(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-23
(45)【発行日】2023-01-31
(54)【発明の名称】液状吸湿剤
(51)【国際特許分類】
B01D 53/28 20060101AFI20230124BHJP
B01J 20/04 20060101ALI20230124BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20230124BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20230124BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20230124BHJP
【FI】
B01D53/28
B01J20/04 B
B01J20/04 A
B01J20/28 Z
C08K3/22
C08L83/04
(21)【出願番号】P 2020523212
(86)(22)【出願日】2019-06-07
(86)【国際出願番号】 JP2019022810
(87)【国際公開番号】W WO2019235630
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2022-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2018110200
(32)【優先日】2018-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000109037
【氏名又は名称】ダイニック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105821
【氏名又は名称】藤井 淳
(72)【発明者】
【氏名】松井 義由貴
(72)【発明者】
【氏名】大橋 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】大瀬 修雄
(72)【発明者】
【氏名】大山 兼人
【審査官】▲高▼ 美葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-335211(JP,A)
【文献】特開2013-110158(JP,A)
【文献】特開2017-124383(JP,A)
【文献】特開2004-273348(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/28
B01J 20/00
C08K 3/22
H05B 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸湿性粒子及びバインダーを含む液状組成物であって、
(1)前記バインダーが二液混合型のシリコーンを含み、かつ、前記シリコーンの含有量が20~70重量%であり、
(2)吸湿性粒子が、酸化カルシウム粒子及び酸化ストロンチウムの少なくとも1種を含み、かつ、酸化カルシウム粒子の比表面積が5~80m
2/gであり、酸化ストロンチウム粒子の比表面積が1~6m
2/gであり、
(3)
前記二液混合型のシリコーンの2つの液剤の反応後における前記液状組成物としての粘度(20℃)が10~300Pa・sである、
ことを特徴とする液状吸湿剤。
【請求項2】
二液混合型のシリコーンが付加型である、請求項1に記載の液状吸湿剤。
【請求項3】
前記シリコーンの含有量が23.8~62.5重量%であり、吸湿性粒子の含有量が37.5~76.2重量%である、請求項1に記載の液状吸湿剤。
【請求項4】
吸湿性粒子の平均粒径が0.1~50μmである、請求項1に記載の液状吸湿剤。
【請求項5】
大気中又は不活性ガス雰囲気中において、液状吸湿剤を電子機器の空間内に塗布し、硬化させる工程で用いられる、請求項1に記載の液状吸湿剤。
【請求項6】
吸湿剤が内蔵された電子機器を製造する方法であって、
(1)請求項1に記載の液状吸湿剤を大気中又は不活性ガス雰囲気中で電子機器の空間内に塗布する工程、
(2)不活性ガス含有雰囲気中又は大気中で前記空間を密閉する工程
