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特許7216383炭素繊維不織布シート、その製造方法及びこれを用いた炭素繊維強化樹脂成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-24
(45)【発行日】2023-02-01
(54)【発明の名称】炭素繊維不織布シート、その製造方法及びこれを用いた炭素繊維強化樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
   D04H 1/4242 20120101AFI20230125BHJP
   B29B 15/08 20060101ALI20230125BHJP
   B32B 5/26 20060101ALI20230125BHJP
   B32B 5/28 20060101ALI20230125BHJP
   B32B 7/03 20190101ALI20230125BHJP
   D04H 1/74 20060101ALI20230125BHJP
   B29K 105/12 20060101ALN20230125BHJP
【FI】
D04H1/4242
B29B15/08
B32B5/26
B32B5/28 A
B32B7/03
D04H1/74
B29K105:12
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022111508
(22)【出願日】2022-07-12
【審査請求日】2022-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2021118937
(32)【優先日】2021-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390018153
【氏名又は名称】日本毛織株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】福田 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】宮本 弘毅
(72)【発明者】
【氏名】伊勢 智一
(72)【発明者】
【氏名】杉本 直
(72)【発明者】
【氏名】東出 真澄
【審査官】鈴木 祐里絵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/244994(WO,A1)
【文献】実開平04-000530(JP,U)
【文献】特開2016-151081(JP,A)
【文献】特開2008-254425(JP,A)
【文献】特開平08-312699(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B7/00-17/04
B29C65/00
70/00
B29K105/14
B32B1/00-43/00
C08J5/04-5/10
5/24
D04H1/00-18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不連続炭素繊維を含む炭素繊維不織布シートであって、
前記炭素繊維不織布シートは、実質的に一方向に炭素繊維が配向された矩形の繊維ウェブが、同一方向にかつ端部をずらせて2枚以上積層され長尺状パラレルウェブとなっており、
前記長尺状パラレルウェブを構成する各炭素繊維は一方向に配列していることを特徴とする炭素繊維不織布シート。
【請求項2】
前記炭素繊維不織布シートは、炭素繊維不織布シートを母数としたとき、不連続炭素繊維が10~100質量%、炭素繊維以外の繊維が0~90質量%である請求項1に記載の炭素繊維不織布シート。
【請求項3】
前記炭素繊維不織布シートは、単位面積当たりの質量が1~1000g/m2である請求項1に記載の炭素繊維不織布シート。
【請求項4】
前記矩形の繊維ウェブの積層数が2~100枚である請求項1に記載の炭素繊維不織布シート。
【請求項5】
前記矩形の繊維ウェブの端部は1枚当たり1~1000mmずらせて積層されている請求項1に記載の炭素繊維不織布シート。
【請求項6】
前記矩形の繊維ウェブを構成する炭素繊維は、50質量%以上が±10度以内の角度で配向されている請求項1に記載の炭素繊維不織布シート。
【請求項7】
前記矩形の繊維ウェブは、荷重500Paをかけたときの平均密度が0.01~0.40g/cm3である請求項1に記載の炭素繊維不織布シート。
【請求項8】
前記矩形の繊維ウェブを構成する炭素繊維は、繊維長の分布が1~300mmである請求項1に記載の炭素繊維不織布シート。
【請求項9】
