(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-23
(45)【発行日】2023-01-31
(54)【発明の名称】タンパク質の構造型の検出
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20230124BHJP
【FI】
G01N33/53 D
(21)【出願番号】P 2018540207
(86)(22)【出願日】2016-04-01
(86)【国際出願番号】 EP2016057239
(87)【国際公開番号】W WO2017067672
(87)【国際公開日】2017-04-27
【審査請求日】2019-03-25
(32)【優先日】2015-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】521416502
【氏名又は名称】ファーマキュア リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】スタンリー クリストファー
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-530597(JP,A)
【文献】特表2013-511734(JP,A)
【文献】特表2013-510297(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全血サンプル中のタンパク質の構造型を検出および/または分析する方法であって、
i.全血サンプルをビーズの表面に接触させて、該タンパク質の構造型のいくつかまたはすべてを該表面に結合することと、
ii.結合相互作用を逆転させる条件を用いて該タンパク質の構造型の少なくとも一部を該表面から溶出することと、
iii.該タンパク質の構造型の1以上を検出することと、を包含する
方法。
【請求項2】
さらに、iv.溶出液中の該タンパク質の異なる構造型の含有量を分析することを含み、
該ステップiv)で分析した構造型は、全タンパク質、単量体型、オリゴマー型、多量体型および凝集体型を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該ステップii)において、該溶出
におけるpH
の条件は<4または>10である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
該溶出
におけるpH
の条件は1.5から4の間または10から14の間であるか;該溶出
におけるpH
の条件は2から4の間または11から13の間であるか;もしくは、該溶出
におけるpH
の条件は2.8または11.5である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
全血サンプル中のタンパク質の構造型を検出および/または分析する方法であって、
i.該全血サンプルを、タンパク質の構造型であって、単量体、オリゴマー、多量体および凝集体のいずれか2以上を包含する型に特異的結合可能な結合剤と接触させ、該結合剤と該タンパク質との錯体である結合剤―タンパク質錯体を形成することと、
ii.該結合剤―タンパク質錯体を、特異的結合したタンパク質型の少なくとも一部を溶出可能でありまたオリゴマー、多量体および凝集体型の少なくとも一部をインタクト(intact)で維持する条件にさらすことと、
iii.溶出液中の該タンパク質の単量体、オリゴマー、多量体および凝集体型のいずれか2以上を検出することと、を包含する方法。
【請求項6】
ステップi)が界面活性剤の使用を含む、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記界面活性剤がSDS及び/又はTWEEN(登録商標)である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
結合し次に溶出されたタンパク質はアルカリまたは酸の添加によって中和される、請求項5~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
溶出は20℃から40℃の間の温度で実現される、請求項5~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
該ステップiii)における該検出
のための方法は、固相ELISA、バイオセンサプラットフォーム、表面プラズモン共鳴、凝集タンパク質に対する結合特異性を持つ合成リガンドを含む免疫測定法および/または質量分析の使用を包含する、請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
検出されるタンパク質種は、ベータアミロイド、アルファシヌクレイン(ASN)、タウ、リン酸化タウ、プリオンタンパク質、ハンチンチンおよびSODのいずれか1以上を包含する、請求項1~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
神経変性疾患の有無を検出する、請求項1~11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
該神経変性疾患が、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、ハンチントン病、レヴィー小体認知症、多系統萎縮症、進行性核上麻痺、筋萎縮性側索硬化症(ALS)またはてんかんよりなる群のいずれか1以上である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
該結合剤は、タンパク質の構造型に結合可能な任意の適切なリガンドを包含する、請求項5に記載の方法。
【請求項15】
該リガンドは、抗体および/またはその抗原結合断片、アプタマー、レクチン、アフィボディまたは抗体の合成類似体のいずれか1以上を包含する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
請求項1~15のいずれかに記載の方法において用いるための部品キットであって、
i)タンパク質の構造型に特異的結合可能な結合剤と、
ii)特異的結合したタンパク質型の少なくとも一部を溶出可能であり、またオリゴマー、多量体およびより大きな凝集体型の少なくとも一部をインタクト(intact)で維持する溶出剤と、
iii)全タンパク質、単量体型、オリゴマー型、多量体型および凝集体型の内の2以上を検出する検出剤と、を備えたキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経疾患を診断するプロセスの一部として生体サンプル中のタンパク質の構造型を検出および分析する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
認知症またはパーキンソン病などの神経変性疾患の分野においては、これら疾患の早期発症および進展を検出することが特に必要である。現在、早期段階の主な認知症またはパーキンソン病を正しく診断および類別化するのは困難であり、そのため処方された処置は、たとえそれが正しい選択であっても、疾患の進行において始めるのが遅過ぎて、不良な結果となる場合が多い。
【0003】
用語認知症は、異なる原因および重複する症候を持つ大分類の神経変性障害を包含し、この内、アルツハイマー病がヒトの場合の62%を占める。各障害は、臨床医、家族および介護人による個別の管理および処置から恩恵を受けるが、正確な診断および分類は困難であり、通常は主観的観察に基づく。別の脳神経変性認知症としてはハンチントン病があり、一方、神経変性疾患の通常領域はまた全身型も含み得る。一例としては、上位および下位運動ニューロンの変性の結果である筋萎縮性側索硬化症(ALS)がある。
【0004】
早期段階での処置および介護を提供するためには、認知症およびパーキンソン病などの神経疾患を類別化する必要がある。誤診は患者に間違った疾患のための処置を行うことになり深刻な長期にわたる結果を招き得る。
【0005】
現在、臨床で症状が見つかる患者は、神経、認知および記憶にわたる諸試験を用いて評価される。パーキンソン病、認知症を伴うパーキンソン病、レヴィー小体認知症およびアルツハイマー病などの初期類似疾患を類別化するのは困難であり得る。
