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特許7216248SiCデバイス及びSiCデバイスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-23
(45)【発行日】2023-01-31
(54)【発明の名称】SiCデバイス及びSiCデバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/36 20060101AFI20230124BHJP
   C30B 25/20 20060101ALI20230124BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C30B25/20
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022189408
(22)【出願日】2022-11-28
(62)【分割の表示】P 2021115760の分割
【原出願日】2021-07-13
【審査請求日】2022-11-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】塩野 翼
(72)【発明者】
【氏名】馬渕 雄一郎
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-077807(JP,A)
【文献】特開2019-099438(JP,A)
【文献】特開2019-021694(JP,A)
【文献】国際公開第2017/094764(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00-35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiC基板と、前記SiC基板上に積層されたSiCエピタキシャル層と、を備え、
前記SiCエピタキシャル層は、前記SiC基板側から順に第1層、第2層、第3層を有し、
前記SiC基板の窒素濃度は、6.0×1018cm-3以上1.5×1019cm-3以下であり、
前記第1層の窒素濃度は、1.0×1017cm-3以上1.5×1018cm-3以下であり、
前記第2層の窒素濃度は、1.0×1018cm-3以上5.0×1018cm-3以下であり、
前記第3層の窒素濃度は、5.0×1013cm-3以上1.0×1017cm-3以下である、SiCデバイス。
【請求項2】
前記第2層の膜厚は、2.0μm以上である、請求項1に記載のSiCデバイス。
【請求項3】
前記第1層の膜厚は、0.2μm以上2.0μm以下である、請求項1に記載のSiCデバイス。
【請求項4】
前記第1層の膜厚は、0.2μm以上2.0μm以下である、請求項2に記載のSiCデバイス。
【請求項5】
前記SiCデバイスがパワーデバイスである、請求項1~4のいずれか一項に記載のSiCデバイス。
【請求項6】
前記SiCデバイスが高周波デバイスである、請求項1~4のいずれか一項に記載のSiCデバイス。
【請求項7】
前記SiCデバイスが高温動作デバイスである、請求項1~4のいずれか一項に記載のSiCデバイス。
【請求項8】
前記SiCデバイスがバイポーラデバイスである、請求項1~4のいずれか一項に記載のSiCデバイス。
【請求項9】
SiC基板にSiCエピタキシャル層が形成されたSiCエピタキシャルウェハを用いてSiCデバイスを作製する工程を有し、
前記SiCエピタキシャル層は、前記SiC基板側から順に第1層、第2層、第3層を有し、
前記SiC基板の窒素濃度は、6.0×1018cm-3以上1.5×1019cm-3以下であり、
前記第1層の窒素濃度は、1.0×1017cm-3以上1.5×1018cm-3以下であり、
前記第2層の窒素濃度は、1.0×1018cm-3以上5.0×1018cm-3以下であり、
前記第3層の窒素濃度は、5.0×1013cm-3以上1.0×1017cm-3以下である、SiCデバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiCデバイス及びSiCデバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて絶縁破壊電界が1桁大きく、バンドギャップが3倍大きく、熱伝導率が3倍程度高い。炭化珪素(SiC)は、パワーデバイス、高周波デバイス、高温動作デバイス等への応用が期待されている。
