(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-24
(45)【発行日】2023-02-01
(54)【発明の名称】多層マット及び多層マットの製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 5/02 20060101AFI20230125BHJP
B32B 7/12 20060101ALI20230125BHJP
D04H 1/4209 20120101ALI20230125BHJP
D04H 1/498 20120101ALI20230125BHJP
F01N 3/28 20060101ALI20230125BHJP
【FI】
B32B5/02 B
B32B7/12
D04H1/4209
D04H1/498
F01N3/28 311N
(21)【出願番号】P 2017252528
(22)【出願日】2017-12-27
【審査請求日】2020-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】前田 敏幸
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-324618(JP,A)
【文献】特開2017-125481(JP,A)
【文献】特開2008-201125(JP,A)
【文献】特表2006-520710(JP,A)
【文献】特開2008-080756(JP,A)
【文献】特開昭49-078138(JP,A)
【文献】国際公開第2017/141724(WO,A1)
【文献】特開2015-17344(JP,A)
【文献】特開2014-202188(JP,A)
【文献】特開2017-110564(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
D04H1/00-18/04
F01N3/00
3/02
3/04-3/38
9/00-11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機繊維からなるマットが複数枚積層された多層マットであって、
前記マットを構成する前記無機繊維にはオイル状バインダが付着されており、
前記マット間には、マット同士を接着する接着剤層が形成されており、
前記接着剤層は、無機接着剤からなり、
前記無機接着剤は、アルミナゾル及びシリカゾルからなる群から選択された少なくとも1種であり、
各マットが互いに対向する主面には、複数の孔が形成され、
前記接着剤層を構成する接着剤は、前記孔の開口部側から前記孔の内部を充填しており、
前記接着剤層は、前記マット間に位置する層状部分と、前記層状部分から両側のマットの前記孔の内部に向かって立ち上がった突起部分と、を有していることを特徴とする多層マット。
【請求項2】
互いに対向するマットに形成された複数の孔は、互いの位置がずれた状態で形成されている請求項1に記載の多層マット。
【請求項3】
前記孔を含む前記マットの主面に垂直な断面において、前記孔は湾曲した形状で形成されている請求項1又は2に記載の多層マット。
【請求項4】
前記接着剤は、前記マットの表面より0.1~5.0mmの深さまで浸透している請求項1~3のいずれか1項に記載の多層マット。
【請求項5】
前記孔の内部を充填する接着剤は、前記マットの最表面から0.1~5.0mmの深さまで孔を充填している請求項1~
4のいずれか1項に記載の多層マット。
【請求項6】
前記孔の前記マットの主面100cm
2当たりの数は、1000~2500個である請求項1~
5のいずれか1項に記載の多層マット。
【請求項7】
前記孔は、ニードルパンチング処理により形成されている請求項1~
6のいずれか1項に記載の多層マット。
【請求項8】
前記無機繊維は、アルミナ繊維、シリカ繊維、アルミナ-シリカ繊維、ムライト繊維、生体溶解性繊維及びガラス繊維からなる群から選択された少なくとも1種である請求項1~
7のいずれか1項に記載の多層マット。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか1項に記載の多層マットの製造方法であって、
主面に複数の孔が形成された複数枚のマットを構成する無機繊維にオイル状バインダを付着させるオイル状バインダ付着工程と、
前記無機繊維に前記オイル状バインダを付着させた複数枚のマットの前記孔を含む前記主面に接着剤を塗布し、乾燥させることにより、前記マットの主面及び前記孔の内部に接着剤層を形成する表面接着剤層形成工程と、
前記主面及び前記孔の内部に前記表面接着剤層を有する複数枚のマットを積層する際、積層により互いに対向することとなるマットの主面にさらに接着剤を塗布し、複数枚のマットを積層することにより、表面接着剤層同士を接着する層間接着剤層を形成する層間接着剤層形成工程とを含
み、
前記接着剤層は、無機接着剤からなり、
前記無機接着剤は、アルミナゾル及びシリカゾルからなる群から選択された少なくとも1種であることを特徴とする多層マットの製造方法。
【請求項10】
前記複数のマットを積層する際、互いに対向するマットに形成された孔は、互いの位置がずれた状態で配置されるように各マットを積層する請求項
9に記載の多層マットの製造方法。
【請求項11】
前記複数のマットの複数の孔は、ニードルパンチング処理により形成されている請求項
9又は10に記載の多層マットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層マット及び多層マットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン等の内燃機関から排出される排ガス中には、スス等のパティキュレートマター(以下、PMともいう)が含まれており、近年、このPMが環境や人体に害を及ぼすことが問題となっている。また、排ガス中には、COやHC、NOx等の有害なガス成分も含まれていることから、この有害なガス成分が環境や人体に及ぼす影響についても懸念されている。