【0006】
アルツハイマー病またはパーキンソン病などの神経変性疾患の進行中に様々なタイプのタンパク質の凝集体が脳内に生じ、これらが疾患の発症に関与するかも知れないということが知られている。生体内画像化または死体解剖組織学などの技法によって脳内の凝集タンパク質よりなるプラーク、レヴィー小体またはタングルを検出することは、特定の神経疾患の存在の確認であると考えられている。早期段階のタンパク質凝集の検出により、不可逆的な神経障害が生じる前に疾患修正処置による介入が可能となると思われる。ベータアミロイド(Aベータともいう)およびタウなどの脳脊髄液(CSF)中の脳由来タンパク質の含有量が、関連する認知疾患の診断および類別化の助けとなり得る。例えば、CSFのAベータ含有量は、早期ADを通常の老化過程と区別する、および後にアルツハイマー病へと変化することになる軽度認知障害(MCI)を患う患者の予測を可能にする際の有望なバイオマーカーである(The Amyloid-Oligomer Count in Cerebrospinal Fluid is a Biomarker for Alzheimer‘s Disease.Wang-Dietricha,L,Journal of Alzheimer‘s Disease 34(2013)985-994,DOI10.3233/JAD-122047、これは本明細書において参考として援用される)。7年間の研究について報告している論文により、標準免疫測定法により測定した、CSF中のAベータ、全タウおよびリン酸化タウの各レベルは、アルツハイマー病の発病およびその重症度の両方を予測するために用いられ得ることが示された(Amyloid imaging and CSF biomarkers in predicting cognitive impairment up to 7.5 years later.Roeら、Neurology 2013;80;1784-1791、これは本明細書において参考として援用される)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
CSFサンプル採取は不便であり苦痛であることが多く容易に繰り返して行うことができないため、定期的な診断およびスクリーニングにとっては適切な手順ではない。バイオマーカータンパク質は血中に存在するが濃度ははるかに低いと報告されており、これらは臨床生化学実験室で現在利用可能な標準的な免疫測定器具による測定の限界ぎりぎりである。超高感度の免疫測定法を用いた高度な測定技法により、血中Aベータペプチドがアルツハイマー病の初期の進行および進展の信頼できる指標となるかも知れないことが示唆されている。血中の単量体Aベータの50%もが血液細胞と会合すると報告されており、従って、細胞分画は廃棄し血清またはプラズマのみを試験する典型的な免疫測定プロトコルによって測定されることはない(Reliable Measurements of the Beta-Amyloid Pool in Blood Could Help in the Early Diagnosis of AD.Pesini,P,International Journal of Alzheimer’s Disease、Volume 2012,Article ID 604141,doi:10.1155/2012/604141、これは本明細書において参考として援用される)。本明細書において参考として援用されるWO2011/070174は、同じデータを報告しており、タンパク質可溶化剤およびカオトロピック剤を用いて、細胞表面、または血液の細胞分画またはプラズマ中のタンパク質錯体からのすべての型のAベータを置換、破壊および可溶化することを記載している。可溶化剤は、好ましくは非イオン性またはイオン性界面活性剤であり、タンパク質溶解度を増大させ、非特異的会合を防ぎ、そしてタンパク質分子間の分子間および分子内凝集を排除することができると言われている。従って、WO2011/070174では、表明された目的は、界面活性剤および尿素などのカオトロピック剤を用いて、血液分画中のすべての型のタンパク質相互作用および凝集体を除去し、高感度の免疫測定法のみを用いて単量体型のAベータタンパク質のみを検出することである。表面増強レーザ脱離飛行時間型(SELDI-TOF)質量分析という高感度のアッセイ技法を用いた別の研究を用いて、一部のアルツハイマー病患者の血中には高濃度のAベータ二量体が存在し、二量体は血液細胞膜と会合するということが示され(Blood-Borne Amyloid-Dimer Correlates with Clinical Markers of Alzheimer’s Disease.Villemagne,Vら、The Journal of Neuroscience,May 5,2010,30(18):6315-6322、本文献は本明細書において参考として援用される)、これはまた本明細書において参考として援用されるUS2011/0263450にも記載されている。分析プロトコルは、血液サンプルを遠心分離機にかけて細胞分画を調製し、次にこれを-80℃で凍結させ、その後カオトロピック剤尿素を最終濃度4Mまで添加して、次に0.5%Triton X-100中に1:10で希釈して、最後に氷上で15分間超音波処理を行うことを伴う。この処置プロトコルは、いかなるAベータ部分をも含むいかなる潜在的タンパク質/タンパク質またはタンパク質/膜相互作用をも粉砕し、これらは次にガラススライド表面に固定された特定のAベータモノクローナル抗体を用いて捕捉されると報告された。表面上に捕捉したAベータ単量体および二量体の存在は次にSELDI-TOF質量分析手順により実証された。
【0008】
タンパク質凝集を伴う別の神経変性疾患(プリオン病)では、PrPscたんぱく質、ミスフォールドおよび凝集型のプリオンタンパク質はスクレイピー感染した動物の血中のB細胞と会合することが報告されている(PrPSc is associated with B cells in the blood of scrapie-infected sheep,Edwardsら(Virology 405(2010)110-119)、本文献は本明細書において参考として援用される)。
【0009】
WO2011057029およびWO2009134942は、組織サンプルからタンパク質凝集体を検出するプロセスを記載しており、ここでは好適な方法は、凝集体を先ず固定したペプチド試薬により捕捉し、次に0.4~1.0MのグアニジンHClまたはグアニジンSCNなどの塩を添加することによって凝集体を解離し、その後凝集体型に対する特異性を持たないELISAを用いて溶出物質を検出することである。タンパク質の単量体型のみを含有する溶出液をもたらす、pH<2.0またはpH>12もしくは3~6MのグアニジンHClを含む別のより過酷な解離および変性条件もまた記載されている。WO2009134942は、ph2.3の緩衝液がたんぱく質凝集体を単量体へと解離するであろうと述べている。WO2011057029およびWO2009134942では、記載の方法が第1段階でタンパク質のすべての構造型を捕捉するわけではない。
【0010】
神経疾患の指標として他のバイオマーカーもまた研究されている。オリゴマーを含む、αシヌクレインの様々な型のプラズマレベルが、パーキンソン病での診断ツールとして潜在的な価値を有すると示されている(A longitudinal study on α-synuclein in blood plasma as a biomarker for Parkinson‘s disease,Foulds Pら、Scientific Reports 3,Article number:2540 doi:10.1038/srep02540,本明細書において参考として援用される)。Tokudaらは、非認知症対象からの血清中のAベータのオリゴマーの存在について報告しているが、著者らは、自分らのアッセイ技法はまた血清担体タンパク質と会合した非病理学Aβ錯体をも検出しているかも知れないと示唆している(Correlation of Aβ oligomer levels in matched cerebrospinal fluid and serum samples,Tokudaら、Neurosci Lett.2013 Sep 13;551:17-22.doi:10.1016/j.neulet.2013.06.029.Epub2013 Jun 27)。従って、血液中に存在するすべての脳由来凝集バイオマーカータンパク質が完全に細胞会合型というわけではない。