【0003】
SiCデバイスの実用化の促進には、高品質のSiCエピタキシャルウェハ、及び高品質のエピタキシャル成長技術の確立が求められている。
【0004】
SiCデバイスは、SiCエピタキシャルウェハに形成される。SiCエピタキシャルウェハは、SiC基板と、SiC基板上に積層されたエピタキシャル層と、を備える。SiC基板は、昇華再結晶法等で成長させたSiCのバルク単結晶から加工して得られる。エピタキシャル層は、化学的気相成長法(Chemical Vapor Deposition:CVD)等によって作製され、デバイスの活性領域となる。
【0005】
SiCエピタキシャルウェハにおいて、SiCデバイスに致命的な欠陥を引き起こすデバイスキラー欠陥の一つとして、基底面転位(Basal plane dislocation:BPD)が知られている。たとえば、バイポーラデバイスに順電流を印加すると、BPDを基点として積層欠陥が拡張し、高抵抗な積層欠陥となる。デバイス内に生じた高抵抗部は、デバイスの信頼性を低下させる。BPDは、その近傍で少数キャリアが再結合すると積層欠陥を形成しながら拡張する性質がある。
【0006】
例えば、特許文献1~3には、SiC基板とデバイスが形成される半導体層との間に、基板と同程度又はそれ以上の高濃度の不純物を含むバッファ層を形成することが記載されている。バッファ層は、BPDが拡張し積層欠陥となることを抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第6627938号公報
【文献】特許第6351874号公報
【文献】特許第5687422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
SiCデバイスの作製において、エピタキシャル層の膜厚は重要な情報である。エピタキシャル層の測定膜厚と実膜厚とが異なると、プロセス過程でトラブルの原因となる場合がある。エピタキシャル層の膜厚は、例えば、フーリエ変換赤外分光(FT-IR)法で測定できる。FT-IRは、表面反射と界面反射との干渉波形からフーリエ変換により膜厚を測定する。界面が複数ある場合、複数の干渉波形が生じる。干渉波形同士が重なると、所望の干渉波形を分離できず、所望の膜厚を測定することができない。例えば、SiC基板とデバイスが形成される半導体層との間に、高濃度の不純物を含むバッファ層を形成すると、エピタキシャル層の総厚を正確に測定できない場合がある。
【0009】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、エピタキシャル層の総厚及びドリフト層の厚みを測定できる、SiCエピタキシャルウェハ及びその製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0011】
(1)第1の態様にかかるSiCエピタキシャルウェハは、SiC基板と、前記SiC基板上に積層されたエピタキシャル層と、を備え、前記エピタキシャル層は、前記SiC基板側から順に第1層、第2層、第3層を有し、前記SiC基板の窒素濃度は、6.0×1018cm-3以上1.5×1019cm-3以下であり、前記第1層の窒素濃度は、1.0×1017cm-3以上1.5×1018cm-3以下であり、前記第2層の窒素濃度は、1.0×1018cm-3以上5.0×1018cm-3以下であり、前記第3層の窒素濃度は、5.0×1013cm-3以上1.0×1017cm-3以下である。
【0012】
(2)上記態様にかかるSiCエピタキシャルウェハにおいて、前記第2層の膜厚は、2.0μm以上であってもよい。
【0013】
(3)上記態様にかかるSiCエピタキシャルウェハにおいて、前記第1層の膜厚は、0.2μm以上2.0μm以下であってもよい。
【0014】
