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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-23
(45)【発行日】2023-01-31
(54)【発明の名称】高天井用照明器具
(51)【国際特許分類】
   F21S 8/06 20060101AFI20230124BHJP
   F21V 21/008 20060101ALI20230124BHJP
   F21V 21/16 20060101ALI20230124BHJP
【FI】
F21S8/06 100
F21V21/008
F21V21/16 130
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018233715
(22)【出願日】2018-12-13
(65)【公開番号】P2020095882
(43)【公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000126274
【氏名又は名称】株式会社アイ・ライティング・システム
(73)【特許権者】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】弁理士法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福澤 厚
(72)【発明者】
【氏名】関根 守幸
(72)【発明者】
【氏名】和田 稔
(72)【発明者】
【氏名】三富 正二
(72)【発明者】
【氏名】宮川 忠明
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 勝則
【審査官】野木 新治
(56)【参考文献】
【文献】実開昭50-110582(JP,U)
【文献】実開昭63-055319(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F21S 8/06
F21V 21/008
F21V 21/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吊下形の灯具を備える高天井用照明器具において、
前記灯具を、屈曲状態を保持可能な保持力が発生するフレキシブル部材を介して天井から吊り下げ、
前記フレキシブル部材と前記灯具との間に、前記フレキシブル部材の屈曲状態に依存せずに前記灯具の自重で前記灯具を所定の姿勢に維持させる球面継手を設けていることを特徴とする高天井用照明器具。
【請求項2】
前記球面継手のすべり抵抗値は、少なくとも風速3.3M/Sの風の影響による前記灯具の姿勢変化を抑制可能な値に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の高天井用照明器具。
【請求項3】
前記フレキシブル部材は、多層構造であり、屈曲時に層間摩擦により振動を抑えるような曲げモーメント抵抗力が生じる部材であることを特徴とする請求項1又は2に記載の高天井用照明器具。
【請求項4】
前記フレキシブル部材は、屈曲開始時の曲げモーメント抵抗値が0.8NM以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の高天井用照明器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高天井用照明器具に関する。
【背景技術】
【0002】
吊下形の灯具を備える照明器具はチェーンまたは引張強度を上げた給電ケーブル自体で照明器具を天井などの構造体から吊り下げている。この方式の照明器具は、地震などで照明器具が大きく揺れ、周囲の器物や器具自体を破損することがあるという課題を有している。そのため、灯具を吊り下げる吊下コードの上部に変位体を固定し、この変位体を水平方向に変位自在に支持し、灯具の加重により変位体を変位範囲の中心位置に誘導する構成、及び変位体の変位に対して抵抗力を付与する構成を備えた免震照明器具が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5821396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、吊り下げ部材にフレキシブルチューブを使用した吊下形の灯具は、フレキシブルチューブなどが屈曲したまま設置されるおそれがある。フレキシブルチューブなどが屈曲すると灯具が傾いて真下を向かないため、意図した照明ができなくなるおそれがある。仮に上記特許文献1の構成を採用しても、灯具の吊り具上端位置を水平方向における中心位置に誘導できるものの、灯具自体の傾きを抑えることはできない。
