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特許7216344分散剤、導電材分散体、及び電極膜用スラリー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-24
(45)【発行日】2023-02-01
(54)【発明の名称】分散剤、導電材分散体、及び電極膜用スラリー
(51)【国際特許分類】
   C09K 23/52 20220101AFI20230125BHJP
   C08F 236/12 20060101ALI20230125BHJP
   C08K 3/20 20060101ALI20230125BHJP
   C08L 101/02 20060101ALI20230125BHJP
   H01B 1/20 20060101ALI20230125BHJP
   H01M 4/02 20060101ALI20230125BHJP
   H01M 4/04 20060101ALI20230125BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20230125BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20230125BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230125BHJP
【FI】
C09K23/52
C08F236/12
C08K3/20
C08L101/02
H01B1/20 A
H01M4/02 Z
H01M4/04 Z
H01M4/13
H01M4/139
H01M4/62 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020015256
(22)【出願日】2020-01-31
(65)【公開番号】P2021122751
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2022-06-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(73)【特許権者】
【識別番号】591183153
【氏名又は名称】トーヨーカラー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(72)【発明者】
【氏名】青谷 優
【審査官】中田 光祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-204573(JP,A)
【文献】特開2018-200889(JP,A)
【文献】特開2011-210667(JP,A)
【文献】特開2016-065142(JP,A)
【文献】特表2018-522803(JP,A)
【文献】特開2014-193986(JP,A)
【文献】特開2013-206759(JP,A)
【文献】国際公開第2017/029813(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 23/00- 23/56
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
H01M 4/00- 4/62;
10/05- 10/0587;
10/36- 10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族炭化水素構造単位、ニトリル基含有構造単位、及びアルキル基置換又は非置換の
カルバモイル基含有構造単位を含む共重合体を含有し、
前記脂肪族炭化水素構造単位が、アルキレン構造単位を含み、
前記脂肪族炭化水素構造単位の含有量が、前記共重合体の質量を基準として40質量%
以上85質量%未満であり、前記ニトリル基含有構造単位の含有量が、前記共重合体の質
量を基準として15質量%以上50質量%以下であり、前記アルキル基置換又は非置換の
カルバモイル基含有構造単位の含有量が、前記共重合体の質量を基準として10質量%以
下であり、
前記脂肪族炭化水素構造単位、前記ニトリル基含有構造単位、及び前記アルキル基置換又は非置換のカルバモイル基含有構造単位の合計の含有量が、前記共重合体の質量を基準として80質量%以上であり、
前記共重合体の重量平均分子量が、5,000以上400,000以下である、分散剤
【請求項2】
前記共重合体が、前記共重合体の質量を基準として1質量%未満のカルボキシル基含有
構造単位を更に含む、請求項1に記載の分散剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の分散剤と、前記共重合体の質量を基準として1質量%以上20
質量%以下の塩基と、溶媒とを含有する、分散剤組成物。
【請求項4】
請求項1若しくは2に記載の分散剤及び溶媒、又は、請求項3に記載の分散剤組成物と
、導電材とを含有する、導電材分散体。
【請求項5】
分散剤、溶媒、及び導電材を含有し、
複素弾性率が20Pa未満であり、かつ、位相角が19°以上であり、
前記分散剤が、脂肪族炭化水素構造単位、ニトリル基含有構造単位、及び置換又は非置
換のカルバモイル基含有構造単位を含む共重合体を含有し、
前記脂肪族炭化水素構造単位が、アルキレン構造単位を含み、
前記脂肪族炭化水素構造単位の含有量が、前記共重合体の質量を基準として40質量%
以上85質量%未満であり、前記ニトリル基含有構造単位の含有量が、前記共重合体の質
量を基準として15質量%以上50質量%以下であり、前記置換又は非置換のカルバモイ
ル基含有構造単位の含有量が、前記共重合体の質量を基準として10質量%以下であり、
前記共重合体の重量平均分子量が、5,000以上400,000以下である、導電材
分散体。
【請求項6】
バインダー樹脂と、請求項4又は5に記載の導電材分散体とを含有する、バインダー樹
脂含有導電材分散体。
【請求項7】
請求項4若しくは5に記載の導電材分散体、又は、請求項6に記載のバインダー樹脂含
有導電材分散体と、電極活物質とを含有する、電極膜用スラリー。
【請求項8】
請求項4若しくは5に記載の導電材分散体を用いて形成した膜、請求項6に記載のバイ
ンダー樹脂含有導電材分散体を用いて形成した膜、及び、請求項7に記載の電極膜用スラ
リーを用いて形成した膜からなる群から選択される少なくとも1種を含む、電極膜。
【請求項9】
正極と、負極と、電解質とを含み、前記正極及び前記負極からなる群から選択される少
なくとも1つが、請求項8に記載の電極膜を含む、非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、分散剤、分散剤組成物、導電材分散体、バインダー樹脂含有導電材分散体、電極膜用スラリー、電極膜、及び、非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、電気自動車及び携帯機器等のバッテリーとして広く用いられている。電気自動車及び携帯機器等の高性能化に伴い、リチウムイオン二次電池には、高容量、高出力、及び小型軽量化といった要求が年々高まっている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の容量は、主材料である正極活物質及び負極活物質に大きく依存することから、これらの電極活物質に用いるための各種材料が盛んに研究されている。しかし、実用化されている電極活物質を使用した場合の充電容量は、いずれも理論値に近いところまで到達しており、改良は限界に近い。そこで、電極膜内の電極活物質の充填量が増加すれば、単純に充電容量を増加させることができるため、充電容量には直接寄与しない導電材及びバインダー樹脂の添加量を削減することが試みられている。
【0004】
導電材は、電極膜内部で導電パスを形成したり、電極活物質の粒子間を繋いだりする役割を担っており、導電パス及び繋がりは、電極膜の膨張収縮によって切断が生じにくいことが求められる。少ない添加量で導電パス及び繋がりを維持するためには、導電材として比表面積が大きいナノカーボン、特にカーボンナノチューブ(CNT)を使用することで、効率的な導電ネットワークを形成することが有効である。しかし、比表面積が大きいナノカーボンは凝集力が強いため、ナノカーボンを電極膜用スラリー中及び/又は電極膜中に良好に分散させることが難しいという問題があった。
【0005】
こうした背景から、各種分散剤を用いて導電材分散体を作製し、導電材分散体を経由して電極膜用スラリーを製造する方法が多く提案されている(例えば、特許文献1~5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-162877号公報
【文献】特開2014-193986号公報
【文献】特表2018-522803号公報
【文献】特開2015-128012号公報
【文献】韓国登録特許第10-1831562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば、特許文献1及び特許文献2では、ポリビニルピロリドン又はポリビニルアルコールといった重合体を分散剤として用い、導電材を予め溶媒に分散することで電池の初期特性及びサイクル寿命を向上させることが提案されている。しかし、ポリビニルピロリドン又はポリビニルアルコールは、良好な分散状態の導電材分散体を製造することができるものの、電極膜形成の過程において分散状態が不良となり、導電性が悪化することが課題であった。
【0008】
特許文献3及び特許文献4では、水素化ニトリルゴムを分散剤として用いた導電材分散体が提案されている。しかし、これらの水素化ニトリルゴムは分散性に乏しいため、良好な導電ネットワークを形成するには不十分であった。また、粘度が高いため、導電材分散体の製造に長時間を要する、又は、流動性が乏しくハンドリングが悪い導電材分散体になってしまうといった問題があり、工業的に実用化が困難であった。
【0009】
特許文献5では、水素化ニトリルゴムにアミノエタノール等を添加することで分散性を改善したCNT分散体が提案されている。このCNT分散体では、溶媒の極性を変化させることにより分散体の粘性及び分散剤の作用が改善したものと思われる。しかし、やはり良好な導電ネットワークを形成するにはまだ不十分であった。
【0010】
本発明者らは、少ない導電材の添加量で電池の出力及びサイクル寿命を向上させるために、導電材を導電材分散体中に良好に分散させ、かつ、電極膜中でも良好な導電ネットワークを維持させる方法を、鋭意検討した。その結果、前述の特許文献1及び2において提案された方法では、確かに良好な分散状態の導電材分散体を製造することができるものの、電極活物質と混合して電極膜用スラリーを調製する段階で分散不良が起きていることが判明した。これによって電極膜中で良好な導電ネットワークを形成できなくなり、電池の特性が不良となるものと思われる。本発明者らは、電極膜用スラリーを調製する段階で分散不良が生じる現象を「ロバスト性」不良と呼称している。ロバスト性は、良好な分散状態を維持できる特性であるということができる。
【0011】
電極膜中で良好な導電ネットワークを形成させ、導電材の添加量が少なくても電池の出力及びサイクル寿命を向上させるためには、導電材を導電材分散体中に分散させる段階での良好な分散性と、電極膜用スラリーを調製する段階での良好なロバスト性とを両立させることが求められる。
【0012】
そこで、本発明の実施形態は、良好な分散性と良好なロバスト性とを両立できる導電材分散体及びバインダー樹脂含有導電材分散体を製造することができる分散剤及び分散剤組成物を提供することを課題とする。また、本発明の実施形態は、良好な分散性と良好なロバスト性とを両立できる導電材分散体及びバインダー樹脂含有導電材分散体を提供することを課題とする。また、本発明の実施形態は、良好な分散性を有する電極膜用スラリーを提供することを課題とする。さらに、本発明の実施形態は、非水電解質二次電池の出力及びサイクル寿命を向上できる電極膜、及び、高い出力かつ良好なサイクル寿命を有する非水電解質二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らが鋭意検討したところ、特定の構造単位を特定の比率で含有し、特定の分子量を有する共重合体を分散剤として用いることで、導電材を溶媒に良好に分散させ、かつ、電極膜用スラリーを調製する際及び電極膜を製造する際にもその良好な分散状態を維持して、電極中で良好な導電ネットワークを形成することが可能となった。これにより、導電材の添加量が少なくても電池のレート特性及びサイクル特性を向上させることが可能となった。
【0014】
すなわち、本発明は、以下の実施形態を含む。本発明の実施形態は以下に限定されない。
【0015】
(1)脂肪族炭化水素構造単位、ニトリル基含有構造単位、及び置換又は非置換のカルバモイル基含有構造単位を含む共重合体を含有し、
前記脂肪族炭化水素構造単位が、アルキレン構造単位を含み、
前記脂肪族炭化水素構造単位の含有量が、前記共重合体の質量を基準として40質量%以上85質量%未満であり、前記ニトリル基含有構造単位の含有量が、前記共重合体の質量を基準として15質量%以上50質量%以下であり、前記置換又は非置換のカルバモイル基含有構造単位の含有量が、前記共重合体の質量を基準として10質量%以下であり、
前記共重合体の重量平均分子量が、5,000以上400,000以下である、分散剤。
【0016】
(2)前記共重合体が、前記共重合体の質量を基準として1質量%未満のカルボキシル基含有構造単位を更に含む、上記(1)に記載の分散剤。
【0017】
(3)上記(1)又は(2)に記載の分散剤と、前記共重合体の質量を基準として1質量%以上20質量%以下の塩基と、溶媒とを含有する、分散剤組成物。
【0018】
(4)上記(1)若しくは(2)に記載の分散剤及び溶媒、又は、上記(3)に記載の分散剤組成物と、導電材とを含有する、導電材分散体。
【0019】
(5)複素弾性率が20Pa未満であり、かつ、位相角が19°以上である、上記(4)に記載の導電材分散体。
【0020】
(6)バインダー樹脂と、上記(4)又は(5)に記載の導電材分散体とを含有する、バインダー樹脂含有導電材分散体。
【0021】
(7)上記(4)若しくは(5)に記載の導電材分散体、又は、上記(6)に記載のバインダー樹脂含有導電材分散体と、電極活物質とを含有する、電極膜用スラリー。
【0022】
(8)上記(4)若しくは(5)に記載の導電材分散体を用いて形成した膜、上記(6)に記載のバインダー樹脂含有導電材分散体を用いて形成した膜、及び、上記(7)に記載の電極膜用スラリーを用いて形成した膜からなる群から選択される少なくとも1種を含む、電極膜。
【0023】
(9)正極と、負極と、電解質とを含み、前記正極及び前記負極からなる群から選択される少なくとも1つが、上記(8)に記載の電極膜を含む、非水電解質二次電池。
【発明の効果】
【0024】
