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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-23
(45)【発行日】2023-01-31
(54)【発明の名称】心電計測システムおよび心電送信機
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/332 20210101AFI20230124BHJP
   A61B 5/33 20210101ALI20230124BHJP
【FI】
A61B5/332
A61B5/33 300
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020528772
(86)(22)【出願日】2019-06-18
(86)【国際出願番号】 JP2019024104
(87)【国際公開番号】W WO2020008864
(87)【国際公開日】2020-01-09
【審査請求日】2022-04-11
(31)【優先権主張番号】P 2018129081
(32)【優先日】2018-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592059448
【氏名又は名称】原田電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100189555
【弁理士】
【氏名又は名称】徳山 英浩
(74)【代理人】
【識別番号】100100479
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 三喜夫
(72)【発明者】
【氏名】中野 敦行
(72)【発明者】
【氏名】木下 良治
(72)【発明者】
【氏名】比恵島 徳寛
(72)【発明者】
【氏名】内田 智之
(72)【発明者】
【氏名】原田 証英
【審査官】門田 宏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/024495(WO,A1)
【文献】特開2006-136405(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/318 - 5/366
A61B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
心電信号を検出する心電信号検出回路、および心電信号を無線送信する無線通信回路を含み、被検者の身体に装着される装着型の心電送信機と、
前記心電送信機から無線送信される心電信号を受信する端末と、を備えた心電計測システムであって、
前記心電送信機は、心電信号に同期した同期信号を生成し、該同期信号を前記端末に送信し、
前記端末は、受信した同期信号から心電信号の統計量を演算し、該統計量が予め定めた範囲外であるか否かを判断し、
前記心電送信機は、前記統計量が予め定めた範囲外である場合に心電信号に基づいた心電図データを前記端末に送信し、一方、前記統計量が予め定めた範囲内である場合には該心電図データを前記端末に送信しないことを特徴とする心電計測システム。
【請求項2】
前記端末から無線送信される心電図データを受信して保存するホスト装置をさらに備える請求項に記載の心電計測システム。
【請求項3】
前記統計量は、予め定めた時間内における心拍数の平均値、最小値、最大値、メジアン値、最頻値、分散および標準偏差からなるグループから選択された少なくとも1つのパラメータである請求項に記載の心電計測システム。
【請求項4】
前記心電送信機は、前記統計量が予め定めた範囲内である場合でも、予め定めた時間間隔で心電図データの一部を前記端末に送信する請求項に記載の心電計測システム。
【請求項5】
心電信号を検出する心電信号検出回路と、
心電信号を外部の端末に無線送信する無線通信回路とを備え、被検者の身体に装着される装着型の心電送信機であって、
心電信号に同期した同期信号を生成し、該同期信号を前記端末に送信し、
前記端末によって該同期信号から演算された心電信号の統計量が予め定めた範囲外である場合に心電信号に基づいた心電図データを前記端末に送信し、一方、前記統計量が予め定めた範囲内である場合には該心電図データを前記端末に送信しないことを特徴とする心電送信機。
【請求項6】
