(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-24
(45)【発行日】2023-02-01
(54)【発明の名称】高硬度3Dプリント鋼鉄製生成物
(51)【国際特許分類】
C22C 33/02 20060101AFI20230125BHJP
B22F 10/28 20210101ALI20230125BHJP
B22F 10/50 20210101ALI20230125BHJP
C22C 37/00 20060101ALI20230125BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20230125BHJP
【FI】
C22C33/02 103C
B22F10/28
B22F10/50
C22C33/02 B
C22C37/00 Z
B22F1/00 T
(21)【出願番号】P 2020528177
(86)(22)【出願日】2018-11-22
(86)【国際出願番号】 SE2018051205
(87)【国際公開番号】W WO2019103686
(87)【国際公開日】2019-05-31
【審査請求日】2021-08-19
(32)【優先日】2017-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】519334421
【氏名又は名称】ヴァンベーエヌ コンポネンツ アクチエボラグ
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベステ、ウルリク
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第02361704(EP,A1)
【文献】特開平02-175846(JP,A)
【文献】特開昭62-224529(JP,A)
【文献】特開昭51-111414(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 33/02
B22F 10/28
B22F 10/50
C22C 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属マトリクスおよび前記金属マトリクスに埋設される炭化物の粒子を含む合金から形成される3Dプリント生成物であって、前記合金は、
炭素:2.47重量%以上かつ2.55重量%以下、
タングステン:10重量%以上かつ12重量%以下、
クロム:3.5重量%以上かつ4.5重量%以下、
コバルト:14重量%以上かつ18重量%以下、
モリブデン:4重量%以上かつ6重量%以下、
バナジウム:5重量%以上かつ8重量%以下、
任意で微量の不純物、
鉄:残部、
を含み、
炭化物の総量は、
前記合金の断面における専有面積で、20~30
%であり、最大炭化物粒子径は、10μm未満である、生成物。
【請求項2】
前記生成物は、
炭素:2.47重量%以上かつ2.55重量%以下、好ましくは2.50重量%以下、
タングステン:11重量%、
クロム:4重量%、
コバルト:16重量%、
モリブデン:5重量%、
バナジウム:6.3重量%、
任意で微量の不純物、
鉄:残部、
を含み、炭化物の総量は、
前記合金の断面における専有面積で、20~30%である、請求項1記載の生成物。
【請求項3】
炭化物の総量は、
前記合金の断面における専有面積で、22~26
%、好ましくは24~25
%である、
請求項1または2記載の生成物。
【請求項4】
最大炭化物粒子径は、5μm未満である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の生成物。
【請求項5】
前記生成物は、少なくとも1050HR2kg、または少なくとも1100HR2kgの硬度を有する、請求項1~
3のいずれか1項に記載の生成物。
【請求項6】
前記生成物は、空洞または湾曲溝を有する、請求項1~
5のいずれか1項に記載の生成物。
【請求項7】
前記空洞は、密閉されるか、または開口部を有し、前記開口部の直径または幅は、その下の空洞の直径または幅よりも小さい、請求項
6記載の生成物。
【請求項8】
前記生成物は、カッターである、請求項1~
7のいずれか1項に記載の生成物。
【請求項9】
前記生成物は、ミリングカッターである、請求項1~
7のいずれか1項に記載の生成物。
【請求項10】
前記生成物は、パワースカイビングカッターである、請求項1~
7のいずれか1項に記載の生成物。
【請求項11】
前記生成物は、ドリルである、請求項1~
7のいずれか1項に記載の生成物。
【請求項12】
チャンバを有する自由成形装置内で3Dプリント生成物を調製する方法であって、
a.前記チャンバ内の低酸素雰囲気内で、鉄系合金の粉末の層をベースプレート上に形成するステップであって、前記合金は、
炭素:2.47重量%以上かつ2.55重量%以下、
タングステン:10重量%以上かつ12重量%以下、
クロム:3.5重量%以上かつ4.5重量%以下、
コバルト:14重量%以上かつ18重量%以下、
モリブデン:4重量%以上かつ6重量%以下、
バナジウム:5重量%以上かつ8重量%以下、
不可避量の不純物、
鉄:残部、
を含み、前記粉末は、略球状の粒子を含むステップと、
b.溶融プールを形成するために、十分な期間、前記粉末をエネルギービームに曝露することによって、前記粉末を局所的に溶融するステップと、
c.前記溶融プール中の溶融された前記粉末を、多相合金に凝固させるステップと、
d.ステップa~dを繰返すことで、前層の上に粉末の追加の層を任意で調製するステップであって、
ステップbは、前記粉末を前記前層の上に設置することを含み、
組み立てられる前記生成物は、前記方法の間、600℃より高い温度を維持されるステップと、
e.得られた前記生成物を硬化する任意のステップと、
を含む、方法。
【請求項13】
形成される前記生成物は、前記方法中に、720℃~780℃の温度で加熱を維持される、請求項
12記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄系合金を含む3Dプリント生成物、および3Dプリント生成物を調製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