【0005】
本発明は、フレキシブルチューブが屈曲したまま設置されても灯具を鉛直下方に向けることが可能な高天井用照明器具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、吊下形の灯具を備える高天井用照明器具において、前記灯具を、屈曲状態を保持可能な保持力が発生するフレキシブル部材を介して天井から吊り下げ、前記フレキシブル部材と前記灯具との間に、前記フレキシブル部材の屈曲状態に依存せずに前記灯具の自重で前記灯具を所定の姿勢に維持させる球面継手を設けていることを特徴とする。
【0007】
上記高天井用照明器具において、前記球面継手のすべり抵抗値は、少なくとも風速3.3m/sの風の影響による前記灯具の姿勢変化を抑制可能な値に設定されていることを特徴とする。
【0008】
また、上記高天井用照明器具において、前記フレキシブル部材は、多層構造であり、屈曲時に層間摩擦により振動を抑えるような曲げモーメント抵抗力が生じる部材であることを特徴とする。
【0009】
また、上記高天井用照明器具において、前記フレキシブル部材は、屈曲開始時の曲げモーメント抵抗値が0.8Nm以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、フレキシブルチューブなどの形状保持力を有する吊り具を有する照明器具において、設置時に吊り具が多少屈曲したまま設置されても、灯具を鉛直下方に向けることが可能な高天井用照明器具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る照明器具の設置状態を示す図である。
図2図1のA-A断面図である。
図3】灯具2の揺動範囲の一例を周辺構成と共に示した図である。
図4】0度付近の屈曲角度と曲げモーメント抵抗値の関係を示した図である。
図5】0~30度を含む屈曲角度と曲げモーメント抵抗値の関係を示した図である。
図6】フレキシブルチューブの断面構造を示す図である。
図7】耐熱電線ケーブルの断面構造を示す図である。
図8】実施例3の0~30度を含む屈曲角度と曲げモーメント抵抗値の関係を示した図である。
図9】実施例3の0度付近の屈曲角度と曲げモーメント抵抗値の関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る照明器具の設置状態を示す図である。
この照明器具1は、室内の天井高が住戸やオフィス等の一般的な居室よりも高い工場や倉庫、体育館等の天井面に設置して好適に用いられる高天井用照明器具であり、吊下形の灯具2を備えている。
灯具2は、照明器具の光源として機能するようにユニット化されたものであり、室内を照明するための光源を備えている。この灯具2の構成には公知の構成を広く適用可能である。
【0013】
図1に示すように、天井11には、天井11に固定された金属製の天井固定金具3を介して吊り具4が吊り下げ支持される。吊り具4は、天井11から下方に延びる筒状部材であり、吊り具4の下端に灯具2が支持されると共に、この吊り具4の内部を、灯具2に電力を供給する給電線が通過する。
【0014】
この吊り具4は、フレキシブルチューブ6を有している。本実施例ではフレキシブルチューブ6として、電気スタンドなどの支柱に使用される、いわゆる「スタンドチューブ」を採用している。「スタンドチューブ」はスタンドの支柱を曲げた状態でその形状を維持するような、保持力が発生するタイプのフレキシブルチューブである。
発明者等は、吊り具4に所定の形状保持力を有するフレキシブルチューブ6を使用し、その形状保持力を曲げモーメント抵抗値として所定の値に数値限定することで、簡素な構造の免震照明器具を実現した。
しかし、形状保持力を有するフレキシブルチューブ6などが屈曲したまま設置されるおそれがある。フレキシブルチューブ6などが屈曲すると灯具2が傾いて真下を向かないため、意図した照明ができなくなる。そのため、設置時に灯具2の傾きを慎重に調整する必要が生じる。そこで、本構成では、設置時に灯具2の傾きを簡易な構造で調整不要にすべく、フレキシブルチューブ6の屈曲状態に依存せずに灯具2の自重で灯具2を真下に向ける球面継手12を採用した。以下、球面接手12を含む周辺構成、及びフレキシブルチューブ6等の仕様について説明する。
