(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-23
(45)【発行日】2023-01-31
(54)【発明の名称】洗浄剤組成物及び洗浄方法
(51)【国際特許分類】
C11D 7/26 20060101AFI20230124BHJP
C11D 7/32 20060101ALI20230124BHJP
C11D 7/50 20060101ALI20230124BHJP
C11D 7/28 20060101ALI20230124BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20230124BHJP
B08B 3/08 20060101ALI20230124BHJP
【FI】
C11D7/26
C11D7/32
C11D7/50
C11D7/28
H01L21/304 647A
B08B3/08 A
(21)【出願番号】P 2019151315
(22)【出願日】2019-08-21
【審査請求日】2022-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000168414
【氏名又は名称】荒川化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000174851
【氏名又は名称】三井・ケマーズ フロロプロダクツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西垣 泰志
(72)【発明者】
【氏名】久保 夏希
(72)【発明者】
【氏名】松浦 泰祐
(72)【発明者】
【氏名】松本 剛徳
(72)【発明者】
【氏名】菊地 秀明
【審査官】柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/024141(WO,A1)
【文献】特開2018-199808(JP,A)
【文献】特開2016-147941(JP,A)
【文献】特開2017-206582(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11D
H01L 21/304
C23G 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリコールエーテル(A)、脂肪族アルカノールアミン及び/又は脂環族アルカノールアミン(B)、並びに、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン及び/又はtrans-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン(C)を含
み、(A)成分10~60重量%、(B)成分1~70重量%及び(C)成分10~70重量%を含む洗浄剤組成物。
【請求項2】
(A)成分が、一般式(1):X
1-(O-(CH
2-CHY))
n-O-X
2(式(1)中、X
1は炭素数1~6のアルキル基、X
2は水素又は炭素数1~4のアルキル基、Yは水素又はメチル基、nは1~3の整数を示す)で表される脂肪族グリコールエーテルである請求項1の洗浄剤組成物。
【請求項3】
更に、ヒドロキシカルボン酸(D)を含む
請求項1又は2の洗浄剤組成物。
【請求項4】
(D)成分がクエン酸、イソクエン酸、酒石酸及びリンゴ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である
請求項3の洗浄剤組成物。
【請求項5】
被洗浄物を、
請求項1~4のいずれかの洗浄剤組成物で洗浄する工程を含む、洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄剤組成物、洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気機器、電子部品、精密機器、金属、ガラス、セラミックス及び樹脂成形品等の各種物品の表面を清浄にし、製品の信頼性を高めるために各種の洗浄剤が使用されている。例えば、フラックス残渣用洗浄剤は、プリント配線基板の電極に、ソルダペースト、糸ハンダ等を用いて電子部品を接合した後に不可避的に生ずるフラックス残渣を除去するために、金属用脱脂洗浄剤は、金属製の部品又は当該部品を有する製品に付着した、潤滑油、防錆油、鉱物油、切削油、加工油等の工業油を除去するために使用される。
【0003】
このような洗浄剤としては、グリコール系洗浄剤が汎用されている。グリコール系洗浄剤は、グリコール系溶剤を主成分としたものであり、フラックス残渣、金属に付着した油の洗浄性に優れるとされる(特許文献1、2)。しかしながら、グリコール系洗浄剤で物品を洗浄すると、フラックス残渣及びオイル等の汚れを含む洗浄剤廃液及び濯ぎ廃水が都度大量に生じてしまい、それらの処理のために相応の設備及び費用が必要となる。
【0004】