材料加工技術
今日、高炭素含有量かつ高硬度の、高合金化材料を得るための多数の様々な製造方法が存在する。そのすべての方法には利点と欠点があり、その選択は、品質とコストに関する相反する要求に依存する。
【0003】
一般的な方法は、鋳造とそれに続く鋳塊(鍛錬用合金とも知られる)の鍛造/圧延である。望ましい合金材料は、炉内で溶融され、鋳塊に凝固される。その後、これらの鋳塊は、多くの様々な形状と大きさを有し得る材料の棒へと、鍛造および圧延される。この方法の利点は、それが十分に証明された技術であり、高純度の材料を生産する可能性を与えることである。金属の純度を向上させるための多数の冶金技術が存在する。これらは、真空処理を含むか、または含まない取鍋処理、ESR(エレクトロスラグ再溶融)、VIM/VARなどを含む。高炭素合金の脱酸素は、溶融合金を真空に曝露することによって行われ得る。そして、炭素は、酸素と反応し、真空ポンプにより除去され得る一酸化炭素ガスを形成する。
【0004】
概して、酸素が存在すると酸化不純物が生じ、その結果、材料の特性が損なわれるため、これらの材料における「高純度」とは、通常、「低酸素含有量」と同義である。
【0005】
一般の鋳塊鋳造技術の大きな欠点は、凝固時間が長く、その結果、粗い微細構造体および凝固パターンとなることである。これは、特に高炭素含有量の高合金化材料に顕著である。凝固時間が長いと、炭化物は、炭化物構造物を形成し、それによって材料の機械的特性が著しく低下する。また、凝固時間が長いと、概して、粗い微細構造体となり、それによっても、材料の特性が損なわれる。もう1つの欠点は、その後の、鋳塊の金属棒(典型的に、材料処理プラント中の最終生成物)への鍛造および成形の必要性である。鍛造および圧延は、エネルギー損失という結果を伴う、多数の材料鋳塊の加熱および成形のステップを必要とする複雑なプロセスである。高合金化材料は、典型的に、成形すること非常に難しいため、非常に高い温度および大きな荷重を必要とし、その結果、鋳塊にクラックが生じ、処理コストが高くなり得る。換言すると、この処理を用いて作製された合金を鍛造および/または圧延することが可能であるに違いないという事実は、高合金化の可能性を制限する。
【0006】
粗い微細構造体により引き起こされる問題を克服するために、粉末冶金(PM)を使用することが可能である。最初に、所望の溶融合金を金属粉末に粒状化(「アトマイズ」)することによって、超微細構造は、噴霧ガスまたは他の粒状化技術のいずれかによって引き起こされる急速な凝固により、粉末で達成され得る。ガス噴霧による金属粉末は、典型的に球状で形成され、「衛星」のように、小型の粉末粒子がより大きな粉末粒子の表面上に付着している。この金属粉末は、カプセル、円筒形または略網状であり得る金属シート容器内に載置され得る。その後、容器は、一般的かつ周知の方法であるHIP(熱間等方圧加圧法)により、密閉され、小型化され得る。HIPの結果は、微細構造化された金属棒(または略網状の構成要素)である。欠点の1つは、アトマイズプロセスにおいて、酸素がすべての粉末粒子に堆積するため、すべての粉末粒子上の表面酸素が、凝固した大きな鋳塊と比較して、より高い酸素含有量を与えるということである。略網状の構成要素のPM-HIPの場合、カプセルの必要性は、構成要素がどれほど複雑となり得るかを制限する。さらに、複雑なカプセルのすべての部分において、同じ粉末粒度を得ることは困難であるということが、すべての部分における均一の品質の必要性を制限している。
【0007】
高炭素含有量の高合金化材料の場合、PM-HIPプロセスは、典型的に、非常に大きい、かつ均一な容器で行われる。しかし、その結果生じる材料は、要求される大きさの金属棒となるために、依然として、加熱、鍛造および圧延で加工される必要がある。典型的に、高合金化材料の場合、これは困難であり、たとえ可能であっても、結果として生じる産出高が低いことがある。ここでも、材料を鍛造および/または圧延することを可能とする必要性が、高合金化の可能性を制限する。
【0008】
PM-HIP材料から構成要素を成形するには、機械加工(旋盤加工、ドリル加工、フライス加工など)、つまり、多数の追加の処理ステップを必要とする。高合金化材料の別の問題は、それらはまた、機械加工することが困難かつ高価であり、大量の高価な高合金化材料が、機械加工中に浪費されることである。合金の耐摩耗性および硬度が高いほど、機械加工がより困難になる。
【0009】
鋳造物が固化したときに、構成要素の最終形状がほぼ決まるように、溶融材料を鋳型に直接流し込むことも可能である。鋳造の欠点は、長い凝固時間による粗い微細構造体、および、凝固パターンの形成、ならびに、別々の部分で凝固時間が異なることによる構成要素内の異方性である。さらに、鋳造方法が、構成要素がどれほど複雑となり得るかの限度を定める鋳型を必要とする。
【0010】
別の製造方法では、金属粉末を使用し、適切な種類のバインダと組合せ、粉末・バインダ混合物を押圧して成形し、そして焼結する。焼結は、通常、2つの方法、バインダを除去して金属粉末の拡散結合を得るために加熱するか、または、部分的溶融し、それによって結合して金属(液相焼結)となる金属粉末を得るために加熱する、のうちの1つにより行われる。焼結方法の大きな利点は、高い溶融点で材料を結合する(典型的に超硬合金炭化物または他の純セラミック材料)可能性である。1つの種類の焼結方法は、金属粉末射出成型法(MIM)であり、金属粉末およびバインダを含む要求原料が、プラスチック射出成型に類似の「グリーン体(green body)」に押圧され、次に、グリーン体が別個に、(通常は細孔を含む)最終構成要素へと焼結される。
【0011】
大きな欠点は、バインダの除去および拡散中の構成要素の寸法の変化、圧縮方法(押圧具)の必要性、バインダの必要性およびバインダの除去(純度の問題)、生成物の厚さまたは大きさの制限および多孔性の問題である。
【0012】
