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特許7216083磁気粘性を利用した核反応度分布制御要素
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-23
(45)【発行日】2023-01-31
(54)【発明の名称】磁気粘性を利用した核反応度分布制御要素
(51)【国際特許分類】
   G21C 7/22 20060101AFI20230124BHJP
   G21C 7/10 20060101ALI20230124BHJP
   G21C 7/117 20060101ALI20230124BHJP
   G21C 7/00 20060101ALI20230124BHJP
【FI】
G21C7/22
G21C7/10 500
G21C7/117
G21C7/00 200
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020520140
(86)(22)【出願日】2018-10-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-12-17
(86)【国際出願番号】 US2018055345
(87)【国際公開番号】W WO2019083734
(87)【国際公開日】2019-05-02
【審査請求日】2021-10-06
(31)【優先権主張番号】62/570,787
(32)【優先日】2017-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501010395
【氏名又は名称】ウエスチングハウス・エレクトリック・カンパニー・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100091568
【弁理士】
【氏名又は名称】市位 嘉宏
(72)【発明者】
【氏名】ヘイベル、マイケル、ディー
(72)【発明者】
【氏名】ボルマー、リチャード、オー
(72)【発明者】
【氏名】チェーニアク、ルーク、ディー
【審査官】松平 佳巳
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-047700(JP,A)
【文献】特開2004-233210(JP,A)
【文献】特開2013-047633(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0232995(US,A1)
【文献】特開2017-172684(JP,A)
【文献】特表2014-507642(JP,A)
【文献】特開昭51-014088(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0114780(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 7/22
G21C 7/10
G21C 7/117
G21C 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉圧力容器(10)に炉心(14)が収容された原子炉発電システムであって、当該炉心(14)は、
複数の原子燃料集合体(22)であって、それぞれが
軸方向の長さを有する複数の細長い燃料棒(66)と、
当該複数の細長い燃料棒(66)の上方に位置する上部ノズル(62)と、
当該複数の細長い燃料棒(66)の下方に位置する下部ノズル(58)と、
軸方向の離隔位置に設けられ、当該複数の細長い燃料棒(66)を整列アレイ状に保持する複数のグリッド(64)と、
当該燃料棒(66)間に散在する複数のシンブル管(84)であって、それぞれが当該上部ノズル(62)と当該下部ノズル(58)との間を延びて当該上部ノズルおよび当該下部ノズルに固着されている複数のシンブル管(84)と
を具備する複数の原子燃料集合体(22)と、
