IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

7216420がん治療効果の検査方法及び免疫応答誘導用組成物
<図1>
  • -がん治療効果の検査方法及び免疫応答誘導用組成物 図1
  • -がん治療効果の検査方法及び免疫応答誘導用組成物 図2
  • -がん治療効果の検査方法及び免疫応答誘導用組成物 図3
  • -がん治療効果の検査方法及び免疫応答誘導用組成物 図4
  • -がん治療効果の検査方法及び免疫応答誘導用組成物 図5
  • -がん治療効果の検査方法及び免疫応答誘導用組成物 図6
  • -がん治療効果の検査方法及び免疫応答誘導用組成物 図7
  • -がん治療効果の検査方法及び免疫応答誘導用組成物 図8
  • -がん治療効果の検査方法及び免疫応答誘導用組成物 図9
  • -がん治療効果の検査方法及び免疫応答誘導用組成物 図10
  • -がん治療効果の検査方法及び免疫応答誘導用組成物 図11
  • -がん治療効果の検査方法及び免疫応答誘導用組成物 図12
  • -がん治療効果の検査方法及び免疫応答誘導用組成物 図13
  • -がん治療効果の検査方法及び免疫応答誘導用組成物 図14
  • -がん治療効果の検査方法及び免疫応答誘導用組成物 図15
  • -がん治療効果の検査方法及び免疫応答誘導用組成物 図16
  • -がん治療効果の検査方法及び免疫応答誘導用組成物 図17
  • -がん治療効果の検査方法及び免疫応答誘導用組成物 図18
  • -がん治療効果の検査方法及び免疫応答誘導用組成物 図19
  • -がん治療効果の検査方法及び免疫応答誘導用組成物 図20
  • -がん治療効果の検査方法及び免疫応答誘導用組成物 図21
  • -がん治療効果の検査方法及び免疫応答誘導用組成物 図22
  • -がん治療効果の検査方法及び免疫応答誘導用組成物 図23
  • -がん治療効果の検査方法及び免疫応答誘導用組成物 図24
  • -がん治療効果の検査方法及び免疫応答誘導用組成物 図25
  • -がん治療効果の検査方法及び免疫応答誘導用組成物 図26
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-24
(45)【発行日】2023-02-01
(54)【発明の名称】がん治療効果の検査方法及び免疫応答誘導用組成物
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20230125BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20230125BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20230125BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20230125BHJP
   A61K 38/03 20060101ALI20230125BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20230125BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230125BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230125BHJP
   C07K 17/00 20060101ALI20230125BHJP
   C07K 16/42 20060101ALI20230125BHJP
   C07K 14/705 20060101ALI20230125BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20230125BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20230125BHJP
【FI】
G01N33/53 N ZNA
G01N33/574 A
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
A61K38/03
A61K38/16
A61P35/00
A61K39/395 E
C07K17/00
C07K16/42
C07K14/705
C12N15/12
C12N5/0783
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019517688
(86)(22)【出願日】2018-05-10
(86)【国際出願番号】 JP2018018083
(87)【国際公開番号】W WO2018207866
(87)【国際公開日】2018-11-15
【審査請求日】2021-04-07
(31)【優先権主張番号】P 2017094986
(32)【優先日】2017-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】597039984
【氏名又は名称】学校法人 川崎学園
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100183656
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100224786
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 卓之
(74)【代理人】
【識別番号】100225015
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 彩夏
(72)【発明者】
【氏名】岡 三喜男
(72)【発明者】
【氏名】中山 睿一
(72)【発明者】
【氏名】大植 祥弘
(72)【発明者】
【氏名】黒瀬 浩史
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0118244(US,A1)
【文献】国際公開第2013/147233(WO,A1)
【文献】特許第5709108(JP,B2)
【文献】国際公開第2016/181912(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/172843(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/077725(WO,A1)
【文献】YUAN Jianda et al.,Integrated NY-ESO-1 antibody and CD8+ T-cell resposes correlate with clinical benefit in advanced melanoma patients treated with ipilimumab,PNAS,2011年10月04日,Vol.108, No.40,pp.16723-16728
【文献】島田英昭,血清p53抗体測定法の開発と臨床的意義,モダンメディア,2008年,第54巻第8号,233-237頁
【文献】OHUE Y et al.,Prolongation of overall survival in advanced lung adenocarcinoma patients with the XAGE1(GAGED2a) an,Clin Cancer Res,2014年10月01日,20(19),5052-5063
【文献】BEETON-KEMPEN N et al.,Development of a novel, quantitative protein microarray platform for the multiplexed serological ana,Int J Cancer,2014年,135,1842-1851
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中のがん精巣抗原に対する抗体を検出することを特徴とする、PD-1阻害剤の治療効果及び/又は治療予後の予測のための検査方法であり、
前記がん精巣抗原が、XAGE1、NY-ESO-1、MAEL、BAGE、BORIS、MAGE-B3及びSSX4からなる群から選択される少なくとも1つである、
方法。
【請求項2】
IgGタイプの抗体を検出する、又はIgGタイプの抗体とIgAタイプの抗体を検出する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記試料がPD-1阻害剤の治療前の被験体から採取された試料である、請求項1又は2に記載方法。
【請求項4】
以下の1)~3)からなる群から選択される少なくとも1の場合に、PD-1阻害剤の治療の効果があると判定される、請求項1~のいずれか1に記載の方法;
1)がん精巣抗原に対する抗体が陽性である、
2)IgGタイプのがん精巣抗原に対する抗体が陽性である、
3)IgGタイプのがん精巣抗原に対する抗体が陽性であり、IgAタイプのがん精巣抗原に対する抗体が陰性である。
【請求項5】
前記治療効果及び/又は治療予後の予測が全生存期間(OS)に対する治療効果及び/又は治療予後の予測である、請求項1~のいずれか1に記載の方法。
【請求項6】
少なくともがん精巣抗原及び/又はがん精巣抗原の一部からなるペプチドが固相化された担体と、抗ヒトIgG抗体を含有する試薬を含み、前記がん精巣抗原が、XAGE1、NY-ESO-1、MAEL、BAGE、BORIS、MAGE-B3及びSSX4からなる群から選択される少なくとも1つのがん精巣抗原である、PD-1阻害剤の治療効果の予測及び/又は予後予測検査用の試薬キット。
【請求項7】
さらに抗ヒトIgA抗体を含有する試薬を含む、請求項に記載の試薬キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がん治療の効果の予測若しくは予後予測のための検査と免疫応答誘導ペプチドの利用に関する。
【背景技術】
【0002】
本邦での肺癌の罹患者数は11万人であり、2013年の主な部位別がん死亡数で第1位を占めている。組織型は小細胞肺癌(10%)、非小細胞肺癌(NSCLC)(90%)に大別され、非小細胞肺癌の中では肺腺癌が70-80%を占める。治療法としては、外科療法、放射線療法、化学療法があり、化学療法としては、チロシンキナーゼ阻害薬やプラチナ製剤を中心とした多剤併用療法が施行される。中央生存期間(OS)は小細胞肺癌で約12ヶ月、非小細胞肺癌では約30ヶ月である。
【0003】
近年、進行期NSCLCの1次、2次治療で、免疫チェックポイント分子阻害薬である抗PD-1抗体療法(ニボルマブ、ペムブロリズマブ)が、標準治療に対し、有意に高い奏効率又は全生存期間の延長を認め、現在、日本、米国、欧州連合で抗PD-1抗体療法が実施されている。
【0004】
免疫チェックポイント分子阻害薬の奏功例に対する有用なバイオマーカーは、腫瘍及び腫瘍内の免疫担当細胞に発現するPD-L1分子であるが、PD-L1高発現群であっても奏効率は30-40%程度であり、さらに免疫チェックポイント分子阻害薬は非常に高額であることから、新たなバイオマーカーの同定が待ち望まれている。
【0005】
さらに、免疫チェックポイント阻害薬以外の、より強い抗腫瘍効果を有する新規治療法の開発が望まれている。
【0006】
これまでに我々は、肺癌の中で最も多い肺腺癌に発現するXAGE1抗原を同定した。XAGE1抗原は進行期肺腺癌の40-50%に発現し、XAGE1抗原が発現している約半数の患者でXAGE1に対する抗体(IgG)反応が観察され、XAGE1に対する抗体(IgG)陽性者は予後が延長することを明らかにしてきた(非特許文献1、2)。
【0007】
XAGE1抗原はがん精巣抗原のひとつである。がん精巣抗原(CT抗原)は、多くのがんに発現するが、正常組織では精巣のみに発現する抗原の総称であり、数多くのCT抗原が知られている(非特許文献3、4)。
【0008】
既治療肺扁平上皮癌を対象としてニボルマブとドセタキセルを比較した第III相臨床試験のCheckMate-017試験での奏効率は、ニボルマブ群で36%、ドセタキセル群で31%であった。主要評価項目である中央生存期間(以下、OSともいう)において、ニボルマブ群で9.2ヶ月、ドセタキセル群で6.0ヶ月と有意な延長を示した。また、既治療非扁平上皮非小細胞肺癌を対象としたニボルマブとドセタキセルを比較する同様のCheckMate-057試験での奏効率は、ニボルマブ群で19%、ドセタキセル群で12%であった。主要評価項目であるOSにおいて、ニボルマブ群で12.2ヶ月、ドセタキセル群で9.4ヶ月と有意な延長を示し、前治療歴を有する切除不能又は転移性の非小細胞肺癌においてニボルマブの単剤治療はドセタキセルと比較して、ニボルマブの有効性が証明された。
【0009】
病勢進行率において、CheckMate-017試験、CheckMate-057試験で、ニボルマブ群はドセタキセル群と比較して有意ではないもののそれぞれ、CheckMate-017試験では、ニボルマブ群33%、ドセタキセル群30%、CheckMate-057試験では、ニボルマブ群44%、ドセタキセル群29%であった。
