IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダイキン工業株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-24
(45)【発行日】2023-02-01
(54)【発明の名称】再循環構造を備える遠心圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04D 29/46 20060101AFI20230125BHJP
【FI】
F04D29/46 G
F04D29/46 H
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020520589
(86)(22)【出願日】2018-10-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-12-17
(86)【国際出願番号】 US2018054314
(87)【国際公開番号】W WO2019074752
(87)【国際公開日】2019-04-18
【審査請求日】2020-06-10
(31)【優先権主張番号】15/728,815
(32)【優先日】2017-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ヴラディスラフ ゴールデンバーグ
(72)【発明者】
【氏名】マーク フォティブファ
【審査官】所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】独国特許発明第102015111462(DE,B3)
【文献】特開2016-160760(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0308110(US,A1)
【文献】特開2008-309029(JP,A)
【文献】独国特許発明第19823274(DE,C1)
【文献】米国特許第08021104(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入口部と出口部とを有する筐体と、
再循環路と再循環吐出キャビティとを有する再循環構造と、
前記再循環吐出キャビティの下流側に配置され、シャフト回転軸の回りに回転可能なシャフトに取り付けられるインペラと、
前記インペラを回転させるため前記シャフトを回転させるように配置されるモータと、
前記インペラの下流側の前記出口部に配置されるディフューザと、
を備えるチラーシステムにおいて用いられるよう設計される遠心圧縮機であって、
前記再循環構造は前記入口部内への冷媒の流れに渦を与えるよう構成されるとともに配置されており、前記渦によって生じる再循環流の速度が前記入口部における前記冷媒の流れの速度より速く、
複数の再循環吐出ガイドベーンが、前記再循環吐出キャビティを囲繞するように配置されており、
前記複数の再循環吐出ガイドベーンは、前記シャフトの前記シャフト回転軸に関して周方向に配置されており、
前記再循環路は、前記複数の再循環吐出ガイドベーンに向かって冷媒を導入する再循環管を有し、
前記再循環構造の前記再循環管は前記筐体の外部から導入され、
前記再循環管は、通過する冷媒の流れを調整するための弁を有
前記再循環構造は、環状板上に配置される前記複数の再循環吐出ガイドベーンを収容するよう設計される複数の凹部を有する連動板を更に有し、
前記連動板は、前記シャフトの前記シャフト回転軸と平行な方向に沿って軸方向に移動可能である、
遠心圧縮機。
【請求項2】
前記複数の再循環吐出ガイドベーンと前記再循環管とを接続するよう、環状溝が前記筐体に形成されている、
請求項1に記載の遠心圧縮機。
【請求項3】
前記再循環構造の前記再循環管は、前記圧縮機の吐出ノズルから前記複数の再循環吐出ガイドベーンに向かって延設される、
請求項1からのいずれか1項に記載の遠心圧縮機。
【請求項4】
前記入口部に配置されるインレットガイドベーンを更に備え、
前記再循環吐出ガイドベーンは、前記シャフト回転軸と平行な方向において、前記インレットガイドベーンと前記インペラとの間に配置される、
請求項1からのいずれか1項に記載の遠心圧縮機。
【請求項5】
