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特許7216082微粒子の製造方法、及び微粒子の製造装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-23
(45)【発行日】2023-01-31
(54)【発明の名称】微粒子の製造方法、及び微粒子の製造装置
(51)【国際特許分類】
   B01J 19/08 20060101AFI20230124BHJP
   B22F 9/14 20060101ALI20230124BHJP
   C01B 33/021 20060101ALI20230124BHJP
   H05H 1/30 20060101ALI20230124BHJP
   H05H 1/46 20060101ALI20230124BHJP
【FI】
B01J19/08 K
B22F9/14 Z
C01B33/021
H05H1/30
H05H1/46 L
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020518318
(86)(22)【出願日】2019-05-08
(86)【国際出願番号】 JP2019018403
(87)【国際公開番号】W WO2019216343
(87)【国際公開日】2019-11-14
【審査請求日】2021-10-29
(31)【優先権主張番号】P 2018092402
(32)【優先日】2018-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000226998
【氏名又は名称】株式会社日清製粉グループ本社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(72)【発明者】
【氏名】田中 康規
(72)【発明者】
【氏名】兒玉 直人
(72)【発明者】
【氏名】石坂 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 周
(72)【発明者】
【氏名】中村 圭太郎
(72)【発明者】
【氏名】末安 志織
【審査官】池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-055840(JP,A)
【文献】国際公開第2006/013706(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 19/00-19/32
H05H 1/00- 1/54
C01B 33/00-33/46
B22F 9/00- 9/30
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粒子製造用の原料を熱プラズマ炎中に間歇的に供給し、前記原料を蒸発させて気相状態の混合物とし、前記混合物を冷却して前記微粒子を製造する微粒子の製造方法であって、
前記熱プラズマ炎として、温度状態が時間変調された変調誘導熱プラズマ炎を発生させ、前記変調誘導熱プラズマ炎を周期的に高温状態と、前記高温状態よりも温度が低い低温状態とにさせ、
前記変調誘導熱プラズマ炎が前記高温状態である間に、前記原料をキャリアガスとともに供給し、
前記変調誘導熱プラズマ炎が前記低温状態である間に、前記原料の供給を停止して、前記キャリアガスと同じ種類のガスを供給し、
前記ガスは、気相状態の前記混合物を前記変調誘導熱プラズマ炎の形成位置から押し出すように下方に向かって流れることを特徴とする微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記変調誘導熱プラズマ炎が発する光を分光分析し、分光分析の結果に応じたタイミングにて前記原料を前記変調誘導熱プラズマ炎中に供給する、請求項1に記載の微粒子の製造方法。
【請求項3】
前記原料を粒子状に分散させた状態で、前記原料を間歇的に前記変調誘導熱プラズマ炎中に供給する、請求項1または2に記載の微粒子の製造方法。
【請求項4】
微粒子の製造装置であって、
微粒子製造用の原料を熱プラズマ炎中に間歇的に供給する原料供給部と、
内部に前記熱プラズマ炎が発生し、前記原料供給部により供給される前記原料を前記熱プラズマ炎にて蒸発させて気相状態の混合物とするプラズマトーチと、
前記プラズマトーチの内部に前記熱プラズマ炎を発生させるプラズマ発生部と、
前記プラズマトーチの内部にガスを供給するガス供給部と、を有し、
前記プラズマ発生部は、前記熱プラズマ炎として、温度状態が時間変調された変調誘導熱プラズマ炎を発生させ、前記変調誘導熱プラズマ炎を周期的に高温状態と、前記高温状態よりも温度が低い低温状態とにさせ、
前記変調誘導熱プラズマ炎が前記高温状態である間に、前記原料が、キャリアガスとともに、前記原料供給部により前記プラズマトーチの内部に供給され、
前記変調誘導熱プラズマ炎が前記低温状態である間に、前記原料供給部による前記原料の供給が停止され、前記キャリアガスと同じ種類の前記ガスが、前記ガス供給部により前記プラズマトーチの内部に供給され
前記ガスは、気相状態の前記混合物を前記変調誘導熱プラズマ炎の形成位置から押し出すように下方に向かって流れることを特徴とする微粒子の製造装置。
【請求項5】
前記変調誘導熱プラズマ炎が発する光を分光分析する分光分析部と、
前記分光分析部による分光分析の結果に基づいて、前記変調誘導熱プラズマ炎が前記高温状態である間に前記原料を前記変調誘導熱プラズマ炎に供給し、前記変調誘導熱プラズマ炎が前記低温状態である間に前記原料の供給を停止するように前記原料供給部を制御する制御部と、を有する、請求項4に記載の微粒子の製造装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記分光分析の結果に基づいて、前記変調誘導熱プラズマ炎が前記低温状態である間に前記ガスを供給するように前記ガス供給部を制御する、請求項5に記載の微粒子の製造装置。
【請求項7】
前記原料供給部は、前記原料を粒子状に分散させた状態で、前記原料を間歇的に前記変調誘導熱プラズマ炎中に供給する、請求項4乃至6のいずれか一項に記載の微粒子の製造装置。
【請求項8】
前記プラズマトーチの下端部には、前記混合物を冷却して前記微粒子を生成するとともに、前記微粒子を捕集するためのチャンバーが接続されており、
前記ガス供給部は、前記プラズマトーチの内部で前記ガスが前記プラズマトーチの下端に向かうように前記ガスを供給する、請求項4乃至7のいずれか一項に記載の微粒子製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粒子の製造方法、及び微粒子の製造装置に係り、特に、熱プラズマ炎中に微粒子製造用の原料を供給して当該原料を蒸発させることで気相状態の混合物を発生させ、当該混合物を冷却して微粒子を製造する微粒子の製造方法、及び微粒子の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、シリコン微粒子、酸化物微粒子、窒化物微粒子、及び炭化物微粒子等の微粒子は、多岐の分野で用いられている。このような微粒子を製造する方法の一つとして、気相法が挙げられる。気相法には、各種のガス等を高温で化学反応させる化学的方法と、電子ビームまたはレーザ等のビームを照射して物質を分解させたり蒸発させたりして微粒子を生成する物理的方法とがある。
【0003】
気相法の他の方法としては、熱プラズマ法がある。熱プラズマ法は、熱プラズマ炎中で原材料を瞬時に蒸発させた後、その蒸発物を急冷凝固させて微粒子を製造する方法である。熱プラズマ法によれば、クリーンで生産性が高く、高温で熱容量が大きいため高融点材料にも対応可能であり、他の気相法に比べて複合化が比較的容易であるといった多くの利点を有する。このため、熱プラズマ法は、微粒子を製造する方法として積極的に利用されている。
【0004】
従来の熱プラズマ法を用いた微粒子の製造方法では、原材料物質を粉末状にし、この粉末状にされた原材料(粉末原材料、粉体)をキャリアガス等とともに、分散させて直接熱プラズマ炎中に投入することにより微粒子を製造している。このような熱プラズマ法を用いた微粒子の製造方法については、これまでに幾つかの改良例が報告されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0005】
特許文献1(特に、特許文献1の特許請求の範囲、明細書の段落0061及び図5等を参照)に記載の技術では、微粒子製造用原料を分散させて熱プラズマ炎中に供給して蒸発させて気相状態の混合物とし、当該混合物を冷却して微粒子を製造する際に、熱プラズマ炎を発生及び維持させるためのコイル電流を振幅変調させ、原料が蒸発した直後の蒸気をプラズマ収縮による急激な温度変化で急冷する。これにより、生成される微粒子の粒子成長を抑えて、より微細な微粒子を得ることが可能となる。
【0006】
特許文献2(特に、特許文献2の段落0024等を参照)に記載の技術では、気相法により微粒子を製造するにあたり、原料を熱プラズマ炎に間歇的に供給する。これにより、蒸気内での粒子の接合成長を抑えることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2010-131577号公報