本発明の実施形態によれば、良好な分散性と良好なロバスト性とを両立できる導電材分散体及びバインダー樹脂含有導電材分散体を製造することができる分散剤及び分散剤組成物を提供することが可能である。また、本発明の実施形態によれば、良好な分散性と良好なロバスト性とを両立できる導電材分散体及びバインダー樹脂含有導電材分散体を提供することが可能である。また、本発明の実施形態によれば、良好な分散性を有する電極膜用スラリーを提供することが可能である。さらに、本発明の実施形態によれば、非水電解質二次電池の出力及びサイクル寿命を向上できる電極膜、及び、高い出力かつ良好なサイクル寿命を有する非水電解質二次電池を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、全反射測定法による赤外分光分析での共重合体1、分散剤1、及び分散剤3の赤外分光スペクトルである。
図2図2は、核磁気共鳴装置による分散剤1及び分散剤3の13C-NMR定量スペクトルである。
図3図3は、正極膜表面の走査型電子顕微鏡観察での正極膜1aの写真(1,000倍)である。
図4図4は、正極膜表面の走査型電子顕微鏡観察での正極膜1aの写真(拡大、5,000倍)である。
図5図5は、正極膜表面の走査型電子顕微鏡観察での比較正極膜3aの写真(1,000倍)である。
図6図6は、正極膜表面の走査型電子顕微鏡観察での比較正極膜3aの写真(拡大1、5,000倍)である。
図7図7は、正極膜表面の走査型電子顕微鏡観察での比較正極膜3aの写真(拡大2、5,000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態である分散剤、導電材分散体、バインダー樹脂含有導電材分散体、電極膜用スラリー、電極膜、及び非水電解質二次電池等について詳しく説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明には要旨を変更しない範囲において実施される実施形態も含まれる。
【0027】
<分散剤>
分散剤は、脂肪族炭化水素構造単位、ニトリル基含有単位、及びカルバモイル基含有構造単位を含む共重合体を含有する。脂肪族炭化水素構造単位は、少なくともアルキレン構造単位を含む。脂肪族炭化水素構造単位の含有量は、共重合体の質量を基準として40質量%以上85質量%未満であり、ニトリル基含有単位の含有量は、共重合体の質量を基準として15質量%以上50質量%以下であり、カルバモイル基含有構造単位の含有量は、共重合体の質量を基準として10質量%以下である。共重合体の重量平均分子量は、5,000以上400,000以下である。本明細書において、当該共重合体を「共重合体I」という場合がある。また、本明細書において、「置換又は非置換のカルバモイル基」(-CO-NR’(R’は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基である。))を「アミド基」という場合がある。
【0028】
脂肪族炭化水素構造単位は、脂肪族炭化水素構造を含む構造単位であり、好ましくは脂肪族炭化水素構造のみからなる構造単位である。脂肪族炭化水素構造は、飽和脂肪族炭化水素構造を少なくとも含み、不飽和脂肪族炭化水素構造を更に含んでもよい。脂肪族炭化水素構造は、直鎖状脂肪族炭化水素構造を少なくとも含むことが好ましく、分岐状脂肪族炭化水素構造を更に含んでもよい。
【0029】
脂肪族炭化水素構造単位の例として、アルキレン構造単位、アルケニレン構造単位、アルキル構造単位、アルカントリイル構造単位、アルカンテトライル構造単位等が挙げられる。脂肪族炭化水素構造単位は、少なくともアルキレン構造単位を含む。
【0030】
アルキレン構造単位は、アルキレン構造を含む構造単位であり、好ましくはアルキレン構造のみからなる構造単位である。アルキレン構造は、直鎖状アルキレン構造又は分岐状アルキレン構造であることが好ましい。
【0031】
アルキレン構造単位は、下記一般式(1A)で表される構造単位を含むことが好ましい。
【0032】
一般式(1A)
【化1】
【0033】
一般式(1A)中、nは、1以上の整数を表す。nは、2以上の整数であることが好ましく、3以上の整数であることがより好ましく、4以上の整数であることが特に好ましい。nは、6以下の整数であることが好ましく、5以下の整数であることがより好ましい。特に、nは、4であることが好ましい。
本明細書において「*」は、他の構造との結合部を表す。
【0034】
アルキレン構造単位は、下記一般式(1B)で表される構造単位を含むことが好ましい。
【0035】
一般式(1B)
【化2】
【0036】
一般式(1B)中、nは、1以上の整数を表す。nは、2以上の整数であることが好ましく、3以上の整数であることがより好ましい。nは、5以下の整数であることが好ましく、4以下の整数であることがより好ましい。特に、nは、3であることが好ましい。
【0037】
アルキレン構造単位は、下記一般式(1C)で表される構造単位を含むことが好ましい。
【0038】
一般式(1C)
【化3】
【0039】
一般式(1C)中、nは、1以上の整数を表す。nは、4以下の整数であることが好ましく、3以下の整数であることがより好ましく、2以下の整数であることが更に好ましい。特に、nは、2であることが好ましい。
【0040】
共重合体Iへのアルキレン構造単位の導入方法は、特に限定はされないが、例えば以下の(1a)又は(1b)の方法が挙げられる。
【0041】
(1a)の方法では、共役ジエン単量体を含有する単量体組成物を用いて重合反応により共重合体を調製する。調製した共重合体は、共役ジエン単量体に由来する単量体単位を含む。本発明において、「共役ジエン単量体に由来する単量体単位」を「共役ジエン単量体単位」という場合があり、他の単量体に由来する単量体単位についても同様に省略する場合がある。次いで、共役ジエン単量体単位に水素添加することで、共役ジエン単量体単位の少なくとも一部をアルキレン構造単位に変換する。以下、「水素添加」を「水素化」という場合がある。最終的に得られる共重合体Iは、共役ジエン単量体単位を水素化した単位をアルキレン構造単位として含む。
【0042】
なお、共役ジエン単量体単位は、炭素-炭素二重結合を1つ持つ単量体単位を少なくとも含む。例えば、共役ジエン単量体単位である1,3-ブタジエン単量体単位は、cis-1,4構造を持つ単量体単位、trans-1,4構造を持つ単量体単位、及び1,2構造を持つ単量体単位からなる群から選択される少なくとも1種の単量体単位を含み、2種以上の単量体単位を含んでいてもよい。また、共役ジエン単量体単位は、炭素-炭素二重結合を持たない単量体単位であって、分岐点を含む単量体単位を更に含んでいてもよい。本明細書において、「分岐点」とは分岐ポリマーにおける分岐点をいい、共役ジエン単量体単位が分岐点を含む単量体単位を含む場合、上記の調製した共重合体及び共重合体Iは分岐ポリマーである。
【0043】
(1b)の方法では、α-オレフィン単量体を含む単量体組成物を用いて重合反応により共重合体を調製する。調製した共重合体は、α-オレフィン単量体単位を含む。最終的に得られる共重合体Iは、α-オレフィン単量体単位をアルキレン構造単位として含む。
【0044】
これらの中でも、共重合体の製造が容易であることから(1a)の方法が好ましい。共役ジエン単量体の炭素数は、4以上であり、好ましくは4以上6以下である。共役ジエン単量体としては、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエンなどの共役ジエン化合物が挙げられる。中でも、1,3-ブタジエンが好ましい。アルキレン構造単位は、共役ジエン単量体単位を水素化して得られる構造単位(水素化共役ジエン単量体単位)を含むことが好ましく、1,3-ブタジエン単量体単位を水素化して得られる構造単位(水素化1,3-ブタジエン単量体単位)を含むことがより好ましい。共役ジエン単量体は、1種を単独で、又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
水素化は、共役ジエン単量体単位を選択的に水素化できる方法であることが好ましい。水素化の方法として、例えば、油層水素添加法又は水層水素添加法などの公知の方法が挙げられる。
【0046】
水素化は、通常の方法により行うことができる。水素化は、例えば、共役ジエン単量体単位を有する共重合体を、適切な溶媒に溶解させた状態において、水素化触媒の存在下で水素ガスで処理することにより行うことができる。水素化触媒としては、ニッケル、パラジウム、白金、銅等が挙げられる。
【0047】
(1b)の方法において、α-オレフィン単量体の炭素数は、2以上であり、好ましくは3以上であり、より好ましくは4以上である。α-オレフィン単量体の炭素数は、6以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましい。α-オレフィン単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセンなどのα-オレフィン化合物が挙げられる。α-オレフィン単量体は、1種を単独で、又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0048】
アルキレン構造単位は、直鎖状アルキレン構造を含む構造単位、及び、分岐状アルキレン構造を含む構造単位からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、直鎖状アルキレン構造のみからなる構造単位、及び、分岐状アルキレン構造のみからなる構造単位からなる群から選択される少なくとも1種を含むことがより好ましく、上記式(1B)で表される構造単位、及び、上記式(1C)で表される構造単位からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが更に好ましい。
【0049】
アルキレン構造単位は、直鎖状アルキレン構造を含む構造単位と、分岐状アルキレン構造を含む構造単位とを含んでもよい。アルキレン構造単位が、直鎖状アルキレン構造を含む構造単位と、分岐状アルキレン構造を含む構造単位とを含む場合、分岐状アルキレン構造の含有量は、アルキレン構造単位の質量を基準として(すなわち、アルキレン構造単位の質量を100質量%とした場合に)、70質量%以下であることが好ましく、65質量%以下であることがより好ましい。特に、20質量%以下であることが好ましく、18質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることが更に好ましい。共重合体Iが、直鎖状アルキレン構造を含む構造単位と、分岐状アルキレン構造を含む構造単位とを含む場合、分岐状アルキレン構造の含有量は、アルキレン構造単位の質量を基準として(すなわち、アルキレン構造単位の質量を100質量%とした場合に)、例えば、1質量%以上であり、5質量%以上あってもよく、更に10質量%以上であってもよい。
【0050】
脂肪族炭化水素構造単位において、アルキレン構造単位の含有量は、脂肪族炭化水素構造単位の合計の質量を基準として(すなわち、脂肪族炭化水素構造単位の質量を100質量%とした場合に)、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが更に好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。アルキレン構造単位の含有量は、脂肪族炭化水素構造単位の合計の質量を基準として(すなわち、脂肪族炭化水素構造単位の質量を100質量%とした場合に)、例えば、100質量%未満であり、99.5質量%以下、99質量%以下、又は98質量%以下であってもよい。アルキレン構造単位の含有量は、100質量%であってもよい。
【0051】
脂肪族炭化水素構造単位の含有量は、共重合体Iの質量を基準として(すなわち、共重合体Iの質量を100質量%とした場合に)、40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることが更に好ましい。脂肪族炭化水素構造単位の含有量は、共重合体Iの質量を基準として(すなわち、共重合体Iの質量を100質量%とした場合に)、85質量%未満であることが好ましく、75質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることが更に好ましい。
【0052】
ニトリル基含有構造単位は、ニトリル基を含む構造単位であり、好ましくはニトリル基により置換されたアルキレン構造を含む構造単位を含み、より好ましくはニトリル基により置換されたアルキレン構造のみからなる構造単位を含む。アルキレン構造は、直鎖状又は分岐状のアルキレン構造であることが好ましい。ニトリル基含有構造単位は、ニトリル基により置換されたアルキル構造を含む(又はのみからなる)構造単位を更に含んでもよい。ニトリル基含有構造単位に含まれるニトリル基の数は、1つであることが好ましい。
【0053】
ニトリル基含有構造単位は、下記一般式(2A)で表される構造単位を含むことが好ましい。
【0054】
一般式(2A)
【化4】
【0055】
一般式(2A)中、nは、2以上の整数を表す。nは、6以下の整数であることが好ましく、4以下の整数であることがより好ましく、3以下の整数であることが更に好ましい。特に、nは、2であることが好ましい。
【0056】
ニトリル基含有構造単位は、下記一般式(2B)で表される構造単位を含むことが好ましい。
【0057】
一般式(2B)
【化5】
【0058】
一般式(2B)中、Rは、水素原子又はメチル基を表す。Rは、水素原子であることが好ましい。
【0059】
共重合体Iへのニトリル基含有構造単位の導入方法は、特に限定されないが、ニトリル基含有単量体を含有する単量体組成物を用いて重合反応により共重合体を調製する方法((2a)の方法)を好ましく用いることができる。最終的に得られる共重合体Iは、ニトリル基含有単量体単位をニトリル基含有構造単位として含む。ニトリル基含有構造単位を形成し得るニトリル基含有単量体としては、重合性炭素-炭素二重結合とニトリル基とを含む単量体が挙げられる。例えば、ニトリル基を有するα,β-エチレン性不飽和基含有化合物が挙げられ、具体的には、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられる。特に、共重合体I同士及び/又は共重合体Iと被分散物(被吸着物)との分子間力を高める観点から、ニトリル基含有単量体は、アクリロニトリルを含むことが好ましい。ニトリル基含有単量体は、1種を単独で、又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0060】
ニトリル基含有構造単位の含有量は、共重合体Iの質量を基準として(すなわち、共重合体Iの質量を100質量%とした場合に)、15質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることが更に好ましい。ニトリル基含有構造単位の含有量は、共重合体Iの質量を基準として(すなわち、共重合体Iの質量を100質量%とした場合に)、50質量%以下であることが好ましく、46質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることが更に好ましい。ニトリル基含有構造単位の含有量を上記範囲にすることで、被分散物への吸着性及び分散媒への親和性をコントロールすることができ、被分散物を分散媒中に安定に存在させることができる。また、共重合体Iの電解液への親和性もコントロールでき、電池内で共重合体Iが電解液に溶解して電解液の抵抗を増大させるなどの不具合を防ぐことができる。
