(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-24
(45)【発行日】2023-02-01
(54)【発明の名称】鉄道車両用構体
(51)【国際特許分類】
B61D 17/08 20060101AFI20230125BHJP
【FI】
B61D17/08
(21)【出願番号】P 2018154731
(22)【出願日】2018-08-21
【審査請求日】2021-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390021577
【氏名又は名称】東海旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】白井 篤史
(72)【発明者】
【氏名】北山 茂
(72)【発明者】
【氏名】北村 猛哲
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 正
(72)【発明者】
【氏名】木野村 晃
(72)【発明者】
【氏名】清水 祐司
(72)【発明者】
【氏名】大澤 弘幸
【審査官】金田 直之
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-262687(JP,A)
【文献】特開2016-107888(JP,A)
【文献】特開2018-062316(JP,A)
【文献】特開平02-127160(JP,A)
【文献】実開昭60-053664(JP,U)
【文献】特開2008-138270(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61D 17/04-17/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窓を有し、側外板の内側に複数の骨材が溶接されて取り付けられる側構体を備えた鉄道車両用構体において、
前記側構体は、
前記側外板に形成される前記窓の車室側上方に上側横骨が配置され、前記窓の車室側下方に下側横骨が配置され、
平板状に形成された吹寄部外板が、前記上側横骨と前記下側横骨より車室側に配置され、前記上側横骨と前記下側横骨に渡されるように溶接固定され、
吹寄柱部材が、前記吹寄部外板より更に車室側に設けられ、かつ前記吹寄部外板の車室側上面に接して配置され、前記側外板の腰部と幕部とを繋ぐように接合されること、
を特徴とする鉄道車両用構体。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄道車両用構体において、
前記吹寄部外板の形状が、前記上側横骨又は前記下側横骨に接する部分で横に広く張り出す張出部分を有する形状であり、
前記吹寄部外板は、前記上側横骨と前記下側横骨に渡される柱部分と前記張出部分よりなり、前記柱部分と前記張出部分はその接続部にR部が設けられ、
前記張出部分が前記上側横骨又は前記下側横骨に溶接されて固定されること、
を特徴とする鉄道車両用構体。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の鉄道車両用構体において、
前記吹寄柱部材は、上部リブ及び下部リブを有し、
前記上部リブは、前記側外板の幕部に配置された幕部柱に溶接され、
前記下部リブは、前記側外板の腰部に配置された腰部柱に溶接されていること、
を特徴とする鉄道車両用構体。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1つに記載の鉄道車両用構体において、
前記吹寄部外板に、高強度ステンレス材が使用されていること、
を特徴とする鉄道車両用構体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両用構体の構造に関する技術のうち、特に側構体の構造であって、窓の大きさを大きく取るための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、特に優等車両などでは車体の美観が重視され、例えば側窓を連続して設ける様な構造が要求される場合もある。また、ステンレスの構体を用いる場合には、耐腐食性が高く、塗装が不要で、かつメンテナンス性に優れるといったメリットが得られる。しかし、スポット溶接を用いて構体を製造する関係で、全体座屈や局部座屈に対する強度不足が指摘されるケースがある。
【0003】
特許文献1には、鉄道車両用構体に関する技術が開示されている。ステンレス材料を用いられた側構体は外板とその外板の内側に接合される外板補強部材とを有する。この補強部材は断面ハット形状に構成される。補強部材は、窓開口部付近ではレーザ溶接の間隔を80mm、ハット幅を50mmとする。他の部位では、レーザ溶接の間隔を100mmとし、補強部材のハット幅を70mmとする。補強部材の高さは25mmである。車両構体の製作にあたって、このように部位によってレーザ溶接のピッチを変更することで、必要とされる座屈強度を確保している。
【0004】
特許文献2には、鉄道車両に関する技術が開示されている。外板に骨部材を接合した車両構体によって構成され、その車両構体には装備品を支持するための内骨が接合されている。この内骨が複数の骨部材に接合され、その骨部材同士を連結する継ぎ手として機能する様にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-27366号公報