を含むことを特徴とする電子機器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な液状吸湿剤に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の電子デバイスでは、外部から水分、ダスト等が侵入しないようにハウジングにより内部が密閉された状態になっている。この場合、ハウジング内部において微量の湿気が侵入又は発生した場合でも、それを除去できるように吸湿材料がハウジング内部に配置されることがある。例えば、有機ELのようなディスプレイ装置では、水分がダークスポット又はシュリンケージと呼ばれる非発光部を発生させる原因となることが知られている。このため、水分を嫌う電子デバイス等においては、水分を除去するために吸湿材料が必要不可欠とされている。
【0003】
吸湿材料としては、使用時において粉末状、シート状、液状等の各種の形態のものが知られている。この中でも、特に液状タイプは、所定の場所に塗布することにより吸湿材料を提供することができる。この点において、液状タイプは、配置場所(被塗布物の形状、大きさ、表面性状等)を選ばず、比較的自由に使えるので、他のタイプよりも有利とされている。
【0004】
このような液状タイプの吸湿材料としては、これまでに種々のものが開発されている。特に、吸湿性粒子をバインダー樹脂に分散させた液状吸湿剤が提案されている。
【0005】
例えば、シリコーン樹脂と、前記バインダー樹脂中に分散している酸化物粒子とを含有し、 前記酸化物粒子の少なくとも一部が、複数の一次粒子を含む二次粒子を形成しており、前記酸化物粒子の平均粒径が4μm以下であり、前記酸化物粒子の比表面積が5~60m2/gである乾燥剤が知られている(特許文献1)。
【0006】
また例えば、少なくとも一つの第一の吸湿性の無機酸化物の粒子、及びポリマーバインダーを含む乾燥剤組成物であって、前記粒子は外部表面を有し、少なくとも一つの第一の吸湿性の無機酸化物の前記粒子は、nが11より大きい整数である一般式CnH2n+1COO-のアニオンによって前記外部表面で官能化されることを特徴とする乾燥剤組成物が提案されている(特許文献2)。
【0007】
さらに、カルボン酸基及びポリアルキレンオキシド基からなる群より選択される少なくとも一つの官能基を有するシリコン共重合体と吸湿剤とを含むゲッター組成物が知られている(特許文献3)。
【0008】
その他にも、(A)透明重合体中に(B)平均粒子径が0.3μm以下の吸湿剤を含有し、上記(A)透明重合体は、ジエン系重合体、オレフィン系重合体、アクリル系重合体、ウレタン系重合体、ポリアミド系重合体、ポリエステル系重合体、塩化ビニル系重合体、フッ素系重合体及びシリコーン系重合体の1種又は2種以上である透明吸湿組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2017-124383
【文献】国際公開WO2013/182917
【文献】特表2015-509041
【文献】特開2006-272190
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来の液状吸湿剤は、所定の吸湿効果が得られるものの、被塗布物に塗布した場合、液状吸湿剤中の液体成分(特に油性成分)が被塗布物に浸み出し(オイルブリード)が生じ、外観不良を引き起こしたり、そのオイルブリードが品質上の問題を引き起こす原因となるおそれもある。
【0011】
従って、本発明の主な目的は、塗布後のオイルブリードが効果的に抑制された液状吸湿剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特に、特定組成からなる液状吸湿剤が上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、下記の液状吸湿剤に係る。
1. 吸湿性粒子及びバインダーを含む液状組成物であって、
(1)前記バインダーが二液混合型のシリコーンを含み、
(2)液状組成物としての粘度(20℃)が10~300Pa・sである、
