(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-24
(45)【発行日】2023-02-01
(54)【発明の名称】インクジェットインク、インクセット、および印刷方法
(51)【国際特許分類】
C09D 11/30 20140101AFI20230125BHJP
C09D 11/40 20140101ALI20230125BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20230125BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20230125BHJP
【FI】
C09D11/30
C09D11/40
B41J2/01 501
B41J2/01 123
B41J2/01 129
B41M5/00 120
B41M5/00 100
(21)【出願番号】P 2018148648
(22)【出願日】2018-08-07
【審査請求日】2021-07-16
(73)【特許権者】
【識別番号】306029349
【氏名又は名称】ゼネラル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】特許業務法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂井 一郎
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/094446(WO,A1)
【文献】特開2016-138201(JP,A)
【文献】特開2016-190959(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
B41J 2/01
B41M 5/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル重合性成分と光ラジカル重合開始剤とを含み、前記ラジカル重合性成分は、
(1)
2官能以上の多官能の窒素含有複素環式(メタ)アクリレート、
(2) エチレンオキサイド付加型多官能(メタ)アクリレート、およびプロピレンオキサイド付加型多官能(メタ)アクリレートからなる群より選ばれた少なくとも1種の多官能(メタ)アクリレート、ならびに
(3) 窒素含有複素環式ビニル化合物
を含
み、前記ラジカル重合性成分の総量中の、前記(1)の窒素含有複素環式(メタ)アクリレートの割合は27質量%以上、54質量%以下、前記(2)の多官能(メタ)アクリレートの割合は5.5質量%以上、27質量%以下、前記(3)の窒素含有複素環式ビニル化合物の割合は5.5質量%以上、27質量%以下で、かつ前記(1)~(3)の3種のラジカル重合性成分の合計の割合は54質量%以上であるインクジェットインク。
【請求項2】
前記(1)の窒素含有複素環式(メタ)アクリレート
は、イソシアヌル酸ジアクリレート、イソシアヌル酸トリアクリレート、トリアジントリアクリレート、N-アクリルオキシスクシンイミド、およびN-アクリルオキシフタルイミドからなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項1に記載のインクジェットインク。
【請求項3】
前記(2)の多官能(メタ)アクリレート
は、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、およびプロポキシ化グリセリルトリアクリレートからなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項1または2に記載のインクジェットインク。
【請求項4】
前記ラジカル重合性成分は、さらに
(4) アミン変性(メタ)アクリレート
を含む請求項1ないし
3のいずれか1項に記載のインクジェットインク。
【請求項5】
いずれも前記請求項1ないし
4のいずれか1項に記載のインクジェットインクである、無着色のクリアインクと、着色された着色インクとを含むインクセット。
【請求項6】
印刷方法であって、前記請求項
5に記載のインクセットのうち前記クリアインクを用いて、インクジェット印刷法によって、未硬化の下地層を形成する工程、形成した前記下地層の上に、前記インクセットのうち前記着色インクを用いて、インクジェット印刷法によって、未硬化の着色層を形成する工程、および形成した前記下地層と前記着色層とを、光の照射によって硬化させる工程を含む印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットインク、インクセット、および当該インクセットを用いた印刷方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フロスト加工したガラス表面等のインクが滲みやすい被印刷面に、インクジェット印刷法によって、滲みが抑制された鮮明な文字等を印刷するために、紫外線等の光の照射によって硬化する光硬化性のクリアインクと着色インクとを用いた印刷方法が提案されている。
かかる印刷方法では、まず被印刷面に、光硬化性のクリアインクを用いて、未硬化の下地層を印刷した上に、光硬化性の着色インクを用いて、未硬化の着色層を重ねて印刷したのち、紫外線等の光を照射して両層を硬化させる。
【0003】
そうすると上記被印刷面を、先に印刷したクリアインクからなる透明な下地層によって被覆した上に、着色インクによって文字などの着色層を印刷できるため、当該着色層を、できるだけ滲みが抑制された、鮮明な状態とすることができる。
上記印刷方法においては、クリアインクと着色インクの組み合わせ(インクセット)について、種々検討されている。
【0004】
たとえば、特許文献1では、重合性モノマと光ラジカル重合開始剤とを含むラジカル重合性のクリアインクと、着色剤、重合性モノマ、および光アニオン重合開始剤を含むアニオン重合性の着色インクとを組み合わせている。
また特許文献2では、逆に光アニオン重合開始剤を含むアニオン重合性のクリアインクと、光ラジカル重合開始剤を含むラジカル重合性の着色インクとを組み合わせている。
【0005】
重合系の異なるインクを併用しているのは、両重合系によるインクの硬化速度の違いや、アニオン重合性のインク中での重合性モノマの重合反応が、大気中の酸素によって阻害(酸素阻害)されにくいことなどを、印刷特性の向上等に利用するためである。
ところが、特許文献1、2に記載の従来のインクセットでは、とくにアニオン重合性のインクの硬化開始速度が遅いため、印刷したインクを、重合反応の立ち上がり時に加熱等する必要があり、印刷の工程が複雑化するといった課題がある。
【0006】
そこで、インクセットを構成するインクとして、たとえば、特許文献3~5等に記載されたもの等の、いずれもラジカル重合性のインクを用いることが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-096528号公報
【文献】特開2013-159106号公報
【文献】特開2011-144250号公報
【文献】特開2013-014740号公報
【文献】特開2016-041820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献3~5等に記載されたものなどの、従来のラジカル重合性のインクは、いずれも発明者の検討によると、
・ 硬化開始速度は速いものの硬化速度が遅く、最終的に完全硬化するまでに長時間を要する場合がある、
・ 完全硬化したあとも、耐溶剤性や、被印刷面に対する密着性、定着性などが不足する場合がある、
といった課題を有している。
【0009】
本発明の目的は、現状よりも硬化開始速度や硬化速度を向上できる上、耐溶剤性や、被印刷面に対する密着性、定着性等に優れた文字などを印刷できるインクジェットインクを提供することにある。
また本発明の目的は、上記の特性に優れたクリアインクと着色インクとを組み合わせたインクセットを提供することにある。