高炭素含有量の高合金化材料中の粗い微細構造体に関する難点を克服するための、および、これらの機械加工が困難な材料の機械加工の必要性を回避するための、別の方法は、付加的な製造(AM、3Dプリンティングまたは自由成形)方法を使用することである。AMでは、高く合金化された金属粉末は、AM処理機内で直接、溶融および凝固される。様々な多数のAM技術が存在するが、金属の場合は、最も一般的な技術は、金属粉末積層溶融法である。この技術では、レーザまたは電子ビームにより金属粉末を、最終生成物を複数の層にスライスしたCAD図面に基づくパターンで、1層ずつ広げ、溶融する。その利点は、微細構造、複雑な形状および高い材料歩留りである。しかし、材料が1層ずつ溶融され、実行の成功を達成するためには、特別な処置が施されなければならない付加的な製造処理に用いられる場合、高合金化された高炭素材料は、クラックを生じさせやすい。
【0013】
先行技術材料
エラスティール(Erasteel)による特許文献1は、炭素、クロム、モリブデン、タングステン、バナジウムをコバルト含む鉄系合金を開示している。この特許に含まれるErasteelによる合金は、ASP2080などのASPとして知られている。1180℃で硬化させた後の合金の硬度は、最大で71HRC(合金16(alloy 16))であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、極めて高硬度の鉄系合金の生成物を提供することである。本発明は、3D技術を用いることによって、複雑な幾何学的形状の生成物を提供する先行技術の欠点を克服する。本発明は、新規の3Dプリント方法を提供し、新しい3Dプリント生成物は、Cr、W、Co、V、およびCを有する鉄系合金を含む。その生成物は、マトリクス中に均一に分布する多量の炭化物を含む。どのような割れ目も、最大の炭化物の部位に生じる可能性が最も高いため、材料の機械的特性は、平均炭化物粒径よりも、最大炭化物粒子径に依存する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
様々な炭化物の形成、(特にWの)マトリクス固溶体、溶融および凝固範囲の複雑なバランスは、取り扱いが非常に難しいが、本特許発明は、要素の独特な組合せを適合させることによって、これを解決する。
【0017】
第1の態様では、本発明は、金属マトリクスおよび金属マトリクスに埋設される炭化物の粒子を含む多相合金から形成される3Dプリント生成物に関し、合金は、
炭素:2.47重量%以上かつ2.55重量%以下、
タングステン:10重量%以上かつ12重量%以下、
クロム:3.5重量%以上かつ4.5重量%以下、
コバルト:14重量%以上かつ18重量%以下、
モリブデン:4重量%以上かつ6重量%以下、
バナジウム:5重量%以上かつ8重量%以下、
不可避量の不純物
を含み、
残りは鉄であり、
最大炭化物粒子径は10μm未満である。
【0018】
第2の態様では、本発明は、金属マトリクスおよび金属マトリクスに埋設される炭化物の粒子を含む多相合金で形成される3Dプリント生成物に関し、合金は、
炭素:2.47重量%以上かつ2.55重量%以下、
タングステン:10重量%以上かつ12重量%以下、
クロム:3.5重量%以上かつ4.5重量%以下、
コバルト:14重量%以上かつ18重量%以下、
モリブデン:4重量%以上かつ6重量%以下、
バナジウム:5重量%以上かつ8重量%以下、
不可避量の不純物
を含み、
残りは鉄であり、
炭化物の総量は、20~30体積%である。
【0019】
第3の態様では、本発明は、金属マトリクスおよび金属マトリクスに埋設される炭化物の粒子を含む多相合金で形成される3Dプリント生成物に関し、
合金は、
炭素:2.47重量%以上かつ2.55重量%以下、
タングステン:10重量%以上かつ12重量%以下、
クロム:3.5重量%以上かつ4.5重量%以下、
コバルト:14重量%以上かつ18重量%以下、
モリブデン:4重量%以上かつ6重量%以下、
バナジウム:5重量%以上かつ8重量%以下、
不可避量の不純物
を含み、残りは鉄であり、生成物は、少なくとも1050HV2kgの硬度を有する。
【0020】
第4の態様では、本発明は、チャンバを有する自由成形装置内で3Dプリント生成物を調製する方法に関し、方法は、
a.チャンバ内の低酸素雰囲気内で、鉄系合金の粉末の層をベースプレート上に形成するステップであって、合金は、
炭素:2.47重量%以上かつ2.55重量%以下、
タングステン:10重量%以上かつ12重量%以下、
クロム:3.5重量%以上かつ4.5重量%以下、
コバルト:14重量%以上かつ18重量%以下、
モリブデン:4重量%以上かつ6重量%以下、
バナジウム:5重量%以上かつ8重量%以下、
不可避量の不純物
を含み、
残りは鉄であり、
粉末は、略球状の粒子および/または略球状の粒子を含むステップと、
b.溶融プールを形成するために、十分な期間、粉末をエネルギービームに曝露することによって、粉末を局所的に溶融するステップと、
c.溶融プール中の溶融された粉末を、多相合金に凝固させるステップと、
d.ステップa~dを繰返すことで、前層の上に粉末の追加の層を任意で調製するステップであって、ステップbは、粉末を前層の上に設置することを含み、組み立てられる生成物は、方法の間、600℃より高い温度を維持されるステップと、
e.得られた生成物を硬化する任意のステップと、
を含む。
【0021】
本明細書において説明するすべての実施形態は、特に明記しない限り、本発明のすべての態様に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】方法H1による加熱処理後の、本発明による材料サンプルの微細構造体を開示するSEMである。極めて大きい炭化物含有量と極めて微細な最大炭化物粒子径との組合せ。微細構造体において、目視可能な最大炭化物は、2.6μmである。平均炭化物粒子径は、0.92μmであり、総炭化物含有量は、25体積%にもなる。
【
図2】炭化物の境界線を目立たせた
図1の微細構造体である。
【
図5】3Dプリント生成物を調製するか、または本発明の方法を実行するために使用され得る装置のチャンバの実施形態の概略断面図である。
【
