(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-24
(45)【発行日】2023-02-01
(54)【発明の名称】ケレン装置
(51)【国際特許分類】
B08B 1/04 20060101AFI20230125BHJP
A46B 7/10 20060101ALI20230125BHJP
E04G 19/00 20060101ALI20230125BHJP
【FI】
B08B1/04
A46B7/10
E04G19/00 C
(21)【出願番号】P 2019058061
(22)【出願日】2019-03-26
【審査請求日】2022-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】391015236
【氏名又は名称】大裕株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087538
【氏名又は名称】鳥居 和久
(74)【代理人】
【識別番号】100085213
【氏名又は名称】鳥居 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100196623
【氏名又は名称】松下 計介
(72)【発明者】
【氏名】野村 裕晧
(72)【発明者】
【氏名】西尾 慧太
(72)【発明者】
【氏名】梶 國男
(72)【発明者】
【氏名】笠原 伸正
【審査官】石井 茂
(56)【参考文献】
【文献】実開平04-043652(JP,U)
【文献】実開昭58-117129(JP,U)
【文献】特開2011-244852(JP,A)
【文献】特開2015-073972(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A46B 1/00-17/08
A46D 1/00-99/00
A47L 13/00-13/62
A61C 17/22-17/40
B08B 1/00-1/04
B08B 5/00-13/00
B60S 3/00-13/02
E04G 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被ケレン材の付着物をブラシ線で除去するブラシユニットであって、
前記ブラシ線に弾性変形が生じた際に前記ブラシ線に接触するブラシ線支持部が設けられ
、
前記ブラシ線支持部は、
前記ブラシ線の基端部から先端部に亘って一定の曲率で前記ブラシ線から離間する円弧状に形成されるブラシユニット。
【請求項2】
前記ブラシ線は、束ねられた複数の鋼線が樹脂で被覆されている請求項1に記載のブラシユニット。
【請求項3】
前記ブラシ線支持部の反対側への前記ブラシ線の弾性変形を規制するブラシ線押さえ部が前記ブラシ線を挟んでブラシ線支持部の反対側に設けられる請求項1
または2に記載のブラシユニット。
【請求項4】
前記ブラシ線が取り付けられる取付部材を備え、
前記取付部材には、前記ブラシ線支持部が設けられ、前記ブラシ線の前記取付部材からの突出量が変更可能に構成される請求項1から
請求項3のいずれか一項に記載のブラシユニット。
【請求項5】
被ケレン材に洗浄水を放出する洗浄ノズルを備え、
前記ブラシ線による被ケレン材の付着物の除去前または除去後に洗浄水を放出する請求項1から
請求項4のいずれか一項に記載のブラシユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被ケレン部材を搬送しながらブラシローラーで洗浄するケレン装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、足場用支柱や踏板、足場板、鋼矢板、敷き鉄板等に例示される各種建築資材は、現場での使用により、その表面にセメント、モルタル、塗料等が付着するため、回収後の再使用に際して、これら付着物の除去が必要である。そこで、この付着物を除去するケレン作業を自動的に行うケレン装置が種々提案されている。ケレン装置の例としては、ハンマーなどを被ケレン部材の付着物に対して打ち付けて汚れを剥離する機械式のケレン手段や、圧力水を被ケレン部材に噴射する非接触式のケレン手段によってケレン作業を実施するものがある。このようなケレン装置において、ブラシローラーを回転させながら被ケレン部材の表面に接触させて付着物を除去するケレン装置が知られている。例えば特許文献1の如くである。
【0003】