【0010】
さらに本発明の目的は、上記インクセットを用いて、フロスト加工したガラス表面などのインクが滲みやすい被印刷面であっても、インクジェット印刷法によって、できるだけ滲みが抑制された鮮明な文字などを印刷するための印刷方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ラジカル重合性成分と光ラジカル重合開始剤とを含み、ラジカル重合性成分は、
(1) 2官能以上の多官能の窒素含有複素環式(メタ)アクリレート、
(2) エチレンオキサイド付加型多官能(メタ)アクリレート、およびプロピレンオキサイド付加型多官能(メタ)アクリレートからなる群より選ばれた少なくとも1種の多官能(メタ)アクリレート、ならびに
(3) 窒素含有複素環式ビニル化合物
を含み、前記ラジカル重合性成分の総量中の、前記(1)の窒素含有複素環式(メタ)アクリレートの割合は27質量%以上、54質量%以下、前記(2)の多官能(メタ)アクリレートの割合は5.5質量%以上、27質量%以下、前記(3)の窒素含有複素環式ビニル化合物の割合は5.5質量%以上、27質量%以下で、かつ前記(1)~(3)の3種のラジカル重合性成分の合計の割合は54質量%以上であるインクジェットインクである。
【0012】
また本発明は、いずれも上記本発明のインクジェットインクである、無着色のクリアインクと、着色された着色インクとを含むインクセットである。
さらに本発明は、上記本発明のインクセットのうちクリアインクを用いて、インクジェット印刷法によって、未硬化の下地層を形成する工程、形成した下地層の上に、インクセットのうち着色インクを用いて、インクジェット印刷法によって、未硬化の着色層を形成する工程、および形成した下地層と着色層とを、光の照射によって硬化させる工程を含む印刷方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、現状よりも硬化開始速度や硬化速度を向上できる上、耐溶剤性や、被印刷面に対する密着性、定着性等に優れた文字などを印刷できるインクジェットインクを提供することができる。
また本発明によれば、上記の特性に優れたクリアインクと着色インクとを組み合わせたインクセットを提供することができる。
【0014】
さらに本発明によれば、上記インクセットを用いて、フロスト加工したガラス表面などのインクが滲みやすい被印刷面であっても、インクジェット印刷法によって、できるだけ滲みが抑制された鮮明な文字などを印刷するための印刷方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
《インクジェットインク》
本発明のインクジェットインクは、上述したようにラジカル重合性成分と光ラジカル重合開始剤とを含み、ラジカル重合性成分は、
(1) 2官能以上の多官能の窒素含有複素環式(メタ)アクリレート、
(2) エチレンオキサイド付加型多官能(メタ)アクリレート、およびプロピレンオキサイド付加型多官能(メタ)アクリレートからなる群より選ばれた少なくとも1種の多官能(メタ)アクリレート、ならびに
(3) 窒素含有複素環式ビニル化合物
を含み、上記ラジカル重合性成分の総量中の、(1)の窒素含有複素環式(メタ)アクリレートの割合は27質量%以上、54質量%以下、(2)の多官能(メタ)アクリレートの割合は5.5質量%以上、27質量%以下、(3)の窒素含有複素環式ビニル化合物の割合は5.5質量%以上、27質量%以下で、かつ(1)~(3)の3種のラジカル重合性成分の合計の割合は54質量%以上であることを特徴とするものである。
【0016】
上記各成分のうち(3)の窒素含有複素環式ビニル化合物は、ビニル基が窒素含有複素環中の窒素に直接に結合されているため、ラジカル重合反応の反応性が高い。
また(2)の多官能(メタ)アクリレートは、変性されたEO基および/またはPO基の機能によって、酸素阻害の影響を受けにくい。
そのため、重合反応がラジカル重合反応であることとも相まって、本発明のインクジェットインクは、従来のもの比べて、硬化開始速度や硬化速度を向上することができる。
【0017】
また、上記インクジェットインクを被印刷面に印刷して下地層や着色層などを形成したのち紫外線等の光を照射すると、上記層中で、光ラジカル重合開始剤の機能によって、主として(2)の多官能(メタ)アクリレートが重合反応して網目状の構造が形成される。
形成される網目状の構造は、(2)の多官能(メタ)アクリレートがEO変性および/またはPO変性されているため、未変性の多官能(メタ)アクリレート、たとえば、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等からなるものに比べて鎖状結合が長くなる。
【0018】
そのため、(2)の多官能(メタ)アクリレートからなる網目状の構造は、三次元的に回転が可能で、高い柔軟性を有する状態となり、当該網目状構造を含む下地層や着色層などの、被印刷面に対する密着性、定着性を向上することもできる。
また(1)の窒素含有複素環式(メタ)アクリレート、および(3)の窒素含有複素環式ビニル化合物が、(2)の多官能(メタ)アクリレートとともにラジカル重合反応して、上記網目状の構造中に、窒素含有複素環が導入される。
【0019】
そのため、上記下地層や着色層などの耐溶剤性を向上することもできる。
したがって、上記(1)~(3)の3種のラジカル重合性成分を併用した本発明のインクジェットインクによれば、現状よりも硬化開始速度や硬化速度を向上できる上、耐溶剤性や、密着性、定着性等に優れた文字などを被印刷面に印刷することが可能となる。
その上、(2)の多官能(メタ)アクリレートは、未変性の多官能(メタ)アクリレートに比べて低粘度であるため、インクジェットインクの粘度上昇にともなう、インクジェットプリンタのノズルからの吐出不良等が生じるのを抑制することもできる。
【0020】
上記本発明のインクジェットインクは、ラジカル重合性成分として、さらに
(4) アミン変性(メタ)アクリレート
を含んでいてもよい。
(4)のアミン変性(メタ)アクリレートは、とくに(1)の窒素含有複素環式(メタ)アクリレートや(3)の窒素含有複素環式ビニル化合物との相性が良い上、分子中のアミノ基が、酸素阻害の要因となるヒドロキシペルオキシラジカルを捕捉する機能を有する。
【0021】
酸素阻害とは、酸素がラジカル活性種と反応して不活性なヒドロキシペルオキシラジカルを生成して、ラジカル重合性成分のラジカル重合反応を阻害する現象であり、ラジカル重合に特有の課題である。
とくにインクジェットインクは、インクジェットプリンタのノズルからスムースに吐出させるために低粘度とする必要があるため、たとえば製造時や貯蔵時などに酸素が溶け込んだり拡散したりしやすい。
【0022】
またインクジェットインクは、比表面積の大きい微小な液滴としてノズルから吐出されるため、印刷時にも酸素が溶け込みやすい。
そして、インクジェットインク中に酸素が溶け込んでヒドロキシペルオキシラジカルが生成されると、先に説明した(1)~(3)のラジカル重合性成分の重合反応が阻害されやすくなる。
【0023】
そのため、かかる3種のラジカル重合性成分を併用することによる、上述した本発明の効果が十分に得られなくなる場合がある。
すなわち、インクジェットインクの硬化開始速度や硬化速度を向上したり、耐溶剤性や、密着性、定着性等に優れた文字などを被印刷面に印刷したりできない場合を生じる。
また、とくにインクジェットインクの貯蔵中に酸素阻害が発生して、当該インクジェットインクの硬化特性が初期値から低下する、すなわち貯蔵安定性が低下する場合もある。
【0024】
これに対し、ラジカル重合性成分として、さらに(4)のアミン変性(メタ)アクリレートを併用すると、上述したように、当該アミン変性(メタ)アクリレート中のアミノ基がヒドロキシペルオキシラジカルを捕捉して、酸素阻害が発生するのを抑制できる。
