(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-23
(45)【発行日】2023-01-31
(54)【発明の名称】歯及び口腔内付着物の除去促進剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/02 20060101AFI20230124BHJP
A61K 8/19 20060101ALI20230124BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20230124BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20230124BHJP
A61K 33/00 20060101ALI20230124BHJP
A61K 31/14 20060101ALI20230124BHJP
【FI】
A61K8/02
A61K8/19
A61Q11/00
A61P1/02
A61K33/00
A61K31/14
(21)【出願番号】P 2019535654
(86)(22)【出願日】2018-08-06
(86)【国際出願番号】 JP2018029463
(87)【国際公開番号】W WO2019031459
(87)【国際公開日】2019-02-14
【審査請求日】2021-06-15
(31)【優先権主張番号】P 2017152594
(32)【優先日】2017-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】517276549
【氏名又は名称】中島 美砂子
(73)【特許権者】
【識別番号】517277591
【氏名又は名称】庵原 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 美砂子
(72)【発明者】
【氏名】庵原 耕一郎
(72)【発明者】
【氏名】篠田 昌孝
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/084780(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0030991(US,A1)
【文献】特開2013-126502(JP,A)
【文献】国際公開第2008/072371(WO,A1)
【文献】特開平10-139645(JP,A)
【文献】平井公人 ほか,ナノバブル水の抗バイオフィルム効果の検討,特定非営利活動法人日本歯科保存学会 2013年秋季学術大会(第139回)プログラムおよび講演抄録集[,2013年10月17日,第94頁,http://www.hozon.or.jp/member/publication/abstract/file/abstract_139/all.pdf,検索日:2018年10月9日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A61P 1/02
A61K 6/00
A61K 33/00
A61K 31/14
C11D 1/62
C11D 3/02
C11D 7/02
C11D 7/32
C11D 17/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
象牙質強度を保持しつつスメア層を除去するための口腔内付着物の除去促進剤であって、
根管内に注入される、ナノバブルを含有するゲルであるナノバブルゲルを有し、
前記ナノバブルは、ゼータ電位
-21.7~-10mV
のナノバブルであることを特徴とする、口腔内付着物の除去促進剤。
【請求項2】
前記ナノバブルは、空気、酸素、二酸化炭素、窒素、又は、オゾンの何れか一つを含むことを特徴とする請求項1に記載の口腔内付着物の除去促進剤。
【請求項3】
プラーク、バイオフィルム又は舌苔である口腔内付着物に継続的に密着して除去する口腔内付着物の除去促進剤であって、
ナノバブルを含有するゲルであるナノバブルゲルを有し、
前記ナノバブルは、ゼータ電位
-21.7~-10mV
のナノバブルであることを特徴とする、口腔内付着物の除去促進剤。
【請求項4】
前記ナノバブルゲルの粘度は450mPa・s以下であることを特徴とする請求項3に記載の口腔内付着物の除去促進剤。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載の口腔内付着物の除去促進剤と、
薬剤と、
を含むことを特徴とする口腔内付着物の洗浄促進剤。
【請求項6】
前記薬剤は塩化ベンザルコニウム又は抗生剤であることを特徴とする請求項5に記載の口腔内付着物の洗浄促進剤。
【請求項7】
ナノバブルを含有するゲルであるナノバブルゲルと、
根管拡大清掃剤と、
を有し、
前記ナノバブルは、ゼータ電位
-21.7~-10mV
のナノバブルであることを特徴とする、中高齢者の狭窄根管を拡大するための根管拡大補助剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯のう蝕治療、抜髄・感染根管治療、歯周疾患治療、知覚過敏処置、修復・補綴治療、インプラント周囲炎治療等に用いる、歯内・歯外部、歯周組織、舌、口蓋、口腔内修復物・補綴物及び義歯等の洗浄促進剤及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
1.スメア層の除去
一般に歯を切削すると切削片が象牙質の象牙細管に詰まり、象牙質表面にスメア層が形成される。スミア層が存在するとレジンやセメントなどの接着性が低下し、さらにスミア層自体に細菌が存在する場合もある。スメア層は,象牙質表面に粘着しており、スリーウェイシリンジによる強水洗や3%過酸化水素水などによる発泡洗浄でも除去することはできない。よって、修復処置あるいは補綴物装着を行なう前にはリン酸やプライマー(クエン酸等)などでスメア層の処理を行なう。また、抜髄・感染根管治療あるいは根管治療で根管の拡大形成時にもスメア層は生じる。このスメア層もまた根管充填剤(材)の接着性を低下させ、密な根管充填を妨げ微小漏洩を引き起こす原因となる。また特に感染根管歯では、根管壁象牙細管から内部に深く侵入した細菌を完全に除去する必要がある。この際、一般的には機械的に根管を拡大後、根管壁象牙細管に詰まったスメア層をEDTA製剤にて除去洗浄し、さらに根管内に抗生剤や水酸化カルシウムなどを貼薬する。しかしながら、EDTA製剤はスメア層除去に効果があるが、根管壁象牙質を脱灰するため機械的強度が減少し、破折を招く可能性がある。他のクエン酸含有製剤(MTAD)の洗浄でも同様の機械的強度の問題があり、さらに修復時の接着剤の接着強度が弱くなる欠点がある。
【0003】
特許文献1には、洗浄剤としてのソルビタンエステル及び有機酸としてのクエン酸を使用するスメア層の除去方法が記載されている。しかしながらこの方法ではクエン酸による象牙質の脱灰が生じるという問題点を有する。
2.歯垢・バイオフィルムの除去
