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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-24
(45)【発行日】2023-02-01
(54)【発明の名称】新規の抗TrkB抗体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20230125BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230125BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20230125BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20230125BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20230125BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20230125BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230125BHJP
   A61P 25/06 20060101ALI20230125BHJP
   A61P 25/08 20060101ALI20230125BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20230125BHJP
   A61P 25/22 20060101ALI20230125BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20230125BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20230125BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20230125BHJP
   A61P 27/06 20060101ALI20230125BHJP
   A61P 27/16 20060101ALI20230125BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20230125BHJP
   C07K 16/42 20060101ALI20230125BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20230125BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230125BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230125BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230125BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230125BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230125BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20230125BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20230125BHJP
【FI】
C12N15/13
A61K39/395 N
A61P3/00
A61P3/04
A61P3/10
A61P21/00
A61P25/00
A61P25/06
A61P25/08
A61P25/18
A61P25/22
A61P25/24
A61P25/28
A61P27/02
A61P27/06
A61P27/16
C07K16/28
C07K16/42
C07K16/46
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N15/63 Z
C12P21/08
C12N15/12 ZNA
【請求項の数】 28
(21)【出願番号】P 2019550560
(86)(22)【出願日】2018-03-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-05-21
(86)【国際出願番号】 CN2018079109
(87)【国際公開番号】W WO2018166495
(87)【国際公開日】2018-09-20
【審査請求日】2021-03-12
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2017/076728
(32)【優先日】2017-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】513106923
【氏名又は名称】チンファ ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】Tsinghua University
【住所又は居所原語表記】Tsinghua Park,Haidian District, Beijing 100084,People’s Republic of China
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100135415
【弁理士】
【氏名又は名称】中濱 明子
(72)【発明者】
【氏名】ルー,バイ
(72)【発明者】
【氏名】グオ,ウェイ
(72)【発明者】
【氏名】ヤオ,ホンヤン
【審査官】長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/103667(WO,A1)
【文献】特表2008-545781(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/13
A61K 39/395
A61P 3/00
A61P 3/04
A61P 3/10
A61P 21/00
A61P 25/00
A61P 25/06
A61P 25/08
A61P 25/18
A61P 25/22
A61P 25/24
A61P 25/28
A61P 27/02
A61P 27/06
A61P 27/16
C07K 16/28
C07K 16/42
C07K 16/46
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/21
C12N 5/10
C12N 15/63
C12P 21/08
C12N 15/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離されたトロポミオシン受容体キナーゼB(TrkB)アゴニスト抗体またはその抗原結合フラグメントであって、
1)配列番号48~50の3つの重鎖CDR配列、および配列番号45~47の3つの軽鎖CDR配列;または
2)配列番号40~42の3つの重鎖CDR配列、および配列番号37~39の3つの軽鎖CDR配
含む、上記抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項2】
配列番号52、44たはそれらのヒト化型からなる群から選択される重鎖可変領域を含む、請求項1に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項3】
配列番号51、43たはそれらのヒト化型からなる群から選択される軽鎖可変領域を含む、請求項1または2に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項4】
前記抗体がTrkBに結合すると、TrkBは、TrkBのY515、Y701、Y705、Y706およびY816の少なくとも1つのアミノ酸残基でリン酸化される、請求項1~3のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項5】
少なくとも12時間の半減期(T1/2 )を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項6】
3nM未満のEC50を有する、請求項1~のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項7】
ビアコアによって測定した場合、4.5nM未満のK値のTrkBに対する親和性を有する、請求項1~のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項8】
P75ニューロトロフィン受容体(P75NTR)、チロシン受容体A(TrkA)またはチロシン受容体C(TrkC)に結合しない、請求項1~のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項9】
神経細胞の生存を強化すること、シナプスの発生および/または可塑性を強化すること、軸索突起の伸長を強化すること、またはそれらの組合せが可能である、請求項1~のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項10】
前記神経細胞が、PC12細胞、海馬ニューロン、網膜神経節細胞、運動ニューロン、およびドーパミン作動性ニューロンを含む、請求項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項11】
二重特異性抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、モノクローナル抗体、組換え抗体、標識された抗体、2価抗体、または抗イディオタイプ抗体である、請求項1~10のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項12】
イアボディ、scFv、scFv二量体、BsFv、dsFv、(dsFv)2、dsFv-dsFv’、Fvフラグメント、Fab、Fab’、F(ab’)2、およびdsダイアボディからなる群から選択される抗原結合フラグメントである、請求項1~11のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項13】
治療有効量の請求項1~12のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントおよび製剤用担体を含む医薬組成物。
【請求項14】
BDNFおよび/またはNT-4を含む第2の治療剤をさらに含む、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
請求項1~12のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントをコードするポリヌクレオチド。
【請求項16】
請求項15に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項17】
請求項16に記載のベクターを含む単離された宿主細胞。
【請求項18】
前記ポリヌクレオチドによってコードされた抗体またはその抗原結合フラグメントを生産する、請求項17に記載の宿主細胞。
【請求項19】
TrkBに関連する状態を診断すること、予防すること、遅らせること、または治療することにおいて用いるための、請求項1~12のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントまたは請求項13または14に記載の医薬組成物を含むキット。
【請求項20】
TrkBに特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントを生産する方法であって、請求項15のポリヌクレオチドを宿主細胞に導入すること、および該ポリヌクレオチドが発現される条件下で該宿主細胞を培養することを含む、上記方法。
【請求項21】
TrkBに関連する状態を治療すること、またはそのリスクを低減するための、請求項13または14に記載の医薬組成物。
【請求項22】
前記状態が、神経変性疾患、視神経症、網膜変性状態、聴力損失を伴う障害、精神障害、神経発達障害、体重の調節の障害、筋障害、代謝性疾患または脳傷害である、請求項21に記載の医薬組成物。
【請求項23】
前記状態が、アルツハイマー病(AD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、緑内障、ハンチントン病(HD)、パーキンソン病(PD)、運動ニューロン疾患、レヴィ小体病、脊髄性筋萎縮症、多系統萎縮症、認知症およびタウオパチー、前部虚血性視神経症(AION)、後部虚血性視神経症、放射線視神経症、圧迫性視神経症、ミトコンドリア性視神経症、中毒性視神経症、外傷性視神経症、遺伝性視神経症、視神経炎、加齢性黄斑変性症、網膜色素変性症、神経性難聴、迷路性難聴、耳鳴り、感覚神経聴力損失、複合型の聴力損失、不安、気分障害、うつ病、パニック障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、双極性障害、統合失調症、アンジェルマン症候群、プラダー-ウィリー症候群、自閉性障害、レット症候群、思春期やせ症、悪液質、不要な体重の減少、サルコペニア、肥満症、オピオイドによって誘発された嘔吐、糖尿病性神経障害、てんかん、多発性硬化症、片頭痛、神経傷害、末梢神経障害、神経筋疾患、睡眠障害、外傷性脳傷害(TBI)および卒中からなる群から選択される、請求項21に記載の医薬組成物。
【請求項24】
細胞分化および/またはシナプスの発生を強化する方法であって、請求項1~12のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントまたは請求項13または14に記載の医薬組成物を、TrkBを発現する生体サンプルと接触させることを含む、上記方法。
【請求項25】
神経傷害の修復および/または軸索突起の分岐を強化する方法であって、請求項1~12のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントまたは請求項13または14に記載の医薬組成物を、TrkBを発現する生体サンプルと接触させることを含む、上記方法。
【請求項26】
細胞のアポトーシスおよび/またはネクロトーシスを予防する方法であって、請求項1~12のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントまたは請求項13または14に記載の医薬組成物を、TrkBを発現する生体サンプルと接触させることを含む、上記方法。
【請求項27】
細胞生存を強化する方法であって、請求項1~12のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントまたは請求項13または14に記載の医薬組成物を、TrkBを発現する生体サンプルと接触させることを含む、上記方法。
【請求項28】
対象におけるTrkBに関連する状態を治療すること、またはそのリスクを低減するための医薬であって、細胞表面上で請求項1~12のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントを発現する細胞を含む、上記医薬
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001]本発明の開示は、全般的に、ヒトTrkBに特異的に結合する新規の抗TrkB抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
[0002]神経変性疾患は、最もよく知られた神経疾患であるが、その医療介入はほとんど進歩していない。アルツハイマー病(AD)は、破滅的な疾患として、ますます多くの患者と家族において大きな重荷になっているが、それに対応する創薬は大きな問題に直面している。病原性の毒素(アミロイドβ)を標的化するAD治療の現在の戦略は失敗に終わっている。それゆえに本発明者らは、目的意識を病態生理学に切り替え、神経修復のための候補として、神経栄養因子、例えばBDNFを活用しようと努めている。これらの神経栄養因子は、ニューロンの発達、生存およびシナプス可塑性において有意な役割を果たし、したがって神経疾患の治療において最も可能性の高い分子とみなされている。しかしながら、これらの天然産物には、治療剤としてのそれらの使用を妨げるその生化学的特性に基づき限界がある。わずかな臨床試験も全て残念な結果に終わっている。
【発明の概要】
【0003】
[0003]本発明の開示で提供されるTrkBに特異的な抗体は、受容体の二量体化を容易にし、神経分化誘導性の特性を有する下流シグナル伝達経路を活性化することができる。スクリーニング後、優れた薬物動態学と低い有効濃度を有する抗体を候補抗体薬物として選択することができる。これらの候補は、生物学的機能を呈示するが、以下の点でBDNFより優れている:(1)物理化学的な特性:TrkBアゴニスト抗体(TrkB-AgoAb)は標的に容易に拡散するが、BDNFは拡散するには粘性が高すぎる;(2)特異性:BDNFは、TrkBだけでなくp75NTRも活性化し、それによりニューロンの死とシナプス阻害を引き起こすが、それに対してTrkB-AgoAbはTrkBに特異的である;(3)薬物動態:BDNFの半減期は数時間であるが、TrkB-AgoAbでは数週間である;(4)TrkB-AgoAbは、BDNFより製造コストがかなり低い。本発明の開示は、抗体のスクリーニング、選択、ならびにTrkB-AgoAbの生物学的および医薬特性評価を提供する。また本発明の開示では、複数の神経障害におけるTrkB-AgoAbのインビトロおよびインビボの作用の両方も試験した。TrkB-AgoAbは、AD、卒中および他の神経変性疾患、例えばALS、緑内障、ハンチントン病などの治療において臨床的に使用することができる。
【0004】
[0004]本発明の開示は、新規のモノクローナルTrkBアゴニスト抗体、それをコードするポリヌクレオチド、それを使用する方法、およびそれらのヒトTrkBタンパク質と結合するエピトープを提供する。
【0005】
[0005]本発明の開示は、TrkBの細胞外ドメインの1つに含有されるエピトープに結合し、TrkBを活性化することが可能である単離されたTrkBアゴニスト抗体であって、該細胞外ドメインは、TrkBの、配列番号2の配列を有する細胞外D1ドメイン、配列番号3の配列を有するD2ドメイン、配列番号4の配列を有するD3ドメイン、配列番号5の配列を有するD4ドメイン、配列番号6の配列を有するD5ドメイン、および配列番号7の配列を有する膜近傍のドメインを含む、上記抗体を提供する。
【0006】
[0006]特定の実施態様において、抗体は、膜近傍のドメインに含有されるエピトープに結合し、配列番号8の配列を有する短縮化されたTrkBを活性化することが可能である。
【0007】
[0007]本発明の開示は、本明細書で開示される抗体と同じエピトープに結合するか、または本明細書で開示される抗体と競合結合する、本明細書で提供される単離されたTrkBアゴニスト抗体を提供する。
【0008】
[0008]特定の実施態様において、単離されたTrkBアゴニスト抗体であって、配列番号9~26、29~34、37~42、45~50、53~58、61~66、および69~74から選択される1、2、3、4、5もしくは6つのCDR、またはそれらの少なくとも80%(例えば少なくとも85%、88%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%)の配列同一性を有する相同体を含む、上記抗体が本明細書で提供される。特定の実施態様において、本明細書で提供されるTrkB抗体は、1)配列番号12~14、またはその少なくとも80%(例えば少なくとも85%、88%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%)の配列同一性を有する相同体;2)配列番号18~20、またはその少なくとも80%(例えば少なくとも85%、88%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%)の配列同一性を有する相同体;3)配列番号24~26、またはその少なくとも80%(例えば少なくとも85%、88%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%)の配列同一性を有する相同体;4)配列番号32~34、またはその少なくとも80%(例えば少なくとも85%、88%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%)の配列同一性を有する相同体;5)配列番号40~42、またはその少なくとも80%(例えば少なくとも85%、88%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%)の配列同一性を有する相同体;6)配列番号48~50、またはその少なくとも80%(例えば少なくとも85%、88%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%)の配列同一性を有する相同体;7)配列番号56~58、またはその少なくとも80%(例えば少なくとも85%、88%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%)の配列同一性を有する相同体;8)配列番号64~66、またはその少なくとも80%(例えば少なくとも85%、88%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%)の配列同一性を有する相同体;または9)配列番号72~74、またはその少なくとも80%(例えば少なくとも85%、88%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%)の配列同一性を有する相同体からなる群から選択される3つの重鎖CDR配列を含む。
【0009】
[0009]特定の実施態様において、本明細書で提供されるTrkB抗体は、1)配列番号9~11、またはその少なくとも80%(例えば少なくとも85%、88%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%)の配列同一性を有する相同体;2)配列番号15~17、またはその少なくとも80%(例えば少なくとも85%、88%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%)の配列同一性を有する相同体;3)配列番号21~23、またはその少なくとも80%(例えば少なくとも85%、88%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%)の配列同一性を有する相同体;4)配列番号29~31、またはその少なくとも80%(例えば少なくとも85%、88%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%)の配列同一性を有する相同体;5)配列番号37~39、またはその少なくとも80%(例えば少なくとも85%、88%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%)の配列同一性を有する相同体;6)配列番号45~47、またはその少なくとも80%(例えば少なくとも85%、88%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%)の配列同一性を有する相同体;7)配列番号53~55、またはその少なくとも80%(例えば少なくとも85%、88%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%)の配列同一性を有する相同体;8)配列番号61~63、またはその少なくとも80%(例えば少なくとも85%、88%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%)の配列同一性を有する相同体;または9)配列番号69~71、またはその少なくとも80%(例えば少なくとも85%、88%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%)の配列同一性を有する相同体からなる群から選択される3つの軽鎖CDR配列を含む。
【0010】
[0010]特定の実施態様において、単離されたTrkBアゴニスト抗体であって、1)配列番号12~14、または1、2または3つのアミノ酸改変を有するそのバリアント;2)配列番号18~20、または1、2または3つのアミノ酸改変を有するそのバリアント;3)配列番号24~26、または1、2または3つのアミノ酸改変を有するそのバリアント;4)配列番号32~34、または1、2または3つのアミノ酸改変を有するそのバリアント;5)配列番号40~42、または1、2または3つのアミノ酸改変を有するそのバリアント;6)配列番号48~50、または1、2または3つのアミノ酸改変を有するそのバリアント;7)配列番号56~58、または1、2または3つのアミノ酸改変を有するそのバリアント;8)配列番号64~66、または1、2または3つのアミノ酸改変を有するそのバリアント;または9)配列番号72~74、または1、2または3つのアミノ酸改変を有するそのバリアントからなる群から選択される1、2、3、4、5または6つのCDRを含む、上記抗体が本明細書で提供される。
【0011】
[0011]特定の実施態様において、本明細書で提供されるTrkB抗体は、1)配列番号9~11、または1、2または3つのアミノ酸改変を有するそのバリアント;2)配列番号15~17、または1、2または3つのアミノ酸改変を有するそのバリアント;3)配列番号21~23、または1、2または3つのアミノ酸改変を有するそのバリアント;4)配列番号29~31、または1、2または3つのアミノ酸改変を有するそのバリアント;または5)配列番号37~39、または1、2または3つのアミノ酸改変を有するそのバリアント;6)配列番号45~47、または1、2または3つのアミノ酸改変を有するそのバリアント;7)配列番号53~55、または1、2または3つのアミノ酸改変を有するそのバリアント;8)配列番号61~63、または1、2または3つのアミノ酸改変を有するそのバリアント;または9)配列番号69~71、または1、2または3つのアミノ酸改変を有するそのバリアントからなる群から選択される3つの軽鎖CDR配列を含む。
【0012】
[0012]特定の実施態様において、本明細書で提供される単離されたTrkBアゴニスト抗体は、配列番号28、36、44、52、60、68、76またはそれらのヒト化型からなる群から選択される重鎖可変領域を含む。特定の実施態様において、本明細書で提供される単離されたTrkBアゴニスト抗体は、配列番号27、35、43、51、59、67、75またはそれらのヒト化型からなる群から選択される軽鎖可変領域を含む。
【0013】
[0013]特定の実施態様において、単離されたTrkBアゴニスト抗体は、BDNFおよび/またはNT-4の場合とは異なるエピトープまたは異なるドメイン(例えばTrkBのD1、D2、D3、D4または膜近傍のドメイン)に結合することによって、相加効果でTrkBを活性化することが可能であり、ここで相加効果は、TrkBがBDNFおよび/またはNT-4によるピークの活性化状態のときに、本抗体によって追加のTrkB活性化の増加がもたらされることである。BDNF結合のためのTrkB上のエピトープは、Asp349、Asn350、Tyr329、Asp298、Cys302、Cys345およびHis299を包含する。特定の実施態様において、BDNFと異なるエピトープは、TrkBのD1、D2、D3、D4、D5または膜近傍のドメイン内である。
【0014】
[0014]特定の実施態様において、抗体がTrkBに結合すると、TrkBは、TrkBの、Tyr515(すなわちY515)、Tyr701(すなわちY701)、Tyr705(すなわちY705)、Tyr706(すなわちY706)、Tyr816(すなわちY816)、Tyr490(すなわちY490)、Tyr670(すなわちY670)、Tyr674(すなわちY674)、Tyr675(すなわちY675)、Tyr771(すなわちY771)、Tyr783(すなわちY783)、Tyr785(すなわちY785)、Tyr1254(すなわちY1254)の少なくとも1つのアミノ酸残基で、自己リン酸化される。
【0015】
[0015]特定の実施態様において、本抗体によるTrkBの活性化は、BDNFおよび/またはNT-4によるTrkBの活性化より低い。特定の実施態様において、本抗体によるTrkBの活性化は、TrkB自己リン酸化のレベル、MAPK、PI3KまたはPLCγのシグナル伝達経路におけるリン酸化のレベル、またはそれらの組合せによって決定した場合、BDNFおよび/またはNT-4によるTrkBの活性化の、5%~100%(例えば80%~100%、70%~100%、60%~100%、50%~100%、40%~100%、30%~100%、20%~100%、10%~100%、100%、90%、80%、70%、60%、50%、40%、30%、20%、10%、または5%)である。
【0016】
[0016]特定の実施態様において、本明細書で提供される単離されたTrkBアゴニスト抗体は、少なくとも12時間の(例えば13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、36、42、48時間の、またはそれより長い)半減期(T1/2)で、TrkBまたはその細胞外ドメイン(例えば、D1~D5ドメイン)に結合することが可能である。
【0017】
[0017]特定の実施態様において、本明細書で提供される単離されたTrkBアゴニスト抗体は、TrkBまたはその細胞外ドメイン(例えば、D1~D5ドメイン)に結合することに関して、4nM未満(例えば3.5nM未満、3nM未満、2.5nM未満、2nM未満、1.5nM未満、1nM未満、0.5nM未満、0.4nM未満、0.3nM未満、0.2nM未満、または0.1nM未満)のEC50を有する。特定の実施態様において、本明細書で提供される単離されたTrkBアゴニスト抗体は、ビアコア(Biacore)によって測定した場合、4.5nM未満(例えば4nM未満、3.5nM未満、3nM未満、2.5nM未満、2nM未満、1.5nM未満、1nM未満、0.5nM未満、0.4nM未満、0.3nM未満、0.2nM未満、0.1nM未満、0.09nM未満、0.08nM未満、0.07nM未満、0.06nM未満、または0.05nM未満)のK値の、TrkBまたはその細胞外ドメイン(例えば、D1~D5ドメイン)への親和性を有する。
【0018】
[0018]特定の実施態様において、本明細書で提供される単離されたTrkBアゴニスト抗体は、P75ニューロトロフィン受容体(P75NTR)、チロシン受容体A(TrkA)またはチロシン受容体C(TrkC)に結合しない。
【0019】
[0019]特定の実施態様において、本明細書で提供される単離されたTrkBアゴニスト抗体は、神経細胞の生存を強化すること、シナプスの発生および/または可塑性を調節すること、軸索突起の伸長を強化すること、またはそれらの組合せが可能である。特定の実施態様において、神経細胞は、PC12細胞、海馬ニューロン、網膜神経節細胞、運動ニューロン、およびドーパミン作動性ニューロンを含む。特定の実施態様において、シナプス可塑性の調節は、シナプスの増加、シナプス伝達の強化、長期相乗作用(LTP)の強化、およびγ振動の強化を含む。
【0020】
[0020]本発明の開示はまた、治療有効量の本明細書で提供される単離されたTrkBアゴニスト抗体および製剤用担体を含む医薬組成物も提供する。特定の実施態様において、医薬組成物は、第2の治療剤をさらに含む。特定の実施態様において、第2の治療剤は、BDNFおよび/またはNT-4である。
