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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-23
(45)【発行日】2023-01-31
(54)【発明の名称】半導体デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/36 20060101AFI20230124BHJP
   H01L 21/20 20060101ALI20230124BHJP
   H01L 21/203 20060101ALI20230124BHJP
   H01L 21/304 20060101ALN20230124BHJP
【FI】
C30B29/36 A
H01L21/20
H01L21/203 Z
H01L21/304 611W
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022134546
(22)【出願日】2022-08-25
(62)【分割の表示】P 2022089095の分割
【原出願日】2022-05-31
【審査請求日】2022-08-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】周防 裕政
(72)【発明者】
【氏名】金田一 麟平
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-290880(JP,A)
【文献】特開2021-102533(JP,A)
【文献】特開2017-069334(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0198804(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00-35/00
H01L 21/20
H01L 21/203
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiC基板、前記SiC基板の一面に積層されたSiCエピタキシャル層とを備える半導体デバイスの製造方法であって、
前記SiC基板として、厚みと、直径と、中心から[11-20]方向で外周端から10mm内側の第1外周端に係る応力と、から求められる以下の式(1)で表される反りファクターFが、300μm以下であるSiC基板を用いる、半導体デバイスの製造方法。
F=K×exp(a+b×ln(σ)+c×ln(R)+d×ln(ts))・・・(1)
式(1)において、
K、a、b、c、dは、K=1.3373、a=-11.67123、b=1.4030953、c=1.8050972、d=-1.585898を満たす定数であり、
σは、σ=60(MPa)-2/3×S(MPa)を満たし、
Sは前記第1外周端の円周方向と同じ方向である<1-100>方向に係る内部応力であり、引張応力を正、圧縮応力を負としたものであり、tは前記厚み(mm)であり、Rは前記直径(mm)である。
【請求項2】
前記半導体デバイスがパワーデバイスである、請求項1の半導体デバイスの製造方法
【請求項3】
前記半導体デバイスが高周波デバイスである、請求項1の半導体デバイスの製造方法
【請求項4】
前記半導体デバイスが高温動作デバイスである、請求項1の半導体デバイスの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて絶縁破壊電界が1桁大きく、バンドギャップが3倍大きい。また、炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて熱伝導率が3倍程度高い等の特性を有する。そのため炭化珪素(SiC)は、パワーデバイス、高周波デバイス、高温動作デバイス等への応用が期待されている。このため、近年、上記のような半導体デバイスにSiCエピタキシャルウェハが用いられるようになっている。
【0003】
SiCエピタキシャルウェハは、SiCインゴットから切り出されたSiC基板の表面にSiCエピタキシャル層を積層することで得られる。以下、SiCエピタキシャル層を積層前の基板をSiC基板と称し、SiCエピタキシャル層を積層後の基板をSiCエピタキシャルウェハと称する。
【0004】