そのため、3種のラジカル重合性成分を併用することによる、上述した本発明の効果をより一層向上したり、インクジェットインクの貯蔵安定性を向上したりすることができる。
【0025】
〈(1) 窒素含有複素環式(メタ)アクリレート〉
(1)の窒素含有複素環式(メタ)アクリレートとしては、窒素含有複素環と、1分子中に2つ以上の、官能基としてのアクリル基および/またはメタクリル基とを有する多官能の、ラジカル重合可能な種々の化合物を用いることができる。
【0026】
多官能の窒素含有複素環式(メタ)アクリレートは、(2)の多官能(メタ)アクリレートとともに、前述した網目状の構造をさらに面方向に拡げるように重合して、インクジェットインクの造膜性を高めるために機能する。
そのため、硬化後の下地層や着色層などの耐溶剤性をさらに向上したり、耐擦過性を向上したりできる。
【0027】
また(1)の窒素含有複素環式(メタ)アクリレートとしては、他のラジカル重合性成分との反応性を高めて、インクジェットインクの硬化開始速度や硬化速度を向上する効果の点で、官能基がアクリル基である窒素含有複素環式アクリレートが好ましい。
(1)の窒素含有複素環式(メタ)アクリレートの具体例としては、これに限定されないが、たとえば、いずれも窒素含有複素環式アクリレートである、イソシアヌル酸ジアクリレート(2官能)、イソシアヌル酸トリアクリレート(3官能)、トリアジントリアクリレート(3官能)、N-アクリルオキシスクシンイミド(単官能)、N-アクリルオキシフタルイミド(単官能)等の1種または2種以上を用いることができ、とくにイソシアヌル酸トリアクリレート(3官能)が好ましい。
【0028】
(1)の窒素含有複素環式(メタ)アクリレートの割合は、ラジカル重合性成分の総量中の27質量%以上、54質量%以下である必要がある。
(1)の窒素含有複素環式(メタ)アクリレートの割合がこの範囲未満では、当該窒素含有複素環式(メタ)アクリレートを配合することによる前述した効果が不十分になって、硬化後の下地層や着色層などの耐溶剤性、耐擦過性等が低下する場合がある。
【0029】
一方、(1)の窒素含有複素環式(メタ)アクリレートの割合が上記の範囲を超える場合には、相対的に(2)の多官能(メタ)アクリレートの割合が少なくなって、硬化後の下地層や着色層などの、被印刷面に対する密着性、定着性が低下する場合がある。
また、相対的に(3)の窒素含有複素環式ビニル化合物の割合が少なくなって、インクジェットインクの硬化開始速度や硬化速度を向上する効果が得られない場合がある。
【0030】
これに対し、(1)の窒素含有複素環式(メタ)アクリレートの割合を上記の範囲に設定することにより、上記他の2種のラジカル重合性成分との相乗効果によって、前述した本発明の効果をさらに向上することができる。
〈(2) 多官能(メタ)アクリレート〉
(2)の多官能(メタ)アクリレートとしては、EO付加型多官能(メタ)アクリレート、およびPO付加型多官能(メタ)アクリレートからなる群より選ばれた少なくとも1種の、ラジカル重合可能な種々の化合物を用いることができる。
【0031】
とくに、(2)の多官能(メタ)アクリレートとしては、他のラジカル重合性成分との反応性を高めて、インクジェットインクの硬化開始速度や硬化速度を向上する効果の点で、官能基がアクリル基である多官能アクリレートが好ましい。
(2)の多官能(メタ)アクリレートの具体例としては、これに限定されないが、たとえば、いずれも多官能アクリレートである、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート(EO変性、3官能)、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート(EO変性、4官能)、プロポキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート(PO変性、3官能)、プロポキシ化グリセリルトリアクリレート(PO変性、3官能)等の1種または2種以上を用いることができ、とくにエトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート(EO変性、4官能)が好ましい。
【0032】
(2)の多官能(メタ)アクリレートの割合は、ラジカル重合性成分の総量中の5.5質量%以上、27質量%以下である必要がある。
(2)の多官能(メタ)アクリレートの割合がこの範囲未満では、当該多官能(メタ)アクリレートを配合することによる前述した効果が不十分になって、硬化後の下地層や着色層などの、被印刷面に対する密着性、定着性が低下する場合がある。
【0033】
一方、(2)の多官能(メタ)アクリレートの割合が上記の範囲を超える場合には、インクジェットインクの粘度が上昇して、インクジェットプリンタのノズルからの吐出不良等を生じやすくなる場合がある。
また、相対的に(1)の窒素含有複素環式(メタ)アクリレートの割合が少なくなって、硬化後の下地層や着色層などの耐溶剤性、耐擦過性等が低下する場合がある。
【0034】
また相対的に、(3)の窒素含有複素環式ビニル化合物の割合が少なくなって、インクジェットインクの硬化開始速度や硬化速度を向上する効果が得られない場合がある。
これに対し、(2)の多官能(メタ)アクリレートの割合を上記の範囲に設定することにより、上記他の2種のラジカル重合性成分との相乗効果によって、前述した本発明の効果をさらに向上することができる。
【0035】
〈(3) 窒素含有複素環式ビニル化合物〉
(3)の窒素含有複素環式ビニル化合物としては、窒素含有複素環とビニル基とを有する、ラジカル重合可能な種々の化合物を用いることができる。
(3)の窒素含有複素環式ビニル化合物の具体例としては、これに限定されないが、たとえば、N-ビニルピロリドン、N-ビニルイミダゾール、2-メチル-1-ビニルイミダゾール、N-ビニルピリジン、N-メチル-2-ビニルピロール、N-ビニルピペリドン、N-ビニルピリミジン、N-ビニルピペラジン、N-ビニルオキサゾール、N-ビニルカプロラクタム等の1種または2種以上を用いることができ、とくにN-ビニルカプロラクタムおよび/またはN-ビニルピリジンが好ましい。
【0036】
(3)の窒素含有複素環式ビニル化合物の割合は、ラジカル重合性成分の総量中の5.5質量%以上、27質量%以下である必要がある。
(3)の窒素含有複素環式ビニル化合物の割合がこの範囲未満では、当該窒素含有複素環式ビニル化合物を配合することによる、前述した、インクジェットインクの硬化開始速度や硬化速度を向上する効果が十分に得られない場合がある。
【0037】
一方、(3)の窒素含有複素環式ビニル化合物の割合が上記の範囲を超える場合には、相対的に(1)の窒素含有複素環式(メタ)アクリレートの割合が少なくなって、硬化後の下地層や着色層などの耐溶剤性、耐擦過性等が低下する場合がある。
また、相対的に(2)の多官能(メタ)アクリレートの割合が少なくなって、硬化後の下地層や着色層などの、被印刷面に対する密着性、定着性が低下する場合もある。
【0038】
これに対し、(3)の窒素含有複素環式ビニル化合物の割合を上記の範囲に設定することにより、上記他の2種のラジカル重合性成分との相乗効果によって、前述した本発明の効果をさらに向上することができる。
〈(4) アミン変性(メタ)アクリレート〉
(4)のアミン変性(メタ)アクリレートとしては、(メタ)アクリレートのモノマないしオリゴマをアミノ基で変性した構造を有する、ラジカル重合可能な種々の化合物を用いることができる。
【0039】
また(4)のアミン変性(メタ)アクリレートとしては、他のラジカル重合性成分との反応性を高めて、インクジェットインクの硬化開始速度や硬化速度を向上する効果の点で、官能基がアクリル基であるアミン変性アクリレートが好ましい。
(4)のアミン変性(メタ)アクリレートの具体例としては、これに限定されないが、たとえば、いずれもアミン変性アクリレートである、サートマー社製のCN371、CN373、CN383、CN386等の1種または2種以上を用いることができ、とくにCN371が好ましい。
