鋳塊が150℃以下の温度になるまで強制冷却を行った(冷却工程)。次に、前記冷却工程を経た鋳塊ビレットに、鋳塊加熱温度530℃に加熱し、熱間鍛造加工を行うことによって、直径80mm×高さ80mmの円柱体を鍛造により高さ16mmにまで鍛造加工して鍛造材を得た。次いで、前記鍛造材に530℃の温度で4時間の溶体化処理を実施し、水焼き入れ後に、180℃で6時間加熱して時効処理を行った。こうしてAl-Mg-Si系アルミニウム合金鍛造材を得た。
【0063】
<比較例5~14>
前記アルミニウム合金溶湯として、表2に示すアルミニウム合金組成(表2に示す元素を表に記載の含有率で含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金)からなるアルミニウム合金溶湯を用いた以外は、実施例1と同様にして、Al-Mg-Si系アルミニウム合金中空押出材を得た。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
【表3】
【0067】
【表4】
【0068】
上記のようにして得られた各アルミニウム合金押出材について、下記の方法により金属組織の観察を行うと共に、下記評価法に基づいて各種評価を行った。
【0069】
<金属組織の観察方法>
押出材について該押出材の押出方向に平行な断面を切り出した後、押出材の前記断面(切断面)を鏡面研磨し、次いで電解エッチングを行った後、断面(切断面)を光学顕微鏡で観察した。各押出材の前記断面(切断面)の光学顕微鏡を用いた金属組織写真において、複数視野における画像解析から、前記断面における全体面積に占める繊維状組織の面積の割合を求め、該割合が90%以上であるものを「繊維状組織」と判定し(表1、2参照)、前記割合が20%以上90%未満であるもの(繊維状組織以外の組織が再結晶組織であるもの)を「混合組織」と判定し、前記割合が20%未満であるもの(繊維状組織以外の組織が再結晶組織であるもの)を「再結晶組織」と判定した(表1、2参照)。
【0070】
比較例4の鍛造材については該鍛造材の加工方向に平行な断面で切り出した後、鍛造材の前記断面(切断面)を鏡面研磨し、次いで電解エッチングを行った後、断面(切断面)を光学顕微鏡で観察した。押出材の場合と同様に金属組織の形態と割合を求めて判定を実施した(表2参照)。
【0071】
<引張特性評価法(引張強さ及び0.2%耐力の測定法)>
JIS Z2241-2011に準拠して室温(25℃)で引張試験を行うことによって、押出材(又は鍛造材)の引張強さ(MPa)および0.2%耐力(MPa)を測定した。即ち、押出材(又は鍛造材)からJIS Z2201-1998に記載の方法によりJIS5号試験片を採取した。このJIS5号試験片(中実体)の大きさは、平行部の幅25mm×平行部の長さ60mm×厚さ2.5mmとした。また、試験片において標点間距離を50mmに設定した。前記試験片についてインストロン型引張試験機を用いて引張試験を行った。引張試験速度は、2mm/分に設定し、耐力測定以降は10mm/分に設定した。JIS5号試験片のn数を3個として、3つの試験片の平均値を「0.2%耐力」とした(表3、4参照)。なお、表3、4において、0.2%耐力が380MPa以上であるものを「◎」と表記し、0.2%耐力が350MPa以上380MPa未満であるものを「○」と表記し、0.2%耐力が350MPa未満であるものを「×」と表記した。
【0072】
<加工性評価法>
押出加工時(又は鍛造加工時)の加工性の評価を行った。押出加工では、押出後の製品(押出材)に割れや表面剥離等の外観不良が発生したものを「×」と表記し、このような外観不良が発生しなかったものを「○」と表記した。鍛造加工では、押出加工と同様に、鍛造後の製品(鍛造材)に割れや皺等の外観不良が発生したものを「×」と表記し、このような外観不良が発生しなかったものを「○」と表記した。