近年、歯周病は糖尿病と密接な関係があることが判明している。また、Pジンジバリスなどの歯周病原因菌が血管内に入ると心臓や大動脈、静脈などで血栓ができやすくなり、心臓病や脳梗塞のリスクが高まる。口腔ケアは虫歯や歯周病の予防による歯の健康維持のみならず、口腔内細菌や毒素による誤嚥性肺炎、認知症、心筋梗塞、脳梗塞等の防止など、全身に及ぶ様々な感染症の予防に重要と考えられている。その一方、口腔清掃指導は、歯ブラシでの物理的歯垢除去のみを主としている。しかし実際、高齢者や介護者が長時間、物理的ブラッシングを行うことは難しい。年齢とともに、歯周ポケットが深くなり、歯と歯の隙間が大きくなり、また歯頚部にも虫歯ができるため、通常のブラッシングやうがいでは除去できない歯垢・バイオフィルムが堆積し、強固で慢性的な細菌の棲み処から全身へ細菌や毒素が排出され、全身各組織で慢性炎症を引き起こす原因となりうる。高齢者では頻繁にプロフェッショナルケアを受けることは難しくなるため、自発的なセルフケアをより促進させ、歯垢・バイオフィルムを堆積させない簡便な方法の新規開発が必須と考えられる。
【0004】
特許文献2には、α-オレフィンスルホン酸塩と、アラニン及び/又はリシンとを含有してなる口腔内の歯垢及びバイオフィルムの除去方法が記載されている。しかしながらこの方法では、α-オレフィンスルホン酸塩の経時安定性が不十分なため歯垢及びバイオフィルムの除去効果は十分ではない。
3.薬剤除去
根管治療を行う際、高濃度10mg/mLの抗生剤等で除菌が可能とされるが、この濃度では、通法では洗浄できず、象牙質側壁に残存した薬剤は細胞毒性がある。例えば根未完成歯で血餅やPlatelet-rich Plasma (PRP)などを根管内に注入して血管再疎通させる際、象牙質側壁の残存薬剤は細胞の付着・増殖・分化に影響を与えるともいわれる。例えば非特許文献1には、セフェム系抗生物質が低カルニチン血症のリスクを増加させる可能性がある旨が記載されている。
4.舌苔除去
成人の口腔内には数千億~1兆個もの細菌が存在する。加齢により唾液の分泌量が減ると、唾液の自浄作用が効かなくなり細菌は定着しやすくなる。その細菌の中にはカンジダ菌、緑膿菌、肺炎桿菌、黄色ブドウ球菌、インフルエンザ菌など、全身疾患の原因菌も含まれ、加齢にて免疫力が低下するとさらに増殖する。特に、舌の表面の角質が伸びて硬くなりその隙間に細菌や汚れが蓄積した「舌苔」は不十分な口腔清掃、口呼吸、唾液の減少、舌運動機能の低下、全身的疾患(糖尿病、シェーグレン症候群、自律神経失調症、十二指腸潰瘍)等により生じる。よって高齢者に生じやすく、作り出される「揮発性硫黄化合物」が口臭の原因となり、明るく健康な社会生活に影響を及ぼす。味覚異常や誤嚥性肺炎などを引き起こす原因ともなる。しかしながら、一般に舌のケアは難しく、なかなかきれいにならないともいわれている。舌のケアは短時間で、痛みや不快感を与えず、簡単で継続しやすいことが必須である。舌苔は保湿ゲルをつけて舌ブラシやスポンジブラシでこすりとるのが一般的であるが、舌の奥にブラシを入れると嘔吐反射が生じる場合も多い。また、マウスウォッシュでは補助的であり、物理的に付着した細菌や汚れをそれだけでは除去困難である。
【0005】
舌苔の分解能を有する酵素としてはプロテアーゼが知られており、システインプロテアーゼなどの酵素を含むキャンディーやタブレット等の食品が報告されている(特許文献3)。しかしながら、システインプロテアーゼは熱に弱く、夏期のような高温多湿状態における経時安定性に乏しい。
5.狭窄根管の拡大
加齢あるいは歯髄に対する外来刺激(虫歯などの細菌の刺激や、歯切削時の機械的刺激、覆髄治療での薬剤化学的刺激、外傷咬合などによる物理的刺激)が長期に及ぶ場合、生体の防御反応として歯の根管の象牙質側壁に象牙質が添加されるあるいは根管内の歯髄に石灰化が生じる。その結果、根管の入り口が硬く閉じてしまい、根管の存在や位置が分からなくなったり、根管の途中で、硬く塞がり治療の器具(リーマー、ファイル)が根管の先端(根尖)まで届かないことがある。根の下に根尖病巣があり、細菌感染が根の下まで及んでいる場合には、器具を根尖まで到達させ、根管内を拡大し清掃する必要がある(非特許文献2)。特に根尖側1/3には器具が到達できない側枝や副根管など、ミクロの根管が複雑に存在する。主根管を根尖まで開けられなければ、ミクロの根管や根尖歯周組織には除菌のために根管内に貼薬した薬剤が浸透できない可能性がある。また、湾曲した根管では、無理に拡大しようとすると本来の根管でない方向に穿孔してしまう可能性がある。また、根管が根尖まで拡大できない場合は、外科的手術として根の下の骨から根尖病巣を除去する観血的治療あるいは抜歯となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2005-516032号公報
【文献】特開2017-100964号公報
【文献】国際公開第2007/026755号
【非特許文献】
【0007】
【文献】三浦奈都子, セフェム系抗生物質製剤の血管外漏出に対する温罨法の効果に関する基礎的研究,日本看護科学学会学術集会講演集24回 Page256(2004.12)
【文献】再根管治療におけるClinical decision making, 澤田則宏, 日補綴会誌 Ann Jpn Prosthodont Soc 6 : 362-367, 2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、歯の充填修復処置・補綴装着直前の処置、抜髄・感染根管治療の根管洗浄、貼薬前処置、狭窄根管拡大、根管充填前処置として、スメア層除去、歯垢・バイオフィルム除去、舌苔除去のためのナノバブル水あるいはゲルによる洗浄剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかる歯内・外部、歯周組織、舌、修復・補綴物及びインプラントの洗浄ための洗浄剤は、ナノバブルを有することを特徴とする。表面がマイナス電荷を有し、圧壊現象を生じ、106~109個/mLのナノサイズ(例えば10nm~1000nmの径)の水の泡であることを特徴とする。気相と液相、液相と液相の界面間で界面張力により加圧が生じ、気泡径が小さくなると表面張力による内圧が高くなる。自己圧壊作用により、水や窒素などが分解されフリーラジカルが生成される。圧壊時に発生するフリーラジカルの作用により菌の増殖を抑制する。さらに溶液中の微粒子の周りに形成する電気二重層中の、液体流動が起こり始める「すべり面」の電位をゼータ電位といい、微粒子の流動性、凝集性、保存性などに関係すると考えられる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、薬剤を用いずともナノバブル単独で、効果的に歯内・外部のスメア層の除去、歯垢・バイオフィルム除去、舌苔除去が可能である。またEDTAやクエン酸とナノバブルを併用した場合、根管拡大補助剤としての脱灰効果を高めることができる。例えば塩化ベンザルコニウムとナノバブルを併用した場合、含嗽剤としての歯垢除去・バイオフィルム除去効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】推奨時間での根管内のスメア層除去の走査電子顕微鏡像を示す写真図であり、Aは蒸留水で5分間、Bはナノバブル水5分、Cは3%EDTA(スメアクリーン) 2分、Dは17%EDTA(17%EDTAリキッド) 1分、Eは20%クエン酸(ウルトラデント)3分、Fは4.25%クエン酸(MTAD) 5分で5分間洗浄した像である。
【
図2】根管内のスメア層除去後の象牙細管の管腔面積を解析した図である。