【0010】
またバイオマーカー検索として、腫瘍発現PD-L1の多寡とOS関係が検討され、PD-L1低発現又は陰性腫瘍は、OSの改善は乏しかった。
【0011】
もう一つの抗PD-1抗体であるペムブロリズマブは、既治療の非小細胞肺癌を対象に、KEYNOTE-001、KEYNOTE-010試験においてその有用性が検討された。KEYNOTE-001試験での、全体の奏効率は18-20%であり、PD-L1陽性腫瘍で19-23%、PD-L1陰性腫瘍においても9-13%で奏功を認めた。KEYNOTE-010試験では、腫瘍PD-L1発現が1%以上を対象としてペムブロリズマブとドセタキセルを比較する第III相臨床試験で、奏効率は、ペムブロリズマブ群で18.0%-18.5%であり、ドセタキセル群は9.3%であった。OSは、ペムブロリズマブ群で10.4ヵ月-12.7ヵ月であり、ドセタキセル群は8.5ヵ月であったことから、ドセタキセル群と比較してペムブロリズマブ群が有意にOSの延長を認めた。無増悪生存期間(PFS)はドセタキセル群と比較し、有意な差を認めなかった。腫瘍PD-L1発現が50%以上の患者では、奏効率は、ペムブロリズマブ群で29.1%-30.2%、一方、ドセタキセル群は7.9%であった。OSはペムブロリズマブ群で14.9 ヵ月-17.3ヵ月であり、腫瘍PD-L1発現が50%以上の患者集団においては、PFSもドセタキセル群と比較し有意に改善した。その為、腫瘍PD-L1高発現腫瘍においては、ペムブロリズマブの高い抗腫瘍効果と予後を延長することが明らかとなった。
【0012】
抗PD-L1抗体であるアテゾリズマブもニボルマブやペムブロリズマブと同様に既治療非小細胞肺癌を対象とし、単剤投与の効果をみたBIRCH試験、さらにドセタキセルと比較する第II相臨床試験のPOPLAR試験において、OSはアテゾリズマブ群で12.6ヶ月、ドセタキセル群9.7ヶ月と有意な延長効果を示した。さらにがん免疫微小環境で、腫瘍若しくは腫瘍浸潤免疫細胞でPD-L1が発現している場合は、OSが15.1-15.5ヶ月と、さらに予後を延長することが示された。また、がん免疫微小環境でPD-L1が高発現しているアテゾリズマブ群の奏効率は38%であり、PD-L1発現がないがん免疫微小環境のドセタキセル群では15%程度にとどまった。既治療非小細胞肺癌を対象としドセタキセルと比較する第III相試験のOAK試験でも、POPLAR試験と同様の結果が観測されている。
【0013】
以上のように、現時点での免疫チェックポイント分子阻害薬の奏功例に対するバイオマーカーは、腫瘍若しくは腫瘍内の免疫担当細胞におけるPD-L1発現が有用であると考えられている。しかしながら、PD-L1高発現(1%以上若しくは50%以上)であっても、免疫チェックポイント分子阻害薬の奏功率は30-40%であり、またPD-L1低発現又は陰性症例でも10%前後の奏功例が認められている。
【0014】
さらに、それぞれの免疫チェックポイント分子阻害薬(ニボルマブ、ペムブロリズマブ、アテゾリズマブ)で、独自のコンパニオン診断法(PD-L1発現解析)が施行され、臨床現場では混乱を来している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特許第5709108号
【文献】国際公開WO2016/181912
【非特許文献】
【0016】
【文献】Ohue Y, et al. Clin Cancer Res. 20(19), 5052-5063 (2014)
【文献】Ohue Y, et al. Cancer Immunol Res. 4(12), 1049-1060 (2016)
【文献】Hofmann O, et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 2008 Dec 23; 105(51), 20422-7 (2008)
【文献】Wang C, et al. Nat Commun. 2016 Jan 27;7:10499
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、がん治療の効果を的確に予測できる、又は的確な予後予測を可能にする検査方法を提供することを課題とする。また、がん免疫応答を誘導する新規ペプチド、新規組成物及びそのペプチドのスクリーニング方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、がん精巣抗原に対する抗体若しくは抗p53抗体を検出することにより、がんの治療効果を予測または確認できることを見いだした。好適には、がん治療前にIgGタイプのXAGE1抗体(以下、XAGE1-IgGとも記載する)及びIgAタイプのXAGE1抗体(以下、XAGE1-IgAとも記載する)、又はIgGタイプの抗NY-ESO-1抗体(以下、NY-ESO-1-IgGとも記載する)ががん治療の治療効果の予測及び予後予測の指標になることを見出した。また、新規がんワクチン用ペプチドおよびその組成物を見いだした。さらに、がんワクチン用ペプチドのスクリーニング方法を見いだした。即ち、本発明は下記の態様を包含する。
【0019】
1.試料中のがん精巣抗原に対する抗体を検出することを特徴とする、がん治療効果の検査方法。
2.前記がん精巣抗原が、XAGE1、NY-ESO-1、MAEL、BAGE、BORIS、MAGE-B3及びSSX4からなる群から選択される少なくとも1つのがん精巣抗原である、前項1に記載の方法。
3.IgGタイプの抗体とIgAタイプの抗体を検出する、前項1または2に記載の検査方法。
4.前記試料ががん治療前の被験体から採取された試料であり、該がん治療の効果を予測するための検査である、前項1~3のいずれか1に記載方法。
5.試料中の抗p53抗体を検出することを特徴とする、がん治療効果の検査方法。
6.以下の1)~4)からなる群から選択される少なくとも1の場合に、がん治療の効果があると判定される、前項1~5のいずれか一に記載の方法;
1)がん精巣抗原に対する抗体若しくは抗p53抗体が陽性である、
2)IgGタイプのがん精巣抗原に対する抗体若しくは抗p53抗体が陽性である、
3)IgGタイプのがん精巣抗原に対する抗体若しくは抗p53抗体が陽性であり、IgAタイプのがん精巣抗原に対する抗体若しくは抗p53抗体が陰性である、
4)複数のがん精巣抗原に対する抗体が陽性である。
7.がん精巣抗原、がん精巣抗原の一部からなるペプチド、p53、及びp53の一部からなるペプチドからなる群から選択される少なくとも1が固相化された担体、抗ヒトIgG抗体を含有する試薬、及び抗ヒトIgA抗体を含有する試薬を含むがん治療効果検査用の試薬キット。
8.以下のa)~f)からなる群から選択される少なくとも1つのペプチド;
a)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるXAGE1の一部からなるペプチドであり、配列番号1に示されるアミノ酸配列のN末側及び/又はC末側に最大5個のアミノ酸の伸長及び/又は欠失を許容するアミノ酸配列を有するペプチド
b)前記a)のペプチドのアミノ酸配列中の1個又は2個のアミノ酸が保存的置換されたアミノ酸配列を有するペプチド
c)前記a)又はb)のペプチドの薬学的に認容可能な塩若しくは溶媒和物
d)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるXAGE1の一部からなるペプチドであり、配列番号2に示されるアミノ酸配列のN末側及び/又はC末側に最大5個のアミノ酸の伸長及び/又は欠失を許容するアミノ酸配列を有するペプチド
e)前記d)のペプチドのアミノ酸配列中の1個又は2個のアミノ酸が保存的置換されたアミノ酸配列を有するペプチド
f)前記d)又はe)のペプチドの薬学的に認容可能な塩若しくは溶媒和物。
9.前項8に記載のa)~c)からなる群から選択される少なくとも1つのペプチドと前項8に記載のd)~f)からなる群から選択される少なくとも1つのペプチドを含有するがんに対する免疫応答誘導用組成物。
10.前記がんが、XAGE1陽性の肺癌、肝癌、前立腺癌、胃癌、悪性黒色腫、乳癌、食道癌、腎癌、又は、膀胱癌である前項9に記載の組成物。
11.免疫療法前又は化学療法前に投与される、前項9または10に記載の組成物。
12.前項8に記載のa)~c)からなる群から選択される少なくとも1つのペプチドと前項8に記載のd)~f)からなる群から選択される少なくとも1つのペプチドを含有するがんに対する免疫療法若しくは化学療法の効果増強剤。
13.試料中のがん精巣抗原に対する抗体若しくは抗p53抗体を検出することを特徴とする、がんワクチン用ペプチドのスクリーニング方法。
14.前記試料が、がんワクチン用候補ペプチドによって刺激培養されたB細胞含有液から採取された試料である、前項13に記載の方法。
15.末梢血から得られたCD4陽性T細胞又はCD8陽性T細胞を、配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するSLP1及び配列番号2に示されるアミノ酸配列を有するSLP2で刺激培養する工程を含む、活性化CD4陽性T細胞又は活性化CD8陽性T細胞の調製方法。
16.前項8に記載のa)~c)から選択される少なくとも1つのペプチドと前項8に記載のd)~f)から選択される少なくとも1つのペプチドによる、免疫応答を誘導する方法。
17.免疫療法または化学療法を開始する前に、前項8に記載のa)~c)から選択される少なくとも1つのペプチドと前項8に記載のd)~f)から選択される少なくとも1つのペプチドを投与することによる、該免疫療法または該化学療法の効果を増大する方法。
18.請求項1に記載の検査方法により、がん治療の効果があると判定されなかった場合に、抗体価を上昇させて、免疫療法を有効症例に導く方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明の検査方法は、がん治療前にがん治療の効果および予後を的確に予測することができる。また、がん治療後にがん治療の効果を確認することができる。より具体的には、化学療法の効果(抗がん剤の効果)、免疫療法の効果、免疫チェックポイント分子阻害薬の効果を的確に予測することができる。特に、PD-L1発現によらず、免疫チェックポイント分子阻害薬が奏功する患者か否かの判別を可能にする。PD-L1発現では効果を予測できなかった患者についても効果を予測可能にしたことは画期的なことである。
【0021】
なお、免疫チェックポイント分子阻害薬は、非常に高価であり、またその治療の終了を示す有効なバイオマーカーが現在のところ存在しない。また、免疫チェックポイント分子阻害薬はこれまでの化学療法とは異なり、一部の患者では有効であるが、全身の自己免疫疾患の発症という重篤な有害事象も懸念されている。本発明の検査方法は、治療効果が低い患者についても予測可能であり、副作用とのバランスを考えて該治療を中止することもできる。これらのことより、本発明により、免疫チェックポイント分子阻害薬が著効する症例を選択できることは、治療費及び副作用対策などに係る費用等を含めた医療経済的にも画期的である。
【0022】
本発明の新規ペプチド及びその新規ペプチドを含有する免疫応答誘導用組成物は、XAGE1免疫を能動的に誘導することにより、がんに対する免疫応答を誘導しがん治療薬(がんワクチン)となり得る。本発明の新規ペプチド及び免疫応答誘導用組成物は、XAGE1特異的抗体、特に、IgGタイプの抗XAGE1抗体を誘導でき、さらに、抗原特異的T細胞を誘導できる。
【0023】
本発明の新規ペプチド及び本発明の免疫応答誘導用組成物は、化学療法、免疫療法及び免疫チェックポイント分子阻害薬による治療の無効例、又は予後不良群に対し、XAGE1免疫を能動的に誘導することによって、治療奏功及び予後良好群に導く画期的治療を可能にする。さらに既存の治療法、新規治療法との併用による強力ながん免疫療法を可能にするものである。さらに本発明の免疫応答誘導用組成物は安全性にも優れている。
【0024】
本発明の新規ペプチドは、T細胞が認識するエピトープワクチンと違い、長鎖ペプチドであることから種々のエピトープを含み、従来のエピトープワクチンより強い免疫応答を誘導できる。さらに、前記a)~c)から選択される少なくとも1つのペプチドとd)~f)から選択される少なくとも1つのペプチドを併用することにより、さらに強い免疫応答を誘導できる。
【0025】
本発明のスクリーニング方法は、がんワクチン用として好適なペプチドの選択を可能にする。
【0026】
本発明の活性化CD4陽性T細胞又は活性化CD8陽性T細胞の調製方法により得られた活性化CD4陽性T細胞又は活性化CD8陽性T細胞は、養子免疫(T細胞)療法など、細胞治療に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、157例の早期又は局所進行期の肺腺癌(cStage I-IIIA)と145例の進行期(cStage IIIB-IV)の肺腺癌患者から採取した血清について、がん関連抗原、XAGE1、MAGE-A3、SSX-2、NY-ESO-1及びTP53に対する抗原特異的IgG及び抗原特異的IgAを検出した結果を示す。