また、半導体分野では、フルオロ系洗浄剤が使用されており、ハイドロフルオロエーテル(HFE)、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)、クロロフルオロオレフィン(CFO)、ハイドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)、ハイドロフルオロオレフィン(HFO)等を含んだものが公知である(特許文献3)。フルオロ系洗浄剤は、前記のグリコール系洗浄剤に比べて沸点が低く、また分解しやすいために、大気中での寿命が短く、中でも、フルオロオレフィン系洗浄剤であるHFOは、オゾン破壊係数と地球温暖化係数が“0”であり、地球環境への影響が小さい利点もある。しかしながら、このようなフルオロオレフィン系洗浄剤はその分解し易さから安定性に劣り、フラックス残渣等に対する洗浄性も充分ではなかった。
【0005】
さらに、半導体の分野等では、シリカ(SiO2)、アルミナ(Al2O3)又はセリア(CeO2)等の微粒子を水系溶媒等に分散させた研磨剤(スラリー)を使用した化学機械研磨方法(Chemical Mechanical Polishing、CMP)や、ダイヤモンド等の硬質粒子を散りばめた、ブラシ、パッド、ホイール等により機械的に研磨する方法等により、サファイア(Al2O3)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)などの電子基板表面の凹凸、変質、汚染箇所を除去し、製品の性能や歩留まりを向上させている。しかし、研磨後の電子基板には大量の砥粒や研磨屑等(以下、パーティクルと記載する。)が付着し、性能や歩留まりの低下を招くため、洗浄剤組成物には、このようなパーティクルの洗浄性(除去性)に優れたものが要求される(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平3-152197号公報
【文献】特開平10-046198号公報
【文献】特開2016-141730号公報
【文献】国際公開第2017/110885号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、フラックス残渣に対する洗浄性及びパーティクルに対する洗浄性に優れる洗浄剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討したところ、従来のグリコール系洗浄剤に使用されるグリコール系溶剤に、脂肪族アルカノールアミン及び/又は脂環族アルカノールアミンと、特定のハイドロフルオロオレフィンを配合することにより、フラックス残渣及びパーティクルに対する優れた洗浄性を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は以下の洗浄剤組成物、及び洗浄方法に関する。
【0009】
1.グリコールエーテル(A)、脂肪族アルカノールアミン及び/又は脂環族アルカノールアミン(B)、並びに、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン及び/又はtrans-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン(C)を含む洗浄剤組成物。
【0010】
2.(A)成分が、一般式(1):X1-(O-(CH2-CHY))n-O-X2(式(1)中、X1は炭素数1~6のアルキル基、X2は水素又は炭素数1~4のアルキル基、Yは水素又はメチル基、nは1~3の整数を示す)で表される脂肪族グリコールエーテルである前項1の洗浄剤組成物。
【0011】
3.(A)成分10~60重量%、(B)成分1~70重量%及び(C)成分10~70重量%を含む前項1又は2の洗浄剤組成物。
【0012】
4.更に、ヒドロキシカルボン酸(D)を含む前項1~3のいずれかの洗浄剤組成物。
【0013】
5.(D)成分がクエン酸、イソクエン酸、酒石酸及びリンゴ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である前項4の洗浄剤組成物。
【0014】
6.被洗浄物を、前項1~5のいずれかの洗浄剤組成物で洗浄する工程を含む、洗浄方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の洗浄剤組成物は、グリコールエーテル(A)、脂肪族アルカノールアミン及び/又は脂環族アルカノールアミン(B)、並びに、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン及び/又はtrans-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン(C)を含む。(A)成分はフラックス残渣を、また(B)成分はフラックス残渣中の酸性成分を溶解させるため、当該洗浄剤組成物はフラックス残渣に対する洗浄性に優れる。また(C)成分は、洗浄剤組成物の表面張力を下げることにより高い浸透性を付与するため、当該洗浄剤組成物はパーティクルに対する洗浄性にも優れる。さらに、(C)成分を含むため、洗浄剤組成物に水を配合せずとも、洗浄剤組成物を非引火性にすることができるため、本発明の洗浄剤組成物は、安全性の面で有用である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の洗浄剤組成物は、グリコールエーテル(A)(以下、(A)成分という。)、脂肪族アルカノールアミン及び/又は脂環族アルカノールアミン(B)(以下、(B)成分という。)、並びに、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン及び/又はtrans-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン(C)(以下、(C)成分という。)である。