【0015】
フレキシブルチューブ6を除く構成について説明する。
フレキシブルチューブ6の上端には、天井側固定部7が一体に設けられ、フレキシブルチューブ6の下端には、灯具側固定部8が一体に設けられる。天井側固定部7は、天井固定金具3に設けられた不図示の被締結部に締結によって固定されることで、天井11に対し揺動不能に固定される。灯具側固定部8と灯具2との間には球面継手12が設けられている。
【0016】
図2は、球面継手12を周辺構成と共に示す断面図であり、図1のA-A断面図に相当している。
球面継手12は、灯具側固定部8の下端に連結されるボール部13と、ボール部13の外周面に沿って摺動自在なハウジング部14とを有している。
ボール部13の外周面は、球状凸面に沿った面に形成されている。
ハウジング部14は、灯具2の上面に一体に設けられた上方凸の筒形状を有する上ハウジング部14Aと、上ハウジング部14Aと別体に形成された下方凸の筒形状を有する下ハウジング部14Bとで構成されている。上下のハウジング部14A、14Bは、締結部材15によって互いに連結される。これによって、同図2に示すように、ボール部13の外周面に沿って摺動自在な内周面を有するハウジング部14が構成され、このハウジング部14と一体の灯具2が、図2に矢印で示すように、ボール部13の外周面を含む球の中心位置C1を基準にして揺動自在となっている。
【0017】
図3は、灯具2の揺動範囲の一例を周辺構成と共に示した図である。
球面継手12の各部のサイズや形状の調整により、灯具2の揺動範囲は予め設定した設定範囲に設定され、かつ、ボール部13からハウジング部14を含む灯具2の脱落が規制されている。この設定範囲(灯具2の振れ角度に相当)は、鉛直方向を基準にして最大で角度α(本構成では角度α=5度~10度の範囲内)に設定されている。
この球面継手12によって、灯具2を斜めに傾けても灯具2に作用する重力によって灯具2が下方に向けて揺動し、自動的に灯具2を直下に向けた姿勢にできる。より具体的には、この球面継手12は、灯具2に作用する重力よりも小さいすべり抵抗値(ボール部13とハウジング部14との間の摩擦抵抗力に相当)が発生することで灯具2を下方に向けて揺動させる。
【0018】
また、球面継手12のすべり抵抗値は、少なくとも風速3.3m/sの風の影響による灯具2の姿勢変化を抑制可能な値に設定されている。これにより風速3.3m/s以下の風で灯具2の傾きが変化する事態を避けることができる。
また、この球面継手12のすべり抵抗値等の抵抗値は、灯具2の揺れを継続させず、灯具2を速やかに直下に向けた姿勢に停止させるダンパー機能を実現する範囲に設定することが好ましい。
【0019】
以上の構成により、フレキシブルチューブ6が屈曲したまま設置された場合に、フレキシブルチューブ6の角度調整を行うことなく、灯具2を直下(鉛直下方に相当)に向けた姿勢にすることができる。
すなわち、フレキシブルチューブ6と灯具2との間に、屈曲状態を保持可能な保持力が発生するフレキシブルチューブ6の屈曲状態に依存せずに灯具2の自重で灯具2を直下に向けた姿勢(所定の姿勢に相当)に維持させる球面継手12を設けているので、フレキシブルチューブ6が屈曲したまま設置されても灯具2を鉛直下方に向けることができる。
【0020】
また、灯具2の振れ角度は角度α内、つまり、本例では最大で±5度~10度の範囲内に規制されるので、灯具2がフレキシブルチューブ6に対して10度以上傾く事態を回避でき、見栄えを良好に維持できる。なお、灯具20が10度以上傾いている場合、フレキシブルチューブ6の方を修正することが好ましい。
また、地震等の外部振動の影響を受けた場合に灯具2の振れ角度を上記範囲に抑えることができるので、灯具2等の損傷を抑えやすくなる、といったメリットも得られる。なお、灯具2の振れ角度は設置環境等に応じて適宜な範囲に設定すればよい。
【0021】
また、本構成の球面継手12においては、図3に示すように、ボール部13及びハウジング部14の摺動面(球面)が、灯具2の最大振れ角度に相当する±5度~10度の範囲しか形成されていない。これにより、同図3に示すように、ボール部13及びハウジング部14をコンパクト化でき、球面継手12を含むフレキシブルチューブ6と灯具2の連結構造をコンパクト化できる。なお、球面継手12は、図3に示す構造に限定されず、広く流通する汎用の球面継手を適用してもよい。