【0003】
そこで、排ガス中のPMを捕集したり、有害なガス成分を浄化したりする排ガス浄化装置として、炭化ケイ素やコージェライト等の多孔質セラミックからなる排ガス処理体と、排ガス処理体を収容するケーシングと、排ガス処理体とケーシングとの間に配設される無機繊維集合体からなる保持シール材とから構成される排ガス浄化装置が種々提案されている。
【0004】
この保持シール材は、自動車の走行等により生じる振動や衝撃により、排ガス処理体がその外周を覆うケーシングと接触して破損するのを防止することや、排ガス処理体とケーシングとの間から排ガスが漏れることを防止すること等を主な目的として配設されている。そのため、保持シール材には、圧縮されることによる反発力で発生する面圧を高め、排ガス処理体を確実に保持する機能が求められている。
【0005】
このような保持シール材及び断熱、制振・防振、吸音材として、2層以上の材料を組み合わせた複数の積層マットからなる保持シール材が要求される場合がある。積層される層としては、膨張性マットと非膨張性マットの組み合わせ、膨張性の異なる複数のマットの組み合わせ等が挙げられる。
また、マットが防音材等として使用される場合にも、その防音性能を高めるために、材料や特性の異なる2種類のマットを組み合わせる場合が考えられる。
【0006】
特許文献1には、第1層と、第2層と、前記第1層の主要面と前記第2層の主要面とを共に結合させるために、その間に矜持されている接着剤とを含み、前記接着剤が約300nm未満の平均直径を有する無機コロイド粒子及び無機水溶性塩の少なくとも1つを含む多層実装マットが開示されている。
【0007】
特許文献1の明細書の段落番号[0130]に、「接着剤は、通常液体形態である。しかし、一部のマット層(例えば、有機結合剤を含まないニードルタックされた又は乾式載置されたマット層)に関して、接着剤はゲルの形態であるのが好ましい場合がある。ゲルは、例えば(1)水を除去し、(2)pHを変更し、(3)塩を添加し、又は(4)水混和性有機溶媒を添加することによって形成できる。ゲル化の程度は、粘度を最適化することによって制御でき、それによってマット層への接着剤の吸収を低減する。」と記載されているように、特許文献1では、マットを接着する接着剤として、マットへの接着剤の吸収を抑制するゲルの形態の無機バインダが使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に係る多層実装マットは、以下のような問題がある。
すなわち、上記ゲル状の接着剤は、マットの内部まで浸透しにくく、マット同士は、マット表面のみで接着されているため、上記多層実装マットを曲げたり、ある一定の間隔を有する隙間に押し込んだりする際に、層間で剥離やズレが発生し易く、保持シール材等に使用されるマットとしての機能を充分に発揮できないという問題があった。
【0010】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、マットを曲げたり、一定の間隔を有する隙間にマットを押し込んだ場合にも、層間でズレや剥離が発生しにくく、排ガス処理体の保持や防音材等において、マットが必要とされる機能を充分に発揮することができる多層マット及び該多層マットの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の多層マットは、無機繊維からなるマットが複数枚積層された多層マットであって、
上記マット間には、マット同士を接着する接着剤層が形成されており、
各マットが互いに対向する主面には、複数の孔が形成され、
上記接着剤層を構成する接着剤は、上記孔の内部を充填していることを特徴とする。
【0012】
本発明の多層マットにおいては、各マットが互いに対向する主面には、複数の孔が形成され、上記接着剤層を構成する接着剤が上記孔の内部を充填しているので、上記孔の内部の接着剤層がアンカー効果を発揮し、多層マットを曲げたり、一定の間隔を有する隙間、例えば、排気管とインシュレータカバー間等に多層マットを押し込んだ場合にも、層間でズレや剥離が発生しにくく、排ガス処理体の保持等において、マットとしての機能を充分に発揮することができる。
また、本発明の多層マットでは、接着剤層が各マット間に存在するので、伝熱や音の伝達が遮断され、断熱性、防音性、制振・防振性に優れる多層マットとなる。
【0013】
本発明の多層マットでは、互いに対向するマットに形成された複数の孔は、互いの位置がずれた状態で形成されていることが望ましい。
本発明の多層マットにおいて、互いに対向するマットに形成された複数の孔が、互いの位置がずれた状態で形成されていると、多層マットを曲げたり、一定の間隔を有する隙間に多層マットを押し込んだ場合にも、アンカー効果を発揮する場所の数が多くなるので、応力が集中しにくく、各層間でズレや剥離が発生しにくくなる。
【0014】
本発明の多層マットでは、上記孔を含む上記マットの主面に垂直な断面において、上記孔は湾曲した形状で形成されていることが望ましい。
本発明の多層マットの上記孔を含む上記マットの主面に垂直な断面において、上記孔が湾曲した形状で形成されていると、よりアンカー効果が大きくなり、各層間でズレや剥離がより発生しにくくなる。
【0015】
本発明の多層マットでは、上記接着剤は、上記マットの表面より0.1~5.0mmの深さまで浸透していることが望ましい。
本発明の多層マットにおいて、上記接着剤が上記マットの表面より0.1~5.0mmの深さまで浸透していると、上記接着剤層の上下に存在するマットを充分な接着力で接着させることができ、層間でのズレや剥離を防止することができる。
【0016】
本発明の多層マットにおいて、上記接着剤が上記マットの表面より0.1mm未満の深さまでしか浸透してないと、接着剤層がマットに充分に密着していないので、層間でのズレや剥離が発生し易くなる。一方、上記接着剤が上記マットの表面より5.0mmを超える深さまで浸透していると、可撓性を有する無機繊維からなるマットの部分の割合が小さくなり、柔軟性に欠ける多層マットとなる。