当該燃料集合体(22)のうちの少なくとも一部の燃料集合体の中の当該シンブル管(84)のうちの少なくとも一部の中に位置する静置制御棒であって、当該静置制御棒は中性子吸収磁気粘性流体を含む磁気粘性流体システムを収容し、当該磁気粘性流体システムは当該静置制御棒沿いの離散的な軸方向位置にある当該磁気粘性流体の密度を増減させて当該炉心(14)の軸方向および半径方向の出力分布を制御するように構成されていることを特徴とする静置制御棒と
を具備することを特徴とする原子炉圧力容器(10)。
【請求項2】
前記磁気粘性流体システムは前記中性子吸収磁気粘性流体を収容する封止内管(90)を具備し、前記中性子吸収磁気粘性流体は、実質的に前記燃料棒(66)の活性領域の長さ方向に延びる当該封止内管(90)の軸方向長さの内部空間を実質的に占め、前記磁気粘性流体システムはさらに、前記中性子吸収磁気粘性流体が占める当該封止内管(90)の当該軸方向長さ沿いに縦列離隔関係に支持された複数の磁石(88)を具備し、当該複数の磁石はそれぞれ強度が可変の磁場を発生させ、当該磁場の強度が大きくなると当該磁場の影響を受ける前記中性子吸収磁気粘性流体の密度が高くなり、当該磁場の強度が小さくなると当該磁場の影響を受ける前記中性子吸収磁気粘性流体の密度が低くなることを特徴とする、請求項1の原子炉発電システム。
【請求項3】
前記磁石はそれぞれ電磁石(88)である、請求項2の原子炉発電システム。
【請求項4】
前記磁石(88)はそれぞれ別個の自己給電型電源(86)を有する、請求項3の原子炉発電システム。
【請求項5】
前記自己給電型電源(86)は、前記自己給電型電源(86)の周囲の放射線に応答して、対応する電磁石(88)を付勢する電流を発生するように構成されている、請求項4の原子炉発電システム。
【請求項6】
前記周囲の放射線の強度が大きくなると前記磁場の強度が大きくなり、前記周囲の放射線の強度が小さくなると前記磁場の強度が小さくなる、請求項5の原子炉発電システム。
【請求項7】
前記電磁石(88)はそれぞれ対応する磁気コイルから構成されており、各電磁石(88)の相対強度は、対応する磁気コイルの巻数によって決まり、前記封止内管の前記軸方向長さ沿いの前記電磁石(88)のうちの一部の電磁石の巻数は、前記封止内管(90)の前記軸方向長さ沿いの他の電磁石(88)の巻数とは異なるため、対応する前記燃料集合体(22)の軸方向出力分布が所定の形状になることを特徴とする、請求項3の原子炉発電システム。
【請求項8】
前記電磁石(88)はそれぞれ対応する磁気コイルから構成されており、各電磁石(88)の相対強度は対応する磁気コイルの巻数によって決まり、前記複数の燃料集合体(22)のうちの一部の燃料集合体の中の多数の静置制御棒の同じ炉心高さにある前記電磁石(88)のうちの一部の電磁石の巻数は、前記複数の燃料集合体(22)のうちの他の一部の燃料集合体の中の多数の静置制御棒の同じ炉心高さにある前記電磁石(88)のうちの他の電磁石の巻数とは異なるため、当該炉心高さにおける半径方向出力分布が所定の形状になることを特徴とする、請求項3の原子炉発電システム。
【請求項9】
前記中性子吸収磁気粘性流体はホウ素10またはガドリニウムを含む、請求項1の原子炉発電システム。
【請求項10】
前記中性子吸収磁気粘性流体の液体成分は放射線による分解に抵抗性のある粘性材料を含む、請求項1の原子炉発電システム。
【請求項11】
前記中性子吸収磁気粘性流体の液体成分は、ナトリウム、鉛、原子炉の動作温度を下回る温度で液体となる金属の混合物もしくは合金、有機油、硝酸塩または他の溶融塩から成る群より選択した1つ以上の材料を含む、請求項10の原子炉発電システム。
【請求項12】
前記電磁石(88)のうちの少なくとも一部の電磁石の磁場強度が、前記原子炉圧力容器の外にあるコントローラ(116)によって別個に制御される、請求項3の原子炉発電システム。
【請求項13】
原子燃料集合体(22)のシンブル管(84)に挿入されるように構成された静置制御棒であって、
中性子吸収磁気粘性流体を含む磁気粘性流体システムであって、当該静置制御棒沿いの離散的な軸方向位置にある当該磁気粘性流体の密度を増減させて炉心(14)の軸方向および半径方向の出力分布を制御するように構成された磁気粘性流体システムを具備する静置制御棒。
【請求項14】
前記自己給電型電源(86)が多数の同心円筒体から構成される自己給電型電源(86)であって、