ことを特徴とする液状吸湿剤。
2. 吸湿性粒子が、酸化カルシウム粒子及び酸化ストロンチウムの少なくとも1種を含む、前記項1に記載の液状吸湿剤。
3. 酸化カルシウム粒子の比表面積が5~80m2/gであり、酸化ストロンチウム粒子の比表面積が1~6m2/gである、前記項2に記載の液状吸湿剤。
4. 吸湿性粒子の平均粒径が0.1~50μmである、前記項1に記載の液状吸湿剤。
5. 前記シリコーンの含有量が20~70重量%である、前記項1に記載の液状吸湿剤。
6. 不活性ガス含有雰囲気中又は大気中において、液状吸湿剤を電子機器の空間内に塗布し、硬化させる工程で用いられる、前記項1に記載の液状吸湿剤。
7. 吸湿剤が内蔵された電子機器を製造する方法であって、
(1)請求項1に記載の液状吸湿剤を不活性ガス含有雰囲気中又は大気中で電子機器の空間内に塗布する工程、
(2)不活性ガス含有雰囲気中又は大気中で前記空間を密閉する工程
を含むことを特徴とする電子機器の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、塗布後のオイルブリードが効果的に抑制された液状吸湿剤を提供することができる。
【0015】
特に、本発明の液状吸湿剤は、二液混合型のシリコーンを完全硬化ではなく、いわば部分的に硬化させて一定の粘度に制御されていることから、それを被塗布物に塗布してもオイルブリードが起こりにくい。また同時に、液状であるため、粉末状、シート状等の吸湿剤に比べて使用時の制約(適用部位、表面性状等)が少なく、比較的自由に用いることができる。
【0016】
さらに、本発明の液状吸湿剤は、塗工の開始から終了までの間における塗工終了末端部が局部的に厚膜となる現象(いわゆる角立ち)が効果的に抑制されているので、より均一な塗膜を形成することができる。
【0017】
このような特徴を有する本発明の液状吸湿剤は、例えば電子材料、機械材料、自動車、通信機器、建築材料、医療材料、精密機器等のさまざまな用途への応用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】試験例2において、液状組成物(液状吸湿剤)をスリットヘッドから吐出することにより塗工する状態を示す模式図である。
図1(a)は吐出開始時のスリットヘッド位置、
図1(b)は吐出終了時のスリットヘッド位置、
図1(c)は移動停止時のスリットヘッド位置を示す。
【
図2】試験例2において、液状組成物(液状吸湿剤)からなる塗膜の角立ちを測定する部位を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1.液状吸湿剤
本発明の液状吸湿剤(本発明吸湿剤)は、吸湿性粒子及びバインダーを含む液状組成物であって、
(1)前記バインダーが二液混合型のシリコーンを含み、
(2)液状組成物としての粘度(20℃)が10~300Pa・sである、
ことを特徴とする。
【0020】
吸湿性粒子
吸湿性粒子としては、水分を実質的に不可逆的に吸収できる材料(例えば、本発明吸湿剤の使用雰囲気中で水分を実質的に不可逆的に吸収できる材料)であれば無機粒子又は有機粒子のいずれであっても良いが、特に無機粒子を好適に採用することができる。
【0021】
無機粒子としては、酸化バリウム(BaO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化ストロンチウム(SrO)等のアルカリ土類金属酸化物、硫酸リチウム(Li2SO4)、硫酸ナトリウム(Na2SO4)、硫酸カルシウム(CaSO4)、硫酸マグネシウム(MgSO4)、硫酸コバルト(CoSO4)、硫酸ガリウム(Ga2(SO4)3)、硫酸チタン(Ti(SO4)2)、硫酸ニッケル(NiSO4)等の硫酸塩が挙げられる。これらの中でも、安全性が高く、加工後の有毒ガスの発生がなく、吸湿速度が速く、シリコーンと混合しても吸湿性能が低下しにくいという点で、アルカリ土類金属酸化物の少なくとも1種を用いることが好ましく、特に酸化カルシウム(CaO)及び酸化ストロンチウム(SrO)の少なくとも1種を用いることがより好ましい。従って、本発明では、例えばa)酸化カルシウムを含み、かつ、酸化ストロンチウムを含まない場合、b)酸化カルシウム及び酸化ストロンチウムの両方を含む場合等を包含する。