【0061】
アミド基含有構造単位は、アミド基を含む構造単位であり、好ましくはアミド基により置換されたアルキレン構造を含む構造単位を含み、より好ましくはアミド基により置換されたアルキレン構造のみからなる構造単位を含む。アルキレン構造は、直鎖状又は分岐状のアルキレン構造であることが好ましい。アミド基含有構造単位は、アミド基により置換されたアルキル構造を含む(又は、のみからなる)構造単位を更に含んでもよい。アミド基含有構造単位に含まれるアミド基の数は、1つであることが好ましい。アミド基は、置換又は非置換のカルバモイル基であり、置換基としては、アルキル基、ヒドロキシアルキル基等が挙げられる。共重合体Iにアミド基含有構造単位を含ませることで、被分散物への吸着力を著しく向上させ、分散性とロバスト性とを向上させることができる。また、アミド基は強い水素結合を形成し得ることから、共重合体Iにアミド基含有構造単位を含ませることで、共重合体Iの分子内に水素結合による架橋構造が導入されていてもよい。架橋構造が導入された共重合体Iは、被分散物に三次元的に吸着することができるため、分散性とロバスト性をより向上させることができる。
【0062】
アミド基含有構造単位は、下記一般式(3A)で表される構造単位を含むことが好ましい。
【0063】
一般式(3A)
【化6】
【0064】
一般式(3A)中、nは、2以上の整数を表す。nは、6以下の整数であることが好ましく、4以下の整数であることがより好ましく、3以下の整数であることが更に好ましい。特に、nは、2であることが好ましい。R’は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。置換基は、アルキル基又はヒドロキシアルキル基であることが好ましい。R’は、少なくとも1つが水素原子であることが好ましく、2つが水素原子であることがより好ましい。
【0065】
アミド基含有構造単位は、下記一般式(3B)で表される構造単位を含むことが好ましい。
【0066】
一般式(3B)
【化7】
【0067】
一般式(3B)中、Rは、水素原子又はメチル基を表す。Rは、水素原子であることが好ましい。R’は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。置換基は、アルキル基又はヒドロキシアルキル基であることが好ましい。R’は、少なくとも1つが水素原子であることが好ましく、2つが水素原子であることがより好ましい。
【0068】
共重合体Iへのアミド基含有構造単位の導入方法は、特に限定はされないが、例えば、以下の(3a)又は(3b)の方法が挙げられる。
【0069】
(3a)の方法では、アミド基含有単量体を含有する単量体組成物を用いて重合反応により共重合体を調製する。調製した共重合体は、アミド基含有単量体単位を含む。最終的に得られる共重合体Iは、アミド基含有単量体単位をアミド基含有構造単位として含む。
【0070】
(3b)の方法では、ニトリル基含有構造単位を含む共重合体を調製する。次いで、ニトリル基含有構造単位に含まれるニトリル基を、塩基性雰囲気下で加水分解することで、ニトリル基含有構造単位の少なくとも一部をアミド基含有構造単位に変換する。ニトリル基含有構造単位を含む共重合体は、例えば、上記(2a)の方法により得ることができる。最終的に得られる共重合体Iは、ニトリル基含有構造単位に含まれるニトリル基を加水分解により変性した単位をアミド基含有構造単位として含む。
【0071】
共重合体Iを(3b)の方法を経て調製する場合、共重合体Iにアミド基が導入されていることは、NMR(核磁気共鳴)及び/又はIR(赤外分光法)測定により確認できる。また、簡易的には、加水分解前の共重合体と共重合体Iとの間に生じる重量平均分子量及び/又は粘度(溶液の粘度)の変化によって確認することができる。共重合体Iの重量平均分子量は、加水分解前の共重合体の重量平均分子量に対して小さい値となる傾向がある(例えば、0.05~0.6倍となる。)。また、例えば、共重合体Iの溶液のせん断応力1,000/sにおける粘度は、加水分解前の共重合体の溶液のせん断応力1,000/sにおける粘度に対して小さい値となる傾向がある(例えば、0.05~0.6倍となる)。なお、共重合体Iの調製方法によらず、共重合体Iにアミド基が導入されていることは、同様に、NMR(核磁気共鳴)及び/又はIR(赤外分光法)測定により確認できる。
【0072】
(3a)の方法において、アミド基含有単量体としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミドなどのモノアルキル(メタ)アクリルアミド類;N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド等などのジアルキル(メタ)アクリルアミド類;N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシブチル)(メタ)アクリルアミドなどのN-(ヒドロキシアルキル)(メタ)アクリルアミド;ダイアセトン(メタ)アクリルアミド;アクリロイルモルホリン等が挙げられる。本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル又はメタクリルを表す。特に、アミド基含有単量体は、アクリルアミド、メタクリルアミド、及びN,N-ジメチルアクリルアミドからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。アミド基含有単量体は、1種を単独で、又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0073】
(3b)の方法において、塩基性雰囲気下にするために、無機塩基、及び、有機水酸化物(有機塩基)からなる群から選ばれる少なくとも1種の塩基を用いることができる。
【0074】
無機塩基としては、例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の、塩化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、タングステン酸塩、バナジウム酸塩、モリブデン酸塩、ニオブ酸塩、又はホウ酸塩;及び、水酸化アンモニウム等が挙げられる。これらの中でも容易にカチオンを供給できる観点から、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物が好ましい。アルカリ金属の水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。アルカリ土類金属の水酸化物としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。これらの中でも、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウムからなる群から選択される少なくとも1種を用いることがより好ましい。なお、無機塩基が有する金属は、遷移金属であってもよい。
【0075】
有機水酸化物は、有機カチオンと水酸化物イオンとを含む塩である。有機水酸化物としては、例えば、トリメチル-2-ヒドロキシエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、セチルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、3-トリフルオロメチル-フェニルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド等が挙げらる。これらの中でも、トリメチル-2-ヒドロキシエチルアンモニウムヒドロキシド及びテトラメチルアンモニウムヒドロキシドからなる群から選択される少なくとも1種を用いることが特に好ましい。
【0076】
塩基の使用量は、共重合体の質量を基準として1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることが更に好ましい。塩基の使用量は、共重合体の質量を基準として20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが更に好ましい。使用量が少なすぎると、加水分解によるニトリル基の変性が起こりにくい傾向がある。使用量が多すぎると、分散装置及び/又は電池内部の腐食の原因となり得る。
【0077】
(3b)の方法において、加水分解は、アルキレン構造単位及びニトリル基含有単量体単位を含む共重合体と、塩基と、溶媒とを混合することによって行うことができる。更に任意の成分を混合してもよい。共重合体、塩基及び溶媒の容器への添加順序及び混合方法に制限はなく、これらを同時に容器に添加してもよいし;共重合体、塩基及び溶媒をそれぞれ別に容器に添加してもよいし;又は、共重合体及び塩基のいずれか一方又は両方を溶媒と混合し、共重合体含有液及び/又は塩基含有液を調製し、共重合体含有液及び/又は塩基含有液を容器に添加してもよい。特に、ニトリル基を効率よく変性させることができることから、共重合体を溶媒に溶解させた共重合体溶液に、塩基を溶媒中に分散させた塩基分散液を、撹拌しながら添加する方法が好ましい。撹拌には、ディスパー(分散機)又はホモジナイザー等を用いることができる。溶媒としては、後述する分散剤組成物の説明において挙げた溶媒を用いることができる。
【0078】
混合する際の温度に制限はないが、30℃以上に加温することで変性を早めることができる。また、変性を促進するために、微量の水分及び/又はアルコールを容器に添加してもよい。水及び/又はアルコールは、共重合体及び塩基を混合しながら容器に添加してもよいし、共重合体及び塩基を容器に加える前に容器に添加してもよいし、共重合体及び塩基と同時又はこれらに続けて容器に添加してもよい。また、共重合体、塩基、必要に応じて用いられる任意の成分の吸湿性が高い場合は、水を、吸湿された水として含んでいてもよい。水及び/又はアルコールの量は、共重合体の質量を基準として、0.05~20質量%が好ましく、0.05~5質量%がより好ましく、0.05~1質量%が更に好ましい。
【0079】
アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、セカンダリーブタノール、ターシャリーブタノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコールなどが挙げられる。アルコールは、1種類を単独で、又は、2種類以上を組み合わせて用いることができる。加水分解は、メタノール、エタノール、及び水からなる群から選択される少なくとも1種の存在下で行われることが好ましく、特に水の存在下で行われることが好ましい。
【0080】
アミド基含有構造単位の含有量は、共重合体Iの質量を基準として(すなわち、共重合体Iの質量を100質量%とした場合に)、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、3質量%以下が更に好ましく、1質量%以下が特に好ましい。アミド基含有構造単位の含有量が上記範囲以下であると、共重合体I同士の水素結合が強くなりすぎることによって起こり得る、導電材分散体が貯蔵中にゲル化するという問題を防ぐことができる。アミド基含有構造単位の含有量は、共重合体Iの質量を基準として(すなわち、共重合体Iの質量を100質量%とした場合に)、0.1質量%以上であることが好ましく、0.3質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることが更に好ましく、0.7質量%以上であることが特に好ましい。アミド基含有構造単位の含有量が上記範囲以上であると、被分散物への吸着力を十分に向上させ、分散性とロバスト性との良好な向上効果を得ることができる。
【0081】
共重合体Iは、任意の構造単位を含んでもよい。任意の構造単位として、カルボキシル基含有構造単位;アルケニレン構造単位;アルキル構造単位;アルカントリイル構造単位、アルカンテトライル構造単位等の分岐点を含む構造単位などが挙げられる。分岐点を含む構造単位は、分岐状アルキレン構造を含む構造単位及び分岐状アルキル構造を含む構造単位とは異なる構造単位である。
【0082】
カルボキシル基含有構造単位は、カルボキシル基を含む構造単位であり、好ましくはカルボキシル基により置換されたアルキレン構造を含む構造単位を含み、より好ましくはカルボキシル基により置換されたアルキレン構造のみからなる構造単位を含む。アルキレン構造は、直鎖状又は分岐状のアルキレン構造であることが好ましい。カルボキシル基含有構造単位は、カルボキシル基により置換されたアルキル構造を含む(又は、のみからなる)構造単位を更に含んでもよい。カルボキシル基含有構造単位に含まれるカルボキシル基の数は、1つ又は2つであることが好ましい。共重合体Iにカルボキシル基含有構造単位を含ませることで、被分散物への吸着力を著しく向上させるとともに、導電材分散体の粘性を低下させ、分散効率を向上させることができる。
【0083】
カルボキシル基含有構造単位は、下記一般式(4A)で表される構造単位を含むことが好ましい。
【0084】
一般式(4A)
【化8】
【0085】
一般式(4A)中、nは、2以上の整数を表す。nは、6以下の整数であることが好ましく、4以下の整数であることがより好ましく、3以下の整数であることが更に好ましい。特に、nは、2であることが好ましい。
【0086】
カルボキシル基含有構造単位は、下記一般式(4B)で表される構造単位を含むことが好ましい。
【0087】
一般式(4B)
【化9】
【0088】
一般式(4B)中、Rは、水素原子又はメチル基を表す。Rは、水素原子であることが好ましい。
【0089】
カルボキシル基含有構造単位の導入方法は、特に限定はされないが、例えば、以下の(4a)又は(4b)の方法が挙げられる。
【0090】
(4a)の方法では、カルボキシル基含有単量体を含有する組成物を用いて重合反応により共重合体を調製する。調製した共重合体は、カルボキシル基含有単量体単位を含む。最終的に得られる共重合体Iは、カルボキシル基含有単量体単位をカルボキシル基含有構造単位として含む。
【0091】
(4b)の方法では、アミド基含有構造単位を含む共重合体を調製する。次いで、アミド基含有構造単位に含まれるアミド基を、酸性雰囲気下で加水分解することで、アミド基含有構造単位をカルボキシル基含有構造単位に変換する。アミド基含有構造単位を含む共重合体は、例えば、上記(3a)又は(3b)の方法により得ることができる。最終的に得られる共重合体Iは、アミド基含有構造単位に含まれるアミド基を加水分解により変性した単位をカルボキシル基含有構造単位として含む。
【0092】