冷媒の前記渦によって生じる前記再循環流は、前記インペラの回転方向と同じ方向に回転する、
請求項1からのいずれか1項に記載の遠心圧縮機。
【請求項6】
冷媒の前記渦によって生じる前記再循環流は、前記インペラの回転方向とは反対方向に回転する、
請求項1からのいずれか1項に記載の遠心圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、チラーシステムにおける遠心圧縮機に関する。より具体的には、本発明は、冷媒の再循環構造を備える遠心圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
チラーシステムは、媒体から熱を取り出す冷凍機または冷凍装置である。一般に、水などの液体が媒体として用いられ、そしてチラーシステムは蒸気圧縮冷凍サイクルで動作する。そして、空気または必要に応じて機器を冷やすための熱交換器を通るようこの液体を循環させることができる。冷却では、不可避な副産物なとして廃熱が発生し、廃熱は周囲に排出せざるをえない、または効率を上げるために加熱目的で回収すべきである。従来のチラーシステムは、多くの場合、ときにターボ圧縮機と呼ばれる遠心圧縮機を用いる。このため、このようなチラーシステムをターボチラーと呼ぶこともできる。あるいは、他のタイプの圧縮機(例えばスクリュー圧縮機)を用いることもできる。
【0003】
従来の(ターボ)チラーにおいて、冷媒は遠心圧縮機において圧縮され、冷媒と熱交換媒体(液体)との間で熱交換が行われる熱交換器に送られる。冷媒がこの熱交換器において凝縮するため、この熱交換器は凝縮器と呼ばれる。その結果、熱が媒体(液体)に伝わり、媒体が加熱される。凝縮器から出てくる冷媒は、膨張弁によって膨張し、冷媒と熱交換媒体(液体)との間で熱交換が行われる他の熱交換器へと送られる。冷媒がこの熱交換器において加熱される(蒸発する)ため、この熱交換器は蒸発器と呼ばれる。その結果、熱が媒体(液体)から冷媒へと伝わり、液体が冷却される。その後、蒸発器からの冷媒は、遠心圧縮機に戻され、このサイクルが繰り返される。利用される液体は、多くの場合、水である。
【0004】
従来の遠心圧縮機は、基本的に、ケーシングと、インレットガイドベーンと、インペラと、ディフューザと、モータと、種々のセンサと、コントローラと、を有する。冷媒は、インレットガイドベーン、インペラ、およびディフューザを順に流れる。したがって、インレットガイドベーンは遠心圧縮機のガス吸気口に連結され、ディフューザはインペラのガス排気口に連結される。インレットガイドベーンは、インペラ内への冷媒ガスの流量を制御する。インペラにより、冷媒気体の速度は速くなる。ディフューザは、インペラによって得られる冷媒気体の速度(動圧)を、圧力(静圧)へと変換するよう機能する。モータは、インペラを回転させる。コントローラは、モータ、インレットガイドベーンおよび膨張弁を制御する。こうして、従来の遠心圧縮機において冷媒は圧縮される。
【0005】
圧縮機吐出に隣接する圧力が圧縮機吐出圧より高い場合、流体は逆に流れようとし、圧縮機内に逆流しようとすることさえある。これは、リフト圧力(凝縮器圧力-蒸発器圧力)が圧縮機リフト性能を超えた場合に起こる。サージと呼ばれるこの現象は、繰り返し、サイクル毎に生じる。圧縮機は、サージが生じてシステム全体が不安定になると、リフトを維持する機能を失う。圧縮機速度が変化するまたはインレットガス角度が変化するときのサージ点の集合はサージ面と呼ばれる。通常状態では、圧縮機は、サージ面の右側で作動する。しかしながら、起動時や部分負荷における動作において、流れが低下するので、作動点はサージラインに向かって移動する。作動点がサージラインに近付くような状態である場合、フロー再循環がインペラおよびディフューザに生じる。最終的には、フロー分離によって吐出圧が低下することになり、吸引から吐出までのフローが再開することになる。サージングにより、ロータが作動側から非作動側へと行き来するので、機械的インペラ/シャフトシステムに、および/または、スラスト軸受に、ダメージを与えるおそれがある。このことは、圧縮機のサージ・サイクルとして定義される。
【0006】