【文献】特開2005-177662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、微粒子を製造する際には、得られる微粒子のサイズ(粒度)が揃っていること、換言すると、粒度の分布幅が狭くなることが望ましい。したがって、特許文献1及び特許文献2に記載の技術の利点を活かしつつ、粒度の分布幅がより狭くなるように(つまり、粒度のばらつきが小さくなるように)微粒子を製造する方法が求められている。
そこで、本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、熱プラズマ法を用いて微粒子を製造する際に、良好な粒度分布が得られるように微粒子を製造することが可能な微粒子の製造方法、及びこの製造方法を実施する上で好適に用い得る微粒子の製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明は、微粒子製造用の原料を熱プラズマ炎中に間歇的に供給し、前記原料を蒸発させて気相状態の混合物とし、前記混合物を冷却して前記微粒子を製造する微粒子の製造方法であって、前記熱プラズマ炎として、温度状態が時間変調された変調誘導熱プラズマ炎を発生させ、前記変調誘導熱プラズマ炎を周期的に高温状態と、前記高温状態よりも温度が低い低温状態とにさせ、前記変調誘導熱プラズマ炎が前記高温状態である間に、前記原料をキャリアガスと共に供給し、前記変調誘導熱プラズマ炎が前記低温状態である間に、前記原料の供給を停止して、前記キャリアガスと同じ種類のガスを供給することを特徴とする微粒子の製造方法を提供するものである。
【0010】
また、上記の微粒子の製造方法において、前記変調誘導熱プラズマ炎が発する光を分光分析し、分光分析の結果に応じたタイミングにて前記原料を前記変調誘導熱プラズマ炎中に供給することが好ましい。
【0011】
また、上記の微粒子の製造方法において、前記原料を粒子状に分散させた状態で、前記原料を間歇的に前記変調誘導熱プラズマ炎中に供給することが好ましい。
【0012】
また、本発明は、微粒子の製造装置であって、微粒子製造用の原料を熱プラズマ炎中に間歇的に供給する原料供給部と、内部に前記熱プラズマ炎が発生し、前記原料供給部により供給される前記原料を前記熱プラズマ炎にて蒸発させて気相状態の混合物とするプラズマトーチと、前記プラズマトーチの内部に前記熱プラズマ炎を発生させるプラズマ発生部と、前記プラズマトーチの内部にガスを供給するガス供給部と、を有し、前記プラズマ発生部は、前記熱プラズマ炎として、温度状態が時間変調された変調誘導熱プラズマ炎を発生させ、前記変調誘導熱プラズマ炎を周期的に高温状態と、前記高温状態よりも温度が低い低温状態とにさせ、前記変調誘導熱プラズマ炎が前記高温状態である間に、前記原料が、キャリアガスとともに、前記原料供給部により前記プラズマトーチの内部に供給され、前記変調誘導熱プラズマ炎が前記低温状態である間に、前記原料供給部による前記原料の供給が停止され、前記キャリアガスと同じ種類の前記ガスが、前記ガス供給部により前記プラズマトーチの内部に供給されることを特徴とする微粒子の製造装置を提供するものである。
【0013】
また、上記の微粒子の製造装置において、前記変調誘導熱プラズマ炎が発する光を分光分析する分光分析部と、前記分光分析部による分光分析の結果に基づいて、前記変調誘導熱プラズマ炎が前記高温状態である間に前記原料を前記変調誘導熱プラズマ炎に供給し、前記変調誘導熱プラズマ炎が前記低温状態である間に前記原料の供給を停止するように前記原料供給部を制御する制御部と、を有することが好ましい。
【0014】
また、上記の微粒子の製造装置において、前記制御部は、前記分光分析の結果に基づいて、前記変調誘導熱プラズマ炎が前記低温状態である間に前記ガスを供給するように前記ガス供給部を制御することが好ましい。
【0015】
また、上記の微粒子の製造装置において、前記原料供給部は、前記原料を粒子状に分散させた状態で、前記原料を間歇的に前記変調誘導熱プラズマ炎中に供給することが好ましい。
【0016】
また、上記の微粒子の製造装置において、前記プラズマトーチの下端部には、前記混合物を冷却して前記微粒子を生成するとともに、前記微粒子を捕集するためのチャンバーが接続されており、前記ガス供給部は、前記プラズマトーチの内部で前記ガスが前記プラズマトーチの下端に向かうように前記ガスを供給することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の微粒子の製造方法及び製造装置によれば、良好な粒度分布が得られるように微粒子を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る微粒子の製造装置を示す模式図である。
図2】本発明の一実施形態に係る微粒子の製造装置の原料供給機構を示す模式的な断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る微粒子の製造装置のプラズマトーチを示す模式的な部分断面図である。
図4】パルス変調時のコイル電流の時間変化についての説明図である。
図5】本発明の一実施形態に係る微粒子の製造装置の第一バルブ及び第二バルブを示す模式的な正面図である。
図6】コイル電流に対する変調信号、第一バルブ信号、第二バルブ信号、原料供給量、及び押出しガスの供給量のそれぞれについて、周期的変化を示すタイミングチャートである。
図7A】コイルにおける印加電圧、コイル電流及びコイル供給電力の各々の周期的変動を示す図である。
図7B】変調誘導熱プラズマ炎が発する光の分光分析の結果として、ArI由来の放射強度の周期的変動を示す図である。
図7C】変調誘導熱プラズマ炎が発する光の分光分析の結果として、Hα由来の放射強度の周期的変動を示す図である。
図8】原料供給部の他の例を示す模式図である。
図9A】実施例において上流チャンバーで捕集された微粒子のSEM画像を示す(写真代用)図である。
図9B】実施例において下流チャンバーで捕集された微粒子のSEM画像を示す(写真代用)図である。
図9C】実施例においてフィルターで回収された微粒子のSEM画像を示す(写真代用)図である。
図10A】実施例において上流チャンバーで捕集された微粒子の粒径度数分布を示す図である。
図10B】実施例において下流チャンバーで捕集された微粒子の粒径度数分布を示す図である。
図10C】実施例においてフィルターで回収された微粒子の粒径度数分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の一実施形態(本実施形態)に係る微粒子の製造方法及び微粒子製造装置について、添付の図面を参照しながら説明する。
なお、以下に説明する実施形態は、本発明の好適な一実施形態であるものの、あくまでも一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。すなわち、本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
【0020】
先ず、図1を参照しながら、本実施形態に係る微粒子製造装置(以下、製造装置10という)について概略構成を説明する。図1は、製造装置10の構成を示す模式図である。
【0021】
製造装置10は、例えば、粉状の原料を用いてナノサイズの微粒子を製造する装置である。なお、本実施形態において、製造装置10は、微粒子製造用の原料としてのシリコン粉体(以下、Si粉体という)を用いて、微粒子としてのシリコンナノ粒子(以下、Siナノ粒子という)を製造する。
製造装置10は、図1に示すように、原料供給機構12、高周波変調誘導熱プラズマ発生部14、キャリアガス供給源15、プラズマトーチ16、チャンバー18、回収部20、間歇供給部22、プラズマ分光分析部28、DSP(Digital Signal Processor)30、ガス導入部32、及び押出しガス供給部35を有する。
【0022】
原料供給機構12及び間歇供給部22は、本発明の原料供給部を構成しており、プラズマトーチ16内で発生する熱プラズマ炎にSi粉体を間歇的に供給する。本実施形態では、原料供給部を構成する原料供給機構12及び間歇供給部22が協働することで、原料であるSi粉体が粒子状に分散した状態で間歇的に熱プラズマ炎に供給される。そして、熱プラズマ炎中に供給されたSi粉体は、蒸発して気相状態の混合物となる。その後、混合物が冷却(厳密には、急冷)されることでSiナノ粒子が製造される。
【0023】
高周波変調誘導熱プラズマ発生部14は、本発明のプラズマ発生部に相当し、プラズマトーチ16内部で熱プラズマ炎を発生させる。特に、本実施形態では、熱プラズマ炎として、その温度状態が時間変調された高周波変調誘導熱プラズマ炎(変調誘導熱プラズマ炎に相当する。)が発生することになっている。変調誘導熱プラズマ炎は、所定時間間隔で周期的に高温状態と、高温状態よりも温度が低い低温状態と、になる。なお、以下では、温度状態が時間変調されてない熱プラズマ炎を単に「熱プラズマ炎」と呼ぶこととし、温度状態が時間変調されて周期的に高温状態と低温状態とになる熱プラズマ炎を「変調誘導熱プラズマ炎100」と呼ぶこととする。
【0024】