【0022】
吸湿性粒子(粉末)の平均粒径は、用いる吸湿性粒子の種類等によって適宜変更できるが、通常は0.1~50μm程度とし、好ましくは1~30μmとし、より好ましくは2~15μmとする。従って、例えば平均粒径0.1~5μm程度とすることができ、さらに0.5~2μmとすることもできる。また例えば1μm以上4μm未満とすることもできる。特に、酸化カルシウムの場合は4~9μmとすることが好ましい。また、酸化ストロンチウムの場合は2~8μmとすることが好ましい。
【0023】
また、吸湿性粒子の比表面積は、用いる吸湿性粒子の種類等によって適宜変更できるが、通常は通常1~100m2/g程度とし、好ましくは2~90m2/gとし、より好ましくは2~85m2/gとする。特に、酸化カルシウムの場合は5~80m2/gとすることが好ましい。また、酸化ストロンチウムの場合は1~6m2/gとすることが好ましい。
【0024】
本発明吸湿剤中の吸湿性粒子の含有量は限定的ではないが、より良好な吸湿性を確保するこという見地より、通常は50~95重量%程度とし、好ましくは55~90重量%、より好ましくは60~85重量%とすれば良い。
【0025】
バインダー
本発明吸湿剤では、バインダーとして二液混合型のシリコーン(本発明バインダー)を含む。
【0026】
本発明バインダーは、上記のように二液混合型であれば良く、それ自体は公知又は市販のものを用いることができる。市販品としては、例えば東レ・ダウコーニング社製「EG-3100」、「CY52-276」、「CY52-272」、「EG-3000」、信越化学工業株式会社製「KE1013」、「KE200」、「KE-1012」,「KE-1063」等を用いることができる。二液混合型のシリコーンを用いて所定の粘度の範囲内とすることによって、オイルブリードを効果的に抑制ないしは防止することができる。これに対し、一液型のシリコーンの場合は、たとえ本発明の粘度範囲内であってもオリルブリードが発生しやすくなる。
【0027】
一般に、二液混合型(二液型ともいう。)のシリコーンは、その硬化反応の種類によって付加型と縮合型に大別されているが、本発明の効果を妨げない限りは、いずれも適用することができる。付加型は、例えば1分子中に少なくとも平均2個のアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサンと1分子中に少なくとも平均2個のケイ素原子を有するジオルガノポリシロキサンとが触媒の存在下でヒドロシリル化反応によって硬化するものである。縮合型は、例えばSi-OH、Si-OR(但し、Rは有機基を示す。)、SiH、SiCH=CH2等の反応基を有するシロキサンどうしを触媒の存在下で脱アルコール縮合反応させることによって硬化するものである。特に、本発明では、硬化反応時に水、アルコール等の副生物が生成しない又は生成しにくいという点で、付加型を採用することが望ましい。
【0028】
二液混合型では、混合後においては主剤、硬化剤(架橋剤)、触媒及びその他の添加剤が含まれることになるが、2つの液剤(A液及びB液という。)を混合することによって硬化が開始するように設計されている限り、主剤、硬化剤(架橋剤)、触媒及びその他の添加剤がA液及びB液のいずれに振り分けられていて良い。すなわち、二液混合型におけるA液及びB液の組成は特に限定されない。ただし、本発明では、A液及びB液の重量が異なる場合は、重量の大きい方をA液とすることが好ましい。
【0029】
ただし、本発明吸湿剤は、粘度(20℃)が10~300Pa・sであることが必要であるので、A液及びB液の混合比率を上記粘度の範囲となるように調整することが必要である。
【0030】
本発明吸湿剤中における本発明バインダーの含有量は、用いるバインダーの種類等に応じて適宜変更できるが、通常は20~70重量%とし、特に30~40重量%とすることが好ましい。
【0031】