特許文献1に記載の鋼板用洗浄装置(ケレン装置)は、ローラー体の外周面に樹脂製線材からなる中央ブラシ部と側ブラシ部とが取り付けられている。中央ブラシ部は、帯状にブラシが取り付けられ、側ブラシ部は、らせん状にブラシが取り付けられている。鋼板用洗浄装置は、被ケレン部材から剥離した付着物をらせん状の側ブラシ部によって外側に排出する。このように構成される鋼板用洗浄装置は、ブラシローラーの清掃回数を少なくし、生産効率を向上させることが出る。しかし、特許文献1に記載の樹脂製線材から構成されているブラシユニットは、被ケレン部材に付着しているセメントやモルタル等の付着物に対して線材の強度が低いため、ブラシ部が摩耗したり、付着物が残留したりする場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上の如き状況を鑑みてなされたものであり、ブラシ線の耐久性を高めつつ、セメントやモルタル等の強固な付着物を除去することができるケレン装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち、第一の発明は、被ケレン材の付着物をブラシ線で除去するブラシユニットであって、前記ブラシ線に弾性変形が生じた際に前記ブラシ線に接触するブラシ線支持部が設けられるものである。
【0007】
第二の発明は、前記ブラシ線は、束ねられた複数の鋼線が樹脂で被覆されているものである。
【0008】
第三の発明は、前記ブラシ線支持部は、前記ブラシ線の基端部から先端部に亘って一定の曲率で前記ブラシ線から離間する円弧状に形成されるものである。
【0009】
第四の発明は、前記ブラシ線支持部の反対側への前記ブラシ線の弾性変形を規制するブラシ線押さえ部が前記ブラシ線を挟んでブラシ線支持部の反対側に設けられるものである。
【0010】
第五の発明は、前記ブラシ線が取り付けられる取付部材を具備し、前記取付部材には、前記ブラシ線支持部が設けられ、前記ブラシ線の前記取付部材からの突出量が変更可能に構成されるものである。
【0011】
第六の発明は、被ケレン材に洗浄水を放出する洗浄ノズルを備え、前記ブラシ線による被ケレン材の付着物の除去前または除去後に洗浄水を放出するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0013】
第一の発明においては、ブラシ線支持部によってブラシ線が被ケレン部材に接触した際のブラシ線の弾性変形量が制限される。つまり、ブラシ線の弾性変形によって鋼材に生じる応力を抑制しつつ、弾性変形の反力によってブラシ線が被ケレン部材に加える力を確保する。これにより、ブラシ線の耐久性を高めつつ、セメントやモルタル等の強固な付着物を除去することができる。
【0014】
第二の発明においては、ブラシローラーに設けられているブラシ線の内部に複数の鋼線が配置されているので、ブラシ線は鋼線の弾性力と強度を有している。これにより、ブラシ線の耐久性を高めつつ、セメントやモルタル等の強固な付着物を除去することができる。
【0015】
第三の発明においては、ブラシ線支持部によってブラシ線が被ケレン部材に接触した際のブラシ線の弾性変形の態様と弾性変形量とが制限される。つまり、ブラシ線の弾性変形によって鋼線に生じる応力分布を均一にしつつ、弾性変形の反力によってブラシ線が被ケレン部材に加える力を確保する。これにより、ブラシ線の耐久性を高めつつ、セメントやモルタル等の強固な付着物を除去することができる。
【0016】
第四の発明においては、ブラシ線押さえ部によってブラシ線が被ケレン部材から離間した際に生じるブラシ線の跳ね返りが抑制される。つまり、ブラシ線が被ケレン部材から離間した際に逆方向への弾性変形によって生じる交番荷重の発生を抑制する。これにより、ブラシ線の耐久性を高めつつ、セメントやモルタル等の強固な付着物を除去することができる。
【0017】
第五の発明においては、ブラシ線支持部から突出しているブラシ線の長さがブラシ線の摩耗量と、被ケレン部材に加える力を考慮した最適な長さに調整される。これにより、ブラシ線の耐久性を高めつつ、セメントやモルタル等の強固な付着物を除去することができる。
【0018】
第六の発明においては、洗浄水によってブラシ線の摩耗が抑制されるとともに、被ケレン部材から付着物が剥離されやすくなる。これにより、ブラシ線の耐久性を高めつつ、セメントやモルタル等の強固な付着物を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】ケレン装置の第一実施形態の構成を示す概略図。
【
図2】ケレン装置におけるブラシローラーの構成を示す部分概略図。