チャンバー18は、プラズマトーチ16の下端部に接続された槽であり、プラズマトーチ16内を下降する混合物を冷却(厳密には、急冷)してSiナノ粒子を生成するとともに、生成されたSiナノ粒子を捕集する。チャンバー18の更に下流側には、回収部20が配置されている。回収部20内部には、フィルター20aが収容されている。チャンバー18を通過して回収部20内部に進入したSiナノ粒子は、フィルター20aに捕捉されて回収部20に回収される。
【0025】
プラズマ分光分析部28は、本発明の分光分析部に相当し、プラズマトーチ16内の変調誘導熱プラズマ炎100が発する光を分光分析するものである。より厳密に説明すると、プラズマ分光分析部28は、変調誘導熱プラズマ炎100からの放射光のうち、変調誘導熱プラズマ炎100発生用に供給されるガスに由来する波長の光を分光分析する。なお、本実施形態では、熱プラズマ炎発生用のガス(具体的には、シースガス)がArガス及び水素ガスである。したがって、本実施形態において、プラズマ分光分析部28は、アルゴン原子、及び水素原子の発光スペクトルの一つであるArI及びHαに由来する波長の光を分光分析することになる。
【0026】
DSP30は、本発明の制御部に相当し、変調誘導熱プラズマ炎100の温度状態に応じて原料供給(フィード)の有無が切り替わるように間歇供給部22を制御する。また、DSP30は、分光分析の結果に基づいて、変調誘導熱プラズマ炎100の温度状態に応じて、後述する押出しガスの供給の有無が切り替わるように押出しガス供給部35を制御する。
【0027】
ガス導入部32は、熱プラズマ炎発生用のガスとしてシースガスをプラズマトーチ16内に供給するものである。本実施形態において、シースガスは、プラズマトーチ16の内壁に沿って供給されることになっており、これにより、プラズマトーチ16の内壁でのSi粉体及びSiナノ粒子の付着が抑制される。
なお、シースガスとしては、Ar(アルゴン)ガス、窒素ガス、水素ガス若しくは酸素ガス等が単独で、またはこれらを適宜組み合わされて用いられるが、本実施形態では、Arガス及び水素ガスの混合ガスをシースガスとして用いることとする。
【0028】
押出しガス供給部35は、本発明のガス供給部に相当し、原料供給が停止している間にプラズマトーチ16の内部に押出しガスを供給するものである。押出しガスとは、ガスの一例であり、プラズマトーチ16内において気相状態の混合物を熱プラズマ炎または変調誘導熱プラズマ炎100の形成位置から押し出すために用いられる。本実施形態において、押出しガスは、プラズマトーチ16の内部でプラズマトーチ16の下端に向かって供給される。つまり、プラズマトーチ16内に押出しガスが供給されることで、気相状態の混合物は、プラズマトーチ16内で下方に向かって移動することになる。
なお、押出しガスとしては、例えば、Arガス、窒素ガス、水素ガス若しくは酸素ガス等が単独で、またはこれらを適宜組み合わせて用いられる。
【0029】
次に、製造装置10の各部のそれぞれについて、図2図5を参照しながら説明する。図2は、原料供給機構12の構成を示す模式的な断面図である。図3は、プラズマトーチ16を示す模式的な部分断面図である。図4は、パルス変調時のコイル電流の時間変化についての説明図である。図5は、後述する第一バルブ34a及び第二バルブ34bを示す模式的な正面図である。
【0030】
(原料供給機構12)
原料供給機構12は、間歇供給部22と協働して、プラズマトーチ16の内部で発生する熱プラズマ炎または変調誘導熱プラズマ炎100中にSi粉体をキャリアガスとともに供給する。原料供給機構12は、図2に図示の搬送管82を備えている。搬送管82は、プラズマトーチ16の上部に設けられた第一バルブ34aが有する2つの流入ポートPg、Phのうち、一方の流入ポートPgに接続されている。
【0031】
例えば、微粒子製造用の原料に粉体(以下、粉体原料44とも言う。)を用いた場合、プラズマトーチ16内の熱プラズマ炎または変調誘導熱プラズマ炎100中に粉体原料44が供給される際には、粉体原料44が分散されている必要がある。このため、粉体原料44は、キャリアガスに分散させて供給される。この場合、原料供給機構12は、粉体原料44を分散状態に維持しつつ、定量的にプラズマトーチ16内部の熱プラズマ炎または変調誘導熱プラズマ炎100中に供給する。このような機能を有する原料供給機構12としては、例えば、本出願人の出願に係る特許第3217415号公報に開示されている粉体分散装置のような装置が利用可能である。
【0032】
原料供給機構12は、図2に示すように、主に、粉体原料を貯蔵する貯蔵槽42と、粉体原料を定量搬送するスクリューフィーダ60と、スクリューフィーダ60で搬送された粉体原料が最終的に散布される前に、これを一次粒子の状態に分散させる分散部70とから構成されている。
【0033】
貯蔵槽42の内部には、貯蔵された粉体原料44の凝集を防止するために、攪拌軸46と、この攪拌軸46に接続された攪拌羽根48とが設けられている。攪拌軸46は、オイルシール50aと軸受け52aとによって、貯蔵槽42内で回転可能に配設されている。また、貯蔵槽42の外部にある攪拌軸46の端部は、モータ54aに接続されており、図示しない制御装置によってその回転が制御される。
【0034】
貯蔵槽42の下部には、スクリューフィーダ60が設けられ、粉体原料44の定量的な搬送を可能にする。スクリューフィーダ60は、スクリュー62と、スクリュー62の軸64と、ケーシング66と、スクリュー62の回転動力源であるモータ54bとを含み構成されている。スクリュー62および軸64は、貯蔵槽42内の下部を横切って設けられている。軸64は、オイルシール50bと軸受け52bとによって貯蔵槽42内で回転可能に配設されている。
【0035】
また、貯蔵槽42外部にある軸64の端部は、モータ54bに接続されている。モータ54bの回転は、図示しない制御装置によって制御される。さらに、貯蔵槽42の下部の開口部と分散部70とを接続し、スクリュー62を包む筒状通路であるケーシング66が設けられる。ケーシング66は、分散部70の内部途中まで延設されている。
【0036】
図2に示すように、分散部70は、ケーシング66の一部に外挿固定された外管72と、軸64の先端部に植設された回転ブラシ76を有し、スクリューフィーダ60によって定量搬送された粉体原料44を一次分散させることができる。
外管72の外挿固定された端部と反対の端部は、その形状が円錐台形状であり、その内部にも円錐台形状の空間である粉体分散室74を有する。また、その端部には分散部70で分散された粉体原料44を搬送する搬送管82が接続されている。搬送管82は、前述したように第一バルブ34aが有する一方の流入ポートPgに接続されている。
【0037】
外管72の側面には気体供給口78が設けられている。また、ケーシング66の外壁と外管72の内壁とによって設けられる空間は、供給された気体が通過する気体通路80としての機能を有する。
回転ブラシ76は、ナイロン等の比較的柔軟な材質、あるいは鋼線等の硬質な材質からなる針状部材からなる。回転ブラシ76は、ケーシング66の先端部近傍の内部から粉体分散室74の内部まで、軸64の径外方に延出して密集植設されることによって形成されている。
【0038】
分散部70では、分散及び搬送用の気体(キャリアガス)が、キャリアガス供給源15から気体供給口78及び気体通路80を通って回転ブラシ76の径方向外側から回転ブラシ76に噴出される。これにより、原料供給機構12により定量的に搬送される粉体原料44が、回転ブラシ76の針状部材間を通過することで一次粒子に分散される。なお、キャリアガスとしては、例えば、アルゴン(Ar)ガス、窒素ガス若しくは水素ガス等が単独で、またはこれらを適宜組み合わせて用いられるが、本実施形態ではArガスをキャリアガスとして用いることとする。
【0039】
搬送管82は、間歇供給部22を介して原料供給機構12とプラズマトーチ16との間を連絡するように延設している。具体的に説明すると、搬送管82の一端は、外管72と接続されており、他端は、第一バルブ34aを介してプラズマトーチ16に接続されている。また、搬送管82は、その管径の10倍以上の管長を有し、少なくとも途中に分散粉体を含む気流が流速20m/sec以上になる管径部分を設けることが好ましい。これにより、分散部70で一次粒子の状態に分散された粉体原料44の凝集を防止し、その分散状態を維持したまま、粉体原料44を供給することができる。粉体原料44は、第一バルブ34a及び水冷プローブ24を経てプラズマトーチ16内部へキャリアガスとともに供給(散布)される。
ここで、微粒子製造用の原料として使用する粉体原料44は、熱プラズマ炎または変調誘導熱プラズマ炎100中で蒸発させることが可能なものであり、その粒径が100μm以下であることが好ましい。
【0040】
(プラズマトーチ16)
プラズマトーチ16は、その内部に熱プラズマ炎または変調誘導熱プラズマ炎100を発生させ、熱プラズマ炎または変調誘導熱プラズマ炎100中に間歇的に供給される原料を、熱プラズマ炎または変調誘導熱プラズマ炎100で蒸発させて気相状態の混合物とするものである。
プラズマトーチ16は、図3に示すように、石英管16aと、その外側を取り巻く高周波発振用コイル16bとで構成されている。プラズマトーチ16の上部には、水冷プローブ24が挿入されるプローブ挿入口16cが、プラズマトーチ16の上部の中央部に設けられており、シースガス供給口16dがその周辺部(同一円周上)に形成されている。粉体原料44であるSi粉体は、水冷プローブ24を通じてキャリアガスとともにプラズマトーチ16内に供給される。