SiCエピタキシャル層を積層する前のSiC基板は、平坦である。SiC基板から半導体デバイスを作製するまでには様々な加工プロセスがある。SiC基板は、加工プロセスを経ると反る場合がある。SiC基板の反りの原因となる加工プロセスとして、例えば、エピタキシャル層の成膜、表面研磨、酸化膜形成、イオン注入等がある。SiC基板の反りは、半導体デバイスのプロセスに悪影響を及ぼす。例えば、反りは、フォトリソグラフィー加工における焦点ずれの原因となる。また反りは、搬送プロセス中におけるウェハの位置精度低下の原因となる。
【0005】
一方で、上述のように加工前のSiC基板は平坦であり、加工プロセスを経た後の反りを予想することは難しい。例えば、特許文献1には、研磨が完了したSiC単結晶製品ウェハの反りの値を、研磨工程完了前に予測するために、ラマン散乱光の波数シフト量の差分を用いることが記載されている。特許文献2には、基板の厚み方向においてラマンスペクトルを測定し、厚み方向において応力の分布が低減されている基板が開示されている。また例えば、特許文献3には、結晶学的なストレスを緩和することで、SiC基板の反りが低減されることが記載されている。また例えば、特許文献4にはインゴットの周方向の圧縮応力を大きくすることで、インゴットのクラックを抑制することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-59073号公報
【文献】国際公開第2019/111507号
【文献】米国特許出願公開第2021/0198804号
【文献】特開2007-290880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び2には、ラマンシフトを用いて、基板の内部応力の評価をしているが、ラマンシフトには方向の情報は含まれていない。また特許文献1~3には応力を小さくすることが記載されているが、応力を小さくすることだけでは、SiCエピタキシャルウェハの反りを十分抑制することができなかった。また特許文献4で規定している応力は、インゴットの応力であり、SiC基板に係る応力とは異なる。
【0008】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、加工プロセスを経ても反りにくいSiC基板及びSiCエピタキシャルウェハを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、外周部応力と直径と厚みとを用いて、加工後の反りと相関する新たな係数(反りファクター)を見出した。その反りファクターをある一定の値以下に抑えることで、加工後の反りを抑え、デバイス流動の障害を抑えることができることを見出した。本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0010】
(1)第1の態様にかかるSiC基板は、厚みと、直径と、中心から[11-20]方向で外周端から10mm内側の第1外周端に係る応力と、から求められる以下の式(1)で表される反りファクターFが、300μm以下である。
ここで式(1)は、F=K×exp(a+b×ln(σ)+c×ln(R)+d×ln(t))・・・(1)で表される。
式(1)において、K、a、b、c、dは、K=1.3373、a=-11.67123、b=1.4030953、c=1.8050972、d=-1.585898を満たす定数であり、σは、σ=60(MPa)-2/3×S(MPa)を満たし、Sは前記第1外周端の円周方向と同じ方向である<1-100>方向に係る内部応力であり、引張応力を正、圧縮応力を負としたものであり、tは前記厚み(mm)であり、Rは前記直径(mm)である。
【0011】
(2)上記態様にかかるSiC基板において、前記反りファクターFが、200μm以下でもよい。
【0012】
(3)上記態様にかかるSiC基板において、前記反りファクターFが、100μm以下でもよい。
【0013】
(4)上記態様にかかるSiC基板において、前記反りファクターFが、50μm以下でもよい。
【0014】
(5)上記態様にかかるSiC基板は、前記直径が145mm以上で、前記厚みが300μm以下でもよい。
【0015】
(6)上記態様にかかるSiC基板は、前記直径が195mm以上で、前記厚みが600μm以下でもよい。
【0016】
(7)上記態様にかかるSiC基板は、前記厚みが400μm以下でもよい。
【0017】
(8)上記態様にかかるSiC基板は、前記直径が210mm以上で、前記厚みが600μm以下でもよい。
【0018】
(9)上記態様にかかるSiC基板は、前記直径が290mm以上で、前記厚みが800μm以下でもよい。