【0022】
本構成では、吊り具4を構成する天井側固定部7、フレキシブルチューブ6、及び灯具側固定部8によって灯具2に電力を供給する給電線を覆っている。これによって、吊り具4は、給電線を覆って保護する保護カバーとして機能する。
フレキシブルチューブ6は、硬鋼線を巻回した巻線層の外周に特殊異型線を巻き合わせた多層構造の筒状部材で形成され、屈曲性を有するフレキシブル部材として機能する。このフレキシブルチューブ6は、屈曲時に層間で摩擦抵抗が生じることによって、屈曲した状態を保持する保持力が発生する。
【0023】
ところで、地震等の外部振動が照明器具1に作用した場合に、フレキシブルチューブ6を含む吊り具4が振動し、例えば、図1に二点鎖線で示すように、フレキシブルチューブ6が、上端から距離LXだけ離れた所定位置X1を基準にして振り子の様に振動することがある。
このフレキシブルチューブ6は、屈曲時に層間で摩擦抵抗が生じるので、振動した場合に曲げモーメント抵抗力が発生する。曲げモーメント抵抗力は、曲げモーメントとは回転方向が反対のモーメントであり、振動を抑制する力として作用する。なお、曲げモーメント抵抗力は、曲げ抵抗モーメント、或いは、単に抵抗モーメントと称することもある。この曲げモーメント抵抗力の値は、曲げモーメント抵抗値と言う。
【0024】
発明者等は、フレキシブルチューブ6の曲げモーメント抵抗値に着目し、地震等の外部振動による灯具2の揺れをフレキシブルチューブ6によって抑制する仕様を検討した。
なお、図1中、符号LCは、吊り具4が静止状態の場合の中心軸であり、フレキシブルチューブ6の中心軸でもある。図1中、符号θは、吊り具4の屈曲角度であり、吊り具4が静止状態の場合、屈曲角度θ=0度である。吊り具4の屈曲角度θは、フレキシブルチューブ6の屈曲角度と一致する。
【0025】
まず、実施例について説明する。
実施例1は、照明器具全長L1が1.0mであり、フレキシブルチューブ6のフレキシブル部分長さL2が550mm、フレキシブルチューブ6の外径が直径21.5mmである。
実施例2は、照明器具全長L1が2.0mであり、フレキシブルチューブ6のフレキシブル部分長さL2が1455mm、フレキシブルチューブ6の外径が直径21.5mmである。
【0026】
これら実施例1、2に対し、阪神・淡路大震災、及び東日本大震災に相当する振動をそれぞれ付与する振動実験を行ったところ、フレキシブルチューブ6の振幅LY(振れ半径に相当)を許容範囲内である500mm以下に抑えることができたものである。
灯具2の位置で振れ半径が500mm以下であれば、地震の際に隣接する灯具や壁面と接触することが無く、破壊された灯具2の破片などが床に落下するおそれが無い。
なお、実施例1、2及び後述する各実施例では、球面継手12による灯具2の揺れについては考慮していない。
【0027】
各実施例1、2の曲げモーメント抵抗値を求める実験を行った。具体的には、実施例1の灯具21の下端(フレキシブルチューブ6の上端から800mmの位置P1)にテンションゲージを押し当て、水平に押下したときの力と変形状態を観察した。そして、フレキシブルチューブ6の屈曲角度θを0度~30.0度まで変化させ、各位置で水平に押下するのに要した力を、抵抗強さ(N)として、フレキシブルチューブの上端からP1までの距離引くLXの長さを実効長さとして曲げモーメント抵抗値を算出した。
【0028】
また、実施例2のフレキシブルチューブ6の上端から1000mmの位置P2(フレキシブルチューブ6の下側に相当)にテンションゲージを押し当て、水平に押下したときの力と変形状態を観察した。そして、フレキシブルチューブ6の屈曲角度θを0度~30.0度まで変化させた時に、各位置で水平に押下するのに要した力を、抵抗強さ(N)として(L3-LX)を実効長さとしてモーメント抵抗値を算出した。なお、値L3はフレキシブルチューブ6の上端から位置P2までの長さである。
この実験によって得た測定結果を表1に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
表1に示すように、実施例1では、屈曲角度θが0度~30.0度の範囲で、曲げモーメント抵抗値が1.6Nm~12.9Nmの範囲であった。但し、屈曲角度θが0度付近では、曲げモーメント抵抗値を直接測定することが難しく誤差が大きいものと考えられる。このため、屈曲角度θが0度付近の曲げモーメント抵抗値については後述の方法で求めた。