【0041】
シースガス供給口16dは、例えば、図示しない配管によりガス導入部32と接続されている。ガス導入部32は、シースガス供給口16dを介してプラズマトーチ16内にシースガスを供給するものである。
プラズマトーチ16内にシースガスが存在する状態で、高周波発振用コイル16bに、高周波変調誘導熱プラズマ発生部14により振幅変調された高周波電流が印加されると、プラズマトーチ16の内部に変調誘導熱プラズマ炎100が発生する。また、高周波変調誘導熱プラズマ発生部14により、高周波発振用コイル16bに単に高周波電流が印加されると、プラズマトーチ16の内部に熱プラズマ炎が発生する。
【0042】
また、プラズマトーチ16の石英管16aの外側は、同心円状に形成された石英管16eで囲まれており、石英管16aと16eの間に冷却水16fを循環させて石英管16aを水冷し、プラズマトーチ16内で発生した熱プラズマ炎または変調誘導熱プラズマ炎100により石英管16aが過度に高温になるのを防止している。
【0043】
プラズマトーチ16では、例えば、内径75mm,長さ330mmの石英管16aが用いられている。また、高周波発振用コイル16bとしては、外径130mm、コイル導体径14mmφ、コイル長155mmの8ターンのコイルが用いられている。水冷プローブ24は、その先端が、例えば、高周波発振用コイル16bの4、5ターン目の間にある。
なお、155mmである高周波発振用コイル16bのコイル長は、一般的なものに比べて約3倍程度長い。このようにコイル長を長くすることの利点としては、軸方向に長く強い電磁場を発生させることができるため、それにより発生するプラズマも軸方向に長くなり、トーチヘッドから投入される粉体原料44の蒸発に有利な特徴を持っている。
【0044】
(チャンバー18及び回収部20)
チャンバー18は、水冷式のチャンバーであり、プラズマトーチ16の下端部に接続されている。チャンバー18は、粉体原料44が熱プラズマ炎または変調誘導熱プラズマ炎100で蒸発されてなる気相状態の混合物を急冷し、微粒子を生成するとともに、得られた微粒子を捕集する。すなわち、チャンバー18aは、冷却槽と微粒子捕集器とを兼ねている。
また、チャンバー18は、図1に示すように、プラズマトーチ16により近い方にある上流チャンバー18aと、プラズマトーチ16からより離れた方にある下流チャンバー18bを有する。上流チャンバー18aは、プラズマトーチ16と同軸方向に取り付けられている。下流チャンバー18bは、上流チャンバー18aと垂直に設けられている。
【0045】
下流チャンバー18bよりも下流には、生成された微粒子を捕集するための所望のフィルター20aを備える回収部20が設けられている。製造装置10において、微粒子の回収場所は、フィルター20aとしている。回収部20は、フィルター20aを備えた回収室と、この回収室内下方に設けられた管を介して接続された真空ポンプ20bとを備えている。チャンバー18を通過した微粒子は、上述の真空ポンプ20bで吸引されることにより、回収室内に引き込まれ、フィルター20aの表面で留まった状態にて回収される。
【0046】
また、プラズマトーチ16内における圧力雰囲気は、大気圧以下であることが好ましい。ここで、大気圧以下の雰囲気については、特に限定されないが、例えば、5Torr~750Torrとすることができる。
【0047】
(高周波変調誘導熱プラズマ発生部14)
高周波変調誘導熱プラズマ発生部14は、変調誘導熱プラズマ炎100を発生させるための高周波電流を高周波発振用コイル16bに供給する。また、本実施形態に係る高周波変調誘導熱プラズマ発生部14は、高周波発振用コイル16bへの高周波電流を所定時間間隔で振幅変調することが可能である。以下、変調誘導熱プラズマ炎100を発生させるために高周波発振用コイル16bに供給する高周波電流を、「コイル電流」と言う。
【0048】
高周波変調誘導熱プラズマ発生部14は、図1に示すように、高周波インバータ電源26aと、インピーダンス整合回路26bと、パルス信号発生器26cと、FET(Field-Effect Transistor)ゲート信号回路26dとを有する。
高周波インバータ電源26aは、基本周波数450kHz、最大電力50kW、定格電圧150V、定格電流460AのMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)インバータ電源である。通常、真空管電源を用いて生成される誘導熱プラズマに用いられる周波数が数MHzであるのに対し、高周波インバータ電源26aには周波数f=450kHzのものを用いている。
【0049】
高周波インバータ電源26aを構成するMOSFETインバータ電源は、電力変換効率が90%であり、従来の真空管型電源の効率30~60%に比較して高く、エネルギー効率が低いというICP(誘導結合プラズマ)の欠点を克服するものである。また、このMOSFETインバータ電源は電流の振幅を変調できる機能を有している。すなわち、MOSFETインバータ電源は、コイル電流を振幅変調できる。
高周波インバータ電源26aは、例えば、不図示の整流回路及びMOSFETインバータ回路によって構成されている。高周波インバータ電源26aにおいて、整流回路は、例えば、入力電源として三相交流を用いるものであり、三相全波整流回路により交流-直流変換を行った後、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)を用いたDC-DCコンバータにより、その出力電圧値を変化させる。
MOSFETインバータ回路は、整流回路に接続されており、整流回路で得られた直流を交流に変換するものである。これにより、インバータ出力、すなわち、コイル電流が振幅変調(AM変調)される。
【0050】
高周波インバータ電源26aの出力側には、インピーダンス整合回路26bが接続されている。インピーダンス整合回路26bは、不図示のコンデンサ及び共振コイルからなる直列共振回路により構成されており、プラズマ負荷を含めた負荷インピーダンスの共振周波数が高周波インバータ電源26aの駆動周波数領域内となるようにインピーダンスマッチングを行うものである。
パルス信号発生器26cは、高周波変調誘導熱プラズマ炎を維持するコイル電流の振幅に矩形波変調を加えるためのパルス制御信号を発生させるものである。
【0051】
FETゲート信号回路26dは、パルス信号発生器26cで発生されたパルス制御信号に基づく変調信号を、高周波インバータ電源26aのMOSFETインバータ回路のMOSFETのゲートに供給するものである。これにより、パルス信号発生器26cによるパルス制御信号でコイル電流を振幅変調して振幅を相対的に大きくするか、または小さくして、例えば、図4に示す矩形波102のように、コイル電流をパルス変調することができる。そして、コイル電流をパルス変調することで、変調誘導熱プラズマ炎100を、所定時間間隔で周期的に高温状態と低温状態とに切り替えることが可能となる。
なお、高周波変調誘導熱プラズマ発生部14が高周波発振用コイル16bに単に高周波電流を供給した場合には、熱プラズマ炎を発生させることができる。
【0052】
ここで、図4に示す矩形波102において、コイル電流に対して電流振幅の高値をHCLとし、低値をLCLとする。また、変調一周期の中で、HCLをとる時間をオン時間と定義し、また、LCLをとる時間をオフ時間と定義する。さらに、変調一周期におけるオン時間の割合(オン時間/(オン時間+オフ時間)×100(%))をデューティ比(DF)とする。また、コイルの電流振幅の比(LCL/HCL×100(%))を電流変調率(SCL)と定義する。
【0053】
ちなみに、上述したオン時間、オフ時間、及び1サイクルは、いずれもミリ秒から数秒オーダーであることが好ましい。
また、パルス制御信号を用いてコイル電流を振幅変調する際には、予め定められている波形、例えば、矩形波を用いて振幅変調することが好ましい。なお、矩形波に限定されるものではなく、三角波、のこぎり波、逆のこぎり波、または正弦波等を含む曲線を含む繰り返し波からなる波形を用いることができることは言うまでもない。
【0054】
(間歇供給部22)
間歇供給部22は、原料供給機構12から送られてくる粉体原料44を、プラズマトーチ16内へ間歇的に供給する。間歇供給部22は、図1に示すように、トリガ回路22aと第一バルブ34aとを有する。トリガ回路22aは、パルス信号発生器26cに接続されており、パルス信号発生器26cから入力されたパルス制御信号に基づいてTTL(Transistor-Transistor Logic)レベルの信号(以下、第一バルブ信号)を発生するものである。
【0055】
第一バルブ34aは、例えば、ソレノイドバルブ(電磁弁)によって構成されている。第一バルブ34aの電装部(ソレノイド部)は、トリガ回路22aに接続されており、トリガ回路22aから送られてくる第一バルブ信号の電圧値に基づいてバルブ本体内の開通路を切り替える。
第一バルブ34aの本体部は、図5に示すように、2つの流入ポートPg,Phと、1つの流出ポートPiとを有する。一方の流入ポートPgには、搬送管82の端部が接続されている。もう一方の流入ポートPhには、第二バルブ34bを介して押出しガス供給部35が接続されている。流出ポートPiは、水冷プローブ24の上流側端部に接続されている。