【0021】
[0021]一形態において、本発明の開示は、TrkBに関連する状態を診断すること、予防すること、遅らせること、または治療する(処置する、treating)ことにおける、TrkBアゴニスト抗体または医薬組成物を含むキットを提供する。
【0022】
[0022]一形態において、本発明の開示は、単離されたTrkBアゴニスト抗体をコードするポリヌクレオチドを提供する。一形態において、本発明の開示は、該ポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。一形態において、本発明の開示は、該ベクターを含む単離された宿主細胞を提供する。特定の実施態様において、宿主細胞は、該ポリヌクレオチドによってコードされた抗体を生産する。
【0023】
[0023]一形態において、本発明の開示は、TrkBに特異的に結合する抗体を生産する方法であって、TrkBタンパク質をコードするポリヌクレオチドを、宿主細胞に導入すること、および該ポリヌクレオチドが発現される条件下で該宿主細胞を培養することを含む、上記方法を提供する。
【0024】
[0024]一形態において、本発明の開示は、対象におけるTrkBに関連する状態を治療すること、またはそのリスクを低減するための方法であって、本明細書で提供されるTrkBアゴニスト抗体または医薬組成物を対象に投与すること、それによって該状態を治療することを含む、上記方法を提供する。特定の実施態様において、状態は、神経変性疾患、精神障害、代謝性疾患および脳傷害を含む。特定の実施態様において、神経変性疾患は、アルツハイマー病(AD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、緑内障、ハンチントン病(HD)、およびパーキンソン病(PD)を含む。特定の実施態様において、精神障害は、うつ病、自閉症、統合失調症、および心的外傷後ストレス障害(PTSD)を含む。特定の実施態様において、精神障害は、うつ病、自閉症、統合失調症、および心的外傷後ストレス障害(PTSD)を含む。
【0025】
[0025]特定の実施態様において、本明細書に記載のTrkBアゴニスト抗体は、二重特異性抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、モノクローナル抗体、組換え抗体、標識された抗体、2価抗体、または抗イディオタイプ抗体である。特定の実施態様において、抗体は、単一ドメイン抗体、ラクダ単一ドメイン抗体、VNAR、ナノボディ、操作されたヒトVH/VL単一ドメイン抗体、ダイアボディ、scFv、scFv二量体、BsFv、dsFv、(dsFv)、dsFv-dsFv’、Fvフラグメント、Fab、Fab’、F(ab’)、ds-ダイアボディ、ドメイン抗体、単離されたCDRおよび2価ドメイン抗体からなる群から選択される抗原結合フラグメントである。
【0026】
[0026]一形態において、本発明の開示は、細胞分化および/またはシナプスの発生を強化する方法であって、本明細書で提供される抗体または医薬組成物を、TrkBを発現する生体サンプルと接触させることを含む、上記方法を提供する。
【0027】
[0027]一形態において、本発明の開示は、神経傷害の修復および/または軸索突起の分岐を強化する方法であって、本明細書で提供される抗体または医薬組成物を、TrkBを発現する生体サンプルと接触させることを含む、上記方法を提供する。
【0028】
[0028]一形態において、本発明の開示は、細胞のアポトーシスおよび/またはネクロトーシスを予防する方法であって、本明細書で提供される抗体または医薬組成物を、TrkBを発現する生体サンプルと接触させることを含む、上記方法を提供する。
【0029】
[0029]一形態において、本発明の開示は、細胞生存を強化する方法であって、本明細書で提供される抗体または医薬組成物を、TrkBを発現する生体サンプルと接触させることを含む、上記方法を提供する。
【0030】
[0030]特定の実施態様において、細胞は、様々な分化段階にある神経幹細胞または最終分化した神経細胞を含む神経細胞、例えばニューロン、星状細胞および希突起膠細胞である。特定の実施態様において、ニューロンは、中枢神経系(CNS)におけるニューロンである。一部の実施態様において、生体サンプルは、細胞または組織(例えば生検によって得られた臓器からの組織)、腫瘍細胞、または体液(例えば血液または血清)から得られる。
【0031】
[0031]別の形態において、本発明の開示は、対象におけるTrkBに関連する状態を治療すること、またはそのリスクを低減するための方法を提供する。一実施態様において、本方法は、細胞表面上で本明細書で提供される抗体を発現する細胞、または医薬組成物を対象に投与することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】[0032]図1A~1Fは、TrkB-agoAb104(図1A)、TrkB-agoAb202(図1B)、TrkB-agoAb203(図1C)、TrkB-agoAb303(図1D)、TrkB-agoAb1104(図1E)およびTrkB-agoAb2908(図1F)に関してELISA分析によって測定した場合のヒトTrkBに対する抗体特異性を提示する棒グラフである。
図2】[0033]図2A~2Bは、短縮化されたTrkBおよびTrkBアゴニスト抗体の標的ドメインを例示する。図2Aは、TrkBの5つの細胞外ドメイン(ECD)の短縮化されたベクターを表す。図2Bは、免疫沈降によって測定されたTrkB-agoAb202およびTrkB-agoAb418のための結合ドメインを例示する。
図3】[0034]図3は、Alphalisaによって測定した場合のTrkB-agoAbによるTrkBの活性化を示す。
図4】[0035]図4は、AlphaLISA方法によって測定した場合の、それぞれTrkB-agoAb(TrkB-agoAb303、TrkB-agoAb203、TrkB-agoAb104)およびBDNFによるTrkBのTry515リン酸化を示す。
図5】[0036]図5は、Try515におけるTrkBリン酸化に基づき計算された時間経過曲線を例示する。X軸は時間(分)を表し、Y軸は応答の比率を表す。
図6-1】図6A~B [0037]異なる濃度および期間でのTrkB-agoAbおよびBDNFを介したキナーゼシグナル伝達経路MAPK、PI3KおよびPLCγのリン酸化を示す。図6A(0.56nMのTrkB-agoAb101)、図6B(2.3nMのTrkB-agoAb104)。
図6-2】図6C~D 異なる濃度および期間でのTrkB-agoAbおよびBDNFを介したキナーゼシグナル伝達経路MAPK、PI3KおよびPLCγのリン酸化を示す。図6C(0.83nMのTrkB-agoAb303)、図6D(1.3nMのTrkB-agoAb203)。
図6-3】図6E 異なる濃度および期間でのTrkB-agoAbおよびBDNFを介したキナーゼシグナル伝達経路MAPK、PI3KおよびPLCγのリン酸化を示す。図6E(0.3nM、1nM、3nMおよび10nMのTrkB-agoAb202)。
図7】[0038]図7は、Aβ(25~35)で処置した場合のラット海馬ニューロンにおける細胞生存の比率を例示する。図7Aは、異なる濃度のAβ(25~35)で処置される海馬ニューロンにおける細胞生存の比率を示す。図7Bは、BDNFまたはTrkB-AgoAbのいずれかと共に添加されたAβ(25~35)で処置した海馬ニューロンの救済のパーセンテージを示す。
図8】[0039]図8A~8Cは、マウスから単離した運動ニューロンの細胞生存率は、血清枯渇条件で、TrkB-agoAbにより改善することができることを示す。図8Aは、異なる培養条件における運動ニューロンの画像を示す。図8Bは、TrkB-agoAb101およびTrkB-agoAb202のアポトーシス低減を示し、図8Cは、それぞれ1nMおよび3nMの異なる濃度、ならびに16時間および24時間の異なる期間中における、TrkB-agoAb202のアポトーシス低減を示す。
図9】[0040]図9は、BDNFまたはTrkBアゴニスト抗体を使用した網膜神経節細胞(RGC)生存アッセイを提示する。
図10】[0041]図10A~10Fは、実施例1の実験プロトコールで示されるような異なる濃度のTrkB-agoAb202で処置した場合のラットALSモデルにおける剥離運動ニューロンの生存率を示す。
図11】[0042]図11Aおよび11Bは、マウス緑内障モデルにおけるTrkB-agoAb202で処置したRGCの生存を示す。図11Aは、逆行性標識マーカー(4%フルオロゴールド)が注射されたRGCの蛍光画像を例示し、図11Bは、画像の結果に従って計数した生きたRGCを示す。
図12】[0043]図12Aおよび12Bは、中大脳動脈閉塞(MCAO)モデルにおけるTrkB-agoAb202で処置したラット脳の梗塞体積の低減を示す。図12Aは、IgGまたはTrkB-agoAb202のいずれかで処置した例示的なTTCで染色されたラット脳切片を例示する。図12Bは、TTCで染色された切片に基づく梗塞体積を定量する棒グラフである。
図13】[0044]図13Aおよび13Bは、接着除去試験におけるTrkB-agoAb202で処置したラット卒中モデルの感覚および運動機能の回復を示す。図13Aは、異なるタイムポイントにおける1mg/kgのTrkB-agoAb202処置後の機能が損なわれた前肢の感覚機能の回復を表す。図13Bは、異なるタイムポイントにおける1mg/kgのTrkB-agoAb202処置後の機能が損なわれた前肢の運動機能の回復を表す。
図14】[0045]図14は、切断されたカスパーゼ-3/プロカスパーゼ3の相対強度によって測定されたTrkB-agoAb202によって抑制されたアポトーシスを提示する。
図15】[0046]図15Aおよび15Bは、TrkB-agoAb投与が、MLKLリン酸化の低減を付与することを示す。図15Aは、MCAO再灌流後24時間における動物の傷害のある皮質組織におけるMLKLの相対的なリン酸化を示す。図15Bは、永続的なMCAO後72時間における動物の傷害のある皮質組織におけるMLKLの相対的なリン酸化を示す。
図16-1】[0047]図16は、本発明の開示において提供される配列を示す。
図16-2】[0047]図16は、本発明の開示において提供される配列を示す。
図16-3】[0047]図16は、本発明の開示において提供される配列を示す。
図16-4】[0047]図16は、本発明の開示において提供される配列を示す。
図16-5】[0047]図16は、本発明の開示において提供される配列を示す。
図17】[0048]図17Aおよび17Bは、BDNFまたは様々なTrkB抗体(TrkB-agoAb)を添加した後の海馬ニューロンの軸索突起の伸長を表す。図17Aは、軸索突起の全長を示し、図17Bは、軸索突起の分岐点の数を示す。
図18】[0049]図18Aおよび18Bは、血漿および脳組織におけるTrkB-agoAbの薬物動態を示す。血漿(図18A)および脳組織(図18B)における異なるタイムポイントで測定されたTrkB-agoAbの濃度を示した。
【発明を実施するための形態】
【0033】
[0050]以下の本開示の説明は、単に本開示の様々な実施態様を例示することを意図したものである。そのようなものとして、論じられた具体的な改変は、本開示の範囲への限定として解釈されないものとする。当業者であれば、本開示の範囲から逸脱することなく、様々な均等物、変更および改変をなすことができることが理解できるものと予想され、このような均等な実施態様は本明細書に包含されることが理解される。公報、特許および特許出願を含む本明細書において引用された全ての参考文献は、それらの全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0034】
定義
[0051]用語「抗体」は、本明細書で使用される場合、あらゆる免疫グロブリン、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多価抗体、多重特異性抗体、または二重特異性(2価)抗体、または特異的な抗原に結合するそれらの機能的な部分を包含する。自然の無傷抗体は、ジスルフィド結合で相互に接続された2つの重(H)鎖および2つの軽(L)鎖を含む。各重鎖は、可変領域(VH)および第1、第2、および第3の定常領域(それぞれCH1、CH2およびCH3)からなり、一方で各軽鎖は、可変領域(VL)および定常領域(CL)からなる。哺乳類重鎖は、α、δ、ε、γ、およびμとして分類され、哺乳類軽鎖は、λまたはκとして分類される。軽鎖および重鎖の可変領域は、抗原結合に関与する。両方の鎖の可変領域はさらに、一般的に、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性を有する3つの領域に分割される(軽(L)鎖CDRは、LCDR1、LCDR2、およびLCDR3を含み、重(H)鎖CDRは、HCDR1、HCDR2、HCDR3を含む)。本明細書で開示される抗体および抗原結合フラグメントのCDRの境界は、Kabat、Chothia、またはAl-Lazikaniの慣例によって定義または同定することができる(Al-Lazikani, B.、Chothia, C.、Lesk, A. M.、J. Mol. Biol.、273(4)、927(1997);Chothia, C.ら、J Mol Biol. 12月5日;186(3):651~63(1985);Chothia, C.およびLesk, A.M.、J.Mol.Biol.、196,901 (1987);Chothia, C.ら、Nature. Dec 21-28;342(6252):877-83(1989);Kabat E.A.ら、National Institutes of Health、メリーランド州ベセスダ(1991))。3つのCDRは、フレームワーク領域(FR)として公知の両端のストレッチ間に挿入されており、このフレームワーク領域は、CDRより高度に保存されており、高度可変ループを支持するための足場を形成する。それゆえに、各VHおよびVLは、以下の順番(アミノ酸残基のN末端からC末端にかけて):FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の、3つのCDRと4つのFRとで構成される。重鎖および軽鎖の定常領域は抗原結合に関与しないが、様々なエフェクター機能を呈示する。抗体は、それぞれα、δ、ε、γ、およびμ重鎖の存在を特徴とするそれらの重鎖の定常領域のアミノ酸配列に基づく5つの主要なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMに割り当てられる。主要な抗体クラスのうちいくつかのサブクラスは、例えばIgG1(γ1重鎖)、IgG2(γ2重鎖)、IgG3(γ3重鎖)、IgG4(γ4重鎖)、IgA1(α1重鎖)、またはIgA2(α2重鎖)である。
【0035】
[0052]用語「抗原結合フラグメント」は、本明細書で使用される場合、1つまたはそれより多くのCDRを含む抗体のフラグメントから形成された抗体フラグメント、または抗原に結合するが自然の無傷抗体の構造を含まない他のあらゆる抗体の一部を指す。特定の実施態様において、本明細書で提供される抗体は、抗原結合フラグメントである。抗原結合フラグメントの例としては、これらに限定されないが、ダイアボディ、Fab、Fab’、F(ab’)、Fvフラグメント、ジスルフィド安定化Fvフラグメント(dsFv)、(dsFv)、二重特異性dsFv(dsFv-dsFv’)、ジスルフィド安定化ダイアボディ(dsダイアボディ)、単鎖抗体分子(scFv)、scFv二量体(2価ダイアボディ)、多重特異性抗体、単一ドメイン抗体、ラクダ単一ドメイン抗体、VNAR、ナノボディ、ドメイン抗体、単離されたCDRおよび2価ドメイン抗体が挙げられる。抗原結合フラグメントは、親抗体が結合するのと同じ抗原に結合することが可能である。特定の実施態様において、抗原結合フラグメントは、特定のヒト抗体由来の1つまたはそれより多くのCDRを含んでいてもよい。
【0036】
[0053]抗体に関する「Fab」は、ジスルフィド結合により単一の重鎖の可変領域および第1の定常領域に結合した、単一の軽鎖(可変領域と定常領域の両方)からなる抗体の1価の抗原結合フラグメントを指す。Fabは、ヒンジ領域の重鎖間におけるジスルフィド結合のN末端の近位にある残基で抗体をパパイン消化することにより得ることができる。
【0037】
[0054]「Fab’」は、ヒンジ領域の一部を包含するFabフラグメントであって、ヒンジ領域の重鎖間におけるジスルフィド結合のC末端の近位にある残基で抗体をペプシン消化することにより得ることができるものを指し、したがってこれは、ヒンジ領域中の少数の残基(1つまたはそれより多くのシステインを包含する)においてFabと異なっている。
【0038】
[0055]「F(ab’)」は、2つの軽鎖と2つの重鎖の一部とを含むFab’の二量体を指す。
[0056]抗体に関する「Fc」は、ジスルフィド結合を介して第2の重鎖の第2および第3の定常領域に結合した、第1の重鎖の第2および第3の定常領域からなる抗体の一部を指す。IgGおよびIgMFc領域は、3つの重鎖定常領域(各鎖において第2、第3および第4の重鎖定常領域)を含有する。これは、抗体のパパイン消化により得ることができる。抗体のFc部分は、ADCCやCDCなどの様々なエフェクター機能に関与するが、抗原結合において機能しない。
【0039】
[0057]抗体に関する「Fv」は、完全な抗原結合部位を含む抗体の最小フラグメントを指す。Fvフラグメントは、単一の重鎖の可変領域に結合した単一の軽鎖の可変領域からなる。「dsFv」は、ジスルフィド安定化Fvフラグメントであって、単一の軽鎖の可変領域と単一の重鎖の可変領域との連結がジスルフィド結合であるものを指す。
【0040】
[0058]「単鎖Fv抗体」または「scFv」は、互いに直接的に、またはペプチドリンカー配列を介して接続された軽鎖可変領域と重鎖可変領域とからなる操作された抗体を指す(Huston JSら、Proc Natl Acad Sci USA、85:5879(1988))。「scFv二量体」は、2つの重鎖可変領域と2つの軽鎖可変領域とをリンカーと共に含む単一の鎖を指す。特定の実施態様において、「scFv二量体」は、2価ダイアボディまたは2価ScFv(BsFv)であって、Vの1つの成分がVの他の成分と協調して、同じ抗原(またはエピトープ)または異なる抗原(またはエピトープ)を標的化できる2つの結合部位を形成するように別のV-V成分と二量体化されたV-V(ペプチドリンカーによって連結された)を含むものである。他の実施態様において、「scFv二量体」は、VH1-VL2(ペプチドリンカーによって連結された)と、これに会合したVL1-VH2(これもペプチドリンカーによって連結された)を含む二重特異性ダイアボディであって、VH1とVL1が協調し、VH2とVL2が協調し、それぞれの協調した対が異なる抗原特異性を有するようなものである。
【0041】
[0059]「単鎖Fv-Fc抗体」または「scFv-Fc」は、抗体のFc領域に接続されたscFvからなる操作された抗体を指す。
[0060]「単一ドメイン抗体(sdAb)」、例えば「ラクダ単一ドメイン抗体」、「重鎖抗体」、「ナノボディ」、「HCAb」または「VNAR」は、12~15kDaの低い分子量を有する、2つのVドメインを含有し軽鎖を含有しない抗体を指す(Riechmann L.およびMuyldermans S.、J Immunol Methods. 12月10日;231(1~2):25~38(1999); Muyldermans S.、J Biotechnol. Jun;74(4):277~302(2001);WO94/04678;WO94/25591;米国特許第6,005,079号)。重鎖抗体は元々、ラクダ科動物(ラクダ、ヒトコブラクダ、およびラマ、VHH)、サメ種(新しい抗原受容体の可変ドメイン(VNAR))、または特異的な以下の突然変異:F37、E44、R45、およびF47を有するヒト抗体から得た。ヒトVH/VL単一ドメイン抗体は、再配列されたVH/VLドメインの合成ランダム化を介して構築されたファージディスプレイによって、操作された抗体ドメインライブラリーから単離することができる(Henry KAら、Stability-Diversity Tradeoffs Impose Fundamental Constraints on Selection of Synthetic Human VH/VL Single-Domain Antibodies from In Vitro Display Libraries. Front Immunol. 2017年12月12日;8:1759)。したがって単一ドメイン抗体は、少なくとも4つのフレームワーク領域を含有し、それらの間に3つの高度可変CDR領域が存在することから、結果として以下の典型的な抗体可変ドメイン構造になる:FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4。単一のドメインは、軽鎖抗体可変領域と相互作用して、重鎖および軽鎖抗原結合VII構造の従来のヘテロ二量体を形成しない。
【0042】
[0061]「ダイアボディ」は、2つの抗原結合部位を有する小さい抗体フラグメントを包含し、このようなフラグメントは、単一のポリペプチド鎖中でVドメインに接続されたVドメイン(V-VまたはV-V)を含む(例えば、Holliger P.ら、Proc Natl Acad Sci U S A. 7月15日;90(14):6444~8(1993);EP404097;WO93/11161を参照)。同じ鎖における2つのドメインは、リンカーが短すぎるため対合できず、したがってこれらのドメインは、別の鎖の相補的ドメインと対合することになり、それにより2つの抗原結合部位が作り出される。これらの抗原結合部位は、異なる抗原(またはエピトープ)の同じものを標的化することができる。
【0043】
[0062]「ドメイン抗体」は、重鎖の可変領域または軽鎖の可変領域のみを含有する抗体フラグメントを指す。特定の実施態様において、2つまたはそれより多くのVドメインは、ペプチドリンカーと共有結合で合体して、2価または多価のドメイン抗体を形成する。2価ドメイン抗体の2つのVドメインは、同一または異なる抗原を標的化することができる。
【0044】
[0063]特定の実施態様において、「(dsFv)」は、3つのペプチド鎖を含み、2つのV成分がペプチドリンカーによって連結され、ジスルフィド架橋によって2つのV成分に拘束されている。
【0045】
[0064]特定の実施態様において、「二重特異性dsダイアボディ」は、VH1とVL1との間のジスルフィド架橋を介して、VH1-VL2(ペプチドリンカーによって連結された)と、それに結合したVL1-VH2(これもペプチドリンカーによって連結された)を含む。
【0046】
[0065]特定の実施態様において、「二重特異性dsFv」または「dsFv-dsFv’」は、3つのペプチド鎖、VH1-VH2成分を含み、それにおいて重鎖が、ペプチドリンカー(例えば長いフレキシブルなリンカー)で拘束されており、ジスルフィド架橋を介してそれぞれVL1およびVL2成分に対合している。それぞれのジスルフィドで対合した重鎖および軽鎖は、異なる抗原特異性を有する。
【0047】
[0066]用語「ヒト化」または「ヒト化型」は、本明細書で使用される場合、抗体または抗原結合フラグメントに関して、抗体または抗原結合フラグメントが、非ヒト動物(例えばげっ歯類、ウサギ、イヌ、ヤギ、ウマ、またはニワトリ)由来のCDR、ヒト由来のFR領域、および適用可能な場合、ヒト由来の定常領域を含むことを指す。特定の実施態様において、ヒト抗体由来の定常領域は、非ヒト可変領域に融合されている。ヒト化抗体または抗原結合フラグメントは、ヒトの治療剤として有用である。それはなぜなら、特定の実施態様において、非ヒト種抗体と比較して、ヒトにおいて免疫原性が低減されるか、または免疫応答を誘導する可能性がそれほど高くないためである。一部の実施態様において、非ヒト動物は、哺乳動物、例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマ、モルモット、ハムスター、または非ヒト霊長類(例えば、サル(例えば、カニクイザルまたはアカゲザル)もしくは類人猿(例えば、チンパンジー、ゴリラ、サルまたはサル(affen)))である。一部の実施態様において、ヒト化抗体または抗原結合フラグメントは、非ヒトであるCDR配列を除いて、実質的に全てのヒト配列で構成される。一部の実施態様において、ヒト化抗体または抗原結合フラグメントは、抗体の性能、例えば結合または結合親和性を改善するように改変される。例えば、1つまたはそれより多くの非ヒトCDRにおける1つまたはそれより多くのアミノ酸残基を変更して、ヒトにおいて起こり得る免疫原性を低減させることができ、この場合、変更されたアミノ酸残基はいずれも、免疫特異的な結合にとって重要ではないか、またはそのような変更は、ヒト化抗体の抗原への結合が顕著な影響を受けないように、保存的変化である。一部の実施態様において、ヒト由来のFR領域は、そのもととなるヒト抗体と同じアミノ酸配列を含んでいてもよいし、またはいくつかのアミノ酸変化、例えば、10個以下、9個以下、8個以下、7個以下、6個以下、5個以下、4個以下、3個以下、2個以下、または1個のアミノ酸変化を含んでいてもよい。一部の実施態様において、このようなアミノ酸における変化は、重鎖FR領域のみ、軽鎖FR領域のみ、または両方の鎖に存在していてもよい。一部の好ましい実施態様において、ヒト化抗体は、ヒトFR1~3およびヒトJHおよびJκを含む。
【0048】
[0067]用語「キメラ」は、本明細書で使用される場合、1つの種由来の重鎖および/または軽鎖の一部、ならびに異なる種由来の重鎖および/または軽鎖の残部を有する抗体または抗原結合フラグメントを指す。説明に役立つ例において、キメラ抗体は、ヒト由来の定常領域、および非ヒト種、例えばマウス由来の可変領域を含んでいてもよい。
【0049】
[0068]「TrkBアゴニスト抗体」または「TrkB-AgoAb」は、本明細書で使用される場合、TrkB(例えばヒトまたは非ヒトTrkB)の細胞外ドメインまたは膜近傍のドメインの1つに、診断および/または治療的使用をもたらすのに十分な親和性で特異的に結合することにより、TrkBの細胞内活性を活性化することが可能な抗体であって、BDNF細胞内シグナル伝達経路を活性化し、細胞または生物中で、TrkBの発現または利用可能性を上方調節するか、またはTrkB媒介BDNFシグナル伝達によって調節された遺伝子の発現または利用可能性を上方調節する抗体を指す。
【0050】
[0069]「実質的に」、「実質的に同じ」は、本明細書で使用される場合、2つの数値間の高度な類似性を指し、当業者であれば、2つの値の間の有意差またはその値によって示される統計および/または生物活性に関するわずかな差を認識したりまたは考慮に入れたりしないしないと予想される。対照的に、「より実質的に低い」は、数値が、参照値に対して約50%未満、約40%未満、約30%未満、約20%未満、約10%未満であることを意味する。
【0051】
[0070]用語「特異的な結合」または「特異的に結合する」は、本明細書で使用される場合、2つの分子間の、例えば抗体と抗原との間の無作為ではない結合反応を指す。特定の実施態様において、本明細書で提供される抗体または抗原結合フラグメントは、ヒトおよび/または非ヒトTrkBと、約0.01nM~約100nM、約0.1nM~約100nM、0.01nM~約10nM、約0.1nM~約10nM、0.01nM~約5nM、約0.1nM~約5nM、0.01nM~約1nM、約0.1nM~約1nMまたは約0.01nM~約0.1nMの結合親和性(K)で特異的に結合する。Kは、本明細書で使用される場合、会合速度に対する解離速度の比率(koff/kon)を指し、これは、例えばビアコアなどの機器を使用する表面プラズモン共鳴方法を使用して決定することができる。
【0052】
[0071]「結合をブロックする」または「同じエピトープに関して競合する」能力は、本明細書で使用される場合、2つの分子(例えばヒトTrkBおよびTrkBアゴニスト抗体)間の結合相互作用をあらゆる検出可能な程度に阻害する抗体または抗原結合フラグメントの能力を指す。特定の実施態様において、2つの分子間の結合をブロックする抗体または抗原結合フラグメントは、2つの分子間の結合相互作用を少なくとも50%阻害する。特定の実施態様において、この阻害は、60%より大きくてもよく、70%より大きくてもよく、80%より大きくてもよく、または90%より大きくてもよい。
【0053】
[0072]用語「エピトープ」は、本明細書で使用される場合、原子の特異的な基(例えば糖側鎖、ホスホリル基、スルホニル基)または抗体などの抗原結合タンパク質によって拘束された抗原上のアミノ酸を指す。エピトープは、コンフォメーショナルエピトープであってもよいし、またはリニアエピトープであってもよい。特定の実施態様において、TrkBの細胞外ドメインの1つに含有されるエピトープは、コンフォメーショナルエピトープであってもよいし、またはリニアエピトープであってもよい。コンフォメーショナルエピトープは、3次元のタンパク質の3次フォールディングのために、隣接していないが空間的に並列しているアミノ酸残基を含んでいてもよく、その場合、これらの残基は相互作用の親和性に直接的に寄与しており、変性溶媒に曝露されると相互作用能力を失うことになる。対照的に、リニアエピトープの全ての相互作用点は、タンパク質上の1次アミノ酸残基に沿って直線的に配置され、隣接したアミノ酸の小さいセグメントは、主要組織適合複合体(MHC)分子との抗原結合により消化される場合もあるし、または変性溶媒に曝露されても保持される場合もある(Salmeron Aら、J Immunol. 1991年11月1日;147(9):3047~52;Goldsbyら、Immunology(第5版)、ニューヨーク:W. H. Freeman and Company、57~75頁、ISBN0-7167-4947-5)。本発明の開示の一実施態様において、本明細書で提供されるTrkB抗体によって拘束されたエピトープは、コンフォメーショナルエピトープである。本発明の開示の他の実施態様において、本明細書で提供されるTrkB抗体によって拘束されたエピトープは、リニアエピトープである。2つの抗体が、1種の抗原との競合結合を呈示する場合、これらの抗体は、その抗原内の同じエピトープと結合する可能性がある。例えば、抗体または抗原結合フラグメントが、本発明の開示の例示的な抗体、例えばTrkB-agoAb202、TrkB-agoAb303、TrkB-agoAb203、TrkB-agoAb104、TrkB-agoAb1104、TrkB-agoAb2908、TrkB-agoAb5702、TrkB-agoAb1016、TrkB-agoAb2037、TrkB-agoAbB901、TrkB-agoAbB503、TrkB-agoAbB418、TrkB-agoAb6916、TrkB-agoAb4014、およびTrkB-agoAb7431、それらのキメラ抗体、それらのヒト化抗体のヒトまたは非ヒトTrkBへの結合をブロックする場合、その抗体または抗原結合フラグメントは、その例示的な抗体と同じエピトープと結合するとみなすことができる。
【0054】
[0073]エピトープ内の特定のアミノ酸残基は、例えばアラニンスキャニング変異により突然変異させることができ、タンパク質結合を低減したりまたは防いだりする突然変異が同定される。「アラニンスキャニング変異」は、エピトープとそれに結合する別の化合物またはタンパク質との相互作用に影響を与えるタンパク質の特定の残基または領域を同定するために実行できる方法である。タンパク質内の標的残基の残基または基は、中性アミノ酸または負電荷を有するアミノ酸で置き換えられる(最も好ましくはアラニンもしくはポリアラニン、または保存的アミノ酸の置換)。他の突然変異より、タンパク質の結合を閾値を超えて低減させるかまたはタンパク質の結合を最大限に低減させるアミノ酸残基またはそれをコードするコドンのあらゆる突然変異が、タンパク質によって拘束されたエピトープ内にある可能性が高い。