【0017】
本発明の多層マットでは、上記接着剤層は、無機接着剤及び/又は有機接着剤からなることが望ましい。
本発明の多層マットにおいて、上記接着剤が無機接着剤からなると、耐熱性を有するので、高温下においても、接着剤層が消失することはなく、高い接着強度を維持することができる。
また、上記接着剤が有機接着剤からなると、一定の間隔を有する隙間に多層マットを押しんだ後、加熱することにより接着剤層を消失させることができ、全体として柔軟性に富んだ多層マットとすることができる。
【0018】
本発明の多層マットでは、上記無機接着剤は、アルミナゾル及びシリカゾルからなる群から選択された少なくとも1種であることが望ましい。
本発明の多層マットにおいて、上記無機接着剤が、アルミナゾル及びシリカゾルからなる群から選択された少なくとも1種であると、複数の層を接着させることにより、強固で剥離やズレがより発生しにくい多層マットとすることができる。
【0019】
本発明の多層マットでは、上記孔の内部を充填する接着剤は、上記マットの最表面から0.1~5.0mmの深さまで孔を充填していることが望ましい。
本発明の多層マットにおいて、上記孔の内部を充填する接着剤が、上記マットの最表面から0.1~5.0mmの深さまで孔を充填していると、アンカー効果がより大きくなり、層間の剥離やズレがより発生しにくい多層マットとなる。
本明細書において、マットの最表面とは、接着剤層が形成されたマットを上記マットの主面に垂直な方向に切断し、観察した際、最も対抗するマットに近いマットの表面位置をいう。
【0020】
本発明の多層マットにおいて、上記孔の内部を充填する接着剤が、上記マットの最表面から0.1mm未満の深さであると、上記孔の内部を充填する接着剤の深さが浅すぎるため、アンカー効果が発揮されにくく、層間の剥離やズレが発生しやすくなる。一方、上記孔の内部を充填する接着剤がマットの最表面から5.0mmを超える深さであると、孔の内部を充填する接着剤層のアンカー効果は余り変化せず、接着剤の必要量が増加するので、不経済である。
【0021】
本発明の多層マットでは、上記孔の上記マットの主面100cm2当たりの数は、1000~2500個であることが望ましい。
本発明の多層マットにおいて、上記孔の上記マットの主面100cm2当たりの数が1000~2500個であると、孔の内部を充填する接着剤層のアンカー効果が充分に発揮され、より層間の剥離やズレが発生しにくくなる。
【0022】
本発明の多層マットにおいて、上記孔の上記マットの主面100cm2当たりの数が1000個未満であると、孔の内部を充填する接着剤層のアンカー効果が充分に発揮されにくくなり、層間の剥離やズレが発生し易くなる。一方、上記孔の上記マットの主面100cm2当たりの数が2500個を超えると、孔の内部を充填する接着剤層のアンカー効果は余り変わらず、孔を形成するための費用が高くなり、不経済となる。
【0023】
本発明の多層マットでは、上記孔は、ニードルパンチング処理により形成されていることが望ましい。
本発明の多層マットにおいて、上記孔がニードルパンチング処理により形成されていると、孔に接着剤層を充填することにより、層間の剥離やズレが発生しにくくなる外、ニードルパンチング処理によって無機繊維を交絡させることで、無機繊維同士の絡み合いを強固にし、引張強度の高い多層マットとすることができる。
【0024】
本発明の多層マットでは、上記無機繊維は、アルミナ繊維、シリカ繊維、アルミナ-シリカ繊維、ムライト繊維、生体溶解性繊維及びガラス繊維からなる群から選択された少なくとも1種であることが望ましい。
【0025】
本発明の多層マットにおいて、上記無機繊維が、アルミナ繊維、シリカ繊維、アルミナ-シリカ繊維、ムライト繊維、生体溶解性繊維及びガラス繊維からなる群から選択された少なくとも1種であると、耐熱性、耐風触性等の特性を充分に満足することができる。
【0026】
本発明の多層マットの製造方法は、上記多層マットの製造方法であって、主面に複数の孔が形成された複数枚の無機繊維からなるマットの上記孔を含む上記主面に接着剤を塗布し、乾燥させることにより、上記マットの主面及び上記孔の内部に接着剤層を形成する表面接着剤層形成工程と、上記主面及び上記孔の内部に上記表面接着剤層を有する複数枚のマットを積層する際、積層により互いに対向することとなるマットの主面にさらに接着剤を塗布し、複数枚のマットを積層することにより、表面接着剤層同士を接着する層間接着剤層を形成する層間接着剤層形成工程とを含むことを特徴とする。
【0027】
本発明の多層マットの製造方法によれば、一旦、主面に複数の孔が形成された複数枚の無機繊維からなるマットの上記孔を含む主面に接着剤を塗布し、表面接着剤層を形成した後、さらに上記層間接着剤層を形成して、表面接着剤層と層間接着剤層とからなる接着剤層を形成するので、接着剤がマットの内部に浸透しすぎて、マット自体が硬くなり、柔軟性を失うのを防止することができ、上下のマット層を充分な接着力で接着する接着剤層が形成された適度の柔軟性を有する多層マットとすることができる。
【0028】
本発明の多層マットの製造方法では、上記複数のマットを積層する際、互いに対向するマットに形成された孔は、互いの位置がずれた状態で配置されるように各マットを積層することが望ましい。
【0029】
本発明の多層マットの製造方法において、上記複数のマットを積層する際、互いに対向するマットに形成された孔が、互いの位置がずれた状態で配置されるように各マットを積層することにより、製造された多層マットは、アンカー効果を発揮する場所の数が多くなり、応力が集中しにくくなるので、各層間でズレや剥離が発生しにくくなる。
【0030】
本発明の多層マットの製造方法では、上記接着剤層は、無機接着剤及び/又は有機接着剤からなることが望ましい。
【0031】
