(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-23
(45)【発行日】2023-01-31
(54)【発明の名称】養子T細胞療法のためのセントラルメモリーT細胞
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20230124BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20230124BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230124BHJP
C12N 5/0783 20100101ALN20230124BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20230124BHJP
C12N 15/867 20060101ALN20230124BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
A61K35/17 Z
A61P35/00
C12N5/0783
C12N15/62 Z
C12N15/867 Z
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020093109
(22)【出願日】2020-05-28
(62)【分割の表示】P 2017515138の分割
【原出願日】2015-09-21
【審査請求日】2020-06-26
(32)【優先日】2014-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】598004424
【氏名又は名称】シティ・オブ・ホープ
【氏名又は名称原語表記】City of Hope
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン,クリスティン イー
(72)【発明者】
【氏名】フォーマン,スティーブン ジェイ
【審査官】藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】特許第6711819(JP,B2)
【文献】特表2014-510108(JP,A)
【文献】国際公開第2014/031687(WO,A1)
【文献】Mol Ther, May 2014, vol.22, suppl. 1, p.S296, 「767」
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
C12N 15/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CD62Lを発現するT細胞が豊富であり、かつ、キメラ抗原受容体を発現するレンチウイルスベクターで形質導入されたヒトT細胞の集団であって、
前記形質導入されたヒトT細胞の少なくとも50%は、セントラルメモリーT細胞であり、
前記形質導入されたセントラルメモリーT細胞の少なくとも10%はCD4+であり、
かつ前記形質導入されたセントラルメモリーT細胞の少なくとも10%はCD8+であり
、かつ、
前記ヒトT細胞の集団は、CD25、CD14
及びCD45Raを発現するT細胞が枯渇している、ヒトT細胞の集団。
【請求項2】
前記セントラルメモリーT細胞の少なくとも15%がCD4+であり、かつ、少なくとも15%がCD8+である、請求項1に記載のヒトT細胞の集団。
【請求項3】
前記形質導入されたヒトT細胞の少なくとも50%がCD4+またはCD8+またはCD62L+である、請求項1に記載のヒトT細胞の集団。
【請求項4】
キメラ抗原受容体を発現するレンチウイルスベクターで形質導入されたヒトT細胞の集団であって、
前記形質導入されたヒトT細胞の少なくとも50%はCD45R0+、CD62L+およびCD45Ra-であり、前記細胞の少なくとも10%はCD4+であり、かつ前記細胞の少なくとも10%はCD8+である、ヒトT細胞の集団。
【請求項5】
CD45R0+、CD62L+およびCD45Ra-である前記細胞の少なくとも10%がまた、CD4+であり、かつCD45R0+、CD62L+およびCD45Ra-である前記細胞の少なくとも10%がまた、CD8+である、請求項4に記載のヒトT細胞の集団。
【請求項6】
CD45R0+、CD62L+およびCD45Ra-である前記細胞の少なくとも15%がまた、CD4+であり、かつCD45R0+、CD62L+およびCD45Ra-である前記細胞の少なくとも15%がまた、CD8+である、請求項4に記載のヒトT細胞の集団。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のヒトT細胞の集団を含む医薬組成物。
【請求項8】
ヒトT細胞の集団が患者にとって自己由来である、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
ヒトT細胞の集団が患者にとって同種異系である、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項10】
遺伝子組換えされたセントラルメモリーT細胞の集団を調製する方法であって、以下の
:
枯渇したT細胞集団を調製するため、CD25を発現する細胞、CD14を発現する細胞、およびCD45Raを発現する細胞について、ヒト被験体から得られたT細胞の集団を枯渇させるステップと、
CD62Lを発現する細胞について枯渇したT細胞集団を富化し、それによってセントラルメモリーT細胞の集団を調製し、かつ、前記細胞をレンチウイルスベクターに形質導入して、遺伝子組換えされたセントラルメモリーT細胞の集団を作成するステップと、
を含み、ここで、
前記方法は、CD4を発現する細胞についての細胞集団を枯渇させるステップを含まず、かつ、CD8を発現する細胞の細胞集団を枯渇させるステップを含まない、方法。
【請求項11】
前記セントラルメモリーT細胞集団中の細胞の少なくとも50%がCD45R0+、CD62L+およびCD45Ra-であり、前記細胞の少なくとも10%がCD4+であり、かつ、前記細胞の少なくとも10%がCD8+である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記セントラルメモリーT細胞集団中の細胞の少なくとも50%がCD45R0+、CD62L+およびCD45Ra-であり、前記細胞の少なくとも15%がCD4+であり、かつ、前記細胞の少なくとも15%がCD8+である、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記セントラルメモリーT細胞集団中の細胞の少なくとも50%がCD45R0+、CD62L+およびCD45Ra-であり、前記細胞の少なくとも20%がCD4+であり、かつ、前記細胞の少なくとも20%がCD8+である、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
セントラルメモリーT細胞の前記集団を刺激することをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
セントラルメモリーT細胞の前記集団をCD3および/またはCD28と接触させることを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
遺伝子組換えされたセントラルメモリーT細胞の集団を増殖させることをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
遺伝子組換えされたセントラルメモリーT細胞の集団を増殖させるステップが、細胞をIL-2およびIL-15の一方または両方に曝露することを含む、請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
操作された(engineered)T細胞を用いる治療を含む、腫瘍特異的T細胞に基づく免疫療法が、抗腫瘍治療について研究されている。ある場合には、このような療法に使用されるT細胞は、十分長い期間、in vivoで活性を維持しない。ある場合には、T細胞の腫瘍特異性は比較的低い。従って、より長期の抗腫瘍作用(functioning)を持つ腫瘍特異的癌治療のための当該技術分野における必要性が存在する。
【0002】
CAR T細胞は、抗原特異的な腫瘍集団を特異的に認識するように操作することができるので、キメラ抗原受容体(CAR)操作されたT細胞を利用する養子T細胞療法(adoptive T cell therapy)(ACT)は、MGの再発率を低下させる安全かつ有効な方法を提供し得(非特許文献1~4)、かつ、T細胞は脳実質を通過して標的に移動し、浸潤性悪性細胞を死滅させることができる(非特許文献5~7)。前臨床試験は、IL13Rα2標的化CAR + T細胞が、幹様(stem-like)及び分化した神経膠腫(glioma)細胞の両方に対して強力な主要組織適合複合体(MHC)非依存性のIL13Rα2特異的細胞溶解活性を示し、かつ、in vivoで確立された神経膠腫異種移植の退縮を誘発することを実証した(非特許文献8及び9)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Cartellieri et al.2010 J Biomed Biotechnol 2010:956304;Ahmed et al.2010 Clin Cancer Res 16:474