図6】3Dプリント生成物を調製するか、または本発明の方法を実行するために使用され得る装置のチャンバの別の実施形態の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本願では、三次元プリントまたは3Dプリントまたは自由成形または付加製造という用語は、同じものを示し、同じ意味で使用される。
【0024】
本願では、「溶融点」または「溶融温度」という用語は、同じものを示し、同じ意味で使用され、液相点を示す。
【0025】
3Dプリント生成物
本発明の目的は、高硬度を有し、良好な高温特性を有する鉄系合金で形成されるか、または、含む、三次元(3D)プリント生成物を提供することである。合金は、金属マトリクスと、金属マトリクスに埋設される炭化物の粒とを含む。合金は、鉄(残部Fe)を主成分とし、クロム、タングステン、コバルト、バナジウム、モリブデンおよび炭素をさらに含む。好ましくは、合金は、極めて低い酸素含有量、好ましくは100重量ppm以下、より好ましくは50重量ppm未満の酸素含有量を有する。本発明による生成物の付加製造のために使用される合金粉は、主に球状粒子の形態であり、粉の平均粒子径は、300μm以下である。好ましくは、粉の平均粒子径は、20μm以上かつ280μm以下であるが、50μm以上または100μm以上である。一実施形態では、粒子は、50~150μmの範囲の大きさを有する。本発明による合金粉は、ガス噴霧により調製されてもよい。
【0026】
合金中のコバルト(Co)含有量は、14重量%以上かつ18重量%以下である。一実施形態では、含有量は、15重量%以上または15.5重量%以上または16重量%以上であり、好ましくは17重量%以下または16.5重量%以下である。一実施形態では、コバルト含有量は、約16重量%である。コバルトは、合金における耐熱性(高温硬度)の向上のために使用される。
【0027】
本合金中のクロム(Cr)含有量は、3.5重量%以上かつ4.5重量%以下である。一実施形態では、クロム含有量は、約5重量%、好ましくは5.0重量%である。
【0028】
タングステン(W)は、合金中に、10重量%以上かつ12重量%以下の含有量で存在する。一実施形態では、タングステン含有量は、約11重量%である。タングステンは、この合金中に、典型的に、それぞれ2800HVおよび1600HVの硬度を有するWCまたはW6Cの形態の炭化物を形成する。タングステンは、マトリクス中にも存在し、合金の耐熱性を向上させる。
【0029】
炭素(C)は、合金中に存在するタングステン、クロム、バナジウム、およびモリブデンと炭化物を形成し、これらの炭化物は、3Dプリント生成物に機械的強度、硬度、および耐摩耗性を提供する。炭素は、マルテンサイトマトリクス構造中にも存在する。一実施形態では、本発明の合金の炭素含有量は、約2.5重量%、好ましくは2.50重量%である。
【0030】
モリブデン(Mo)は、タングステンの代替となり得る金属であり、タングステンと類似の方法で炭化物を形成する。本合金中のMoの含有量は、4重量%および6重量%、好ましくは4.5重量%以上かつ5.5重量%以下であってもよい。一実施形態では、モリブデンの含有量は、約5.0重量%である。
【0031】
バナジウム(V)は、主に、本合金中に、非常に高硬度(約2800HV)を有するVC炭化物を形成する。バナジウムの量は、5.0重量%以上かつ8.0重量%以下、たとえば6.0重量%~7.0重量%である。一実施形態では、Vの量は、約6.3重量%である。
【0032】
不可避不純物以外の、合金の残りは、鉄、たとえばFe残部である。残部となる鉄の量は、他の構成要素の量に依存する。典型的に、鉄の量は、50~60重量%、好ましくは52~58重量%である。
【0033】
3Dプリント生成物中の酸素含有量は、可能な限り低くするべきである。本発明では、酸素含有量は、好ましくは30ppm以下または20ppm以下である。
【0034】
合金は、不可避の量の、他の要素の不純物または微量の不純物をさらに含んでもよい。これらの要素は、限定されないが、ニオブ、ニッケル、マンガン、ケイ素、ホウ素、タンタル、またはそれらの組合せであってもよい。前述の他の要素または不純物の総量は、好ましくは1重量%未満、または0.5重量%未満、または0.05重量%未満である。
【0035】
本発明の1つの利点は、有機バインダまたは接着剤の使用が必要とされないことであり、それによって、3Dプリント生成物は、通常、95重量%以上である、鉄、バナジウム、モリブデン、炭素、タングステン、クロムおよびコバルトの合計含有量を含む。本発明の一実施形態では、鉄、バナジウム、モリブデン、炭素、タングステン、クロムおよびコバルトの合計含有量は、97重量%以上である。好ましくは、鉄、バナジウム、モリブデン、炭素、タングステン、クロムおよびコバルトの合計含有量は、98重量%以上である。より好ましくは、鉄、バナジウム、モリブデン、炭素、タングステン、クロムおよびコバルトの合計含有量は、99重量%以上である。より好ましくは、鉄、バナジウム、モリブデン、炭素、タングステン、クロムおよびコバルトの合計含有量は、99.9重量%以上である。本発明の一実施形態では、3Dプリント生成物中の有機化合物の量は、0.1重量%以下である。好ましくは、3Dプリント生成物中の有機化合物の量は、0.05重量%以下である。本発明の一実施形態では、生成物は、いかなる有機化合物も実質的に含まない。生成物中の炭素は、主にタングステン炭化物およびクロム炭化物などの炭化物の形態であるが、元素状炭素および元素状タングステンも、マトリクス中に存在し得る。
【0036】
多相合金は、主に鉄のマトリクスを含むが、コバルト、クロム、タングステン、モリブデンおよび炭素も含む。マトリクス中に、クロム、バナジウム、モリブデンおよびタングステン、CrC型、VCおよびWCまたはW/Mo
6Cの炭化物が存在する。本発明の炭化物は、主にW/Mo
6CおよびVCであり、前述の炭化物の総量は、20~30体積%、好ましくは22~26体積%である。3Dプリント生成物の炭化物は、均一に分布して(良好に分散して)おり、粒度分布は、
図1に見られるように狭い。3Dプリント硬化生成物の最大炭化物粒子径は、10μm以下である。一実施形態では、最大炭化物粒子径は、5μm以下、好ましくは3μm以下である。平均炭化物粒子径は、通常、5μm以下、または3μm以下または1μm以下である。一実施形態では、最大炭化物粒子径は、3μm以下であり、平均炭化物粒子径は、1μm以下である。