【0019】
(10)上記態様にかかるSiC基板は、前記厚みが600μm以下でもよい。
【0020】
(11)第2の態様にかかるSiCエピタキシャルウェハは、上記態様にかかるSiC基板と、前記SiC基板の一面に積層されたSiCエピタキシャル層とを有する。
【発明の効果】
【0021】
上記態様にかかるSiC基板及びSiCエピタキシャルウェハは、加工プロセスを経ても反りにくい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】SiC基板の反りを説明するための模式図である。
図2】本実施形態に係るSiC基板の平面図である。
図3】第1外周端の円周方向の応力Sの測定方法を説明するための模式図である。
図4】SiC基板の反りの予測(シミュレーション)値と、反りファクターとの関係を示す図である。
図5】SiCインゴットの製造装置の一例である昇華法を説明するための模式図である。
図6】実施例1におけるSiC基板の反りのシミュレーション結果を示す。
図7】実施例2におけるSiC基板の反りのシミュレーション結果を示す。
図8】実施例3におけるSiC基板の反りのシミュレーション結果を示す。
図9】実施例4におけるSiC基板の反りのシミュレーション結果を示す。
図10】実施例5におけるSiC基板の反りのシミュレーション結果を示す。
図11】実施例6におけるSiC基板の反りのシミュレーション結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本実施形態にかかるSiC基板等について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本実施形態の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材質、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0024】
まずSiC基板10の反りについて説明する。図1は、SiC基板10の反りを説明するための模式図である。
【0025】
加工前のSiC基板10は、ほぼ平坦である。ほぼ平坦とは、平坦面上に載置した際に、大きく浮き上がる部分がないことを意味する。例えば、加工前の状態でSiC基板10の第1面10aと第2面10bとは略平行である。第1面10aと第2面10bとは、SiC基板10の互いに向かい合う面である。
【0026】
加工プロセスを経ると、SiC基板10の第1面10aには、処理層11が形成される。処理層11は、例えば、表面処理、成膜、デバイス形成等で形成される。SiC基板10の一面に処理層11が形成されると、SiC基板10が反る場合がある。
【0027】
例えば、表面処理によって形成される処理層11は、加工変質層である。例えば、第1面10aが鏡面研削面で第2面10bがCMP処理面の場合は、第1面10aに加工変質層が形成される。第1面10aと第2面10bとの表面状態の違いにより、SiC基板10にトワイマン効果が生じる。トワイマン効果は、基板の両面にある残留応力に差が生じた場合に、両面の応力の差を補おうとする力が働く現象である。トワイマン効果は、SiCエピタキシャルウェハ20の反りの原因となりうる。
【0028】
また例えば、成膜によって形成される処理層11は、エピタキシャル層である。エピタキシャル層は、例えば、SiC基板10の第1面10aに成膜される。エピタキシャル層が形成された第1面10aと第2面10bとの状態の違いにより、SiC基板10が反る場合がある。
【0029】
また例えば、デバイス形成によって形成される処理層11は、デバイス層である。デバイス層には、例えば、ダイオード、トランジスタ等が形成される。例えば、エピタキシャル層にデバイスを形成するために、イオン注入等を行うと、SiC基板10が反る場合がある。これは、イオン注入された面とイオン注入されていない面との間で、状態が異なるためである。
【0030】
ここでは、加工プロセスによるSiC基板10の反りの原因の一例を提示したが、反りの原因はこれらに限られるものではなく、またこれらの要因が複合的に影響し合うこともある。そのためSiC基板10の状態で、加工プロセスを経た後の反りの程度を予測することは困難であった。本実施形態に係るSiC基板は、加工プロセスを経た後の反りの程度を新たに規定した反りファクターFで規定する。
【0031】