【文献】Sampson et al.2014 Clin Cancer Res 20:972
【文献】Brown et al.2013 Clin Cancer Res 2012 18:2199
【文献】Chow et al.2013 Mol Ther 21:629
【文献】Hong et al.2010 Clin Cancer Res 16:4892
【文献】Brown et al.2007 J Immunol 179:3332
【文献】Yaghoubi 2009 Nat Clin PRact Oncol 6:53
【文献】Kahlon et al. 2004 Cancer Res 64:9160
【文献】Brown et al. 2012 Clin Cancer Res 18:2199
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
概要
本明細書には、セントラルメモリーT細胞(central memory T cells)(Tcm)を含む細胞集団が記載される。細胞集団は、CD4+ T細胞及びCD8+ T細胞の両方を含む。細胞集団中の細胞は、細胞外ドメイン(例えば、選択された標的に結合するscFv)、膜貫通(transmembrane)領域、及び細胞内シグナル伝達ドメイン(例えば、ヒトCD3複合体のζ鎖由来のシグナル伝達ドメイン(CD3ζ)及び1つ以上の共刺激ドメイン(costimulatory domains)、例えば、4-1BB共刺激ドメイン、を含む細胞内ドメイン)を含むキメラ膜貫通免疫受容体(キメラ抗原レセプター(chimeric antigen receptors)又は「CAR」)を発現するために有用である。細胞外ドメインは、T細胞の表面に発現されたときにCARがT細胞活性を細胞外ドメインによって認識される標的を発現する細胞に向けることを可能にする。細胞内領域にCD3ζと直列の4-1BB(CD137)共刺激ドメインなどの共刺激ドメインを含めることにより、T細胞は共刺激シグナルを受け取ることができる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書に記載のTcm細胞、例えば患者特異的、自己由来(autologous)又は同種異系の(allogenic)Tcm細胞は、所望のCARを発現するように操作することができ、操作された細胞はACTで増殖され(expanded)、使用することができる。TCM細胞の集団はCD45RO+CD62Lであり、かつ、CD4+及びCD8+細胞を含む。
種々の実施形態において、ヒトT細胞の集団は、キメラ抗原レセプターを発現するベクターを含み;
ヒトセントラルメモリーT細胞(Tcm細胞)の集団は、少なくとも10%のCD4+細胞及び少なくとも10%のCD8+細胞(例えば、細胞の少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%はTcm細胞であり;
Tcm細胞の少なくとも15%、20%、25%、30%、35%がCD4+であり、かつ、Tcm細胞の少なくとも15%、20%、25%、30%、35%がCD8+細胞である)を含む。
【0006】
また、患者の癌を治療する方法であって、
キメラ抗原レセプターをコードする発現カセットを含むベクターによって形質導入された自己由来又は同種異系のヒトT細胞の集団(例えば、Tcm細胞を含む自己又は同種異系のT細胞、例えば細胞の少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%がTcm細胞であり;Tcm細胞の少なくともの15%、20%、25%、30%、35%がCD4+であり、かつ、Tcm細胞の少なくともの15%、20%、25%、30%、35%がCD8+細胞である)を投与することを含む、
方法が記載される。
【0007】
本明細書において、形質導入されたヒトT細胞の少なくとも50%がセントラルメモリーT細胞であるキメラ抗原レセプターを発現するベクターで形質導入された(of transduced)ヒトT細胞の集団が記載される。種々の実施形態において、形質導入された細胞のセントラルメモリーT細胞の少なくとも10%がCD4+であり;
形質導入されたセントラルメモリーT細胞の少なくとも10%がCD8+であり;
セントラルメモリーT細胞の少なくとも15%がCD4+であり、かつ、少なくとも15%がCD8+であり;かつ、
形質導入されたヒトT細胞の少なくとも50%がCD4+/CD8+/CD62L+である。
【0008】
本明細書にはまた、キメラ抗原受容体を発現するベクターで形質導入されたヒトT細胞の集団が記載される。ここで、形質導入されたヒトT細胞の少なくとも50%がCD45R0+、CD62L+及びCD45Ra-であり、細胞の少なくとも10%がCD4+であり、かつ、細胞の少なくとも10%がCD4+である。様々な実施形態では、CD45R0+、CD62L+及びCD45Ra-である細胞の少なくとも10%もまたCD4+であり、CD45R0+、CD62L+及びCD45Ra-である細胞の少なくとも10%もまたCD8+であり;かつ、
CD45R0+、CD62L+及びCD45Ra-である細胞の少なくとも15%もまたCD4+であり、CD45R0+、CD62L+及びCD45Ra-である細胞の少なくとも15%もまたCD4+である。
【0009】
癌を治療する方法であって、それを必要とする患者に、本明細書中に記載されるセントラルメモリーT細胞を含む医薬組成物を投与することを含む方法もまた記載される。T細胞は、患者に対して自己由来であってもよいし、患者に対して同種異系であってもよい。
【0010】
セントラルメモリーT細胞の集団を調製するための方法であって、
ヒト被験体からT細胞の集団を得ることと;
枯渇したT細胞の集団を調整するため(to prepared)、CD25を発現する細胞、CD14を発現する細胞、及びCD45+を発現する細胞について、前記T細胞の集団を枯渇させること(depleting)と;
CD62Lを発現する細胞について前記枯渇したT細胞集団を富化すること(enriching)であって、それによりセントラルメモリーT細胞の集団を調製することと;
を含み、当該方法は、CD4を発現する細胞について細胞集団を枯渇させるステップを含まず、CD8+を発現する細胞の細胞集団を枯渇させるステップを含まない、方法もまた記載される。種々の実施形態において、
セントラルメモリーT細胞の集団における細胞の少なくとも50%(例えば、少なくとも60%、70%、80%、90%又は95%)が、CD45R0+、CD62L+及びCD45Ra-であり、細胞の少なくとも10%がCD4+であり、かつ細胞の少なくとも10%がCD4+であり;
セントラルメモリーT細胞の集団における細胞の少なくとも50%(例えば、少なくとも60%、70%、80%、90%又は95%)が、CD45R0+、CD62L+及びCD45Ra-であり、細胞の少なくとも15%がCD4+であり、かつ細胞の少なくとも15%がCD4+であり;
セントラルメモリーT細胞の集団における細胞の少なくとも50%が、CD45R0+、CD62L+及びCD45Ra-であり、細胞の少なくとも20%(例えば、少なくとも30%、40%又は50%)がCD4+であり、かつ細胞の少なくとも20%(例えば、少なくとも30%、40%又は50%)がCD4+である。当該方法は、(例えば、セントラルメモリーT細胞の集団をCD3及び/又はCD28と接触させることによって)
セントラルメモリーT細胞の集団を刺激することをさらに含むことができ;
遺伝子組換えされたセントラルメモリーT細胞の集団を作製するために組換えタンパク質を発現するベクターで細胞を形質導入することを含むことができ;
遺伝子組換えされたセントラルメモリーT細胞の集団を拡大すること(expanding)(例えば、IL-2及びIL-15の一方又は両方に細胞を曝露することによって、遺伝子組換えされたセントラルメモリーT細胞の集団を拡大すること)を含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図面の説明
【
図1】示されるようにIL13Rα2特異的ヒトIL-13変異体(huIL-13(E13Y))、ヒトIgG4 Fcスペーサー(huγ4Fc)、ヒトCD3ζ鎖の細胞質(huCD3ζcyt)部分から構成される、IL13(E13Y)-ゼータカインCAR(左)の概略描写である。また、IgG4スペーサーのCH2ドメインに位置する2つの点突然変異L235E及びN297Q(赤で示されている)を除いてIL13(E13Y)-ゼータカインと同じIL13(EQ)BBζCAR、及び共刺激4-1BB細胞質ドメイン(4-1BB細胞)の添加も示されている。