【0017】
(A)成分としては、従来のグリコール系洗浄剤に使用されているグリコールエーテルであれば、特に限定されない。(A)成分としては、例えば、脂肪族グリコールエーテル、芳香族グリコールエーテル等が挙げられる。グリコールエーテル(A)は単独でも2種以上を組み合わせても良い。
【0018】
脂肪族グリコールエーテルとしては、例えば、フラックス残渣に対する洗浄性の点から、一般式(1):X1-(O-(CH2-CHY))n-O-X2(式(1)中、X1は炭素数1~6のアルキル基、X2は水素又は炭素数1~4のアルキル基、Yは水素又はメチル基、nは1~3の整数を示す)で表されるものが好ましい。
【0019】
一般式(1)で表される化合物としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn-プロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノn-ブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、エチレングリコールモノn-ペンチルエーテル、エチレングリコールモノn-ヘキシルエーテル等のエチレングリコールモノアルキルエーテル;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジn-ブチルエーテル等のエチレングリコールジアルキルエーテル;ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノn-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノn-ペンチルエーテル、ジエチレングリコールモノn-ヘキシルエーテル等のジエチレングリコールモノアルキルエーテル;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジn-ブチルエーテル等のジエチレングリコールジアルキルエーテル;トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノn-ブチルエーテル等のトリエチレングリコールモノアルキルエーテル;トリエチレングリコールジメチルエーテル等のトリエチレングリコールジアルキルエーテル;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノn-プロピルエーテル、プロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノn-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノイソブチルエーテル、プロピレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノn-ペンチルエーテル、プロピレングリコールモノn-ヘキシルエーテル等のプロピレングリコールモノアルキルエーテル;プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジn-ブチルエーテル等のプロピレングリコールジアルキルエーテル;ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノn-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノn-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノn-ヘキシルエーテル等のジプロピレングリコールモノアルキルエーテル;ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジn-ブチルエーテル等のジプロピレングリコールジアルキルエーテル;トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等のトリプロピレングリコールモノアルキルエーテル等が挙げられる。
【0020】
芳香族グリコールエーテルとしては、例えば、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールジフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、エチレングリコールジベンジルエーテル、ジエチレングリコールモノベンジルエーテル等が挙げられる。
【0021】