(4)第2の態様にかかるSiCエピタキシャルウェハの製造方法は、窒素濃度が6.0×1018cm-3以上1.5×1019cm-3以下のSiC基板上に、窒素濃度が1.0×1017cm-3以上1.5×1018cm-3以下の第1層を積層する工程と、前記第1層上に、窒素濃度が1.0×1018cm-3以上5.0×1018cm-3以下の第2層を積層する工程と、前記第2層上に、窒素濃度が5.0×1013cm-3以上1.0×1017cm-3以下の第3層を積層する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0015】
上記態様にかかるSiCエピタキシャルウェハは、エピタキシャル層の総厚及びドリフト層の厚みを測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1実施形態に係るSiCエピタキシャルウェハの断面図である。
図2】FT-IRの測定原理を示す図である。
図3】各層の窒素濃度を制御しなかった場合(比較例)におけるFT-IR測定結果である。
図4】実施例1におけるSiCエピタキシャルウェハにおける膜厚測定箇所の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材質、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0018】
図1は、第1実施形態に係るSiCエピタキシャルウェハ100の断面図である。SiCエピタキシャルウェハ100は、SiC基板10とエピタキシャル層20とを有する。
【0019】
SiC基板10は、例えば、SiCインゴットから切り出されたものである。SiCインゴットは、例えば、昇華法を用いてSiC種結晶上に成長する。SiC基板10は、例えば、(0001)から<11-20>方向にオフセット角を有する面を成長面とする。
【0020】
SiC基板10は、不純物がドーピングされている。不純物は、例えば、窒素である。SiC基板10の窒素濃度は、6.0×1018cm-3以上1.5×1019cm-3以下である。SiC基板10の窒素濃度は、6.5×1018cm-3以上であることが好ましい。ドーピング濃度の面内均一性は30%以内であることが好ましく、20%以下であることがより好ましい。SiC基板10の平面視サイズは、例えば、6インチ以上である。
【0021】
エピタキシャル層20は、SiC基板10上に積層されている。エピタキシャル層20は、例えば、化学気相成長法(CVD法)で形成される。
【0022】
エピタキシャル層20は、例えば、第1層21と第2層22と第3層23とを有する。エピタキシャル層20は、SiC基板10上に、第1層21、第2層22、第3層23の順に積層されている。第1層21、第2層22、第3層23のそれぞれは、窒素濃度で区分される。第1層21、第2層22、第3層23のそれぞれは、複数の層からなってもよい。
【0023】
第1層21は、SiC基板10と第2層22との間にある。第1層21は、SiC基板10上に積層されている。第1層21は、n型又はp型の半導体である。
【0024】
第1層21は、SiC基板10より窒素濃度が低く、第2層22より窒素濃度が低い。第1層21の窒素濃度は、1.0×1017cm-3以上1.5×1018cm-3以下である。第1層21の窒素濃度は、例えば、SiC基板10の窒素濃度の0.3倍以下であることが好ましく、0.2倍以下であることがより好ましい。第1層21のドーピング濃度の面内均一性は50%以内であることが好ましく、30%以下であることがより好ましい。
【0025】
第1層21の膜厚は、例えば、0.2μm以上2.0μm以下であり、好ましくは0.2μm以上1.2μm未満である。FT-IRにおいて、SiC基板10と第1層21との間の界面反射に伴う干渉波形と、第1層21と第2層22との間の界面反射に伴う干渉波形とは、重なりやすい。本実施形態に係るSiCエピタキシャルウェハ100であれば、第1層21の膜厚が薄い場合でも、干渉波形の重なりを抑制でき、エピタキシャル層20の総厚を正確に測定できる。
【0026】
第1層21は、第1層21とSiC基板10との界面で、BPDをTED(貫通刃状転移)に変換することで、SiC基板10内のBPDがエピタキシャル層20内に引き継がれることを抑制する。
【0027】
第2層22は、第1層21と第3層23との間にある。第2層22は、第1層21上に積層されている。
【0028】