【
図2】
図2のA~Cは、オープンリーディングフレームの特定のベクターを示す。Aは、2670ヌクレオチドIL13(EQ)BBZ-T2ACD19t構築物のcDNAオープンリーディングフレームの図であり、ここで、IL13Rα2特異的リガンドIL13(E13Y)、IgG4(EQ)Fcヒンジ、CD4トランスメンブラン、4-1BB細胞質シグナル伝達、3つのグリシンリンカー、及びIL13(EQ)BBZ CARのCD3ζ細胞質シグナル伝達ドメイン、並びにT2Aリボソームスキップ及び短縮型(truncated)CD19配列が示されている。IL13(EQ)BBζCAR及びCD19tの表面発現を駆動するヒトGM-CSF受容体α及びCD19シグナル配列もまた示される。Bは、宿主ゲノムに組み込まれるであろう長い末端反復(「R」で示される)が隣接する(flanked)配列の図である。Cは、IL13(EQ)BBZ-T2A-CD19t_epHIV7プラスミドのマップである。
【
図5】IL13(EQ)BBζ/CD19t+TCMの生産スキームを示す。
【
図6】
図6のA~Cは、表面トランスジーン及びT細胞マーカー発現のフローサイトメトリー分析の結果を示す。IL-13(EQ)BBζ/CD19t+TCM HD006.5及びHD187.1は、抗IL-13-PE及び抗CD8-FITCで同時染色して、CD8+CAR+及びCD4+(すなわちCD8陰性)CAR+細胞(A)を検出するか、 抗CD19-PE及び抗CD4-FITCで、CD4+CD19t+及びCD8+(すなわちCD4陰性)CAR+細胞(B)を検出する。蛍光色素共役(fluorochromeconjugated)抗CD3、TCR、CD4、CD8、CD62L及びCD28(灰色ヒストグラム)又はアイソタイプ対照(黒ヒストグラム)で染色したIL13(EQ)BBζ/CD19t+TCM HD006.5及びHD187.1(C)。すべての場合において、生存可能なリンパ球に基づく百分率(DAPI陰性)はアイソタイプより上に染色された。
【
図7】
図7のA~Bは、IL13(EQ)BBZ+TCMのIL13Rα2特異的エフェクター機能のin vitro機能的特徴付けを示す。IL19(EQ)BBZ/CD19t+TCM HD006.5及びHD187.1を、CD19t発現に基づく10:1のE:T比を用いた6時間51Cr放出アッセイにおいてエフェクターとして使用した。IL13Rα2陽性腫瘍標的は、IL13Rα2(K562-IL13Rα2)及び一次神経膠腫系統PBT030-2を発現するように操作されたK562であり、IL13Rα2陰性腫瘍標的対照はK562親系統であった(A)。IL13Rα2陽性(positive)及び陰性(negative)標的との10:1のE:T比での一晩の同時培養後、IL13(EQ)BBZ/CD19t+TCM HD006.5及びHD187.1を抗原依存性サイトカイン産生について評価した。サイトカインレベルは、Bio-Plex ProヒトサイトカインTH1/TH2アッセイキットを用いて測定し、INF-γを報告した(B)。
【
図8】
図8のA~Cは、IL13(EQ)BBζ/CD19t+TCMの養子移入後の確立された神経膠腫腫瘍異種移植片の退行を実証する研究の結果を示す。EGFP-ffLuc+PBT030-2腫瘍細胞(1×
10
5
)を、NSGマウスの右前脳に定位固定した。5日目に、マウスは、2×
10
6
IL13(EQ)BBζ/CD19t+TCM(1.1×
10
6
CAR+;n=6)、2×
10
6
モック(mock)TCM(CARなし、n=6)又はPBS(n=6)のいずれかを受けた。各群の代表的なマウスは、Xenogen Living Imageを用いて相対的な腫瘍負荷(burden)を示した(A)。ffLucフラックス(光子/秒)の定量化は、モック(mock)形質導入TCM及びPBSと比較してIL13BQζ/CD19t+TCMが腫瘍退縮を誘導することを示す(#p<0.02、*p<0.001、反復測定ANOVA)(B)。カプランマイヤー生存曲線(n=6/グループ)は、IL13(EQ)BBζ/CD19t+TCMで処置したマウスの有意に改善した生存率(p=0.0008;対数ランク検定)を示す(C)。
【
図9】
図9のA~Cは、IL13(EQ)BBZTCM及びIL13-ゼータカインCTLクローンの抗腫瘍効果を比較する研究の結果を示す。EGFP-ffLuc+PBT030-2TSs(1×
10
5
)をNSGマウスの右前脳内に定位固定的に移植した。8日目に、マウスは、1.6×
10
6
モックTCM(CARなし)か、1.0×
10
6
CAR+IL13(EQ)BBζTCM(1.6×
10
6
総T細胞、63%CAR)か、1.0×
10
6
IL13-ゼータカインCD8+CTL cl.2D7(クローナルCAR+)か、処置なしのいずれかを受けた(1群当たりn=6)。各グループの代表的なマウスは、Xenogen Living Imageを用いて相対的な腫瘍負荷を示した(A)。経時的な(over time)ffLucフラックス(flux)(光子/秒)の自然対数の線形回帰線であり、P値は、時間ごとの相互作用比較である(B)。IL13-ゼータカインCD8+CTL cl.2D7と比較してIL13(EQ)BBζTCMで処置したマウスについて、Kaplan Meier生存分析(1群あたりn=6)が有意に改善された生存を示した(p=0.02;対数ランク検定)(C)。
【
図10】
図10のA~Cは、IL13(EQ)BBζTCM及びIL13-ゼータカインCTLクローンの抗(ant)腫瘍効果を比較する研究の結果を示す。EGFP-ffLuc+PBT030-2 TSs(1×
10
5
)をNSGマウスの右前脳内に定位固定的に移植した。8日目に、マウスは、1.3×
10
6
モックTCM(CARなし;n=6),1.0,0.3か、0.1×
10
6
CAR+IL13(EQ)BBζTCM(78%CAR+;n=6),1.0,0.3か、0.1×
10
6
IL13-ゼータカインCD8+CTL cl.2D7(クローナルCAR+;n=6~7)か、処置なしのいずれかを受けた(n=5)。各グループの代表的なマウスのXenogen Living Imageは、相対的な腫瘍負荷を示した(A)。ffLucフラックス(flux)(光子/秒)の自然対数の線形回帰線は、IL-13(EQ)BBζTCMは、第1世代のIL13-ゼータカインCTL cl.2D7、モック(mock)TCM及び腫瘍のみと比較して優れた腫瘍退縮を達成することが示されている(B)。腫瘍注射後27日の群あたりの平均フラックス(flux)は、0.1×
10
6
IL13(EQ)BBζTCM用量が、IL13-ゼータカインCD8+ CTL cl. 2D7の10倍高い1.0×
10
6
用量よりも優れていることを実証する(p=0.043;ウェルチ2サンプルt-検定)(C)。
【
図11】
図11は、IL13-ゼータカインCTLクローンと比較して改善された持続性を示すIL13(EQ)BBζTcmディスプレイを実証する研究の結果を示す。CD3免疫組織化学は、T細胞注入の7日後の腫瘍部位におけるT細胞持続性を評価する。有意な数のT細胞がIL13(EQ)BBζTcmについて検出される(上のパネル)。対照的に、生存可能なCD3+ IL13-ゼータカインT細胞はごくわずかしか検出されない(下のパネル)。
【
図12】
図12のA~Dは、大きな確立された腫瘍についてのCAR+ T細胞送達(i.c.対i.v.)の経路を比較する実験の結果を示す。EGFP-ffLuc+ PBT030-2 TSs(1×
10
5
)をNSGマウスの右前脳内に移植した。19及び26日目に、マウスに5×
10
6
CAR+ IL13(EQ)BBζ+ Tcm(11.8×
10
6
全細胞;n=4)か、又はモックTcm(11.8×
10
6
細胞;n=4)のいずれかを、尾静脈を介してi.v.注入した。あるいは、19日目、22日目、26日目及び29日目に、マウスに、1×
10
6
CAR+ IL13(EQ)BBζ+ Tcm(2.4×
10
6
個の全細胞;n=4)か、又はモックTcm(2.4×
10
6
細胞;n=5)のいずれかを、i.c.注入した。経時的な(over time)平均ffLucフラックス(flux)(光子/秒)は、i.c.送達されたIL13(EQ)BBζTcmは、19日目の腫瘍の腫瘍退行を媒介する。比較すると、i.v.送達されたT細胞は、未処理又はモックTcm対照と比較して腫瘍負荷の減少を示さなかった(A)。Kaplan Meier生存曲線は、i.v.投与したCAR+ Tcmで処置したマウスと比較して、IL13(EQ)BBZTcmでi.c.処置したマウスの生存率の改善を示す(p=0.0003対数ランク検定)(B)。IL13(EQ)BBZTcmでi.v.処置したマウス(C)対(versus)i.c.処置したマウス(D)の代表的なH&E及びCD3 IHC。CD3+ T細胞は、i.c.処置した群においてのみ検出され、i.v.処置したマウスの場合、腫瘍又は周囲の脳実質においてCD3+細胞は検出されなかった。
