(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-23
(45)【発行日】2023-01-31
(54)【発明の名称】主成分としてベイナイトのミクロ組織を有する複合相鋼からなる熱延平鋼生産物およびかかる平鋼生産物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20230124BHJP
C22C 38/38 20060101ALI20230124BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20230124BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20230124BHJP
【FI】
C22C38/00 301W
C22C38/38
C22C38/58
C21D9/46 T
C21D9/46 U
(21)【出願番号】P 2019534381
(86)(22)【出願日】2018-01-16
(86)【国際出願番号】 EP2018050963
(87)【国際公開番号】W WO2018134186
(87)【国際公開日】2018-07-26
【審査請求日】2020-12-21
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2017/051141
(32)【優先日】2017-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】510041496
【氏名又は名称】ティッセンクルップ スチール ヨーロッパ アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】ThyssenKrupp Steel Europe AG
【住所又は居所原語表記】Kaiser-Wilhelm-Strasse 100,47166 Duisburg Germany
(73)【特許権者】
【識別番号】501186597
【氏名又は名称】ティッセンクルップ アクチェンゲゼルシャフト
【住所又は居所原語表記】ThyssenKrupp Allee 1 45143 Essen Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100177426
【氏名又は名称】粟野 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】ソルステン ロスラー
(72)【発明者】
【氏名】リウイ ジャン
(72)【発明者】
【氏名】ヨルク メルテンス
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/005811(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/017933(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
C21D 8/00 - 8/04
C21D 9/46 - 9/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合相鋼から作成された熱延平鋼生産物であって、
-平鋼生産物は、少なくとも60%の穴拡がり、少なくとも660MPaの降伏強度Rp0.2、少なくとも760MPaの引張強度Rmおよび少なくとも10%の破断点伸びA80をもち、
-そこで複合相鋼は次のもの(重量%にて)
C:0.01-0.1%、
Si:0.1-0.45%、
Mn:1-2.5%、
Al:0.005-0.05%、
Cr:0.5-1%、
Mo:0.05-0.15%、
Nb:0.01-0.1%、
Ti:0.05-0.2%、
N:0.001-0.009%、
P:0.02%未満、
S:0.005%未満、
Cu:0.1%まで
Mg:0.0005%まで、
O:0.01%まで、
および残余として鉄および製造関連の不可避不純物からなり、
-そこでTi、Nb、N、CおよびSの複合相鋼の含量は以下の条件:
(1)%Ti>(48/14)%N+(48/32)%S
(2)%Nb<(93/12)%C+(45/14)%N+(45/32)%S
そこでは、%Ti:それぞれのTi含量、
%Nb:それぞれのNb含量、
%N:それぞれのN含量、
%C:それぞれのC含量、
%S:それぞれのS含量で、そこで%Sはまた「0」であることもできる
を満たし、および
-そこで平鋼生産物のミクロ組織は、少なくとも80面積%のベイナイト、15面積%未満のフェライト、15面積%未満のマルテンサイト、5面積%未満のセメンタイトおよび5容量%未満の残留オーステナイトからなる、平鋼生産物。
【請求項2】
前記複合相鋼は、「Ni、B、
V」からの一の元素または複数の元素を以下の重量%でさらに含有する、請求項1に記載の平鋼生産物。
Ni
:0.3%まで
B:0.005%まで
V:
0.15%まで
【請求項3】
そのC含量は少なくとも0.04重量%または多くて0.06重量%であることを特徴とする、請求項1又は2のいずれか1項に記載の平鋼生産物。
【請求項4】
そのCr含量は少なくとも0.6重量%または多くて0.8重量%であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の平鋼生産物。
【請求項5】
そのNb含量は少なくとも0.045重量%または多くて0.06重量%であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の平鋼生産物。
【請求項6】
そのTi含量は少なくとも0.1重量%または多くて0.13重量%に限されることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の平鋼生産物。
【請求項7】
溶融めっきによって適用されるZn系金属保護被覆を備えることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の平鋼生産物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の平鋼生産物を製造するための方法であって、以下の作業ステップ:
a)(重量%にて)C:0.01-0.1%、Si:0.1-0.45%、Mn:1-2.5%、Al:0.005-0.05%、Cr:0.5-1%、Mo:0.05-0.15%、Nb:0.01-0.1%、Ti:0.05-0.2%、N:0.001-0.009%、P:0.02%未満、S:0.005%未満、Cu:0.1%まで、Mg:0.0005%まで、O:0.01%まで、ならびに残余として鉄および不可避不純物を含む、鋼を溶融することであり、およびそこでは、Ti、Nb、N、CおよびSの複合相鋼の含量は以下の条件:
(1)%Ti>(48/14)%N+(48/32)%S
(2)%Nb<(93/12)%C+(45/14)%N+(45/32)%S
を満たし、
そこでは、%Ti:それぞれのTi含量、
%Nb:それぞれのNb含量、
%N:それぞれのN含量、
%C:それぞれのC含量、
%S:それぞれのS含量で、そこで、%Sはまた「0」であることもでき;
b)中間生産物を形成するために溶融物をキャスティングすること;
c)中間生産物を1100-1300℃の予熱温度に加熱すること;
d)熱延ストリップを形成するために中間生産物を熱延することであり、
-そこで、熱延の開始時の中間生産物の圧延開始温度WATは1000-1250℃であり、および完成した熱延ストリップの圧延最終温度WETは800-950℃であり、および
-そこで、熱延は、少なくとも1.5の縮小比d0/d1を有する温度範囲RLT-RSTにおいて行われ、
-そこでは、圧延の開始に先立ち熱延ストリップの出発厚さd0は温度範囲RLT-RSTにおいてd0と共に指定され、および圧延後の熱延ストリップの厚さは温度範囲RLT-RSTにおいてd1と共に指定され、および
-そこで
縮小比d0/d1が≦2である場合において、温度はRLT=Tnr+50℃であり、
縮小比d0/d1が>2である場合において、温度はRLT=Tnr+100℃であり、
縮小比d0/d1が≧2である場合において、温度はRST=Tnr-50°Cであり、
縮小比d0/d1が<2である場合において、温度はRST=Tnr-100℃であり、
および未再結晶温度はTnrと共に指定され、および(andis)以下のように算出され:
(7)Tnr[℃]=174*log{%Nb*(%C+12/14%N)}+1444
そこで、%Nb:それぞれのNb含量、
%C:それぞれのC含量、
%N:それぞれのN含量であり;
e)完成した(finished)熱延ホットストリップを、15K/sよりも速い冷却速度により350-600℃のコイリング温度に冷却すること;
f)コイリング温度HTまで冷却されたホットストリップを、コイルを形成するために巻き取ること、およびホットストリップをコイルにおいて冷却すること
を含む、方法。
【請求項9】
前記鋼は、「Ni、B、
V」からの一の元素または複数の元素をさらに含み、かつ「Ni、B、
V」の随意に加えられる元素の含量について、Ni含量
は0.3%までであり、B含量は0.005%までであり
、及びV含量は
0.15%までであ
る、請求項8に記載の平鋼生産物を製造するための方法。
【請求項10】
次の式
(3)HvB=-323+185%C+330%Si+153%Mn+65%Ni+144%Cr+191%Mo+(89+53%C-55%Si-22%Mn-10%Ni-20%Cr-33%Mo)*lndT/dt
に従って算出される、平鋼生産物のミクロ組織において含まれるベイナイトの理論上の硬度HvB、