図2は、本実施形態に係るSiC基板10の平面図である。SiC基板10は、SiCからなる。SiC基板10のポリタイプは、特に問わず、2H、3C、4H、6Hのいずれでもよい。SiC基板10は、例えば、4H-SiCである。SiC基板10の平面視形状は略円形である。SiC基板10は、結晶軸の方向を把握するためのオリエンテーションフラットOFもしくはノッチを有してもよい。
【0032】
反りファクターFは、SiC基板10の厚みt図1参照)、直径R、第1外周端1における応力Sとから求められるパラメータである。
【0033】
反りファクターFは、以下の式(1)で表される。
F=K×exp(a+b×ln(σ)+c×ln(R)+d×ln(t))・・・(1)
式(1)において、K、a、b、c、dは、定数である。K=1.3373、a=-11.67123、b=1.4030953、c=1.8050972、d=-1.585898を満たす。σは、σ=60(MPa)-2/3×S(MPa)を満たす。Sは、第1外周端1における応力である。tはSiC基板10の厚み(mm)であり、RはSiC基板10の直径(mm)である。
【0034】
第1外周端1は、外周端から10mm内側の外周部2にあり、中心Cから[11-20]の方向にある点である。応力Sは、第1外周端1の円周方向と同じ方向である<1-100>方向に係る内部応力である。なお、本発明では応力Sが引張応力の場合を正、圧縮応力の場合を負として取り扱う。応力Sの大小を議論する際は、絶対値で大小を規定する。
【0035】
応力Sは、歪εとヤング率との積で算出される。歪εは、(a-a)/aで求められる。aは、基準格子定数である。aは、4H-SiCの場合、約3.08Åである。aは、X線回折法(XRD)から求められる格子定数である。応力Sの方向は、X線回折の入射X線の方向から求められる。格子定数aが、基準格子定数aより小さくなればなるほど、歪εは大きくなり、引張応力が大きくなる。格子定数aが、基準格子定数aより大きくなればなるほど、歪εは大きくなり、圧縮応力が大きくなる。
【0036】
図3は、第1外周端1の円周方向の応力Sの測定方法を説明するための模式図である。第1外周端1における円周方向は、SiC基板10の中心Cと第1外周端1とを結ぶ線分と直交する方向(以下、第1方向と称する。)である。第1方向は、<1-100>方向である。第1外周端1の円周方向の応力を測定する場合は、第1方向からX線を照射する。この円周方向からX線をSiC基板10に入射することで、第1外周端1における円周方向の格子定数aが求められる。そしてこの格子定数aを用いて、上式から第1外周端1における円周方向の応力Sが求められる。なお、実測の格子定数aが基準格子定数aより小さい場合は、引張応力が作用しているとみなし、実測の格子定数aが基準格子定数aより大きい場合は、圧縮応力が作用しているとみなす。
【0037】
反りファクターFは、例えば、300μm以下であり、好ましくは200μm以下であり、より好ましくは100μm以下であり、さらに好ましくは50μm以下である。
【0038】
上記の反りファクターFの値は、SiC基板10の直径が145mm以上において満たしていることが好ましく、直径が195mm以上において満たしていることがより好ましく、直径が210mm以上において満たしていることがさらに好ましく、直径が290mm以上において満たしていることが特に好ましい。
【0039】
上記の反りファクターFの値は、SiC基板10の厚みtが800μm以下において満たしていることが好ましく、厚みtが600μm以下において満たしていることがより好ましく、厚みtが400μm以下において満たしていることがさらに好ましく、厚みtが300μm以下において満たしていることが特に好ましい。
【0040】
例えば、SiC基板10の直径が290mm以上、かつ、厚みが800μm以下の場合に、反りファクターFは300μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることがさらに好ましく、50μm以下であることが特に好ましい。またSiC基板10の直径が290mm以上、かつ、厚みが600μm以下の場合に、反りファクターFは300μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることがさらに好ましく、50μm以下であることが特に好ましい。
【0041】
例えば、SiC基板10の直径が210mm以上、かつ、厚みが600μm以下の場合に、反りファクターFは300μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることがさらに好ましく、50μm以下であることが特に好ましい。