【
図13】
図13のA~Bは、腫瘍内(i.c.t)か、又は脳室内(i.c.v.)のいずれかの頭蓋内に注入されたCAR+ T細胞が、反対側の半球上の腫瘍に往来する(traffic)ことができることを示す研究結果を示す図である。EGFP-ffLuc+ PBT030-2 TSs(1×
10
5
)をNSGマウスの左右の前脳部に定位移植した。6日目に、マウスに、1.0×
10
6
IL13(EQ)BBζ+ Tcmを、右腫瘍部位において、i.c.注入した(1.6×
10
6
総細胞;63%CAR;n=4)。多巣性神経膠腫実験モデルの模式図(A)。CD3 IHCは、左右の腫瘍部位の両方に浸潤するT細胞を示す(B)。
【
図14】IL13(EQ)BBζ/CD19t+のアミノ酸配列を示す(配列番号10)。
【
図15】IL13(EQ)41BBζ[IL13(EQ)41BBζT2A-CD19t_epHIV7; pF02630](配列番号12)及びCD19Rop_epHIV7(pJ01683)(配列番号13)の配列比較を示す。黄色の強調表示は、GMCSFシグナル配列(IL13op)を含むIL-13最適化コンドン領域を示す。強調表示は、IgG4最適化コドン領域(IgG4op [L235E、N297Q])を示す。強調表示は、IgG4ヒンジ領域(L235E及びN297Q)内の予想される2つのアミノ酸変化を示す。強調表示は、CD4膜貫通型の最適化コドン領域を示す。強調表示は41BB細胞質シグナル伝達領域(41BB cyto)を示す。灰強調表示は、3つのグリシンリンカー(g3)を示す。灰色の強調表示は、CD3ゼータ最適化コドン領域(zeta op)を示す。強調表示はT2A配列(T2A)を示す。強調表示は、短縮型CD19配列(CD19t)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
詳細な説明
CD4+細胞及びCD8+細胞(「TCM CD4+/CD8+」細胞集団)を含むTCM細胞集団を以下に記載する。TCM CD4+/CD8+細胞集団の細胞は、抗CD3/CD28で活性化され、かつ、遺伝子改変細胞を作製するため、例えばCARの発現を指示するSINレンチウイルスベクターで形質導入することができる。活性化/遺伝子改変された細胞は、IL-2/IL-15でin vitroで増殖させ(expanded)ることができ、及びその後、使用又は凍結保存し、後で使用することができる。IL13Rα2を標的とするCARを発現するためのTCM CD4+/CD8+細胞集団の使用の例を記載する。
【0013】
以下の実施例において使用されるCARは、IL13(EQ)BBζと称される。このCARは、様々な重要な機能(features)を含み、IL13α2への結合の特異性を改善するアミノ酸変化を有するIL13α2リガンド;有益な共刺激を提供するためにCD3ζと直列のCD137(4-1BB)のドメイン;Fc受容体(FcR)による結合を減少させる様式でCH2領域(L235E; N297Q)内の2つの部位で変異したIgG4 Fc領域を含む。このCAR及び他のものは、CARオープンリーディングフレームの後にT2Aリボソームスキップ配列、及び細胞質シグナル伝達テイル(tail)を欠くトランケート型(truncated)CD19(CD19t)が続くベクター(アミノ酸323で切断された(truncated))を用いて作製することができる。この配置では、CD19tの同時発現は、遺伝子改変細胞の正確な測定を可能にし、かつ、遺伝子改変細胞のポジティブな選択を可能にする不活性で非免疫原性の表面マーカー、並びに、細胞の効率的な細胞追跡及び/又は、養子移植(adoptive transfer)後のin vivoでの治療用T細胞のイメージングを提供する。CD19tの共発現は、臨床的に利用可能な抗体及び/又は治療細胞を選択的に除去するため、それによって自殺スイッチとして機能する免疫毒試薬を使用して、in vivoでの形質導入細胞の免疫学的標的化のためのマーカーを提供する。
【0014】
神経膠腫(gliomas、グリオーマ)は、IL13受容体、及び特に高親和性IL13受容体を発現する。しかし、IL13受容体とは異なり、神経膠腫(glioma)細胞は、IL4Rβ又はγc44の必要条件とは無関係にIL13に結合することができるユニークなIL13Rα2鎖を過剰発現する。そのホモログIL4と同様に、IL13はCNSの外側に多面的(pleotropic)免疫調節活性を有する。IL13及びIL4の両方は、Bリンパ球によるIgE産生を刺激し、かつ、マクロファージによる前炎症性サイトカイン産生を抑制する。
【0015】
放射性標識IL13でのオートラジオグラフィーを用いた詳細な研究は、研究されたほとんどすべての悪性神経膠腫組織において豊富なIL13結合を示した。この結合は、腫瘍セクション内で及び単一細胞分析において非常に均一である。しかしながら、IL13Rα2mRNAに特異的な分子プローブ分析は、正常な脳要素による神経膠腫特異的受容体の発現を検出せず、かつ、放射性標識IL13によるオートラジオグラフィーも、正常なCNSにおける特異的IL13結合を検出できなかった。これらの研究は、共有されたIL13Rα1/IL4β/γc受容体が正常なCNSにおいて検出可能に発現されないことを示唆している。したがって、IL13Rα2は、神経膠腫の非常に特異的な細胞表面標的であり、かつ、神経膠腫の治療のために設計されたCARのための適切な標的である。
【0016】
しかし、広く発現されるIL13Rα1/IL4β/γc受容体複合体へのIL13ベースの治療分子の結合は、CNS外側の正常組織に対する望ましくない毒性を媒介する可能性を有し、及びしたがって、これらの薬剤(agents)の全身投与を制限する。天然の(native)グルタミン酸に対するチロシンのアミノ酸13におけるIL13アルファヘリックスAにおけるアミノ酸置換は、IL13Rα1/IL4β/γc受容体に対するIL13の親和性を選択的に減少させる。しかしながら、この変異体(IL13(E13Y)と称される)のIL13Rα2への結合は、野生型(wild-type)IL13と比較して増加した。したがって、この最小限に改変されたIL13類似体は、グリオーマ細胞に対するIL13の特異性及び親和性を同時に増加させる。したがって、本明細書に記載されるCARは、アミノ酸13に変異(EからY又はEから何かほかのアミノ酸、例えばK又はR又はL又はVなど)を含むIL13を含む(Debinski et al. 1999 Clin Cancer Res 5:3143sのナンバリングによる)。しかしながら、天然の(natural)配列を有するIL13も使用することができ、及び特に、改変T細胞を腫瘍塊に直接注射するなどの局所的に投与する場合に有用であり得る。
【0017】
本明細書中に記載されるCARは、当技術分野で公知の任意の手段によって産生され得るが、好ましくは組換えDNA技術を用いて産生される。キメラ受容体のいくつかの領域をコードする核酸は、当該分野で公知の標準的な分子クローニング技術(ゲノムライブラリースクリーニング、PCR、プライマーアシストライゲーション、部位特異的突然変異誘発など)によって調整され、完全なコード配列に組み立てることができる。得られたコード領域は、好ましくは発現ベクターに挿入され、適切な発現宿主細胞株、好ましくはTリンパ球細胞株、及び最も好ましくは自己Tリンパ球細胞株を形質転換するために使用される。
【実施例】
【0018】
実施例1: IL13Rα2特異的CARの構築及び構造
有用なIL13Rα2特異的CARの構造を以下に記載する。コドン最適化CAR配列は、Fcレセプター媒介認識モデルを大きく減少させる2つの突然変異(L235E;N297Q)を含むIgG4FcスペーサーであるIL13Rα1への潜在的結合を減少させるために、単一部位で突然変異した膜結合(membrane-tethered)IL-13リガンド(E13Y)、CD4膜貫通ドメイン、共刺激4-1BB細胞質シグナル伝達ドメイン、及びCD3ζ細胞質シグナル伝達ドメインを含む。T2Aリボソームスキップ配列は、このIL13(EQ)BBζCAR配列を、不活性で非免疫原性の細胞表面検出/選択マーカーであるCD19tから分離する。このT2A結合は、単一の転写産物からのIL13(EQ)BBζ及びCD19tの両方の座標発現をもたらす。