本発明の多層マットの製造方法において、上記接着剤層が、上記接着剤が無機接着剤からなると、耐熱性を有するので、高温下においても、接着剤層が消失することはなく、高い接着強度を維持することができる。
また、上記接着剤が有機接着剤からなると、一定の間隔を有する隙間に多層マットを押し込んだ後、加熱することにより接着剤層を消失させることができ、全体として柔軟性に富んだ多層マットとすることができる。
【0032】
本発明の多層マットの製造方法では、上記無機接着剤は、アルミナゾル及びシリカゾルからなる群から選択された少なくとも1種であることが望ましい。
【0033】
本発明の多層マットの製造方法において、上記無機接着剤が、アルミナゾル及びシリカゾルからなる群から選択された少なくとも1種であると、複数の層を接着させることにより、強固で剥離やズレがより発生しにくい多層マットとすることができる。
【0034】
本発明の多層マットの製造方法では、上記複数のマットの複数の孔は、ニードルパンチング処理により形成されていることが望ましい。
【0035】
本発明の多層マットの製造方法において、上記複数のマットの複数の孔が、ニードルパンチング処理により形成されていると、孔に接着剤層を充填することにより、層間の剥離やズレが発生しにくくなる外、ニードルパンチング処理によって無機繊維を交絡させることで、無機繊維同士の絡み合いを強固にし、引張強度の高い多層マットとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】
図1は、本発明の多層マットの一例を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の多層マットの他の一例を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3(a)~(c)は、本発明の多層マットの製造方法の各工程を模式的に示す断面図である。
【
図4】
図4(a)~(d)は、実施例1に係る多層マットの製造方法を模式的に示す説明図である。
【
図5】
図5(a)~(c)は、実施例1に係る多層マットの剥離強度の測定方法を模式的に示す説明図である。
【
図6】
図6は、剥離強度の評価結果を示すグラフである。
【
図7】
図7は、実施例1に係る多層マットの剥離試験を行った後の2枚のマットを撮影した写真である。
【
図8】
図8は、比較例1に係る多層マットの剥離試験を行った後の2枚のマットを撮影した写真である。
【
図9】
図9は、比較例2に係る多層マットの剥離試験を行った後の2枚のマットを撮影した写真である。
【0037】
(発明の詳細な説明)
以下、本発明の多層マットについて具体的に説明する。しかしながら、本発明は、以下の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0038】
本発明の多層マットは、無機繊維からなるマットが複数枚積層された多層マットであって、
上記マット間には、マット同士を接着する接着剤層が形成されており、各マットが互いに対向する主面には、複数の孔が形成され、上記接着剤層を構成する接着剤は、上記孔の内部を充填していることを特徴とする。
【0039】
図1は、本発明の多層マットの一例を模式的に示す断面図である。
図1に示す本発明の多層マット10では、無機繊維からなる2枚の上層マット11及び下層マット12が積層されており、上層マット11と下層マット12との間には、接着剤層13が形成されている。
【0040】
また、上層マット11と下層マット12とが対向する2つの主面11a、12aには、複数の孔11b、12bが形成されており、接着剤層13を構成する接着剤は、孔11b、12bの内部を充填している。
【0041】
従って、孔の内部を充填する接着剤は、アンカー効果を発揮し、多層マット10を曲げたり、一定の間隔を有する隙間に多層マット10を押し込んだ場合にも、層間でズレや剥離が発生しにくく、排ガス処理体の保持や防音材等において、マットとして必要とされる機能を充分に発揮することができる。
【0042】
上記
図1では、2枚のマットが積層された多層マットを示しているが、積層するマットの数は、2枚に限定されるものではなく、3枚、4枚、5枚等であってもよいが、2枚又は3枚が望ましい。
【0043】
次に、本発明の多層マットを構成するマットについて説明する。
上記マットは、無機繊維からなる。
上記マットを構成する無機繊維は、特に限定されないが、アルミナ繊維、シリカ繊維、アルミナ-シリカ繊維、ムライト繊維、生体溶解性繊維及びガラス繊維からなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。
上記無機繊維が、アルミナ繊維、シリカ繊維、アルミナシリカ繊維及びムライト繊維からなる群から選択される少なくとも1種である場合には、耐熱性に優れているので、マットが高温に晒された場合であっても、変質等が発生することはなく、マットとしての機能を充分に維持することができる。
【0044】
アルミナ繊維には、アルミナ以外に、例えば、カルシア、マグネシア、ジルコニア等の添加剤が含まれていてもよい。
アルミナシリカ繊維の組成比としては、重量比で、Al2O3:SiO2=60:40~99:1であることが望ましく、Al2O3:SiO2=70:30~74:26であることがより望ましい。
【0045】
ガラス繊維は、シリカとアルミナとを主成分とし、アルカリ金属の他に、必要によりカルシア、チタニア、酸化亜鉛等を含むガラス状の繊維である。
【0046】
無機繊維の平均繊維長は、5~150mmであることが好ましく、10~80mmであることがより望ましい。
無機繊維の平均繊維長が5mm未満であると、無機繊維の繊維長が短すぎるため、無機繊維同士の交絡が不充分となり、曲面を有する部材に装着する際、多層マットが割れやすくなる。また、無機繊維の平均繊維長が150mmを超えると、無機繊維の繊維長が長すぎるため、マットを構成する繊維本数が減少し、マットの緻密性が低下する。その結果、マットのせん断強度が低くなる。
【0047】