【0073】
<セルフピアスリベット接合性(SPR接合性)評価法>
JIS Z3136-1999に準拠して、押出材(又は鍛造材)から厚さ2.5mmに切削加工して図3に示すような形状の2枚の切削加工板(中実板)を得て、これら2枚の切削加工板同士を重ね合わせて(実施例1であれば、実施例1で得られた中空押出材から採取した2枚の切削加工板同士を重ね合わせて)セルフピアスリベット接合することによりセルフピアスリベット接合体を得て、これを引張せん断試験用の試験片とした(図3参照)。また、JIS Z3137-1999に準拠して、押出材(又は鍛造材)から厚さ2.5mmに切削加工して図4に示すような形状の2枚の切削加工板(中実板)を得て、これら2枚の切削加工板同士を十字状に重ね合わせて中央でセルフピアスリベット接合することによりセルフピアスリベット接合体を得て、これを十字引張試験用の試験片とした(図4参照)。セルフピアスリベット接合するのにアトラスコプコ社製セルフピアスリベット接合装置を用いた。頭部の外径が5mm、上下長さが6.5mmのリベットを使用し、下型(ダイ)の形状はフラット形状とし、深さは1.2mmとした。
【0074】
前記引張せん断試験用試験片および前記十字引張試験用試験片のそれぞれの下型側の押出材(又は鍛造材)について貫通割れ発生の有無を目視で調べて、貫通割れが発生していなかったものを「○」(SPR接合性良好)とし、貫通割れが発生していたものを「×」とした。
【0075】
<セルフピアスリベット接合体のせん断引張最大荷重及び十字引張最大荷重の測定法>
上記引張せん断試験用の試験片についてJIS Z3136-1999に準拠してせん断引張最大荷重を測定した。また、上記十字引張試験用の試験片についてJIS Z3137-1999に準拠して十字引張最大荷重を測定した。どちらの試験も引張試験速度を10mm/分に設定して行った。上記両試験ともにn数(試験片数)を3個とし、最大荷重の平均値をデータ(試験結果値)として採用した。
【0076】
なお、表3、4において、せん断引張最大荷重が8.5kN以上のものを「○」と表記し、8.5kN未満のものを「×」と表記した。また、十字引張最大荷重が5.0kN以上のものを「○」と表記し、5.0kN未満のものを「×」と表記した。
【0077】
<総合評価>
「0.2%耐力」、「加工性」、「SPR接合性」、「せん断引張最大荷重」、「十字引張最大荷重」の5つの評価項目のうち、1項目以上に「×」の評価結果があったものを「不合格」とし、5つの評価項目全てにおいて「×」の評価結果が無かったものを「合格」とした。
【0078】
表から明らかなように、本発明に係る実施例1~15のAl-Mg-Si系アルミニウム合金押出材は、0.2%耐力が350MPa以上であって高強度であり、せん断引張最大荷重が8.5kN以上であり、十字引張最大荷重が5.0kN以上であり、セルフピアスリベット接合強度に優れていた。また、実施例1~15のAl-Mg-Si系アルミニウム合金押出材は、セルフピアスリベット接合性が良好であった(貫通割れが発生しなかった)。
【0079】
これに対し、本発明の範囲を逸脱する比較例1~14では、総合評価が不合格であった。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明に係るAl-Mg-Si系アルミニウム合金塑性加工材(押出材又は圧延材)および本発明の製造方法で得られるAl-Mg-Si系アルミニウム合金押出材は、高強度であり、かつセルフピアスリベット接合強度に優れているので、従来の鉄系材料の代替材として好適に使用できる。例えば、車両、船舶、自動車、自動二輪車等の輸送機の車体の構造材(フレーム等)として使用することで車体の軽量化に貢献できる。
【符号の説明】
【0081】
1…アルミニウム合金塑性加工材(押出材または圧延材)
11…セルフピアスリベット
図1
図2
図3
図4