図1Aは、IL13(EQ)BBZ-T2ACD19t構築物をコードする2670ヌクレオチドのオープンリーディングフレームの概略図である。この図では、IL13Rα2特異的リガンドIL13(E13Y)、IgG4(EQ)Fc、CD4膜貫通、4-1BB細胞質シグナル伝達、3-グリシンリンカー及びIL13(EQ)BBZCARのCD3ζ細胞質シグナル伝達ドメイン、並びにT2Aリボソームスキップ及びIL13(EQ)BBZCARの短縮型(truncated)CD19配列は、すべて示されている。IL13(EQ)BBZCAR及びCD19tの表面発現を駆動するヒトGM-CSF受容体α及びCD19シグナル配列も示される。したがって、IL13(EQ)BBZ-T2ACD19t構築物は、IL13Rα2特異的ヒンジ最適化、共刺激性キメラ免疫レセプター配列(IL13(EQ)BBZと呼ばれる)、リボソームスキップT2A配列及びCD19t配列を含む。
【0019】
ヒトGM-CSF受容体αリーダーペプチドとIL13(E13Y)リガンド5L235E/N297Q改変IgG4Fcヒンジ(二重変異がFcR認識を妨害する)、CD4膜貫通、4-1BB細胞質シグナル伝達ドメイン、及びCD3ζ細胞質シグナル伝達ドメイン配列との融合によりIL13(EQ)BBZ配列を生成した。この配列は、コドン最適化の後に新規に(de novo)合成された。T2A配列は、T2A含有プラスミドの消化から得た。CD19t配列は、リーダーペプチド配列にまたがるものから、CD19含有プラスミドの膜貫通成分(すなわち、塩基対1~972)まで得られた。全3つの断片、1)IL13(EQ)BBZ、2)T2A、及び3)CD19tを、epHIV7レンチウイルスベクターの多重クローニング部位にクローン化した。適切な細胞にトランスフェクトされると、ベクターは
図1Bに模式的に示された配列を宿主細胞ゲノムに組み込む。
図1Cは、9515塩基対IL13(EQ)BBZ-T2A-CD19t_epHIV7プラスミドそれ自体の模式図を提供する。
【0020】
図2に概略的に示すように、IL13(EQ)BBZ CARは、いくつかの重要な点において、IL13(E13Y)R-ゼータカインと呼ばれる先に記載されたIL13Rα2特異的CARとは異なる(
非特許文献9)。IL13(E13Y)-ゼータカインは、示されるように、IL13Rα2特異的ヒトIL-13ムテイン(mutein)(huIL-13(E13Y))、ヒトIgG4 Fcスペーサー(huγ4Fc)、ヒトCD4膜貫通(huCD4 tm)及びヒトCD3ζ鎖細胞質huCD3ζcyt)部分から構成される。対照的に、IL13(EQ)BBζ)は、IgG4スペーサーのCH2ドメインに位置する2つの点変異、L235E及びN297Q、及び共刺激4-1BB細胞質ドメイン(4-1BB細胞)を有する。対照的に、IL13(EQ)BBζ)は、IgG4スペーサーのCH2ドメインに位置する2つの点変異、L235E及びN297Q、及び共刺激4-1BB細胞質ドメイン(4-1BB細胞)を有する。
【0021】
実施例2: IL13Rα2特異的CARの発現に使用されるepHIV7の構築及び構造
pHIV7プラスミドは、臨床ベクターIL13(EQ)BBZ-T2A-CD19t_epHIV7がCity of Hope(COH)のT細胞治療研究研究所(TCTRL)で得られた親プラスミドである。CARの発現に用いたepHIV7ベクターは、pHIV7ベクターから作製した。重要なことに、このベクターは、ヒトEF1プロモーターを用いてCARの発現を駆動する。ベクターの5’及び3’配列はいずれも以前にHXBc2プロウイルスから派生したように、pv653RSN由来であった。ポリプリントラクトフラップ配列(cPPT)は、NIH AIDS Reagent RepositoryからのHIV-1株pNL4-3由来であった。ウッドチャック転写後調節エレメント(WPRE)配列は以前に記載されている。
【0022】
pHIV7の構築を
図3に概略的に示す。簡単に説明すると、介在するSL3-ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子(Neo)を有するgag-polプラス5‘及び3’長末端反復配列(LTR)由来653bpを含むpv653RSNは、以下のようにpBluescriptにサブクローニングした。: ステップ1では、5’LTRからrev-応答エレメント(RRE)の配列がp5‘HIV-1 51となり、次に5’LTRがTATAボックスの上流の配列を除去することによって改変され、最初にCMVエンハンサーに連結し、次にSV40複製起点に連結した(p5‘HIV-2)。ステップ2では、3’LTRをpBluescriptにクローニングして、p3’HIV-1を作製した後、3’LTRエンハンサー/プロモーターにおける400bpの欠失を行い、HIV U3中のシス調節エレメントを除去し、p3’HIV-2を形成した。ステップ3では、p5’HIV-3及びp3’HIV-2から単離した断片をライゲーションしてpHIV-3を作製した。ステップ4では、p3’HIV-3を生成するために余分な上流のHIV配列を除去することによりp3’HIV-2をさらに修飾し、p3’HIV-3にWPREを含む600bpのBamHI-SalIフラグメントを添加してp3’HIV-4を作製した。ステップ5では、pHIV-3 RREをPCRによりサイズを減少させ、pHIV-3(示さず)由来5’断片に、及びp3’HIV-4ライゲーションして、pHIV-6を作製した。ステップ6では、HIV-1 pNL4-3(55)由来のcPPT DNAフラップ配列を含む190bpのBglII-BamHIフラグメントをpNL4-3から増幅し、pHIV6のRRE配列とWPRE配列の間に配置してpHIV-7を作製した。この親プラスミドpHIV7-GFP(GFP、緑色蛍光タンパク質)を用いて、4-プラスミド系を用いて親ベクターをパッケージングした。
【0023】
ウイルスゲノムをベクターに効率的にパッケージングするためには、パッケージングシグナル、psiΨが必要とされる。RRE及びWPREは、RNA転写物の輸送及び導入遺伝子の発現を増強する。フラップ配列は、WPREと組み合わせて、哺乳類細胞におけるレンチウイルスベクターの形質導入効率を高めることが実証されている。
【0024】
ウイルスベクターの産生に必要なヘルパー機能)は、3つの別個のプラスミドに分割され、組換えによる複製コンピテントレンチウイルスの生成の確率を低下させる。:
1)pCgpは、ウイルスベクターアセンブリに必要なgag/polタンパク質をコードする。
2)pCMV-Rev2は、効率的なパッケージングのためにウイルスゲノムの輸送を助けるためにRRE配列に作用するRevタンパク質をコードする。
3)pCMV-Gは、ウイルスベクターの感染性のために必要とされる水疱性口炎ウイルス(vesiculo-stomatitis virus, VSV)の糖タンパク質をコードする。
【0025】
pHIV7にコードされたベクターゲノムとヘルパープラスミドとの間に最小のDNA配列相同性が存在する。相同性の領域は、
pCgpヘルパープラスミドのgag/pol配列中に位置する約600ヌクレオチドのパッケージングシグナル領域;
3種全てのヘルパープラスミド中のCMVプロモーター配列;及び
ヘルパープラスミドpCgp中のRRE配列
を含む。多数の組換え事象を必要とするので、これらの領域の相同性に起因して複製コンピテント組換えウイルスが生成される可能性は非常に低い。加えて、得られたいずれの組換え体は、レンチウイルス複製に必要な機能的LTR及びtat配列を欠いているであろう。
【0026】
CMVプロモーターをEF1α-HTLVプロモーター(EF1p)で置き換え、新しいプラスミドをepHIV7と命名した(
図4)。EF1pは563bpを有し、CMVプロモーターを切除した後、NruI及びNheIを用いてepHIV7に導入した。
【0027】
野生型ウイルスの病原性に必要であり、標的細胞の生産的感染に必要とされるgag/pol及びrevを除くレンチウイルスゲノムは、この系から除かれている。加えて、IL13(EQ)BBZ-T2ACD19t_epHIV7ベクター構築物はインタクトな3’LTRプロモーターを含有しないので、標的細胞における発現及び逆転写DNAプロウイルスゲノムは不活性LTRを有する。この設計の結果、HIV-1由来(derived)配列はプロウイルスから転写されず、治療配列のみがそれぞれのプロモーターから発現される。SINベクターにおけるLTRプロモーター活性の除去は、宿主遺伝子の意図しない活性化の可能性を有意に減少させることが期待される(56)。表4は、IL13(EQ)BBZ-T2ACD19t_epHIV7に存在する種々のレギュレーター要素をまとめたものである。
【0028】
表4: IL13(EQ)41BBZ-T2A-CD19t_epHIV7の機能的要素
【表1】
【0029】
実施例3:患者T細胞の形質導入のためのベクターの作製
各プラスミド(IL13(EQ)BBZ-T2A-CD19t_epHIV7;pCgp;pCMV-G;及びpCMV-Rev2)について、十分な量のプラスミドDNAを産生するために発酵槽に接種するために使用されるシードバンクが生成される。プラスミドDNAは、レンチウイルスベクターの産生に使用する前に、同一性、無菌性及びエンドトキシンについて試験される。
【0030】