【0011】
Fiandacaらは、全タウタンパク質、2つの型のリン酸化タウおよびAベータ1-42の存在に対するプラズマまたは血清中の神経由来エクソソームの分析について記載している。これらエクソソーム会合タンパク質の検出は、アルツハイマー病の診断で有用であるかも知れない(Identification of preclinical Alzheimer’s disease by a profile of pathogenic proteins in neurally derived blood exosomes:A case-control study(Fiandaca,Mら、Alzheimer’s & Dementia 2014 1-8)。
【0012】
神経変性疾患の発症に関与する他の凝集タンパク質としては、ハンチントン病のハンチンチンおよびALSのスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)がある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の1つの局面によれば、生体サンプル中のタンパク質の構造型を検出および/または分析する方法であって、
i.該タンパク質の構造型のいくつかまたはすべてを表面に結合することと、
ii.結合相互作用を逆転させる条件を用いて該タンパク質の構造型の少なくとも一部を該表面から溶出することと、
iii.該タンパク質の1以上の構造型を検出することと、及び任意で
iv.溶出液中の該タンパク質の異なる構造型の含有量を分析することと、を包含し、
ステップiv)で分析した構造型は全タンパク質、単量体型、オリゴマー型、多量体型および凝集体型を含む、方法が提供される。
【0014】
本発明の別の局面によれば、生体サンプル中のタンパク質の構造型を検出および/または分析する方法であって、
i)該サンプルを、該タンパク質の構造型であって、単量体、オリゴマー、多量体および凝集体のいずれかを含む型に結合可能な結合剤と接触させることと、
ii)該結合剤―タンパク質錯体を、該結合したタンパク質型の少なくとも一部を溶出可能な条件にさらすことと、
iii)溶出液中の該タンパク質の単量体、オリゴマー、多量体および凝集体型のいずれか2以上を検出することと、を包含する方法が提供される。
【0015】
適切には、溶出条件は、オリゴマー、多量体および凝集体型の少なくとも一部をインタクト(intact)で維持する条件である。
【0016】
適切には、溶出ステップは、結合したタンパク質型の2以上の少なくとも一部を溶出する。
【0017】
本発明の別の局面によれば、生体サンプル中のタンパク質の構造型を検出および/または分析する方法であって、
i)該サンプルを、該タンパク質の構造型であって、オリゴマー、多量体および凝集体のいずれかを含む型に結合可能な結合剤と接触させることと、
ii)該結合剤―タンパク質錯体を、該結合したタンパク質型の少なくとも一部を溶出可能な条件にさらすことと、
iii)溶出液中の該タンパク質のオリゴマー、多量体および凝集体型のいずれか1以上を検出することと、を包含する方法が提供される。
【0018】
本発明の別の局面によれば、生体サンプル中のタンパク質の構造型を検出および/または分析する方法であって、
i)該サンプルを、該タンパク質の構造型であって、オリゴマー、多量体および凝集体のいずれかを含む型に結合可能な結合剤と接触させることと、
ii)該結合剤―タンパク質錯体を、該結合したタンパク質型の少なくとも一部を溶出可能な条件にさらすことと、
iii)溶出液中の該タンパク質の単量体、オリゴマー、多量体および凝集体型のいずれか2以上を検出することと、を包含する方法が提供される。
【0019】
サンプル中の特定のタンパク質に存在するすべての構造型の全量、もしくは凝集体型の全量または個々に該タンパク質の単量体、オリゴマー、多量体および凝集体分画の量を、該方法によって個別にまたはまとめて測定することができ、また任意でこれら様々な型の含有量の比率を計算してもよい。本発明の方法は、タンパク質構造関連疾患の早期段階および続いての進行の指標を提供する。
【0020】
ある実施形態では、生体サンプルは血液サンプルを包含する。血液サンプルは全血、もしくは血清、プラズマまたは、赤血球分画および/または白血球分画および/または血小板を含む細胞分画などの血液分画であればよい。
【0021】
サンプル中では、タンパク質のオリゴマー型はサイズにおいて二量体から10~20個を含有する構造体までの範囲であればよく、タンパク質サブユニットの多量体会合体は20~100個を含有すればよく、一方凝集体は数百または数千のタンパク質分子を含み得るより大きな構造体として定義することができる。血中の単量体、オリゴマー、多量体および凝集体型は可溶であるか、またはエンドソーム、赤血球、白血球または血小板細胞膜と会合するとよい。オリゴマーおよび凝集体を形成するタンパク質は天然の通常にフォールドされた形態であるか、またはミスフォールドまたは構造異常であるためより凝集し易くなってもよい。従って、要約すれば、サンプル中に存在するタンパク質の型は、可溶性単量体、可溶性オリゴマー、可溶性多量体、可溶性凝集体、細胞会合型単量体、細胞会合型オリゴマー、細胞会合型多量体および細胞会合型凝集体を含み、ここでこれら種はまた、タンパク質の通常にフォールドされた型、ミスフォールドされた型またはその両方であってもよい。
【0022】
本発明の別の局面によれば、生体サンプル中のタンパク質の構造型を検出および/または分析する方法であって、
i)該サンプルを、該タンパク質の構造型であって、単量体、オリゴマー、多量体および凝集体のいずれか2以上を含む型に結合可能な結合剤と接触させることと、
ii)該結合剤―タンパク質錯体を、該結合したタンパク質型の少なくとも一部を溶出可能であり、またオリゴマー、多量体および凝集体型の少なくとも一部をインタクト(intact)で維持する条件であって、該溶出条件のpHは<4または>10である条件にさらすことと、
iii)該溶出液中の該タンパク質の単量体、オリゴマー、多量体または凝集体型のいずれか2以上を検出することと、を包含する方法が提供される。
【0023】
本発明の別の局面によれば、生体サンプル中のタンパク質の構造型を検出および/または分析する方法であって、
i)該サンプルを、該タンパク質の構造型であって、オリゴマー、多量体および凝集体のいずれか1以上を含む型に結合可能な結合剤と接触させることと、
ii)該結合剤―タンパク質錯体を、該結合したタンパク質型の少なくとも一部を溶出可能であり、またオリゴマー、多量体および凝集体型の少なくとも一部をインタクト(intact)で維持する条件であって、該溶出条件のpHは<4または>10である条件にさらすことと、
iii)溶出液中の該タンパク質のオリゴマー、多量体または凝集体型のいずれか1以上を検出することと、を包含する方法が提供される。
【0024】
結合剤は抗体であるとよい。結合剤は、例えば疎水性または帯電性表面への受動吸着、または表面上の反応性部分とアミンまたはチオールなどの結合剤上の適切な基との間の化学反応を介した共有結合のいずれかによって表面に固定するとよい。結合剤は、その抗体および/または抗原結合断片、アプタマー、レクチン、アフィボディまたは抗体の合成類似体のいずれか1以上を含んでもよい。
【0025】
適切には、該表面は、アガロースまたはデキストランなどの架橋ヒドロゲルから形成される多孔質ビーズの外表面および内部である。ビーズは20~150μmの直径を有してもよく、および/または1%~6%のアガロースを含んでもよく、および/または10,000ダルトン~150,000,000ダルトンのタンパク質分別範囲を有してもよい。該方法のステップi)で特定の捕捉剤を固定化させ得る適切な表面はビーズである。ビーズは1μm~200μmの間の直径を有するとよい。抗体またはリガンドなどの特定の捕捉剤は、ビーズの表面上および/またはビーズの構造の全体に結合されるとよい。ビーズは適切には一部がヒドロゲルから形成される。