したがって、サージを制御するための技術が開発されている。例えば、米国特許第4,248,055号明細書および米国特許出願公開第2013/0180272号明細書を参照されたい。
【発明の概要】
【0007】
遠心圧縮機において、圧縮機コントローラは、サージを制御するように種々のパーツを制御することができる。例えば、サージを制御するよう、インレットガイドベーンおよび/または吐出ディフューザ羽根(ベーン)を制御することができ、あるいは圧縮機の速度を調整することができる。しかしながら、これらのシステムは、圧縮機の動作範囲を制限する場合があり、このため圧縮機の性能が低下する場合もある。
【0008】
したがって、本発明の一の目的は、圧縮機の性能を低下させることなくサージを防止する遠心圧縮機を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、構成を過度に複雑とすることなくサージを制御する遠心圧縮機を提供することにある。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、効率損失を最小限としながら冷媒フローを調節するとともに冷媒フローの範囲を全体的に広くすることができる遠心圧縮機を提供することにある。
【0011】
上記目的の一つ以上は、基本的には、筐体と、再循環構造と、インペラと、モータと、ディフューザと、を備える、チラーシステムにおいて用いられるよう設計される遠心圧縮機を提供することによって達成できる。筐体は、入口部と出口部とを有する。再循環構造は、再循環路と、再循環吐出キャビティ(空洞)と、を有する。インペラは、再循環吐出キャビティの下流側に配置される。インペラは、シャフト回転軸の回りに回転可能なシャフトに取り付けられる。モータは、インペラを回転させるようシャフトを回転させるように配置される。ディフューザは、インペラの下流の出口部に配置される。再循環構造は、入口部内への冷媒の流れに渦を与えるよう構成されるとともに配置される。渦によって生じる再循環流の速度は、入口部における冷媒の流れの速度より速い。
【0012】
本発明のこれらおよび他の目的、特徴、態様、および利点は、添付の図面と組み合わせて、好ましい態様を開示する以下の説明から当業者に明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
本開示の一部をなす添付の図面を参照しながら以下に説明を行う。
【0014】
図1】本発明の第一実施形態に係る、再循環構造を有する遠心圧縮機を備えるチラーシステムを示す概略図である。
【0015】
図2A】説明の目的で一部を切断して断面を示した、図1に示すチラーシステムの遠心圧縮機の簡略斜視図である。
【0016】
図2B】二段遠心圧縮機のインペラ、モータおよび磁気軸受の概略長手方向断面図である。
【0017】
図3図2Aに示す遠心圧縮機の筐体の一部の簡略斜視図である。
【0018】
図4】遠心圧縮機の入口側から見た、図2Aおよび図3に示す遠心圧縮機の簡略正面図である。
【0019】
図5図4の切断線5-5に沿って見た、図2Aおよび図4に示す遠心圧縮機の簡略部分長手方向断面図である。
【0020】
図6図5の切断線6-6に沿って見た、図2A図4および図5に示す遠心圧縮機の簡略断面図である。
【0021】
図7図5の切断線7-7に沿って見た、図2A図4図5および図6に示す遠心圧縮機の簡略断面図である。
【0022】
図8】再循環構造の再循環吐出ガイドベーンの動きを示す概略図である。
【0023】
図9A】再循環構造の羽根が開いた、図2A図4および図5に示す遠心圧縮機の簡略断面図である。
【0024】
図9B】再循環構造の羽根が半分開いた、図2A図4および図5に示す遠心圧縮機の簡略断面図である。
【0025】
図9C】再循環構造の羽根が完全に閉じた、図2A図4および図5に示す遠心圧縮機の簡略断面図である。
【0026】
図10図5における円10の内側の簡略拡大図である。
【0027】
図11A】本発明の第二実施形態に係る、再循環構造の環状板の簡略斜視図である。
【0028】
図11B】本発明の第二実施形態に係る、再循環構造の連動板の簡略斜視図である。
【0029】
図11C】環状板と連動板とが互いに近接している状態を示す、第二実施形態に係る再循環構造の環状板および連動板の簡略斜視図である。