**P <0.01,
*P <0.05, versus 蒸留水。
##P <0.01, versus ナノバブル水。
【
図3】推奨時間での根管内のスメア層除去後の根管壁から100μmのところのビッカース硬さを示す図である。
*P <0.05, versus 蒸留水。
#P <0.05, versus ナノバブル水。
【
図4】ナノバブル濃度によるスメア層除去効果の変化を示す図である。Aは走査電子顕微鏡像であり、aは濃度1.0×10
8個/mL、bは0.5×10
8個/mL、cは0.1×10
8個/mL、dは0.05×10
8個/mL、eは0.01×10
8個/mL、f は0.005×10
8個/mL、gは蒸留水である。Bは象牙細管の1個あたりの管腔面積を統計学的に解析した図である。
*P <0.05, versus 蒸留水。
##P <0.01, versus 0.5×10
8個/mL。
【
図5】ナノバブル水(7×10
7個/mL)のゼータ電位の違いによるスメア層除去効果の変化を示す図である。Aは走査電子顕微鏡像であり、aはゼータ電位-21.7mV、bは-15.4mV、cは-11.2mV、dは-9.4mV、eは-8.6mV、f蒸留水、gは未処置である。Bは象牙細管の1個あたりの面積を、Cは象牙細管の密度(個/mm
2)を統計学的に解析した図である。DはpHの変化によるスメア層除去効果を検討した走査電子顕微鏡像であり、aはナノバブル水pH6.65、ゼータ電位-21.3mV、bはナノバブル水pH4.16、-16.0mV、cはナノバブル水pH8.97、-8.6mVであり、dはpH6.09の蒸留水、eはpH4.07の蒸留水、fはpH8.98の蒸留水、gは未処置である。EはpHの変化によるスメア層除去効果の統計学的解析である。
【
図6】ナノバブル水の気体によるスメア層除去効果の変化を示す図である。Aは走査電子顕微鏡の写真図であり、aは空気であり、bは二酸化炭素であり、cは窒素であり、dは酸素であり、eは蒸留水であり、fは未処置である。Bは統計学的解析図である。
【
図7】ナノバブル水あるいはナノバブルゲルによるスメア層除去の比較を行った図である。Aは走査電子顕微鏡像を示す図であり、aは蒸留水、bはナノバブル水、cはナノバブルゲル(アルコックスE-240)、dはゲル(アルコックスE-240)、eは未処置である。Bは象牙細管の1個あたりの面積を統計学的に解析した図である。
**P <0.01, versus 蒸留水。
##P <0.01, versus ナノバブルゲル。
【
図8】Streptococcus Mutans (ATCC 25175)を好気条件で48時間培養しハイドロキシアパタイトディスク上に形成した歯垢の除去を30分間行った走査電子顕微鏡像を示す図であり、Aは蒸留水、Bはナノバブル水、Cはナノバブルゲル、Dは未処置である。
【
図9】Enterococcus Faecalis (ATCC 19433)を嫌気条件で14日間培養しハイドロキシアパタイトディスク上に形成したバイオフィルムの除去をナノバブル水あるいはナノバブルゲルにより30分行った場合の走査電子顕微鏡像を示す写真図であり、Aは蒸留水、Bはナノバブル水、Cはナノバブルゲルである。
【
図10】Streptococcus Mutans (ATCC 25175)を好気条件で48時間培養しハイドロキシアパタイトディスク上に形成したバイオフィルムの除去を2分間行った走査電子顕微鏡像を示す図であり、Aは蒸留水、Bはナノバブル水、Cは塩化ベンザルコニウム、Dは塩化ベンザルコニウム+ナノバブル水(50%)、Eはグリチルリチン酸モノアンモニウム、Fはグリチルリチン酸モノアンモニウム+ナノバブル水(50%)、Gはネオステグリーン(0.2%ベンゼトニウム塩化物)、Hはコンクール(グルコン酸クロルヘキシジン、グリチルリチン酸アンモニウム、緑茶抽出液)である。
【
図11】ブタ歯根象牙細管内深部に根管壁(RC)から浸透した薬剤(テトラサイクリン)に対して、洗浄を5分一回行った蛍光実体顕微鏡写真であり、Aは生理食塩水、Bはナノバブルのみ、Cは1.5% EDTA、Dは1.5% EDTA+ナノバブル(50%)、Eは8.5% EDTA、Fは8.5% EDTA+ナノバブル(50%)で行った。
【
図12】ブタ歯根象牙細管内深部に根管壁(RC)から浸透した薬剤(テトラサイクリン)に対して、除去促進剤を根管内に1分間適用し、さらに除去促進液を吸引して再度新しい除去促進剤を入れて数回繰り返し除去を行った蛍光実体顕微鏡写真であり、Aは生理食塩水、Bはナノバブル水1分適用を1回、Cはナノバブル水1分適用2回、Dはナノバブル水1分適用3回行った。
【
図13】舌苔の除去を示す写真で、Aは術前、Bは0.2%ベンゼトニウム塩化物含有口腔含漱剤(ネオステグリーン)で1分うがい、Cはナノバブル水で1分うがい後である。
【
図14】根管拡大補助剤適用2分後の根管壁から100、300、500μmのビッカース硬さを示す図である。根管拡大補助剤として、ナノバブル水、8.5% EDTA+ナノバブル (50%)、8.5% EDTA、17% EDTAを用い、コントロールとして蒸留水を用いている。
*P <0.05、
**P <0.01, versus 蒸留水。
#P <0.05、
##P <0.01, versus ナノバブル水。
†P <0.05、
††P <0.01, versus 17% EDTA。
‡P <0.05、versus 8.5% EDTA。
【
図15】ナノバブルゲルの粘度による歯垢除去効果の変化を示す走査電子顕微鏡による写真図であり、aは蒸留水、bはナノバブル水、cはナノバブルゲル(1)(アルコックスE-240 1.06W%)粘度117mPa・s、dは未処置、eはナノバブルゲルPEG20k 5%(ポリエチレングリコールPEG20k 5%)6mPa・s、fはナノバブルゲルA(アルコックスE-240) 52mPa・s、gはナノバブルゲルB(セロゲンBSH-12) 199mPa・s、hはナノバブルゲルHPC-M 2.5%(ヒドロキシプロピルセルロースHPC-M 2.5%) 447mPa・s、iはPEG20K、jはゲルA,kはゲルB、lはHPC-Mである。
【
図16】ナノバブルの内圧の違いによるスメア層除去効果の変化を示す図である。Aは走査電子顕微鏡像による写真図であり、aは空圧0.07水圧0.18MPa、bは空圧0.09水圧0.24MPa、cは空圧0.13水圧0.20MPa、dは空圧0.17水圧0.28MPa、eは空圧0.34水圧0.38MPaで作製したナノバブル水で、fは蒸留水で5分間洗浄したものである。Bは象牙細管の1個あたりの面積を統計学的に解析した図である。
*P <0.05、
**P <0.01, versus 蒸留水。
#P <0.05、
##P <0.01, versus空圧0.17水圧0.28Mpa。
†P <0.05、
††P <0.01, versus 0.13水圧0.20MPa。Cは各ナノバブル水の粒度分布を解析した図である。
【
図17】PrestoBlueによる残存Porphyromonas gingivalis数の計測を示す図である。
【
図18】走査電子顕微鏡による残存Porphyromonas gingivalis数の観察結果を示す図であり、そのうちAは蒸留水、Bはナノバブル水、Cは0.025%塩化ベンザルコニウム、Dは0.025%塩化ベンザルコニウム(ナノバブル希釈)である。