これらの中でも、フラックス残渣に対する洗浄性の点から、エチレングリコールモノアルキルエーテル、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、トリエチレングリコールモノアルキルエーテル及び芳香族グリコールエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、エチレングリコールモノn-ヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノn-ヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノn-ブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、及びエチレングリコールモノフェニルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
る。
【0022】
(A)成分の含有量としては、フラックス残渣に対する洗浄性及びパーティクルに対する洗浄性をバランスよく向上させる点から、本発明の洗浄剤組成物を100重量%として、10~60重量%程度であることが好ましく、15~50重量%程度であることがより好ましく、20~40重量%程度であることがさらに好ましい。
【0023】
(B)成分は、脂肪族アルカノールアミン及び/又は脂環族アルカノールアミンであり、フラックス残渣中の酸性成分を洗浄剤組成物中へ溶解させやすくする効果を発揮する。脂肪族アルカノールアミン及び/又は脂環族アルカノールアミン(B)は単独でも2種以上を組み合わせても良い。
【0024】
脂肪族アルカノールアミンとしては、特に限定されず、例えば、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン等のジアルカノールアミン;N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-n-プロピルジエタノールアミン、N-イソプロパノールジエタノールアミン、N-n-ブチルジエタノールアミン、N-t-ブチルジエタノールアミン等のN-アルキルジアルカノールアミン;トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン等のトリアルカノールアミン;N,N-ジメチルエタノールアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン、N,N-ジn-プロピルエタノールアミン、N,N-ジイソプロピルエタノールアミン、N,N-ジn-ブチルエタノールアミン、N,N-ジメチルプロパノールアミン、N,N-ジメチルイソプロパノールアミン、N,N-ジエチルイソプロパノールアミンのN,N-ジアルキルアルカノールアミン;N-(β-アミノエチル)エタノールアミン、N-(β-アミノエチル)プロパノールアミン、N-(β-アミノエチル)イソプロパノールアミン等のN-(β-アミノアルキル)アルカノールアミン等が挙げられる。
【0025】
脂環族アルカノールアミンとしては、特に限定されず、例えば、N-シクロヘキシルエタノールアミン等のN-シクロヘキシルアルカノールアミン;N-ヒドロキシエチル-N-メチル-N-シクロヘキシルアミン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシエチル)-N-シクロヘキシルアミン等のN-アルキル-N-ヒドロキシアルキル-N-シクロヘキシルアミン;N,N-ビス(2-ヒドロキシメチル)-N-シクロヘキシルアミン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-N-シクロヘキシルアミン等のN,N-ビス(2-ヒドロキシアルキル)-N-シクロヘキシルアミンが挙げられる。
【0026】
これらの中でもフラックス残渣に対する洗浄性の点から、N-アルキルジアルカノールアミン、N,N-ジアルキルアルカノールアミン、N,N-ビス(2-ヒドロキシアルキル)-N-シクロヘキシルアミンが好ましく、N-n-ブチルジエタノールアミン、N,N-ジブチルエタノールアミン及びN,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-N-シクロヘキシルアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
【0027】
(B)成分の含有量としては、フラックス残渣に対する洗浄性及びパーティクルに対する洗浄性をバランスよく向上させる点から、本発明の洗浄剤組成物を100重量%として、1~70重量%程度であることが好ましく、5~60重量%程度であることがより好ましく、20~50重量%程度であることがさらに好ましい。
【0028】