【0026】
本発明者らは、大きくて高密度の免疫捕捉ビーズの使用が、全血からのタンパク質を結合するとき極めて有益であることを見出した。(高効率でタンパク質を確実に捕捉することが必要とされる)ビーズとの長時間の撹拌インキュベーション期間中、全血サンプルは凝固して粘性凝固溶液となることが観察されている。これは、凍結され解凍されそして抗凝固剤および界面活性剤溶液により処理された全血サンプルにおいても観察されている。実施例で報告するように、大きな捕捉ビーズはこの免疫捕捉ステップ後全血から依然として分離させることができるが、Dynalなどの供給業者からのはるかに小さい(<5μm)市販のビーズは、粘性凝固溶液からの回収は困難である。
【0027】
他の表面もまた該方法において使用してもよい。例えば、ポリスチレン製マイクロウェルの固体表面をタンパク質に特異的な抗体でコーティングしてもよい。膜などの大きな孔を持つ表面もまた使用してもよい。この場合は、全血の細胞成分は膜を通過し、タンパク質特異的固定化抗体に結合したタンパク質を残すことになる。
【0028】
本発明の方法においては、ステップi)のバイオマーカータンパク質の免疫親和性捕捉は、サンプル希釈および緩衝液組成を調節することによって最適化するとよい。結合条件としては、SDSおよび/またはTWEENなどの界面活性剤の使用を含むとよく、これは、本発明者らの考えでは、血液細胞の膜に結合させる場合に特にタンパク質の結合剤への接近性を増大させる。もしくは、Aベータペプチドに高親和性で結合すると知られ、よって結合剤への接近性を増大させる置換剤として作用することもあるレトロ-インベルソペプチドRI-OR2-TATなどの化合物を使用することができる(Parthsarathy Vら、A Novel Retro-Inverso Peptide Inhibitor Reduces Amyloid Deposition, Oxidation and Inflammation and Stimulates Neurogenesis in the APPswe/PS1ΔE9 Mouse Model of Alzheimer’s Disease,DOI:10.1371/journal.pone.0054769)。
【0029】
本発明者らは、これら可溶化剤および置換剤を添加しても、本明細書において参考として援用されるWO2011/070174の教示から予想されるようにタンパク質の凝集体型の全損という結果にはならないことを実証した。親和性結合ステップの利点は、大量の血液サンプル、すなわち>1ml、好ましくは>5mlまたは>10mlをステップ1)で処理することが可能であり、これにより、その後ステップ2)で少量、好ましくは50μl~200μlの範囲で溶出される場合、十分な濃度の問題のバイオマーカータンパク質をもたらすことである。
【0030】
驚くべきことに、ステップii)では、本発明者らは、<4または>10に調整したpHを有する溶出条件を用いることにより、オリゴマー、多量体および凝集体型の少なくとも一部を、これら型に特有の続いてのアッセイで決定されるようにインタクト(intact)で維持する一方で、結合したタンパク質を結合剤から溶出させることを見出した。
【0031】
ある実施形態では、溶出条件のpHは1.5から4の間であり、適切には2~4である。溶出条件はpH2.8であってもよい。ある実施形態では、溶出条件のpHは10から14の間であり、適切には11~13である。溶出条件はpH11.5であってもよい。
【0032】
適切には、ある割合のまたは実質的にすべての結合したタンパク質はステップii)で溶出される。溶出条件が低pHまたは高pHインキュベーションのいずれかを含む場合は、溶出液は必要に応じてアルカリまたは酸の添加によって中和されるとよい。使用される他の溶出条件としては、4Mの尿素、6Mの塩酸グアニジンまたは>1Mのヨウ化カリウムなどのカオトロピック塩の使用を含み得る。しかし、これらの条件は容易に逆転させることはできず、続いてのタンパク質凝集体検出ステップを妨げると予想される。もしくは、すべての場合で続いての分析ステップを妨げることが全くまたはほとんどないとすれば、SDSまたはCTABなどの高濃度(>5%w/v)のイオン性界面活性剤を用いるか、または有機溶媒、例えば、エタノール、ブタノールまたはイソプロパノールなどのアルコールを1~50%(v/v)で含有する緩衝液を使用してもよい。溶出はまた、低pHまたは高pH条件との組み合わせで高温、例えば40℃で実現してもよい。
【0033】
溶出条件を変更することによってタンパク質の異なる構造型を表面から回収してもよい。例えば、オリゴマー、多量体および凝集体からの単量体の分離を、選択的溶出条件を用いることによって、例えば、イオン強度を増大させることによって、使用するpH領域を改善することによって、または温度を変更することによって実現することができる。
【0034】
ステップiii)での溶出タンパク質型の検出および分析は、免疫測定法配置などの免疫学的技法を含んでもよく、ここでは使用される抗体は同じエピトープ特異性を有するかもしくは異なるエピトープにまたはタンパク質の凝集体型に特異的に結合するかのいずれかである。これら検出方法は固相ELISAの形態であっても、または表面プラズモン共鳴などの物理的測定原理を使用したバイオセンサプラットフォームに基づくものであってもよい。免疫方法はまた、単量体または凝集体タンパク質に対して結合特異性を持つ合成リガンドを含んでもよい。単量体または凝集体タンパク質に対しての他の検出方法としては、タンパク質単量体、オリゴマー、多量体および凝集体を検出および定量するよう設計されたMALDI-TOFおよびSELDI-TOF技法などの質量分光分析がある。検出および分析ステップの目的は、表面からの溶出後存在する全タンパク質、単量体、オリゴマー、多量体、または凝集体型の含有量を個別にまたは全体で決定することであり、従って上述のように、溶出ステップは、適切には、続いての検出のために少なくともある割合の凝集体型を保存する。検出ステップでは、免疫測定法は、上述のように溶出液中の様々な型のバイオマーカーのすべてに対して特異性を持ちすべての凝集体型を含む存在する全タンパク質の測定を提供するように構成されてもよく、または単量体、オリゴマー、多量体、または凝集体型などの異なる型のうち2以上に対する選択性を有するように構成されてもよい。本明細書において参考として援用されるUS7659076は、選択的条件下でタンパク質の凝集体型を結合する免疫測定法における高分子リガンドの使用を記載しており、本方法の検出ステップに用いてもよい。
【0035】
検出されたタンパク質は、ベータアミロイド、アルファシヌクレイン(ASN)、タウ、リン酸化タウ、プリオンタンパク質、ハンチンチン、アミリンおよびスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)を含むとよい。
【0036】
本発明は、神経変性疾患、または上述のようにタンパク質のオリゴマー化および凝集化を引き起こす疾患であって、前記タンパク質の様々な型が血液または別のサンプルタイプ中に存在する疾患、の有無を検出するために用いられるとよい。
【0037】
適切には、本発明の方法は、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、ハンチントン病、レヴィー小体認知症、多系統萎縮症(MSA)、進行性核上麻痺、筋萎縮性側索硬化症(ALS)またはてんかんを含む群のいずれか1以上の神経変性疾患の有無を検出するために用いられるとよい。
【0038】
従って、本発明のさらなる局面では、神経疾患の診断を支援する方法であって、
i)血液サンプル中のAベータ、アルファシヌクレイン(ASN)、タウまたはリン酸化タウのうち3以上の含有量を決定することと、
ii)高いベータアミロイド、低いASNおよび高いタウまたはリン酸化タウを有するサンプルをアルツハイマー病の指標として定義することと、
iii)低いベータアミロイド、高いASNおよび低いタウまたはリン酸化タウを有するサンプルをパーキンソン病の指標として定義することと、
iv)高いベータアミロイド、高いASNおよび高いタウまたはリン酸化タウを有するサンプルをレヴィー小体認知症の指標として定義することと、を包含する方法が提供される。