【0030】
図11D】環状板と連動板と互いから離間している状態を示す、第二実施形態に係る再循環構造の環状板および連動板の簡略斜視図である。
【0031】
図12】本発明の第三実施形態に係る遠心圧縮機の簡略部分長手方向断面図である。
【0032】
図13】説明の目的で一部を切断して断面を示した、第三実施形態に係る遠心圧縮機の簡略斜視図である。
【0033】
図14A】第三実施形態に係る再循環構造の回転マニホルド板の簡略斜視図である。
【0034】
図14B】第三実施形態に係る再循環構造の環状板を有する回転マニホルド板の簡略斜視図である。
【0035】
図14C】第三実施形態に係る再循環構造の環状板を有する回転マニホルド板の簡略後部斜視図である。
【0036】
図15A】再循環構造の羽根が完全に開いた、図12における切断線15-15に沿って見た、第三実施形態に係る遠心圧縮機の簡略断面図である。
【0037】
図15B】再循環構造の羽根が50%開いた、図12における切断線15-15に沿って見た、第三実施形態に係る遠心圧縮機の簡略断面図である。
【0038】
図15C】再循環構造の羽根が完全に閉じた、図12における切断線15-15に沿って見た、第三実施形態に係る遠心圧縮機の簡略断面図である。
【0039】
図16】説明の目的で一部を切断して断面を示した、変形形態に係る遠心圧縮機の簡略側面図である。
【0040】
図17】チラーコントローラを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
選択的な実施形態を、図面を参照して説明する。以下の本発明に係る実施形態の説明は単なる例示であって、添付の特許請求の範囲およびそれらの均等物によって定義される本発明を限定するものではないことは、本開示から、当業者には明らかであろう。
【0042】
まず、図1を参照して、本発明の第一実施形態に係る、再循環構造50を有する圧縮機22を備えるチラーシステム10を説明する。チラーシステム10は、好ましくは、従来と同様に冷やすための冷却水(cooling water)および冷水(chiller water)を利用する水チラーである。ここで例示するチラーシステム10は、単段(シングル・ステージ)チラーシステムである。なお、チラーシステム10を二段以上のステージを含む多段チラーシステムとできることは本開示から当業者には明らかであろう。
【0043】
チラーシステム10は、基本的に、ループ冷凍サイクルを形成するために互いに直列に接続されるコントローラ20、圧縮機22、凝縮器24、膨張弁26および蒸発器28を有する。さらに、種々のセンサS,Tが、図1に示すように、チラーシステム10の回路の全体に配置される。圧縮機22が本発明に係る再循環構造50を有するという点を除いて、チラーシステム10は従来のものである。
【0044】
図1図2Aおよび図2Bを参照して、例示の実施形態においては、圧縮機22は遠心圧縮機である。例示の実施形態の遠心圧縮機22は、基本的に、筐体30と、任意選択的なインレットガイドベーン32と、インペラ34と、ディフューザ/ボリュート36と、吐出ノズル37と、モータ38と、磁気軸受組立体40と、さらに加えて種々の従来のセンサと、を有する。コントローラ20は、種々のセンサから信号を受信し、インレットガイドベーン32、モータ38および磁気軸受組立体40を従来と同様に制御する。冷媒は、インレットガイドベーン32、インペラ34およびディフューザ/ボリュート36を順に流れる。インレットガイドベーン32は、インペラ34内への冷媒気体の流量を従来と同様に制御する。インペラ34は、冷媒気体を増速する。モータ速度によって、冷媒気体の速度の増加量が決まる。ディフューザ/ボリュート36は冷媒圧力を高める。モータ38は、シャフト42を介してインペラ34を回転させる。磁気軸受組立体40は、シャフト42を磁気的に支持する。こうして、遠心圧縮機22において冷媒が圧縮される。例示の実施形態の遠心圧縮機22は、インレットガイドベーン32を有する。なお、インレットガイドベーン32は任意選択的なものであり、本発明に係る再循環構造50を、インレットガイドベーンを有しない遠心圧縮機にも適用することができる。
【0045】
