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特許7216024腫瘍細胞におけるWntシグナル伝達と拮抗するポリペプチド
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-23
(45)【発行日】2023-01-31
(54)【発明の名称】腫瘍細胞におけるWntシグナル伝達と拮抗するポリペプチド
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20230124BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20230124BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20230124BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20230124BHJP
   C07K 14/76 20060101ALI20230124BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230124BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230124BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230124BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230124BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230124BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20230124BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20230124BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230124BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230124BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20230124BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230124BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20230124BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20230124BHJP
   A61P 1/18 20060101ALI20230124BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20230124BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20230124BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20230124BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230124BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/28 ZNA
C07K16/46
C07K19/00
C07K14/76
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
A61K38/17 100
A61K45/00
A61K39/395 T
A61K39/00 H
A61P35/00
A61P15/00
A61P11/00
A61P1/18
A61P1/04
A61P21/00
A61P1/16
A61P43/00 111
A61P43/00 121
【請求項の数】 30
(21)【出願番号】P 2019565865
(86)(22)【出願日】2018-05-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-07-27
(86)【国際出願番号】 EP2018064295
(87)【国際公開番号】W WO2018220080
(87)【国際公開日】2018-12-06
【審査請求日】2021-05-28
(31)【優先権主張番号】17173782.8
(32)【優先日】2017-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503385923
【氏名又は名称】ベーリンガー インゲルハイム インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ツィンツァラ,ヴィットリア
(72)【発明者】
【氏名】キューンケル,クラウス-ペーター
(72)【発明者】
【氏名】バイセ,マリー-アンジュ
(72)【発明者】
【氏名】クロミー,カレン
(72)【発明者】
【氏名】スターレンス,ステファニー
(72)【発明者】
【氏名】シュトルベ,ベアトリース
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】PNAS, 2010; 107 (35), pp.15473-15478
【文献】PLoS One; 2011; 6 (8), e23537
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低密度リポタンパク質受容体様タンパク質5(LRP5)に結合するポリペプチドであって、免疫グロブリン単一可変ドメイン(ISVD)(i)~(iv):
(i)以下の相補性決定領域(CDR)配列:
CDR1:TYVMG(配列番号1)
CDR2:AISWSGGSTYYADSVKG(配列番号2)
CDR3:SRGTSTPSRASGVSRYDY(配列番号3)
を含むISVD、
(ii)以下のCDR配列:
CDR1:RYAVA(配列番号4)
CDR2:AITWSSGRIDYADSVKG(配列番号5)
CDR3:DRRPRSTGRSGTGSPSTYDY(配列番号6)
を含むISVD、
(iii)以下のCDR配列:
CDR1:IGAMG(配列番号7)
CDR2:AVSSGGSTYYVDSVKG(配列番号8)
CDR3:ETGPYGPPKRDY(配列番号9)
を含むISVD、及び
(iv)以下のCDR配列:
CDR1:INAMG(配列番号10)
CDR2:AVSSGGSTYYVDSVKG(配列番号8)
CDR3:ETGPYGPPKRDY(配列番号9)
を含むISVD
からなる群から選択されるISVDを含む、ポリペプチド。
【請求項2】
ISVD(i)及び(ii)から選択される第1のISVDと、ISVD(iii)及び(iv)から選択される第2のISVDとを含む、請求項1記載のポリペプチド。
【請求項3】
前記第1のISVDがISVD(i)であり、そして、前記第2のISVDがISVD(iii)であるか;
前記第1のISVDがISVD(i)であり、そして、前記第2のISVDがISVD(iv)であるか; 前記第1のISVDがISVD(ii)であり、そして、前記第2のISVDがISVD(iii)であるか;又は
前記第1のISVDがISVD(ii)であり、そして、前記第2のISVDがISVD(iv)である、
請求項2記載のポリペプチド。
【請求項4】
前記ISVDが、VHHドメインである、請求項1~3のいずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項5】
ISVD(i)が、配列番号11の配列若しくは配列番号23の配列を含む、
ISVD(ii)が、配列番号12の配列を含む、
ISVD(iii)が、配列番号13の配列若しくは配列番号22の配列を含む、及び/又は
ISVD(iv)が、配列番号14の配列を含む、請求項1記載のポリペプチド。
【請求項6】
第1のISVD及び第2のISVDを含み、前記第1のISVDが、配列番号11、配列番号12、又は配列番号23の配列を含み、そして、前記第2のISVDが、配列番号13、配列番号14、又は配列番号22の配列を含む、請求項5記載のポリペプチド。
【請求項7】
前記第1のISVDが、配列番号11の配列を含み、そして、前記第2のISVDが、配列番号22の配列を含むか;
前記第1のISVGが、配列番号12の配列を含み、そして、前記第2のISVDが、配列番号13の配列を含むか;
前記第1のISVDが、配列番号23の配列を含み、そして、前記第2のISVDが、配列番号14の配列を含む、
請求項6記載のポリペプチド。
【請求項8】
前記第1のISVD及び前記第2のISVDが、リンカーペプチドによって共有結合的に連結している、請求項2~4、6及び7のいずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項9】
半減期延長部分を更に含み、前記半減期延長部分が、ポリペプチドに共有結合的に連結している
請求項2~8のいずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項10】
前記半減期延長部分が、配列番号21の配列を含むAlb11ドメインである、請求項9記載のポリペプチド。
【請求項11】
第1及び第2のLRP5結合ISVDと、1つのアルブミン結合ISVDとを含むポリペプチドであって、
- 前記第1のLRP5結合ISVDが、ISVD(i)及び(ii):
(i)以下のCDR配列:
CDR1:TYVMG(配列番号1)
CDR2:AISWSGGSTYYADSVKG(配列番号2)
CDR3:SRGTSTPSRASGVSRYDY(配列番号3)
を含むISVD、
(ii)以下のCDR配列:
CDR1:RYAVA(配列番号4)
CDR2:AITWSSGRIDYADSVKG(配列番号5)
CDR3:DRRPRSTGRSGTGSPSTYDY(配列番号6)
を含むISVD
からなる群から選択され、
- 前記第2のLRP5結合ISVDが、ISVD(iii)及び(iv):
(iii)以下のCDR配列:
CDR1:IGAMG(配列番号7)
CDR2:AVSSGGSTYYVDSVKG(配列番号8)
CDR3:ETGPYGPPKRDY(配列番号9)
を含むISVD、及び
(iv)以下のCDR配列:
CDR1:INAMG(配列番号10)
CDR2:AVSSGGSTYYVDSVKG(配列番号8)
CDR3:ETGPYGPPKRDY(配列番号9)
を含むISVD
からなる群から選択され、
- 前記アルブミン結合ISVDが、以下のCDR配列:
CDR1:SFGMS(配列番号15)
CDR2:SISGSGSDTLYADSVKG(配列番号16)
CDR3:GGSLSR(配列番号17)
を含むことによって定義される、ポリペプチド。
【請求項12】
前記第1のLRP5結合ISVDがISVD(i)であり、そして、前記第2のLRP5結合ISVDがISVD(iii)であるか;
前記第1のLRP5結合ISVDがISVD(i)であり、そして、前記第2のLRP5結合ISVDがISVD(iv)であるか;
前記第1のLRP5結合ISVDがISVD(ii)であり、そして、前記第2のLRP5結合ISVDがISVD(iii)であるか;
前記第1のLRP5結合ISVDがISVD(ii)であり、そして、前記第2のLRP5結合ISVDがISVD(iv)である、
請求項11記載のポリペプチド。
【請求項13】
配列番号18、19、及び20から選択される配列を含むか又はからなる、LRP5に結合するポリペプチド。
【請求項14】
LRP6に対する親和性及び/又は結合活性よりも少なくとも10倍強い、LRP5に対する親和性及び/又は結合活性を有する、請求項1~13のいずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項15】
LRP6との交差反応性がない、請求項1~13のいずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか一項記載のポリペプチドをコードしている、核酸分子。
【請求項17】
請求項16記載の核酸を含む発現ベクター。
【請求項18】
請求項17記載の発現ベクターを保有している宿主細胞。
【請求項19】
請求項1~15のいずれか一項記載のポリペプチドを製造する方法であって、
- 請求項1~15のいずれか一項記載のポリペプチドを発現させる条件下で、請求項18記載の宿主細胞を培養する工程と、
- 前記ポリペプチドを回収する工程と、
を含む、方法。
【請求項20】
- 前記ポリペプチドを精製する工程
を更に含む、請求項19記載の方法。
【請求項21】
請求項1~15のいずれか一項記載のポリペプチドを含む、医薬組成物。
【請求項22】
ヒト又は動物における疾患、障害、又は状態を治療、予防、又は緩和する方法において医薬として使用するための、請求項21記載の医薬組成物。
【請求項23】
癌の処置において使用するための、又は特発性肺疾患の処置において使用するための、又は網膜症の処置において使用するための、又はトリプルネガティブ乳癌(TNBC)の処置において使用するための、請求項21記載の医薬組成物。
【請求項24】
癌が、乳癌、肺癌(非小細胞肺癌(NSCLC)を含む)、膵臓癌、結腸直腸癌、肉腫、卵巣癌、若しくは肝細胞癌である、請求項23記載の医薬組成物。
【請求項25】
化学療法剤、血管新生を阻害する処置活性化合物、シグナル伝達経路阻害剤、EGFR阻害剤、免疫調節剤、免疫チェックポイント阻害剤、又はホルモン療法剤と組み合わせて使用するための、請求項21記載の医薬組成物。
【請求項26】
請求項1~15のいずれか一項記載のポリペプチドと組み合わせて使用するための、化学療法剤、血管新生を阻害する処置活性化合物、シグナル伝達経路阻害剤、EGFR阻害剤、免疫調節剤、免疫チェックポイント阻害剤、及びホルモン療法剤からなる群から選択される処置剤を含む医薬組成物。
【請求項27】
樹状細胞におけるWnt1及びWnt3aによって駆動される標的遺伝子の転写を阻害することによって腫瘍微小環境を調節するための、請求項1~15のいずれか一項記載のポリペプチドのエキソビボ使用。
【請求項28】
抗PD1抗体、抗PDL1抗体、抗CTLA4抗体、抗BTLA抗体、抗LAG3抗体、及び抗TIM3抗体からなる群から選択される免疫チェックポイント阻害剤と組み合わせて、又は癌ワクチンと組み合わせて、癌の処置において使用するための、請求項21記載の医薬組成物。
【請求項29】
癌の処置における医薬の製造における、請求項1~15のいずれか一項記載のポリペプチドの使用。
【請求項30】
抗PD1抗体、抗PDL1抗体、抗CTLA4抗体、抗BTLA抗体、抗LAG3抗体、及び抗TIM3抗体からなる群から選択される免疫チェックポイント阻害剤と組み合わせた、又は癌ワクチンと組み合わせた、癌の処置における医薬の製造における、請求項1~15のいずれか一項記載のポリペプチドの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規低密度リポタンパク質受容体様タンパク質5(LRP5)結合ポリペプチドに関する。本発明は、また、このようなポリペプチドをコードしている核酸;このようなポリペプチドを調製する方法;このようなポリペプチドを発現しているか又は発現することができる宿主細胞;このようなポリペプチドを含む組成物;及び特に癌疾患の分野における処置目的のための、このようなポリペプチド又はこのような組成物の使用に関する。
【0002】
背景技術
Wntシグナル伝達経路の活性化には、細胞外WntリガンドがFrizzled受容体及び共役受容体LRP5(アクセッション番号:UniProtKB -O75197/LRP5_HUMAN)に結合することが必要である。哺乳類細胞には19種のWntタンパク質及び10種のFrizzled受容体が存在する。Wntリガンドの非存在下では、足場材料タンパク質Axin及びAPC、並びにキナーゼGSK3ベータ及びCK1aからなるタンパク質複合体によって、細胞質ベータ-カテニンがリン酸化される。続いて、ユビキチンリガーゼベータ-TrcPによって認識されることによって、ユビキチンが媒介するベータ-カテニンの分解が生じる。Wntリガンドの存在下では、WntがFrizzled及びLRP5に結合することによって、細胞質エフェクタタンパク質Dvlが動員され、そして、LRP5の細胞質尾部がリン酸化されて、Axinのドッキング部位が生じる。LRP5によってAxinが隔離されることによって、Axin-APC-GSK3ベータ複合体が不活化されるので、細胞内ベータ-カテニンが安定化し、そして、蓄積される。したがって、ベータ-カテニンの細胞質濃度が上昇し、そして、ベータ-カテニンは核に移動し、そして、転写因子のT細胞因子(TCF)/リンパ球エンハンサ結合因子(LEF)ファミリーのメンバーと複合体を形成する。次いで、cAMP応答エレメント結合タンパク質(CREB)結合タンパク質(CBP)又はそのホモログp300を含む基本転写機構及び翻訳共活性化因子が動員されて、Axin2、サイクリンD1、及びc-Mycを含む様々な標的遺伝子を発現させる。
【0003】
更なるレベルのリガンド依存性Wnt経路の制御は、E3リガーゼRNF43及びその近縁ホモログZNRF3によって、そして、分泌されたR-スポンジンタンパク質によって媒介される(de Lau et al. “The R-spondin/Lgr5/Rnf43 module: regulator of Wnt signal strength”. Genes Dev. 2014; 28(4):305-16)。RNF43は、細胞表面におけるFrizzled/LRP5受容体複合体のユビキチン化を媒介して、該複合体を分解させ、それによって、リガンド依存性Wnt経路活性を阻害する。RNF43の活性は、Rスポンジンファミリーのメンバー(R-スポンジン1~4リガンド)によって中和される。R-スポンジンリガンドが存在する場合、それは、細胞表面からRNF43を除去するので、Frizzled/LRP5複合体が蓄積され、そして、Wntリガンドの存在下におけるWntシグナル伝達が増強される。
【0004】
LRP5は、リガンド依存性Wntシグナル伝達の活性化のゲートキーパーとして機能するので、19種のWntリガンド及び10種のFrizzled受容体の全てによって媒介され、そして、R-スポンジンリガンドによって増強される経路を完全にブロックするための標的であるとみなすことができる。具体的には、Wntリガンドは、Wnt1クラス及びWnt3aクラスに分類することができ、それぞれ、シグナル伝達のためにLRP5の異なるエピトープ/領域に結合する。LRP5の外部ドメインは、EGF様ドメインに接続されたベータ-プロペラの4つの繰り返し単位と、続いて、3つのLDLR型Aリピートとを含む。LRP5の構造及び機能の複合分析は、Wnt1(Wnt1クラスのリガンド)が、ベータ-プロペラ1及び2を含有する断片に結合し、そして、Wnt3aが、ベータ-プロペラ3及び4を含有する断片に結合することを示す。
【0005】
骨障害、脂質調節障害、アルツハイマー病、関節リウマチ、及びインスリン依存型糖尿病を含む様々な適応症に関連して、LRP5及びLRP5活性に干渉する剤が記載されている(例えば、国際公開公報第2002/092015号、同第2006/102070号、同第2009/155055号、及び同第1998/046743号を参照)。
【0006】
Wntシグナル伝達の過剰活性化は、更に、様々な種類の癌の発病に関与している。幾つかの癌の種類では、下流のシグナル伝達分子における高頻度の変異が、Wnt経路の構成的な活性化の一因となる(例えば、結腸直腸癌におけるAPC変異;肝細胞癌におけるベータ-カテニン活性化変異)。対照的に、トリプルネガティブ乳癌(TNBC)、非小細胞肺癌(NSCLC)、膵臓腺癌では、そして、結腸直腸癌(CRC)及び子宮内膜癌の一部では、Wntシグナル伝達の活性化は、ベータ-カテニンの細胞内蓄積によって検出される通り、リガンド依存性機序によって(すなわち、オートクリン/パラクリンWnt活性化によって)駆動される。NSCLC、TNBC、及び膵臓腺癌では、リガンド依存的なWntの活性化は、Wntリガンド及び/若しくはLRP5受容体の発現増加又はLRP5の負の制御因子であるDKK1のサイレンシングを含む、複数の機序によって媒介される(TNBC:Khramtsov et al. “Wnt/beta-catenin pathway activation is enriched in basal-like breast cancers and predicts poor outcome”. Am J Pathol. 2010; 176(6): 2911-20;NSCLC:Nakashima et al. “Wnt1 overexpression associated with tumor proliferation and a poor prognosis in non-small cell lung cancer patients”. Oncol Rep. 2008; 19(1):203-9;Pancreatic cancer: Zhang et al. “Canonical wnt signaling is required for pancreatic carcinogenesis”. Cancer Res. 2013; 73(15):4909-22)。腫瘍におけるリガンド依存的なWntの活性化は、腫瘍成長、及び化学療法又は免疫療法に対する耐性を駆動することが示されており、そして、前臨床モデルでは再発に関連している。
【0007】
Wntシグナル伝達経路を調節することができる幾つかのLRP5結合分子が、当技術分野において公知である:
【0008】
Dickkopf-1(DKK1)は、LRP5阻害剤である。DKK1は、LRP5に会合し、そして、膜貫通タンパク質Kremenは、Wntシグナル伝達を阻害し、そして、LRP5を急速に内部移行させる。DKK1は、Wnt1及びWnt3aによって媒介されるシグナル伝達を両方とも阻害することが示されている。
【0009】
更に、インビボにおけるDKK1処理が、消化管において強い毒性を引き起こすことも示された。具体的には、成体マウスにおけるDKK1のアデノウイルス媒介性発現が、小腸及び結腸における増殖を顕著に阻害し、進行性構造変性、著しい体重減少、並びに大腸炎及び全身感染症による死を伴うことが示された。具体的には、LRP5は、小腸において増殖性上皮細胞で発現し、そして、小腸上皮の増殖に必要であるが、これは、LRP5阻害が、この及び他の正常組織にとって有害である可能性があることを示唆している(Zhong et al. “Lrp5 and Lrp6 play compensatory roles in mouse intestinal development”. J Cell Biochem. 2012; 113(1):31-8)。これによって、LRP5を阻害するか又は一般にWnt(Wnt1及びWnt3a)シグナル伝達経路を阻害する剤を処置目的のために使用することができるかどうか、例えば、抗癌薬として開発することができるかどうか疑わしくなる。
【0010】
国際公開公報第1998/046743A1号には、LRP5に特異的な抗体が開示されており、そして、このような抗体を増加させるための幾つかのLRP5ペプチドが示唆されている。しかし、このような抗体の生成に関する実験結果は記載されておらず、このような抗体も具体的には開示されていない。
【0011】
米国特許第9175090号には、LRP5に結合するモノクローナル抗体、具体的にはIgM抗体を投与することによって、Apc発現に欠陥のある癌細胞におけるWntシグナル伝達を阻害する方法が開示されている。
【0012】
国際公開公報第2013/109819号には、抗LRP5抗体、具体的には、Norrin活性及び/又はNorrin/Fzd4シグナル伝達を強化する抗体、並びに血管新生に関連する病態の処置におけるその使用が開示されている。
【0013】
しかし、これまで、任意の疾患を処置するための医薬としての使用について保健機関によって認可された、当技術分野において記載されているLRP5結合分子は存在していない。具体的には、このような使用は、このような分子が他の標的に結合、活性化、又は阻害するか又はしないように(例えば、その結果、他のシグナル伝達経路の不所望の活性化若しくは阻害、又は標的アイソフォームに対する活性化若しくは阻害の喪失が生じる)非常に特異的な結合特性、正確な特異性を必要とし、二重又は多重特異性の剤の場合、2つ以上の結合特異性間の適切なバランス、好適な薬物動態及び薬力学的特性、許容し得る毒性学的プロファイル、並びに無論インビボにおける有効性を必要とする。
【0014】
上記に鑑みて、数種の癌疾患及び腫瘍を効率的に処置する新規処置剤が必要とされている。したがって、本発明の目的は、NSCLC及びTNBCを含む、幾つかの癌疾患の処置において使用することができる、このような薬理学的活性剤を提供することである。
【0015】
具体的には、本発明の目的は、現在使用されている及び/又は当技術分野において公知の剤、組成物、及び/又は方法と比べて特定の利点をもたらす、このような薬理学的活性剤、組成物、及び/又は処置方法を提供することである。これら利点は、特に当技術分野において既に知られている候補薬と比べて、インビボにおける有効性、改善された処置及び薬理学的特性、副作用の減少、及び改善された調製の容易さ又は商品のコスト低減等の他の有利な特性を含む。
【0016】
発明の概要
本発明の第1の態様によれば、本発明は、低密度リポタンパク質受容体様タンパク質5(LRP5)に結合するポリペプチドであって、以下のLRP5結合免疫グロブリン単一可変ドメイン(ISVD)(i)~(iv):