前記矩形の繊維ウェブは、炭素繊維の配向方向の長さが30~5000mmであり、炭素繊維の配向方向と直交する方向の長さが20~3000mmである請求項1に記載の炭素繊維不織布シート。
【請求項10】
前記炭素繊維不織布シートを構成する炭素繊維は、リサイクルされた炭素繊維を含む請求項1に記載の炭素繊維不織布シート。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の炭素繊維不織布シートの製造方法であって、
不連続炭素繊維を含む繊維をカード機で開繊し、実質的に一方向に炭素繊維を配向させて繊維ウェブとし、幅方向又は斜め方向にカットして矩形とし、
前記矩形の繊維ウェブの端部をずらせて積層し、長尺状パラレルウェブとし、
前記長尺状パラレルウェブを構成する各炭素繊維を一方向に配列させ、
前記長尺状パラレルウェブの両端をカットして炭素繊維不織布シートを得ることを特徴とする炭素繊維不織布シートの製造方法。
【請求項12】
炭素繊維不織布シートとマトリックス樹脂を含む炭素繊維強化樹脂成形体であって、
前記炭素繊維不織布シートは請求項1~10のいずれか1項に記載の炭素繊維不織布シートであることを特徴とする炭素繊維強化樹脂成形体。
【請求項13】
前記炭素繊維強化樹脂成形体は、炭素繊維の配向方向の引張強度が340MPa以上である請求項12に記載の炭素繊維強化樹脂成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維不織布シート、その製造方法及びこれを用いた炭素繊維強化樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維とマトリックス樹脂からなる炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、軽量で比強度、比弾性率が高く、力学的特性に優れ、耐候性、耐薬品性も高いことから、航空機、自動車、タンク、コンクリート補強材、スポーツ用途等様々な用途に使用され、あるいは適用することが検討されている。CFRPの製造の際には炭素繊維シートの切断などにより端材が発生し、有効活用が問題となる。また、CFRP成形体を処分する際も炭素繊維の有効活用(リサイクル)が問題となる。
【0003】
廃CFRPから炭素繊維を取り出す方法として、焼成法、溶解法などがあり、特許文献1には溶解法が提案されている。これは樹脂を溶かす方法であり、高品質なリサイクル炭素繊維を得ることができる。しかし、溶解処理後の炭素繊維は不連続繊維となり、綿状に絡まり合った状態であり、そのままではCFRPに再生することは難しい。リサイクル炭素繊維をCFRPに再生する方法として、特許文献2~4には乾式法(カード)で開繊することが提案されている。本出願人らも特許文献5において、カード機で開繊することを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-297641号公報
【文献】再表2012-086682号公報
【文献】特表2013-519546号公報
【文献】特開2014-025175号公報
【文献】特開2016-151081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の技術では、不連続炭素繊維で連続炭素繊維シートの一軸シートと同様な成形品を得るための繊維が長さ方向に高配向した長尺状の炭素繊維不織布シートを作製することに問題があった。
【0006】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、連続炭素繊維シートの一軸シートと同様な使い方ができる炭素繊維不織布シート、その製造方法及びこれを用いた炭素繊維強化樹脂成形体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の炭素繊維不織布シートは、不連続炭素繊維を含む炭素繊維不織布シートであって、前記炭素繊維不織布シートは、実質的に一方向に炭素繊維が配向された矩形の繊維ウェブが、同一方向にかつ端部をずらせて2枚以上積層され長尺状パラレルウェブとなっており、前記長尺状パラレルウェブを構成する各炭素繊維は一方向に配列している
【0008】
本発明の炭素繊維不織布シートの製造方法は、前記の炭素繊維不織布シートの製造方法であって、不連続炭素繊維を含む繊維をカード機で開繊し、実質的に一方向に炭素繊維を配向させて繊維ウェブとし、幅方向又は斜め方向にカットして矩形とし、前記矩形の繊維ウェブの端部をずらせて積層し、長尺状パラレルウェブとし、前記長尺状パラレルウェブを構成する各炭素繊維を一方向に配列させ、前記長尺状パラレルウェブの両端をカットして炭素繊維不織布シートを得る方法である。