【0042】
例えば、SiC基板10の直径が195mm以上、かつ、厚みが600μm以下の場合に、反りファクターFは100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。またSiC基板10の直径が195mm以上、かつ、厚みが400μm以下の場合は、反りファクターFは200μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることがさらに好ましい。
【0043】
例えば、SiC基板10の直径が145mm以上、かつ、厚みが300μm以下の場合に、反りファクターFは100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。
【0044】
図4は、SiC基板の反りの予測値と、反りファクターFとの関係を示す図である。反りファクターFは、上記の式(1)に基づいて求めた。
【0045】
SiC基板の反りの予測値は、シミュレーションで求めた。シミュレーションは、有限要素法シミュレータANSYSを用いて行った。有限要素法シミュレータANSYSを用いたシミュレーションが、実際に作製した物の結果と一致することは別途確認した。反りの予測値は、第1面10aの最高点と最低点との厚み方向の距離であり、Warpに対応する。
【0046】
シミュレーションは以下の手順で行った。まず、SiC基板及び応力が異なる表面層の物性値を設定した。設定する物性値は、SiC基板の板厚、表面層の膜厚、ヤング率、ポアソン比、である。SiC基板の板厚、直径は、後述する実施例で示すように様々なものを設定した。SiC基板のヤング率は480GPa、ポアソン比は0.20とした。表面層の膜厚は、10μmとした。ここで表面層はイオン注入により応力が発生した場合を考え、表面層のヤング率およびポアソン比は、SiC基板と同じ値を用いた。
【0047】
次いで、SiC基板の応力分布と表面層の応力を設定した。まずSiC基板の応力分布を設定した。SiC基板に係る応力は、+60MPa、+30MPa、0MPa、-30MPaのいずれかとした。表面層の全体には、応力として60MPaを印可した。上記条件でシミュレーションを行い、表面層付きSiC基板の反りをもとめた。
【0048】
図4に示すように、反りファクターFは、シミュレーションから求められる反りの予測値と比例の関係にある。反りファクターFは、SiC基板10の反り量を反映している。すなわち、反りファクターFを制御することで、加工プロセス後の反りを制御することができる。また反りファクターFを求めれば、シミュレーション等を行わなくても容易にSiC基板10の加工プロセスを通過後における反り量を予測できる。
【0049】
次いで、本実施形態に係るSiC基板10の製造方法の一例について説明する。SiC基板10は、SiCインゴットをスライスして得られる。SiCインゴットは、例えば、昇華法によって得られる。
【0050】
図5は、SiCインゴットの製造装置30の一例である昇華法を説明するための模式図である。図5において台座32の表面と直交する方向をz方向、z方向と直交する一方向をx方向、z方向及びx方向と直交する方向をy方向とする。
【0051】
昇華法は、黒鉛製の坩堝31内に配置した台座32にSiC単結晶からなる種結晶33を配置し、坩堝31を加熱することで坩堝31内の原料粉末34から昇華した昇華ガスを種結晶33に供給し、種結晶33をより大きなSiCインゴット35へ成長させる方法である。坩堝31の加熱は、例えば、コイル36で行う。
【0052】
反りファクターFの算出に用いられるSiC基板10の直径Rは、製品の仕様によって決定されるパラメータである。そのため、規定されたSiC基板10の直径Rに応じて、SiC基板10の厚みt及び第1外周端1における応力Sを制御することで、所望のSiC基板10を作製できる。
【0053】
まず昇華法での結晶成長条件を制御することで、SiCインゴット35から得られるSiC基板10の内部に加わる応力を制御できる。
【0054】
例えば、SiCインゴット35をc面成長させる際に、結晶成長面の中心部の温度と、外周部の温度と、を制御する。結晶成長面は、結晶の成長過程における表面である。例えば、SiCインゴット35をc面成長させる際に、結晶成長面の中心部の温度より外周部の温度を低くする。またxy面内の中央と外周の成長速度差が0.001mm/h以上、0.05mm/h以下となるように、結晶成長を行う。ここで、xy面内の中央の成長速度は、外周の成長速度より遅くする。このように結晶成長を行うことで、第1外周端1に係る応力Sが圧縮応力の場合はその絶対値を小さくし、第1外周端1に係る応力Sが引張応力の場合はその絶対値を大きくできる。成長速度は、結晶成長面の温度を変えることで変化する。