図2図2は、157例の早期又は局所進行期の肺腺癌(cStage I-IIIA)と145例の進行期(cStageIIIB-IV)の肺腺癌患者から採取した血清の検査結果であり、がん関連抗原、XAGE1、MAGE-A3、SSX-2、NY-ESO-1及びTP53に対する特異的IgG陽性患者の頻度と特異的IgA陽性患者の頻度を示す。
図3図3Aは、51種類のがん抗原に対する自己抗体反応について、XAGE1抗原陽性の55例の肺腺癌患者から得られた血清を検査した結果を示す。XAGE1-IgGとXAGE1-IgAが自己腫瘍に対する免疫応答のサロゲートマーカーになることを示している。XAGE1-IgG陽性かつXAGE1-IgA陰性群は、種々のがん抗原に対する免疫応答が観察される。一方でIgAタイプの抗XAGE1抗体の出現(XAGE1-IgG陽性かつXAGE1-IgA陽性群)は、自己腫瘍に対する免疫応答が減弱していることを示す。XAGE1免疫陰性例(XAGE1-IgG陰性かつXAGE1-IgA陰性群)は、自己腫瘍に対する免疫応答がほとんど観察されないことを示す。図3Bは、XAGE1-IgG陽性かつXAGE1-IgA陰性者は、複数のがん抗原に免疫反応を有しがんに対する免疫応答が潜在的に高い状態(免疫活性化状態)であり、XAGE1-IgG陽性かつXAGE1-IgA陽性者は、XAGE1-IgG陰性かつXAGE1-IgA陰性者より免疫活性が高い状態であるが、XAGE1-IgG陽性かつXAGE1-IgA陰性者より免疫活性が抑制されている状態であることを示す。
図4図4は、進行期肺腺癌患者145例の血清中の免疫抑制サイトカインを計測した結果を示す。
図5図5は、早期又は局所進行の肺腺癌患者のがん局所のB細胞、T細胞の状態を解析した結果を示す。図5A及びBは、がん局所(TIL)の細胞の集積状態を示す。末梢血に比べがん局所にIgA陽性B細胞が増加している。図5Cは、IgA陽性B細胞浸潤が多い症例は30%程度であることを示す。図5Dは、IgA陽性B細胞浸潤が多い症例では、腫瘍局所の制御性T細胞が増加していることを示す。図5Eは、末梢血に比べ腫瘍浸潤リンパ球では、免疫抑制性のサイトカインであるIL-10の産生が認められ、T細胞以外にB細胞もIL-10を産生していることを示す。図5Fは、図5Eで示されたIL-10産生性の腫瘍浸潤B細胞がIgA陽性であることを示す。
図6図6は肺腺癌患者のIgAB細胞に発現する免疫チェックポイント分子を解析した結果を示す。免疫チェックポイント分子であるPD-L1とGalectin-9を高発現したPD-L1GAL-9IgAのB細胞が、がん局所に有意に集積していることを示す。
図7図7はXAGE1-IgG陽性群が有意に中央生存期間を延長すること、この傾向はEGFR遺伝子変異陰性症例に顕著であることを示す。
図8図8はXAGE1-IgG陽性かつXAGE1-IgA陰性群が、XAGE1-IgG陽性かつXAGE1-IgA陽性群や免疫応答なし群に比べ、初回化学療法の奏功率が有意に高いことを示す。
図9図9は免疫チェックポイント分子阻害薬である抗PD-1抗体療法の効果の指標として、XAGE1及びNY-ESO-1に対する免疫応答が有用であることを示す。XAGE1若しくはNY-ESO-1に対する免疫応答あり群(XAGE1-IgG陽性又はNY-ESO-1-IgG陽性群)と免疫応答なし群(XAGE1及びNY-ESO-1に対する抗体なし群)における標的病変の最大変化率を示す。
図10図10は、XAGE1若しくはNY-ESO-1に対する免疫応答あり群(XAGE1-IgG陽性又はNY-ESO-1-IgG陽性群)と免疫応答なし群(XAGE1及びNY-ESO-1に対する抗体なし群)における、免疫チェックポイント分子阻害薬である抗PD-1抗体療法後の奏効率、無増悪生存期間(Progression-Free Survival)及び全生存期間(Overall Survival)を示す。
図11図11は、図3Aに示す結果をさらにXAGE1-IgG陽性かつXAGE1-IgA陰性群、XAGE1-IgG陽性かつXAGE1-IgA陽性群、XAGE1-IgG陰性かつXAGE1-IgA陰性群で各がん抗原に対する免疫反応を解析した結果を示す。
図12図12は、抗PD-1抗体療法の奏功例で、抗NY-ESO-1抗体、抗XAGE1抗体および抗p53抗体をモニターした結果を示す。
図13図13Aは、抗PD-1抗体療法を実施した患者の治療前の血清を用いて、XAGE1およびNY-ESO-1抗体を含むがん抗原50種に対する免疫応答を解析した結果を示す。XAGE1-IgG陽性又はNY-ESO-1-IgG陽性の患者は多抗原に対する免疫応答を有し免疫活性化状態であることを示す。図13Bは抗PD-1抗体療法前の抗BAGE抗体または、抗BORIS抗体の検出により抗PD-1療法の効果を予測し得ることを示す。
図14図14Aは、抗PD-1抗体療法による標的病変の変化率(マイナスは腫瘍縮小を意味する)とCT抗原に対する抗体(XAGE1-IgG及びNYESO-1-IgG)の抗体価との関係を示している。図14Bは、抗PD-1抗体療法による標的病変の変化率と治療後の多抗原に対する免疫反応の増強(抗原スプレディング)数との関係を示している。
図15図15Aは、抗PD-1抗体療法の前後における多抗原に対する免疫応答の差を示す。図15Bは、抗PD-1抗体療法の奏功例では、MAGE-B3抗原 及びSSX4抗原に対する免疫応答のスプレディングが高頻度に認められ、非奏功例には認められなかったことを示す。
図16図16は、抗CCR4抗体+抗PD-1抗体、術前併用医師主導治験症例の完全奏功例で、実際にSSX4抗原に対する免疫反応が観察されたことを示す。
図17図17は、腫瘍縮小の経過とSSX4に対する免疫反応が相関したことを示す。
図18図18は、CT抗原に対する抗体(抗XAGE1抗体及び抗NY-ESO-1抗体)陽性は、既知のバイオマーカーより抗PD-1抗体療法の効果を明確に判別することができることを示す。
図19図19は、SLP2に特異的なCD4陽性T細胞クローン(以下、CD4クローンともいう)である4C34-1とSLP1に特異的なCD8陽性T細胞クローン(以下CD8クローンともいう)である8C34TYが認識するペプチドを示す。
図20図20は、CD4クローン(4C34-1)T細胞、CD8クローン(8C34TY)T細胞、及びこれらT細胞の混合物をSLP1単独、SLP2単独、SLP1とSLP2の併用により刺激した結果を示す。SLP1とSLP2の併用による刺激がより強い免疫応答を誘導すること示す。
図21図21は、末梢血単核球をCD4クローンT細胞とCD8クローンT細胞と共に、SLP1単独、SLP2単独、又は各ペプチド併用で刺激した後、B細胞表面上のIgG及びIgAを検出した結果を示す。B細胞表面上のIgGは、SLP1及びSLP2を併用することで発現の上昇が認められた。一方でIgAの発現量には変化はなかった。
図22図22は、B細胞を、CD4クローンT細胞及びCD8クローンT細胞と共に、SLP1単独、SLP2単独、又は各ペプチド併用で刺激した後の培養上清中のXAGE1特異的抗体の検出結果を示す。SLP1とSLP2を併用した場合に、XAGE1-IgGが産生され、IgAの産生は認められなかった。
図23図23は、SLP1およびSLP2を含むXAGE1ワクチンの投与により、7例中4例でXAGE1-IgG抗体価の上昇を認め、XAGE1-IgAおよびNY-ESO-1-IgGは誘導されなかったことを示す。
図24図24は、XAGE1ワクチンの投与により腫瘍マーカーの上昇抑制または低下が、7例中4例で観察されたことを示す。
図25図25は、XAGE1ワクチン低用量投与で、免疫応答が誘導できたことを示す。患者から得られたCD4陽性T細胞は主にSLP1に反応し、SLP1とSLP2の併用により免疫応答が増強することを示す。
図26図26は、XAGE1ワクチン中用量投与で、免疫応答が誘導できたことを示す。患者から得られたCD4陽性T細胞はSLP1とSLP2に反応し、SLP1とSLP2の併用により免疫応答が増強することを示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の検査方法は、試料中のがん精巣抗原に対する抗体若しくは抗p53抗体を検出することを特徴とする。又、本発明のがんワクチン用ペプチドのスクリーニング方法も、試料中のがん精巣抗原に対する抗体若しくは抗p53抗体を検出することを特徴とする。
【0029】
本発明の検査方法およびスクリーニング方法における、前記がん精巣抗原(以下、CT抗原ともいう)は、特に限定されるものではなく、がん細胞に発現し、正常組織では精巣のみに発現する抗原である。本発明はCT抗原に対する抗体を検出すること特徴とし、好ましいCT抗原としては、XAGE1、NY-ESO-1、MAEL、BAGE、BORIS、MAGE-B3及びSSX4が挙げられる。さらに好ましいCT抗原としては、XAGE1、NY-ESO-1が挙げられる。
【0030】
本発明の検査方法およびスクリーニング方法は、好ましくは、IgGタイプのCT抗原に対する抗体若しくは抗p53抗体を検出する。好ましいCT抗原に対する抗体として、XAGE1抗体、抗NY-ESO-1抗体、抗MAEL抗体、抗BAGE抗体、抗BORIS抗体、抗MAGE-B3抗体及び抗SSX4抗体が挙げられ、これら抗体はIgGタイプであることが好ましい。より好ましい抗体として、IgGタイプの抗XAGE1抗体、IgGタイプの抗NY-ESO-1抗体が挙げられる。
【0031】
さらに好ましくは、IgGタイプのCT抗原に対する抗体に加えてIgAタイプのCT抗原に対する抗体を検出する。好適なIgAタイプのCT抗原に対する抗体として、IgAタイプの抗XAGE1抗体が挙げられる。好ましくは、IgGタイプの抗XAGE1抗体とIgAタイプの抗XAGE1抗体を検出する。
【0032】
本明細書において「がんワクチン」は、がんに対する免疫応答を誘導させることのできる医薬組成物を意味し、また、該免疫応答誘導には、体液性免疫誘導及び/又は細胞性免疫誘導が含まれる。
【0033】
本発明の検査方法の一実施形態は、がん治療前の被験体から採取された試料中のCT抗原に対する抗体若しくは抗p53抗体を検出する。また、本発明の検査方法の一実施形態は、がん治療後の被験体から採取された試料中のCT抗原に対する抗体若しくは抗p53抗体を検出する。
【0034】
がん治療前の被験体から採取された試料中のCT抗原に対する抗体若しくは抗p53抗体を検出することにより、がん治療前に該がん治療の効果及び予後を予測することができる。
【0035】
がん治療後の被験体から採取された試料中のCT抗原に対する抗体若しくは抗p53抗体を検出することにより、がん治療後に該がん治療の効果を確認し予後を予測することができる。さらに、その後の治療の効果及び予後を予測することができる。
【0036】
本発明の検査方法は、種々のがん治療の効果の予測、確認、予後予測に適しているが、化学療法や免疫療法の効果の予測、確認、予後予測に適している。免疫療法の効果の予測により適しており、特に免疫チェックポイント分子阻害薬の治療の効果の予測に適している。
【0037】
化学療法には、プラチナ製剤等の各種抗がん剤の投与による治療が含まれる。免疫療法には、免疫抑制阻害療法(免疫チェックポイント分子阻害薬による治療)、サイトカイン(IL-2等)療法、BRM療法(免疫賦活剤等)、がんワクチン療法等が含まれる。免疫チェックポイント阻害剤による治療には、PD-1阻害剤(ニボルマブ等)の投与による治療、CTLA-4阻害剤(イピリムマブ等)による治療等が含まれる。
【0038】
本発明の検査方法の一実施形態は、がん治療前の被験体から採取された試料を検査対象とする。本明細書において「がん治療前」とは、効果を予測したいがん治療を始める前という意味である。すなわち、本発明の「がん治療前」には、がん治療を新たに始める前、がん治療用薬剤投与前、がん治療の継続中における薬剤投与前、がん治療用薬剤変更前、がん治療方針変更前、及びがん治療を中止するか否かの検討期間を含む。
本発明の検査方法の一実施形態は、がん治療後の被験体から採取された試料を検査対象とする。本明細書において「がん治療後」とは、特定のがん治療薬を選定し、がん治療を開始後、一定期間を経て、当該がん治療薬の効果を確認する段階という意味である。すなわち、本発明の「がん治療後」には、がん治療の継続中におけるさらなる薬剤投与前、がん治療用薬剤の変更前、がん治療方針の変更前、及びがん治療を中止するか否かの検討段階を含む。
【0039】
本発明のスクリーニング方法における「試料」としては、がんワクチン用候補ペプチドによって刺激培養されたB細胞含有液から採取された試料が好ましい。例えば、ヒト血液から得られた単核球含有画分又はB細胞含有画分を、CD4陽性T細胞、CD8陽性T細胞と共に、がんワクチン用候補ペプチドで刺激培養した後の培養液の上清が使用できる。