第2層22は、第1層21より窒素濃度が高い。第2層22は、高濃度層と称されるn型の半導体層である。第2層22は、エピタキシャル層20中のキャリアがSiC基板10に到るのを抑制する。キャリアがSiC基板10に至り、SiC基板10内のBPD近傍でキャリアが再結合した場合、BPDを基点とした積層欠陥が拡張することで、デバイス抵抗が増加し、信頼性低下につながる。
【0029】
第2層22の窒素濃度は、1.0×1018cm-3以上5.0×1018cm-3以下であり、好ましくは1.0×1018cm-3以上3.5×1018cm-3以下である。第2層22の窒素濃度は、例えば、第1層21の窒素濃度の10倍以下であることが好ましく、5倍以下であることがより好ましい。ドーピング濃度の面内均一性は50%以内であることが好ましく、30%以下であることがより好ましい。
【0030】
第2層22の膜厚は、例えば、2.0μm以上であり、好ましくは10μm以下である。第2層22の膜厚が十分厚いと、エピタキシャル層20中のキャリアがSiC基板10に到るのをより抑制できる。第2層22が厚すぎるとスループットが増加し、SiCエピタキシャルウェハ100のコスト増の原因となる。
【0031】
第3層23は、第2層22上に積層されている。第3層23は、ドリフト電流が流れ、デバイスとして機能する層である。第3層23は、ドリフト層と称される。ドリフト電流は、半導体に電圧が印加された際に、キャリアの流れにより生じる電流である。
【0032】
第3層23は、不純物を含む。不純物は、例えば、窒素である。第3層23の窒素濃度は、5.0×1013cm-3以上1.0×1017cm-3以下であり、好ましくは1.0×1014cm-3以上1.0×1017cm-3以下である。第3層23の窒素濃度は、例えば、第2層22の窒素濃度の0.1倍以下であることが好ましく、0.02倍以下であることがより好ましい。ドーピング濃度の面内均一性は20%以内であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。
【0033】
第3層22の膜厚は、例えば、5μm以上である。
【0034】
各層の窒素濃度は、水銀プローブ(Hg-CV)法や二次イオン質量分析法(SIMS)等で測定できる。
【0035】
Hg-CV法は、ドナー濃度Nとアクセプター濃度Nの差(N-N)をn型の不純物濃度として測定する。ドナー濃度に比べてアクセプター濃度が十分に小さい場合は、これらの濃度差をn型の不純物濃度とみなせる。
【0036】
二次イオン質量分析法(SIMS)は、厚み方向に層を削りながら、飛び出してきた二次イオンの質量分析をする方法である。質量分析からドーピング濃度を測定できる。
【0037】
窒素濃度の測定点はウェハ面内の分布が反映できるのであれば任意の点でよい。ウェハのエッジから5mm未満の部分は測定点に含めないことが好ましい。例えば、ウェハの中心を原点として十字の方向に複数点で測定する。例えば、原点を中心に十字のそれぞれの4方向に等間隔に並ぶ5点ずつの計21点で測定する。上述の窒素濃度は、各点で測定された濃度の平均値である。それぞれの測定点における濃度は、平均値から大幅にズレるものではなく、少なくともいずれかの測定点は上述の窒素濃度の範囲を満たす。面内均一性とは、面内測定値の最大値から最小値を引き、面内測定値の平均値で割った値である。
【0038】
次いで、第1実施形態に係るSiCエピタキシャルウェハ100の製造方法を説明する。SiCエピタキシャルウェハ100は、SiC基板10を準備する工程と、SiC基板10上に第1層21、第2層22、第3層23を順に積層する工程と、を有する。
【0039】
まずSiC基板10を準備する。SiC基板10の作製方法は特に問わない。例えば、昇華法等で得られたSiCインゴットをスライスすることで得られる。例えば、SiC基板10の主面が(0001)面に対して0.4°以上5°以下のオフセット角を有するように、スライスする。SiC基板10は、6.0×1018cm-3以上1.5×1019cm-3以下のものを選択する。
【0040】
SiC基板10には、BPDが(0001)面(c面)に沿って存在する。SiC基板10の成長面に露出しているBPDの個数は、少ない方が好ましいが、特に限定するものではない。例えば、6インチのSiC基板の表面(成長面)に存在するBPDの個数は、1cmあたり500個~5000個程度である。