(i)以下の相補性決定領域(CDR)配列:
CDR1:TYVMG(配列番号1)
CDR2:AISWSGGSTYYADSVKG(配列番号2)
CDR3:SRGTSTPSRASGVSRYDY(配列番号3)
を有するISVD、
(ii)以下のCDR配列:
CDR1:RYAVA(配列番号4)
CDR2:AITWSSGRIDYADSVKG(配列番号5)
CDR3:DRRPRSTGRSGTGSPSTYDY(配列番号6)
を有するISVD、
(iii)以下のCDR配列:
CDR1:IGAMG(配列番号7)
CDR2:AVSSGGSTYYVDSVKG(配列番号8)
CDR3:ETGPYGPPKRDY(配列番号9)
を有するISVD、及び
(iv)以下のCDR配列:
CDR1:INAMG(配列番号10)
CDR2:AVSSGGSTYYVDSVKG(配列番号8)
CDR3:ETGPYGPPKRDY(配列番号9)
を有するISVD
からなる群から選択されるISVDを含むポリペプチドを提供する。
【0017】
この態様では、本発明のポリペプチドは、好ましくは、上に定義されたISVD(i)及び(ii)から選択される第1のISVD(a)と、上に定義されたISVD(iii)及び(iv)から選択される第2のISVD(b)とを含む。更により好ましくは、ISVD(i)~(iv)のうちの1つ以上は、それぞれ、以下の配列を含むことによって定義される:
【化1】
【0018】
一般にこのようなISVD又はドメインに関する用語「第1の」及び「第2の」は、本明細書で使用するとき、(これらドメインが、異なるCDR配列を少なくとも含むとき)これらドメインが2つの異なるドメインであることを示すことのみを意図する。したがって、これら用語がこのようなポリペプチド鎖内のドメインの正確な順序又は配列に言及すると理解されるものではない。言い換えれば、上記ISVD(a)及び(b)は、本明細書に記載されるポリペプチド内で(a)-(b)の順序又は(b)-(a)の順序のいずれで配置されていてもよい。
【0019】
幾つかの実施形態では、本明細書に記載されるポリペプチドは、
- 以下のCDR配列:
CDR1:TYVMG(配列番号1)
CDR2:AISWSGGSTYYADSVKG(配列番号2)
CDR3:SRGTSTPSRASGVSRYDY(配列番号3)
を含む第1のISVD(a)と、
- 以下のCDR配列:
CDR1:IGAMG(配列番号7)
CDR2:AVSSGGSTYYVDSVKG(配列番号8)
CDR3:ETGPYGPPKRDY(配列番号9)
を含む第2のISVD(b)と
を含む。
【0020】
幾つかの実施形態では、本明細書に記載されるポリペプチドは、
- 以下のCDR配列:
CDR1:TYVMG(配列番号1)
CDR2:AISWSGGSTYYADSVKG(配列番号2)
CDR3:SRGTSTPSRASGVSRYDY(配列番号3)
を含む第1のISVD(a)と、
- 以下のCDR配列:
CDR1:INAMG(配列番号10)
CDR2:AVSSGGSTYYVDSVKG(配列番号8)
CDR3:ETGPYGPPKRDY(配列番号9)
を含む第2のISVD(b)と
を含む。
【0021】
幾つかの実施形態では、本明細書に記載されるポリペプチドは、
- 以下のCDR配列:
CDR1:RYAVA(配列番号4)
CDR2:AITWSSGRIDYADSVKG(配列番号5)
CDR3:DRRPRSTGRSGTGSPSTYDY(配列番号6)
を含む第1のISVD(a)と、
- 以下のCDR配列:
CDR1:IGAMG(配列番号7)
CDR2:AVSSGGSTYYVDSVKG(配列番号8)
CDR3:ETGPYGPPKRDY(配列番号9)
を含む第2のISVD(b)と
を含む。
【0022】
幾つかの実施形態では、本明細書に記載されるポリペプチドは、
- 以下のCDR配列:
CDR1:RYAVA(配列番号4)
CDR2:AITWSSGRIDYADSVKG(配列番号5)
CDR3:DRRPRSTGRSGTGSPSTYDY(配列番号6)
を含む第1のISVD(a)と、
- 以下のCDR配列:
CDR1:INAMG(配列番号10)
CDR2:AVSSGGSTYYVDSVKG(配列番号8)
CDR3:ETGPYGPPKRDY(配列番号9)
を含む第2のISVD(b)と
を含む。
【0023】
具体的には、本明細書に記載されるポリペプチドのISVD(例えば、上に定義されたCDR配列を含むISVD)は、VHHドメイン、好ましくはヒト化VHHドメインである。
【0024】
幾つかの実施態様では、本明細書に記載されるポリペプチドのISVD(i)は、配列番号11の配列又は配列番号23の配列を含む。幾つかの実施態様では、ISVD(ii)は、配列番号12の配列を含む。幾つかの実施態様では、ISVD(iii)は、配列番号13の配列又は配列番号22の配列を含む。幾つかの実施態様では、ISVD(iv)は、配列番号14の配列を含む。
【0025】
具体的には、本明細書に記載されるポリペプチドは、第1のISVD(a)及び第2のISVD(b)を含み、該第1のISVDは、配列番号11、配列番号12、及び配列番号23からなる群から選択される配列を含み、そして、該第2のISVDは、配列番号13、配列番号14、及び配列番号22からなる群から選択される配列を含む。幾つかの実施態様では、第1のISVDは、配列番号11の配列を含み、そして、第2のISVDは、配列番号22の配列を含む。幾つかの実施態様では、第1のISVGは、配列番号12の配列を含み、そして、第2のISVDは、配列番号13の配列を含む。幾つかの実施態様では、第1のISVDは、配列番号23の配列を含み、そして、第2のISVDは、配列番号14の配列を含む。幾つかの実施態様では、第1のISVDは、配列番号11の配列を含み、そして、第2のISVDは、配列番号14の配列を含む。幾つかの実施態様では、第1のISVDは、配列番号11の配列を含み、そして、第2のISVDは、配列番号13の配列を含む。幾つかの実施態様では、第1のISVDは、配列番号12の配列を含み、そして、第2のISVDは、配列番号14の配列を含む。幾つかの実施態様では、第1のISVDは、配列番号12の配列を含み、そして、第2のISVDは、配列番号22の配列を含む。幾つかの実施態様では、第1のISVDは、配列番号23の配列を含み、そして、第2のISVDは、配列番号22の配列を含む。幾つかの実施態様では、第1のISVDは、配列番号23の配列を含み、そして、第2のISVDは、配列番号13の配列を含む。
【0026】
一態様によれば、本明細書に記載されるポリペプチドの第1のISVD及び第2のISVDは、リンカーペプチドによって共有結合的に連結しており、該リンカーペプチドは、場合により、第3のISVD;例えば、アルブミン結合ISVDを含むか又はからなる。
【0027】
更なる態様によれば、本明細書に記載されるポリペプチドは、半減期延長部分を更に含み、該半減期延長部分は、該ポリペプチドに共有結合的に連結しており、そして、場合により、アルブミン結合部分、例えば、アルブミン結合ペプチド又はアルブミン結合免疫グロブリンドメイン、トランスフェリン結合部分、例えば、抗トランスフェリン免疫グロブリンドメイン、ポリエチレングリコール分子、ヒト血清アルブミン、及びヒト血清アルブミンの断片からなる群から選択される。具体的には、半減期延長部分は、以下の配列:
【化2】

を含むアルブミン結合部分、好ましくは、アルブミン結合ISVD、更により好ましくは、Alb11ドメインである。
【0028】
好ましい態様によれば、本明細書に記載されるポリペプチドは、第1(a)及び第2(b)のLRP5結合ISVDと、第3のISVD(c)、例えば、アルブミン結合ISVD(c)とを含み、
- 該第1のLRP5結合ISVD(a)は、ISVD(i)及び(ii):
(i)以下のCDR配列:
CDR1:TYVMG(配列番号1)
CDR2:AISWSGGSTYYADSVKG(配列番号2)
CDR3:SRGTSTPSRASGVSRYDY(配列番号3)
を含むISVD、及び
(ii)以下のCDR配列:
CDR1:RYAVA(配列番号4)
CDR2:AITWSSGRIDYADSVKG(配列番号5)
CDR3:DRRPRSTGRSGTGSPSTYDY(配列番号6)
を含むISVD
からなる群から選択され、
- 該第2のISVD(b)は、ISVD(iii)及び(iv):
(iii)以下のCDR配列:
CDR1:IGAMG(配列番号7)
CDR2:AVSSGGSTYYVDSVKG(配列番号8)
CDR3:ETGPYGPPKRDY(配列番号9)
を含むISVD、及び
(iv)以下のCDR配列:
CDR1:INAMG(配列番号10)
CDR2:AVSSGGSTYYVDSVKG(配列番号8)
CDR3:ETGPYGPPKRDY(配列番号9)
を含むISVD
からなる群から選択され、そして、
- 該アルブミン結合ISVD(c)は、以下のCDR配列:
CDR1:SFGMS(配列番号15)
CDR2:SISGSGSDTLYADSVKG(配列番号16)
CDR3:GGSLSR(配列番号17)
を含むことによって定義される。
【0029】
例えば、該ポリペプチドは、上記CDR配列によって定義された第1及び第2のISVDと、上記CDR配列によって定義されたアルブミン結合ISVDであり、そして、該第1及び第2のISVDを直接又は間接的に連結する第3のISVDとを含む。幾つかの実施態様では、第1のISVDは、ペプチドリンカーを介して第2のISVDに共有結合的に連結している第3のISVDに、ペプチドリンカーを介して共有結合的に連結している。用語「第1の」及び「第2の」とは、上述の通り、ポリペプチド内の位置を指定するものではないので、ポリペプチド内のISVD配列は、N末端からC末端に向かって、ISVD(a)-(c)-(b)、(a)-[リンカー]-(c)-[リンカー]-(b)、(b)-(c)-(a)、(b)-[リンカー]-(c)-[リンカー]-(a)のいずれの順序で配置されていてもよい。
【0030】
幾つかの実施態様では、該ポリペプチドは、
- 以下のCDR配列:
CDR1:TYVMG(配列番号1)
CDR2:AISWSGGSTYYADSVKG(配列番号2)
CDR3:SRGTSTPSRASGVSRYDY(配列番号3)
を含む第1のISVDと、
- 以下のCDR配列:
CDR1:IGAMG(配列番号7)
CDR2:AVSSGGSTYYVDSVKG(配列番号8)
CDR3:ETGPYGPPKRDY(配列番号9)
を含む第2のISVDと、
- 以下のCDR配列:
CDR1:SFGMS(配列番号15)
CDR2:SISGSGSDTLYADSVKG(配列番号16)
CDR3:GGSLSR(配列番号17)
を含むことによって定義されるアルブミン結合ISVD(第3のISVD)と
を含む。
【0031】
幾つかの実施態様では、該ポリペプチドは、
- 以下のCDR配列:
CDR1:TYVMG(配列番号1)
CDR2:AISWSGGSTYYADSVKG(配列番号2)
CDR3:SRGTSTPSRASGVSRYDY(配列番号3)
を含む第1のISVDと、
- 以下のCDR配列:
CDR1:INAMG(配列番号10)
CDR2:AVSSGGSTYYVDSVKG(配列番号8)
CDR3:ETGPYGPPKRDY(配列番号9)
を含む第2のISVDと、
- 以下のCDR配列:
CDR1:SFGMS(配列番号15)
CDR2:SISGSGSDTLYADSVKG(配列番号16)
CDR3:GGSLSR(配列番号17)
を含むことによって定義される該アルブミン結合ISVDと
を含む。
【0032】
幾つかの実施態様では、該ポリペプチドは、
- 以下のCDR配列:
CDR1:RYAVA(配列番号4)
CDR2:AITWSSGRIDYADSVKG(配列番号5)
CDR3:DRRPRSTGRSGTGSPSTYDY(配列番号6)
を含む第1のISVDと、
- 以下のCDR配列:
CDR1:IGAMG(配列番号7)
CDR2:AVSSGGSTYYVDSVKG(配列番号8)
CDR3:ETGPYGPPKRDY(配列番号9)
を有する第2のISVDと、
- 以下のCDR配列:
CDR1:SFGMS(配列番号15)
CDR2:SISGSGSDTLYADSVKG(配列番号16)
CDR3:GGSLSR(配列番号17)
を含むことによって定義される該アルブミン結合ISVDと
を含む。
【0033】
幾つかの実施態様では、該ポリペプチドは、
- 以下のCDR配列:
CDR1:RYAVA(配列番号4)
CDR2:AITWSSGRIDYADSVKG(配列番号5)
CDR3:DRRPRSTGRSGTGSPSTYDY(配列番号6)
を含む第1のISVDと、
- 以下のCDR配列:
CDR1:INAMG(配列番号10)
CDR2:AVSSGGSTYYVDSVKG(配列番号8)
CDR3:ETGPYGPPKRDY(配列番号9)
を含む第2のISVDと、
- 以下のCDR配列:
CDR1:SFGMS(配列番号15)
CDR2:SISGSGSDTLYADSVKG(配列番号16)
CDR3:GGSLSR(配列番号17)
を含むことによって定義される該アルブミン結合ISVDと
を含む。
【0034】
幾つかの実施態様では、上記ポリペプチドにおけるそのCDR配列によって定義されるISVDは、アルブミン結合ISVDが直接又は間接的に(例えば、リンカーペプチドを介して)第1の及び第2のISVDを連結するように配置される。
【0035】
幾つかの実施態様では、本明細書に記載されるポリペプチドは、配列番号18、19、及び20から選択される配列を含むか又はからなる。
【0036】
更なる態様では、本発明は、LRP5に結合するポリペプチドであって、LRP5に対する結合について参照ISVDと競合するISVDを含み、該参照ISVDが、配列番号11、12、13、14、22、又は23によって同定される配列を有するポリペプチドに関する。
【0037】
別の態様では、本発明は、LRP5に対する結合について第1の参照ISVDと競合する第1のISVD(a)であって、該第1の参照ISVDが配列番号11、23、又は12によって同定される配列を有する第1のISVD(a)と、LRP5に対する結合について第2の参照ISVDと競合する第2のISVD(b)であって、該第2の参照ISVDが配列番号13、22、又は14によって同定される配列を有する第2のISVD(b)とを含む、LRP5に結合するポリペプチドに関する。
【0038】
更に別の態様では、本発明は、第1のLRP5結合ドメイン、好ましくはISVDと、第2のLRP5結合ドメイン、好ましくはISVDとを含む、LRP5に結合するポリペプチドであって、該第1のドメインが、該第2のドメインが結合するLRP5領域とは異なるLRP5の領域に結合するポリペプチドに関する。好ましい実施態様によれば、該第1のLRP5結合ドメインは、LRP5のWnt3a結合部位をブロックし、そして、好ましくは、Wnt3aによって駆動される標的遺伝子の転写を阻害する、及び/又は該第2のLRP5結合ドメインは、LRP5のWnt1結合部位をブロックし、そして、好ましくは、Wnt1によって駆動される標的遺伝子の転写を阻害する。
【0039】
更なる態様によれば、本発明は、本発明のポリペプチドの生成において使用される、核酸分子、発現ベクター、宿主細胞、及び製造方法に関する。本発明のポリペプチドをコードしている核酸分子は、それぞれの発現ベクターを構築するために、単離された形態で使用することができ、次いで、本発明のポリペプチドのバイオ医薬を生産するために使用される宿主細胞にトランスフェクトされる。このような製造方法は、典型的には、該ポリペプチドを発現させる条件下で宿主細胞を培養する工程と、該ポリペプチドを回収する工程と、当技術分野において公知の方法に従ってそれを精製する工程とを含む。
【0040】
本発明のポリペプチドに関連する更なる態様、実施態様、使用、及び方法は、以下の本発明の詳細な説明及び添付の特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【0041】
本発明は、少ない副作用で、TNBC、CRC、及びNSCLC等の幾つかの癌の種類をより効率的に処置する新規分子を提供する。本発明のポリペプチドは、腫瘍退縮を誘導することができ、その結果、病理学的完全寛解(pCR)が得られるという点で、癌患者の処置において驚くべき処置効果(すなわち、有効性)を提供する。これは、次に、特にアンメット・メディカル・ニーズの高い適応症、例えば、乳癌において、無増悪生存率及び全生存率を著しく改善すると予測される。したがって、本発明のポリペプチドは、幾つかの癌の種類、特に、調節解除されたWntシグナル伝達経路及びベータ-カテニンの蓄積を示すものの処置において新しい処置法の選択肢を提供する。
【0042】
更に、本発明のポリペプチドは、製造が容易であり、高い安定性及び低い抗原性を有し、そして、注射及び注入に加えて、投与経路に関する様々な選択肢を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1図1は、Wnt1及びWnt3aのシグナル伝達と拮抗する二重パラトープポリペプチドの概略図を示す。該ポリペプチドは3つのドメインからなり、2つのドメインはLRP5の異なるエピトープに結合し(Wnt1及びWnt3aのブロッカー)、そして、1つのドメインは、半減期を延長するためのものである(ヒト血清アルブミンバインダー)。
図2図2A/2Bは、非ターゲティングバインダー(HEK293細胞で発現しない細菌タンパク質に結合するVHHコンストラクト)からなるネガティブコントロールと比較したとき、そして、LRP5/6交差反応性バインダーMOR08168IgG1LALA 6475 scfvと比較したときの、3つの半減期が延長された二重パラトープLRP5選択的VHHコンストラクト、すなわち、本発明の特に好ましいポリペプチドの、ヒトLRP5(図2A)及びヒトLRP6(図2B)を過剰発現しているHEK293細胞株への結合を示す。LRP5/6交差反応性バインダーとは対照的に、本半減期が延長された二重パラトープLRP5特異的VHHコンストラクトは、ヒトLRP5にのみ結合し、ヒトLRP6では結合が検出されない。
図3図3A/3Bは、FACSベースのDKK1競合アッセイによって検出された、ヒトLRP5(図3A)及びマウスLRP5(図3B)を過剰発現しているHEK293細胞株の両方に対する結合について、3つの半減期が延長された二重パラトープLRP5選択的VHHコンストラクト、すなわち、本発明の特に好ましいポリペプチドの完全なDKK1競合を示す。
図4図4A/4Bは、3つの半減期が延長された二重パラトープLRP5選択的VHHコンストラクト、すなわち、本発明の特に好ましいポリペプチドによるWnt1(図4A)及びWnt3aの経路(図4B)の完全阻害を示す。
図5図5は、相対的Axin2 mRNAの発現の阻害によって検出された、癌細胞におけるWntシグナル伝達の阻害(右のパネル)、及び半減期が延長された二重パラトープLRP5選択的VHHコンストラクト、すなわち、本発明の特に好ましいポリペプチド(最終濃度1μM)で処理した後の生存細胞の百分率(%)の減少によって検出された細胞増殖(左のパネル)を示す。
図6図6A/6Bは、Wnt駆動腫瘍モデル(MMTV-Wnt1異種移植モデル)における、半減期が延長された二重パラトープLRP5選択的VHHコンストラクト(図6AではF012900082、そして、図6BではF012900141)、すなわち、本発明の特に好ましいポリペプチドのインビボにおける有効性を示す。
図7図7は、対照群に対するAxin2/RNF43/Notum mRNAの発現の減少によって検出された、半減期が延長された二重パラトープLRP5選択的VHHコンストラクト、すなわち、本発明の特に好ましいポリペプチドで処理された腫瘍におけるWnt経路の阻害を示す。
図8図8は、ヒト単球由来樹状細胞においてLRP5がLRP6よりも高発現していることを示す(左のパネル)。更に、インターフェロン-ガンマの放出によって決定される、T細胞の活性化に対するWnt3aの抑制効果は、半減期が延長された二重パラトープLRP5選択的VHHコンストラクト、すなわち、本発明の特に好ましいポリペプチドで処理することによって強く軽減される(中央及び右のパネル)。各記号は、固有の樹状細胞(DC)ドナーを表す。図示されているデータは、未処理対照のTNFアルファレベルに対して正規化されており、そして、各記号は、DC及びT細胞についての固有のドナー対を表す。
図9図9は、半減期が延長された二重パラトープLRP5選択的VHHコンストラクト、すなわち、本発明の特に好ましいポリペプチドで処理した後の生存細胞の百分率(%)の減少によって検出された、RNF43野生型CRCオルガノイドの増殖(RNF43 WT)に対して有意な効果がないことに比べて、RNF43変異体CRCオルガノイドの増殖(RNF43 mut1及びRNF43 mut2)が選択的に阻害されることを示す。RNF43変異体CRCオルガノイドの増殖の阻害のIC50 nM値も報告する。
図10図10は、半減期が延長された二重パラトープLRP5選択的VHHコンストラクト、すなわち、本発明の特に好ましいポリペプチド(最終濃度62nM)で処理した後の相対的hAxin2 mRNAの発現の阻害によって検出された、RNF43野生型CRCオルガノイド(RNF43 WT)において有意な効果がないことに比べて、RNF43変異体CRCオルガノイド(RNF43 mut1及びRNF43 mut2)ではWntシグナル伝達が選択的に阻害されることを示す。
【0044】
発明を実施するための形態
定義
本発明の上記及び他の態様及び実施態様は、本明細書における更なる記載から明らかになるであろう:
【0045】
a)特に指定又は定義しない限り、使用される全ての用語は、当技術分野におけるその通常の意味を有し、これは当業者に明らかである。例えば、Sambrook et al, "Molecular Cloning: A Laboratory Manual" (2nd Ed.), VoIs. 1-3, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989);Lewin, "Genes IV", Oxford University Press, New York, (1990)及びRoitt et al., "Immunology" (2ndEd.), Gower Medical Publishing, London, New York (1989)等の標準的なハンドブックに加えて、本明細書に引用される一般的な背景技術を参照する。更に、特に指定しない限り、当業者に明らかである通り、具体的に詳細には記載されていない全ての方法、工程、技術、及び操作が実施可能であり、そして、それ自体公知の方法で実施されてきた。同様に、例えば、標準的なハンドブック、上記で言及した一般的な背景技術、及び本明細書に引用される更なる参照文献を参照する。
【0046】
b)特に指定しない限り、用語「免疫グロブリン」及び「免疫グロブリン配列」は、本明細書において重鎖抗体に言及するために使用されようと、従来の4本鎖抗体に言及するために使用されようと、フルサイズ抗体、その個々の鎖の両方に加えて、その全ての部分、ドメイン、又は断片(それぞれ、VHHドメイン又はVH/VLドメイン等の抗原結合ドメイン又は断片を含むが、これらに限定されない)を含む一般用語として使用される。更に、(例えば、「免疫グロブリン配列」、「抗体配列」、「(単一)可変ドメイン配列」、「VHH配列」、又は「タンパク質配列」等の用語における)用語「配列」は、本明細書で使用するとき、文脈上より限定された解釈を必要としない限り、一般に、関連するアミノ酸配列、及びそれをコードしている核酸配列又はヌクレオチド配列の両方を含むと理解されるべきである。
【0047】
c)用語(ポリペプチド又はタンパク質の)「ドメイン」とは、本明細書で使用するとき、タンパク質の残部とは関係なくその三次構造を保持する能力を有する、折り畳まれたタンパク質構造を指す。一般的に、ドメインは、タンパク質の別々の機能に関与しており、そして、多くの場合、タンパク質及び/又はドメインの残部の機能を失うことなく、他のタンパク質に付加する、除去する、又は移動させることができる。
【0048】
d)用語「免疫グロブリンドメイン」とは、本明細書で使用するとき、抗体鎖(例えば、従来の4本鎖抗体又は重鎖抗体の鎖)の球状の領域、又はこのような球状領域から本質的になるポリペプチドを指す。免疫グロブリンドメインは、場合により保存されたジスルフィド結合によって安定化された、2枚のベータシートに配置された約7個の逆平行ベータ鎖の2層のサンドイッチからなる、抗体分子の免疫グロブリンフォールド特性を保持していることを特徴とする。
【0049】
e)用語「免疫グロブリン可変ドメイン」とは、本明細書で使用するとき、当技術分野及び以下の本明細書においてそれぞれ「フレームワーク領域1」又は「FR1」;「フレームワーク領域2」又は「FR2」;「フレームワーク領域3」又は「FR3」;及び「フレームワーク領域4」又は「FR4」と称される4つの「フレームワーク領域」から本質的になる免疫グロブリンドメインを意味し、これらフレームワーク領域は、当技術分野及び以下の本明細書においてそれぞれ「相補性決定領域1」又は「CDR1」;「相補性決定領域2」又は「CDR2」;及び「相補性決定領域3」又は「CDR3」と称される3つの「相補性決定領域」又は「CDR」によって分断されている。したがって、免疫グロブリン可変ドメインの一般的な構造又は配列は、以下の通り示すことができる:FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4。抗原結合部位を保有することによって抗原に対する特異性を抗体に付与するのは、免疫グロブリン可変ドメインである。
【0050】