【0037】
炭化物を含む金属化合物は、炭化物が材料をより脆くするクラスタ、または樹枝状もしくは網状構造体を形成するという被害を受けることがある。典型的には、これらの種類の、特に高クロムおよび高炭素を有する合金では、クロムは、炭化物(たとえばCr7C3およびCr23C6であるが、他の化学量論型もあり得る)を形成する。これらの炭化物は、典型的に、凝固段階中に急速に成長し、その結果、100~1000μmの大きさを有する長く大きい棒状体(stringer)を生じる。これらの大きな炭化物は、材料中のマクロ破壊靭性および耐疲労性を減少させる。したがって、本発明の利点の1つは、3D生成物が、先行技術にみられるものよりも概して小さく、マトリクス中に良好に分散している炭化物の粒または粒子を含むことである。これは、本発明による方法の結果である。
【0038】
本発明の1つの利点は、3Dプリント生成物の機械的特性の向上の達成である。硬化生成物の硬度(1180℃でオーステナイト化した後に、3度、560℃で1時間、焼戻し、その後に空冷し、温度段階と温度段階の間の温度は25℃未満であった)は、少なくとも1050HV2kg、たとえば少なくとも1075HV2kg、または少なくとも1100HV2kg、または少なくとも1125HV2kgであり得る。いくつかの実施形態では、硬度は、1075~1175HV2kgまたは1100~1150HV2kgである。硬度は、2kgのビッカース押込みを使用して判定される。
【0039】
理論に拘束されることなく、本発明の機械的特性は、生成物の微細構造の結果であると考えられる。3Dプリント生成物は、炭化物粒子の樹枝状構造体を実質的に含まない。炭化物粒子は、サイズが小さく、図中にみられるように、マトリクス内で均一に分布している。3Dプリント硬化生成物の合金は、通常、15μm以上の大きさの炭化物をまったく含まない、またはわずかのみ含む。代わりに、炭化物の平均寸法は、10μm以下、または5μm以下である。
【0040】
本発明は、機械的特性が向上した生成物および構成要素の調製を容易にするだけでなく、高度または複雑な三次元形状および形態を有する生成物を調製することも可能である。生成物は、空洞(cavities)、溝(channels)または孔(holes)を備えてもよく、生成物は、湾曲部分または螺旋形状を有してもよい。これらの形状または形態は、合金の除去も、任意の後処理もなく調製される。空洞、孔または溝は、湾曲してもよい、つまり、それらの表面は、湾曲上、らせん状、渦巻き状であってもよい。いくつかの実施形態では、生成物は、空洞を備え、空洞は密閉されるか、または開口部を有し、その開口部の径または幅は、その下に位置する空洞の径または幅よりも小さい。生成物は、ミリングカッター(milling cutter)、ピニオンカッター(milling cutter)、パワースカイビングカッター(power skiving cutter)、ドリル(drill)、フライスカッター(milling cutter)などの切削工具(cutting tool)、または押出ヘッド(extrusion head)、伸線ダイス(wire drawing die)、熱間圧延用ロール(hot rolling roll)などの成形工具(forming tool)、または、ポンプ(pump)またはバルブ構成要素(valve component)、研磨または軸受リング(gliding or roll bearing rings)などの摩耗構成要素(wear component)であってもよい。本発明による生成物は、高温での耐摩耗性など、良好な高温作業特性をも有してもよい。
【0041】
方法
本発明による生成物は、合金粉の(自由成形、付加製造としても知られる)三次元プリントにより調製される。その方法は、粉末が配置されるチャンバを有する自由成形装置(3Dプリンタ)を使用する。自由成形の方法は、以下で定義するように、チャンバ内の低酸素雰囲気にて合金の粉末の層を形成することを含む。1つの適切な自由成形装置は、アーカム(Arcam)社製の電子線装置(EBM)、たとえばARCAMA2Xである。合金は、上記の量で、炭素、タングステン、モリブデン、クロム、バナジウムおよびコバルトを含み、合金の選択は、最終生成物の所望の特性に依存する。反応装置内の酸素および他の不純物の含有量は、10ppm以下(ガス純度グレード5に対応する)、または1ppm以下(ガス純度グレード6に対応する)のように、可能な限り低くするべきであり、反応装置内の環境は、アルゴンまたはヘリウムなどの不活性ガスを含んでもよい。反応装置内が真空であってもよく、反応装置内の圧力は、1x10-4mBar(0.01Pa)以下、または1×10-3mBar(0.1Pa)以下であってもよい。一実施形態では、反応装置内の初期圧力は、約1~10×10-5mBar(1~10×10-3Pa)であり、ヘリウムまたはアルゴンなどの不活性ガスが、1~5×10-3mBar(0.1~0.5Pa)にまで圧力を高めるために追加される。その後、粉末は、溶融するのに十分な期間、エネルギービームに曝露することで局所的に溶融される。エネルギービームは、レーザービームまたは電子ビームであってもよい。ビームは、あるパターンで粉末に掃引される。掃引の持続時間は、合金、および粉末中の粒子の大きさに依存して、数秒から数分の範囲であってもよい。そして、溶融された粉末は、少なくとも部分的に、多相金属合金に凝固することが可能となる。その後に、別の粉末の層が、凝固した合金の上部に適用されてもよい。
【0042】