【
図3】
図3は送り出し装置の動作の態様を示す。(A)はキッカーが被ケレン部材によって押し込まれている状態を示し、(B)はキッカーが突出している状態を示し、(C)はキッカーが被ケレン部材に接触している状態を示し、(D)はキッカーが被ケレン部材をけり出している状態を示す。
【
図4】
図4はブラシローラーを構成する取付部材とブラシ線を示す。(A)はブラシ線が取り付けられている取付部材の構造を示し、(B)は(A)におけるA矢視拡大図を示す。
【
図5】
図5はブラシローラーの構造を示す。(A)は軸孔の位相が等しい取付部材を回転軸に固定した状態を示し、(B)は軸孔の位相が異なる取付部材を回転軸に取り付けた状態を示す。
【
図6】ブラシローラーのローラー幅と被ケレン部材の幅の関係を示す正面図。
【
図7】
図7はブラシローラーのケレン作業の態様を示す。(A)は、ブラシローラーのブラシ線が被ケレン部材に接触した状態を示し、(B)はブラシローラーのブラシ線が被ケレン部材に押し付けられて弾性変形している状態を示し、(C)はブラシローラーのブラシ線が被ケレン部材から離間した状態を示す。
【
図8】ブラシローラーのブラシ線に加わる荷重の状態を表すグラスを示す図。
【
図9】ケレン装置の第二実施形態の構成を示す概略図。
【
図10】ブラシローラーにおける取付部材の別実施形態を示す概略図。
【
図11】ケレン装置の第二実施形態における洗浄ノズルの構成を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
初めに、
図1と
図2を用いて、本発明に係るケレン装置の第一実施形態であるケレン装置1について説明する。なお、本実施形態において、ケレン装置1は、被ケレン部材である敷き鉄板W1のケレン作業を実施するものとする。
【0021】
図1に示すように、ケレン装置1は、敷き鉄板W1の上側面(表面)と下側面(裏面)とのケレン作業(洗浄作業)を同時に行う装置である。ケレン装置1は、フレーム2と、搬送装置3と、上部ブラシローラー10と、下部ブラシローラー15と、送り出し装置24とを具備している。
【0022】
フレーム2は、ケレン装置1を構成する主な部材である。フレーム2は、角パイプ等が溶接されて構成されている。フレーム2は、搬送装置3と、上部ブラシローラー10と、下部ブラシローラー15とを支持している。フレーム2の一側(上流側)には、図示しない搬入装置が連結されている。
【0023】
搬送装置3は、敷き鉄板W1を搬送する装置である(矢印参照)。搬送装置3は、ローラーコンベアとして構成されている。搬送装置3は、上流側ローラー4と、下流側ローラー5と、搬送用モータ6と、搬送用チェーン7と、を具備する。
【0024】
上流側ローラー4は、図示しない搬入装置によって搬入される敷き鉄板W1を受け取るフリーローラーである。上流側ローラー4は、フレーム2の一側(上流側)部分であって図示しない搬入装置の近傍に設けられている。また、上流側ローラー4は、回転方向が敷き鉄板W1の搬入方向になるようにフレーム2に支持されている。
【0025】
下流側ローラー5は、図示しない搬入装置によって搬入される敷き鉄板W1を下流側に向けて搬送する駆動ローラーである。下流側ローラー5は、フレーム2の他側(下流側)部分に設けられている。また、上流側ローラー4は、回転方向が敷き鉄板W1の搬入方向になるようにフレーム2に支持されている。
【0026】
搬送用モータ6は、下流側ローラー5を駆動させるアクチュエータである。搬送用モータ6は、電動モータで構成される。搬送用モータ6は、搬送用チェーン7を介して下流側ローラー5と送り出し装置24とに連動連結されている。つまり、搬送用モータ6は、下流側ローラー5と送り出し装置24とに搬送用チェーン7を介して回転動力を伝達する。
【0027】
このように構成される搬送装置3は、上流側ローラー4の回転軸4aと下流側ローラー5の回転軸5aとが平行かつ水平になるように配置されている。つまり、搬送装置3は、上流側ローラー4の外周面と下流側ローラー5の外周面とを結ぶ水平な接線を搬送ラインとする搬送コンベアとして構成される。搬送装置3は、図示しない搬入装置から敷き鉄板W1を上流側ローラー4で受け取る。搬送装置3は、敷き鉄板W1の下流側端部が下流側ローラー5に到達するまで図示しない搬入装置の駆動力で敷き鉄板W1が搬送される。搬送装置3は、敷き鉄板W1の下流側端部が下流側ローラー5に到達すると、下流側ローラー5の駆動力で敷き鉄板W1を搬送する。
【0028】