【0009】
本発明の炭素繊維強化樹脂成形体は、前記炭素繊維不織布シートとマトリックス樹脂を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、不連続炭素繊維を含む炭素繊維不織布シートであり、実質的に一方向に炭素繊維が配向された矩形の繊維ウェブが、同一方向にかつ端部をずらせて2枚以上積層されパラレルウェブとなっており、長尺状であることにより、不連続炭素繊維で連続炭素繊維シートと同様な成形品を得ることができる。すなわち、一配向性の矩形の繊維ウェブを複数枚、端部をずらせて積層し、長尺状パラレルウェブとし、両端をカットして炭素繊維不織布シートとすることにより、連続炭素繊維シートの一軸シートと同様な使い方ができる。本発明の製造方法は、前記炭素繊維不織布シートを効率よく合理的に製造できる。また、本発明の炭素繊維強化樹脂成形体は前記の炭素繊維不織布シートとマトリックス樹脂を含むことにより、炭素繊維の配向方向の引張強度が高い成形体とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は本発明の一実施形態のカード機の模式的断面図である。
図2図2は同、カード機で得られた矩形の繊維ウェブの端部をずらせて積層し、長尺状パラレルウェブとした模式的説明図である。
図3図3は本発明の一実施形態の炭素繊維不織布シートの模式的斜視図である。
図4図4は同、繊維ウェブの表面写真である。
図5図5は同、繊維ウェブの表面拡大写真である。
図6図6は同、矩形の繊維ウェブの端部をずらせて積層した部分を示す表面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の炭素繊維不織布シートは、不連続炭素繊維を含む炭素繊維不織布シートである。これにより、炭素繊維強化樹脂成形体としたときに、炭素繊維の配向方向の強度が高く、品質の高い成形体が得られる。
【0013】
この炭素繊維不織布シートは、一配向性の繊維ウェブを幅方向又は斜め方向にカットして矩形の繊維ウェブとし、前記矩形の繊維ウェブを複数枚、端部をずらせて積層し、長尺状パラレルウェブとし、両端をカットしたものでもよいし、必要に応じて所定の長さにカットしてもよい。ここでいう矩形とは、4隅の角度が必ずしも90°でなくともよく、台形や平行四辺形を含む。繊維ウェブは、カード機の開繊装置上で開繊され、実質的に一方向に炭素繊維が配向されている。開繊装置はシリンダ又はベルトコンベアが好ましい。シリンダ又はベルトコンベア上には多数の金属製針が備えられているが、炭素繊維はこの多数の金属製針の間に、開繊されかつ実質的に一方向に配向されて、剥ぎ取られる。これにより一配向性の繊維ウェブが得られる。シリンダ又はベルトコンベア幅及び直径又は長さは様々なものを選択できるので、生産量に見合ったものを選択して使用する。
【0014】
前記矩形の繊維ウェブは、端部をずらせて積層され、長尺状パラレルウェブに形成される。矩形の繊維ウェブは、幅は同一であるので、端部を所定の長さずらせて積層すると、積層数が同一の長尺状パラレルウェブが得られる。前記長尺状パラレルウェブは、積層数も長さも任意とすることができる。長尺状パラレルウェブの両端をカットし、炭素繊維不織布シートが得られる。この炭素繊維不織布シートは連続炭素繊維シートの一軸シートと同様な使い方ができる。すなわち、連続炭素繊維シートの一軸シートは一方向テープ(UDテープ)のような使い方ができ、樹脂とともに、ハンドレイアップ法、バキューム・アシスティッド・レジントランスファ成形法(VaRTM法)、レジントランスファ成形法(RTM法)、レジンインジェクション法(RIM法)、プレス成形法、オートクレーブ法、シートワインド法、引抜成形法、スプレアップ法などで成形されるが、本発明の炭素繊維不織布シートも同様な使い方ができる。一例として、マトリックス樹脂にエポキシ樹脂を用いた場合、前記炭素繊維不織布シートから得られる。成形体の炭素繊維の配向方向の引張強度は340MPa以上となり、アルミ合金A2024(超ジュラルミン)の実用的強度である0.2%耐力に匹敵するレベルである。
【0015】
炭素繊維不織布シートの単位面積当たりの質量(以下単に「質量」と表記する場合もある)は1~1000g/mであり、より好ましくは5~500g/mであり、さらに好ましくは10~300g/mである。前記の範囲であれば、取扱い性も良く、炭素繊維強化樹脂成形に都合が良い。前記の範囲であれば、強度の高い炭素繊維強化樹脂成形体ができる。
【0016】
前記繊維ウェブの単位面積当たりの質量は0.1~100g/mが好ましく、より好ましくは0.5~50g/mであり、さらに好ましくは1~30g/mである。前記の範囲であれば、取扱い性も良く、炭素繊維強化樹脂成形に都合が良い。