前記自己給電型電源(86)の外壁(92)を形成するように構成された円筒形外殻リングと、
当該円筒形外殻リングにより互いに同心離隔関係に取り囲まれた1つ以上の円筒形コレクタリング(96)と、
当該円筒形外殻リング内に、当該コレクタリング(96)のうちの少なくとも1つと同心離隔関係取り囲まれた円筒形エミッタリング(98)と、
前記自己給電型電源(86)の内壁(100)を形成するように構成された円筒形内殻リングと、
当該円筒形外殻リング、当該円筒形コレクタリング(96)、当該円筒形エミッタリング(98)および当該円筒形内殻リングの各々の間の空間に配置された電気絶縁材(102)と、
当該円筒形外殻リングと当該円筒形内殻リングとの間を延び、当該両リングの底部に固着された環状底殻リング(108)と、
当該円筒形外殻リングと当該円筒形内殻リングの間を延び、当該両リングに固着され、当該両リングの最上部から絶縁されている環状上殻リング(94)と、
当該円筒形エミッタリング(98)に電気接続され、当該環状上殻リング(94)から絶縁されて当該環状上殻リングを貫通するエミッタ電極(104)と、
当該1つ以上の円筒形コレクタリング(96)に電気接続され、当該環状上殻リング(94)から絶縁されて当該環状上殻リングを貫通するコレクタ電極(106)と
を具備する自己給電型電源(86)である、請求項4の原子炉発電システム
【請求項15】
前記自己給電型電源(86)の前記円筒形コレクタリング(96)少なくとも2つ同心関係あり、当該同心関係の円筒形コレクタリング(96)の間に前記円筒形エミッタリング(98)が離隔して配置されている、請求項14の原子炉発電システム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、米国特許法第119条(e)の下で、参照により本願に組み込まれる「MAGNETO-RHEOLOGICAL NUCLEAR REACTIVITY DISTRIBUTION CONTROL ELEMENTS」と題する2017年10月11日出願の米国仮特許出願第62/570,787号に基づく優先権を主張する。
本発明は概して原子炉に関し、具体的には原子炉の制御棒に関する。
【背景技術】
【0002】
加圧水で冷却される原子炉発電システムの一次側は、有用エネルギーを発生させるための二次回路から隔離されているが当該二次回路と熱交換関係にある閉回路である。一次側は、核分裂性物質を含む複数の燃料集合体と当該燃料集合体を支持する炉心内部構造とを収容する原子炉容器、熱交換蒸気発生器内の一次回路、加圧器の内部空間、加圧水を循環させるポンプおよび配管類を含み、これらの配管類は蒸気発生器およびポンプをそれぞれ独立に原子炉容器に接続する。原子炉容器と接続する蒸気発生器、ポンプおよび配管系から成る一次側の各部は、一次側ループを形成する。
【0003】
説明の目的のために、図1は炉心14を包囲する、蓋体12を備えたほぼ円筒形の原子炉圧力容器10を含む原子炉一次系を略示する。水などの原子炉冷却材は、ポンプ16により容器10に圧入され、炉心14を通過するとき熱エネルギーを吸収して、一般的に蒸気発生器と呼ばれる熱交換器18へ送られる。その熱エネルギーは蒸気駆動タービン発電機のような利用回路(図示せず)へ運ばれる。原子炉冷却材はその後、ポンプ16へ還流して、一次ループが完成する。一般的に、上述したようなループが複数個、原子炉冷却材配管20を介して単一の原子炉容器10に接続されている。
【0004】
図2は原子炉の一例をさらに詳細に示すものである。炉心14は互いに平行で垂直に延びる複数の燃料集合体22より成るが、その他の容器内部構造物は、説明の目的で、下部炉内構造物24と上部炉内構造物26とに分けることができる。従来設計の下部炉内構造物は、炉心コンポーネントおよび計装体を支持し、整列させ、案内するとともに、容器内の冷却材の流れ方向を定める機能を有する。上部炉内構造物は、燃料集合体22(簡略化のため2体だけ図2に示す)を拘束し、あるいは燃料集合体に二次的拘束手段を提供し、計装体と例えば制御棒28のようなコンポーネントを支持し、案内する。