【0041】
次いで、SiC基板10上に第1層21を成膜する。第1層21の成膜は、SiC基板10上に、原料ガス及びドーパントガスを流通して、化学気相成長法により行う。原料ガスは、分子内にSiを含むSi系原料ガスと、分子内にCを含むC系原料ガスに分けられる。ドーパントガスは、例えば、窒素ガスである。
【0042】
第1層21の窒素濃度は、1.0×1017cm-3以上1.5×1018cm-3以下とする。第1層21の窒素濃度は、C/Si比及びドーパントガス濃度を調整することで、制御される。C/Si比は、Si系原料ガス中のSi原子に対するC系原料ガス中のC原子のモル比である。
【0043】
次いで、第1層21上に、第2層22を成膜する。第2層22の窒素濃度は、1.0×1018cm-3以上5.0×1018cm-3以下とする。次いで、第2層22上に、第3層23を成膜する。第3層23の窒素濃度は、5.0×1013cm-3以上1.0×1017cm-3以下とする。第2層22及び第3層23は、第1層21と同様の方法で成膜することができる。
【0044】
第1実施形態に係るSiCエピタキシャルウェハ100は、エピタキシャル層20の総厚及び第3層23の厚みを測定できる。エピタキシャル層20の総厚及び第3層23の厚みは、FT-IRで測定できる。
【0045】
図2は、FT-IRの測定原理を示す図である。SiCエピタキシャルウェハ100には、SiC基板10と第1層21との間に界面S1、第1層21と第2層22の間に界面S2、第2層22と第3層23の間に界面S3、がある。界面S1では界面反射R1、界面S2では界面反射R2、界面S3では界面反射R3が生じる。FT-IRは、表面反射とそれぞれの界面反射R1,R2,R3との干渉波形からフーリエ変換により膜厚を測定する。
【0046】
図3は、各層の窒素濃度を制御しなかった場合(比較例)におけるFT-IR測定結果である。図3における左のピークは、界面反射R3に由来する。図3における右のピークは、界面反射R1及び界面反射R2に由来する。図3に示すように、界面反射R1に由来するピークと界面反射R2に由来するピークは混合し、それぞれを分離することができない。そのため、FT-IRの測定結果からエピタキシャル層20の総厚と、第2層22と第3層23との合計厚みとを、分離して求めることができない。
【0047】
これに対し、第1実施形態に係るSiCエピタキシャルウェハ100は、各層の窒素濃度が制御されることで各層の屈折率が制御されている。そのため、FT-IR測定結果において、界面反射R2を起こさなくすることができ、図3における右のピークから界面反射R2の影響を取り除くことができる。したがって、界面反射R1に由来するピークからエピタキシャル層20の総厚を測定できる。また界面反射R3に由来するピークから第3層23の厚みを同時に測定できる。
【0048】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【実施例
【0049】
(実施例1)
窒素濃度が6.0×1018cm-3以上1.5×1019cm-3以下の範囲内であるSiC基板を準備した。SiC基板のサイズは6インチとした。当該SiC基板上に、エピタキシャル層として第1層、第2層、第3層を順に積層した。第1層の窒素濃度は1.0×1018cm-3とした。第2層の窒素濃度は3.5×1018cm-3とした。第3層の窒素濃度は1.0×1016cm-3とした。
【0050】
図4は、実施例1におけるSiCエピタキシャルウェハにおける膜厚測定箇所の模式図である。図4に示すように、9カ所の測定点p1~p9のそれぞれで、エピタキシャル層の膜厚をFT-IR測定した。
【0051】
(比較例1)
比較例1は、第2層の窒素濃度を6.5×1018cm-3とした点のみが実施例1と異なる。その他の条件を実施例1と同一として、9カ所の測定点p1~p9のそれぞれで、エピタキシャル層の膜厚をFT-IR測定した。
【0052】
実施例1と比較例1では、測定されたエピタキシャル層の総厚が異なっていた。成長速度から算出したおおよその設定膜厚と比較すると、実施例1のエピタキシャル層の総厚が正しいと考えられる。面内平均値で比較すると、比較例1で測定されたエピタキシャル層の総厚の平均値は、実施例1で測定されたエピタキシャル層の総厚の平均値と0.2μm差があった。比較例1は、図3に示すように、界面反射R1に由来するピークと界面反射R2に由来するピークとが混合したためと思われる。