(4a)の方法において、カルボキシル基含有単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸などの不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、グルタコン酸、イタコン酸などの不飽和ジカルボン酸等が挙げられる。特に、カルボキシル基含有単量体は、アクリル酸及びマレイン酸からなる群から選択される少なくとも1種を含むこと好ましい。カルボキシル基含有単量体は、1種を単独で、又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0093】
(4b)の方法において、酸性雰囲気下にするために、無機酸及び有機酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸を用いることができる。
【0094】
無機酸としては、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、ホウ酸、フッ化水素酸等が挙げられる。有機酸としては、ギ酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、コハク酸、リンゴ酸、安息香酸、ベンゼンスルホン酸等が挙げられる。これらの中でも、コハク酸及びクエン酸が好ましい。
【0095】
酸の使用量は、共重合体の質量を基準として0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、1質量%以上であることが更に好ましい。酸の使用量は、共重合体の質量を基準として10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることが更に好ましい。使用量が少なすぎると、加水分解によるアミド基の変性が起こりにくい傾向がある。使用量が多すぎると、分散装置及び/又は電池内部の腐食の原因となり得る。
【0096】
カルボキシル基含有構造単位の含有量は、共重合体Iの質量を基準として(すなわち、共重合体Iの質量を100質量%とした場合に)、1質量%未満が好ましく、0.5質量%以下がより好ましく、0.3質量%以下が更に好ましい。カルボキシル基含有構造単位の含有量が上記範囲未満(又は以下)であると、共重合体I同士の水素結合が強くなりすぎることによって起こり得る、後述する導電材分散体が貯蔵中にゲル化するという問題を防ぐことができる。カルボキシル基含有構造単位の含有量は、共重合体Iの質量を基準として(すなわち、共重合体Iの質量を100質量%とした場合に)、0.01質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、0.3質量%以上であることが更に好ましい。カルボキシル基含有構造単位の含有量が上記範囲以上であると、被分散物への吸着力を十分に向上させるとともに、導電材分散体の粘性を低下させ、分散効率を向上させることができる。
【0097】
アルケニレン構造単位は、アルケニレン構造を含む構造単位であり、好ましくはアルケニレン構造のみからなる構造単位である。アルケニレン構造は、直鎖状アルケニレン構造又は分岐状アルケニレン構造であることが好ましい。
【0098】
アルケニレン構造単位は、直鎖状アルケニレン構造を含む構造単位、及び、分岐状アルケニレン構造を含む構造単位からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、直鎖状アルケニレン構造のみからなる構造単位、及び、分岐状アルケニレン構造のみからなる構造単位からなる群から選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0099】
例えば、上記(1a)の方法を経て共重合体Iを得る場合、共重合体Iには、単位内に炭素-炭素二重結合を持つ共役ジエン単量体単位が、水素添加されることなく分子内に残ることがある。最終的に得られる共重合体Iは、単位内に炭素-炭素二重結合を持つ共役ジエン単量体単位をアルケニレン構造単位として含んでもよい。
【0100】
アルキル構造単位は、アルキル構造を含む構造単位(但し、分岐状アルキレン構造単位等の他の脂肪族炭化水素構造単位、ニトリル基含有構造単位、アミド基含有構造単位、及びカルボキシル基含有構造単位には該当しない構造単位である。)であり、好ましくはアルキル構造のみからなる構造単位である。アルキル構造は、直鎖状アルキル構造又は分岐状アルキル構造であることが好ましい。
【0101】
アルキル構造単位は、直鎖状アルキル構造を含む構造単位、及び、分岐状アルキル構造を含む構造単位からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、直鎖状アルキル構造のみからなる構造単位、及び、分岐状アルキル構造のみからなる構造単位からなる群から選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0102】
例えば、上記(1a)又は(1b)の方法を経て共重合体Iを得る場合、共重合体Iには、共重合体Iの末端基として、好ましくは、水素化共役ジエン単量体単位又はα-オレフィン単量体単位が少なくとも導入されることが好ましい。最終的に得られる共重合体Iは、これらの単量体単位をアルキル構造単位として含んでもよい。
【0103】
アルカントリイル構造単位は、アルカントリイル構造を含む構造単位であり、好ましくはアルカントリイル構造のみからなる構造単位である。アルカンテトライル構造単位は、アルカンテトライル構造を含む構造単位であり、好ましくはアルカンテトライル構造のみからなる構造単位である。
【0104】
例えば、上記(1a)の方法を経て共重合体Iを得る場合、共重合体Iには、共役ジエン単量体単位が、単位内に炭素-炭素二重結合を持たない単量体単位であって、分岐点を含む単量体単位として分子内に導入されることがある。この場合、最終的に得られる共重合体Iは分岐ポリマーであり、共役ジエン単量体単位をアルカントリイル構造単位、アルカンテトライル構造単位等の分岐点を含む脂肪族炭化水素構造単位として含んでもよい。脂肪族炭化水素構造単位が分岐点を含む構造単位を含む場合、共重合体Iは分岐ポリマーである。分岐ポリマーは、網目ポリマーであってもよい。分岐点を含む構造単位を含む共重合体Iは、被分散物に三次元的に吸着することができるため、分散性とロバスト性をより向上させることができる。
【0105】
共重合体Iの好ましい態様として、以下が挙げられる。
・共重合体Iに含まれる脂肪族炭化水素構造単位、ニトリル基含有構造単位、及びカルバモイル基含有構造単位の合計の含有量が、共重合体Iの質量を基準として80質量%以上100質量%以下である共重合体I。合計の含有量は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、更に好ましくは98質量%以上である。
・共重合体Iに含まれる脂肪族炭化水素構造単位、ニトリル基含有構造単位、カルバモイル基含有構造単位、及びカルボキシル基含有構造単位の合計の含有量が、共重合体Iの質量を基準として80質量%以上100質量%以下である共重合体I。合計の含有量は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、更に好ましくは98質量%以上である。
・一般式(1A)で表される構造単位、一般式(2A)で表される構造単位、及び一般式(3A)で表される構造単位を含み、任意の構造単位として一般式(4A)で表される構造単位を含んでもよく、前記構造単位の合計の含有量が、共重合体Iの質量を基準として80質量%以上100質量%以下である共重合体I。合計の含有量は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、更に好ましくは98質量%以上である。
・一般式(1B)で表される構造単位、一般式(2B)で表される構造単位、及び一般式(3B)で表される構造単位を含み、任意の構造単位として一般式(4B)で表される構造単位を含んでもよく、前記構造単位の合計の含有量が、共重合体Iの質量を基準として80質量%以上100質量%以下である共重合体I。合計の含有量は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、更に好ましくは98質量%以上である。
【0106】
本明細書において、構造単位の含有量は、単量体の使用量、NMR(核磁気共鳴)及び/又はIR(赤外分光法)測定を利用して求めることができる。
【0107】
共重合体Iの製造方法の好ましい態様として、以下が挙げられる。
・共役ジエン単量体及びニトリル基含有単量体を含有する単量体組成物を用いて重合反応により共重合体を調製すること((1a)及び(2a)の方法)、前記共重合体に含まれる共役ジエン単量体単位に水素添加すること((1a)の方法)、及び、前記共重合体に含まれるニトリル基含有構造単位を加水分解により変性すること((3b)の方法)を含む、共重合体Iの製造方法。
この方法においては、共役ジエン単量体単位の一部又は全部に水素添加する。また、共重合体Iにニトリル基含有構造単位が含まれるよう、ニトリル基含有構造単位の一部(全部ではない。)を加水分解により変性する。
・共役ジエン単量体、ニトリル基含有単量体、及びアミド基含有単量体を含有する単量体組成物を用いて重合反応により共重合体を調製すること((1a)、(2a)及び(3a)の方法)、及び、前記共重合体に含まれる共役ジエン単量体単位に水素添加すること((1a)の方法)を含む、共重合体Iの製造方法。
この方法においては、共役ジエン単量体単位の一部又は全部を水素添加する。
【0108】
上記態様の製造方法において、前記単量体組成物が、カルボキシル基含有単量体を更に含んでいてもよい。又は、上記態様の製造方法は、アミド基含有構造単位を加水分解により変性すること((4b)の方法)を更に含んでもよく、この方法においては、アミド基含有構造単位の一部(全部ではない。)を加水分解により変性する。
【0109】
(3b)の方法を経て製造した共重合体Iは、加水分解後の、共重合体I、塩基及び溶媒を含有する混合物(分散剤含有液)の状態で分散剤として使用することができる。又は、(3b)の方法を経て製造した共重合体Iは、加水分解後の、共重合体I、塩基及び溶媒を含有する混合物(分散剤含有液)から塩基を抽出除去した後に、共重合体I及び溶媒を含有する混合物(分散剤含有液)の状態で分散剤として使用することができる。塩基の抽出除去の方法は特に限定されないが、例えば、塩基の良溶媒であって、共重合体Iの貧溶媒である洗浄溶媒に、混合物(分散剤含有液)を滴下し、沈殿した共重合体Iを回収する方法が挙げられる。洗浄溶媒は多いほど除去効率が高い。また、沈殿した共重合体Iを再溶解して、共重合体Iを繰り返し洗浄することでも除去効率が高くなる。塩基の良溶媒であって、共重合体Iの良溶媒である溶媒と、混合物(分散剤含有液)とを十分に混合してから同様に洗浄してもよい。
【0110】
共重合体の調製に用いられる重合反応は、乳化重合反応であることが好ましく、通常の乳化重合の方法を用いることができる。乳化重合に使用する乳化剤(界面活性剤)、重合開始剤、キレート剤、酸素捕捉剤、分子量調整剤等の重合薬剤は、従来公知のそれぞれの薬剤が使用でき、特に限定されない。例えば、乳化剤としては、通常、アニオン系又はアニオン系とノニオン(非イオン)系の乳化剤が使用される。
【0111】
アニオン系乳化剤としては、例えば、牛脂脂肪酸カリウム、部分水添牛脂脂肪酸カリウム、オレイン酸カリウム、オレイン酸ナトリウム等の脂肪酸塩;ロジン酸カリウム、ロジン酸ナトリウム、水添ロジン酸カリウム、水添ロジン酸ナトリウム等の樹脂酸塩;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩等が挙げられる。ノニオン系乳化剤としては、例えば、ポリエチレングリコールエステル型、ポリプロピレングリコールエステル型、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのブロック共重合体等のプルロニック型等の乳化剤が挙げられる。
【0112】
重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩等の熱分解型開始剤;t-ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;これらと二価の鉄イオン等の還元剤とからなるレドックス系開始剤等が挙げられる。これらの中でもレドックス系開始剤が好ましい。開始剤の使用量は、例えば、単量体の全量に対して0.01~10質量%の範囲である。
【0113】
乳化重合反応は、連続式又は回分式のいずれでもよい。重合温度は、低温~高温重合のいずれでもよいが、好ましくは0~50℃、更に好ましくは0~35℃である。また、単量体の添加方法(一括添加、分割添加等)、重合時間、重合転化率等も特に限定されない。転化率は85質量%以上が好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。
【0114】
共重合体Iの重量平均分子量は、5,000以上が好ましく、10,000以上がより好ましく、50,000以上が更に好ましい。共重合体Iの重量平均分子量は、400,000以下が好ましく、350,000以下がより好ましく、300,000以下が更に好ましい。共重合体Iの重量平均分子量が、5,000以上、かつ、400,000以下である場合、被分散物への吸着性及び分散媒への親和性が良好となり、分散体の安定性が向上する傾向がある。重量平均分子量は、ポリスチレン換算の重量平均分子量であり、ゲルバーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定できる。具体的には実施例に記載の方法により測定すればよい。
【0115】
分散剤は、少なくとも共重合体Iを含有する。分散剤は、任意の重合体、任意の共重合体等を更に含んでもよい。分散剤における共重合体Iの含有量は、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。分散剤における共重合体Iの含有量は100質量%であってもよく、この場合、分散剤は共重合体Iのみからなる。
【0116】
<分散剤組成物>
分散剤組成物は、分散剤と、共重合体Iの質量を基準として1質量%以上20量%以下の塩基と、溶媒とを含有する。すなわち、分散剤組成物は、共重合体Iと、共重合体Iの質量を基準として1質量%以上20量%以下の塩基と、溶媒とを含有する。共重合体Iを上述の(3b)の方法を経て得た場合、分散剤組成物は(3b)の方法に使用した塩基を含有してもよい。塩基の含有量は、共重合体Iの質量を基準として、1質量%以上であり、2質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましい。塩基の含有量は、ゲル化及び経時による増粘、並びに、分散装置及び/又は電池内部の腐食を防止する観点から、共重合体Iの質量を基準として、20質量%以下であり、15質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。分散剤組成物は、酸等の任意の成分を含有してもよい。
【0117】
分散剤組成物は、溶媒を含有する。溶媒は、共重合体Iを溶解できる溶媒であることが好ましく、水溶性有機溶媒のいずれか1種からなる溶媒、又は、水溶性有機溶媒のいずれか2種以上からなる混合溶媒であることが好ましい。