上記マットを構成する無機繊維には、オイル状バインダ、有機バインダが付着させていることが望ましい。
有機バインダは、有機バインダ含有エマルジョン中の有機バインダをマットに付着させ、乾燥させることによって、マットを構成する無機繊維に付着させることができる。
使用する有機バインダとしては特に限定されず、例えば、アクリル系樹脂エマルジョン、アクリレート系ラテックス、ゴム系ラテックス等に含まれる樹脂成分又はゴム成分が挙げられる。
使用するオイル状バインダとしては特に限定されず、例えば、シリコーンオイルが挙げられる。
【0048】
上記無機繊維に、有機バインダ又はオイル状バインダが付着されていると、繊維同士が絡みやすくなり、せん断応力等を高めることができ、例えば、一定の間隔を有する隙間に多層マットを押し込む際、ズレや剥離等が発生しにくい。
【0049】
上記マットを構成する無機繊維には、必要に応じて、シリカゾル、アルミナゾル等の無機バインダ成分を付着させることが望ましい。
シリカゾル、アルミナゾル等の無機バインダ成分を付着させることにより、無機繊維同士を引っ掛かり易くすることができ、マットのせん断強度等を高めることができる。
【0050】
積層されたマットの互いに対向する主面には、複数の孔が形成されている。
上記孔を形成する方法は特に限定されるものではなく、例えば、突起状の物をマットに突き刺したり、空気銃のようなものを用いて、空気をマットに向かって噴出させることにより孔を形成してもよいが、ニードルパンチング処理により孔を形成する方法が望ましい。
この場合、孔は、マットを貫通する貫通孔となる。なお、ニードルパンチング処理とは、先端部分にバーブを有するニードルをマットに挿通させる処理を言う。先端部分にバーブを有さないニードルを使用してもよい。
【0051】
ニードルパンチング処理を施すと、貫通孔を形成することができるほか、無機繊維を交絡させることができ、無機繊維同士の絡み合いを強固にし、マットの引張強度を大きくし、マットの形状を維持しやすくすることができる。
【0052】
孔は、底を有する所謂有底孔であってもよく、貫通孔であってもよいが、貫通孔であることが望ましい。貫通孔が形成されていると、接着剤が充填する孔の深さを充分に深くすることができ、アンカー効果の大きい接着剤層を形成することができる。
【0053】
本発明の多層マットでは、上記孔の上記マットの主面100cm2当たりの数は、1000~2500個であることが望ましい。
本発明の多層マットにおいて、上記孔の上記マットの主面100cm2当たりの数が1000~2500個であると、孔の内部を充填する接着剤層のアンカー効果が充分に発揮され、より層間の剥離やズレが発生しにくくなる。
【0054】
上記マットの形状は、特に限定されるものではないが、平板状が望ましく、その厚さは、2~30mmであることが望ましい。
マットの厚さが2mm未満であると、その厚さが薄すぎるため、排ガス処理体等を保持する保持能力が低下してしまう。一方、マットの厚さが30mmを超えると、柔軟性が低下し、曲面を有する部材の変形が発生したり、吸音、防振・制振機能が著しく低下する。
【0055】
本発明の多層マットでは、
図1にも示したように、互いに対向するマットに形成された複数の孔は、互いの位置がずれた状態で形成されていることが望ましい。
本発明の多層マットにおいて、互いに対向するマットに形成された孔が、互いの位置がずれた状態で形成されていると、多層マットを曲げたり、一定の間隔を有する隙間に多層マットを押し込んだ場合にも、アンカー効果を発揮する場所の数が多くなるので、応力が集中しにくく、各層間でズレや剥離が発生しにくくなる。
【0056】
上記マットのかさ密度は、特に限定されるものではないが、0.05~0.30g/cm3であることが望ましい。マットのかさ密度が0.05g/cm3未満であると、無機繊維のからみ合いが弱く、無機繊維が剥離しやすいため、マットの形状を所定の形状に保ちにくくなる。一方、マットのかさ密度が0.30g/cm3を超えると、マットが硬くなり、曲面を有する部材への装着性が低下し、他部材の変形が発生したり、吸音、防振・制振機能が著しく低下する。
【0057】
次に、本発明の多層マットにおいて、マット同士を接着する接着剤層について説明する。
上記接着剤層は、無機接着剤及び/又は有機接着剤からなる。
【0058】
上記無機接着剤は、特に限定されるものではなく、上記無機接着剤としては、例えば、ケイ酸ソーダ、シリカゾル、アルミナゾル、ジルコニアゾル、シタニアゾル等が挙げられる。上記した無機接着剤のなかでは、アルミナゾル及びシリカゾルからなる群から選択された少なくとも1種であることが望ましい。
【0059】
本発明の多層マットにおいて、上記無機接着剤が、アルミナゾル及びシリカゾルからなる群から選択された少なくとも1種であると、複数の層を接着させることにより、強固で剥離やズレがより発生しにくい多層マットとすることができる。
【0060】
上記有機接着剤としては、例えば、水に分散可能なエポキシ樹脂系接着剤、ポリ酢酸ビニル系接着剤、ニトリルゴム系接着剤、溶剤に溶解可能なフェノール樹脂系接着剤、酢酸ビニル系接着剤、クロロプレンゴム系接着剤、化学反応により硬化するエポキシ樹脂系接着剤、アクリル樹脂系接着剤、シリコーンゴム系接着剤等が挙げられる。
【0061】
上記接着剤が有機接着剤からなると、一定の間隔を有する隙間に多層マットを押し込んだ後、加熱することにより接着剤層を消失させることができ、全体として柔軟性に富んだ多層マットとすることができる。
【0062】
本発明の多層マットでは、上記孔の内部を充填する接着剤は、上記マットの最表面から0.1~5.0mmの深さまで孔を充填していることが望ましい。
本発明の多層マットにおいて、上記孔の内部を充填する接着剤が、上記マットの最表面から0.1~5.0mmの深さまで孔を充填していると、アンカー効果がより大きくなり、層間の剥離やズレがより発生しにくい多層マットとなる。
【0063】