図2Bを参照して、磁気軸受組立体40は従来のものと同様であり、したがってここでは詳細には説明および/または例示をしない。なお、本発明から逸脱することなく任意の適当な軸受を用いることができることは、当業者には明らかであろう。図2Bから分かる通り、磁気軸受組立体40は、好ましくは、第一ラジアル磁気軸受44と、第二ラジアル磁気軸受46と、アキシャル(スラスト)磁気軸受48とを有する。どのような場合でも、少なくとも一つのラジアル磁気軸受44または46はシャフト42を回転可能に支持する。スラスト磁気軸受48は、スラストディスク45に作用することにより、シャフト42を回転軸Xに沿って支持する。スラスト磁気軸受48は、シャフト42に取り付けられるスラストディスク45を有する。
【0046】
図2Aに示す遠心圧縮機22は単段圧縮機である。また、図2Bに示す遠心圧縮機22は、第一ステージ・インペラ34aと第二ステージ・インペラ34bとを有する二段圧縮機である。上述の通り、本発明に係る再循環構造50を、単段圧縮機や二段以上のステージを有する多段圧縮機に適用することができる。
【0047】
図1および図17を参照して、コントローラ20は、磁気軸受制御部分71と、圧縮機可変周波数ドライブ72と、圧縮機モータ制御部分73と、(任意選択的な)インレットガイドベーン制御部分74と、膨張弁制御部分75と、再循環構造制御部分76とを有する電子制御器である。
【0048】
例示の実施形態において、各制御部分は、ここで説明するパーツの制御を実行するようにプログラムされるコントローラ20の各部分(セクション)である。磁気軸受制御部分71、圧縮機可変周波数ドライブ72、圧縮機モータ制御部分73、インレットガイドベーン制御部分74(任意選択的)、膨張弁制御部分75および再循環構造制御部分76は、互いに接続されており、圧縮機22のI/Oインタフェースに電気的に接続される遠心圧縮機制御部分のパーツを形成している。なお、一以上の制御器がここで説明するチラーシステム10の各パーツの制御を実行するようにプログラムされている限り、制御セクション、制御部分(ポーション)および/またはコントローラ20の具体的な数、位置ならびに/もしくは構造を本発明から逸脱することなく変更できることは、本開示から当業者には明らかであろう。
【0049】
コントローラ20は従来のものであり、したがって、少なくとも一のマイクロプロセッサーすなわちCPUと、入力/出力(I/O)インタフェースと、ランダムアクセスメモリ(RAM)と、読み出し専用メモリ(ROM)と、チラーシステム10を制御する一以上の制御プログラムを実行するようにプログラムされるコンピュータ可読媒体を形成する記憶装置(揮発性または不揮発性)と、を有する。コントローラ20は、ユーザから入力を受けるためのキーパッドなど入力インタフェースと、各種パラメータをユーザに対して表示するために用いられる表示装置と、を任意選択的に有することができる。各パーツおよびプログラミングは従来のものであり、したがって、実施形態を理解するために必要なものを除いてここでは詳細には説明しない。
<第一実施形態>
【0050】
次に図2図10を参照して、第一実施形態に係る遠心圧縮機22の再循環構造50の詳細な構造を説明する。遠心圧縮機22のケーシング30は、入口部31aと出口部31bとを有する。図6からよく分かる通り、再循環構造50は、再循環路52と再循環吐出空洞(キャビティ)54とを有する。本実施形態において、再循環構造50の再循環路52はケーシング30内に配置される。以下でより詳細に説明する通り、再循環路52は圧縮機22のディフューザ/ボリュート36から冷媒を導入し、そして導入された冷媒は再循環吐出キャビティ54から吐出される。
【0051】
図6からよく分かる通り、複数の再循環吐出ガイドベーン(案内羽根)56が再循環吐出キャビティ54を囲繞するよう配置される。再循環吐出ガイドベーン56は、シャフト42のシャフト回転軸Xに関して周方向に配置される。再循環吐出ガイドベーン56は、シャフト回転軸Xと平行な方向においてインレットガイドベーン32とインペラ34との間に配置される。なお、上述の通り、インレットガイドベーン32は任意選択的なものであり、本発明に係る再循環構造50を、インレットガイドベーンを有しない遠心圧縮機にも適用することができる。