生成物のクラックの発生を回避するため、および生成物の特性を向上するために、プリント中または3Dプリント生成物の形成中、生成物は、高温を維持される。クラックの発生は、おそらくは、内部応力の増加および低温における材料の脆性の増加によるものである。内部応力の上昇は、相変態時の体積の変化、また通常の熱膨張により引き起こされる。クラックの発生を回避するための高温は、300℃以上、または400℃以上、または500℃以上、または550℃以上、または600℃以上、または700℃以上、または800℃以上、または900℃以上であってもよいが、通常は1100℃以下である。たとえば、生成物を形成するベースプレートまたは作業台は、加熱装置を備えてもよい。したがって、3Dプリント生成物は、生成物の形成中に、その中に温度勾配を有してもよく、形成プロセス中の、形成される生成物の温度が、好ましくは600℃以上、または700℃以上、または750℃以上であるが、通常は900℃以下または850℃以下、または800℃以下であるように、加熱が制御されるべきである。一実施形態では、温度は、720℃~790℃、たとえば780℃である。温度は、もちろん、溶融した粉末が少なくとも部分的に凝固するのに十分な低温であるべきである。本発明は、方法をより安価にするだけでなく、微細構造体に好影響を及ぼし得る低温を可能にする。
【0043】
次いで、3Dプリント生成物は、生成物を1000~1200℃、典型的には1180℃にまで加熱することによって硬化され、その後に、25~50℃(800~1000℃間において、典型的な最小冷却速度7℃/秒)に冷却されてもよい。次いで、生成物は、十分な期間の間、生成物を前述の温度で維持することによって、500~600℃、たとえば520℃~560℃で焼戻される。焼戻は、好ましくは、毎回1時間に3度行われ、それぞれの焼戻の間に常温に冷却される。その際に、材料の得られた硬度は、上述されるように、少なくとも1050HV2kgとなり得る。
【0044】
図3は、1つの層を調製するための本発明による方法の一実施形態のステップのフローチャートを示す。金属多相材料を製造する方法は、ステップ200で開始する。ステップ210において、初期金属多相材料の粉末材料が提供される。次いで、形成プラットフォームが、走査ビームによるか、またはべつの外部加熱方法ステップ215によって加熱される。初期金属多相材料は、炭化物が埋設される金属マトリクスを含む。処理開始前に、酸素が雰囲気から除去され、形成支持部が予熱される215。ステップ220において、初期金属多相材料の粉末が、予め設定された低酸素雰囲気内に配置される。初期金属多相材料の粉末は、好ましくは、最初に、2つのステップ225において、温度を維持するために予熱され、ステップ230において、第1部分中で局所的に溶融される。ステップ240において、最終金属多相材料が凝固される。方法はステップ299において終了する。
【0045】
図4は、本発明による3D生成物を生産するための方法の別の実施形態のステップのフローチャートを示す。金属多相材料からなる物体の製造の方法は、ステップ200で開始する。好ましくは、金属粉末層の持続的な予熱は、2つのステップ225、予熱1および予熱2で行われ、予熱1は、エネルギービーム(たとえば30~40mAのビームエネルギーで3~10度繰返し)を用いて、形成プレートまたはベースプレート領域全体で行われ、予熱2は、それに続いて対象とされる溶融帯領域およびその近傍で行われる(たとえば35~45mAのビームエネルギーで3~10度繰返し)。予熱ステップの目的は、形成体の高温を維持し、その後に、下地層に新たなに加えられる粉末を焼結することである。この方法は、
図3の金属多相材料の製造の方法のすべてのステップ210、215、220、225、230、および240を含む。この実施形態では、ステップ220は、初期金属多相材料の薄層が上記の低酸素環境内に提供されるステップ221を含む。好ましくは、このプロセスは、完全な物体が達成され、方法がステップ299で終了するまで、折れ線矢印260で示すステップ220から繰返される。
【0046】
レーザと比較してEBMを使用する利点は、より厚い粉末層が調製され得ること、およびより大きな粒子の粉末が使用され得ることである。
【0047】
炭化物の成長は、溶融材料の凝固中に起こり、炭化物の大きさを制限するために、その成長は制限されるべきである。凝固時間は、主に熱拡散速度、凝固の熱および熱拡散距離の影響を受ける。従来の鋳造技術の凝固速度は、任意の適切な技術、たとえばかなり冷却された耐火性金型内での鋳造、または詳細の鋳造を用いて、溶融した材料を冷却することによって向上され得る。また、既存の先行技術のクラッド技術(cladding technique)では、冷却速度は高いが、炭化物の成長を防止するか、または先行技術の市場調査部分が示すような、完全に緻密な材料を得るほど高くはない。
【0048】
しかし、この合金およびこの方法は、3Dプリント中に、溶融プール(溶融した合金のプール)を生成し、溶融プールは、直径2mm以下、通常は1mm以下、または0.5mm以下、または0.25mm以下の直径を有する。溶融プールが小さいと、凝固時間が短いため、炭化物が小さく、本発明では、溶融プールの大きさは何倍も小さく、従来の技術よりもはるかに急速に冷却される。本発明はまた、大型の構成要素の生産の可能性を生む。たとえば、本発明の方法は、1kg以上の重量を有する構成要素または生成物の調製を可能にする。
【0049】
得られる3Dプリント多相金属合金の表面は、粗面であり、3Dプリント生成物は、その表面にいくつかの粉末状の残留物を有してもよい。したがって、本方法は、加熱または表面加工を伴う後処理をさらに含んでもよい。加熱処理は、生成物の機械的特性をさらに向上させ得る。本方法は、研削、放電加工(EDM)、研磨または他の任意の適切な方法による、得られる生成物の表面の仕上げを含むステップをさらに含んでもよい。そのような表面処理は、たとえばより良い仕上がり、鋭利なエッジ、および滑らかな表面を提供するために用いられてもよい。多相金属合金の3Dプリント生成物は、上記のように熱処理され、その後にEDMなど、表面処理されてもよい。
【0050】
図5は、この新規な材料における構成要素または目的物の生産に適した機械配置99の構成の実施形態を説明する。機械配置99は、垂直方向に移動可能であり、容器2の内部に設置される、調節可能な作業台1を備える。作業台1の垂直位置は、最小高さと最大高さの間で精密に調節可能であり、典型的に、ネジ3およびねじナット4、または他のアクチュエータ手段により調節される。粉末を含む容器18は、粉末をこの形成体の上部に加えるように配置される。粉末レーキ5は、矢印14で示すように、作業台1の上をシュート6内で前後に移動可能であるように配置される。粉末を含む容器18は、初期金属多相材料の粉末を含む。粉末レーキ5の動作中、粉末レーキ5は、金属粉末を、作業台1上に存在する任意の構造体の上部の、金属粉末層7中に分配する。