前記統計量は、予め定めた時間内における心拍数の平均値、最小値、最大値、メジアン値、最頻値、分散および標準偏差からなるグループから選択された少なくとも1つのパラメータである請求項に記載の心電送信機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検者の心臓状態を監視できる心電計測システムおよび該システムで使用される心電送信機に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓疾患を有する被検者に、通信機能を備えた携帯型心電計を装着して、心電図データをリアルタイムで移動端末に連続送信し、さらにサーバーが、移動端末から送信される心電図データを受信し、そして被検者に不整拍動が発生した場合、サーバー上で不整拍動発生時刻をマーキングして医師の診断を促進するための心電図監視システムが提案されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
また、不整脈が発生した場合、被検者に装着された検出装置が、計測中の心電図内に不整脈を示す異常波形が含まれていることを検出して、検出信号を被検者の周囲の通信端末に向けて送信することによって、被検者の周囲の人に注意を促し、不整脈に対して迅速に対処するよう促すことができるアラームシステムが提案されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-19840公報
【文献】特開2017-209482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に係るシステムでは、携帯型心電計は心電図データをリアルタイムで移動端末に連続して送信しているため、消費電力が大きくなる傾向がある。消費電力の増大は、長期間(例えば、1ヶ月以上)連続して測定することの障壁となり、これを実現するためには、電池と電池を内蔵する携帯型心電計の大型化や重量増加が避けられない。長期間連続して身体へ装着される携帯型心電計の大型化や重量増加は、被検者にとって取扱いの不便に繋がる。
【0006】
特許文献2に係るシステムでは、携帯型検出装置は、計測中の心電図内に不整脈を示す異常波形が含まれていることをリアルタイムで検出して、検出信号を使用者の周囲の通信端末に向けて送信している。そのため不整脈を検出するための信号処理やアルゴリズムが極めて複雑になり、同様に消費電力が大きくなる傾向がある。さらに、心電図を外部へ送信する機能がないため、医師が心電図を詳細に診断することはできない。
【0007】
本発明の目的は、被検者の心臓状態を長期間に渡って監視できる心電計測システムを提供することである。
【0008】
また本発明の目的は、消費電力が少なく、電池および装置の小型化、軽量化が図られる心電送信機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
また本発明は、心電信号を検出する心電信号検出回路、および心電信号を無線送信する無線通信回路を含み、被検者の身体に装着される装着型の心電送信機と、
前記心電送信機から無線送信される心電信号を受信する端末と、を備えた心電計測システムであって、
前記心電送信機は、心電信号に同期した同期信号を生成し、該同期信号を前記端末に送信し、
前記端末は、受信した同期信号から心電信号の統計量を演算し、該統計量が予め定めた範囲外であるか否かを判断し、
前記心電送信機は、前記統計量が予め定めた範囲外である場合に心電信号に基づいた心電図データを前記端末に送信し、一方、前記統計量が予め定めた範囲内である場合には該心電図データを前記端末に送信しないことを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、心電信号を統計処理して統計量を演算しているため、信号処理やアルゴリズムが簡素化できる。また、統計量が予め定めた範囲内(例えば、正常な範囲内)である場合には心電図データを端末に送信しないことによって、データ送信に要する電力を節約できる。そのため、消費電力が少なく、電池および装置の小型化、軽量化が図られ、被検者の心臓状態を長期間に渡って監視することが可能になる。
【0013】
本発明において、前記端末から無線送信される心電図データを受信して保存するホスト装置をさらに備えることが好ましい。
【0014】
本態様によれば、ホスト装置に心電図データが保存されるため、ホスト装置を心電送信機および端末から遠隔な場所に設置した場合でも、医師が被検者の心電図を遠隔的かつ詳細に診断することが可能になる。