また、バインダーとしては、本発明の効果を妨げない限り、本発明バインダー以外のバインダーが含まれていても良いが、バインダー中における本発明バインダーの含有量を通常は90~100重量%とし、特に95~100重量%とすることがより好ましく、その中でも98~100重量%とすることが最も好ましい。
【0032】
なお、本発明バインダー以外のバインダーとしては、例えばポリオレフィン系、ポリアクリル系、ポリアクリロニトリル系、ポリアミド系、ポリエステル系、エポキシ系、ポリカーボーネート系等が挙げられる。これらは、公知又は市販のものを使用することができる。
【0033】
その他の成分
本発明吸湿剤では、本発明の効果を妨げない範囲内で、必要に応じて他の成分を適宜添加することもできる。例えば、界面活性剤、帯電防止剤、顔料、指示薬、香料、滑剤フィラー、酸化防止剤等が挙げられる。これらも粉末の形態であることが好ましい。
【0034】
本発明吸湿剤の形態・性状
本発明吸湿剤は液状であり、特に粘度(20℃)が10~300Pa・s(好ましくは50~240Pa・s)である点に特徴を有する。すなわち、バインダーとして二液混合型のシリコーンを用いたうえで上記のような粘度範囲に制御することによって、オイルブリードを効果的に抑制又は防止しつつ、塗布形状の維持、塗工性等において良好な効果を得ることができる。上記粘度が10Pa・s未満の場合は、塗布形状を保つことが困難となる。また、上記粘度が300Pa・sを超えると、加工性が悪く、塗布自体が難しくなる。従って、上記のような効果が得られる限りは、例えば粘度(20℃)を80~300Pa・s程度に設定したり、例えば90~290Pa・s程度に設定することもできる。
【0035】
なお、本発明における粘度測定にあたっては、JIS K5600-2-3に準拠する方法で、ずり速度を1~100S-1の範囲内とし、1S-1、2.15S-1、4.64S-1、10S-1、21.5S-1、100S-1のときの20℃での粘度を測定した。特に、本発明では、ずり速度10S-1のときの粘度を示す。
【0036】
本発明吸湿剤における粘度は、二液混合型シリコーンの2つの液(A液,B液)の配合量を調整しながら混合することによって制御することができる。例えば、A液全量に対して最も高い粘度が達成されるB液の添加量(通常の市販品では、B液の全量)を100重量部とすると、B液1~80重量部をA液に混合することによって、適度な粘度を得ることができる。B液の最適な添加量は、二液混合型のシリコーン製品によって異なるため、例えばA液にB液を添加しつつ、そのつどA液及びB液の混合液の粘度(20℃)を逐次測定しながらB液の添加量を増加させることにより所定の粘度を得ることができる。
【0037】
2.液状吸湿剤の製造方法
本発明吸湿剤は、吸湿性粒子(粉末)及び二液混合型シリコーン(A液,B液)を含む原料を混合することによって得ることができる。
【0038】
用いる吸湿性粒子(粉末)及び二液混合型シリコーンの種類、配合割合等は、前記で説明した内容と同様にすれば良い。
【0039】
また、吸湿性粒子(粉末)、A液、B液の混合順序は限定的ではなく、a)吸湿性粒子とA液を混合した後にB液を混合する工程を含む方法、b)吸湿性粒子とB液を混合した後にA液を混合する工程を含む方法、c)A液とB液とを混合した後、吸湿性粒子を混合する工程を含む方法等のいずれであっても良い。
【0040】
特に、本発明では、A液とB液との反応をより確実に進行させるという点で、上記c)の方法をより好ましく採用できる。すなわち、A液とB液とを混合した後、一定時間をかけて反応させた後、吸湿性粒子を添加することによって、オイルブリードがよりいっそう効果的に抑制された液状吸湿剤を得ることができる。この場合の反応時間は、用いる二液混合型シリコーンの種類等に応じて例えば常温付近(特に5~30℃程度)では1~72時間の範囲内で設定することができるが、これに限定されない。
【0041】
得られた液状吸湿剤は、A液とB液との反応が完了していない状態であるため、経時的な粘度増加が生じにくい状態となっている。すなわち、従来品のように熱硬化を回避するたに冷蔵保管等を行う必要がなく、例えば常温付近(例えば5~30℃程度)の範囲内でも保管することができる。
【0042】
3.液状吸湿剤の使用
