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  • 特許-水系一次防錆塗料組成物およびその用途 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-23
(45)【発行日】2023-01-31
(54)【発明の名称】水系一次防錆塗料組成物およびその用途
(51)【国際特許分類】
   C09D 163/02 20060101AFI20230124BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20230124BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20230124BHJP
   C09D 5/10 20060101ALI20230124BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20230124BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20230124BHJP
【FI】
C09D163/02
C09D5/02
C09D7/61
C09D5/10
B05D5/00 Z
B05D7/24 302U
B05D7/24 303A
B05D7/24 303J
B05D7/24 303B
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020569616
(86)(22)【出願日】2020-01-27
(86)【国際出願番号】 JP2020002799
(87)【国際公開番号】W WO2020158670
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-07-05
(31)【優先権主張番号】P 2019015929
(32)【優先日】2019-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390033628
【氏名又は名称】中国塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】片岡 義朗
(72)【発明者】
【氏名】浦野 翔輝
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-271574(JP,A)
【文献】特開2012-224771(JP,A)
【文献】特開昭61-076556(JP,A)
【文献】特公昭48-044169(JP,B1)
【文献】特開昭55-028333(JP,A)
【文献】特開昭53-127533(JP,A)
【文献】特開昭58-133873(JP,A)
【文献】特開平05-214290(JP,A)
【文献】特表2015-520018(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 163/02
C09D 5/02
C09D 7/61
C09D 5/10
B05D 5/00
B05D 7/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系一次防錆塗料組成物であって、
該水系一次防錆塗料組成物は、ビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂(A)と、扁平状顔料(B)と、前記扁平状顔料(B)以外の防錆顔料(C)と、水とを含有し、
該水系一次防錆塗料組成物の不揮発分中の前記扁平状顔料(B)の含有量が40質量%以上であ
前記エポキシ樹脂(A)が、1分子中に2個以上のエポキシ基を含有するビスフェノールA型エポキシ樹脂であり、
亜鉛末の含有量が、前記水系一次防錆塗料組成物の不揮発分100質量%に対し、25質量%以下である、
水系一次防錆塗料組成物。
【請求項2】
前記扁平状顔料(B)のモース硬度が3.5以下である、請求項1に記載の水系一次防錆塗料組成物。
【請求項3】
前記扁平状顔料(B)が、タルクおよびマイカから選択される少なくとも1種を含有する、請求項1または2に記載の水系一次防錆塗料組成物。
【請求項4】
前記エポキシ樹脂(A)の数平均分子量が800以上である、請求項1~のいずれか1項に記載の水系一次防錆塗料組成物。
【請求項5】
さらにアミン硬化剤(D)を含有する、請求項1~のいずれか1項に記載の水系一次防錆塗料組成物。
【請求項6】
前記アミン硬化剤(D)が水溶性アミン化合物を含む、請求項に記載の水系一次防錆塗料組成物。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載の水系一次防錆塗料組成物から形成された一次防錆塗膜。
【請求項8】
基材と、請求項に記載の一次防錆塗膜とを有する一次防錆塗膜付き基材。
【請求項9】
基材に、請求項1~のいずれか1項に記載の水系一次防錆塗料組成物を塗装する工程、および
塗装された前記水系一次防錆塗料組成物を乾燥または硬化させて一次防錆塗膜を形成する工程
を有する一次防錆塗膜付き基材の製造方法。
【請求項10】
基材に、請求項1~のいずれか1項に記載の水系一次防錆塗料組成物を塗装する工程、
塗装された前記水系一次防錆塗料組成物を乾燥または硬化させて一次防錆塗膜を形成する工程、
前記一次防錆塗膜の70%以上を除去する工程、および
一次防錆塗膜の70%以上が除去された基材上に防食塗料を塗装する工程
を有する防食塗膜付き基材の製造方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一実施形態は、水系一次防錆塗料組成物およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、船舶、海洋構造物、プラント、橋梁、陸上タンク等の構造物、特に鉄鋼構造物を建造する際の発錆等を一時的に抑制する目的で、一次防錆塗料を用いて、これら構造物の材料となる基材表面に一次防錆塗膜を形成している。
【0003】
前記一次防錆塗料としては、例えば、ウォッシュプライマー、ノンジンクエポキシプライマー、エポキシジンクリッチプライマー等の有機防錆塗料、シロキサン系結合剤および亜鉛粉末を含有する無機ジンク防錆塗料が知られている。
【0004】
一次防錆塗膜付き基材を用いて構造物を建造する際には、溶接前に前記一次防錆塗膜の除去が要求される場合がある。また、国際海事機構(IMO)の塗装性能基準(PSPC)に適合しない一次防錆塗膜については、バラストタンクの製造に際し、一次防錆塗膜付き基材から、70%以上塗膜を除去する必要がある。これらの場合、一次防錆塗膜が容易に除去できることが求められている。
【0005】
また、前記一次防錆塗料には、作業環境面の改善が望まれており、揮発性有機化合物を低減した低VOC(Volatile Organic Compounds)型の塗料が特に望まれている。このような塗料としては、ハイソリッド溶剤系、無溶剤系、水系などの塗料が挙げられるが、比較的周囲の環境を汚染せず、火災発生の恐れがなく、人体への安全性に優れ、水希釈することで比較的薄膜に塗装できる点で、水系塗料が望まれている。
【0006】
このような一次防錆塗料として、特許文献1には、アミン硬化剤、水希釈性エポキシ樹脂および顔料を含む所定の水性コーティング組成物が記載され、該組成物は、非常に良好なサンダー仕上げ性を有することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平10-060369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述の通り、一次防錆塗膜には、一般的な防食塗膜と異なり、形成した塗膜を容易に除去できることが求められる場合があるが、前記従来の一次防錆塗料から形成される塗膜は、この塗膜の除去性の点で改良の余地があった。具体的には、従来の一次防錆塗料から形成された塗膜を除去する際には、多くの時間がかかったり、塗膜を除去する際に使用する研掃材に目詰まりが生じやすく、このことにより、塗膜の除去に時間がかかったり、研掃材の交換頻度が多くなり、経済性よく塗膜を除去することができなかった。
【0009】
なお、基材に一次防錆塗膜を形成する際は、基材をベルトコンベアなどで流しながら塗装を行うライン塗装が採用されることが多く、該ライン塗装では、一次防錆塗膜が形成された基材を積み重ねて保管等するため、形成される一次防錆塗膜には、このように積み重ねた際に張り付きが生じない積み重ね性(以下単に「積み重ね性」ともいう。)に優れることも求められている。