ブラシユニットである上部ブラシローラー10と下部ブラシローラー15とは、敷き鉄板W1の表裏面においてケレン作業を実施する洗浄装置である。上部ブラシローラー10は、回転軸である上部回転軸11に複数の取付部材12と複数のブラシ線14とが固定されている。下部ブラシローラー15は、回転軸である下部回転軸16に複数の取付部材12と複数のブラシ線14とが固定されている。上部ブラシローラー10は、搬送装置3の上流側ローラー4と下流側ローラー5との間であって、搬送ライン上の敷き鉄板Wの板厚の中心を通る面(以下、単に「中心面P」と記す)よりも上側に配置されている。また、下部ブラシローラー15は、上流側ローラー4と下流側ローラー5との間であって、中心面Pよりも下側に配置されている。つまり、上部ブラシローラー10と下部ブラシローラー15とは、中心面Pを上下から挟むように配置されている。
【0029】
図2に示すように、上部ブラシローラー10と下部ブラシローラー15とは、フレーム2に回転可能に支持されている長方形状の揺動板8に設けられている。上部ブラシローラー10と下部ブラシローラー15は、揺動板8の回転軸8aを挟んだ両側端部に回転自在に設けられている。また、上部ブラシローラー10の上部回転軸11と下部ブラシローラー15の下部回転軸16とは、揺動板8の回転軸8aを通る直線上であって揺動板8の回転軸8aから長さRの位置にそれぞれ配置されている。つまり、上部ブラシローラー10と下部ブラシローラー15とは、揺動板8の回転軸8aを中心とする半径Rの円弧上に配置されている。
【0030】
揺動板8の回転軸8aは、搬送方向に対して垂直かつ中心面P上に配置されている。これにより、揺動板8の両端部に設けられている上部ブラシローラー10と下部ブラシローラー15とは、中心面P上の回転軸8aを対称中心とする点対称の位置関係にある。揺動板8には、中心面Pを基準とする揺動角度αを調整する調整ネジ9が設けられている。上部ブラシローラー10と下部ブラシローラー15とは、調整ネジ9によって揺動板8の揺動角度αが変更されると、揺動板8の回転軸8aを中心とする円弧上を揺動角度αの変更分だけそれぞれ移動する。従って、上部ブラシローラー10の上部回転軸11から中心面Pまでの距離H1と下部ブラシローラー15の下部回転軸16から中心面Pまでの距離H2とは、揺動板8の揺動角度αに基づいた等しい距離になる。
【0031】
図1に示すように、上部ブラシローラー10と下部ブラシローラー15とは、ブラシ用チェーン17を介してブラシ用モータ18と連動連結されている。つまり、ブラシ用モータ18は、上部ブラシローラー10と下部ブラシローラー15とに回転動力を伝達する。また、上部ブラシローラー10と下部ブラシローラー15とには、同一方向に回転するように回転動力が伝達される。本実施形態において、上部ブラシローラー10と下部ブラシローラー15とは、時計回りに回転するように構成されている(円弧矢印参照)。従って、上部ブラシローラー10は、搬送方向(矢印参照)の順方向に向かってブラシ線14が敷き鉄板W1の上側面を摺動する。また、下部ブラシローラー15は、搬送方向の逆方向に向かってブラシ線14が敷き鉄板W1の下側面を摺動する。これにより、上部ブラシローラー10と下部ブラシローラー15とは、それぞれが敷き鉄板W1に加える力を打ち消しあうので、敷き鉄板W1の搬送を阻害することがない。
【0032】
送り出し装置24は、敷き鉄板W1を図示しない下流側コンベア等に送り出す装置である。送り出し装置24は、搬送用ギヤ25と、キッカー26と、ガイド29と、から構成される。
【0033】
搬送用ギヤ25は、敷き鉄板W1を下流側に向かって搬送する。搬送用ギヤ25は搬送用チェーン7を介して搬送用モータ6から回転動力が伝達される。
【0034】
図3に示すように、キッカー26は、敷き鉄板W1を下流側に向かってけり出す部材である。キッカー26は、敷き鉄板W1に接触する係合部材27と、係合部材27に力を加える押圧部材28とから構成されている。係合部材27と押圧部材28とは、搬送用ギヤ25の側面に設けられている。
【0035】
係合部材27は、搬送用ギヤ25に揺動自在に支持されている。係合部材27は、先端部が搬送用ギヤ25の外周よりも径方向外側と径方向内側とに揺動可能に構成されている。係合部材27は、先端部が搬送用ギヤ25の径方向外側に突出した状態で、敷き鉄板W1の上流側端に接触するように構成されている。
【0036】
押圧部材28は、圧縮バネ28aによって係合部材27を押圧する。押圧部材28は、圧縮バネ28aの力を、揺動かつ伸縮自在に構成されている押圧リンク28bを介して係合部材27に伝達している。押圧部材28は、係合部材27の先端部を搬送用ギヤ25の径方向外側に向かって常に押圧している。