【0031】
表1に示すように、実施例2では、屈曲角度θが0度~30.0度の範囲で、曲げモーメント抵抗値が2.2Nm~23.4Nmの範囲であり、誤差が大きいと判断する屈曲角度θ=0度付近を除くと、屈曲角度θが5度~30.0度の範囲で、曲げモーメント抵抗値が4.7Nm~23.4Nmの範囲であった。
【0032】
表1に示すように、曲げモーメント抵抗値は屈曲角度θが大きいほど大きく、吊り下げ加重(フレキシブルチューブ6の重量+灯具2の重量)が大きいほど大きくなる傾向であった。
ここで、灯具2が重いほど、灯具2の揺れを抑え難くなる。発明者等が検討したところ、実施例1、2のフレキシブルチューブ6を用いることで、灯具2の重量が4.0kg以下であれば、上記振幅LYを許容範囲内に抑えることができた。
【0033】
図4及び図5は、屈曲角度θと曲げモーメント抵抗値の関係を示した図である。図4は、屈曲角度θが5度~15度の範囲で各実施例1、2の実験結果をプロットし、図5は屈曲角度θが5~30度の範囲で各実施例1、2の実験結果をプロットしている。
図4及び図5中、特性曲線f1は実施例1の近似特性を示し、特性曲線f2は実施例2の近似特性を示している。また、図5には、参考例1の特性曲線f3、及び参考例2の特性曲線f4についても示した。参考例1は、フレキシブルチューブ6を使用しない点を除いて、実施例1と振り子の条件を揃えた単純振り子についての計算結果を示している。また、参考例2は、フレキシブルチューブ6を使用しない点を除いて、実施例2と振り子の条件を揃えた単純振り子の計算結果を示している。
図4及び図5に示すように、特性曲線f1、f2は、実験結果を直線近似したものであり、かつ、実験結果からの偏差も少ない。このことから、屈曲角度θと曲げモーメント抵抗値とは、一次関数で比例する関係にあるとみなすことができる。
【0034】
図4に示すように、この特性曲線f1を屈曲角度θ=0°まで延長することによって、実施例1の屈曲角度θが0度付近の曲げモーメント抵抗値、つまり、屈曲開始時の曲げモーメント抵抗値として、0.96Nmの値が得られた。
また、特性曲線f2についても屈曲角度θ=0°まで延長することによって、実施例2の屈曲角度θが0度付近の曲げモーメント抵抗値、つまり、屈曲開始時の曲げモーメント抵抗値として、0.96Nmの値が得られた。
【0035】
以上の検討により、実施例1は、フレキシブルチューブ6の屈曲開始時の曲げモーメント抵抗値が0.96Nmであり、かつ、屈曲角度θが5度~30.0度の範囲で、曲げモーメント抵抗値が3.2Nm~12.9Nmの範囲であることが判った。
また、実施例2は、フレキシブルチューブ6の屈曲開始時の曲げモーメント抵抗値が0.96であり、かつ、屈曲角度θが5度~30.0度の範囲で、曲げモーメント抵抗値が4.7Nm~23.4Nmの範囲であることが判った。
他の条件でも検討したが、外径が直径21.5mmのフレキシブルチューブ6については、屈曲開始時の曲げモーメント抵抗値が0.8Nm~1.2Nmの範囲が揺れを抑制するのに好適であることが判った。また、揺れを抑制するのに好適なフレキシブルチューブ6は、屈曲角度θが5度~30.0度の範囲で、曲げモーメント抵抗値が50.0Nm以下であった。
【0036】
振り子が、屈曲角度θと一致する曲げ角度θだけ振られた(直下位置から曲げられた)時に生じる力の式F=-mg・sinθを使って曲げモーメント抵抗値を計算した結果を参考例1、2として、表1に追加した。上式において、質量mの部分に灯具2及びフレキシブルチューブ6の重量を適用したところ、図5に示すように曲げ角度θが0度の時に曲げモーメント抵抗値がゼロとなり、上記特性曲線f1、f2にほぼ平行な直線が得られた。この計算値は実際にはサイン曲線だが、0~30度の範囲ではほぼ直線となっている。なお、gは重力加速度である。
【0037】
このような単純振り子モデルには、当然振れを抑制する要素が無い。即ちフレキシブルチューブ6を用いて灯具2を吊り下げた時に振幅を抑制できたのは曲げ角度θが0度の時の曲げモーメント抵抗値が0.8Nm以上あるからだと言える。
灯具2をチェーンなど、曲げ角度θが0度の時の曲げモーメント抵抗値がほぼゼロの吊り部材で吊り下げた場合には、曲げモーメント抵抗値が上記の単純振り子と同様になり、振幅抑制効果はない。