【0010】
本発明の一実施形態は、十分な防錆(防食)性を有し、塗膜除去性および積み重ね性に優れる一次防錆塗膜を形成できる水系一次防錆塗料組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、下記構成例によれば前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明の構成例は、以下の通りである。
【0012】
[1] ビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂(A)と、扁平状顔料(B)と、防錆顔料(C)(ただし、前記扁平状顔料(B)を除く)と、水とを含有する水系一次防錆塗料組成物であって、
該水系一次防錆塗料組成物の不揮発分中の前記扁平状顔料(B)の含有量が40質量%以上である、
水系一次防錆塗料組成物。
【0013】
[2] 前記扁平状顔料(B)のモース硬度が3.5以下である、[1]に記載の水系一次防錆塗料組成物。
[3] 前記扁平状顔料(B)が、タルクおよびマイカから選択される少なくとも1種を含有する、[1]または[2]に記載の水系一次防錆塗料組成物。
【0014】
[4] 前記エポキシ樹脂(A)が、ビスフェノールA骨格を有するエポキシ樹脂である、[1]~[3]のいずれかに記載の水系一次防錆塗料組成物。
[5] 前記エポキシ樹脂(A)の数平均分子量が800以上である、[1]~[4]のいずれかに記載の水系一次防錆塗料組成物。
【0015】
[6] 前記エポキシ樹脂(A)が、ポリオキシアルキレン鎖を有するアミン化合物で変性されたエポキシ樹脂、脂肪酸変性エポキシ樹脂、ビニル変性エポキシ樹脂および(メタ)アクリル変性エポキシ樹脂から選択される少なくとも1種である、[1]~[5]のいずれかに記載の水系一次防錆塗料組成物。
【0016】
[7] さらにアミン硬化剤(D)を含有する、[1]~[5]のいずれかに記載の水系一次防錆塗料組成物。
[8] 前記アミン硬化剤(D)が水溶性アミン化合物を含む、[7]に記載の水系一次防錆塗料組成物。
[9] [1]~[8]のいずれかに記載の水系一次防錆塗料組成物から形成された一次防錆塗膜。
[10] 基材と、[9]に記載の一次防錆塗膜とを有する一次防錆塗膜付き基材。
【0017】
[11] 基材に、[1]~[8]のいずれかに記載の水系一次防錆塗料組成物を塗装する工程、および
塗装された前記水系一次防錆塗料組成物を乾燥または硬化させて一次防錆塗膜を形成する工程
を有する一次防錆塗膜付き基材の製造方法。
【0018】
[12] 基材に、[1]~[8]のいずれかに記載の水系一次防錆塗料組成物を塗装する工程、
塗装された前記水系一次防錆塗料組成物を乾燥または硬化させて一次防錆塗膜を形成する工程、
前記一次防錆塗膜の70%以上を除去する工程、および
一次防錆塗膜の70%以上が除去された基材上に防食塗料を塗装する工程
を有する防食塗膜付き基材の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一実施形態に係る水系一次防錆塗料組成物によれば、十分な防錆(防食)性、特に薄膜(例:25μm以下)でも十分な防錆性を有し、積み重ね性に優れ、グラインダーやサンドペーパー等により塗膜を除去する際の目詰まりが起こりにくく、短時間で塗膜を除去可能な一次防錆塗膜を容易に形成することができる。
また、本発明の一実施形態に係る一次防錆塗料組成物は、低VOC型組成物とすることができ、速乾性に優れ、均一な薄膜(例:25μm以下)を容易に形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、下記実施例における塗膜除去作業後の、各評価基準における研掃材(ディスク)の状態の具体例を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
≪水系一次防錆塗料組成物≫
本発明の一実施形態に係る水系一次防錆塗料組成物(以下「本組成物」ともいう。)は、ビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂(A)と、扁平状顔料(B)と、防錆顔料(C)(ただし、前記扁平状顔料(B)を除く)と、水とを含有し、
本組成物の不揮発分中の前記扁平状顔料(B)の含有量が40質量%以上である組成物である。
このように、本組成物は、前記(A)~(C)および水を含み、特に、特定量の(B)を含むため、前述の効果を奏する。
【0022】
本組成物は、水系一次防錆塗料組成物である。ここで、「水系組成物」とは、水を含む組成物のことをいう。本組成物の必須成分である水は、前記エポキシ樹脂(A)または後述するアミン硬化剤(D)等が、水分散体の形態である場合の分散媒または水溶液の形態である場合の溶媒としての水であってもよいし、前記エポキシ樹脂(A)と、必須成分である扁平状顔料(B)、防錆顔料(C)や、任意成分であるアミン硬化剤(D)および「その他の成分」とを混合する調製過程において加える水、または「その他の成分」の添加剤等に含まれる水であってもよい。
【0023】
本組成物中の水の含有量は特に制限されないが、塗装環境や塗装者への影響が少なく、火災の恐れが少なく、容易に薄膜を形成できる等の点から、本組成物中の溶媒および分散媒100質量%中の水の含有量は、好ましくは50~100質量%、より好ましくは60~100質量%、特に好ましくは70~100質量%である。
また、十分に扁平状顔料(B)や防錆顔料(C)などの顔料成分を分散させることができ、塗装性に優れる組成物を容易に得ることができる等の点から、本組成物中の水の含有量は、好ましくは30~70質量%、より好ましくは30~60質量%である。
なお、本組成物は、塗装方法等に応じて、希釈して用いられることがあるが、本明細書における各説明は、下記VOC含量に関する記載以外、希釈される前についての説明である。
【0024】
本組成物は低VOC型塗料組成物であることが好ましい。
本発明において、「低VOC」とは、本組成物中に有機溶剤などのVOC成分を全く含まないか、または、ほとんど含まず、具体的には、塗装に適した粘度に調整した際の本組成物中のVOC含量が200g/L以下であることを意味する。なお、本組成物中のVOC含量は、好ましくは180g/L以下、より好ましくは150g/L以下である。
【0025】
本組成物中のVOC含量は、下記組成物比重および加熱残分の値を用い、下記式(1)から算出することができる。
VOC含量(g/L)=組成物比重×1000×(100-加熱残分-水分量)/100 ・・・(1)
【0026】
組成物比重(g/ml):23℃の温度条件下で、本組成物(本組成物が、主剤と硬化剤とからなる2成分型の組成物である場合、主剤と硬化剤とを混合した直後の組成物)を内容積100mlの比重カップに充満し、該組成物の質量を計量することで算出される値。
【0027】
加熱残分(質量%):本組成物(本組成物が、主剤と硬化剤とからなる2成分型の組成物である場合、主剤と硬化剤とを混合した直後の組成物)1gを平底皿に量り採り、質量既知の針金を使って均一に広げ、23℃で24時間放置後、105℃で3時間乾燥させた後、残渣および針金の質量を量ることで算出される質量百分率の値。本組成物の不揮発分と同義である。
水分量(質量%):本組成物100質量%中に含まれる、水の質量%。
【0028】
本組成物は、1成分型の組成物であってもよく、2成分型以上の多成分型の組成物であってもよい。例えば、前記エポキシ樹脂(A)として、後述するエポキシ樹脂(a1)を用いる場合、本組成物は、多成分型の組成物であってもよいが、保存容易性および塗装作業性に優れる等の点から、1成分型の組成物であることが好ましい。また、例えば、前記エポキシ樹脂(A)として、後述するエポキシ樹脂(a2)を用いる場合、本組成物は、保存安定性に優れる等の点から、多成分型の組成物であることが好ましい。
多成分型の組成物の場合、これらの各成分は、通常、それぞれ別個の容器にて保存、貯蔵、運搬等され、使用直前に混合して用いればよい。
【0029】
本組成物は、基材を一次防錆する目的で使用され、好ましくは鉄鋼構造物、具体的には、船舶、海洋構造物、プラント、橋梁、陸上タンク等の鉄鋼構造物に好適に用いられる。
また、本組成物の効果がより発揮される等の点から、ライン塗装に用いる組成物であることが好ましい。