【0015】
本発明において、前記統計量は、予め定めた時間内における心拍数の平均値、最小値、最大値、メジアン値、最頻値、分散および標準偏差からなるグループから選択された少なくとも1つのパラメータであることが好ましい。
【0016】
本態様によれば、これらの統計量は、簡素な信号処理やアルゴリズムで演算できるため、消費電力を低減できる。
【0017】
本発明において、前記心電送信機は、前記統計量が予め定めた範囲内である場合でも、予め定めた時間間隔で心電図データの一部を前記端末に送信することが好ましい。
【0018】
本態様によれば、統計量が予め定めた範囲内である場合でも、予め定めた時間間隔で心電図データの一部を端末に送信することによって、被検者の心電図を簡略的に診断することが可能になる。
【0021】
また本発明は、
心電信号を検出する心電信号検出回路と、
心電信号を外部の端末に無線送信する無線通信回路とを備え、被検者の身体に装着される装着型の心電送信機であって、
心電信号に同期した同期信号を生成し、該同期信号を前記端末に送信し、
前記端末によって該同期信号から演算された心電信号の統計量が予め定めた範囲外である場合に心電信号に基づいた心電図データを前記端末に送信し、一方、前記統計量が予め定めた範囲内である場合には該心電図データを前記端末に送信しないことを特徴とする。
【0022】
本発明によれば、心電信号を統計処理して統計量を演算しているため、信号処理やアルゴリズムが簡素化できる。また、統計量が予め定めた範囲内(例えば、正常な範囲内)である場合には心電図データを端末に送信しないことによって、データ送信に要する電力を節約できる。そのため、消費電力が少なく、電池および装置の小型化、軽量化が図られ、被検者の心臓状態を長期間に渡って監視することが可能になる。
【0023】
本発明において、前記統計量は、予め定めた時間内における心拍数の平均値、最小値、最大値、メジアン値、最頻値、分散および標準偏差からなるグループから選択された少なくとも1つのパラメータであることが好ましい。
【0024】
本態様によれば、これらの統計量は、簡素な信号処理やアルゴリズムで演算できるため、消費電力を低減できる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、被検者の心臓状態を長期間に渡って監視できる心電計測システムを提供できる。また消費電力が少なく、電池および装置の小型化、軽量化が図られる心電送信機を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1Aは、本発明に係る心電送信機の一実施形態を示す斜視図であり、図1Bは、心電送信機が被検者の胸部に装着された状態の一例を示す説明図であり、図1Cは、端末のディスプレイに心電図が表示される状態の一例を示す説明図である。
図2】心電送信機の本体の外観の一例を示すものであり、図2Aは平面図、図2Bは電極パッドを取り外した状態を示す底面図である。
図3】心電送信機の電気的構成の一例を示すブロック図である。
図4】本発明に係る心電計測システムの一実施形態を示す構成図である。
図5】心電送信機および端末の動作の一例を示すフローチャートである。
図6】心電送信機および端末の動作の他の例を示すフローチャートである。
図7】心電送信機および端末の動作のさらに他の例を示すフローチャートである。
図8】心電送信機および端末の動作のさらに他の例を示すフローチャートである。
図9図9Aは心電図波形の一例を示すグラフであり、図9Bは心電図波形の同期パルスの一例を示すグラフである。
図10】心電送信機および端末の動作のさらに他の例を示すフローチャートである。
図11】心拍計および端末の動作の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して具体的に説明する。
【0028】
図1Aは、本発明に係る心電送信機1の一実施形態を示す斜視図である。図1Bは、心電送信機1が被検者PAの胸部に装着された状態の一例を示す説明図である。図1Cは、端末50のディスプレイ51に心電図が表示される状態の一例を示す説明図である。
【0029】