図2に例示する原子炉において、冷却材は1つ以上の入口ノズル30から原子炉容器10に流入し、当該容器と炉心槽32との間に画定される環状部を流下し、下部プレナム34で180度方向転換し、下部支持板37および燃料集合体が着座する下部炉心板36を上向きに貫流したあと、当該集合体の内部および周りを流動する。下部支持板37および下部炉心板36の代わりに、37と同じ高さで単一構造の下部炉心支持板を配置する設計もある。炉心とその周辺領域38を貫流する冷却材の流量は通常、毎秒約20フィートの流速で毎分400,000ガロン級の大きなものである。燃料集合体はその流れに起因する圧力降下と摩擦力によって持ち上げられる傾向にあるが、円形の上部炉心板40を含めた上部炉内構造物がその動きを押さえ付ける。炉心14を出た冷却材は上部炉心板40の下面を流れ、さらに複数の穴42を上向きに流れる。冷却材はその後、上方および半径方向に流れて1つ以上の出口ノズル44へ到達する。
【0005】
上部炉内構造物26は、容器または容器蓋体に取り付けて支持させることが可能であり、上部支持集合体46はその一部である。荷重は、上部支持集合体46と上部炉心板40との間を主として複数の支柱48によって伝えられる。支柱は、所定の燃料集合体22および上部炉心板40の孔42の上方において一直線に並んだ位置にある。
【0006】
一般的に駆動シャフト50および中性子毒物棒のスパイダ集合体52を含む直線方向に移動可能な制御棒28は、制御棒案内管54により、上部炉内構造物26を通り抜けて、整列関係にある燃料集合体22内へ案内される。案内管は、上部支持集合体46および上部炉心板40の最上部に固定されている。支柱48は、制御棒挿入能力に悪影響を与えかねない事故状況下での案内管の変形の抑制に寄与するように配列されている。
【0007】
図3は、参照数字22で総括表示する燃料集合体を垂直方向に短縮した形で示す立面図である。燃料集合体22は加圧水型原子炉に用いるタイプであり、下端部に下部ノズル58を備えた構造躯体を有する。下部ノズル58は、原子炉炉心領域において燃料集合体22を下部炉心板36上に支持する。燃料集合体22の構造躯体は、下部ノズル58に加えて、上端部の上部ノズル62と、上部炉内構造物中の案内管54と整列している複数の案内管またはシンブル84とを有する。案内管またはシンブル84は下部ノズル58と上部ノズル62との間を縦方向に延び、両端部はそれらのノズルに剛性的に固着されている。
【0008】
燃料集合体22はさらに、案内シンブル84の軸方向離隔位置に取り付けられた複数の横方向グリッド64と、当該グリッド64により横方向に離隔して支持された細長い燃料棒66の整列アレイとを有する。また、図3に示す燃料集合体22の中心部には、下部ノズル58と上部ノズル62との間を延びてそれらにより捕捉される計測管68が配置されている。このような部品の配置構成により、燃料集合体22は、部品の全体構成を壊すことなく容易に取り扱うことができる一体的なユニットを形成する。
【0009】
上述したように、燃料集合体22のアレイ状の燃料棒66は、燃料集合体の長さ方向に離隔したグリッド64により互いに離隔した関係に保持される。各燃料棒66は複数の原子燃料ペレット70を有し、両端部は上部端栓72および下部端栓74により閉じられている。ペレット70は、上部端栓72と積み重ねたペレットの最上部との間に位置するプレナムばね76により、積み重ねた形を保持する。核分裂性物質より成る燃料ペレット70は、原子炉の核反応を発生させる元である。ペレットを取り囲む被覆管は、核分裂生成物が冷却材に流入して原子炉システムをさらに汚染するのを防ぐ障壁として機能する。
【0010】
核分裂プロセスを制御するために、多数の制御棒78が、燃料集合体22の所定位置にある案内シンブル84内を往復移動可能である。上部ノズル62の上方に位置する棒クラスタ制御機構80が、複数の制御棒78を支持する。この制御機構は、内部にねじ溝がある円筒状のハブ部材82から複数のアーム68が放射状に延びる、図2に関して前述したスパイダ52の形をしたものである。各アーム68は制御棒78に相互接続されているため、制御棒機構80を作動させると、制御棒ハブ82に結合された制御棒駆動シャフト50の駆動力により、制御棒を、全て公知の態様で、案内シンブル84内で垂直方向に移動させ、燃料集合体22内の核分裂プロセスを制御することができる。