および、次の式
(4)Hv=XM*HvM+XB*HvB+XF*HvF
に従って算出される、平鋼生産物の理論上の合計硬度Hvについて
以下:
|(Hv-HvB)/Hv|≦5%
が適用され、
そこで
(5)HvM=127+949%C+27%Si+11%Mn+8%Ni+16%Cr+21*IndT/dt
(6)HvF=42+223%C+53%Si+30%Mn+12.6%Ni+7%Cr+19%Mo+(10-19%Si+4%Ni+8%Cr-130%V)*ln dT/dt
%C:複合相鋼のそれぞれのC含量;
%Si:複合相鋼のそれぞれのSi含量;
%Mn:複合相鋼のそれぞれのMn含量;
%Ni:複合相鋼のそれぞれのNi含量;
%Cr:複合相鋼のそれぞれのCr含量;
%Mo:複合相鋼のそれぞれのMo含量;
%V:複合相鋼のそれぞれのV含量;
ln dT/dt:K/sにおいてt 8/5冷却速度の自然対数
XM:面積%において平鋼生産物のミクロ組織のマルテンサイトの割合、
XB:面積%において平鋼生産物のミクロ組織のベイナイトの割合、
XF:面積%において平鋼生産物のミクロ組織のフェライトの割合
であることを特徴とする、請求項8又は9に記載の平鋼生産物の製造方法。
【請求項11】
平鋼生産物のミクロ組織においてフェライトが存在する場合に、次の式
(3)HvB=-323+185%C+330%Si+153%Mn+65%Ni+144%Cr+191%Mo+(89+53%C-55%Si-22%Mn-10%Ni-20%Cr-33%Mo)*lndT/dt
に従って算出される、平鋼生産物のミクロ組織において含まれるベイナイトの理論上の硬度HvB、
および、次の式
(6)HvF=42+223%C+53%Si+30%Mn+12.6%Ni+7%Cr+19%Mo+(10-19%Si+4%Ni+8%Cr-130%V)*ln dT/dt
に従って算出される、平鋼生産物のミクロ組織において含まれるフェライトの理論上の硬度HvFについて
以下:
|(HvB-HvF)/HvB|≦35%
が適用され、
そこで、%C:複合相鋼のそれぞれのC含量;
%Si:複合相鋼のそれぞれのSi含量;
%Mn:複合相鋼のそれぞれのMn含量;
%Ni:複合相鋼のそれぞれのNi含量;
%Cr:複合相鋼のそれぞれのCr含量;
%Mo:複合相鋼のそれぞれのMo含量;
%V:複合相鋼のそれぞれのV含量;
lndT/dt:K/sにおいてt 8/5の冷却速度
であることを特徴とする、請求項8~10のいずれか1項に記載の平鋼生産物の製造方法。
【請求項12】
作業ステップd)において、温度範囲RLT-RSTにおいて圧延するとき縮小比d0/d1は少なくとも2であることを特徴とする、請求項8~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
温度範囲RLT-RSTにおいて圧延することによって作業ステップd)で全体的に達成される縮小比d0/d1は少なくとも6であることを特徴とする、請求項8~12に記載の方法。
【請求項14】
作業ステップe)において、冷却速度は25K/sよりも速いことを特徴とする、請求項8~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
熱延最終温度WETが870℃未満である場合において、コイリング温度HTは350-460℃であることを特徴とする、請求項8~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
熱延最終温度WETが少なくとも870℃である場合において、コイリング温度HTは350-550℃であることを特徴とする、請求項8~15のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にベイナイトミクロ組織を有する複合相鋼からなり、および優れた機械的性質、優秀な溶接適性および最適な穴拡がり能力において実証される良好な変形性をもつ、熱延平鋼生産物に関する。
【0002】
本発明はさらに、本発明による平鋼生産物の製造のための方法に関する。
【0003】
本発明による鋼において個々の元素の合金含量についての情報がこのテキストにおいて与えられる場合、これは別なふうに示さない限り、常に重量に関連する(重量%での情報)。対照的に、本発明による鋼のミクロ組織の割合に関する情報は、このテキストにおいては、別なふうに示さない限り、本発明による鋼から生産される生産物の切断面でのそれぞれの構造成分が有する割合に関する(面積%での情報)。
【0004】
本発明による平鋼生産物は、圧延生産物で、例えば、鋼ストリップ、鋼シートまたはカットアウト(切り抜き、cut-outsなどとも言う)およびそれから得られるパネルなどのようなものであり、それらの厚さは本質的にそれらの幅および長さよりも小さい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
大部分にベイナイトまたはフェライト組織を有する熱延の、高強度鋼シートは優れた成形性(superior formabilityIn)を有するべきであることが欧州特許EP 1 636 392 B1から知られる。この先行技術の意味では、そのような鋼シート(鋼板、steel sheetsなどとも言う)はそれらが少なくとも440MPaの引張強度を有する場合、高強度と考えられる。対応して提供される鋼シートは、鉄および不可避的不純物に加え、(重量%にて)C:0.01-0.2%、Si:0.001-2.5%、Mn:0.01-2.5%、P:0.2%まで、S:0.03%まで、Al:0.01-2%、N:0.01%まで、およびO:0.01%までからなるべきであり、そこで鋼はまた随意に合計で0.001-0.8重量%のNb、TiまたはV、およびB:0.01%まで、Mo:1%まで、Cr:1%まで、Cu:2%まで、Ni:1%まで、Sn:0.2%まで、Co:2%まで、Ca:0.0005-0.005%、Rem:0.001-0.05%、Mg:0.0001-0.05%、Ta:0.0001-0.05%も含むことができる。
【0006】
さらに、熱延平鋼生産物は、国際公開WO2016/005780A1から知られ、それは680MPaを超え、および840MPaまでの降伏強度、780-950MPaの強度、10%を超える破断点伸びおよび少なくとも45%の穴拡がりを有する。平鋼生産物は鋼からなり、それは(重量%で)0.04-0.08%のC、1.2-1.9%のMn、0.1-0.3%のSi、0.07-0.125%のTi、0.05-0.35%のMo、0.15-0.6%、Mo含量が0.05-0.11%の場合、または0.10-0.6%のCr、Mo含有量が0.11-0.35%である場合、0.045%まで、0.005-0.1%までのAl、0.002%-0.01%のN、 0.004%までのS、0.020%までのPおよび随意に0.001-0.2%のVをもち、残余は鉄および不可避的不純物である。平鋼生産物のミクロ組織は、70面積%を超える粒状ベイナイト(granular bainite)および20面積%未満のフェライトを含み、ミクロ組織の残余は、下部ベイナイト(lower bainite)、マルテンサイトおよび残留オーステナイトからなり、およびマルテンサイトおよび残留オーステナイトの割合の合計は5%未満である。ミクロ組織に含まれるベイナイトが粒状ベイナイトであり、それがいわゆる上部および下部ベイナイトとは異なるという要件を除けば、最適化された特性プロファイル、特に穴拡がり挙動に関するものを確実にするために、ベイナイトが存在すべき種類および品質に関するさらなる情報は与えられない。
【0007】
鋼の強度が増加することは、大抵は低下した成形性を伴い、エッジ-クラック感受性が変形性の基準となる。カラー付きグルーブ(襟付き溝、Collared groovesなどとも言う)、貫通孔またはリリーフ穴(逃げ孔、relief holesなどとも言う)は、平鋼生産物またはそれから形成される構成要素中に成形されたエッジ、特に打ち抜きまたは切断されたエッジの例であり、それらはさらに異なる様式で変形され、および実用的使用中に負荷をかけられる。そのようなエッジがそれぞれの平鋼生産物またはそれから形成される構成要素の実用的使用中に高負荷に曝露される場合、エッジから破損が生じることがあり、それが最終的に構成要素の故障につながる。
【0008】
金属シート構成要素の典型的な例、そこではエッジ-クラック感受性が特に重要であり、それはビヒクル(車両)の車体または構造用部品(structural components)である。開口、凹所(recesses)またはその種の他のものなどは、構成要素または軽量構造要件を目的としたそれぞれの機能を満たすために、これらの構成要素中に切り込まれる(cut into)ことが多い。運転の間、構成要素は高度に動的に変化する負荷にさらされ、それは例えば、劣悪な道路(poor road)を走行するビヒクルにおいて生じ、およびそれによって大きな衝撃負荷にさらされる。実用的検討は、再三再四、損傷が破損から生じ、それは構成要素の切断端から発生することを示す。
【0009】
ここで問題の種類の鋼から作成される構成の形状(shape of constructions)の複雑さが増し、および鋼の強度に対してますます大きな要求が課されるので、最大化された強度をもつだけでなく、エッジ-クラックについて低い傾向をも有する鋼物質が必要とされる。ISO 16630:2009に従って決定される穴拡がり能力は、通常、エッジ-クラックについての傾向のための尺度として用いる。検査条件は、現実的なモデリングについて標準に従って許容される広い範囲内で選ばれ、その結果、それらは穴拡がり能力に対する最も高い要求を反映する。