本発明の多層マットにおいて、孔を含まない部分における接着剤層の最も薄い部分における厚さは、0.1~2.0mmであってもよいが、0.3~2.0mmであることが望ましい。接着剤層の最も薄い部分における厚さが0.3~2.0mmであると、上限のマット層を充分な強さで接着することができる。
【0064】
また、
図1に示すように、この多層マット10では、互いに対向する上層マット11と下層マット12に形成された複数の孔11b、12bは、互いの位置がずれた状態で形成されていることが望ましい。
互いに対向する上層マット11と下層マット12に形成された複数の孔11b、12bが、互いの位置がずれた状態で形成されていると、アンカー効果を発揮する場所の数が多くなるので、応力が集中しにくく、各層間でズレや剥離が発生しにくくなる。
【0065】
図2は、本発明の多層マットの他の一例を模式的に示す断面図である。
図2に示す本発明の多層マット20では、無機繊維からなる2枚の上層マット21及び下層マット22が積層されており、上層マット21と下層マット22との間には、接着剤層23が形成されている。
【0066】
また、上層マット21と下層マット22とが対向する2つの主面21a、22aには、複数の孔21b、22bが形成されており、接着剤層23を構成する接着剤は、孔21b、22bの内部を充填している。
【0067】
図2に示す多層マット20が
図1に示す多層マット10と異なる点は、複数の孔21b、22bが湾曲した形状で形成されている点にある。
このように孔を含む多層マット20の主面に垂直な断面において、孔21b、22bが湾曲した形状で形成されていると、孔がマットに引っ掛かり易くなるので、アンカー効果が大きくなり、各層間でズレや剥離がより発生しにくくなる。
【0068】
次に、本発明の多層マットの製造方法について説明する。
本発明の多層マットの製造方法は、上記した本発明の多層マットの製造方法であって、主面に複数の孔が形成された複数枚の無機繊維からなるマットの上記孔を含む上記主面に接着剤を塗布し、乾燥させることにより、上記マットの主面及び上記孔の内部に接着剤層を形成する表面接着剤層形成工程と、上記主面及び上記孔の内部に上記表面接着剤層を有する複数枚のマットを積層する際、積層により互いに対向することとなるマットの主面にさらに接着剤を塗布し、複数枚のマットを積層することにより、表面接着剤層同士を接着する層間接着剤層を形成する層間接着剤層形成工程とを含むことを特徴とする。
【0069】
本発明の多層マットの製造方法においては、まず、無機繊維を含むマットを準備する。
マットは、種々の方法により得ることができるが、例えば、下記の方法により製造することができる。
【0070】
まず、アルミナ、シリカ等の無機物となる原料を含む粘凋な紡糸用混合物を調製した後、この紡糸用混合物を紡糸して無機繊維前駆体を作製し、続いて、上記無機繊維前駆体を圧縮して所定の大きさの連続したシート状物を作製し、ニードルパンチング処理を施した後、焼成処理を施すことにより無機繊維からなるマットを製造することができる。
【0071】
図3(a)~(c)は、本発明の多層マットの製造方法の各工程を模式的に示す断面図である。
本発明の多層マットの製造方法では、積層するマットの枚数は、特に限定されるものではなく、3枚以上であってもよいが、
図3では、その一例として、2枚のマットを使用して多層マットを製造した例を示している。
【0072】
本発明の多層マットの製造方法では、
図3(a)に示すように、最初に、表面接着剤層形成工程として、主面11a、12aに複数の孔が形成された2枚の無機繊維からなる上層マット11、下層マット12の主面11a、12aに接着剤を塗布し、乾燥させることにより、孔11b、12bの内部を含む上層マット11、下層マット12の主面11a、12aに表面接着剤層130a、130bを形成する。
【0073】
上記表面接着剤層形成工程において注意することは、接着剤がマットの内部深くまで浸み込んでいかないように、粘度の高い接着剤を用いるか、マットを構成する繊維にオイル状バインダを付着させて接着剤が内部に浸透するのを防止し、マットの表面に近い部分のみに表面接着剤層130a、130bを形成する。
【0074】
表面接着剤層を形成する際の乾燥条件としては、乾燥温度は常温~80℃、乾燥時間は120~180分が望ましい。
【0075】
次に、層間接着剤層形成工程として、
図3(b)に示すように、主面11a、12aに表面接着剤層130a、130bを有する2枚の上層マット11、下層マット12を積層する際、積層により互いに対向することとなる上層マット11、下層マット12の主面11a、12aのうちのいずれかの一方にさらに接着剤を塗布して塗布層130c′を形成し、2枚の上層マット11、下層マット12を積層し、塗布された接着剤が表面接着剤層130a、130bを接着する層間接着剤層130cを形成する。これにより、
図3(c)に示すように、2枚のマット間に表面接着剤層130a、130b及び層間接着剤層130cからなる接着剤層13を形成する。
この際、2枚の上層マット11、下層マット12の両方に塗布層130c′を形成してもよい。
【0076】
本発明の多層マットの製造方法では、最初に表面接着剤層130a、130bを形成しているので、互いに対向することとなるマットの主面のうちのいずれかの一方又は両方に、接着力を充分な強さにするために、さらに接着剤を塗布しても、接着剤がマットの奥深くや孔の内部の深い所まで浸透していくことを防止することができ、適切な厚さの接着剤層13を形成することができる。
【0077】
接着剤層形成工程の後の乾燥条件としては、乾燥温度は常温~80℃、乾燥時間は24~72時間が望ましい。
積層するマットの数は、特に限定されるものではないが、2個又は3個が望ましい。
その後、必要に応じて、多層マットを所定の形状に切断する切断工程を行ってもよい。
【0078】
本発明の多層マットは、車両の各部材や設備装置等の断熱材や防音材、防音を兼ねた断熱材、ディーゼルエンジン車の排ガス浄化フィルタを保持する保持シール材、排ガス浄化触媒コンバータを保持する保持シール材等として使用することができる。