【0011】
「メカニカルシム」により原子炉の反応度を制御するシステムの機械設備の創設、運用、保守は、多額の投資と経常経費を要する。そのようなメカニカルシムシステムが遭遇する原子炉の安全性、信頼性および設備利用率に関わる負の事象は、膨大な件数に上る。本発明の目的は、従来型制御棒を不要にするかその必要性を減らすことにより、メカニカルシムシステムに付随する安全性(例えば棒の飛び出し)、供給、運転および保守の問題を軽減または解消することである。
【発明の概要】
【0012】
上記の目的は、原子炉圧力容器に収容される炉心が複数の原子燃料集合体より成り、各原子燃料集合体は軸方向長さを有する複数の細長い燃料棒が軸方向に離隔した複数のグリッドによって互いに離隔する整列アレイ状に保持されている原子炉発電システムによって達成される。当該グリッドは、当該燃料棒の間に散在する複数のシンブル管によって互いに縦列関係に支持され、当該シンブル管は、当該燃料棒の上方に位置する上部ノズルと当該燃料棒の下方に位置する下部ノズルとの間を延びて、当該上部ノズルおよび当該下部ノズルに固着されている。静置制御棒は、少なくとも一部の燃料集合体の中の少なくとも一部のシンブル管の中に配置される。当該静置制御棒は、中性子吸収磁気粘性流体を含む磁気粘性流体システムを収容する。当該磁気粘性流体システムは、当該静置制御棒沿いの離散的な軸方向位置にある当該磁気粘性流体の密度を増減させて炉心の軸方向および半径方向の出力分布を制御するように構成されている。
【0013】
一実施態様において、当該磁気粘性流体システムは、当該中性子吸収磁気粘性流体を収容して封止する内管を具備し、当該中性子吸収磁気粘性流体は、実質的に当該燃料棒の活性領域の全長に沿って延びる当該封止内管の軸方向長さの内部空間を実質的に占める。中性子吸収磁気粘性流体が占める当該封止内管の当該軸方向長さ沿いに複数の磁石が縦列離隔関係に支持されており、当該複数の磁石はそれぞれ強度が可変の磁場を発生させ、当該磁場の強度が大きくなると当該磁場の影響を受ける当該中性子吸収磁気粘性流体の密度が高くなり、当該磁場の強度が小さくなると当該磁場の影響を受ける当該中性子吸収磁気粘性流体の密度が低くなる。複数の磁石はそれぞれ電磁石であるのが好ましく、一実施態様において磁石はそれぞれ個別に自己給電型電源を有する。そのような一実施態様において、当該自己給電型電源は、当該自己給電型電源の周囲の放射線に応答して、対応する電磁石を付勢する電流を発生するように構成されている。当該周囲の放射線の強度が大きくなると当該磁場の強度が大きくなり、当該周囲の放射線の強度が小さくなると当該磁場の強度が小さくなるのが好ましい。
【0014】
別の実施態様において、電磁石はそれぞれ対応する磁気コイルから構成されており、各電磁石の相対強度は対応する磁気コイルの巻数によって決まる。好ましくは、封止内管の軸方向長さ沿いの一部の電磁石の巻数を、当該封止内管の軸方向長さ沿いの他の電磁石の巻数とは異なる値にして、対応する燃料集合体の軸方向出力分布が事前に計画された形状になるようにする。同様に、複数の原子燃料集合体のうちの一部の集合体の中の多数の静置制御棒の同じ炉心高さにある一部の電磁石の巻数を、複数の原子燃料集合体のうちの他の一部の燃料集合体の中の多数の静置制御棒の同じ炉心高さにある他の電磁石の巻数とは異なる値にして、当該炉心高さにおける半径方向出力分布が所定の形状になるようにする。
【0015】
当該中性子吸収磁気粘性流体の液体成分は、ホウ素10(B-10)またはガドリニウムを含んでよく、当該液体成分は、例えばナトリウム、鉛、または原子炉動作温度を下回る温度で液体となる金属化合物などの放射線による分解に抵抗性のある粘性材料を含んでよい。当該液体成分は、有機油、硝酸塩または他の溶融塩を含んでもよい。少なくとも一部の電磁石の磁場強度を、原子炉圧力容器の外あるコントローラによって別個に制御してもよい。
【0016】