【0017】
前記矩形の繊維ウェブの積層数は2~100枚であるのが好ましく、より好ましくは5~50枚であり、さらに好ましくは10~30枚である。前記の積層数であれば、単位面積当たりの質量も高くでき、強度の高い炭素繊維強化樹脂成形体ができる。
【0018】
前記矩形の繊維ウェブの端部は1枚当たり1~1000mmずらせて積層されているのが好ましく、より好ましくは5~500mmであり、さらに好ましくは10~300mmである。前記のずらせ量であれば、均一な長尺状パラレルウェブとすることができる。ここで長尺状とは、理論的には無限であるが、実用上は0.5~25m程度である。
【0019】
本発明において、「実質的に一方向に配向」もしくは「一配向性」とは、50質量%以上が±10度以内の角度で配向されていることをいう。したがって、矩形の繊維ウェブを構成する炭素繊維は、50質量%以上が±10度以内の角度で配向されていることが好ましく、さらに好ましくは60質量%以上が±10度以内の角度で配向されており、より好ましくは70質量%以上が±10度以内の角度で配向されている。前記の範囲であれば、配向性が高く、強度が高く、品質の高い成形体が得られる。
【0020】
前記矩形の繊維ウェブは、荷重500Paをかけたときの平均密度が0.01~0.40g/cmであることが好ましく、さらに好ましい平均密度は0.02~0.20g/cmであり、より好ましくは0.03~0.15g/cmである。前記の範囲であれば、取扱い性も良く、炭素繊維強化樹脂成形に都合が良い。
【0021】
前記矩形の繊維ウェブを構成する炭素繊維の繊維長は任意とすることができるが、好ましくは繊維長分布が1~300mmであり、より好ましくは5~200mmであり、さらに好ましくは10~150mmである。前記の範囲であれば、品質的に問題はなく、取扱い性も良く、炭素繊維強化樹脂成形に都合が良い。
【0022】
前記矩形の繊維ウェブは、炭素繊維の配向方向の長さは30~5000mmであり、炭素繊維の配向方向と直交する方向の長さは20~3000mmが好ましい。前記の範囲であれば、品質的に問題はなく、取扱い性も良く、炭素繊維強化樹脂成形に都合が良い。
【0023】
前記炭素繊維不織布シートを構成する炭素繊維は、リサイクルされた炭素繊維が好ましいが、新規の炭素繊維を切断したもの、CFRPの製造の際の炭素繊維シートの切断などにより端材として発生したものなど、どのようなものでも使用できる。炭素繊維の原料は、ポリアクリロニトリル(PAN)系、ピッチ系等どのようなものでもよい。また、本発明の炭素繊維不織布シートは、複数枚積層して使用することもでき、別の方法で作成された炭素繊維シート(例えば連続繊維シート、炭素繊維織物など)等を積層することもできる。
【0024】
本発明の炭素繊維不織布シートには炭素繊維以外の繊維を混合してもよい。炭素繊維不織布シートを母数としたとき、不連続炭素繊維が10~100質量%、炭素繊維以外の繊維が0~90質量%であるのが好ましく、より好ましくは不連続炭素繊維が20~100質量%、炭素繊維以外の繊維が0~80質量%であり、さらに好ましくは不連続炭素繊維が50~100質量%、炭素繊維以外の繊維が0~50質量%である。炭素繊維以外の繊維としては、成形後の物性向上ができる高強度かつ高弾性有機繊維(アラミド(パラ系、メタ系を含む)繊維、ポリアリレート繊維、ポリ(p-フェニレンベンゾビスオキザール)(PBO)繊維、ポリ(p-フェニレンベンゾビスチアゾール)(PBZT)繊維、高分子量ポリエチレン繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、ポリビニルアルコール繊維など)に加えて、成形前の取扱性を改善する熱可塑性繊維(ポリアミド、ポリプロピレン、PPSなど)が使用できる。また炭素繊維以外の繊維は1種類に限定されず、2種類以上の繊維を混合してもよい。
【0025】
次に本発明の炭素繊維不織布シートの製造方法について説明する。
(1)繊維ウェブ形成工程
不連続炭素繊維を含む繊維をカード機で開繊し、実質的に一方向に炭素繊維を配向させて繊維ウェブとする。必要に応じてサイジング剤を付与してもよい。炭素繊維以外の繊維を加える場合は、この工程で加えて混合する。
(2)第1カット工程
前記繊維ウェブは長尺状で得られるので、幅方向又は斜め方向にカットして矩形とする。幅方向又は斜め方向にカットする方法は特に限定されないが、例えば、同一速度で動くカッターでカットしてもよい。もしくは、長尺状の繊維ウェブを静置でカットする方法がある。このようにして矩形の繊維ウェブとする。
(3)積層工程
前記矩形の繊維ウェブの端部をずらせて積層し、長尺状パラレルウェブとする。