従って、曲げ角度θが0度の時の曲げモーメント抵抗値が0.8Nm以上である吊り部材を使用すれば、地震の際の振幅を抑制することができる。さらに地震が収まった後の灯具2の揺れを速やかに停止させることができる。
【0038】
また、灯具2を含めた吊り部分の重量が重くなるほど曲げモーメント抵抗値が大きくなる。これは灯具2を曲げ角度θ=0度に戻す力として働く。実施例1、2の灯具単体重量は3.0kgであり、振れ抑制に十分な効果があった。しかし、使用する灯具2に重りを加えて4.0kg、5.0kgにすると、曲げ角度θ=0度に戻った時の慣性力が大きくなるため、振れが止まりにくくなる。曲げ角度θが0度の時の曲げモーメント抵抗値が0.8Nm以上である吊り部材を使用した場合、灯具重量4.0kgで合格範囲ギリギリの振幅となり、5.0kgでは合格範囲の振幅500mmを超えるものがあった。
【0039】
条件を変えて実施した測定結果を総合すると、灯具無しの状態で、長さ1.0mの時に測定した曲げ角度θ=0度の時の曲げモーメント抵抗値が0.8Nm以上の吊り部材を使用すれば、総重量が曲げ角度θ=0度の時の曲げモーメント抵抗値の6倍までの灯具21の振幅を合格範囲内に抑制することができる。なお、総重量とは灯具単体と吊り部材と接続部材などを含めた、揺れる部分すべての重量を合計したものである。
【0040】
屈曲開始時以外の曲げモーメント抵抗値についても、実施例1、2の上限値である23.4Nmを超えてもよいが、吊り具4と天井固定金具3との接続部に変形を招かない程度の範囲に抑えることが必要となる。
発明者等の検討では、灯具2を取り付けた状態で、かつ、屈曲角度θ=30度で曲げモーメント抵抗値を200Nm以下に抑えることで、吊り具4と天井固定金具3との接続部の変形を回避できることを確認している。
なお、実施例1、2においては、天井固定金具3をステンレス鋼製で板厚2.0mmの板金を折り曲げて構成している。例えば板厚を2.3mmに変更するなど、天井固定金具3の剛性を高める設計を行えば、200Nm以上の曲げモーメント抵抗値をかけても天井固定金具3が変形しないようにすることは可能である。しかし、いたずらに天井固定金具3の板厚を大きくすると照明器具全体の重量が増えて商品価値が低下する。また、天井固定金具3が変形しなくても、フレキシブルチューブ上端部の天井側固定部7が変形・破損してしまうことがある。逆に実施例1、2に用いたフレキシブルチューブ6のように、曲げ角度30度の時の曲げモーメント抵抗値が30Nm以下に収まる場合、実施例1、2において使用した天井固定金具3をさらに薄い板金(例えば板厚1.6mm)で構成することも可能である。
【0041】
続いて、吊り具4の長さについて検討する。フレキシブルチューブ6を含む吊り具4と灯具2とで構成される振り子の長さを値L(m)とした場合、振り子の周期T(s)は、T=2π(g/L)1/2となることが知られている。ここで、πは円周率、長さLは、所定位置X1から重心位置までの長さに相当する。
表2に長さLを変更した場合の照明器具1の周期Tの一例を示す。
【0042】
【表2】
【0043】
実際の地震動の多くは周期が1.0秒以下の「短周期地震動」だが、周期が1.0秒から2.0秒程度の「やや長周期地震動」もある。この周期が1.0秒から2.0秒程度の地震動が建物の倒壊に影響を及ぼすと言われている。照明器具においても灯具2の揺れを抑えるには、照明器具を振り子モデルで考えた時の周期Tと地震の周期とが一致しないようにすることも望まれる。すなわち振り子の周期Tが地震の周期とならないように長さLを設定することが望ましい。表2からわかるように、長さLが1.0m以下の照明器具では固有振動の周期が2.0秒以下となり、地震動と共振してしまう場合もある。しかし実施例1、2の照明器具1に実際の地震動を模した振動を与えて揺れを観察した実験を行った結果、本発明の構成を満たす照明器具1では灯具2の揺れ幅が限界値である揺れ半径500mmを超えることは無かった。このように本発明の構成を使用した照明器具1であれば、長さLを1.0m以下として、地震に対して共振してしまう場合でも、十分な揺れ抑制効果を発揮できる。
また長さLを1.2m以上にすることによって振動周期は2.2秒以上となり、上記した地震の周期からずれた周期Tに設定可能である。
【0044】