【0055】
[0074]後述される配列は、図16に見出すことができる。
[0075]「TrkB-agoAb202」は、本明細書で使用される場合、配列番号12(CDR1)、配列番号13(CDR2)、配列番号14(CDR3)の3つの重鎖可変領域のCDRと、配列番号9(CDR1)、配列番号10(CDR2)、配列番号11(CDR3)の3つの軽鎖可変領域のCDRとを有するウサギモノクローナル抗体を指す。TrkB-agoAb202は、TrkBタンパク質のD1ドメインに結合する。
【0056】
[0076]「TrkB-agoAb303」は、本明細書で使用される場合、配列番号18(CDR1)、配列番号19(CDR2)、配列番号20(CDR3)の3つの重鎖可変領域のCDRと、配列番号15(CDR1)、配列番号16(CDR2)、配列番号17(CDR3)の3つの軽鎖可変領域のCDRとを有し、配列番号28の重鎖可変領域および配列番号27の軽鎖可変領域を有するマウスモノクローナル抗体を指す。TrkB-agoAb303は、TrkBタンパク質のD3ドメインに結合する。
【0057】
[0077]「TrkB-agoAb203」は、本明細書で使用される場合、配列番号24(CDR1)、配列番号25(CDR2)、配列番号26(CDR3)の3つの重鎖可変領域のCDRと、配列番号21(CDR1)、配列番号22(CDR2)、配列番号23(CDR3)の3つの軽鎖可変領域のCDRとを有するウサギモノクローナル抗体を指す。TrkB-agoAb203は、TrkBタンパク質のD5ドメインに結合する。
【0058】
[0078]「TrkB-agoAb2908」は、本明細書で使用される場合、配列番号32(CDR1)、配列番号33(CDR2)、配列番号34(CDR3)の3つの重鎖可変領域のCDRと、配列番号29(CDR1)、配列番号30(CDR2)、配列番号31(CDR3)の3つの軽鎖可変領域のCDRとを有し、配列番号36の重鎖可変領域および配列番号35の軽鎖可変領域を有するマウスモノクローナル抗体を指す。TrkB-agoAb2908は、TrkBタンパク質のD5ドメインに結合する。
【0059】
[0079]「TrkB-agoAb1104」は、本明細書で使用される場合、配列番号40(CDR1)、配列番号41(CDR2)、配列番号42(CDR3)の3つの重鎖可変領域のCDRと、配列番号37(CDR1)、配列番号38(CDR2)、配列番号39(CDR3)の3つの軽鎖可変領域のCDRとを有し、配列番号44の重鎖可変領域および配列番号43の軽鎖可変領域を有するマウスモノクローナル抗体を指す。TrkB-agoAb1104は、TrkBタンパク質のD1ドメインに結合する。
【0060】
[0080]「TrkB-agoAbB901」は、本明細書で使用される場合、配列番号48(CDR1)、配列番号49(CDR2)、配列番号50(CDR3)の3つの重鎖可変領域のCDRと、配列番号45(CDR1)、配列番号46(CDR2)、配列番号47(CDR3)の3つの軽鎖可変領域のCDRとを有し、配列番号52の重鎖可変領域および配列番号51の軽鎖可変領域を有するマウスモノクローナル抗体を指す。TrkB-agoAbB901は、TrkBタンパク質のD5ドメインに結合する。
【0061】
[0081]「TrkB-agoAb5702」は、本明細書で使用される場合、配列番号56(CDR1)、配列番号57(CDR2)、配列番号58(CDR3)の3つの重鎖可変領域のCDRと、配列番号53(CDR1)、配列番号54(CDR2)、配列番号55(CDR3)の3つの軽鎖可変領域のCDRとを有し、配列番号60の重鎖可変領域および配列番号59の軽鎖可変領域を有するマウスモノクローナル抗体を指す。TrkB-agoAb5702は、TrkBタンパク質のD5ドメインに結合する。
【0062】
[0082]「TrkB-agoAb6916」は、本明細書で使用される場合、配列番号64(CDR1)、配列番号65(CDR2)、配列番号66(CDR3)の3つの重鎖可変領域のCDRと、配列番号61(CDR1)、配列番号62(CDR2)、配列番号63(CDR3)の3つの軽鎖可変領域のCDRとを有し、配列番号68の重鎖可変領域および配列番号67の軽鎖可変領域を有するマウスモノクローナル抗体を指す。TrkB-agoAb6916は、TrkBタンパク質のD5ドメインに結合する。
【0063】
[0083]「TrkB-agoAb7431」は、本明細書で使用される場合、配列番号72(CDR1)、配列番号73(CDR2)、配列番号74(CDR3)の3つの重鎖可変領域のCDRと、配列番号69(CDR1)、配列番号70(CDR2)、配列番号71(CDR3)の3つの軽鎖可変領域のCDRとを有し、配列番号76の重鎖可変領域および配列番号75の軽鎖可変領域を有するマウスモノクローナル抗体を指す。TrkB-agoAb7431は、TrkBタンパク質の膜近傍の領域に結合する。
【0064】
[0084]アミノ酸配列に関する「保存的置換」は、類似の生理化学特性を有する側鎖を有する異なるアミノ酸残基でアミノ酸残基を置き換えること、またはポリペプチドの活性にとって重要ではないアミノ酸の置換を指す。例えば、保存的置換は、非極性側鎖を有するアミノ酸残基(例えばMet、Ala、Val、Leu、およびIle、Pro、Phe、Trp)間、非荷電性極性側鎖を有する残基(例えばCys、Ser、Thr、Asn、GlyおよびGln)間、酸性側鎖を有する残基(例えばAsp、Glu)間、塩基性側鎖を有するアミノ酸(例えばHis、Lys、およびArg)間、ベータ分岐側鎖を有するアミノ酸(例えば、Thr、ValおよびIle)間、硫黄を含有する側鎖を有するアミノ酸(例えば,CysおよびMet)間、または芳香族側鎖を有する残基(例えばTrp、Tyr、HisおよびPhe)間でなすことができる。特定の実施態様において、置換、欠失または付加も、「保存的置換」とみなすことができる。挿入されるまたは欠失したアミノ酸の数は、約1~5の範囲であってもよい。当業界で公知のように、保存的置換は通常、タンパク質の立体構造において有意な変化を引き起こさないため、タンパク質の生物活性を保持することができる。
【0065】
[0085]アミノ酸配列(または核酸配列)に関する「パーセント(%)配列同一性」は、最大の対応が達成されるように配列を並べ、必要に応じてギャップを導入した後の、参照配列中のアミノ酸(または核酸)残基に同一な候補配列中のアミノ酸(または核酸)残基のパーセンテージと定義される。アミノ酸残基の保存的置換は、同一な残基とみなしてもよいし、またはみなさなくてもよい。アミノ酸(または核酸)配列同一性パーセントを決定する目的のためのアライメントは、例えば、公共的に入手可能なツール、例えば、BLASTN、BLASTp(米国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)のウェブサイトにおいて入手可能、また、Altschul S.F.ら、J. Mol. Biol.、215:403~410(1990);Stephen F.ら、Nucleic Acids Res.、25:3389~3402(1997)も参照)、ClustalW2(欧州バイオインフォマティクス研究所のウェブサイトにおいて入手可能、また、Higgins D.G.ら、Methods in Enzymology、266:383~402(1996);Larkin M.A.ら、Bioinformatics(オックスフォード、イングランド)、23(21):2947~8(2007)も参照)、およびALIGNまたはMegalign(DNASTAR)ソフトウェアなどを使用して達成することができる。当業者は、ツールによって提供されるデフォルトパラメーターを使用してもよいし、または例えば好適なアルゴリズムなどを選択することによって、必要に応じてアライメントに関するパラメーターをカスタマイズしてもよい。
【0066】
[0086]「相同体配列」および「相同配列」は、本明細書で使用される場合、置き換え可能に使用され、任意選択で並べられた場合、別の配列に対して少なくとも80%(例えば少なくとも85%、88%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%)の配列同一性を有するポリヌクレオチド配列(またはその相補鎖)またはアミノ酸配列を指す。
【0067】
[0087]「エフェクター機能」または「抗体エフェクター機能」は、本明細書で使用される場合、抗体のFc領域がC1複合体やFc受容体などのそのエフェクターに結合することに起因する生物活性を指す。例示的なエフェクター機能としては、C1複合体における抗体とC1qとの相互作用により誘導された補体依存性細胞傷害(CDC);エフェクター細胞における抗体のFc領域のFc受容体への結合により誘導された抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC);および貪食が挙げられる。「エフェクター機能を低減または枯渇させる」は、抗体エフェクター機能が、親抗体から少なくとも50%(例えば60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%)低減されることを指す。特定の実施態様において、エフェクター機能は、グリコシル化を排除するようなFc領域における突然変異、例えばN297AまたはD265A(Shieldsら、J. Biol. Chem. 276(9):6591~6604(2001)を参照)、K322A、L234A/L235Aを介して、排除される。「Fc領域」は、本明細書で使用される場合、免疫グロブリン重鎖のC末端領域を指す。
【0068】
[0088]状態を「治療(処置)すること」、状態の「治療(処置、treatment)」または「療法」は、本明細書で使用される場合、同義的に使用することができ、治療的処置、防止または予防措置、例えば、状態の予防または軽減、発病または状態の進行速度を遅らせること、状態の発生リスクを低減させること、状態に関連する症状の発生を予防または遅らせること、状態に関連する症状を低減させるまたは終わらせること、状態の完全または部分寛解をもたらすこと、状態を治すこと、またはそれらのいくつかの組合せを包含する。
【0069】
[0089]用語「TrkB」は、本明細書で使用される場合、トロポミオシン受容体キナーゼB(TrkB)を指し、またチロシン受容体キナーゼB、またはBDNF/NT-3増殖因子受容体または神経分化誘導性チロシンキナーゼ受容体2型としても公知であり、ヒトではNTRK2遺伝子によってコードされるタンパク質である。TrkBは、細胞膜に配置されており、リガンドが受容体の細胞外ドメインに結合することによって活性化される。TrkBは、哺乳類の中枢神経系(CNS)において3つのアイソフォームを有し、全長アイソフォームは、典型的なチロシンキナーゼ受容体であるが、2つのC末端TrkBアイソフォームは、全長アイソフォームと同じ細胞外ドメイン、膜貫通ドメインおよび最初の12個の細胞内アミノ酸配列を有するが、C末端配列においてそれぞれ11(T1アイソフォーム)および9(T2アイソフォーム)アミノ酸が異なる。本発明の開示において、TrkBタンパク質は、上述した3つのアイソフォームのいずれかを指す。TrkBは、脳由来神経栄養因子(BDNF)のための受容体であり、リガンド特異的な方式でBDNFと結合する。BDNFがTrkBに結合すると、その細胞内ドメインにおけるコンフォメーション変化およびチロシン残基の自己リン酸化を介してその二量体化が始まり、結果としてマイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)、ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)およびホスホリパーゼC-ガンマ1(PLC-ガンマ1)を含む3つの主要なシグナル伝達経路の活性化が起こる。数種のニューロトロフィン、例えばBDNF、ニューロトロフィン-4(NT-4)およびニューロトロフィン-3(NT-3)が、TrkBを活性化し、それによってニューロンの分化、ニューロン修復、ニューロン可塑性、増殖および生存などの複数の作用を活性化することが報告されている。BDNFおよびNT-4はどちらも、TrkBに結合でき、多くの共通のシグナル伝達経路を活性化することができる。特定の実施態様において、TrkBは、本明細書で使用される場合、受託番号S76473.1を有する遺伝子配列を有するヒトTrkB、または非ヒト動物TrkB、例えばマウスTrkB、ラットTrkB、ウサギTrkBである。
【0070】
[0090]用語「短縮化されたTrkB」は、本明細書で使用される場合、部分的なフラグメント(例えば細胞外ドメイン)を欠失しているが細胞内シグナル伝達におけるTrkB受容体の主要な機能を保持するTrkBタンパク質を指す。特定の実施態様において、短縮化されたTrkBは、D1~D5ドメインを欠失しており、配列番号8に記載の配列を有する。
【0071】
[0091]「BDNF」は、ヒトにおいてBDNF遺伝子によってコードされ、標準的な神経成長因子に関する増殖因子のニューロトロフィンファミリーのメンバーである。BDNFは、脳、例えば海馬、皮質、および前脳基底部で見出され、それにおいて、ニューロンにおける生存および分化活性を媒介し、TrkBの結合および活性化によりニューロンのシナプスの機能を調節し、同様に末梢神経系、例えば網膜、運動ニューロン、腎臓、唾液、および前立腺でも見出される。BDNFは、細胞表面上の少なくとも2つの受容体、例えばTrkBおよびp75(LNGFRとしても公知)と結合する。全てのニューロトロフィンは、p75受容体と相互作用することができる。p75が活性化されると、p75受容体を発現するがTrk受容体が欠失した細胞において、p75は生存経路ではなくアポトーシスを引き起こす。BDNFはまた、TrkAおよびTrkCとも結合し、TrkAおよびTrkCは、TrkBと共にプロテインキナーゼのサブファミリーに属する。「プロBDNF」は、129アミノ酸のプロドメインおよび118アミノ酸の成熟ドメインからなるBDNFの切断されていない前駆体を指す。保存されたRVRR配列におけるプロコンバターゼの作用を介して無傷のプロBDNFからプロドメインが切断されると、二量体の成熟ドメインが放出されるが、これは、成熟BDNF、または単にBDNFと呼ばれる。p75受容体は、プロBDNFの成熟ドメイン領域に結合し、成熟BDNFによって惹起された作用の逆作用、例えば細胞死、成長円錐の退縮、成熟海馬シナプスにおける長期抑圧の容易化、および筋神経連結のシナプス排除を誘導することが報告されている(Hempstead BL、Trans Am Clin Climatol Assoc. 2015;126:9~19)。特定の実施態様において、BDNFは、本発明の開示で使用される場合、成熟BDNFを指す。特定の実施態様において、本明細書で提供されるTrkBアゴニスト抗体は、成熟BDNFに結合し、プロBDNFに結合しない。
【0072】
[0092]ニューロトロフィン-4(NT-4)はまた、ニューロトロフィン-5(NT-5)としても公知であり、これは、TrkB受容体を介して優勢にシグナル伝達する神経栄養因子である。ヒトにおいて、NT-4は、NTF4遺伝子によってコードされる。NT-4は、ニューロンの生存および分化の制御に関与する。NGF、BDNF、およびNT-3を含む他のニューロトロフィンのノックアウトは、早期の出生後の発達中では致死性であるが、NTF5欠損マウスのみが、わずかな細胞の欠損を示し、正常に成人期に発達することから、その機能は、他のニューロトロフィンによって補償できることが示唆される。
【0073】
[0093]「TrkBに関連する状態」は、本明細書で使用される場合、TrkB(例えばヒトTrkB)の発現または活性の増加または減少によって引き起こされる、それによって悪化する、またはそれ以外でそれに関連するあらゆる状態、またはBDNFシグナル伝達、またはTrkBを介して活性化される他のあらゆる細胞内シグナル伝達カスケードの減少によって引き起こされる、またはそれによって悪化する障害を指す。神経障害および精神障害の例としては、神経変性疾患(これらに限定されないが、アルツハイマー病とそれに関連する認知症、パーキンソン病、ハンチントン病、レヴィ小体病とそれに関連する運動障害、筋萎縮性側索硬化症、緑内障およびフリードライヒ運動失調症とそれに関連する脊髄小脳失調症など)、うつ病、不安、自閉症、統合失調症、および心的外傷後ストレス障害、CNS傷害、卒中および外傷性脳傷害などが挙げられる。代謝性疾患の例としては、肥満症および多食症が挙げられる。「がん」または「がん性状態」は、本明細書で使用される場合、悪性細胞の成長または新生物、異常な増殖、浸潤または転移を特徴とするあらゆる医学的状態を指し、そのようなものとしては、固形腫瘍がんおよび非固形がん(血液系腫瘍)の両方、例えば白血病が挙げられる。固形腫瘍としては、肉腫および癌腫が挙げられる。肉腫は、血管、骨、脂肪組織、靱帯、リンパ管、筋肉または腱における非上皮性腫瘍であり、それに対して癌腫は、皮膚、腺および臓器の内層における上皮性腫瘍である。「腫瘍」は、本明細書で使用される場合、新生物および/または悪性細胞の固体塊を指す。
【0074】
[0094]「単離された」物質は、天然状態から手作業で改変させたものである。「単離された」組成物または物質が天然に存在するものの場合、そのような組成物または物質は、その元の環境を変化させたりまたはその環境から取り出されたりしたものであるか、またはその両方である。例えば、「単離された」ポリヌクレオチドまたはポリペプチドは、それぞれ他のポリヌクレオチドまたはポリペプチドを含まず、自然環境においてポリヌクレオチドまたはポリペプチドに随伴する天然の要素を伴っていないポリヌクレオチドまたはポリペプチドである。特定の実施態様において、「単離された」抗体は、電気泳動方法(例えばクーマシーブルーまたは銀染色を使用するSDS-PAGE、等電点分画法、キャピラリー電気泳動)、クロマトグラフ法(例えばイオン交換クロマトグラフィーまたは逆相HPLC)またはローリー法によって決定した場合、少なくとも1回の工程で、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の純度に精製される。
【0075】
[0095]用語「ベクター」は、本明細書で使用される場合、タンパク質をコードするポリヌクレオチドを、宿主細胞中でそのタンパク質が発現されるように作動可能に挿入して輸送することができる媒体を指す。ベクターは、宿主細胞中でそれが含む遺伝学的エレメントの発現が起こるように、宿主細胞を形質転換する、形質導入する、またはトランスフェクトするのに使用することができる。ベクターの例示的なタイプとしては、これらに限定されないが、プラスミド(例えばファージミド、コスミド、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC)またはP1由来の人工染色体(PAC))、ウイルスベクター(バクテリオファージ、例えばラムダファージまたはM13ファージ、または動物ウイルス)、細菌ベクター、または非エピソーム性哺乳類ベクターが挙げられる。ベクターとして使用される動物ウイルスのカテゴリーとしては、レトロウイルス(例えばレンチウイルスなど)、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス(例えば、単純疱疹ウイルス)、ポックスウイルス、バキュロウイルス、パピローマウイルス、およびパポバウイルス(例えば、SV40)が挙げられる。ベクターは、発現を制御するための様々なエレメントを含有していてもよく、そのようなエレメントとして、プロモーター配列、転写開始配列、エンハンサー配列、選択可能なエレメント、およびレポーター遺伝子が挙げられる。加えて、ベクター(例えば細菌ベクターまたはエピソーム哺乳類ベクター)は、複製起点を含有していてもよい。またベクターは、その細胞への侵入に役立つ物質を包含していてもよく、そのような物質としては、これらに限定されないが、ウイルス粒子、リポソーム、またはタンパク質コーティングなどが挙げられる。
【0076】
[0096]「宿主細胞」は、本明細書で使用される場合、外因性ポリヌクレオチドおよび/またはベクターが、1つまたはそれより多くの外因性タンパク質を発現するように導入された細胞を指す。「宿主細胞」は、特定の対象細胞とその後代の両方を指すことを目的とする。宿主細胞は、原核生物、真核生物、植物細胞、動物細胞またはハイブリドーマであってもよい。宿主細胞は、望ましいレベルでタンパク質を発現しないが、その核酸を含む細胞であってもよく、その場合、調節因子が細胞に導入されるか、または調節配列が核酸と作動可能に連結されるように調節配列が宿主細胞に導入されれば、望ましいレベルでタンパク質を発現する。
【0077】
[0097]「医薬組成物」は、丸剤、錠剤、カプセル剤、または針または類似の器具で注射するための液体製剤の形態での、本明細書に記載される化合物、またはその医薬的に許容される塩の1つまたはそれより多くと、他の化学成分、例えば生理学的に許容される担体および賦形剤との混合物を指す。医薬組成物の1つの目的は、生物への化合物の投与を容易にすることである。管理機関によって承認された組成物に限定することは意図しておらず、栄養補給剤や他の製剤を包含することが意図される。
【0078】
[0098]用語「治療有効量」または「有効投薬量」は、本明細書で使用される場合、ヒトTrkBに関連する疾患または状態を治療するのに有効な薬物の投薬量または濃度を指す。例えば、がんを治療するための本明細書で開示される抗体または抗原結合フラグメントの使用に関して、治療有効量は、腫瘍体積を低減させること、腫瘍の全てまたは一部を根絶すること、腫瘍増殖またはがん細胞の他の臓器への浸潤を阻害するかもしくは遅らせること、がん性状態を媒介する細胞の成長または増殖を阻害すること、腫瘍細胞転移を阻害するかもしくは遅らせること、腫瘍またはがん性状態に関連するあらゆる症状またはマーカーを緩和すること、腫瘍またはがん性状態の発生を予防するかもしくは遅らせること、またはいくつかのそれらの組合せが可能な、抗体または抗原結合フラグメントの投薬量または濃度である。
【0079】
[0099]用語「医薬的に許容される」は、指定された担体、媒体、希釈剤、賦形剤、および/または塩が、全体として製剤を構成する他の成分と化学的および/または物理的に適合しており、そのレシピエントと生理学的に適合していることを示す。「賦形剤」は、化合物の投与をさらに容易にするために医薬組成物に添加される不活性物質を指す。賦形剤の例としては、これらに限定されないが、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、様々な糖および様々なタイプのデンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油およびポリエチレングリコールが挙げられる。
【0080】
[00100]「細胞分化」は、本明細書で使用される場合、ある細胞型から異なる細胞型に発達することである。例えば、二分化能を有する細胞、多能性細胞、または全能性細胞は、神経細胞に分化することができる。分化は、増殖を伴う場合もあるし、またはそれと独立している場合もある。「分化」は、一般的に、発生的に明確ではない細胞型、例えばニューロンまたはリンパ球からの成熟細胞型の表現型の獲得を指すが、1つの成熟細胞型が別の成熟細胞型に、例えばニューロンがリンパ球に変換する可能性がある分化転換を除外しない。
【0081】
BDNF/NT-4-TrkBシグナル伝達経路
[00101]ニューロトロフィンファミリーのメンバーは、高度に相同な二量体の増殖因子であり、神経成長因子(NGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン-3(NT-3)、ニューロトロフィン-4/5(NT-4/5)などがある(McAllisterら、1999)。ニューロトロフィンは、多様な機能を有する。細胞におけるニューロトロフィンの合成プロセス中、ニューロトロフィンは、最初に前駆体(プロニューロトロフィン)として合成され、それらが切断されて成熟ニューロトロフィンが生産され、これがTrk受容体チロシンキナーゼを活性化することによってニューロンの生存を促進し、シナプス可塑性を強化する(NagappanおよびLu、2005)。プロニューロトロフィンは、p75NTR(p75神経栄養因子受容体、p75NTR)と結合することにより細胞のアポトーシスを引き起こす傾向がある(Wooら、2005)。全ての他のチロシンキナーゼ受容体のように、Trk受容体は、二量体化を介して活性化され、それにより細胞内チロシン残基の自己リン酸化が生じ、シグナル伝達カスケードが開始される。Trkによって活性化されたシグナル伝達経路は、Ras/細胞外調節キナーゼ(Erk)経路、ホスファチジルイノシトール-3キナーゼ(PI3キナーゼ)/Akt経路およびPLCγ/PKC経路を包含する(HuangおよびReichardt、2001;KaplanおよびMiller、2000)。
【0082】
[00102]ニューロトロフィン受容体のなかでも、TrkBおよびその内因性のリガンドBDNF/NT-4は、それらのシナプス可塑性の調節に関してかなりの懸念がある。ニューロトロフィンは、非共有結合によって連結された安定な二量体として存在する。二量体化されたリガンドは、受容体の単量体を一緒に引き付け、受容体の二量体化と受容体のチロシン残基のリン酸化を誘導する。次いで受容体の自己リン酸化は、シグナル伝達カスケードを活性化する(Ibanezら、1993;McDonaldら、1991;Radziejewskiら、1992)。TrkBは、5つのドメインを包含する細胞外ドメイン、膜貫通領域および細胞内キナーゼドメインによって構成される。第1の3つの細胞外ドメインD1~D3は、2つのシステインリッチ領域を両端にもつロイシンリッチ領域からなる。ドメイン4および5(D4、D5)の両方は、免疫グロブリン様ドメインである。結晶学調査データは、D5が、BDNFがTrkBに結合する領域であることを示す(Banfieldら、2001)。リガンド結合は、受容体の細胞内キナーゼドメインにおいて、受容体の二量体化と、5つのチロシン残基Tyr515、Tyr701、Tyr705、Tyr706およびTyr816のリン酸化とを誘導する(McCartyおよびFeinstein、1998)。細胞内の膜近傍領域における515位におけるチロシンのリン酸化は、それらのリン酸化チロシン結合(PTB)ドメインを介してShcアダプター分子を補充する(Eastonら、1999)。TrkBのTyr515がFで置き換えられている場合、TrkBは、Shcと相互作用できない(Eastonら、1999)。816位も、TrkBのC末端でリン酸化され、それによりホスホリパーゼC-γ(PLC-γ)がSrc-相同性2(SH2)ドメインを介して816位に結合し、リン酸化される(McCartyおよびFeinstein、1998)。
【0083】
[00103]下流は、3つの主要な細胞内シグナル伝達カスケード:Ras-マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)経路、ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)-Akt経路およびPLCγ-Ca2+経路である。TrkBは、MAPK経路を介してニューロンの分化およびシナプスの発生を調節する(Cowleyら、1994)。Tyr515におけるShcアダプターの補充およびリン酸化により、増殖因子受容体結合タンパク質2(GRB2)およびセブンレスの息子(SOS:son of sevenless)の結合が起こり、c-Raf/B-Raf/Erk1/Erk2/p38MAPKなどを含むRas-MAPK下流経路が活性化される(BallifおよびBlenis、2001)。TrkBは、PI3K-Akt経路を介して細胞の発生および生存を調節し、樹状突起棘が中心としてAktと共に成長するのを促進する。PI3KとTrkBとの会合および活性化は、間接的に、補充されたGRB結合バインダー-1(GAB1:recruited GRB-associated binder-1)、インスリン受容体基質1(IRS1:insulin-receptor substrate 1)およびIRS2を介してPI3Kを活性化する。この会合に応答して、3-ホスホイノシチドがPI3Kにより生成し、3-ホスホイノシチド依存性プロテインキナーゼ1(PDPK1)を活性化する。PDPK1は、これらの3-ホスホイノシチドと共にプロテインキナーゼAktを活性化し、これがカスパーゼ-9、グリコーゲン合成酵素キナーゼ-3(GSK-3)およびFKHRファミリーメンバーなどの数種のタンパク質をリン酸化する(van Weerenら、1998)。
【0084】
[00104]TrkBシグナル伝達経路の活性化レベルを低くすることは、樹状突起棘の軸索および分岐を著しく損なう可能性がある。このプロセスには、足場タンパク質であるARMSおよびRhoAが関与する(Linら、2011)。PLCγ経路は、TrkBにおけるTyr816のリン酸化から始まる。PLCγ経路は主として、ジアシルグリセロール(DAG)およびイノシトール三リン酸(IP3)を補充する(Guptaら、2013)。DAGは、プロテインキナーゼC(PKC)を活性化することができ、IP3は、カルシウム流入を引き起こす。これらはは協調して、軸索突起の分岐を調節する。しかしながら、Tyr816における遺伝子ノックアウトは、軸索突起の分岐を完全にブロックすることはできないことから、このプロセスには他のシグナル伝達経路も参加している可能性があることを示す。
【0085】
TrkBアゴニスト抗体
[00105]BDNFによるTrkBの活性化シグナル伝達経路は神経分化誘導性の機能を有するにもかかわらず、BDNFは、同時にp75NTRにも多少の親和性を有する。この受容体の活性化は、JNKを含む下流因子の活性化をもたらし、細胞傷害性を引き起こすことになり、したがって細胞死を誘導することができる。加えて、BDNFそのものの生化学的性質は、非常に不安定である。その血漿半減期は、わずか約10分である。工業的生産に関して、BDNFの調製は、かなりの費用を要する。それゆえに、BDNF二量体がその受容体の二量体化および自己リン酸化を媒介するメカニズムによれば、抗体分子(主としてIgG)も同様に2価である(2つの同じFabドメインを有する)ことから、それらは類似の活性化を達成することができる。1996年に、Lucidi-Phillipiらが最初に、動物において抗TrkAポリクローナル抗体がTrkAを活性化し、コリン作動性ニューロンの致死を阻害できることを報告した(Lucidi-Phillipiら、1996)。同じ年に、LeSauteurは、TrkAのモノクローナル抗体を報告した。この抗ヒトTrkA抗体はNGFドッキング部位を認識し、TrkAとその下流分子PI3-Kと結合し、それらを活性化する(LeSauteurら、1996)。Qianらは最初に、TrkB抗体アゴニストの発生を報告した。研究者によってスクリーニングされた5つのモノクローナル抗体のなかでも、TrkBが各抗体に結合する部位は異なっていたが、それらは全て、程度は異なるが細胞生存および軸索突起の伸長を促進することができた。より重要なことに、これらの抗体はp75NTRを活性化しない(Qianら、2006)。これらの抗体の1つとして、29D7が、様々な神経疾患において治療作用を有することが見出されている。Katsukiは、29D7を硝子体に入れることによって、視神経のダメージの外科手術中における網膜神経節細胞の死を低減できることを見出した(Huら、2010)。新生児ラットの低酸素虚血性の外科手術後、29D7は、細胞死を低減し、感覚運動機能の長期回復を促進することができることから、脳性麻痺を有する子供への臨床的な治療に有意である(Kimら、2014)。加えてToddは、29D7が、突然変異ハンチンチンタンパク質によって引き起こされる線条体細胞の障害を低減させることができることを証明したことから(Toddら、2014)、29D7は、ハンチントン病の治療における見込みのある薬物になりつつある。