f)用語「免疫グロブリン単一可変ドメイン」(又はISVD)は、本明細書で使用するとき、更なる可変免疫グロブリンドメインと対合することなく、抗原のエピトープに特異的に結合することができる免疫グロブリン可変ドメインを意味する。本発明の意味におけるISVDの一例は、「ドメイン抗体」、例えば、ISVDのVH及びVL(VHドメイン及びVLドメイン)である。ISVDの別の重要な例は、以下に定義されるようにラクダ科由来の「VHHドメイン」(又は単に「VHH」)である。
【0051】
上記定義に鑑みて、従来の4本鎖抗体(例えば、IgG、IgM、IgA、IgD、又はIgEの分子;当技術分野において公知)、あるいはこのような従来の4本鎖抗体に由来するFab断片、F(ab')2断片、Fv断片、例えば、ジスルフィド連結されているFv若しくはscFv断片、又はダイアボディ(全て当技術分野において公知)の抗原結合ドメインは、通常ISVDとはみなされないが、その理由は、これらの場合、抗原のそれぞれのエピトープへの結合が、通常、1つの(単一の)免疫グロブリンドメインではなく、(会合している)免疫グロブリンドメインの対、例えば、軽鎖及び重鎖の可変ドメインによって、すなわち、それぞれの抗原のエピトープに一緒に結合する免疫グロブリンのVH-VL対によって生じるためである。
【0052】
f1)VHH、VHHドメイン、VHH抗体断片、及びVHH抗体としても知られている「VHHドメイン」は、元々、「重鎖抗体」(すなわち、「軽鎖を有しない抗体」;Hamers-Casterman C, Atarhouch T, Muyldermans S, Robinson G, Hamers C, Songa EB, Bendahman N, Hamers R.: "Naturally occurring antibodies devoid of light chains"; Nature 363, 446-448 (1993))の抗原結合免疫グロブリン(可変)ドメインと記載されていた。従来の4本鎖抗体に存在する重鎖可変ドメイン(本明細書では「VHドメイン」又は「VHドメイン」と称する)及び従来の4本鎖抗体に存在する軽鎖可変ドメイン(本明細書では「VLドメイン」又は「VLドメイン」と称する)とこれら可変ドメインを区別するために、用語「VHHドメイン」が選択された。VHHドメインは、(VHドメインとVLドメインとが一緒になってエピトープを認識する、従来の4本鎖抗体におけるVH又はVLドメインとは対照的に)、更なる抗原結合ドメインなしにエピトープに特異的に結合することができる。VHHドメインは、単一の免疫グロブリンドメインによって形成される小さく、ロバストで、かつ効率的な抗原認識単位である。
【0053】
本発明の状況では、VHHドメイン、VHH、VHHドメイン、VHH抗体断片、VHH抗体、並びに「Nanobody(登録商標))」及び「Nanobody(登録商標)ドメイン」(「Nanobody」は、Ablynx N.V.社(Ghent; Belgium)の商標である)という用語は、互換的に使用され、そして、代表的なISVD(構造:FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4を有し、そして、第2の免疫グロブリン可変ドメインの存在を必要とすることなく、エピトープに特異的に結合する)であり、そして、例えば、国際公開公報第2009/109635号の図1に定義されている通り、いわゆる「ホールマーク残基」によってVHドメインと区別することもできる。
【0054】
VHHドメインのアミノ酸残基は、例えば、Riechmann and Muyldermans, J. Immunol. Methods 231, 25-38 (1999)の図2等に示されている通り、ラクダ科に由来するVHHドメインに適用されるとき、Kabatら("Sequence of proteins of immunological interest", US Public Health Services, NIH Bethesda, MD, Publication No. 91)によって定められたVHドメインのための一般的な付番方式に従って付番される。この付番方式によれば、
- FR1は、1~30位のアミノ酸残基を含み、
- CDR1は、31~35位のアミノ酸残基を含み、
- FR2は、36~49位のアミノ酸を含み、
- CDR2は、50~65位のアミノ酸残基を含み、
- FR3は、66~94位のアミノ酸残基を含み、
- CDR3は、95~102位のアミノ酸残基を含み、そして、
- FR4は、103~113位のアミノ酸残基を含む。
【0055】
しかし、VHドメイン及びVHHドメインについて当技術分野において周知であるように、各CDRにおけるアミノ酸残基の総数は変動することがあるので、Kabat付番方式によって指定されるアミノ酸残基の総数に対応しない場合もある(すなわち、Kabat付番方式による1つ以上の位置に、実際の配列ではアミノ酸が存在していない場合もあり、又は実際の配列が、Kabat付番方式が見越した数よりも多いアミノ酸残基を含有している場合もある)ことに留意すべきである。これは、一般的に、Kabatによる付番が、実際の配列におけるアミノ酸残基の実際の付番に対応している場合もあり、対応していない場合もあることを意味する。
【0056】
VHHドメインにも同様に適用することができる、VHドメインのアミノ酸残基を付番する別の方法が、当技術分野において公知である。しかし、本明細書、特許請求の範囲、及び図面では、特に指定しない限り、Kabatによる、そして、上記の通りVHHドメインに適用される付番方式に従う。
【0057】
VHHドメインにおけるアミノ酸残基の総数は、通常、110~120、多くの場合、112~115の範囲である。しかし、本明細書に記載される目的にはより小さな配列及びより長い配列が好適である場合もあることに留意すべきである。
【0058】
VHHドメイン及びそれを含有するポリペプチドの更なる構造的特徴及び機能的特性は、以下のようにまとめることができる:
【0059】
(軽鎖可変ドメインの存在なしに、そして、軽鎖可変ドメインと全く相互作用することなく、抗原に機能的に結合するように本来「設計」された)VHHドメインは、単一の、比較的小さな機能的抗原結合構造単位、ドメイン、又はポリペプチドとして機能することができる。これによって、VHHドメインは従来の4本鎖抗体のVH及びVLのドメインと区別されるが、その理由は、該VH及びVLのドメイン単独では、一般的に単一抗原結合タンパク質又はISVDとしての実用化するには適しておらず、機能的抗原結合単位を提供するために、(例えば、Fab断片等の従来の抗体断片;VLドメインに共有結合的に連結しているVHドメインからなるscFvの断片のように)何らかの形で又は別のものと組み合わせる必要があるためである。
【0060】
これら固有の特性に起因して、単独で又はより大きなポリペプチドの一部としてVHHドメインを使用すると、従来のVH及びVLのドメイン、scFv、又は従来の抗体断片(例えば、Fab又はF(ab')2の断片)の使用を超える多数の著しい利点がもたらされる:
- 高親和性及び高選択性で抗原に結合するのに必要なのが単一ドメインのみであるので、2つの別々のドメインが存在する必要もなく、これら2つのドメインが正確な空間構造及び配置で存在することを保証する必要もない(すなわち、scFvのように、特別に設計されたリンカーの使用を通して);
- VHHドメインは、単一の遺伝子から発現させることができ、そして、翻訳後のフォールディングも修飾も必要としない;
- VHHドメインは、容易に操作して多価及び多重特異性のフォーマット(本明細書で更に論じられる)にすることができる;
- VHHドメインは、可溶性が高く、そして、凝集する傾向を有しない(Ward et al., Nature 341: 544-546 (1989)に記載されているマウス由来の抗原結合ドメインと同様に);
- VHHドメインは、熱、pH、プロテアーゼ、及び他の変性剤又は変性条件に対する安定性が高いので、冷蔵設備を使用せずに調製、保存、又は輸送することができ、搬送コスト、時間、及び環境的に節約になる;
- VHHドメインは、生産に必要な規模でさえも、調製が容易かつ比較的安価である。例えば、VHHドメイン及びそれを含有するポリペプチドは、(例えば、以下に更に記載する通り)微生物発酵を使用して生成することができ、そして、例えば従来の抗体断片のように、哺乳類発現系の使用を必要としない;
- VHHドメインは、従来の4本鎖抗体及びその抗原結合断片と比べて比較的小さい(約15kDa、又は従来のIgGよりも10倍小さい)ので、
このような従来の4本鎖抗体及びその抗原結合断片よりも
- (より)高い組織への浸透性を示し、そして、
- 高用量で投与することができる;
- VHHドメインは、いわゆるキャビティ結合特性を示すことができ(特に、従来のVHドメインと比べて、CDR3ループが延長されているため)、したがって、従来の4本鎖抗体及びその抗原結合断片にはアクセスできない標的及びエピトープにもアクセスすることができる。
【0061】
特異的な抗原又はエピトープに結合するVHHドメインを得る方法は、例えば、国際公開公報第2006/040153号及び同第2006/122786号に既に記載されている。また、これらに詳細に記載されている通り、ラクダ科に由来するVHHドメインは、元のVHH配列のアミノ酸配列における1つ以上のアミノ酸残基を、ヒト由来の従来の4本鎖抗体由来のVHドメインにおける対応する位置に存在するアミノ酸残基のうちの1つ以上に置換することによって「ヒト化」することができる。ヒト化VHHドメインは、1つ以上の完全ヒトフレームワーク領域配列を含有していてよく、そして、更により具体的な実施態様では、場合によりJH5等のJH配列と組み合わせられた、DP-29、DP-47、DP-51、又はこれらの一部に由来するヒトフレームワーク領域配列を含有していてよい。
【0062】
f2)「Dab」、「Domain Antibodies」、及び「dAb」としても知られている(用語「Domain Antibodies」及び「dAb」は、GlaxoSmithKline groupの会社によって商標として使用されている)「ドメイン抗体」は、例えば、Ward, E.S., et al.: "Binding activities of a repertoire of single immunoglobulin variable domains secreted from Escherichia coli"; Nature 341: 544-546 (1989);Holt, L.J. et al.: "Domain antibodies: proteins for therapy"; TRENDS in Biotechnology 21(11): 484-490 (2003);及び国際公開公報第2003/002609号に記載されている。
【0063】
ドメイン抗体は、本質的に、非ラクダ科哺乳類、具体的には、ヒトの4本鎖抗体のVH又はVLのドメインに対応する。単一抗原結合ドメインとして、すなわち、それぞれVL又はVHのドメインと対合することなくエピトープに結合させるために、例えば、ヒトの単一のVH又はVLのドメイン配列のライブラリを使用することによって、このような抗原結合特性についての特異的選択が必要とされる。
【0064】
ドメイン抗体は、VHHと同様に、約13~約16kDaの分子量を有し、そして、完全ヒト配列に由来する場合、例えばヒトにおいて処置的に使用するためにヒト化する必要はない。VHHドメインの場合のように、ドメイン抗体は原核生物発現系でも十分に発現するので全体的な製造コストを著しく低減する。
【0065】
ドメイン抗体及びVHHドメインは、1つ以上のCDRのアミノ酸配列に1つ以上の変更を導入することによって親和性成熟に供することができ、この変更によって、それぞれの親分子と比較したとき、得られるISVDのそのそれぞれの抗原に対する親和性が改善される。本発明の親和性成熟されたISVD分子は、例えば、Marks et al., 1992, Biotechnology 10:779-783、又はBarbas, et al., 1994, Proc. Nat. Acad. Sci, USA 91: 3809-3813.;Shier et al., 1995, Gene 169:147-155;Yelton et al., 1995, Immunol. 155: 1994-2004;Jackson et al., 1995, J. Immunol. 154(7):3310-9;及びHawkins et al., 1992, J. MoI. Biol. 226(3): 889 896;KS Johnson and RE Hawkins, “Affinity maturation of antibodies using phage display”, Oxford University Press 1996に記載されている通り、当技術分野において公知の方法によって調製することができる。
【0066】
f3)更に、上述のCDRのうちの1つ以上を、ヒト足場又は非免疫グロブリン足場を含むが、これらに限定されない他の「足場」に「移植」することが可能であることも、当業者に明らかである。このようなCDR移植に好適な足場及び技術は、当技術分野において公知である。
【0067】
g)用語「エピトープ」及び「抗原決定基」は、互換的に使用することができ、従来の抗体又は本発明のポリペプチド等の抗原結合分子によって、そして、より具体的には、該分子の抗原結合部位によって認識される、ポリペプチド等の巨大分子の一部を指す。エピトープは、免疫グロブリンの最小結合部位を規定し、したがって、免疫グロブリンの特異性の標的を表す。
【0068】
エピトープを認識する抗原結合分子の一部(例えば、従来の抗体又は本発明のポリペプチド等)はパラトープと呼ばれる。
【0069】
h)用語「二重パラトープ」(抗原)結合分子又は「二重パラトープ」ポリペプチドは、本明細書で使用するとき、本明細書において定義される第1のISVD及び第2のISVDを含むポリペプチドであって、これら2つの可変ドメインが、1つの抗原の2つの異なるエピトープに結合することができ、該エピトープが、通常、例えば従来の抗体又は1つのISVD等の1つの単一特異性免疫グロブリンに同時に結合することはないポリペプチドを意味するものとする。本発明に係る二重パラトープポリペプチドは、異なるエピトープ特異性を有する可変ドメインで構成され、そして、同じエピトープに結合する相互に相補的な可変ドメイン対を含有しない。したがって、該ポリペプチドは、LRP5に対する結合について互いに競合しない。
【0070】
i)特定のエピトープ、抗原、又はタンパク質(又はこれらの少なくとも一部、断片、若しくはエピトープ)に「結合する」、「に結合する」、「特異的に結合する」、若しくは「に特異的に結合する」ことができる、「に対して親和性を有する」、及び/又は「に対して特異性を有する」ポリペプチド(例えば、本発明の免疫グロブリン、抗体、ISVD、ポリペプチド、又は一般的に、抗原結合分子又はその断片)は、該エピトープ、抗原、若しくはタンパク質に「対する」若しくは「に対する」と言われるか、又はこのようなエピトープ、抗原、若しくはタンパク質に関する「結合」分子である。
【0071】
k)一般的に、用語「特異性」とは、特定の抗原結合分子又は抗原結合タンパク質(例えば、本発明の免疫グロブリン、抗体、ISVD、又はポリペプチド)が結合することができる、異なる種類の抗原又はエピトープの数を指す。抗原結合タンパク質の特異性は、その親和性及び/又は結合活性に基づいて決定することができる。抗原と抗原結合タンパク質との解離についての平衡定数(KD)によって表される親和性は、エピトープと抗原結合タンパク質における抗原結合部位との間の結合強度の尺度である:KDの値がより小さいほど、エピトープと抗原結合分子との間の結合強度がより強い(あるいは、親和性は、1/KDである親和性定数(KA)として表すこともできる)。(例えば、本明細書における更なる開示に基づいて)当業者に明らかである通り、親和性は、対象となる特異的抗原に応じて、それ自体公知の方法で決定することができる。結合活性は、抗原結合分子(例えば、本発明の免疫グロブリン、抗体、ISVD、又はポリペプチド)と関連抗原との間の結合の強度の尺度である。結合活性は、エピトープと抗原結合分子におけるその抗原結合部位との間の親和性、及び抗原結合分子上に存在する関連結合部位の数に関連する。
【0072】
典型的には、抗原結合タンパク質(例えば、本発明のポリペプチド)は、10E-5~10E-14モル/リットル(M)以下、そして、好ましくは10E-7~10E-14モル/リットル(M)以下、そして、より好ましくは10E-8~10E-14モル/リットル、そして、更により好ましくは10E-11~10E-13(例えば、Kinexaアッセイにおいて測定したとき;当技術分野において公知)の解離定数(KD)で、及び/又は少なくとも10E7 ME-1、好ましくは少なくとも10E8 ME-1、より好ましくは少なくとも10E9 ME-1、例えば、少なくとも10E11 ME-1の会合定数(KA)で結合する。10E-4Mを超える任意のKD値は、一般的に、非特異的結合を示すとみなされる。好ましくは、本発明のポリペプチドは、500nM未満、好ましくは200nM未満、より好ましくは10nM未満、例えば500pM未満のKDで所望の抗原に結合する。抗原結合タンパク質の抗原又はエピトープに対する特異的結合は、例えば、本明細書に記載されるアッセイ、Scatchard分析、並びに/又は競合結合アッセイ、例えば、ラジオイムノアッセイ(RIA)、酵素免疫アッセイ(EIA)、及びサンドイッチ競合アッセイを含む、それ自体公知の任意の好適な方法で、そして、当技術分野においてそれ自体公知のこれらの様々な変形で決定することができる。
【0073】
l)LRP5及びLRP6に結合することができる結合分子に関する用語「交差反応性」(「LRP5/LRP6交差反応性」)は、このような結合分子が、LRP5分子に含まれるエピトープに特異的に結合することができ、LRP6分子に含まれるエピトープにも特異的に結合することができることを意味することを意図する。
【0074】
m)アミノ酸残基は、一般的に公知であり、そして、当技術分野において認められている通り、標準的な3文字又は1文字のアミノ酸コードに従って指定される。2つのアミノ酸配列を比較するとき、用語「アミノ酸差」とは、第2の配列と比較した、参照配列のある位置における指定の数のアミノ酸残基の挿入、欠失、又は置換を指す。置換の場合、このような置換は、好ましくは保存的アミノ酸置換であり、これは、アミノ酸残基が類似の化学構造の別のアミノ酸残基で置換されていることを意味し、そして、ポリペプチドの機能、活性、又は他の生物学的特性に対してほとんど又は本質的に全く影響を有しない。このような保存的アミノ酸置換は、例えば、国際公開公報第98/49185号から当技術分野において周知であり、この公報では、保存的アミノ酸置換は、好ましくは、以下の群(i)~(v)内のあるアミノ酸が同じ群内の別のアミノ酸残基によって置換されている置換である:(i)小さな脂肪族の非極性又はわずかに極性の残基:Ala、Ser、Thr、Pro、及びGly;(ii)極性の負に帯電している残基及びその(非荷電)アミド:Asp、Asn、Glu、及びGln;(iii)極性の正に帯電している残基:His、Arg、及びLys;(iv)大きな脂肪族の非極性残基:Met、Leu、Ile、Val、及びCys;並びに(v)芳香族残基:Phe、Tyr、及びTrp。特に好ましい保存的アミノ酸置換は、以下の通りである:
AlaをGly又はSerに;
ArgをLysに;
AsnをGln又はHisに;
AspをGluに;
CysをSerに;
GlnをAsnに;
GluをAspに;
GlyをAla又はProに;
HisをAsn又はGlnに;
IleをLeu又はValに;
LeuをIle又はValに;
LysをArg、Gln、又はGluに;
MetをLeu、Tyr、又はIleに;
PheをMet、Leu、又はTyrに;
SerをThrに;
ThrをSerに;
TrpをTyrに;
TyrをTrp又はPheに;
ValをIle又はLeuに。
【0075】
n)核酸又はポリペプチドの分子は、例えば、その天然の生物学的起源及び/又は該分子が得られた反応培地若しくは培養培地と比較して、該起源又は培地において該分子が通常会合する少なくとも1つの他の成分、例えば、別の核酸、別のタンパク質/ポリペプチド、別の生物学的成分、又は巨大分子、又は少なくとも1つの夾雑物、不純物、若しくは微量成分から分離されているとき、「本質的に単離された(形態)(で)」あるとみなされる。具体的には、核酸又はポリペプチドの分子は、少なくとも2倍、具体的には少なくとも10倍、より具体的には少なくとも100倍、かつ1000倍まで、又はそれ以上精製されているとき、「本質的に単離されている」とみなされる。「本質的に単離された形態」である核酸又はポリペプチドの分子は、好ましくは、好適な技術、例えば、ポリアクリルアミドゲル電気泳動等の好適なクロマトグラフ技術を使用して判定したとき、本質的に均質である;
【0076】
o)例えば、2つのISVD配列間の「配列同一性」は、これら2つの配列間で同一であるアミノ酸の百分率を示す。それは、国際公開公報第2008/020079号の49及び50ページの段落f)に記載される通りに計算又は決定され得る。「配列類似性」は、同一であるか又は保存的アミノ酸置換となるアミノ酸の百分率を示す。
【0077】
標的特異性
本発明のポリペプチドは、典型的にはLRP5のエピトープに特異的に結合するISVDを含む点で、LRP5に対する特異性を有する。好ましくは、本発明のポリペプチドは、LRP6、具体的にはヒトLRP6(アクセッション番号:UniProtKB - O75581/LRP6_HUMAN)に対する親和性及び/又は結合活性よりも少なくとも10倍、好ましくは少なくとも100倍、より好ましくは少なくとも1000倍、更により好ましくは少なくとも10000倍、更により好ましくは少なくとも100000倍、又は少なくとも1000000倍強い、LRP5、特にヒトLRP5に対する親和性及び/又は結合活性を有する。最も好ましくは、該ポリペプチドは、LRP6、具体的にはヒトLRP6との交差反応性がない(実施例7.1を参照)。
【0078】
本発明の分子は、LRP5のヒト形態に結合し、そして、好ましくは、薬物開発に関連する他の種、すなわち、カニクイザル及びマウスのLRP5における対応物にも結合するものとする。
【0079】
本発明のポリペプチド
その最も広義では、本発明は、癌疾患を処置するための新規薬理学的活性剤を提供する。本発明に係る典型的な剤は、結合分子の新規クラス、すなわち、異なるエピトープにおいてLRP5に結合する2つ以上のISVDを含む二重パラトープポリペプチドに属する。用語「二重パラトープ」は、上に説明されているので、二重パラトープ分子は、LRP5タンパク質に含まれる2つの異なるエピトープにおいてLRP5に結合することができる分子として定義することができる。
【0080】
ある態様では、本発明のポリペプチドは、第1のLRP5結合ドメインと、第2のLRP5結合ドメインとを含み、該第1のドメインは、該第2のドメインが結合するLRP5領域とは異なるLRP5の領域に結合する。このようなLRP5結合ドメインは、任意の免疫グロブリンドメイン、例えば、本明細書に記載される任意の免疫グロブリンドメインであってよい。好ましくは、このようなLRP5結合ドメインはISVDである。
【0081】
ある実施態様では、第1のドメインは、LRP5のWnt3a結合部位をブロックし、そして、好ましくは、Wnt3aによって駆動される標的遺伝子の転写を阻害する、及び/又は第2のドメインは、LRP5のWnt1結合部位をブロックし、そして、好ましくは、Wnt1によって駆動される標的遺伝子の転写を阻害する。
【0082】
言い換えれば、本発明のポリペプチドは、
- エピトープを介して/Wnt3aシグナル伝達経路を阻害する方法でLRP5に特異的に結合することができ、その結果、Wnt3aによって駆動される標的遺伝子の転写が阻害される第1のISVDと、
- エピトープを介して/Wnt1シグナル伝達経路を阻害する方法でLRP5に特異的に結合することができ、その結果、Wnt1によって駆動される標的遺伝子の転写が阻害される第2のISVDと
を含んでいてよい。
【0083】
2つのドメインが異なるエピトープ(Wnt1/Wnt3aのシグナル伝達が関連する)に結合している、上記ポリペプチド中に存在する2つのISVDのため、これら分子は二重パラトープ結合分子である。この二重パラトープ結合モードを図1に概略的に示す。
【0084】
この状況では、図1に示す通り(分子内結合モード)、本発明のポリペプチドは、そのLRP5結合ドメインの両方を介して1つのLRP5分子に結合することができると仮定されることに留意すべきである。しかし、他の結合モードも同様に生じる可能性もある。
【0085】
最後に、本発明のポリペプチドは、LRP5の天然リガンドであり、そして、Wnt1及びWnt3aのシグナル伝達に干渉するDKK1と、LRP5に対する結合について競合することができ、それによって、Wnt1及びWnt3aのシグナル伝達経路を阻害すると仮定される。しかし、この理論も、本発明の範囲を限定すると理解されてはならない。
【0086】
具体的には、本発明は、低密度リポタンパク質受容体様タンパク質5(LRP5)に結合するポリペプチドであって、以下のLRP5結合ISVDの群:
(i)以下の相補性決定領域(CDR)配列:
CDR1:TYVMG(配列番号1)
CDR2:AISWSGGSTYYADSVKG(配列番号2)
CDR3:SRGTSTPSRASGVSRYDY(配列番号3)
を有するISVD、
(ii)以下のCDR配列:
CDR1:RYAVA(配列番号4)
CDR2:AITWSSGRIDYADSVKG(配列番号5)
CDR3:DRRPRSTGRSGTGSPSTYDY(配列番号6)
を有するISVD、
(iii)以下のCDR配列:
CDR1:IGAMG(配列番号7)
CDR2:AVSSGGSTYYVDSVKG(配列番号8)
CDR3:ETGPYGPPKRDY(配列番号9)
を有するISVD、及び
(iv)以下のCDR配列:
CDR1:INAMG(配列番号10)
CDR2:AVSSGGSTYYVDSVKG(配列番号8)
CDR3:ETGPYGPPKRDY(配列番号9)
を有するISVD
から選択されるISVDを含むポリペプチドを提供する。
【0087】
本発明のポリペプチドは、好ましくは、上に定義されたISVD(i)及び(ii)から選択される第1のISVD(a)と、上に定義されたISVD(iii)及び(iv)から選択される第2のISVD(b)とを含む。ある実施態様では、第1のISVDはISVD(i)であり、そして、第2のISVDはISVD(iii)である。更なる実施態様では、第1のISVDはISVD(i)であり、そして、第2のISVDはISVD(iv)である。更なる実施態様では、第1のISVDはISVD(ii)であり、そして、第2のISVDはISVD(iii)である。別の実施態様では、第1のISVDはISVD(ii)であり、そして、第2のISVDはISVD(iv)である。好ましくは、ISVD(i)は、配列番号11若しくは配列番号23によって同定される配列を有することによって更に定義される、ISVD(ii)は、配列番号12によって同定される配列を有することによって更に定義される、ISVD(iii)は、配列番号13若しくは配列番号22によって同定される配列を有することによって更に定義される、及び/又はISVD(iv)は、配列番号14によって同定される配列を有することによって更に定義される。
【0088】
このようなISVDに関する用語「第1の」及び「第2の」の使用は、これらドメインが異なるCDR配列を含み、そして、異なるエピトープに結合するとき、異なるドメインであることを示すことのみを意図する。しかし、これら用語は、このようなポリペプチド鎖内のドメインの正確な順序又は配列に言及すると理解されるものではない。言い換えれば、上記ISDVは、本発明のこのようなポリペプチド内で(i)/(ii)-(iii)/(iv)の順序又は(iii)/(iv)-(i)(ii)の順序で配置されていてよい。
【0089】
ISVDは、典型的には、4つのフレームワーク領域(それぞれ、FR1~FR4)及び3つの相補性決定領域(それぞれ、CDR1~CDR3)から本質的になる。1つのポリペプチド又はポリペプチド鎖内に配置するために、該第1の及び該第2のISVDは、直接又はリンカーペプチドによって(例えば、重鎖抗体のヒンジ領域、ポリアラニンリンカー配列、様々な長さのGly/Serリンカー等に由来するリンカー配列)共有結合的に連結されている必要がある。
【0090】
したがって、本発明の分子の一般構造は、以下の通り表すこともできる:
FR(a)1-CDR(a)1-FR(a)2-CDR(a)2-FR(a)3-CDR(a)3-FR(a)4-[リンカーペプチド]-FR(b)1-CDR(b)1-FR(b)2-CDR(b)2-FR(b)3-CDR(b)3-FR(b)4
(式中、
FR(a)は、第1のISVDのフレームワーク領域を意味し、
FR(b)は、第2のISVDのフレームワーク領域を意味し、
CDR(a)は、第1のISVDのCDRを意味し、
CDR(b)は、第2のISVDのCDRを意味し、
[リンカーペプチド]は、場合により存在していてもよいリンカーペプチドを意味し、
好ましくは、該CDRは、上記配列を有している(すなわち、(a)のCDRは、(i)又は(ii)のCDRであってよく、そして、(b)のCDRは、(iii)又は(iv)のCDRであってよい)。
【0091】
この場合も、(a)及び(b)は交換されてもよく、すなわち、一般構造
FR(b)1-CDR(b)1-FR(b)2-CDR(b)2-FR(b)3-CDR(b)3-FR(b)4-[リンカーペプチド]-FR(a)1-CDR(a)1-FR(a)2-CDR(a)2-FR(a)3-CDR(a)3-FR(a)4
を有する分子も本発明に包含されるものとすると理解されるものとする。
【0092】
リンカーペプチドは、例えば、9以上のアミノ酸長、好ましくは少なくとも17アミノ酸長、例えば、約20~40アミノ酸長を有するアミノ酸配列を含んでいてよい。リンカー配列は、天然に存在する配列であってもよく、又は天然には存在しない配列であってもよい。例示的なリンカー配列は、重鎖抗体のヒンジ領域、ポリアラニンリンカー配列、及び様々な長さのGly/Serリンカー(例えば、(glyxsery)zリンカー、例えば、(gly4ser)3、(gly4ser)5、(gly4ser)7、(gly3ser)3、(gly3ser)5、(gly3ser)7、(gly3ser2)3、(gly3ser2)5、及び(gly3ser2)7)に由来するリンカー配列を含むが、これらに限定されない。
【0093】
好ましくは、ポリペプチドは、アルブミン結合ISVD(例えば、第3のISVDとして)を更に含み、好ましくは、該アルブミン結合ISVDは、該ポリペプチドの第1のISVD(例えば、上に定義されたISVD(i)又は(ii))を含むか又はからなるセグメントを、該ポリペプチドの第2のISVD(例えば、上に定義されたISVD(iii)又は(iv))を含むか又はからなるセグメントに共有結合的に連結する。言い換えれば、リンカーペプチドは、該第1のISVDを該第2のISVDに共有結合的に連結することができ、該リンカーペプチドは、好ましくは、更なるISVD、より好ましくはアルブミン結合ISVD、特に本明細書に記載されているアルブミン結合ISVDを含むか又はからなる。
【0094】
幾つかの実施態様では、リンカーペプチドは、第3のドメイン、例えば、アルブミン結合ISVD、例えば、以下のCDR:
CDR(Alb11)1:SFGMS(=配列番号15)
CDR(Alb11)2:SISGSGSDTLYADSVKG(=配列番号16)
CDR(Alb11)3:GGSLSR(=配列番号17)
を含むAlb11ドメインを含むか又はからなる。
【0095】
これによって、以下の一般構造:
FR(a)1-CDR(a)1-FR(a)2-CDR(a)2-FR(a)3-CDR(a)3-FR(a)4-[リンカーペプチド]-FR(Alb11)1-CDR(Alb11)1-FR(Alb11)2-CDR(Alb11)2-FR(Alb11)3-CDR(Alb11)3-FR(Alb11)4-[リンカーペプチド]-FR(b)1-CDR(b)1-FR(b)2-CDR(b)2-FR(b)3-CDR(b)3-FR(b)4、好ましくは、該CDRは、上記の配列を有している(すなわち、(a)のCDRは、(i)又は(ii)のCDRであってよく、そして、(b)のCDRは、(iii)又は(iv)のCDRであってよい)を有する本発明のポリペプチドの群が得られる。
【0096】
この場合も、3つのISVD、(a)、(b)、及びAlb11の順序は固定されておらず、上記ドメインが
(b)-Alb11-(a)
の順序で配置されているポリペプチドも同様に包含されるものとする。
【0097】
更に、ポリペプチドのN又はC末端にAlb11ドメインを有するポリペプチド(例えば、Alb11-(a)-(b)、Alb11-(b)-(a)、(a)-(b)-Alb11、又は(b)-(a)-Alb11)も本発明に包含されるものとする。
【0098】
3つの好ましい実施態様では、本発明のポリペプチドは、以下の通り定義されるISVDを含む:
【0099】
第1の好ましい実施態様:以下のCDR配列:
CDR1:TYVMG(配列番号1)
CDR2:AISWSGGSTYYADSVKG(配列番号2)
CDR3:SRGTSTPSRASGVSRYDY(配列番号3)
を有する第1のISVDと、
以下のCDR配列:
CDR1:INAMG(配列番号10)
CDR2:AVSSGGSTYYVDSVKG(配列番号8)
CDR3:ETGPYGPPKRDY(配列番号9)
を有する第2のISVDと
を含むポリペプチド。
【0100】
第2の好ましい実施態様:以下のCDR配列:
CDR1:RYAVA(配列番号4)
CDR2:AITWSSGRIDYADSVKG(配列番号5)
CDR3:DRRPRSTGRSGTGSPSTYDY(配列番号6)
を有する第1のISVDと、
以下のCDR配列:
CDR1:IGAMG(配列番号7)
CDR2:AVSSGGSTYYVDSVKG(配列番号8)
CDR3:ETGPYGPPKRDY(配列番号9)
を有する第2のISVDと
を含むポリペプチド。
【0101】
第3の好ましい実施態様:以下のCDR配列:
CDR1:TYVMG(配列番号1)
CDR2:AISWSGGSTYYADSVKG(配列番号2)
CDR3:SRGTSTPSRASGVSRYDY(配列番号3)
を有する第1のISVDと、
以下のCDR配列:
CDR1:IGAMG(配列番号7)
CDR2:AVSSGGSTYYVDSVKG(配列番号8)
CDR3:ETGPYGPPKRDY(配列番号9)
を有する第2のISVDと
を含むポリペプチド。
【0102】
無論、上記の、すなわち、場合によりリンカーペプチド(例えば、重鎖抗体のヒンジ領域、ポリアラニンリンカー配列、様々な長さのGly/Serリンカー等に由来するリンカー配列)及び/又は更なるドメインを含み、特にAlb11ドメイン、異なる順序のISVDを含む変形は、同様にこれら3つの好ましい実施態様に適用されるものとする。
【0103】
特に好ましい実施態様では、アルブミン結合ISVD(例えば、Alb11)は、2つのLRP5結合ISVD(ISVD(a)及び(b))間に位置する。したがって、このような好ましいポリペプチドは、構造(a)-Alb11-(b)又は(b)-Alb11-(a))を有し得る。具体的には、アルブミン結合ISVD(例えば、Alb11)は、直接又はリンカーペプチド(例えば、重鎖抗体のヒンジ領域、ポリアラニンリンカー配列、様々な長さのGly/Serリンカー等に由来するリンカー配列)によって、そのN及びCの末端でLRP5結合ISVDドメイン(a)及び(b)に共有結合的に結合していてよく(例えば、アルブミン結合ドメインのN末端がISVD(a)に結合しており、そして、アルブミン結合ドメインのC末端がISVD(b)に結合している、又は逆もまた同様)、好ましくは、ISVDは、上記のCDR又は完全長ISVD配列を含む(すなわち、(a)のCDR/ISVD配列は、(i)又は(ii)のCDR/ISVD配列であってよく、そして、(b)のCDR/ISVD配列は、(iii)又は(iv)のCDR/ISVD配列であってよい)。
【0104】
3つの特に好ましい実施態様は、以下の通り想定することができる:
【0105】
第1の特に好ましい実施態様:以下のCDR配列:
CDR1:TYVMG(配列番号1)
CDR2:AISWSGGSTYYADSVKG(配列番号2)
CDR3:SRGTSTPSRASGVSRYDY(配列番号3)
を有する第1の(LRP5結合)ISVDと、
以下のCDR配列:
CDR1:SFGMS(=配列番号15)
CDR2:SISGSGSDTLYADSVKG(=配列番号16)
CDR3:GGSLSR(=配列番号17)
を有するアルブミン結合ISVDと、
以下のCDR配列:
CDR1:INAMG(配列番号10)
CDR2:AVSSGGSTYYVDSVKG(配列番号8)
CDR3:ETGPYGPPKRDY(配列番号9)
を有する第2の(LRP5結合)ISVDと
をこの順序で又は変更された上記ドメインの順序で含むポリペプチド。
【0106】
第2の特に好ましい実施態様:以下のCDR配列:
CDR1:RYAVA(配列番号4)
CDR2:AITWSSGRIDYADSVKG(配列番号5)
CDR3:DRRPRSTGRSGTGSPSTYDY(配列番号6)
を有する第1の(LRP5結合)ISVDと、
以下のCDR配列:
CDR1:SFGMS(=配列番号15)
CDR2:SISGSGSDTLYADSVKG(=配列番号16)
CDR3:GGSLSR(=配列番号17)
を有するアルブミン結合ISVDと、
以下のCDR配列:
CDR1:IGAMG(配列番号7)
CDR2:AVSSGGSTYYVDSVKG(配列番号8)
CDR3:ETGPYGPPKRDY(配列番号9)
を有する第2の(LRP5結合)ISVDと
をこの順序で又は変更された上記ドメインの順序で含むポリペプチド。
【0107】
第3の特に好ましい実施態様:以下のCDR配列:
CDR1:TYVMG(配列番号1)
CDR2:AISWSGGSTYYADSVKG(配列番号2)
CDR3:SRGTSTPSRASGVSRYDY(配列番号3)
を有する第1の(LRP5結合)ISVDと、
以下のCDR配列:
CDR1:SFGMS(=配列番号15)
CDR2:SISGSGSDTLYADSVKG (=配列番号16)
CDR3:GGSLSR(=配列番号17)
を有するアルブミン結合ISVDと、
以下のCDR配列:
CDR1:IGAMG(配列番号7)
CDR2:AVSSGGSTYYVDSVKG(配列番号8)
CDR3:ETGPYGPPKRDY(配列番号9)
を有する第2の(LRP5結合)ISVDと
をこの順序で又は変更された上記ドメインの順序で含むポリペプチド。
【0108】
上述のCDR配列を、表IA、IB、及びICにまとめる:
【表1】

【表2】

【表3】
【0109】
上記のCDR配列に加えて、本発明のポリペプチドに含まれるISVDは、免疫グロブリンフレームワーク領域(FR)配列を含む。これら配列は、ヒトにおいて免疫原性ではないことが好ましいので、好ましくは、ヒト又はヒト化FR配列である。好適なヒト又はヒト化FR配列は、当技術分野において公知である。特に好ましいFR配列は、完全なISVDを開示し、それによって、CDR配列及びFR配列も開示する、以下に示す実施態様から得ることができる。
【0110】
より具体的な実施態様によれば、本発明のポリペプチドは、VHHドメイン、そして、好ましくはヒト化VHHドメインであるISVD(例えば、表IA~ICに列挙されており、そして、上記実施態様に記載した通りISVD(a)、(b)、又は(c)を形成するCDR配列によって定義されるISVD)を含む。具体的には、本明細書に記載されるポリペプチドは、(i)又は(ii)のCDR配列を含む第1のISVD(a)と、(iii)又は(iv)のCDR配列を含む第2のISVD(b)と、アルブミン結合ISVD(例えば、Alb11)である第3のISVDとを含み、これらISVDは、VHHドメイン、そして、好ましくはヒト化VHHドメインである。
【0111】
更により具体的な実施態様によれば、本発明のポリペプチドは、以下の配列:
【化3】

を有するISVD(i)及び(ii)からなる群から選択される第1のISVD(a)と、
以下の配列:
【化4】

を有するISVD(iii)及び(iv)からなる群から選択される第2のISVD(b)と
を含む。
【0112】
好ましい実施態様は、
- 配列番号23に示されるアミノ酸配列を有する第1のISVD及び配列番号14に示されるアミノ酸配列を有する第2のISVD;又は
- 配列番号12に示されるアミノ酸配列を有する第1のISVD及び配列番号13に示されるアミノ酸配列を有する第2のISVD;又は
- 配列番号11に示されるアミノ酸配列を有する第1のISVD及び配列番号22に示されるアミノ酸配列を有する第2のISVD
を含むポリペプチドである。
【0113】
したがって、上記実施態様は、以下のように概略的に提示することができる:
isvd(a)-[リンカーペプチド]-isvd(b)
(式中、「isvd」は、それぞれのISVDを意味し、そして、その他の点では、特に任意のリンカーペプチド及び/又は更なるドメイン、特にAlb11ドメインの存在に関して、そして、ISVDの異なる順序に関して、上記と同じ定義及び変形が適用されるものとする)。
【0114】
具体的には、アルブミン結合ISVD(例えば、Alb11)は、直接又はリンカーペプチド(例えば、重鎖抗体のヒンジ領域、ポリアラニンリンカー配列、様々な長さのGly/Serリンカー等に由来するリンカー配列)によって、そのN及びCの末端でLRP5結合ISVDドメイン(a)及び(b)に共有結合的に結合していてよく;例えば、アルブミン結合ドメインのN末端がリンカーペプチドを介してISVD(a)に結合しており、そして、アルブミン結合ドメインのC末端がリンカーペプチドを介してISVD(b)に結合している、又は逆もまた同様であり、好ましくは、ISVDは、上記の完全長ISVD配列を含む(すなわち、上に定義した通り、(a)のISVD配列は、(i)又は(ii)のISVD配列であってよく、そして、(b)のISVD配列は、(iii)又は(iv)のISVD配列であってよい)。
【0115】
幾つかの実施態様では、第1のISVDは、リンカーペプチドによってアルブミン結合ISVDに連結しており、そして、第2のISVDは、アルブミン結合ISVDに直接連結している。幾つかの実施態様では、第2のISVDは、リンカーペプチドによってアルブミン結合ISVDに連結しており、そして、第1のISVDは、アルブミン結合ISVDに直接連結している。幾つかの実施態様では、第1及び第2のISVDはいずれも、それぞれリンカーペプチドによってアルブミン結合ISVDに連結している。
【0116】
本発明の具体的な実施態様によれば、上記ポリペプチドは、半減期延長部分を更に含んでいてよく、該半減期延長部分は、該ポリペプチドに共有結合的に連結しており、そして、場合により、アルブミン結合部分、例えば、アルブミン結合ペプチド又はアルブミン結合免疫グロブリンドメイン、好ましくは、アルブミン結合ISVD、より好ましくは、Alb11ドメイン、トランスフェリン結合部分、例えば、抗トランスフェリン免疫グロブリンドメイン、ポリエチレングリコール分子、血清アルブミン、好ましくはヒト血清アルブミン、及び(ヒト)血清アルブミンの断片からなる群から選択される。
【0117】
上述のAlb11 ISVDの配列は、以下の通りである:
【化5】
【0118】
ヒト血清アルブミンに結合するISVDの更なる例は、当技術分野において公知であり、そして、例えば、国際公開公報第2006/122787号及び同第2008/028977号に更に詳細に記載されている。ヒト血清アルブミンに結合する他のペプチドは、例えば、国際公開公報第2008/068280号、同第2009/127691号、及び同第2011/095545号に記載されている。
【0119】
したがって、本発明の3つの好ましい具体的な実施態様は、以下の通りである:
【0120】
第1の好ましい具体的な実施態様:
- 配列番号23に示されるアミノ酸配列を有する第1の(LRP5結合)ISVD;
- 配列番号21に示されるアミノ酸配列を有するアルブミン結合ISVD;
- 配列番号14に示されるアミノ酸配列を有する第2の(LRP5結合)ISVD;
をこの順序で又は変更された上記3つのドメインの順序で含むポリペプチド。
【0121】
第2の好ましい具体的な実施態様:
- 配列番号12に示されるアミノ酸配列を有する第1の(LRP5結合)ISVD;
- 配列番号21に示されるアミノ酸配列を有するアルブミン結合ISVD;
- 配列番号13に示されるアミノ酸配列を有する第2の(LRP5結合)ISVD;
をこの順序で又は変更された上記3つのドメインの順序で含むポリペプチド。
【0122】
第3の好ましい具体的な実施態様:
- 配列番号11に示されるアミノ酸配列を有する第1の(LRP5結合)ISVD;
- 配列番号21に示されるアミノ酸配列を有するアルブミン結合ISVD;
- 配列番号22に示されるアミノ酸配列を有する第2の(LRP5結合)ISVD;
をこの順序で又は変更された上記3つのドメインの順序で含むポリペプチド。
【0123】
更により特に好ましい実施態様では、アルブミン結合ISVDは、2つのLRP5結合ISVD間に位置する。
【0124】
上述のISVDの配列を、表IIA、IIB、及びIICにまとめる:
【表4】

【表5】

【表6】
【0125】
ある態様では、本発明は、LRP5に結合するポリペプチドであって、LRP5に対する結合について参照ISVDと競合するISVDを含み、該参照ISVDが、配列番号11、12、13、14、22、又は23によって同定される配列を有するポリペプチドに関する。好ましくは、ISVDは、LRPのWnt1又はWnt3aの結合部位をブロックする。具体的には、ISVDは、Wnt1によって駆動されるか又はWnt3aによって駆動される標的遺伝子の転写を阻害する。
【0126】
別の態様では、本発明は、LRP5に対する結合について第1の参照ISVDと競合する第1のISVDであって、該第1の参照ISVDが配列番号11、23、又は12によって同定される配列を有する第1のISVDと、LRP5に対する結合について第2の参照ISVDと競合する第2のISVDであって、該第2の参照ISVDが配列番号13、22、又は14によって同定される配列を有する第2のISVDとを含む、LRP5に結合するポリペプチドに関する。好ましくは、第1のISVDは、LRP5のWnt3a結合部位をブロックし、具体的には、Wnt3aによって駆動される標的遺伝子の転写を阻害する。あるいは又はそれに加えて、第2のISVDは、LRP5のWnt1結合部位をブロックし得、具体的には、Wnt1によって駆動される標的遺伝子の転写を阻害し得る。
【0127】
本明細書において、「抗原に対する結合について参照ISVDと競合するISVD」という表現(又は類似の表現)は、参照ISVDと同じエピトープ又は参照ISVDのエピトープと重複するエピトープに結合し、そして、参照ISVDの抗原(すなわち、LRP5)への結合をある程度阻害する全てのISVDを含む。好ましくは、このようなISVDは、参照ISVDと同じエピトープに結合する及び/又は参照ISVD(例えば、上述のもの)の抗原(すなわち、LRP5)への結合を本質的に完全に阻害する。特定のISVDが、結合について参照ISVDと競合するISVDであるかどうかは、当技術分野において公知の任意の好適な競合結合アッセイを実施することによって、参照ISVDが結合する抗原のエピトープについて知らなくても、当業者が参照ISVD及び抗原についての知識を有している場合、当業者であれば容易に試験することができる。このような競合結合アッセイは、当技術分野において周知である。例えば、当業者は、標識されている参照ISVDと共に抗原をインキュベートすることができ、そして、抗原に結合した、標識されている参照ISVDの量を、試験されるISVDと共にプレインキュベートした際に抗原に結合する、標識されている参照ISVDの量と比較することができる。後者の量が減少した場合(すなわち、プレインキュベートによって、試験されるISVDが、参照ISVDと共有している結合部位をブロックしたため)、試験されるISVDは、抗原に対する結合について参照ISVDと競合するということができる。
【0128】
上述の通り、本発明のポリペプチド中に存在する(少なくとも2つの)ISVDは、リンカーを使用することなく直接又はリンカーを介して、互いに連結し得る。リンカーは、好ましくはリンカーペプチドであり、そして、本発明に従って、少なくとも2つの異なるISVDをその各標的エピトープに結合させることができるように選択される。
【0129】
好適なリンカーは、特に、エピトープ、そして、具体的には、ISVDが結合する標的分子におけるエピトープ間の距離に依存する。これは、場合により幾つかの限定された程度のルーチンな実験後に、本明細書における開示に基づいて当業者に明らかになるであろう。
【0130】
したがって、好適なリンカーは、例えば、9以上のアミノ酸長、好ましくは少なくとも17アミノ酸長、例えば、約20~40アミノ酸長を有するアミノ酸配列を含んでいてよい。リンカー配列は、天然に存在する配列であってもよく又は天然には存在しない配列であってもよい。処置目的で使用される場合、リンカーは、好ましくは、本発明のポリペプチドが投与される被験体において免疫原性ではない。
【0131】
リンカー配列の1つの有用な群は、国際公開公報第1996/34103号及び同第1994/04678号に記載されている通り、重鎖抗体のヒンジ領域に由来するリンカーである。他の例は、ポリアラニンリンカー配列、例えば、Ala-Ala-Alaである。
【0132】
リンカー配列の更に好ましい例は、様々な長さのGly/Serリンカー、例えば、(gly4ser)3、(gly4ser)5、(gly4ser)7、(gly3ser)3、(gly3ser)5、(gly3ser)7、(gly3ser2)3、(gly3ser2)5、及び(gly3ser2)7を含む(glyxsery)zリンカーである。
【0133】
ポリペプチドリンカーに代えて又は加えて、本発明のポリペプチド中に存在する少なくとも2つのISVDは、別の部分、例えば、好ましいが非限定的な実施態様では、既に上記されている更なるISVDであってよい別のポリペプチドを介して互いに連結し得る。このような部分は、本質的に不活性であってもよく、又は該ポリペプチドの所望の特性の改善等の生物学的効果を有していてもよく、又は該ポリペプチドに1つ以上の更なる所望の特性を付与してもよい。既に上記した通り、好ましい更なるポリペプチドドメインは、例えば、(ヒト)血清アルブミン結合ドメイン、例えば、Alb11ドメイン等、ポリペプチドの半減期を増大させる。
【0134】
したがって、更なる実施態様によれば、本発明は、具体的には、以下の配列のいずれかを含むポリペプチドを含み、その正確なアミノ酸配列は、以下の表IIIから得ることができる:
配列番号18によって同定される配列を有するF012900082、
配列番号19によって同定される配列を有するF012900135、及び
配列番号20によって同定される配列を有するF012900141。
【0135】
【表7】
【0136】
既に説明した通り、特に指定しない限り、本発明のポリペプチドは、そのLRP5への結合が更なる部分又は追加のポリペプチドドメインによって妨げられない限り、このような追加の部分及び/又はドメインを更に含んでいてもよい。