心電送信機1の本体10には電源スイッチ11が設けられており、本体10の裏面側には3つの電極パッド2,3,4を装着することができる。こうした心電送信機1は、電極パッド2,3,4が被検者PAの胸部と電気的に接続されるように装着され、心電信号を計測することが可能になる。なお、被検者PAの心電信号を計測することが可能であれば、心電送信機1の外観形状は何ら限定されず、例えば、電極パッド2,3,4は本体10と着脱できない一体型であってもよく、電極パッドの数は2つ乃至3つ以上であってもよい。心電送信機1は、例えば、ブルートゥース(登録商標)(Bluetooth(登録商標))、NFC(Near Field Communication)、パーソナルエリアネットワーク(Personal Area Network: PAN)、無線LAN(Local Area Network)、WiFi(Wireless Fidelity)など、比較的近距離を想定した無線通信規格を経由して端末50と無線接続される。
【0030】
端末50は、例えば、スマートフォン、ハンドヘルドコンピュータ、タブレットPC、デスクトップPCなどで構成され、種々のソフトウェアがインストール可能であり、そのうち本発明に係る心電計測システムに特化した専用ソフトウェアをインストールすることによって、心電送信機1から無線送信される心電信号を受信して信号処理を施し、被検者PAの心電図や各種心電パラメータ(例えば、呼吸数RR、心拍数HRなど)をメモリに保存したり、ディスプレイ51に表示したり、外部のホスト装置(不図示)に転送することができる。端末50は、例えば、無線LAN(Local Area Network)、WiFi(Wireless Fidelity)、3G、4G(LTE)、5G、インターネットなど、比較的遠距離を想定した無線通信規格を経由してホスト装置と無線接続される。
【0031】
図2A図2Bは、心電送信機1の本体10の外観の一例を示すものであり、図2Aは平面図、図2Bは電極パッドを取り外した状態を示す底面図である。
【0032】
心電送信機1の本体10は、全体的に隅丸三角形状をなし、側面にはスライド式の電源スイッチ11が設けられる。図2Bに示すように、底面には電極パッド2,3,4と電気的にそれぞれ接続される端子12,13,14が設けられ、各端子12,13,14の近傍には電極パッド2,3,4と機械的にそれぞれ接続される一対のファスナ12a,13a,14aが設けられる。底面の中央には電池(例えば、ボタン型電池)を収納するための電池カバー15が設けられる。
【0033】
図3は、心電送信機1の電気的構成の一例を示すブロック図である。心電送信機1は、心電信号検出回路として、端子12,13,14と接続された差動アンプ21と、フィルタ22と、アンプ23と、R波検出回路24とを備え、さらに、振動センサ25と、A/D(アナログデジタル)変換器31およびメモリ32を内蔵したCPU(中央処理装置)30と、無線通信回路26と、アンテナ27と、電源回路33などを備える。
【0034】
差動アンプ21は、中央に位置する電極パッド3で生ずる電位をグランド電位として、電極パッド2で生ずる電位と電極パッド4で生ずる電位との差分を増幅して、心電信号を検出する機能を有する。これによりノイズである同相成分を抑制し、信号である逆相成分を増幅できる。
【0035】
フィルタ22は、ドリフトノイズなどの低周波ノイズを抑制するハイパスフィルタと、筋電図信号などの高周波ノイズを抑制するローパスフィルタと、商用電源ノイズなどの特定の周波数成分を抑制するノッチフィルタなどを備える。
【0036】
アンプ23は、心電信号を増幅して、A/D変換器31の入力レンジに整合させる機能を有する。A/D変換器31は、心電信号をデジタル信号に変換し、デジタル信号はメモリ32に保存される。
【0037】
R波検出回路24は、心電図波形(図9A)のうち最も急峻なピークを有するR波の位置を検出して、その同期パルスSYN(図9B)を生成してCPU30に提供する。CPU30は、検出したR波の位置に基づいて、R波のピーク間隔であるRR(ミリ秒: ms)、単位時間当りの心拍数HR(拍動/分: bpm)などの各種心電パラメータを算出できる。CPU30はまた、R波に同期した同期パルスSYNを無線通信回路26を経由して端末50に無線送信することも可能である。
【0038】
振動センサ25は、3軸加速度センサを備え、被検者PAの呼吸数、歩数、活動レベルなど検出して、A/D変換器31を介してCPU30に提供する。
【0039】
CPU30は、予め設定されたプログラムに従って動作し、心電信号などの信号処理および装置全体の動作を制御する機能を有する。