本発明はまた、原子燃料集合体のシンブル管に挿入されるように構成された、中性子吸収磁気粘性流体を含む磁気粘性流体システムを具備する静置制御棒をも企図し、当該磁気粘性流体システムは、当該静置制御棒沿いの離散的な軸方向位置にある当該磁気粘性流体の密度を増減させて当該炉心の軸方向および半径方向の出力分布を制御するように構成されている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
本発明の詳細を、好ましい実施態様を例にとり、添付の図面を参照して以下に説明する。
【0018】
図1】本発明を適用できる原子炉システムの単純化した概略図である。
【0019】
図2】本発明を適用できる原子炉容器および炉内構造物の部分断面立面図である。
【0020】
図3】図示を明瞭にするために垂直方向に短縮し、部品を破断して示す燃料集合体の部分断面立面図である。
【0021】
図4A】本発明の或る特定の実施態様に基づく磁気粘性流体反応度装置および装置挿入機の概略図である。
図4B】本発明の或る特定の実施態様に基づく磁気粘性流体反応度装置および装置挿入機の概略図である。
図4C】本発明の或る特定の実施態様に基づく磁気粘性流体反応度装置および装置挿入機の概略図である。
【0022】
図5】本発明の或る特定の実施態様に基づく、磁気粘性流体中の中性子吸収粒子の分布を調節するための電磁コイルに電流を供給するために使用可能な円筒形電流発生器の概略上面図である。
【0023】
図6】本発明の或る特定の実施態様に基づく図5の装置の断面図である。
【0024】
図7】本発明の或る特定の実施態様に基づく、磁場分布が軸方向の出力分布形状に及ぼす影響を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、磁気粘性流体システムのような磁気粘性技術を用いて原子炉炉心内の中性子束の強度およびプロファイルを制御するものである。本発明の譲受人に譲渡された米国特許出願公開第2016/0232995号で記載されているように、磁気粘性流体は、磁場をかけると実効密度および組成特性が変化する流体である。本発明によると、使用する中性子吸収磁気粘性流体は、磁性粒子、液体成分および中性子吸収材を含む。磁性粒子はマイクロメートルまたはナノメートルのサイズで、球体または楕円体である。液体成分は、放射線による分解に抵抗性のある粘性材料でよい。或る特定の実施態様において、液体成分は、ナトリウム、鉛、または原子炉の動作温度を下回る温度で液体となる金属の混合物または合金を含む。別の実施態様において、液体成分は、有機油、硝酸塩または他の溶融塩を含む。中性子吸収材は、ホウ素10(B-10)およびガドリニウムから選択することができる。
【0026】
典型的な磁気粘性流体は、非常に小さな強磁性球体が或る種の粘性油の中で懸濁した状態にある。例えばマイクロメートルまたはナノメートル・サイズの球体または楕円体のような磁性粒子が、担体油の中にランダムに分散分布し、通常の環境で懸濁状態にある。しかし、磁場がかかると、微視的な粒子(通常は0.1~10マイクロメートルの範囲)は磁束線に沿って整列する。
【0027】
少なくとも一部の燃料集合体の中の少なくとも一部のシンブル管の内部に、磁気粘性流体システムを収容する静置制御棒が配置される。磁気粘性流体システムは、静置制御棒沿いの離散的な軸方向位置にある中性子吸収磁気粘性流体の密度を増減させることにより、炉心の軸方向および半径方向の出力分布を制御するように構成されている。
【0028】
本発明の重要な構成要素は、電源、磁石および中性子吸収磁気粘性流体である。図4A、4B、4Cは、本発明の一実施態様の概略図である。図4A、4B、4Cに示すこの実施態様の重要な構成要素は、円筒形電流発生器86、関連の電磁石コイルスタック88および磁気粘性流体シンブル90より成る新規な部分である。図5(上面図)および図6図5の矢印に沿う断面図)に略示する電流発生器86は、核反応によって生じる原子の散乱電子および他の荷電粒子の運動エネルギーを利用して電流発生器86のエミッタとコレクタの間に電位差を生ぜしめ、電流を発生させる自己給電型検出器(SPD)と同じ原理に基づくものである。そのような自己給電型検出器は、本発明の譲受人に譲渡された米国特許第8,681,920号に詳細に記載されている。電流発生器86は、多数の同心円筒体で構成される。