【0079】
以下に、本発明の多層マットの作用効果について説明する。
(1)本発明の多層マットでは、各マットが互いに対向する主面には、複数の孔が形成され、上記接着剤層を構成する接着剤が上記孔の内部を充填しているので、上記孔の内部の接着剤層がアンカー効果を発揮し、多層マットを曲げたり、一定の間隔を有する隙間に多層マットを押し込んだ場合にも、層間でズレや剥離が発生しにくく、排ガス処理体の保持等において、マットとしての機能を充分に発揮することができる。
【0080】
(2)本発明の多層マットにおいては、互いに対向するマットに形成された孔が、互いの位置がずれた状態で形成されていると、多層マットを曲げたり、一定の間隔を有する隙間に多層マットを押し込んだ場合にも、アンカー効果を発揮する場所の数が多くなるので、応力が集中しにくく、各層間でズレや剥離が発生しにくくなる。
【0081】
(3)本発明の多層マットにおいて、上記孔を含む上記マットの主面に垂直な断面で、上記孔が湾曲した形状で形成されていると、よりアンカー効果が大きくなり、各層間でズレや剥離がより発生しにくくなる。
【0082】
(4)本発明の多層マットにおいて、無機接着剤が使用され、上記無機接着剤が、アルミナゾル及びシリカゾルからなる群から選択された少なくとも1種であると、複数の層を接着させることにより、強固で剥離やズレがより発生しにくい多層マットとすることができる。
【0083】
(5)本発明の多層マットの製造方法では、一旦、主面に複数の孔が形成された複数枚の無機繊維からなるマットの上記孔を含む主面に接着剤を塗布し、表面接着剤層を形成した後、さらに層間接着剤層を形成することにより、接着剤がマットの内部に浸透しすぎて、マット自体が硬くなり、柔軟性を失うのを防止することができ、上下のマット層を充分な接着力で接着する接着剤層が形成された適度の柔軟性を有する多層マットとすることができる。
【0084】
(実施例)
以下、本発明をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0085】
(実施例1)
(a)ニードルパンチング処理マット作製工程
以下の手順によりニードルパンチング処理マットを作製した。
(a-1)紡糸工程
Al含有量が70g/lであり、Al:Cl=1:1.8(原子比)となるように調製した塩基性塩化アルミニウム水溶液に対して、焼成後の無機繊維における組成比が、Al2O3:SiO2=72:28(重量比)となるようにシリカゾルを配合し、さらに、有機重合体(ポリビニルアルコール)を適量添加してアルミナ繊維前駆体用の溶液を調製した。
得られた混合液を濃縮して紡糸液とし、この紡糸用混合物をブローイング法により紡糸して平均繊維径が5.1μmであるアルミナ繊維前駆体を作製した。
【0086】
(a-2)圧縮工程
上記工程(a-1)で得られたアルミナ繊維前駆体を積層、圧縮して、積層シートを作製した。
【0087】
(a-3)ニードルパンチング処理工程
上記工程(a-2)で得られた積層シートに対して、連続的にニードルパンチング処理を行ってニードル痕の密度が21個/cm2のニードルパンチング処理体を作製した。
【0088】
(a-4)焼成工程
上記工程(a-3)で得られたニードルパンチング処理体を最高温度1250℃で連続して焼成し、アルミナとシリカとを72重量部:28重量部で含む無機繊維からなる焼成シート状物を製造した。無機繊維の平均繊維径は、5.1μmであり、無機繊維径の最小値は、3.2μmであった。このようにして得られたシート状物は、嵩密度が0.15g/cm3であり、目付量が1050g/m2であった。
【0089】
(a-5)シリコーンオイル付着工程
上記シート状物に繊維飛散防止、燃焼時の低臭化及び撥水を目的としてシリコーンオイルを繊維表面に付着させ、600mm×400mmの寸法にカットし、接着用のマットとした。この接着用マットは2枚用意した。
【0090】
(b)接着剤溶液調製工程
まず、共立食品株式会社製の食用色素青を水道水により希釈し、色素濃度が1.4%となるように調整した着色水に、アルミナゾル(日産化学工業株式会社製 商品名:520-A 固形分濃度20wt%)を、着色水:アルミナゾル=1:25.9の比率となるように調合し、撹拌することにより接着剤溶液を調製した。
【0091】
(c) 表面接着剤層形成工程
図4(a)~(d)は、実施例1に係る多層マットの製造方法を模式的に示す説明図である。
この接着剤溶液をスプレーガンに入れ、
図4(a)に示すように、2枚の接着用マット31、32の凹凸が少ない方の一主面31aに、固形分重量が173.5g/m
2となるようにスプレーガン36で接着剤溶液35を吹き付けて塗布層を形成し、3時間以上乾燥棚に保管し、自然乾燥することにより、表面接着剤層330aを形成した。表面接着剤層330aの厚さは、30mmであった。なお、
図4(a)では、2枚の接着用マット31、32のうち、一枚の接着用マット31のみ示している。
【0092】
(d)層間接着剤層用接着剤溶液の塗布工程
次に、乾燥棚から表面接着剤層を形成した一枚の接着用マット31を取り出し、上記接着剤溶液調製工程で調整した接着剤溶液が入ったスプレーガンを用い、
図4(b)に示すように、接着用マット31の表面接着剤層330aが形成された側、及び、もう一枚の表面接着剤層が形成された側に、スプレーガン36で固形分重量が365.0g/m
2の均一塗布量となるように接着剤溶液35を吹き付けて塗布層を形成し、この後、塗布面の一端部に5cmの幅にカットしたビニールシート37を載置した。
【0093】
(e)貼り合わせ工程
次に、
図4(c)に示すように、もう一枚の接着用マット32も乾燥棚から取り出し、この接着用マット32の表面接着剤層と、塗布が終了した接着用マット31の塗布層とが接触するように2枚の接着用マット31、32を貼り合わせ、