【0056】
第一バルブ34aでは、2つの流入ポートPg,Phのうちのいずれか一方のみが流出ポートPiに通じることになっている。流入ポートPgが流出ポートPiと通じると、第一バルブ34a内で原料側の供給路が開通する。この結果、搬送管82を通じて送られてくる粉体原料44が、キャリアガスとともに流出ポートPiから流出してプラズマトーチ16内部へ供給される。
【0057】
一方、流入ポートPhが流出ポートPiと通じると、第一バルブ34a内で原料側の供給路が閉塞する。この結果、プラズマトーチ16内への粉体原料44の供給が停止される。以上のように流出ポートPiと通じる流入ポートPg,Phが切り替わることで、粉体原料44が間歇的にプラズマトーチ16内に供給される。
また、流入ポートPhが流出ポートPiと通じているとき、すなわち、粉体原料44の供給が停止される間には、第一バルブ34a内で押出しガス側の供給路が開通する。この結果、押出しガス供給部35から送られてくる押出しガスが流出ポートPiから流出し、プラズマトーチ16内部へ供給される。
【0058】
第一バルブ34a内において、2つの流入ポートPg,Phのうちのどちらを流出ポートPiに通じさせるかは、トリガ回路22aから入力された第一バルブ信号の電圧値(電圧レベル)に応じて決まる。また、流出ポートPiに通じる流入ポートは、所定の時間間隔で切り替わる。具体的に説明すると、第一バルブ信号の電圧値がハイレベルになると、搬送管82が接続されている側の流入ポートPgが流出ポートPiと通じる。これにより、原料側の供給路が開通し、押出しガス側の供給路が閉塞する。この結果、粉体原料44がキャリアガスと共にプラズマトーチ16内に供給されるようになる。なお、本実施形態では、変調誘導熱プラズマ炎100が高温状態である間に、粉体原料44がプラズマトーチ16内に供給されるように第一バルブ信号が生成される。
【0059】
他方、第一バルブ信号の電圧値がローレベルになると、その時点から若干遅れて、搬送管82が接続されている側とは反対側の流入ポートPhが流出ポートPiと通じる。これにより、原料側の供給路が閉塞し、押出しガス側の供給路が開通する。この結果、粉体原料44の供給が停止する一方で、押出しガスがプラズマトーチ16内に供給されるようになる。なお、本実施形態では、変調誘導熱プラズマ炎100が低温状態である間に、粉体原料44の供給が停止されて押出しガスがプラズマトーチ16内に供給されるように第一バルブ信号が生成される。
【0060】
(押出しガス供給部35)
押出しガス供給部35は、プラズマトーチ16内への粉体原料44の供給が停止している間に、押出しガスをプラズマトーチ16の内部に供給する。なお、本実施形態に係る押出しガス供給部35は、押出しガス供給源35cから押出しガスを供給することになっている。なお、本実施形態では、キャリアガスと同じ種類のガス、すなわちArガスを押出しガスとして供給する。
また、本実施形態では、押出しガス供給源35cとキャリアガス供給源15とが別々に設けられているが、これに限定されるものではなく、キャリアガス及び押出しガスを共通の供給源から供給してもよい。
【0061】
押出しガス供給部35は、押出しガス供給源35cと、前述した第一バルブ34aと、図1及び図5に図示のトリガ回路35a及び第二バルブ34bと、によって構成されている。トリガ回路35aは、パルス信号発生器26cに接続されており、パルス信号発生器26cから入力されたパルス制御信号に基づいてTTLレベルの信号(以下、第二バルブ信号)を発生するものである。
【0062】
第二バルブ34bは、例えば、ソレノイドバルブ(電磁弁)によって構成されている。第二バルブ34bの電装部(ソレノイド部)は、トリガ回路35aに接続されており、トリガ回路35aから送られてくる第二バルブ信号の電圧値に基づいてバルブ本体内の開通路を切り替える。
第二バルブ34bの本体部は、図5に示すように、1つの流入ポートPmと、2つの流出ポートPn,Poとを有する。流入ポートPmは、配管またはチューブを介して押出しガス供給源35cに接続されている。2つの流出ポートPn,Poのうちの一方の流出ポートPnは、配管またはチューブを介して第一バルブ34aの流入ポートPhに接続されている。もう一方の流出ポートPoにはパージライン35bが接続されている。
【0063】
第二バルブ34b内では、2つの流出ポートPn,Poのうちのいずれか一方のみが流入ポートPmと通じることになっている。流入ポートPmが流出ポートPnに通じると、押出しガス供給源35cから送られてくる押出しガスとしてのArガスが流出ポートPnから流出し、第一バルブ34aを経由してプラズマトーチ16内部へ供給される。一方、流入ポートPmが流出ポートPoに通じると、押出しガス供給源35cから送られてくるArガスは、流出ポートPoから流出した後にパージライン35bを通じてパージタンク(不図示)に放出される。
【0064】
第二バルブ34b内において、2つの流出ポートPn,Poのどちらを流入ポートPmに通じさせるかは、トリガ回路35aから入力された第二バルブ信号の電圧値(電圧レベル)に応じて決まる。また、流入ポートPmに通じる流出ポートは、所定の時間間隔で切り替わる。具体的に説明すると、第二バルブ信号の電圧値がハイレベルになると、その時点から若干遅れて、第一バルブ34aに接続されている側の流出ポートPnが流入ポートPmと通じる。これにより、第一バルブ34aの直前位置まで押出しガスが流れる。この状態で第一バルブ34a内の押出しガス側の供給路が開通すると、押出しガスが水冷プローブ24を通じてプラズマトーチ16内に供給される。
なお、押出しガスは、プラズマトーチ16の下端に向かうようにプラズマトーチ16内に供給される。
【0065】
他方、第二バルブ信号の電圧値がローレベルになると、その時点から若干遅れて、パージライン35bに接続されている方の流出ポートPoが流入ポートPmと通じる。これにより、押出しガスがパージライン35bを通じてパージタンクに放出されるようになる。このように、本実施形態では、プラズマトーチ16内への押出しガスの供給を停止している間、パージライン35bを通じて押出しガスを放出して、押出しガスが常に第二バルブ34b内に存在するようにしている。この結果、第二バルブ34bを締め切った状態から押出しガスの供給を再開したときに、第二バルブ34b内に押出しガスが急に流入してバルブ内部に衝突する現象(いわゆるハンマリング現象)を回避することが可能となる。ただし、これに限定されず、第二バルブ34bにパージライン35bが接続されていなくてもよい。その場合、第二バルブ34bは、単純なオンオフ式の開閉バルブでもよい。また、押出しガスの浪費を極力抑える観点から考えて、バルブ開度を調整する等してパージ流量を好適な量に調整するのが望ましい。
【0066】
(プラズマ分光分析部28)
プラズマ分光分析部28は、プラズマトーチ16内の変調誘導熱プラズマ炎100が発する光を分光分析し、例えば、変調誘導熱プラズマ炎100の分光強度を測定する。プラズマ分光分析部28は、図1に示すように光学系28aと、分光器28bと、PMT(Photomultiplier tube)28cとを有する。分光器28bとPMT28cとが接続されている。また、PMT28cは、DSP30に接続されている。
【0067】
光学系28aは、図1に示すようにレンズ29aと、光ファイバ等の導光部29bとを備える。熱プラズマ炎(厳密には、変調誘導熱プラズマ炎100)の光がレンズ29aを介して導光部29bに入射される。
分光器28bは、導光部29bに接続されており、変調誘導熱プラズマ炎100の放射光が入力されると、変調誘導熱プラズマ炎100の放射光を所定の時間間隔で分光する。
PMT28cは、光電子増倍管を備え、変調誘導熱プラズマ炎100の放射光の分光スペクトルが所定の時間間隔で入力されると、これを所定の倍率に増幅してDSP30に出力する。
【0068】
(DSP30)
DSP30は、粉体原料44の供給タイミングに合わせて、変調誘導熱プラズマ炎100の温度状態を制御する。具体的には、DSP30は、粉体原料44が供給される間に高温状態となり、かつ、粉体原料44の供給が停止する間に低温状態となるように、変調誘導熱プラズマ炎100の温度状態をフィードバック制御する。
【0069】
より詳しく説明すると、トリガ回路22a、35aが、パルス信号発生器26cから入力されたパルス制御信号の波形に基づいて、第一バルブ信号を生成する。これに伴う形で、DSP30が、パルス信号発生器26cから出力されるパルス制御信号と、熱プラズマ炎発生用のガスに由来する波長の光の放射強度と、のタイミングのずれ量を算出する。そして、DSP30は、算出したずれ量に基づき、高周波変調誘導熱プラズマ発生部14の高周波インバータ電源26aに設けられたMOSFETインバータ回路のMOSFETのゲートに供給される変調信号の位相、ハイレベルの時間、ローレベルの時間等が適正になるような制御信号を出力する。すなわち、矩形波102におけるオン時間の長さ、オフ時間の長さ、及びデューティ比が適正になるような制御信号を出力する。
【0070】
以上の手順により、変調誘導熱プラズマ炎100の温度状態は、粉体原料44が供給される間に高温状態となり、かつ、粉体原料44の供給が停止する間に低温状態となるようにフィードバック制御される。