ハウジングの外壁92を構成する円筒形外殻リングは、2つの離隔した円筒形コレクタリング96を取り囲み、この2つのコレクタリングの間に円筒形エミッタリング98が同心離隔関係で位置する。円筒形エミッタリング98は、主に白金のようなガンマ線感応材料で構成される。随意的に、ロジウムのような中性子感応材料あるいは炭化ホウ素やホウ化ケイ素のようなホウ素セラミック材料でエミッタを構成することも可能である。ハウジングの内壁100は円筒形内殻リングにより構成され、ハウジングの各円筒リング間の空間にはアルミナ絶縁材のような電気絶縁材102が配置されている。円筒形リングの下端部は底殻リング108により、また、円筒形リングの上端部は環状上殻リング94(例えばセラミック絶縁材リング)により蓋をされている。底殻リング108は、円筒形の外殻リングと内殻リングとの間を延びて、両リングの底部に固着されている。環状上殻リング94は、円筒形の外殻リングと内殻リングとの間を延びて、両リングの最上部に固着され、また両リングから絶縁されている。ハウジングの外壁、内壁および底壁とコレクタとは、鋼、ジルコニウムまたはインコネル製とすることができる。エミッタ電極またはピン104は、円筒形エミッタリング98に電気接続され、環状上殻リング94をその上殻リングから絶縁された状態で貫通する。コレクタ電極またはピン106は、円筒形コレクタリング96に電気接続され、環状上殻リング94をその上殻リングから絶縁された状態で貫通する。エミッタピン104とコレクタピン106との間に電流が発生する。電流発生器86からの電流は電磁石コイルスタック88に入力され、磁気粘性流体が存在するシンブル90内に磁場を発生させる。
【0029】
電流発生器86は、電磁石コイルスタック88の自己給電型電源である。電磁石コイルスタック88はそれぞれ別個に、自己給電型電源を具備することができる。自己給電型電源は、周囲の放射線に応答して、対応する電磁石コイルスタック88を付勢する電流を発生するように構成されている。
【0030】
シンブル90は、磁気粘性流体を含む外筒(シース)を有する。シースは、中性子吸収磁気粘性流体を内部に封止した内管である。封止内管は、磁気粘性流体内の磁場強度が最大になるようにジルコニウムのような非強磁性材料で構成される。封止内管は、実質的に、燃料棒の活性領域の全長にわたって延びる。中性子吸収磁気粘性流体は、封止内管の実質的に軸方向長さの内部空間を占める。複数の電磁石コイルスタック88が、軸方向縦列離隔関係に配置され、シンブル90の軸方向長さに沿う離散位置に支持されている。
【0031】
電磁石コイルスタック88はそれぞれ、対応する磁気コイルで構成されている。電磁石コイルスタック88はそれぞれ、強度が可変の磁場を発生させる。この磁場の相対強度は、当該磁気コイルの巻数と、複数の原子燃料集合体のうちの一部の集合体の中の多数の静置制御棒の同じ炉心高さにある一部の電磁石コイルスタック88の巻数とによって決まる。好ましくは、封止内管の軸方向長さ沿いの一部の電磁石の巻数を、当該封止内管の軸方向長さ沿いの他の電磁石の巻数とは異なる値に設定して、対応する燃料集合体の軸方向出力分布が事前に想定した形状になるようにする。同様に、複数の原子燃料集合体のうちの一部の集合体の中の多数の静置制御棒の同じ炉心高さにある一部の電磁石の巻数を、複数の原子燃料集合体のうちの他の一部の燃料集合体の中の多数の静置制御棒の同じ炉心高さにある他の電磁石の巻数とは異なる値に設定して、当該炉心高さにおける半径方向出力分布が所定の形状になるようにする。
【0032】
電流の強さは、電流発生器86の周囲の原子炉出力が増加すると大きくなる。その結果、磁気粘性流体内の磁場強度が増加し、中性子吸収磁気粘性流体の密度が高まる。磁場が強くなればなるほど、その電磁石コイルスタック88の制御領域にあるホウ化鉄の濃度が上昇する。磁気粘性中性子吸収材は、ガドリニウムのキュリー温度より低い温度で使用されるガドリニウム化合物で構成してもよい。その結果、B-10またはガドリニウムの濃度が高くなり、これが周囲の原子炉出力を下げる方向に働く。
【0033】