本発明吸湿剤の使用方法は、特に限定されず、例えば使用時に二液混合型のシリコーンのA液及びB液を混合し、さらに吸湿性粒子を混合した後、得られた液状組成物を本発明吸湿剤として用いて被塗布物表面に塗布すれば良い。
【0043】
本発明吸湿剤の塗布方法は、特に限定されず、例えば刷毛、ヘラ、コテ、ノズル、ニードル等を用いて手作業で塗布する方法のほか、バーコーター、ドクターブレード、スプレー、スリットコーター等のコーティング装置により塗布する方法のいずれであっても良い。これらの方法は、被塗布物の大きさ、形状等に応じて適宜選択することができる。
【0044】
本発明吸湿剤の塗布量は、限定的ではなく、塗布部位等に応じて適宜設定すれば良いが、通常は塗布厚み(最終目標厚み)が50~500μm程度、さらには80~100μm程度となるように調整すれば良い。
【0045】
本発明吸湿剤は、使用時は液状であるが、特に二液混合型のシリコーンの作用によって半硬化状態となるので、特に硬化工程を実施しなくても本発明吸湿剤による塗膜を被塗布物上に固定することができる。
【0046】
必要に応じて、本発明吸湿剤を塗布した後、常温付近又は加熱下でのエージングを行っても良い。エージングの雰囲気としては、特に制限されることはなく、例えば被塗布物等の材質等に応じて大気中、不活性ガス中等での条件を適宜選択すれば良い。
【0047】
また、本発明吸湿剤の塗膜を形成した後又は上記エージング後、必要に応じて、塗膜を硬化させることもできる。すなわち、本発明吸湿剤は、例えば本発明吸湿剤の塗膜を形成する工程及び前記塗膜を硬化させる工程を含む方法によっても使用することができる。これによって、被塗布物表面に本発明吸湿剤の硬化皮膜が形成される。硬化方法は、特に限定されず、例えば熱による硬化等を採用することができる。
【0048】
被塗布物は、雰囲気中の水分を吸収すべき空間(密閉空間)を構成する部材であれば限定的でなく、例えば各種の電子製品(通信機器、医療機器、事務機器、家電等)に搭載される電子機器に用いることができる。特に、水分除去の必要性が高いディスプレイ装置(例えば、有機電界発光素子、プラズマディスプレイ、液晶ディスプレイ、無機発光ダイオード、電界放出ディスプレイ等)に好適に用いることができる。これらのハウジング内に本発明吸湿剤を適用することにより、ハウジング内にて存在又は発生する水分を吸収・除去できる。
【0049】
4.電子機器の製造方法
本発明は、吸湿剤が内蔵された電子機器を製造する方法であって、
(1)本発明の液状吸湿剤を不活性ガス含有雰囲気中又は大気中で電子機器の空間内に塗布する工程(塗布工程)、
(2)不活性ガス含有雰囲気中又は大気中で前記空間を密閉する工程(密閉工程)
を含むことを特徴とする電子機器の製造方法を包含する。
【0050】
塗布工程
塗布工程では、本発明の液状吸湿剤を不活性ガス含有雰囲気中又は大気中で電子機器の空間内(ハウジング内)に塗布する。
【0051】
本発明吸湿剤の塗布方法、塗布量等は、前記で説明した内容に従えば良い。また、電子機器としても、前記で例示したものを好適に採用することができる。
【0052】
不活性ガス含有雰囲気中で塗布する場合、その不活性ガスとしては、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等を例示することができる。また、不活性ガスの割合は、通常80~100体積%程度の範囲内で適宜設定することができる。
【0053】
密閉工程
密閉工程では、不活性ガス含有雰囲気中又は大気中で前記空間を密閉する。すなわち、空間を外気から遮断して密閉空間を形成する。
【0054】
密閉工程は、基本的に窒素ガス等の不活性ガス含有雰囲気で酸素濃度と水分濃度が極めて低い雰囲気下で実施されるが、加工工程によっては大気中(常温及び常湿下)で実施しても良い。
【0055】
不活性ガス含有雰囲気中で密閉する場合、その不活性ガスとしては、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等を例示することができる。また、不活性ガスの割合は通常80~100体積%の範囲内で適宜設定することができるが、これに限定されない。