また、長さLを1.2m以上にした場合、フレキシブルチューブ6が二倍振動(二次振動とも称する)、又は三倍振動(三次振動とも称する)で共振する状態が観察され、灯具2の揺れの最大振幅LYを抑えるのに有効である。もちろん本発明の構成を採用すれば、長さLが十分に長い吊り下げ照明器具1においてもさらに灯具2の揺れを抑制することができる。
【0045】
以上説明したように、照明器具1の吊り具4に、多層構造であり、屈曲時に層間摩擦により振動を抑えるような曲げモーメント抵抗力が生じるフレキシブルチューブ6を使用することにより、斜め方向に延びる振れ止めワイヤーを設けずに、灯具2の揺れを抑制でき、いわゆる免震機能を有する照明器具1を実現できる。
より好ましくは、フレキシブルチューブ6の屈曲開始時の曲げモーメント抵抗値を0.8Nm以上の範囲にすることで、振動を効果的に抑えることができる。また、フレキシブルチューブ6を使用するので、曲げモーメント抵抗力を発生させるための特殊な構造が不要である。
【0046】
また、フレキシブルチューブ6によって、屈曲角度θが30度以内の範囲で、屈曲角度が増加するに従って曲げモーメント抵抗値が直線的に増加する特性を得るので、かかる特性を得るための特殊な構造が不要である。
また、屈曲角度が5度~30度の範囲で、曲げモーメント抵抗値が3.2Nm~50.0Nmの範囲のフレキシブルチューブ6を使用することにより、上記実施例1、2と同様の曲げモーメント抵抗値の特性が得られる。
【0047】
また、灯具2を取り付けた状態で、フレキシブルチューブ6を30度屈曲させた時の最大曲げモーメント抵抗値を200Nm以下にすることで、吊り具4と天井固定金具3との接続部の変形を回避できる。
また、フレキシブルチューブ6を含む吊り具4と灯具2とで構成される振り子の周期Tを、地震の周期と一致しないようにすることによっても、灯具2の揺れを抑制可能である。
【0048】
フレキシブルチューブ6とケーブル電線について、層間摩擦が生じる構造を詳しく説明する。図6はフレキシブルチューブ6の断面構造を示すものである。チューブ6の中心は空洞であり、内側チューブ6Aと外側チューブ6Bとが同心で重ねあわされている。両者は接着されていないが適当な押圧力で重ねられている。このフレキシブルチューブ6を曲げると内側チューブ6Aと外側チューブ6Bとがわずかにずれるので、この時に層間摩擦抵抗が生じる。層間摩擦抵抗の値は図5のグラフからも分かるように0~30度の範囲でほぼ一定であり、ショックアブソーバーにおけるダンパーと同様の効果をもたらす。
【0049】
図7は上述の実施例1、2において、フレキシブルチューブ6の代わりに実験に用いた150mmの耐熱電線ケーブル16の断面構造を示すものである。中心部には細い銅線をよって150mmの太さにした導電部16Aがあり、その周囲を塩化ビニルやポリエチレンなどの弾性樹脂ケーブル16Bで被覆している。この耐熱電線ケーブル16を曲げると、銅線同士の間にずれが生じて摩擦抵抗が生じ、同時に銅線外周部と弾性樹脂ケーブルとの間にもずれが生じて層間摩擦抵抗が生じ、総合的に0度の時の曲げモーメント抵抗値が0.8Nm以上となり、振幅抑制効果をもたらす。
【0050】
つまり、フレキシブルチューブ6に代えて、図7に示す耐熱電線ケーブル16を用いても、フレキシブルチューブ6と同様の効果を得ることができる。ただし、耐熱電線ケーブル16を使用する場合、実験に使用した150mmの耐熱電線ケーブル16は給電には不適当な仕様であり、フレキシブルチューブ6のように内部に給電線を通すことができず、耐熱電線ケーブル16に沿って別に給電線を配置する必要があった。
【0051】
実施例3は実施例1のフレキシブルチューブ6の部分を耐熱電線ケーブル16(以下、適宜に電線ケーブル16と表記する)に変えたものでその他の条件は同じである。
実施例1と同じ条件で、0度~30度の範囲で5度ごとに曲げモーメント抵抗値を測定し、その結果を表3及び図8に示した。なお、図8中、特性曲線f5は近似特性を示している。
【0052】
【表3】
【0053】
実施例1の場合には、図5のように直線近似できる関係になったのに対し、実施例3では二次曲線近似の関係になった。これは、曲げ角度が大きくなるに従って振り子の復元力が増大すると共に、電線ケーブル16自体の曲がり方が大きくなっており、外殻部の弾性樹脂が電線ケーブル16を直線に戻そうとする力が加算されているためと考えられる。