【0051】
エネルギービーム源9、たとえばレーザまたは電子銃は、高エネルギー密度のエネルギービーム8を生成する。エネルギービーム8は、たとえば、レーザービームもしくは電子ビーム、またはそれらの組合せであり得る。ビーム制御装置10は、エネルギービーム8を粉末層7の上部の特定の場所15に集束し、位置決めする。制御コンピュータ(
図5中には図示されず)は、作業台1を制御し、粉末レーキ5の動作および粉末レーキ5による粉末の分配を制御し、エネルギービーム8、およびビーム制御装置10を制御する。それによって、制御コンピュータは、矢印16で示すように、場所15を金属粉末層7の表面の上を移動させ得る。それによって、集束された初期金属多相材料の溶融およびそれに続く凝固が、粉末層7の初期金属多相材料の追加の部分に対して反復される。同時に、エネルギービーム8のエネルギー密度および集束は、要求に応じて変化され得る。エネルギービーム8は、場所15にて金属粉末7の局所的溶融を引き起こすように意図され、エネルギービーム8が表面を移動させられると、溶融され、凝固された金属多相材料で形成される固形成分11(または複数の構成要素)が、連続的に形成される。制御コンピュータは、作製中の(1つまたは複数の)構成要素11の寸法および幾何学的形状に関する情報を有する。好ましくは、これは、スライス状の形状であり、その各々が、粉末層の厚さに対応する厚さを有し、各粉末層に対し、コンピュータは、形成される実際のスライスに関連する情報に基づいて、エネルギービームの加熱/溶融を制御する。製造される目的物に統合されるべきである現在の金属粉末7の表面のすべての部分が溶融および凝固され、それによって、生産された構成要素11の共通体を形成するように結合されると、形成プラットフォームが下降され、粉末を含む容器18が、新しい初期金属多相材料を放出し、粉末レーキ5が再度、作業台1の上を移動させられ、金属粉末の新しい層を分配する。局所的溶融および凝固が、共通体の上に設置される初期金属多相材料の新しい層の上で繰返される。この局所的溶融および凝固がさらに繰返されることで、三次元目的物または構成要素11が形成される。
【0052】
代替の実施形態では、エネルギービームの動作は、機械的手段により、好ましくは制御コンピュータにより制御される機械的手段により達成され得る。
【0053】
上記の通り、構成要素の温度が重要である。製造の主要時間の間、構成要素の各部分は、溶融体から遠ざかる熱の伝導を高め、それによって凝固速度を上昇させるために十分な低温に維持されるべきである。しかし、溶融した材料と三次元共通体との良好な接着を得るために、温度は低すぎないようにすべきである。作製中の本体の温度は、上記のような高温、たとえば300℃より高い温度を維持する必要がある。そのような最適温度のパラメータは、多数の要因に依存するが、本発明では、クラックを回避するために、温度は、高温を維持されなければならない。粉末の予熱のために、少なくとも表面において、高い基板温度は、上記のような実際の局所的溶融が行われる前に、エネルギービームを粉末層の表面に亘って走査することにより得られ得る。このステップは、作業台の加熱と組合されてもよい。低い基板温度は、作業台を冷却することによって、類似の方法で達成され得る。それによって、最終金属多相材料は、少なくとも、局所的溶融ステップに続く凝固ステップ中に、その場で冷却され得る。
【0054】
図6は、本発明の製造に適した機械構成99の別の実施形態を示す。この実施形態では、予め製造された詳細部11Aが作業台1上に設置され得る。予め製造された詳細部11Aは、別のプロセスで作製された任意の種類のベース材料とすることができ、それは、別の成分を有するベース材料であり得るか、またはたとえば再形成される摩耗具であり得る。この実施形態では、予め製造された詳細品11Aは、3Dプリンとプロセスの開始の前に、作業台上に位置決めされ、シュートの内部は、新たな材料が追加される第1の場所の高さまで、材料、典型的には金属粉末で充填される。次に、新たな材料11Bが、既に存在する基板の上部に追加される。すなわち、粉末は、予め製造された固形支持体の上部に設置され、製造される共通体は、この支持体に加えられる。この支持体は、たとえば、修理される物体であり得る。そのような実施形態では、制御コンピュータには、予め製造された詳細部品11Aの位置および材料パラメータの詳細が提供されてもよい。
【0055】
図5および
図6の実施形態はまた、負表面(negative surface)を有する構成要素を形成するために、同じ技術を利用し得る。負表面は、面法線が、構成要素11内、すなわち、典型的には、未溶融の金属粉末内に形成されるものと同じ材料を含まない表面下の体積内に下方向に向けられることを特徴とする。作業台1は、上部に製造中の構成要素11を有して示されている。この構成要素11は、負表面21を有する。そのような負表面を作成する方法は、1回の反復でエネルギービームがその上を移動する領域が、それより前の反復から対応する領域によって含まれない水平位置を含む手順を含む。この方法では、任意の形状の外表面が作成され得る。負表面を作成することを可能とすることで、面法線の方向が180度より大きく異なる形作られる表面を有する詳細部を製造し得る。
【0056】
したがって、孔および溝は、この技術により首尾よく形成され得る。この実施形態の構成要素11は、内部溝22を備える。溝は、粉末が湾曲した正表面23を形成するために溶融される領域を連続的に適合させることにより形成される。その後に、溝22は、湾曲した負表面24に覆われる。そのような溝は、有利には、たとえば、最終使用中に目的物内で冷却または加熱媒体を移送するために使用され得る。生成物または構成要素は、空洞または溝を有してもよく、空洞は、密閉されてもよく、密閉部の直径よりも小さい直径を有する開口部を有してもよい。湾曲した溝の角度は、15°を超えるか、または30°を超えるか、または45°を超えてもよい。
【0057】