【0040】
(4)のアミン変性(メタ)アクリレートの割合は、ラジカル重合性成分の総量中の2質量%以上であるのが好ましく、7質量%以下であるのが好ましい。
(4)のアミン変性(メタ)アクリレートの割合がこの範囲未満では、当該アミン変性(メタ)アクリレート中のアミノ基による、酸素阻害が発生するのを抑制する効果が十分に得られない場合がある。
【0041】
そのため、(1)~(3)の3種のラジカル重合性成分を併用することによる本発明の効果をより一層向上したり、インクジェットインクの貯蔵安定性を向上したりできない場合を生じる。
一方、(4)のアミン変性(メタ)アクリレートの割合が上記の範囲を超える場合には、相対的に(1)~(3)の3種のラジカル重合性成分の割合が少なくなる。
【0042】
そのため、却って、上記3種のラジカル重合性成分を併用することによる本発明の効果が十分に得られない場合がある。
これに対し、(4)のアミン変性(メタ)アクリレートの割合を上記の範囲に設定することにより、上記3種のラジカル重合性成分を併用することによる本発明の効果をより一層向上したり、インクジェットインクの貯蔵安定性を向上したりすることができる。
【0043】
〈(5) シリコン変性ポリエーテル(メタ)アクリレート〉
本発明のインクジェットインクは、ラジカル重合性成分として、さらに(5)のシリコン変性ポリエーテル(メタ)アクリレートを含んでいてもよい。
(5)のシリコン変性ポリエーテル(メタ)アクリレートは界面活性剤としても機能して、インクジェットインクの表面張力を調整し、それによって当該インクジェットインクの、インクジェットプリンタのノズルに対する濡れ性を調整する。
【0044】
そして、インクジェットインクの、ノズルからの吐出性を改善して印字の鮮明性を向上したり、パドリングの発生を抑制したりするために機能する。
パドリングとは、ノズルを通してインク滴が吐出される際に当該インク滴から分離してノズル側に残ったインクジェットインクが、ノズルが形成されたノズルプレートのノズルの出口の周囲に濡れ拡がってインク溜まり(パドル)を形成する現象である。
【0045】
パドリングを生じるとインク滴の吐出が妨げられて、吐出されたインク滴の軌道が変化したり、所定体積のインク滴が吐出されなかったり、あるいはインク滴が全く吐出されなかったりする結果、良好な文字等を印刷できなくなるおそれがある。
これに対し、(5)のシリコン変性ポリエーテル(メタ)アクリレートを配合してパドリングの発生を抑制すると、良好な文字等を連続的に印刷できる枚数を増加させる、すなわち連続印刷性を向上させることができる。
【0046】
(5)のシリコン変性ポリエーテル(メタ)アクリレートとしては、他のラジカル重合性成分との反応性を高めて、インクジェットインクの硬化開始速度や硬化速度を向上する効果の点で、官能基がアクリル基であるシリコン変性ポリエーテルアクリレートが好ましい。
(5)のシリコン変性ポリエーテル(メタ)アクリレートの具体例としては、これに限定されないが、たとえば、いずれもシリコン変性ポリエーテルアクリレートである、エボニック インダストリーズ社製のTEGO(登録商標)Radシリーズのうち2010、2011、2100、2300等の1種または2種以上を用いることができる。
【0047】
(5)のシリコン変性ポリエーテル(メタ)アクリレートの割合は、ラジカル重合性成分の総量中の0.1質量%以上であるのが好ましく、0.5質量%以下であるのが好ましい。
〈(6) 他のラジカル重合性成分〉
本発明のインクジェットインクには、上記各種のラジカル重合性成分に加えて、さらに、インクジェットインクの粘度や流動性等を調整するための反応性希釈剤などとして機能する、(6)の他のラジカル重合性成分を配合してもよい。
【0048】
かかる(6)の他のラジカル重合性成分としては、たとえば、下記の各種化合物等の1種または2種以上を用いることができ、とくにネオペンチルグリコールジアクリレートが好ましい。
(2官能アクリレート)
1,3-ブチレングリコールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ポリエチレングリコール(200)ジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、アルコキシ化ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、プロポキシ化(2)ネオペンチルグリコールジアクリレート、アルコキシ化脂肪族ジアクリレート。
【0049】
(2官能メタクリレート)
トリエチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、1,3-ブチレンジオールジメタクリレート、ポリプロピレングリコール(400)ジメタクリレート。
【0050】
(3官能メタクリレート)
トリメチロールプロパントリメタクリレート
(6)の他のラジカル重合性成分を配合する場合、その割合は、各種のラジカル重合性成分の残量とする。
すなわち、先に説明した各種ラジカル重合性成分の割合を、それぞれ所定の範囲に設定し、さらに(6)の他のラジカル重合性成分を加えた総量が100質量%となるように、当該他のラジカル重合性成分の割合を設定すればよい。
【0051】
〈ラジカル重合性成分の割合〉
(1)~(3)の3種のラジカル重合性成分の合計の割合は、ラジカル重合性成分の総量中の54質量%以上である必要がある。
合計の割合がこの範囲未満では、(1)~(3)の3種のラジカル重合性成分を併用することによる本発明の効果が十分に得られない場合がある。
【0052】
これに対し、(1)~(3)の3種のラジカル重合性成分の合計の割合を上記の範囲とすることにより、当該3種のラジカル重合性成分を併用することによる本発明の効果をより一層向上できる。
すなわち、現状よりもインクジェットインクの硬化開始速度や硬化速度を向上できる上、耐溶剤性や、密着性、定着性等に優れた文字などを被印刷面に印刷することが可能となる。
【0053】
上記3種のラジカル重合性成分の、合計の割合の上限はとくに限定されない。
ラジカル重合性成分は、その全量、つまり100質量%が、(1)~(3)の3種のラジカル重合性成分であってもよい。
ただし、ラジカル重合性成分としては、先に説明したように、(4)のアミン変性(メタ)アクリレート、(5)のシリコン変性ポリエーテル(メタ)アクリレート、あるいは(6)の他のラジカル重合性成分を併用してもよい。
【0054】
その場合、(1)~(3)の3種のラジカル重合性成分の割合は、上記の範囲でも、ラジカル重合性成分の総量中の90質量%以下、とくに85質量%以下であるのが好ましい。
〈光ラジカル重合開始剤〉
光ラジカル重合開始剤としては、紫外線等の任意の波長の光の照射によってラジカルを発生して、上述したラジカル重合性成分をラジカル重合反応させ、それによってインクジェットインクを硬化させることができる種々の化合物が使用可能である。
【0055】
光ラジカル重合開始剤としては、たとえば、下記化合物等の1種または2種以上を用いることができる。
ベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、2-クロロベンゾフェノン、4,4′-ジクロロベンゾフェノン、4,4′-ビスジエチルアミノベンゾフェノン、4,4′-ビスジメチルアミノベンゾフェノン(ミヒラーケトン)、4-メトキシ-4′-ジメチルアミノベンゾフェノン等のベンゾフェノン類またはその塩。
【0056】
チオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、4-イソプロピルチオキサントン、イソプロポキシクロロチオキサントン等のチオキサントン類またはその塩。
エチルアントラキノン、ベンズアントラキノン、アミノアントラキノン、クロロアントラキノン等のアントラキノン類。
【0057】