【0037】
ガイド29は、敷き鉄板W1を図示しない下流側コンベア等に案内する(
図3(D)参照)。ガイド29は、搬送用ギヤ25の下流側に設けられている。ガイド29は、係合部材27によって下流側にけり出された敷き鉄板W1の上流側端が接触するように構成されている。
【0038】
図3(A)に示すように、搬送用ギヤ25によって敷き鉄板W1が搬送されている場合、送り出し装置24は、キッカー26の係合部材27が敷き鉄板W1の下側面に接触して搬送用ギヤ25の外周よりも径方向内側に押し込まれている。つまり、送り出し装置24は、キッカー26によって敷き鉄板W1をけり出さない。
【0039】
図3(B)に示すように、送り出し装置24は、キッカー26の係合部材27が搬送用ギヤ25の回転により敷き鉄板W1から離間すると、係合部材27が搬送用ギヤ25の外周よりも径方向外側に突出する。
【0040】
図3(C)に示すように、敷き鉄板W1の上流側端がキッカー26よりも下流側にある場合、送り出し装置24は、搬送用ギヤ25の外周よりも径方向外側に突出しているキッカー26の係合部材27が、搬送用ギヤ25の回転により敷き鉄板W1の上流側端に接触する。送り出し装置24は、搬送用ギヤ25の回転動力によってキッカー26に接触している敷き鉄板W1を下流側にけり出す。
【0041】
図3(D)に示すように、送り出し装置24によって下流側にけり出された敷き鉄板W1は、搬送用ギヤ25から離間するとともに、ガイド29によって図示しない下流側コンベアに案内される。
【0042】
このように構成されるケレン装置1は、図示しない搬入装置から搬入される敷き鉄板W1を搬送装置3で搬送しながら、回転駆動する上部ブラシローラー10で敷き鉄板W1の上側面のケレン作業を実施し、回転駆動する下部ブラシローラー15で敷き鉄板W1の下側面のケレン作業を実施する。ケレン装置1は、ケレン作業が完了した敷き鉄板W1を送り出し装置24によって図示しない下流側コンベアに送り出す。
【0043】
次に、
図4から
図6を用いて、上部ブラシローラー10と下部ブラシローラー15との構成について詳細に説明する。なお、上部ブラシローラー10と下部ブラシローラー15とは同一の構成であるため、上部ブラシローラー10についてのみ説明する。また、下部ブラシローラー15において、上部ブラシローラー10の説明で用いた名称、図番、符号を用いることで、同じものを指すこととする。
【0044】
図4(A)に示すように、上部ブラシローラー10を構成する取付部材12は、上部ブラシローラー10の上部回転軸11にブラシ線14を取り付ける部材である。取付部材12には、上部回転軸11が挿入される軸孔部12aが形成されている。軸孔部12aには、上部回転軸11の軸形状に合わせた軸孔12bが形成されている。本実施形態において、取付部材12には、矩形状の軸孔12bが形成されている。また、各取付部材12は、軸孔12bの位相が位相角度β(本実施形態において22.5°)ずつ異なるように形成されている(
図5(B)参照)。
【0045】
軸孔部12aには、ブラシ線14が取り付けられる腕部12cが軸孔部12aから径方向外側に延びるように形成されている。さらに、腕部12cの径方向端部には、ブラシ線支持部12dが腕部12cに略垂直な方向かつ上部ブラシローラー10の回転方向(時計回り、円弧矢印参照)の逆方向に延びるように形成されている。ブラシ線支持部12dの径方向外側面は、一定の曲率ρの湾曲面12eが形成されている。また、ブラシ線支持部12dの腕部12c側端部には、ブラシ線取付部12fが形成されている。ブラシ線取付部12fには、ブラシ線14を固定するU字金具13が取り付け可能に構成されている。さらに、取付部材12には、ブラシ線支持部12dと径方向外側で対向する位置にブラシ線押さえ部12gが形成されている。ブラシ線押さえ部12gは、弾性変形していない状態(以下、単に「中立状態」と記す)のブラシ線14が接触する形状に形成されている。
【0046】