【0086】
[00106]発明の開示は、一形態において、TrkBアゴニスト抗体およびその抗原結合フラグメントを提供する。特定の実施態様において、本発明の開示は、例示的なモノクローナル抗体である、TrkB-agoAb202、TrkB-agoAb303、TrkB-agoAb203、TrkB-agoAb104、TrkB-agoAb1104、TrkB-agoAb2908、TrkB-agoAb5702、TrkB-agoAb1016、TrkB-agoAb2037、TrkB-agoAbB901、TrkB-agoAbB503、TrkB-agoAbB418、TrkB-agoAb6916、TrkB-agoAb4014、TrkB-agoAb7431、それらのキメラ抗体、およびそれらのヒト化抗体を提供する。
【0087】
[00107]当業者であれば、本明細書で提供されるCDR配列は、得られた抗体が1つまたはそれより多くの特性において改善され(例えば、結合または結合親和性の改善、薬物動態の半減期の増加、pH感受性、コンジュゲーションへの適合性、CDR残基におけるグリコシル化および/または脱アミノのリスク低減、および免疫原性の低減)、それ以外の点では親抗体と同等であるか(すなわち抗体が、上述の改変または変化を除いて、CDR配列の同じセットを有する)、または親抗体の抗原結合特性が少なくとも実質的に保持されるように、アミノ酸残基の1つまたはそれより多くの置換(または挿入または欠失)を含有するように改変されていてもよい(または用語「改変」を使用してもよい)ことを理解するものと予想される。例えば、抗体バリアント(例えばFabまたはscFvバリアント)のライブラリー(またはレパートリー)は、ファージディスプレイ技術で生成し発現させ、次いでヒトTrkBへの結合または結合親和性に関してスクリーニングすることができる。別の例に関して、抗体のヒトTrkBへの結合を仮想的にシミュレートし、結合面を形成する抗体上のアミノ酸残基を同定するのに、コンピューターソフトウェアを使用してもよい。このような残基は、結合または結合親和性の低減を防ぐように置換において回避されるか、またはより強い結合をもたらすために置換の標的となるかのいずれであってもよい。特定の実施態様において、CDR配列における置換の少なくとも1つ(または全て)は、保存的置換である。
【0088】
[00108]特定の実施態様において、抗体およびその抗原結合フラグメントは、本明細書で提供されるCDR配列に、少なくとも80%(例えば少なくとも85%、88%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%)の配列同一性を有し、一方で、対応するCDR配列が本明細書で提供されるCDR配列と100%の配列同一性を有することを除いて実質的に同じ配列を有するその親抗体に類似するかまたはそれよりさらに高いレベルで、ヒトTrkBに対する結合活性または結合親和性を保持する、1つまたはそれより多くのCDR配列を含む。
【0089】
[00109]特定の実施態様において、TrkBアゴニスト抗体およびその抗原結合フラグメントは、キメラである。キメラ抗体は、抗体由来の1つまたはそれより多くの領域と、他の抗体または種由来の1つまたはそれより多くの領域とを含有する。特定の実施態様において、キメラTrkBアゴニスト抗体の少なくとも1つのCDRは、1つの種由来である。特定の実施態様において、CDRの全てが、別の種由来である。特定の実施態様において、キメラTrkBアゴニスト抗体の可変領域は、1つの種由来であり、別の種の抗体の定常領域に連結されている。キメラ抗体は、親抗体の結合活性または結合親和性を保持する。
【0090】
[00110]特定の実施態様において、TrkBアゴニスト抗体およびその抗原結合フラグメントは、ヒト化されている。特定の実施態様において、非ヒト種が元になっているヒト化抗体、および重鎖および軽鎖のフレームワークおよび定常領域における数個のアミノ酸残基は、ヒトにおいて免疫原性を低減または回避するように突然変異している。特定の実施態様において、非ヒト種の可変領域は、ヒト抗体の定常領域に融合されている。特定の実施態様において、ヒト化抗体は、CDRグラフティング、すなわちヒト抗体のCDRを対応する非ヒト抗体のCDRで置き換えることによって作り出される。したがって、ヒトにおけるヒト化抗体の免疫原性は低い。特定の実施態様において、ヒトフレームワーク領域は、例えば結合活性または結合親和性が改善または保持されるように、CDR配列の元となる非ヒト抗体(例えばマウスフレームワーク領域)由来の1つまたはそれより多くのアミノ酸残基で置換される。特定の実施態様において、ヒト化抗体は、親抗体の結合活性または結合親和性を保持するかまたは増加させる。
【0091】
[00111]一部の実施態様において、結合親和性は、K値によって表すことができ、K値は、抗原と抗原結合分子との結合が平衡に達する場合の解離速度の会合速度に対する比率(koff/kon)として計算される。抗原結合親和性(例えばK)は、当業界において公知の好適な方法を使用して適切に決定することができ、このような方法としては、例えば、ビアコアなどの機器を使用するプラズモン共鳴結合アッセイが挙げられる(例えば、Murphy, M.ら、Current protocols in protein science、第19章、ユニット19.14、2006を参照)。
【0092】
[00112]特定の実施態様において、TrkBアゴニスト抗体およびその抗原結合フラグメントは、ヒトTrkB細胞外ドメインに、4nM未満(例えば3.5nM未満、3nM未満、2.5nM未満、2nM未満、1.5nM未満、1nM未満、0.5nM未満、0.4nM未満、0.3nM未満、0.2nM未満、または0.1nM未満)のEC50(すなわち50%が結合する濃度)で結合することが可能である。抗体のヒトTrkBへの結合は、当業界において公知の方法によって測定することができ、そのような方法としては、例えば、ELISA、FACS、表面プラズモン共鳴、GSTプルダウン、エピトープタグ、免疫沈降、Far-ウェスタン、蛍光共鳴エネルギー移動、時間分解蛍光イムノアッセイ(TR-FIA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、酵素免疫検査法、ラテックス凝集反応、ウェスタンブロット、および免疫組織化学または他の結合アッセイが挙げられる。説明に役立つ例において、試験抗体(すなわち第1の抗体)を、固定されたヒトTrkBまたはヒトTrkBを発現する細胞に結合させ、未結合の抗体を洗浄して除いた後、結合した第1の抗体の検出に結合でき、このようにして結合した第1の抗体の検出が可能な標識された二次抗体を導入する。検出は、固定されたTrkBが使用される場合、マイクロプレートリーダーを用いて、またはヒトTrkBを発現する細胞が使用される場合、FACS分析を使用することによって実行することができる。
【0093】
[00113]特定の実施態様において、本抗体によるTrkBの活性化は、BDNFまたはNT-4によるTrkBの活性化より低い。上述したように、BDNFまたはNT-4の二量体は、その細胞内ドメインにおけるコンフォメーション変化とチロシン残基の自己リン酸化を介してTrkBの二量体化を開始させ、それによってマイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)、ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)およびホスホリパーゼC-ガンマ1(PLC-ガンマ1)を含む3つの主要なシグナル伝達経路を媒介する。したがって、TrkBの活性化は、上記の3つのシグナル伝達経路の活性化、またはTrkBのリン酸化(pTrkB)を測定することによって決定することができる。飽和したBDNFまたはNT-4(例えば10nMまたは100nM)は、TrkBアゴニスト抗体またはその抗原結合フラグメントの非存在下における100%のTrkBの活性化をベンチマーク化するのに使用することができる。TrkBアゴニスト抗体またはその抗原結合フラグメント、および飽和したBDNFまたはNT-4溶液の存在下における相加効果(または相乗作用)は、100%より多くのBDNFまたはNT-4によって誘導されたTrkB活性化と定義することができる。特定の実施態様において、相加効果は、ベンチマークのTrkBの活性化の、少なくとも110%、少なくとも115%、少なくとも120%、少なくとも125%、少なくとも130%、少なくとも135%、少なくとも140%、少なくとも145%、または少なくとも150%であり得る。特定の実施態様において、本明細書で提供されるTrkBアゴニスト抗体は、少なくとも120%の相加効果を有する。特定の実施態様において、TrkBアゴニスト抗体は、TrkB-agoAb303である。
【0094】
[00114]特定の実施態様において、TrkBアゴニスト抗体は、TrkBへの結合に関して、BDNFおよび/またはNT-4と競合する。特定の実施態様において、TrkBアゴニスト抗体は、TrkBへの結合に関して、BDNFおよび/またはNT-4と競合しない。TrkBアゴニスト抗体とBDNFおよび/またはNT-4との競合は、上述したようにTrkBの活性化を測定することによって決定することができる。代替として、TrkBアゴニスト抗体とBDNFおよび/またはNT-4との競合は、TrkB結合アゴニストおよびBDNFが同じまたはオーバーラップするエピトープに結合するかどうか、結合の立体的な阻害があるかどうか、または第1の分子の結合が、第2の分子の結合を妨害または低減するTrkBのコンフォメーション変化を誘導するかどうかを試験するように設計された、競合ELISA、FMATまたはビアコア(BIAcore)アッセイによって決定することができる。
【0095】
[00115]例えば、BDNFと競合しないTrkB結合アゴニストは、飽和BDNF濃度(例えば10nΜ、EC100)の存在下でアゴニストの濃度を増加させたときにTrkBリン酸化の変化を引き起こさないと予想される。BDNFと競合するTrkB結合アゴニストは、飽和BDNF濃度(例えば10nΜ、EC100)の存在下でアゴニスト濃度を増加させたときに、TrkBリン酸化の低減を引き起こすと予想される。一実施態様において、アゴニストおよび飽和濃度(EC100)のBDNFの存在下におけるリン酸化されたTrkBの総レベルが、飽和濃度のBDNF単独の存在下におけるリン酸化されたTrkBのレベル、すなわち総pTrkB(EC100のBDNF+アゴニスト)、総pTrkB(EC100のBDNF)に類似している場合、TrkB結合アゴニストは、BDNFと非競合的である。同様に、一実施態様において、アゴニストおよび飽和濃度(EC100)のNT-4の存在下におけるリン酸化されたTrkBの総レベルが、飽和濃度のNT-4単独の存在下におけるリン酸化されたTrkBのレベル、すなわち総pTrkB(EC100のNT-4+アゴニスト)、総pTrkB(EG100のNT-4)に類似している場合、TrkB結合アゴニストは、NT-4と非競合的である。アゴニストおよびBDNFまたはNT-4のいずれかの飽和レベルの存在下で測定された平均の総pTrkBがその範囲内(BDNFまたはNT-4のいずれかの飽和レベルの存在下で測定された平均の総pTrkB±3標準偏差)である場合、リン酸化されたTrkBのレベルは、類似しているとみなされる。一実施態様において、アゴニストおよびBDNFまたはNT-4のいずれかの飽和レベルの存在下で測定された平均の総pTrkBは、その範囲内(BDNFまたはNT-4のいずれかの飽和レベルの存在下で測定された平均の総pTrkB±2標準偏差)である。別の実施態様において、アゴニストおよびBDNFまたはNT-4のいずれかの飽和レベルの存在下で測定された平均の総pTrkBは、その範囲内(BDNFまたはNT-4のいずれかの飽和レベルの存在下で測定された平均の総pTrkB±1標準偏差)である。前述の実施態様において、リン酸化されたpTrkBの平均の総レベルは、少なくとも3回の読み取りに基づき計算され、2つの標準偏差(すなわちアゴニストの存在下で計算された標準偏差およびアゴニストの非存在下で計算された標準偏差)のうち大きい方が使用される。別の実施態様において、アゴニストおよびBDNFまたはNT-4のいずれかの飽和レベルの存在下で測定された平均の総pTrkBと、BDNFまたはNT-4の飽和レベルの存在下で測定された平均の総pTrkBとが10%未満で異なる場合、リン酸化されたTrkBのレベルは、類似しているとみなされる。別の実施態様において、アゴニストおよびBDNFまたはNT-4のいずれかの飽和レベルの存在下で測定された平均の総pTrkBと、BDNFまたはNT-4の飽和レベルの存在下で測定された平均の総pTrkBとが5%未満で異なる場合、リン酸化されたTrkBのレベルは、類似しているとみなされる。TrkBへの結合に関してBDNFまたはNT-4と競合しないTrkB結合アゴニストは、TrkBアゴニストはTrkBを活性化することができ、低減したレベルのBDNF(またはNT-4)と競合しないため、臨床的な状況において有益である。したがって、BDNFおよびNT-4は、TrkB結合アゴニストに加えて、生理学的な役割を継続的に果たすことができる。
【0096】
[00116]報告されているTrkBにおけるBDNFまたはNT-4/5結合エピトープの主要な残基は、Asp349、Asn350、Tyr329、Asp298、Cys302、Cys345およびHis299である(Banfieldら、2001)。ERK、AktおよびPLCガンマに加えてTrkBのリン酸化の検出は、ウェスタンブロットなどの当業界公知の方法によって、様々なタイムポイントで、例えば0分、5分、15分、30分、1時間、2時間、6時間、12時間、24時間または36時間で実行することができる。特定の実施態様において、TrkBアゴニスト抗体によって開始されるAktのリン酸化は、ウェスタンブロットによって測定した場合、BDNFまたはNT-4のリン酸化の90%(例えば80%、70%、60%、50%、40%、30%、20%、10%またはそれよりさらに低い)に類似しているか、またはそれより低い。特定の実施態様において、TrkBアゴニスト抗体によって開始されるErkのリン酸化は、ウェスタンブロットによって測定した場合、BDNFまたはNT-4のリン酸化の90%(例えば80%、70%、60%、50%、40%、30%、20%、10%またはそれよりさらに低い)に類似しているか、またはそれより低い。特定の実施態様において、TrkBアゴニスト抗体によって開始されるPLCガンマのリン酸化は、ウェスタンブロットによって測定した場合、BDNFまたはNT-4のリン酸化の90%(例えば80%、70%、60%、50%、40%、30%、20%、10%またはそれよりさらに低い)に類似しているか、またはそれより低い。特定の実施態様において、Erkのリン酸化は、Erk1のThr202および/またはTyr204(Erk2のThr185および/またはTyr187)で測定される。特定の実施態様において、Aktのリン酸化は、Thr308および/またはSer473で測定される。特定の実施態様において、PLC-ガンマのリン酸化は、Tyr771、Tyr775、Tyr783、Ser1248、またはそれらの組合せで測定される。特定の実施態様において、TrkBの自己リン酸化は、Tyr515、Tyr701、Tyr705、Tyr706、Tyr816、Tyr490、Tyr670、Tyr674、Tyr675、Tyr771、Tyr783、Tyr785、Tyr1254、またはそれらの組合せで測定される。
【0097】
[00117]特定の実施態様において、TrkBアゴニスト抗体およびその抗原結合フラグメントは、併用療法に組み入れることができ、併用療法としては、標準的な化学および放射線療法(例えば放射線療法、X線療法)、標的ベースの小分子療法(例えばモノクローナル抗体、光線力学療法)、免疫療法(例えば、腫瘍マーカーに対する抗体、例えば、癌胎児性抗原、前立腺特異的抗原、泌尿器腫瘍関連抗原、胎児性抗原、チロシナーゼ(p97)、gp68、TAG-72、HMFG、シリアルルイス抗原、MucA、MucB、PLAP、エストロゲン受容体、ラミニン受容体、erbBおよびp155、DLL4、Notch1、Notch2/3、Fzd7、またはWnt、r-スポンジン(RSPO)1、RSPO2、RSPO3またはRSPO4に対する抗体)、出現する他の免疫チェックポイントモジュレーター療法(例えばワクチン)、ホルモン療法、血管新生阻害(血管形成抑制薬)、遺伝子治療(細胞増殖の誘導物質、細胞増殖の阻害剤、またはプログラム細胞死の調節因子)、緩和ケア(すなわち、痛み(例えばモルヒネおよびオキシコドン)、吐き気、嘔吐(例えばオンダンセトロンおよびアプレピタント)、下痢および出血を低減するためのケアの質を改善することを目的とした治療)および外科手術が挙げられる。特定の実施態様において、抗体およびその抗原結合フラグメントは、抗体-薬物コンジュゲート、二重特異性抗体または多価抗体のベースとして使用することができる。
【0098】
[00118]本明細書で提供されるTrkBアゴニスト抗体およびその抗原結合フラグメントは、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、組換え抗体、二重特異性抗体、標識された抗体、2価抗体、または抗イディオタイプ抗体であってもよい。組換え抗体は、動物中ではなく組換え方法を使用してインビトロで調製された抗体である。二重特異性または2価抗体は、2種の異なるモノクローナル抗体のフラグメントを有する人工抗体であり、2種の異なる抗原に結合することができる。「2価」の抗体またはそれらの抗原結合フラグメントは、2つの抗原結合部位を含む。抗体または抗原結合フラグメントが「二重特異性」であることを特徴とする場合、2つの抗原結合部位は、同じ抗原に結合することもできるし、またはそれらがそれぞれ異なる抗原に結合することもできる。
【0099】
[00119]一部の実施態様において、本明細書で提供されるTrkBアゴニスト抗体およびその抗原結合フラグメントは、ヒト化されているかまたはキメラ抗体である。特定の実施態様において、ヒト化またはキメラ抗体は、組換え方法を使用して調製される。例えば、非ヒト動物は、適した抗原、例えばヒトTrkBタンパク質で免疫化されてもよい。抗原に結合する抗体可変領域をコードする遺伝子フラグメントをマウスのモノクローナル抗体の遺伝子から切り出し、この部分を、ヒト/非ヒト動物IgG1由来の抗体の定常領域の遺伝子に作動可能に連結させる。組換え遺伝子フラグメントを発現ベクターに取り込ませ、次いでこれをキメラ抗体生産のための宿主細胞に導入する(米国特許第4,816,397号;4,816,567号;5,807,715号を参照)。
【0100】
[00120]「ヒト化抗体」は、可変領域のフレームワークおよび定常領域が、存在する場合、全体的または実質的にヒト抗体配列由来になるように、非ヒト由来の抗体のCDR遺伝子をヒト抗体遺伝子にグラフト化することにより得られた抗体である。ヒト化抗体を調製するための方法は、当業界において公知である(例えば、米国特許第5,225,539号、米国特許第5,530,101号、米国特許第6,407,213号、米国特許第5,859,205号、米国特許第6,881,557号、EP239400、EP125023、WO90/07861、およびWO96/02576を参照)。特定の実施態様において、ヒト化抗体は、ヒト化された重鎖およびヒト化された軽鎖を含む。特定の実施態様において、ヒト化されたTrkBアゴニスト抗体におけるグラフト化されたCDRの配列は、対応するCDRと、少なくとも60%、70%、80%、82%、85%、88%、90%、95%または100%同一である。特定の実施態様において、ヒト化されたTrkBアゴニスト抗体のCDR中で、3個以下の保存的アミノ酸置換が存在する。特定の実施態様において、ヒト化されたTrkB抗体の可変領域フレームワークのアミノ酸残基は、配列の最適化のために置換される。特定の実施態様において、ヒト化されたTrkBアゴニスト抗体鎖の可変領域フレームワーク配列は、対応するヒト可変領域フレームワーク配列と、少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%同一である。
【0101】
[00121]一部の実施態様において、TrkBアゴニスト抗体およびその抗原結合フラグメントは、単一ドメイン抗体、ラクダ単一ドメイン抗体、VNAR、ナノボディ、操作されたヒトVH/VL単一ドメイン抗体、ダイアボディ、scFv、scFv二量体、BsFv、dsFv、(dsFv)、dsFv-dsFv’、Fvフラグメント、Fab、Fab’、F(ab’)、dsダイアボディ、ドメイン抗体、単離されたCDRまたは2価ドメイン抗体である。
【0102】
[00122]一部の実施態様において、TrkBアゴニスト抗体およびその抗原結合フラグメントは、免疫グロブリン定常領域をさらに含む。一部の実施態様において、免疫グロブリンの定常領域は、重鎖および/または軽鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、CH1、CH1-CH2、またはCH1-CH3領域を含む。一部の実施態様において、定常領域は、望ましい特性を付与するための1つまたはそれより多くの改変をさらに含んでいてもよい。例えば、定常領域は、1つまたはそれより多くのエフェクター機能を低減または枯渇させるため、FcRn受容体結合を改善するため、または1つまたはそれより多くのシステイン残基を導入するために改変されてもよい。
【0103】
[00123]一部の実施態様において、TrkBアゴニスト抗体およびその抗原結合フラグメントはさらに、抗体-薬物-コンジュゲート(ADC)を形成する。様々なペイロードが、本明細書で提供される抗体または抗原結合フラグメントに連結できることが予期される(例えば、「Conjugate Vaccines」、Contributions to Microbiology and Immunology、J. M. CruseおよびR. E. Lewis, Jr.(編)、Carger Press、ニューヨーク(1989)を参照)。「ペイロード」という用語は、「薬物」と置き換え可能に使用され、これらのペイロードは、他の方法のなかでも特に、共有結合、親和性結合、挿入、配位結合、錯化、会合、ブレンド、または付加によって抗体または抗原結合フラグメントに連結することができる。特定の実施態様において、本明細書で開示される抗体および抗原結合フラグメントを、1つまたはそれより多くのペイロード、例えばペプチド、核酸分子、薬物、細胞毒素、ポリペプチド、タンパク質、融合タンパク質、抗体、ハプテン、小分子、模倣剤、合成薬物、無機分子、有機分子、放射性同位体およびレポーター基への結合のために利用できる、エピトープ結合部分の外側の特異的な部位が含有されるように操作することができる。例えば、このような部位は、ペイロードへの共有結合による連結を容易にするために、1つまたはそれより多くの反応性アミノ酸残基、例えばシステインまたはヒスチジン残基などを包含していてもよい。特定の実施態様において、抗体は、間接的にリンカーを介して、または別のペイロードを介してペイロードに連結されていてもよい。例えば、抗体または抗原結合フラグメントは、ビオチンにコンジュゲートされ、次いで間接的に、アビジンにコンジュゲートした第2のペイロードにコンジュゲートされていてもよい。ペイロードは、レポーター基もしくは検出可能な標識、薬物動態学的な改変成分、精製成分、または細胞傷害性成分であってもよい。検出可能な標識の例としては、検出のための、蛍光標識(例えばフルオレセイン、ローダミン、ダンシル、フィコエリトリン、またはテキサスレッド)、酵素-基質標識(例えばホースラディッシュペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ルシフェラーゼ、グルコアミラーゼ、リゾチーム、糖類酸化酵素またはβ-D-ガラクトシダーゼ)、放射性同位体(例えば123I、124I、125I、131I、35S、3H、111In、112In、14C、64Cu、67Cu、86Y、88Y、90Y、177Lu、211At、186Re、188Re、153Sm、212Bi、および32P、他のランタニド、発光性標識)、色素産生性成分、ジゴキシゲニン、ビオチン/アビジン、DNA分子または金を挙げることができる。特定の実施態様において、ペイロードは、抗体の半減期の増加を助けるPEGなどの薬物動態学的な改変成分であってもよい。他の好適なポリマーとしては、例えば、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、エチレングリコール/プロピレングリコールのコポリマーなどが挙げられる。特定の実施態様において、ペイロードは、精製成分、例えば磁気ビーズであってもよい。「細胞傷害性」成分のペイロードは、細胞に有害であるか、または細胞にダメージを与えたりまたは致死させたりすることができるあらゆる薬剤であってもよい。細胞傷害性成分の例としては、これらに限定されないが、化学療法剤、抗腫瘍剤、増殖阻害剤、薬物、毒素、例えばタキソール、サイトカラシンB、グラミシジンD、エチジウムブロマイド、エメチン、マイトマイシン、エトポシド、テノポシド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルヒチン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ジヒドロキシアントラシンジオン、ミトキサントロン、ミトラマイシン、アクチノマイシンD、1-ジヒドロテストステロン、グルココルチコイド、プロカイン、テトラカイン、リドカイン、プロプラノロール、ピューロマイシンおよびそれらの類似体、代謝拮抗物質(例えば、メトトレキセート、6-メルカプトプリン、6-チオグアニン、シタラビン、5-フルオロウラシルデカルバジン)、アルキル化剤(例えば、メクロレタミン、チオテパ(thioepa)、クロラムブシル、メルファラン、カルムスチン(BSNU)およびロムスチン(CCNU)、シクロホスファミド(cyclothosphamide)、ブスルファン、ジブロモマンニトール、ストレプトゾトシン、マイトマイシンC、およびcis-ジクロロジアミン白金(II)(DDP)シスプラチン)、アントラサイクリン(例えば、ダウノルビシン(以前はダウノマイシン)およびドキソルビシン)、抗生物質(例えば、ダクチノマイシン(以前はアクチノマイシン)、ブレオマイシン、ミトラマイシン、白金系(例えば、シスプラチンおよびオキサリプラチン)、植物性アルカロイド(例えば、トポイソメラーゼ阻害剤、ビンカアルカロイド、タキサン、およびエピポドフィロトキシン)およびアンスラマイシン(AMC))、ならびに抗有糸分裂剤(例えば、ビンクリスチンおよびビンブラスチン)が挙げられる。用語「ローディング」または「薬物のローディング」または「ペイロードのローディング」は、本明細書で使用される場合、抗体1つ当たりの薬物/ペイロードの平均数を指す。薬物のローディングは、当業界において好適な方法、例えば質量分析、UV/可視分光法、ELISAアッセイ、およびHPLCによって決定した場合、抗体1当たり1~20個(例えば1~15、1~10、2~10、1~8、2~8、2~6、2~5または2~4個)の範囲内の薬物(薬物と抗体との比率ともいう)であってもよい。特定の実施態様において、薬物のローディングは、1、2、3、4、5、6、7、8、9または10である。
【0104】
ポリヌクレオチドおよび組換え方法
[00124]本発明の開示は、TrkBアゴニスト抗体およびその抗原結合フラグメントをコードする単離されたポリヌクレオチドを提供する。特定の実施態様において、単離されたポリヌクレオチドは、本発明の開示において提供されるCDR配列をコードする1つまたはそれより多くのヌクレオチド配列を含む。
【0105】
[00125]抗体は、当業者公知の様々な技術のいずれかによって調製することができる。例えば、HarlowおよびLane、Antibodies:A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory、1988を参照されたい。特定の実施態様において、モノクローナルTrkBアゴニスト抗体またはその抗原結合フラグメントを生産するプロセスとしては、好適な動物を、ヒトTrkBタンパク質またはhTrkBアゴニストを生産する細胞で免疫化することが挙げられる。動物は、げっ歯類、例えば、マウスまたはラット、例えば、Velocimouse(登録商標)、Kymouse(登録商標)、Xenomouse(登録商標)、Aliva Mouse(登録商標)、HuMab Mouse(登録商標)、Omnimouse(登録商標)、Omnirat(登録商標)またはMeMo Mouse(登録商標)、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマ、ウサギ、モルモットなどであってもよい。免疫動物の脾臓またはリンパ節を使用するかまたはB細胞を集めてハイブリドーマを生成し、TrkBアゴニスト抗体のタイターを測定する。免疫動物由来のハイブリドーマまたはB細胞クローンから、好適なタイターを有するTrkBアゴニスト抗体またはその抗原結合フラグメントをコードするポリヌクレオチドをクローニングする。クローニングまたは改変された(例えばキメラ、ヒト化された)ポリヌクレオチドを好適なベクターに組み込み、次いでこれを宿主細胞に導入して、本開示の抗体を生産する。本明細書で提供される抗体およびその抗原結合フラグメントは、宿主細胞を培養し、続いて宿主細胞または培養液(例えば上清)を分離および精製することによって、実質的に純粋で均一な形態で得ることができる。抗体またはその抗原結合フラグメントの分離および精製のために、ポリペプチド精製に使用される通常の方法を採用することができる。モノクローナル抗体は、例えば、KohlerおよびMilstein、Eur. I Immunol. 6:511~519、1976の技術、またはその改変法を使用して調製することができる。また、マウスなどのトランスジェニック動物を利用して、宿主動物以外の異なる種の抗体、例えばヒト抗体を発現させる方法も挙げられる。例えば、Neubergerら、Nature Biotechnology 14:826、1996; Lonbergら、Handbook of Experimental Pharmacology 113:49~101、1994;およびLonbergら、Internal Review of Immunology 13:65~93、1995を参照されたい。このような例としては、REGENEREX(登録商標)により開発されたVELOCIMMUNE(登録商標)プラットフォームが挙げられる。特定の実施態様において、本明細書で提供される抗体は、(1)上記の免疫動物からのリンパ球を骨髄腫細胞と融合させて、抗体を発現するハイブリドーマを生成すること;(2)上記の免疫動物のリンパ球から抗原特異的なB細胞を単離し、PCRを介して抗体をクローニングし、抗体を発現させること;または(3)上記の免疫動物のリンパ球からmRNAを単離して、ファージディスプレイ、リボソームディスプレイ、イーストディスプレイ、細菌ディスプレイ、バキュロウイルスディスプレイ、哺乳動物細胞ディスプレイ、またはmRNAディスプレイライブラリーを介して抗体を得ることから選択されるプロセスの少なくとも1つを介して得られる(例えば、米国特許第7,244,592号;Chaoら、Nature Protocols. 1:755~768、2006を参照)。これらのディスプレイ方法は、全て当業界における従来の技術であり、それらの具体的な操作は、対応する教本または操作マニュアルに見出すことができる。例えばMondon Pら、Front. Biosci. 13:1117~1129、2008を参照されたい。特定の実施態様において、抗体またはその抗原結合フラグメントの結合部位は、複数の4鎖抗体またはその抗原結合フラグメント、例えば、dAb、FabまたはscFvを含むかまたはからなる多数の結合部位(例えば、そのライブラリー)から選択される。