【0118】
水溶性有機溶媒としては、アミド系(N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N-エチル-2-ピロリドン(NEP)、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチルカプロラクタムなど)、複素環系(シクロヘキシルピロリドン、2-オキサゾリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、γ-ブチロラクトンなど)、スルホキシド系(ジメチルスルホキシドなど)、スルホン系(ヘキサメチルホスホロトリアミド、スルホランなど)、低級ケトン系(アセトン、メチルエチルケトンなど)、その他、テトラヒドロフラン、尿素、アセトニトリルなどを使用することができる。水溶性有機溶媒は、アミド系有機溶媒を含むことが好ましく、N-メチル-2-ピロリドン及びN-エチル-2-ピロリドンからなる群から選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0119】
分散剤組成物における共重合体Iの含有量は、導電材分散体、バインダー樹脂含有導電材分散体、及び電極膜用スラリーにおける導電材及び/又は電極活物質の濃度を十分なものとする観点から、分散剤組成物の質量を基準として、2質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましい。導電材及び/又は電極活物質の濃度が十分である場合、良好な塗工性が得られ、また、乾燥時間及び移送コストが増すことによる製造コストの増加を防止することができる。共重合体Iの含有量は、不溶解分の発生を防ぐ観点から、分散剤組成物の質量を基準として、15質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
【0120】
上述の(3b)の方法を経て得られる、共重合体I、塩基、及び溶媒を含有する混合物(分散剤含有液)を、分散剤組成物として使用してもよい。また、上述の(3b)と(4b)の方法を経て得られる、共重合体I、塩基、酸、及び溶媒を含有する混合物(分散剤含有液)を分散剤組成物として使用してもよい。
【0121】
<導電材分散体>
導電材分散体は、前記分散剤及び溶媒と、又は、前記分散剤組成物と、導電材とを含有する。すなわち、導電材分散体は、前記分散剤と溶媒と導電材とを少なくとも含有するか、又は、前記分散剤組成物(溶媒を含有する。)と導電材とを少なくとも含有する。更に換言すると、導電材分散体は、共重合体Iと、溶媒と、導電材とを少なくとも含有し、塩基、酸等の任意の成分を更に含有してもよい。
【0122】
導電材としては、リチウムイオンを不可逆的にドーピング又はインターカレーション可能な材料を用いることができる。導電材は、後述する電極活物質とは異なる物質(材料)である。
【0123】
導電材としては、例えば、金、銀、銅、銀メッキ銅粉、銀-銅複合粉、銀-銅合金、アモルファス銅、ニッケル、クロム、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、インジウム、ケイ素、アルミニウム、タングステン、モリブデン、白金等の金属粉;これらの金属で被覆した無機物粉体;及び、炭素系導電材などを用いることができる。炭素系導電材としては、市販のアセチレンブラック、ファーネスブラック、中空カーボンブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、ケッチェンブラックなど各種のカーボンブラックを用いることができる。また、炭素系導電材として、通常行われている、酸化処理されたカーボンブラック、黒鉛化処理されたカーボンブラック、メソフェーズカーボンブラック;ソフトカーボン、ハードカーボンといった、アモルファス系炭素質材料;繊維状炭素であるカーボンナノチューブ又はカーボンナノファイバー、気層成長炭素繊維といった炭素繊維なども使用できる。導電材は、1種を単独で、又は、2種以上を組み合わせて用いてもよい。導電材は、炭素系導電材を含むことが好ましく、カーボンブラック及び炭素繊維からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、特にアセチレンブラック及びカーボンナノチューブからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0124】
炭素系導電材の炭素純度は、炭素系導電材中の炭素原子の含有率(質量%)で表される。炭素純度は、炭素系導電材の質量を基準として(炭素系導電材の質量を100質量%として)、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、98質量%以上が更に好ましい。
【0125】
カーボンナノチューブは、平面的なグラファイトが円筒状に巻かれた構造を有している。カーボンナノチューブは、多層カーボンナノチューブを含むことが好ましく、多層カーボンナノチューブと単層カーボンナノチューブを含んでもよい。多層カーボンナノチューブは、二又は三以上の層のグラファイトが巻かれた構造を有する。単層カーボンナノチューブは一層のグラファイトが巻かれた構造を有する。カーボンナノチューブの側壁はグラファイト構造でなくともよい。例えば、アモルファス構造を有する側壁を備えるカーボンナノチューブを導電材として用いることもできる。
【0126】
カーボンナノチューブの形状は限定されない。カーボンナノチューブの形状としては、例えば、針状、円筒チューブ状、魚骨状(フィッシュボーン又はカップ積層型)、トランプ状(プレートレット)、及びコイル状などの様々な形状が挙げられる。カーボンナノチューブの形状は、中でも、針状、又は、円筒チューブ状であることが好ましい。カーボンナノチューブは、同じ形状を有するカーボンナノチューブのみで用いても、異なる形状を有する2種類以上のカーボンナノチューブを組み合わせて用いてもよい。
【0127】
カーボンナノチューブの形態としては、例えば、グラファイトウィスカー、フィラメンタスカーボン、グラファイトファイバー、極細炭素チューブ、カーボンチューブ、カーボンフィブリル、カーボンマイクロチューブ、及びカーボンナノファイバーを挙げることができるが、これらに限定されない。カーボンナノチューブは、同じ形態を有するカーボンナノチューブのみで用いても、又は、異なる形態を有する2種類以上のカーボンナノチューブを組み合わせて用いてもよい。
【0128】
カーボンナノチューブの外径は、1~30nmであることが好ましく、1~20nmであることがより好ましい。
【0129】
導電材のBET比表面積は、20~1,000m/gであることが好ましく、30~500m/gであることがより好ましい。
【0130】
導電材分散体に含まれる共重合体Iの含有量は、導電材の質量を基準として(導電材の質量を100質量%として)、0.1~200質量%が好ましく、1~100質量%がより好ましく、2~50質量%が更に好ましい。
【0131】
導電材分散体に含まれる導電材の含有量は、導電材分散体の質量を基準として(導電材分散体の質量を100質量%として)、0.05質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましい。導電材の含有量は、導電材分散体の質量を基準として(導電材分散体の質量を100質量%として)、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。
【0132】
例えば、良好な分散性とロバスト性との両立の観点から、導電材の含有量は、10質量%以下であってもよく、好ましくは8質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは3質量%以下である。特に、導電材として高比表面積の導電材(CNTなど)を使用する場合は、前記範囲であることが好ましい。又は、例えば、導電材の濃度が高い場合であっても共重合体Iによって良好な分散性とロバスト性とを両立できることから、導電材の含有量は、10質量%超であってもよく、好ましくは12質量%以上、より好ましくは15質量%以上である。
【0133】
導電材分散体は、溶媒を含む。溶媒は特に限定されないが、例えば、分散剤組成物の説明において例示した溶媒を用いることができる。また、分散剤組成物に含まれる溶媒と同じ溶媒を用いることが好ましい。
【0134】
導電材分散体の製造方法は特に限定されない。導電材分散体は、例えば、分散剤と、溶媒と、導電材とを混合し、導電材を溶媒中に分散させることにより得ることができる。分散剤、溶媒、及び導電材に加え、任意の成分を混合してもよい。又は、導電材分散体は、例えば、分散剤組成物(溶媒を含む。)と、導電材とを混合し、導電材を溶媒中に分散させることにより得ることができる。分散剤組成物及び導電材に加え、溶媒等の任意の成分を混合してもよい。溶媒を混合する場合は、分散剤組成物に含まれる溶媒と同じ溶媒であることが好ましい。容器に分散剤又は分散剤組成物と導電材とを加える順序は、特に限定されない。導電材を分散する過程のいずれかの時点で、導電材と共に分散剤が存在していることが好ましい。
【0135】
例えば、共重合体Iへ上記(3b)の方法を用いてアミド基含有構造単位を導入する場合、加水分解後の共重合体I、塩基、及び溶媒を含有する混合物(分散剤含有液)に導電材を混合し、分散させてもよい。又は、加水分解前に、共重合体、塩基、及び溶媒と共に導電材を混合し、加水分解後に導電材を分散させてもよい。又は、加水分解前に、共重合体、塩基、及び溶媒と共に導電材を混合し、加水分解と分散とを進めてもよい。更に、導電材を湿式又は乾式の分散方法により分散させてから、加水分解前又は加水分解後の共重合体又は共重合体Iと、必要に応じて溶媒とを混合し、更に分散させてもよい。
【0136】
分散方法としては、ディスパー(分散機)、ホモジナイザー、シルバーソンミキサー、ニーダー、2本ロールミル、3本ロールミル、ボールミル、横型サンドミル、縦型サンドミル、アニュラー型ビーズミル、アトライター、プラネタリーミキサー、又は高圧ホモジナイザー等の各種の分散手段を用いる方法が挙げられる。
【0137】
導電材分散体における導電材の分散性は、動的粘弾性測定による複素弾性率及び位相角で評価できる。導電材分散体の複素弾性率は、導電材の分散性が良好で、導電材分散体が低粘度であるほど小さくなる。また、位相角は、導電材分散体に与えるひずみを正弦波とした場合の応力波の位相ズレを意味している。純弾性体であれば、与えたひずみと同位相の正弦波となるため、位相角0°となる。一方で、純粘性体であれば90°進んだ応力波となる。一般的な粘弾性測定用試料では、位相角が0°より大きく90°より小さい正弦波となり、導電材分散体における導電材の分散性が良好であれば、位相角は純粘性体である90°に近づく。
【0138】
導電材分散体の複素弾性率は、20Pa未満であり、かつ、位相角が19°以上であることが好ましい。導電材分散体の複素弾性率は、20Pa未満が好ましく、10Pa以下がより好ましく、5Pa以下が更に好ましい。導電材分散体の複素弾性率は、0.01Pa以上が好ましく、0.05Pa以上がより好ましく、0.1Pa以上が更に好ましい。導電材分散体の位相角は、19°以上が好ましく、30°以上がより好ましく、45°以上が更に好ましい。導電材分散体の位相角は、 90°以下が好ましく、 85°以下がより好ましく、 80°以下が更に好ましい。複素弾性率と位相角は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0139】
<バインダー樹脂含有導電材分散体>
バインダー樹脂含有導電材分散体は、バインダー樹脂と、前記導電材分散体とを含有する。すなわち、バインダー樹脂含有導電材分散体は、前記分散剤と溶媒と導電材とバインダー樹脂とを少なくとも含む。更に換言すると、バインダー樹脂含有導電材分散体は、共重合体Iと、溶媒と、導電材と、バインダー樹脂とを少なくとも含有し、塩基、酸等の任意の成分を更に含有してもよい。バインダー樹脂含有導電材分散体は、バインダー樹脂と導電材分散体とを混合することにより製造することができる。バインダー樹脂と導電材分散体と共に、任意の成分を更に混合してもよい。本明細書において、前記の「導電材分散体」と「バインダー樹脂含有導電材分散体」とを総称して「導電材分散体」という場合がある。
【0140】
バインダー樹脂は、電極活物質、導電材等の物質間を結合することができる樹脂である。本明細書において、バインダー樹脂は共重合体Iとは異なる。つまり、バインダー樹脂は、共重合体Iを除く樹脂から選択される。バインダー樹脂としては、例えば、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、マレイン酸、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリロニトリル、スチレン、ビニルブチラール、ビニルアセタール、ビニルピロリドン等を構造単位として含む重合体又は共重合体;ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂等の樹脂;カルボキシメチルセルロースのようなセルロース樹脂;スチレンブタジエンゴム、フッ素ゴムのようなゴム類;ポリアニリン、ポリアセチレンのような導電性樹脂等が挙げられる。また、これらの変性体、混合物、又は共重合体でもよい。これらの中でも、正極膜のバインダー樹脂として使用する場合は、耐性面から分子内にフッ素原子を有する重合体又は共重合体、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、テトラフルオロエチレン等が好ましい。また、負極膜のバインダー樹脂として使用する場合は、密着性が良好なカルボキシメチルセルロース、スチレンブタジエンゴム、ポリアクリル酸等が好ましい。
【0141】
バインダー樹脂の重量平均分子量は、10,000~2,000,000が好ましく、100,000~1,000,000がより好ましく、200,000~1,000,000が更に好ましい。
【0142】
バインダー樹脂含有導電材分散体に含まれる共重合体Iの含有量は、導電材の質量を基準として(導電材の質量を100質量%として)、0.1~200質量%が好ましく、1~100質量%がより好ましく、2~50質量%が更に好ましい。
【0143】
バインダー樹脂含有導電材分散体に含まれる導電材の含有量は、導電材分散体の質量を基準として(導電材分散体の質量を100質量%として)、0.05~30質量%が好ましく、0.1~20質量%がより好ましい。
【0144】
バインダー樹脂含有導電材分散体に含まれるバインダー樹脂の含有量は、導電材分散体の質量を基準として(導電材分散体の質量を100質量%として)、0.05~25質量%が好ましく、0.1~15質量%がより好ましい。
【0145】
バインダー樹脂含有導電材分散体は、溶媒を含む。溶媒は特に限定されないが、例えば、分散剤組成物の説明において例示した溶媒を用いることができる。また、分散剤組成物に含まれる溶媒と同じ溶媒を用いることが好ましい。
【0146】
<電極膜用スラリー>