【0030】
<ビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂(A)>
ビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂(A)としては特に制限されず、公知のビスフェノール型エポキシ樹脂や、該エポキシ樹脂の変性体を用いることができる。
該エポキシ樹脂(A)は、水を含む分散媒(以下「水性媒体」ともいう。)に分散させた水分散体、または水性媒体に溶解させた水溶液の形態で用いることが好ましい。
本組成物に用いるエポキシ樹脂(A)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0031】
前記水性媒体としては、水を含んでいれば特に制限されないが、該媒体中の水の含有量は、好ましくは25~100質量%、より好ましくは50~100質量%、特に好ましくは60~100質量%である。
【0032】
前記水性媒体には、水以外の媒体が含まれていてもよく、このような媒体としては、例えば、アセトン、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-ブトキシエタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、ジアセトンアルコール、ジオキサン、エチレングリコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテルが挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0033】
エポキシ樹脂(A)は、水性媒体に分散させた水分散体の形態で用いることが好ましく、水分散体の中でも、エマルションの形態で用いることがより好ましい。なお、本発明において、エマルションとは、樹脂を含む油滴を水性媒体に分散した乳濁液を意味する。
【0034】
前記エマルションを調製する方法としては、例えば、機械乳化法や、転相温度乳化法などによって水性媒体中でエポキシ樹脂(A)を強制的に乳化させる方法が挙げられる。この際には、乳化剤を使用することが好ましく、該乳化剤としては、例えば、アルキル型やアルキルフェノール型のノニオン系界面活性剤、リン酸エステル型、アルキルベンゼンスルホン酸塩型、スルホコハク酸塩型などのアニオン系界面活性剤が挙げられる。なお、これら乳化剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0035】
前記エマルション中のエポキシ樹脂(A)の含有量は特に制限されないが、通常20~90質量%、好ましくは30~80質量%である。
【0036】
前記ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂が挙げられるが、これらの中でも、防錆性により優れる塗膜を容易に得ることができる等の点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂が好ましい。
前記ビスフェノール型エポキシ樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0037】
エポキシ樹脂(A)としては、硬化剤を使用しなくても防錆性を発現する塗膜を形成可能な変性エポキシ樹脂(a1)、または、硬化剤と併用することで防錆性を発現する塗膜を形成可能なエポキシ樹脂(a2)であることが好ましい。
エポキシ樹脂(A)には、変性エポキシ樹脂(a1)とエポキシ樹脂(a2)とが含まれていてもよいが、通常、どちらか一方のみを含むことが好ましい。
【0038】
エポキシ樹脂(A)の数平均分子量(Mn)は、速乾性に優れる組成物を容易に得ることができ、防錆性、積み重ね性等に優れる塗膜を容易に得ることができる等の点から、800以上であることが好ましい。
【0039】
本明細書における数平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用いて測定される。該GPCの条件は以下の通りである。
(GPC条件)
・装置:「HLC-8120GPC」(東ソー(株)製)
・カラム:「SuperH2000」および「SuperH4000」(いずれも東ソー(株)製、6mm(内径)、15cm(長さ))
・溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
・流速:0.500ml/min
・検出器:RI
・カラム恒温槽温度:40℃
・標準物質:ポリスチレン
【0040】
〈変性エポキシ樹脂(a1)〉
前記変性エポキシ樹脂(a1)は、保存容易性および塗装作業性に優れる組成物を容易に得ることができる等の点から、硬化剤を使用しなくても防錆性を発現する塗膜を形成できるように変性された樹脂が挙げられ、さらに、形成する塗膜の耐水性等を考慮し、乳化剤の使用を減らす等の目的で変性された樹脂であってもよい。変性エポキシ樹脂は、例えば、前記ビスフェノール型エポキシ樹脂のエポキシ基を、アミン化合物、脂肪酸、グリシジル基含有ビニルモノマーおよび(メタ)アクリル化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物等で変性させて得ることができる。
【0041】
なお、変性エポキシ樹脂(a1)は、本組成物から形成される塗膜の耐水性や、耐候性等の点から、変性されずに残存するエポキシ基数が少ないことが好ましい。具体的には、変性エポキシ樹脂(a1)のエポキシ当量は、好ましくは2,200以上、より好ましくは3,000以上である。
前記エポキシ当量はJIS K 7236:2001に基づいて算出される。
【0042】
なお、一般的に、エポキシ基を有さない樹脂であっても、エポキシ基を有する化合物を原料としていれば、「エポキシ」を含む通称が使用される。本発明でも同様に、原料であるエポキシ基を有する化合物(例:ビスフェノール型エポキシ樹脂)のエポキシ基が全て変性された、エポキシ基を有さない樹脂であっても、「変性エポキシ樹脂」という。
【0043】
前記変性エポキシ樹脂(a1)の数平均分子量(Mn)は、所望の塗膜物性に応じて選択すればよいが、数平均分子量の下限値は、好ましくは800以上、より好ましくは1,500以上であり、数平均分子量の上限値は、好ましくは100,000以下、より好ましくは70,000以下、特に好ましくは30,000以下である。
Mnが前記範囲にあると、速乾性に優れる組成物を容易に得ることができ、防錆性、積み重ね性等に優れる塗膜を容易に得ることができる。
Mnが800未満である変性エポキシ樹脂(a1)を水分散体の形態で用いる場合、得られる組成物の乾燥・硬化に比較的時間がかかる場合があり、ライン塗装などにおいて、塗膜が形成された基材を積み重ねる際に張り付きが生じやすくなる場合がある。
【0044】
前記変性エポキシ樹脂(a1)において、変性される前の前記ビスフェノール型エポキシ樹脂のMnは、所望の塗膜物性に応じて選択すればよいが、Mnの下限値は、好ましくは400以上、より好ましくは800以上であり、Mnの上限値は、好ましくは6,000以下、より好ましくは5,000以下、特に好ましくは3,500以下である。
なお、変性される前の前記ビスフェノール型エポキシ樹脂は、予め重合し、Mnを前記範囲内に調整したものでも構わない。
Mnが前記範囲にあると、速乾性に優れる組成物を容易に得ることができ、防錆性、積み重ね性等に優れる塗膜を容易に得ることができる。
Mnが400未満である前記ビスフェノール型エポキシ樹脂を変性して得た変性エポキシ樹脂(a1)を水分散体の形態で用いる場合、得られる組成物の乾燥・硬化に比較的時間がかかる場合があり、ライン塗装などにおいて、塗膜が形成された基材を積み重ねる際に張り付きが生じやすくなる場合がある。
【0045】
エポキシ樹脂(A)として、変性エポキシ樹脂(a1)を用いる場合、本組成物中の変性エポキシ樹脂(a1)の不揮発分の含有量は、速乾性により優れる組成物を容易に得ることができ、防錆性により優れる塗膜を容易に得ることができる等の点から、本組成物の不揮発分100質量%に対し、好ましくは5~50質量%、より好ましくは10~45質量%である。
【0046】