【0010】
先行技術の背景に対して、目的は平鋼生産物を開発することであり、それは広い温度範囲にわたって最小化されたエッジ-クラック感受性(minimised edge-crack sensitivity)をもち、および鋼からなり、それは可能な限り費用に対して効果的である合金元素から構成され、および慣習的な溶接方法による溶接について良好な適合性をはっきり示す。
【0011】
それ以外に、そのような平鋼生産物を製造するための方法が示されるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
平鋼生産物に関して、本発明はそのような平鋼生産物が出願時請求項1に従って形成されるようにこの目的を達成した。
【0013】
本発明による前述の目的を解決する方法を、出願時請求項10に指し示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の有益な実施形態は出願時従属形式請求項に規定され、および本発明の一般的な概念の様に、以下に詳細に説明する。
【0015】
本発明に従う熱延平鋼生産物(hot rolled flat steel product)はそれに応じて複合相鋼(complex-phase steel)から作成され、専門用語においてまた「CP鋼」とも称され、および本発明に従う状態において、少なくとも60%のISO 16630:2009に従って定められる穴拡がり(hole expansion)、いずれの場合でも、DIN EN ISO 6892-1:2014に従って定められ、少なくとも660MPaの降伏強度(yield strength)Rp0.2、少なくとも760MPaの引張強度(tensile strength)Rmおよび少なくとも10%の破断点伸び(elongation at break)A80をもつ。
【0016】
本発明に従う熱延平鋼生産物の複合相鋼は、本発明に従い、次のもの(重量%にて)
C:0.01-0.1%、
Si:0.1-0.45%、
Mn:1-2.5%、
Al:0.005-0.05%、
Cr:0.5-1%、
Mo:0.05-0.15%、
Nb:0.01-0.1%、
Ti:0.05-0.2%、
N:0.001-0.009%、
P:0.02%未満、
S:0.005%未満、
Cu:0.1%まで
Mg:0.0005%まで、
O:0.01%まで、
各場合において随意に、以下の規定(following stipulation)を伴う群「Ni、B、V、Ca、Zr、Ta、W、REM、Co」からの一の元素または複数の元素
Ni:1%まで
B:0.005%まで
V:0.3%まで
Ca:0.0005-0.005%、
Zr、Ta、W:合計で2%まで、
REM:0.0005-0.05%、
Co:1%まで、
および残余として鉄および製造関連の不可避不純物
からなり、
そこでTi、Nb、N、CおよびSの複合相鋼の含量は以下の条件:
(1)%Ti>(48/14)%N+(48/32)%S
(2)%Nb <(93/12)%C+(45/14)%N+(45/32)%S
そこでは、%Ti:それぞれのTi含量、
%Nb:それぞれのNb含量、
%N:それぞれのN含量、
%C:それぞれのC含量、
%S:それぞれのS含量で、そこで%Sはまた「0」であることができる
を満たす。
【0017】
本発明に従う熱延平鋼生産物のミクロ組織(microstructure)は、少なくとも80面積%のベイナイト、15面積%未満のフェライト、15面積%未満のマルテンサイト、5面積%未満のセメンタイトおよび5容量%未満の残留オーステナイトからなる。ミクロ組織の残余は、もちろん、ここで言及されていないような相によって占有することができるが、それは技術的に避けられない存在であり、およびそれは本発明に従って提供される平鋼生産物の特性に影響を与えないような低い割合で存在する。
【0018】
上述したように、本発明に従う平鋼生産物のミクロ組織の構成要素は面積%において示され、光顕微鏡によってそれ自体既知の様式において定められる。この目的のために、断面研磨(クロス-セクションポリッシュ、cross-section polishes)が考慮される。実際、そのプロセスは次いで、例えば、それぞれの構造相「ベイナイト」、「フェライト」、「マルテンサイト」および「セメンタイト」の面積の割合を決定するために次のように行うことができる。
【0019】
断面研磨は、いずれの場合も、平鋼生産物のスタートおよびエンドにて、熱延方向に関して、平鋼生産物の幅にわたって分布する五つの位置にて、およびすなわちエッジ(縁部、edgeなどとも言う)領域で、それが平鋼生産物の左側エッジから10cm離れるものから、平鋼生産物の領域で、それが左側エッジまでの距離に配置され、それが平鋼生産物の幅の四分の一に相当するものから、平鋼生産物の中間(幅の半分)の領域から、平鋼生産物の領域で、それが平鋼生産物の右側エッジまでの距離に配置され、それが平鋼生産物の幅の四分の一に相当するものから、およびエッジ領域で、それが平鋼生産物の右側エッジからおおよそ10cm離して配置されるものから除去される。研磨は、コア層においてストリップ厚さ、1/3のシートメタル厚さおよび双方の表面にわたり調べる。研磨は光学顕微鏡検査用に研磨し、および1%HNO3酸でエッチングする。各層において1000倍の倍率を有する三つの画像を撮影する。評価された画像の詳細は、例えば、46μm×34.5μmである。サンプルについて決定されたすべての画像の詳細な結果は算術的に平均する。
【0020】
容量%において示される残留オーステナイトの割合は、DIN EN 13925に従ってX線回折(XRD)を使って定める。
【0021】
本発明による平鋼生産物は、少なくとも60%の穴拡がりによって特徴付けられ、少なくとも80%の穴拡がりがしばしば達成される。本発明による平鋼生産物の穴拡がりは、以下の情報を考慮してISO 16630:2009によってあらかじめ定める取組みの一部として定められ:直径50mmを有するテストスタンプを用いる。テストスタンプのトップアングル(頂角)は60°である。テストマトリクスの内径は40mmである。テストマトリクスの半径は5mmである。押さえ装置(hold-down device)の直径は55mmである。穴の穿孔は追加の潤滑剤なしで4mm/sの穿孔速度で行う。穴を開けるときの押さえ装置の力は50+/-5MPaである。押さえ装置およびテストマトリクス間の穴拡がりテスト中に加えられる押さえ装置の圧力も、追加の潤滑剤なしで50+/-5MPaである。テスト温度は20℃である。スタンプ速度は1mm/sである。熱延鋼ストリップのサンプルをテストする。サンプルはいずれの場合もストリップのスタートから、およびストリップのエンドから生じる。それらは、鋼ストリップの左側および右側エッジ領域から、領域で、それがストリップの幅の四分の一に相当する距離に配置されるものから、鋼ストリップの左側エッジから、領域で、それがストリップ幅の四分の一に相当する距離にて配置されるものから、鋼ストリップの右側エッジから、およびストリップ中央の領域から除かれる。各テストについて、二つのサンプルを位置ごとにテストする(左側エッジ、ストリップ幅の左側四分の一、ストリップ中央、ストリップ幅の右側四分の一、右側エッジ領域)。ストリップのすべてのサンプルの結果は算術的に平均する。
【0022】
本発明に従って構成される平鋼生産物はまた、少なくとも660MPa、典型的には660-830MPaの降伏強度Rp0.2、少なくとも760MPaの引張強度Rm、および少なくとも10%の破断点伸びA80(いずれの場合も、DIN EN ISO 6893-1:2014に従って決定される)を、著しい降伏点を示さずに有する。
【0023】
本発明による平鋼生産物の鋼は、目下のバージョンにおいて、DIN EN ISO 148に従って、少なくとも27JのタイプIIのノッチバー衝撃強度-温度曲線(notch-bar impact strength-temperature curve)に対応する高いノッチバー衝撃値を、高い穴拡がり値によって特徴付けられるその延性およびエッジ-クラック感受性がまた低温でも維持されるように、-80℃までのテスト温度を用いて定めた。
【0024】
本発明による平鋼生産物のミクロ組織は、少なくとも80面積%のベイナイトからなり、技術的な意味での十分なベイナイト構造は、本発明による鋼の望ましい特性の組合せに関して特に有利であることを証明する。したがって、他の構造成分の割合、特にフェライトおよびマルテンサイトの割合も可能な限り低いのが最適である。
【0025】
さらに、フェライト含量が増加するにつれて、著しい降伏強度が発現するであろう。この理由のため、本発明は、本発明による平鋼生産物のミクロ組織においてフェライトの割合が低く保たれるべきであり、いずれにしても15面積%より低く、特に10面積%より低く、最適には、5面積%より低くあるべきと考えられる。
【0026】
同様に、本発明による平鋼生産物のミクロ組織においてマルテンサイトの割合は、15面積%未満、特に10面積%未満、または最適には5面積%より低い。
【0027】
本発明は、特別な意義が本発明による平鋼生産物のミクロ組織においてベイナイトの合計割合、および機械的性質、特に高い穴拡がり値の望ましい最適化された調整に関するベイナイトの品質に起因すると考え、それは本発明による平鋼生産物が達成する。
【0028】