【0053】
(実施例2)
窒素濃度が約7.0×1018cm-3のSiCインゴットからSiC基板を切り出した。当該SiC基板上に、エピタキシャル層として第1層、第2層、第3層を順に積層した。第1層の窒素濃度は1.0×1018cm-3とした。第2層の窒素濃度は3.7×1018cm-3とした。第3層の窒素濃度は1.0×1016cm-3とした。そして、測定点p1におけるエピタキシャル層の総厚をFT-IRで測定した。
【0054】
(実施例3)
実施例3は、窒素濃度が約7.5×1018cm-3のSiCインゴットからSiC基板を切り出した点が実施例2と異なる。SiC基板は6枚取り出し、それぞれのSiC基板上にエピタキシャル層を成膜した。それぞれのエピタキシャル層の構成は、実施例2と同じとした。そして、測定点p1におけるエピタキシャル層の総厚をFT-IRで測定した。
【0055】
(実施例4)
実施例4は、窒素濃度が約6.5×1018cm-3の別のSiCインゴットからSiC基板を切り出した点が実施例2と異なる。SiC基板上にエピタキシャル層を成膜した。エピタキシャル層の構成は、実施例2と同じとした。そして、測定点p1におけるエピタキシャル層の総厚をFT-IRで測定した。
【0056】
(比較例2)
比較例2は、窒素濃度が約5.7×1018cm-3のSiCインゴットからSiC基板を切り出した点が実施例2と異なる。SiC基板は2枚取り出し、それぞれのSiC基板上にエピタキシャル層を成膜した。それぞれのエピタキシャル層の構成は、実施例2と同じとした。そして、測定点p1におけるエピタキシャル層の総厚をFT-IRで測定した。
【0057】
(比較例3)
比較例3は、窒素濃度が約5.5×1018cm-3のSiCインゴットからSiC基板を切り出した点が実施例2と異なる。SiC基板は4枚取り出し、それぞれのSiC基板上にエピタキシャル層を成膜した。それぞれのエピタキシャル層の構成は、実施例2と同じとした。そして、測定点p1におけるエピタキシャル層の総厚をFT-IRで測定した。
【0058】
以下の表1に、実施例2~4、比較例2,3の膜厚測定結果をまとめた。表1では、設定膜厚と実測膜厚の差を示す。設定膜厚と実測膜厚の差は、以下の関係式で求められる。設定膜厚は、成膜条件と成長速度から算出される。
(「実測膜厚」-「設定膜厚」)/「設定膜厚」×100 (%)
【0059】
表1に示すように、SiC基板の窒素濃度が6.0×1018cm-3以上である実施例2~4は、設定膜厚と実測膜厚の差が1%程度であった。これに対し、窒素濃度が6.0×1018cm-3未満である比較例2,3は、設定膜厚と実測膜厚の差が2%以上ある部分があった。比較例2,3は、エピタキシャル層の総厚が薄く測定された。比較例2,3は、図3に示すように、界面反射R1に由来するピークと界面反射R2に由来するピークとが、混合したためと思われる。
【0060】
【表1】
【符号の説明】
【0061】
10…SiC基板、20…エピタキシャル層、21…第1層、22…第2層、23…第3層、100…SiCエピタキシャル層、S1,S2,S3…界面、R1,R2,R3…界面反射
【要約】
【課題】エピタキシャル層の総厚及びドリフト層の厚みを測定できる、SiCデバイス及びその製造方法を得ることを目的とする。
【解決手段】このSiCデバイスは、SiC基板と、前記SiC基板上に積層されたSiCエピタキシャル層と、を備え、前記SiCエピタキシャル層は、前記SiC基板側から順に第1層、第2層、第3層を有し、前記SiC基板の窒素濃度は、6.0×1018cm-3以上1.5×1019cm-3以下であり、前記第1層の窒素濃度は、1.0×1017cm-3以上1.5×1018cm-3以下であり、前記第2層の窒素濃度は、1.0×1018cm-3以上5.0×1018cm-3以下であり、前記第3層の窒素濃度は、5.0×1013cm-3以上1.0×1017cm-3以下である。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4