【0039】
本発明のこのさらなる局面を簡略化すると、神経疾患の診断を支援する方法であって、
i)血液サンプル中のAベータまたはアルファシヌクレイン(ASN)の含有量を決定することと、
ii)高いベータアミロイドおよび低いASNを有するサンプルをアルツハイマー病の指標として定義することと、
iii)低いベータアミロイドおよび高いASNを有するサンプルをパーキンソン病の指標として定義することと、
iv)高いベータアミロイドおよび高いASNを有するサンプルをレヴィー小体認知症の指標として定義することと、を包含する方法が提供される。
【0040】
該方法において、「高い」は、年齢適合対照に対する血中の正常基準含有量より有意に上であるレベルを示し、「低い」は、年齢適合対照と同じレベルを意味する。「有意に」は、正常基準含有量より有意に上であるレベルとして定義され、これは好ましくは正常基準含有量の平均における標準偏差の2.5倍である。
【0041】
用語「抗体」は、免疫グロブリンまたはその断片のことを言い、抗原結合断片または抗原結合ドメインを備えたいかなるポリペプチドも包含する。本用語は、ポリクローナル、モノクローナル、単一特異的、多特異的、非特異的、ヒト化、ヒト、一本鎖、キメラ、合成、組み換え、ハイブリッド、突然変異、移植、およびインビトロ生成抗体を含むがこれらに限定されない。語「インタクト(intact)」が先行しない場合は、用語「抗体」は、Fab、F(ab’)2、Fv、scFv、Fd、dAbなどの抗体断片、および抗原結合機能を保持する他の抗体断片を含む。典型的には、このような断片は抗原結合ドメインを備え得る。
【0042】
用語「抗原結合ドメイン」および「抗原結合断片」は、抗体と抗原との間の特異的な結合を担うアミノ酸を備えた抗体分子の一部のことを言う。抗体によって認識され結合される抗原の部分は「エピトープ」と呼ばれる。抗原結合ドメインは抗体軽鎖可変領域(VL)および/または抗体重鎖可変領域(VH)を備えてもよい。例えばFd断片は2つのVH領域を有し、インタクト(intact)の抗原結合ドメインのある抗原結合機能を保持することが多い。抗体の抗原結合断片の例としては、Fab断片、VL、VH、CLおよびCH1ドメインを有する一価断片;F(ab’)2断片、ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって結合される2つのFab断片を有する二価断片;2つのVHおよびCH1ドメインを有するFd断片;抗体の単一アームのVLおよびVHドメインを有するFv断片;VHドメインを有するdAb断片(Wardら(1989)Nature 341:544-546);分離した相補性決定領域(CDR)、および単一鎖Fv(scFv)がある。Fv断片の2つのドメイン、VLおよびVHは別々の遺伝子によってコードされるが、これらは組み換え方法を用いて、これらをVLおよびVH領域が対となって一価の分子を形成する単一タンパク質鎖として作成することができる合成リンカーによって結合させることができる(単一鎖Fv(scFv)として知られる;例えば、Hustonら(1988)Proc.Natl.Acad.ScL USA85:5879-5883を参照)。これら抗体断片は、当業者には既知の従来の技法を用いて得られ、断片はインタクト(intact)の抗体と同じ方法で機能が評価される。
【0043】
用語「分離」は、その自然環境から実質的に自由である分子のことを言う。例えば、分離タンパク質は細胞物質または由来する細胞または組織源からの他のタンパク質から実質的に自由である。本用語はまた、分離タンパク質が医薬組成物にとって十分に純粋である;または少なくとも70~80%(w/w)の純度;または少なくとも80~90%(w/w)の純度;または少なくとも90~95%の純度;または少なくとも95%、96%、97%、98%、99%、または100%(w/w)の純度、である製剤のことを言う。
【0044】
用語「特異的結合」または「特異的に結合する」は、2つの分子が生理学的条件下で比較的安定である錯体を形成することを言う。特異的結合は、通常は低い親和性および中から高程度の能力を有する非特異的結合とは区別される高い親和性および低から中程度の能力によって特徴付けられる。典型的には、結合定数KAが10<6>M<‘1>より高いとき結合は特異的であると考えられる。必要であれば、非特異的結合は、結合条件を変更することによって特異的結合に実質的に影響を与えることなく減少させることができる。抗体の濃度、溶液のイオン強度、温度、結合に見込まれる時間、遮断薬(例えば、血清、アルブミン、ミルクカゼイン)の濃度などの適切な結合条件は、通常の技法を用いて当業者によって最適化するとよい。
【0045】
抗体またはそれらの抗原結合断片を得るには当業者には既知の多くの方法が利用可能である。例えば、抗体は組み換えDNA法(米国特許第4,816,567号)を用いて産生することができる。モノクローナル抗体はまた、既知の方法に従ってハイブリドーマの生成(例えば、KohlerおよびMilstein(1975)Nature,256:495-499参照)によって産生してもよい。この方法で形成されるハイブリドーマを次に、酵素結合免疫吸着法(ELISA)および表面プラズモン共鳴(BIACORE(TM))分析などの標準的な方法を用いてスクリーニングして、特定抗原と特異的に結合する抗体を産生する1以上のハイブリドーマを同定する。いかなる型の特定抗原、例えば、組み換え抗原、自然発生の型、その変異体または断片、およびその抗原ペプチドを免疫原として用いてもよい。
【0046】
抗体を作成する1つの方法としては、タンパク質発現ライブラリ、例えば、ファージまたはリボソーム提示ライブラリをスクリーニングすることを含む。ファージ提示法は、例えば、Ladnerら、米国特許第5,223,409号;Smith(1985)Science 228:1315-1317;Clacksonら(1991)Nature,352:624-628;Marksら(1991)J.Mol.Biol.222:581-597に記載されている。
【0047】
ヒト化抗体またはそれらの断片は、抗原結合に直接関与しないFv可変ドメインの配列をヒトFv可変ドメインからの等価の配列に置き換えることによって生成することができる。ヒト化抗体またはそれらの断片を生成する方法の例は、Morrison(1985)Science 229:1202-1207;Oiら(1986)BioTechniques 4:214;およびUS5,585,089;US5,693,761;US5,693,762;US5,859,205号;およびUS6,407,213によって提供される。これらの方法は、重鎖または軽鎖の少なくとも一方からの免疫グロブリンFv可変ドメインのすべてまたは一部をコードする核酸配列を分離、操作、および発現することを含む。このような核酸は、上述のように、所定のターゲットに対する抗体を産生するハイブリドーマから、および他の源から得るとよい。次にヒト化抗体分子をコードする組み換えDNAを適切な発現ベクターへとクローニングすることができる。
【0048】
追加の抗体産生技法については、Antibodies:A Laboratory Manual,Harlowら編、Cold Spring Harbor Laboratory,1988を参照。本発明は、抗体の特定の源、産生方法、または特別な特性に必ずしも限定されない。
【0049】
免疫グロブリンとしても知られる抗体は、各々約25kDaの2本の軽(L)鎖および各々約50kDaの2本の重(H)鎖よりなる典型的には四量体の糖化タンパク質である。抗体にはラムダおよびカッパと呼ばれる2つのタイプの軽鎖が見出されることもある。重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に依存して、免疫グロブリンは5つの主要なクラス、A、D、E、G、およびMに割り当てることができ、これらのいくつかはさらにサブクラス(イソタイプ)、例えば、IgGi、IgG2、IgG[ベータ]、IgG-i、IgAi、およびIgA2へと分割されてもよい。各軽鎖は、N-末端可変(V)ドメイン(VL)および定常(C)ドメイン(CL)を含む。各重鎖は、N-末端Vドメイン(VH)、3または4個のCドメイン(CH)、およびヒンジ領域を含む。VHに最も近接するCHドメインをCH1と呼ぶ。VHおよびVLドメインはフレームワーク領域と呼ばれる比較的保存されている配列の4つの領域(FR1、FR2、FR3、およびFR4)よりなり、これらは超可変配列の3つの領域(相補性決定領域、CDR)のための足場を形成する。CDRは、抗体の抗原との特異的相互作用を担う残基のほとんどを含む。CDRはCDR1、CDR2、およびCDR3と呼ばれる。従って、重鎖上のCDR成分はH1、H2、およびH3と呼ばれ、一方、軽鎖上のCDR成分はL1、L2、およびL3と呼ばれる。