【0056】
また、密閉する方法自体は、公知の方法に従って実施することができる。例えば、エポキシ樹脂、紫外線硬化樹脂等の接着剤を使用して行い、必要に応じてヒートシール、紫外線照射、溶接等を実施することにより密閉することができる。
【実施例】
【0057】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0058】
実施例1
表1に示す組成となるように、吸湿性粒子(酸化カルシウム粉末a)及び二液混合型シリコーンaを均一に混合することにより、液状組成物を調製した。この場合、二液混合型シリコーンとしては、A液100重量部に対してB液30重量部を混合し、常温及び常湿下で24時間反応させた後に上記粉末と混合した。
【0059】
実施例2
二液混合型シリコーンaとして、A液100重量部に対してB液40重量部を混合したほかは、実施例1と同様にして液状組成物を調製した。
【0060】
実施例3
吸湿性粒子として酸化カルシウム粉末a及び酸化ストロンチウム粉末を用い、表1に示す組成となるように混合したほかは、実施例1と同様にして液状組成物を調製した。
【0061】
実施例4
吸湿性粒子として酸化カルシウム粉末a及び酸化ストロンチウム粉末を用い、表1に示す組成となるように混合したほかは、実施例1と同様にして液状組成物を調製した。
【0062】
実施例5
吸湿性粒子として酸化カルシウム粉末a及び酸化ストロンチウム粉末を用い、表1に示す組成となるように混合したほかは、実施例1と同様にして液状組成物を調製した。
【0063】
実施例6
吸湿性粒子である酸化カルシウム粉末として平均粒径2μmで比表面積が60m2/gの酸化カルシウム粉末bを用い、表1に示す組成となるように混合したほかは、実施例3と同様にして液状組成物を調製した。
【0064】
実施例7
二液混合型シリコーンaに代えて二液混合型シリコーンbを用いたほかは、実施例6と同様にして液状組成物を調製した。
【0065】
比較例1
二液混合型シリコーンに代えて一液硬化型シリコーンを用い、表1に示す組成となるように混合したほかは、実施例1と同様にして液状組成物を調製した。
【0066】
比較例2~4
吸湿性粒子として酸化カルシウム粉末a及び酸化ストロンチウム粉末を用い、表1に示す組成となるように混合したほかは、比較例1と同様にして液状組成物を調製した。
【0067】
比較例5
表1に示すように、バインダーとして一液硬化型シリコーンを含む市販の液状吸湿剤を比較例5とした。
【0068】
【0069】
なお、表1中の各成分は、以下の製品又は製法により得られたものを使用した。
(1)酸化ストロンチウム粉末:水酸化ストロンチウムを減圧下700℃で12時間焼成して平均粒径5μmで比表面積は5m2/gの酸化ストロンチウムを得た。
(2)酸化カルシウム粉末a:水酸化カルシウムを減圧下500℃で15時間焼成して平均粒径5μmで比表面積は60m2/gの酸化カルシウムaを得た。
(3)酸化カルシウム粉末b:上記(2)の酸化カルシウム粉末aを粉砕することにより平均粒径2μmで比表面積は60m2/gの酸化カルシウム粉末bを得た。
(4)二液混合型シリコーンa:信越化学株式会社製「KE-1013」(A液及びB液からなる付加反応型の二液タイプ)なお、表1中におけるA液及びB液の比率は、A液の全量を100重量部、B液の全量を100重量部とした場合の比率を示す。
(5)二液混合型シリコーンb:東レ・ダウコーニング社製「CY52-276」(A液及びB液からなる付加反応型の二液タイプ)なお、表1中におけるA液及びB液の比率は、A液の全量を100重量部、B液の全量を100重量部とした場合の比率を示す。
(6)一液硬化型シリコーン: 東レ・ダウコーニング社製「EG-3810」(一液タイプ)
【0070】
試験例1
各実施例及び比較例で得られた液状組成物について、吸湿性、粘度及びオイルブリード性を調べた。その結果を表1に示す。なお、各物性は、以下のようにして測定した。
【0071】
(1)吸湿性