電線ケーブル16の場合、実施例1と同様に屈曲角度θが5度~15度の範囲で曲げモーメント抵抗値との関係をプロットして直線近似するのは不適当である。そのため実施例1、2と同程度に灯具等の自重の影響が少なく且つ電線ケーブル16の曲がりもほとんど無い範囲として、2度~10度の範囲で2度ごとに曲げモーメント抵抗値を測定した。結果を表4及び図9に示す。この測定値を直線近似すると、決定係数(相関係数の二乗)が0.99を超えた。この特性曲線を屈曲角度θ=0°まで延長することによって、屈曲開始時の曲げモーメント抵抗値として、0.89Nmの値が得られた。
【0054】
【表4】
【0055】
また、多芯ケーブルを用いても振幅抑制効果を得ることができる。
多芯ケーブルでは例えば10本の導電線(銅線)を個々に絶縁被覆する塩化ビニルやポリエチレンなどの弾性樹脂ケーブル10本をまとめて外側の弾性樹脂ケーブルが被覆している。この多芯ケーブルを曲げると、銅線と内側ケーブルとの間にずれが生じ、同時に内側ケーブルと外側ケーブルとの間にずれが生じて層間摩擦抵抗が生じ、総合的に0度の時の曲げモーメント抵抗値が0.8Nm以上となり、振幅抑制効果をもたらす。
多芯ケーブルを使用する場合、多芯ケーブル内のいずれかの導電線を、灯具2に電力を供給する給電線に使用してもよい。
なお、灯具2への給電線として使用するなら、断面積2mmの電線3本をまとめたケーブル電線で十分であり、従来の照明器具にはこのようなケーブル電線が使用されているが、この仕様のケーブル電線では曲げ角度0度の時の曲げモーメント抵抗値が0.8Nmよりはるかに小さいため、揺れを抑制する効果は無い。
【0056】
このようにして本実施の形態では、免震機能を有し、かつ、フレキシブルチューブ6が屈曲したまま設置されても灯具2を鉛直下方に向けることが可能な照明器具1を提供することができる。
上述した実施形態は、あくまでも本発明の一態様の例示であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において任意に変形、及び応用が可能である。例えば、天井固定金具3を利用せずに吊り具4を天井11に直付けしてもよいし、吊り具4の構成部品も上記態様に限定されない。
また、上述した実施形態では、吊り具4の上下端を構成する天井側固定部7と灯具側固定部8との間を、フレキシブルチューブ6にする場合を説明したが、吊り具4の上下端の間の一部をフレキシブルチューブ6にし、残りの部分は金属パイプ等の屈曲性を有しない公知のパイプ材としてもよい。
【0057】
また、上述した実施形態では、フレキシブルチューブ6、耐熱電線ケーブル16又は多芯ケーブルを利用する場合を説明したが、これに限定されず、振動を抑える曲げモーメント抵抗力が生じる他のフレキシブル部材を利用してもよい。
【0058】
また、上述した実施形態では、吊り具4の上下端を構成する天井側固定部7と灯具側固定部8との間を、フレキシブルチューブ6にする場合を説明したが、吊り具4の上端から少なくとも100mm程度をフレキシブルチューブ6にし、残りの部分は金属パイプ等の屈曲性を有しない公知のパイプ材としてもよい。
さらに、図1に示す照明器具1に本発明を適用する場合を例示したが、これに限らず、吊下形の灯具を備える任意の照明器具に本発明を適用してもよい。
【0059】
また、上述した実施形態では、吊り具4を上記仕様にすることによって免震機能を実現する場合を説明したが、本発明は吊り具4が免震機能を有する構成に限定されない。この場合、上記球面継手12によってフレキシブルチューブ6が屈曲したまま設置されても灯具2を鉛直下方に向けることが可能になる、という効果を利用して、免震機能を有しない灯具であっても、静止時の曲げモーメント抵抗値がゼロではない(形状保持力を有する)吊り具を使用する灯具の設置作業を容易にすることができる。
【符号の説明】
【0060】
1 照明器具
2 灯具
3 天井固定金具
4 吊り具
6 フレキシブルチューブ(フレキシブル部材)
6A 内側チューブ
6B 外側チューブ
7 天井側固定部
8 灯具側固定部
11 天井
12 球面継手
13 ボール部
14 ハウジング部
16 耐熱電線ケーブル(フレキシブル部材)
16A 導電部
16B 弾性樹脂ケーブル
LC 吊り具が静止状態の場合の中心軸
θ 屈曲角度
L1 照明器具全長
L2 フレキシブルチューブのフレキシブル部分長さ
LY 振幅
f1、f2 特性曲線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9