【0040】
本明細書において「治療効果」は、がんの病状進行抑制、がんの縮小、がんの消滅、再発抑制、転移抑制、生存期間の延長等を含む概念である。奏効率、生存率、生存期間等で表される。
【0041】
本発明の検査方法における「がん治療」のがんは、特に制限はなく、いずれのがんであってもよい。好適ながんとしては、XAGE1陽性又はNY-ESO-1陽性のがんが挙げられる。また、本発明のスクリーニング方法により得られるがんワクチン用ペプチドのがんは、特に制限はなく、いずれのがんであってもよい。好適ながんとしては、XAGE1陽性のがんが挙げられる。本発明の検査方法および本発明のスクリーニング方法におけるがんとして、例えば、肺癌、肝癌、前立腺癌、胃癌、悪性黒色腫、乳癌、食道癌、腎癌、及び、膀胱癌等が挙げられる。好適には、肺癌が挙げられ、特に非小細胞肺癌が挙げられる。さらには、本発明の検査は、難治である進行期非小細胞肺癌治療や進行期の肺腺癌治療の効果の予測に適している。
【0042】
XAGE1(X Antigen Family, Member 1)は、XAGE1遺伝子によりコードされ、Cancer/Testis antigen 12.1(CT12.1)としても知られる公知のがん精巣抗原である。これまでにXAGE1a-eの5種類の遺伝子が同定され、その関連タンパク質はGAGED2であり、GAGED2aとGAGED2dの二種類のアイソフォームが存在することが知られている。また、これまでにXAGE1a,b,c,dの4種類の選択的スプライスバリアントが同定されている(Sato et al., Cancer Immunity, vol. 7, page 5 (2007))。XAGE1aとXAGE1bは81アミノ酸からなるXAGE1(GAGED2a)タンパク質をコードし、XAGE1dは、69アミノ酸からなるXAGE1(GAGED2d)タンパク質をコードしている。
【0043】
種々の動物種についてXAGE1のアミノ酸配列が公知である。例えば、ヒトXAGE1(GAGED2a)の配列は、NCBI Reference Sequence:NP_001091073.2及びNP_001091063.2として、ヒトXAGE1(GAGED2d)の配列はNCBI Reference Sequence: NP_001091074.1として提供されている。
ヒトXAGE1(GAGED2a):(配列番号3)
mespkkknqq lkvgilhlgs rqkkiriqlr sqcatwkvic kscisqtpgi nldlgsgvkv kiipkeehck mpeageeqpq v
【0044】
本発明の検査方法若しくはスクリーニング方法における測定対象である抗XAGE1抗体は、XAGE1(GAGED2a)(以下、本明細書では単にXAGE1と記載する)に対する抗体である。
【0045】
本発明の検査方法若しくはスクリーニング方法の検出対象である抗XAGE1抗体を検出する方法に特に制限はないが、例えば、抗原との結合を検出する方法が挙げられる。結合させる抗原としては、全長XAGE1であっても、その一部のアミノ酸配列からなる部分ペプチドであってもよい。好ましくは、全長XAGE1を用いる。
【0046】
本発明の検査方法若しくはスクリーニング方法の一実施形態は、IgGタイプの抗XAGE1抗体を検出する。好ましくは、IgGタイプの抗XAGE1抗体(XAGE1―IgG)とIgAタイプの抗XAGE1抗体(XAGE1―IgA)を検出する。IgGタイプの抗体の検出方法に特に制限はないが、例えば、標識された抗ヒトIgG抗体を用いることができる。また、IgAタイプの抗体の検出方法にも特に制限はないが、例えば、標識された抗ヒトIgA抗体を用いることができる。
【0047】
本発明の検査方法若しくはスクリーニング方法の一実施形態は、XAGE1―IgG及び/又はXAGE1―IgAを検出する工程を含む。XAGE1-IgGは、自己腫瘍に対する免疫応答が増強していることを示すバイオマーカーであり、XAGE1-IgAは、自己腫瘍に対する免疫応答が減弱して(抑制されて)いることを示すバイオマーカーである。このようなマーカーが、がん治療薬の治療効果の予測に適用可能であることははじめて見出いだされた。
【0048】
NY-ESO-1も公知のがん精巣抗原のひとつである。悪性黒色腫をはじめ各種腫瘍にさまざまな程度5-40%に発現しているが、正常組織では精巣のみに発現が限られている。NY-ESO-1タンパク質は180のアミノ酸からなり、その配列はGenBank:CAA05908.1として提供されている。
ヒトNY-ESO-1:(配列番号4)
mqaegrgtgg stgdadgpgg pgipdgpggn aggpgeagat ggrgprgaga arasgpggga
prgphggaas glngccrcga rgpesrllef ylampfatpm eaelarrsla qdapplpvpg
vllkeftvsg niltirltaa dhrqlqlsis sclqqlsllm witqcflpvf laqppsgqrr
【0049】
本発明の検査方法若しくはスクリーニング方法における検出対象である抗NY-ESO-1抗体を検出する方法に制限はないが、抗原との結合を検出する方法が挙げられる。結合させる抗原は、全長NY-ESO-1であっても、その一部のアミノ酸配列からなる部分ペプチドであってもよい。好ましくは、全長NY-ESO-1を用いる。
【0050】
本発明の検査方法若しくはスクリーニング方法の一態様は、IgGタイプの抗NY-ESO-1抗体を検出する。さらに、IgAタイプの抗NY-ESO-1抗体を検出してもよい。IgGタイプの抗体の検出方法は特に限定されない。例えば、標識された抗ヒトIgG抗体を用いることができる。また、IgAタイプの抗体の検出方法にも特に制限はないが、例えば、標識された抗ヒトIgA抗体を用いることができる。
【0051】
MAEL、BAGE、BORIS、MAGE-B3及びSSX4も公知のがん精巣抗原である。各種腫瘍にさまざまな程度に発現しているが、正常組織では精巣のみに発現が限られている。p53は、がん抑制タンパク質として知られている。
【0052】
本発明の検査方法若しくはスクリーニング方法における検出対象である抗MAEL、抗BAGE抗体、抗BORIS抗体、抗MAGE-B3抗体、抗SSX4抗体及び抗p53抗体を検出する方法に制限はないが、抗原との結合を検出する方法が挙げられる。結合させる抗原は、全長であっても、その一部のアミノ酸配列からなる部分ペプチドであってもよい。
【0053】
本発明の検査方法若しくはスクリーニング方法では、IgGタイプの抗MAEL、抗BAGE抗体、抗BORIS抗体、抗MAGE-B3抗体、抗SSX4抗体及び抗p53抗体を検出する。さらにIgAタイプの抗体を検出してもよい。IgGタイプの抗体の検出方法に特に制限はないが、例えば、標識された抗ヒトIgG抗体を用いることができる。また、IgAタイプの抗体の検出方法にも特に制限はないが、例えば、標識された抗ヒトIgA抗体を用いることができる。
【0054】
各CT抗原に対する抗体若しくは抗p53抗体を検出する方法は、抗体の量、濃度又は抗体価を測定できる方法であれば特に限定されず、当該分野において公知の手法を用いて測定することができる。例えば、ELISA法、ラジオイムノアッセイ、免疫沈降法、アフィニティーカラム法等によって測定することができる。
【0055】
本発明の検査方法における「被験体」は、特に限定されるものではなく広く哺乳動物一般(ヒト、マウス、ラット、サル、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、ハムスター等)を含むが、ヒトであることが好ましい。被験体がヒトである場合、がん患者やがんを有する疑いのある患者のみでなく、健常人も被験体となり得る。被験体の性別、年齢等は特に限定されない。
【0056】
本発明の検査方法における「試料」としては、例えば、血液(血清、血漿、血球等)、尿、糞便、喀痰、胸・腹水、気管支肺胞洗浄液、腹腔洗浄液、生検組織、外科的に切除された検体等を挙げることができる。好ましい試料としては血清が挙げられる。
【0057】
本発明の検査方法若しくはスクリーニング方法の好ましい実施形態では、以下の1)~4)からなる群から選択される少なくとも1の場合に、がん治療の効果があると判定される。
1)がん精巣抗原に対する抗体若しくは抗p53抗体が陽性である、
2)IgGタイプのがん精巣抗原に対する抗体若しくは抗p53抗体が陽性である、
3)IgGタイプのがん精巣抗原に対する抗体若しくは抗p53抗体が陽性であり、IgAタイプのがん精巣抗原に対する抗体若しくは抗p53抗体が陰性である、
4)複数のがん精巣抗原に対する抗体が陽性である。
【0058】
本発明の検査方法若しくはスクリーニング方法の好ましい実施形態では、CT抗原に対する抗体若しくは抗p53抗体が陽性である場合に、がん治療の効果があると判定される。好ましい具体例として、抗XAGE1抗体、抗NY-ESO-1抗体、抗MAEL抗体、抗BAGE抗体、抗BORIS抗体、抗MAGE-B3抗体、抗SSX4抗体、及び抗p53抗体が挙げられる。該CT抗原に対する抗体若しくは抗p53抗体はIgGタイプの抗体であることがさらに好ましい。好ましい具体例として、XAGE1―IgG又はNY-ESO-1―IgGが挙げられる。
【0059】
また、好ましい実施形態では、IgGタイプのCT抗原に対する抗体若しくは抗p53抗体が陽性であり、IgAタイプのCT抗原に対する抗体若しくは抗p53抗体が陰性である場合に、がん治療の効果があると判定される。好ましい具体例としては、XAGE1―IgG又はNY-ESO-1―IgGが陽性であり、XAGE1―IgAが陰性である場合が挙げられ、特に好ましい具体例として、XAGE1―IgGが陽性であり、XAGE1―IgAが陰性である場合が挙げられる。
【0060】
CT抗原に対する抗体若しくは抗p53抗体が陽性であるとは、CT抗原に対する抗体若しくは抗p53抗体の量、濃度又は抗体価がカットオフ値以上である場合であり、陰性であるとはCT抗原に対する抗体若しくは抗p53抗体の量、濃度又は抗体価がカットオフ値以下である場合である。カットオフ値は、例えば、健常人の抗体価の10~1000倍の抗体価であってもよく、20~500倍の抗体価であってもよく、50~200倍の抗体価であってもよく、また、100倍であってもよい。また、カットオフ値は、50検体以上の健常成人の血清の平均+3SDのように設定してもよい。好ましくは、XAGE1―IgG又はNY-ESO-1―IgGの量、濃度又は抗体価がカットオフ値以上である場合に、がん治療の効果があると判定される。
【0061】
本発明の検査方法の一実施形態は、試料中のCT抗原に対する抗体若しくは抗p53抗体を検出する工程を含む。好ましくは、該試料は、がん治療前の被検体から採取された試料である。該CT抗原に対する抗体の具体例としては、抗XAGE1抗体と又抗NY-ESO-1抗体が挙げられる。さらに好ましい具体例として、XAGE1―IgG、XAGE1―IgGとXAGE1―IgAの組み合わせ、NY-ESO-1―IgG及びNY-ESO-1―IgGとXAGE1―IgAの組み合わせが挙げられる。
【0062】
本発明の検査方法の一実施形態は、被験体から採取された試料中のXAGE1―IgGの量、濃度又は抗体価を検出する工程と同一試料中のXAGE1―IgAの量、濃度又は抗体価を検出する工程とを含む。XAGE1―IgAの存在は、免疫が抑制されていることを示していることより、XAGE1―IgGの量、濃度又は抗体価がカットオフ値以上であり、XAGE1―IgAがカットオフ値以下である場合に、がん治療の効果があると判定することができる。
【0063】
XAGE1-IgGは、自己腫瘍に対する免疫応答が増強していることを示すバイオマーカーである。一方、がん局所で、IgA陽性の制御性B細胞が増加していることが判明し、XAGE1-IgAは、自己腫瘍に対する免疫応答が減弱していることを示すバイオマーカーになる。なお、XAGE1-IgGを有する患者の約半数でXAGE1-IgA反応がみられる。
【0064】
本発明のスクリーニング方法は、例えばヒト血液から分離したB細胞を、ワクチン用候補ペプチドによって刺激培養する工程及び培養上清中のCT抗原に対する抗体若しくは抗p53抗体を検出する工程を含む。
【0065】
好ましくは、さらに、CT抗原に対する抗体若しくは抗p53抗体が陽性の場合に、候補ペプチドにがん治療の効果があると判定する工程を含む。好適には、XAGE1―IgAが陰性でありXAGE1―IgG又はNY-ESO-1―IgGが陽性である場合に、候補ペプチドにがん治療の効果があると判定する工程を含む。
【0066】