本発明の洗浄剤組成物は、(B)成分以外のアミン(B-1)(以下、(B-1)成分という)を併用しても良い。(B-1)成分としては、特に限定されず、例えば、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン、2-エチルヘキシルアミン等の第1級脂肪族アミン;N,N,N’,N’-テトラメチルペンタメチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラエチルペンタメチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトライソプロピルペンタメチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラ-n-プロピルペンタメチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルヘキサメチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラエチルヘキサメチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトライソプロピルヘキサメチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラ-n-プロピルヘキサメチレンジアミン等の第3級ジアミン;ビス(2-ジメチルアミノエチル)エーテル、ビス(2-ジエチルアミノエチル)エ-テル、ビス(2-ジイソプロピルアミノエチル)エーテル、ビス(2-ジ-n-プロピルアミノエチル)エーテル等のジアミノアルキルエーテル;1,1,7,7-テトラメチルジエチレントリアミン、1,1,7,7-テトラエチルジエチレントリアミン、1,1,7,7-テトライソプロピルジエチレントリアミン、1,1,7,7-テトラ-n-プロピルジエチレントリアミン、N,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミン、4-メチル-1,1,7,7-テトラエチルジエチレントリアミン、4-メチル-1,1,7,7-テトライソプロピルジエチレントリアミン、4-メチル-1,1,7,7-テトラ-n-プロピルジエチレントリアミン等のトリアミン等が挙げられる。(B-1)成分は単独でも2種以上を組み合わせても良い。(B-1)成分の含有量としては、特に限定されないが、本発明の洗浄剤組成物を100重量%として、1重量%以下にすることが好ましく、0.5重量%以下にすることがより好ましく、0.2重量%以下にすることがさらに好ましい。
【0029】
(C)成分は、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン、trans-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンであり、ハイドロフルオロオレフィンに属する化合物である。ハイドロフルオロオレフィンとは、炭素原子、水素原子及びフッ素原子を含み、分子内に二重結合を有する化合物である。(C)成分を使用すると、本発明の洗浄剤組成物を非引火性にでき、被洗浄物(フラックス残渣、パーティクル等)に対する洗浄性及びリンス性に優れる。さらに、(C)成分の沸点が低いため、洗浄液組成物をリサイクルできる。市販品としては、「オプテオン SF33」、「オプテオン SF01」(三井・ケマーズ フロロプロダクツ(株)製)等が挙げられる。
【0030】
(C)成分の含有量としては、フラックス残渣に対する洗浄性及びパーティクルに対する洗浄性をバランスよく向上させ、洗浄剤組成物を非引火性にする点から、本発明の洗浄剤組成物を100重量%として、10~70重量%程度であることが好ましく、さらに、洗浄液組成物をリサイクルできる点から、20~60重量%程度であることがより好ましく、30~50重量%程度であることがさらに好ましい。
【0031】
本発明においては、(C)成分以外のハイドロフルオロオレフィン(C-1)(以下、(C-1)成分という。)を併用しても良い。(C-1)成分としては、特に限定されず、例えば、3,3,3-トリフルオロプロペン、cis-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、trans-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、cis-1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン、trans-1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン、1,1,1,4,4,5,5,5-オクタフルオロ-2-ペンテン、メトキシパーフルオロヘプテン等が挙げられる。(C-1)成分は単独でも2種以上を組み合わせても良い。(C-1)成分の含有量としては、特に限定されないが、本発明の洗浄剤組成物を100重量%として、1重量%以下にすることが好ましく、0.5重量%以下にすることがより好ましく、0.2重量%以下にすることがさらに好ましい。
【0032】
本発明の洗浄剤組成物は、更にヒドロキシカルボン酸(D)(以下、(D)成分という)を含んでも良い。
【0033】