ベイナイトのミクロ組織組成は非常に複雑である。簡単に言えば、ベイナイトは高転位フェライト(dislocation-rich ferrite)および炭化物の非層状構造混合物(non-laminar structural mix)であると言うことができる。加えて、さらなる相、例えば、残留オーステナイト、マルテンサイトまたはパーライトなどのようなものが存在することができる。ベイナイト変態は、ミクロ組織(微細構造とも言う)において核形成部位、例えば、オーステナイト粒界にて始まる。フェライトプレート、いわゆる「サブユニット」は、起点からオーステナイトに成長し、それは、最大0.03重量%の溶解したCを有する高転位のフェライトベイナイト(ferritic bainite)からなる。それらは、オーステナイト粒状物(オーステナイト結晶粒、austenitic grainとも言う)の配向において互いに対して実際上平行に作り上げられ続け、および従っていわゆる「シーフ(束)」、すなわち「バンドル(包み)」または「パケット」を形成する。サブユニットは、小角の粒界(low-angle grain boundaries)によって互いに隔てられるだけであり、その上に炭化物もまた存在し得るが、炭化物それら自体は何ら含まない。対照的に、シーフは、オーステナイト粒状物の内側で、それらが障害物または別のものと遭遇するまで成長し続ける。したがって、多数のシーフが先のオーステナイト粒状物の内部に存在し、それらは互いに角度>45°を有する多くの高角の粒界をもつ。シーフ間の可能な限り多くの高角の粒界は、良好な耐エッジ-クラック性を達成するのに有益であり、それはそれらが微小亀裂の発生および広がりに対する障害として働くからである。
【0029】
実験室における等温変態(isothermic transformation)の場合、シーフは主に著しく細長い形状を形成する。対照的に、コイルにおいて連続冷却の間に、それは実際には関連性があり(isrelevant)、いわゆる「粒状」ベイナイトが発生する。この種のベイナイト形状では、シーフは円盤状(プレート状、plate-shapedとも言う)である。
【0030】
これらの構造上の特殊性のため、本発明による種類のベイナイト組織に対する「微細構造」の定義は特に困難である。これに関する標準はない。ベイナイト組織の細かさを決定する一つの可能性は、先の「平らに広げた(パンケーキ化した、pancaked)」オーステナイト粒状物の厚さを測定することであることができ、EBSD(「EBSD」=電子後方散乱回折(Electron BackScatter Diffraction))を使って定めることができる。大抵は、シーフの数はオーステナイト粒界が減少するにつれて増加し、すなわち、シーフはより一層小さく、そして従って構造はより一層微細であると仮定することができる。
【0031】
本発明による平鋼生産物の場合、そのベイナイト組織のため、いわゆるLuders(リューダース)伸び(Luders elongation)を伴う顕著な降伏強度が欠けている。本発明による平鋼生産物の主としてベイナイトの組織のシーフ幅の(widthof)おおよそ二倍の転位の低い平均自由行程のため、転位前面(dislocation front)の形態において相互作用を構成することができず、そこでは転位および外来原子は、いわゆる「コットレルクラウド(cottrell clouds)」の形成によって相互に動的に影響を受け、および言及したリューダース伸びをもたらすであろう。
【0032】
顕著な降伏強度の欠如のため、本発明による平鋼生産物の最適な挙動は、例えば、管または通路を形成する場合などのように、変態中に確実にされる。本発明に従って構成される複合相鋼の合金成分の影響を以下に詳細に説明する。合金元素の場合において、それらの含量についてそれぞれの場合にただ一つの上限しか示されておらず、問題の合金元素の含量もそれぞれの場合において「0」に等しいことができ、すなわち、例えば、検出限界の範囲において、またはそれより低く(therebelow)、または技術的な意味において、合金元素が、少なくとも本発明による鋼の特性スペクトルに関して何の影響ももたないように低いことができる。
【0033】
本発明による複合相鋼において、0.01-0.1重量%の炭素の含量「C」は、本発明による鋼のミクロ組織において少なくとも80面積%のベイナイト含量が存在することを確実にする。同時に、これらのC含量はベイナイトの十分な強度を確実にする。適切な炭化物および炭窒化物形成剤(carbonitride former)の存在下で熱機械的圧延中に炭化物および炭窒化物を形成するために、少なくとも0.01重量%のCが必要である。同様に、熱機械的圧延の過程の間の初析晶(proeutectoid)フェライトの形成は本発明に従う鋼において少なくとも0.01重量%のC含量を用いて回避することができる。本発明に従う鋼においてCの存在のプラスの効果は、C含量が少なくとも0.04重量%である場合に特に確実に使用することができる。しかしながら、0.1重量%を超えるCの含量は延性の劇的な低下をもたらし、そしてそれ故に鋼の劣った処理可能性(processability)をもたらすであろう。C含量が高過ぎると、ミクロ組織において望ましくないほど高い割合のフェライト、さらに望まれないほど大きな割合の残留オーステナイトが必然的に伴われ、および加えて望ましくないほど粗大な炭化物が形成されやすくなる。したがって、エッジ-クラックに対する耐性もまた(the resistance to edge-crackwould also)減少するであろう。さらに、溶接適性は、より一層高いC含量と共に減少するであろう。したがって、0.06重量%を超えないように制限された本発明による複合相鋼のC含量により、本発明に従って提供されるC含量の悪影響の可能性を特に効果的に防止することができる。
【0034】
本発明による複合相鋼において、炭化物形成を遅らせるために、ケイ素「Si」が0.1-0.45重量%の含量で含まれる。本発明による複合相鋼においてSiが存在する結果として達成されるより一層低い温度での析出物のシフトのため、より一層微細な炭化物が達成される。これは、本発明による鋼の変形能を最適化するのに寄与する。本発明により提供される含量においてSiもまた固溶体硬化による強度の増加に寄与する。この目的のために、少なくとも0.1重量%、最適には少なくとも0.2重量%のSi含量が必要である。0.45重量%を超えるSiの含量の場合、表面近くで偏析(segregation)の危険性があるであろう。これらの偏析は、表面誤差を生じさせ、および溶接適性を低下させるだけでなく、またむしろ金属保護層、特に、Zn系(Znベースの)保護層で被覆する、例えば、溶融めっき(溶融亜鉛めっき、hot dip coatingとも言う)または電解コーティングによるもののための、本発明による鋼から作成された生産物、特に、平鋼生産物、例えば、金属シートまたはストリップなどのようなものの適性を悪化させる。本発明による鋼においてSiが存在することによる悪影響を特に確実に回避するために、Si含量をせいぜい最大0.3重量%に制限することができる。
【0035】
マンガン「Mn」は、本発明による複合相鋼において1-2.5重量%の含量で含有される。Mnは、強力な固溶体硬化を引き起こし、オーステナイト形成剤としてオーステナイトからフェライトへの変態の動力学を遅らせ、およびそれ故ベイナイト開始温度の低下に寄与する。低いベイナイト開始温度は熱力学的圧延に有利に影響する。MnSを形成することによって、Mnはまた、この目的のために、十分な量の他の元素、例えば、Tiなどのようなものが存在せず、本発明に従って構成されるそれぞれの合金鋼において、本発明によるSの結合を提供される場合、技術的に不可避の不純物として存在する硫黄の含量の結合にも寄与する。高温割れはSの結合のせいで回避することができる。Mnのこれらのプラスの効果は、特にMn含量が少なくとも1.7重量%である場合、本発明に従って構成される鋼において用いることができる。しかしながら、過度に高いMn含量は偏析が発生する危険性を必然的に伴うであろうし、それは不均一性をもたらし、また一方で本発明による鋼材の特性を分散させることがある。本発明による鋼の生産および変形はまた、過度に高いMn含量の場合においてより一層困難でもあろう。これらの悪影響はまた、特に確実に回避することができ、それは本発明による鋼のMn含量がせいぜい1.9重量%に制限されるからである。
【0036】
アルミニウム「Al」は0.005-0.05重量%の含量で、本発明による鋼の生産のために脱酸用に使用される。この目的のためには、少なくとも0.02重量%のAl含量が有益であり得る。しかしながら、過度に高いAl含量は鋼の鋳造性(可鍛性、castabilityなどとも言う)を低下させるであろう。
【0037】
一方、クロム「Cr」は、溶解形態での初析フェライト形成を高温で遅らせる(相変態遅延)。さらに、本発明による合金概念(alloy concept)では、特にベイナイト変態中に残留オーステナイトにおいてC拡散を減少させるために、Crが添加される。比較的低い温度の場合において、すなわちベイナイト変態の温度範囲では、Crだけが炭化物を形成する。結晶格子において溶解炭素は残存し、それは通常、変態した構造領域からオーステナイト領域に拡散するであろうが、炭素含量>0.03%Cが局所的に生じると直ちにCrによって大部分結合される(例えば、(Cr, Fe)4C、(Cr, Fe)7C3)。結果として、オーステナイトはCの豊富化(enrichment)によって安定化することができない。したがって、本発明による鋼の構造において、より一層大きな割合の残留オーステナイトが避けられる。さらなるプラスの効果は、マルテンサイト開始温度(Ms温度)が低下することである。更なる冷却プロセスにおいて残留オーステナイトがベイナイト的にではなくマルテンサイト的に変態する確率がこれにより低下する。それ故、著しい硬度差を有する相は大部分回避され、およびエッジ-クラック感受性は減少する。これらの効果を達成するために、本発明による平鋼生産物の鋼はCrを0.5-1重量%の含量において含有する。Crの好ましい効果を特に確実に使用することができ、それは本発明による鋼のCr含量が少なくとも0.6重量%、特に少なくとも0.65重量%だからである。ここでは、少なくとも0.69重量%のCr含量が特に有益であることがわかった。0.8重量%までのCr含量は特に効果的な影響をもつ。