【
図19】Live Dead染色による残存Porphyromonas gingivalisの観察結果を示す図である。
【
図20】イヌ歯周病モデルにおけるナノバブル(ゲル)の効果の統計学的解析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施形態にかかる発明は口腔内付着物の除去促進剤である。口腔内付着物は、例えば、スメア層、歯垢(プラーク)、バイオフィルム又は舌苔である。
【0013】
スメア層を除去するための口腔内付着物の除去促進剤では、単にスメア層を除去するのみならず象牙質強度を保持する必要がある。なお、スメア層は、その一部が象牙細管内まで入り込み、この象牙細管内まで入り込んだスメア層はスメアプラグ又はスメア栓と呼ばれることがある。
【0014】
プラーク、バイオフィルム又は舌苔を除去するための口腔内付着物の除去促進剤では、ナノバブルを含有するゲルであるナノバブルゲルを適用する。ナノバブルゲルの粘度は、特に限定されるものではないが、例えば450mPa・s以下である。ナノバブルゲルの粘度が高すぎると流動性が低下するため利便性が低下する虞があるからである。
【0015】
本実施形態にかかるナノバブルは、超微細な気泡を含有する液状もしくはゲル状の形態を呈する。気体(空気、二酸化炭素、窒素、酸素、オゾン等)がナノサイズの気泡径に導入され、表面張力による高い内圧が付与され、かつマイナスに帯電している。すなわち、高い内圧と帯電荷を有するナノバブルである。そのようなナノバブルの有する表面特性やブラウン運動の如き運動特性等に基づくところの有効な除去促進作用によって、超音波機器等を用いて気泡を破壊することなく、効果的に除去促進できる特徴を有している。本発明において、ナノバブルに含有される気体としては、二種以上の気体を用いることができる。二種以上の気体を用いる場合としては、例えば、気体Aのみからなるナノバブルと気体Bのみからなるナノバブルとの混合物を用いる場合もあれば、気体Aと気体Bとの混合物を含むナノバブルを用いる場合もある。
【0016】
本発明にかかる口腔内付着物の除去促進剤が液体製剤である場合、これを構成する溶液は水溶液であることが好ましい。本発明において、ナノバブル状態にある気体を含む水溶液をナノバブル水という。
【0017】
ナノバブル水において、水溶液のpHは特に限定されるものではないが、例えば5.00~6.00の弱酸性とすることが可能である。なお、ナノバブルのゼータ電位はpHが5.00以上で負であり、その絶対値は時間を経ても大きくは変化しない。また、ナノバブル水において、硬度は特に限定されるものではないが、例えば硬度20~30とすることが可能である。
【0018】
ナノバブルのサイズとしては、一般に、10~1,000 nmの範囲内、中でも10~500 nmの範囲内であることが望ましく、好適には10~300 nm、より好適には10~200 nm、更に好適には50~200 nm、更に好適には50~150 nmの範囲内のものである。ナノバブルの直径(気泡径)を上記の範囲に設定することにより、有効な除去促進作用が得られる。なお、ナノバブルのサイズが大きくなり過ぎると、除去促進作用が低下するようになる。ナノバブルのサイズが小径であるほど、一般的に長期保存の安定性に優れる。ナノバブルのサイズは、逆浸透膜、空気圧等を利用して所望サイズに調整することができる。
【0019】
ナノバブルは、気泡径がナノサイズであることによりその表面張力により内圧が高くなり、またマイナスに帯電する。ここで、ナノバブルの内圧は、一般にナノバブルの径に対応して、Young-Laplaceの式により求められ、本発明に用いたナノバブルは、約3気圧~約300気圧程度の内圧を有している。また、ナノバブルの水中でのゼータ電位は、-30~0 mVであり、ナノバブルはマイナスに帯電していると考えられる。ナノバブルのゼータ電位としては、一般に、-30~0 mVの範囲内、中でも-30~-10 mVの範囲内であることが望ましく、好適には-30~-10 mV、より好適には-30~-10 mVの範囲内のものである。ナノバブルのゼータ電位を上記の範囲に設定することにより、有効な除去促進作用が得られる。なお、ナノバブルのゼータ電位が大きくなり過ぎると、除去促進作用が低下するようになる。この帯電特性に基づいて有効に除去促進できると推察される。
【0020】
また、ナノバブルの濃度としては、一般に規定容積中におけるバブルの個数として示され、本発明では、有利には1×106~2×109個/mL、好適には5×106~1×109 個/m L、より好適には1×107~5×108個/mLの割合において分散、含有している。ここで、かかるナノバブルの存在量が少なくなり過ぎると、マイナスに帯電した、高い内圧を有するナノバブルによる有効な除去促進作用を有利に発揮できなくなるからである。また、ナノバブルを高濃度にしすぎると、その除去促進作用が飽和する傾向があり、経済的視点からも利点に乏しいものとなる。
【0021】
なお、上記の如きナノバブルのサイズやその存在濃度は、市販のナノ粒子測定装置を用いて測定することができる。例えば、(株)島津製作所製のナノ粒子分布測定装置(SALD-7100)や、日本カンタム・デザイン(株)から入手することのできえるナノ粒子解析装置(ナノサイトLM-20)等があげられる。また、ゼータ電位はマルバルーン事業部スペクトリス(株)から入手することのできるゼータサイザーナノZ、大塚電子(株)のゼータ電位測定システム(ELSZ-2000Z)、協和界面科学(株)のゼータ電位測定装置(ZC-3000)等があげられる。
【0022】
本発明に従う、ナノバブルを含有する除去促進剤は、目的とするナノバブルを単味で用いる、あるいは所定の薬剤(薬剤そのもの又は薬剤を含む予備組成物)中に直接導入して混合物で用いることも可能である。特に有利には、ナノバブルを含有する水の液体あるいはゲルの固体と、所定の薬剤又はそれを含有する液状若しくはゲル状の予備組成物とを混合して、その得られる混合物の形態において、形成され、これによって、目的とするナノバブルを、薬剤組成物中に容易にかつ有利に導入することができる。即ち、目的とするナノバブルを含有する液体もしくはゲルを予め調製しておき、それに、所定の薬剤又はその予備組成物を均一に混合せしめることにより、目的とする薬剤組成物の各種のものを容易に得ることができる。もしくは、目的とするナノバブルを含有する液体を予め調製しておき、それに、ゲルを溶解させ、さらに所定の薬剤又はその予備組成物に均一に混合せしめることにより、目的とする薬剤組成物の各種のものを容易に得ることができる。なお、本実施形態にかかるナノバブルを含有する口腔内付着物の除去促進剤は、薬剤と組み合わせて使用されるもの限定されず、例えば、細胞抽出物、細胞培養上清、微生物発酵産物、植物抽出物、精製タンパク質等の種々の組成物と組み合わせて使用可能である。
【0023】
薬剤は特に限定されるものではないが、例えば塩化ベンザルコニウム又はテトラサイクリン系抗生物質等の抗生剤である。
【0024】
また、本発明にかかる中高齢者の狭窄根管を拡大するための根管拡大補助剤は、ナノバブル水もしくはナノバブルゲルと、根管拡大清掃剤と、を含む。根管拡大清掃剤は、特に限定されるものではないが、例えばEDTA、クエン酸、クロルヘキシジン、MTAD等が挙げられる。好ましくは根管拡大清掃剤はEDATである。