【0055】
結晶成長面の温度は、コイル36による坩堝31の加熱中心のz方向の位置を制御することで調整できる。例えば、坩堝31の加熱中心のz方向の位置は、コイル36のz方向の位置を変えることで変更できる。坩堝31の加熱中心のz方向の位置と結晶成長面のz方向の位置とが、0.5mm/hで離れるように制御する。ここで、坩堝31の加熱中心のz方向の位置が、結晶成長面のz方向の位置に対し、下側(原料粉末34側)にくるように制御する。
【0056】
次いで、このような条件で作製したSiCインゴット35をSiC基板10へ加工する。一般的な加工方法では、SiCインゴット35の状態とSiC基板10の状態とで、単結晶にかかる応力が変わってしまう。例えば、成型工程では、直径180mmのSiCインゴット35から、直径150mmのSiC基板10に加工する際には直径を小さくする必要がある。また、例えば、マルチワイヤー切断工程では表面のうねりが発生し、うねりを除去する必要がある。このような工程を経ることで、例えば、SiCインゴット35の応力が大きい部分が除去されることや結晶格子面の形状が変わることがあり、SiCインゴット35の状態の応力が、SiC基板10の状態では開放される場合がある。SiCインゴット35の状態の単結晶にかかる応力を、SiC基板10が引き継ぐように加工する。
【0057】
例えば、SiCインゴット35の片面へダメージフリー加工を施したのち、シングルワイヤーソーで切断し、ダメージフリー加工を施した面を吸着して切断面に対してさらにダメージフリー加工を行う。SiC基板10の両面に対してダメージフリー加工を行うことで、SiCインゴットの状態で生じた応力の一部が、SiC基板10にも引き継がれる。ダメージフリー加工は、例えばCMP加工である。このようにSiCインゴット35の状態の格子面形状を残すように基板加工を行うことで、SiCインゴット35の持つ応力がSiC基板10に引き継がれる。その後、直径を調整する成型工程を行うことで、SiC基板10の第1外周端1における応力を調整できる。
【0058】
またSiCインゴット35をSiC基板10へ加工する際に、SiC基板10の厚みtを決める。SiCインゴット35からSiC基板10の取り数を多くするために、SiC基板10の厚みtを薄くすると生産効率が高まるが、反りファクターFが所定値以内となるように、SiC基板10の厚みtを設計する。SiC基板10の直径R及びSiCインゴットの状態から予測できるSiC基板10に係る応力からSiC基板10の厚みtの下限値を予測し、この厚みより厚めに、SiC基板10の厚みtを設定する。
【0059】
このように、仕様により規定されたSiC基板10の直径Rに応じて、SiC基板10の厚みt及び第1外周端1における応力Sを制御することで、反りファクターFが規定値以下である本実施形態にかかるSiC基板10を作製できる。
【0060】
上述のように、SiC基板10の直径R、厚みt、応力Sから求められる反りファクターFは、SiC基板10に処理層11を形成した場合にシミュレーションから求められる反り量と相関がある。またSiC基板10に処理層11を形成した場合のシミュレーション結果は、実測値と相関がある。すなわち、SiC基板10の直径R、厚みt、応力Sから求められる反りファクターFを用いることで、加工プロセスを経た後のSiC基板10の反りを簡便に予測することができる。
【0061】
製品、加工プロセスの仕様に応じて、加工プロセスを経た後のSiC基板の反りの許容値は異なる。上記のように、加工前のSiC基板10の直径R、厚みt、応力Sの値から加工プロセスを得た後のSiC基板の反り量を予測できると、加工前にSiC基板10の選別を行うことができ、加工プロセスで不良品となる確率を下げることができる。またSiC基板10の膜厚tを加工プロセスで反りが生じない範囲で薄くすることで、SiCインゴット35から多くのSiC基板10を取得でき、生産効率を高めることができる。SiCインゴット35からのSiC基板10の取得枚数が多くなり、反りに伴う加工プロセスにおける不良を低減することで、1枚当たりのSiC基板10のコストを下げることができる。