電極膜用スラリーは、前記導電材分散体又は前記バインダー樹脂含有導電材分散体と、電極活物質とを含有する。すなわち、電極膜用スラリーは、前記導電材分散体と電極活物質とを少なくとも含有するか、又は、前記バインダー樹脂含有導電材分散体と電極活物質とを少なくとも含有する。更に換言すると、電極膜用スラリーは、共重合体Iと、導電材と、溶媒と、電極活物質とを少なくとも含有し、バインダー樹脂、塩基、酸等の任意の成分を更に含有してもよい。本明細書において、「スラリー」を「合材スラリー」という場合がある。
【0147】
電極活物質とは、電池反応の基となる材料のことである。電極活物質は、起電力から正極活物質と負極活物質に分けられる。
【0148】
正極活物質としては、特に限定はされないが、リチウムイオンを可逆的にドーピング又はインターカレーション可能な材料を用いることができる。例えば、金属酸化物、金属硫化物等の金属化合物等が挙げられる。具体的には、Fe、Co、Ni、Mn等の遷移金属の酸化物、リチウムとの複合酸化物、遷移金属硫化物等の無機化合物等が挙げられる。具体的には、MnO、V、V13、TiO2等の遷移金属酸化物粉末;層状構造のニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、スピネル構造のマンガン酸リチウムなどのリチウムと遷移金属との複合酸化物粉末;オリビン構造のリン酸化合物であるリン酸鉄リチウム系材料;TiS、FeSなどの遷移金属硫化物粉末等が挙げられる。正極活物質は、少なくともNiを含有する物質であることが好ましい。正極活物質は、1種又は複数を組み合わせて使用することもできる。
【0149】
負極活物質としては、リチウムイオンを可逆的にドーピング又はインターカレーション可能な材料を用いることができる。例えば、金属Li、その合金であるスズ合金、シリコン合金、鉛合金等の合金系;LiFe、LiFe、LiWO(xは0<x<1の数である。)、チタン酸リチウム、バナジウム酸リチウム、ケイ素酸リチウム等の金属酸化物系;ポリアセチレン、ポリ-p-フェニレン等の導電性高分子系;高黒鉛化炭素材料等の人造黒鉛、天然黒鉛等の炭素質粉末;樹脂焼成炭素材料などの炭素系材料が挙げられる。負極活物質は、1種又は複数を組み合わせて使用することもできる。
【0150】
電極膜用スラリー中の共重合体Iの含有量は、電極活物質の質量を基準として(電極活物質の質量を100質量%として)、0.01~10質量%であることが好ましく、0.05~5質量%であることがより好ましい。
【0151】
電極膜用スラリー中の導電材の含有量は、電極活物質の質量を基準として(電極活物質の質量を100質量%として)、0.01~10質量%であることが好ましく、0.02~5質量%であることがより好ましく0.03~3質量%であることが更に好ましい。
【0152】
電極膜用スラリーがバインダー樹脂を含有する場合、電極膜用スラリー中のバインダー樹脂の含有量は、電極活物質の質量を基準として(電極活物質の質量を100質量%として)、0.1~30質量%であることが好ましく、0.5~20質量%であることがより好ましく、1~10質量%であることが更に好ましい。
【0153】
本実施形態の電極膜用スラリー中の固形分量は、電極膜用スラリーの質量を基準として(電極膜用スラリーの質量を100質量%として)、30~90質量%であることが好ましく、30~80質量%であることがより好ましく、40~75質量%であることが更に好ましい。
【0154】
電極膜用スラリーは、従来公知の様々な方法で作製することができる。例えば、導電材分散体に電極活物質を添加して作製する方法;導電材分散体にバインダー樹脂を添加した後、電極活物質を添加して作製する方法;導電材分散体に電極活物質を添加した後、バインダー樹脂を添加して作製する方法;バインダー樹脂含有導電材分散体に電極活物質を添加して作製する方法などが挙げられる。
【0155】
電極膜用スラリーを作製する方法としては、導電材分散体にバインダー樹脂を添加した後、電極活物質を更に加えて分散させる処理を行う方法が好ましい。分散に使用される分散装置は特に限定されない。導電材分散体の説明において挙げた分散手段を用いて、電極膜用スラリーを得ることができる。共重合体Iはバインダーとしての機能も有するため、バインダー樹脂を加えなくとも電極膜用スラリーを得ることができる。したがって、電極膜用スラリーを作製する方法としては、導電材分散体にバインダー樹脂を添加することなく、電極活物質を加えて分散させる処理を行う方法も好ましい。
【0156】
<電極膜>
電極膜は、前記導電材分散体を用いて形成した膜、前記バインダー樹脂含有導電材分散体を用いて形成した膜、及び、前記電極膜用スラリーを用いて形成した膜からなる群から選択される少なくとも1種を含む。電極膜は、更に、集電体を含んでもよい。例えば、電極膜は、集電体上に電極膜用スラリーを塗工し、乾燥させることで得ることができ、集電体と膜とを含む。本明細書において、「電極膜用スラリーを用いて形成した膜」を「電極合材層」という場合がある。
【0157】
電極膜の形成に用いられる集電体の材質及び形状は特に限定されず、各種二次電池にあったものを適宜選択することができる。例えば、集電体の材質としては、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、又はステンレス等の金属又は合金が挙げられる。また、形状としては、一般的には平板上の箔が用いられるが、表面を粗面化した集電体、穴あき箔状の集電体、又はメッシュ状の集電体も使用できる。
【0158】
集電体上に導電材分散体、バインダー樹脂含有導電材分散体、又はスラリーを塗工する方法としては、特に制限はなく公知の方法を用いることができる。具体的には、ダイコーティング法、ディップコーティング法、ロールコーティング法、ドクターコーティング法、ナイフコーティング法、スプレーコティング法、グラビアコーティング法、スクリーン印刷法又は静電塗装法等を挙げることができる。乾燥方法としては、放置乾燥、又は、送風乾燥機、温風乾燥機、赤外線加熱機、若しくは遠赤外線加熱機等を用いる乾燥を挙げることができるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0159】
塗工後に、平版プレス、カレンダーロール等による圧延処理を行ってもよい。形成された膜の厚みは、例えば、1μm以上500μm以下であり、好ましくは10μm以上300μm以下である。
【0160】
導電材分散体又はバインダー樹脂含有導電材分散体を用いて形成された膜は、電極合材層と集電体との密着性向上、又は、電極膜の導電性を向上させるために、電極合材層の下地層として用いることも可能である。
【0161】
<非水電解質二次電池>
非水電解質二次電池は、正極と、負極と、電解質とを含み、正極及び負極からなる群から選択される少なくとも1つが、前記電極膜を含む。
【0162】
正極としては、例えば、集電体上に正極活物質を含む電極膜用スラリーを塗工し、乾燥させて膜を作製した電極膜を使用することができる。
【0163】
負極としては、例えば、集電体上に負極活物質を含む電極膜用スラリーを塗工し、乾燥させて膜を作製した電極膜を使用することができる。
【0164】
電解質としては、イオンが移動可能な従来公知の様々なものを使用することができる。例えば、LiBF、LiClO、LiPF、LiAsF、LiSbF、LiCFSO、Li(CFSON、LiCSO、Li(CFSOC、LiI、LiBr、LiCl、LiAlCl、LiHF、LiSCN、又はLiBPh(ただし、Phはフェニル基である)等リチウム塩を含むものが挙げられるが、これらに限定されない。電解質は非水系の溶媒に溶解して、電解液として使用することが好ましい。
【0165】
非水系の溶媒としては、特に限定はされないが、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びジエチルカーボネート等のカーボネート類;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、及びγ-オクタノイックラクトン等のラクトン類;テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、1,2-メトキシエタン、1,2-エトキシエタン、及び1,2-ジブトキシエタン等のグライム類;メチルフォルメート、メチルアセテート、及びメチルプロピオネート等のエステル類;ジメチルスルホキシド、及びスルホラン等のスルホキシド類;並びに、アセトニトリル等のニトリル類等が挙げられる。これらの溶媒は、それぞれ単独で使用してもよいが、2種以上を混合して使用してもよい。
【0166】
非水電解質二次電池は、セパレーターを含むことが好ましい。セパレーターとしては、例えば、ポリエチレン不織布、ポリプロピレン不織布、ポリアミド不織布及びこれらに親水性処理を施した不織布が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0167】
本実施形態の非水電解質二次電池の構造は特に限定されないが、通常、正極及び負極と、必要に応じて設けられるセパレーターとを備え、ペーパー型、円筒型、ボタン型、積層型等、使用する目的に応じた種々の形状とすることができる。
【実施例
【0168】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断らない限り、「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を表す。また、実施例中、「共重合体I」を「分散剤」という場合がある。実施例中、共重合体及び溶媒を含む組成物(例えば、実施例1-13)についても、「分散剤含有液(分散剤組成物)」という場合がある。
【0169】
<重量平均分子量(Mw)測定用サンプルの調製>
共重合体、塩基及び溶媒を含む分散剤含有液(分散剤組成物)から下記の方法で共重合体を分離して回収し、測定サンプルとした。分散剤含有液を精製水に滴下して共重合体を沈殿させ、ブフナー漏斗でろ過して沈殿物を回収した。沈殿物をそのままブフナー漏斗上で精製水をふりかけてすすいだ後、テトラヒドロフラン(THF)に溶解させ、溶液を得た。得られた溶液を精製水に再び滴下して前記ろ過及び精製水を用いた洗浄工程を行い、沈殿物をTHFに再溶解させ、測定サンプルとした。また、共重合体、塩基、溶媒、及び導電材を含む導電材分散体からは、遠心分離により導電材を分離し、分取した上澄みについて上記と同様の工程を行い、測定サンプルを調製した。
【0170】
<重量平均分子量(Mw)の測定>
共重合体の重量平均分子量(Mw)は、RI検出器を装備したゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した。装置としてHLC-8320GPC(東ソー株式会社製)を用い、分離カラムを3本直列に繋ぎ、充填剤には順に東ソー株式会社製「TSK-GEL SUPER AW-4000」、「AW-3000」、及び「AW-2500」を用い、オーブン温度40℃、溶離液として30mMトリエチルアミン及び10mM LiBrのN,N-ジメチルホルムアミド溶液を用い、流速0.6mL/minで測定した。測定サンプルは前記溶離液からなる溶剤を用いて1%の濃度となるように濃度を調整し、20マイクロリットル注入した。重量平均分子量はポリスチレン換算値である。
【0171】
<共重合体溶液及び分散剤含有液の粘度の測定>
共重合体は、NMPを溶媒とした8%溶液となるように溶解し、得られた溶液を粘度測定用サンプルとした。分散剤含有液(分散剤組成物)は、8%溶液となるようにNMPで希釈して粘度測定用サンプルとした。粘度測定用サンプルを試料台にセットし、25℃、直径60mm、2°のコーンにてレオメーター(Thermo Fisher Scientific株式会社製RheoStress1回転式レオメーター)を用いて、せん断応力1/sから1,000/sまで連続的に粘度を測定した。
【0172】
<全反射測定法による赤外分光分析>
固体状の共重合体はそのまま測定に用いた。分散剤含有液(分散剤組成物)については、100℃の熱風により10時間処理して十分に乾固させ、得られた固体状の共重合体を測定サンプルとした。測定サンプルに対し、赤外分光光度計(Thermo Fisher Scientific株式会社製Nicolet iS5 FT-IR分光装置)を用いてIR測定した。
【0173】
<共重合体の水素添加率の測定>
水素添加率は、前述の全反射測定法による赤外分光分析と同様の方法でIR測定を行い求めた。共役ジエン単量体単位に由来する二重結合は970cm-1にピークが表れ、水素添加された単結合は723cm-1にピークが表れることから、この二つのピークの高さの比率から水素添加率を計算した。
【0174】
<アミド基含有構造単位の含有量の測定>
ニトリル基含有構造単位を加水分解する方法を経て共重合体にアミド基含有構造単位を導入した場合のアミド基含有構造単位の含有量は、核磁気共鳴装置(ADVANCE400Nanobay:Bruker Japan株式会社製、測定溶媒CDCl、10mmNMRチューブ使用)による13C-NMR定量スペクトルから、式 [A]/([A]+[B])によってニトリル基の変性率(モル比)を算出し、共重合体全体における組成比(質量%)に換算して求めた。後述の表における「アミド基量」は、「アミド基含有構造単位の含有量(質量%)」を意味する。
[A]:ケミカルシフト値180.5~183.5ppmのピーク面積
[B]:ケミカルシフト値121.5~123.0ppmのピーク面積
ただし、13C-NMR測定は定量感度が低いため、アミド基含有構造単位の含有量が1%以上ないと検出できない。そのため、前述の全反射測定法による赤外分光分析と同様の方法でIR測定にてアミド基に由来する約1570cm-1及び約1650cm-1にピークが検出できた共重合体については、アミド基含有構造単位を含むと判断し、アミド基含有構造単位の含有量を1%未満とした。なお、前述と同様のIR測定にてピークが検出できたことから、アミド基含有構造単位の含有量は0.3%以上であると判断した。また、アミド基含有単量体を含む単量体組成物を用いて共重合体を調製する方法を経てアミド基含有構造単位を導入した場合のアミド基含有構造単位の含有量も、1%未満の場合は同じく定量ができないため、1%未満とした。1%以上の場合は13C-NMR定量スペクトルによってニトリル基含有構造単位とアミド基含有構造単位との比率を確認し、アミド基含有構造単位の含有量が1%以上の共重合体については、合成時の単量体の仕込み量から算出される含有量と一致することを確認した。
【0175】
<カルボキシル基含有構造単位の含有量の測定>
カルボキシル基含有構造単位の含有量は、一般にはアミド基含有構造単位の含有量の測定と同様に核磁気共鳴装置による13C-NMR定量スペクトルから求めることができるが、カルボキシル基含有構造単位の含有量が1%未満の場合は定量が難しい。そのため、前述の全反射測定法による赤外分光分析と同様の方法でIR測定にて、C=O伸縮振動に由来する約1710cm-1のピークが検出され、アミド基に由来する約1570cm-1のピークが縮小したことをもって、アミド基の一部が加水分解されて共重合体にカルボキシル基が導入されており、共重合体はカルボキシル基含有構造単位を含むと判断した。なお、前述と同様のIR測定にてピークが検出できたことから、カルボキシル基含有構造単位の含有量は0.3%以上であると判断した。