電流発生器が発生させる電流出力のベースライン強度とそれにより生じる磁場は、電流発生器要素に含まれるエミッタ材料の種類および量、ならびに電磁石コイルの巻線の数によって制御できる。磁気粘性流体の液体成分は、特製の有機油や、ナトリウムや鉛のような比較的低温で液化する金属の化合物などの、放射線による分解に抵抗性のある粘性材料で構成される。適当な材料として、硝酸塩や他の溶融塩がある。
【0034】
これら多数の要素は、既存のRCCA(棒クラスタ制御集合体)棒シンブルを用いる原子炉の最も多くてすべての燃料集合体に配置することができる。図4Cは、シンブルプラグ112またはWABA(湿式環状可燃性吸収体)集合体114に装置を取り付けた状況を例示する。供給電流の極性は、流体中の中性子吸収材の軸方向分布および密度を制御する磁場の打消しや増強が起こるように、燃料集合体内での使用に先立って設定するか、または運転時に変更することができる。磁気コイルスタック88の数、巻線密度および軸方向分布は、個々の燃料集合体の反応度分布の目標を達成するように設定できる。原子炉出力が相対的に最も高い領域にある電流発生器によって供給される電流強度により軸方向出力が相対的に最も高い軸方向位置のホウ素密度が増加するため、最も多くてすべての燃料集合体において軸方向の限定位置で生じうるピークkW/ft値が制限される。図7は、燃料集合体の正味反応度および軸方向反応度分布の目標を、軸方向位置に応じて磁場強度を調整することにより達成できることを例示したものである。図7は、磁場分布が軸方向出力分布の形状に与える影響を示す。同図は、活性燃料の最上部120と最下部122、典型的な軸方向出力分布124、および中間の電磁石が強力である場合の軸方向出力分布126を示す。起動時および停止時の変化のような全体的な核反応度の制御は、ケミカルシムおよび/または停止バンクの操作によって対処できる。
【0035】
これらの装置はまた、図4Bに参照符号116で象徴的に表すように、原子炉運転員が外部電源制御手段を利用して原子炉出力分布および原子炉出力レベルを制御するのを可能にする。この方策では、原子炉容器の外から装置に外部電源をつなぐ必要がある。そうすると、運転員または制御システムにより、原子炉内で所望の出力レベルおよび出力分布を得るために必要な磁気粘性流体の分布状態を生ぜしめる電流が発生する。この方策は、一体型電流発生器の代替として、またはそれと並行して使用できる。或る特定の実施態様では、原子炉圧力容器の外に設置されたコントローラが少なくとも一部の電磁石の磁場強度を制御するために使用される。
【0036】
上述した装置は、原子燃料からの放出放射線から回収される電気エネルギーおよび/または外部電源から供給される電力が発生させる磁場を用いて、燃料集合体内の中性子吸収流体の半径方向および軸方向分布を制御する。そうすることにより、原子炉の出力レベルおよび出力分布を制御する。これにより、既存の機械式制御棒およびその関連の棒制御系が本質的に不要になる。
【0037】
上述した装置を首尾よく実装すると、稼働中の発電所および次世代の発電所の制御棒使用に伴う運転コストが有意に削減されるか不要になる。この実装により、新規プラント設計における建設関連の大きな資本コスト要因が取り除かれる。首尾よく実装すると、燃料集合体の燃焼度の軸方向分布がはるかに均一になるため、燃料の利用効率がはるかに向上する。本発明を実装することで、負荷に効率よく追従する能力がはるかに向上し、発電事業者は発電収益を管理しやすくなる。
【0038】
さらに、上述した電流発生器86は、放射線源と組み合わせて、作動に電気を必要とする他の多くの装置の付勢にも利用可能な別の用途にも使用できる。また、この電流発生器86は、自己給電型中性子検出器としても使用できる。
【0039】
本発明の特定の実施態様について詳しく説明してきたが、当業者は、本開示書全体の教示するところに照らして、これら詳述した実施態様に対する種々の変更および代替への展開が可能である。したがって、ここに開示した特定の実施態様は説明目的だけのものであり、本発明の範囲を何ら制約せず、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲に記載の全範囲およびその全ての均等物を包含する。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7