【0062】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【実施例
【0063】
(実施例1)
SiC基板の表面に、処理層を積層した際の反りをシミュレーションにより求めた。シミュレーションは、有限要素法シミュレータANSYSを用いて行った。有限要素法シミュレータANSYSを用いたシミュレーションが、実際に作製した物の結果と一致することは別途確認した。
【0064】
シミュレーションは以下の手順で行った。まず、SiC基板及び応力が異なる表面層の物性値を設定した。設定する物性値は、SiC基板の板厚、表面層の膜厚、ヤング率、ポアソン比、である。SiC基板の板厚は、350μmとした。SiC基板の直径は、75mmとした。SiC基板のヤング率は480GPa、ポアソン比は0.20とした。表面層の膜厚は、0.01mmとした。ここで処理層はイオン注入により応力が発生した場合を考え、表面層のヤング率およびポアソン比は、SiC基板と同じ値を用いた。
【0065】
そして、SiC基板の厚みとSiC基板の第1外周端にかかる応力を変えて、SiC基板の反り量を求めた。第1外周端にかかる応力は、-30MPa(圧縮応力)、0MPa、+30MPa(引張応力)、+60MPa(引張応力)の4パターンでそれぞれ求めた。
【0066】
(実施例2)
実施例2は、SiC基板の直径を100mmとした点が実施例1と異なる。その他の条件は、実施例1と同じとして、シミュレーションでSiC基板の反り量を求めた。
【0067】
(実施例3)
実施例3は、SiC基板の直径を150mmとした点が実施例1と異なる。その他の条件は、実施例1と同じとして、シミュレーションでSiC基板の反り量を求めた。
【0068】
(実施例4)
実施例4は、SiC基板の直径を200mmとした点が実施例1と異なる。その他の条件は、実施例1と同じとして、シミュレーションでSiC基板の反り量を求めた。
【0069】
(実施例5)
実施例5は、SiC基板の直径を250mmとした点が実施例1と異なる。その他の条件は、実施例1と同じとして、シミュレーションでSiC基板の反り量を求めた。
【0070】
(実施例6)
実施例6は、SiC基板の直径を300mmとした点が実施例1と異なる。その他の条件は、実施例1と同じとして、シミュレーションでSiC基板の反り量を求めた。
【0071】
実施例1~6におけるそれぞれの結果と、反りパラメータFとの関係を示したものが、図4である。すなわち、処理層を形成後のSiC基板の反りのシミュレーション結果と、処理層を形成する前のSiC基板の反りパラメータFとの間に相関があることが確認できる。
【0072】
また実施例1~6の結果から、SiC基板の直径Rが大きくなるほど加工後のSiC基板の反り量が大きくなることが分かる。また実施例1~6の結果から、SiC基板の厚みtが薄くなるほど加工後のSiC基板の反り量が大きくなることが分かる。また実施例1~6の結果から、SiC基板の第1外周端にかかる応力が圧縮応力の場合は絶対値が小さいほど、SiC基板の第1外周端にかかる応力が引張応力の場合は絶対値が大きいほど加工後のSiC基板の反り量が大きくなることが分かる。この結果は、反りパラメータFを決定するパラメータが、SiC基板の直径R、厚みt、応力Sから求められる点と一致する。
【符号の説明】
【0073】
1 第1外周端、2 外周部、10 SiC基板、10a 第1面、10b 第2面、11 処理層、C 中心、R 直径、S 応力
【要約】
【課題】加工プロセスを経ても反りにくい半導体デバイスを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の半導体デバイスはSiC基板10を備え、SiC基板は厚みと直径と中心から[11-20]方向で外周端から10mm内側の第1外周端に係る応力とから求められる式(1)で表される反りファクターFが300μm以下である、半導体デバイス;F=K×exp(a+b×ln(σ)+c×ln(R)+d×ln(ts))・・・(1)(K=1.3373、a=-11.67123、b=1.4030953、c=1.8050972、d=-1.585898を満たす定数で、σ=60(MPa)-2/3×S(MPa)を満たし、Sは第1外周端の円周方向と同じ方向である<1-100>方向に係る内部応力で、引張応力を正、圧縮応力を負としたもので、tは厚み(mm)で、Rは直径(mm)である。
【選択図】図2
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