【0176】
<混合物の水分の測定>
混合物の水分は、カールフィッシャー水分計(卓上型電量法水分計CA-200型:株式会社三菱ケミカルアナリテック製)を用いて、窒素ガス250mlL/分流通下、230℃で試料を処理し、カールフィッシャー法により測定した値を、共重合体、塩基、及び溶媒の合計の質量に対する含有量として算出した。
【0177】
<導電材分散体の初期粘度の測定>
粘度値の測定は、B型粘度計(東機産業株式会社製「BL」)を用いて、導電材分散体の温度25℃にて、導電材分散体をヘラで十分に撹拌した後、B型粘度計ローター回転速度60rpmにて直ちに行った。測定に使用したローターは、粘度値が100mPa・s未満の場合はNo.1を、100以上500mPa・s未満の場合はNo.2を、500以上2,000mPa・s未満の場合はNo.3を、2,000以上10,000mPa・s未満の場合はNo.4のローターをそれぞれ用いた。低粘度であるほど分散性が良好であり、高粘度であるほど分散性が不良である。得られた導電材分散体が明らかに分離又は沈降しているものは分散性不良とした。
判定基準
◎:500mPa・s未満(優良)
○:500mPa・s以上2,000mPa・s未満(良)
△:2,000mPa・s以上10,000mPa・s未満(可)
×:10,000mPa・s以上、沈降又は分離(不良)
【0178】
<導電材分散体の複素弾性率及び位相角の測定>
導電材分散体の複素弾性率及び位相角は、直径60mm、2°のコーンにてレオメーター(Thermo Fisher Scientific株式会社製RheoStress1回転式レオメーター)を用い、25℃、周波数1Hzにて、ひずみ率0.01%から5%の範囲で動的粘弾性測定を実施することで評価した。得られた複素弾性率が小さいほど分散性が良好であり、大きいほど分散性が不良である。また、得られた位相角が大きいほど分散性が良好であり、小さいほど分散性が不良である。
複素弾性率 判定基準
◎:5Pa未満(優良)
○:5Pa以上20Pa未満(可)
×:20Pa以上(不良)
××:100Pa以上(極めて不良)
位相角 判定基準
◎:45°以上(優良)
○:30°以上45°未満(良)
△:19°以上30°未満(可)
×:19°未満(不良)
【0179】
<導電材分散体の安定性評価>
貯蔵安定性の評価は、導電材分散体を50℃にて7日間静置して保存した後の、液性状の変化から評価した。液性状の変化は、ヘラで撹拌した際の撹拌しやすさから判断した。
判定基準
○:問題なし(良好)
△:粘度は上昇しているがゲル化はしていない(可)
×:ゲル化している(極めて不良)
【0180】
<正極合材層の導電性評価>
正極用合材スラリーを、ギャップ175μmのアプリケーターを用いてPETフィルム(厚さ100μm)に塗工し、70℃の熱風オーブンで10分、120℃の熱風オーブンで15分乾燥させて、導電性評価用の正極膜を得た。正極合材層の表面抵抗率(Ω/□)は、株式会社三菱化学アナリテック製:ロレスターGP、MCP-T610を用いて測定した。測定後、PETフィルム上に形成した正極合材層の厚みを乗じて、体積抵抗率(Ω・cm)とした。正極合材層の厚みは、膜厚計(株式会社NIKON製、DIGIMICRO MH-15M)を用いて、正極膜中の3点を測定して正極膜の平均値を求め、正極膜の平均値とPETフィルムの膜厚との差として求めた。
判定基準
◎:正極合材層の体積抵抗率(Ω・cm)が10未満(優良)
〇:正極合材層の体積抵抗率(Ω・cm)が10以上20未満(良)
×:正極合材層の体積抵抗率(Ω・cm)が20以上(不良)
【0181】
<正極膜表面の走査型電子顕微鏡観察>
走査型電子顕微鏡(SEM):日本電子株式会社製、JSM-6700Fを用いて正極膜表面の観察を行った。正極合材層の導電性評価と同様の方法で得た正極膜を、剃刀で5mm角に切り出し、試料台にカーボンテープを用いて貼り付け、観察試料とした。ナノマテリアルである導電材は、電極活物質の粒子と比較して極めて小さいため、各材料の大きさの違いによって、各材料の分布状態を判定できる。
判定基準
◎:全体に均一で凝集物又は偏りがない状態(優良)
×:凝集物又は偏りがある状態(不良)
【0182】
<非水電解質二次電池のレート特性評価>
非水電解質二次電池を25℃の恒温室内に設置し、充放電装置(北斗電工株式会社製、SM-8)を用いて充放電測定を行った。充電電流10mA(0.2C)にて充電終止電圧4.3Vで定電流定電圧充電(カットオフ電流1mA(0.02C))を行った後、放電電流10mA(0.2C)にて、放電終止電圧3Vで定電流放電を行った。この操作を3回繰り返した後、充電電流10mA(0.2C)にて充電終止電圧4.3Vで定電流定電圧充電(カットオフ電流(1mA(0.02C))を行い、放電電流0.2C及び3Cで放電終止電圧3.0Vに達するまで定電流放電を行って、それぞれ放電容量を求めた。レート特性は0.2C放電容量と3C放電容量の比、以下の式1で表すことができる。

(式1)
レート特性 = 3C放電容量/3回目の0.2C放電容量 ×100 (%)

判定基準
◎:レート特性が80%以上(優良)
〇:レート特性が60%以上80%未満(良)
×:レート特性が30%以上60%未満(不良)
××:レート特性が30%未満(極めて不良)
【0183】
<非水電解質二次電池のサイクル特性評価方法>
非水電解質二次電池を25℃の恒温室内に設置し、充放電装置(北斗電工株式会社製、SM-8)を用いて充放電測定を行った。充電電流25mA(0.5C)にて充電終止電圧4.3Vで定電流定電圧充電(カットオフ電流2.5mA(0.05C))を行った後、放電電流25mA(0.5C)にて、放電終止電圧3Vで定電流放電を行った。この操作を200回繰り返した。サイクル特性は25℃における3回目の0.5C放電容量と200回目の0.5C放電容量の比、以下の式2で表すことができる。

(式2)
サイクル特性 = 3回目の0.5C放電容量/200回目の0.5C放電容量 ×100(%)

判定基準
◎:サイクル特性が85%以上を(優良)
〇:サイクル特性が80%以上85%未満を(良)
×:サイクル特性が60%以上80%未満を(不良)
××:サイクル特性が60%未満(極めて不良)
【0184】
<合成例1 共重合体1の作製>
ステンレス製重合反応器に、アクリロニトリル30部、1,3-ブタジエン70部、オレイン酸カリ石ケン3部、アゾビスイソブチロニトリル0.3部、t-ドデシルメルカプタン0.6部、及びイオン交換水200部を加えた。窒素雰囲気下において、撹拌しながら、45℃で20時間の重合を行い、転化率90%で重合を終了した。未反応のモノマーを減圧ストリッピングにより除き、固形分濃度約30%のアクリロニトリル-共役ジエン系ゴムラテックスを得た。続いて、ラテックスにイオン交換水を追加して全固形分濃度を12%に調整し、容積1Lの撹拌機付きオートクレーブに投入して、窒素ガスを10分間にわたり流して内容物中の溶存酸素を除去した。水素化触媒としての酢酸パラジウム75mgを、パラジウムに対して4倍モルの硝酸を添加したイオン交換水180mLに溶解して調製した触媒液を、オートクレーブに添加した。オートクレーブ内を水素ガスで2回置換した後、3MPaまで水素ガスで加圧した状態でオートクレーブの内容物を50℃に加温し、6時間の水素化反応を行った。その後、内容物を常温に戻し、オートクレーブ内を窒素雰囲気とした後、固形分を乾燥させて共重合体1を回収した。共重合体1の水素添加率は99.5%であり、重量平均分子量(Mw)は200,000であった。アクリロニトリル-共役ジエン系ゴムにおいて、アクリロニトリル-共役ジエン系ゴムの質量を基準として、共役ジエン単量体単位の含有量は70%であり、ニトリル基含有単量体単位の含有量は30%であった。また、共重合体1において、共重合体1の質量を基準として、アルキレン構造単位を含む脂肪族炭化水素構造単位の含有量は70%であり、ニトリル基含有単量体単位の含有量は30%であった。これらの単量体単位の含有量及び構造単位の含有量は、単量体の使用量から求めた(以下、同様である。)。
【0185】
<実施例1-1 分散剤1の作製>
ステンレス製容器1に、NaOH16部及びNMP84部を入れ、ホモジナイザーにより1時間撹拌し、NaOHの懸濁液を調製した。ステンレス製容器2に、合成例1で得た共重合体1を9部及びNMP91部を入れ、ホモジナイザーにより1時間撹拌し、共重合体1の溶液を調製した。続いて、NaOH及び共重合体1が表1に示す組成となるように、NaOHの懸濁液及び共重合体1の溶液を、ステンレス製容器3に入れ、更にNMPを加えて濃度を調整し、混合物を得た。混合物の水分は0.1%であった。混合物をホモジナイザーで2時間撹拌して共重合体1のニトリル基の一部をアミド基に変性し、分散剤1としての共重合体(実施例において、変性後の共重合体Iを「分散剤1」という場合がある。)、NMPと、NaOHとを含む分散剤1含有液(分散剤組成物)を得た。分散剤1のアミド基含有構造単位の含有量及び重量平均分子量(Mw)は表1に示す通りであった。分散剤1において、分散剤1の質量を基準として、アルキレン構造単位を含む脂肪族炭化水素構造単位の含有量は70%であり、ニトリル基含有単量体単位の含有量は29%超30%未満であり、アミド基含有構造単位の含有量は1%未満であった。これらの構造単位の含有量は、単量体の使用量、NMR(核磁気共鳴)及び/又はIR(赤外分光法)測定を利用して求めた(以下、同様である。)。
【0186】
<合成例2 共重合体2の作製>
使用するモノマーを、アクリロニトリル20部、1,3-ブタジエン40部、及び2-メチル-1,3-ブタジエン40部に変更した以外は、合成例1と同様にして、共重合体2を得た。共重合体2の水素添加率は99.0%であり、重量平均分子量(Mw)は300,000であった。共重合体2において、共重合体2質量を基準として、アルキレン構造単位を含む脂肪族炭化水素構造単位の含有量は80%であり、ニトリル基含有単量体単位の含有量は19%超20%未満であり、アミド基含有構造単位の含有量は1%未満であった。
【0187】
<実施例1-2 分散剤2の作製>
使用する共重合体を共重合体2に変更した以外は、実施例1-1と同様にして、分散剤2含有液を得た。NaOH懸濁液及び共重合体2含有液の混合物の水分は、1.0%であった。分散剤2のアミド基含有構造単位の含有量及び重量平均分子量(Mw)は表1に示す通りであった。共重合体13(分散剤13)において、共重合体13の質量を基準として、アルキレン構造単位を含む脂肪族炭化水素構造単位の含有量は65%であり、ニトリル基含有単量体単位の含有量は34.5%であり、アミド基含有単量体単位の含有量は0.5%であった。
【0188】
なお、表1及び後述の表2のモノマー及び塩基の欄に記した略号は、以下を意味する。
BD:1,3-ブタジエン
MBD:2-メチル-1,3-ブタジエン
AN:アクリロニトリル
AAm:アクリルアミド
MAAm:メタクリルアミド
DMAAm:N,N-ジメチルアクリルアミド
AA:アクリル酸
コリン:トリメチル-2-ヒドロキシエチルアンモニウムヒドロキシド
TMAH:テトラメチルアンモニウムヒドロキシド
【0189】
<実施例1-3~1-8 分散剤3~8の作製>
使用する塩基の種類及び/又は量を、表1に従って変更した以外は、実施例1-1と同様にして、それぞれ分散剤3~8含有液を得た。各分散剤のアミド基含有構造単位の含有量及び重量平均分子量(Mw)は表1に示す通りであった。
【0190】
<実施例1-9 分散剤9の作製>
ガラス瓶(M-225、柏洋硝子株式会社製)に、H-NBR1(LANXESS株式会社製H-NBR(水素化アクリロニトリル-ブタジエンゴム) Therban(R)3406、アクリロニトリル含有量34%)、NaOH、及びNMPを表1に従って加え、ジルコニアビーズ(ビーズ径0.5mmφ)をメディアとして、ペイントコンディショナーで混合してニトリル基の一部をアミド基に変性し、分散剤9含有液を得た。分散剤9のアミド基含有構造単位の含有量及び重量平均分子量(Mw)は表1に示す通りであった。
【0191】
<実施例1-10 分散剤10の作製>
ガラス瓶(M-225、柏洋硝子株式会社製)に、H-NBR2(日本ゼオン株式会社製H-NBR(水素化アクリロニトリル-ブタジエンゴム) Zetpole(R)3300、アクリロニトリル含有量23.6%)、LiOH、及びNMPを表1に従って加え、ジルコニアビーズ(ビーズ径0.5mmφ)をメディアとして、ペイントコンディショナーで混合してニトリル基の一部をアミド基に変性し、分散剤10含有液を得た。分散剤10のアミド基含有構造単位の含有量及び重量平均分子量(Mw)は表1に示す通りであった。
【0192】
<実施例1-11 分散剤11の作製>
実施例1-1で作製した分散剤1含有液を、精製水に滴下して沈殿させ、ブフナー漏斗でろ過して沈殿物を回収した。引き続き、ブフナー漏斗上で回収した沈殿物に精製水をふりかけてすすいだ後、テトラヒドロフラン(THF)に溶解させ、溶液を得た。得られた溶液を精製水に再び滴下して前記ろ過及び精製水による洗浄工程を行い、沈殿物からNaOHを抽出除去した。沈殿物を60℃で熱風乾燥させてNaOHを除去し、分散剤11を得た。
【0193】
<実施例1-12 分散剤12の作製>
実施例1-1で作製した分散剤1含有液に、更にクエン酸を分散剤1(共重合体1)に対して5%添加して、アミド基の一部をカルボキシル基に変性した。全反射測定法による赤外分光分析によりカルボキシル基の存在を確認した。分散剤12はカルボキシル基含有構造単位を含むと判断した。
【0194】
<実施例1-13 分散剤13の作製>
ステンレス製重合反応器に、アクリロニトリル34.5部、1,3-ブタジエン65部、アクリルアミド0.5部、オレイン酸カリ石ケン3部、アゾビスイソブチロニトリル0.3部、t-ドデシルメルカプタン0.6部、及びイオン交換水200部を加えた。窒素雰囲気下において、撹拌しながら、45℃で20時間の重合を行い、転化率90%で重合を終了した。未反応のモノマーを減圧ストリッピングにより除き、固形分濃度約30%のアミド基含有アクリロニトリル-共役ジエン系ゴムラテックスを得た。続いて、ラテックスにイオン交換水を追加して全固形分濃度を12%に調整し、容積1Lの撹拌機付きオートクレーブに投入して、窒素ガスを10分間にわたり流して内容物中の溶存酸素を除去した。水素化触媒としての酢酸パラジウム75mgを、パラジウムに対して4倍モルの硝酸を添加したイオン交換水180mLに溶解して調製した触媒液を、オートクレーブに添加した。オートクレーブ内を水素ガスで2回置換した後、3MPaまで水素ガスで加圧した状態でオートクレーブの内容物を50℃に加温し、6時間の水素化反応を行った。その後、内容物を常温に戻し、オートクレーブ内を窒素雰囲気とした後、固形分を乾燥させて分散剤13を回収した。分散剤13の水素添加率は99.5%であり、重量平均分子量(Mw)は200,000であった。共重合体13(分散剤13)において、共重合体13の質量を基準として、アルキレン構造単位を含む脂肪族炭化水素構造単位の含有量は65%であり、ニトリル基含有単量体単位の含有量は34.5%であり、アミド基含有単量体単位の含有量は0.5%であった。