【0025】
ところで、本発明において、ナノサイズの気泡径を有するナノバブルは、公知の各種のナノバブル発生装置を用いて形成され得るものである。特に、高分子樹脂フィルムにクレーズを生成してなる通気性フィルムを通じて、それによる気体透過量の制御下において、所定の気体を放出せしめることによって、ナノバブルが形成されるようにした装置、例えば、特許第3806008号公報や特許第5390212号公報等に明らかにされているような装置が有利に用いられることとなる。中でも、本発明にあっては、筒状の外周面に設けた気体透過面に、高分子樹脂フィルムにクレーズを生成してなる通気性フィルムを配して、かかる通気性フィルムによる気体透過量の制御下において、所定の加圧気体が放出せしめられるようにした筒状の気体透過部と、該筒状の気体透過部の筒内に加圧状態の該気体を供給する送気手段と、該筒状の気体透過部の外周径より大きな内周径を有する両端が開放状態にある筒状ケーシングと、該筒状ケーシング内に前記筒状の気体透過部を収容配置することによって形成される間隙にて与えられる流体流路に、所定の流体を流通せしめる流通手段とを含んで構成される超微細気泡生成装置が、好適に用いられることとなる。そして、そこでは、かかる流体流路を流れる流体によって、前記気体透過部の気体透過面から放出される気体にて形成される気泡が、その形成初期段階において剪断されて、微細化されることにより、高い内圧と負の帯電荷の付与された、ナノサイズの気泡径を有する超微細気泡(ナノバブル/ウルトラファインバブル)が、効果的に形成されうる。
【0026】
ナノバブル水もしくはナノバブルゲルの製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば下記である。即ち、少なくとも、気体透過部に気体透過量を制限し得る高分子樹脂フィルムにクレーズを生成してなる通気性フィルムを配する筒状の気体透過装置と、水もしくはゲル状流動体を貯蔵するタンクと、該貯蔵タンクに収容される水もしくはゲル状流動体を筒状の循環路に送出するポンプで構成し、筒状の気体透過装置を該筒状の循環路内に設置することにより、該筒状気体透過部の外周径と該筒状循環路の内周径との差異により形成される間隙に、ポンプを用いて液圧を調節して、水もしくはゲル状流動体を導入するとともに、気体透過装置の気体透過部に、加圧状態を調節して気体を供給することにより、水もしくはゲル状流動体にナノサイズの微細な気泡が混入される。
【実施例】
【0027】
[実施例1]
(ブタ根管象牙質スメア層除去)
ブタ新鮮抜去小臼歯の根管をKファイル(マニー)にて#60まで根管拡大形成し、5%次亜塩素酸ナトリウム2mL及び3%過酸化水素水2mLにて交互洗浄後、5mL生理食塩水でさらに洗浄、乾燥した。ナノバブル水5分、3%EDTA製剤(pH9.5、スメアクリーン、日本歯科薬品)2分、17%EDTA製剤(pH7.3、17%EDTAリキッド、ベントロンジャパン)1分、20%クエン酸製剤(pH1.4、ウルトラデント クエン酸20%、ウルトラデントジャパン)3分、4.25% クエン酸製剤(3% doxycycline及び0.5% Tween 80含有、pH2.15、BioPure MTAD、デンツプライ シロナ)5分、及び蒸留水5分、6種類のスメア層除去剤2mLを用いて推奨時間でスメア層を洗浄した。なお、ナノバブル水は歯科用ナノバブル発生装置(FOAMEST 8(登録商標)、Nac Corp.)で空気を用いて製造したナノバブル水であった。生理食塩水にて洗浄後、抜歯柑子にて半分に割り、2%グルタールアルデヒドにて12時間固定し、30、50、70、90、100%エタノールにて脱水後、白金10kVにて蒸着(導電膜蒸着(スパッターコーティング)MSP-20-UM, 真空デバイス)した。その後、それぞれの標本を走査電子顕微鏡(VE9800, KEYENCE)にて、根管の根尖部から3mm、4.5mm、6.0mmのところを観察した。
【0028】
スメア層は蒸留水では全く除去できなかったが(
図1A)、ナノバブル水のみでのみ5分洗浄するとスメア層は完全に除去できた(
図1B)。一方、通常用いられている3% EDTA 2分(
図1C)、17%EDTA1分(
図1D)、4.25% クエン酸(
図1F)ではスメア層がかなり残存していた。また、20%クエン酸 3分(
図1E)では、ほぼスメア層を除去できたが、その効果はナノバブル水よりやや劣っていた。
【0029】
根尖から3、4.5、6.0mmのところを1,000倍で1枚ずつ、合計3枚撮影し、Image Jにて象牙細管の管腔面積を測定し、統計学的に解析した。蒸留水と比較して、ナノバブル水、17%EDTA、20%クエン酸は有意にスメア層除去効果がみられた(P <0.01、P <0.01、P <0.05)。ナノバブル水は他のスメア層除去剤と比べて有意にスメア層除去効果がみられた(P <0.01)(
図2)。
(ブタ根管象牙質スメア層除去後の象牙質壁の脱灰)
ブタ新鮮抜去小臼歯の根管を前述と同様に#60まで根管拡大形成し、次亜塩素酸ナトリウムのみで洗浄後、生理食塩水5mlで洗浄し、湿潤状態で保存した。上記と同様のスメア層除去剤を用いて、推奨時間、根管内に適用、洗浄後、生理食塩水にてさらに洗浄した。ゼーゲミクロトーム(Leica)にて厚み3 mmに調整し、サンドペーパーにて#2000まで研磨し、測定まで生理食塩水に保存した。作成した標本の根管壁から100 μm地点でのビッカース硬さをマイクロビッカース硬度計(明石製作所 MVK-E)にて過重50g、15秒で測定した。
【0030】
ナノバブルのみでは、蒸留水と比較して、全くビッカース硬さに変化はみられなかった。一方、根管壁から100 μmでのビッカース硬さは、蒸留水及びナノバブルと比較して、17%EDTA1分、20%クエン酸 3分、4.25% クエン酸 5分では、有意に減少がみられた(p<0.05)(
図3)。3%EDTAは機械的強度を変化させないが、スメア層除去効果も弱いものであった。
【0031】
[実施例2]
(ナノバブル水の濃度によるスメア層除去効果の変化)
ブタ新鮮抜去小臼歯の根管を前述と同様に処理し、乾燥させた。ナノバブル水をナノバブル発生装置(FOAMEST (登録商標)、Nac Corp.)で空気を用いて製造後、蒸留水にて希釈し、濃度1×108個/mL、0.5×108個/mL、0.1×108個/mL、0.05×108個/mL、0.01×108個/mL、0.005×108個/mLを作製し、根管内に5分間適用、洗浄後、そのスメア層除去効果を比較した。なお、当ナノバブルの粒径ピークは109nm、ゼータ電位-21.7mV、pH 6.38であった。通法により走査電子顕微鏡標本を作製し、根尖から1.5、3、4.5、6.0mmのところを1,000倍で1枚ずつ、合計4枚撮影し、Image Jにて象牙細管の管腔面積を測定し、統計学的に解析した。
【0032】
濃度0.5×10
8個/mL及び1.0×10
8個/mLでは、スメア層はほぼ除去できたが、0.1×10
8個/mLではかなりのスメア層の残存がみられ、0.05×10
8個/mL以下では、ほとんど除去効果はみられなかった(
図4A)。統計学的解析を行うと、濃度0.5×10
8個/mLでは、0.1×10
8個/mL、0.05×10
8個/mL、0.01×10