【0050】
CDR3は典型的には、抗体結合部位内の分子多様性の最大の源である。抗体構造の再検討については、Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,Harlowら編、1988を参照。
【0051】
Fab断片(抗原結合断片)は、定常領域間のジスルフィド結合によって共有結合したVH-CRIおよびVL-CLドメインよりなる。Fv断片はより小さく、非共有結合のVHおよびVLドメインよりなる。非共有結合ドメインが解離する傾向を克服するために、一本鎖Fv断片(scFv)を構築することができる。scFvは、(1)VHのC末端をVLのN末端に、または(2)VLのC末端をVHのN末端に結合する柔軟なポリペプチドを含有する。15-mer(Gly4Ser)3ペプチドをリンカーとして用いてもよいが、他のリンカーが当該分野では既知である。
【0052】
当業者には既知のVHH分子(またはナノボディ)は、本明細書において参考として援用されるWO9404678に記載のようにラクダ科由来のものなどの、本来は軽鎖のない免疫グロブリン由来の重鎖可変ドメインである。このようなVHH分子はラクダ科、例えば、ラクダ、ラマ、ヒトコブラクダ、アルパカおよびグアナコで育つ抗体由来であり得、ラクダ科(camelid)またはラクダ化(camelized)可変ドメインと呼ばれることがある。例えば、本明細書において参考として援用されるMuyldermans,J.Biotechnology(2001)74(4):277-302参照。ラクダ科以外の他の種が、本来は軽鎖のない重鎖抗体を産生することもある。VHH分子はIgG分子より約10倍小さい。これらは単一ポリペプチドで非常に安定しており、極端なpHおよび温度条件に耐える。その上、従来の抗体の場合と異なり、これらはプロテアーゼの作用に耐える。さらに、VHHのインビトロ発現は高収率で適切にフォールドされた機能的なVHHを産生する。加えて、ラクダ科で生成される抗体は、抗体ライブラリを用いてまたはラクダ科以外の哺乳類の免疫付与を介してインビトロで生成される抗体によって認識されるもの以外のエピトープを認識することになる(本明細書において参考として援用されるWO9749805参照)。
【0053】
タンパク質の型が検出されると、少なくとも1つの治療用化合物の投与を含み得る対象のための適切な処置プランを行うとよい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
本発明を以下の実施例および図面を参照して、実施例のみに基づいて説明する。
【
図2】
図2は実施例2の捕捉、溶出および検出実験からの結果を示す。
【
図3】
図3aは、ADと診断された患者からの血液サンプル、配偶者(年齢適合)およびさらなる範囲の異なる認知症(MCI-軽度認知障害、PD-パーキンソン病、FTD-前頭側頭型認知症、DLB-レヴィー小体認知症、PSP-進行性核上麻痺)からの対照血液サンプルの新鮮血セットによる実施例4の結果を示す。
図3bは、散布図として提示された3aと同じデータを示す。
図3cは、AD結果対年齢適合配偶者対照に対するROC曲線を示し、本データは表2に要約している。
【
図4】
図4は、実施例4の方法により実行された凝集Aベータアッセイの結果を示す。
【
図5】
図5は、より若い対象からの全血中の凝集Aベータに対するアッセイの結果を示す。
【
図6】
図6は、全血中の全Aベータおよび凝集分画に対するアッセイの結果を示す。
【発明の詳細な説明】
【0055】
【実施例】
【0056】
実施例1 全血へとスパイクされたAベータの免疫捕捉を最大限にするタンパク質可溶化および破壊試薬の調査
【0057】
Protein A(GE Healthcare、磁気Sepharose、直径50μm~100μm)により誘導体化されたビーズを、マウスモノクローナル抗Aベータ抗体(4G8)にて、PBS中40μg/mlの4G8溶液により室温(r.t.)で30分間穏やかに撹拌してインキュベートすることによってコーティングした。ビーズを1%スキムミルク溶液で1時間ブロックした。正常対照からのプール全血を、ビオチンで標識した合成Aベータ1-42ペプチドにて50pg/mlでスパイクした。この溶液はある割合のペプチド凝集体を含有することがあらかじめ示されていた。
【0058】
100μl容量の血液および抗体コーティングしたビーズを4℃で一夜混合し、次に0.2%のTween20を含有するpH7.5のPBS緩衝液により3x洗浄した。次に、100μlのストレプトアビジン-ユウロピウム共役(Pierce)を添加し、60分間インキュベートし、ビーズをPBS Tween中で洗浄し、標準的な解離溶液を用いてユウロピウムを置換し、そして時間分解蛍光光度計にて上清中の蛍光信号を読み取ることによって、免疫捕捉Aベータを直接ビーズ上で検出した。免疫捕捉ステップ中、表1のリストに従って様々なタンパク質可溶化および破壊試薬を血液に添加した。
【表1】
【0059】
図1は蛍光測定を示す。これらのデータは、全血マトリックスはスパイクされたAベータペプチド(サンプルA)の免疫捕捉を抑制した一方で、Aベータの相互作用を破壊することが知られる、界面活性剤またはペプチド置換剤RI-OR2-TAT(Lancaster University,UKにより供給)のいずれかを添加することによって回収はかなり向上したことを示唆する。反応IのTween/SDSミックスが最良の回収をもたらした。(Fの結果は異常である)。反応Jでは、GE Healthcareからの大きなビーズをInvitrogen Inc.によって供給される小さな(直径1μm)Protein Aをコーティングした磁気Dynabeadsに置換した。これらは、全血マトリックスからスパイクされたAベータを抽出する際の成功は明らかに極めて少なかった。SDSをRI-OR2-TATと組み合わせても相加効果はなかったため、これらは血中の同じ個体数のAベータに反応していることが示唆される。本実験はAベータの単量体型と凝集体型とを区別せず、単に血液マトリックス中のスパイクされたタンパク質のすべての型の免疫捕捉の効率に及ぼす添加試薬の効果を示した。
【0060】
実施例2 緩衝液および全血へとスパイクされた合成凝集Aベータ1-42ペプチドの検出
【0061】
Protein A(GE Healthcare、磁気Sepharose)により誘導体化されたビーズを、実施例1に従ってマウスモノクローナル抗ベータアミロイド抗体(4G8)にてコーティングした。室温で16~24時間インキュベートすることによってあらかじめ凝集されたAベータ1-42ペプチドを、100pg/mlでPBSまたは新鮮全血(1ml)へとスパイクし、そして50μlの4G8装飾ビーズを添加した。界面活性剤SDSおよびTween20をそれぞれ最終濃度0.05%および0.15%となるように添加した。実施例1で既に実証したように、これら界面活性剤の添加により、全血マトリックス中のスパイクされたAベータの回収が向上した。混合液を1時間室温で撹拌してAベータをビーズ上に捕捉し、次にビーズを磁石で捕捉し、PBS緩衝液で6回洗浄して血液マトリックスを除去した。グリシン-HCLの上清100μlの吸引後、溶出緩衝液pH2.8を添加し、ビーズを室温で20分間インキュベートして4G8結合剤からAベータを解離し、そしてほぼ確実にビーズ上の共有結合Protein Aから4G8抗体のいくつかまたはすべてを放出した。200μlの0.2M-NaOHの添加によって溶出液を中和させ、Microsens Biotechnologies(London,UK)によって供給されるAベータ凝集体ELISA検出キットに移した。キットは凝集Aベータのすべての型を結合すると考えられる高分子リガンドにてコーティングしたマイクロプレートウェルを有し、製造業者のプロトコルは凝集体捕捉、Aベータ(BAM10)に対する特異性を有する異なるモノクローナル抗体との結合および二次ウサギ抗マウスHRP共役による検出を伴っている。TMB基質による30分間のインキュベーション後、反応を0.1M HClにより停止させ、ウェル中の吸光度を450nmで測定した。