【0106】
[00126]TrkBアゴニスト抗体およびその抗原結合フラグメントをコードする単離されたポリヌクレオチドは、さらなるクローニング(DNAの増幅)または発現のために、当業界において公知の組換え技術を使用して、ベクターに挿入することができる。別の実施態様において、抗体は、当業界において公知の相同組換えによって生産してもよい。モノクローナル抗体をコードするDNAは、従来の手順を使用して(例えば、抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することが可能なオリゴヌクレオチドプローブを使用することによって)、容易に単離および配列決定される。多くのベクターが入手可能である。ベクター要素としては、一般的に、これらに限定されないが、以下:シグナル配列(例えば翻訳シグナルまたはリーダー配列)、複製起点、1つまたはそれより多くの選択可能マーカー遺伝子、エンハンサーエレメント、プロモーター(例えばSV40、CMV、EF-1α)、および転写終結配列の1つまたはそれより多くが挙げられる。
【0107】
[00127]一部の実施態様において、ベクター系としては、哺乳類、細菌、酵母系などが挙げられ、例えば、これらに限定されないが、pALTER、pBAD、pcDNA、pCal、pL、pET、pGEMEX、pGEX、pCI、pCMV、pEGFP、pEGFT、pSV2、pFUSE、pVITRO、pVIVO、pMAL、pMONO、pSELECT、pUNO、pDUO、Psg5L、pBABE、pWPXL、pBI、p15TV-L、pPro18、pTD、pRS420、pLexA、pACT2.2、pCDM8、pCDNA1.1/amp、pcDNA3.1、pRc/RSV、pEF-1、pCMV-SCRIPT.RTM.、pFB、pSG5、pXT1、pCDEF3、pSVSPORT、pEF-Bosなど、ならびに他の実験用および市販の発現ベクターなどのプラスミドを含む。好適なベクターとしては、プラスミド、またはウイルスベクター(例えば、複製欠損型レトロウイルス、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルス)を挙げることができる。ベクターは、単一のコピーまたは複数コピーで維持されてもよいし、または宿主細胞ゲノムに統合されてもよい。抗体または抗原結合フラグメントをコードするポリヌクレオチド配列を含むベクターは、複製または遺伝子発現のための宿主細胞に導入することができる。本明細書においてベクター中のDNAをクローニングまたは発現するための好適な宿主細胞は、上述される原核生物、酵母、昆虫細胞またはより高等な真核生物細胞である。この目的のために好適な原核生物としては、真正細菌、例えばグラム陰性またはグラム陽性生物、例えば、腸内細菌科、例えばエシェリキア属、例えば大腸菌(E.coli)、エンテロバクター属、エルウィニア属、クレブシエラ属、プロテウス属、サルモネラ属、例えばネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)、セラチア属、例えばセラチア・マルセセンス(Serratia marcescans)、および赤痢菌属、加えてバチルス属(Bacilli)、例えば枯草菌(B.subtilis)およびB.リケニフォルミス(B.licheniformis)、シュードモナス属、例えば緑膿菌(P.aeruginosa)、およびストレプトマイセス属、バチルス属(Bacillus)、連鎖球菌属、ストレプトマイセス属、スタフィロコッカス属、エンテロコッカス属、乳酸桿菌属、乳酸球菌属、クロストリジウム属、ゲオバチルス属、オセアノバチルス属(Oceanobacillus)、シュードモナス属、サルモネラ属、カンピロバクター属、ヘリコバクター属、フラボバクテリウム属、フゾバクテリウム属、イリオバクター属(Ilyobacter)、ナイセリア属、およびウレアプラスマ属が挙げられる。好適な昆虫細胞としては、キイロショウジョウバエ属のシュナイダーS2(Schnieder S2)細胞およびSf9が挙げられる。好適な酵母としては、P.メタノリカ(P.methanolica)、P.パストリス(P.pastoris)、S.セレビシエ(S.cerevisiae)または一般的なパン酵母が挙げられる。好ましい哺乳類細胞としては、CHO細胞、HEK293細胞、リンパ球および骨髄腫が挙げられる。特定の実施態様において、抗体のためのグリコシル化およびFcエフェクター機能が必要ない場合、抗体は、細菌中で生産することができる。
【0108】
[00128]上記の例に加えて、多数の他の属、種、および株が一般的に入手可能であり、本明細書において有用である。そのようなものとしては、例えば、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe);クルイベロマイセス属の宿主、例えば、K.ラクティス(K.lactis)、K.フラギリス(K.fragilis)(ATCC12,424)、K.ブルガリクス(K.bulgaricus)(ATCC16,045)、K.ウィッカーラミイ(K.wickeramii)(ATCC24,178)、K.ワルテイ(K.waltii)(ATCC56,500)、K.ドロソフィラルム(K.drosophilarum)(ATCC 36,906)、K.サーモトレランス(K.thermotolerans)、およびK.マルキシアヌス(K.marxianus)など;ヤロウイア属(EP402,226);ピチア・パストリス(Pichia pastoris)(EP183,070);カンジダ属;トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesia)(EP244,234);アカパンカビ(Neurospora crassa);シュワニオミセス属、例えばシュワニオミセス・オクシデンタリス(Schwanniomyces occidentalis);ならびに糸状菌(filamentous fungi)、例えばアカパンカビ属、ペニシリウム属、トリポクラジウム属、およびアスペルギルス属の宿主、例えばA.ニデュランス(A.nidulans)およびA.ニガー(A.niger)などが挙げられる。
【0109】
[00129]本明細書で提供されるグリコシル化抗体または抗原フラグメントの発現のために好適な宿主細胞は、多細胞生物由来である。無脊椎動物細胞の例としては、植物および昆虫細胞が挙げられる。スポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)(幼虫)、ネッタイシマカ(Aedes aegypti)(蚊)、ヒトスジシマカ(Aedes albopictus)(蚊)、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)(ミバエ)、およびカイコガ(Bombyx mori)などの宿主由来の、多数のバキュロウイルス株およびバリアント、ならびに対応する複製可能な昆虫宿主細胞が同定されている。トランスフェクションのための様々なウイルス株が公共的に入手可能であり、そのような株としては、例えば、アウトグラファ・カリフォルニカNPV(Autographa californica NPV)のL-1バリアント、およびカイコガNPV(Bombyx mori NPV)NPVのBm-5株が挙げられ、このようなウイルスは、本発明に従って本明細書に記載のウイルスとして、特にスポドプテラ・フルギペルダ細胞のトランスフェクションのために使用することができる。また、綿、トウモロコシ、ジャガイモ、ダイズ、ペチュニア、トマト、およびタバコの植物細胞培養物も宿主として利用することができる。
【0110】
[00130]しかしながら、脊椎動物細胞に最大の関心が寄せられており、培養(組織培養)での脊椎動物細胞の増殖が慣例的な手順になりつつある。有用な哺乳類宿主細胞株の例は、SV40によって形質転換したサル腎臓CV1株(COS-7、ATCC CRL1651);ヒト胎児腎臓株(懸濁培養中での増殖のためにサブクローニングされた293または293細胞、Grahamら、J. Gen Virol. 36:59(1977));ベビーハムスター腎臓細胞(BHK、ATCC CCL10);チャイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR(CHO、Urlaubら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:4216(1980));マウスセルトリ細胞(TM4、Mather、Biol. Reprod. 23:243~251(1980));サル腎臓細胞(CV1 ATCC CCL70);アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO-76、ATCC CRL-1587);ヒト子宮頸癌細胞(HELA、ATCC CCL2);イヌ腎臓細胞(MDCK、ATCC CCL34);バッファローラット肝臓細胞(BRL3A、ATCC CRL1442);ヒト肺細胞(W138、ATCC CCL75);ヒト肝細胞癌細胞(HepG2、HB8065);マウス乳がん(MMT060562、ATCC CCL51);TRI細胞(Matherら、Annals N.Y. Acad. Sci. 383:44~68(1982));MRC5細胞;FS4細胞;PC12;マウス胚線維芽細胞株(3T3);NSO骨髄腫細胞(いかなる機能的な免疫グロブリン鎖も内因的に生産しないマウス骨髄腫細胞株)である。様々な宿主細胞が、翻訳後プロセシングならびにタンパク質および遺伝子産物の改変に関する多様な特徴およびメカニズムを有する。それゆえに、発現される抗体の正しい改変およびプロセシング(例えば一次転写、グリコシル化、およびリン酸化)を確実にするために、好適な細胞株を宿主細胞として選ぶことができる。一部の好ましい実施態様において、宿主細胞は、HEK293T細胞である。一部の好ましい実施態様において、宿主細胞は、CHO細胞である。
【0111】
[00131]宿主細胞を、上述したTrkBアゴニスト抗体産生のための発現またはクローニングベクターで形質転換し、必要に応じてプロモーターの誘導、形質転換株の選択、または望ましい配列をコードする遺伝子の増幅のために改変された従来の栄養培地中で培養する。特定の実施態様において、ベクターは、形質転換、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム処理、リポフェクションなどの当業界において公知の方法によって宿主細胞に移行させてもよい。特定の実施態様において、ベクターの真核生物へのトランスフェクションとしては、リン酸カルシウム共沈殿、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、リポフェクションおよびウイルス感染が挙げられる。真核宿主細胞は、抗体をコードする第2のポリヌクレオチドと共に形質転換させてもよい。特定の実施態様において、移行したベクターを含有する宿主細胞は、TrkBアゴニスト抗体を一時的に発現することができる。
【0112】
[00132]本明細書で提供される抗体または抗原結合フラグメントを生産するのに使用される宿主細胞は、様々な培地中で培養することができる。ハムF10(シグマ(Sigma))、最小必須培地(MEM)(シグマ)、RPMI-1640(シグマ)、およびダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(シグマ)、ルリア液体培地(LB)、およびテリフィック培地(Terrific Broth)(TB)などの市販の培地が、宿主細胞を培養するのに好適である。加えて、Hamら、Meth. Enz.58:44 (1979)、Barnesら、Anal. Biochem. 102:255(1980)、米国特許第4,767,704号;4,657,866号;4,927,762号;4,560,655号;または5,122,469号;WO90/03430;WO87/00195;または米国再発行特許第30,985号に記載された培地のいずれかを、宿主細胞のための培養培地として使用してもよい。これらの培地のいずれかに、必要に応じて、ホルモンおよび/または他の増殖因子(例えばインスリン、トランスフェリン、または上皮増殖因子)、塩(例えば塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、およびリン酸塩)、緩衝液(例えばHEPES)、ヌクレオチド(例えばアデノシンおよびチミジン)、抗生物質(例えばGENTAMYCIN(商標)薬物)、微量元素(通常マイクロモル範囲の最終濃度で存在する無機化合物と定義される)、およびグルコースまたは同等のエネルギー源が補充されていてもよい。また他のあらゆる必要な補充物質が、当業者公知と予想される適切な濃度で包含されていてもよい。培養条件、例えば温度、pHなどは、これまでに発現のために選択された宿主細胞で使用されてきたものであり、当業者には明らかであると予想される。
【0113】
[00133]組換え技術を使用する場合、抗体およびその抗原結合フラグメントは、細胞内で、ペリプラズム間隙中で生産することができ、または培地に直接分泌させることもできる。抗体が細胞内に生産される場合、第1の工程として、微粒子の破片、宿主細胞または溶解したフラグメントのいずれかは、例えば遠心分離または限外ろ過によって除去される。Carterら、Bio/Technology 10:163~167(1992)は、大腸菌のペリプラズム間隙に分泌された抗体を単離するための手順を記載している。簡単に言えば、細胞のペーストを、酢酸ナトリウム(pH3.5)、EDTA、およびフッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)の存在下で約30分にわたり融解させる。死細胞片は、遠心分離によって除去することができる。抗体およびその抗原結合フラグメントが培地に分泌される場合、一般的に、このような発現系からの上清をまず、市販のタンパク質濃縮フィルター、例えばアミコン(Amicon)またはミリポア(Millipore)のペリコン(Pellicon)限外ろ過ユニットを使用して濃縮する。前述の工程のいずれかに、タンパク質分解を阻害するためにPMSFなどのプロテアーゼ阻害剤を取り入れてもよく、外因性の汚染菌の増殖を防ぐために抗生物質を取り入れてもよい。
【0114】
[00134]細胞から調製した抗体は、例えば、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、吸収クロマトグラフィー、ろ過、限外ろ過、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、透析、DEAE-セルロースイオン交換クロマトグラフィー、硫酸アンモニウム沈殿、塩析、免疫沈降、等電点分画法、再結晶およびアフィニティークロマトグラフィーを使用して精製することができ、アフィニティークロマトグラフィーが、好ましい精製技術である。親和性リガンドとしてのプロテインAの適性は、抗体中に存在するいずれかの免疫グロブリンFcドメインの種およびアイソタイプによって決まる。プロテインAは、ヒトガンマ.1、ガンマ.2、またはガンマ.4重鎖をベースとした抗体を精製するのに使用することができる(Lindmarkら、J. Immunol. Meth. 62:1~13(1983))。プロテインAカラムの例としては、Hyper D、POROS、およびセファロースFF(GEヘルスケア・バイオサイエンス(GE Healthcare Biosciences))が挙げられる。プロテインGは、全てのマウスアイソタイプおよびヒトガンマ.3に推奨されている(Gussら、EMBO J. 5:1567 1575(1986))。親和性リガンドを付着させるマトリックスは、ほとんどの場合アガロースであるが、他のマトリックスも利用可能である。機械的に安定なマトリックス、例えば制御多孔質ガラスまたはポリ(スチレンジビニル)ベンゼンは、アガロースで達成できるものより速い流速とより短いプロセシング時間を可能にする。抗体がCH3ドメインを含む場合、Bakerbond ABX(商標)樹脂(J.T.Baker、ニュージャージー州フィリップスバーグ)が精製に有用である。タンパク質精製のための他の技術、例えば、イオン交換カラムでの精留、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカでのクロマトグラフィー、ヘパリンSEPHAROSE(商標)でのクロマトグラフィー、アニオンまたはカチオン交換樹脂でのクロマトグラフィー(例えばポリアスパラギン酸カラム)、クロマトフォーカシング、SDS-PAGE、および硫酸アンモニウム沈殿も、回収しようとする抗体に応じて利用可能である。
【0115】
[00135]あらゆる予備的な精製工程後、目的の抗体および汚染物質を含む混合物を、約2.5~4.5のpHで溶出緩衝液を使用する低いpHの疎水性相互作用クロマトグラフィーに供してもよく、好ましくは、低い塩濃度(例えば、約0~0.25Mの塩)で実行される。
【0116】
キット
[00136]本発明の開示は、さらに別の形態において、本明細書で提供されるTrkBアゴニスト抗体もしくはその抗原結合フラグメント、またはTrkBアゴニスト抗体もしくはその抗原結合フラグメントを含む医薬組成物を含むキットを提供する。一部の実施態様において、キットは、生体サンプル中のTrkBの存在またはレベルを検出するのに有用である。生体サンプルは、細胞または組織を含んでいてもよい。
【0117】
[00137]一部の実施態様において、キットに含まれるTrkBアゴニスト抗体またはその抗原結合フラグメントは、検出可能な標識(例えば、蛍光性、放射性または酵素標識)とコンジュゲートされている。特定の他の実施態様において、キットは、非標識TrkBアゴニスト抗体もしくはその抗原結合フラグメント、または非標識TrkBアゴニスト抗体もしくはその抗原結合フラグメントを含有する医薬組成物を含み、非標識TrkBアゴニスト抗体に結合可能な二次標識抗体をさらに含む。キットはさらに、標識を検出する手段(例えば、蛍光標識、酵素標識のための酵素基質などを検出するためのフィルターセット)を包含していてもよい。キットは、特定の方法の実行のために使用される追加の試薬および緩衝液を含んでいてもよい。キットは、使用説明書、およびキット中の構成要素のそれぞれを隔てるパッケージをさらに含んでいてもよい。特定の実施態様において、キットは、TrkBアゴニスト抗体を検出するためのイムノアッセイを含む。
【0118】
[00138]特定の実施態様において、キットに含まれるTrkBアゴニスト抗体またはその抗原結合フラグメントは、サンドイッチアッセイ、例えばELISA、またはイムノグラフィックアッセイにおいて有用な基板またはデバイスと連結されている。有用な基板またはデバイスは、例えば、マイクロタイタープレートおよび試験ストリップであり得る。
【0119】
[00139]特定の実施態様において、キットは、TrkBタンパク質レベルを検出するために提供される。一部の実施態様において、キットは、TrkBに関連する状態を予測する、診断する、予防する、または治療するために使用される。
【0120】
医薬組成物および治療方法
[00140]本発明の開示はさらに、TrkBアゴニスト抗体またはその抗原結合フラグメントおよび1種またはそれより多くの医薬的に許容される担体を含む医薬組成物を提供する。
【0121】
[00141]本明細書で開示される医薬組成物での使用に医薬的に許容される担体としては、例えば、医薬的に許容される液体、ゲル、もしくは固形担体、水性媒体、非水性媒体、抗微生物剤、等張剤、緩衝液、抗酸化剤、麻酔剤、懸濁剤/分散剤、封鎖剤またはキレート剤、希釈剤、アジュバント、賦形剤、または非毒性の補助剤、当業界において公知の他の成分、または様々なそれらの組合せが挙げられる。
【0122】
[00142]好適な成分としては、例えば、抗酸化剤、潤滑剤、増量剤、結合剤、崩壊剤、緩衝剤、保存剤、潤滑剤、香味料、増粘剤、着色剤、乳化剤または安定剤、例えば糖およびシクロデキストリンが挙げられる。好適な抗酸化剤としては、例えば、メチオニン、アスコルビン酸、EDTA、チオ硫酸ナトリウム、白金、カタラーゼ、クエン酸、システイン、チオグリセロール、チオグリコール酸、チオソルビトール、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチルヒドロキシトルエン、および/または没食子酸プロピルが挙げられる。本明細書で開示されたように、本明細書で提供される抗体または抗原結合フラグメントおよびコンジュゲートを含む組成物中に、1種またはそれより多くの抗酸化剤、例えばメチオニンを包含させることにより、抗体または抗原結合フラグメントの酸化が減少する。この酸化の低減は、結合活性または結合親和性の損失を防ぐかまたは低減させ、それによって抗体の安定性を改善し、貯蔵寿命を最大化する。それゆえに、特定の実施態様において、本明細書で開示される1種またはそれより多くの抗体または抗原結合フラグメント、および1種またはそれより多くの抗酸化剤、例えばメチオニンを含む組成物が提供される。さらに、抗体または抗原結合フラグメントを、1種またはそれより多くの抗酸化剤、例えばメチオニンと混合することによって、本明細書で提供される抗体または抗原結合フラグメントの酸化を予防する、貯蔵寿命を延長する、および/または効能を改善するための方法が提供される。好適な潤滑剤としては、エチレングリコール、グリセリン、またはソルビトールが挙げられる。好適な潤滑剤としては、例えば、セチルエステルワックス、硬化植物油、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸メチル、鉱油、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンコポリマー、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ラウリル硫酸ナトリウムもしくは白蝋、またはそれらの2種またはそれより多くの混合物が挙げられる。好適な乳化剤としては、カルボマー、ポリオキシエチレン-20-ステアリルエーテル、セトステアリルアルコール、セチルアルコール、コレステロール、ステアリン酸ジグリコール、ステアリン酸グリセリル、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ラノリン、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、メチルセルロース、ステアリン酸ポリオキシエチレン、ポリソルベート、モノステアリン酸プロピレングリコール、ソルビタンエステルまたはステアリン酸が挙げられる。
【0123】
[00143]医薬的に許容される担体をさらに例示すれば、例えば、水性媒体、例えば塩化ナトリウム注射液、リンゲル注射液、等張デキストロース注射液、滅菌水注射液、またはデキストロースおよび乳酸加リンゲル注射液、非水性媒体、例えば植物性不揮発性油、綿実油、トウモロコシ油、ゴマ油、または落花生油、静菌性または静真菌性濃度の抗微生物剤、等張剤、例えば塩化ナトリウムまたはデキストロース、緩衝液、例えばリン酸またはクエン酸緩衝液、抗酸化剤、例えば硫酸水素ナトリウム、局所麻酔剤、例えば塩酸プロカイン、懸濁剤および分散剤、例えばカルボキシルメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、またはポリビニルピロリドン、乳化剤、例えばポリソルベート80(TWEEN-80)、封鎖剤またはキレート剤、例えばEDTA(エチレンジアミン四酢酸)またはEGTA(エチレングリコール四酢酸)、エチルアルコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、水酸化ナトリウム、塩酸、クエン酸、または乳酸が挙げられる。複数用量用容器中の医薬組成物中に、担体として利用される抗微生物剤が添加されてもよく、このような抗微生物剤としては、フェノールまたはクレゾール、水銀剤、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチルおよびプロピルp-ヒドロキシケイ皮酸エステル、チメロサール、塩化ベンザルコニウムおよび塩化ベンゼトニウムが挙げられる。好適な賦形剤としては、例えば、水、生理的食塩水、デキストロース、グリセロール、またはエタノールが挙げられる。好適な非毒性の補助剤としては、例えば、湿潤剤もしくは乳化剤、pH緩衝剤、安定剤、溶解促進剤、または酢酸ナトリウム、モノラウリン酸ソルビタン、トリエタノールアミンオレエート、もしくはシクロデキストリンなどの薬剤が挙げられる。
【0124】
[00144]医薬組成物は、液状の液剤、懸濁液、乳剤、ローション剤、フォーム、丸剤、カプセル剤、錠剤、持続放出製剤、軟膏剤、クリーム剤、ペースト剤、ゲル剤、スプレー剤、エアロゾル、または粉剤であってもよい。経口製剤は、標準的な担体、例えば医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどを包含していてもよい。
【0125】
[00145]特定の実施態様において、医薬組成物は、注射用組成物に製剤化される。注射用医薬組成物は、例えば液体溶液、懸濁液、乳剤、または液体溶液、懸濁液もしくは乳剤を作製するのに好適な固体の形態などのあらゆる従来の形態で調製することができる。注射用の調製物としては、注射にすぐに使用できる滅菌および/または非発熱性溶液、滅菌乾燥された可溶性製品、例えば使用直前に溶媒とすぐに合わせることができる凍結乾燥粉末、例えば、皮下錠剤、注射にすぐに使用できる滅菌懸濁液、使用直前に媒体とすぐに合わせることができる滅菌乾燥された不溶性製品、ならびに滅菌および/または非発熱性乳剤などを挙げることができる。溶液は、水性または非水性のいずれであってもよい。
【0126】
[00146]特定の実施態様において、単位用量の非経口製剤は、アンプル、バイアルまたはシリンジ中に針と共にパッケージ化される。全ての非経口投与のための製剤は、当業界公知であり当業界で実施されるように、滅菌され、発熱性であると予想される。
【0127】
[00147]特定の実施態様において、滅菌された凍結乾燥粉末は、本明細書で開示される抗体または抗原結合フラグメントを好適な溶媒中に溶解させることによって調製される。溶媒は、安定性を改善する賦形剤、または粉剤または粉剤から調製した再溶解した溶液の他の薬理学的な成分を含有していてもよい。使用できる賦形剤としては、これらに限定されないが、水、デキストロース、ソルビトール、フルクトース、コーンシロップ、キシリトール、グリセリン、グルコース、スクロースまたは他の好適な物質が挙げられる。溶媒は、中性pHで、一実施態様においてほぼ中性pHで、緩衝剤、例えばクエン酸塩、リン酸ナトリウムまたはリン酸カリウムまたは当業者公知の他の緩衝剤を含有していてもよい。それに続く溶液のろ過滅菌と、当業者公知の標準条件下における凍結乾燥により、望ましい製剤が提供される。一実施態様において、得られた溶液は、凍結乾燥のためのバイアルに分配されることになる。各バイアルは、TrkBアゴニスト抗体もしくはその抗原結合フラグメントまたはそれらの組成物の単回投薬量または複数回投薬量を含有していてもよい。正確なサンプルの引き出しと正確な投与が容易になるように、1回の用量または一連の用量に必要な量を少し超える量(例えば、約10%)でバイアルを満たすことが許容される。凍結乾燥粉末は、適切な条件下で、例えば約4℃から室温で貯蔵することができる。
【0128】
[00148]凍結乾燥粉末の注射用水での再溶解は、非経口投与で使用するための製剤を提供する。一実施態様において、再溶解のために、凍結乾燥粉末に、滅菌および/または非発熱性の水または他の液状の好適な担体が添加される。正確な量は、与えられている選択された療法によって決まり、経験的に決定することができる。
【0129】
[00149]TrkBに関連する状態を治療するための治療方法も提供され、本方法は、対象に、治療有効量の本明細書で提供されるTrkBアゴニスト抗体またはその抗原結合フラグメントを投与すること、それによってTrkBに関連する状態または障害を治療または予防することを含む。別の実施態様において、対象におけるTrkBの活性化によって利益を得ると予想される状態を治療するための方法が提供され、本方法は、治療有効量の本明細書で提供されるTrkBアゴニスト抗体を、それを必要とする対象に投与することを含む。
【0130】
[00150]治療有効量(単独で、または化学療法剤などの他の薬剤と組み合わせて使用される場合)の本明細書で提供される抗体または抗原結合フラグメントは、例えば、治療しようとする疾患のタイプ、抗体のタイプ、体重、年齢、過去の病歴、現在の薬物療法、対象の健康状態、免疫状態、ならびに交差反応、アレルギー、過敏症および有害な副作用の可能性、それに加えて、投与経路およびタイプ、疾患の重症度および発症ならびに主治医または獣医師の裁量などの当業界において公知の様々な要因によって決まると予想される。特定の実施態様において、本明細書で提供される抗体または抗原結合フラグメントは、約0.01mg/kg~約100mg/kgの治療上有効な投薬量で、1日当たり1回またはそれより多くの回数で(例えば、約0.01mg/kg、約0.2mg/kg、約0.3mg/kg、約0.5mg/kg、約1mg/kg、約3mg/kg、約5mg/kg、約10mg/kg、約15mg/kg、約20mg/kg、約25mg/kg、約30mg/kg、約35mg/kg、約40mg/kg、約45mg/kg、約50mg/kg、約55mg/kg、約60mg/kg、約65mg/kg、約70mg/kg、約75mg/kg、約80mg/kg、約85mg/kg、約90mg/kg、約95mg/kg、または約100mg/kgで、1日当たり1回またはそれより多くの回数で)投与されてもよい。特定の実施態様において、抗体または抗原結合フラグメントは、約50mg/kgまたはそれ未満の投薬量で投与され、特定には、投薬量は、20mg/kgまたはそれ未満、10mg/kgまたはそれ未満、3mg/kgまたはそれ未満、1mg/kgまたはそれ未満、0.3mg/kgまたはそれ未満、0.2mg/kgまたはそれ未満、または0.1mg/kgまたはそれ未満である。特定の実施態様において、投与量は、治療の経過にわたり変更することができる。例えば、特定の実施態様において、最初の投与量は、その後の投与量より多くてもよい。特定の実施態様において、投与量は、治療の経過にわたり、対象の反応に応じて変更することができる。
【0131】
[00151]投薬レジメンは、最適な望ましい応答(例えば、治療応答)が提供されるように調整することができる。特定の実施態様において、本明細書で提供される抗体または抗原結合フラグメントは、1回で、または一連の治療にわたり対象に投与される。特定の実施態様において、本明細書で提供される抗体または抗原結合フラグメントは、疾患のタイプおよび重症度に応じて、1つまたはそれより多くの別々の投与によって、または連続的な点滴によって対象に投与される。指針は、例えば、米国特許第4,657,760号;5,206,344号;5,225,212号に見出すことができる。
【0132】
[00152]本明細書で開示される抗体および抗原結合フラグメントは、例えば非経口(例えば、皮下、経皮(例えば、パッチにより)、体外、腹膜内、静脈内、例えば静脈内注入、筋肉内、または皮内注射など)経路、または非経口(例えば、口腔内、鼻腔内、眼球内、舌下、直腸、または局所)経路などの当業界において公知のあらゆる経路、によって投与することができる。本明細書で開示される抗体および抗原結合フラグメントは、中枢神経系(例えば、脳(大脳内または脳室内)、脊髄、または髄液)、またはそれらのあらゆる組合せに投与することができる。