【0052】
例示の実施形態において、再循環構造50はさらに環状板58を有する。再循環吐出ガイドベーン56は、互いから略均等に間隔を空けて配置されるよう、環状板58上に配置される。再循環吐出ガイドベーン56のそれぞれは、羽根軸(ベーンシャフト)60を用いて、環状板58上に回転可能に取り付けられる。再循環吐出ガイドベーン56のそれぞれは、再循環吐出ガイドベーン56のそれぞれを回転させる回転機構(図示せず)に接続される。回転機構は従来のものと同様であり、したがってここでは詳細には説明および/または例示をしない。なお、本発明から逸脱することなく任意の適当な回転機構を用いることができることは、当業者には明らかであろう。回転機構は、コントローラ20の再循環構造制御部分76に連結される。それぞれの再循環吐出ガイドベーン56の角度は、回転機構によって再循環吐出ガイドベーン56を回転させることにより調整可能である。コントローラ20の再循環構造制御部分76は、それぞれの再循環吐出ガイドベーン56の角度を制御するよう構成される。
【0053】
図8に示す通り、再循環吐出ガイドベーン56のそれぞれは、ベーンシャフト60のシャフト回転軸Yの回りに回転可能である。ベーンシャフト60のシャフト回転軸Yは、シャフト42のシャフト回転軸Xと略平行である。複数の再循環吐出ガイドベーン56を、一つの連結機構(図示せず)に接続することができる。連結機構は、従来のものと同様であり、したがってここでは詳細には説明および/または例示をしない。なお、本発明から逸脱することなく任意の適当な連結機構を用いることができることは、当業者には明らかであろう。例示の実施形態において、複数の再循環吐出ガイドベーン56の角度が同時に調整されるよう、複数の再循環吐出ガイドベーン56は連結機構によって互いに接続されている。例えば、複数の再循環吐出ガイドベーン56の角度を、図9Aに示す開いた状態から図9Cに示す閉じた状態まで段階的に調整することができる。
【0054】
図6および図7を参照して、再循環路52は、再循環管(パイプ)を有する。再循環パイプ52は、第一実施形態において、圧縮機22のディフューザ/ボリュート36から複数の再循環吐出ガイドベーン56に向かって延設される。再循環パイプ52と複数の再循環吐出ガイドベーン56とを接続するために、環状溝62がケーシング30内に配置される。環状溝62は、ケーシング30の内周全体に延設される。圧縮機22のディフューザ/ボリュート36から再循環パイプ52を介して導入された冷媒は、環状溝62を通過し、複数の再循環吐出ガイドベーン56に向かって流れる。複数の再循環吐出ガイドベーン56が、冷媒の速度を増加させて、冷媒の渦を生成する。冷媒の渦は、再循環吐出キャビティ54から吐出され、圧縮機22のケーシング31の入口部31aにおける冷媒の主要な流れ(メインフロー)へと混合される。このように、再循環構造50は、入口部31aにおける冷媒のフローに渦を与える。渦によって生じる再循環流フローの速度は、入口部31aにおける冷媒のフローの速度より速い。冷媒の再循環フローは、再循環吐出ガイドベーン56の角度の調整により制御できる。
【0055】
また、再循環フローの方向も、再循環吐出ガイドベーン56の角度の調整により制御できる。より具体的には、再循環フローの方向は、図6に矢印Aで示すインペラ34の回転方向と同じ方向となるよう制御できる。この場合、冷媒のメインフローを低減するのに有効な能力は、最小効率および圧力上昇損失(ペナルティー)から予測される。あるいは、再循環フローの方向は、図6に矢印Bで示すインペラ34の回転方向とは逆の方向となるよう制御できる。この場合、揚程上昇すなわち圧力上昇の増加により、効率損失(ペナルティー)が小さくなる。
<第二実施形態>
【0056】
図11A図11Dを参照して、第二実施形態係る再循環構造50を説明する。
【0057】