【0040】
無線通信回路26は、ブルートゥース(登録商標)など、上述した無線通信規格に従って、心電信号などのデジタル信号やCPU30の通信コマンドを高周波信号に変調したり、端末50から受信した高周波信号をデジタル信号に復調する機能を有する。
【0041】
アンテナ27は、無線通信回路26からの高周波信号を送信したり、端末50からの高周波信号を受信する機能を有する。
【0042】
電源回路33は、電源スイッチ11、電池などを備える。
【0043】
図4は、本発明に係る心電計測システムの一実施形態を示す構成図である。心電計測システムは、上述した心電送信機1と、心電送信機1と無線通信する端末50と、端末50と無線通信するホスト装置70とを備える。心電送信機1および端末50は、患者の近くに設置され、一方、ホスト装置70は、通常は患者から遠隔の場所に待機している医療従事者の近くに設置される。
【0044】
図4を参照して、システム全体の動作について説明する。最初に、1)心電送信機1は、心電信号を統計処理して、予め定めた時間内における心拍数HRの平均値HRavを計算する。心拍数HRの平均値HRavが異常である場合、心電送信機1は、心電信号に基づいた心電図データを端末50に連続送信する。2)端末50は、心電図データを受信して、そのままホスト装置70に転送する。3)ホスト装置70は、転送された心電図データを保存し、医療従事者の診断のために提供する。
【0045】
図5は、心電送信機1および端末50の動作の一例を示すフローチャートである。ここでは、端末50が平均値HRavの正常または異常を判断する場合を説明する。心電送信機1を被検者PAの胸部に装着して、電源スイッチ11をオンにすると、ステップa1において初期化が行われ、例えば、心拍数HRの平均値HRavを計算する間隔などが初期設定される。また、端末50にインストールされた専用ソフトウェアを起動すると、ステップb1において初期化が行われ、例えば、心拍数HRの平均値HRavの正常範囲の上限および下限、心電図データの未送信時間の閾値、心電図データの一部送信のデータ量などが初期設定される。これら初期設定された数値のうち、少なくとも、心拍数HRの平均値HRavの正常範囲の上限および下限、心電図データの未送信時間の閾値は、例えば、被検者PAや医療従事者など人によって任意で設定される場合がある。なお、ブルートゥース(登録商標)の場合、初期化およびデータ送信の際に心電送信機1と端末50との間の通信確立が行われる(他のフローチャートも同様)。
【0046】
次に心電送信機1は、ステップa2において心電信号の計測を開始し、ステップa3において予め定めた時間内(例えば、1分間)における心拍数HRの平均値HRavを計算し、端末50に送信する。
【0047】
端末50は、ステップb2において心電送信機1から送信された心拍数HRの平均値HRavを受信し、続いてステップb3において平均値HRavが正常範囲(例えば、30~160bpm)内であるか否かが判断される。平均値HRavが正常範囲内であれば、ステップb6(詳細は後述する)を経由してステップb2に戻る。こうして平均値HRavが正常である場合、被検者PAは小康状態であると判断できるため、膨大なデータ量を有する心電図データを端末50に送信しないことによって、データ送信に要する電力を節約できる。
【0048】
一方、ステップb3において平均値HRavが正常範囲外である場合、被検者PAは重篤状態であると判断できるため、ステップb4に移行して、端末50は、心電図データの送信を心電送信機1に要求する。心電送信機1は、ステップa4において心電図データの要求命令を受信した後、心電信号に基づいた心電図データを端末50に連続的に送信する。端末50は、ステップb5において連続的に送信される心電図データを受信し、そのままホスト装置70に転送する。こうして平均値HRavが異常である場合、被検者PAの心電図データをもれなく医療従事者に提供することが可能になる。
【0049】
次にステップb6について説明する。ここでは、平均値HRavが正常範囲内であっても、心電図データの一部を端末50に送信する。即ち、端末50は、ステップb6において心電図データの未送信時間が予め定めた時間T1(例えば、1時間)を超えたか否かを判断する。心電図データの未送信時間が時間T1を超えた場合、ステップb7に移行して、端末50は、心電図データの一部(例えば、10拍分)を送信することを心電送信機1に要求する。心電送信機1は、ステップa5において心電図データの要求命令を受信した後、心電図データの一部だけを端末50に送信する。続いて端末50は、ステップb8において心電図データの一部を受信し、そのままホスト装置70に転送した後、ステップb2に戻る。こうして医療従事者は、被検者PAの心電図を簡略的に診断することが可能になる。