【0038】
モリブデン「Mo」は、0.05-0.15重量%の含量で、本発明による鋼において微細な炭化物または炭窒化物の形成をもたらす。それらは、熱延プロセスにおいてオーステナイトの再結晶化を遅延させ、および以下にさらに詳細に説明するように、非再結晶化温度Tnrを上昇させることによって組織微細化(structural refinement)に寄与する。微細構造および微細炭化物により強度増加を達成する。この効果はまた、本発明による鋼において本発明に従って提供されるNbが同時に存在することによっても増大する。Moはまたすべての相変態プロセスを遅らせる。この遅れは、TTT図におけるフェライト/ベイナイト相フィールドの空間的分離をもたらすことができる。同時に、Moはベイナイト開始温度、すなわちベイナイト形成が始まる温度を下げる。Moはまた、さらなる元素(例えば、リン)の粒界偏析を抑える。本発明による鋼の場合、これらの効果も利用するために、Mo含量は少なくとも0.05重量%、特に少なくとも0.1重量%である。先行技術において、Moのプラスの効果は、それぞれの場合に必要とされる高い機械的特性、例えば、最適化された穴広がり能力などのようなものを設定するために利用する。高いコストのせいで、それは高いMo含量に関連するが、しかし、本発明による鋼のMo含量は、費用対便益比(cost-benefit)の観点からせいぜい0.15重量%に制限される。同時に、本発明による鋼のC、NbおよびCr含量は、本発明により提供される比較的低いMo含量にもかかわらず、機械的性質、特に高い穴拡がり能力が達成されるように設定され、先行技術から知られ、および高Mo含量に基づく合金概念の特性は少なくとも同じである。
【0039】
ニオブ「Nb」は、本発明による鋼においてMoに匹敵する効果を有する。Nbは、微細析出物を形成することによって高温での再結晶化遅延のための最も有効な元素の一つである。Nbを添加することによって、再結晶化および熱機械的圧延のための条件は良い影響を受ける(positively influenced)。これらの効果を達成するために、少なくとも0.01重量%のNbの含量が必要であり、少なくとも0.045重量%の含量が特に有益であると証明された。対照的に、0.1重量%を超えるNb含量は避けるべきであり、それはこの限界を超えるNb含量がより一層粗い炭化物の形成を、および溶接適性の低下をもたらすであろうことからである。本発明による鋼においてNbの効果は、Nb含量が最大値、0.06重量%に制限される場合、特に効果的に用いることができる。実用試験はここで、本発明による鋼の構造において0.045-0.06重量%のNb含量のケースにて、および0.03-0.09重量%のCの同時存在のケースにて、非常に微細なNb炭化物およびNb炭窒化物の粒子が4-5nmの平均直径により達成されることができることを示した。
【0040】
チタン「Ti」はまた、微細な炭化物または炭窒化物をも形成し、それは強力な強度の増加を引き起こす。この目的のため、本発明による鋼は0.05-0.2重量%のTiを含有し、少なくとも0.1重量%のTi含量の場合において、Tiのプラスの効果を使用するのに特に確実である。0.2重量%を超える含量の場合、粒子硬化の効果は、対照的に、大部分飽和する。この点で最適な有効性を達成することができ、それはTi含量が0.13重量%を超えないように制限されるからである。
【0041】
本発明による鋼のTi含量およびN含量は相関的である。高温では、TiNが最初に形成され、その存在もまた機械的性質の改善に寄与することができる。初期に形成されたTiNは、スラブの再加熱中の粒状物成長を抑え、それは粒子が溶解しないからである。
【0042】
本発明による鋼の良好な溶接適性はすべての慣習的な溶接プロセスについて、この点で最適炭素当量によって証明され、それは低く、先行技術において知られるどの方法がそれを計算するために使用されるかにかかわらない。炭素当量を計算するための最も普通の方法の一つは、鋼鉄材料シート(steel iron materials sheet)SEW 088 Supplementary Sheet 1(サプルメンタリー・シート1):1993-10において特定される。本発明による平鋼生産物についてここで定める炭素当量CETは、せいぜい0.45%の値で、好ましくはせいぜい0.30%の値であることが多い。
【0043】
溶接線領域(weld seam region)および熱影響部(heat affected zone)における本発明による平鋼生産物の溶接のための機械的特性値は、本発明による平鋼生産物において含まれる窒化チタンのせいで、TiおよびNの存在の結果として、基材(base material)と同様なレベルに留まり、それらは鋼が生産されるとき溶融物において既に形成され、および溶接プロセスにおいて溶解しない。窒化チタンは顕著な粒状物粗大化を効果的に妨げ、および同時に溶融物内部の結晶改質のための核として作用する。
【0044】
初期に形成されたTiN粒子のサイズは、特にTi:N比に依存する。Ti/N比の値が大きくなるほど、鋼の凝固中に、より一層微細に分布したTiN粒子がおおよそ1300℃の温度から析出し、それはすべてのN原子がTi原子と迅速に結合を形成することができるからである。TiN析出物の微細な分布および小さい初期サイズのために、粒子の過度な成長が防止され、それはスラブ冷却および炉キャンペイン(furnace campaign)中に1300-1100℃の間でOstwald ripening(オストヴァルト熟成)の結果として別なふうに起こることができた。この効果を裏付けるために、Ti含量%TiおよびN含量%Nによって形成される比%Ti/%Nを、%Ti/%N>3.42に設定することができる。
【0045】
窒素「N」は、窒化物および炭窒化物の形成を可能にするために、本発明による鋼において0.001-0.009重量%の含量で含まれる。この効果は、少なくとも0.003重量%のN含量を用いて特に確実に達成することができる。同時に、本発明による鋼のN含量は最大0.009重量%を有し、粗いTi窒化物が大部分回避されるように制限される。これを特に確実に達成するために、N含量を最大0.006重量%に制限することができる。
【0046】
硫黄「S」およびりん「P」は、大抵は本発明による鋼の望ましくない不純物成分に属するが、溶融の過程で技術的に不可避的に鋼に入る。しかしながら、ベイナイト概念(bainitic concept)の場合において低いエッジ-クラック感受性のために、特にS含量をできるだけ低く設定することが重要である。Sは、Mnと延性結合(ductile bond)MnSを形成する。この相は熱延中に圧延方向に延び、および他の相と比較して強度が低いためにエッジ-クラック感受性に著しく悪影響を与える。したがって、硫黄含量は二次冶金プロセスにおいてできるだけ低く設定すべきである。本発明に従って提供されるTiの含量は、この点でSを結合するために使用することもでき、それはTiがSと硫化チタン(TiS)を形成するか、またはCと一緒に炭硫化チタン(titanium carbosulphide)(Ti4C2S2)を形成するからである。これらの硫化物は、MnSよりも著しく高い硬度を有し、および熱延中にほとんど伸びないので、圧延後に有害なMnS線は存在しない。したがって、本発明による鋼の特性への悪影響を回避するために、そのS含量は、せいぜい0.005重量%に、特にせいぜい0.001重量%に、およびそのP含量はせいぜい0.02重量%に制限される。
【0047】
条件(1)
%Ti>(48/14)%N +(48/32)%S
を用い、本発明による鋼のTi含量%Ti、N含量%NおよびS含量%Sは、TiNによるベイナイト変態のための核形成部位の十分な形成および最適化された微細な粒状性(粒度とも言う)が溶接後に保証されるように互いに関連して設定する。
【0048】
同時に、
本発明による鋼のNb含量%Nb、C含量%C、N含量%NおよびS含量%Sは、最適化された微細な粒状性が十分な数の核形成部位を形成すること、および以前に発生したTiによるNの結合を考慮に入れたNb(C, N)の形成による最適化された強度によって達成されるように互いに適合される。これは次の関係によって表すことができる。
%Nb<(93/12)%C+[(93/14)%N-(48/14)%N]+(45/32)%S
それは次に条件(2)
%Nb<(93/12)%C+(45/14)%N+(45/32)%S
を与える。
【0049】
銅「Cu」もまた、鋼生産の過程において、大抵は避けられない副元素(by-element)として本発明による鋼に入る。より一層高い含量のCuの存在は、強度の増加にごくわずかにしか寄与しないであろうし、およびまた鋼の変形能に悪影響を及ぼすであろう。したがって、Cuの負の作用を防ぐために、本発明による鋼においてCu含量はせいぜい0.1重量%、特にせいぜい0.06重量%に制限される。
【0050】