また、本発明の検査方法若しくはスクリーニング方法の好ましい他の実施形態では、複数のCT抗原に対する抗体が陽性である場合に、がん治療の効果があると判定される。本実施形態では、被験体から採取された試料中のCT抗原に対する抗体の量、濃度又は抗体価を検出する工程と、同一試料中の該CT抗原とは異なる他のCT抗原に対する抗体の量、濃度又は抗体価を検出する工程とを含む。検査されるCT抗原に対する抗体に特に制限はないが、好ましくは、抗XAGE1抗体、抗NY-ESO-1抗体、抗MAEL抗体、抗BAGE抗体、抗BORIS抗体、抗MAGE-B3抗体又は抗SSX4抗体を含む。複数のCT抗原に対する抗体が検出される患者は、多抗原に対する免疫応答を有し免疫活性化状態であり、免疫療法等のがん治療が奏功する。複数は2以上であればよく、好ましくは3以上である。上限に制限はないが、検査の煩雑さから具体的には、50以下、40以下、30以下、20以下、10以下等が挙げられる。
【0067】
抗CT抗原に対する抗体若しくは抗p53抗体を指標にすることで(CT抗原若しくはp53に対する免疫応答を検出することで)、好ましくは、抗XAGE1抗体若しくは抗NY-ESO-1抗体を指標にすることで(XAGE1若しくはNY-ESO-1に対する免疫応答を検出することで)、がん治療効果を的確に予測することができるようになった。抗XAGE1抗体若しくは抗NY-ESO-1抗体陽性は、既知のバイオマーカーより抗PD-1抗体療法の効果を明確に判別する。特に、免疫チェックポイント分子阻害薬の奏功例を明確に判別することができるようになった。PD-L1発現が陽性であっても、奏効率は30%であり、陰性であっても奏功例が10%であったため、これらバイオマーカーにより明確に奏功例を判別できることは画期的である。
【0068】
本発明の検査方法により、がん治療効果がありと判定された場合には、免疫療法、又は化学療法を行い得る。本発明の検査方法によりがん治療効果があると判定されなかった場合に、抗体価を上昇させて、免疫療法、又は化学療法を有効症例に導くことができる。抗体価を上昇させる方法の一実施形態として、ワクチン投与が挙げられる。好ましいワクチンは、CT抗原を含むワクチンであり、より好ましくは、XAGE1、NY-ESO-1、MAEL、BAGE、BORIS、MAGE-B3及びSSX4からなる群から選択される少なくとも1つのCT抗原またはこれら抗原の一部からなるペプチドを含むワクチンである。
【0069】
本願は、試薬キットに係る発明も含む。試薬キットに係る発明は、CT抗原、CT抗原の一部からなるペプチド、p53、及びp53の一部からなるペプチドからなる群から選択される少なくとも1が固相化された担体、抗ヒトIgG抗体を含有する試薬、及び抗ヒトIgA抗体を含有する試薬を含むがん治療効果検査用の試薬キットである。
【0070】
好ましい、実施形態は、XAGE1、XAGE1の一部からなるペプチド、NY-ESO-1及びNY-ESO-1の一部からなるペプチドの群から選択される少なくとも1のペプチドが固相化された担体、抗ヒトIgG抗体を含有する試薬、並びに抗ヒトIgA抗体を含有する試薬を含むがん治療効果検査用の試薬キットである。本キットは、がん治療の効果を検査するための試薬キットである。
【0071】
XAGE1の一部からなるペプチドとは、配列番号3に表されるアミノ酸配列の一部からなる配列を有するペプチドである。好ましくは、10以上のアミノ酸を含むペプチドであり、1つ以上のエピトープを含む。NY-ESO-1の一部からなるペプチドとは、配列番号4に表されるアミノ酸配列の一部からなるアミノ酸配列を有するペプチドである。好ましくは、10以上のアミノ酸を含むペプチドであり、1つ以上のエピトープを含む。
【0072】
本発明の試薬キットの中に含まれるペプチドが固相化された担体には、CT抗原、CT抗原の一部からなるペプチド、p53、及びp53の一部からなるペプチドからなる群から選択される少なくとも1が固相化されている。好ましくは、XAGE1、XAGE1の一部からなるペプチド、NY-ESO-1及びNY-ESO-1の一部からなる群から選択される少なくとも1が固相化されている。担体は、特に限定されるのもではなく、例えばプレートやスティックが挙げられる。
【0073】
本発明の試薬キットは、ペプチドが固相化された担体の他に、抗ヒトIgG抗体を含有する試薬と抗ヒトIgA抗体を含有する試薬を含む。これら抗体は標識されていることが好ましい。また、本発明のキットには、標識と反応させるための試薬や、希釈液等、さらに試薬や検査用器具を含有してもよい。
【0074】
本願のペプチドに係る発明は、以下のa)~f)からなる群から選択される少なくとも1つのペプチドである。
a)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるXAGE1の一部からなるペプチドであり、配列番号1に示されるアミノ酸配列のN末側及び/又はC末側に最大5個のアミノ酸の伸長及び/又は欠失を許容するアミノ酸配列を有するペプチド
b)前記a)のペプチドのアミノ酸配列中の1個又は2個のアミノ酸が保存的置換されたアミノ酸配列を有するペプチド
c)前記a)又はb)のペプチドの薬学的に認容可能な塩若しくは溶媒和物
d)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるXAGE1の一部からなるペプチドであり、配列番号2に示されるアミノ酸配列のN末側及び/又はC末側に最大5個のアミノ酸の伸長及び/又は欠失を許容するアミノ酸配列を有するペプチド
e)前記d)のペプチドのアミノ酸配列中の1個又は2個のアミノ酸が保存的置換されたアミノ酸配列を有するペプチド
f)前記d)又はe)のペプチドの薬学的に認容可能な塩若しくは溶媒和物
【0075】
本発明のペプチドのアミノ酸配列は、配列番号1、配列番号2および配列番号3の配列に基づき設計され、通常の方法により合成することができる。該ペプチドのアミノ酸数は、好ましくは20~30の範囲である。また、本発明のペプチドは、上記がんワクチン用ペプチドのスクリーニングにより選択され得るペプチドである。
【0076】
前記保存的置換では、例えば、疎水性アミノ酸が別の疎水性アミノ酸に置き換わるように、1個のアミノ酸が類似構造又は特性を持つアミノ酸に置換される。更に、ロイシンがイソロイシンに置換されるように、サイズおよび化学的性質が同一あるいは類似のアミノ酸に交換される。自然発生的な相同タンパク質ファミリーにおける配列多様性の研究において、ある種のアミノ酸置換は他のアミノ酸置換より認容性が高いことが多く、これらは元のアミノ酸とその置換物との間で、大きさ、電荷、極性、疎水性が類似の相関関係を示すことが多く、これが、「保存的置換」の定義の基礎である。保存的置換は、本明細書では次の5グループの1つに交換されることと定義されてもよい:グループ1-分子量が小さい脂肪族の、非極性またはやや極性残基(Ala, Ser,Thr, Pro, Gly);グループ2-極性、負電荷残基及びそれらのアミド類(Asp, Asn, Glu, Gln);グループ3-極性、正電荷残基(His, Arg, Lys);グループ4-分子量が大きい脂肪族の、非極性残基(Met, Leu, Ile, Val, Cys);そしてグループ5-分子量が大きい、芳香残基(Phe、Tyr、Trp)。
【0077】
本発明のペプチドのC末端は、アミド又はエステルであってもよい。また、N末端のアミノ基や分子内のアミノ酸の側鎖上にある、例えば、OH、NH、SHなどが適当な保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのCアシル基など)で保護されていてもよい。また、糖鎖が結合したいわゆる糖ペプチドなども含まれる。また、アミノ酸の一部がDアミノ酸であってもよい。
【0078】
本発明のペプチドの塩としては、とりわけ生理学的に許容される酸付加塩等が挙げられる。本発明のペプチドは、溶媒和物の形態であってもよい。溶媒は、薬学的に許容されるものであれば特に限定されず、例えば水、エタノール、グリセロール、酢酸等が挙げられる。プロドラッグ化されていてもよい。プロドラッグは、生体内における生理条件下で本発明のペプチドに変換するように設計され得る。
【0079】
本発明のペプチドは、公知のペプチドの合成法に従って製造することができる。ペプチドの合成法としては、例えば、固相合成法、液相合成法のいずれによってもよい。すなわち、本発明のペプチドを構成し得る部分ペプチド若しくはアミノ酸と残余部分とを縮合させ、生成物が保護基を有する場合は、必要であれば保護基を脱離することにより目的のペプチドを製造することができる。
【0080】
前記a)で特定されるペプチドにおいて、伸長及び/又は欠失するアミノ酸の数は、最大5個であり、好ましくは4個であり、より好ましくは3個であり、より好ましくは2個であり、さらに好ましくは1個である。最も好ましくは0個である。
【0081】
前記b)で特定されるペプチドにおいて、保存的置換されるアミノ酸の数は、2個又は1個である。より好ましくは1個である。
【0082】
前記d)で特定されるペプチドにおいて、伸長及び/又は欠失するアミノ酸の数は、最大5個であり、好ましくは4個であり、より好ましくは3個であり、より好ましくは2個であり、さらに好ましくは1個である。最も好ましくは0個である。
【0083】
前記e)で特定されるペプチドにおいて、保存的置換されるアミノ酸の数は、2個又は1個である。より好ましくは1個である。
【0084】
本発明の好ましいペプチドとして、以下のa1)~f1)からなる群から選択される少なくとも1つのペプチドが挙げられる。
a1)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるXAGE1の一部からなるペプチドであり、配列番号1に示されるアミノ酸配列のN末側及び/又はC末側に最大3個のアミノ酸の伸長及び/又は欠失を許容するアミノ酸配列を有するペプチド
b1)前記a1)のペプチドのアミノ酸配列中の1個のアミノ酸が保存的置換されたアミノ酸配列を有するペプチド
c1)前記a1)又はb1)のペプチドの薬学的に認容可能な塩若しくは溶媒和物
d1)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるXAGE1の一部からなるペプチドであり、配列番号2に示されるアミノ酸配列のN末側及び/又はC末側に最大3個のアミノ酸の伸長及び/又は欠失を許容するアミノ酸配列を有するペプチド
e1)前記d)のペプチドのアミノ酸配列中の1個のアミノ酸が保存的置換されたアミノ酸配列を有するペプチド
f1)前記d)又はe)のペプチドの薬学的に認容可能な塩若しくは溶媒和物
【0085】
本発明の最も好ましいペプチドとしてSLP1とSLP2が挙げられる。SLP1及びSLP2は、25個のアミノ酸残基を有する長鎖ペプチドである。SLP1は配列番号1で示されるアミノ酸配列を有し、SLP2は配列番号2に示されるアミノ酸配列を有する。
SLP1:(配列番号1)NQQLKVGILHLGSRQKKIRIQLRSQ
SLP2:(配列番号2)ISQTPGINLDLGSGVKVKIIPKEEH
SLP1はXAGE1(配列番号3)の8番目から32番目のアミノ酸配列を有し、SLP2は、XAGE1の44番目から68番目のアミノ酸配列を有する。
【0086】
本願のがんに対する免疫応答誘導用組成物に係る発明は、前記a)~c)から選択される少なくとも1つのペプチドと前記d)~f)から選択される少なくとも1つのペプチドを含有する。より好ましくは、前記a1)~c1)から選択される少なくとも1つのペプチドと前記d1)~f1)から選択される少なくとも1つのペプチドを含有する。さらに好ましくは、SLP1およびSLP2を含有する。これらペプチドの併用により、単独では達し得なかった効果を達成した。
【0087】
本願のがんに対する免疫療法若しくは化学療法の効果増強剤に係る発明は、前記a)~c)からなる群から選択される少なくとも1つのペプチドと前記d)~f)からなる群から選択される少なくとも1つのペプチドを含有する。より好ましくは、前記a1)~c1)から選択される少なくとも1つのペプチドと前記d1)~f1)から選択される少なくとも1つのペプチドを含有する。さらに好ましくは、SLP1およびSLP2を含有する。これらペプチドの併用により、単独では達し得なかった効果を達成した。
【0088】
本発明の免疫応答誘導用組成物及び本発明の効果増強剤は、がんワクチンということもできる。
【0089】
本発明の免疫応答誘導用組成物は、哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、サル、ヒトなど)の免疫応答を誘導するために用いられる。
【0090】
本発明の免疫応答誘導用組成物は、体液性免疫、細胞性免疫を活性化し、がんに対する免疫応答を増強させ、がんの治療に用いることができる。また、化学療法、免疫療法、免疫チェックポイント阻害剤によるがん治療の効果を増大させることができる。さらに、本発明の免疫応答誘導用組成物は、化学療法及び免疫療法、免疫チェックポイント分子阻害薬による治療の無効例、又は予後不良群に対し、XAGE1免疫を能動的に誘導することによって、治療奏功及び予後良好群に導くことができる。また、本発明の免疫応答組成物は安全性にも優れている。
【0091】