新規材料を形成するために説明された技術を使用する場合、その技術が、同一実行中、同一チャンバ内で(同じ種類であるか、または異なる種類の)複数の構成要素の形成を可能にすることは明らかである。制御コンピュータに、どこに目的物を形成するかを決定するために必要な情報を提供することのみが必要であり、目的物は、単一の構成要素または個別の複数の構成要素のうちの1つの一部となり得ることは明らかである。
【0058】
図6に示される典型的な非制限の例では、クロスハッチングされた領域内での溶融ビーム電流は、機械により、実際の形成体における自動熱平衡を実現するために連続的に自動的に変化する。最大設定は、典型的に、25~30mA、たとえば28mAである。クロスハッチングされた領域では、焦点オフセットは、8~12mA、たとえば10mAに設定されてもよく、溶融速度は、形成体中の各場所の、(たとえば場所が縁部、負表面などに近いかどうかに依存し得る)様々な加熱の要求を満たすために、機械により連続的に変更される。
【実施例】
【0059】
実施例1
サンプルを、以下の成分(重量%)(Fe残部)を有する粉末によりプリントした。
3Dプリント合金を、780℃の形成プレート開始温度で、電子ビーム3Dプリンティング機、ArcamA2Xで調製した。粉末層の厚さは、100μmであり、真空チャンバの平均圧力は、標準のヘリウムの追加で、約0.003mBarであった。使用された粉末は、特定の組成を有し、粉末粒度は50~150μmであった。金属粉末層の連続的な予熱は、2つのステップ、予熱1および予熱2で行なわれ、予熱1は、形成プレート領域全体で、36mAのビームエネルギーで行い、6回繰返され、予熱2は、それに続いて対象とされる溶融領域とその近傍で、42mAのビームエネルギーで行い、6回繰返された。これらの設定は、全形成中で高温の形成温度をもたらす。
【0060】
熱処理
材料は、3つの異なるサイクルで熱処理された。
【0061】
H1:1180℃でオーステナイト化し、その後に560℃で1時間の焼戻しを3回行い、その後に空冷して真空炉内で硬化する。各焼戻段階間の温度は、25℃未満となるように制御された。
【0062】
H2:1180℃でオーステナイト化し、その後に520℃で1時間の焼戻しを3回行い、その後に空冷して、真空炉内で硬化する。各焼戻段階間の温度は、25℃未満となるように制御された。
【0063】
サンプル調製
材料分析が、異なる一群の3Dプリンティングから3つの異なる材料サンプルを異なる材料幾何学的形状(最小部分が、高さが10mm、Φ10mmの円筒であり、最大部分がΦ102mmで高さ275mmの歯車加工ホブ)に切り出し、標準の材料解析方法により、研削および研磨し、SiC P4000で最終研削することによって、硬化した材料断片に対して行われた。この段階では、同じ結果の断片から、複数箇所で硬度が測定された。
【0064】
サンプルは、炭化物体積測定を容易にするために、さらに処理された。この調製は、1μmのダイヤモンドで5分間、その後にストルアス(Struers)社製OP-S溶液(pH9.8で40μmSiO2)でさらに研磨され、炭化物構造分析を容易にするための周知の方法である。
【0065】
硬度測定
熱処理およびサンプル調製後に、硬度が測定された。硬度は、標準の研究所にて、サンプルごとに5つの別個の異なる場所で2kgの押し込み重量でビッカース圧子を用いて測定された。結果は、以下のとおりである。
【0066】
【0067】
微細構造体および炭化物体積測定
微細構造体が、画像に示すとおり、走査電子顕微鏡で分析された。材料の微細構造体は、驚くほど高い炭化物含有量、および、極めて小さい炭化物粒度の両方を示した。
図1の例を参照されたい。
【0068】
図1に見られる微細構造体を取り、炭化物の境界を目立たせることで、炭化物を計算した。結果は、
図2に見ることができる。
【0069】
占有面積を計算すると、
図2に見られる、目立たせたすべての炭化物を含め、総面積は、24.36%であり、平均炭化物粒子径は、0.92μmである。計算された断面積は、同一の炭化物体積を示すと示唆され得る。つまり、この新しい合金は、24.36%の炭化物を含む。もちろん、平均粒径は、特に、いくつかの計算された最大領域がいくつかの粒子からなる炭化物クラスタであることに依存する。
【0070】
酸素含有量は、18ppmであると判定された。
【0071】
典型的な極めて高合金化した従来のPM高速度鋼(PM-high speed steel material)、たとえばASP2060では、炭化物の総体積は、約19体積%(5%M6C型および14%MC型)である。
【0072】
実施例2
水平軸上で回転する垂直軸上で回転するサンプルに押圧する研削砥石を有する市販のディンプルグラインダ(Gatan)を使用して耐摩耗性を分析するための試験を行った。各実行前に、平均粒子径が2.5μmのダイヤモンドスラリーを摩耗領域に導入した。それがサンプルに接触すると、20gの一定の負荷を研削砥石に加えた。各試験は、合計で約31mの総摺動距離となる、歯車の500回転の持続時間を有した。統計目的のため、サンプルごとに3回、試験を繰返した。
【0073】
Ra~3μmの表面粗さに研削および研磨された約6×6mmの試験表面を有する、3つの材料の立方体を調製した。摩耗率は、白色光光学形状測定(white light optical profilometry)により、取り除かれた(摩耗した)材料の体積を測定することにより示される。
【0074】
市販の粉末高速度工具(PM-HSS)グレードの1つを新規の高硬度3Dプリント生成物と比較した。市販のPM-HSS合金は、2.48重量%のC、4.2重量%のCr、3.1重量%のMo、4.2重量%のW、8重量%のVおよび残部のFeである特定の組成のASP2053合金であった。このPM-HSS合金は、高レベルのバナジウム炭化物に基づき、その優れた耐摩耗性により知られている。
【0075】
研磨表面上に、1kgの負荷を使用して、平均硬度を3つのビッカース圧子により測定した。結果を以下の表に示す。
【0076】
【0077】
この試験は、アブレシブ摩耗(abrasive wear)の8%の減少を示し、新規な合金の非常に良好な耐摩耗性を示している。