【0050】
なお、ここでは心電送信機1が心拍数HRの平均値HRavを計算する場合を説明したが、心電送信機1が計測したR波の数等の生体信号情報を端末50に送信し、端末50で受信した生体信号情報を用いて、端末50内のソフトウェアが心拍数HRの平均値HRavを算出することもできる。
【0051】
図6は、心電送信機1および端末50の動作の他の例を示すフローチャートである。ここでは、心電送信機1が平均値HRavの正常または異常を判断する場合を説明する。心電送信機1を被検者PAの胸部に装着して、電源スイッチ11をオンにすると、ステップc1において初期化が行われ、例えば、心拍数HRの平均値HRavを計算する間隔、心拍数HRの平均値HRavの正常範囲の上限および下限などが初期設定される。また、端末50にインストールされた専用ソフトウェアを起動すると、ステップc1において初期化が行われ、例えば、心電図データの未送信時間の閾値、心電図データの一部送信のデータ量などが初期設定される。なお、心拍数HRの平均値HRavの正常範囲は、端末50で入力し、心電送信機1に送信することによって初期設定することも可能である。
【0052】
次に心電送信機1は、ステップc2において心電信号の計測を開始し、ステップc3において予め定めた時間内(例えば、1分間)における心拍数HRの平均値HRavを計算し、端末50に送信する。端末50は、ステップd2において心電送信機1から送信された心拍数HRの平均値HRavを受信する。
【0053】
続いて心電送信機1は、ステップc4において平均値HRavが正常範囲(例えば、30~160bpm)内であるか否かが判断される。平均値HRavが正常範囲内であれば、ステップc3に戻る。こうして平均値HRavが正常である場合、被検者PAは小康状態であると判断できるため、膨大なデータ量を有する心電図データを端末50に送信しないことによって、データ送信に要する電力を節約できる。
【0054】
一方、ステップc4において平均値HRavが正常範囲外である場合、被検者PAは重篤状態であると判断できるため、ステップc5に移行して、心電送信機1は、心拍数HRの平均値HRavが異常であることを端末50に通知する。端末50は、ステップd4において心電図データの送信を心電送信機1に要求する。心電送信機1は、ステップc6において心電図データの要求命令を受信した後、心電信号に基づいた心電図データを端末50に連続的に送信する。端末50は、ステップd5において連続的に送信される心電図データを受信し、そのままホスト装置70に転送する。こうして平均値HRavが異常である場合、被検者PAの心電図データをもれなく医療従事者に提供することが可能になる。
【0055】
次にステップd3について説明する。ここでは、平均値HRavが正常範囲内であっても、心電図データの一部を端末50に送信する。即ち、端末50は、ステップd3において心電図データの未送信時間が予め定めた時間T1(例えば、1時間)を超えたか否かを判断する。心電図データの未送信時間が時間T1を超えた場合、ステップd6に移行して、端末50は、心電図データの一部(例えば、10拍分)を送信することを心電送信機1に要求する。心電送信機1は、ステップc7において心電図データの要求命令を受信した後、心電図データの一部だけを端末50に送信する。続いて端末50は、ステップd7において心電図データの一部を受信し、そのままホスト装置70に転送した後、ステップd2に戻る。こうして医療従事者は、被検者PAの心電図を簡略的に診断することが可能になる。
【0056】
なお、ここでは心電送信機1が心拍数HRの平均値HRavを計算する場合を説明したが、心電送信機1が計測したR波の数等の生体信号情報を端末50に送信し、端末50が受信した生体信号情報を用いて、端末50内のソフトウェアで心拍数HRの平均値HRavを算出することもできる。
【0057】