本発明の組成物は、XAGE1を発現しているがんに対する免疫応答を誘導することができ、そのがんの治療に用いることができ、また、そのがんの治療効果を増強することができる。また、そのがんの治療の無効例、又は予後不良群に対し、XAGE1免疫を能動的に誘導し、治療奏功及び予後良好群に導くことができる。治療対象がんとして、例えば、肺癌、肝癌、前立腺癌、胃癌、悪性黒色腫、乳癌、食道癌、腎癌、又は、膀胱癌を挙げることができる。特に、適しているがんとしては、肺癌が挙げられ、肺癌の中でも、非小細胞肺癌、肺腺癌、特に進行期の非小細胞肺癌、肺腺癌の免疫応答誘導に適している。
【0092】
本発明の免疫応答誘導用組成物は、抗XAGE1抗体の産生を誘導することができる。特に、XAGE1-IgGの産生を誘導することができる。XAGE1-IgG陽性の患者や治療対象は、予後良好、治療奏効であることより、本発明の免疫応答誘導用組成物は、化学療法、免疫療法及び免疫チェックポイント阻害剤による治療によっても予後不良、治療無効と予想される患者等を予後良好、治療奏効に導くことができる。
【0093】
本発明者等は、XAGE1の一部の16~17アミノ酸を含むエピトープワクチンを以前作成したが、本発明のペプチドは、T細胞が認識するエピトープワクチンと違い、長鎖ペプチドであることから種々のエピトープを含み、さらに、前記a)~c)からなる群から選択される少なくとも1つのペプチドと前記d)~f)からなる群から選択される少なくとも1つのペプチドを併用することで従来のエピトープワクチンより強い免疫応答が誘導できる。
【0094】
本発明の免疫応答誘導用組成物は免疫応答を高めるためにアジュバントを含んでいてもよい。その他に薬理学的に許容される担体、安定剤を含んでいてもよい。本発明の免疫応答誘導用組成物は、医薬製剤の製造法で一般的に用いられている公知の手段に従って製造され、例えば注射剤として、非経口的(静脈内注射、筋肉内注射等)に安全に投与することができる。
【0095】
本発明の免疫応答誘導用組成物の製造に用いられてもよい薬理学的に許容される担体としては、製剤素材として慣用の各種有機あるいは無機担体物質が挙げられ、例えば固形製剤における賦形剤、滑沢剤、結合剤及び崩壊剤、あるいは液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤及び無痛化剤等が挙げられる。更に必要に応じ、通常の防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤、吸着剤、湿潤剤等の添加物を適宜、適量用いることもできる。
【0096】
調製された注射剤は、液剤であっても、用事溶解する固形製剤であってもよい。投与にあたっては、前記の固形製剤の場合は、慣用の水性希釈剤中で溶解し、液剤として用いることができる。水性希釈剤としてはぶどう糖水溶液、生理食塩水、リンゲル液、栄養補給剤液などが含まれる。
【0097】
本発明の免疫応答誘導用組成物において、本発明のペプチドの含有量は、製剤の形態によって相違するが、通常、製剤全体に対して約0.1~100重量%、好ましくは約10~99.9重量%、さらに好ましくは約20~90重量%程度である。前記a)~c)から選択される少なくとも1つのペプチドと前記d)~f)から選択される少なくとも1つのペプチドの含有量の比は適宜調整される。例えば、1:9~9:1、3:7~7:3、5:5等が挙げられる。本発明の免疫応答誘導用組成物の投与量は、投与ルート、症状、患者の年令などによっても異なるが、例えば、静脈内投与など非経口的に投与する場合、1日当たり体重1kgあたりペプチドとして約0.005~50mg,好ましくは約0.05~10mgを投与できる。
【0098】
本発明一態様である免疫応答誘導用組成物は、他の化学療法、免疫療法、免疫チェックポイント分子阻害薬投与の前に投与することができる。これらの前に本発明の免疫応答誘導用組成物を投与することにより、該化学療法、該免疫療法、該免疫チェックポイント分子阻害薬の効果を増強することができる。例えば、これらの薬剤の投与の1日~半年前、好ましくは、1週間~3ヶ月前、さらに好ましくは2週間~2ヶ月前に投与することができる。好ましい一実施形態として、免疫チェックポイント分子阻害薬投与の28日~3ヶ月前に投与することができる。
【0099】
本発明は、また、患者の末梢血から得られたCD4陽性T細胞又はCD8陽性T細胞を、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するSLP1及び配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するSLP2で刺激培養する工程を含む、活性化CD4陽性T細胞又は活性化CD8陽性T細胞の調製方法である。
【0100】
より詳細には、末梢血単核球細胞からCD4陽性T細胞又はCD8陽性T細胞を分離し、SLP1及びSLP2存在下で3日~21日間、好ましくは7日~18日間刺激培養する。その後、抗原提示細胞と共にSLP1及び/又はSLP2で3~24時間、好ましくは6~18時間再刺激することにより得ることができる。刺激培養時のSLP1及びSLP2の濃度はそれぞれ、0.1~10μM、好ましくは、0.1~1μMの濃度が好ましい。
【0101】
得られた活性化CD4陽性T細胞及び活性化CD8陽性T細胞は細胞療法に用いることができる。例えば、末梢血を提供した患者本人に投与し、養子免疫療法に利用することができる。
【0102】
以下に、実施例及び試験例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【実施例
【0103】
実施例で用いられている血液は、がん治療を行う前の患者からインフォームドコンセントのもとに提供を受けた。
【0104】
[実施例1]
<XAGE1-IgG及びXAGE1-IgAの検出>
XAGE1タンパク質(81個のアミノ酸、配列番号3)は、GLバイオケム社(上海、中国)で合成されたものを使用した。合成したXAGE1タンパク質は、HPLCカラムで精製を行い、純度が90%以上であることを確認している。
【0105】
1μg/mlの濃度のXAGE1(炭酸バッファー、pH9.6)を4℃オーバーナイトで96穴プレート(ヌンク社製)に固相化した後に、洗浄液(PBS/0.1%TWEEN)で96穴プレートを洗浄し、5%FCS/PBSを加えて、37℃で1時間ブロッキングを行った。ブロッキング終了後、100倍、400倍、1600倍、6400倍に希釈した血清を加えて、37℃で2時間反応させた。次いで、洗浄液で洗浄した後に、ペルオキシダーゼ結合ヤギ抗ヒトIgG抗体(5000倍希釈)(ジャクソン社製)若しくはペルオキシダーゼ結合ヤギ抗ヒトIgA抗体(8000倍希釈)(ジャクソン社製)を加えて、37℃で1時間反応させた。反応終了後、洗浄液で洗浄し、過酸化水素を加えた基質溶液(オルトフェニレンジアミンを0.05Mクエン酸バッファー(pH5.0)に溶解した溶液)を加えて発色させた。発色後、6N硫酸を加えて反応を停止し、マイクロプレートリーダー(バイオラッド社製)を用いて吸光度(波長490nm)を測定した。これら吸光度をもとに、一般的な抗体価の求め方で抗体価を算出した(Autoantibodies Against Cancer Antigens:Sacha Gnjatic,Lloyd J. Old,Yao-Tseng Chen)。IgG、IgAともに健常人コントロール血清の抗体価の100倍以上をもって陽性とし、100倍未満を陰性とした。
【0106】
<NY-ESO-1-IgGの検出>
NY-ESO-1(180個のアミノ酸、配列番号4)は、通常の方法により大腸菌を用いて作成した。NY-ESO-1-IgGは上記XAGE1-IgGの検出方法と同様の方法で検出した。
【0107】
<CT抗原若しくはp53に対する抗体の検出>
各CT抗原若しくはp53は、ビーズに固定化された状態で岡山大学より入手した(Bioconjugate Chem. 2015, 26, 2076-2084)。各CT抗原若しくはp53は、上記XAGE1抗体の検出方法と同様の方法で検出した。
【0108】
[試験例1]
<XAGE1-IgG及び XAGE1-IgA反応>
145例の進行期(cStageIIIB-IV)の肺腺癌患者から採取した血清について、がん抗原、XAGE1、MAGE-A3、SSX-2、NY-ESO-1及びTP53に対する特異的IgG及びIgAを検査した。
MAGE-A3は、ATgen社(韓国)より入手し、SSX-2は、ATgen社(韓国)より入手し、TP53は、RayBiotech(アメリカ)より入手した。NY-ESO-1(180個のアミノ酸、配列番号4)は、通常の方法により大腸菌を用いて作成した。それぞれの抗原に対する特異的IgG及びIgAの検出は、上記XAGE1-IgG及びXAGE1-IgAの検出方法と同様の方法で検出した。
【0109】
XAGE1-IgG陽性者は33例(22.7%)であり、その約半数の15例(10.3%)でXAGE1-IgA免疫応答を確認した(図1)。これは、肺癌で、高免疫原性を有すると言われるMAGE-A3、SSX-2、NY-ESO-1、TP53抗原に対する免疫応答よりもはるかに高頻度であった(各抗原に対するIgG反応:4.1%、1.4%、6.2%、8.3%、IgA反応:0.7%、0.7%、0.7%、4.1%)(図2)。なお、XAGE1-IgA陽性患者はすべてXAGE1-IgG陽性であった。
【0110】
[試験例2]
<サロゲートマーカーとしてのXAGE1-IgG、XAGE1-IgA反応>
XAGE1抗原が陽性の55例の肺腺癌患者から得られた血清について51種類のがん抗原への自己抗体反応を検査した結果(図3A)、XAGE1-IgG陽性かつXAGE1-IgA陰性群には、種々のがん抗原に対する免疫応答が観察され、XAGE1-IgG及びXAGE1-IgAが自己腫瘍に対する免疫応答のサロゲートマーカーになっていることが明らかになった。一方でXAGE1-IgA免疫応答の出現は、自己腫瘍に対する免疫応答が減弱していた(XAGE1-IgG陽性かつXAGE1-IgA陽性群)。さらに、XAGE1免疫陰性例(XAGE1-IgG陰性かつXAGE1-IgA陰性群)は、自己腫瘍に対する免疫応答はほとんど観察されなかった。
図3Bで示すように、XAGE1-IgG陽性かつXAGE1-IgA陰性者は、XAGE1-IgG陽性かつXAGE1-IgA陽性者に比べ、複数のがん抗原に免疫反応を有し、がんに対する免疫応答が潜在的に高い状態(免疫活性化状態)である。一方、XAGE1-IgG陽性かつXAGE1-IgA陽性者は、XAGE1-IgG陰性かつXAGE1-IgA陰性者より免疫活性が高い状態であるが、XAGE1-IgG陽性かつXAGE1-IgA陰性者より免疫活性が抑制されている状態である。
【0111】
免疫活性化状態と免疫抑制状態をもたらす原因として、腫瘍自体の性質がまず考えられる。肺腺癌患者145例の血清中の免疫抑制サイトカインを計測した結果を図4に示す。免疫抑制性のサイトカインであるTGF-βの値は、XAGE1免疫を有さない患者に比べ、XAGE1-IgG陽性かつXAGE1-IgA陰性者では有意に低値であり、XAGE1-IgG陽性かつXAGE1-IgA陽性者では同等であった。さらに予後不良因子であり、免疫疲弊の時に上昇するサイトカインであるIL-6の値は、XAGE1-IgG陽性かつXAGE1-IgA陰性者に比べXAGE1-IgG陽性かつXAGE1-IgA陽性者で有意に高く、XAGE1-IgG陽性かつXAGE1-IgA陰性者に比べXAGE1-IgG陽性かつXAGE1-IgA陽性者は免疫疲弊状態であると考えられる。
【0112】
さらに、がん局所の解析(図5)において、IgAB細胞が局所に高集積している患者では、がん局所において免疫を抑制する細胞である制御性T細胞の頻度が有意に高く(図5D)、そのような局所に集積するIgAB細胞自体が、免疫抑制性サイトカインであるIL-10を産生している(図5F)ことが示された。よって、IgAB細胞は、局所の免疫抑制および制御性T細胞の集積(局所のIL-10が集積に関与)に関与していると考えられる。また、 IgAB細胞に発現する免疫チェックポイント分子(T細胞機能を抑制する分子)を解析した結果、免疫チェックポイント分子であるPD-L1とGalectin-9を高発現したPD-L1GAL-9IgAB細胞が、がん局所に有意に集積していることが認められた(図6)。
【0113】
以上の結果より、XAGE1-IgGIgA患者では、腫瘍の遺伝子異常等により、免疫抑制性のサイトカイン(IL-6、IL-10など)が産生され、がん局所に免疫を抑制するようなIgAB細胞(制御性B細胞)が集積してくると考えられる。 IgAB細胞は、自身の産生するIL-10や、免疫チェックポイント分子による直接的なT細胞の機能抑制の他に、制御性T細胞を局所に集積させることによって間接的にも免疫を抑制していると考えられる。
【0114】
[試験例3]
<XAGE1免疫による化学療法の奏効率及び予後予測>