第二実施形態における再循環構造50は、図11Bに示すように環状板58に配置される複数の再循環吐出ガイドベーン56を収容するように構成される複数の凹部66を連動板64が有することを除いて、環状板58と同様な形状を有する連動板(インターロッキングプレート)64をさらに有する。第二実施形態において、再循環吐出ガイドベーン56は、連動板64の凹部66と適切に適合するよう環状板58に固定して取り付けられる。連動板64は、リニアアクチュエーター(図示せず)に接続され、これにより、連動板64は、モータ38のシャフト42のシャフト回転軸Xと平行な方向に沿って軸方向に移動できる。リニアアクチュエーターは従来のものと同様であり、したがってここでは詳細には説明および/または例示をしない。なお、本発明から逸脱することなく任意の適当なリニアアクチュエーターを用いることができることは、当業者には明らかであろう。
【0058】
図11Cに示す通り、連動板64を、環状板58と連動板64が互いに近付く方向に軸方向に移動させることができる。図11Cに示すこの近付いた位置においては、連動板64の複数の凹部66が、環状板58上の複数の再循環吐出ガイドベーン56を収容する。また図11Dに示す通り、連動板64を、環状板58と連動板64が互いから離間する方向に軸方向に移動させることができる。図11Dに示すこの離間した位置においては、環状板58上の複数の再循環吐出ガイドベーン56は、連動板64の複数の凹部66から外れている。連動板64のこの軸方向移動によって、再循環フローのフロー領域を軸方向に変化させることができ、したがって、再循環フローをさらに、連動板64のこの軸方向移動で制御することができる。あるいは、環状板58をリニアアクチュエーターに接続することもできる。この場合、環状板58の軸方向移動によって、再循環フローのフロー領域を軸方向に変化させることができ、したがって、再循環フローをさらに、環状板58のこの軸方向移動で制御することができる。連動板64と環状板58との両方を軸方向に移動するよう構成することもできる。
<第三実施形態>
【0059】
図12図15を参照して、第三実施形態に係る再循環構造50を説明する。
【0060】
第三実施形態における再循環構造50は、図14A図14Cに示す形状を有する回転マニホルド板70を有する。本実施形態においては、複数の再循環吐出ガイドベーン56が環状板58に静止するよう取り付けられる。複数の再循環吐出ガイドベーン56のそれぞれの間に流路68が形成されるよう、複数の再循環吐出ガイドベーン56は互いに略同じ間隔で配置される。図15A図15Cに示す通り、複数の再循環吐出ガイドベーン56は、径方向において冷媒のフロー領域の略半分を塞ぐ。回転マニホルド板70は、モータ38のシャフト42のシャフト回転軸Xと一致する軸の回りに回転可能に配置される。以下により詳細に説明する通り、回転マニホルド板70が回転すると、回転マニホルド板70が複数の再循環吐出ガイドベーン56のそれぞれの間のチャンネル68を閉じる。
【0061】
回転マニホルド板70が図15Aに示す完全に開いた位置にあるとき、回転マニホルド板70は、径方向において複数の再循環吐出ガイドベーン56と並ぶよう配置され、複数の再循環吐出ガイドベーン56のそれぞれの間のチャンネル68が完全に開く。回転マニホルド板70が図15Bに示す50%開いた位置にあるとき、回転マニホルド板70は複数の再循環吐出ガイドベーン56のそれぞれの間のチャンネル68の50%を塞ぐ。回転マニホルド板70が図15Cに示す完全に閉じた位置にあるとき、複数の再循環吐出ガイドベーン56のそれぞれの間のチャンネル68は、回転マニホルド板70で完全に閉じられる。この構成により、回転マニホルド板70は、複数の再循環吐出ガイドベーン56のそれぞれの間のチャンネル68を段階的に開閉できる。回転マニホルド板70の回転によって、再循環フローのフロー領域を径方向に変化させることができ、したがって、再循環フローをさらに制御することができる。例示の実施形態において、回転マニホルド板70は、環状板58に対して回転する。あるいは、環状板58を固定板70に対して回転することもできる。
<変形実施形態>
【0062】
第一実施形態においては、図6および図7に示した通り、再循環構造50の再循環パイプ52は、ケーシング30内に配置される。第一実施形態の変形実施形態においては、図16に示す通り、再循環パイプ52’は、ケーシング30の外部に配置される。例えば、再循環パイプ52’を圧縮機22の吐出ノズル37から複数の再循環吐出ガイドベーン56に向かって延びるよう配置することもできる。再循環パイプ52’は、再循環パイプ52を通過する冷媒のフローを調整するための弁53を有する。弁は従来のものと同様であり、したがってここでは詳細には説明および/または例示をしない。なお、本発明から逸脱することなく任意の適当なバルブを用いることができることは、当業者には明らかであろう。変形実施形態を、第二実施形態および第三実施形態にも適用することができる。