【0133】
[00153]特定の実施態様において、本明細書で開示される抗体および抗原結合フラグメントは、制御放出式で投与されてもよい。制御放出式の非経口製剤は、インプラント、油性注射剤または微粒子系(例えばマイクロスフェア、微粒子、マイクロカプセル、ナノカプセル、ナノスフェア、およびナノ粒子)として作製することができる(Banga, A. J.、Therapeutic Peptides and Proteins:Formulation, Processing, and Delivery Systems、Technomic Publishing Company, Inc.、ペンシルベニア州ランカスター(1995);Kreuter, J.、Colloidal Drug Delivery Systems、J. Kreuter編、Marcel Dekker, Inc.、ニューヨーク州ニューヨーク、219~342頁(1994);TiceおよびTabibi、Treatise on Controlled Drug Delivery、A. Kydonieus編、Marcel Dekker, Inc.、ニューヨーク州ニューヨーク、315~339頁(1992)を参照)。特定の実施態様において、本明細書で開示されるTrkBアゴニスト抗体および抗原結合フラグメントは、分解可能な、または非分解性のポリマーマトリックス中で投与されてもよい(Langer、Accounts Chem. Res. 26:537~542、1993を参照)。
【0134】
[00154]TrkBに関連する状態は、がんまたは腫瘍であり得る。特定の実施態様において、状態は、固形腫瘍、血液学的疾患、感染症、自己免疫疾患または線維性疾患である。特定の実施態様において、固形腫瘍としては、例えば、非小細胞肺がん(扁平上皮/非扁平上皮)、小細胞肺がん、腎細胞がん、結腸直腸がん、結腸がん、卵巣がん、乳がん(例えば基底乳癌、腺管癌および乳房の小葉癌)、膵臓がん、胃癌、膀胱がん、食道がん、中皮腫、黒色腫、頭頸部がん、甲状腺がん、肉腫、前立腺がん、膠芽腫、子宮頸がん、胸腺癌、黒色腫、骨髄腫、菌状息肉腫、メルケル細胞がん、肝細胞癌(HCC)、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨原性肉腫、および他の肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、リンパ性悪性腫瘍、基底細胞癌、腺癌、汗腺癌、甲状腺髄様癌、甲状腺乳頭癌、クロム親和性細胞腫、脂腺癌、乳頭癌、乳頭腺癌、髄様癌、気管支原性癌、肝癌、胆管癌、絨毛癌、ウィルムス腫瘍、子宮頸がん、精巣腫瘍、精上皮腫が挙げられる。血液学的な障害としては、例えば、古典的ホジキンリンパ腫(CHL)、原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫、T細胞/組織球豊富型大細胞型B細胞リンパ腫、急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、急性骨髄性白血病、ならびに骨髄芽球性白血病、前骨髄球性白血病、骨髄単球性白血病、単球性白血病および赤白血病、慢性骨髄性(顆粒球性)白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ球性白血病、真性多血症、肥満細胞由来の腫瘍、EBV陽性および陰性PTLD、およびびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、形質芽細胞リンパ腫、節外性NK/T細胞リンパ腫、上咽頭癌、およびHHV8関連原発性滲出液リンパ腫、非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症、重鎖病、骨髄異形成症候群、ヘアリーセル白血病および脊髄形成異常、中枢神経系(CNS)の新生物、例えば中枢神経系原発リンパ腫、脊髄軸椎腫瘍、脳幹グリオーマ、星細胞腫、髄芽細胞腫、頭蓋咽頭腫、上衣細胞腫、松果体腫、血管芽腫、聴神経腫、乏突起細胞腫、髄膜腫、黒色腫、神経芽細胞腫ならびに網膜芽細胞腫が挙げられる。
【0135】
[00155]特定の実施態様において、TrkBアゴニスト抗体は、ニューロンの疾患、例えば神経変性疾患、精神障害、代謝性疾患、脳傷害、視神経症および網膜変性状態、聴力損失障害、神経発達障害、体重調節の障害、筋障害および他のCNS障害を治療するのに使用することができる。
【0136】
[00156]神経変性疾患としては、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ハンチントン病(HD)、アルツハイマー病(AD)、運動ニューロン疾患(例えば進行性筋萎縮症)、パーキンソン病、プリオン病、例えばクロイツフェルト-ヤコブ病(OD)、レヴィ小体病、脊髄性筋萎縮症、多系統萎縮症、認知症(例えば前頭側頭型認知症)およびタウオパチーが挙げられる。より特定の神経変性障害としては、ALS、ハンチントン病および運動ニューロン疾患が挙げられる。
【0137】
[00157]精神障害としては、不安、気分障害、うつ病(例えば大うつ病性障害)、パニック障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、双極性障害および統合失調症が挙げられる。
【0138】
[00158]神経発達障害としては、アンジェルマン症候群、プラダー-ウィリー症候群、自閉性障害およびレット症候群が挙げられる。
[00159]特定の視神経症としては、緑内障(例えば開放角緑内障、広隅角緑内障、閉塞隅角緑内障(急性および慢性)、正常眼圧緑内障)、前部虚血性視神経症(AION)(例えば、非動脈炎性虚血性視神経症(NAION))、後部虚血性視神経症、放射線視神経症、圧迫性視神経症(例えば、乳頭浮腫)、浸潤性視神経症、外傷性視神経症、ミトコンドリア性視神経症、中毒性視神経症、遺伝性視神経症(例えば、常染色体優性視神経萎縮症(ADOA;Kjer型の視神経萎縮症)、レーバー遺伝性視神経症、ローゼンバーグ-チュトリアン症候群、ウォルフラム症候群、視神経形成不全)、視神経炎(例えば、視神経脊髄炎、乳頭炎)が挙げられる。網膜変性性障害としては、遺伝性のジストロフィー(例えば網膜色素変性症)、または加齢性黄斑変性症(滲出型およびドライ型)などの後天性の状態が挙げられる。一実施態様において、視神経症としては、例えば、網膜神経節細胞(RGC)および/または視神経に影響を与える状態が挙げられる。特定の視神経症としては、緑内障(例えば開放角緑内障、広隅角緑内障、原発性閉塞隅角緑内障、正常眼圧緑内障)、前部虚血性視神経症(AION)、非動脈炎性(non-anterior)虚血性視神経症(NAION)、外傷性視神経症およびレーバー遺伝性視神経症が挙げられる。網膜変性性障害としては、加齢性黄斑変性症(滲出型およびドライ型)などの遺伝性または後天性の状態が挙げられる。
【0139】
[00160]聴力損失障害としては、感覚神経聴力損失(SNHL)(両側、片側だけ、および不特定)および複合型の聴力損失(それにおいて、感覚神経的な、および伝導性の損失要素がある;両側、片側だけ、および不特定)が挙げられる。感覚神経聴力損失としては、感覚的な(蝸牛関連の)または神経性の(第八神経関連の)聴力損失が挙げられる。感覚神経聴力損失は、終末器官の病変に起因する可能性がある。感覚神経聴力損失に関連する終末器官の病変としては、音響性外傷(例えば85デシベル(db)より大きいノイズによる)、ウイルス性内リンパ迷路炎、メニエール病、第八神経の小脳橋角腫瘍、第八神経神経節の細菌またはウイルス感染(例えば耳帯状疱疹を伴う)、急性中耳炎から生じる化膿性迷路炎、化膿性髄膜炎、慢性中耳炎、突発性難聴(例えばウイルスに起因するものなど、例えば、流行性耳下腺炎、麻疹、インフルエンザ、水痘、単核症およびアデノウイルスなどのウイルスによって引き起こされるウイルス性内リンパ迷路炎)および一過性虚血性難聴、中耳に伸びる側頭骨の骨折、および鼓膜の破裂、場合によっては耳小骨連鎖の破裂、蝸牛に影響を及ぼす骨折、ならびに一般的に第八神経の聴神経または前庭神経部分のいずれかから生じるシュヴァン細胞に起因する腫瘍である聴神経鞘腫が挙げられる。終末器官の病変による聴力損失は、先天性であってもよく、例えば、風疹、出生時の無酸素症、分娩中の外傷による内耳への出欠、母親に投与された耳毒性薬物、胎児赤芽球症、ならびにワールデンブルグ症候群およびハーラー症候群などの遺伝性の状態によって引き起こされるものであってもよい。代替として、感覚神経聴力損失は、加齢に関連した聴力損失であってもよく、例えば老人性難聴(例えば老年難聴)であり、これは、老化の正常な現象として起こる感覚神経聴力損失である。感覚神経聴力損失は、耳毒性の聴力損失(内耳の聴神経、特にコルチ器官に影響を与える耳毒性薬物(例えば特定の抗生物質、特定の化学療法剤、特定のサリチル酸塩化合物、特にアスピリン、特定の利尿薬、一般的なループ利尿薬、および特定のキニーネ)によって生じる聴力損失)であり得る。
【0140】
[00161]筋障害としては、サルコペニアが挙げられる。
[00162]他のCNS障害としては、糖尿病性神経障害、てんかん、多発性硬化症、片頭痛、神経傷害(例えば外傷性脳傷害(TBI)、脊髄の傷害および末梢神経傷害)、末梢神経障害、神経筋疾患(例えば重症筋無力症および筋無力症症候群)、睡眠障害および卒中が挙げられる。一例において、末梢神経障害としては、化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)が挙げられる。CIPNは、多くの抗がん薬の主要な用量を制限する副作用である。
【0141】
[00163]特定の実施態様において、TrkBアゴニスト抗体は、これらに限定されないが、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ハンチントン病(HD)、卒中、脊髄の傷害、アルツハイマー病(AD)、運動ニューロン障害、外傷性脳傷害(TBI)、認知症、タウオパチー、末梢神経障害、神経傷害、末梢神経傷害、パーキンソン病、プリオン病、例えばクロイツフェルト-ヤコブ病(CJD)、精神障害、統合失調症、多発性硬化症、レット症候群、レヴィ小体病、多系統萎縮症、重症筋無力症、糖尿病性神経障害、網膜変性、緑内障、聴力損失、体重の調節、思春期やせ症、悪液質、神経筋疾患、気分および抑うつ障害、心的外傷後ストレス障害、注意欠陥多動性障害(ADHD)、双極性障害、不安、自閉性障害、痛み、体重の調節を含む障害、思春期やせ症、悪液質、不要な体重の減少、およびオピオイドによって誘発された嘔吐などの疾患、障害または状態の治療において、または疾患、障害または状態を治療するための医薬の製造において使用することができる。
【0142】
アルツハイマー病
[00164]現在、神経変性疾患の病因は、遺伝子レベルでおよそ2種に分けることができる:一方の病因は、毒素の蓄積を引き起こす病原性の遺伝子突然変異であり、他方は、自己修復能力を有する遺伝子の突然変異または調節障害である。現在の神経変性疾患研究は、疾患の病因、すなわちいかにしてニューロンの死を引き起こす神経毒を低減させるかに注目する傾向がある。しかしながら、この概念に基づいて老人性認知症を治療するための医薬開発は、近年の5つの大規模III相臨床試験を含め、全て失敗に終わっている(KarranおよびHardy、2014;Mullard、2012)。主な理由は、薬物が標的とするのは病原性の毒素である点である。しかしながら、疾患の症状が現れると、毒素は、数年間、または何十年にもわたりニューロンに毒の作用を与え続け、ニューロンは、深刻なダメージを受け、または死に至ることさえある。そのときになって毒素を低減させても遅すぎる。新しいアプローチは、疾患の症状に直接関連する病態生理学を研究することである(Luら、2013a)。これまで、シナプスの損失は、神経変性疾患において共通する主要な病態生理学的特徴であり、脳の認知機能のダメージを引き起こし、その一方でニューロンは次第に致死し、それにより、より重篤な認知能力の損失に加えて他の状態も生じる。疾患の生理学的プロセスにおける前者は、可逆的であるため、治療が簡単である。したがって、シナプス修復は、アルツハイマー病の治療を研究するための最も現実的な入り口の1つである(Shengら、2012)。
【0143】
[00165]生物それ自身は、主に脳由来神経栄養因子BDNFによってシナプシスを保護し、シナプスのダメージを修復する。遺伝子の異常または異常な発現は、早発性のアルツハイマー病の機会を増加させ、疾患の発生を促進する可能性がある(Luら、2013a)。神経の発達におけるニューロトロフィンファミリーの最も重要なメンバーとして、BDNFは、ニューロンの生存、神経の可塑性および他の重要な機能において非常に重要な役割を果たす。その主要な機能は、高親和性受容体TrkBによって媒介される(ChaoおよびLee Huang、2004;Reichardt、2001;Poo、2001)。BDNF遺伝子の共通のバリアント(単一ヌクレオチド多形、SNP)である66位におけるValからMetへのアミノ酸変化(Eganら、2003)は、突然変異保因者の海馬および扁桃核を小さくし、シナリオ記憶および視空間記憶など様々な種類の記憶のレベルを下げる。これらの症状とより低いBDNFレベルは、アルツハイマー病を有するモデルマウスおよび患者において同時に検出することができ、これは、アルツハイマー病研究におけるBDNFに関する調査が特に必要であることを示す(Dennisら、Sanchezら、2011;al.、2011;Voineskosら、Yangら、2011;al.、2012)。アルツハイマー病を有するげっ歯類および霊長類モデルにおいて、ウイルスの使用におけるBDNFの過剰発現は、ニューロンの死を阻害することができる(Nagaharaら、2009)。より重要なことに、最後の数年の調査において、本発明者らは、BDNFMet66遺伝子型の保因者であるApoE4陽性の健康なヒトおよび患者(欧州人)において、脳の側頭葉および前頭前皮質におけるより高いレベルのベータプラークが生産され凝集すると予想されることを見出した(上記を参照)。同時に、海馬の体積とエピソード記憶能力が、より速く低下する。これは、BDNFが、アルツハイマー病の修復および治療にとって非常に重要であることを示す。したがって、BDNFは、非常に有望な治療標的である(Luら、2013a;NagaharaおよびTuszynski、2011)。本発明の開示は、本明細書において、アルツハイマー病および他の認知症を予防する、治療する、緩和する、その発病を遅らせる、またはそれに進行するリスクを低減すること、例えば認知機能衰退の進行を遅延させることにおいて、BDNFと同様に、またはそれより効果的に機能するTrkBアゴニスト抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。TrkBアゴニスト抗体は、細胞生存を強化する、軸索突起の伸長を促進する、および/またはシナプス可塑性を調節することができる。
【0144】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)
[00166]筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、最も一般的なタイプの運動ニューロン疾患(MND)であり、上位および下位運動ニューロンの両方が影響を受ける(WijesekeraおよびLeigh、2009)。病理学的に言えば、ALS患者は、脊髄前角、脳幹および運動皮質における運動ニューロン数の減少を示す。運動ニューロンの損失は、筋肉の除神経および萎縮を引き起こす。患者は、筋力低下および嚥下困難を含む運動機能の進行性消失を特徴とし、最終的に呼吸不全で死亡する(Boilleeら、2006;MitchellおよびBorasio、2007)。ALSのケースの大半は散在性であり、5~10%は家族性のケースである。SOD1は、最初に同定されたALS関連の遺伝子であり、その突然変異が、20%もの家族性のケースの原因となっている(Rosen、1993)。これまで、20種を超える遺伝子が、突然変異すると家族性ALSの原因を引き起こすことが見出されており、遺伝子の突然変異は、散在性のケースでも確認されている(Couthouisら、2011;WijesekeraおよびLeigh、2009)。遺伝学的な不均質性はあるが、罹患した領域におけるタンパク質沈着は、ALSに共通する一般的特徴である。
【0145】
[00167]現在のところALSの治療法はないが、グルタミン酸放出阻害剤であるリルゾールが、生存を数ヶ月改善することにおいて中程度の作用を示す(Carlesiら、2011;Millerら、2007)。長期にわたり調査がなされているが、ALSの発症メカニズムにおける共通見解は未だなく、それが有効な療法の開発を阻んでいる。運動ニューロンの死をもたらす病原性プロセスを特異的にブロックするというより、固有のニューロトロフィン経路を活性化することを介して運動ニューロンの生存を促進するという代替戦略が試みられている(Luら、2013)。脳由来神経栄養因子(BDNF)は、トロポミオシン関連キナーゼB(TrkB)と高親和性で結合し、それらの下流経路は細胞生存と軸索成長を促進する(HuangおよびReichardt、2003;Reichardt、2006)。病的な状態における異常なBDNF-TrkBシグナル伝達を示す証拠が存在する。初期の報告は、ALS患者の脊髄において、TrkBのmRNAおよびタンパク質レベルは対照より高かったが、TrkBタンパク質はそれほどリン酸化されていないことを示す(Mutohら、2000)。またBDNFのmRNAおよびタンパク質レベルは、ALS患者の筋肉における上昇も示した(Kustら、2002)。また肉腫(FUS)遺伝子内に融合した突然変異も、ALSを引き起こす(Kwiatkowskiら、2009;Vanceら、2009)。近年、DNA/RNA結合タンパク質FUSは、BDNFの発現およびオルタナティブスプライシングの調節への関与が示されており(Lagier-Tourenneら、2012;Qiuら、2014)、これは、疾患を引き起こす突然変異と機能が低下したニューロトロフィンシグナル伝達とが相関することを示唆している。突然変異FUSを発現するマウスでは、BDNFのmRNA前駆体のスプライシングが損なわれ、BDNFタンパク質およびTrkBリン酸化のレベルが減少した(Qiuら、2014)。
【0146】
[00168]神経疾患および精神病性の疾患を治療するためのBDNFおよび関連分子を開発する多くの努力がなされてきた。BDNFの作用は、いくつかの神経変性疾患で検査されてきた(Baiら、2010;Gharamiら、2008;NagaharaおよびTuszynski、2011;Luら、2013)。BDNFのトランスジェニックまたはウイルス発現は、神経変性疾患モデルにプラスの効果を有するようであるが、その低い薬物動態学的および物理的な特徴のために単純なBDNF投与ではそうならない(Gharamiら、2008;Xieら、2010;Thoenenら、2002)。本発明の開示は、神経変性疾患の創薬のためだけでなく、TrkBのシグナル伝達および構造に関する将来性のある科学的な調査のためにも、いくつかのTrkBアゴニストモノクローナル抗体を製造し選別するシステムを確立することである。
【0147】
[00169]BDNF-TrkBシグナル伝達の活性化は、動物モデルの脊髄傷害を治療することにおいて有効であることが証明されている(Granseeら、2013;Kishinoら、1997;Mantillaら、2013)。しかしながら、ALSのげっ歯類モデルにおいて、BDNFの投与は、疾患進行を遅くすることができず、BDNFは、臨床試験においてALS患者に利益を与えることはできない(1999;Ochsら、2000)。これは、BDNFの高い局所濃度をもたらし、最終的にTrkB発現の減少を引き起こすBDNFの薬物動態および拡散性の停滞に起因する可能性がある(Dittrichら、1996;Knuselら、1997)。いくつかの低分子化合物が、TrkBを刺激することを報告されており、もしかすると一部の神経変性疾患で使用できるようになる可能性がある(LongoおよびMassa、2013)。しかしながら、多少混乱した結果を報告する論文も一つある(Toddら、2014)。さらに、BDNF/TrkB複合体の構造に応じてBDNFの二量体化作用を模擬する低分子化合物を発明することは、不可能であると考えられている。以前の報告は、特異的な抗体は、2つの単量体受容体を架橋し、天然リガンドを模擬することによって受容体チロシンキナーゼを活性化できることを示した(Claryら、1994;LeSauteurら、1996)。BDNFと比較すれば、TrkBアゴニスト抗体は、より高い特異性、より長い半減期などの利点を有する。TrkBアゴニストモノクローナル抗体は特にTrkBを活性化するが、TrkAおよびTrkCを活性化しない。より重要なことに、TrkBアゴニストMabはp75NTRと結合せず、したがってBDNF-p75NTRによって誘発される可能性があるいかなる負の作用も誘導しない(Luら、2005)。本発明の開示は、本明細書において、ALSを予防する、治療する、緩和する、その発病を遅らせる、またはそれに進行するリスクを低減すること、例えば運動ニューロンの生存および機能を促進することにおいて、BDNFと同様に、またはそれより効果的に機能するTrkBアゴニスト抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。
【0148】
緑内障
[00170]緑内障は、視神経乳頭(視神経円板)および視神経における病理学的変化を伴う神経変性性眼疾患であり、典型的には視野の損失およびIOP上昇を伴う(NICE、2009)。緑内障は、過去30年にわたり世界的に失明の主な原因であってきた(DandonaおよびDandona、2006;Quigley、1996;QuigleyおよびBroman、2006)。英国における失明登録のおよそ10%は、緑内障が原因である(Cassonら、2012;NICE、2009)。疫学分野では、緑内障患者人口は急速に増えつつあり(図2および表1)、社会が急速に高齢化し、情報化時代において眼精疲労の罹患率が増加している。中国における緑内障患者の総推定数は、2020年代には約2180万人に達すると予想され、これは中国の40歳を超える全人口の3.05%にあたり、世界平均の2.86%を超えることになる。緑内障性によるRGCおよび視神経のダメージは回復不能であるため、あらゆる種類の緑内障が、最終的に失明に至る可能性が極めて高い。しかしながら今日の中国における医療状況によれば、ほとんどの人は、健康保険がないために、早期段階の緑内障の状態で自身の目を検査するために病院に行くことはない。したがって、医療状況および緑内障の進行性失明に基づき、中国における緑内障患者の増加は、家族と社会に莫大な重荷を科すことになる。本発明者らの究極的な目的は、従来の臨床療法では緑内障の進行が回復不能であると考えられてきた後期段階の緑内障において、緑内障の進行性の失明の進行を遅くし回復させ、さらにダメージを受けたRGCおよび軸索を再生するために、神経向性経路を標的化する有効な医薬または抗体を探索することである。
【0149】
[00171]1930年代、Barkanは初めて、緑内障を閉塞隅角緑内障と開放角緑内障とに分けた(Barkan、1938)。今日、緑内障の分類は複雑化しているように見えるが、2つの比較的単純な基準に基づいている。一方はIOP値であり、他方は、解剖学的な虹彩線維柱帯接触があるかどうかである(Cassonら、2012)。全ての種類の緑内障が同じ特徴、GONを有し、これは、いくつかの目の臨床的方法、例えば神経網膜の縁の厚さを測定すること、網膜および視神経乳頭における異常をスキャンすること、および水平の幅を試験することによって検出および診断することができる(NICE、2009)。必ずしも全ての緑内障患者が上昇したIOPに罹っているわけではないが(患者IOPの一部は早期段階で観察されないが)、全ての緑内障患者のIOPを低くすることは、患者の視力にプラスの作用を有し、最終的な失明を遅らせ、RGC損失を少なくする(Heijlら、2002;Leskeら、1999)。したがって、IOPの上昇は常に、多くの国において緑内障の早期段階またはその疑いの重要なマーカーとして認識されている。
【0150】
[00172]緑内障性の進行がIOPの上昇を伴う理由は、現在あまり明らかになっていない。説得力のある仮説は、圧力によって誘発された軸索輸送閉塞であり(Johnsonら、2000)、それによれば、網膜およびRGCの生存は、下流の脳領域から、例えば上丘(SC)、および外側膝状体核(LGN)からのニューロトロフィンの逆行性輸送によって保護されると述べられている。いくつかの研究により、IOPの上昇が、視神経乳頭におけるBDNFおよびNT4/5の分布の減少およびグリア増殖の増加を伴うことを確認する多数の免疫染色または同位体実験が示されている(Johnsonら、2000;Quigleyら、2000)。他にも、緑内障モデルにおいて、TrkBの軸索輸送は閉塞している(Peaseら、2000b)。したがって、いくつかの研究で閉塞したニューロトロフィン輸送の仮説は、一部の免疫染色またはインサイチュハイブリダイゼーション実験に基づき十分有効ではないと述べてられいるにもかかわらず(Guoら、2009)、ニューロトロフィンの閉塞した逆行性輸送の救済は、緑内障を治すのに有望な方法とみなされる。
【0151】
[00173]以前の調査に基づいて、TrkA-NGFシグナル伝達(Shiら、2007;Sposatoら、2008)、TrkB-BDNFシグナル伝達(Guoら、2009;Iwabeら、2007;Peaseら、2000a)、TrkCおよびp75シグナル伝達(Baiら、2010a)などの実験的な緑内障進行に関連するいくつかの神経分化誘導性経路が研究されている。他にも、近年、緑内障の進行中における小グリア細胞の機能的な変化が注目されてきた(Srinivasanら、2004)。いずれにしても、神経向性経路は、軸索再生およびRGC機能の回復を助ける緑内障療法における重要な突破口と予想され、その異常が、網膜、脳核、および領域の緑内障によるダメージに関連する、さらには全脳の機能的なシフトにも関連する主な理由として認識される(Frezzottiら、2014;Georgiouら、2010;Williamsら、2013)。本発明の開示は、RGCの生存および軸索突起の伸長に関する主要なシグナル伝達経路であるTrkB-BDNFシグナル伝達に焦点を当てるが(Guoら、2009;Iwabeら、2007;Peaseら、2000a)、他の因子もまた非常に重要である。このシグナル伝達経路は、比較的明確であり、小グリア細胞のような他の非ニューロン性細胞型と混同されない。以前の緑内障進行に関するニューロトロフィン輸送閉塞仮説に基づいて(Guoら、2009;Iwabeら、2007;Peaseら、2000a)、RGC末端におけるTrkBのエンドサイトーシスは、ニューロン生存において役割を果たす。本発明の開示は、本明細書において、緑内障を予防する、治療する、緩和する、その発病を遅らせる、またはそれに進行するリスクを低減することにおいて、BDNFと同様に、またはそれより効果的に機能するTrkBアゴニスト抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。
【0152】
卒中(Stroke)
[00174]卒中は、脳血管の破裂または凝固によって引き起こされる神経血管疾患である。これは世界的な健康問題であり、中国では第一の死因である。毎年、約250万人が卒中になり、160万より多くの人がこの疾患により死亡する。脳の毛細血管の高い密度のために、卒中は脳のあらゆる領域で起こる可能性があり、それにより様々な続発症が生じ、なかでも最も一般的なによく見られるのは片麻痺である。したがって、この疾患の治療に関する調査は、緊急の必要性がある。
【0153】
[00175]虚血性発作の主要なメカニズムとしては、ATP依存性イオンチャンネルの失敗、カルシウムの過剰負荷、興奮毒性、フリーラジカル形成、アポトーシスおよび免疫応答が挙げられる。これらの相互作用する経路の複雑さのために、どちらかといえば長い治療時間枠で細胞生存を調節し神経形成を促進する標的、例えばTrkBは、有望な標的である可能性がある。
【0154】
[00176]卒中モデルにおいて、BDNFが梗塞量と細胞死を効果的に低減させ、行動に関するアウトカムを改善することが報告されている。それとは逆に、BDNF-TrkB経路の遮断は、疾患を悪化させる。細胞生存の調節の他にも、BDNFは軸索成長も促進し、シナプスの機能を改善し、神経形成、分化および移動を促進する。これは、BDNFが、治療時間枠を卒中後数日に延長できることを示す。本発明の開示は、本明細書において、卒中を予防する、治療する、緩和する、その発病を遅らせる、またはそれに進行するリスクを低減することにおいて、BDNFと同様に、またはそれより効果的に機能するTrkBアゴニスト抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。
【0155】
使用方法
[00177]本発明の開示はさらに、TrkBアゴニスト抗体またはその抗原結合フラグメントを使用する方法を提供する。
【0156】
[00178]一部の実施態様において、本発明の開示は、対象におけるTrkBに関連する状態を治療する方法であって、治療有効量の抗体またはその抗原結合フラグメントを対象に投与することを含む、上記方法を提供する。特定の実施態様において、対象が、TrkBアゴニストに応答する可能性が高い障害または状態を有すると同定されている。特定の実施態様において、本発明の開示は、TrkBに関連する状態を予防する、検出する、または診断する方法であって、本明細書で提供されるTrkBアゴニスト抗体またはその抗原結合フラグメントを、TrkBに関連する状態を有する疑いがある、またはそれを有するもしくはそのリスクがある対象から得られた生体サンプルと接触させること、および生体サンプル中の、TrkBに結合するTrkBアゴニスト抗体またはその抗原結合フラグメントのレベルを決定することを含む、上記方法を提供する。
【0157】
[00179]TrkBに関連する状態の治療に関して、対象は、TrkB発現に関して陽性として試験されるか、またはTrkB発現の上昇したレベルを有するとして試験される。個体からの試験生体サンプル中のTrkBの存在またはレベルを決定するために、様々な方法を使用することができる。例えば、試験生体サンプルを、TrkBアゴニスト抗体またはその抗原結合フラグメントに曝露させてもよく、TrkBアゴニスト抗体またはその抗原結合フラグメントは、発現されたTrkBタンパク質に結合して、それを検出する。代替として、TrkBはまた、核酸発現レベルで、例えばqPCR、逆転写酵素PCR、マイクロアレイ、SAGE、FISHなどの方法を使用して検出することもできる。一部の実施態様において、生体サンプルは、細胞または組織(例えば臓器から生検によって得られた組織)、腫瘍細胞、または体液(例えば血液または血清)から得られる。特定の実施態様において、試験生体サンプルにおけるTrkBの存在または上方調節されたレベルは、応答の可能性を示す。用語「上方調節された」は、本明細書で使用される場合、本明細書で提供される抗体または抗原結合フラグメントを使用して検出する場合、同じ抗体を使用して検出された参照サンプル中のTrkBタンパク質レベルと比較して、試験サンプル中のTrkBのタンパク質レベルにおける、10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上またはそれより大きい全体的な増加を指す。参照サンプルは、健康なまたは罹患していない個体から得られた対照サンプル、または試験サンプルを得たのと同じ個体から得られた健康なまたは罹患していないサンプル、または状態の治療中の初期のタイムポイントで同じ個体から得られたサンプルであってもよい。例えば、参照サンプルは、試験サンプルに隣接するかまたは試験サンプルの近傍にある罹患していないサンプルであってもよい。