図4(A)、(B)に示すように、ブラシ線14は、敷き鉄板W1の付着物を除去する線状の部材である。ブラシ線14は、複数の鋼線14aが合成樹脂14b(薄墨部分)で被覆されたものである。ブラシ線14は、例えば、7本よりの鋼線を撚った鋼線14aが6本束ねられて合成樹脂14bで被覆されている。鋼線14aとしては、例えば、PC鋼線、軟鋼線、硬鋼線、ピアノ線、鉄線、ばね鋼線、ステンレス鋼線等から構成されている。鋼線14aを被覆している合成樹脂14bは、NBR(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)、耐熱性に優れたHNBR(水素化アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、EPDM(エチレンプロピレンゴム)、耐熱性、耐薬品性に優れたACM(ポリアクリルゴム)、FKM(フッ素ゴム)等の合成ゴムから構成されている。ブラシ線14は、例えば、10mm~20mm程度の外径に形成されている。ブラシ線14は、取付部材12のブラシ線支持部12dの長さよりも長い全長に形成されている。このように構成されるブラシ線14は、複数の鋼線を束ねた鋼線14aを合成樹脂14bで線状に被覆することで、線材の柔軟性と、鋼線14aの強度および耐摩耗性と、合成樹脂14bの耐腐食性とを兼ね備え、高い耐久性を発揮する。
【0047】
取付部材12のブラシ線取付部12fには、ブラシ線14がU字金具13によって固定されている。ブラシ線14は、ブラシ線支持部12dとブラシ線押さえ部12gとの間に配置されている。つまり、ブラシ線支持部12dは、ブラシ線14に対して上部ブラシローラー10の回転方向の反対側に設けられている。また、ブラシ線押さえ部12gは、ブラシ線14に対して上部ブラシローラー10の回転方向側に設けられている。ブラシ線14の先端は、ブラシ線支持部12dの先端から所定の長さLだけ突出している。ブラシ線14は、ブラシ線取付部12fへの取付位置を変更することでブラシ線支持部12dの先端からの突出量である所定の長さLを変更することができる。
【0048】
中立状態のブラシ線14とブラシ線支持部12dとの間隔は、ブラシ線取付部12fからブラシ線支持部12dの先端に向かうにつれて大きくなっている。一方、中立状態のブラシ線14は、ブラシ線押さえ部12gに接している。このように配置されることで、ブラシ線14は、ブラシ線支持部12dに接するまでブラシ線支持部12d側への弾性変形が許容される(二点鎖線参照)。一方、ブラシ線14は、ブラシ線押さえ部12g側への弾性変形がブラシ線押さえ部12gによって制限される。つまり、ブラシ線14の弾性変形は、一方向(方振り)かつ所定範囲内に制限されている。
【0049】
図5(A)に示すように、それぞれブラシ線14が取り付けられた複数の取付部材12は、上部回転軸11に固定されて上部ブラシローラー10を構成している。
図5(B)に示すように、各取付部材12は、軸孔12bが同一の位相角である四つの取付部材12を第一組として、上部回転軸11の矩形断面に合わせて90°ずつ回転させた状態で上部回転軸11に固定される。さらに、各取付部材12は、単位位相角度β(22.5°)ずつ位相をずらした第二組、第三組、第四組がそれぞれ上部回転軸11に固定される。このように構成することで、上部ブラシローラー10は、上部回転軸11周りにブラシ線14が組単位で任意の位相角度β毎に配置される。
【0050】
図6に示すように、上部ブラシローラー10は、上部回転軸11の軸方向の長さであるローラー幅Rwが敷き鉄板W1(薄墨部分参照)の幅W1wよりも大きくなるように取付部材12の数が選択される。つまり、上部ブラシローラー10は、上部回転軸11に固定する取付部材12の数や位置を調整することでケレン作業を行う被ケレン部材の形状に応じたローラー幅Rwやブラシ線14の配置に構成することができる。なお、上部回転軸11おける取付部材12の配置は、ブラシ線14が均一に分散する配置であればよい。
【0051】
次に、
図7と
図8を用いて、ケレン装置1の上部ブラシローラー10によるケレン作業について説明する。本実施形態において、ケレン装置1は、ブラシ線14の先端の周速度が敷き鉄板W1の搬送速度よりも速くなるように上部ブラシローラー10を時計回りに回転させているものとする。また、敷き鉄板W1は、ケレン装置1の搬送装置3によって上部ブラシローラー10のブラシ線14が接触する位置まで搬送されているものとする。
【0052】
図7(A)に示すように、上部ブラシローラー10のブラシ線14は、搬送方向の下流側に(搬送方向の順方向に)向かいながら任意の接触角度γで敷き鉄板W1の上側面に先端が接触する。この際、ブラシ線14は、中立状態であり、敷き鉄板W1に付着物を除去する力を加えていない。また、ブラシ線14には、弾性変形による応力が発生していない。
【0053】