簡単に述べると、細胞を、293T作業細胞(WCB)から増殖させ、無菌性及びウイルス汚染の存在を確認するために試験した。293T WCBからの293T細胞のバイアルを解凍した(thawed)。十分な数の細胞が存在し、ベクター産生及び細胞培養の維持のために適切な数の10層細胞工場(CF)をプレートするまで、細胞を成長させ、増殖させた。単一の細胞列を生産に使用することができる。
【0031】
レンチウイルスベクターは、10 CFまでのサブバッチで産生された。同じ週に2つのサブバッチを作製することができ、約20Lのレンチウイルス上清/週の産生をもたらす。1つのロットの製品を製造するために、すべてのサブバッチから製造された材料を下流の処理段階でプールした。293T細胞を293T培地(10%FBSを含むDMEM)中でCF中に播種した。ファクトリーを37℃のインキュベーターに置き、CFのすべての層上に細胞の均一な分布を得るために水平に平らにした。2日後、Tris:EDTA、2M CaCl2、2X HBS、及び4つのDNAプラスミドの混合物を含むCaPO4法を用いて、上記の4つのレンチウイルスプラスミドを細胞にトランスフェクトした。トランスフェクション後3日目に、分泌されたレンチウイルスベクターを含む上清を回収し、精製し、濃縮した。上清をCFから取り除いた後、各CFからエンド・オブ・プロダクション・セルを回収した。各ファクトリーから細胞をトリプシン処理し、遠心分離により収集した。細胞を凍結培地に再懸濁し、凍結保存した。これらの細胞は、その後、複製能力のある(replication-competent)レンチウイルス(RCL)試験に使用された。
【0032】
ベクターを精製及び製剤化するために、細胞の破片(debris)を除去するために膜濾過によって粗製上清を清澄化した。宿主細胞DNA及び残存プラスミドDNAは、エンドヌクレアーゼ消化(Benzonase(登録商標))によって分解された。ウイルス上清を0.45μmのフィルターを用いて細胞破片について清澄化した。清澄化された上清を予め秤量した容器に採取し、そこにBenzonase(登録商標)を加えた(最終濃度50U/mL)。残留プラスミドDNA及び宿主ゲノムDNAに対するエンドヌクレアーゼ消化は、37℃で6時間行った。エンドヌクレアーゼ処理した上清の初期接線流限外濾過(TFF)濃度を用いて、粗上清から残留低分子量成分を除去し、ウイルスを約20倍濃縮した。浄化されたエンドヌクレアーゼ処理ウイルス上清を、500kDのNMWCOを有する中空繊維カートリッジに、流速(flux rate)を最大にしながら、剪断速度を約4,000秒-1以下に維持するように設計された流速で循環させた。ヌクレアーゼ処理された上清のダイアフィルトレーションは、カートリッジの性能を維持するために濃縮プロセスの間に開始された。ダイアフィルトレーション緩衝液としてPBS中に4%ラクトースを使用して、80%透過物置換率を確立した。ウイルス上清を標的体積に持ってきて、20倍濃度の粗上清を示し、透析液交換率を100%として4回の追加交換容量でダイアフィルトレーションを続けた。
【0033】
ウイルス産物のさらなる濃縮は、高速遠心分離技術を使用することによって達成された。レンチウイルスの各サブバッチを、Sorvall RC-26プラス6000 RPM(6,088 RCF)で、6℃で16-20時間遠心分離してペレット化した(pelleted)。次いで、各サブバッチからのウイルスペレットをPBS中の4%ラクトースを含む50mL容量で再構成した。この緩衝液中の再構成されたペレットは、ウイルス調製のための最終製剤を表す。ベクター濃縮プロセス全体は約200倍の体積減少をもたらした。全てのサブバッチの完了後、材料を次に-80℃に置き、各サブバッチからの試料を無菌性について試験した。サンプルの無菌性を確認した後、サブバッチを37℃で頻繁に撹拌しながら急速に解凍した。次いで、この物質をプールし、ウイルスベクタースイート(suite)のクラスII型A/B3バイオセーフティキャビネット内にマニュアルでアリコートした。滅菌USPクラス6、外周ネジ(externally threaded)Oリングクリオバイアル中の濃縮レンチウイルス1mLの充填構成を使用した。COHの応用技術開発センター(CATD)の品質システム(QS)は、CBGのためのポリシーと標準的な運用手順に従い、現在のグッド・マニュファクチャリング・プラクティス(cGMP)に準拠してすべての材料(materials)をリリースした。
【0034】
レンチウイルスベクター調製物の純度を保証するために、残留宿主DNA混入物及び残留宿主及びプラスミドDNAの移入について試験した。他の試験の中でも、正確なベクターが存在することを確実にするために、RT-PCRによってベクター同一性を評価した。すべての放出基準は、この研究での使用を意図したベクターについて満たされた。
【0035】
実施例4: ACTでの使用に適したTCM CD4+/CD8+細胞集団の調製
TCM CD4+/CD8+細胞集団の製造戦略の概要を
図8に示す(IL13(EQ)BBζ/CD19t+ TCMの製造スキーマ)。具体的には、合意された研究参加者から得られたアフェレーシス(apheresis)産物を、フィコール(ficolled)、洗浄し、一晩インキュベートする。GMPグレードの抗CD14、抗CD25及び抗CD45RA試薬(Miltenyi Biotec)及びCliniMACS(登録商標)分離装置を用いて、単球、調節性T細胞及びナイーブT細胞集団を細胞から枯渇させる。枯渇(depletion)後、CliniMACS(登録商標)分離装置でDREG56-ビオチン(COH臨床グレード)及び抗ビオチンマイクロビーズ(Miltenyi Biotec)を使用して、CD62L+ TCM細胞について陰性画分細胞を富化する(enriched)。細胞は、CD4+細胞について又はCD8+細胞について枯渇されない。
【0036】
富化後、TCM CD4+/CD8+細胞を、完全なX-Vivo15プラス50IU/mLのIL-2及び0.5ng/mLのIL-15中に処方し、Teflon(登録商標)細胞培養バッグに移し、Dynal ClinEx(登録商標)Vivo CD3/CD28ビーズで刺激した。刺激の5日後まで、CARを発現する所望のベクター(例えば、IL13(EQ)BBZ-T2A-CD19t_epHIV7レンチウイルスベクター)を用いて感染多重度(MOI)1.0~0.3で細胞に形質導入する。細胞増殖に必要な完全なX-Vivo15及びIL-2及びIL-15サイトカインの添加により42日まで培養を維持する(細胞密度は3×10
5
~2×10
6
生存細胞/mL、培養の毎週月曜日、水曜日及び金曜日のサイトカイン補充を維持する)。細胞は、典型的には、21日以内にこれらの条件下で約109細胞に拡大する。培養期間の終わりに、細胞を採取し、2回洗浄し、臨床等級の凍結保存培地(Cryostore CS5,BioLife Solutions)中で処方する。
【0037】
T細胞注入の日(複数可)に、低温保存及び放出された生成物を解凍し、洗浄し、再注入のために処方する。放出された細胞産物を含有する低温保存バイアルを液体窒素貯蔵から取り出し、解凍し、冷却し、PBS/2%ヒト血清アルブミン(HSA)洗浄緩衝液で洗浄する。遠心分離後、上清を除去し、細胞を保存料なし通常生理食塩水(PFNS)/2%HSA輸液希釈液に再懸濁する。品質管理試験のためにサンプルを取り除く。
【0038】
健康ドナーから調達された細胞についての2つの適格試験(qualification runs)を、上記の製造プラットフォームを使用して実施した。各前臨床適格試験製品には、ヒトドナー(HD)番号HD006.5及びHD187.1が割り当てられた。重要なことに、表5に示すように、これらの適格試験は28日以内に>80倍に拡大し、増殖した細胞はIL13(EQ)BBγ/CD19tトランスジーンを発現した。
【0039】
表5: 臨床前の適格試験製品からの発現データの要約
【表2】
【0040】
実施例5: IL13(EQ)BBγ/CD19t+ TCMにおける表面導入遺伝子及びT細胞マーカー発現のフローサイトメトリー分析
実施例4に記載されている2つの前臨床適格試験製品を、前臨床試験で以下に記載するように使用した。
図6A~Cは、表面トランスジーン及びT細胞マーカー発現のフローサイトメトリー分析の結果を示す。IL-13(EQ)BBγ/CD19t+ TCM HD006.5及びHD187.1を抗IL-13-PE及び抗CD8-FITCで共染色してCD8+ CAR+及びCD4+(すなわちCD8陰性)CAR+細胞を検出した(
図6A)。又は抗CD19-PE及び抗CD4-FITCを用いてCD4+ CD19t+及びCD8+(すなわちCD4陰性)CAR+細胞を検出することができる(
図6B)。TCR、CD4、CD8、CD62L及びCD28(灰色ヒストグラム)又はアイソタイプ対照(黒色ヒストグラム)でIL13(EQ)BBγ/CD19t+ TCM HD006.5及びHD187.1を染色した。(
図6C)。