アセトフェノン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、4′-ジメチルアミノアセトフェノン等のアセトフェノン類。
2-(o-クロロフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール2量体、2-(o-クロロフェニル)-4,5-ジ(m-メトキシフェニル)イミダゾール2量体、2-(o-フルオロフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール2量体、2-(o-メトキシフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール2量体、2-(p-メトキシフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール2量体、2-ジ(p-メトキシフェニル)-5-フェニルイミダゾール2量体、2-(2,4-ジメトキシフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール2量体、2,4,5-トリアリールイミダゾール2量体等のイミダゾール類。
【0058】
ベンジルジメチルケタール、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ‐1‐(4-モルホリノフェニルブタン)-1-オン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-1-オン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、9,10-フェナンスレンキノン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾイン-n-プロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン-n-ブチルエーテル等のベンゾイン類。
【0059】
9-フェニルアクリジン、1,7-ビス(9,9′-アクリジニル)ヘプタン等のアクリジン誘導体。
ビスアシルフォスフィンオキサイド、ビスフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド等のフォスフィンオキサイド類。
【0060】
2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル]フェニル}2-メチルプロパン-1-オン、2-ジメチルアミノ-2-(4-メチルベンジル)-1-(4-モルフォリン-4-イル-フェニル)ブタン-1-オン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、メチルベンゾイルフォーメート、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルペルオキシド、ジ-tert-ブチルペルオキシド、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,4,6-トリハロメチルトリアジン、ベンジル等。
【0061】
とくに光ラジカル重合開始剤としては、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド〔IGM Resin社製のOmnirad(登録商標)TPO〕が好ましい。
光ラジカル重合開始剤の割合は任意に設定できるものの、インクジェットインクに良好な光硬化性を付与することを考慮すると、当該インクジェットインクの総量中の1質量%以上であるのが好ましく、5質量%以下であるのが好ましい。
【0062】
また、とくに光源としてLEDを使用する場合、当該LEDからの紫外線等の光は波長域が狭いことから、インクジェットインクが感度を有する波長域のピークを一致させることが好ましい。
そのためには、上記光ラジカル重合開始剤とともに、LEDピークシフト用の光ラジカル重合開始剤を併用すればよい。
【0063】
LEDピークシフト用の光ラジカル重合開始剤としては、たとえば、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド〔IGM Resin社製のOmnirad 819〕が挙げられる。
LEDピークシフト用の光ラジカル重合開始剤の割合も任意に設定できるものの、インクジェットインクの総量中の0.5質量%以上であるのが好ましく、2質量%以下であるのが好ましい。
【0064】
〈増感剤〉
本発明のインクジェットインクには、光ラジカル重合開始剤とともに、増感剤を配合してもよい。
増感剤は、光の照射によって励起状態となって光ラジカル重合開始剤と相互作用して、当該光ラジカル重合開始剤におけるラジカルの発生を助けるために機能する。
【0065】
とくに、光源としてLEDを使用する場合、上述したように、LEDからの紫外線等の光は波長域が狭いことから、感度を有する波長域を広げて感度を向上する、すなわち増感するために増感剤を配合するのが好ましい。
増感剤としては、先に説明した光ラジカル重合開始剤のうちチオキサントン類またはその塩、中でも2-イソプロピルチオキサントン〔ランブソンジャパン(株)製のSpeedcure(登録商標)2-ITX〕が好適に使用される。
【0066】
また、その他の増感剤としては、たとえば、ナフタレンベンゾオキサゾリル誘導体、チオフェンベンゾオキサゾリル誘導体、スチルベンベンゾオキサゾリル誘導体、クマリン誘導体、スチレンビフェニル誘導体、ピラゾロン誘導体、スチルベン誘導体、ベンゼンおよびビフェニルのスチリル誘導体、ビス(ベンザゾール-2-イル)誘導体、カルボスチリル、ナフタルイミド、ジベンゾチオフェン-5,5’-ジオキシドの誘導体、ピレン誘導体、ピリドトリアゾール、p-ジメチルアミノ安息香酸エチル、p-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等が挙げられる。
【0067】
増感剤としては、以上で説明した各種の増感剤の中から、光源からの光の波長域、ならびに光ラジカル重合開始剤の吸収波長域に応じて、増感に適した吸収波長域を有するものをそれぞれ1種単独で使用できる他、2種以上を併用してもよい。
増感剤の割合は、任意に設定できるものの、良好な増感効果を得ることを考慮すると、インクジェットインクの総量中の0.1質量%以上であるのが好ましく、1質量%以下であるのが好ましい。
【0068】
〈着色剤〉
インクジェットインクが、クリアインクと併用して、あるいは単独で使用される着色インクである場合、当該インクジェットインクには、顔料、染料等の着色剤が配合される。
着色剤としては、インクジェットインクの色味に応じた各色の着色剤がいずれも使用可能である。
【0069】
とくに、文字等の耐光性や耐候性等を向上することを考慮すると、各種の無機顔料および/または有機顔料が好ましい。
このうち無機顔料としては、たとえば、酸化チタン、酸化鉄等の金属化合物や、あるいはコンタクト法、ファーネス法、サーマル法等の公知の方法によって製造された中性、酸性、塩基性等の種々のカーボンブラックの1種または2種以上を用いることができる。
【0070】
また有機顔料としては、たとえば、アゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、またはキレートアゾ顔料等を含む)、多環式顔料(たとえば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、またはキノフタロン顔料等)、染料キレート(たとえば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート等)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック等の1種または2種以上を用いることができる。
【0071】
無機または有機の顔料は、インクジェットインクの色目に応じて1種または2種以上を用いることができる。