【0062】
図2は本捕捉、溶出および検出実験からの結果を示す。同図において、サンプル1はアッセイでの陽性対照(製造業者により供給されるAベータ溶液)、サンプル2は陰性対照(Aベータなし)、サンプル3はビーズ対照(4G8抗体添加なし)、サンプル4はPBSへとスパイクされた100pg/mlのAベータサンプル、およびサンプル5は全血へとスパイクされた100pg/mlのAベータサンプルである。製造業者によるそしてそのウェブサイト上に記載された以前の分析研究に基づくと、このスパイクサンプルの凝集体含有量は1%以下であり、よってアッセイは<1pg/mlの凝集ベータアミロイドを検出していたと判断される。この少量の凝集物質は明らかにビーズ上の固定化4G8抗体によって結合され、簡単な酸インキュベーションを用いて溶出された。アッセイでの全血のマトリックス効果、すなわち結合の抑制もまた、回収したAベータの量がPBSのみに比べて有意に減少しているが依然として測定可能であるという点で依然として明白であった。本実施例は、血液へとスパイクされた少なくともある割合の凝集Aベータは、界面活性剤の存在下での免疫濃縮、血液成分を除去するための広範囲の洗浄、ビーズからの酸溶出、および凝集タンパク質ELISA検出キットにおいて信号を与えるのに十分な物質が溶出液内に残るような中和化の全手順に持ちこたえたことを示す。
【0063】
実施例3 超高感度時間分解蛍光法を用いた認知症患者からの全血中の凝集Aベータの測定
【0064】
Protein A(GE Healthcare、磁気Sepharose)により誘導体化されたビーズを、実施例1に従ってマウスモノクローナル抗ベータアミロイド抗体(4G8)にてコーティングし、次に50μlの4G8装飾ビーズを添加して、神経疾患であると診断された患者からおよび健常年齢適合対照から採取された1mlの全血によりインキュベートした。血液サンプルは等分され採血後直ちに-80℃で凍結されたものである。よってこれらサンプルにはアッセイに先立って一回の凍結/解凍サイクルが行われた。破壊試薬SDSおよびTween20もまた解凍した血液にそれぞれ0.05%および0.15%の最終濃度で添加した。混合液を室温(r.t.)で1時間撹拌してAベータをビーズ上に捕捉し、次にビーズを磁石で捕捉し1mLのPBS緩衝液で6回洗浄して血液マトリックスを除去した。グリシン-HCLの上清100μlの吸引後、溶出緩衝液pH2.8を添加し、ビーズを室温で20分間インキュベートして4G8結合剤からAベータを解離した。200μlの0.2M-NaOHの添加によって溶出液を中和させ、Microsens Biotechnologies(London,UK)によって供給されるAベータ凝集体ELISA検出キットに移した。キット内の検出抗体をビオチン化した別の市販の抗体(指定6E10)に置換した。改訂アッセイでは、洗浄ステップを用いて過剰なビオチン化6E10を除去し、次にPBS緩衝液中のストレプトアビジン-ユウロピウム共役溶液を添加し、30分間インキュベートして、更なる洗浄によって過剰な共役を除去し、マイクロプレート蛍光光度計での時間分解蛍光(TRF)の標準的な手順を用いてエンハンサー/解離溶液(Pierce)の添加後マイクロウェル内の信号を検出した。TRFは、使用するユウロピウム標識に対して、実施例2に記載したELISAで用いられる従来の酵素標識よりはるかに低い検出限度(1000x)を持つ分析方法である。
【0065】
図3aは、ADと診断された患者からの血液サンプル、配偶者(年齢適合)およびさらなる範囲の異なる認知症(MCI-軽度認知障害、PD-パーキンソン病、FTD-前頭側頭型認知症、DLB-レヴィー小体認知症、PSP-進行性核上麻痺)からの対照血液サンプルによる結果を示す。配偶者対アルツハイマー病に対するスチューデントのt検定はp値0.00152(極めて有意な相違)を与える一方でアルツハイマー病対他の認知症に対するt検定は0.264(有意な相違なし)を与えた。
【0066】
図3bは散布図として提示された3aと同じデータを示す。
【0067】
図3cはAD結果対年齢適合配偶者対照に対するROC曲線を示し、本データは表2に要約している。0.736のAUCは年齢適合対照とAD患者との間の公正な区別を表す。
【表2】
【0068】
実施例4 超高感度時間分解蛍光法を用いた捕捉ビーズからAベータを放出する最適pH溶出条件の決定
【0069】
実施例3に記載した手順をPBS中100pg/mlの凝集Aベータ溶液を用いて実行した。1.5~4のpH範囲を調査して、少なくともある割合の凝集体型をインタクト(intact)で維持する一方で、ビーズからのAベータペプチドに対する最適な溶出条件を決定した。
【0070】
図4はAベータのビーズからの放出がより低いpHでより効率的であり、また溶出中より高い温度(40℃)を用いると向上することを示す。驚くべきことに、1.5という非常に低いpHでも、凝集Aベータは依然として検出可能であり、よってこれら過酷な溶出条件下でも完全に解離および変性していない。
【0071】
実施例5 二重抗体ELISA法を用いた認知症患者からの全血中の凝集Aベータの測定
【0072】
ビーズからの捕捉Aベータの溶出ステップを含む実施例3に記載した手順を繰り返した。しかし後に続く検出手順を改訂して、高分子リガンドアッセイの代わりに二重抗体アッセイ法を用いた。この改定アッセイ法では同じモノクローナル抗体をELISA「サンドイッチ」の両側に用いた。すなわち、マイクロプレートウェルを捕捉抗体として6E10にてコーティングし、また検出抗体共役をビオチン化6E10とした。マイクロウェル中の結合ビオチン化抗体の最終検出はストレプトアビジン-ユウロピウム共役により実行し、測定は時間分解マイクロプレート蛍光光度計にて以前と同様に行った。この改訂アッセイの構成では、理論的には、Aベータの多エピトープバージョンが(抗体によるエピトープマスキングにより)存在しない場合はアッセイから信号が得られることはないため、血中に存在するAベータのオリゴマー、多量体および凝集体のみを検出する。
【0073】
先立っての抗体コーティングビーズ捕捉ステップがなければ、T検定において年齢適合配偶者と認知症患者との間に有意の相違はなかった。しかし、二重抗体アッセイ法に先立って抗体コーティングビーズ捕捉ステップを行い同じ血液サンプルを用いると、配偶者対AD患者についてのT検定は0.07となり、これは有意の結果に近く、従ってAベータのための初期の抗体コーティングビーズ捕捉ステップは有用なアッセイ結果を得るには欠かせないことを示す。
【0074】
実施例6 全血へとスパイクされた凝集タウの測定
【0075】
タウタンパク質は、細胞質中で極めて溶けやすい微小管結合タンパク質(MAP)である。タウオパチーは、脳内のタウタンパク質の病的凝集に関連する一種の神経変性疾患である。
【0076】
全血中の凝集タウタンパク質を検出するために、実施例1に記載の方法を用いて、先ずビーズを抗タウモノクローナル抗体(Ab64193、Abcam)にてコーティングした。PBS緩衝液中のタウタンパク質(rPeptide,4241 Mars Hill Road,Bogart,GA30622,USA)を、1.5μMのアラキドン酸の添加によって凝集させた(Chiritaら,J.Biol Chem.2003 Jul 11;278(28):25644-50.Anionic micelles and vesicles induce tau fibrillization in vitro)。凝集タウタンパク質を(認知症の徴候のない)健常志願者からの全血サンプルへと20pg/mlでスパイクした。界面活性剤サルコシル(0.1%w/v)およびTween20(0.1%v/v)を血液サンプルに添加して、抗タウ抗体コーティングビーズにるタウタンパク質の回収を高めた。60分間のインキュベーション後、ビーズを全血から分離しPBS緩衝液で6x洗浄した。次に結合タウタンパク質をAベータアッセイに対して上述したようにpH2.8で溶出し、次に凝集体型を、二次抗タウ抗体(HT7、Thermo Scientific)およびストレプトアビジン-ユウロピウム共役を用いて先の実施例で記載したリガンドベースのマイクロプレートアッセイで検出した。結果を表3に示す。