前記変性エポキシ樹脂(a1)としては、具体的には、ポリオキシアルキレン鎖を有するアミン化合物で変性されたエポキシ樹脂、脂肪酸変性エポキシ樹脂、ビニル変性エポキシ樹脂、(メタ)アクリル変性エポキシ樹脂が挙げられる。これらの中でも、速乾性に優れる組成物を容易に得ることができ、防錆性、塗膜硬度および積み重ね性等にバランスよく優れる塗膜を容易に得ることができる等の点から、ポリオキシアルキレン鎖を有するアミン化合物で変性されたエポキシ樹脂が好ましい。
なお、(メタ)アクリル変性エポキシ樹脂とは、エポキシ樹脂を、アクリル化合物および/またはメタクリル化合物を用いて変性した樹脂のことをいう。
【0047】
[ポリオキシアルキレン鎖を有するアミン化合物で変性されたエポキシ樹脂]
前記ポリオキシアルキレン鎖を有するアミン化合物で変性されたエポキシ樹脂は、例えば、1種または2種以上のビスフェノール型エポキシ樹脂と、1種または2種以上のポリオキシアルキレン鎖を有するアミン化合物とを反応させることで得ることができる。
【0048】
前記ポリオキシアルキレン鎖を有するアミン化合物としては、例えば、下記構造式(2)で表される化合物が挙げられる。
構造式(2)中のRは水素原子またはメチル基を表し、XおよびYは繰り返し数を表し、分子量が後述の好ましい値になるように任意に選択される。
【0049】
【化1】
【0050】
前記ポリオキシアルキレン鎖を有するアミン化合物の分子量は、安定性、塗膜の仕上り性および防錆性に優れる組成物を容易に得ることができる等の点から、重量平均分子量(Mw)が、好ましくは400~3,000、より好ましくは500~1,100である。また、同様の点から、数平均分子量(Mn)が、好ましくは400~4,500、より好ましくは500~2,500である。
【0051】
前記ポリオキシアルキレン鎖を有するアミン化合物としては、市販品を用いてもよく、該市販品としては、例えば、「ジェファーミン M-600」(ハンツマン社製、重量平均分子量:600)、「ジェファーミン M-1000」(ハンツマン社製、重量平均分子量:1,000)、「ジェファーミン M-2005」(ハンツマン社製、重量平均分子量:2,000)、「ジェファーミン M-2070」(ハンツマン社製、重量平均分子量:2,000)が挙げられる。これらの中でも、「ジェファーミン M-600」、「ジェファーミン M-1000」が特に好ましい。
【0052】
前記ポリオキシアルキレン鎖を有するアミン化合物の使用量は、水性媒体への分散性に優れる樹脂を容易に得ることができ、耐水性に優れる塗膜を容易に得ることができる等の点から、変性前のビスフェノール型エポキシ樹脂100質量部に対し、好ましくは1~50質量部、より好ましくは4~30質量部である。
【0053】
前記ポリオキシアルキレン鎖を有するアミン化合物で変性されたエポキシ樹脂は、例えば、1種または2種以上のアルキレングリコールと、1種または2種以上の多価イソシアネート化合物を反応させた後、イソシアネート残基を1種または2種以上のポリオキシアルキレン基を有するアミン化合物と反応させて、さらにこれを1種または2種以上のエポキシ樹脂と反応させることで得ることができる。
また、このようにして得られた樹脂を機械乳化法や、転相温度乳化法などによって水性化した樹脂を、前記ポリオキシアルキレン鎖を有するアミン化合物で変性されたエポキシ樹脂として用いてもよく、該樹脂を含む水分散体を用いると、防食性に優れる塗膜を容易に得ることができる。
前記ポリオキシアルキレン鎖を有するアミン化合物で変性されたエポキシ樹脂としては、例えば、特許第5575295号に記載の樹脂を用いることができる。
【0054】
[脂肪酸変性エポキシ樹脂]
前記脂肪酸変性エポキシ樹脂は、例えば、1種または2種以上のビスフェノール型エポキシ樹脂と、1種または2種以上の脂肪酸とを反応させ、さらに必要に応じて、得られた反応生成物における脂肪酸の不飽和部と、カルボキシル基を含有するラジカル重合性不飽和単量体を含む、1種または2種以上のラジカル重合性不飽和単量体とを、反応させることで得ることができる。
また、このようにして得られた樹脂と塩基性化合物とを用い、該樹脂中のカルボキシル基を中和処理することで水性化した樹脂を前記脂肪酸変性エポキシ樹脂として用いてもよく、該樹脂を含む水分散体を用いると、耐水性に優れる塗膜を得ることができる。
【0055】
前記脂肪酸変性エポキシ樹脂としては、例えば、特開2011-72966号公報に記載の樹脂を用いることができる。
【0056】
[ビニル変性エポキシ樹脂]
前記ビニル変性エポキシ樹脂としては、例えば、1種または2種以上のビスフェノール型エポキシ樹脂と、1種または2種以上のグリシジル基含有ラジカル重合性不飽和単量体と、アミン化合物と、カルボキシル基を含有するラジカル重合性不飽和単量体を含む、1種または2種以上のラジカル重合性不飽和単量体とを反応させることで得ることができる。
また、このようにして得られた樹脂と塩基性化合物とを用い、該樹脂中のカルボキシル基を中和処理することで水性化した樹脂を前記ビニル変性エポキシ樹脂として用いてもよく、該樹脂を含む水分散体を用いると、耐水性に優れる塗膜を得ることができる。
【0057】
[(メタ)アクリル変性エポキシ樹脂]
前記(メタ)アクリル変性エポキシ樹脂は、例えば、1種または2種以上のビスフェノール型エポキシ樹脂と、1種または2種以上のカルボキシル基含有ラジカル重合性不飽和単量体または重合体と、さらに必要に応じて1種または2種以上のラジカル重合性不飽和単量体とを反応させることで得ることができる。
また、このようにして得られた樹脂と塩基性化合物とを用い、該樹脂中のカルボキシル基を中和処理することで水性化した樹脂を前記(メタ)アクリル変性エポキシ樹脂として用いてもよく、該樹脂を含む水分散体を用いると、速乾性に優れる組成物を容易に得ることができ、耐候性に優れる塗膜を得ることができる。
【0058】
前記ビニル変性エポキシ樹脂および前記(メタ)アクリル変性エポキシ樹脂としては、例えば、特開2012-1785号公報に記載の樹脂を用いることができる。
【0059】
〈エポキシ樹脂(a2)〉
前記エポキシ樹脂(a2)としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を含有するビスフェノールA型エポキシ樹脂であることがより好ましい。
【0060】
前記エポキシ樹脂(a2)のエポキシ当量は、所望の塗膜物性に応じて適宜選択すればよいが、好ましくは400以上、より好ましくは400~6,000、さらに好ましくは400~3,000である。
エポキシ当量が前記範囲にあると、速乾性に優れる組成物を容易に得ることができ、防錆性等に優れる塗膜を容易に得ることができる。
なお、エポキシ当量はJIS K 7236:2001に基づいて算出される。
【0061】
前記エポキシ樹脂(a2)の数平均分子量(Mn)は、所望の塗膜物性に応じて適宜選択すればよいが、好ましくは800以上、より好ましくは800~6,500、さらに好ましくは800~5,600である。
Mnが前記範囲にあると、速乾性に優れる組成物を容易に得ることができ、防錆性等に優れる塗膜を容易に得ることができる。
【0062】
前記エポキシ樹脂(a2)のエポキシ当量が400未満であり、かつ、Mnが800未満であると、組成物の乾燥・硬化に比較的時間がかかり、ライン塗装などにおいて、塗膜が形成された基材を積み重ねる際に張り付きが生じやすくなる場合がある。
【0063】
前記エポキシ樹脂(a2)としては、市販品を用いてもよい。前記エポキシ樹脂(a2)の水分散体の市販品としては、例えば、「BECKOPOX EP384w/53WAMP」、「BECKOPOX 2307w/45WAMP」(いずれもAllnex社製)が挙げられる。
【0064】
エポキシ樹脂(A)として、エポキシ樹脂(a2)を用いる場合、本組成物中のエポキシ樹脂(a2)の不揮発分の含有量は、速乾性に優れる組成物を容易に得ることができ、防錆性および基材との密着性等に優れる塗膜を容易に得ることができる等の点から、本組成物の不揮発分100質量%に対し、好ましくは1~50質量%、より好ましくは5~50質量%、特に好ましくは10~50質量%である。
【0065】
<扁平状顔料(B)>
扁平状顔料(B)としては特に制限されないが、通常、板状の構造を持つ無機顔料である。
扁平状顔料(B)を用いることで、防錆性、積み重ね性および塗膜除去性等に優れる塗膜を形成可能な組成物を得ることができる。
本組成物に用いる扁平状顔料(B)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0066】