(4)第2カット工程
前記長尺状パラレルウェブの両端をカットして本発明の炭素繊維不織布シートを得る。ここでいう両端とは先端部と後端部の不均一積層部分をいう。前記長尺状パラレルウェブは必要に応じて所定の長さにカットしてもよい。
【0026】
以下、図面を用いて説明する。以下の図面において、同一符号は同一物を示す。図1は本発明の一実施例のカード機1の模式的断面図である。このカード機1は、不連続炭素繊維2がフィードローラ3a,3bから供給され、テーカインローラ4を通過し、シリンダ5とワーカ6a,7a、及びストリッパ6b,7bの協働により開繊され、ドッファ8を通過し、振動コム9により剥ぎ取られ、繊維ウェブとして取り出す。11は基台である。繊維ウェブは不連続繊維の炭素繊維が開繊され、一方向に配列し、長尺状である。この繊維ウェブは排出ベルト12から取り出される。その際には一例として繊維ウェブと同速度で移動するカッター13で幅方向にカットされ、矩形の繊維ウェブ10として取り出される。
【0027】
図2は同、カード機で得られた矩形の繊維ウェブ10の端部をずらせて積層し、長尺状パラレルウェブ14とした模式的説明図である。この長尺状パラレルウェブ14を所定の長さにカットし炭素繊維不織布シート15とする。炭素繊維不織布シート15は単位面積当たりの質量が安定し、多数枚作成しても各々の炭素繊維不織布シート15はほぼ均一な質量となる。両端はカットされ、再度カード機に供給して炭素繊維不織布シート15としてもよい。矢印は進行方向である。
【0028】
参考までにクロスラッパー積層法は、不織布シートの進行方向(長さ方向)に対して直角にウェブを振り落として、多層のウェブを作る方式であるので、繊維が不織布シートの進行方向(長さ方向)に高配向した長尺状の不織布シートを作ることができない。
【0029】
図3は本発明の一実施形態の長尺状パラレルウェブ14の模式的斜視図である。長尺状パラレルウェブ14を構成する各炭素繊維16は一方向に配列している。矩形の繊維ウェブ10a-10i…が端部をずらせて積層されている。矩形の繊維ウェブ10fを含む左側(矢印カット線17から左側)が均一な積層数の炭素繊維不織布シートとなる。この例では6層である。矢印MDは炭素繊維不織布シートの長さ方向(MD)を示している。
【0030】
図4は本発明の一実施形態の繊維ウェブの表面写真、図5は同、繊維ウェブの表面拡大写真、図6は矩形の繊維ウェブの端部をずらせて積層した部分を示す表面写真である。18a,18bは積層部分である。積層数は、右側1枚、中2枚、左側3枚である。
【実施例
【0031】
以下、実施例を用いてさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
<試験片の引張試験>
ASTM D3039 (2017)を参考にし、インストロン万能試験機を使用し、ロードセル100kN、引張速度1.0mm/secでCFRPの引張強度を測定した。引張強度は繊維配向方向の引張強度を測定した。
【0032】
(実施例1)
繊維トウ廃材から溶解法によりリサイクルされた炭素繊維(東レ社製、商品名“T800S”、繊維長80mm)を、ワイヤーカード機へ投入して、幅30cmの繊維ウェブを得た。得られた繊維ウェブは質量2.2g/mで、長さ50cmで幅方向にカットした。この矩形の繊維ウェブは、500Paの荷重をかけた時のウェブの平均厚みは0.086mmであった。この矩形の繊維ウェブの端部を3.1cmずつずらして32枚積層し、長さ方向の先から46.5cmと末端46.5cmの積層不足部分を幅方向に切り落とし、長さ52.7cm、幅35cmで16層に積層された質量35g/m、の長方形炭素繊維不織布シートを得た。この炭素繊維不織布シートを構成する炭素繊維はマイクロスコープの画像を観察したところ、50質量%以上が±10度以内の角度で配向されていた。得られた炭素繊維不織布シートを350mm角にトリムして、サイズ剤を付与し(平均6wt%)、乾燥させて基材を作製した。基材にエポキシ樹脂(ナガセケムテックスXN6809)を含侵させながら、繊維方向が同一となるように揃えて10枚積層させた。積層させた基材をバギングしてオートクレーブに入れ、0.5MPaで加圧しながら、80℃で16時間加熱後、120℃で2時間加熱して炭素繊維強化樹脂成形体の母板を成形した。この母板から繊維が配向する方向を縦として、縦230mm、横25mm、厚さ1.7mm、密度1.29g/cm、繊維体積含有率約13%の試験片を切り出した。
【0033】
(実施例2)