8個/mL、0.005×10
8個/mL及び蒸留水に比べて、有意に一個あたりの象牙細管面積が高く、スメア層除去効果が高いことが明らかとなった。ただし、0.5×10
8個/mLと1.0×10
8個/mLの有意差はみられなかった(
図4B)。
【0033】
(ナノバブル水のゼータ電位によるスメア層除去効果の変化)
ブタ新鮮抜去小臼歯の根管を前述と同様に処理し、乾燥させた。空気を用いて製造したナノバブル水(粒径約100nm)について、同一濃度(0.7×108個/mL)に調整し、ゼータ電位-21.7mV、-15.4mV、-11.2mV、-9.4mV及び-8.6mVの違いによるスメア層除去効果の変化を、根管内に5分間適用、洗浄後、比較した。コントロールとして、蒸留水適用及び未処置を用いた。通法により走査電子顕微鏡標本を作製し、根尖から1.5、3、4.5、6.0mmのところを1,000倍で1枚ずつ、合計4枚撮影し、Image Jにて象牙細管の管腔面積および密度(一平方ミリメートルあたりの細管の個数)を測定し、統計学的に解析した。
【0034】
ゼータ電位が-21.7mV、-15.4mV及び-11.2mVではスメア層は除去されたが、-9.4mV及び-8.6mVではスメア層はごく一部に除去されない部分が存在した(
図5A)。
【0035】
統計学的解析を行うと、ゼータ電位-21.7mV、-15.4mV及び-11.2mVでは、未処置に比べて有意に一個あたりの象牙細管面積が高く(P <0.05、P <0.01、P <0.05)、スメア層除去効果が高いことが明らかとなった。また、-21.7mV、-15.4mV及び-11.2mVでは、-9.4mV及び-8.6mVに比べて有意に一個あたりの象牙細管面積が高かった(P <0.05、P <0.01、P <0.05) (
図5B)。また、象牙細管の密度の統計学的解析を行うと、ゼータ電位-15.4mVは他の電位に比べて有意に密度が高かった(
図5C)。
【0036】
(ナノバブル水のpHによるスメア層除去効果の変化)
ブタ新鮮抜去小臼歯の根管を前述と同様に処理し、乾燥させた。空気を用いて製造したナノバブル水(粒径88nm)について、pHを4, 6, 9に調節した。またそれに対応したpHの蒸留水を作製した。すなわち、ナノバブル水pH4.16、-16.0mV、ナノバブル水pH6.65、ゼータ電位-21.3mV、ナノバブル水pH8.97 -8.58mV、蒸留水pH4.07、pH6.09およびpH8.98を作製した。pHの変化によるスメア層除去効果を根管内に5分間適用、洗浄後、比較した。コントロールとして、未処置を用いた。通法により走査電子顕微鏡標本を作製し、根尖から1.5、3、4.5、6.0mmのところを1,000倍で1枚ずつ、合計4枚撮影し、Image Jにて象牙細管の管腔面積を測定し、統計学的に解析した。
【0037】
ナノバブル水pH4.16ゼータ電位-16.0mV、pH6.65ゼータ電位-21.3mVではスメア層はほぼ除去されたが、ナノバブル水pH8.97 -8.6mVではスメア層はごく一部に除去されない部分が存在した。蒸留水ではpH4およびpH6でもスメア層除去効果は全くみられなかった(
図5E)。したがって、スメア層除去効果はpHではなく、ゼータ電位にあるこることが明らかとなった。
【0038】
(ナノバブル水の製造時の気体によるスメア層除去効果の変化)
ナノバブル水の製造時の気体を空気から、二酸化炭素、窒素、酸素に変化させて作製した。その結果、下記のような性質を有していた。各気体のナノバブル水のスメア層除去効果を比較した。
【0039】
【0040】
その結果、走査電子顕微鏡像では、二酸化炭素でのナノバブル水はややスメア層除去が不均一であったが、他はほぼ同様にスメア層が除去できた(
図6A)。一個あたりの象牙細管面積の統計学的解析を行うと、気体の種類による有意な差はみられなかった(
図6B)。
【0041】
(ナノバブルゲルによるスメア層除去効果の変化)
ナノバブルゲルはナノバブル水に粉末アルコックスE-240、セロゲンBSH-12、ヒドロキシプロピルセルロースHPC-M 2.5%、あるいはポリエチレングリコールPEG20k 5%を完全に均一に混合した。
【0042】
アルコックスE-240のナノバブルゲルはナノバブル水よりも、スメア層をより効果的に除去できた(
図7A)。蒸留水やゲル単味では、スメア層は除去できなかった。
【0043】
統計学的解析を行うと、ナノバブルゲルでは、ナノバブル水に比べて有意に一個あたりの象牙細管面積が高く(P <0.05)、スメア層除去効果が高いことが明らかとなった(
図7B)。
【0044】
[実施例3]
(ナノバブルによるStreptococcus mutansの歯垢・バイオフィルム除去)
48 well 細胞培養プレートの各wellにBHI Brot(関東化学)+5% スークロースを1mL添加した後、同wellに50 μlのStreptococcus mutans(ATCC 25175)培養液を加えた。ハイドロキシアパタイト(HA) disc(HA48-3, Funakosi)を浸漬し、48時間培養し、歯垢・バイオフィルムを形成させた。ナノバブルの洗浄効果を検討するため、このHA discに対して、大塚蒸留水、ナノバブル水、ナノバブルゲル(アルコックスE-240)を5分作用させ、未処置のものと、通法にしたがい走査電子顕微鏡標本を作製し、比較した。
【0045】
図8に示されたとおり、蒸留水では5分後も歯垢は残存していた。ナノバブル水及びナノバブルゲルともに、2分後に歯垢の大部分の減少がみられたが、ナノバブルゲルはナノバブル水に比べ、除去効果が高かった。
【0046】
(ナノバブルによるEnterococcus faecalisの歯垢・バイオフィルム除去)
48 well 細胞培養プレートの各wellにBHI Broth + 5% スークロースを1mL添加した後、同wellに50 μlのEnterococcus faecalis(ATCC 19433)培養液を加えた。ハイドロキシアパタイト(HA) disc(HA48-3, Funakosi)を浸漬し、14日間培養し、歯垢・バイオフィルムを形成させた。ナノバブルの洗浄効果を検討するため、このHA discに対して、大塚蒸留水、ナノバブル水、ナノバブルゲル(アルコックスE-240)を30分作用させ、未処置のものと、走査電子顕微鏡像により比較した。
【0047】
図9に示されたとおり、蒸留水では30分後もバイオフィルムは残存していたが、ナノバブル水では30分後ではかなりのバイオフィルムは消失していたがやや残存し、ナノバブルゲルはほとんど消失していた。
【0048】
(ナノバブルのStreptococcus mutansの歯垢・バイオフィルム除去に及ぼす薬剤の効果)
48 well細胞培養プレートの各wellにBHI Broth+5% スークロースを1mL添加した後、同wellに50 μlのStreptococcus mutans(ATCC 25175)培養液を加えた。ハイドロキシアパタイト(HA) disc(HA48-3, Funakosi)を浸漬し、48時間培養し、歯垢・バイオフィルムを形成させた。ナノバブルの洗浄効果に及ぼす薬剤の影響を検討するため、このHA discに対して、大塚蒸留水、ナノバブル水、0.02% 塩化ベンザルコニウム(関東化学)、0.02% 塩化ベンザルコニウム+ナノバブル水(50%)、0.5%グリチルリチン酸モノアンモニウム(関東化学)、0.5%グリチルリチン酸モノアンモニウム+ナノバブル水(50%)、ネオステグリーン(0.2%ベンゼトニウム塩化物、日本歯科薬品)、コンクール(0.05%グルコン酸クロルヘキシジン、0.5%グリチルリチン酸アンモニウム含有、ウエルテック)を10分反応させ、走査電顕観察した。