扁平状顔料(B)のモース硬度は、塗膜除去性により優れる塗膜を容易に形成できる等の点から、好ましくは3.5以下、より好ましくは1~3.5、特に好ましくは1~2である。
モース硬度は2つの鉱物をこすり合わせ、どちらの鉱物が傷つくかを測ることによって得られる相対的な値である。モース硬度が前記範囲内である扁平状顔料(B)の例としては、タルク(モース硬度:1)、マイカ(モース硬度:2~3)が挙げられる。
【0067】
扁平状顔料(B)の平均アスペクト比の下限は、好ましくは6以上である。上限は、好ましくは150以下、より好ましくは120以下である。
アスペクト比が前記範囲にあると、扁平状顔料(B)が塗膜に対して水平に配向しやすく、このことにより、塗膜除去性、耐塩水性および耐湿性等により優れる塗膜を形成することができる。
【0068】
扁平状顔料(B)のアスペクト比は、走査電子顕微鏡(SEM)、例えば、「TM 3030 Plus Miniscope」((株)日立ハイテクノロジーズ製、卓上SEM)を用いて、任意の100個の扁平状顔料(B)の厚みと主面における最大長さとを測定し、これらの比(主面における最大長さ/厚み)の平均値を求めることで算出できる。
なお、前記扁平状顔料(B)の厚みは、該顔料の主面(最も面積の大きい面)に対して水平方向から観察することで測定することができ、また、前記扁平状顔料(B)の主面における最大長さは、例えば、主面が四角形状であれば対角線の長さ、主面が円状であれば直径、主面が楕円状であれば長軸の長さのことを意味する。
【0069】
扁平状顔料(B)のメジアン径(d50)は、塗膜除去性により優れる塗膜を容易に形成できる等の点から、好ましくは1~100μm、より好ましくは1~60μmである。
メジアン径は、レーザー散乱回折式粒度分布測定装置、例えば、「SALD 2200」((株)島津製作所製)を用いて測定することができる。
【0070】
扁平状顔料(B)としては、安価で入手容易性に優れ、より防錆性、積み重ね性および塗膜除去性に優れる塗膜を形成することができる等の点から、タルクおよびマイカが好ましく、タルクが最も好ましい。
扁平状顔料(B)の市販品としては、例えば、前記タルクとして、「TTK タルク」(竹原化学工業(株)製)、「タルクF-2」(富士タルク工業(株)製)が挙げられ、前記マイカとして、「マイカパウダー 100メッシュ」、「マイカパウダー 325メッシュ」(いずれも、(株)福岡タルク工業所製)が挙げられる。
【0071】
本組成物中の扁平状顔料(B)の含有量は、本組成物の不揮発分100質量%に対し、40質量%以上である。
一般的な塗料において、一顔料をこのような高含量で用いることはほとんどないが、本組成物では、扁平状顔料(B)をこのような高含量で用いることで、十分な防錆性を有し、塗膜除去性および積み重ね性に優れる塗膜を容易に得ることができる。扁平状顔料(B)の含有量が40質量%未満の場合、塗膜除去性に優れる塗膜を得ることは困難となる。
前記効果により優れる塗膜を容易に得ることができる等の点から、本組成物中の扁平状顔料(B)の含有量は、本組成物の不揮発分100質量%に対し、好ましくは40~65質量%、より好ましくは45~55質量%である。
【0072】
<防錆顔料(C)>
本組成物は、十分な一次防錆力を有する塗膜を得るために、防錆顔料(C)を含有する。
防錆顔料(C)は、前記扁平状顔料(B)以外の顔料であれば特に制限されず、従来公知の防錆顔料を用いることができる。
本組成物に用いる防錆顔料(C)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0073】
防錆顔料(C)としては、例えば、リン酸亜鉛系化合物、リン酸カルシウム系化合物、リン酸アルミニウム系化合物、リン酸マグネシウム系化合物、亜リン酸亜鉛系化合物、亜リン酸カルシウム系化合物、亜リン酸アルミニウム系化合物、亜リン酸ストロンチウム系化合物、モリブデン酸亜鉛系化合物、モリブデン酸アルミニウム系化合物、トリポリリン酸アルミニウム系化合物、トリポリリン酸亜鉛系化合物、シアナミド亜鉛系化合物、ホウ酸塩化合物、ニトロ化合物、複合酸化物が挙げられる。これらの中でも、防錆性により優れる塗膜を容易に得ることができる等の点から、リン酸アルミニウム系化合物が好ましい。
【0074】
防錆顔料(C)の市販品としては、例えば、リン酸亜鉛系化合物として、「LFボウセイ PW2」(キクチカラー(株)製)、トリポリリン酸アルミニウム系化合物として、「Kホワイト #140W」(テイカ(株)製)、リン酸アルミニウム系化合物として、「LFボウセイ PM-303W」(キクチカラー(株)製)が挙げられる。
【0075】
本組成物中の防錆顔料(C)の含有量は、十分な一次防錆力を有する塗膜を容易に得ることができる等の点から、本組成物の不揮発分100質量%に対し、好ましくは1~20質量%、より好ましくは3~10質量%である。
【0076】
<アミン硬化剤(D)>
エポキシ樹脂(A)として、エポキシ樹脂(a2)を用いる場合、本組成物はアミン硬化剤(D)を含有することが好ましい。
本組成物に用いるアミン硬化剤(D)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0077】
アミン硬化剤(D)としては、三級アミン(3級アミノ基のみを有するアミン化合物)を除くアミン化合物であれば特に制限されないが、脂肪族系、脂環族系、芳香族系、複素環系アミン化合物などのアミン化合物が好ましい。
【0078】
前記脂肪族系アミン化合物としては、例えば、アルキレンポリアミン、ポリアルキレンポリアミン、アルキルアミノアルキルアミンが挙げられる。
【0079】
前記アルキレンポリアミンとしては、例えば、式:「H2N-R1-NH2」(R1は、炭素数1~12の二価の炭化水素基である。)で表される化合物が挙げられ、具体的には、例えば、メチレンジアミン、エチレンジアミン、1,2-ジアミノプロパン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、トリメチルヘキサメチレンジアミンが挙げられる。
【0080】
前記ポリアルキレンポリアミンとしては、例えば、式:「H2N-(Cm2mNH)nH」(mは1~10の整数である。nは2~10の整数であり、好ましくは2~6の整数である。)で表される化合物が挙げられ、具体的には、例えば、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミン、トリプロピレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、テトラプロピレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ノナエチレンデカミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、トリエチレン-ビス(トリメチレン)ヘキサミンが挙げられる。
【0081】
前記アルキルアミノアルキルアミンとしては、例えば、式:「R N-(CH-NH」(Rは独立して、水素原子または炭素数1~8のアルキル基であり(但し、少なくとも1つのRは炭素数1~8のアルキル基である。)、pは1~6の整数である。)で表される化合物が挙げられ、具体的には、例えば、ジメチルアミノエチルアミン、ジエチルアミノエチルアミン、ジブチルアミノエチルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ジプロピルアミノプロピルアミン、ジブチルアミノプロピルアミン、ジメチルアミノブチルアミンが挙げられる。
【0082】
これら以外の脂肪族系アミン化合物としては、例えば、テトラ(アミノメチル)メタン、テトラキス(2-アミノエチルアミノメチル)メタン、1,3-ビス(2'-アミノエチルアミノ)プロパン、2,2’-[エチレンビス(イミノトリメチレンイミノ)]ビス(エタンアミン)、トリス(2-アミノエチル)アミン、ビス(シアノエチル)ジエチレントリアミン、ポリオキシアルキレンポリアミン(特に、ジエチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル)が挙げられる。
【0083】
前記脂環族系アミン化合物としては、具体的には、例えば、シクロヘキサンジアミン、ジアミノジシクロヘキシルメタン(特に、4,4'-メチレンビスシクロヘキシルアミン)、4,4'-イソプロピリデンビスシクロヘキシルアミン、ノルボルナンジアミン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、イソホロンジアミン、メンセンジアミン(MDA)、2,4-ジ(4-アミノシクロヘキシルメチル)アニリンが挙げられる。