図6A~Cのそれぞれにおいて、示されたパーセンテージは、アイソタイプの上に染色された生存リンパ球(DAPI陰性)に基づく。
【0041】
実施例6: IL13(EQ)BBγ/CD19t+ TCMのエフェクター活性
IL13(EQ)BBζ/ CD19t+ TCMのエフェクター活性を評価し、この分析の結果を
図7A~Bに示す。簡単に説明すると、IL19(EQ)BBγ/CD19t+ TCM HD006.5及びHD187.1を、CD19t発現に基づく10E:1T比を使用する6時間51Cr放出アッセイにおいてエフェクターとして使用した。IL13Rα2陽性腫瘍標的は、IL13Rα2(K562-IL13Rα2)及び一次神経膠腫系統PBT030-2を発現するように操作されたK562であり、IL13Rα2陰性腫瘍標的対照はK562親系統であった(
図7A)。IL13(EQ)BBγ/CD19t+ HD006.5及びHD187.1を、上記のように同じIL13Rα2陽性及び陰性標的を用いて10E:1T比で一晩の共培養後の抗原依存性サイトカイン産生について評価した。サイトカインレベルは、Bio-Plex ProヒトサイトカインTH1/TH2アッセイキットを用いて測定し、INF-γレベルを示す(
図7B)。
【0042】
実施例7:IL13(EQ)BBγ/CD19t+ TCMのin vivo抗腫瘍活性
以下に記載される研究は、IL13(EQ)BBγ/CD19t+ TCMがin vivoマウスモデルにおいて抗腫瘍効果を示すことを実証する。具体的には、我々は、EGFP及びホタルルシフェラーゼ(ffLuc)レポーター遺伝子の両方を発現するように操作されたIL13Rα2+初代低-継代グリア芽細胞腫腫瘍球系統(line)PBT030-2に対するIL13(EQ)BBγ/CD19t+ TCMの抗腫瘍効力を評価した(PBT030-2 EGFP:ffLuc)(6)。無血清培地中で腫瘍球(TS)として増殖した患者の神経膠芽腫標本由来の一次系統(PBT)のパネル。これらの拡張されたTS系統は、幹細胞マーカーの発現、多細胞分化及び低い細胞数で免疫無防備状態のマウス(NSG)において同所性腫瘍を開始する能力を含む幹細胞様の特徴を示す。IL-13Rα2特異的CAR発現T細胞のNSGマウスにおけるin vivo抗腫瘍活性を評価するために、PBT030-2 EGFP:ffLuc TS開始異種移植片モデル(0.1×
10
6
細胞; 5日生着)を以前に使用しており、それにより、2×
10
6
2週間にわたる細胞溶解性Tリンパ球(CTL)の3回の注入は、腫瘍増殖を減少させることが示された。しかし、これらの実験では、PBT030-2腫瘍の大部分が最終的に再発した。対照的に、PBT030-2 EGFP:ffLuc TS開始腫瘍(0.1×
10
6
細胞; 5日間の生着)に対して、IL13(EQ)BBγ/CD19t+ TCM(1.1×
10
6
CAR+ TCM; 2×
10
6
全TCM)の単一回注射は、
図8A~Cに示すように)。IL13(EQ)BBγ/CD19t+ TCMは、PBS又はモック(mock)形質導入TCM(CAR無し)で処置したNSGマウスと比較して、ffLucフラックス(flux)を有意に減少させ(p<0.001、>18日)、生存率を有意に改善する(p=0.0008)。
【0043】
簡潔には、EGFP-ffLuc+ PBT030-2腫瘍細胞(1×
10
5
)をNSGマウスの右前脳内に定位固定的に移植した。5日目に、2×
10
6
IL13(EQ)BBγ/CD19t+ TCM(1.1×
10
6
CAR+; n=6)、2×
10
6
モックTCM(CARなし、n=6)又はPBS(n=6)のいずれかを受けた。
図8Aは、各群の代表的なマウスを示し、Xenogen Living Imageを用いた相対腫瘍負荷を示す。ffLucフラックス(光子/秒)の定量化は、モック形質導入TCM及びPBSと比較してIL13(EQ)BBζ/CD19t+ TCMが腫瘍退縮を誘導することを示す(#p<0.02、*p<0.001、反復測定ANOVA)(
図8B)。
図8Cに示すように、IL13(EQ)BBγ/CD19t+ TCMで処置したマウスについて、Kaplan Meier生存曲線(1群につきn=6)が有意に改善された生存を示す(p=0.0008;対数ランク検定)。
【0044】
実施例8: 抗腫瘍効力及びT細胞持続性におけるIL13(EQ)BBζ+ Tcm及び非Tcm IL13-ゼータカインCD8+ CTLクローンの比較
以下に記載される研究は、IL13(EQ)BBζ+ Tcmと以前に作製されたIL13Rα2特異的ヒトCD8+ CTLを比較した((非特許文献8及び9に記載される)IL13-ゼータカインCD8+ CTL)。IL13-ゼータカインはCD3ζ刺激ドメインを使用し、共刺激ドメインを欠き、IL13(EQ)BBζ+と同じIL13変異体を使用する。IL13-ゼータカインは、CD3ζ刺激ドメインを使用し、共刺激ドメインを欠き、IL13(EQ)BBζ+と同じIL13変異体を使用する。
【0045】
無血清培地中で腫瘍球(TS)として増殖させた患者の神経膠芽細胞腫検体からの一次系統(PBT)のパネルを作製した(非特許文献9;Brown et al. 2009 Cancer Res 69:8886)。これらの拡大されたTS系統は、幹細胞マーカーの発現、多系統分化及び低い細胞数で免疫無防備状態のマウス(NSG)において同所性腫瘍を開始する能力を含む幹細胞様の特徴を示す。EGFP及びホタルルシフェラーゼ(ffLuc)レポーター遺伝子(PBT030-2 EGFP:ffLuc)(非特許文献9)の両方を発現するように操作されたIL13Rα2+初代低-継代グリア芽細胞腫TS系PBT030-2を、以下に概説する実験のために使用した。
【0046】
最初に、IL13(EQ)BBζ+ Tcm産物の単一回投与(1×
10
6
CAR T細胞)を、8日目にPBT030-2 EGFP:ffuc TS開始異種移植片(0.1x
10
6
細胞)に対して評価したIL13-ゼータカインCD8+ CTLクローンと比較した。IL13Rα2特異的CAR T細胞(IL13-ゼータカインCTL及びIL13(EQ)BBζTcm)は、未処理及びモックTcm(CAR陰性)コントロール(
図9A及び9B)と比較して、確立PBT030-2腫瘍に対する抗腫瘍活性を示したが、IL13(EQ)BBZ+ Tcmは、我々の第1世代のIL13-ゼータカインCD8 + CTLクローンと比較して150日以上生存しているマウスで有意に改善された生存及び耐性腫瘍寛解を媒介した(
図9C)。
【0047】
これらの2つのIL13Rα2-CAR T細胞産物の治療有効性をさらに比較するために、8日目のPBT030-2 EGFP:ffuc TS開始腫瘍に対する1.0,0.3及び0.1×10 6 CAR T細胞の用量滴定を行った(
図10A~C)。IL13-ゼータカインCD8 + CTL cl.2D7の最高用量(1×
10
6
)媒介性抗腫瘍応答が、6匹中3匹の動物におけるXenogen Fluxによって測定されたが(
図10C)、より低いCAR T細胞用量で有意な抗腫瘍応答は観察されなかった。比較すると、ILx(EQ)BBζ+ Tcm産物の注入は、0.1×
10
6
CAR T細胞のような少数の処置を含む、全ての用量レベルで大部分のマウスにおいて完全な腫瘍退縮を媒介した。これらのデータは、IL13(EQ)BBζ+ Tcmが、抗腫瘍効力においてIL13-ゼータカインCD8+ CTLクローンより少なくとも10倍強力であることを実証する。改善された抗腫瘍効果は、腫瘍微小環境における改善されたT細胞持続性によるものである。i.c.注入の7日後のCD3+ T細胞の評価は、腫瘍微小環境において有意な数のIL13(EQ)BBζ+ Tcmを示したが、第1世代のIL13-ゼータCTLはほとんど存在しなかった(
図11)。
【0048】
実施例9: 大きなTS開始PBT腫瘍の治療のためのCAR T細胞送達経路の比較
以下は、侵襲性原発性PBT系統に対する抗腫瘍活性について、静脈内(i.v.)又は頭蓋内(i.c.)の送達経路を比較する試験である。パイロット研究(データ示さず)では、予想外にi.v. PBT030-2 EGFP:ffLuc腫瘍の処置のためのPBSと比較して、IL13(EQ)BBζ+ Tcm投与の治療効果は得られなかった。これは、i.c.投与したCAR+ T細胞で観察された頑強な治療効力とは対照的である。PBT030-2腫瘍の5日目が、末梢から治療用T細胞を補充するには小さすぎる可能性があると推論すると、より大きい19日目のPBT030-2 EGFP:ffLuc腫瘍に対するi.v.対(versus)i.c.送達から構成される比較をした。これらの研究のために、PBT030-2移植マウスを、IL13(EQ)BBZ+ Tcm、又はモックTcm(CARなし)の2つのi.v.注入(5×
10
6
CAR+ Tcm;19日目及び26日目)又は4回のi.c.注入(infusion)(1×
10
6