マグネシウム「Mg」はまた本発明による鋼において、鋼生産の過程で不可避的に鋼に入る副元素を表す。本発明による鋼を生産するとき、脱酸するためにMgを用いることができる。この場合において、Mgは、OおよびSと共に微細な酸化物または硫化物を形成し、それは、粒成長を減少させることによって、それぞれの溶接点を囲む熱影響部の領域において溶接中の鋼の延性に有利に作用することができる。しかしながら、より一層高いMg含量の場合、鋼を連続キャスティングで鋳造するとき時期尚早の局所的目詰まりによる浸漬管の追加の危険性が高まる。この危険を防止するために、本発明による鋼のMg含量は最大0.0005重量%に制限される。
【0051】
本発明による鋼の酸素「O」の含量は、鋼を脆くする危険を伴うであろう粗大な酸化物の発達を防ぐために最大0.01重量%に制限される。
【0052】
「Ni、B、V、Ca、Zr、Ta、W、REM、Co」の群からの一または複数の元素は、一定の効果を達成するために、本発明による鋼に随意に添加することができる。この場合、この群のそれぞれ随意に存在する合金元素の含量には以下の規定が適用される:
【0053】
ニッケル「Ni」は、1重量%までの含量で存在し得る。Niはここで鋼の強度を増す。同時に、Niは低温延性の改善に寄与する(例えば、Charpy(シャルピー)DIN EN ISO 148:2011によるノッチ付きバー衝撃試験)。さらに、Niの存在は溶接線の熱影響部において延性を改善する。しかしながら、達成される本発明による鋼の基本的な延性は、その大部分のベイナイト構造のおかげでほとんどの用途にとって十分である。したがって、Niはこの性質での更なる増加が求められる場合にだけ必要に応じて添加される。費用/便益の観点から、Ni含量の最大0.3重量%がこれに関して特に好都合であることが証明された。
【0054】
ホウ素「B」は、随意に、ベイナイト変態を遅らせ、および本発明による鋼のミクロ組織において針状組織の発達を支えるため、本発明による鋼に添加することができる。Bは、特にNbまたはVと組み合わせて、変態の遅延のこの強化を引き起こす(フェライト/ベイナイトおよびベイナイト/マルテンサイト)。VおよびBが同時に存在する場合、本発明による鋼は、時間-温度変態図(TTT図)において、非常に良好な際立ったベイナイトフィールドをもち、それは、例えば、5-50℃/sの比較的低く、および広範囲の冷却速度と共に鋼を冷却する場合に達成することができる。しかしながら、BおよびNbが組み合わされて存在する場合、Nb(CN)析出物のサイズにおいて著しい増加、およびこの結果として、パケットサイズおよびベイナイトのニードルの長さの増加が起こることがある。また、粒界偏析の危険性としても、Bの存在の悪影響は避けることができ、それはB含量が最大0.005重量%、特に0.003重量%に制限されるからであり、少なくとも0.0015重量%の含量の場合、Bの存在のプラスの効果を確実に使用することが可能である。
【0055】
バナジウム「V」はまた、随意に、鋼の構造において微細なV炭化物またはV炭窒化物を得るために、および上記で説明したように、TTT図における顕著に露出したベイナイトフィールドの形成を支持するためにBと組み合わせて、本発明による鋼に添加することもできる。これらのプラスの効果は鋼において少なくとも0.06重量%のVが含まれる場合、確実に使用することができる。Vの存在の負の衝撃、例えば、Nb粒子と組み合わされてVから生じる粗いクラスターの形成などのようなものは、防止され、それは、本発明に従って合金化された(alloyed)鋼においてV含量はせいぜい0.3重量%、特にせいぜい0.15重量%に制限されるからである。
【0056】
さらなる選択肢として、カルシウム「Ca」は本発明による鋼において特に、0.0005-0.005重量%の含量で、非金属含有物(non-metallic inclusions)(主に硫化物、例えば、MnS)の成形を生じさせるため、存在することができ、それは、あれば、エッジ-クラック感受性を高めることができた。同時に、Caは脱酸のための安価な元素であり、それは例えば、本発明による鋼において有害なAl酸化物の発生を確実に防止するために、特に低い酸素含量が設定されるべきと考えられる場合である。さらに、Caは鋼において存在するSの結合の一因となることができる。Caは、Alと一緒に、ボール状のカルシウムアルミニウム酸化物を形成し、および硫黄をカルシウムアルミニウム酸化物の表面に結合させる。
【0057】
ジルコニウム「Zr」、タンタル「Ta」またはタングステン「W」はまた、随意に、炭化物または炭窒化物の形成によって微細粒構造の発達を支持するために、本発明による鋼に添加することもできる。この目的のために、費用/便益の観点から、および本発明による鋼の冷間成形性の損傷に類似して、過度に大きな含量の存在の起こり得る悪影響に関して、本発明による鋼においてZr、Taの含量またはWの含量はまた、Zr、TaおよびWの含量の合計がせいぜい2重量%であるように設定される。
【0058】
希土類金属「REM」は、非金属含有物(大部分は硫化物、例えば、MnS)を成形し、および鋼の脱酸をそれが生産されるときに生じさせるために、0.0005-0.05重量%の含量において本発明による鋼に添加することができる。同時に、REMは粒状物の細かさに寄与することができる。0.05重量%を超えるREMの含量は、そのような高い含量が目詰まりの危険性を伴い、およびそれ故に鋼の鋳造性を損なう可能性があるので、避けるべきである。
【0059】
さらに随意に添加される元素として、コバルト「Co」は、本発明による鋼において、粒成長を抑制することによって本発明による鋼において微細構造の発達を支持するために存在してもよい。この効果は、1重量%までのCo含量の場合に達成される。
【0060】
鋼を設計する一方、それは本発明による平鋼生産物からなり、従って、本発明は次の着想に基づき、それはモリブデンの低い含量だけを用いるべきであること、Moの完全な置換は目的にかなっていないというものである。したがって、本発明による鋼は0.05-0.1重量%のMoの必須元素を含有する。同時に、炭素含量が非常に少ない場合において、CrおよびNbの含量は、より一層高いMo含量を有する先行技術から知られる有利な効果を置き換えるために、本発明による鋼において存在する。最適化された析出挙動は、本発明によるC、Mo、CrおよびNbの組合せによって達成される。
【0061】
このために不可欠な手段は、本発明による平鋼生産物の鋼において本発明に従って行われる元素Ti、Nb、Cr、Mo、C、Nの含量の設定である。炭素提供(carbon offering)は、可能な限り微細な粒子の沈殿が促進されるほど低く設定されるが、同時にそれが十分に多くの数の沈殿物の形成をもたらすほど高く設定される。この場合、CとMo、NbおよびCrとの相互作用が決定的である。MoおよびNbは、同様の炭化物形成温度を有し、および炭化物形成に関してそれらの効果を相互に強化する。本発明により提供される炭化物形成剤のために、炭化物はより一層微細であり、結果として、それらは熱機械的圧延中にオーステナイトの再結晶化をさらに一層強く遅らせ、および結果として平鋼生産物において得られるベイナイトの構造的微細度に特に強く寄与する。
【0062】
合金元素C、Si、Mn、Ni、CrおよびMoの含量の適切な組合せによって、平鋼生産物の構造における硬度は、硬度を設定するために決定的な冷却速度(cooling rates)を同時に考慮に入れつつ、特に影響を及ぼすことができる。大きな穴拡がりを達成するために、それらが互いからそれほど大きく逸脱し過ぎないように相比率の硬度(the hardnesses of the phase proportions)を設定することが中心的な目的である。固溶体硬化および析出物の形成の双方が重要である。
【0063】
予め上述したように、最適化に関するベイナイトの品質は本発明に従い達成され、本発明による平鋼生産物の機械的性質のもので、特に重要である。本発明による平鋼生産物の優れた穴拡がり能力は、とりわけ、本発明による平鋼生産物の構造において含まれるベイナイトの硬度を合計硬度に関して適切に適合させることによって達成される。
【0064】
したがって、本発明による平鋼生産物の構造において特に均質な硬度分布および最高の要件をも満たす関連する穴拡がり能力は、確実にすることができ、その理由は、本発明による平鋼生産物の鋼の合金含量が互いに適合されるからであり、それは以下の式に従って算出される、平鋼生産物のミクロ組織において含まれるベイナイトの理論上の硬度(theoretical hardness)HvB
(3)HvB=-323+185%C+330%Si+153%Mn+65%Ni+144%Cr+191%Mo+(89+53%C-55%Si-22%Mn-10%Ni-20%Cr-33%Mo)*ln dT/dt
および、以下の式に従って算出される、平鋼生産物の理論上の合計硬度Hv
(4)Hv=XM*HvM+XB*HvB+XF*HvF
について、以下が適用されるようにされる:
|(Hv-HvB)/Hv|≦5%
次式に従って算出される、平鋼生産物の構造において含まれる可能性があるマルテンサイトの理論上の硬度HvMを有し
(5)HvM=127+949%C+27%Si+11%Mn+8%Ni+16%Cr+21*ln dT/dt
および次式に従って算出される、平鋼生産物の構造において含まれる可能性があるフェライトHvFの理論上の硬度HvFを有し
(6)HvF=42+223%C+53%Si+30%Mn+12.6%Ni+7%Cr+19%Mo+(10-19%Si+4%Ni+8%Cr-130%V)*ln dT/dt