【0084】
前記芳香族系アミン化合物としては、例えば、ビス(アミノアルキル)ベンゼン、ビス(アミノアルキル)ナフタレン、ベンゼン環に結合した2個以上の1級アミノ基を有する芳香族ポリアミン化合物が挙げられる。
この芳香族系アミン化合物として、より具体的には、例えば、o-キシリレンジアミン、m-キシリレンジアミン(MXDA)、p-キシリレンジアミン、フェニレンジアミン、ナフタレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、4,4'-ジアミノベンゾフェノン、4,4'-ジアミノジフェニルスルホン、3,3'-ジメチル-4,4'-ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジエチルフェニルメタン、2,4'-ジアミノビフェニル、2,3'-ジメチル-4,4'-ジアミノビフェニル、3,3'-ジメトキシ-4,4'-ジアミノビフェニル、ビス(アミノメチル)ナフタレン、ビス(アミノエチル)ナフタレンが挙げられる。
【0085】
前記複素環系アミン化合物としては、例えば、1,4-ビス(3-アミノプロピル)ピペラジン、1,4-ジアザシクロヘプタン、1-(2'-アミノエチルピペラジン)、1-[2'-(2''-アミノエチルアミノ)エチル]ピペラジン、1,11-ジアザシクロエイコサン、1,15-ジアザシクロオクタコサンが挙げられる。
【0086】
アミン硬化剤(D)としては、さらに、前述したアミン化合物の変性物であってもよく、該変性物としては、例えば、ポリアミドアミン等の脂肪酸変性物、エポキシ化合物とのアミンアダクト、マンニッヒ変性物(例:フェナルカミン、フェナルカマイド)、マイケル付加物、ケチミン、アルジミンが挙げられる。これらの内、ポリアミドアミン、エポキシ化合物とのアミンアダクト、マンニッヒ変性物が好ましい。
【0087】
アミン硬化剤(D)としては、水溶性アミン化合物を用いることができる。前記水溶性アミン化合物とは、25℃で、水30質量%とアミン化合物70質量%とを混合し、十分撹拌した状態において、外観が透明となる化合物のことをいう。
このような水溶性アミン化合物としては、前述のアミン化合物または前述のアミン化合物を公知の方法で親水化した化合物を使用することができる。該親水化の方法としては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、スルフィン酸基、ホスホン酸基、水酸基など水溶性を促進する基の導入や、ポリアルキレングリコールのグリシジルエーテルをアダクト変性する等の親水性基の導入が挙げられる。
【0088】
このような水溶性アミン化合物は、予め水と混合されていてもよい。水溶性アミン化合物としては、市販品を用いてもよく、該市販品としては、例えば、「ダイトクラール I-6020」(大都産業(株)製)、「Anquamine 401」、「Sunmide WH-900」(いずれも、Evonik Industries AG社製)、「BECKOPOX EH 613w/80WA」(Allnex社製)が挙げられる。
【0089】
さらに、アミン硬化剤(D)としては、前記アミン化合物を水性媒体に分散させた水分散体を用いることができる。前記水分散体としては、特に制限されないが、例えば、前記アミン化合物を前記水性媒体中に分散させた乳濁液が挙げられる。
このようなアミン化合物の乳濁液としては、市販品を用いてもよく、該市販品としては、例えば、「フジキュアー FXS-918-FA」((株)T&K TOKA製)、「EPILINK 701」(Evonik Industries AG社製)が挙げられる。
【0090】
アミン硬化剤(D)としては、基材への付着性、塗膜の耐水性が早期に発現する等の点から水溶性アミン化合物が好ましい。
【0091】
アミン硬化剤(D)の活性水素当量は、硬化性および防錆性に優れる塗膜を容易に得ることができる等の点から、好ましくは50~600、より好ましくは100~450である。
【0092】
本組成物において、前記エポキシ樹脂(A)および該エポキシ樹脂(A)以外のエポキシ化合物(以下、これらを併せて「エポキシ成分」ともいう。)、ならびに、前記アミン硬化剤(D)の合計含有量は、硬化性および防錆性により優れる塗膜を容易に得ることができる等の点から、本組成物の不揮発分100質量%に対し、好ましくは1.1~50質量%、より好ましくは6~50質量%、さらに好ましくは14~50質量%である。
また、アミン硬化剤(D)の使用量は、用いる前記エポキシ成分の官能基の量等に応じて適宜選択すればよい。
【0093】
<その他の成分>
本組成物には、前記(A)~(D)以外のその他の成分として、エポキシ樹脂(A)以外のエポキシ化合物、顔料(B)および(C)以外のその他の顔料(E)、フラッシュラスト防止剤(F)、硬化触媒、分散剤、消泡剤、沈降防止剤、湿潤剤、増粘剤、造膜助剤、表面調整剤、繊維物質、界面活性剤、防カビ剤、防腐剤、紫外線吸収剤、光安定剤、pH調整剤、シランカップリング剤、前記水以外の媒体等を必要に応じて適宜配合してもよい。
これらはそれぞれ、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0094】
本組成物は、価格面の優位性、資源の保存、環境、健康面への配慮等の点から、亜鉛末を含まないことが好ましいが、亜鉛末を含む場合、その含有量は、本組成物の不揮発分100質量%に対し、例えば、25質量%以下である。
【0095】
〈エポキシ樹脂(A)以外のエポキシ化合物〉
本組成物は、前記エポキシ樹脂(A)以外のエポキシ化合物を含んでもよい。このようなエポキシ化合物としては、例えば、ノボラック型エポキシ樹脂、ポリグリコール型エポキシ樹脂、エポキシ化油、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテルが挙げられる。
【0096】
〈その他の顔料(E)〉
本組成物は、本発明の特性を損なわない範囲で前記その他の顔料(E)を含有してもよく、該顔料(E)としては、例えば、体質顔料、着色顔料が挙げられ、有機系、無機系の何れであってもよい。
【0097】
前記体質顔料としては、従来公知の顔料を用いることができ、例えば、(沈降性)硫酸バリウム;(カリ)長石;アルミナホワイト;クレー;炭酸マグネシウム;炭酸バリウム;炭酸カルシウム;ドロマイト;シリカ;ベントナイト、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト等の粘土鉱物、またはこれらの変性物が挙げられる。
【0098】
本組成物が体質顔料を含有する場合、体質顔料の含有量は、本組成物の不揮発分100質量%に対して、好ましくは0.01~10質量%である。
【0099】
前記着色顔料としては、従来公知の顔料を用いることができ、例えば、カーボンブラック、二酸化チタン(チタン白)、酸化鉄(弁柄)、黄色酸化鉄、群青等の無機顔料、シアニンブルー、シアニングリーン等の有機顔料が挙げられる。これらの中でも、チタン白、カーボンブラック、弁柄が好ましい。
【0100】
本組成物が着色顔料を含有する場合、着色顔料の含有量は、本組成物の不揮発分100質量%に対して、好ましくは0.01~20質量%、より好ましくは0.01~15質量%である。
【0101】
本組成物が、前記扁平状顔料(B)、防錆顔料(C)およびその他顔料(E)を含有する場合、これら全ての顔料の顔料体積濃度(PVC)は、積み重ね性および塗膜除去性により優れる塗膜を容易に得ることができる等の点から、好ましくは34~70%、より好ましくは34~65%、特に好ましくは34~60%である。
PVCが前記範囲を下回ると、得られる塗膜の除去性が低下する場合があり、また、前記範囲を超えると、得られる塗膜の耐水性が低下するとともに防錆性が低下する場合がある。
【0102】
前記PVCとは、本組成物中の不揮発分の体積に対する、顔料の合計の体積濃度のことをいう。PVCは、具体的には下記式(3)より求めることができる。
PVC[%]=本組成物中の全ての顔料の体積の合計×100/本組成物中の不揮発分の体積・・・(3)
【0103】
〈フラッシュラスト防止剤(F)〉
本組成物は、フラッシュラスト(点錆)を抑制する等の点から、フラッシュラスト防止剤(F)を含有していてもよい。