【0063】
地球環境保護の観点から、R1233zdやR1234zeのような新しい低GWP(地球温暖化係数)冷媒をチラーシステムに使用することが考えられる。低地球温暖化係数冷媒の一例は、蒸発圧力が大気圧以下である低圧冷媒である。例えば、低圧冷媒R1233zdは、非可燃性で、無毒で、低価格であり、現在の主な冷媒R134aの代替品であるR1234zeなどの他の候補と比較して高いCOPを有するので、遠心チラー用途に対する候補となる。本発明係る再循環構造50を有する圧縮機22は、R1233zdなど低圧冷媒を含む任意のタイプの冷媒を用いるのに有用である。
<用語の概括的な説明>
【0064】
本発明の範囲の理解において、ここで用いられる用語「備える」およびその派生語は、記載された特徴、要素、コンポーネント、群、完全体、および/またはステップが有ることを明記しているオープンエンドの用語を意味するのであって、記載されていない特徴、要素、コンポーネント、群、完全体、および/またはステップが有ることを排除するものではない。上記は、用語「有する」、「含む」およびそれらの派生語など同様の意味を持つ語にも当てはまる。また、単数形的に用いられる用語「パート」、「セクション(部分)」、「ポーション(部)」、「部材(メンバー)」あるいは「要素」は、単一のパートあるいは複数のパーツの二つの意味を持ちうる。
【0065】
コンポーネント、セクション、装置等によって実行される動作または機能を説明するためにここで用いる語「検出する」は、物理的な検出を必要としないコンポーネント、セクション、装置等を含むだけでなく、そのような動作または機能を実行するための決定、測定、モデル化、予測または演算等も含む。
【0066】
コンポーネント、装置のセクションあるいはパートを説明するためにここで用いられる語「構成される」は、所望の機能を実現するよう構築されるかつ/またはプログラムされるハードウェアおよび/またはソフトウェアを含む。
【0067】
ここでは、「ほぼ」、「およそ」、「約」といった程度を示す用語は、最終結果が大きく変わらないような、変形の条件の妥当な変更量を意味するものとして用いる。
【0068】
本発明の説明のためにいくつかの実施例が選択されたに過ぎず、添付の特許請求の範囲に記載された本発明の範囲を逸脱しない範囲で、種々の変更、変形ができることは、本開示から当業者には明らかであろう。例えば、必要に応じておよび/または所望により、種々のコンポーネントの大きさ、形状、配置、向きを変更できる。互いと直接的に連結あるいは接触するよう示したコンポーネントは、それらの間に中間構造体を有することができる。一つの要素の機能は二つによって達成することができ、またその逆の場合も同様である。一の態様の構造および機能を他の態様に適用することもできる。すべての利点が必ずしも同時に特定の態様にもたらされる必要はない。先行技術から区別されるそれぞれの特徴は、それ単独として、あるいは他の特徴と組み合わせとして、そのような特徴により実施される構造的あるいは機能的思想を含む出願人によるさらなる発明の内容として付帯的に考慮されるものとする。このように、前述の本発明に係る実施例の説明は単なる例示であって、添付の特許請求の範囲およびそれらの均等物によって決められる本発明を限定するものではないことは、本開示から当業者には明らかであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0069】
【文献】米国特許第4,248,055号明細書
【文献】米国特許出願公開第2013/0180272号明細書
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図10
図11A
図11B
図11C
図11D
図12
図13
図14A
図14B
図14C
図15A
図15B
図15C
図16
図17