【文献】特開2010-12863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2の何れの技術を用いた場合でも、側窓を連続して設けるデザインを構体に採用すると、鉄道車両構体の剛性を低下させてしまう事が考えられる。いずれの技術であっても窓ブロックを側入口ブロックなどと組み合わせて側構体を製造する構成になっているので、連続した側窓を設ける為に窓ブロックを大きくすると、大きくした分だけ剛性の低下は避けられず、接合部分での処理なども問題になると考えられる。また、押さえ面でガラスを構体に貼るような方式も考えられるが、この場合には、構体外側に押さえ面が飛び出して配置され、押さえ面はビスなどを用いて側構体に取り付けることになるため、その部分のシールなどが問題となる。何より、押さえ面が構体の外側に飛び出すことは、美観上、望ましくない。
【0007】
そこで、本発明はこの様な課題を解決する為に、より優等列車に相応しい外観を備えた鉄道車両用構体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の一態様による鉄道車両用構体は、以下のような特徴を有する。
【0009】
(1)窓を有する側構体を備えた鉄道車両用構体において、前記側構体は、側外板に形成される前記窓の車室側上方に上側横骨が配置され、前記窓の車室側下方に下側横骨が配置され、平板状に形成された吹寄部外板が、前記上側横骨と前記下側横骨に渡されるように固定され、前記吹寄部外板の車室側上面に接して吹寄柱部材が配置され、前記側外板の腰部と幕部とを繋ぐように接合されること、を特徴とする。
【0010】
上記(1)に記載の態様によって、上側横骨と下側横骨が吹寄部外板によって繋がれ、吹寄柱部材が車室側に配置されて腰板と幕板を接続する構成になっているので、窓に使用される窓ガラスを側外板よりも車内側に配置する事ができる。このため、課題に示したように、押さえ面を側外板より突出させることなく、窓ガラスを配置することが可能となるので、車両構体の剛性を犠牲にすること無く外観上の統一感を出す事ができる。即ち、鉄道車両の美観の向上を図ることが可能となる。
【0011】
(2)(1)に記載の鉄道車両用構体において、前記吹寄部外板の形状が、前記上側横骨又は前記下側横骨に接する部分で横に広く張り出す張出部分を有する形状であり、前記張出部分が前記上側横骨又は前記下側横骨に溶接されて固定されること、が好ましい。
【0012】
上記(2)に記載の態様によって、上側横骨と下側横骨が吹寄部外板によって繋がれ、吹寄柱部材が車室側に配置されて腰板と幕板を接続する構成となり、車両構体に求められる必要な剛性を確保することが可能となる。
【0013】
(3)(2)に記載の鉄道車両用構体において、前記吹寄部外板は、前記上側横骨と前記下側横骨に渡される柱部分と前記張出部分よりなり、前記柱部分と前記張出部分はその接続部分にR部が設けられていること、が好ましい。
【0014】
上記(3)に記載の態様によって、張出部分と柱部分の接続部分にR部が設けられることによって、角部分に応力集中を防ぐことが可能となる。吹寄部外板は張出部分を設けることで、上側横骨と下側横骨とで長手方向で逆方向に力がかかっても、吹寄部外板に応力集中によるダメージが生じることを抑制することができる。
【0015】
(4)(1)乃至(3)のいずれか1つに記載の鉄道車両用構体において、前記吹寄部外板に、高強度ステンレス材が使用されていること、が好ましい。
【0016】
上記(4)に記載の態様によって、鉄道車両用構体の剛性を強化することができる他、吹寄部外板の構造を単純化することが可能となるので、軽量化及び低コスト化に貢献することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】本実施形態の、側構体の車室側から見た平面図である。
【
図3】本実施形態の、側構体に吹寄部外板が取り付けられた様子を示す平面図である。
【
図4】本実施形態の、側構体に吹寄柱部材が取り付けられた様子を示す平面図である。
【
図5】本実施形態の、側構体の車室側から見た拡大平面図である。
【
図6】本実施形態の、吹寄部外板の端部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
まず、本発明の実施形態について、図面を用いて説明を行う。
図1に、本実施形態の、車両構体100の斜視図を示す。車両構体100は、側構体101と、妻構体102と、屋根構体103と、台枠104とを備えている。このうち、側構体101には、入口扉105や側窓110が設けられている。
図2に、側構体101の車室側から見た平面図を示す。
図3に、側構体101に吹寄部外板130が取り付けられた様子を平面図に示す。
図4に、側構体101に吹寄柱部材140が取り付けられた様子を平面図に示す。側構体101は、側窓110の部分に車室側から吹寄部外板130が溶接されて取り付けられ、その内側に吹寄柱部材140が取り付けられている。
【0019】
図5に、側構体101の車室側から見た拡大平面図を示す。
図6に、吹寄部外板130の端部の拡大図を示す。
図6は、
図5のA部に相当する。
図7に、側構体101の断面図を示す。側構体101は、側外板111の内側に複数の骨材が溶接されて取り付けられる構成になっており、便宜上、側外板111の側窓110の上側は幕部112、側窓110の下側は腰部113と呼び分けている。
【0020】
側外板111は、2mm程度の厚みのステンレス板を採用している。そして、側構体101の車室側には
図2などに示すように側窓110の上側に上側横骨114が設けられ、側窓110の下側に下側横骨115が配置され、固定されている。また部分的に側柱116が設けられて側外板111を支持している。
【0021】