【0195】
<実施例1-14~1-16 分散剤14~16の作製>
使用するモノマー及び組成を表1に従って変更した以外は、実施例1-13と同様にして、分散剤14~16を得た。水素添加率はそれぞれ98.5%、98.0%、及び99.5%であった。
【0196】
図1に、共重合体1、分散剤1、及び分散剤3のIRスペクトルを示す。共重合体1、分散剤1、及び分散剤3のIRスペクトルを比較すると、分散剤3は約1570cm-1及び約1650cm-1にアミド基に由来するシャープなピークを有しており、分散剤1も強度は低いものの同じくアミド基に由来するピークがあることが確認できる。一方、共重合体1はアミド基を有しないためこのピークは存在しない。近傍の約1690cm-1に見られるピークは溶媒のNMPに由来するものである。このことから、分散剤1及び分散剤3には、確かにアミド基が導入できていることが確認できた。分散剤1及び分散剤3は、アミド基含有構造単位を含むと判断した。また、他の分散剤についても同様に確認を行った。
【0197】
図2に、分散剤1及び分散剤3の13C-NMRスペクトルを示す。13C-NMRスペクトルから算出したアミド基含有構造単位の含有量は、分散剤1が1%未満、分散剤3が3.0%であった。
【0198】
【表1】
【0199】
分散剤1~10のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による重量平均分子量は、アミド基を導入する前の共重合体に対して0.05~0.6倍であった。また、各分散剤含有液(分散剤組成物)のせん断応力1,000/sにおける粘度は、アミド基を導入する前の共重合体溶液の粘度に対して0.05~0.6倍であった。詳細は定かではないが、アミド基は強い水素結合を形成し得ることから、分子内で水素結合による架橋構造が形成されたことにより、見かけ上の分子量(本実施例に示す条件で測定される分子量)が小さくなったのではないかと推察される。分散剤含有液の粘度が大幅に小さくなったことも、同様の理由によるものと思われる。
【0200】
なお、塩基と共重合体の混合は実施例に記載の順序及び方法に限らないが、塩基を予め溶媒中に分散(又は溶解)させ、共重合体溶液に添加した方が、塩基と共重合体との接触効率が高いなるため加水分解が進みやすい。品質管理の安定化及び製造時間の短縮にも効果的である。
【0201】
<導電材分散体の作製>
<実施例2-1~2-18>
表2に示す組成と分散時間に従い、ガラス瓶(M-225、柏洋硝子株式会社製)に、分散剤、NMP及び塩基を含む分散剤含有液、又は、分散剤を加え、NMPを追加して濃度を調整した後、表2に記載の導電材を加え、ジルコニアビーズ(ビーズ径1.25mmφ)をメディアとして、ペイントコンディショナーで分散し、各導電材分散体(分散体1~18)を得た。NMPは、導電材分散体に含まれる全成分の合計が100部となる量、追加した(実施例2-1では、97.2部のNMPを追加した。)。
【0202】
<比較例2-1~2-5>
表2に示す組成と分散時間に従い、ガラス瓶(M-225、柏洋硝子株式会社製)に分散剤、及び記載のある場合は添加剤(アミノエタノール又はNaOH)を加え、NMPを追加して混合した後、導電材8Sを加え、ジルコニアビーズ(ビーズ径1.25mmφ)をメディアとして、ペイントコンディショナーで分散し、導電材分散体(比較分散体1~5)を得た。
【0203】
なお、表2に記した略号は、以下を意味する。
・8S:JENOTUBE8S(株式会社JEIO製、多層CNT、外径6~9nm)
・100T:K-Nanos 100T(Kumho Petrochemical株式会社製、多層CNT、外径10~15nm)
・HS-100:デンカブラックHS-100(デンカ株式会社製、アセチレンブラック、平均一次粒子径48nm、比表面積39m/g)
・PVP:ポリビニルピロリドンK-30(株式会社日本触媒製、固形分100%)
・PVA:Kuraray POVAL PVA403(株式会社クラレ製、固形分100%)
【0204】
【表2】
【0205】
表3に示す通り、実施例の導電材分散体(分散体1~18)はいずれも低粘度かつ貯蔵安定性が良好であった。特にカルボキシル基を導入した分散体12及び分散体16は極めて低粘度であった。比較分散体3~5も低粘度かつ貯蔵安定性が比較的良好であったが、比較分散体1及び2は高粘度かつ貯蔵安定性が不良であった。また、複素弾性率及び位相角も同様に、分散体1~18はいずれも良好であり、比較分散体3~5は比較的良好であるものの、比較分散体1及び2は不良であった。特に、比較分散体1の複素弾性率は約300Paであり、極めて不良であった。
【0206】
【表3】
【0207】
実施例の分散剤(共重合体I)は、アミド基を導入したことによって導電材への吸着力が向上したものと考えられ、分散性が良好な導電材分散体が容易に製造できるようになったと思われる。
【0208】
<正極用合材スラリー及び正極膜の作製>
<実施例3-1>
表4に示す組成に従い、容量150mLのプラスチック容器に導電材分散体(分散体1)と、8質量%PVDFを溶解したNMPとを加えた後、自転及び公転ミキサー(株式会社シンキー製あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2,000rpmで30秒間撹拌し、バインダー樹脂含有導電材分散体を得た。その後、電極活物質としてNMCを添加し、自転及び公転ミキサーを用いて、2,000rpmで20分間にわたり撹拌した。さらにその後、NMPを添加し、自転及び公転ミキサーを用いて、2,000rpmで30秒間撹拌して、正極用合材スラリーを得た。正極用合材スラリーの固形分は75質量%とした。
【0209】
正極用合材スラリーを集電体となる厚さ20μmのアルミ箔上にアプリケーターを用いて塗工した後、電気オーブン中で120℃±5℃で25分間にわたり乾燥させて電極の単位面積当たりの目付量が20mg/cmとなるように調整した。さらにロールプレス(株式会社サンクメタル製、3t油圧式ロールプレス)による圧延処理を行い、正極合材層の密度が3.1g/cmとなる正極膜1aを作製した。
【0210】
<実施例3-2~3-18、比較例3-1~3-5>
導電材分散体の種類を変更した以外は実施例3-1と同様の方法により、正極膜2a~18a、比較正極膜1a~5aを作製した。
【0211】
<実施例4-1、4-2、比較例4-1~4-3>
表4に示す通り、電極活物質をNCAに変更した以外は実施例3-1、3-13、及び比較例3-1~3-3と同様の方法により、正極膜1b、2b、及び比較正極膜1b~3bを作製した。
【0212】
なお、表4に記した略号は、以下を意味する。
・NMC:NCM523(日本化学工業株式会社製、組成:LiNi0.5Co0.2Mn0.3、固形分100%)
・NCA:HED(登録商標)NAT-7050(BASF戸田バッテリーマテリアルズ合同会社製、組成:LiNi0.8Co0.15Al0.05)、固形分100%
・PVDF:ポリフッ化ビニリデン(Solef#5130(Solvey株式会社製)、固形分100%)
【0213】
【表4】
【0214】
図3及び図4に正極膜1aのSEM写真を、図5図7に比較正極膜3aのSEM写真を示す。数マイクロメートルの球状粒子が正極活物質であり、微少な繊維状物質がCNTである。正極膜1aではCNTが単独で凝集した様子は見られず(図3)、正極活物質粒子の表面に多くのCNTが付着していた(図4)。一方、比較正極膜3aでは正極活物質粒子の間隙にCNTが単独で凝集した様子が複数個所で確認でき(図5図6)、正極活物質粒子の表面に付着したCNTはほとんどなかった(図7)。
【0215】
表5に、電極の評価結果を示す。表5においてSEM観察による評価結果が◎であった正極膜は、正極膜1aと同様の状態であり、評価結果が×であった比較正極膜は、比較正極膜3aと同様の状態であった。
【0216】
表5に示す抵抗とSEM観察による結果とを比較すると、非常に相関が高いことがわかる。すなわち、実施例の正極膜はロバスト性が良好であるためCNTが効率的に導電ネットワークを形成することができ、比較例の正極膜はロバスト性が不良であるため導電ネットワークが形成できず抵抗が悪化したものと考えられる。
【0217】
このようなロバスト性の差異を本発明者らは以下のように考察している。比較例3-3~3-5で用いたような分散剤は、導電材のみならず正極活物質にもよく吸着し作用するため、合材スラリー中の大部分を占める正極活物質に分散剤を奪われ、安定な分散状態を保てなくなったものと思われる。さらに、比較例4-1~4-3では、特にロバスト性不良の影響が顕著であった。これは、ニッケル比率の高い正極活物質の場合、正極活物質粒子の表面のアルカリ性が高いため、安定な分散状態を保つことに対して大きな妨げとなるためであると思われる。ニッケル比率の高い正極活物質は、近年の高出力化及び/又は高容量化への期待からトレンドとなりつつあり、同様の理由で注目されるシリコン系負極活物質、特にリチウムドープシリコン系負極活物質の場合も同じ傾向になることが確認できている。
【0218】
実施例では、アミド基を含むことで分散剤の吸着力が高まり、分散性の良好な導電材分散体が得られたものと推察される。また、アミド基を含むことで、分散剤である共重合体に架橋構造が導入されたと推察される。実施例で用いた分散剤は、一般のニトリルゴムと比較して導電材及び電極活物質粒子に対する吸着力が高く、これらを分散させる能力が高いことに加え、架橋構造を持つことによって分散剤が導電材に対して三次元的に吸着し、分散性とロバスト性が両立できたものと考えられる。
【0219】
さらに、実施例で用いた分散剤は、共役ジエン単量体単位を有する共重合体を経て調製された共重合体である。一般的に、共役ジエン単量体単位を有する共重合体は、網目状の分子構造を持つことが知られている。実施例で用いた分散剤である共重合体には、共役ジエン単量体単位の一部として分岐点を含む構造単位が導入されており、網目状の分子構造を持つと推察される。網目状の分子構造によっても、優れた分散性とロバスト性とを達成できたものと考えられる。
【0220】
一方、同様に網目状の分子構造を持つ比較例2-1~2-2の分散剤は、そもそもの分散性が悪いため、導電材分散体としても分散不良であり、電極内でも良好な導電ネットワークが形成できなかったものと思われる。なお、強いずり応力がかかるような混合方法ほど、また、混合時間が長くなるほど、比較例の分散剤を用いた場合のロバスト性不良が起こりやすくなることがわかった。これは、強いずり応力がかかるほど、また、混合時間が長くなるほど、電極活物質粒子に分散剤が奪われ、又は導電材同士の絡まりが生じて、導電材同士が凝集することによるものと考えられる。
【0221】
【表5】
【0222】
<非水電解質二次電池の作製>
<実施例5-1~5-18、比較例5-1~5-5>
<実施例6-1~6-2、比較例6-1~6-3>
下記の標準負極と表5に示す正極膜とを各々50mm×45mm、45mm×40mmに打ち抜き、その間に挿入されるセパレーター(多孔質ポリプロプレンフィルム)とをアルミ製ラミネート袋に挿入し、電気オーブン中、70℃で1時間乾燥させた。続いて、アルゴンガスで満たされたグローブボックス内で、電解液を2mL注入し、アルミ製ラミネート袋を封口して電池1a~18a、電池1b~2b、比較電池1a~5a、及び比較電池1b~3bを作製した。電解液は、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとジエチルカーボネートを1:1:1(体積比)の割合で混合した混合溶媒を作製し、さらに添加剤として、VC(ビニレンカーボネート)を電解液100部に対して1部加えた後、LiPFを1Mの濃度で溶解させた非水電解液である。
【0223】
<製造例1 標準負極用合材スラリーの作製>
容量150mLのプラスチック容器にアセチレンブラック(デンカ株式会社製、デンカブラック(登録商標)HS-100)と、CMCと、水とを加えた後、自転及び公転ミキサー(株式会社シンキー製あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2,000rpmで30秒間撹拌した。さらに負極活物質として人造黒鉛を添加し、自転及び公転ミキサー(株式会社シンキー製あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2,000rpmで150秒間撹拌した。続いてSBRを加えて、自転及び公転ミキサー(株式会社シンキー製あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2,000rpmで30秒間撹拌し、標準負極用合材スラリーを得た。標準負極用合材スラリーの固形分は48質量%とした。標準負極用合材スラリー中の負極活物質:導電材:CMC:SBRの固形分比率は97:0.5:1:1.5とした。
【0224】
なお、上記に記した略号は、以下を意味する。
・HS-100:デンカブラックHS-100(デンカ株式会社製、アセチレンブラック、平均一次粒子径48nm、比表面積39m/g)
・人造黒鉛:CGB-20(日本黒鉛工業株式会社製)、固形分100%
・CMC:#1190(ダイセルファインケム株式会社製)、固形分100%
・SBR:TRD2001(JSR株式会社製)、固形分48%
【0225】
<製造例2 標準負極の作製>
負極用合材スラリーを集電体となる厚さ20μmの銅箔上にアプリケーターを用いて塗工した後、電気オーブン中で80℃±5℃で25分間にわたり乾燥させて電極の単位面積当たりの目付量が10mg/cmとなるように調整した。さらにロールプレス(株式会社サンクメタル製、3t油圧式ロールプレス)による圧延処理を行い、負極合材層の密度が1.6g/cmとなる負極を作製した。
【0226】
<レート試験及びサイクル試験の結果及び考察>
表5に示す通り、ロバスト性が良好な電池はレート特性及びサイクル特性が良好であり、ロバスト性が悪い電池はいずれの特性も悪かった。導電ネットワークが良好に形成され低抵抗な正極膜は、電池としても抵抗が低く、レート特性が良化するものと思われる。また、導電ネットワークが不良な場合、比較的に低抵抗である電極活物質粒子にサイクルの負荷が集中するため、劣化が促進されてしまうのに対し、全体に良好な導電ネットワークが形成されている場合、負荷が分散されるため劣化しにくくなると思われる。
【0227】
以上のように、分散性とロバスト性を両立することで、電極膜中で良好な分散状態を維持して効率的な導電ネットワークを形成することができ、レート特性及びサイクル特性が良好な電池を製造することができた。
【0228】
実施の形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記によって限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明の範囲内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7