プリプレグ廃材から溶解法によりリサイクルされた炭素繊維(東レ社製、商品名“T800S”)で、繊維長に分布を持たせた炭素繊維を使用した。この炭素繊維は、繊維長が80mm未満の繊維が全体の3分の1、80mmの繊維が全体の3分の2の割合で入っていた。実施例1と同様にウェブを作製し、質量39.3g/mの炭素繊維不織布シートを得て、8枚積層し、炭素繊維強化樹脂成形体へ成形して試験片を作製した。この試験片は、縦230mm、横25mm、厚さ1.3mm、密度1.30g/cm、繊維体積含有率約14%であった。
【0034】
(実施例3)
溶解法によりリサイクルされた炭素繊維(東レ社製、商品名“T800S”、繊維長80mm)とポリアミド6繊維(東レ株式会社社製、繊度2.2decitex、繊維長51mm)とを質量で炭素繊維97質量%/ポリアミド6繊維3質量%となるように事前に混合したものを用いて、実施例1と同様の方法で炭素繊維不織布シートを作製した。得られた不織布シートを構成する炭素繊維はマイクロスコープ画像の観察で50質量%以上がプラスマイナス10度以内の角度で長さ方向に配向していた。この不織布シートを用いて実施例1と同様の方法で樹脂成形体を作製し、縦230mm、横25mm、厚さ1.7mm、密度1.30g/cm、繊維体積含有率15%の試験片を切り出し、物性を測定した。
【0035】
(実施例4)
焼成法により樹脂成形物からリサイクルされた炭素繊維(東レ社製、商品名”T800S”、繊維長50mm)とポリアミド6繊維(東レ株式会社社製、繊度2.2decitex、繊維長51mm)とを質量で炭素繊維40質量%/ポリアミド6繊維60質量%となるように事前に混合したものを用いて、実施例1と同様の方法で炭素繊維不織布シートを作製した。得られた不織布シートを構成する炭素繊維はマイクロスコープ画像の観察で50質量%以上がプラスマイナス10度以内の角度で長さ方向に配向していた。この不織布シートを幅100mm、長さ260mmの寸法に切り出したものを、圧力3.5MPa、温度240℃で10分間熱プレスして、厚さ2.2mm、密度1.28g/cm、炭素繊維体積含有率30%の成形物を得た。この成形物から幅25mm、長さ230mmの試験片を複数片切り出し、インストロン万能試験機を用いて物性を測定した。
以上の条件と結果を表1にまとめて示す。
【0036】
【表1】
【0037】
表1から明らかなとおり、本発明の炭素繊維不織布シートは、長尺状パラレルウェブとすることにより、連続炭素繊維シートの一軸シートと同様な使い方の成形品を得ることができた。実施例1~4の成形体の引張強度は340MPa以上であり、アルミ合金A2024(超ジュラルミン)の実用的強度である0.2%耐力に匹敵するレベルであった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の炭素繊維は、資源の有効活用からリサイクルされた炭素繊維であるのが好ましいが、新規の炭素繊維を切断したもの、CFRPの製造の際の炭素繊維シートの切断などにより端材として発生したものなど、どのようなものでも使用できる。とくに今後は航空機や自動車などの廃材として廃CFRPが大量に発生することが予想され、廃CFRPから取り出される炭素繊維は絡まり合った状態であるから、このような絡まり合った炭素繊維の開繊性及び配向性を高くすることができる本発明の適用分野は広い。また用途としては、自動車、スポーツ用品、介護用品、導電性電気・電子部品、電磁波シールド材などに有用である。
【符号の説明】
【0039】
1 カード機
2 不連続炭素繊維
3a,3b フィードローラ
4 テーカインローラ
5 シリンダ
6a,7a ワーカ
6b,7b ストリッパ
8 ドッファ
9 振動コム
10,10a-10i 矩形の繊維ウェブ
11 基台
12 排出ベルト
13 カッター
14 長尺状パラレルウェブ
15 炭素繊維不織布シート
16 繊維ウェブを構成する炭素繊維
17 カット線
18a,18b 積層部分
【要約】
【課題】連続繊維炭素繊維シートの一軸シートと同様な使い方ができる炭素繊維不織布シート、その製造方法及び炭素繊維強化樹脂成形体を提供する。
【解決手段】不連続炭素繊維を含む炭素繊維不織布シート15であって、実質的に一方向に炭素繊維が配向された矩形の繊維ウェブ10が、同一方向にかつ端部をずらせて2枚以上積層されパラレルウェブ14となっており、長尺状である。この製造方法は、不連続炭素繊維をカード機で開繊し、実質的に一方向に炭素繊維を配向させて繊維ウェブとし、幅方向又は斜め方向にカットして矩形の繊維ウェブ10とし、端部をずらせて積層し、長尺状パラレルウェブ14とし、両端をカットし、炭素繊維不織布シート15とする。本発明の炭素繊維強化樹脂成形体は前記炭素繊維不織布シートとマトリックス樹脂を含む。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6