【0071】
以上のように、本実施形態では、粉体原料44の供給タイミングに合わせて変調誘導熱プラズマ炎100の温度状態を制御することとしたが、これに限定されるものではない。例えば、DSP30は、変調誘導熱プラズマ炎100の温度状態の変調に応じて粉体原料44の供給タイミングを制御してもよい。この場合、DSP30は、プラズマ分光分析部28の分光分析の結果に基づいて、第一バルブ34a及び第二バルブ34bの各々の開閉を切り替えて、間歇供給部22及び押出しガス供給部35を制御することも可能である。つまり、分光分析の結果に応じたタイミングにて粉体原料44を変調誘導熱プラズマ炎100に供給してもよい。より具体的に説明すると、DSP30は、分光分析の結果に基づき、変調誘導熱プラズマ炎100が高温状態である間に粉体原料44が供給され、かつ、変調誘導熱プラズマ炎100が低温状態である間に粉体原料44の供給を停止して押出しガスが供給されるように間歇供給部22及び押出しガス供給部35を制御してもよい。
【0072】
なお、分光分析に基づく制御が実行されなくてもよい。すなわち、粉体原料44及び押出しガスのそれぞれの供給タイミングに関して、変調誘導熱プラズマ炎100の発光スペクトルに基づく制御を行わなくてもよい。例えば、変調誘導熱プラズマ炎100の温度状態を切り替えるタイミング(すなわち、コイル電流の変調周期におけるオン時間及びオフ時間)を予め決めておき、そのタイミングに合わせて、粉体原料44及び押出しガスのそれぞれの供給タイミングをタイマー制御してもよい。
【0073】
次に、本実施形態の製造装置10を用いて微粒子を製造する方法(すなわち、本実施形態に係る微粒子の製造方法)について、図6及び図7A図7Cを参照しながら説明する。
図6は、コイル電流に対する変調信号、第一バルブ信号、第二バルブ信号、原料供給量、及び押出しガスの供給量のそれぞれについて、周期的変化を示すタイミングチャートである。なお、図6には、2サイクル分のチャートを図示している。
図7Aは、高周波発振用コイル16bにおける印加電圧のRMS(Root Mean Square)、コイル電流のRMS、並びに供給電力の各々の、周期的変動を示す図である。
図7B及び図7Cは、変調誘導熱プラズマ炎100が発する光のうち、熱プラズマ炎発生用のガスに由来する波長の光の分光分析結果についての、周期的変動を示す図である。図7Bには、ArI由来の光の放射強度の周期的変動が示されており、図7Cには、Hα由来の光の放射強度の周期的変動が示されている。なお、図7B及び図7Cの各々に図示した5つのグラフは、プラズマトーチ16のトーチ中心軸上で、かつ、高周波発振用コイル16bの終端から下方に5mm、10mm、20mm、30mm及び40mmだけ離れた位置での放射強度を示している。なお、図7A図7Cには、3サイクル分の周期的変動を図示している。
【0074】
以下では、粉体原料44としてSi粉体を用いてSiナノ粒子を製造することを例に挙げて説明することとする。また、以下では、1サイクルの時間が15ミリ秒(ms)に設定されており、各サイクルの開始時点(0ms時点)がコイル電流の変調周期におけるオン時間の開始時に設定されていることとする。ただし、1サイクルの時間、及び各サイクルにおけるオン時間の開始時については、任意に設定することが可能である。
【0075】
原料供給機構12から供給される微粒子製造用の原料としてのSi粉体が、キャリアガス供給源15から供給されるキャリアガスとしてのArガスとともに流入ポートPgを通じて第一バルブ34a内に送り込まれる。かかる状態で流入ポートPgが流出ポートPiと通じると、Si粉体が粒子状に分散した状態でプラズマトーチ16内にキャリアガスとともに供給される。
【0076】
また、押出しガス供給部35から圧送される押出しガスが、流入ポートPmを通じて第二バルブ34b内に送り込まれる。かかる状態で流入ポートPmが流出ポートPnと通じ、かつ、第一バルブ34aの流入ポートPhが流出ポートPiと通じると、押出しガスがプラズマトーチ16の下端に向かって流れるようにプラズマトーチ16内に供給される。一方で、流入ポートPmが流出ポートPoと通じると、押出しガスがパージライン35bを通じてパージタンクに放出される。
【0077】
また、高周波変調誘導熱プラズマ発生部14では、パルス信号発生器26cからパルス制御信号がFETゲート回路26d、間歇供給部22のトリガ回路22a、及び押出しガス供給部35のトリガ回路35aに出力される。
【0078】
パルス制御信号を受信したFETゲート回路26dは、パルス制御信号に基づく変調信号する高周波インバータ電源26aに向けて出力する。本実施形態では、例えば、図6に示すように、各サイクルの0ms(サイクル開始時)~12msまでをオン時間とし、12ms~15ms(サイクル終了時)までをオフ時間とするような変調信号が出力される。この変調信号が高周波インバータ電源26aのMOSFETインバータ回路のMOSFETのゲートに供給されると、高周波発振用コイル16bにおける印加電圧、コイル電流及びコイル供給電力が図7Aに示すようにパルス変調される。
【0079】
このとき、ガス導入部32からプラズマトーチ16内に、シースガスとしてのArガス及び水素ガスの混合ガスが供給されている。これにより、プラズマトーチ16内に変調誘導熱プラズマ炎100が発生する。また、変調誘導熱プラズマ炎100は、パルス変調されたコイル電流により、所定の時間間隔で周期的に高温状態と低温状態になる。
なお、本実施形態では、変調誘導熱プラズマ炎100の放射光がプラズマ分光分析部28により分光分析される。
【0080】
分光分析の結果について説明すると、図7B及び図7Cに示すように、熱プラズマ炎発生用ガス由来の光(具体的には、ArI由来の光、及びHα由来の光)のそれぞれについて、放射強度がコイル電流の振幅変調に同期して変化していることが分かる。このことから、コイル電流がパルス変調されることにより、変調誘導熱プラズマ炎100が所定の時間間隔で周期的に高温状態と低温状態とに切り替わっていると言える。より詳しく説明すると、変調誘導熱プラズマ炎100は、コイル電流の変調周期におけるオン時間(各サイクルの0ms~12ms)中に高温状態となり、オフ時間(各サイクルの12ms~15ms)中に低温状態となる。
【0081】
さらに、本実施形態では、Si粉体の供給タイミングに合わせて変調誘導熱プラズマ炎100の温度状態が変調され、具体的には、変調誘導熱プラズマ炎100が高温状態である間にSi粉体がプラズマトーチ16内に供給される。
ここで、Si粉体の供給に関して、第一バルブ34aの開閉タイミングをコイル電流の変調周期と関連付けて説明する。トリガ回路22aが第一バルブ34aに向けて出力する第一バルブ信号は、図6に示すように、オン時間の開始時点よりも遅延した時点(約9ms後)でハイレベルとなる。そのズレ量は、オン時間の開始時からArIの放射強度及びHαの放射強度が極大となるまでの時間とほぼ等しい(図7B及び図7C参照)。
【0082】
第一バルブ信号を受信した第一バルブ34aは、第一バルブ信号に従って動作し、電圧値がハイレベルになったタイミング(例えば、図6での9msの時点)で、原料供給側の流入ポートPgが流出ポートPiと通じる。その後、若干のタイムラグが生じた後の時点(例えば、図6では16msの時点)で、プラズマトーチ16内の変調誘導熱プラズマ炎100にSi粉体がキャリアガスとともに供給され始め、その供給量が徐々に増加する。
また、第一バルブ信号の電圧値がローレベルになったタイミング(例えば、図6では17msの時点)で、もう一方の流入ポートPhが流出ポートPiと通じるようになる。つまり、第一バルブ34a内で原料側の供給路が閉塞する。そのため、Si粉体の供給量が徐々に減少し、暫くした後の時点(例えば、図6では28msの時点)でSi粉体の供給が停止する。
【0083】
ここで、図6に図示のサイクルでは、0ms~12ms及び15ms~27msがオン時間、すなわち、変調誘導熱プラズマ炎100が高温状態にある期間であり、12ms~15ms及び27ms~30msがオフ時間、すなわち、変調誘導熱プラズマ炎100が低温状態にある期間である。したがって、上記のように第一バルブ34aが開閉すると、Si粉体がキャリアガスと共に間歇的に供給され、より詳しくは、変調誘導熱プラズマ炎100が高温状態にある間にSi粉体が供給され、低温状態にある間にSi粉体の供給が停止される。
【0084】
また、本実施形態では、変調誘導熱プラズマ炎100が低温状態である間、Si粉体の供給が停止される一方で、押出しガスがプラズマトーチ16内に供給される。
ここで、押出しガスの供給に関して、第一バルブ34a及び第二バルブ34bの開閉タイミングをコイル電流の変調周期と関連付けて説明する。トリガ回路35aが第二バルブ34bに向けて出力する第二バルブ信号は、図6に示すように、変調周期のオフ時間の開始時点よりも早い時点(約4ms前)でハイレベルとなる。そのズレ量は、オフ時間の開始時からArIの放射強度及びHαの放射強度が極小となるまでの時間とほぼ等しい(図7B及び図7C参照)。
【0085】