【0049】
蒸留水(
図10A)、0.02% 塩化ベンザルコニウム(
図10C)、ネオステグリーン(
図10G)ではほとんど歯垢・バイオフィルムは残存し、コンクールでもかなり残存していた(
図10H)。ナノバブルでは、ほぼ歯垢・バイオフィルムは消失した(
図10B)。一方、0.02% 塩化ベンザルコニウムとナノバブルとの併用によりほぼ歯垢・バイオフィルムは消失した(
図10D)。0.5%グリチルリチン酸モノアンモニウムではナノバブルあり、なしで変わらず、ほぼ歯垢・バイオフィルムは消失した(
図10E,F)。
【0050】
[実施例4]
(ナノバブルによる根管象牙質内薬剤除去)
ブタ新鮮抜去小臼歯の根管を#60まで根管拡大形成し、根尖をユニファーストにて閉鎖した。5%次亜塩素酸ナトリウム2mL及び3%過酸化水素水2mLにて交互洗浄後、5mL生理食塩水でさらに洗浄、さらにスメアクリン(3%EDTA)を2分間根管内に適用し、5mL生理食塩水でさらに洗浄、4℃で生理食塩水内にて保存した。根管内をブローチ綿栓にて乾燥後、ナノバブル水(50%)含有テトラサイクリン5mg/ml(最終濃度)を5分間適用し、根管象牙細管内深くまで(約1mmまで)薬剤を浸透させた。生理食塩水にて洗浄後、根管内を乾燥させた。次に、この深くまで浸透した抗生剤を除去する目的で、生理食塩水、ナノバブルのみ、1.5%EDTA、1.5%EDTA+ナノバブル(50%含有)、8.5%EDTA、8.5%EDTA+ナノバブル(50%含有)の6種類、2mLで5分間、根管内を1回洗浄した。歯は歯髄腔が平行になるように金属製の台にユーテリテリーワックス、ユニファーストIIIにて固定した。ユニファーストIIIが硬化したらゼーゲミクロトームにて厚さ約300μlの切片標本を作製し、実体蛍光顕微鏡にて観察した。
【0051】
深部に浸透した抗生剤(テトラサイクリン)は蒸留水では全く除去できず(
図11A)、ナノバブルによりかなり除去できたが、根管の表面に残存した(
図11B)。1.5%EDTA(
図11C)及び8.5%EDTA(
図11E)では全く除去できず、ナノバブルを含有させることにより除去は進んだが、完全に除去はできず、やはり根管内表面に残存した(
図11D、F)。
【0052】
前述と同様にテトラサイクリンを浸透させた後、ナノバブルのみ、2mLで1分間1回、2回、3回、根管内を洗浄した。
【0053】
深部に浸透したテトラサイクリンは蒸留水1分1回では全く除去できず(
図12A)、ナノバブルにより回を重ねるにつれ、除去は進み、3回で完全に除去できた(
図12B-D)。
【0054】
[実施例5]
(ナノバブルによる舌苔除去)
舌苔に対して、ベンゼトニウム含有口腔洗浄剤で1分あるいはナノバブルで1分うがいした。
【0055】
図13Aはナノバブル水適用前を示す。ナノバブル水(
図13C)はベンゼトニウム含有口腔洗浄剤と(
図13B)と比べて、より舌苔を除去できた。また、ナノバブル水に粉末アルコックスE-240を均一に混合して作製したナノバブルゲルを使用して舌苔に適用したところ舌苔を除去できた。
【0056】
[実施例6]
(ナノバブル含有根管拡大清掃剤による脱灰作用促進)
ブタ新鮮抜去小臼歯の根管をKファイル(マニー)にて#60まで根管拡大形成し、5%次亜塩素酸ナトリウム2mL及び3%過酸化水素水2mLにて交互洗浄後、5mL生理食塩水でさらに洗浄、乾燥した。ナノバブル水、8.5%EDTA製剤+50%ナノバブル水、8.5%EDTA製剤、17%EDTA製剤の4種類の根管拡大清掃剤を用い、5分根管に作用させた。蒸留水をネガティブコントロールとして用いた。なお、ナノバブル水はナノバブル発生装置(FOAMEST (登録商標)、Nac Corp.)で空気を用いて製造したナノバブル水で、濃度2×108個/mL、粒径ピーク100nm、ゼータ電位-22.9mV、pH 6.25であった。
【0057】
ゼーゲミクロトーム(Leica)にて厚み3 mmに調整し、サンドペーパーにて#2000まで研磨し、測定まで生理食塩水に保存した。作成した標本の根管壁から100、300及び500μm地点でのビッカース硬さをマイクロビッカース硬度計(明石製作所 MVK-E)にて過重50g、15秒で測定した。
【0058】
図14に示されたとおり、ナノバブルのみでは、蒸留水と同様に、ビッカース硬さはほとんど変化がみられなかった。一方、ナノバブルや蒸留水と比較して、17%EDTA 及び8.5% EDTAでは、100μmの地点のみ有意にビッカース硬さの減少がみられた。さらに8.5%EDTA +50%ナノバブル水では、17%EDTAと比較して、100、300及び500μmとも有意にビッカース硬さの減少がみられ、8.5% EDTAと比較して、300及び500μmに有意にビッカース硬さの減少がみられた。この結果より、根管拡大清掃剤にナノバブルを添加すると、有意に深い地点まで脱灰できることが示された。
【0059】
[実施例7]
(ナノバブルゲルの粘度によるStreptococcus mutansの歯垢・バイオフィルム除去の変化)
48 well 細胞培養プレートの各wellにBHI Brot(関東化学)+5% スークロースを1mL添加した後、同wellに50 μlのStreptococcus mutans(ATCC 25175)培養液を加えた。ハイドロキシアパタイト(HA) disc(HA48-3, Funakosi)を浸漬し、48時間培養し、歯垢・バイオフィルムを形成させた。ナノバブルゲルの粘度による洗浄効果を検討するため、このHA discに対して、種々の粘度で作製したゲルを30分作用させ、大塚蒸留水、ナノバブル水、各ゲルのみ及び未処置のものと、通法にしたがい走査電子顕微鏡標本を作製し、比較した。粘度は音叉式粘度計を用いて計側した。用いたゲルと粘度は以下のようである。ゲルナノバブルゲル(1)(アルコックスE-240 1.06W%)粘度117mPa・s、ナノバブルゲルPEG20k 5%(ポリエチレングリコールPEG20k 5%)6mPa、ナノバブルゲルA(アルコックスE-240) 52mPa・s、ナノバブルゲルB(セロゲンBSH-12) 199mPa・s、ナノバブルゲルHPC-M 2.5%(ヒドロキシプロピルセルロースHPC-M 2.5%) 447mPa・sである。
【0060】
図15に示されたとおり、蒸留水では30分後も歯垢は残存していた。ナノバブル水では30分後に歯垢の大部分の減少がみられたが、少し残存していた。ナノバブルゲル(1)が最も効果が高く、ほぼ完全に歯垢が除去できた。他のナノバブルゲルはナノバブル水に比べ、除去効果が高かったが、わずかの残存がみられ、その効果は粘度の違いによる差はみられなかった。
【0061】
[実施例8]
(ナノバブル水の内圧の違いによるスメア層除去効果の変化)
ナノバブル作製時に用いる空気圧と水圧を変化させると以下のようなナノバブル特性が得られた。
【0062】