【0158】
[00180]本明細書で開示される抗体または抗原結合フラグメントは、単独で投与されてもよいし、または1種またはそれより多くの追加の治療手段または治療剤と組み合わせて投与されてもよい。例えば、本明細書で開示される抗体または抗原結合フラグメントは、第2の療法、例えば放射線療法、化学療法、標的療法、遺伝子治療、免疫療法、ホルモン療法、血管新生阻害、緩和ケア、がん治療のための外科手術(例えば、腫瘍摘出)、1種またはそれより多くの制吐薬、もしくは化学療法により生じる合併症のための他の治療、またはTrkBによって媒介されるあらゆる医療上の障害の治療で使用するための第2の治療剤、例えば、別のニューロトロフィン、例えばBDNF、ニューロトロフィン-3(NT-3)、NT-4/5、神経成長因子(NGF)、毛様体神経栄養因子(CNTF)、グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)、別の抗体、治療用ポリヌクレオチド、化学療法剤、抗血管形成剤、サイトカイン、他の細胞傷害性物質、増殖阻害剤と組み合わせて投与されてもよい。これらの実施態様のうち特定のものにおいて、1種またはそれより多くの追加の治療剤と組み合わせて投与される本明細書で開示される抗体または抗原結合フラグメントは、1種またはそれより多くの追加の治療剤と同時に投与してもよく、これらの実施態様のうち特定のものにおいて、抗体または抗原結合フラグメントおよび追加の治療剤は、同じ医薬組成物の一部として投与されてもよい。しかしながら、別の治療剤と「組み合わせて」投与される抗体または抗原結合フラグメントは、薬剤として同じ組成物と同時に、またはそのような組成物で投与されるべきではない。別の薬剤の前または後に投与される抗体または抗原結合フラグメントは、その薬剤と「組み合わせて」投与されるとみなされ、これは、本明細書においてそのような語句は、抗体または抗原結合フラグメントおよび第2の薬剤が異なる経路を介して投与されるとしても使用されるためである。可能性がある場合、本明細書で開示される抗体または抗原結合フラグメントと組み合わせて投与される追加の治療剤は、追加の治療剤の製品情報シートに列挙されたスケジュールに従って、または医師用添付文書集2003(医師用添付文書集、第57版;Medical Economics社;ISBN:1563634457;第57版(2002年11月))もしくは当業界において周知のプロトコールに従って投与される。
【0159】
[00181]一部の実施態様において、抗体およびその抗原結合フラグメントを使用する方法は、細胞のアポトーシスおよび/またはネクロトーシスを予防する、または細胞生存を強化する方法を包含する。一実施態様において、本方法は、本明細書で提供される抗体または医薬組成物を、TrkBを発現する生体サンプルと接触させることを含む。
【0160】
[00182]一部の実施態様において、抗体およびその抗原結合フラグメントを使用する方法は、対象におけるTrkBに関連する状態を治療する、またはそのリスクを低減するための細胞ベースの療法を包含する。一実施態様において、本方法は、細胞表面上で本明細書で提供される抗体を発現する細胞、または医薬組成物を対象に投与することを含む。
【0161】
[00183]本明細書で提供される抗体を発現するように細胞を操作するための方法は、前述のセクションに記載されている。抗体を発現するように操作して細胞ベースの方法で使用できる好適な細胞は、移植や細胞療法に適合するあらゆる細胞であり得る。一部の好ましい実施態様において、細胞は、療法を受ける対象から得られる。一部の実施態様において、細胞は、対象由来の多能性細胞から得られる。一部の実施態様において、多能性細胞は、人工多能性細胞(iPS)である。
【0162】
[00184]以下の実施例は、特許請求された発明をよりよく例示するために提供され、本発明の範囲の限定として解釈されないものとする。後述される全ての具体的な組成物、材料、および方法は、全体として、または部分的に、本発明の範囲内に含まれる。これらの具体的な組成物、材料、および方法は、本発明を限定するのではなく、単に本発明の範囲内に含まれる具体的な実施態様を例示することを意図する。当業者は、発明的な能力を要する作業を行うことなく、さらに、本発明の範囲から逸脱することなく、均等な組成物、材料、および方法を開発することができる。本明細書において記載された手順において、本発明の範囲内にとどまりながらも多くの変更をなすことができることが理解されると予想される。このような変更が本発明の範囲内に包含されることが、発明者らの意図である。
【実施例
【0163】
実施例1:材料および方法
[00185]1.ハイブリドーマ技術によるマウスモノクローナル抗体の生産
[00186](1)抗原の調製
[00187]TrkB細胞外ドメインのコード配列をシグナルペプチドを含有するPfastbacベクターにクローニングし、昆虫sf9細胞株を使用してタンパク質を精製した。異なるタグを有する2種のタンパク質:動物を免疫化するためのTrkB-ECD-hFc、およびスクリーニング抗原として使用されるTrkB-ECD-Hisを調製した。
【0164】
[00188](2)動物の免疫化
[00189]抗原(組換えTrkB-ECD-hFc)をDPBS中で溶解し、これを使用して、全ての注射につき皮下経路を介して約6~8週齢のBALB/Cマウスを免疫化した。迅速な免疫化手順中、これらのマウスを約8回免疫化した。
【0165】
[00190](3)リンパ球の単離
[00191]免疫化後、タイターELISA試験によって動物を収集のために選択した。簡単に言えば、免疫化されたマウスまたはナイーブマウスからの血清を、TrkB-ECD-hisタンパク質でコーティングされたELISAプレートに添加した。各マウスのタイターを、450nmでの光学密度から決定した。免疫化されたマウスを致死させ、リンパ節を収集した。このリンパ系細胞をDMEM中に懸濁し、その後、骨髄腫細胞株Sp2/0-Ag14と融合させた。
【0166】
[00192](4)細胞融合
[00193]リンパ系細胞を、PEG(P7306、シグマ)の媒介によりSp2/0-Ag14と融合した。次いで融合した細胞をHAT選択培地(21060-017、ギブコ)中に懸濁した。ハイブリドーマは、無限増殖能力での選択培地に耐性を有し得るものであった。7日目または10日目に、2分の1の培地を交換した。
【0167】
[00194](5)ハイブリドーマのハイスループットスクリーニングおよびサブクローニング
[00195]選択培養の約14日の後、ハイブリドーマ上清をTrkB特異的なモノクローナル抗体に関してスクリーニングした。抗体の親和性を分析するのにELISAを使用し、活性TrkBアゴニストを選択するのにNFATアッセイを使用した。陽性細胞プールの選択の後、サブクローニングを古典的な限界希釈によって行った。
【0168】
[00196](6)モノクローナル抗体アイソタイプの同定およびハイブリドーマのシーケンシング
[00197]ELISAキット(BAT0296、シノ(Sino))を使用して、モノクローナル抗体のアイソタイプを同定した。5’RACEキット(カタログ番号634858および634859、クロンテック(Clontech))を用いてハイブリドーマのシーケンシングを実行した。
【0169】
[00198]2.イーストディスプレイによるウサギモノクローナル抗体の生産
[00199]抗原(組換えヒトTrkB-ECD)をDPBS中に溶解し、これを使用して、全ての注射につき皮下経路を介して約6~8週齢のウサギを免疫化した。免疫化後、タイターELISA試験によって動物をB細胞調製のために選択した。免疫化したウサギを致死させ、リンパ節を収集した。軽(V-L)および重(V-H)鎖の再配列された可変ドメインのコンビナトリアルクローニングによって、免疫化されたウサギのB細胞免疫グロブリンレパートリーを不死化し、これを酵母に導入し、酵母表面上に単鎖FV(scFV)として提示させた。FACSを用いたscFV抗体の親和性選択を行い、続いてそれらをIgG抗体の完全なテンプレートに再構成した。NFATアッセイを用いて、アゴニスト抗体に関するさらなるスクリーニングすることを行った。例示的なウサギモノクローナル抗体は、TrkB-agoAb202およびTrkB-agoAb203である。
【0170】
[00200]3.タンパク質の発現および精製
[00201]ヒトTrkB遺伝子(受託番号S76473.1)のTrkB-ECD430の遺伝子フラグメント(30~430のアミノ酸配列、すなわち全長細胞外ドメインに相当)およびTrkB-ECD365(30~365のアミノ酸配列、細胞外の膜近傍(EJM)領域を含まない細胞外ドメインのD1~D5に相当)を、C末端に6×Hisタグを有するpFastBacデュアルにクローニングした。上記のTrkB-ECD遺伝子を含有するバキュロウイルスを、インビトロジェン(Invitrogen)からのBac-to-Bacシステムを使用して生産した。SF9細胞に感染させた後、培養物をMSF1培地中で27℃でインキュベートした。
【0171】
[00202]72時間のインキュベーション後、培養物の上清を収集し、4℃、4,000rpmで20分遠心分離した。上清に超音波をかけて、細胞膜を破壊した。これをさらに高速で遠心分離し、上清をタンパク質精製に使用した。ニッケルカラム(70501-5、Beaver)および分子篩をタンパク質精製に使用した。ニッケルカラムを1×TBS緩衝液平衡化し、その後、標的タンパク質を含有する上清をローディングした。標的タンパク質をカラムに特異的に結合させながら、非特異的なタンパク質を緩衝液で洗浄して除いた。標的タンパク質を濃縮イミダゾール緩衝液で溶出させた。次いで溶離剤を分子篩上にローディングし、高分子量のタンパク質を低分子量タンパク質より早く溶出させた。本発明者らは、標的タンパク質精製にスーパーデックス(Superdex)200(17517501、GE)を適用した。
【0172】
[00203]4.NFAT
[00204]実験を、CHO-hTrkB NFATキット(K1095、ライフテクノロジーズ(Life Technologies))によって提供されたプロトコールに従って行った。実験の前の日に、CHO-hTrkB細胞(K1435、ライフテクノロジーズ)を384-ウェルプレート中に32μlの培地と共にシーディングした。37℃でのBDNFまたはTrkB-AgoAb処理の5時間後、培養物を8μl基質と共に室温で2時間インキュベートした。マイクロプレートリーダー(エンヴィジョン(Envision)、パーキンエルマー(PerkinElmer))を用いてシグナルを得た。
【0173】
[00205]5.AlphaLISA
[00206]これまでに記載されたようにして細胞を溶解させた。白色の不透明なプレート中で、10μlのドナービーズ(6760617M、パーキンエルマー)および10μlのビオチン化抗TrkBモノクローナル抗体(BAF397、R&D)を各ウェルに添加し、薄明かりの下、37℃で30分インキュベートした。10μlの溶解産物、10μlの抗TrkB抗体(ab51187、アブカム(Abcam))および10μlのアクセプタービーズ(6760617M、パーキンエルマー)を調和のとれたウェルに添加し、薄明かりの下、37℃で1時間インキュベートした。エンヴィジョン(パーキンエルマー)を用いてシグナルを測定し、その後分析した。
【0174】
[00207]6.Delfia
[00208]炭酸緩衝液(pH9.2)中の抗pTrkB抗体(4621S、CST)を、マイクロプレート-96ウェル(163320、ヌンク(NUNC))にコーティングする。プレートを4℃で一晩インキュベートする。プレートを2回洗浄する。プレートをブロッキング緩衝液で37℃で2時間ブロックする。次いでプレートをPBSTで2回洗浄する。
【0175】
[00209]検出:50μl溶解産物を一次抗体でコーティングしたプレートに添加する。プレートを室温(RT)で2時間、ゆっくり振盪しながらインキュベートする。プレートに、溶解緩衝液(CST)中の50μl/ウェルの4μg/mlビオチンヤギ抗TrkB抗体(BAF397、R&D)を添加する。プレートを室温で1時間、ゆっくり振盪しながらインキュベートする。次いでプレートを3回洗浄する。洗浄緩衝液を徹底的に除去し、アッセイ緩衝液中の100μl/ウェルの200ng/mlのEu標識ストレプトアビジン(1244-360、パーキンエルマー)を添加する。溶液を室温で30分、ゆっくり振盪しながらインキュベートする。次いでプレートを5回洗浄する。50μl/ウェルの強化溶液を添加し、続いてゆっくり振盪しながら10分インキュベートする。デフォルト化したDELFIAプロトコールを用いてエンヴィジョンで検出する。
【0176】
[00210]7.ビアコア(SPR)(ビアコアT200、GE)
[00211]超音波をかけながらPBS中でCM5チップを洗浄する。候補抗体および標的タンパク質の緩衝液を同じPBSで置き換える。固相として標的タンパク質を1μg/μLに希釈し、液相として候補抗体を7倍希釈まで連続希釈した。シグナルを得た後、ビアコア評価ソフトウェアを使用して、フィッティング曲線を作成した。カイ2<Rmax/10が、優れた信頼水準であることを示す。
【0177】
[00212]8.一次海馬ニューロンの培養および処理
[00213]HBSS中の胎児(E)18日目SDラットから皮質を分離し、次いでクモ膜を剥離し、解剖して海馬を消化培地(0.125%トリプシン、インビトロジェン、15050065)中に取り出した。37℃で20分消化した後、完全培地(10%FBSおよびグルタマックス(GlutaMax、ギブコ)が補充されたDMEM培地)によって反応を止めた。組織を混濁するまで穏やかに粉砕し、数分静置した。混濁した上清を別のチューブに移した。この工程を組織が見えなくなるまで繰り返した。懸濁液を混合し、血球計算器を使用して懸濁液中の細胞を計数した。100ng/mlのポリ-D-リシンでコーティングした(シグマ、030M5021V)直径3.5cmのプレート上でニューロンを、細胞1000,000個/ウェルでプレーティングした。4~6時間インキュベートした後、完全培地を完全に吸引し、維持培地(B27およびグルタマックス、ギブコが補充された神経細胞培養用培地)で交換した。維持培地を3日毎に半分維持培地に変えた。ニューロンを10~14日間培養し、次いでBDNFまたはTrkB-AgoAb刺激のために加工した。
【0178】
[00214]9.細胞株の培養
[00215]全ての細胞を、37℃で、5%COの細胞インキュベーターでインキュベートした。CHO細胞を、10%FBS(16000044、ライフテクノロジーズ)が補充されたFK-12K培地(21127-022、ギブコ)中で培養した。5%FBS、10%ウマ血清(HS)が補充されたPC12細胞をDMEM培地中で培養した。SH-SY5Y細胞を、15%FBSが補充されたRPMI1640培地中で培養した。一次ニューロンの完全培地は、10%FBSおよび1%グルタマックス-I(35050061、ギブコ)が補充されたDMEM培地であった。一次ニューロンの維持培地は、2%B-27および1%グルタマックス-Iが補充されたNeuroBasal(10888022、サーモフィッシャー・サイエンティフィック(Thermofisher Scientific))培地であった。全てのこれらの培地には、0.2%ペニシリンおよびストレプトマイシンが補充された。CHO-hTrkBを、5μg/mLブラスチシジン(R210-01、インビトロジェン)が添加された培地中で培養した。細胞が継代したら、HBSSを使用して培地を洗浄して取り除き、0.05%EDTAトリプシンを使用して細胞を消化した。次いで実験または維持のために細胞をプレート上でプレーティングした。
【0179】
[00216]10.細胞のトランスフェクション
[00217]本発明者らは、リポフェクタミン(Lipofectamine)2000キット(11668-019、インビトロジェン)を使用して細胞をトランスフェクトし、全ての操作は説明書に従った。細胞濃度は約90%であった。Opti-MEM(31985-070、インビトロジェン)を使用して、プラスミドおよびリポフェクトアミン2000(11668-019、インビトロジェン)をそれぞれ希釈し、次いで本発明者らは、希釈したプラスミドを希釈したリポフェクタミン2000に穏やかに添加し、室温で30分インキュベートした。最後に本発明者らは、混合物を細胞培地に添加し、穏やかに混合した。トランスフェクトされた細胞をインキュベーター中で24時間インキュベートした。
【0180】
[00218]11.SDS-PAGEおよびウェスタンブロッティング
[00219]細胞を冷PBSによって3回洗浄し、50mMのトリス-HCl(pH8.0)、250mMのNaCl、1%のNP-40、0.5%デオキシコレート、0.1%のSDS、およびプロテアーゼ阻害剤(ロシュ・ダイアグノスティックス(Roche Diagnostics))を含有する緩衝液中で氷上で30分溶解させた。遠心分離して不溶性物質を除去した後、10%のSDS-PAGEを使用して溶解産物中のタンパク質を分離し、PVDF膜(イモビロン-P(Immobilon-P)、ミリポア(Millipore))に移した。0.1%トウィーン(TBST)を含むトリス緩衝生理的食塩水中の5%BSAで膜をブロックし、TBST中の5%BSAで希釈した抗体と共に穏やかに振盪しながら4℃で一晩インキュベートした。膜をTBSTで洗浄し、二次抗体と共にインキュベートし、最初にTBSTで、次いでTBSで洗浄し、スーパーシグナル・ウェスト・ピコ(SuperSignal West Pico)化学発光基質(34080、ピアース(Pierce))を用いて展開した。
【0181】
[00220]12.共免疫沈降反応
[00221]細胞を冷PBSによって3回洗浄し、50mMのトリス-HCl(pH8.0)、250mMのNaCl、1%のNP-40、0.5%デオキシコレート、0.1%のSDS、およびプロテアーゼ阻害剤(4693132001、ロシュ)(ロシュ・ダイアグノスティックス)を含有する緩衝液中で氷上で20分溶解させた。遠心分離して不溶性物質を除去した後、溶解産物中のタンパク質を、標的タンパク質と共に4℃で一晩インキュベートした。20μlのプロテインAビーズ(sc-2003、サンタクルース(Santacruz))を、タンパク質混合物に添加した。これらの混合物を4℃で4~5時間インキュベートした後、本発明者らは、ビーズを溶解緩衝液で3回洗浄した。次いで上清を除去し、20μlのローディング緩衝液を沈着ビーズに添加した。タンパク質とカップリングしたビーズを変性させ、10分の95℃の過熱により脱カップリングさせた。
【0182】
[00222]13.運動ニューロンの培養および細胞死アッセイ
[00223]E13妊娠マウスを頸部脱臼によって安楽死させた。子宮から胎児を慎重に取り出し、氷冷したHBSS中で維持する。断頭し、一対のピンセットで尾部を除去する。胎児の背側を上にして置く。外部の薄い皮膚の包皮を除去し、一対のピンセットで脊髄の中央溝を開く。単離された脊髄を新しい神経細胞培養用培地を含有する培養皿に移し、脊髄を背側を上にして置く。後根神経節(DRG)と包皮する髄膜を取り出す。次いで単離された脊髄を小片に細断し、消化溶液(神経細胞培養用培地中のパパインおよびDNアーゼ)中で37℃で20分インキュベートする。消化溶液を遠沈して捨て、新鮮な神経細胞培養用培地中で細胞集合体を5mLピペットで穏やかにすりつぶす。得られた懸濁液をまず室温、600rpmで5分遠心分離して、死細胞片を除去した。次いで、Grahamによって公開されたプロトコールから改変したOptiprep(D1556、シグマ、米国)ベースの密度勾配遠心分離(Graham、2002)を使用して運動ニューロンを濃縮した。上清を捨て、ペレットをHBSSに再懸濁し、懸濁液を3mLの10.4%(w/v)Optiprepのクッション上に層状に重ね、400×gで室温で25分遠心分離した。運動ニューロンが濃縮されたトップ層を収集し、次いで10mLの神経細胞培養用培地を添加し、次いで1200rpmで室温で10分遠心分離して、細胞を収集した。最後に細胞ペレットを運動ニューロン完全培地(神経細胞培養用培地中、10%ウマ血清、1×B27、および1×グルタマックス)中に懸濁した。適切な数の細胞を、PDLおよびラミニンでコーティングした培養皿またはカバーガラス上にプレーティングした。細胞を培養皿の表面に付着させた後、培地を完全培地(神経栄養因子または抗体を含有する)で慎重に交換する。
【0183】
[00224]インサイチュ細胞死検出キット(11684795910、ロシュ)を説明書に従って使用して、細胞死をアッセイした。簡単に言えば、細胞をPBS中の4%PFAで20固定し、透過性し、次いでTUNEL反応溶液中でインキュベートした。ChATとフルオレセインで二重標識した細胞を、高含量スキャンおよび分析システムを使用してスコア付けした。
【0184】
[00225]14.免疫細胞化学
[00226]コリン作用性の運動ニューロンは、他の脊髄細胞とは異なり、コリンアシルトランスフェラーゼ(ChAT)の高発現レベルによって同定することができる(CamuおよびHenderson、1992)。細胞をPBS中のPFAの4%溶液で20分固定し、免疫染色を、ヤギ抗ChAT抗体(AB143、メルクミリポア(Merk Millipore)、米国)を用いた標準的なプロトコールに従って行った。免疫標識された細胞のパーセンテージを決定することによって培養物の純度を評価した。通常。ニューロンのクラスIIIb-チューブリンに対する抗体(AT-809、Beyotime Biotechnology、中国)で細胞を免疫標識した後、軸索突起の数および長さを決定した。高含量スキャンおよび分析システム(ArrayScan VTI700、サーモ、米国)、それに続き以下のニューロンプロファイルV4プロトコールを使用して、軸索突起の長さを測定した。
【0185】
[00227]15.イムノパニングによるマウスRGCの精製および培養
[00228]出生後7日のマウス網膜を、4℃、DPBS(ギブコ、14040-216)中で解剖した。10μLの1MのNaOHによってpHを7.4に調整したパパイン(ワージントンバイオケミカル(Worthington Biochemical)LS003126)溶液(10mLのDPBS中のパパイン50μL、DNアーゼ0.4%、L-システイン(シグマ-アルドリッチ(Sigma-Aldrich)C7477)中、37℃で網膜を消化する。パパイン溶液を除去し、細胞を低ovo溶液および高ovo溶液中に別々に再懸濁し、その後、1000r/分、25℃で12分遠心分離した。低および高ovoの10×ストックは、3gのBSA(シグマ-アルドリッチA8806)+3gトリプシン阻害剤(ワージントンLS003086)または6gのBSA+6gのトリプシン阻害剤を200mlのDPBS中に溶解させ、pHを7.4に調整することによって調製される。
【0186】
[00229]細胞をパニング緩衝液(18mLのD-PBS、2mLの0.2%のBSA、および57μLのインスリン(Beyotime P3376)中に再懸濁し、BSL-1溶液(BSL-1(ベクターラボ(Vector Labs)L-1100)20μLのBSL-1および20mLのD-PBS)でコーティングした陰性パニングプレート中でパニングを4℃で一晩実行する。15分毎に穏やかに30分振盪した後、非結合細胞を収集する。同じ方法で、10分間、またはRGCがプレートに連結されたように見えるまで、二次陰性パニングを続ける。収集した細胞懸濁液は、4℃で二次抗体ヤギ抗マウスIgG+IgM(H+L)(ジャクソンイムノリサーチ(Jackson ImmunoResearch)115-005-044)(1:250)でコーティングされ、一次抗体マウス抗マウスThy1.2(CD90)IgM(セロテック(Serotec)MCA02R)(1:1000)でコーティングされた陽性パニングプレートに通過させ、その後および前にプレートをDPBSで3回濯ぐ。
【0187】
[00230]細胞インキュベーター中で37℃で4分パニングした後、100μLのトリプシンストックを4mLの温めたEBSSに添加する。細胞を20mLの万能チューブに移し、4mlのFBS溶液(DPBS中の30%FBS)を添加してトリプシン処理を止める。細胞を1000r/分、25℃で12分間遠心分離し、RGC成長培地中に細胞を再懸濁する。それぞれ100μLの細胞懸濁液を含む96ウェルのプレート中でプレーティングする。96ウェルのプレートを、37℃のインキュベーターで一晩、それぞれ100μL/ウェルのマウスラミニン溶液(10μLのラミニンストックを5mLの神経細胞培養用培地に添加することによる、ラミニン(1mg/mL)から50μg/mLの最終濃度)およびPDL溶液(1mg/mL;100×)でコーティングする。
【0188】
[00231]16.RGC培養によるニューロン生存アッセイ
[00232]RGC生存率は、ArrayScan(登録商標)VTI HCSリーダー(サーモ、ArrayScan VTI700)によってDIV7初代培養物で実行される。DIV7初代培養物をPFA(4%)によって固定し、DAPI、Brn3a、およびTuj-1によって免疫染色する。生存RGCは、ニューロンの形態によって認識することができる。パニング後、96ウェルプレートの各ウェルに約30,000個のRGCをプレーティングし、1日おきに細胞にフィードして培地の半分の体積を新しくし、5つのウェルで平行して、1nMのBDNF、1nMのCNTF、5μMのフォルスコリンまたはこれらの基質混合物を含む異なる薬物で処理する。
【0189】
[00233]17.脊髄神経根剥離傷害
[00234]この研究に、成体雌スプラギーダーレー(SD:Sprague Dawley)ラット(250~300gの体重、70~90日齢)を使用した。ケタミン(80mg/kg体重)およびキシラジン(8mg/kg)の混合物を腹膜内注射することによって動物を麻酔した。右背骨の区域から第5~第7頸椎(C5~C7)を露出させた。C6層上で背側の椎弓切除術を実行して、C7後根を露出させた。硬膜を開いた後、細いガラスフックを使用して右側C7根(背根と腹根の両方)を剥離させた。別の切開を遠位C7脊髄神経で行い、剥離させたC7背根および腹根を、脊髄神経の小さい断片と共に除去した。即座に、傷害を受けた脊髄表面上に、5μgのBDNF、5μgのTrkBアゴニストまたは同体積のPBSに浸漬したゲルフォームを穏やかに置いた。その後、ゲルフォームと同じ溶液で充填された浸透圧ミニポンプを皮下の傷害部位の近傍に埋め込んだ。ポンプをチューブと接続し、放出された薬物はチューブにより傷害を受けた脊髄表面に導かれた。グループ分けおよびサンプルサイズを以下に示す。
【0190】
[00235]1)疑似(N=7):
剥離なし+ゲルフォーム(5μlのPBSを含む)+ポンプ(12μl/日のPBSの放出)、
2)PBSで処理した陰性対照(N=7):
C7剥離+ゲルフォーム(5μlのPBSを含む)+ポンプ(12μl/日のPBSの放出)、
3)BDNFで処理した陽性対照(N=8):
C7剥離+ゲルフォーム(5μgのBDNFを含む)+ポンプ(1日当たり1μg、12μlのBDNFの放出)、
4)TrkBアゴニスト(低濃度)(N=8):
C7剥離+ゲルフォーム(5μgのTrkBアゴニストを含む)+ポンプ(1日当たり1μg、12μlのTrkBアゴニストの放出)、
5)TrkBアゴニスト(高濃度)(N=8):
C7剥離+ゲルフォーム(5μgのTrkBアゴニストを含む)+ポンプ(1日当たり6μg、12μlのTrkBアゴニストの放出)。
【0191】
[00236]腹側脊髄C6~C8の灌流および断片化を20μmの厚さで実行した。4つ毎の腹側脊髄の節にニッスル染色を適用した。明確な核と30μmを超える細胞直径を有するものだけを運動ニューロンとして計数した。
【0192】
[00237]18.常磁性ビーズ、緑内障マウスモデル
[00238]常磁性ビーズ(20160000-1、bioWORLD)の眼球内注射の前に、RGCは、蛍光マーカーによって標識されることになる。本発明者らは、上丘における両側の脳の定位的注入による逆行性の標識付けのために、4%フルオロゴールド(AB153、メルクミリポア)溶液を選択する。部位の配置は、ブレグマの6.0mm後方、横方向に1.0mm、深さ4.5mmであり、それぞれの側に33Gのスチール製針で1μLが与えられる。外科手術後、マウスは、眼球内注射の前にホームケージ中で2週間安静にさせると予想される。本発明者らは、常磁性ビーズの眼球内注射を実行するのに30ゲージの針を使用する(Samselら、2011)。2分未満で、本発明者らは、針を使用して、レンズを傷つけないように、45°の角度、ガラス体の深さ2mmで角膜輪部の後ろの角膜に穴をあけた。20μLの常磁性ビーズを片側の目の前房に注射し、およそ0.3~0.6mgのビーズを送達する。常磁性ビーズは、磁石によって前角にガイドされると予想される。他方の側の目には20μLの生理的食塩水を注射して、陰性対照を作製する。
【0193】
実施例2:モノクローナルTrkBアゴニスト抗体の生成およびスクリーニング
[00239]モノクローナルTrkB抗体をハイブリドーマ技術によって生成した。モノクローナル抗体(MAb)生産の第1の工程は、抗原で動物免疫系を刺激することである。これは、マウスにおけるTrkB-ECD(細胞外ドメイン)の抗原(配列番号1を参照)を用いた迅速な免疫化プロトコール(方法に記載されている)を使用してなされた。免疫化されたマウスからのリンパ球をマウス骨髄腫細胞と融合させることによってハイブリドーマクローンを作製した。ハイブリドーマ上清を、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)を用いてTrkB特異的なモノクローナル抗体に関してスクリーニングし、次いでNFATアッセイを用いてアゴニスト抗体に関してスクリーニングした。TrkBを活性化する作用を有する培養上清を決定した後、クローンをモノクローナル細胞株にサブクローニングした。最後に、ELISAおよびNFATアッセイを用いて、全てのサブクローンを、陽性のものに関して再度スクリーニングした。十分な量の抗体の生産のために、これらの望ましい安定なクローンを大量に増殖させた。抗体の精製後、これらの精製した抗体のアイソタイプを以下の表1で同定した。
【0194】
【表1】
【0195】
実施例3:抗体の特徴付け-生化学
[00241]3.1 特異性
[00242]TrkBアゴニスト抗体は、ELISAアッセイにおいて、TrkBに特異的に結合することができるが、TrkA、TrkB、TrkCまたはP75に結合しない。図1A~1Fに、例示的な抗体TrkB-agoAb104、TrkB-agoAb202、TrkB-agoAb203、TrkB-agoAb303、TrkB-agoAb1104およびTrkB-agoAb2908のデータを示す。プレートの各ウェル上に50μLの1g/mlタンパク質をコーティングし、50μLの10nM、1nMまたは0.1nM抗体を添加して、ELISAアッセイを実行した。
【0196】
[00243]3.2 親和性
[00244]ビアコアを使用して、抗原-抗体相互作用の親和性を分析した。以下の表2にデータを示す。
【0197】
【表2】
【0198】
[00246]3.3 抗原エピトープ同定