窒素ガスで満たされた露点-40℃以下のグローブボックス中で、ガラス板に液状組成物を塗布した試験片(32mm×42mmで厚み0.3mm)を作製した。この試験片の重量を温度10~30℃及び湿度30~70%雰囲気下にて精密天秤で測定する(この測定値をW0とする)。また、グローブボックス中で作製時のガラス板の重量を差し引いた液体組成物のみの重量をWsとする。次に、前記試験片を温度23℃及び湿度50%RHの恒温恒湿チャンバーに24時間静置し、精密天秤を用いて温度10~30℃及び湿度30~70%雰囲気下で試験片の重量を測定する(この測定値をWtとする)。そのうえで、次式により吸湿性(A)を算出した。
A=[(Wt-Wo)/Ws]×100
【0072】
(2)粘度
株式会社アントンパール社製「MCR302ST」粘度計で、直径25mmでコーン角度2度のコーンプレートを使用し、JIS K5600-2-3に準拠する方法で、ずり速度1~100S-1の範囲内の1S-1、2.15S-1、4.64S-1、10S-1、21.5S-1、100S-1のときの20℃での粘度を測定した。この中で10S-1のときの値を表1に示す。
【0073】
(3)オイルブリード性
サンドブラストガラス(表面粗さ2.4~2.9μm)の表面に液状組成物を0.040~0.042gを滴下した後、その液滴の上からカバーガラス(大きさ24mm×24mm、厚み120~170μm)を載せて手指で軽く押さえた。その後、温度21℃及び相対湿度60%RHの条件下で1~3日間かけてサンドブラストガラス面に広がるオイルブリードの幅をマイクロスコープを使用して測定した。
オイルブリード幅が500μm未満の場合を「◎」、オイルブリード幅が500μm以上1000μm以下の場合を「○」、オイルブリード幅が1000μmを超える場合を「×」と評価した。
【0074】
試験例2
実施例3~7及び比較例5の液状組成物において、その塗工時に生じる角立ちの程度を調べた。その結果を表2に示す。
【0075】
試験方法の概要を
図1に示す。
図1(a)に示すように、移動式のスリットヘッド(ノズル)11から液状組成物10aが吐出され、スリットヘッドが矢印方向に水平移動しながらガラス板12上に液状組成物10が塗布される。その結果、
図1(b)のように液状組成物による塗膜10がガラス板12の塗布領域12a上に形成される。
図1(c)に示すように、スリットヘッド11は、塗膜10が形成された後に吐出を止めながらさらに非塗布領域12b上を移動した後に停止する。
【0076】
塗布が完了した後、
図2に示すように、得られた塗膜10の側面の角立ちの高さを測定した。測定方法は、塗膜の底面から角立ちの頂点までの距離Aと、角立ちのない塗膜面における塗膜厚みBとを計測し、角立ちの高さhを式「h=A-B」で求めた。その結果を表2に示す。
【0077】
ここで用いた装置及び塗工条件は、以下のとおりである。なお、塗工条件は、下記の範囲内において、対象とする液状組成物の角立ちが最も低くなるような条件に設定した。
<使用装置>
ディスペンサー装置:製品名「SM200-SX」武蔵エンジニアリング株式会社製
エアーディスペンサー:製品名「ML-5000XII」
スリットヘッド:幅10mm×厚み0.300mm
非接触厚み計測定部:製品名「LK-G35」
非接触厚み計表示部:製品名「LK-GD500」
<塗工条件>
塗工距離:20mm
クリアランス:0.200mm
非塗布領域(距離):+2mm又は0mm
吐出圧:250~500kPa
移動速度:5~10mm/秒
【0078】
【0079】
表1の結果からも明らかなように、二液混合型のシリコーンを含む実施例1~7の液状組成物は、吸湿性が良好であるとともに、塗布後のオイルブリードが効果的に抑制されていることがわかる。
また、表2の結果からも明らかなように、実施例3~7の液状組成物は、非塗工領域12bの有無にかかわらず、比較例5の液状組成物よりも角立ちを効果的に抑制できることがわかる。また、非塗工領域がある場合は、角立ちをより効果的に抑制できることがわかる。すなわち、水平移動するスリットヘッド(ノズル)による塗布工程において、スリットヘッドから液状組成物の吐出を停止する時もスリットヘッドをそのまま水平移動させる工程を含む方法を採用することによって、塗膜の角立ちをほぼ確実に防止できることがわかる。