なお、ここで空気圧及び水圧とは、ナノバブル水を下記製造方法に従って作成した場合の圧力である。即ち、気体透過部に気体透過量を制限し得る高分子樹脂フィルムにクレーズを生成してなる通気性フィルムを配する筒状の気体透過装置と、水を貯蔵するタンクと、該貯蔵タンクに収容される水を筒状の循環路に送出するポンプで構成し、筒状の気体透過装置を該筒状の循環路内に設置することにより、該筒状気体透過部の外周径と該筒状循環路の内周径との差異により形成される間隙に、ポンプを用いて液圧(この圧力が水圧である。)を調節して水を導入するとともに、気体透過装置の気体透過部に、加圧状態を調節して気体を供給する(この気体の圧力が空気圧である。)ことにより、水にナノサイズの微細な気泡を混入させてナノバブル水が製造される。
【0063】
【0064】
これらのナノバブルにより、空圧0.17水圧0.28MPa(d)及び空圧0.07水圧0.18Mpa(a)では、スメア層は完全に除去され、管周象牙質にも細孔が広がっていた。また、空圧0.34水圧0.38MPa(e)では、象牙質壁表面が凹凸状態となった(
図16A)。即ちスメア層除去効果はd>a>b>c>eであった。
【0065】
統計学的解析を行うと、空圧0.17水圧0.28MPa(d)は、その他の内圧に比べて、有意に一個あたりの象牙細管面積が高く、スメア層除去効果が高いことが明らかとなった(
図16B)。
【0066】
ナノバブル(d)空圧0.17水圧0.28MPa、ナノバブル(a)空圧0.07水圧0.18MPa、ナノバブル(b)空圧0.09水圧0.24MPa、ナノバブル(c)空圧0.13水圧0.20MPa、及び、ナノバブル(e)空圧0.34水圧0.38MPaについて、それぞれ粒度分布を測定した。粒度分布の測定はマルバーンのナノサイトNS300装置を使用した。その結果、
図16Cに示されるように、dは169nm、aは143nm、bは77nm、cは111nm、eは151nmであった。
【0067】
[実施例9]
辺縁性歯周炎の原因菌の一つであるPorphyromonas gingivalis(ATCC 33277)を変法GAMブイヨン培地にて培養し、菌液を1×108 CFU/mlに調製した。
【0068】
(in vitroハイドロキシアパタイトモデルにおけるPorphyromonas gingivalisのナノバブルによるバイオフィルム除去)
48 well 細胞培養プレートの各 well に変法GAMブイヨン+ 5% スークロースを1ml添加した後、同 wellに50 μlのPorphyromonas gingivalis培養液を加えた。ハイドロキシアパタイト(HA) disc(HA48-3, Funakosi)を浸漬し、6日間培養し、バイオフィルムを形成させた。ナノバブルの洗浄効果を検討するため、このHA discに対して、ナノバブル、0.025%塩化ベンザルコニウム、ナノバブル含有0.025%塩化ベンザルコニウムを5分作用させた。作用後、およびPrestoBlue(R) Cell Viability Reagent 10%含有変法GAMブイヨンにて37℃ 90min培養し、実体顕微鏡(Leica:M205FA)にて観察した。また、培養上清を回収、Molecular Devices:SpectraMax M5で細菌数を計測した。また、ハイドロキシアパタイトを30、50、70、90、100%エタノールにて脱水後、白金10kVにて蒸着(導電膜蒸着(スパッターコーティング)MSP-20-UM, 真空デバイス)後、走査電子顕微鏡(VE9800, KEYENCE)にて観察した。
【0069】
作用後のハイドロキシアパタイトに残存した細菌の数をPrestoBlue(登録商標)にて測定すると、ナノバブル、0.025%塩化ベンザルコニウムよりナノバブル含有0.025%塩化ベンザルコニウムを適応したものは細菌数が減少する傾向がみられた(
図17)。
【0070】
走査電子顕微鏡観察では、Porphyromonas gingivalisのバイオフィルムはナノバブル5分でかなり除去することができた(
図18B)。また0.025%塩化ベンザルコニウムもPorphyromonas gingivalisを除去することができたが(
図18C)、ナノバブルと0.025%塩化ベンザルコニウムを混合したものはほとんどのPorphyromonas gingivalisを除去することができた(
図18D)。
【0071】
(in vitro Live/Dead染色によるPorphyromonas gingivalisのナノバブルによるバイオフィルム除去効果の検討)
48 well 細胞培養プレートの各 well に変法GAMブイヨン+ 5% スークロースを1ml添加した後、同 wellに50 μlのPorphyromonas gingivalis培養液を加えた。6日間培養し、バイオフィルムを形成させた。ナノバブルの洗浄効果を検討するため、ナノバブル、0.025%塩化ベンザルコニウム、0.025%塩化ベンザルコニウム(ナノバブル希釈)を5分間作用させた。作用後、Live/Dead BacLight Bacterial Viability Kits component (Invitrogen)にて染色し、蛍光顕微鏡(Keyence:VE7000)にて観察した。
【0072】
0.025%塩化ベンザルコニウムを作用させたものが死菌を示す蛍光発色が特に強くみられた(
図19)。一方ナノバブルを含有したものの方が生菌、死菌ともにあまり見られなかった。ナノバブル含有0.025%塩化ベンザルコニウムは0.025%塩化ベンザルコニウムと同様に殺菌作用を有しており、殺菌した上にナノバブルの効果で洗い流しているため、生菌、死菌ともに見られなくなっていると考えられ得る。
【0073】
(in vivoにおけるナノバブルによる歯周ポケット内細菌除去)
ビーグル犬(中部科学資材)の処置は全て全身麻酔を行ったのち行った。具体的にはドミトール(0.8mg/10kg),ドルミカム(1mg/10kg),ベトルファール(2mg/10kg) を筋肉内に投与した。鎮静後、プローベにて頬側歯周ポケットの近心、中心、遠心3点を測定したのち、イヌの歯のポケット深部3か所のプラークをペーパーポイントで採取し、その細菌数を測定した。まず滅菌ペーパーポイント#40を歯周ポケットに挿入し、ポケット内を5回近遠心方向にぬぐった。このペーパーポイントを細菌カウンタ (Panasonic : DU-AA01NP-H)にセットして計測した。0.025%塩化ベンザルコニウム入りHydroxypropyl Cellulose(HPC)ゲル、0.025%塩化ベンザルコニウムHPCゲル(ナノバブル希釈)を歯周ポケットに注入し、24時間後に細菌数を測定した。
【0074】
ビーグル犬の歯周ポケット内の細菌数を測定したのち、塩化ベンザルコニウムをHPCゲルもしくはナノバブル含有HPCゲルにて0.025%に希釈したものを歯周ポケット内に注入した。24時間後、再度測定したところ、塩化ベンザルコニウム(ゲル)および塩化ベンザルコニウム含有ナノバブル(ゲル)ともに細菌数が大幅に減少した(
図20)。さらに、塩化ベンザルコニウム(ゲル)および塩化ベンザルコニウム含有ナノバブル(ゲル)を比較すると、薬剤含有ナノバブルの方が有意に細菌数の減少が見られた。
【産業上の利用可能性】
【0075】
う蝕治療、抜髄・感染根管治療、及び、歯周疾患治療等に利用できる。