また、第二バルブ信号を受信した第二バルブ34bでは、第二バルブ信号に従って動作し、第二バルブ信号がハイレベルになったタイミング(例えば、図6では23msの時点)で、第一バルブ34aと接続している方の流出ポートPnが流入ポートPmと通じる。このとき、図6に示すように、第一バルブ信号の電圧値がローレベルであるので、第一バルブ34a内では流入ポートPhが流出ポートPiと通じており、押出しガス側の供給路が開通している。これにより、押出しガスが第一バルブ34a及び第二バルブ34bを通過するようになり、その時点から若干のタイムラグが生じた後の時点(例えば、図6では28.5msの時点)で、押出しガスがプラズマトーチ16内に供給され始める。押出しガスは、プラズマトーチ16内において気相状態の混合物を変調誘導熱プラズマ炎100の形成位置から押し出すように下方に向かって流れる。
【0086】
また、第二バルブ信号の電圧値がハイレベルからローレベルに切り替わると、その時点(例えば、図6では26msの時点)で、第二バルブ34bの流出ポートPoが流入ポートPmと通じるようになる。このとき、第一バルブ信号がハイレベルにあり、第一バルブ34a内では押出しガス側の供給路が閉塞している。そのため、押出しガスは、第一バルブ34aを通過せず、パージライン35bを通じて放出されるようになる。なお、パージライン35bの先端部に不図示のオンオフバルブを設け、第二バルブ34bの流出ポートPoが流入ポートPmと通じている期間中、上記のオンオフバルブの開閉を周期的に切り替えて押出しガスの放出を断続的に行ってもよい。
【0087】
以上のような第一バルブ34a及び第二バルブ34bの動作により、ある期間(例えば、図6では28.5ms~30msの間)に押出しガスがプラズマトーチ16内に一時的に供給される。また、押出しガスがプラズマトーチ16内に供給される期間は、図6に示すように、オフ時間、すなわち、変調誘導熱プラズマ炎100が低温状態にある期間に該当する。つまり、本実施形態では、変調誘導熱プラズマ炎100が低温状態にある間であって、Si粉体の供給が停止している間に押出しガスがプラズマトーチ16内に供給される。
【0088】
上記のサイクル(図6に図示のサイクル)は、Siナノ粒子の製造期間中、繰り返し実施される。そして、各サイクルでは、Si粉体がキャリアガスとともに変調誘導熱プラズマ炎100に間歇的に供給され、具体的には、変調誘導熱プラズマ炎100が高温状態である間にSi粉体を変調誘導熱プラズマ炎100に供給し、変調誘導熱プラズマ炎100が低温状態である間にSi粉体の供給を停止する。
【0089】
変調誘導熱プラズマ炎100に供給されたSi粉体は、蒸発して気相状態の混合物となる。その直後、混合物が上流チャンバー18aからその下流の下流チャンバー18b内で急冷され、これにより、Siナノ粒子が生成される。生成されたSiナノ粒子のうち、その一部が上流チャンバー18a及び下流チャンバー18bで捕集されるが、大部分は、真空ポンプ20bで吸引されて回収部20のフィルター20aの表面にて回収される。
【0090】
そして、本実施形態では、上述したように変調誘導熱プラズマ炎100が高温状態である間にSi粉体を変調誘導熱プラズマ炎100に供給し、変調誘導熱プラズマ炎100が低温状態である間にSi粉体の供給を停止する。これにより、Siナノ粒子を効率よく製造し、コイル供給電力に対するSiナノ粒子の製造量(収量)を増加させることが可能となる。
【0091】
さらに、変調誘導熱プラズマ炎100が低温状態である間には、押出しガスをプラズマトーチ16内に供給し、プラズマトーチ16内に存在する気相状態の混合物を下方に押し出す。これにより、プラズマトーチ16内に存在する気相状態の混合物の滞留及び上方移動を抑制することが可能である。さらに、押出しガスは、プラズマトーチ16の下端に向かって供給されるため、気相状態の混合物を、高温場である熱プラズマ炎の形成位置からチャンバー18へ速やかに向かわせることが可能となる。これにより、混合物を素早く冷却(急冷)することが可能となるため、Si蒸気の結晶化速度がより速くなる結果、微細でかつ粒度分布幅の狭いSiナノ粒子を効率よく得ることが可能となる。
【0092】
以上までに本発明の微粒子の製造装置及び微粒子の製造方法について説明してきたが、上述の実施形態は、あくまでも一例に過ぎず、他の実施形態も考えられる。例えば、上記の実施形態では、微粒子製造用の原料としてSi粉体を用い、プラズマトーチ16内へ供給するにあたりSi粉体をキャリアガスによって分散させることとした。ただし、これに限定されるものではなく、原料がスラリー又はコロイド液の状態で供給されてもよい。スラリー又はコロイド液としては、例えば、Si粉体を分散媒中に分散、または混濁させたものが挙げられる。この場合、原料供給機構12の代わりに、図8に示す液状原料供給装置90を用いる。この液状原料供給装置90を、配管等を用いて第一バルブ34aの流入ポートPgに接続する。
【0093】
液状原料供給装置90は、スラリー92(コロイド液)を入れる容器94と、容器94中のスラリー92を攪拌する攪拌機96と、スラリー92(コロイド液)に高圧をかけて供給するためのポンプ98と、スラリー92(コロイド液)を液滴化するための噴霧ガス供給源(図示せず)とを有する。そして、圧送された噴霧ガスにより液滴化されたスラリー92(コロイド液)が第一バルブ34aを経てプラズマトーチ16内に供給される。
また、原料を溶媒中に溶解させて溶液にし、溶液の状態で原料を熱プラズマ炎に供給してもよい。この場合にも、上述のスラリーまたはコロイド液と同様にして、液状原料供給装置90が用いられる。この場合でも、溶液状態の原料が噴霧ガスによって液滴化され、その後に第一バルブ34aを経てプラズマトーチ16内に供給される。
【0094】
また、上記の実施形態では、第一バルブ34aの応答速度等の影響により、図6に示すように変調誘導熱プラズマ炎100が変調するタイミングに対して、粉体原料44の供給停止のタイミングが不可避的にずれることを前提として説明したが、これに限定されるものではない。上記2つのタイミングが完全同期(完全一致)する場合にも、上述した微粒子の製造装置及び微粒子の製造方法は、当然ながら有効である。
【0095】
なお、本実施形態においては、Si粉体からSiナノ粒子を製造する場合を例として挙げたが、他の元素の粒子を微粒子製造用の原料として用いて、その酸化物、金属、窒化物、若しくは炭化物等の微粒子製造を行うことも可能である。
【0096】
例えば、原料としては、熱プラズマ炎により蒸発させられるものであれば、その種類を問わないが、好ましくは、以下のものがよい。すなわち、原子番号3~6、11~15、19~34、37~52、55~60、62~79及び81~83の元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、単体酸化物、複合酸化物、複酸化物、酸化物固溶体、金属、合金、水酸化物、炭酸化合物、ハロゲン化物、硫化物、窒化物、炭化物、水素化物、金属塩又は金属有機化合物を適宜選択すればよい。
【0097】
なお、単体酸化物とは酸素以外に1種の元素からなる酸化物をいい、複合酸化物とは複数種の酸化物から構成されるものをいい、複酸化物とは2種以上の酸化物からできている高次酸化物をいい、酸化物固溶体とは異なる酸化物が互いに均一に溶け合った固体をいう。また、金属とは1種以上の金属元素のみで構成されるものをいい、合金とは2種以上の金属元素から構成されるものをいい、その組織状態としては、固溶体、共融混合物、金属間化合物あるいはそれらの混合物をなす場合がある。
【0098】
また、水酸化物とは水酸基と1種以上の金属元素から構成されるものをいい、炭酸化合物とは炭酸基と1種以上の金属元素から構成されるものをいい、ハロゲン化物とはハロゲン元素と1種以上の金属元素から構成されるものをいい、硫化物とは硫黄と1種以上の金属元素から構成されるものをいう。また、窒化物とは窒素と1種以上の金属元素から構成されるものをいい、炭化物とは炭素と1種以上の金属元素から構成されるものをいい、水素化物とは水素と1種以上の金属元素から構成されるものをいう。また、金属塩は少なくとも1種以上の金属元素を含むイオン性化合物をいい、金属有機化合物とは1種以上の金属元素と少なくともC、O、N元素のいずれかとの結合を含む有機化合物をいい、金属アルコキシドや有機金属錯体等が挙げられる。
【0099】
例えば、単体酸化物としては、酸化チタン(TiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化カルシウム(CaO)、酸化珪素(SiO2)、酸化アルミニウム(アルミナ:Al2O3)、酸化銀(Ag2O)、酸化鉄、酸化マグネシウム(MgO)、酸化マンガン(Mn3O4)、酸化イットリウム(Y2O3)、酸化セリウム、酸化サマリウム、酸化ベリリウム(BeO)、酸化バナジウム(V2O5)、酸化クロム(Cr2O3)、及び酸化バリウム(BaO)などを挙げることができる。
【0100】
また、複合酸化物としては、アルミン酸リチウム(LiAlO2)、バナジウム酸イットリウム、リン酸カルシウム、ジルコン酸カルシウム(CaZrO3)、ジルコン酸チタン鉛、酸化チタン鉄(FeTiO3)、及び酸化チタンコバルト(CoTiO3)等を挙げることができ、複酸化物としては、錫酸バリウム(BaSnO3)、(メタ)チタン酸バリウム(BaTiO3)、チタン酸鉛(PbTiO3)、チタン酸バリウムに酸化ジルコニウムと酸化カルシウムが固溶した固溶体などを挙げることができる。