【0137】
本発明のポリペプチドは、更に、グリコシル残基等の修飾又は修飾されたアミノ酸側鎖を含有していてもよく、そして、このような分子の半減期及び他の特性を増大させるためにペグ化されてもよい。ISVDコンストラクトをペグ化するのに有用な技術及び試薬は、例えば、国際公開公報第2011/107507号から選び取ることができる。
【0138】
本発明のポリペプチドは、特定の発現系(例えば、特定のベクター又は宿主細胞)を使用することによって発現させるために、又は封入体として若しくは可溶性形態で発現させるために、又は培地若しくは細胞膜周辺腔に分泌させるために、又は細胞内に含有させるために、又はより均質な生成物を得るために分子を最適化するために、修飾されたN末端配列、例えば、N末端アミノ酸のうちの1つ以上の欠失、又は例えば最初のN末端アミノ酸の交換(例えば、グルタミン酸からアラニンへ)を有していてもよい。本発明のポリペプチドは、例えば、更にこのようなポリペプチドの安定性を増強するか又は免疫原性を低減するために、例えば、国際公開公報第2012/175741号、同第2011/075861号、又は同第2013/024059号に説明されている通り、C末端部又はフレームワーク領域のいずれか内の他の規定の位置に、修飾されたC末端配列、例えば追加のアラニン、及び/又は更なるアミノ酸交換を有していてもよい。
【0139】
更に、本発明のポリペプチドの半減期は、アルブミンドメインを付加することによって、すなわち、アルブミン融合タンパク質に変換することによって増強することができる。有用なアルブミン部分の例及びそれを結合分子に付加する方法は、例えば、国際公開公報第2001/079271号及び同第2003/059934号に提供されている。
【0140】
好ましくは、本発明ポリペプチドは、以下の実施例7.1に記載されているFACS結合アッセイで測定される、10-6モル/リットル以下、より好ましくは10-9モル/リットル以下の範囲、そして、更により好ましくは10-10~10-13モル/リットルの範囲の結合(EC50)値を有しているか、又は以下の実施例7.3に記載されている複合Wnt1及びWnt3aレポータアッセイで測定したとき、10-9モル/リットル以下、そして、好ましくは5×10-10モル/リットル~10-12モル/リットルの範囲のIC50値を有している。
【0141】
本発明のポリペプチドによって、TNBC、CRC、及びNSCLC等の幾つかの癌の種類をより効率的に処置することが可能になる。該ポリペプチドは、改善されたインビトロ特性(すなわち、より高いWnt経路阻害の有効性)(例えば、以下の実施例7及び8を参照)、及び顕著なインビボにおける腫瘍成長阻害特性を有しているので、例えば、以下の実施例9に示される通り、当技術分野において報告されているLRP6結合分子と比べてより高いインビボ有効性が得られる。更に、本発明のポリペプチドは、例えば実施例9に示される通り、当技術分野において報告されているLRP6結合分子よりもはるかに低い消化器毒性を有する。
【0142】
具体的には、Wntによって駆動される腫瘍モデルにおいてインビボで示される通り、LRP5半減期延長二重パラトープヒト化VHHコンストラクトは、インビボにおいてWntシグナル伝達及び腫瘍成長を阻害することができ、そして、更には、実質的な腫瘍収縮(すなわち、100%を超える腫瘍成長阻害)をもたらした。腫瘍収縮(すなわち、腫瘍退縮)は、癌患者の処置についての所望の処置効果(すなわち、有効性)である。更に、病理学的完全寛解(pCR)をもたらす腫瘍退縮は、無増悪生存率及び全生存率の著しい改善を示す、広く認められている臨床エンドポイントである。
【0143】
同じインビボ実験において、著しい体重変化は観察されず(<10%)、そして、消化器の組織病理学的分析から得られた結果は、本発明の上記ポリペプチドの毒性作用を全く示さなかった。これは、上述のインビボDKK1発現試験(すなわち、腸粘膜潰瘍及び体重減少が生じる)に鑑みて特に驚くべきことである。
【0144】
更に、下記実施例は、活性Wntシグナル伝達に依存している、RNF43遺伝子に変異を有する癌細胞の細胞増殖を選択的に阻害する、半減期延長二重パラトープLRP5特異的VHHコンストラクトの能力を証明する。具体的には、本明細書に記載される半減期延長二重パラトープLRP5特異的VHHコンストラクトが、RNF43遺伝子に変異を有する癌細胞のWntシグナル伝達を選択的に阻害することが更に示される。
【0145】
したがって、本発明のポリペプチドは、実際に、癌疾患を処置するための、そして特に、更には(トリプルネガティブ)乳癌等のアンメット・メディカル・ニーズの高い適応症において使用するための、新しい処置法の選択肢を提供する。
【0146】
上記有利な効果は、以下の実施例において、そして、実施例に含まれる比較データを通して更に説明される。
【0147】
更に、本発明のポリペプチドは、製造が容易であり、そして、より可溶性が高いが、これは、従来の抗体と比べて高濃度で保存及び/又は投与できることを意味する。該ポリペプチドは、室温で安定であり、そして、極端なpHでさえも長期にわたる安定性を有し、その結果、冷蔵設備を使用せずに調製、保存、及び/又は輸送することができるので、搬送コスト、時間、及び環境的に節約になる。上記のことから及び免疫原性が低いことから、該ポリペプチドは、更に、注射及び注入以外の投与経路に関する、並びに投与レジメン及び特定の装置の使用に関する様々な選択肢を与える。
【0148】
核酸、ベクター、宿主細胞
更なる態様によれば、本発明は、本発明のポリペプチドをコードしている核酸分子及び発現ベクター、並びにそれを発現する宿主細胞に関する。これら核酸、ベクター、及び宿主細胞は、本発明のポリペプチドを製造するために有用であり、そして、その更なる態様及び実施態様は、本発明のポリペプチドを製造する方法の概要に関連して以下に更に記載される。
【0149】
処置的使用
その生物学的特性から、本発明のポリペプチドは、過剰又は異常な細胞増殖を特徴とする疾患、例えば、癌及び特発性肺線維症(IPF)を処置するのに好適である。
【0150】
例えば、本発明に係るポリペプチドで、以下の癌、腫瘍、及び他の増殖性疾患を処置することができるが、これらに限定されるものではない:
頭頸部の癌;肺の癌、例えば、非小細胞肺癌(NSCLC)及び小細胞肺癌(SCLC);縦隔の新生物、例えば、神経原性腫瘍及び間葉腫瘍;消化(GI)管の癌、例えば、食道、胃(胃癌)、膵臓、肝臓、及び胆道(例えば、肝細胞癌(HCC)を含む)、並びに小腸及び大腸(例えば、結腸直腸癌を含む)の癌;前立腺の癌;精巣の癌;婦人科癌、例えば、卵巣の癌;乳癌、例えば、乳腺癌、ホルモン受容体陽性乳癌、Her2陽性乳癌、及びトリプルネガティブ乳癌;内分泌系の癌;軟組織の肉腫、例えば、線維肉腫、横紋筋肉腫、血管肉腫、カポジ肉腫;骨の肉腫、例えば、骨髄腫、骨肉腫、ユーイング腫瘍、線維肉腫、骨軟骨腫、骨芽細胞腫、及び軟骨芽細胞腫;中皮腫;
皮膚の癌、例えば、基底細胞癌、扁平上皮癌、メルケル細胞癌、及び黒色腫;中枢神経系及び脳の新生物、例えば、星状細胞腫、神経膠芽腫、神経膠腫、神経芽細胞腫、及び網膜芽細胞腫;リンパ腫及び白血病、例えば、B細胞非ホジキンリンパ腫(NHL)、T細胞非ホジキンリンパ腫、慢性B細胞リンパ性白血病(B-CLL)、慢性T細胞リンパ性白血病(T-CLL)、ホジキン病(HD)、大型顆粒リンパ球白血病(LGL)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性骨髄性/骨髄白血病(AML)、急性リンパ性/リンパ芽球性白血病(ALL)、多発性骨髄腫(MM)、形質細胞腫、及び骨髄異形成症候群(MDS);並びに原発部位不明の癌。
【0151】
体内の特定の位置/起源を特徴とする上述の全ての癌、腫瘍、新生物等は、原発腫瘍及びそれに由来する転移腫瘍の両方を含むことを意味する。
【0152】
より具体的には、本発明のポリペプチドは、疾患、特に、異常な細胞増殖が異常な(活性化された)Wntシグナル伝達によって引き起こされるか又は関与している癌疾患の処置に有用である。
【0153】
したがって、本発明のポリペプチドは、具体的には、固形腫瘍の処置、そして、より具体的には、肺、肝臓、結腸、脳、甲状腺、膵臓、乳、卵巣、及び前立腺の癌の処置、そして、更により具体的には、非小細胞肺癌(NSCLC)、トリプルネガティブ乳癌(TNBC)、及び結腸直腸癌(CRC)の処置に有用である。具体的には、本発明のポリペプチドは、無増悪生存期間(PFS)及び全生存期間(OS)を延長するために、単剤として又は組み合わせて、局所進行又は転移性のTNBCの患者、転移性NSCLC又は局所進行若しくは転移性のCRCの患者を処置するために使用することができる。更に、本発明のポリペプチドは、病理学的完全寛解(pCR;完全に切除された乳房検体及びネオアジュバント全身療法の完了後の全てのサンプリングされた所属リンパ節の組織病理学的評価によって、残存する浸潤性のin situ癌が存在しないと定義される)を得るために、乳癌患者のためのネオアジュバント療法として使用することもできる。
【0154】
本発明のポリペプチドは、第一選択、第二選択、又は任意の更なる選択処置の状況における処置レジメンで使用することができる。
【0155】
本発明のポリペプチドは、場合により、放射線療法及び/又は外科手術とも組み合わせて、上述の疾患の予防、短期又は長期の治療のために使用することができる。
【0156】
同様に、本発明のポリペプチドは、具体的には、特発性肺線維症(IPF)等のWntシグナル伝達経路が関与する異常な細胞増殖によって引き起こされる他の疾患の処置にも有用である(Konigshoff et al. “Functional Wnt signaling is increased in idiopathic pulmonary fibrosis”. PLoS One 2008;3(5):e2142;Lam et al. “Wnt coreceptor Lrp5 is a driver of idiopathic pulmonary fibrosis”. Am J Respir Crit Care Med. 2014;190(2):185-95)。
【0157】
更に、本発明のポリペプチドは、網膜症の処置、そして、特に、糖尿病性網膜症の発現及び進行につながる異常な新網膜血管形成を増大させる、網膜内層細胞における異常なWnt活性化に起因する糖尿病性網膜症の処置に特に有用である(Chen, Y., et al. “Activation of the Wnt pathway plays a pathogenic role in diabetic retinopathy in humans and animal models” The Am J Pathol. 2009; 175(6):2676-85.、Gao et al. “Elevated LRP6 levels correlate with vascular endothelial growth factor in the vitreous of proliferative diabetic retinopathy” Mol Vis. 2015;21:665-72)。
【0158】
最後に、Wnt1/Wnt3aシグナル伝達経路の阻害が樹状細胞(DC)及び樹状細胞機能に対しても効果を有し得ることを示すことができたので、本発明のポリペプチドは、免疫疾患及び感染性疾患の処置において、並びに既に上記した様々な癌疾患における腫瘍微小環境に影響を与えるためにも有用であり得る。腫瘍は能動的に抗腫瘍免疫を抑制し、そして、DCは、癌の免疫回避機序(immunoescape mechanism)において重要な役割を果たす。具体的には、腫瘍微小環境におけるWntリガンドが、免疫細胞内のパラクリンシグナル伝達を開始させ、そして、宿主の抗腫瘍免疫を制御することもできることが研究によって示されている(Hong et al. “beta-catenin promotes regulatory T-cell responses in tumors by inducing vitamin A metabolism in dendritic cells”. Cancer Res. 2015;75(4):656-65)。
【0159】
上記は、それを必要としている患者に処置的に有効な用量を投与することによって上記疾患を処置する様々な方法における本発明のポリペプチドの使用、並びにこのような疾患を処置するための医薬を製造するためのこれらポリペプチドの使用、並びに本発明のこのようなポリペプチドを含む医薬組成物、並びに本発明のこのようなポリペプチドを含む医薬の調製及び/又は製造等も含む。
【0160】
他の活性物質との組み合わせ
本発明のポリペプチドは、単独で使用してもよく、又は他の薬理学的活性物質、例えば、最先端の若しくは標準治療の化合物等、例えば、細胞増殖抑制性若しくは細胞毒性の物質、細胞増殖阻害剤、抗血管新生物質、ステロイド、免疫調節剤/チェックポイント阻害剤等と組み合わせて使用してよい。
【0161】
本発明に係る化合物と組み合わせて投与することができる細胞増殖抑制性及び/又は細胞毒性の物質は、ホルモン、ホルモンアナログ及び抗ホルモン、アロマターゼ阻害剤、LHRHのアゴニスト及びアンタゴニスト、成長因子(成長因子、例えば、血小板由来の成長因子(PDGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、上皮成長因子(EGF)、インスリン様成長因子(IGF)、ヒト上皮成長因子(HER、例えば、HER2、HER3、HER4)、及び肝細胞成長因子(HGF))の阻害剤を含むが、これらに限定されず、阻害剤は、例えば、(抗)成長因子抗体、(抗)成長因子受容体抗体、及びチロシンキナーゼ阻害剤、例えば、セツキシマブ、ゲフィチニブ、アファチニブ、ニンテダニブ、イマチニブ、ラパチニブ、ボスチニブ、及びトラスツズマブ;代謝拮抗物質(例えば、葉酸代謝拮抗物質、例えば、メトトレキサート、ラルチトレキセド、ピリミジンアナログ、例えば、5-フルオロウラシル(5-FU)、カペシタビン及びゲムシタビン、プリン及びアデノシンアナログ、例えば、メルカプトプリン、チオグアニン、クラドリビン、及びペントスタチン、シタラビン(ara C)、フルダラビン);抗腫瘍性抗生物質(例えば、アントラサイクリン);白金誘導体(例えば、シスプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチン);アルキル化剤(例えば、エストラムスチン、メクロレタミン、メルファラン、クロラムブシル、ブスルファン、ダカルバジン、シクロホスファミド、イホスファミド、テモゾロミド、ニトロソウレア、例えば、カルムスチン及びロムスチン、チオテパ);有糸分裂阻害剤(例えば、ビンカアルカロイド、例えば、ビンブラスチン、ビンデシン、ビノレルビン、及びビンクリスチン;並びにタキサン、例えば、パクリタキセル、ドセタキセル);血管新生阻害剤、チューブリン阻害剤;DNA合成阻害剤、PARP阻害剤、トポイソメラーゼ阻害剤(例えば、エピポドフィロトキシン、例えば、エトポシド及びエトポホス、テニポシド、アムサクリン、トポテカン、イリノテカン、ミトキサントロン)、セリン/トレオニンキナーゼ阻害剤(例えば、PDK1阻害剤、Raf阻害剤、A-Raf阻害剤、B-Raf阻害剤、C-Raf阻害剤、mTOR阻害剤、mTORC1/2阻害剤、PI3K阻害剤、PI3Kα阻害剤、二重mTOR/PI3K阻害剤、STK33阻害剤、AKT阻害剤、PLK1阻害剤(例えば、ボラセルチブ)、CDKの阻害剤、オーロラキナーゼ阻害剤)、チロシンキナーゼ阻害剤(例えば、PTK2/FAK阻害剤)、タンパク質タンパク質相互作用阻害剤、MEK阻害剤、ERK阻害剤、FLT3阻害剤、BRD4阻害剤、IGF-1R阻害剤、TRAILR2アゴニスト、Bcl-xL阻害剤、Bcl-2阻害剤、Bcl-2/Bcl-xL阻害剤、ErbB受容体阻害剤、BCR-ABL阻害剤、ABL阻害剤、Src阻害剤、ラパマイシンアナログ(例えば、エベロリムス、テムシロリムス、リダフォロリムス、シロリムス)、アンドロゲン合成阻害剤、アンドロゲン受容体阻害剤、DNMT阻害剤、HDAC阻害剤、ANG1/2阻害剤、CYP17阻害剤、放射性医薬品、免疫療法剤、例えば、免疫チェックポイント阻害剤(例えば、CTLA4、PD1、PD-L1、LAG3、及びTIM3の結合分子/免疫グロブリン、例えば、イピリムマブ、ニボルマブ、ペンブロリズマブ)、癌ワクチン、例えば、伝統的な腫瘍ワクチン(細胞ベースのワクチン、例えば、前立腺癌を処置するためのシプロイセル-T)、個別化ネオ抗原ワクチン、及び腫瘍崩壊性ウイルス、並びに様々な化学療法剤、例えば、アミホスチン、アナグレリド、クロドロネート、フィルグラスチン(filgrastin)、インターフェロン、インターフェロンアルファ、ロイコボリン、リツキシマブ、プロカルバジン、レバミソール、メスナ、ミトタン、パミドロネート、及びポルフィマーである。
【0162】
特に好ましいのは、以下からなる群から選択される薬物と組み合わせて本発明のポリペプチドを使用することを含む処置方法である:
(i)乳癌患者における、化学療法の組み合わせ(ネオアジュバント設定におけるドキソルビシン/シクロホスファミドの組み合わせ、及び/又はカペシタビン/ドセタキセルの組み合わせ;第一及びそれ以降の選択処置のためのタキサン/白金レジメンを含む)を用いる又は用いない、抗VEGF抗体(ベバシズマブ及び他の抗血管新生物質);
(ii)肺癌患者における、化学療法の組み合わせ(第一選択処置におけるゲムシタビン/シスプラチン;第二選択処置におけるドセタキセル又はペメトレキセドを含む白金ベースの細胞毒性併用療法)を用いる又は用いない、EGFR変異体NSCLCのためのEGFR TKI又はALK移行NSCLCのためのクリゾチニブ;
(iii)例えば、CRC患者を処置するための、化学療法の組み合わせ(イリノテカンを含む)、抗VEGF抗体の組み合わせ(ベバシズマブ及び他の抗血管新生物質)、又はレゴラフェニブの組み合わせを用いる又は用いない、抗EGFR抗体(KRAS野生型腫瘍におけるセツキシマブ及びパニツムマブ)。
(iv)例えば、乳癌、肺癌、及びCRCの患者を処置するための、抗PD-1剤、例えば、ペンブロリズマブ及びニボルマブ、抗PD-L1剤、抗CTLA4剤、抗BTLA剤、抗LAG3剤、及び抗TIM3剤、例えば、抗PDL1抗体等を含む免疫療法剤
(v)例えば、乳癌又はCRCの患者を処置するための、フォリン酸、5’-フルオロウラシル、及びオキサリプラチンを含むFOLFOX化学療法レジメンと組み合わせた、又はフォリン酸、5’-フルオロウラシル、オキサリプラチン、及びイリノテカンを含むFOLFOXIRI化学療法レジメンと組み合わせた、化学療法剤、例えば、白金ベースの抗新生物剤。
【0163】
2つ以上の物質又は成分を併用処置レジメンの一部として使用する場合、該物質又は成分は、同じ投与経路を介して又は異なる投与経路を介して、本質的に同時に(すなわち、共に、一斉に)又は異なる時点で(例えば、逐次、連続的に、交互に、継続的に、又は交互レジームの任意の他の分類に従って)投与してよい。
【0164】
物質又は成分を同じ投与経路を介して同時に投与する場合、該物質又は成分は、異なる医薬製剤若しくは組成物として投与してもよく、又は複合医薬製剤又は組成物の一部として投与してもよい。また、2つ以上の活性物質又は成分を併用処置レジメンの一部として使用する場合、該化合物又は成分をそのまま使用する場合に使用されるのと同じ量で、そして、同じレジメンに従って各物質又は成分を投与してよく、そして、このような併用によって相乗効果が得られる場合もあり、得られない場合もある。しかし、2つ以上の活性物質又は成分を併用することによって相乗効果が得られる場合、所望の処置作用を達成しながら、投与される該物質又は成分のうちの1つ、それ以上、又は全ての量を低減することも可能であり得る。これは、例えば、所望の薬理学的又は処置的効果を得ながら、その通常量で使用した場合の該物質又は成分のうちの1つ以上の使用に関連する任意の望ましくない副作用を回避、制限、又は低減するのに有用であり得る。
【0165】
上記は、上記組み合わせパートナーと併用するための、本発明のポリペプチドの調製物及び調製方法を含む。また、本発明のポリペプチドと併用するための上述の組み合わせパートナーの調製物及び調製方法も含まれる。したがって、本発明は、例えば、本発明のポリペプチドと併用投与するための、そして、より具体的には、本発明のポリペプチドとの併用療法レジメンにおいて投与するための、免疫調節剤/チェックポイント阻害剤、例えば、抗PD1抗体、例えば、ペンブロリズマブ又はニボルマブの使用方法又は使用するための調製方法を提供する。
【0166】
更に、本発明は、少なくとも1つの本発明のポリペプチドと、上記疾患及び障害を処置するために使用される他の薬物からなる群から選択される1つ以上の他の成分と、下記装置とを含むキットを包含する。
【0167】
医薬組成物、投与方法、投与量
上記疾患の処置方法が該疾患を処置するための医薬の調製を含むことは、当業者に明らかであろう。したがって、本発明は、更に、上述の疾患を処置するための医薬組成物であって、少なくとも1つの本発明のポリペプチドを含む医薬組成物に関する。
【0168】
本発明のポリペプチド及び/又はそれを含む組成物は、使用される具体的な医薬製剤又は組成物に応じて任意の好適な方法で、それを必要としている患者に投与することができる。したがって、本発明のポリペプチド及び/又はそれを含む組成物は、例えば、静脈内(i.v.)、皮下(s.c.)、筋肉内(i.m.)、腹腔内(i.p.)、経皮、経口、舌下(例えば、舌下に配置され、そして、粘膜を介して舌下の毛細血管網に吸着される舌下錠、スプレー、又はドロップの形態)、鼻腔(内)(例えば、鼻腔スプレーの形態で及び/又はエアゾールとして)、局所、坐剤を用いて、吸入によって、又は任意の好適な方法で、有効な量又は用量を投与することができる。
【0169】
本発明のポリペプチド及び/又はそれを含む組成物は、処置又は軽減される疾患、障害、又は病態を処置及び/又は軽減するのに好適な処置レジメンに従って投与される。臨床医は、一般的に、処置又は軽減される疾患、障害、又は病態、疾患の重篤度、その症状の重篤度、使用される本発明の具体的なポリペプチド、使用される具体的な投与経路及び医薬製剤又は組成物、患者の年齢、性別、体重、食事、全身状態、及び臨床医に周知の同様の要因等の要因に応じて、好適な処置レジメンを決定することができる。一般的に、処置レジメンは、処置的に有効な量又は用量の1つ以上の本発明のポリペプチド又はそれを含む1つ以上の組成物を投与することを含む。
【0170】
一般的に、本明細書において言及される疾患、障害、及び病態を処置及び/又は軽減するために、そして、処置される具体的な疾患、障害、又は病態、使用される本発明の具体的なポリペプチドの効力、使用される具体的な投与経路及び具体的な医薬製剤又は組成物に応じて、本発明のポリペプチドは、一般的に、体重1キログラム及び用量あたり0.005~20.0mg、好ましくは、0.05~10mg/kg/用量、そして、より好ましくは、0.5~10mg/kg/用量の量で、連続的に(例えば、注入によって)又はより好ましくは単一用量として(例えば、週2回、週1回、又は月1回の用量;以下を参照)で投与されるが、特に上述のパラメータに依存して変動してもよい。したがって、一部の場合では、上記最低用量よりも少ない量の使用で十分な場合もあるが、他の場合では、上限を超えなければならない場合もある。より多量に投与する場合、その日全体にわたって多数のより少ない用量に分割することが望ましい場合もある。
【0171】
本発明の具体的なポリペプチド並びにその具体的な薬理学的及び他の特性に応じて、例えば、毎日、1日おき、2日おき、3日おき、4日おき、又は5日おき、毎週、毎月投与してよい。投与レジメンは、長期毎週処置を含み得る。「長期」とは、少なくとも2週間、そして、好ましくは数カ月間又は数年間を意味する。
【0172】
本発明のポリペプチド及びそれを含む組成物の有効性は、関与する具体的な疾患に応じて、それ自体公知の任意の好適なインビトロアッセイ、細胞ベースのアッセイ、インビボアッセイ、及び/若しくは動物モデル、又はこれらの任意の組み合わせを使用して試験することができる。好適なアッセイ及び動物モデルは、当業者に明らかであり、そして、例えば、以下の実施例で使用されるアッセイ及び動物モデルを含む。
【0173】
好ましくは、本発明のポリペプチドは、これらアッセイ又はモデルのうちの少なくとも1つ、そして、好ましくは、インビボモデルのうちの1つ以上において、当技術分野において公知の従来の抗体よりも優れた特徴を有している。
【0174】
製剤
医薬用途の場合、本発明のポリペプチドを、(i)少なくとも1つの本発明のポリペプチドと、(ii)少なくとも1つの薬学的に許容し得る担体、希釈剤、賦形剤、補助剤、及び/又は安定剤と、(iii)場合により、1つ以上の更なる薬理学的活性ポリペプチド及び/又は化合物とを含む医薬調製物として製剤化してもよい。「薬学的に許容し得る」とは、個体に投与されたときにそれぞれの物質が生物学的にも他の点でも望ましくない作用を全く示さず、そして、それが含有されている医薬組成物の他の成分(例えば、薬学的活性成分)のいずれとも有害に相互作用しないことを意味する。具体例は、標準的なハンドブック、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th Ed., Mack Publishing Company, USA (1990)に見出すことができる。例えば、本発明のポリペプチドは、従来の抗体及び抗体断片、並びに他の薬学的活性タンパク質についてそれ自体公知の任意の方法で製剤化及び投与してよい。したがって、更なる実施態様によれば、本発明は、少なくとも1つの本発明のポリペプチドと、少なくとも1つの薬学的に許容し得る担体、希釈剤、賦形剤、補助剤、及び/又は安定剤と、場合により、1つ以上の更なる薬理学的活性物質とを含有する医薬組成物又は調製物に関する。