フラッシュラスト防止剤(F)としては特に制限されないが、例えば、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、亜硝酸カルシウム、亜硝酸ストロンチウム、亜硝酸バリウム、亜硝酸アンモニウムなどの亜硝酸塩;安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸カルシウム、安息香酸アンモニウムなどの安息香酸塩;フィチン酸ナトリウム、フィチン酸カリウムなどのフィチン酸塩;セバシン酸、ドデカン酸などの脂肪酸塩;アルキルリン酸、ポリリン酸などのリン酸誘導体;タンニン酸塩;スルホン酸金属塩;N-(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、プロピレンジアミン四酢酸(PDTA)、イミノ二酢酸、ニトリロ三酢酸(NTA)、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸(DTPMP)、これらのアルカリ金属塩などのアミン系キレート剤;4-メチル-γ-オキソ-ベンゼンブタン酸とN-エチルモルホリンの付加反応物;モノアルキルアミンやポリアミン、第四級アンモニウムイオンなどをトリポリリン酸二水素アルミニウムなどの層状リン酸塩にインターカレートしてなる層間化合物;ヒドラジド化合物、セミカルバジド化合物、ヒドラゾン化合物などのヒドラジン誘導体が挙げられる。
【0104】
本組成物がフラッシュラスト防止剤(F)を含有する場合、フラッシュラスト防止剤(F)の含有量は、本組成物の不揮発分100質量%に対して、好ましくは0.01~0.5質量%、より好ましくは0.01~0.3質量%である。
【0105】
≪一次防錆塗膜、一次防錆塗膜付き基材、一次防錆塗膜付き基材の製造方法≫
本発明の一実施形態に係る一次防錆塗膜は、前記本組成物から形成され、具体的には、前記本組成物を乾燥および/または硬化させることで、一次防錆塗膜を形成することができる。このような一次防錆塗膜は、通常、基材上に形成され、一次防錆塗膜付き基材が形成される。
前記一次防錆塗膜は、本組成物の効果がより発揮される等の点からは、基材上に形成された後、基材から除去されるものであることが好ましいが、場合によっては、基材から除去しなくてもよい。この場合、必要により、前記一次防錆塗膜上に他の塗料を塗り重ねてもよい。
【0106】
前記一次防錆塗膜付き基材は、好ましくは、基材に前記本組成物を塗装する工程、および、塗装された本組成物を乾燥および/または硬化させることで製造される。この一次防錆塗膜付き基材の製造方法は、基材の一次防錆方法であるともいえる。
【0107】
前記基材としては、鉄鋼、アルミニウム製等の金属基材が挙げられ、本発明の効果がより発揮される等の点から、鉄鋼基材が好ましい。
該鉄鋼基材としては、例えば、鉄鋼構造物、具体的には、船舶、海洋構造物、プラント、橋梁、陸上タンク等の鉄鋼構造物の材料となる基材が挙げられる。
【0108】
前記基材としては、錆、油脂、水分、塵埃、塩分などを除去するため、また、得られる一次防錆塗膜の密着性を向上させるために、必要により前記基材表面を処理(例えば、ブラスト処理(ISO8501-1 Sa2 1/2)、摩擦法、脱脂による油分・粉塵を除去する処理)等したものでもよい。
【0109】
前記塗装方法としては特に制限されないが、例えば、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、ハケ塗装、ローラー塗装、ディッピング等の従来公知の方法を採用することができる。
また、本組成物の効果がより発揮される等の点から、ライン塗装することが好ましい。
【0110】
本組成物の塗装量としては特に制限されず、所望の用途に応じて適宜選択すればよいが、例えば、基材1m2当たり50~400gとすることが挙げられる。
また、前記一次防錆塗膜の膜厚も特に制限されず、所望の用途に応じて適宜選択すればよいが、好ましくは10~300μm、より好ましくは10~200μmであるため、このような膜厚の塗膜が得られるように塗装すればよい。
前述の通り、本組成物はライン塗装されることが好ましく、この場合には、特に速乾性が要求されるため、薄膜、好ましくは30μm以下、より好ましくは15~30μmの塗膜を形成することが望ましい。本組成物によれば、このような薄膜の塗膜を形成しても、十分な防錆性を有する塗膜を形成することができる。
【0111】
前記乾燥および/または硬化は、常温下で行ってもよく、加熱下で行ってもよい。
好ましい乾燥および/または硬化の条件としては、5~80℃程度の温度下で、3~5分程度乾燥・硬化する条件が挙げられ、ライン塗装では、基材、特に鋼板を30~40℃程度までプレヒートし、本組成物を塗装した後、30~100℃程度の温度下で、5~10分程度乾燥・硬化する条件が好ましい。
【0112】
≪防食塗膜付き基材の製造方法≫
本発明の一実施形態に係る防食塗膜付き基材の製造方法は、基材に、前記本組成物を塗装する工程、
塗装された本組成物を乾燥または硬化させて一次防錆塗膜を形成する工程、
前記一次防錆塗膜の70%以上を除去する工程、および
一次防錆塗膜の70%以上が除去された基材上に防食塗料を塗装する工程
を有する。
この防食塗膜付き基材の製造方法は、基材の防錆方法であるともいえる。
【0113】
基材に本組成物を塗装する工程および一次防錆塗膜を形成する工程としては、前述した方法と同様の方法等が挙げられる。
なお、通常、一次防錆塗膜を形成してから、該塗膜を除去するまでには、ある程度の時間が経過する。この時間としては、例えば、基材に一次防錆塗膜を形成してから、形成した一次防錆塗膜付き基材を用いて構造物を建設するまでの間、保管、輸送等する時間が挙げられる。通常、本組成物から得られる一次防錆塗膜を形成した一次防錆塗膜付き基材が保管される期間は、保管場所が屋内である場合、最長で6ヶ月程度である。また、保管や輸送等の際において、該一次防錆塗膜付き基材が屋外環境に曝される場合、その期間は、最長で1週間程度である。
【0114】
前記一次防錆塗膜を除去する方法としては特に制限されず、従来公知の塗膜除去方法を採用することができる。このような方法としては、例えば、グラインダーやサンドペーパー等を用いる方法、ショットブラスト等のブラスト加工方法が挙げられる。
この除去の際には、基材上に形成された一次防錆塗膜の70%以上が除去されれば特に制限されない。なお、「70%以上が除去される」とは、基材上に形成された一次防錆塗膜の面積を100%とした時にその70%以上が除去される(一次防錆塗膜が形成されていた部分100%のうち、70%以上の部分の基材が露出する)ことをいう。
【0115】
前記防食塗料としては特に制限されず、従来公知の防食塗料を用いることができる。このような防食塗料としては、例えば、エポキシ系防食塗料が挙げられる。
前記防食塗料を塗装する方法、防食塗膜を形成する方法、防食塗膜の膜厚等は特に制限されず、所望の用途に応じて適宜選択すればよい。
【実施例
【0116】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0117】
[実施例1]
イオン交換水15.77質量部と、亜硝酸ナトリウム0.1質量部と、変性ベントナイト(注7)0.2質量部と、分散剤(注10)2質量部と、消泡剤(注11)0.1質量部と、湿潤剤(注12)0.4質量部と、白色酸化チタン(注5)6質量部と、タルク(注1)26質量部と、防錆顔料(注4)3質量部と、黒色顔料(注6)0.03質量部とを容器に投入し、ペイントシェーカーで粒度が50μm以下(JIS K 5600-2-5:1999、分布図法評価による)になるまで分散処理し、顔料ペーストを得た。
【0118】
この顔料ペーストに、造膜助剤(注16)2質量部、エポキシ樹脂エマルション(注13)56質量部、消泡剤(注11)0.2質量部、および、表面調整剤(注17)0.2質量部を順に投入し、投入完了後15分間撹拌することで主剤を調製した。
【0119】
水溶性エポキシアダクトアミン(注18)1.5質量部と、造膜助剤(注16)1質量部と、イオン交換水2.5質量部とを容器に投入し、ハイスピードディスパーサーを用いて、常温、常圧下で混合することで硬化剤を調製した。
【0120】
得られた主剤と硬化剤とを、表1に示す混合比で塗装前に混合することで水系一次防錆塗料組成物を調製した。
【0121】
[実施例2~13および比較例1~11]