図7(B)に示すように、先端が敷き鉄板W1に接触しているブラシ線14は、ブラシ線14の基端がブラシ線14の先端に対して搬送方向の上流側に(搬送方向の順方向に)相対的に移動される。これにより、ブラシ線14は、先端の周速度と敷き鉄板W1との速度差によって、先端が敷き鉄板W1の上側面を下流側に向かって摺動し、抗力によってブラシ線支持部12d側(回転方向の反対側)に向かう曲げの弾性変形が生じる(細線矢印参照)。ブラシ線14は、ブラシ線支持部12dの湾曲面12eの全面に接触するまで弾性変形される。
【0054】
ブラシ線支持部12dの湾曲面12eの全面に接触しているブラシ線14には、以下の式(1)から算出される曲げモーメントMが加わっている。ここで式(1)の縦弾性係数E、断面二次モーメントIおよびブラシ線支持部12dの曲率ρが一定であることから、ブラシ線14において湾曲面12eに接触している部分には、一定の曲げモーメントMが加わっている。
【0055】
【0056】
また、ブラシ線14において曲げモーメントMが生じている部分には、以下の式(2)から算出される最大曲げ応力σが発生している。ここで式(2)の曲げモーメントMおよび断面係数Zが一定であることから、ブラシ線14において一定の曲げモーメントMが生じている部分には、一定の曲げ応力σが発生している。
【0057】
【0058】
このように、ブラシ線14に発生する曲げ応力σは、ブラシ線支持部12dによって曲げの弾性変形の態様および変形量が制限されるので、ブラシ線支持部12dの湾曲面12eに接触している部分において一定になる。すなわち、ブラシ線14には、一定の曲率ρで弾性変形されるので、応力が均一に分散して発生する。一方、ブラシ線14は、ブラシ線支持部12dの湾曲面12eに沿った弾性変形の反力、およびブラシ線支持部12dの先端から所定の長さLだけ突出している部分の弾性変形の反力を敷き鉄板W1に付着物を除去する力として加えている(白塗矢印参照)。
【0059】
図7(C)に示すように、ブラシ線支持部12d側に向かう曲げの弾性変形が生じているブラシ線14は、取付部材12がさらに回転されることで、ブラシ線14の先端が敷き鉄板W1から離間される。これにより、ブラシ線14は、弾性変形の反力によってブラシ線押さえ部12g側(回転方向側)に向かって移動する。ブラシ線14は、ブラシ線押さえ部12gに接触して中立状態でとどまる。これにより、ブラシ線14は、ブラシ線押さえ部12g側に向かう曲げの弾性変形を制限することができる。
【0060】
図8に示すように、ブラシ線押さえ部12g側への弾性変形が制限されているブラシ線14には、中立状態からブラシ線支持部12d材側に弾性変形した場合の曲げ応力のみが発生することになる。つまり、ブラシ線14には、敷き鉄板W1に接触した際に生じる中立状態からブラシ線支持部12d側への曲げによる片振りの繰り返し荷重が加わる。このように、ブラシ線押さえ部12g側への弾性変形が制限されているブラシ線14は、曲げの弾性変形がブラシ線押さえ部12g側とブラシ線支持部12d側とに等しく発生する場合に比べて疲労寿命が向上する。
【0061】
また、上部ブラシローラー10は、揺動板8の揺動角度αやブラシ線14のブラシ線支持部12dの先端からの突出量である所定の長さL(
図5(A)参照)を変更することで、ブラシ線14と敷き鉄板W1との接触角度γ、ブラシ線14の弾性変形量を調整することができる。このように構成することで、ケレン装置1は、上部ブラシローラー10のケレン能力が定まるブラシ線14が敷き鉄板W1に加える力および接触角度γとブラシ線14の耐久性とのバランスを考慮してケレン作業を実施することができる。
【0062】
次に、
図9から
図11を用いて、本発明に係るケレン装置の第二実施形態であるケレン装置19について説明する。なお、以下の実施形態に係るケレン装置19は、
図1から
図8に示すケレン装置1において、ケレン装置1に替えて適用されるものとして、その説明で用いた名称、図番、符号を用いることで、同じものを指すこととし、以下の実施形態において、既に説明した実施形態と同様の点に関してはその具体的説明を省略し、相違する部分を中心に説明する。
【0063】
図9に示すように、ケレン装置19は、断面視C字状の鋼矢板W2についてケレン作業を実施する装置である。ケレン装置19のブラシユニットである上部ブラシローラー20は、鋼矢板W2の底面W2aの内寸と略同一のローラー幅Rwuに構成されている。一方、ケレン装置19のブラシユニットである下部ブラシローラー21は、鋼矢板W2の底面W2aの外寸と略同一のローラー幅Rwdに構成されている。また、下部ブラシローラー21は、鋼矢板W2の側面W2bの外側および側面W2bの折り返し部分W2cのみにブラシ線14が接触するように構成されている。上部ブラシローラー20は、鋼矢板W2の底面W2aおよび側面W2bの内側についてケレン作業を実施する。下部ブラシローラー21は、鋼矢板W2の側面W2bの外側および側面W2bの折り返し部分W2cについてケレン作業を実施する。