側窓110は、側構体101に対して横長に大きく設けられて、後述する窓ガラス106がはめ込まれる。そして、側外板111の内側に配置される上側横骨114と下側横骨115とを繋ぐように、上側横骨114と下側横骨115との内側に吹寄部外板130が溶接によって取り付けられている。
図6に示すように吹寄部外板130は、板状の部材で形成されており、上下に設けられる張出部分131の間に柱部分132が設けられ、張出部分131と柱部分132の接続部分にはR部133が設けられている。よって、吹寄部外板130は略H状に打ち抜かれた板材であり、その材質には例えばSUS301L-Hなどの高強度ステンレス材が用いられることが望ましい。
【0022】
吹寄部外板130より更に車室側には
図4及び
図7などに示すように、吹寄柱部材140が設けられる。吹寄柱部材140はハット状断面になるように、折り曲げ加工されて作られており、上部リブ141や下部リブ142が備えられている。上部リブ141は、側外板111の幕部112に配置された幕部柱117に溶接され、下部リブ142は、側外板111の腰部113に配置された腰部柱118に溶接されて固定される。また、吹寄柱部材140の中央部には中リブ143が設けられており、中リブ143と吹寄部外板130とが当接するように備えられる。
【0023】
本実施形態の鉄道車両用構体は上記構成であるため、以下に示すような作用及び効果を奏する。
【0024】
まず、側外板111よりも車内側に窓ガラス106を配置することが可能となるので、外観を向上させることが可能となる点が効果として挙げられる。これは、側窓110を有する側構体101を備えた車両構体100において、側構体101は、複数の側外板111が繋がれて配置され、側外板111に形成される側窓110の車室側上方に上側横骨114が配置され、側窓110の車室側下方に下側横骨115が配置され、平板状に形成された吹寄部外板130が、上側横骨114と下側横骨115に渡されるように固定され、略ハット状断面に形成された吹寄柱部材140が、吹寄部外板130の車室側上面に接して配置され、側外板111の腰部113と幕部112とを繋ぐように接合されること、を特徴とするからである。
【0025】
つまり、側構体101に大きく抜かれた側窓110の車室側から複数の吹寄部外板130や吹寄柱部材140を用いて支持する構造となっている為、車両構体100の構造的な強度を落とすことが無い。その上で、吹寄部外板130と吹寄柱部材140を車室側にオフセットさせていることで、側外板111より部材を突出させること無く窓ガラス106を設けることが可能となる。つまり、側窓を連続して設ける様なデザインを車両構体100に採用した場合にも、必要な剛性を確保することが可能となる。これにより、外観上の見栄えを向上させることに貢献できる。
【0026】
通勤用の鉄道車両などは、これまで側構体101の側窓110を大きく採るにしても、入口扉105を3箇所程度設けるような構成になっているため、精々6m程度の幅の側窓110が採用される程度である。このため、車両構体100の強度は複数設けられる側柱116などによって支えられ、それ程強度低下の心配をしなくても良く、特許文献1や特許文献2のような構成でも問題は無かった。しかし、優等列車の入口扉105は、車両構体100に1箇所又は2箇所設けられる構成であることが多く、その一方で側窓110をできるだけ広範囲に設置したいとの要望がある。つまり、通勤用の鉄道車両に比べて幅の広い側窓110を要求されることがある。
【0027】
こうした事情から、優等列車の車両構体100にはデザイン上、側窓110の幅が10mを超えるようなものも採用され、外観上、車両構体100の外面は凹凸が少ない事が望まれるケースも出てきた。そうしたデザインを採用しようとすると、吹寄部外板130と吹寄柱部材140を車室側にオフセットする事が望ましく、本実施形態では車両構体100の外面の凹凸が少ない、側外板111から窓ガラス106を押さえる部材が突出しないようなデザインに対応できるような構成となっている。
【0028】
また、吹寄部外板130の形状が、上側横骨114又は下側横骨115に接する部分で横に広く張り出す張出部分131を有する形状であり、張出部分131が上側横骨114又は下側横骨115に溶接されて固定される構造であるため、より車両構体100の剛性を高めることが可能である。
【0029】
また、吹寄部外板130は、上側横骨114と下側横骨115に渡される柱部分132と張出部分131よりなり、柱部分132と張出部分131はその接続部分にR部133が設けられているので、応力集中などが生じにくい構造になっている。このことも車両構体100の剛性を高めることに寄与している。この吹寄部外板130は、板状に形成され、曲げ加工を必要としないので、曲げ加工の難しい高強度ステンレス材を用いることができる。このことにより、加工コストを削減し、より薄い材料でも必要な強度を保つことが可能である。
【0030】
以上、本発明に係る鉄道車両用構体に関する説明をしたが、本発明はこれに限定されるわけではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。例えば、車両構体100の構造について、発明の趣旨から逸脱しない範囲で設計変更することを妨げない。
【符号の説明】
【0031】
100 車両構体
101 側構体
102 妻構体
103 屋根構体
104 台枠
105 入口扉
106 窓ガラス
110 側窓
111 側外板
112 幕部
113 腰部
114 上側横骨
115 下側横骨
116 側柱
130 吹寄部外板
131 張出部分
132 柱部分
133 R部
140 吹寄柱部材