進行期肺腺癌145例の検討で、XAGE1-IgG、XAGE1-IgA、免疫応答なし、XAGE1発現なしを指標として生存曲線を解析した結果、XAGE1-IgG陽性かつXAGE1-IgA陰性群は、中央生存期間33.8ヶ月、XAGE1-IgG陽性かつXAGE1-IgA陽性群は、中央生存期間19.7ヶ月、免疫応答なし群(XAGE1-IgG陰性かつXAGE1-IgA陰性群)は、中央生存期間11.9ヶ月、XAGE1発現無し群は、中央生存期間13.6ヶ月であり、XAGE1-IgG陽性群が有意に中央生存期間を延長することが明らかになった。特に、XAGE1-IgG陽性かつXAGE1-IgA陰性群は中央生存期間の延長が顕著であった(図7)。
【0115】
これらの傾向はEGFR遺伝子変異陰性症例に顕著であり、EGFR遺伝子変異陰性の進行期肺腺癌101例の検討で、XAGE1-IgG陽性かつXAGE1-IgA陰性群は、中央生存期間32.0ヶ月、XAGE1-IgG陽性かつXAGE1-IgA陽性群は、中央生存期間16.0ヶ月、免疫応答なし群(XAGE1-IgG陰性かつXAGE1-IgA陰性群)は、中央生存期間15.4ヶ月、XAGE1発現無し群は、中央生存期間11.7ヶ月であった(図7)。
【0116】
さらに、EGFR遺伝子変異陰性であり、XAGE1抗原が発現している病変の測定が可能な36例の進行期肺腺癌患者では、XAGE1-IgG陽性かつXAGE1-IgA陰性群は、XAGE1-IgG陽性かつXAGE1-IgA陽性群や免疫応答なし群に比べ、初回化学療法の奏功率が有意に高いことが明らかとなった(図8)。
【0117】
以上のことより、XAGE1に対する免疫応答(XAGE1-IgG、XAGE1-IgA、免疫応答なし)を指標とすることで、化学療法の奏効率及び予後を明確に予測できることが明らかになった。
【0118】
[試験例4]
<免疫チェックポイント分子阻害薬の奏功例に対するバイオマーカーとしてのXAGE1及びNY-ESO-1免疫>
高免疫原性のXAGE1及びNY-ESO-1に対する免疫応答(XAGE1若しくはNY-ESO-1に対する免疫応答あり、免疫応答なし)を指標として、免疫チェックポイント分子阻害薬である抗PD-1抗体療法の効果について、53例の進行期非小細胞肺癌患者で検討した。患者の血清は抗PD-1抗体療法を始める概ね28日前に採血した。
XAGE1に対する免疫応答あり(XAGE1-IgG陽性)又はNY-ESO-1に対する免疫応答あり(NY-ESO-1-IgG陽性)群:16例
免疫応答なし群(XAGE1及びNY-ESO-1に対する抗体なし群):37例
【0119】
図9に標的病変の最大変化率を示す。XAGE1若しくはNY-ESO-1に対する免疫応答あり群で、ほとんどの症例で著明な標的病変の腫瘍縮小効果を認めたが、免疫応答なし群では、著明な腫瘍縮小効果は認められなかった。奏効率を図10に示す。XAGE1若しくはNY-ESO-1に対する免疫応答あり群では、CR(完全奏功):5例、PR(部分奏功):6例、SD(安定):3例、PD(病態進行):2例であった。免疫応答なし群では、PR:2例、SD:9例、PD:26例であった。また、XAGE1若しくはNY-ESO-1に対する免疫応答あり群と免疫応答なし群における無増悪生存期間(Progression-Free Survival)と全生存期間(Overall Survival)を図10に示す。無増悪生存期間と全生存期間は、免疫応答あり群と免疫応答なし群で顕著な差があることが明らかになった。
【0120】
[試験例5]
現在の指針では、免疫チェックポイント阻害薬は、EGFR遺伝子変異、EML-4/ALK融合遺伝子異常といったドライバー遺伝子変異を有する肺癌では、免疫療法の効果が少ないということで免疫療法は慎重に適応を決めるよう(控えるよう)に通達が来ている。しかしながら、EGFR遺伝子変異1名、EML-4/ALK融合遺伝子異常1名のXAGE1-IgG陽性かつXAGE1-IgA陰性の患者2名に免疫療法(免疫チェックポイント分子阻害薬である抗PD-1抗体療法)を施行した結果、EGFR遺伝子変異1名はSD、EML-4/ALK融合遺伝子異常1名は著効にて90%以上腫瘍が縮小した。現在の指針では見逃してしまう免疫療法(免疫チェックポイント分子阻害薬である抗PD-1抗体療法)著効症例を、XAGE1-IgGとXAGE1-IgAを指標とすることで、見逃すことなく治療することができる。
【0121】
以上のとおり、XAGE-IgG及びXAGE-IgAが存在するかどうかが、化学療法、免疫療法の予後に関与することが明らかであり、IgGとIgAセットで検査することが好適である。
【0122】
図11は、図3Aに示す結果をさらにXAGE1-IgG陽性かつXAGE1-IgA陰性群、XAGE1-IgG陽性かつXAGE1-IgA陽性群、XAGE1-IgG陰性かつXAGE1-IgA陰性群で各がん抗原に対する免疫反応を解析した結果を示す。図11が示すように、MAEL抗原およびp53抗原に対する免疫反応は、XAGE1-IgG陽性かつXAGE1-IgA陰性者に特異的に認められる。その為、抗MAEL抗体陽性者および抗p53抗体陽性者は、XAGE1-IgG陽性かつXAGE1-IgA陰性であり、免疫活性化状態である。
【0123】
また、抗p53抗体に対する免疫応答は、化学療法の効果及び免疫療法の効果を予測する。図12は、抗PD-1抗体療法の奏功例で、抗NY-ESO-1抗体、抗XAGE1抗体および抗p53抗体をモニターした。その結果、奏功例でp53抗原に対する免疫応答の増強が認められ、抗p53抗体の変動は、抗PD-1抗体療法の治療効果判定に有用である。
【0124】
<抗NY-ESO-1抗体、抗BAGE抗体および抗BORIS抗体>
抗PD-1抗体療法を実施した患者の治療前の血清を用いて、XAGE1およびNY-ESO-1抗体を含むがん抗原50種に対する免疫応答を解析した。XAGE1-IgGおよびNY-ESO-1-IgG陽性者は図13Aで示すように多抗原に対する免疫応答を有し免疫活性化状態である。また、図13Bで示すように、抗PD-1抗体に奏功した8例中3例で、BAGE抗原または、BORIS抗原に対する免疫反応が有意に陽性であり(非奏功例12例中0例)、抗BAGE抗体または、抗BORIS抗体の検出により抗PD-1療法の効果を予測し得る。
【0125】
<抗原スプレディング>
図14Aは、抗PD-1抗体療法による標的病変の変化率(マイナスは腫瘍縮小を意味する)とCT抗原に対する抗体(XAGE1-IgG及びNY-ESO-1-IgG)の抗体価との関係を示している。図14Bは、抗PD-1抗体療法による標的病変の変化率と治療後の多抗原に対する免疫反応の増強(抗原スプレディング)数との関係を示している。CT抗原に対する抗体価が高いほど抗PD-1療法の腫瘍の縮小率が高く、また様々なCT抗原に対する免疫反応の数が多い(抗原スプレディングが多い)ほど、抗PD-1療法の腫瘍の縮小率が高いことが明かになった。よって、複数のCT抗原に対する抗体を検出することにより、抗PD-1療法の効果を予測し得る。
【0126】
<抗MAGE-B3抗体、抗SSX4抗体>
図15Aは、抗PD-1抗体療法の前後における多抗原に対する免疫応答の差を示す。図15Bは、抗PD-1抗体療法の奏功例では、MAGE-B3抗原 及びSSX4抗原に対する免疫応答のスプレディングが高頻度に認められ、非奏功例には認められなかったことを示す。よって、抗MAGE-B3抗体、実際に抗SSX4抗体は、抗PD-1抗体療法の効果に重大な影響を及ぼす因子であり、治療効果予測に有用である。
【0127】
図16及び図17は、抗CCR4抗体+抗PD-1抗体、術前併用医師主導治験症例の完全奏功例であり、同一患者の画像と免疫反応を示す。図16は、SSX4抗原に対する免疫反応が観察されたことを示す。図17の画像は胸部CT画像であり、ベースラインの画像は、抗CCR4抗体+抗PD-1抗体投与前、3週および7週は、治験薬投与後かつ術前までのCT画像である。抗CCR4抗体は術前に4回、抗PD-1抗体は術前に3回投与し、手術は8週に行った。CT画像は、免疫療法により腫瘍が縮小していることを示す。本患者は、抗SSX4抗体陽性であり、免疫療法が著効した例である。このように免疫療法の効果を予測する方法として抗SSX4抗体の測定が有用である。
【0128】
[実施例2]
<XAGE1長鎖ペプチドの合成及び免疫応答誘導用組成物(ワクチン)の作製>
XAGE1の部分ペプチドである25アミノ酸残基を有する長鎖ペプチドSLP1及びSLP2を通常の方法でGMPグレードで株式会社ペプチド研究所にて合成した。SLP1は、XAGE1(81アミノ酸からなるタンパク質)の8位-32位からなるペプチドであり、SLP2は、44位-68位からなるペプチドである。SLP1及びSLP2の各々の純度は99%以上であることを確認している。
SLP1アミノ酸配列(配列番号1):NQQLKVGILHLGSRQKKIRIQLRSQ
SLP2アミノ酸配列(配列番号2):ISQTPGINLDLGSGVKVKIIPKEEH
上記で得られたSLP1及びSLP2を混合し、免疫応答誘導用組成物(ワクチン)を得た。
【0129】
<SLP1及びSLP2による細胞刺激>
a.細胞の分離
XAGE1抗体陽性患者(XAGE1-IgG陽性かつXAGE1-IgA陰性患者)の末梢血から比重遠心法によって単核球を得た。次いで、抗CD4抗体結合ビーズ及び抗CD8抗体結合ビーズ(ミリテニーバイオテク社製)を用いて、磁気細胞分離法(MACS、ミリテニーバイオテク社製)によって、順次CD8陽性細胞、CD4陽性細胞、及びCD4陰性CD8陰性細胞を分離した。
【0130】
b.SLP1若しくはSLP2特異的CD4陽性T細胞クローンの樹立
b1.CD4陽性T細胞1x10と40Gyの放射線照射済みのCD4陰性CD8陰性細胞1x10を、96穴Uボトムカルチャープレートで、2%血清入りAIM培養メディウム200μl(IL-2、IL-7を含む)で、SLP1及びSLP2各々1μM存在下で14日間刺激培養した。
以下の実験における培養においても、特に記載の無い限り、2%血清入りAIM培養メディウム200μl(IL-2、IL-7を含む)を用いた。
【0131】
b2.抗原提示細胞として利用するために、aで入手した患者CD4陽性T細胞の一部をPHAで刺激しT-APC細胞を調製した。
【0132】
b3.上記b1で14日間刺激培養した後の96穴プレートより、新たな96穴プレートに30μlずつSLP1及びSLP2再刺激用と未刺激用に採取し、抗原提示細胞として調整したT-APC 1x10(30μl)を各wellに添加した。さらに、SLP1及びSLP2再刺激用wellにSLP1及びSLP2が各1μMになるように添加し12時間再刺激した。
【0133】
b4.12時間後96wellの培養上清のIFNγをELISA法にて検出した。
【0134】
b5.SLP1及びSLP2で刺激した培養上清と未刺激の培養上清のIFNγ活性を比較し、活性が強いwellの中に、抗原特異的なT細胞が存在するので、そのwellを限界希釈法にてクローニングした。
【0135】
b6.クローニングした細胞を再度、b3~b5の方法にてスクリーニングし、SLP1若しくはSLP2特異的CD4陽性T細胞クローン(以下、CD4クローンともいう)を選別して、複数のT細胞クローンを得た。
【0136】
b7.得られたクローンT細胞は、PHA刺激にて細胞を増殖させ、凍結保存した。得られたCD4クローンの1つが4C34-1である。
【0137】
c.SLP1若しくはSLP2特異的CD8陽性T細胞クローンの樹立方法
SLP1若しくはSLP2特異的CD8陽性T細胞クローン(以下、CD8クローンともいう)を上記bと同様に調製した。得られたCD8クローンの1つが8C34TYである。
【0138】
d.得られたクローンT細胞のSLP1及びSLP2への反応及びエピトープ解析
上記bで得られたCD4クローン4C34-1、及び上記cで得れたCD8クローン8C34TYについて解析した。
XAGE1のアミノ酸配列の一部からなる20のペプチドを合成した。各々のアミノ酸配列は配列番号5~24に示す。また、各ペプチドのXAGE1のアミノ酸配列上の位置については、配列表と図19に示すとおりである。ペプチド合成は通常の合成法によりPHジャパン(日本)において合成した。純度は各々95%以上である。
CD4クローン若しくはCD8クローンのT細胞2x10を、同数のT-APCと共に、各々のペプチドが1μMになるように12時間刺激培養し、上清のIFNγをELISA法にて検出した。
結果を図19に示す。CD4クローンである4C34-1はSLP2(44-68)の中でも、52-68位のアミノ酸を認識していた。また、CD8クローンである8C34TYはSLP1(8-32)と19-33位のアミノ酸を認識し、この中にエピトープが存在すると考えられる。
【0139】
SLP1及びSLP2で、抗XAGE1抗体陽性患者の末梢血単核球を刺激培養することで、SLP1及びSLP2を認識する複数のCD4T細胞及びCD8T細胞の検出に成功した。このことは、SLP1及びSLP2ワクチンが、T細胞が認識するエピトープワクチンと違い、種々のエピトープを含む多抗原性のがんワクチンであることを示す。
【0140】
<SLP1及びSLP2の併用療法の有用性>