「%C」はそれぞれのC含量を指定し、「%Si」はそれぞれのSi含量、「%Mn」はそれぞれのMn含量、「%Ni」はそれぞれのNi含量、「%Cr」はそれぞれのCr含量、「%Mo」はそれぞれMo含量および「%V」はそれぞれのV含量であり、複合相鋼のもので、それぞれの場合に重量%で示され、「ln dT/dt」はいわゆる「t 8/5冷却速度」、すなわち、冷却速度の自然対数であり、そこで、冷却中に800-500℃の温度範囲を通過し、K/sにおいて示され、「XM」はマルテンサイトの割合、「XB」はベイナイトの割合、および「XF」はフェライトの割合で、平鋼生産物の構造のもので、いずれの場合にも面積%で示される。
【0065】
比(Hv-HvB)/Hvは、理論上の合計硬度およびベイナイト硬度間の硬度差を支配的相(dominating phase)として表し、およびそれ自体、本発明による平鋼生産物の構造において硬度分布の均質性の指標を表す。算出された理論上の合計硬度Hvは、本発明による平鋼生産物の構造の算出された理論上の硬度HvBからせいぜい5%だけ量に関してずれているので、構造において均一な硬度分布が存在することが確実にされる。このようにして、異なる硬度の相は、穴拡がりにおける失敗を引き起こすことがある内側のノッチとして作用し得ることを回避される。全体構造の硬度Hvが本発明による平鋼生産物の構造において支配的なベイナイト相の硬度HvBに近いほど、すなわち硬度Hvおよび硬度HvB間の偏差が小さいほど、本発明による平鋼生産物は穴拡がりの間により一層良好に挙動する。
【0066】
それは同じ目的を果たすことができ、それは、平鋼生産物のミクロ組織においてフェライトが存在する場合に、既に予め述べた次の式に従って算出される、平鋼生産物のミクロ組織において含まれるベイナイトの理論上の硬度HvB
(3)HvB=-323+185%C+330%Si+153%Mn+65%Ni+144%Cr+191%Mo+(89+53%C-55%Si-22%Mn-10%Ni-20%Cr-33%Mo)*ln dT/dt
および次の式に従って算出される、平鋼生産物のミクロ組織において含まれるフェライトの理論上の硬度HvF
(6)HvF=42+223%C+53%Si+30%Mn+12.6%Ni+7%Cr+19%Mo+(10-19%Si+4%Ni+8%Cr-130%V)*ln dT/dt
について、以下が適用される場合である:
|(HvB-HvF)/HvB|≦35%
「%C」はそれぞれのC含量を指定し、「%Si」はそれぞれのSi含量、「%Mn」はそれぞれのMn含量、「%Ni」はそれぞれのNi含量、「%Cr」はそれぞれのCr含量を示し、MoはそれぞれのMo含量および「%V」はそれぞれのV含量であり、複合相鋼のもので、それぞれの場合において重量%で示され、および「ln dT/dt」はいわゆる「t 8/5冷却速度」の自然対数で、K/sにおいて示される。
【0067】
比(HvB-HvF)/HvBは、本発明による平鋼生産物の構造を支配するベイナイト相の理論上の硬度HvBおよびその構造においてまたおそらく存在するフェライト相の理論上の硬度HvF間の差を説明し、それは、より一層柔らかい相として、相境界において潜在的な微小亀裂に対して著しい影響を及ぼすことができる。本発明による鋼の合金成分を互いにマッチさせることによって、平鋼生産物の構造において含まれるベイナイトの、式(3)に従って計算される、理論上の硬度HvBは、鋼の構造においておそらく含まれるフェライトの、式(6)に従って計算される、理論上の硬度から量に関してせいぜい35%だけずれるようにされ、リスクは最小化され、構造において含まれる相から微小亀裂が発生するようにされ、その間により一層高い強度差が生じる。合金成分の含量を適切にマッチさせることで本発明による様式において理論上の硬度HvBおよびHvFの偏差を制限することによって、穴拡がり挙動に関しても最適化された特性分布を、本発明による平鋼生産物において確実にすることができる。
【0068】
本発明によれば、本発明に従って提供される平鋼生産物は本発明による少なくとも以下の作業ステップを完了することによって製造することができる:
a)(重量%で)C:0.01-0.1%、Si:0.1-0.45%、Mn:1-2.5%、Al:0.005-0.05%、Cr:0.5-1%、Mo:0.05-0.15%、Nb:0.01-0.1%、Ti:0.05-0.2%、N:0.001-0.009%、P:0.02%未満、S:0.005%未満、Cu:0.1%まで、Mg:0.0005%まで、O:0.01%まで、およびそれぞれの場合において随意に群「Ni、B、V、Ca、Zr、Ta、W、REM、Co」から一の元素または複数の元素、および残余として鉄および不可避不純物が含まれる、鋼を溶融することであり、そこでは、群「Ni、B、V、Ca、Zr、Ta、W、REM」の随意に加えられる元素の含量について、Ni含量は1%までであり、B含量は0.005%までであり、V含量は0.3%までであり、Ca含量は0.0005-0.005%までであり、Zr、TaおよびWの含量は合計で2%までであり、REMの含量は0.0005-0.05%であり、およびCoの含量は1%までであることがあてはまり、およびそこでは、Ti、Nb、N、CおよびSの複合相鋼の含量は以下の条件を満たし:
(1)%Ti>(48/14)%N+(48/32)%S
(2)%Nb<(93/12)%C+(45/14)%N+(45/32)%S
そこでは、%Ti:それぞれのTi含量、
%Nb:それぞれのNb含量、
%N:それぞれのN含量、
%C:それぞれのC含量、
%S:それぞれのS含量で、そこで、%Sはまた「0」であることもでき;
b)中間生成物を形成するために溶融物をキャスティングすること;
c)中間生成物を1100-1300℃の予熱温度に加熱すること;
d)熱延ストリップを形成するために中間生成物を熱延すること;
-そこで、熱延の開始時の中間生成物の圧延開始温度WATは1000-1250℃であり、および完成した熱延ストリップの圧延最終温度WETは800-950℃であり、および
-そこで、熱延は、少なくとも1.5の縮小比(reduction ratio)d0/d1を有する温度範囲RLT-RSTにおいて行われ、
-そこで、圧延の開始に先立ち熱延ストリップの出発厚さd0は温度範囲RLT-RST内にあり(is in the temperature range)、d0と共に指定され、および圧延後の熱延ストリップの厚さは温度範囲RLT-RSTにおいてd1と共に指定され、および
-そこで
縮小比d0/d1が≦2である場合において、温度はRLT=Tnr+50℃であり、
縮小比d0/d1が>2である場合において、温度はRLT=Tnr+100℃であり、
縮小比d0/d1が≧2である場合において、温度はRST=Tnr-50°Cであり、
縮小比d0/d1が<2である場合において、温度はRST=Tnr-100℃であり、
および未再結晶(non-recrystallisation)温度はTnrと共に指定され、および以下のように算出され:
(7)Tnr[℃]=174*log{%Nb*(%C+12/14%N)}+1444
そこで、%Nb:それぞれのNb含量、
%C:それぞれのC含量、
%N:それぞれのN含量;
e)完成熱延ホットストリップ(finish hot rolled hot strip)を、15K/sよりも速い冷却速度により350-600℃のコイリング温度(coiling temperature、巻取り温度)に冷却すること;
f)コイリング温度HTまで冷却されたホットストリップ(熱延鋼板と言うこともある)を、コイルを形成するために巻き取ること、およびホットストリップをコイルにおいて冷却すること
である。
【0069】
冷却相に先立ち作業ステップd)として行われる熱機械的熱延プロセスは、そこで相変態が起こり、本発明に従って生産される平鋼生産物においてベイナイト構造の本発明の望ましい形成に従うために特に重要である。ここで熱機械的圧延の目的は、相変態の直前で結晶再形成のため開始点としてできるだけ多くの核形成部位を生成することである。この目的のため、鋼のAc3温度より高い圧延中のオーステナイトの再結晶化を抑えなければならない。
【0070】
第一ステップにおいて、スラブの鋳造組織(cast structure)を熱延中に粉砕し、および再結晶化オーステナイト組織に変態させるべきである。利用可能な熱延システムに応じて、この第一のステップは、ここに言及した条件を考慮して、慣習的な予備圧延の意味で行うことができる。必要であれば、第一圧延ステップはまた、一よりも多くの熱延パス(hot rolling pass)を有することもできる。第一の圧延ステップまたは予備圧延の過程において、再結晶が依然として十分に行われ、および損なわれないことが重要である。
【0071】
熱延仕上げセクションにおいて以下の圧延パスは、再結晶が連続的により一層強く抑制されるように行われる。これは主に添加された合金元素の析出のために起こり、それは再結晶境界に直接影響を及ぼす。この目的のために規定されるのは、最低温度としてのRLT(再結晶限界温度)であり、そこで、静的再結晶が依然として95%まで起こることができ、または構造のおよそ5%はもはや再結晶化できず、および最高温度としてのRST(再結晶停止温度)であり、そこで、静的再結晶が少なくとも95%に抑えられ、そこですなわち、構造の95%はもはや再結晶化できない。RLTおよびRSTは、規定に従い、常に鋼のAc3温度より上であり、RSTは、オーステナイト粒状物のパンケーキング・プロセス(pancaking process)を開始するために、最低温度である。いわゆる未再結晶温度(Tnr)は、技術的用語において「パンケーキ温度」とも呼ばれ、構造のおよそ30%の再結晶能力の場合において、RLTおよびRST温度間にある。
【0072】