【0175】
非経口投与、例えば、静脈内、筋肉内、皮下への注射、又は静脈内注入用の医薬調製物は、例えば、活性成分を含み、そして、場合により更に溶解又は希釈の工程を行った後に注入又は注射に好適なものになる、滅菌された溶液、懸濁液、分散液、エマルション、又は粉末であってよい。このような調製物に好適な担体又は希釈剤は、例えば、滅菌水及び薬学的に許容し得る水性の緩衝液及び溶液、例えば、生理学的リン酸緩衝生理食塩水、リンゲル液、デキストロース溶液、及びハンクス液;水油;グリセロール;エタノール;グリコール、例えば、プロピレングリコール、並びに鉱油、動物油、及び植物油、例えば、ピーナッツ油、大豆油、並びにこれらの好適な混合物を含むが、これらに限定される訳ではない。
【0176】
本発明のポリペプチドの溶液は、微生物の増殖を防ぐために保存剤、例えば、抗菌剤及び抗真菌剤、例えば、p-ヒドロキシ安息香酸エステル、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チオメルサール、エチレンジアミン四酢酸(のアルカリ金属塩)等を含有していてもよい。多くの場合、等張剤、例えば、糖、緩衝剤、又は塩化ナトリウムを含むことが好ましい。場合により、乳化剤及び/又は分散剤を使用してもよい。例えば、リポソームを形成することによって、分散液の場合は必要な粒径を維持することによって、又は界面活性剤を使用することによって、適切な流動性を維持することができる。吸収を遅延させる他の剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンを添加してもよい。溶液は、バイアル、アンプル、注入ボトル等に充填してもよい。
【0177】
全ての場合において、最終的な剤形は、製造及び保管の条件下で無菌、流体、かつ安定でなければならない。滅菌注射液は、必要に応じて上に列挙した様々な他の成分と共に必要量の活性化合物を適切な溶媒中に組み込み、続いて、滅菌濾過することによって調製される。滅菌注射液を調製するための滅菌粉末の場合、好ましい調製方法は、真空乾燥及び凍結乾燥の技術であり、これによって、予め滅菌濾過された溶液中に存在する活性成分+任意の更なる所望の成分の粉末が生成される。
【0178】
通常、水性の溶液又は懸濁液が好ましい。一般に、処置用タンパク質、例えば本発明のポリペプチドに好適な製剤は、緩衝タンパク質溶液、例えば、好適な濃度(例えば、0.001~400mg/mL、好ましくは0.005~200mg/mL、より好ましくは0.01~200mg/mL、より好ましくは1.0~100mg/mL、例えば、1.0mg/mL(i.v.投与)又は100mg/mL(s.c.投与))のタンパク質と、水性緩衝液、例えば、
- リン酸緩衝生理食塩水、pH7.4、
- 他のリン酸緩衝液、pH6.2~8.2、
- 酢酸緩衝液、pH3.2~7.5、好ましくは、pH4.8~5.5、
- ヒスチジン緩衝液、pH5.5~7.0、
- コハク酸緩衝液、pH3.2~6.6、及び
- クエン酸緩衝液、pH2.1~6.2、
と、場合により、溶液を等張にするための塩(例えば、NaCl)及び/又は糖(例えば、スクロース及びトレハロース)、及び/又は他のポリアルコール(例えば、マンニトール及びグリセロール)とを含む溶液である。
【0179】
好ましい緩衝タンパク質溶液は、220mM トレハロースを添加することによって等張に調整された25mM リン酸緩衝液、pH6.5に溶解している約0.05mg/mL 本発明のポリペプチドを含む溶液である。更に、界面活性剤等の他の剤、例えば、0.02% Tween-20又はTween-80が、このような溶液に含まれていてもよい。皮下用途のための製剤は、より高濃度、例えば、100mg/mL以下又は更には100mg/mL超の本発明のポリペプチドを含んでいてもよい。しかし、上記成分及びその量は、1つの好ましい選択肢を表しているにすぎないことが、当業者には明らかであろう。その代替及び変形は、当業者に直ちに明らかになるか、又は上記開示から容易に思いつくことができる。
【0180】
また、従来の抗体又は抗体断片と比較して、本発明のポリペプチドを使用することの1つの主な利点は、非経口投与以外の経路を介して容易に投与することもでき、そして、このような投与のために容易に製剤化することができる点である。例えば、国際公開公報第2004/041867号に記載されている通り、このようなポリペプチドを経口、鼻腔内、肺内、及び経皮の投与用に製剤化することができる。
【0181】
本発明の更なる態様によれば、本発明のポリペプチドを、該ポリペプチドの投与に有用な装置、例えば、シリンジ、注射ペン、マイクロポンプ、又は他の装置と組み合わせて使用してもよい。
【0182】
製造及び精製の方法
本発明は、更に、本発明のポリペプチドを製造する方法であって、一般に、
- 本発明のポリペプチドを発現させる条件下で、本発明のポリペプチドをコードしている核酸(以後「本発明の核酸」)を含む宿主細胞を培養する工程と、
- 該宿主細胞によって発現された該ポリペプチドを培養物から回収又は単離する工程と、
- 場合により、本発明のポリペプチドを更に精製及び/又は修飾及び/又は製剤化する工程と
を含む方法を提供する。
【0183】
本発明の核酸は、例えば、コード配列に加えて、制御配列と、場合により天然又は人工のイントロンとを含むDNA分子であってもよく、又はcDNA分子であってもよい。該核酸は、そのオリジナルのコドンを有していてもよく、又は意図する宿主細胞若しくは宿主生物における発現に特に適応させた、最適化されたコドン使用頻度を有していてもよい。本発明の一実施態様によれば、本発明の核酸は、上に定義した通り、本質的に単離された形態である。
【0184】
本発明の核酸は、例えばプラスミド、コスミド、又はYAC等のベクターの形態であってもよく、該ベクター中に存在していてもよく、及び/又は該ベクターの一部であってもよく、該ベクターも同様に単離された形態であってよい。ベクターは、本質的に、発現ベクター、すなわち、インビトロ及び/又はインビボで(例えば、好適な宿主細胞、宿主生物、及び/又は発現系において)該ポリペプチドを発現させることができるベクターであってよい。このような発現ベクターは、一般に、例えばプロモータ、エンハンサ、ターミネタ等の1つ以上の好適な制御エレメントに動作可能に連結されている少なくとも1つの本発明の核酸を含む。本発明のポリペプチドを発現させるのに有用又は必要なこのような制御エレメント及び他のエレメント、例えば、組み込み因子、選択マーカー、シグナル又はリーダーの配列、レポータ遺伝子等の具体例は、例えば、国際公開公報第2006/040153号の131~133ページに開示されている。
【0185】
本発明の核酸は、本明細書に記載されている本発明のポリペプチドについてのアミノ酸配列の情報に基づいて、それ自体公知の方法で(例えば、自動DNA合成及び/又は組み換えDNA技術によって)調製又は入手することができる。
【0186】
別の実施態様によれば、本発明は、本発明のポリペプチドを発現するか若しくは発現することができる;及び/又は本発明のポリペプチドをコードしている核酸を含有する宿主又は宿主細胞に関する。特に好ましい実施態様によれば、該宿主細胞は、細菌細胞、酵母細胞、真菌細胞、又は哺乳類細胞である。
【0187】
工業規模で生産する場合、ISVDポリペプチド及びそれを含有するタンパク質処置薬の(工業)生産に好ましい異種宿主は、大規模な発現、生成、及び発酵、具体的には、大規模な(バイオ)医薬の発現、生成、及び発酵に好適な、大腸菌、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、及び出芽酵母(S. cerevisiae)の株を含む。
【0188】
上記の通り細胞において生成される本発明のポリペプチドは、細胞内で(例えば、サイトゾル、周辺質、又は封入体において)生成され得、次いで、宿主細胞から単離され得、そして、場合により更に精製され得るか;又は細胞外で生成され(宿主細胞が培養される培地に分泌され)得、次いで、培養培地から単離され得、そして、場合により更に精製され得る。
【0189】
ポリペプチドの組み換え生成に使用される更なる方法及び試薬、例えば、好適な発現ベクター、形質転換又はトランスフェクションの方法、選択マーカー、タンパク質発現を誘導する方法、培養条件等は、当技術分野において公知である。同様に、本発明のポリペプチドの製造方法において有用なタンパク質の単離及び精製の技術は、当業者に周知である。
【0190】
大腸菌及び酵母等の便利な組み換え宿主生物における発酵を通じた本発明のポリペプチドの生成は、通常高価な哺乳類細胞培養設備を必要とする従来の抗体と比べて、コスト効率がよい。更に、達成可能な発現レベルが高く、そして、本発明のポリペプチドの収量は、1~10g/L(大腸菌)及び10g/L以下(酵母)及びそれ以上の範囲である。
【0191】
実施例
実施例1:体液性免疫応答を誘導するための、LRP5によるラマの免疫
LRP5結合VHHドメインを同定するために、ラマを免疫するための幾つかのプロトコールを考案し、そして、実施する必要があった:最初に、LRP5タンパク質(マウス)の組み換え細胞外ドメインでラマを免疫した。しかし、上述のLRP5組み換えタンパク質の機能特性評価から、該組み換えタンパク質が適切に折り畳まれないことが明らかになった。したがって、免疫に好適な抗原を開発するために更なる研究が必要であった。次善の策として、ヒトLRP5又はカニクイザル(cyno)LRP5が安定的にトランスフェクトされたHEK293細胞でラマを免疫した。しかし、この場合も、一過的なトランスフェクションによっても安定的なトランスフェクションによっても、また、異なる細胞株(HEK293及びCHO)を使用しても、ヒト又はカニクイザルのLRP5の非常に低い発現しか達成することができなかった。したがって、LRP5を十分に発現させるために更なる研究が必要であった。幾つかの不成功に終わった試行錯誤の後、遂に、外因性LRP5の発現を増加させることを意図するシャペロンであるMesDC-2をHEK293細胞に安定的に共トランスフェクトすることを含むプロトコールを開発することによって、これを達成することができた。この場合でさえも、すなわち、LRP5が安定的にトランスフェクトされた細胞株の生成中にMesDC-2を共発現させた場合でさえも、タンパク質発現の不安定性が繰り返し観察された。対照的に、HEK293細胞においてヒトLRP6をMesDC-2と共発現させた際には、著しく高くかつ安定な発現レベルが達成された。これら知見は、タンパク質の発現が非常に少ないことがヒトLRP5の固有の課題であることを示す発表データと一致している(Fleury et al, Protein Expr Purif. 2010 Mar;70(1):39-47)。これによって、免疫及びセレクション中にLRP5発現が失われる可能性があるという問題が生じた。この更なる問題を解決するために、LRP5を発現している細胞の継代数を可能な限り制限し、そして、LRP5を発現している細胞を濃縮するために追加の細胞選別を実施した。
【0192】
両側腹部において、hMesDC-2シャペロンの有り無し両方で、LRP5をコードしているDNAでラマを更に免疫した。マウス及びカニクイザルのLRP5と交差反応性のある抗ヒトLRP5 VHHドメインを同定する機会を増やす目的で、種間交差反応性免疫応答を増強するための試みにおいて数頭のラマに追加免疫を行った。
【0193】
一定間隔で免疫血(PBL)サンプルを採取し、血清応答を判定し、そして、単離されたPBLから全RNAを調製した。組み換えタンパク質で免疫した際はLRP5に対する血清の応答は低かったが;対照的に、DNAで免疫したラマでは中程度のLRP5免疫応答が観察された。細胞による免疫については、非常に低い免疫応答しか観察されなかった。更に、合成ライブラリも調査した。それにもかかわらず、最終的には、実施例2に概説する通り、次のステップを続けるのに十分な多様なレパートリーを得ることができた。
【0194】
実施例2:LRP5結合一価VHHドメイン(VHH)の単離
ライブラリの構築:
免疫組織の回収直後に全RNAを抽出し、そして、RNAの完全性及び濃度を検証した。これらRNA調製物からcDNAサンプルを作製した。一段階RT-PCR反応において、VHHをコードしているヌクレオチド配列をcDNAサンプルから増幅した。サンプル中のIgG2及びIgG3のcDNAから特異的に増幅した700bpのアンプリコンをアガロースゲルから単離し、次いで、ネステッドPCR反応においてテンプレートして使用した。次いで、PCR生成物をSfiI及びBstEIIで切断し、そして、ファージミドベクターpAX50の対応する制限酵素部位にライゲーションした。ライゲーション混合物を大腸菌TG-1にエレクトロポレーションした。得られた形質転換体のプールによって、遺伝的に多様なファージディスプレイライブラリが構成された。
【0195】
pAX50は、アンピシリン耐性遺伝子及びlacプロモータ、続いて、下流のVHHドメインクローニング部位とインフレームであるpIIIタンパク質シグナルペプチドのコード配列を含有する、pUC119に由来する発現ベクターである。VHHドメインコード配列とインフレームになるように、該ベクターは、C末端Myc及びヘキサヒスチジンタグ及び大腸菌ファージpIIIタンパク質をコードしている。大腸菌TG-1ライブラリのクローンにヘルパーファージを感染させた後、pAX50の存在によって、pIIIタンパク質との融合タンパク質として個々のVHHドメインをディスプレイしているファージ粒子をこれらクローンから生成することができるようになる。
【0196】
セレクション:
VHHドメイン-ファージミドライブラリを構築し、そして、セレクションのために使用した。種間(ラマ及びヒトのLRP5間)で種相同性が非常に高いことに鑑みて、ラマで生じた免疫応答がVHHドメインの十分な多様性を生じさせるかどうかは不確実であった。したがって、セレクション中に免疫ライブラリと並行して2つの合成ライブラリを使用した。
【0197】
以下の通り、セレクション中に異なるストラテジを使用した:
- ヒト/マウスLRP5種間交差反応性VHHドメインを同定する機会を増やすために種起源を変更する(すなわち、ヒト及びマウスのLRP5に由来するツール)、例えば、ヒトLRP5で免疫されたラマ由来のライブラリにおいて、マウスLRP5を安定的に発現しているHEK293をセレクションする、又は合成ライブラリにおけるセレクション中にマウス及びヒトのLRP5を両方発現しているHEK293細胞株を使用する(このようなLRP5アンタゴニストのマウス交差反応性によって、同じ前臨床モデル(すなわち、異種移植腫瘍マウスモデル)において、処置濃度域を評価するために必要な有効性、すなわち腫瘍成長阻害及び安全性のプロファイルを評価することが可能になる)。
- エピトープをそのネイティブな高次構造で維持するための、LRP5組み換えタンパク質による「溶液中(In solution))」セレクション:更なる障害として、LRP5組み換えタンパク質は、ELISA結合プレートに直接コーティングされた場合、適切なフォールディングが失われることが見出された。したがって、組み換えタンパク質をビオチン化し、そして、機能性アッセイにおいて適切なフォールディングを確認した後、「溶液中」でセレクションのために使用した。
- 受容体がネイティブな高次構造を有するように、LRP5を過剰発現している細胞を使用するセレクション。これは、驚くべきことに、特にLRP5のWnt3aクラス結合ドメインに対するバインダーのセレクションを改善するために必要な、重要な計略であることが判明したが、その理由は、組み換えタンパク質の機能データが、Wnt3a結合エピトープが適切にフォールディングされていないことを示したためである。
- LRP5選択的バインダーを同定するための、LRP6を過剰発現している細胞を使用するネガティブセレクション。
【0198】
実施例3:一価VHHのスクリーニング
セレクション後、96深型ウェルプレート(体積1mL)でクローンを増殖させ、そして、IPTGを添加することによってVHH発現を誘導した。標準的な方法、例えば、国際公開公報第2011/107507号に報告されている方法に従って、シングルクローンの周辺質抽出物を調製し、そして、ヒトLRP5に対する結合についてスクリーニングした。最初に、FACSベースの結合アッセイと比較して高感度で、ロバストで、ハイスループットなアッセイである組み換えLRP5を使用する結合ELISAアッセイで、該周辺質抽出物をスクリーニングした。精製後、ELISAアッセイで同定されたVHHを、結合FACSアッセイを使用して更に特性評価して、精製されたVHHがそのネイティブな高次構造でLRP5受容体に結合することを確認した。
【0199】
通常、ELISA結合アッセイとFACS結合アッセイとは良好に相関することが予測される。しかし、本実施例の場合は、ELISAアッセイにおいて最良のLRP5結合VHH(すなわち、組み換えLRP5外部ドメインに対して高い親和性を有する)は、FACS結合アッセイにおいてヒトLRP5に対する結合を全く又は非常に弱くしか示さなかった。異なるコーティングバッファ(dPBS対重炭酸塩バッファ)及びELISAのセットアップにおけるブロッキング溶液(Marvel対BSA)を使用しても、観察された矛盾は解決されなかった。その代わり、ELISAにおける非常に弱いバインダーは、LRP5を発現しているHEK293細胞を使用する結合FACSアッセイにおいて、LRP5に対して高い親和性を示すことが見出された。したがって、これら更なるデータ及び実験によって、2つの受容体のネイティブな高次構造を認識する高親和性バインダーをセレクションすることが可能になった。更に、これら高親和性バインダーが、高次構造依存的にエピトープを認識しており、LRP5タンパク質における線状エピトープは認識しないことがこれによって確認された。したがって、これら更なる非ルーチンなデータ及び実験によって、そのネイティブな高次構造で原形質膜において発現しているLRP5に対して高い親和性を有しているはずである、処置的に関連するLRP5バインダーをセレクションすることが可能になった。
【0200】
したがって、(i)FACS結合アッセイのスループットが低く、(ii)アッセイセットアップがあまりロバストではなく、そして、(iii)LRP5を過剰発現している細胞の継代時に組み換えタンパク質の発現が失われることに起因して直面する上記問題点にもかかわらず、これらアッセイを、続いて、高親和性VHHバインダーの更なるセレクション及び特性評価に使用した。簡潔に述べると、プレートシェーカーにおいて4℃で1.5時間、細胞を精製VHH希釈物(1:5連続希釈物、最終濃度1μM~1pM)と共にインキュベートした。1×リン酸緩衝生理食塩水(PBS)+10% ウシ胎仔血清(FBS)+0,05% アジ化ナトリウムからなるFACSバッファで該細胞を5回洗浄した後、VHHのフレームワーク領域に結合することから、試験されるLRP5バインダーの全てに結合するポリクローナルマウス抗体と共に、4℃で30分間~1時間、該細胞をインキュベートした。FACSバッファで該細胞を3回洗浄した後、標識された二次抗体(抗マウスPE)と共に、4℃で30分間~1時間、該細胞をインキュベートし、続いて、FACSバッファで3回洗浄工程を行った。FACSアレイ(BD)を使用して蛍光を測定した。
【0201】
結合FACSデータ及び配列解析に基づいて、免疫ライブラリから、そして、合成起源から、合計約50のLRP5選択的VHHファミリー/クラスタを同定した。以下で更に、その代表例を示し、そして、その配列によって規定する。VHHを大腸菌で発現させ、そして、精製した。大腸菌における発現が不十分であると判明した場合、ピキア・パストリスでVHHを生成させた。VHHの発現及び精製についての簡単な説明を以下に更に報告する。
【0202】
大腸菌におけるVHHの遺伝子発現:
コード配列をpAX100発現ベクターにクローニングし、そして、c-Mycヘキサヒスチジンタグ付きタンパク質として大腸菌で発現させた。対象となるVHHコンストラクトを含有する大腸菌TG-1細胞を、振盪フラスコ内のカナマイシンを補給したTB培地中で増殖させ(37℃、250rpm)、そして、発現のために1mM IPTGを添加することによって誘導した。細胞培養物をスピンした後、ペレットを凍結融解し、そして、dPBSに再懸濁することによって、周辺質抽出物を調製した。
【0203】
ピキア・パストリスにおけるVHHの遺伝子発現:
コード配列をpAX159発現ベクターにクローニングし、そして、c-Mycヘキサヒスチジンタグ付きタンパク質としてピキア・パストリスで発現させた。対象となるVHHコンストラクトを含有するピキア・パストリスX-33細胞をBGCM(Buffered Glycerol-Complex Medium; Invitrogen)中で増殖させた(30℃、250rpm)。3日目に、培地をBMCM(Buffered Methanol-Complex Medium; Invitrogen)に交換し、そして、培養物を更に増殖させ、そして、0.5体積% メタノール(100%)を添加することによって定期的に誘導した。細胞培養物をスピンした後、上清(分泌されたVHHを含有する)を回収した。
【0204】
VHH精製:
ヘキサヒスチジンタグ付きVHHを、固定化金属アフィニティクロマトグラフィ(RoboColumns 100ul Nickel Sepharose(商標)6 FF、Atoll)によってTecan EVO150において精製し、250mM イミダゾールを用いてカラムから溶出し、続いて、dPBSに対して脱塩した。VHHの純度及び完全性を、SDS-PAGE並びに/又は抗Myc及び抗VHH検出を用いるウエスタンブロットによって検証した。
【0205】
実施例4:精製された一価VHHのインビトロにおける特性評価
VHHのスクリーニング後、LRP5を発現している細胞に対して高い親和性を有する精製VHHを、下記の幾つかの機能性アッセイ及び生物物理学的アッセイを使用することによって特性評価した:
【0206】
4.1 LRP5選択的結合効力及び交差反応性:FACSベースのDKK1競合アッセイ
LRP5選択的一価VHHの特性評価中、結合FACSアッセイにおいて得られるデータは、Wnt1及びWnt3aのレポータアッセイで観察される効力と常に相関する訳ではないことが観察され、これは、VHHのうちの幾つかのオフ速度が速いことに起因している可能性が最も高い。したがって、LRP5の結合とLRP6の結合欠如とを含む選択性及び結合効力の判定についてより信頼性が高いことが証明されている、この追加のアッセイを確立する必要があった(すなわち、DKK1競合FACS)。目的は、1μM以下の濃度でLRP5には選択的に結合するが、LRP6に対する結合は検出されない機能性VHHを選択することであった。したがって、同定されたWnt1及びWnt3aの機能性VHHを以下の通りDKK-1競合FACSにおいて特性評価した:
【0207】
FACSベースのDKK1競合アッセイでは、ヒトLRP5又はヒトLRP6を安定的に過剰発現しているHEK293細胞を使用した。ヒト組み換えDKK1(rhDKK1-R&D Systems、カタログ番号5439-DK/CF)を、1nMの一定最終濃度で該細胞に添加した。プレートシェーカー上において、4℃で1.5時間、細胞をrhDKK1及びLRP5バインダー希釈物(精製VHHの1:5連続希釈物)と共にインキュベートした。FACSバッファで3回該細胞を洗浄した後、プレートシェーカー上において、4℃で30分間、ビオチン化ヤギ抗ヒトDKK1(R&D Systems、カタログ番号BAF1096)と共にインキュベートした。FACSバッファで3回該細胞を洗浄した後、暗条件下でプレートシェーカー上において、4℃で30分間~1時間、ストレプトアビジンPE(BD Biosciences、カタログ番号554061)と共にインキュベートした。FACSバッファで2回細胞を洗浄し、そして、FACSアレイ(BD)を使用して蛍光を測定し、そして、平均チャネル蛍光(MCF)値を報告した。
【0208】
LRP5選択的VHHは、ヒトLRP5を過剰発現しているHEK293細胞に対する結合についてはヒトDKK1と競合するが、ヒトLRP6を過剰発現しているHEK293細胞に対する結合については競合しないか又は非常にわずかしか(>1μM)競合しないと予測される(そして、逆に、LRP6特異的VHHについても同じことが当てはまる)。対照的に、LRP5/LRP6交差反応性VHHは、ヒトLRP5を過剰発現しているHEK293に対する結合について、及びヒトLRP6を過剰発現しているHEK293に対する結合について、ヒトDKK1と競合する。この実験の結果として、本LRP5選択的VHHが、ヒトLRP5を過剰発現しているHEK293細胞に対する結合についてヒトDKK1と競合する(すなわち、バインダーの濃度が増大するにつれてMCF値が減少し、DKK1結合の完全な阻害は、試験した最高濃度において≦60MCF値に相当する)ことを示すことができた。
【0209】
4.2 種間交差反応性:マウス及びカニクイザル
LRP5選択的VHHの選択されたパネルがマウス及びカニクイザルの起源のLRP5に結合することができるかどうかを判定するために、DKK1競合FACSを以下の通り実施した:
【0210】
1及び0.3nM hDKK1(それぞれ、マウス及びカニクイザルのEC50値を下回る濃度)の存在下で、マウスLRP5又はカニクイザルLRP5を安定的に発現しているHEK293細胞と共にVHHの連続希釈物をインキュベートした。上記の通り二次検出としてストレプトアビジン-PEと共にビオチン化抗DKK1抗体を使用して、DKK1の細胞に対する結合を検出した。結果として、このような交差反応性を証明することができた。
【0211】
4.3 エピトープビニング