図7は、心電送信機1および端末50の動作のさらに他の例を示すフローチャートである。このフローチャートは、図6のフローチャートにおいてステップd2を省略し、ステップc3の代わりに、予め定めた時間内(例えば、1分間)における心拍数HRの平均値HRavを計算するが、データ送信を省略したステップc3aを行う。心電送信機1は、次のステップc4において平均値HRavの閾値判断を行うが、平均値HRavが正常である場合には端末50に何も送信しない。但し、心電図データの部分送信は実施する(ステップc7)。これによりデータ通信の頻度が減少して、消費電力の削減、電池の長寿命化が図られる。
【0058】
図8は、心電送信機1および端末50の動作のさらに他の例を示すフローチャートである。ここでは、心電送信機1が平均値HRavの正常または異常を判断するとともに、心電図データの未送信時間も判断する場合を説明する。心電送信機1を被検者PAの胸部に装着して、電源スイッチ11をオンにすると、ステップc1において初期化が行われ、例えば、心拍数HRの平均値HRavを計算する間隔、心拍数HRの平均値HRavの正常範囲の上限および下限などが初期設定される。また、端末50にインストールされた専用ソフトウェアを起動すると、ステップc1において初期化が行われ、例えば、心電図データの未送信時間の閾値、心電図データの一部送信のデータ量などが初期設定される。なお、心拍数HRの平均値HRavの正常範囲は、端末50で入力し、心電送信機1に送信することによって初期設定することも可能である。
【0059】
次に心電送信機1は、ステップc2において心電信号の計測を開始し、ステップc3aにおいて予め定めた時間内(例えば、1分間)における心拍数HRの平均値HRavを計算するが、データ送信は行わない。
【0060】
続いて心電送信機1は、ステップc4において平均値HRavが正常範囲(例えば、30~160bpm)内であるか否かが判断される。平均値HRavが正常範囲内であれば、ステップc4a(詳細は後述する)を経由してステップc3aに戻る。こうして平均値HRavが正常である場合、被検者PAは小康状態であると判断できるため、膨大なデータ量を有する心電図データを端末50に送信しないことによって、データ送信に要する電力を節約できる。
【0061】
一方、ステップc4において平均値HRavが正常範囲外である場合、被検者PAは重篤状態であると判断できるため、ステップc6に移行して、心電送信機1は、心電信号に基づいた心電図データを端末50に連続的に送信する。端末50は、ステップd5において連続的に送信される心電図データを受信し、そのままホスト装置70に転送する。こうして平均値HRavが異常である場合、被検者PAの心電図データをもれなく医療従事者に提供することが可能になる。
【0062】
次にステップc4aについて説明する。ここでは、平均値HRavが正常範囲内であっても、心電図データの一部を端末50に送信する。即ち、心電送信機1は、ステップc4aにおいて心電図データの未送信時間が予め定めた時間T1(例えば、1時間)を超えたか否かを判断する。心電図データの未送信時間が時間T1を超えた場合、ステップc7に移行して、心電送信機1は、心電図データの一部(例えば、10拍分)だけを端末50に送信する。続いて端末50は、ステップd7において心電図データの一部を受信し、そのままホスト装置70に転送した後、ステップd1の後に戻る。こうして医療従事者は、被検者PAの心電図を簡略的に診断することが可能になる。
【0063】
図10は、心電送信機1および端末50の動作のさらに他の例を示すフローチャートである。ここでは、心電送信機1が心電図波形の同期パルスSYNを生成して無線送信し、端末50がこの同期パルスSYNから平均値HRavを計算し、その正常または異常を判断する場合を説明する。心電送信機1を被検者PAの胸部に装着して、電源スイッチ11をオンにすると、ステップa1において初期化が行われ、例えば、R波の検出閾値などが初期設定される。また、端末50にインストールされた専用ソフトウェアを起動すると、ステップb1において初期化が行われ、例えば、心拍数HRの平均値HRavを計算する間隔、心拍数HRの平均値HRavの正常範囲の上限および下限、心電図データの未送信時間の閾値、心電図データの一部送信のデータ量などが初期設定される。これら初期設定された数値のうち、少なくとも、心拍数HRの平均値HRavの正常範囲の上限および下限、心電図データの未送信時間の閾値は、例えば、被検者PAや医療従事者など人によって任意で設定される場合がある。
【0064】
次に心電送信機1は、ステップa2において心電信号の計測を開始し、ステップa3aにおいてR波の同期パルスSYNを生成して端末50に送信する。