(D)成分は、分子内にヒドロキシル基及びカルボキシル基を有する化合物である。(D)成分としては、特に限定されず、例えば、クエン酸、イソクエン酸、リンゴ酸、酒石酸等が挙げられる。また前記酸の塩を用いてもよく、塩としてはナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、アルカノールアミン塩等が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸(D)は単独でも2種以上を組み合わせても良い。中でも、クエン酸、イソクエン酸及び酒石酸からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、クエン酸、酒石酸がより好ましい。
【0034】
(D)成分の含有量としては、特に限定されず、通常は、本発明の洗浄剤組成物を100重量%として、0.1~10重量%程度である。また、好ましくは0.1~5重量%程度、より好ましくは0.1~1重量%程度である。
【0035】
(A)成分、(B)成分、及び(C)成分の合計の含有量、あるいは、(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び(D)成分の合計の含有量としては、フラックス残渣に対する洗浄性及びパーティクルに対する洗浄性をバランスよく向上させる点から、80重量%以上程度であることが好ましく、90重量%以上程度であることがより好ましく、95重量%以上程度であることがさらに好ましく、98重量%以上程度であることがよりさらに好ましい。
【0036】
本発明の洗浄剤組成物は、有機溶剤を含んでも良い。有機溶剤としては、特に限定されず、例えば、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジエチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジプロピル-2-イミダゾリジノン、N-メチル-2-ピロリドン等の窒素含有化合物;ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の炭化水素;メタノール、エタノール、ベンジルアルコール等のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、グリコールエーテル類等のエーテル;酢酸エチル、酢酸メチル等のエステル等が挙げられる。有機溶剤は単独でも2種以上を組み合わせても良い。また有機溶剤の含有量としては、非引火性の点から、本発明の洗浄剤組成物を100重量%として、10重量%以下が好ましく、5重量%以下がより好ましい。
【0037】
また、本発明の洗浄剤組成物には、(C)成分と相溶し難い点から、水を含まない方が好ましく、仮に、含んだとしても、本発明の洗浄剤組成物を100重量%として、0.1重量%以下程度である。
【0038】
本発明の洗浄剤組成物は、各種公知の添加剤を含んでも良い。添加剤としては、特に限定されず、例えば、界面活性剤、キレート剤、酸化防止剤、酸化還元剤、スケール防止剤、防錆剤、pH調整剤、消泡剤等が挙げられる。
【0039】
本発明の洗浄剤組成物は、(A)成分、(B)成分及び(C)成分、必要に応じて、(B-1)成分、(C-1)成分及び(D)成分、有機溶剤及び添加剤を各種公知の手段で混合することにより得られる。
【0040】
また、本発明の洗浄剤組成物は非引火性であることが好ましい。
【0041】
本発明の洗浄方法は、被洗浄物を前記洗浄剤組成物で洗浄する工程(以下、洗浄工程ともいう)を含む。
【0042】
被洗浄物としては、鉛フリーはんだフラックス残渣が付着したもの、パーティクルが付着したもの、加工油が付着したもの等、特に限定されない。例えば、ICやコンデンサ、抵抗器等の電子部品、半導体部品、金属部品、非金属部品等が挙げられる。
【0043】
本発明の洗浄方法における洗浄工程は、被洗浄物に洗浄剤組成物を接触させて付着したフラックス残渣やパーティクルを除去するものである。また本洗浄工程においては、(C)成分が揮発しても冷却できるシステム(例えば、冷却ピット等)を備えていれば、洗浄剤組成物を加温しても良い。加温する場合の温度としては、通常40~80℃である。また、洗浄工程では、洗浄剤組成物を含む洗浄槽を1槽又は複数使用しても良い。
【0044】
被洗浄物に、本発明の洗浄剤組成物を接触させる手段としては、特に限定されず、例えば、浸漬法、浸漬揺動法、超音波洗浄法等が挙げられる。
【0045】
本発明の洗浄方法は、更にリンス工程を設けても良い。これにより洗浄後、基板に残った洗浄剤組成物を除去できる。またリンス剤としては、(C)成分を用いることが好ましく、また(C)成分を含むリンス槽は、1槽又は複数使用しても良い。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を、実施例及び比較例を通じて詳細に説明するが、それらによって本発明の範囲が制限されないことはもとよりである。
【0047】
(洗浄剤組成物の調製)
表1に示す各成分を混合し(重量%基準)、実施例1~15及び比較例1~3の洗浄剤組成物を調製した。
【0048】
<フラックス洗浄用モデル基板の作成>