図4(d)に示すように、0.045kPaの重力となるように設定したおもし38を10秒間載せ、乾燥棚で少なくとも48時間以上自然乾燥させ、層間接着剤層と表面接着剤層とからなる接着剤層が形成された実施例1に係る多層マットの製造を終了した。
【0094】
(比較例1)
(a)接着用マット作製工程
実施例1と同様に(a-1)~(a-5)の工程を行い、接着用マットを2枚作製した。
【0095】
(b)接着剤溶液塗布工程
次に、実施例1と同様に調整した接着剤溶液をスプレーガンに入れ、1枚の接着用マットの凹凸が少ない方の片面に、固形分重量が173.5g/m2となるようにスプレーガンで吹き付け、塗布層を形成し、80℃に設定されたオーブンに約60分間置いた。
乾燥後、接着剤層を形成した接着用マットを取り出して冷却した後、上記接着剤溶液調製工程で調整した接着剤溶液が入ったスプレーガンを用い、接着剤層が形成された側に、スプレーガンで固形分重量が365.0g/m2の均一塗布量となるように接着剤溶液を吹き付けて塗布層を形成した後、実施例1と同様に、塗布面の一端部に5cmの幅にカットしたビニールシートを載置した。
【0096】
(c)貼り合わせ工程
その後、接着剤を塗布していないもう一枚のマットを、塗布が終了したマットに積層して貼り合わせ、0.045kPaの重力となるように設定したおもしを10秒間載せ、80℃に設定されたオーブンに約180分間置いて、比較例1に係る多層マットの製造を終了した。
【0097】
(比較例2)
(a)抄造マット作製工程
(a-1)混合液調製工程
まず、塩基性塩化アルミニウム水溶液に対して、焼成後の無機繊維における組成比が、Al2O3:SiO2=72:28(重量比)となるようにシリカゾルを配合し、さらに、有機重合体(ポリビニルアルコール)を適量添加して混合液を調製した。
得られた混合液を濃縮して紡糸用混合物とし、この紡糸用混合物をブローイング法により紡糸して無機繊維前駆体を作製した。次に、得られた無機繊維前駆体を圧縮し、連続したシート状物を作製した。その後シート状物を加熱炉内に配置し、焼成処理を行うことにより、無機繊維集合体を製造した。
次に、ミキサーを用いて無機繊維集合体を湿式開繊し、繊維に対して固形分換算で9重量%の有機バインダ、繊維に対して固形分換算で1重量%の無機バインダを加え、さらに撹拌した。その後、凝集剤を加えて攪拌することにより、混合液を調製した。
【0098】
(a-2)脱水工程
次に、底面にろ過用のメッシュが形成された成形器に混合液を流し込んだ後、混合液中の水をメッシュを介して脱水することにより、原料シートを作製した。
【0099】
(a-3)加熱加圧工程
続いて、得られた原料シートを成形器から取り出し、プレス機を用いて厚みが8mmとなるように圧縮すると同時に、熱板と熱風通気によって、いずれも150℃で加熱乾燥させ、600mm×400mmの寸法にカットし、接着用のマットとした。その際、目付量が1500g/m2となるように繊維量を調整した。この接着用マットは2枚用意した。
【0100】
(b)接着剤溶液塗布工程及び貼り合わせ工程
その後、比較例1と同様にし、接着剤溶液塗布工程及び貼り合わせ工程を行い、比較例2に係る多層マットを製造した。
【0101】
(引っ張り試験による剥離強度の測定)
図5(a)~(c)は、実施例1に係る多層マットの剥離強度の測定方法を模式的に示す説明図である。
まず、
図5(a)に示すように、実施例1に係る多層マット30に対して、ビニールシート37を取り外した。次に、
図5(b)に示すように、ビニールシート37で意図的に作製した5cmの幅の非接着部分301、302を含んだ210mm×80mmの大きさのマット30Aとなるように切り出した。
次に、
図5(c)に示すように、引張り試験(インストロン社製 製品名:5967)を使用し、試験機上方のつかみ具41に一方の非接着部分301をクランプし、試験機下方のつかみ具42に他方の非接着部分302をクランプし、1cm/minのクロスヘッド速度で引っ張ることで剥離強度の測定を行った。上記試験は、全面破断するまで行い、試験時の最大荷重を記録することにより剥離強度を評価した。
比較例1及び比較例2に係る多層マットについても同様に剥離強度の測定を行った。
【0102】
図6は、剥離強度の評価結果を示すグラフである。
また、
図7は、実施例1に係る多層マットの剥離試験を行った後の2枚のマットを撮影した写真であり、
図8は、比較例1に係る多層マットの剥離試験を行った後の2枚のマットを撮影した写真であり、
図9は、比較例2に係る多層マットの剥離試験を行った後の2枚のマットを撮影した写真である。
【0103】
図6に示すように、実施例1に係る多層マットの剥離強度は、4.86Nと高かったのに対し、比較例1に係る多層マットの剥離強度は、0.98Nであり、比較例2に係る多層マットの剥離強度は、2.53Nであり、比較例1及び2と比較して、実施例1に係る多層マットの剥離強度は、充分に高かった。
【0104】
また、
図7~9を比較することにより明らかなように、実施例1に係る多層マットは、接着剤層の強度が高いため、接着剤層の部分で剥離せず、マットの部分で剥離が発生していたのに対し、比較例1及び2に係る多層マットは、接着剤の剥離強度が不充分なため、接着剤層の部分で剥離が発生していた。
【0105】
このように、比較例1及び2に係る多層マットと比較して、実施例1に係る多層マットは、剥離強度が高く、多層マットを曲げたり、一定の間隔を有する隙間に多層マットを押し込んだ場合にも、層間でズレや剥離が発生しにくいことが判明した。
【符号の説明】
【0106】
10、20、30 多層マット
11、21、31 上層マット
11a、12a、21a、22a、31a 主面
11b、12b、21b、22b 孔
12、22 下層マット
13、23 接着剤層
31、32 接着用マット
35 接着剤溶液
36 スプレーガン
37 ビニールシート
38 おもし
41、42 つかみ具
301、302 非接着部分
130a、130b、330a 表面接着剤層
130c 層間接着剤層
130c′ 塗布層