【0064】
ケレン装置19は、鋼矢板W2の側面W2bの高さ分だけ上部ブラシローラー20を上下させることで、鋼矢板W2の底面W2aおよび側面W2bの内側の全面についてケレン作業を実施することができる(矢印参照)。同様に、ケレン装置19は、鋼矢板W2の側面W2bの高さ分だけ下部ブラシローラー21を上下させることで、鋼矢板W2の側面W2bの外側の全面および側面W2bの折り返し部分W2cついてケレン作業を実施することができる(矢印参照)。また、下部ブラシローラー21は、上部ブラシローラー20と同様に底面W2aの外側の全面にブラシ線14が接触できるようにブラシ線14を設けてもよい。下部ブラシローラー21は、ブラシ線14を追加することで底面W2aの外側の全面についてケレン作業を実施することができる。このように、ケレン装置19は、被ケレン部材の形状に応じて、上部ブラシローラー20と下部ブラシローラー21とを構成している取付部材12の数や固定位置を変更することでモルタルやセメント等が付着しやすい部分にブラシ線14を接触させることができる。
【0065】
上述の各実施形態において、ケレン装置1・19の上部ブラシローラー10・20と下部ブラシローラー15・21とは、一つのブラシ線14が取り付けられた取付部材12を複数組み合わることによって構成されているが、
図10に示すように複数のブラシ線14が取り付けられた取付部材22を組み合わせて構成してもよい。
【0066】
図10に記載の上部ブラシローラー10・20は、軸孔部22aから所定角度毎(本実施形態において90°)に複数の腕部22cが形成されている取付部材22の組み合わせによって構成されている。取付部材22の各腕部22cの径方向端部には、ブラシ線支持部22dとブラシ線取付部22fとブラシ線押さえ部22gとが形成されている。取付部材22には、腕部22cの数に応じた複数のブラシ線14が固定されている。なお、取付部材22は、円筒状に形成された軸孔部22aの外周面にブラシ線支持部22dとブラシ線取付部22fとブラシ線押さえ部22gとを複数設ける構成でもよい。このように構成することで、上部ブラシローラー10・20と下部ブラシローラー15・21とは、固定される取付部材22の数が減るので、組み立て工数や部品点数を削減することができる。
【0067】
また、
図11に示すように、ケレン装置19のブラシユニットには、洗浄ノズル23が含まれている。洗浄ノズル23は、洗浄水を鋼矢板W2に散水したり高圧で噴射したりするノズルである。洗浄ノズル23は、上部ブラシローラー20と下部ブラシローラー21との上流側または下流側に設けられている。洗浄ノズル23は、鋼矢板W2の底面W2aおよび側面W2bの全面と折り返し部分W2cとに洗浄水を散水または高圧で噴射可能な位置に複数設けられている。ケレン装置19は、ケレン作業前に洗浄水を散水または高圧で噴射することで上部ブラシローラー20と下部ブラシローラー21とによる付着物の除去が容易になる。また、ケレン装置19は、ケレン作業後に洗浄水を散水または高圧で噴射することでケレン作業後に付着した粉塵等を除去することができる。このように構成することで、ケレン装置19は、ブラシユニットとして、上部ブラシローラー20、下部ブラシローラー21および洗浄ノズル23を設けることで、付着物の除去能力が向上するとともにブラシ線14の摩耗が抑制されるという相乗効果を奏する。
【0068】
上述の実施形態は、代表的な形態を示したに過ぎず、一実施形態の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。例えば、ブラシユニットを構成している上部ブラシローラー10・20と下部ブラシローラー15・21とは、回転することにより被ケレン材から付着物を除去しているが、これらのブラシユニットが被ケレン材に対して相対的に移動された場合に被ケレン材を摩擦する構成であればよい。さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0069】
1 ケレン装置
10 上部ブラシローラー
12 取付部材
12d ブラシ線支持部
12g ブラシ線押さえ部
14 ブラシ線
W 被ケレン部材