様々なエピトープのビンを同定するために、最も強力なWnt1シグナル伝達ブロッキングLRP5選択的VHHについてビニング実験を実施した。具体的には、FACSベースのアッセイを使用して、LRP5受容体結合について他のビオチン化VHH(参照VHHと呼ばれる)と競合する能力について、個々のVHHを分析した。200pM又は500pM ビオチン化参照VHH(EC50値を下回る濃度)と共に、ヒトLRP5を安定的に発現しているHEK293において、個々のVHHの連続希釈物をインキュベートした。ストレプトアビジン-PEを使用して、ビオチン化参照VHHの細胞への結合を検出した。LRP5に対する結合について参照VHHと競合するVHHは、FACSアレイを使用して測定される蛍光の減少を示す。
【0212】
これら実験の結果として、Wnt1ブロッカー及びWnt3aブロッカーを、それぞれ、2つ及び6つのビンに分類することができた。
【0213】
4.4 Wnt1及びWnt3aのレポータアッセイ
Wntシグナル伝達を阻害するLRP5選択的VHHの能力を、機能性Wnt1及びWnt3aアッセイで試験した。これに関しても、使用することができる確立されたプロトコールが存在しなかったので、生化学的機能性アッセイ、例えば、Wnt1/Wnt3a-LRP5ブロッキングアッセイを確立するために幾つかの試みを試す必要があった:組み換えLRP5タンパク質が直面する問題点(実施例1を参照)に加えて、機能性組み換えWnt1リガンドは、市販されていないのはもちろんのこと、入手不可能である。Wntタンパク質は多くの保存システインを含有しており、そして、保存セリンに結合した一価不飽和脂肪酸(パルミトレイン酸)によって修飾されている。これら翻訳後修飾は、効率的なシグナル伝達及びWnt分泌に必要である。構造解析は、パルミトレイン酸脂質を含有するドメインのうちの1つが、Frizzled受容体に結合して、細胞表面上におけるWntリガンドとLRP5受容体との相互作用が可能になるように高次構造を変化させるために必要であることを示す。したがって、このタンパク質が関与する機能性研究にはこのような翻訳後修飾が必要であるが、同時に、このような脂質ベースの翻訳後修飾によって、これらタンパク質の発現及び精製が非常に困難になる(低可溶性)ことが判明した。したがって、これは、生化学的アッセイにとって大きなハードルであることが判明した。
【0214】
したがって、精製VHHを特性評価するために細胞ベースの機能性アッセイを開発した:Wntベータ-ラクタマーゼレポータ遺伝子アッセイ。具体的には、Wnt1経路の阻害については、CellSensor LEF/TCF-bla FreeStyle 293F細胞(Invitrogen、カタログ番号K1677)にヒトWnt1をトランスフェクトし、そして、ヒトWnt1を安定的に過剰発現しているクローンを選択した。Wnt3a経路の阻害を試験する場合は、ヒトWnt3aを安定的に過剰発現しているCellSensor LEF/TCF-bla FreeStyle 293F細胞を生成し、そして、LRP5選択的VHHで処理する2日間前に、製造業者の指示書に従って、siRNA(SMARTpool、ON-TARGETplus siRNA、Dharmacon、カタログ番号L-003845-0010)を介してヒトLRP6の一過的ノックダウンを実施した。
【0215】
CellSensor(登録商標)LEF/TCF-bla FreeStyle(商標)293細胞株は、安定的にFreeStyle(商標)293細胞(Invitrogen)に組み込まれる、Wnt誘導性LEF/TCFプロモータの制御下にあるベータ-ラクタマーゼレポータ遺伝子を含有する。したがって、これら細胞においてWnt1又はWnt3aが発現した結果、ベータ-ラクタマーゼが構成的に発現し、ひいては、酵素活性が生じる。したがって、LRP5選択的機能性VHHで処理すると、Wnt1又はWnt3aの経路が阻害されて、ベータ-ラクタマーゼの酵素活性が阻害されると予測される。
【0216】
このアッセイでは、Wnt1又はWnt3aを過剰発現している細胞 1E06個/mLを384ウェル組織培養プレートに播種し、そして、37℃で一晩インキュベートした。次の日、様々なLRP5選択的VHH溶液の連続希釈物を調製し、そして、最終濃度10nMでLiClの存在下において該細胞に添加した。ポジティブコントロールとしてのDKK1を、最終濃度200nMで該細胞に添加した。DKK1処理の結果、Wnt1及びWnt3aの経路が完全に阻害され、ひいては、ベータ-ラクタマーゼの酵素活性も完全に阻害された。該細胞を37℃で一晩インキュベートした。次の日、製造業者の指示書(Invitrogen、カタログ番号K1085)に従って、ベータ-ラクタマーゼの酵素活性を測定した。蛍光発光については、標準的な蛍光プレートリーダーを使用して460nm及び530nmにおける値を得、そして、指定の処理ごとに460/530nm発光比をプロットした。ポジティブコントロール(DKK1;最終濃度200nM)に対する有効性を計算した。
【0217】
2つのWnt1ブロッカーが同定された。合計8つのWnt3aブロッカーが、良好な効力(100nMを下回るIC50)及び十分な有効性を示した。
【0218】
4.5 Wnt1及びWnt3aのリン酸化アッセイ
続いて、Wnt1ブロッカーの各ビンから最も強力かつ有効なリード及び最も強力かつ有効なWnt3aブロッカーを、Wnt1及びWnt3a依存性LRP5リン酸化アッセイで試験した。Wnt1又はWnt3aのいずれかをコードしている発現ベクターが共トランスフェクトされたInvitrogen製のCellsensor LEF/TCF 293F細胞(カタログ番号K1677)をリン酸化アッセイで使用した。Wnt-Frizzled-LRP5複合体が形成された結果、LRP5がリン酸化され、続いて、下流のシグナル伝達が生じるので、リン酸化の定量を使用してこのようなシグナル伝達を測定することができる。LRP5特異的な読み出しを得るために、細胞を溶解させ、そして、(受容体の細胞内ドメインに対する)LRP5選択的抗体を用いて免疫沈降を実施した。ウエスタンブロットでは、LRP5リン酸化タンパク質と交差反応するポリクローナル抗ホスホ-LRP6(Ser1490)抗体(Cell Signaling Technology)を使用して、リン酸化されたLRP5を検出した。各ビンからの少なくとも1つの代表的なVHHを含有する、精製Wnt1及びWnt3aブロッキングVHHの選択されたパネルを、最終濃度10~100nMで試験した。具体的には、細胞溶解及びLRP5免疫沈降の前に、ブロッキングVHHの存在下で細胞を一晩インキュベートした。ポジティブコントロール(DKK1、最終濃度1μM)に対してウエスタンブロットのバンドを定量化することを介して、LRP5リン酸化のブロッキングにおけるWnt1又はWnt3aブロッキングVHHの有効性を計算した。
【0219】
4.6 生物物理学的特性評価
実施例3で報告した通り、大腸菌及びピキア・パストリスにおける発現及び精製について、LRP5選択的VHHを更に特性評価した。具体的には、一価リードパネルVHHの発現収量が0.1mg/Lを上回っていた場合、許容可能であるとみなした。選択されたLRP5選択的VHHは、大腸菌において0.3~22.6mg/Lの範囲の発現を示し、そして、ピキア・パストリスではより高い発現を示した(>1mg/L)。SDS-PAGE分析によって発現を評価した。
【0220】
Lightcycler(Roche)を使用する蛍光ベースの熱シフトアッセイ(TSA)において、一価LRP5選択的VHHの熱安定性を判定した。Sypro Orangeの存在下において様々なpH値でVHHをインキュベートし、そして、温度勾配を適用した。熱によってアンフォールディングが誘導された際、Sypro Orangeが結合するタンパク質の疎水性パッチが露出し、その結果、蛍光強度が増加する(Ex/Em=465/580nm)。蛍光強度曲線の一次導関数の変曲点は、融解温度(Tm)の尺度として機能する。全てのVHHについて、TmはpHの増大と共に上昇し、そして、pH6で横ばいになるが、これはVHHでみられる典型的なTmパターンである。LRP5選択的Wnt1ブロッカーVHH及びWnt3aブロッカーVHHについて、pH7において68℃を超える平均が得られた。
【0221】
LRP5選択的VHHの凝集及び多量体化が生じる可能性について、分析サイズ排除クロマトグラフィ(SEC)によって調べた。この目的のために、0,5mg/mL 精製VHHサンプル 8μgを、Dionex Ultimate 3000機器を介してAgilent SEC-3カラムに注入した。L-アルギニンバッファ(10mM リン酸塩、300mM Arg-HCl、pH6.0)を移動相として使用し、そして、流速1mL/分を適用した。LRP5選択的VHHはいずれもSEC分析中に重大な凝集の問題を示さず:プロファイルは、ほとんどのサンプルについて95%超がモノマーであることを示した。
【0222】
実施例5:半減期延長二重パラトープコンストラクトの生成及び特性評価
LRP5選択的Wnt1及びWnt3a VHHを構成要素として使用して、図1に示す二重パラトープコンストラクトを生成した。血清アルブミン結合VHHへの遺伝子融合を半減期延長法として使用した。3つの構成要素(Wnt1ブロッカー、Wnt3aブロッカー、及びアルブミンバインダー)を、可撓性リンカーを介して連結した。実施例3に記載の通り、ピキア・パストリスにおいてVHHを生成させ、そして、精製した。例えば、国際公開公報第2012/131078号に報告されている標準的な手順に従って、得られたコンストラクト、すなわち、二重パラトープ半減期延長LRP5選択的VHHコンストラクトを、C末端にcMyc-ヘキサヒスチジンタグの付いたVHHコンストラクトの形態でピキア・パストリス発現ベクターpAX159にクローニングした。様々な配向の構成要素及び様々なリンカー、特にGSリンカーを調査した。LRP5における潜在的なWnt1及びWnt3aの結合部位間の表面積の拡張を反映するホモロジーモデリングデータに基づいて、比較的長いGSリンカーを選択した。複合Wnt1及びWnt3aレポータアッセイにおける効力に関する最良の結果は、中央にヒト血清アルブミン/HSA結合VHHを配置することによって得られた。35GSリンカーを使用し、そして、Wnt1及びWnt3a VHHブロッカーを好ましい順序で配置した。
【0223】
最適なVHHのバインダー及びバインダーの組み合わせをセレクションするために、ヒト血清アルブミン(HSA)結合VHHがLRP5選択的Wnt1-Wnt3aブロッカーの間に配置されているライブラリを生成した。具体的には、Wnt1又はWnt3aアッセイ(レポータ及びリン酸化のアッセイ)において高い効力及び有効性を有する高親和性バインダーのパネルを該ライブラリで使用して、図1に図示するように設計された半減期延長二重パラトープコンストラクトを生成した。(実施例3に報告した通り)ピキア・パストリスで発現させ、続いて、精製した後、次いで、半減期延長二重パラトープコンストラクトを、3つの希釈率(1/100、1/1000、1/7000)で30μM HSAの存在下においてWnt1及びWnt3aレポータアッセイ(実施例4に記載)でスクリーニングして、有効性及び相対効力を評価した。一般に、Wnt1レポータアッセイのデータとWnt3aレポータアッセイのデータとの間で良好な相関が観察され、そして、多数のフォーマットされたバインダーについて高い有効性が測定された。両レポータアッセイにおける有効性並びにWnt1及びWnt3aブロッカーの多様性を考慮して、更なる特性評価のために合計10個の半減期延長二重パラトープLRP5選択的コンストラクトを選択した。この更なる特性評価アッセイについて、以下に記載する。
【0224】
Wnt1/Wnt3aレポータアッセイ:
最終濃度30μM HSAの存在下で、実施例4.4に記載の通り、Wnt1及びWnt3aのレポータアッセイを実施した。精製された二重パラトープLRP5選択的コンストラクトを、2.5μMで始まる12個の希釈物で試験した。
【0225】
コンストラクトの大部分は、高い効力を示し、IC50値は、それぞれ、Wnt3aレポータアッセイでは1nM未満、Wnt1レポータアッセイでは5.7nM未満であり、そして、LRP5依存性Wntシグナル伝達について両レポータアッセイにおいて十分な有効性を示した。
【0226】
実施例6:VHH及びVHHコンストラクトの配列最適化
配列最適化は、親配列に変異を導入して、ヒトIGHV3-IGHJ生殖系列コンセンサス配列とより同一なものにするプロセスである。例えば、タンパク質の構造、活性、及び安定性が保存される方法で、フレームワーク領域における特定のアミノ酸(いわゆるホールマーク残基を除く)をそのヒト対応物に交換する。
【0227】
これら変異は、以下の通り分類することができる:
1. 標準:これら位置の配列最適化は、VHHの安定性又は活性又は親和性を劇的に変化させるとは予測されないので、該位置を一斉に変化させて、基本的変種を生成する。
2. 独自:これら位置における配列最適化がVHHの安定性又は活性又は親和性に影響を与えるかどうか分からないので、基本的変種に加えて、個々のレベルで調べる。
【0228】
ホールマーク残基は、VHHの安定性、活性、及び親和性にとって重要であることが知られているので、変異導入しない。
【0229】
更に、それが翻訳後修飾(PTM)に対して感受性であるという実験的証拠が存在する、CDR中に存在するアミノ酸を、PTM部位は不活化されるが、タンパク質の構造、活性、及び安定性は未変化のままである方法で変化させた。抗体及びVHHについて報告されている最も一般的な翻訳後修飾を以下の表IVに列挙する。メチオニン酸化を分析するためのH2O2処理、アスパラギンの脱アミド及びアスパラギン酸の異性化について調べるための高温、高pH、及び長期保存を含む幾つかの標準的な条件を適用する加速ストレス試験において、翻訳後修飾に対するVHHの感受性を分析した。酸化、脱アミド、及び異性化の百分率を標準的な手順に従って測定し、そして、参照サンプル(-20℃で保存したVHH)と比較した。逆相クロマトグラフィ(RPC)における全タンパク質分析及び質量分析(MS)を使用するペプチドマッピングを実施して、感受性である可能性のある残基を同定した。ストレス試験後にVHHにおいて翻訳後修飾が観察された場合、対応するアミノ酸に変異を導入した。
【表8】
【0230】
結果として、上記コンストラクトに幾つかの変異を導入した結果、特に上記表IIIに示した3つのコンストラクトが得られ、これらを、以下の実施例に更に記載される更なるインビトロ及びインビボにおける特性評価のために選択した。
【0231】
実施例7:3つの半減期延長二重パラトープLRP5特異的VHHコンストラクトのインビトロにおける特性評価;LRP6結合分子との比較
VHHの配列最適化後、3つの半減期延長二重パラトープLRP5選択的VHHコンストラクト(上記表IIIを参照)を組み換え的に発現させ、そして精製し、そして、下記の通り幾つかの機能性及び生物物理学的アッセイを使用することによって特性評価した。
【0232】
7.1 FACS結合アッセイ
それぞれ図2A及び2Bに報告する通り、FACS分析によって細胞においてヒトLRP5及びLRP6に対する結合を判定した。具体的には、ヒトLRP5に対する結合は、ヒトLRP5を安定的に過剰発現しているHEK293細胞において試験した。ヒトLRP6の結合については、ヒトLRP6を安定的に過剰発現しているHEK293細胞を使用した。プレートシェーカー上において、4℃で1.5時間、LRP5バインダー希釈物(図2A及び2Bで指定されている最終濃度に対応するバインダーの1:5連続希釈物)と共に細胞をインキュベートした。FACSバッファ(1×PBS(Invitrogenカタログ番号141190-094)+10% FBS(Sigmaカタログ番号F7524)+0,05% アジ化ナトリウム)で5回該細胞を洗浄した後、4℃で1時間、VHHのフレームワーク領域に結合するポリクローナルマウス抗体と共に該細胞をインキュベートした。FACSバッファで該細胞を3回洗浄した後、標識された二次抗体(抗マウスPE(115-116-071)と共に、4℃で1時間、該細胞をインキュベートし、続いて、FACSバッファで3回洗浄工程を行った。FACSアレイ(BD)を使用して蛍光を測定した。ヒトのLRP5及びLRP6に対する結合は、試験した最高濃度において≧3000MCF値に相当する。ネガティブコントロールは、非ターゲティングバインダー(HEK293細胞で発現していない細菌タンパク質に結合するVHHコンストラクト)からなっていた。図2Aに示す通り、ヒトLRP5に対する結合は、3つの半減期延長二重パラトープLRP5選択的VHHコンストラクトの最高試験濃度において≧3000MCF値に相当する。対照的に、図2Bに示される通り、ヒトLRP6に対する結合は検出されなかった(MCF値≦300)。これらデータから、フォーマット化二重パラトープ配列最適化結合分子が、細胞アッセイ系においてそのネイティブな高次構造のヒトLRP5受容体に選択的に結合することが確認される。hLRP5に対する結合のEC50値を以下の表Vに報告する。
【表9】
【0233】
LRP5選択的なフォーマット化二重パラトープ配列最適化結合分子の特異性を、国際公開公報第2011/138391号に報告されている、既に開示されているLRP6結合分子と比較した。
【0234】
国際公開公報第2011/138391号では、LRP6に結合し、そして、Wnt1及びWnt3の両リガンドの相互作用を阻害する多価抗体が開示された。これら多価LRP6結合抗体は、第1の受容体結合ドメインとしてのIgG抗体と、第2の受容体結合ドメインとしてのscFv断片とからなり、該IgG抗体及びscFv断片がリンカーによって互いに連結している二重パラトープLRP6結合分子である。国際公開公報第2011/138391号では、全てのLRP6結合分子がWnt1及びWnt3aのレポータアッセイにおいてほぼ同じ効力を有することが報告されている(国際公開公報第2011/138391号の図18)。したがって、これら多価LRP6結合分子のいずれも比較実験用に選択することができた。したがって、第1の比較化合物として「901」コンストラクト(MOR08168IgG1LALA 6475 scfvと称される;国際公開公報第2011/138391号の図27にも示されている)を使用することを決断した。
【0235】
この「901」コンストラクトの誘導体が、国際公開公報第2013/067355号に示されている。具体的には、いずれも2つのLRP6結合scFvドメイン+半減期延長部分を有する、801T及び802Tと命名された化合物が開示されている(明細書の132ページを参照)。801T及び802Tは同じインビトロにおける効力及び生物物理学的特徴を有すると考えられるので、これらのうちの1つだけ-変種802T-を以下に記載する実験に含めた。
【0236】
実施例3に記載されているFACS結合アッセイを使用して、半減期延長二重パラトープLRP5特異的VHHコンストラクトの結合親和性を、MOR08168IgG1LALA 6475 scfv二重パラトープLRP6結合分子と比較した。本発明の過程にみられ、そして、図2A及び2Bに図示されている通り、MOR08168IgG1LALA 6475 scfv二重パラトープLRP6結合分子は、ヒトLRP5及びヒトLRP6の両方に結合し、試験した最高濃度における≧3000MCF値に相当する;対照的に、本半減期延長二重パラトープLRP5特異的VHHコンストラクトは、ヒトLRP5のみに結合し、ヒトLRP6に対する結合は検出されなかった(MCF値≦300)。これらデータは、本発明の過程で試験したときにLRP5/LRP6交差反応性バインダーであることが判明した、国際公開公報2011/138391号に報告されている、既に開示されているLRP6結合分子と比較して、半減期延長二重パラトープLRP5特異的VHHコンストラクトが異なる結合特異性を有する(LRP5選択的バインダー)ことを示す。
【0237】
7.2 FACS-DKK1競合アッセイ
実施例4.1に記載されている通り、FACSベースのDKK1競合アッセイを使用して、LRP5選択的VHHコンストラクトの効力及び有効性を更に分析した。ヒトLRP5又はマウスLRP5を安定的に過剰発現しているHEK293細胞を、LRP5選択的VHHコンストラクトの連続希釈物(図3A及び図3Bで指定されている最終濃度に対応する1:5連続希釈物)と共にインキュベートした。それぞれ図3A及び3Bに示されている通り、LRP5選択的VHHは、ヒトLRP5を過剰発現しているHEK293細胞に対する結合について、更に、マウスLRP5を過剰発現しているHEK293細胞に対する結合について、ヒトDKK1と競合した。試験した最高濃度(≧1μM)でDKK1結合の完全阻害が達成され、そして、MCF値≦100に相当していた。この実験の結果として、本LRP5選択的VHHが、ヒトLRP5を過剰発現しているHEK293細胞及びマウスLRP5を過剰発現しているHEK293細胞に対する結合についてヒトDKK1と競合する(すなわち、バインダーの濃度が増大するにつれてMCF値が減少し、DKK1結合の完全な阻害は、試験した最高濃度において≦100MCF値に相当していた)ことを示すことができた。したがって、本LRP5選択的VHHは、マウス交差反応性である。このデータによって、フォーマット化二重パラトープ配列最適化結合分子が、そのネイティブな高次構造のヒト/マウスLRP5受容体に結合するという考えが強化される。
【0238】
7.3 複合Wnt1及びWnt3aレポータアッセイ
実施例4.4に記載されている通り、Wnt1及びWnt3aレポータアッセイを使用して、フォーマット化二重パラトープ配列最適化LRP5結合分子の効力及び有効性を分析した。図4Aにおいて、「Wnt1」として報告される蛍光の比[460/535nm]の値は、Wnt1を過剰発現している細胞から決定されたWnt1経路の活性化に対応し;Wnt1経路の完全阻害は、蛍光の比[460/535nm]≦0.8に対応する。図4Bにおいて、「Wnt3a」として報告される蛍光の比[460/535nm]の値は、Wnt3aを過剰発現している細胞から決定されたWnt1経路の活性化に対応し;図4Bにおいて「ベースライン」として報告される蛍光の比[460/535nm]の値は、ポジティブコントロール(DKK1;最終濃度200nM)で処理することによって決定されたWnt3a経路の完全阻害に対応する。図4A及び4Bに示されている通り、3つのLRP5選択的な、フォーマット化二重パラトープ配列最適化結合分子で処理することによって、Wnt1及びWnt3aの両経路の完全阻害が達成される。更に、IC50値によって以下の表VIに示されている通り、高い効力も報告される。
【表10】
【0239】
実施例8:癌細胞株におけるWntシグナル伝達及び生存率に対する3つの半減期延長二重パラトープLRP5選択的VHHコンストラクトの効果
既に記載されている通り(Bafico et al. “An autocrine mechanism for constitutive Wnt pathway activation in human cancer cells”. Cancer Cell 2004;6(5):497-506;DeAlmeida et al. “The soluble wnt receptor Frizzled8CRD-hFc inhibits the growth of teratocarcinomas in vivo”. Cancer Res. 2007;67(11):5371-9);Akiri et al. “Wnt pathway aberrations including autocrine Wnt activation occur at high frequency in human non-small-cell lung carcinoma”. Oncogene. 2009; 28(21):2163-72)、活性Wntシグナル伝達を有する癌細胞株を使用して、半減期延長二重パラトープLRP5選択的VHHコンストラクトの活性Wntシグナル伝達を阻害する能力を更に特性評価した。簡潔に述べると、活性Wntシグナル伝達を有する癌細胞株PA-TU-8988Sを12ウェルプレートに播種し、そして、最終濃度1μMのLRP5選択的VHHコンストラクトで一晩処理した。内因性Wnt標的遺伝子であるAxin2のmRNA発現の阻害によって、Wntシグナル伝達を阻害する能力を検出した。標準的なRNA技術を使用して、qPCR発現分析を実施した:QIAGENによって提供されているプロトコールに従って、QIAGEN RNeasy Mini Kitを使用してRNAの単離を実施し;SuperScript VILO cDNA Synthesis Kit(Invitrogen、カタログ番号11754050)を使用してcDNA合成を実施し、そして、Axin2 TaqManプライマー/プローブ(Hs00610344_m1 AXIN2 FAM、Life Technologies)及び真核生物18s内因性コントロールVIC-MGB(4319413E-1307061、Applied Biosystems)を使用するTaqMan Gene Expression Assayを使用してqPCRを実施した。
【0240】