たとえば、カーボンブラックで黒色を表現する場合には、より青黒く見せるために、シアン顔料を添加してもよい。
また顔料は、インクジェットインク中での分散安定性を向上するために表面を処理してもよい。
【0072】
また顔料は、顔料分散液の状態でインクジェットインクの製造に用いてもよい。
顔料分散液は、たとえば、インクジェットインクを構成するラジカル重合性成分や有機溶剤との相溶性に優れ、しかも顔料を良好に分散させることができる任意の有機溶剤、もしくは低粘度のラジカル重合性成分(反応性希釈剤)中に分散させて調製できる。
また顔料分散液には、顔料を良好に分散させるために分散剤等を添加してもよい。
【0073】
顔料の具体例としては、下記の各種顔料が挙げられる。
(イエロー顔料)
C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14、14C、16、17、20、24、73、74、75、83、86、93、94、95、97、98、109、110、114、117、120、125、128、129、130、137、138、139、147、148、150、151、154、155、166、168、180、185、213、214
(マゼンタ顔料)
C.I.ピグメントレッド5、7、9、12、48(Ca)、48(Mn)、49、52、53、57(Ca)、57:1、97、112、122、123、149、168、177、178、179、184、202、206、207、209、242、254、255
(シアン顔料)
C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:1、15:3、15:4、15:6、15:34、16、22、60
(ブラック顔料)
C.I.ピグメントブラック7
(オレンジ顔料)
C.I.ピグメントオレンジ36、43、51、55、59、61、71、74
(グリーン顔料)
C.I.ピグメントグリーン7、36
(バイオレット顔料)
C.I.ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50
着色剤の割合は、インクジェットインクの総量中の1質量%以上であるのが好ましく、5質量%以下であるのが好ましい。
【0074】
顔料分散液を使用する場合、顔料の割合は、顔料分散液中に含まれる有効成分としての顔料自体の割合である。
また2種以上の顔料を併用する場合は、その総量を上記の範囲に設定すればよい。
〈有機溶剤〉
たとえば、インクジェットインクを加熱して気泡を発生させて、その体積増加分のインクジェットインクをノズルからインク滴として吐出させるサーマル方式のインクジェットプリンタに用いるインクジェットインクには、気泡のもとになる有機溶剤が配合される。
【0075】
有機溶剤としては、加熱によってスムースに気泡を発生させて所定体積のインク滴を吐出させることができる種々の溶剤を用いることができる。
有機溶剤としては、たとえば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール等のアルコールの1種または2種以上を用いることができる。
【0076】
また、アルコールとともに沸点の低いアセトンを併用すると、少ない消費電力でよりスムースに気泡を発生させることができる上、インクジェットインクの速乾性を調整することもできる。
アセトンの割合は、インクジェットインクの総量中の5質量%以上であるのが好ましく、15質量%以下であるのが好ましい。
【0077】
また、アルコールの割合は、先に説明した各成分の残量とする。
すなわち、先に説明した各成分の割合を、それぞれ所定の範囲に設定し、さらにアルコールを加えた総量が100質量%となるように、当該アルコールの割合を設定すればよい。
たとえば、クリアインクと併用して、あるいは単独で使用される着色インクの場合は、ラジカル重合性成分、光ラジカル重合開始剤、増感剤、着色剤、アセトン、分散剤等の割合を、それぞれ所定の範囲に設定し、さらにアルコールを加えた総量が100質量%となるように、当該アルコールの割合を設定すればよい。
【0078】
また、着色インクと併用するクリアインクの場合は、着色剤、分散剤等を省略し、その分だけアルコールの割合を多くすればよい。
《インクセット》
本発明のインクセットは、いずれも上記本発明のインクジェットインクである、着色剤を含まない無着色のクリアインクと、着色剤によって着色された着色インクとを含むことを特徴とするものである。
【0079】
かかる本発明のインクセットによれば、たとえば、フロスト加工したガラス表面などに、前述した各特性に優れる上、滲みが抑制された鮮明な文字などを印刷することができる。
着色インクは単色であってもよいし、2色以上を併用してもよい。
2色以上の着色インクとしては、たとえば、フルカラーの印刷に適した、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の3色や、さらにブラック(K)を加えた4色、あるいはそれ以上の色の着色インクを組み合わせてもよい。
【0080】
《印刷方法》
本発明の印刷方法は、上記本発明のインクセットのうちクリアインクを用いて、インクジェット印刷法によって、未硬化の下地層を形成する工程、形成した下地層の上に、インクセットのうち着色インクを用いて、インクジェット印刷法によって、未硬化の着色層を形成する工程、および形成した下地層と着色層とを、光の照射によって硬化させる工程を含むことを特徴とするものである。
【0081】
かかる印刷方法によれば、先に説明したように、まず被印刷面に、光硬化性のクリアインクを用いて、未硬化の下地層を印刷した上に、光硬化性の着色インクを用いて、未硬化の着色層を重ねて印刷したのち、紫外線等の光を照射して両層を硬化させる。
そうすると上記被印刷面を、先に印刷したクリアインクからなる透明な下地層によって被覆した上に、着色インクによって文字などの着色層を印刷できるため、当該着色層を、できるだけ滲みが抑制された、鮮明な状態とすることができる。
【0082】
しかも本発明によれば、インクセットを構成するクリアインクおよび着色インクとして、いずれも本発明のインクジェットインクを用いている。
そのため、たとえば、フロスト加工したガラス表面などの、インクが滲みやすい被印刷面に、インクジェット印刷法によって、前述した各特性に優れる上、滲みが抑制された鮮明な文字などを印刷することができる。
【0083】
《他の印刷方法》
なお本発明では、先に説明したように、インクセットのうち着色インクのみをインクジェットインクとして単独で使用して、とくに非吸収性の被印刷面に、耐溶剤性や、密着性、定着性等に優れた文字などを印刷することもできる。
非吸収性の被印刷面としては、たとえば、アルミニウム箔などの金属表面や、コロナ処理延伸ポリプロピレン(OPP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)の表面などが挙げられる。
【実施例】
【0084】
以下に本発明を、実施例、比較例に基づいて説明するが、本発明の構成は、必ずしもこれらの例に限定されるものではない。
〈実施例1-1〉
下記の各成分を配合したのち、5μmのメンブランフィルタを用いてろ過してインクジェットインクを調製した。
【0085】
【0086】
表中の各成分は下記の通り。
(1) SR368
イソシアヌル酸トリアクリレート〔3官能、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレート〕、窒素含有複素環式アクリレート、サートマー社製のSR368
(2) RP-1040
エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート(EO変性、4官能)、多官能アクリレート、日本化薬(株)製のKAYARAD(登録商標)RP-1040
(3) V-Cap
N-ビニルカプロラクタム、窒素含有複素環式ビニル化合物、アシュランド・ジャパン(株)製のV-Cap