【0065】
端末50は、ステップb2aにおいて心電送信機1から送信された同期パルスSYNを受信し、次にステップb2bにおいてこの同期パルスSYNから心拍数HRの平均値HRavを計算し、続いてステップb3において平均値HRavが正常範囲(例えば、30~160bpm)内であるか否かが判断される。平均値HRavが正常範囲内であれば、ステップb6(詳細は図5のステップb6~b8に関する説明を参照)を経由してステップb2に戻る。こうして平均値HRavが正常である場合、被検者PAは小康状態であると判断できるため、膨大なデータ量を有する心電図データを端末50に送信しないことによって、データ送信に要する電力を節約できる。
【0066】
一方、ステップb3において平均値HRavが正常範囲外である場合、被検者PAは重篤状態であると判断できるため、ステップb4に移行して、端末50は、心電図データの送信を心電送信機1に要求する。心電送信機1は、ステップa4において心電図データの要求命令を受信した後、心電信号に基づいた心電図データを端末50に連続的に送信する。端末50は、ステップb5において連続的に送信される心電図データを受信し、そのままホスト装置70に転送する。こうして平均値HRavが異常である場合、被検者PAの心電図データをもれなく医療従事者に提供することが可能になる。
【0067】
なお、ここではR波に同期した同期パルスSYNを生成する場合を例示したが、代替として、図9Aに示す心電図波形のP波、Q波、S波またはT波に同期した同期パルスSYNを生成することも可能である。
【0068】
次に心電送信機1を応用した通信型の心拍計について説明する。心拍計は、心電信号の代わりに、血管内の血流量の変化を光学的に検出して心拍数を計測する機能を有し、例えば、胸、手首、腕、首などに装着される。図11は、心拍計および端末の動作の一例を示すフローチャートである。このフローチャートは、図6のフローチャートにおいてステップc6,c7,d2~d7を省略し、ステップc2の代わりに、心拍数の計測を開始するステップc2aを行い、さらにステップc3の代わりに、予め定めた時間内(例えば、1分間)における心拍数HRの平均値HRavを計算するが、データ送信を省略したステップc3aを行う。心拍計は、次のステップc4において平均値HRavの閾値判断を行うが、平均値HRavが正常である場合には端末50に何も送信せず、平均値HRavが異常である場合には、異常であることを端末50に通知し(ステップc5)、端末50は平均値HRavの異常通知を受信する(ステップd10)。これによりデータ通信の頻度がさらに減少して、消費電力の削減、電池の長寿命化が図られる。
【0069】
上述の実施形態では、心電信号の統計量として心拍数HRの平均値HRavを用いて被検者PAの状態を簡易的に監視する手法を例示したが、こうした統計量は、予め定めた時間内における心拍数の平均値、最小値、最大値、メジアン値、最頻値、分散および標準偏差からなるグループから選択された少なくとも1つのパラメータを使用してもよい。なお、平均値は、データの合計値をデータ数で除算した値である。最小値は、データの中で最も小さな値である。最大値は、データの中で最も大きな値である。メジアン値は、データを小さい順に並べたとき中央に位置する値であり、データが偶数個の場合は中央に近い2つの値の平均をとる。最頻値は、度数が最も多く現れるデータの値である。分散は、平均値と個々のデータとの差の2乗の平均値である。標準偏差は、分散の正の平方根である。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、被検者の心臓状態を長期間に渡って監視できる点で、産業上極めて有用である。
【符号の説明】
【0071】
1 心電送信機、 2,3,4 電極パッド、 10 本体、
11 電源スイッチ、 12,13,14 端子、
12a,13a,14a ファスナ、 15 電池カバー、
21 差動アンプ、 22 フィルタ、 23 アンプ、
24 R波検出回路、 25 振動センサ、 26 無線通信回路、
27 アンテナ、 30 CPU、 31 A/D変換器、
32 メモリ、 33 電源回路、 50 端末、
51 ディスプレイ、 70 ホスト装置、 PA 被検者、
SYN 同期パルス
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