【表3】
【0077】
実施例7 全血へとスパイクされた凝集アルファシヌクレイン(ASN)の測定
【0078】
アルファシヌクレインはヒト脳内に豊富であり、主にシナプス前末端で見出される。タンパク質はシナプス前末端のシナプス小胞の供給を維持し神経伝達物質ドーパミンの放出を調節することに関与する。
【0079】
実施例6に記載したアッセイプロトコルを、ビーズ上の抗ASNモノクローナル抗体(sc211、Santa Cruz)および凝集タンパク質のためのリガンドベースのマイクロプレートアッセイでの検出抗体としてのビオチン化抗ASNモノクローナル抗体(LB509、Abcam)に置換して行った。PBS中のASNタンパク質(rPeptide)を50μMのタンパク質濃度で37℃で5日間振盪することによって凝集させた(Fouldsら、FASEB J.2011 Dec;25(12):4127-37.Phosphorylated α-synuclein can be detected in blood plasma and is potentially a useful biomarker for Parkinson‘s disease)。凝集タウタンパク質を(認知症の徴候のない)健常志願者からの全血サンプルへと20pg/mlでスパイクした。界面活性剤サルコシル(0.1%w/v)およびTween20(0.1%v/v)を全血サンプルに添加して、クエン酸塩緩衝剤によりpHを4に低下させて、抗ASN抗体コーティングビーズによるASNタンパク質の回収を高めた。凝集タンパク質アッセイで得られた結果を表4に示す。
【表4】
【0080】
実施例8 高pH溶出を用いたPBSおよび全血へとスパイクされた合成凝集Aベータ1-42の検出
【0081】
実施例2に記載したように正常対象から採取した全血からの凝集Aベータの捕捉を伴う手順を、0.1CAPS緩衝液を用いて溶出条件をpH11.5に変更して繰り返し、次に0.1MのHClでpH7へと中和した。凝集タンパク質アッセイからの結果を表5に示す。
【表5】
【0082】
さらなる実験において、溶出pHを0.2MのKCl/NaOH緩衝液を用いて12.8へと上昇させ、グリシン-HClを用いたpH3での溶出と比較した。凝集AベータをPBS緩衝液および正常対象から採取した全血の両方へとスパイクした。表6は高pH溶出と低pH溶出との比較を示し、これはこれらの条件下では非常に類似した結果を与えることが分かった。本実験では、1mlの全血またはPBSサンプルを3通りで試験し、対照は4G8 Aベータ特異的抗体でコーティングしていない捕捉ビーズを用いた。
【表6】
【0083】
実施例9 若年正常対照での凝集Aベータのレベル
【0084】
2つの全血プールを正常志願者から調製した。第1群は<40歳、第2群は>40歳であるが<60とした。実施例4の方法に従って実行した凝集Aベータアッセイの結果を
図5に示す。データは、若年正常者において報告されたレベルは10,000~15,000RFUの範囲であることを示す。これは
図3bに示した年齢適合(>60歳)対照の平均より有意に低く、このことは血中の凝集Aベータレベルが年齢と共に増大することを示す。
【0085】
実施例10 ELISAを用いた全血中の全Aベータおよび全凝集体型の含有量の測定
【0086】
実施例3に記載のアッセイ手順の第1段階を、Aベータ特異的抗体コーティングビーズを用いて実行し、続いてpH2.8での酸溶出および中和を行った。次に100μlの中和溶出液を、市販の全Aベータ1-42ELISAキット(Life Technologies)の二重のウェルに添加し、製造業者の推奨プロトコルに従った。本キットは凝集体型のみではなく全Aベータ1-42含有量を測定する。本プロトコルのさらなる改良版では、200μlの中和溶出液を、Microsens Biotechnologiesによって提供される凝集体検出キットのウェルに添加し、45分間インキュベートして、使用した低イオン強度条件下で(オリゴマー型すべてを含む)存在する全凝集体の少なくともある割合を結合した。次に、ウェル内の上清を混合して全Aベータ1-42ELISAキットの単一ウェルに移し、全タンパク質アッセイを上述のように実行した。加えて100μlの元の全血サンプルをAベータELISAのウェルに直接添加し、製造業者のプロトコルに従って本アッセイを未処理の元の全血サンプル中の全Aベータを検出するために用いることができるかどうかを判断した。
【0087】
図6はLife Technologiesキットでの全Aベータ測定からのデータを示す。ウェルに直接添加した全血により得られた結果は、背景レベルが非常に高く可変であり有用なデータが得られないので省略した。しかし、ビーズ捕捉ステップから中和溶出液により得られた結果は、アルツハイマー病と診断された2人の患者では有意なレベルの全Aベータ1-42を検出することができ(「AD1ビーズまたはAD2ビーズ」)、一方、年齢適合(配偶者)対照のレベルはゼロである(「配偶者1ビーズ」)ことを示した。同図はELISAでの二重アッセイの平均および標準偏差を示す。全Aベータ1-42ELISAに先立って凝集体結合マイクロウェルにより処理されたサンプルの結果は、AD患者((「AD1」、「AD2」)からELISAでの信号で約60%の減少を示した。この結果は、中和溶出液は、Aベータ1-42の約60%の全凝集体型および約40%の非凝集体型を含有するという証拠を提供し、またタンパク質のこれらの型の含有量の決定はアルツハイマー病用の血液検査の精度を向上させるために用いることができることを示した。
【0088】
凝集体検出キット(これはより大きな凝集体のみ結合しより小さなオリゴマー型は結合しないことを保証している)で高イオン強度の捕捉条件を用いて本実験を繰り返すことで、AD患者からの信号が実質的に減少し、オリゴマー型が全血サンプル中で優勢であることを示した。
【0089】
本実施例は、タンパク質特異的抗体コーティング捕捉ビーズを用いた免疫濃縮ステップはタンパク質のすべての構造型を全血から抽出する効率的な方法であり、またビーズ捕捉ステップからの中和溶出液は、全タンパク質のための市販ELISA(本実施例)および凝集体特異的タンパク質アッセイ(前実施例)で用いられ得ることを示す。
【0090】
実施例11 アルツハイマー病患者からの全血およびプラズマ中の凝集Aベータの測定
【0091】
実施例3に記載したアッセイ手順を実行して、アルツハイマー病(AD)患者から採取した1ml分割単位の全血または5ml分割単位のプラズマ中の凝集Aベータを測定した。凝集Aベータは両サンプルタイプで検出することができるが、データはまた、プラズマ中のレベルは全血の場合より少なくとも6x低かったことを示し、本タンパク質の凝集体型の大部分が血液の細胞分画と会合したことを示唆する。
【0092】
実施例12 認知症およびパーキンソン病患者からの全血中の凝集Aベータ、凝集アルファシヌクレインおよび凝集タウの測定
【0093】
実施例3、6および7に記載した方法を用いて、アルツハイマー病(AD)、レヴィー小体認知症(DLB)およびパーキンソン病(PD)患者(合計8対象)から採取した個々に1ml分割単位の全血中の凝集Aベータ、凝集アルファシヌクレインおよび凝集タウのレベルを決定した。アッセイは2通りに行った。血液サンプルはあらかじめ等分され採血後直ちに-80℃で凍結されたものである。よってこれらサンプルにはアッセイに先立って一回の凍結/解凍サイクルが行われた。
【0094】
表6は、血液サンプルに存在すると決定されたこれら3つの凝集タンパク質のレベルの要約であり、一方表7は特定の神経変性疾患を持つ患者の脳組織中のこれらタンパク質の大きな凝集体の既知のレベルから予想された結果を示す。試験を受けたAD患者の100%が血中に存在する予想レベルの循環凝集タンパク質を有し、一方DLBまたはPD患者の66%が予想レベルのタンパク質を有することが明らかである。
【表7】
【表8】