図5(右のパネル)に示す通り、半減期延長二重パラトープLRP5選択的VHHコンストラクトで処理したPA-TU8988S癌細胞は、未処理細胞又は非ターゲティングVHHコンストラクトで処理した細胞(ネガティブコントロール)と比較したとき、Axin2の相対的mRNAレベル(すなわち、内因性コントロールに対して正規化された)の著しい低下を示した。これらデータから、活性Wntシグナル伝達を有する癌細胞株においてWntシグナル伝達を阻害する、半減期延長二重パラトープLRP5選択的VHHコンストラクトの能力が証明された。更に、その増殖が活性Wntシグナル伝達に依存していることが既に報告されている(Jiang et al. “Inactivating mutations of RNF43 confer Wnt dependency in pancreatic ductal adenocarcinoma”. Proc Natl Acad Sci U S A. 2013; 110(31):12649-54)PA-TU8988S癌細胞株において、細胞生存率に対するWntシグナル伝達のブロックの効果を調べた。半減期延長二重パラトープLRP5特異的VHHコンストラクト(最終濃度1μM)又は非ターゲティングVHHコンストラクト(ネガティブコントロール)又はドキソルビシン(最終濃度1μM;ポジティブコントロール)で10日間処理した後に、Alamar Blue assay(Invitrogen、カタログ番号DAL1100)を実施することによって細胞生存率を測定した。図5(左のパネル)に示す通り、半減期延長二重パラトープLRP5選択的VHHコンストラクトで処理したPA-TU8988S癌細胞は、未処理細胞又は細胞生存率に対して効果を有しないネガティブコントロールで処理した細胞と比較したとき、生存細胞細胞率の著しい減少を示した(≧75%の減少)。細胞生存率における最大の減少は、ドキソルビシン等の化学療法剤による処理に相当する(≧80%の減少)。これらデータから、活性Wntシグナル伝達に依存している癌細胞の細胞増殖を阻害する、半減期延長二重パラトープLRP5選択的VHHコンストラクトの能力が証明される。
【0241】
実施例9:インビボにおける有効性
LRP5選択的二重パラトープ半減期延長VHHコンストラクト/結合分子を、Wntによって駆動される腫瘍モデルにおいてインビボで更に特性評価した。これら結合分子がインビボにおいて腫瘍成長を阻害するかどうかを判定するために実験を実施した。マウス乳腺癌ウイルスLTRエンハンサ(MMTVプロモータ)を使用してWntリガンドをトランスジェニック発現させることによって、マウスでは、広範囲に及ぶ乳管過形成、続いて、6月齢までにトランスジェニック(TG)マウスにおいて乳腺腺癌が引き起こされる。これら乳腺癌は、グルココルチコイドによって誘導されるWntリガンドの過剰発現によって駆動され、そして、上皮及び間葉系のマーカーの発現(basal-like表現型)及び細胞内のベータ-カテニンの局在によって評価される活性Wntシグナル伝達を含む、TNBC腫瘍と類似の特徴を有する。具体的には、MMTV-Wnt-1トランスジェニックマウス由来の乳腺腫瘍は、Wnt1依存性である。ヒトFcドメインに融合しているFrizzled8システインリッチドメイン(CRD)を含む可溶性Wnt受容体(F8CRDhFc)(DeAlmeida et al. “The soluble wnt receptor Frizzled8CRD-hFc inhibits the growth of teratocarcinomas in vivo”. Cancer Res. 2007;67(11):5371-9)を使用してWnt活性をブロックすると、インビボにおいて腫瘍成長を阻害すると報告されている。したがって、MMTV-Wnt1トランスジェニックマウスから単離された腫瘍を、有効性実験の開始前に、ヌードマウスにおいて腫瘍片として2~5回皮下継代した。移植の14~21日間後、腫瘍が約150~300mm3の平均体積に達したとき、マウスを7マウス/群の群に無作為化し、そして、化合物をi.v.投与した。LRP5選択的二重パラトープ半減期延長VHHコンストラクトを週3回(F012900082)又は週2回(F012900141)マウスにi.v.投与し、F012900082の投与量については図6Aに、そして、F012900141については図6Bに示す。有効性実験中の腫瘍体積(左のパネル)及び体重(右のパネル)をモニタリングし、そして、平均腫瘍体積を図6A及び6Bに報告する。有効性実験の最後に腫瘍成長阻害(TGI)を判定した。具体的には、対照群(マウスをヒスチジンバッファ-20mM ヒスチジンpH6.5バッファで処理)と比較して、各処理群ごとにTGIを判定した。更に、有効性実験の最後に、LRP5アンタゴニストの潜在的毒性を評価するために、消化器(GI)組織病理学的分析(十二指腸から直腸までのGI管の切片をH&E染色することを介する)を実施した。腫瘍成長阻害(TGI)、インビボ有効性試験の最後のGI組織病理学的分析の結果、体重(有効性試験の開始時と比べて>18%の体重減少)が著しく減少したことから屠殺する必要があったマウスの数に対応する死亡数、及び腫瘍退縮(実験の最後における腫瘍体積が、実験の開始時における腫瘍体積測定値よりも小さい)の数を、表VIIA及びVIIBに各処理群ごとに報告し、そして、実験及びデータに関しては、それぞれ図6A及び6Bにも示す。
【表11】

【表12】
【0242】
図6A~6B並びに上記表VIIA及びVIIBに示す通り、LRP5選択的半減期延長二重パラトープVHHコンストラクトで処理した(50mg/kg F012900082を3回/週のスケジュールで、そして、15及び50mg/kg F012900141を2回/週のスケジュールで)結果、腫瘍が退縮(すなわち、腫瘍成長阻害(TGI)>100%、腫瘍収縮に対応;実験の開始時における腫瘍体積と比較して有効性試験の最後に腫瘍体積が減少)したが、著しい体重変化はなく(<10%)、そして、GI組織病理学的分析後に所見は報告されなかった。これは、耐容性良好な処置であることを示唆する。
【0243】
腫瘍収縮(すなわち、腫瘍退縮)は、癌患者の処置についての所望の処置効果(すなわち、有効性)である。臨床試験では、病理学的完全寛解(pCR)に至る腫瘍退縮を誘導する処置によって、積極的に、アンメット・メディカル・ニーズの高い適応症、例えば、乳癌における無増悪生存率及び全生存率が著しく改善される。更に、該処置が効果的な用量レベルにおいてオフ腫瘍オンターゲット有害作用のない耐容性良好なものであることは、臨床的に関連性がある。
【0244】
比較として、MOR08168IgG1LALA 6475 scfv二重パラトープLRP6結合分子が同様の有利な効果を提供し得るかどうかについて調べた。この目的のために、以下の通りマウスでインビボ耐容性試験を実施した:MOR08168IgG1LALA 6475 scfv化合物を週2回(2qw)、3mg/kgでi.v.投与した;これは、国際公開公報第2011/138391号で図22に記載されている通り、異種移植腫瘍モデルにおいてインビボ有効性が検出されたのと同じ用量/レジメンである。MOR08168IgG1LALA 6475 scfvによる最初の処理を1日目に実施したところ、6日目から始まって、マウスで体重の著しい減少が検出された。10日目に、MOR08168IgG1LALA 6475 scfv化合物で処理したマウスの一部が著しい体重減少(>10%)を示した。11日目に、マウスを屠殺し、そして、消化器(GI)組織病理学的分析によって、マウスの結腸及び盲腸におけるびらんを伴う炎症が明らかになった。これらデータは、MOR08168IgG1LALA 6475 scfvが有効な用量/レジメンにおいて耐容性ではないことを示唆する。したがって、LRP5選択的二重パラトープ半減期延長VHHコンストラクトは処置濃度域に関して優れている;すなわち、腫瘍退縮を誘導するが、著しい体重変化はなく(<10%)、そして、GI組織病理学的分析後に所見は報告されなかった。
【0245】
実施例10:インビボにおけるWnt経路阻害
Wntシグナル伝達に対するLRP5選択的二重パラトープ半減期延長VHHコンストラクト/結合分子の効果を更に特性評価するために、実施例9に記載した有効性実験の最後に腫瘍を単離した。具体的には、化合物(50mg/kg F012900082又は15mg/kg F012900141)又は対照処理の最後の注射の24時間後に腫瘍を単離した。Axin2及び追加のWnt標的遺伝子のmRNA発現の減少によって、Wntシグナル伝達阻害を判定した:それぞれF012900082及びF012900141で処理した腫瘍におけるRNF43及びNotumを、実施例8に記載の通り分析した。Notum及びRNF43を分析するために、TaqManプライマー/プローブを使用した(Mm01253278_m1 Notum FAM及びMm00552558_m1 RNF43 FAM Life Technologies)。対照群に対するAxin2、RNF43、又はNotumのmRNA発現の倍数変化を、F012900082によるインビボ有効性については図7(左側のパネル)(図6Aを参照)に、そして、F012900141によるインビボ有効性については図7(右側のパネル)(図6Bを参照)に報告する。
【0246】
図7から分かる通り、対照群と比較して、LRP5選択的結合分子で処理した腫瘍では、Axin2、RNF43、及びNotumのmRNA発現の著しい減少が観察された。これら結果は、LRP5選択的結合分子が、腫瘍細胞におけるWntシグナル伝達を抑制することによって腫瘍成長を阻害できることを示唆する。
【0247】
実施例11:工業的製造プロセス
11.1 発酵:上記表IIIに記載のポリペプチドはいずれかも、誘導可能なプロモータの制御下において、W3110、TG1、BL21、BL21(DE3)、HMS174、HMS174(DE3)、MM294のような様々な大腸菌株の細胞質で発現することができる。このプロモータは、lacUV5、tac、T7、trp、T5、araBから選択することができる。培養培地は、好ましくは、Wilms et al., 2001(Wilms, B., Hauck, A., Reuss, M., Syldatk, C., Mattes, R., Siemann, M., and Altenbuchner, J.: High-Cell-Density Fermentation for Production of L-N-Carbamoylase Using an Expression System Based on the Escherichia coli rhaBAD Promoter. Biotechnology and Bioengineering, 73: 95-103 (2001))、DeLisa et al., 1999(DeLisa, M. P., Li, J. C., Rao, G., Weigand, W. A., and Bentley, W. E.: Monitoring GFP-operon fusion protein expression during high cell density cultivation of Escherichia coli using an on-line optical sensor. Biotechnology and Bioengineering, 65: 54-64.(1999)))に従って十分に定義されているか、又は等価物である。しかし、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン、及びバリン等のアミノ酸、又は大豆ペプトン若しくは酵母抽出物等の天然培地成分を該培地に補給することが有益である場合もある。発酵プロセスは、流加回分モードで実施される。条件:温度30~40℃、pH6~7.5、溶存酸素は20%超で維持する。初期C源が消費された後、培養物に上述の流加培地(又は等価物)を供給する。発酵槽内の乾燥細胞重量が40~90g/Lに達したら、使用されるプロモータ系に対応する適切な誘導因子(例えば、IPTG、ラクトース、アラビノース)で培養物を誘導する。誘導は、パルス化完全誘導として、又は長時間にわたってそれぞれの誘導因子を発酵槽に供給することによって部分誘導として実施することができる。生産相は、少なくとも4時間持続しなければならない。ボウル形遠心分離機、管状ボウル形遠心分離機、又はディスクスタック形遠心分離機において遠心分離することによって細胞を回収し、培養上清を廃棄する。
【0248】
11.2 精製:大腸菌細胞塊を6~8倍量の溶解バッファ(リン酸又はTrisのバッファ、pH7~8.5)に再懸濁させる。好ましくは、高圧ホモジナイゼーションを行い、続いて、ボウル形、管状ボウル形、又はディスクスタック形の遠心分離機内で遠心分離することによって細胞残屑を除去することにより、細胞溶解を実施する。場合により、0.22~10μm フィルタを用いて標的タンパク質を含有する上清を濾過し、そして、pH7~8.5でカチオン交換クロマトグラフィ(例えば、Toyopearl MegaCap(登録商標)II SP-550EC、Toyopearl GigaCap S-650M、SP Sepharose BB、SP Sepharose FF、又はS HyperCel(商標))を介して分離した。pH7~8.5の直線的に増加するNaCl勾配によって溶出を実施する。標的タンパク質を含有する画分をプールし、続いて、遊離システイン残基によって媒介される二量体化又は凝集を防ぐために、5~10mM DTTと共にインキュベートする。0.8~1M 硫酸アンモニウム又は2~3M NaClを更に添加した後、pH7~8.5で、親水性相互作用クロマトグラフィ(例えば、Phenyl Sepharose HP、Phenyl Sepharose FF、Butyl Sepharose HP、Butyl Sephrose FF、Butyl Toyopearl 650 (S,M,C)、Phenyl Toyopearl 650 (S,M,C))を介して溶液を分離する。5mM DTTの存在下で直線的に減少する硫酸アンモニウム又はNaClの勾配によって、pH7~8.5で溶出を実施する。純度が最低90%である標的タンパク質を含有する画分をプールし、そして、5mM DTTの存在下でダイアフィルトレーションすることによって脱塩し、続いて、約5mg/mLに濃縮する。続いて、最終タンパク質濃度が0.25~1mg/mLになるように、50mM Tris、150mM NaCl、4mM シスタミン、10mM CHAPS、pH8.5でタンパク質溶液を1:5~1:20希釈することによって、再フォールディングを実施する。室温で12~36時間、撹拌下で再フォールディング溶液をインキュベートし、次いで、pH7~8.5でカチオン交換クロマトグラフィ(例えば、SP Sepharose FF、SP Sepharose HP、Toyopearl SP-650 (S, M, C))によって分離する。pH7~8.5で直線的に増加するNaCl勾配によって溶出を実施する。単量体標的タンパク質を含有する画分をプールし、そして、ダイアフィルトレーションを介して、25mM リン酸ナトリウム、220mM エンドトキシン不含トレハロース、pH7.5中で製剤化する。濾過によって溶液を滅菌し、そして、2~8℃で保存する。
【0249】
実施例12:s.c.投与するための医薬製剤
以下の通りの組成を有する皮下に適用するための医薬製剤を製造するために、上記本発明の二重パラトープポリペプチドコンストラクトのいずれを選択してもよい:
原薬:100mg/mL(1~3nmol/mL)
酢酸バッファ:25mM
トレハロース:220mM
Tween-20:0.02%
【0250】
上記組成を有する溶液中で原薬を製剤化し、滅菌し、そして、2~8℃で保存する。
【0251】
実施例13:ヒトにおける医薬用途
上記実施例11.2で調製した溶液を、それを必要としている患者、例えば、Wntシグナル伝達阻害剤に対して感受性である癌に罹患しているヒトに、2~4週間ごとに静脈内注入(投薬量 100~200mg)によって適用する。
【0252】
実施例14:エクスビボアッセイにおける樹状細胞による炎症促進性サイトカイン放出に対するWnt3aシグナル伝達阻害の効果
インフォームド・コンセントを得た健常ドナーからPBMCを入手した。ヒト単球由来樹状細胞(Mo-DC)を、以下の通り生成した:50ng/mL GM-CSF及び50ng/mL IL-4を補給したX-VIVO培地中でPBMCを培養した。24時間培養した後、上清を慎重に除去し、そして、同じGM-CSF及びIL-4を補給したX-VIVO培地と交換した。4日目、LRP5及びLRP6の発現をFACS分析するために細胞のアリコートを除去し、そして、残りの細胞の上清を慎重に除去し、そして、LPSのみ、又はヒトWnt3a若しくはヒトWnt3a及びLRP5選択的結合分子と組み合わせたLPSの存在下でX-VIVO培地と交換した。次の日、上清を回収し、そして、製造業者の指示書に従ってELISAを通してTNF-アルファの分析に供した。
【0253】
以下の抗体を使用して実施例7.1に記載の通り、分化した樹状細胞(DC)のFACS分析を実施した:
- LRP5特異的モノクローナル抗体:マウスIgG1抗ヒトLRP5-クローン1E9(Sigma #WH0004041M1)、1mg/mL~10μg/mLで1:100連続希釈
- LRP6特異的モノクローナル抗体:マウスIgG2a抗ヒトLRP6(R&D #Mab1505);500μg/mL~10μg/mLで1:50連続希釈)
- 対照:マウスIgG2aアイソタイプ対照(Dako #X0943);1:10連続希釈
- 二次標識ポリクローナル抗体:ヤギ抗マウスIgG/Fc-PE(Dianova #115-115-164);1:100希釈。
【0254】
図8(左のパネル))に報告する通り、対照と比較したとき、分化したDCのFACS分析によってLRP5の高発現(高PE-A値)が検出された。LRP5と比較してより低い程度ではあるが、LRP6発現も検出された(LRP6 PE-A値<LRP5 PE-A値)。
【0255】
既に報告されている通り(Oderup et al. “Canonical and noncanonical Wnt proteins program dendritic cell responses for tolerance”. J Immunol. 2013;190(12): 6126-34)、そして、図8に示す通り、Wnt3aは、分化したDCによる炎症促進性サイトカインの分泌(すなわち、TNF-アルファの放出)を直接阻害する。Wnt3aによって駆動される、DCからのTNF-アルファ放出の抑制は、LRP5選択的結合分子の添加によって回復した。
【0256】
これらデータは、フォーマット化二重パラトープ配列最適化結合分子が、Wnt3aで処理した樹状細胞によるTNF-アルファの放出を回復させることができ、それによって、樹状細胞に対するWnt阻害効果を抑制することを示す。
【0257】
腫瘍微小環境における樹状細胞のWnt経路をブロックすることが、腫瘍媒介免疫抑制の破壊及び抗腫瘍免疫の増強に対する有望な処置アプローチとなることを認めることが重要である。
【0258】
T細胞(エフェクタT細胞)に対するDCの効果を調べるために、既に記載されている通り(Oderup et al. “Canonical and noncanonical Wnt proteins program dendritic cell responses for tolerance”. J Immunol. 2013;190(12): 6126-34)、LRP5/選択的結合分子の有り無しで、Wnt3aで前処理したDCを、PBMCから単離されたT細胞と共培養した。3日間DC/T細胞を共培養した後、上清を回収し、そして、製造業者の指示書に従ってELISAを通してIFNガンマの分析に供した。
【0259】
IFNガンマの分泌は、T細胞の活性化のマーカーである。図8(中央及び右のパネル)に示す通り、Wnt3aによって媒介されるDC阻害によって、T細胞によるIFNガンマの分泌は減少する(T細胞機能の阻害)が、これは、LRP5選択的結合分子で処理することによって回復する。
【0260】
まとめると、これらデータは、LRP5選択的結合分子が樹状細胞に対するWntの阻害効果を抑制して、T細胞機能を回復させることを示す。
【0261】
T細胞の連続活性化/刺激が最終分化を誘導し、その結果、T細胞表現型の疲弊、T細胞機能の進行性消失が引き起こされることが知られている。したがって、DCの活性化によって媒介される、T細胞に対するLRP5選択的結合分子の効果は、T細胞の疲弊によって制限され得ることが予想される。したがって、LRP5選択的結合分子の投与をT細胞の疲弊をブロックする免疫チェックポイント阻害剤の投与と組み合わせる併用処置は、T細胞機能の活性化及び維持に役立つと予測され、それによって、腫瘍微小環境を変化させ、それによって、本発明の分子の処置効果を支援する。
【0262】
実施例15:RNF43変異体CRCオルガノイドにおけるWntシグナル伝達及び生存率に対する3つの半減期延長二重パラトープLRP5選択的VHHコンストラクトの効果
増殖(細胞生存の阻害によって検出される)及び活性Wntシグナル伝達(Axin2のmRNAレベルの低下によって検出される)を選択的に阻害する半減期延長二重パラトープLRP5選択的VHHコンストラクトの能力を、RNF43変異体結腸直腸癌(CRC)オルガノイドを使用して特性評価した。既に記載されている通り(van de Wetering et al. “Prospective derivation of a living organoid biobank of colorectal cancer patients. Cell 2015;161(4):933-45)、CRCオルガノイドを樹立した。簡潔に述べると、細胞生存率アッセイを実施するために、3つのCRC患者由来オルガノイド(RNF43 mut1、RNF43 mut2、及びRNF43 WT)のそれぞれを40μmフィルタで濾過し、そして、384ウェルプレート(Basement Membrane Matrix -BMEでコーティング)に播種した。具体的には、~500個のオルガノイドを1ウェル当たり合計体積40μLの培地(5% BMEを含む)に再懸濁させた。培養培地は、Wntリガンドを含有していなかった。Tecan D300 Digital Dispenserを使用して化合物を分注した。LRP5選択的VHHコンストラクト又は対照化合物の8点連続希釈物及び1つの固定濃度のスタウロスポリン(2μM)に、オルガノイドを曝露した。オルガノイド播種後0日目及び3日目に、新たな化合物を添加した。5日間後、CellTiter-Glo 3D Cell Viability Assay(Promega)を使用して、CRC患者由来オルガノイドの細胞生存率を求めた。CellTiter-Glo 3D Cell Viability Assayは、代謝的に活性のある細胞の存在のマーカーである存在するATPの定量に基づいて、3D細胞培養物中の生存細胞数を求めるためのホモジニアス法である。各実験において、半減期延長二重パラトープLRP5選択的VHHコンストラクト及び対照化合物による処理を、オルガノイド株ごとにトリプリケートで実施した。内部標準として、3つのCRC患者由来オルガノイドをDMSO及びスタウロスポリンでも処理し、そして、対応する細胞生存率データを基準として使用した:DMSO値を100% 生存とし、そして、スタウロスポリン値を0% 生存とした。DMSOを全てのウェルに添加して、最高濃度(スタウロスポリン中DMSOについては0.1%)に対して正規化した。
【0263】
qRT-PCRを使用してAxin2のmRNAレベルを分析するために、3つのCRC患者由来オルガノイド(RNF43 mut1、RNF43 mut2、及びRNF43 WT)のそれぞれを40μmフィルタで濾過し、そして、384ウェルプレート(BMEでコーティング)に播種した。具体的には、~500個のオルガノイドを1ウェル当たり合計体積40μLの培地(5% BMEを含む)に再懸濁させた。培養培地は、Wntリガンドを含有していなかった。Tecan D300 Digital Dispenserを使用して化合物を分注した。最終濃度62nM 半減期延長二重パラトープLRP5選択的VHHコンストラクト又は1μM 対照化合物にオルガノイドを曝露した。0日目に化合物を添加し、そして、24時間処理した後にオルガノイドを収集して、qRT-PCR分析を実施し、そして、活性Wntシグナル伝達阻害のバイオマーカーとしてAxin2のmRNAレベルを求めた。
【0264】
図9に示す通り、半減期延長二重パラトープLRP5選択的VHHコンストラクトで処理したRNF43変異体CRCオルガノイド(RNF43 mut1、RNF43 mut2)は、細胞生存率に対して効果を有しない非ターゲティングVHHコンストラクト(対照)で処理した細胞と比較したとき、生存細胞細胞率の著しい減少を示した(≧50%の減少)。半減期延長二重パラトープLRP5選択的VHHコンストラクトで処理したRNF43野生型CRCオルガノイド(RNF43 WT)は、対照化合物で処理した細胞と比較したとき、細胞生存率に対して効果を示さなかった。これらデータから、活性Wntシグナル伝達に依存するRNF43遺伝子に変異を有する癌細胞の細胞増殖を選択的に阻害する、半減期延長二重パラトープLRP5選択的VHHコンストラクトの能力が証明される。
【0265】
図10に示す通り、半減期延長二重パラトープLRP5選択的VHHコンストラクト(最終濃度62nM)で処理したRNF43変異体CRCオルガノイド(RNF43 mut1、RNF43 mut2)は、対照(最終濃度1μM)で処理した細胞と比較したとき、Axin2の相対的mRNAレベル(すなわち、内因性対照に対して正規化された)の著しい低下を示した。半減期延長二重パラトープLRP5選択的VHHコンストラクト(最終濃度62nM)で処理したRNF43野生型CRCオルガノイド(RNF43 WT)は、対照化合物(最終濃度1μM)で処理した細胞と比較したとき、Axin2のmRNAレベルに対してそれほど効果を示さなかった。これらデータから、RNF43遺伝子に変異を有する癌細胞のWntシグナル伝達を選択的に阻害する、半減期延長二重パラトープLRP5選択的VHHコンストラクトの能力が証明された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
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