(4) CN371
アミン変性アクリレート、サートマー社製のCN371
(5) Rad 2300
シリコン変性ポリエーテルアクリレート、エボニック インダストリーズ社製のTEGO Rad 2300
(6) NP-A
ネオペンチルグリコールジアクリレート、他のラジカル重合性成分、共栄社化学(株)製のライトアクリレート(登録商標)NP-A
・ 光ラジカル重合開始剤TPO
2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、IGM Resin社製のOmnirad TPO
・ 光ラジカル重合開始剤819
ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、LEDピークシフト用、IGM Resin社製のOmnirad 819
・ 増感剤
2-イソプロピルチオキサントン、ランブソンジャパン(株)製のSpeedcure 2-ITX
・ 顔料分散液
顔料分散液としては、下記の各成分を配合し、撹拌したのちビーズミルを用いて分散させたものを用いた。
【0087】
【0088】
表中の顔料、および分散剤は下記の通り。
顔料:カーボンブラックLFF、三菱化学(株)製のMA8
分散剤:ポリアリルアミン/ポリカプロラクトン系分散剤、味の素ファインテクノ(株)製のアジスパーPB821
ラジカル重合性成分の総量中の、(1)~(6)のラジカル重合性成分の割合は、それぞれ下記の通りであった。
【0089】
【0090】
また、(1)~(3)の3種のラジカル重合性成分の合計の割合は、ラジカル重合性成分の総量中の67.4質量%であった。
〈実施例1-2~1-8、比較例1-1~1-7〉
ラジカル重合性成分の総量中の、(1)~(6)のラジカル重合性成分の割合、および(1)~(3)の3種のラジカル重合性成分の合計の割合を、それぞれ表4~表6に示す値としたこと以外は実施例1-1と同様にしてインクジェットインクを調製した。
【0091】
〈実施例1-9〉
(4)のアミン変性アクリレートを配合せず、(6)の他のラジカル重合性成分としてのNP-Aの量を12.5質量部、ラジカル重合性成分の総量中の32.3質量%としたこと以外は実施例1-1と同様にしてインクジェットインクを調製した。
〈比較例1-8〉
(1)の窒素含有複素環式アクリレートとして、単官能のN-アクリルオキシスクシンイミド〔N-AOSc、東京化成工業(株)製〕を同量配合したこと以外は実施例1-1と同様にしてインクジェットインクを調製した。
【0092】
〈実施例1-10〉
(2)の多官能アクリレートとして、プロポキシ化グリセリルトリアクリレート〔PO変性、3官能、サートマー社製のSR492〕を同量配合したこと以外は実施例1-1と同様にしてインクジェットインクを調製した。
〈実施例1-11〉
(3)の窒素含有複素環式ビニル化合物として、N-ビニルピリジン〔N-VPd、東京化成工業(株)製〕を同量配合したこと以外は実施例1-1と同様にしてインクジェットインクを調製した。
【0093】
〈比較例1-9〉
(1)の窒素含有複素環式アクリレートに代えて、複素環を含まない窒素含有アクリレートであるジメチルアミノエチルアクリレート〔N-Ac、東亞合成(株)製製のアロン(登録商標)DA〕を同量配合したこと以外は実施例1-1と同様にしてインクジェットインクを調製した。
【0094】
〈比較例1-10〉
(2)の多官能アクリレートに代えて、未変性の多官能(メタ)アクリレートであるペンタエリスリトールテトラアクリレート〔新中村化学(株)製のA-TMMT〕を同量配合したこと以外は実施例1-1と同様にしてインクジェットインクを調製した。
〈比較例1-11〉
(3)の窒素含有複素環式ビニル化合物に代えて、複素環状モノマであるテトラヒドロフルフリルアクリレート〔THFA、大阪有機化学工業(株)製のビスコート#150〕を同量配合したこと以外は実施例1-1と同様にしてインクジェットインクを調製した。
【0095】
〈硬化速度評価〉
オンデマンド型のサーマル方式のインクジェットプリンタ〔ビデオジェット(株)製のPrint Mail Wide Array〕を使用して、実施例、比較例で調製したインクジェットインクにより、OPPの表面に、300×300dpiの解像度で約8.5ポイントの文字を印刷した。
【0096】
次いで、印刷直後の文字を、LEDランプ出力:9W/cm2の条件で、ライン速度を段階的に増加させながら紫外線を照射して光硬化反応させたのち、綿棒で10往復こすって文字の欠けが生じたか否かを観察した。
そして下記の基準で、インクジェットインクの硬化速度を評価した。
×:ライン速度10m/分で欠けが生じたか、またはライン速度10m/分では欠けは生じなかったが、ライン速度20m/分で欠けが生じた。
【0097】
○:ライン速度20m/分でも欠けは生じなかった。
〈耐溶剤性評価〉
硬化速度評価で使用したのと同じインクジェットプリンタを使用して、実施例、比較例で調製したインクジェットインクにより、OPPの表面に、300×300dpiの解像度で約8.5ポイントの文字を印刷した。
【0098】
次いで、印刷直後の文字を、LEDランプ出力:9W/cm2、ライン速度:10m/分の条件で紫外線を照射して光硬化反応させたのち、2-プロパノールを含ませた綿棒で10往復こすって文字の状態を観察した。
そして下記の基準で、印刷の耐溶剤性を評価した。
×:文字が全部消えてしまうか、または文字の一部に欠けや伸びが見られた。
【0099】
○:文字に変化は見られなかった。
〈密着性評価〉
硬化速度評価で使用したのと同じインクジェットプリンタを使用して、実施例、比較例で調製したインクジェットインクにより、厚み50μmのPETフィルムの表面に、300×300dpiの解像度で約8.5ポイントの文字を印刷した。
【0100】
次いで、印刷直後の文字を、LEDランプ出力:9W/cm2、ライン速度:10m/分の条件で紫外線を照射して光硬化反応させたのち、PETフィルムを半分に折り曲げた際の文字の状態を観察した。
そして下記の基準で、印刷の密着性を評価した。
×:折り曲げ始めた時点で既に文字にクラックが生じていたか、または折り曲げ始めた時点では文字にクラックは生じなかったが、半分に折り曲げてしまうとクラックが生じた。
【0101】
○:半分に折り曲げても文字にクラックは見られなかった。
〈連続印刷性評価〉
硬化速度評価で使用したのと同じインクジェットプリンタを使用して、実施例、比較例で調製したインクジェットインクにより、普通紙の表面に、300×300dpiの解像度で約8.5ポイントの文字を1000枚に亘って連続印刷した。
【0102】
次いで、印刷された文字を観察して、パドリングの発生による不良の有無を確認した。
そして下記の基準で、連続印刷性を評価した。
×:800枚未満で、パドリングによる不良が生じた。
△:800枚以上、1000枚未満の間に、パドリングによる不良が生じた。
○:1000枚まで、パドリングによる不良は生じなかった。
【0103】
〈吐出安定性評価〉
硬化速度評価で使用したのと同じインクジェットプリンタを使用して、実施例、比較例で調製したインクジェットインクにより、OPPの表面に、インクジェットプリンタのドライバソフトに含まれるノズルチェックパターンを印刷した。
次いで、印刷を観察して、吐出が不安定になってノズルからインク滴が吐出されなかったことによるノズル抜けの不良の有無を確認した。
【0104】
そして下記の基準で、吐出安定性を評価した。
×:印刷のほぼ全体、または一部にノズル抜けの不良が見られた。
○:ノズル抜けの不良は全く見られなかった。
〈貯蔵安定性評価〉
実施例、比較例で調製したインクジェットインクをスクリュー管瓶に入れて45℃で1か月間静置した後、再び硬化速度評価を実施した。
【0105】
なお評価は、先の硬化速度評価が「○」または「△」であったものについてのみ実施して、下記の基準で貯蔵安定性を評価した。