原料の種類および配合量を、下記表1または2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして各塗料組成物を調製した。なお、表1および2に記載の原料の詳細は表5に示すとおりである。表1および2中の原料の欄の数値は、それぞれ質量部を示す。
【0122】
【表1】
【0123】
【表2】
【0124】
[合成例1]
不活性ガス導入管を付けた2リットルのガラス製フラスコ中に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エピコート828、三菱ケミカル(株)製、数平均分子量370)905g、ビスフェノールA(Dow Chemical Company製)265gおよびトリエチルベンジルアンモニウムクロライド0.4g(東京化成工業(株)製)を加え、160℃にて約2時間かけて粘度が上昇しなくなるまで反応を進め、その後徐々に冷却し、80℃にてブチルセロソルブ330gを加え、室温まで冷却した。以上により、エポキシ樹脂のブチルセロソルブ溶液(A-1)(樹脂の数平均分子量819、不揮発分78%)を得た。
【0125】
別に用意した不活性ガス導入管を付けた2リットルフラスコ中に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エピコート828、三菱ケミカル(株)製、数平均分子量370)5gおよびブチルセロソルブ3.2gを加え80℃に加熱した。その後、昇温を続けながらポリオキシアルキレン鎖を有するアミン化合物(ジェファーミン M-1000、ハンツマン社製)を19.1g加え、120℃まで昇温した。120℃で2時間撹拌した後、前記溶液(A-1)303.9gを加え、120℃でさらに2時間撹拌し、70℃まで降温した。その後、モノエタノールアミン(アルドリッチ社製)18.1gを加え、100℃に昇温した。100℃で3時間撹拌した後、アクリル酸7.8gを加え、さらに2時間撹拌した。その後60℃まで降温しながら、乳化剤(ニューコールN780(60)、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル、日本乳化剤(株)製)11.9gを加え、60℃にてイオン交換水331gを加え十分撹拌することで、加熱残分(不揮発分)42.0質量%の変性エポキシ樹脂エマルション(A-1-1)を得た。
【0126】
[実施例14]
イオン交換水14.27質量部と、亜硝酸ナトリウム0.1質量部と、変性ベントナイト(注7)0.2質量部と、分散剤(注10)2質量部と、消泡剤(注11)0.1質量部と、湿潤剤(注12)0.4質量部と、白色酸化チタン(注5)6質量部と、タルク(注1)24.5質量部と、防錆顔料(注4)3質量部と、黒色顔料(注6)0.03質量部とを容器に投入し、ペイントシェーカーで粒度が50μm以下(JIS K 5600-2-5:1999、分布図法評価による)になるまで分散処理し、顔料ペーストを得た。
【0127】
この顔料ペーストに、造膜助剤(注16)2質量部、前記合成例1で得た変性エポキシ樹脂エマルション(A-1-1、注15)52質量部、消泡剤(注11)0.2質量部、および、表面調整剤(注17)0.2質量部を順に投入し、投入完了後15分間撹拌することで、水系一次防錆塗料組成物を調製した。
【0128】
[実施例15~23および比較例12~20]
原料の種類および配合量を、下記表3または4に示すように変更した以外は、実施例14と同様にして各塗料組成物を調製した。なお、表3および4に記載の原料の詳細は表5に示すとおりである。表3および4中の原料の欄の数値は、それぞれ質量部を示す。
【0129】
【表3】
【0130】
【表4】
【0131】
【表5】
【0132】
(1)試験板の作成
寸法が150mm×70mm×1.6mm(厚)のSS400のサンドブラスト鋼板(算術平均粗さ(Ra):30~75μm)を用意した。この鋼板をオーブンで35℃にプレヒートした後、この鋼板の表面に、前述のようにして調製した各塗料組成物を、エアスプレーを用いて、それぞれ乾燥膜厚が25μmになるよう塗装した。塗装後80℃に設定したオーブンで7分間乾燥させた後、オーブンから取り出し、23℃で2分間乾燥させることで塗膜付き試験板を作成した。得られた各塗膜付き試験板を、後述の各試験に供した。結果を表7~10に示す。
【0133】
<耐湿性試験>
前記(1)で作成した各塗膜付き試験板を、JIS K-5600 7-2:1999に準拠し、温度50±1℃、湿度95%の恒温恒湿試験器内に24時間保持した後の塗膜外観を、ASTM D610(錆)およびASTM D714(フクレ)を参考にし、下記表6に示す評価基準に従って評価した。
【0134】
【表6】
【0135】
<屋外暴露試験>
前記(1)で作成した各塗膜付き試験板をJIS K-5600 7-6:1999に準拠し、暴露架台に2週間保持した後の塗膜外観を、ASTM D610(錆)およびASTM D714(フクレ)を参考にし、表6に示す評価基準に従って評価した。なお、錆とフクレの評価が異なる場合は、評価値が低い方を記載した。
【0136】
<積み重ね性試験>
前記(1)で作成した各塗膜付き試験板を2枚用いて、2枚の塗膜面が互いに接するように水平に重ね、この2枚の試験板の上に更に同じ大きさの試験板を4枚重ねた状態で24時間保持した後の、前記2枚の塗膜付き試験板同士の張り付き具合および塗膜状態を、下記基準に従って目視で評価した。
この積み重ね性試験の評価が○の場合、該塗膜は、積み重ね性に優れるといえ、また、該塗膜を形成する組成物は、速乾性に優れるといえる。
【0137】
(評価基準)
○:2枚の塗膜付き試験板同士に、張り付きがみられない
△:2枚の塗膜付き試験板同士に、所々張り付きがみられる
×:2枚の塗膜付き試験板同士が、全面で張り付いている
【0138】
(2)試験板の作成
前記(1)試験板の作成において、オーブンから取り出した後、23℃での2分間の乾燥の代わりに、23℃で48時間養生した以外は前記(1)試験板の作成と同様にして、塗膜付き試験板を作成した。
【0139】
<塗膜除去作業性>
ディスクグラインダー(日立工機(株)製)に、研掃材であるトダサンディングディスク4形 100×15.9 CP-40(戸田研磨工業(株)製)をセットし、15cm/秒の速度で、前記(2)で作成した各塗膜付き試験板から塗膜を除去した。1枚目の塗膜付き試験板から塗膜を除去し終わったら、同様にして、2枚目~5枚目まで同じ研掃材を用いて塗膜を除去した。1枚目から5枚目までの塗膜付き試験板から塗膜を除去するのに要した時間をそれぞれ測定し、これら5枚の塗膜付き試験板から塗膜を除去するのに要した合計時間を、累計時間として計測した。また、1枚目の塗膜付き試験板から塗膜を除去するのに要した時間に対する、5枚目の塗膜付き試験板から塗膜を除去するのに要した時間の比(5枚目時間/1枚目時間)を算出した。
さらに、5枚目の塗膜付き試験板から塗膜を除去した後の、研掃材の状態を目視で確認し、目詰まり等の状態を、下記基準に従って評価した。下記基準の具体例を図1に示す。
【0140】
(評価基準)
5:研掃材に目詰まりが見られない、または、目詰まりが極小面積である
4:研掃材に目詰まりが見られるが、5mm以上連続した目詰まりはない
3:研掃材に目詰まりが見られ、5mmを超えて8mm以下の連続した目詰まりがある
2:研掃材に8mmを超えて10mm以下の連続した目詰まりが散在している
1:研掃材に10mmを超えて連続した目詰まりが散在している
【0141】
【表7】
【0142】
【表8】
【0143】
【表9】
【0144】
【表10】
【0145】
実施例1~23は、耐湿性試験、屋外曝露試験、積み重ね性に優れており、かつ塗膜除去作業性においても、ディスク(研掃材)の目詰まりが少なかった。一方、比較例1~20は、塗膜除去作業性および積み重ね性の少なくとも一方が劣っていた。
例えば、比較例1は、ディスクの目詰まりが酷く、また試験板から塗膜を除去するのに要した時間の比(5枚目時間/1枚目時間)も、実施例と比較して大きい結果となった。このような場合、実際の塗膜除去作業において、ディスクを頻繁に交換する必要があり、また除去作業に時間を要するため好ましくない。
また、目詰まりの評価が3以下のディスクの表面は、ディスク表面に付着した塗膜によって、平滑面となる。このディスクを用いると、研磨時にすべりが発生し、塗膜除去作業に危険を伴うようになる。この危険を抑制するために、ディスクを抑え込む力が必要となり、塗膜除去作業性が低下する。
図1