[00247]5つの細胞外ドメインが短縮化されたTrkBコンストラクトを図2Aで示されるように設計し、それぞれの発現のために293T細胞にトランスフェクトした。溶解産物を収集した。免疫沈降を使用して、GFPとコンジュゲートした短縮化されたTrkBに結合するできない抗体を試験した(図2Bを参照)。結果から、D1およびD2ドメインは、TrkB-agoAb202のTrkBへの抗体結合に必要な可能性があることが示唆された。その他のもの、例えばTrkB-agoAb418抗体は、D5ドメインに結合することができる。Δ1は、D1ドメイン(Cys1で表される)を欠失しており、Δ2は、D1およびD2(LAMで表される)ドメインを欠失しており、Δ3は、D1~D3(Cys2で表される)ドメインを欠失しており、Δ4は、D1~D4(Ig1で表される)ドメインを欠失しており、Δ5は、D1~D5(Ig2で表される)ドメインを欠失している。「TM」は、膜貫通ドメインを表し、「C」は、対照(ブランク、空のベクター)を表す。FLは、全長遺伝子(WT)を表す。表3に、本明細書で提供されるTrkBアゴニスト抗体に関するTrkBの標的結合ドメインを示す。
【0199】
【表3】
【0200】
[00249]抗体とBDNFとの競合の程度を評価するためのAlphalisaの実験において、飽和BDNF溶液(10nM)を0.01から100nMに希釈した一連の抗体溶液と共に使用して、TrkBで安定してトランスフェクトされたCHO細胞(TrkB-CHO細胞)を処理した。抗体がTrkBに競合的に結合する場合、高濃度(例えば10~100nM)の抗体と共に10nMのBDNFにより誘導された活性化は、10nMのBDNF単独により誘導された作用ほど強くない可能性があり(競合作用)、これは、BDNFは通常、TrkBを活性化することにおいて抗体より有効であるためである。しかしながら、BDNFプラス抗体がBDNF単独より強いTrkB活性化を誘導できる場合、その抗体は、相加効果または相乗作用を示す。ここで本発明者らは、TrkB-agoAb303がこの特徴を呈示することを見出した(図3を参照)。
【0201】
[00250]3.4 TrkB活性化-Try515リン酸化
[00251]TrkBアゴニスト抗体は、TrkB細胞内ドメインのチロシン残基をリン酸化するTrkBのチロシンキナーゼを活性化することができる。シグナル伝達経路を誘導することができる最も重要な部位がTry515部位であるという理由で、本発明者らは、リン酸化の強度を定量することができるAlphalisa方法によって、TrkB活性化を示すTry515リン酸化レベルを試験する。本発明者らは、ヒトTrkBでトランスフェクトされたCHO細胞(hTrkB-CHO細胞)を、異なる濃度のBDNFまたはTrkBアゴニスト抗体で30分処理し、タンパク質サンプル収集して、TrkBリン酸化レベルを試験した。これらの結果に従って、BDNFまたはTrkBアゴニスト抗体の用量曲線を計算した。図4および表4に、試験した抗体を示す。
【0202】
【表4】
【0203】
[00253]用量曲線に従って(図4を参照)、50%有効濃度(EC50)を計算し(表4を参照)、次いで本発明者らは、EC50値によって決定した濃度で細胞を処理した。処理した細胞から、タンパク質サンプルを異なるタイムポイントで収集して、Alphalisa方法を使用してリン酸化を測定し、時間経過曲線を計算した(図5を参照)。次いで本発明者らは、時間経過曲線を用いてインビトロでの半減期(T1/2)を計算した(表5を参照)。
【0204】
【表5】
【0205】
[00255]3.5 TrkBアゴニスト抗体シグナル伝達経路活性化
[00256]TrkBは、細胞内チロシン残基のリン酸化によって活性化され、TrkB活性化は、キナーゼシグナル伝達経路MAPK、PI3KおよびPLCγを誘導する。Erk42/44、Akt、およびPLCγのリン酸化レベルは、それぞれこれらの3つのシグナル伝達経路の活性化を示すことができる。hTrkB-CHO細胞密度が60~70%に達したら、本発明者らは、細胞をBDNF(1nM)またはTrkBアゴニスト抗体(TrkB-agoAb101、TrkB-agoAb104、TrkB-agoAb303、TrkB-agoAb203、TrkB-agoAb202、図6A~6Eを参照)で処理し、24時間以内に異なる時間でサンプルを収集した。TrkB(Tyr515)、Erk44/42(Thr202/Tyr204)、Akt(Ser473)およびPLCγ(Tyr783)のリン酸化レベルをウェスタンブロットによって試験した。TrkB-AgoAb104も、BDNFとしてTrkBシグナル伝達経路を活性化できるという結果が示された(図6を参照)。
【0206】
実施例4:抗体の特徴付け-細胞生物学
[00257]4.1 細胞生存実験
[00258]4.1.1 PC12細胞
[00259]ヒトTrkBを発現するPC12細胞株を使用して、細胞生存アッセイを実行した。ヒトTrkB-PC12細胞を96ウェルのプレート中に1日かけてシーディングし、次いで培地を、PC12細胞死を誘導できる血清非含有培地に交換した。BDNFまたはTrkB-agoAb202は、飢餓細胞の死から細胞を保護する可能性がある。カスパーゼ3-基質キット(プロメガ(Promega)、G7573)およびセロミクスアレイスキャンを使用して、細胞生存の質を定量した。
【0207】
[00260]4.1.2 海馬ニューロン
[00261]周知のニューロン毒素としてAβ(25~35)を使用して、培養したラット海馬ニューロンを処理して、AD細胞モデルを確立した。以前の研究によれば、Aβ(25~35)は、インビボまたはインビトロの実験のいずれかで細胞毒素としてAβ(1~42)を模擬でき、それゆえに本発明者らは、Aβ(25~35)(GLバイオケム(GL Biochem))を、培養ラット海馬ニューロンを処理して、インビトロでのAD細胞モデルを確立するのに使用して、TrkB-AgoAbのニューロンを保護する機能を試験した。本発明者らは、ニューロンを異なる濃度のAβ(25~35)で48時間処理し、生きた細胞の数を示すATPレベルを試験するためにセルタイター-Gloキット使用した。5~40μMのAβ(25~35)で処理した細胞のATPレベルが、対照(Aβ(25~35)で処理されていない海馬ニューロン)に対して約60~70%であるという結果が示された(図7A)。次いで本発明者らは、Aβ(25~35)を5μMの毒性濃度で使用した。これは、この細胞死のパーセンテージで救済作用がより優れていると予想されたためである。
【0208】
[00262]この細胞生存実験において、E18ラット海馬ニューロンをインビトロで8日間培養した後、BDNFまたはTrkB-AgoAb(TrkB-agoAb1104、TrkB-agoAb2908およびTrkB-agoAbB901)を添加して30分前処理し、次いで5MのAβ(25~35)を培地に添加し、ニューロンをさらに48時間培養した。セルタイター-Gloキットを使用して、細胞生存レベルを試験した。TrkB-AgoAbまたはBDNFのいずれかが、EC50で海馬ニューロンを有意に保護することができる(図7Bを参照)。***p<0.001。データは平均±SEMとして提示され、一元配置ANOVAで分析される。
【0209】
[00263]4.1.3 運動ニューロン
[00264]運動ニューロンに対するTrkB抗体アゴニストの作用を調査するために、インビトロのモデルを確立した。13日齢の胎児マウスから運動ニューロンを単離し、インビトロで培養した。血清枯渇は、インビトロにおいて運動ニューロンの死を引き起こすこと報告されている(Wieseら、2010)。運動ニューロンを3日間培養し(DIV3)、次いで培地(方法を参照)を血清(ウマ血清、HS)非含有培地で交換した。16または24時間後の残存する細胞の数およびアポトーシス細胞のパーセンテージによって細胞生存率を推測した。アポトーシスを、トランスフェラーゼ媒介デオキシウリジン三リン酸-ビオチンニック末端標識(TUNEL)アッセイによって決定した。以前の報告と一致して、血清枯渇は、驚くべき細胞損失とアポトーシス上昇をもたらした(図8A~8Cを参照)。細胞の核(Nu)をDAPIで染色した。血清枯渇なしで培養した対照と比較して、血清枯渇グループ中でより多くのTUNEL標識細胞が検出され、一方でBDNF処理は、アポトーシス細胞のパーセンテージを有意に低減させた。本発明者らは、TrkB、TrkB-agoAb102およびTrkB-agoAb202につき2種のアゴニスト抗体を試験した。両方のアゴニスト抗体が、アポトーシスの低減によって実証された通り、ニューロンの保護的作用を示した(図8Cを参照)。p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。データは平均±SEMとして提示され、一元配置ANOVAで分析される。
【0210】
[00265]4.1.4 網膜神経節細胞
[00266]イムノパニング方法を使用して出生後の7日目にBALB/cマウスから網膜神経節細胞(RGC)を調製した。純度90%を有するRGCを得た。RGCは、神経栄養因子がないと致死すると予想され、それゆえに細胞生存アッセイを、BDNFおよびTrkBアゴニスト抗体を添加することによって実行した。選択された抗体TrkB-AgoAb102およびTrkB-agoAb202の機能を同定するために、本発明者らは、機能的な分析のためにRGC生存アッセイを事前に行った(図9を参照)。RGCを、1nMのBNDF(n=6)、0.5nMのTrkB-agoAb202(n=6)および30nMのTrkB-agoAb101(n=6);ゼロ対照としてDPBS(n=9)および陰性対照としてK252a(n=6)によって1日おきに別々に処理する。0.5nMのTrkB-Ago202または30nMのTrkB-agoAb101での処理は、生存率を増加させた。p<0.05、**p<0.01。データは平均±SEMとして提示され、一元配置ANOVAで分析される。
【0211】
[00267]4.2 軸索突起の生長
[00268]4.2.1 PC12細胞
[00269]ヒトTrkB発現PC12細胞株を使用して、軸索突起生長アッセイを実行する。PC12細胞は、標準状態で軸索突起を有さないが、軸索突起は、PC12細胞がNGFによって刺激されると出現する。ヒトTrkB-PC12細胞は、BDNF刺激の後、同じ作用を有する。ヒトTrkB-PC12細胞を1日かけて96ウェルプレートにシーディングし、次いで培地を、BDNFまたはTrkB-AgoAbを添加した1%ウマ血清培地に交換する。72時間の処理後、細胞をセロミクスアレイスキャンによって試験して、細胞の軸索突起を定量する。
【0212】
[00270]4.2.2 海馬ニューロン
E18ラット海馬ニューロンをインビトロで2日間培養した後、BDNFまたはTrkB-AgoAbをニューロンに添加し、さらに48時間培養した。蛍光顕微鏡を使用する形態測定分析のために、本発明者らは培養物を固定し、MAP2に対する抗体(ミリポア、MAB3418)でニューロンを免疫染色した。軸索成長を、2つのパラメーター:総軸索突起長さおよび分岐点の数によって定量化した。BDNFまたはTrkB-agoAbはどちらも、軸索突起の全長および分岐点数を増加させることができる(図17Aおよび17B)。**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001。データは平均±SEMとして提示され、一元配置ANOVAで分析される。
【0213】
実施例5:抗体の特徴付け-動物モデル
[00271]5.1 ALS動物モデル
[00272]脊髄神経根剥離傷害を使用して、ALSの運動ニューロン傷害を模擬した。本発明者らは、BDNFシグナル伝達を回復させるためにBDNFおよびTrkB-agoAb202を利用した。剥離から2週間後、PBSで処理した動物では傷害を受けた運動ニューロンのわずか30.7%が生きたままであったが、BDNF処理は、それらの77.2%が生存可能であった。BDNFと同様に、TrkBアゴニストの低(TrkB-agoAb202(L))および高(TrkB-agoAb202(H))用量(方法を参照)の両方が、傷害のある運動ニューロンを救済することにおいて高い効率を実証し、それらの生存はそれぞれ76.2%および80.9%であった(図10Fを参照)。加えて、BDNFおよびTrkB-Aで処理した運動ニューロンでは、ニッスル染色によって、大きい核、暗く染色された粗面小胞体および大きい細胞質を含む健康な細胞内構造がよく示された(図10A、10C、10Dおよび10Eを参照)。対照的に、PBSで処理した細胞では、認識できる細胞内構造を含まない異常な細胞の出現が観察された。さらに、PBSで処理した脊髄の灰白質中に多数のグリア細胞が存在したが(図10B)、BDNFまたはTrkB-agoAb202で処理した脊髄ではほとんど検出されなかった。BDNFおよびTrkB-agoAb202で処理したグループからのわずかな運動ニューロンが肥大を呈示したが、細胞直径においてグループ間に統計学的差異は観察されなかった。***p<0.001。データは平均±SEMとして提示され、一元配置ANOVAで分析される。
【0214】
[00273]5.2 緑内障動物モデル
[00274]常磁性ビーズの眼球内注射により誘導された上昇した眼圧(IOP)を使用して、緑内障動物モデルを確立した。注射の前に、RGCを蛍光マーカーによって標識した。上丘における両側の脳の定位的注入による逆行性の標識付けのために、4%フルオロゴールド溶液を選択した。30ゲージの針を使用して、常磁性ビーズの眼球内注射を実行した。常磁性ビーズを磁石によって前角にガイドした。他方の側の目に20μlの生理的食塩水を注射して、陰性対照を作製した。眼球内注射の後、動物をホームケージ中で安静にさせ、IOPを1日おきに試験した。マイクロビーズの眼球内注射の2週間後、両方の目に、1μlの生理的食塩水またはTrkB-agoAb202(1μg)を眼球内注射する。全てのマウスを1ヶ月後に致死させ、網膜を浮遊させる錠剤を作製した。逆行した標識付けによって生じた蛍光シグナルに基づき(図11Aを参照)、RGC数を計数した。TrkB-agoAb202は、RGC生存に対して有意な強化を示した(図11Bを参照)。***p<0.001。データは平均±SEMとして提示され、一元配置ANOVAで分析される。
【0215】
[00275]5.3 卒中
[00276]スプラギーダーレーラット(約200g)を、2時間の右側中大脳動脈閉塞とそれに続く再灌流(I/R)に供し、それぞれPBS(偽操作)、1mg/kg体重の正常ウサギIgG、1mg/kgのTrkB-agoAb202および0.2mg/kgのTrkB-agoAb202を投与した。動物を、感覚および運動機能に関して14日間試験し、梗塞体積測定のために安楽死させた。3日目に、ウェスタンブロットアッセイのために追加のセットの動物を安楽死させた。
【0216】
[00277]梗塞体積を測定するために、トリフェニルテトラゾリウムクロリド(TTC)を使用して、脳切片を染色した。TTCは、正常な組織では呼吸鎖中のデヒドロゲナーゼの存在下で赤く変色し、一方で死んだ組織では白色のままになる。虚血後の14日目に、1mg/kgのTrkB-agoAb202は、通常のIgG処理と比較して梗塞体積を有意に低減させた(P<0.05。各グループにおいてn≧7。データは平均±SEMとして提示され、一元配置ANOVAで分析される)。また0.2mg/kgのTrkB-agoAb202も、統計学的に有意ではなかったが梗塞体積を低減させた(図12Aおよび12Bを参照)。
【0217】
[00278]本発明者らは次いで、接着除去試験による虚血後の行動に関するアウトカムを評価した。接着剤を感知し除去する時間は、反比例的に、調和のとれた脳の半球によって調節された感覚運動機能の状態を示す。外科手術後の最初の5日に、虚血/再灌流に供した動物は全て、疑似と比較して左前肢の感覚運動機能における障害を示した。しかしながら、通常のIgG処理と比較して、1mg/kgのTrkB-agoAb202処理は、3日目および5日目に感覚機能の改善を促進し、それと共に5日目に除去に要する時間が短くなったことから、運動機能におけるより優れた改善が示される。これは、TrkB-agoAb202が、卒中後に機能的な回復を促進したことを示す(図13Aおよび13Bを参照)。P<0.05、**P<0.01。グループ各においてn≧9。データは平均±SEMとして提示され、二元配置ANOVAで分析される。
【0218】
[00279]TrkB-agoAb202作用の可能性のあるメカニズムを分析するために、本発明者らは、TrkB-agoAb202がアポトーシスの経路に影響を与えるかどうかの発見を試みた。カスパーゼ-3は、アポトーシスを実行するものであり、このタイプの細胞死のマーカーとして使用されることが多い。活性化されると、32kDaのプロカスパーゼ-3が切断されることにより、活性化された17kDaの形態が生じる。ウェスタンブロットからの半定量的な結果を比較すると、TrkB-agoAb202は、部分的にアポトーシス経路を介して細胞死を低減させることが示される(図14を参照)。p<0.05、各グループにおいてn≧5。データは平均±SEMとして提示され、一元配置ANOVAで分析される。
【0219】
[00280]混合系キナーゼドメイン様(MLKL)は、その活性化がMLKLのリン酸化に依存するネクロソーム(necrosome)の構成要素である。虚血/再灌流または永続的な虚血のいずれかを受けた皮質組織において、MLKLリン酸化は、TrkB-agoAb202処理によって有意に低減した(図15Aおよび15Bを参照)。これは、TrkB-agoAbによってTrkBシグナル伝達経路を活性化することが、壊死/ネクロトーシス経路を抑制することを示す。
【0220】
[00281]5.4 血漿および脳組織におけるTrkB-agoAbの薬物動態
[00282]血漿および脳組織におけるTrkB-agoAb(TrkB-agoAb1104、TrkB-agoAb2908、TrkB-agoAbB901、およびTrkB-agoAb202)の薬物動態を決定するために、C57BL/6マウスにそれらを尾静脈を介して注射により投与した。異なるタイムポイント(1日目、3日目、7日目、15日目および30日目)に1グループ当たり3匹のマウスを致死させて、血液サンプルおよび脳組織を収集した。血液サンプルから即座に血漿を調製した。脳組織を収集する前、マウスを少なくとも20mlのPBSで灌流した。血漿サンプルおよび脳組織を液体窒素によって急速冷凍し、-80℃の冷凍庫で貯蔵した。異なるタイムポイントの全てのサンプルを収集した後、ELISA方法を使用して、各サンプルの抗体濃度を検出した。ベースライン(0)の濃度を対照マウス(注射なし)によって決定した。図18によれば、TrkB-agoAbは、7~30日後に血液から除去され(図18Aを参照)、15日より後に脳から除去された(図18Bを参照)。約0.1~0.5%の血中濃度のTrkB-agoAbが脳血液バリア(BBB)を通って脳組織に透過し、脳中の濃度が、TrkBリン酸化および下流キナーゼシグナル伝達経路を活性化し、神経の生存を促進するのに有効な濃度である。例えば、TrkB-agoAbの血中濃度が3mg/kgである場合、脳組織に透過する濃度は、0.1~0.2μg/gであるかまたはそれより高く(約1nMに相当)、一方でインビトロにおける0.3~1nMのTrkB-agoAb濃度は、十分に有効である(図6および8を参照)。
【0221】
[00283]具体的な実施態様(その一部は、好ましい実施態様である)を参照しながら本
開示を具体的に示し説明したが、当業者であれば、本明細書で開示される本発明の開示の
本質および範囲から逸脱することなく、形態および詳細における様々な変化をなすことが
できることを理解しているものとする。
国際出願時の特許請求の範囲
〔項1〕 TrkBの細胞外ドメインの1つに含有されるエピトープに結合し、TrkBを活性化することが可能である単離されたTrkBアゴニスト抗体であって、該細胞外ドメインは、TrkBの、配列番号2の配列を有する細胞外D1ドメイン、配列番号3の配列を有するD2ドメイン、配列番号4の配列を有するD3ドメイン、配列番号5の配列を有するD4ドメイン、配列番号6の配列を有するD5ドメイン、および配列番号7の配列を有する膜近傍のドメインを含む、上記抗体。
〔項2〕 膜近傍のドメインに含有されるエピトープに結合し、配列番号8の配列を有する短縮化されたTrkBを活性化することが可能である、請求項1に記載の抗体。
〔項3〕 単離されたTrkBアゴニスト抗体であって、配列番号9~26、29~34、37~42、45~50、53~58、61~66、および69~74から選択される1、2、3、4、5もしくは6つのCDR、またはそれらの少なくとも80%の配列同一性を有する相同体を含む、上記抗体。
〔項4〕 1)配列番号12~14、またはその少なくとも80%の配列同一性を有する相同体;2)配列番号18~20、またはその少なくとも80%の配列同一性を有する相同体;3)配列番号24~26、またはその少なくとも80%の配列同一性を有する相同体;4)配列番号32~34、またはその少なくとも80%の配列同一性を有する相同体;5)配列番号40~42、またはその少なくとも80%の配列同一性を有する相同体;6)配列番号48~50、またはその少なくとも80%の配列同一性を有する相同体;7)配列番号56~58、またはその少なくとも80%の配列同一性を有する相同体;8)配列番号64~66、またはその少なくとも80%の配列同一性を有する相同体;または9)配列番号72~74、またはその少なくとも80%の配列同一性を有する相同体からなる群から選択される3つの重鎖CDR配列を含む、請求項3に記載の抗体。
〔項5〕 1)配列番号9~11、またはその少なくとも80%の配列同一性を有する相同体;2)配列番号15~17、またはその少なくとも80%の配列同一性を有する相同体;3)配列番号21~23、またはその少なくとも80%の配列同一性を有する相同体;4)配列番号29~31、またはその少なくとも80%の配列同一性を有する相同体;または5)配列番号37~39、またはその少なくとも80%の配列同一性を有する相同体;6)配列番号45~47、またはその少なくとも80%の配列同一性を有する相同体;7)配列番号53~55、またはその少なくとも80%の配列同一性を有する相同体;8)配列番号61~63、またはその少なくとも80%の配列同一性を有する相同体;または9)配列番号69~71、またはその少なくとも80%の配列同一性を有する相同体からなる群から選択される3つの軽鎖CDR配列を含む、請求項3または4に記載の抗体。
〔項6〕 1)配列番号12~14、または1、2または3つのアミノ酸改変を有するそのバリアント;2)配列番号18~20、または1、2または3つのアミノ酸改変を有するそのバリアント;3)配列番号24~26、または1、2または3つのアミノ酸改変を有するそのバリアント;4)配列番号32~34、または1、2または3つのアミノ酸改変を有するそのバリアント;5)配列番号40~42、または1、2または3つのアミノ酸改変を有するそのバリアント;6)配列番号48~50、または1、2または3つのアミノ酸改変を有するそのバリアント;7)配列番号56~58、または1、2または3つのアミノ酸改変を有するそのバリアント;8)配列番号64~66、または1、2または3つのアミノ酸改変を有するそのバリアント;または9)配列番号72~74、または1、2または3つのアミノ酸改変を有するそのバリアントからなる群から選択される3つの重鎖CDR配列を含む、請求項3に記載の抗体。
〔項7〕 1)配列番号9~11、または1、2または3つのアミノ酸改変を有するそのバリアント;2)配列番号15~17、または1、2または3つのアミノ酸改変を有するそのバリアント;3)配列番号21~23、または1、2または3つのアミノ酸改変を有するそのバリアント;4)配列番号29~31、または1、2または3つのアミノ酸改変を有するそのバリアント;または5)配列番号37~39、または1、2または3つのアミノ酸改変を有するそのバリアント;6)配列番号45~47、または1、2または3つのアミノ酸改変を有するそのバリアント;7)配列番号53~55、または1、2または3つのアミノ酸改変を有するそのバリアント;8)配列番号61~63、または1、2または3つのアミノ酸改変を有するそのバリアント;または9)配列番号69~71、または1、2または3つのアミノ酸改変を有するそのバリアントからなる群から選択される3つの軽鎖CDR配列を含む、請求項3または4に記載の抗体。
〔項8〕 配列番号28、36、44、52、60、68、76またはそれらのヒト化型からなる群から選択される重鎖可変領域を含む、請求項3~7のいずれか一項に記載の抗体。
〔項9〕 配列番号27、35、43、51、59、67、75またはそれらのヒト化型からなる群から選択される軽鎖可変領域を含む、請求項3~7のいずれか一項に記載の抗体。
〔項10〕 BDNFおよび/またはNT-4の場合とは異なるエピトープに結合することによって、相加効果でTrkBを活性化することが可能であり、ここで該相加効果は、TrkBがBDNFおよび/またはNT-4によるピークの活性化状態のときに、前記抗体によって追加のTrkB活性化の増加がもたらされることである、請求項1~9のいずれか一項に記載の抗体。
〔項11〕 前記抗体がTrkBに結合すると、TrkBは、TrkBのY515、Y701、Y705、Y706およびY816の少なくとも1つのアミノ酸残基でリン酸化される、請求項1~10のいずれか一項に記載の抗体。
〔項12〕 少なくとも12時間の半減期(T1/2)でTrkBに結合することが可能な、単離されたTrkBアゴニスト抗体。
〔項13〕 請求項1~12のいずれか一項に記載の抗体と同じエピトープに結合するか、または請求項1~12のいずれか一項に記載の抗体と競合結合する、単離されたTrkBアゴニスト抗体。
〔項14〕 3nM未満のEC50を有する、請求項1~13のいずれか一項に記載の抗体。
〔項15〕 ビアコアによって測定した場合、4.5nM未満のK値のTrkBに対する親和性を有する、単離されたTrkBアゴニスト抗体。
〔項16〕 D1、D2、D3、D4、D5または膜近傍に結合する、請求項12、14および15のいずれか一項に記載の抗体。
〔項17〕 P75ニューロトロフィン受容体(P75NTR)、チロシン受容体A(TrkA)またはチロシン受容体C(TrkC)に結合しない、請求項1~16のいずれか一項に記載の抗体。
〔項18〕 神経細胞の生存を強化すること、シナプスの発生および/または可塑性を調節すること、軸索突起の伸長を強化すること、またはそれらの組合せが可能である、請求項1~17のいずれか一項に記載の抗体。
〔項19〕 前記神経細胞が、PC12細胞、海馬ニューロン、網膜神経節細胞、運動ニューロン、およびドーパミン作動性ニューロンを含む、請求項18に記載の抗体。
〔項20〕 二重特異性抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、モノクローナル抗体、組換え抗体、標識された抗体、2価抗体、または抗イディオタイプ抗体である、請求項1~19のいずれか一項に記載の抗体。
〔項21〕 単一ドメイン抗体、ラクダ単一ドメイン抗体、VNAR、ナノボディ、操作されたヒトVH/VL単一ドメイン抗体、ダイアボディ、scFv、scFv二量体、BsFv、dsFv、(dsFv)2、dsFv-dsFv’、Fvフラグメント、Fab、Fab’、F(ab’)2、dsダイアボディ、ドメイン抗体、単離されたCDRおよび2価ドメイン抗体からなる群から選択される抗原結合フラグメントである、請求項1~20のいずれか一項に記載の抗体。
〔項22〕 治療有効量の請求項1~21のいずれか一項に記載の抗体および製剤用担体を含む医薬組成物。
〔項23〕 BDNFおよび/またはNT-4を含む第2の治療剤をさらに含む、請求項22に記載の医薬組成物。
〔項24〕 請求項1~21のいずれか一項に記載の抗体をコードするポリヌクレオチド。
〔項25〕 請求項24に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
〔項26〕 請求項25に記載のベクターを含む単離された宿主細胞。
〔項27〕 前記ポリヌクレオチドによってコードされた抗体を生産する、請求項26に記載の宿主細胞。
〔項28〕 TrkBに関連する状態を診断すること、予防すること、遅らせること、または治療することにおける、請求項1~21のいずれか一項に記載の抗体または請求項22~23のいずれか一項に記載の医薬組成物を含むキット。
〔項29〕 TrkBに特異的に結合する抗体を生産する方法であって、TrkBタンパク質をコードするポリヌクレオチドを、請求項27に記載の宿主細胞に導入すること、および該ポリヌクレオチドが発現される条件下で該宿主細胞を培養することを含む、上記方法。
〔項30〕 対象におけるTrkBに関連する状態を治療すること、またはそのリスクを低減するための方法であって、請求項1~21のいずれか一項に記載の抗体または請求項22~23のいずれか一項に記載の医薬組成物を該対象に投与すること、それによって該状態を治療することを含む、上記方法。
〔項31〕 前記状態が、神経変性疾患、視神経症、網膜変性状態、聴力損失を伴う障害、精神障害、神経発達障害、体重の調節の障害、筋障害、代謝性疾患または脳傷害である、請求項30に記載の方法。
〔項32〕 前記状態が、アルツハイマー病(AD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、緑内障、ハンチントン病(HD)、パーキンソン病(PD)、運動ニューロン疾患、レヴィ小体病、脊髄性筋萎縮症、多系統萎縮症、認知症およびタウオパチー、緑内障、前部虚血性視神経症(AION)、後部虚血性視神経症、放射線視神経症、圧迫性視神経症、ミトコンドリア性視神経症、中毒性視神経症、外傷性視神経症、遺伝性視神経症、視神経炎、加齢性黄斑変性症、網膜色素変性症、神経性難聴、迷路性難聴、耳鳴り、感覚神経聴力損失、複合型の聴力損失、不安、気分障害、うつ病、パニック障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、双極性障害、統合失調症、アンジェルマン症候群、プラダー-ウィリー症候群、自閉性障害、レット症候群、思春期やせ症、悪液質、不要な体重の減少、サルコペニア、肥満症、オピオイドによって誘発された嘔吐、サルコペニア、糖尿病性神経障害、てんかん、多発性硬化症、片頭痛、神経傷害、末梢神経障害、神経筋疾患、睡眠障害、外傷性脳傷害(TBI)および卒中からなる群から選択される、請求項30に記載の方法。
〔項33〕 細胞分化および/またはシナプスの発生を強化する方法であって、請求項1~21のいずれか一項に記載の抗体または請求項22~23のいずれか一項に記載の医薬組成物を、TrkBを発現する生体サンプルと接触させることを含む、上記方法。
〔項34〕 神経傷害の修復および/または軸索突起の分岐を強化する方法であって、請求項1~21のいずれか一項に記載の抗体または請求項22~23のいずれか一項に記載の医薬組成物を、TrkBを発現する生体サンプルと接触させることを含む、上記方法。
〔項35〕 細胞のアポトーシスおよび/またはネクロトーシスを予防する方法であって、請求項1~21のいずれか一項に記載の抗体または請求項22~23のいずれか一項に記載の医薬組成物を、TrkBを発現する生体サンプルと接触させることを含む、上記方法。
〔項36〕 細胞生存を強化する方法であって、請求項1~21のいずれか一項に記載の抗体または請求項22~23のいずれか一項に記載の医薬組成物を、TrkBを発現する生体サンプルと接触させることを含む、上記方法。
〔項37〕 対象におけるTrkBに関連する状態を治療すること、またはそのリスクを低減するための方法であって、細胞表面上で請求項1~21のいずれか一項に記載の抗体を発現する細胞、または請求項22~23のいずれか一項に記載の医薬組成物を該対象に投与することを含む、上記方法。
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図6-1】
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【配列表】
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