CAR+ Tcm;19、22、26及び29日目)で処置した。ここでも、i.v.投与されたCAR+ T細胞に対するXenogenイメージング又はKaplan-Meier生存分析によってモニターされる治療上の利点はない(
図12A及び12B)。対照的に、強力な抗腫瘍活性が、i.c.投与したIL13(EQ)BBζ+ Tcmの場合に観察された(
図12A~B)。次に、T細胞注射の7日後のマウスコホート(cohort)から脳を採取し、IHCによってCD3 +ヒトT細胞について評価した。驚くべきことに、モックTcm又はIL13(EQ)BBζTcmのいずれかで、i.v.処理したマウスの場合、腫瘍又はヒトT細胞が典型的に存在するマウス脳領域(すなわち、軟髄膜)において検出可能なCD3+ヒトT細胞は存在しなかった(
図12C)、腫瘍親和性(tropism)の欠損を示唆する。これは、i.c.処理したマウスで検出された有意な数のT細胞とは対照的である(
図12D)。
【0049】
腫瘍由来サイトカイン、特にMCP-1/CCL2は、腫瘍へのT細胞の補充に重要である。したがって、PBT030-2腫瘍細胞を評価したところ、この系統は、これまでにi.c.移植された腫瘍にi.v.投与されたエフェクターCD8+ T細胞を誘引することが示された神経膠腫系統、U251T細胞に匹敵する高レベルのMCP-1/CCL2を産生することが分かった(データは示していない)。悪性神経膠腫は、高度に浸潤性の腫瘍であり、しばしば提示において多焦点である。上記の研究は、IL13BBZ TCMが浸潤したPBT030-2などの腫瘍を排除し、長期耐久性抗腫瘍活性を媒介することができることを立証している。多巣性疾患へのトラフィックへの頭蓋内送達CAR T細胞の能力もまた調べた。この研究のために、PBT030-2 EGFP:左半球及び右半球の両方にffLuc TSを移植し(
図13A)、CAR+ T細胞を右の腫瘍部位にのみ注射した。我々は、評価された全てのマウス(n=3)について、注射部位(すなわち右腫瘍)及び左半球の腫瘍内の両方においてT細胞注入後7日目のCD3 IHCによってT細胞を検出した(
図13B)。これらの知見は、CAR+ T細胞が離れた部位で腫瘍病巣に入り込んで(traffic)かつ、浸潤することができるというエビデンスを提供する。U251T神経膠腫細胞系を用いた第2の腫瘍モデルにおいても同様の所見が観察された(データ示さず)。
【0050】
実施例10: IL13(EQ)BBζ/CD19t配列
IL13(EQ)BBζ/ CD19tの完全アミノ酸配列を
図17に示す。全配列(配列番号1)は、:
22アミノ酸のGMCSFシグナルペプチド(配列番号2)、112アミノ酸のIL-13配列(配列番号3;太字で示すアミノ酸置換E13Y);
229アミノ酸のIgG4配列(配列番号4;太字のアミノ酸置換L235E及びN297Qを有する);
22アミノ酸のCD4膜貫通配列(配列番号5);
42アミノ酸4-1BB配列(配列番号6);
3アミノ酸のGlyリンカー;
112アミノ酸のCD3ζ配列(配列番号7);
24アミノ酸T2A配列(配列番号8);及び
323アミノ酸のCD19t配列(配列番号9);
を含む。
【0051】
成熟キメラ抗原レセプター配列(配列番号10)は、:
112アミノ酸のIL-13配列(配列番号3;太字で示すアミノ酸置換E13Y);
229アミノ酸のIgG4配列(配列番号4;太字のアミノ酸置換L235E及びN297Qを有する);
22アミノ酸のCD4配列(配列番号5);
42アミノ酸4-1BB配列(配列番号6);
3アミノ酸のGlyリンカー;及び
112アミノ酸のCD3ζ配列(配列番号7);
を含む。このCAR配列(配列番号10)内には、IL-13/IgG4/CD4t/41-BB配列(配列番号11)が含まれ、これには:
112アミノ酸のIL-13配列(配列番号3;太字で示すアミノ酸置換E13Y);
229アミノ酸のIgG4配列(配列番号4;太字のアミノ酸置換L235E及びN297Qを有する)
22アミノ酸のCD4配列(配列番号5);及び
42アミノ酸の4-1BB配列(配列番号6);
を含む。IL13/IgG4/CD4t/4-1BB配列(配列番号11)は、Gly Gly Glyリンカーなどのリンカーによって、112アミノ酸のCD3ζ配列(配列番号7)に連結することができる。CAR配列(配列番号10)の前に22アミノ酸のGMCSFシグナルペプチド(配列番号2)を配置することができる。
【0052】
図18は、IL13(EQ)41BBζ[IL13(EQ)41BBζT2A-CD19t_epHIV7;pF02630](配列番号12)及びCD19Rop_epHIV7(pJ01683)(配列番号13)の配列の比較を示す。
【0053】
(1)キメラ抗原レセプターを発現するベクターで形質導入されたヒトT細胞の集団であって、前記形質導入されたヒトT細胞の少なくとも50%がセントラルメモリーT細胞である、ヒトT細胞の集団。
(2)前記形質導入された細胞のセントラルメモリーT細胞の少なくとも10%がCD4+である、(1)に記載のヒトT細胞の集団。
(3)前記形質導入されたセントラルメモリーT細胞の少なくとも10%がCD8+である、(1)に記載のヒトT細胞の集団。
(4)前記セントラルメモリーT細胞の少なくとも15%がCD4+であり、少なくとも15%がCD8+である、(1)に記載のヒトT細胞の集団。
(5)前記形質導入されたヒトT細胞の少なくとも50%がCD4+/CD8+/CD62L+である、(1)に記載のヒトT細胞の集団。
(6)キメラ抗原レセプターを発現するベクターで形質導入されたヒトT細胞の集団であって、前記形質導入されたヒトT細胞の少なくとも50%がCD45R0+、CD62L+及びCD45Ra-であり、前記細胞の少なくとも10%がCD4+であり、かつ前記細胞の少なくとも10%がCD4+である、ヒトT細胞の集団。
(7)CD45R0+、CD62L+及びCD45Ra-である前記細胞の少なくとも10%はまた、CD4+であり、かつ、CD45R0+、CD62L+及びCD45Ra-である前記細胞の少なくとも10%はまた、CD8+である、(6)に記載のヒトT細胞の集団。
(8)CD45R0+、CD62L+及びCD45Ra-である前記細胞の少なくとも15%はまた、CD4+であり、かつ、CD45R0+、CD62L+及びCD45Ra-である前記細胞の少なくとも15%はまた、CD4+である、(6)に記載のヒトT細胞の集団。
(9)癌を治療する方法であって、それを必要とする患者に、(1)~(8)のいずれか一項に記載のヒトT細胞を含む医薬組成物を投与することを含む方法。
(10)前記ヒトT細胞の集団が前記患者に対して自己由来である、(9)に記載の方法。
(11)ヒトT細胞の集団が患者に対して同種異系である、(9)に記載の方法。
(12)セントラルメモリーT細胞の集団を調製するための方法であって、
ヒト被験体からT細胞の集団を得ることと;
枯渇したT細胞の集団を調整するため、CD25を発現する細胞、CD14を発現する細胞、及びCD45+を発現する細胞について、前記T細胞の集団を枯渇させることと;
CD62Lを発現する細胞について前記枯渇したT細胞集団を富化することであって、それによりセントラルメモリーT細胞の集団を調製することと;
を含み、当該方法は、CD4を発現する細胞について細胞集団を枯渇させるステップを含まず、CD8+を発現する細胞の細胞集団を枯渇させるステップを含まない、方法。
(13)前記セントラルメモリーT細胞の集団における前記細胞の少なくとも50%がCD45R0+、CD62L+及びCD45Ra-であり、前記細胞の少なくとも10%がCD4+であり、かつ、前記細胞の少なくとも10%がCD4+である、(12)に記載の方法。
(14)前記セントラルメモリーT細胞の集団における前記細胞の少なくとも50%がCD45R0+、CD62L+及びCD45Ra-であり、前記細胞の少なくとも15%がCD4+であり、かつ、前記細胞の少なくとも15%がCD4+である、(12)に記載の方法。
(15)前記セントラルメモリーT細胞の集団における前記細胞の少なくとも50%がCD45R0+、CD62L+及びCD45Ra-であり、前記細胞の少なくとも20%がCD4+であり、かつ、前記細胞の少なくとも20%がCD4+である、(12)に記載の方法。
(16)前記セントラルメモリーT細胞の集団を刺激することをさらに含む、(12)に記載の方法。
(17)前記セントラルメモリーT細胞の集団をCD3及び/又はCD28と接触させることを含む、(16)に記載の方法。
(18)遺伝子組換えされたセントラルメモリーT細胞の集団を作製するために、組換えタンパク質を発現するベクターで前記細胞を形質導入することをさらに含む、(16)に記載の方法。
(19)前記遺伝子組換えされたセントラルメモリーT細胞の集団を拡大することをさらに含む、(19)に記載の方法。
(20)前記遺伝子組換えされたセントラルメモリーT細胞の集団を拡大するステップが、IL-2及びIL-15の一方又は両方に前記細胞を暴露することを含む、(19)に記載の方法。
【配列表】