さらに、水酸化物としてはZr(OH)4を、炭酸化合物としてはCaCO3を、ハロゲン化物としてはMgF2を、硫化物としてはZnSを、窒化物としてはTiNを、炭化物としてはSiCを、水素化物としてはTiH2等を、それぞれ挙げることができる。
【実施例
【0101】
以下、本発明の微粒子の製造方法の実施例について、具体的に説明する。
本実施例において、微粒子の製造には、上述した図1に図示の製造装置10を用いた。
また、本発明とは異なる微粒子の製造方法によって比較実験(比較例)を行った。
なお、比較例に用いた製造装置は、押出しガス供給部35を備えていない点を除き、図1に図示の製造装置10と共通する。
また、下記の表1は、実施例と比較例との間で共通する実験条件を示している。
【0102】
【表1】
【0103】
<実験条件>
共通の実験条件について説明すると、プラズマ発生用の平均入力を20kWで一定とし、シースガスとして、Arガスと水素ガスの混合体を用いることとし、それぞれの流量を90L/min及び1L/min(いずれも標準状態に換算したときの値であり、以下同様)とした。なお、シースガスとしてのArガスは、トーチ内において、アキシャル(Axial)方向及びスワール(Swirl)方向に45L/minずつ供給されることとし、シースガスとしての水素ガスは、スワール方向にのみ供給されることとした。
また、コイル電流についてはパルス変調することとし、その変調周期を15msに設定し、一周期におけるオン時間の割合であるデューティ比DFを80%とし、コイル電流の振幅比である電流変調率SCLを80%とした。
また、キャリアガスにはArガスを用い、その流量は4L/minとした。プラズマトーチ内圧力は、300Torr(≒40kPa)に固定し、原料のSi粉体としては、山石金属製のSi粉体(No.360)を用い、間歇供給方式で供給した。原料の供給及び停止の切り替えは、第一バルブとしてのFesto社製のソレノイドバルブ(MHE4-MS1H-3/2G-1-4K)により行い、バルブ開閉周期を15msに設定し、バルブ開時間を8msに設定し、バルブ閉時間を7msに設定した。なお、第一バルブでの「バルブ開」とは、第一バルブ内における原料の供給路が開通することを意味し、「バルブ閉」とは、原料の供給路が閉塞することを意味する。
また、第一バルブでのバルブ開のタイミングについては、コイル電流の変調周期においてオン時間の開始時点に対して9msだけ遅延させることとした。
【0104】
また、変調誘導熱プラズマ炎から発する光を、ナックイメージテクノロジー社製の高速度ビデオカメラ(MEMRECAM HX-5)を用いて、フレームレート1000fps、解像度8bitの条件で撮影した。さらに、撮影した光に対して分光分析を行った。具体的には、プラズマ発生用のガス及び原料に由来する波長の光、より詳しくは、ArI由来の光(波長811.53mm)、Hα由来の光(波長656.28nm)、SiI由来の光(波長390.55nm)及びSiH由来の光(波長395.63nm)のそれぞれの放射強度を計測した。
【0105】
実施例及び比較例の間における実験条件の違いを下記表2に示している。
【0106】
【表2】
本実施例では、変調誘導熱プラズマ炎が低温状態である間に押出しガスを供給することとし、比較例では、押出しガスの供給を行わないこととした。本実施例では、押出しガスとしてArガスを用い、その流量を4L/minとした。押出しガスの供給及び停止の切り替え(厳密には、第一バルブの手前位置までの押出しガスの供給)は、第二バルブとしてのFesto社製のソレノイドバルブ(MHE2-MS1H-3/2G-M7-K)により行い、バルブ開閉周期を15msに設定し、バルブ開時間を3msに設定し、バルブ閉時間を12msに設定した。なお、第二バルブでの「バルブ開」とは、第二バルブ内において押出しガスを第一バルブに向かわせる流路が開通することを意味し、「バルブ閉」とは、押出しガスを第一バルブに向かわせる流路が閉塞することを意味する。
また、第二バルブでのバルブ開のタイミングについては、コイル電流の変調周期においてオン時間の開始時点に対して8msだけ遅延させることとした。
【0107】
また、本実施例では、製造された微粒子について、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて、粒径の度数分布及び平均粒径を調査した。
【0108】
<放射強度の計測結果>
比較例では、変調誘導熱プラズマ炎が低温状態であるときに、原料由来の光(具体的には、SiI由来の光及びSiH由来の光)の放射強度が、プラズマトーチの上部で比較的高くなっていることが観察された。これは、変調誘導熱プラズマ炎が低温状態であるときに、Si粉体を蒸発させて得られる気相状態の混合物がプラズマトーチ内で滞留または上方に移動したためであると考えられる。このような現象が生じることにより、比較例では、混合物の冷却がやや愚鈍化され、その影響により、生成されるSiナノ粒子の粒径及び表面積が比較的大きくなった。
これに対し、本実施例では、変調誘導熱プラズマ炎が低温状態であるときに、プラズマトーチの上部で原料由来の光の放射強度が高くなることは確認されなかった。これは、本実施例では、変調誘導熱プラズマ炎が低温状態である間において押出しガスをプラズマトーチ内に導入することで、プラズマトーチ内における気相状態の混合物の滞留及び上方移動が抑制されたためであると考えられる。
【0109】
<SEM観察結果>
本実施例及び比較例の各実験条件でSiナノ粒子の製造実験を行い、その結果、チャンバー及び回収部のフィルターにて回収した。なお、フィルターには、日本フィルター工業社製のバグフィルター(ミクロテックスMT-1000)を用いた。
ここで、Siナノ粒子の回収量、及び供給量に対する回収量の割合については、いずれも本実施例の方が比較例を上回っていた。これは、本実施例では、押出しガスの導入によって気相状態の混合物の上方移動が抑制され、プラズマトーチ内部でのSiナノ粒子の滞留時間が減少し、プラズマトーチ内での粒子付着が減少したためと考えられる。
また、本実施例にて回収したSiナノ粒子のSEM画像を図9A図9Cに示す。図9Aは、上流チャンバーで捕集されたSiナノ粒子を、図9Bは、下流チャンバーで捕集されたSiナノ粒子を、図9Cは、フィルターで回収されたSiナノ粒子を、それぞれ示している。
図9A図9Cに示すように、本実施例では、粒径が極めて小さいSiナノ粒子が多数生成されたことが分かる。これは、本実施例では、押出しガスの導入により、変調誘導熱プラズマ炎が低温度状態である間に気相状態の混合物の滞留を抑え、混合物を効率良く冷却(急冷)することが可能となったためであると考えられる。
【0110】
<粒径度数分布・平均粒径>
本実施例において上流チャンバー、下流チャンバー及びフィルターの各々で得られたSiナノ粒子のSEM画像を用いて、200個の粒子を無作為に抽出し、その粒度度数分布を調べた。その結果を図10A図10Cに示す。図10Aは、上流チャンバーで捕集されたSiナノ粒子の粒径度数分布を、図10Bは、下流チャンバーで捕集されたSiナノ粒子の粒径度数分布を、図10Cは、フィルターで回収されたSiナノ粒子の粒径度数分布を、それぞれ示している。なお、図10A図10Cの各図は、粒径の度数及び累積割合を示すとともに、平均粒径、粒径の標準偏差及びメジアン径の各値も示している。
図10A図10Cに示すように、実施例では、Siナノ粒子の粒径分布幅が著しく狭くなったことが分かる。これは、本実施例では、押出しガスの導入により、変調誘導熱プラズマ炎が低温度状態である間に気相状態の混合物を下方に押し出し、混合物を効率良く冷却(急冷)するようになったためであると考えられる。
以上から、本発明の効果は明らかである。
【符号の説明】
【0111】
10 製造装置
12 原料供給機構
14 高周波変調誘導熱プラズマ発生部
15 キャリアガス供給源
16 プラズマトーチ
16a,16e 石英管
16b 高周波発振用コイル
16c プローブ挿入口
16d シースガス供給口
16f 冷却水
18 チャンバー
18a 上流チャンバー
18b 下流チャンバー
20 回収部
20a フィルター
22 間歇供給部
22a トリガ回路
24 水冷プローブ
26a 高周波インバータ電源
26b インピーダンス整合回路
26c パルス信号発生器
26d FETゲート信号回路
28 プラズマ分光分析部
28a 光学系
28b 分光器
28c PMT
29a レンズ
29b 導光部
30 DSP
32 ガス導入部
34a 第一バルブ
34b 第二バルブ
35 押出しガス供給部
35a トリガ回路
35b パージライン
35c 押出しガス供給源
42 貯蔵槽
44 粉体原料
46 攪拌軸
48 撹拌羽根
50a,50b オイルシール
52a,52b 軸受け
54a,54b モータ
60 スクリューフィーダ
62 スクリュー
64 軸
66 ケーシング
70 分散部
72 外管
74 粉体分散室
76 回転ブラシ
78 気体供給口
80 気体通路
82 搬送管
90 液状原料供給装置
92 スラリー
94 容器
96 撹拌機
98 ポンプ
100 変調誘導熱プラズマ炎
102 矩形波
Pg,Ph,Pm 流入ポート
Pi,Pn,Po 流出ポート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図8
図9A
図9B
図9C
図10A
図10B
図10C