○:硬化速度評価が、貯蔵前と後とで同じであった。すなわち「○」→「○」、または「△」→「△」であった。
△:硬化速度評価が、貯蔵前は「○」で貯蔵後は「△」であった。
【0106】
×:硬化速度評価が、貯蔵後に「×」になった。すなわち「○」→「×」、または「△」→「×」であった。
以上の結果を表4~表8に示す。
【0107】
【0108】
【0109】
【0110】
【0111】
【0112】
表4~表8の実施例1-1~1-11、比較例1-1~1-11の結果より、ラジカル重合性成分として、(1)~(3)の3種を併用することにより、現状よりも硬化開始速度や硬化速度を向上できる上、耐溶剤性や、被印刷面に対する密着性、定着性等に優れた文字などを印刷できるインクジェットインクが得られることが判った。
実施例1-1~1-3、比較例1-1、1-2の結果より、(1)の窒素含有複素環式(メタ)アクリレートの割合は、ラジカル重合性成分の総量中の27質量%以上、54質量%以下である必要があることが判った。
【0113】
実施例1-1、1-4、1-5、比較例1-3、1-4の結果より、(2)の多官能(メタ)アクリレートの割合は、ラジカル重合性成分の総量中の5.5質量%以上、27質量%以下である必要があることが判った。
実施例1-1、1-6、1-7、比較例1-5、1-6の結果より(3)の窒素含有複素環式ビニル化合物の割合は、ラジカル重合性成分の総量中の5.5質量%以上、27質量%以下である必要があることが判った。
【0114】
さらに実施例1-1、1-8、比較例1-1、1-7の結果より、(1)~(3)の3種のラジカル重合性成分の合計の割合は、ラジカル重合性成分の総量中の54質量%以上である必要があることが判った。
実施例1-1、1-9、比較例1-8の結果より、ラジカル重合性成分は、さらに(4)のアミン変性(メタ)アクリレートを含んでいるのが好ましいこと、(1)の窒素含有複素環式(メタ)アクリレートは、多官能である必要があることが判った。
【0115】
そして実施例1-1、1-10、1-11の結果より、(2)の多官能(メタ)アクリレートは、EO変性、PO変性のどちらでも同様の効果が得られること、(3)の窒素含有複素環式ビニル化合物としては、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニルピリジンのどちらでも同様の効果が得られることが判った。
〈実施例2-1〉
(クリアインク)
顔料分散液を配合せず、かつエタノールの量を46.1質量部としたこと以外は実施例1-1と同様にして、クリアインクを調製した。
【0116】
(インクセット)
実施例1-1のインクジェットインクを着色インクとして、上記クリアインクと組み合わせてインクセットを構成した。
〈実施例2-2~2-7、比較例2-1~2-9〉
実施例1-2~1-7、比較例1-1~1-6、1-9~1-11のインクジェットインクをもとにしたこと以外は実施例2-1と同様にしてクリアインクを調製し、それぞれ実施例1-2~1-7、比較例1-1~1-6、1-9~1-11のインクジェットインクを着色インクとして組み合わせてインクセットを構成した。
【0117】
〈耐溶剤性試験〉
硬化速度評価で使用したのと同じインクジェットプリンタを使用して、実施例、比較例で調製したクリアインクにより、フロスト加工したガラス表面に、300×300dpiの解像度で約8.5ポイントの文字の下地層を印刷した。
次いで同じインクジェットプリンタを使用して、実施例、比較例で組み合わせた着色インクにより、上記下地層の上に重ねて、300×300dpiの解像度で約8.5ポイントの文字の着色層を印刷した。
【0118】
次いで、印刷直後の文字を、LEDランプ出力:8W/cm2、ライン速度:10m/分の条件で紫外線を照射して光硬化反応させたのち、2-プロパノールを含ませた綿棒で10往復こすって文字の状態を観察した。
そして下記の基準で、印刷の耐溶剤性を評価した。
×:文字が全部消えてしまうか、または文字の一部に欠けや伸びが見られた。
【0119】
○:文字に変化は見られなかった。
〈定着性評価〉
硬化速度評価で使用したのと同じインクジェットプリンタを使用して、実施例、比較例で調製したクリアインクにより、フロスト加工したガラス表面に、300×300dpiの解像度で約8.5ポイントの文字の下地層を印刷した。
【0120】
次いで同じインクジェットプリンタを使用して、実施例、比較例で組み合わせた着色インクにより、上記下地層の上に重ねて、300×300dpiの解像度で約8.5ポイントの文字の着色層を印刷した。
次いで、印刷直後の文字を、LEDランプ出力:8W/cm2、ライン速度:10m/分の条件で紫外線を照射して光硬化反応させたのち、セロハンテープ剥離試験を実施して文字の状態を観察した。
【0121】
そして下記の基準で、印刷の定着性を評価した。
×:文字の一部または全部が剥離してしまった。
○:文字は全く剥離しなかった。
〈印刷鮮明性評価〉
硬化速度評価で使用したのと同じインクジェットプリンタを使用して、実施例、比較例で調製したクリアインクにより、フロスト加工したガラス表面と、フロスト加工していないガラス表面とに、それぞれ300×300dpiの解像度で約8.5ポイントの線状の下地層を印刷した。
【0122】
次いで同じインクジェットプリンタを使用して、実施例、比較例で組み合わせた着色インクにより、上記下地層の上に重ねて、300×300dpiの解像度で約8.5ポイントの線状の着色層を印刷した。
次いで、印刷直後の文字を、LEDランプ出力:8W/cm2、ライン速度:10m/分の条件で紫外線を照射して光硬化反応させたのち、線幅を測定した。
【0123】
そして下記の基準で、印刷の鮮明性を評価した。
×:フロスト加工したガラス表面と、フロスト加工していないガラス表面のどちらも、線幅が±10%を超える範囲で増減していた。
△:フロスト加工したガラス表面では、線幅の増減は±10%を超えていたが、フロスト加工していないガラス表面では±10%以内であった。
【0124】
○:フロスト加工したガラス表面と、フロスト加工していないガラス表面のどちらも、線幅の増減は±10%以内であった。
以上の結果を、実施例2-1のインクセットのうちクリアインクを使用せずに着色インクのみを用いて直接に、ガラス表面に着色層を印刷した参考例1の結果、ならびに先の実施例1-1~1-7、比較例1-1~1-6、1-9~1-11における硬化速度評価、吐出安定性評価の結果と併せて表9~表12に示す。
【0125】
【0126】
【0127】
【0128】
【0129】
表9~12の実施例2-1~2-7、比較例2-1~2-9、参考例1の結果より、フロスト加工したガラス表面等に印刷する場合は、クリアインクと着色インクとを用いて、下地層と着色層とを重ねて印刷する本発明の印刷方法を採用することにより、印刷の鮮明性を向上できることが判った。
また実施例2-1~2-7、比較例2-1~2-9の結果より、クリアインク、着色インクに用いるラジカル重合性成分として、(1)~(3)の3種を併用することにより、現状よりも硬化開始速度や硬化速度を向上できる上、耐溶剤性や、被印刷面に対する密着性、定着性等に優れた文字などを印刷できることが判った。
【0130】
実施例2-1~2-3、比較例2-1、2-2の結果より、(1)の窒素含有複素環式(メタ)アクリレートの割合は、ラジカル重合性成分の総量中の27質量%以上、54質量%以下で必要があること、(1)~(3)の3種のラジカル重合性成分の合計の割合は、ラジカル重合性成分の総量中の54質量%以上である必要があることが判った。
実施例2-1、2-4、2-5、比較例2-3、2-4の結果より、(2)の多官能(メタ)アクリレートの割合は、ラジカル重合性成分の総量中の5.5質量%以上、27質量%以下である必要があることが判った。
【0131】
さらに実施例2-1、2-6、2-7、比較例2-5、2-6の結果より(3)の窒素含有複素環式ビニル化合物の割合は、ラジカル重合性成分の総量中の5.5質量%以上、27質量%以下である必要があることが判った。