完全な静的再結晶化が大幅に抑制され、およびまだ30%の割合しか再結晶化することができない温度は、「Tnr」で指定される。これはパンケーキ構造を設定するために必要である。この部分的軟化(fractional softening)がもはや再結晶または回収によって起こらない場合、粒状物は熱延中に単に強く引き伸ばされる。
【0073】
構造の部分的な再結晶化能力だけの場合、最大の潜在的な核形成部位を発達させることができる。RSTより低い温度で形成することによって、非常に転位豊富なオーステナイトが変態について基礎として生成されるが、延伸粒状物(stretched grain)の表面は比例して小さく、および比較的少ない粒界しか利用可能でない。Tnr温度にできるだけ近い温度で成形することにより、対照的に、延伸粒状物は部分的に成形され、および新たな粒界が形成され、いわゆるパンケーキ構造が生じる。それにもかかわらず、多数の転位は、より一層多数の粒界および転位に富むオーステナイトが成形のための核形成部位として利用可能であるように残る。
【0074】
Tnrの温度条件での形成は、望ましい効果を達成するのに十分に大きくなければならない。したがって、本発明は、開始厚さd0および終了厚さd1の比として規定される縮小比d0/d1が、Tnrについて少なくとも1.5であるべきであると規定する。最適化されたパンケーキ構造は、Tnr温度の場合に、縮小比d0/d1がおおよそ2であるときに得られる。
【0075】
それはまた、熱機械的圧延の最適化された結果に寄与し、それは、合計温度範囲RLT-RSTにわたって達成された厚さ減少が、そこで再結晶化が防止され、6を超える縮小比d0/d1を与える場合である。
【0076】
温度範囲RLT-RSTにおいて熱機械的圧延を行うのに十分な温度範囲を提供するために、熱延開始温度WATおよび熱延最終温度WET間の差WAT-WETが150℃より高く、特に少なくとも155℃である場合が有益であると証明された。
【0077】
熱延の終了およびコイリング(巻取り)の開始間の冷却の冷却速度は、少なくとも15K/s、特に15K/sより高く、および好ましくは25K/sより高く、特に40K/sより高い必要がある。そのような高い冷却速度を用い、慣習的な熱延ライン上でそこで利用可能な冷却経路内で冷却を行うことも可能であり、本発明に従って望まれる主にベイナイト組織(bainitic structure)が熱延平鋼生産物において設定されるようにされる。したがって、本発明による明細を考慮して、典型的には十秒の利用可能な強力な冷却時間内に微細なミクロ組織の形成を伴う十分なベイナイト変態を達成することが可能である。
【0078】
既に述べたように、Nbは、その特性で、高温範囲において微細な析出物を形成することが可能であるため、再結晶化遅延のための最も有効な元素の一つである。したがって、Nbを添加することによって、概説された温度限界、および特にTnrの位置に影響を与えることが可能である。同時に、Nbもまた、析出物の形成のせいで相変態(いわゆる溶質ドラッグ効果(solute drag effect))を非常に効果的に遅らせる。ベイニティックフェライト(bainitic ferrite)の炭素飽和は0.02-0.025%であり、それは化学量論的に考察するとき、析出物形成のための炭素は、炭化物形成剤の請求される合金範囲に対して実質的に最適な比率にある。
【0079】
コイリング温度HTは少なくとも350℃である。より一層低いコイリング温度値は、得られる熱延平鋼生産物の構造において望ましくないほど高い割合のマルテンサイトをもたらすであろう。同時に、コイリング温度はせいぜい600℃に制限され、それはより一層高いコイリング温度は同様に望ましくない割合のフェライトおよびパーライトの発生をもたらすからである。
【0080】
熱延最終温度WETが870℃未満の場合、コイリング温度HTを350-460℃に設定することが有益であることが判明した。これにより、構造においてフェライトの割合、および従ってフェライトおよびベイナイトの混合構造の割合があまりに急に増加する危険性が防止される。そのような混合構造は穴拡がり特性に悪影響を及ぼすであろう。したがって、できるだけ均一なベイナイト組織が望ましい。
【0081】
870-950℃の熱延最終温度WETの場合、コイリング温度HTは、対照的に、本発明に従って予め定めた全範囲においてたやすく選ぶことができ、350-550℃のコイリング温度がここで特に効果的であることが示された。
【0082】
本発明に従って生産された平鋼生産物を腐食または他の天候の影響から保護するために、それは、溶融めっきによって適用されたZn系(Znベースの)金属保護被覆(Zn-based metallic protective coating)を設けることができる。この目的のために、既に上で述べたように、平鋼生産物を構成する鋼のSi含量を既に上で説明した方法において設定することが好都合であり得る。
【実施例】
【0083】
本発明を、以下に模範的な実施形態を用いてより一層詳細に説明する。
【0084】
表1に示す溶鋼(steel melts)A-Mは溶融されており、そのうちの溶融物D-Gは本発明に従って合金化されるが、溶融物A-CおよびH-Mは本発明によらない。
【0085】
慣習的なスラブは、それぞれの場合において、溶鋼A-Mから連続鋳造で生産された。
【0086】
これらのスラブを用いて34回のテストを行った。
【0087】
スラブは、熱延開始温度WATと共に1000-1300℃の温度範囲に加熱され、および次いで熱延ラインに続いた。
【0088】
熱延ラインでは、スラブから圧延されたホットストリップは、熱機械的圧延プロセス(thermomechanical rolling prosessin)を通過し、そこでそれらは、合計縮小比d0/d1gesを有し、縮小比d0/d1(d0/d1 Tnr)と共に、温度範囲RLT-RSTにわたって変形された。Tnrはそれぞれの場合において、未再結晶温度Tnrに対して維持された。
【0089】
熱延は熱延最終温度WETで終結した。この温度WETで熱延ラインから出てくるホットストリップは、冷却速度t8/5でそれぞれのコイリング温度HTまで冷却され、および次にコイルに巻き、そこでそれらを室温まで冷却した。
【0090】
表2には、テスト1-34、それぞれ使用鋼A-Mについて、熱延開始温度WAT、熱延最終温度WET、厚さ3 mmの金属シートについて式(7)に従って算出された未再結晶温度Tnr、それぞれの鋼のAc3温度、ベイナイト開始温度Bsで、次式で算出されたものが示される。
(8)Bs=830-270%C-37%Ni-90%Mn-70%Cr-83%Mo、
そこで、%C=それぞれのC含量、
%Ni=それぞれのNi含量、
%Mn=それぞれのMn含量、
%Cr=それぞれのCr含量、
%Mo=鋼のそれぞれのMo含量で、鋼のもの、
厚さが3mmの金属シートの場合、縮小比d0/d1ges、縮小比d0/d1Tnr、冷却速度t8/5およびコイリング温度HTである。
【0091】
テスト1-34の場合に得られる熱延鋼ストリップのミクロ組織を調べた。ベイナイト「B」、フェライト「F」、マルテンサイト「M」、セメンタイト「Z」および残留オーステナイト「RA」の特定の構造成分、ならびに式(3)に従って算出されるベイナイト硬度「HvB」、式(6)に従って算出されるフェライト硬度「HvF」、式(5)に従って算出されるマルテンサイト硬度「HvM」、式(4)に従って算出される合計硬度「Hv」、比の値「|(Hv-HvB)/Hv|」および比の値「|(HvB-HvF)/HvF|」を表3において示す。
【0092】
表4には、テスト1-34で得られた熱延鋼ストリップについて示され、それぞれの場合で熱延鋼ストリップの縦方向および横方向において、降伏強度Rp0.2、上側降伏強度ReH、下側降伏強度ReL、引張強度Rmおよび伸びA80が、それぞれの場合でDIN EN ISO 6892:2014に従って定められる。さらに、各試験結果について、ISO 16630:2009の仕様に基づいて、そして既に上記で概説したアプローチの規格に従って決定された穴拡がりLAが示される。
【0093】
テストは、例えば、鋼Fの場合、炭化物および炭窒化物の形成によって結合した炭素の割合がおおよそ0.046%であり、それによって0.048%の炭素の提供が事実上最適に利用されることを示す。ここで考慮される相は、例えば、TiN、Nb(C,N)、Cr3C2、Mo2CおよびTiCである。炭素によるベイニティックフェライトのほぼ完全な飽和、および従ってベイニティックフェライトの強度の最大化は、このようにして同時に最適な他の特性と共に達成された。
【0094】
明らかに、比「|(Hv-HvB)/Hv|」について示された値は表3において、本発明による様式において構造が概ねベイナイト質である場合、穴拡がりLAについて表4に示した値とよく相関し、差「|(Hv-HvB)/Hv|」は5%未満に設定され、および機械的特性Rp0.2、RmおよびA80に対する必要値は満たされる。
【0095】
同様に、例は、差|(HvB-HvF)/HvF|を35%未満の値に適切に一致させる場合、良好な穴拡がりLAが達成されることを示す。
【0096】
テスト27および28の結果はまた、N含量を0.003-0.006重量%の含量に設定することによって、伸びにおいて改善を達成することができることを示す(例えば、テスト22および23の結果と比較して)。
【0097】
また、本発明による試験結果に関して、顕著な上側および下側の降伏強度を決定することができなかったことも注目に値する。
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】