CD4クローン(4C34-1)T細胞1x10を、同数のT-APCと共に、SLP1単独(1μM)、SLP2単独(1μM)、又は各のペプチド併用(各1μM)で12時間刺激培養し、上清のIFNγをELISA法にて検出した(図20)。CD4クローンのT細胞はSLP2を認識した。
同様にCD8クローン(8C34TY)T細胞1x10を、同数のT-APCと共に、SLP1単独(1μM)、SLP2単独(1μM)、又は各のペプチド併用(各1μM)で12時間刺激培養し、上清のIFNγをELISA法にて検出した(図20)。CD8クローンのT細胞はSLP1を認識していた。
【0141】
そこで、CD4クローン(4C34-1)T細胞1x10とCD8クローン(8C34TY)T細胞1x10を同数のT-APCと共に、SLP1単独(1μM)、SLP2単独(1μM)、又は各のペプチド併用(各1μM)で12時間刺激培養し、上清のIFNγをELISA法にて検出したところ、SLP1とSLP2を併用することで、反応が上昇した。
ヒトの末梢血には、CD4陽性T細胞のみ、CD8陽性T細胞のみ存在するということはないので、SLP1単独、SLP2単独ではなく、SLP1とSLP2の併用がより強い免疫応答を誘導することが可能である。
【0142】
<IgG免疫の誘導能>
上記aで得られた末梢血単核球1x10を、CD4クローン4C34-1T細胞2x10、CD8クローンC34TYT細胞2x10及びProtein Transport Inhibitor Cocktail(eBioscienc社、アメリカ)存在下(500倍希釈)で、SLP1単独(1μM)、SLP2単独(1μM)、又は各ペプチド併用(各1μM)で12時間刺激培養した。
フローサイトメトリー法にてB細胞にゲートし、それぞれのペプチド刺激下でのB細胞表面上のIgG若しくはIgAを検出した(図21)。B細胞表面上のIgGは、SLP1及びSLP2を併用することで発現の上昇を認めた。一方でIgAの発現量には変化はなかった。
【0143】
次に、上記aと同一の患者血清から分離したB細胞1x10を、CD4クローン4C34-1T細胞2x10とCD8クローン8C34TYT細胞2x10と共に、SLP1単独(1μM)、SLP2単独(1μM)、又は各ペプチド併用(各1μM)で72時間刺激培養した。
【0144】
その培養上清中に存在するXAGE1特異的抗体を検出したところ、SLP1とSLP2を併用した場合に、XAGE1-IgGの検出を認め、IgAは認められなかった(図22)。
【0145】
以上のとおり、抗XAGE1抗体陽性患者の末梢血単核球を、in vitroで、SLP1とSLP2を併用して刺激することで、B細胞より抗原特異的なIgGを検出した。よって、SLP1及びSLP2を含有する組成物は、XAGE1-IgGの産生を誘導でき、がんに対する免疫応答を誘導できるがんワクチンである。XAGE1-IgG陽性は、治療奏功群かつ予後良好群である為、SLP1及びSLP2を含有する組成物は、患者を治療奏功かつ予後良好に導くことができる。
【0146】
<安全性>
SLP1およびSLP2の混合物をアジュバントとともにSprague-Dawley系ラット(Crl:CD(SD)、投与開始時6週齢、1群雌雄各10匹)の背部皮下に10週間反復投与(14日おきに5回間歇投与)し、毒性試験を行った。
【0147】
被験物質の投与量は、0.2mg/kg(SLP1:0.2mg/kg+SLP2:0.2mg/kg)及び2mg/kg(SLP1:2mg/kg+SLP2:2mg/kg)の2用量とした。注射用水及びピシバニールに溶解させたSLP1及びSLP2を等量のオイルアジュバントMONTANIDE ISA 51 VG(ISA51)と混和し、エマルジョンとし、1mL/kgの投与容量で背部皮下に投与した。更に、注射用水及びピシバニールとISA51のエマルジョンを投与する媒体対照群と生理食塩液を投与する生理食塩液対照群を設けた。
【0148】
投与期間中、一般状態観察、体重測定及び摂餌量測定を行い、投与10週に尿検査及び眼科学検査を行った。投与期間終了時には、血液学検査、血液化学検査、剖検、器官重量測定及び病理組織学検査を行った。
被験物質投与に起因する死亡はみられず、いずれの検査においても被験物質投与による変化はみられなかった。
【0149】
なお、投与部位(背部皮下)において、媒体対照群及び被験物質投与群の雌雄ほぼ全例に投与物質の残留によると考えられる白色巣が剖検でみられ、病理組織学的には投与物質の貯留とともに、リンパ球/プラズマ細胞及び組織球の浸潤並びに線維化がみられた。また、媒体対照群の雌少数例では好中球浸潤もみられた。しかし、被験物質投与群における変化はいずれも媒体投与群と同程度であり、SLP1及びSLP2による変化の増強は認められなかった。
【0150】
アジュバントに起因する投与部位皮下の炎症反応がみられたが、SLP1及びSLP2による増強は認められず、被験物質投与に起因する毒性学的意義のある変化はみられなかった。したがって、本試験におけるSLP1及びSLP2の無毒性量は雌雄ともに2mg/kgを上回ると考えられた。
【0151】
<ヒト用ワクチンの作製>
SLP1およびSLP2をアジュバントOK432ピシバニールと共にモンタナイド(ISA51、SEPPIC製)でエマルジョン化して、免疫応答誘導用組成物を得た(以下、XAGE1ワクチンともいう)。より具体的には、GMPグレードで作成した二種の長鎖ペプチドからなる混合ペプチドを3段階の用量で用意した。
低用量:500μg(SLP1:250μg+SLP2:250μg)
中用量:1mg(SLP1:500μg+SLP2:500μg)
高用量:2mg(SLP1:1mg+SLP2:1mg)
これら混合ペプチドをOK432(中外製薬)0.2KEと共に1.25mlの生食に混和し、モンタナイド1.25mlによりエマルジョン化した。
【0152】
<安全性(第一相臨床試験)>
上記XAGE1ワクチンを進行期肺腺がん患者に対して投与した。本試験は、主目的として安全性を確認し、副次目的として試験薬の投与に伴うXAGE1抗体価の変動を検討する第I相臨床試験である。本臨床試験は、「ヘルシンキ宣言」、「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」およびXAGE1ワクチン臨床試験実施計画書に則り実施したが、ICH E6(R1)-GCP(Guideline for Good Clinical Practice)に可能な限り準拠した。
【0153】
試験は、進行期または術後再発の肺腺がんを対象に、上記3段階の用量のXAGE1ワクチン用いて行った。XAGE1ワクチンは、毎回、四肢の異なる部位2ヵ所に投与した。投与は、2週間隔で計4回行った。各用量は3例ずつ投与を行った。
【0154】
安全性に関しては、有害事象の種類・頻度・程度を観察した。有害事象のgradingは、Common Terminology Criteria for Adverse Events(CTCAE) v4.0日本語訳JCOG版を用いる。有害事象はCTCAE v4.0に従い、判定を行った。尚有害事象の観察期間は、試験薬初回投与日から最終投与6週後(個々の試験の終了)までとした。
【0155】
低用量群の3例、中用量群の3例および高用量群の1例の計7例で安全性に関する評価が終了した。表1で示すように、XAGE1ワクチンによる有害事象は、すべて軽微であり重篤な有害事象は観察されなかった。
【0156】
【表1】
【0157】
<XAGE1ワクチンの有効性について>
1.XAGE1-IgGの誘導
XAGE1ワクチンの投与により、7例中4例でXAGE1-IgG抗体価の上昇を認め、XAGE1-IgAおよびNY-ESO-1-IgGは誘導されなかった(図23)。
a.XAGE1ワクチン低用量群3例中2例でXAGE1-IgG抗体価の上昇を認めた。
b.XAGE1ワクチン中用量群3例中2例でXAGE1-IgG抗体価の上昇を認めた。
c.XAGE1-IgAは治療前より7例中1例で陽性(KMX-01)であったが、その他は陰性であった。XAGE1ワクチンによって、XAGE1-IgA抗体価の上昇は認められなかった。
以上より、in vitroで観察された、SLP1およびSLP2によるXAGE1-IgG免疫の特異的な誘導が、in vivoでも観察された。
【0158】
2.腫瘍マーカー
図24で示すように、腫瘍マーカーの上昇抑制または低下が、7例中4例で観察された。
a.XAGE1ワクチン低用量群3例中2例で腫瘍マーカーの上昇抑制を認めた。
b.XAGE1ワクチン中用量群3例中2例で腫瘍マーカーの低下を認めた。
c.XAGE1-IgG抗体価が上昇した4例中3例で、腫瘍マーカーの上昇抑制もしくは低下が認められた。一方、XAGE1-IgG抗体価の上昇が認められなかった3例中2例で腫瘍マーカーの上昇が観察された。
以上より、XAGE1ワクチンによって腫瘍マーカーの上昇抑制もしくは低下が観察された。
【0159】
2.抗原特異的T細胞の誘導
低用量投与の患者及び中用量投与の患者の末梢血よりCD4陽性T細胞を分離し、XAGE1ワクチン投与による抗原特異的T細胞の誘導について調べた。低用量投与の患者及び中用量投与の患者とも、SLP1とSLP2の併用刺激により、IFN-γが産生され、SLP1抗原及びSLP2抗原に反応性のT細胞が誘導されていることが証明された(図25図26)。
【0160】
中用量投与の患者においては、SLP1およびSLP2の単独刺激によりIFNγの産生が認められた。これらはSLP1およびSLP2が、複数のエピトープを含んでいることの証明であり、XAGE1ワクチンがSLP1単独ワクチン及びSLP2単独ワクチンより有用であることを示す。また、SLP1とSLP2の併用刺激より、より強いIFNγの産生が確認できた(図26)。
【0161】
以上より、SLP1およびSLP2を含むXAGE1ワクチンは、がん患者において、抗原特異的なT細胞を誘導できるワクチンであり、かつ、 複数のエピトープを含む多抗原性ワクチンでもあり、SLP1およびSLP2を混合することにより、より強い免疫応答を誘導できるワクチンであることがin vivoで証明された。
【0162】
実験プロトコールは以下のとおりである。
a)ワクチン投与開始後12週目の末梢血から比重遠心法によって単核球分画を得た。次いで、抗CD4抗体結合ビーズ、抗CD8抗体結合ビーズおよび抗CD19抗体結合ビーズ(ミリテニーバイオテク社製)を用いて、磁気細胞分離法(MACS、ミリテニーバイオテク社製)によって、順次CD8陽性分画、CD4陽性分画、CD19陽性分画およびCD4CD8CD19分画を分離した.
【0163】
b)CD4陽性T細胞1x10個と、抗原提示細胞として、同数のX線照射(60Gy)CD4CD8T細胞とを、SLP1及びSLP2 各々1μM存在下で、96ウェルプレートを用いてCOインキュベーター内で12日間共培養した。T細胞を培養するための培地としては、特に記載がない場合は、5%プール血清/AIM-V(IL-2 10IU/ml、IL-7 10ng/ml)を用いた。
【0164】
c)IFN-γ産生細胞の検出
刺激培養で増殖した抗原特異的なT細胞が含まれる細胞集団に、以下のように二次刺激を行い、抗原特異的なサイトカインの産生を検出した。
刺激培養した後の細胞に、これと同数の自己のEBV-B細胞(エプスタイン・バール・ウイルス感染B細胞:抗原提示細胞として利用)及び、ペプチド(SLP1、SLP2若しくはSLP1+SLP2)を加え、37℃で4時間、COインキュベーター内で二次刺激を行った。コントロールは、ペプチドを加えずに、37℃で4時間、COインキュベーター内で二次刺激を行った。
【0165】
その後、ヒトIFN-γキャッチ抗体(ミリテニーバイオテク社製)2μlを用いて培養細胞を標識するために、培養細胞を10mlのAIM-V培地に懸濁し、ローテーター(マックスミックス、ミリテニーバイオテク社製)を用いて懸濁しながら37℃で45分間、COインキュベーター内で反応させた。細胞を洗浄した後に、PE標識ヒトIFN-γ抗体(ミリテニーバイオテク社製)2μl、7AAD(BD社製)2μl、FITC標識抗ヒトCD4抗体またはFITC標識抗ヒトCD8抗体(ミリテニーバイオテク社製)1μlを加えて染色した。
染色後、FACS buffer(1%FCS/PBS,0.02%アジ化ナトリウム)を加えて細胞を洗浄し、FACS Calibur(BD社製)を用いてフローサイトメトリーを行い、IFN-γ産生細胞を検出した。IFN-γ産生細胞の頻度は、データ解析ソフト(FlowJo,Tree Star社製)を用いて解析した。結果を図25及び図26に示す。
【産業上の利用可能性】
【0166】
本発明の検出方法は、がん治療の効果を予測することができ、がん治療の可能性を広げるものである。また、医療経済にも貢献する。また、本発明の免疫応答誘導用組成物は、直接にがんの治療に用いることができるほか、化学療法、免疫療法、免疫チェックポイント阻害薬による治療の効果を増強させ、治療無効を治療有効に導くことができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
【配列表】
0007216420000001.app