市販のロジンフラックス(製品名「VHP-45」、三井金属鉱業(株)製)10.7重量部と、鉛フリーはんだ粉末(96.5Sn3.0Ag0.5Cu、20-38μm、三井金属鉱業(株)製)99.3重量部を混合しソルダペーストを調製した。これを用いてARKW-WS基板((株)エムアールーエー設計センター製)にマスク厚み100μmのメタルマスクを用いて印刷後、基板を270℃ホットプレートに静置してはんだを溶融させ、フラックス洗浄用モデル基板(1)(以下、モデル基板(1)という)を作成した。
【0049】
〔フラックス残渣に対する洗浄性〕
ビーカーに、実施例1の鉛フリーはんだフラックス用洗浄剤組成物を100g採取し、液温が60℃になるまで加温した。モデル基板(1)を浸漬し、5分間静置した後、モデル基板(1)を取り出し、cis-1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン(商品名:「オプテオン SF33」、三井・ケマーズ フロロプロダクツ(株)製)(以下、“SF33”という)のみで5分間リンスした後、窒素ブローにて液滴を除去し、室温(25℃)で5分間乾燥させた。乾燥後のモデル基板(1)に残ったフラックス残渣を光学顕微鏡((株)キーエンス製 VHX6000)で観察した。評価基準を以下に示す。また、実施例2~15、及び比較例1~3の洗浄剤組成物についても同様に評価した。結果を表1に示す(以下同様)。
【0050】
(評価基準)
◎:フラックス残渣がない
○:フラックス残渣が若干あるが、基板の電気的信頼性に影響を及ぼさないレベル
△:フラックス残渣が若干あり、基板の電気的信頼性に若干影響を及ぼすレベル
×:フラックス残渣がある
【0051】
[パーティクル汚染液の調製]
スクリュー管(α)(容量20mL)にアセトン(和光純薬工業(株)製、純度99.5%以上)9.8g、結晶性シリカフィラー(商品名「クリスタライト VX-S2」、(株)龍森製、平均粒子径5μm)0.1g、及びアルミナ粒子(商品名「精密研磨用α-アルミナ」、和光純薬工業(株)製、平均粒子径0.5μm)0.1gを入れ、よく振盪し、濃度1%の汚染液(α)を10g調製した。
【0052】
[パーティクル洗浄用モデル基板の作成]
次に、汚染液(α)0.02gをARKW-WS基板((株)エムアールーエー設計センター社製)の中心に滴下し、自然乾燥させ、パーティクル洗浄用モデル基板(2)(以下、モデル基板(2)という)を作成した。
【0053】
[パーティクルに対する洗浄性]
ビーカー(容量1000mL、胴径φ110mm、高さ150mm)に実施例1の洗浄剤組成物100gを採取し、スターラーピースを入れ、マグネチックスターラーにより十分に撹拌した。続いて、マグネチックスターラーの回転速度を800rpmに調節し、溶液中にモデル基板(2)を入れた。ステンレスクリップ及びステンレス棒により固定しながら、室温(25℃)で5分間洗浄後、モデル基板(1)を取り出し、SF33のみでリンスし、室温(25℃)で5分間乾燥させた。
【0054】
次に、光学顕微鏡((株)キーエンス製 VHX6000、倍率:1000倍)を使用し、乾燥後のモデル基板(2)の汚染箇所をランダムに5箇所観察し、残存するパーティクルの総数を求めた。一方で、これと同様の方法により、汚染液(α)で汚染された直後のモデル基板(2)の表面に付着するパーティクルの総数も求めておき、式1によりパーティクル除去率(%)を算出した。以上の評価を実施例1つにつき5回行ない、パーティクル除去率の平均値を求めた。評価基準を以下に示す。また、実施例2~15、及び比較例1~3の洗浄剤組成物についても同様に評価した。
【0055】
(式1)パーティクル除去率(%)=[{(汚染直後のパーティクルの総数)-(乾燥後に残存するパーティクルの総数)}/(汚染直後のパーティクルの総数)]×100
【0056】
(評価基準)
◎:パーティクル除去率が90%以上
○:パーティクル除去率が70%以上90%未満
△:パーティクル除去率が50%以上70%未満
×:パーティクル除去率が50%未満
【0057】
【0058】
表1における略号は、以下の化合物を示す。
<(A)成分>
・HeG:エチレングリコールモノn-ヘキシルエーテル
・HeDG:ジエチレングリコールモノn-ヘキシルエーテル
・BTG:トリエチレングリコールモノn-ブチルエーテル
・DEDG:ジエチレングリコールジエチルエーテル
・PhG:エチレングリコールモノフェニルエーテル
<(B)成分>
・MBD:N-n-ブチルジエタノールアミン(商品名:『アミノアルコール MBD』、日本乳化剤(株)製)
・2B:N,N-ジブチルアミノエタノール(商品名:『アミノアルコール 2B』、日本乳化剤(株)製)
・CHE-20:N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-N-シクロヘキシルアミン(商品名:『アミノアルコール CHE-20』、日本乳化剤(株)製)
<(C)成分>
・C-1:cis-1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン(商品名:『オプテオン SF33』、三井・ケマーズ フロロプロダクツ(株)製)
<(D)成分>
・酒石酸:DL-酒石酸(キシダ化学(株)製)