(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-24
(45)【発行日】2023-02-01
(54)【発明の名称】複合繊維及び繊維束
(51)【国際特許分類】
D01F 9/10 20060101AFI20230125BHJP
C01B 32/90 20170101ALI20230125BHJP
【FI】
D01F9/10 A
C01B32/90
(21)【出願番号】P 2018199207
(22)【出願日】2018-10-23
【審査請求日】2021-09-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【氏名又は名称】田邊 淳也
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼岡 勝哉
(72)【発明者】
【氏名】近藤 彰彦
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-256429(JP,A)
【文献】特開平01-179709(JP,A)
【文献】特開平02-133617(JP,A)
【文献】特開平07-277719(JP,A)
【文献】特開平08-295565(JP,A)
【文献】特開2020-066811(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106087112(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/70 - 32/77
C01B 32/90 - 32/991
D01F 9/08 - 9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属炭化物の含有率が92重量%以上の金属炭化物含有繊維と、
前記金属炭化物含有繊維の表面を覆う炭素層と、を備えた複合繊維であって、
酸素含有率が、1.2重量%以下であり、
前記炭素層は、グラフェンからなり、
前記複合繊維の長手方向に30μmの区間を区切って観察したときに、少なくとも一つの区間では、異なる層数の前記グラフェンが観察されることを特徴とする複合繊維。
【請求項2】
前記金属炭化物がSiCであり、
前記金属炭化物含有繊維は、3nm~25nmのSiC粒子が結合されてなることを特徴とする請求項1に記載の複合繊維。
【請求項3】
平均繊維径が6μm~50μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の複合繊維。
【請求項4】
前記金属炭化物含有繊維の表面の90%以上は、前記炭素層によって覆われていることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の複合繊維。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の前記複合繊維を15本以上束ねてなることを特徴とする繊維束。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複合繊維及び繊維束に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子材料分野等における応用を目指して、炭素物質であるカーボンナノチューブを用いたカーボンナノチューブ付きSiCウィスカー、カーボンナノチューブ膜、カーボンナノチューブ膜付きSiC基板等が検討されている(例えば、特許文献1参照)。カーボンナノチューブ等の炭素物質は、高い熱伝導率及び高い電気伝導率を発揮するから、炭素物質を備えたウィスカー、膜、基板等も、熱伝導率及び電気伝導率に優れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1で提供される物の形状は、ウィスカー、膜、基板という特定形状に限定されており、応用範囲が限定されてしまう。他方、繊維は、従来から種々の用途に適用されており、その応用範囲は、一般的に広い。
そこで、炭素物質を備えた繊維が望まれているが、本発明者らが知る限りでは、この構成を備えた実用的な繊維は存在しなかった。
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、高い熱伝導率及び高い電気伝導率を発揮する炭素物質が備えられるとともに、幅広い用途に適用可能な複合繊維及びその繊維束を提供することを目的とする。本発明は、以下の形態として実現することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
〔1〕金属炭化物の含有率が92重量%以上の金属炭化物含有繊維と、
前記金属炭化物含有繊維の表面を覆う炭素層と、を備えた複合繊維であって、
酸素含有率が、1.2重量%以下であり、
前記炭素層は、グラフェンからなり、
前記複合繊維の長手方向に30μmの区間を区切って観察したときに、少なくとも一つの区間では、異なる層数の前記グラフェンが観察されることを特徴とする複合繊維。
【0006】
〔2〕前記金属炭化物がSiCであり、
前記金属炭化物含有繊維は、3nm~25nmのSiC粒子が結合されてなることを特徴とする〔1〕に記載の複合繊維。
【0007】
〔3〕平均繊維径が6μm~50μmであることを特徴とする〔1〕又は〔2〕に記載の複合繊維。
【0008】
〔4〕前記金属炭化物含有繊維の表面の90%以上は、前記炭素層によって覆われていることを特徴とする〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の複合繊維。
【0009】
〔5〕〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の前記複合繊維を15本以上束ねてなることを特徴とする繊維束。
【発明の効果】
【0010】
本発明の複合繊維は、繊維形状であるので、幅広い用途に適用可能である。また、本発明の複合繊維によれば、金属炭化物の含有率が92重量%以上の繊維を備えているので、耐熱性、強度共に優れている。更に、複合繊維は、金属炭化物含有繊維の表面を覆うグラフェンからなる炭素層を備えているから、熱伝導率及び電気伝導率に優れる。
そして、複合繊維の長手方向に30μmの区間を区切って観察したときに、少なくとも一つの区間では、異なる層数のグラフェンが同一区間内に観察されるから、異なる層数のグラフェンの境目に、曲げ応力を逃がすことでき、複合繊維の変位に対する追従性が向上する。
更に、複合繊維の酸素含有率が、1.2重量%以下とすることで、強度がより高くなる。
金属炭化物がSiCであり、金属炭化物含有繊維は、3nm~25nmのSiC粒子が結合されてなる場合には、変位に対して耐性を有し、通常の繊維(樹脂繊維やAl2O3-SiO2繊維等)と同様のしなやかさを有する。
複合繊維の平均繊維径が6μm~50μmである場合には、複合繊維の強度、及び変位に対する耐性が共に良好である。
金属炭化物含有繊維の表面の90%以上が、炭素層によって覆われている場合には、複合繊維の強度がより向上する。
複合繊維を15本以上束ねて繊維束とすると、各複合繊維のバラツキが相殺されて、繊維束としての強度、熱伝導率、電気伝導率のバラツキが少なくなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態における複合繊維の縦断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態における複合繊維の横断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態における複合繊維の縦断面図である。
【
図4】複合繊維の調製方法を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳しく説明する。なお、本明細書において、数値範囲について「~」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値及び上限値を含むものとする。例えば、「10~20」という記載では、下限値である「10」、上限値である「20」のいずれも含むものとする。すなわち、「10~20」は、「10以上20以下」と同じ意味である。
【0013】
1.複合繊維1
複合繊維1は、
図1,2に示されるように、金属炭化物の含有率が92重量%以上の金属炭化物含有繊維3と、金属炭化物含有繊維3の表面3Aを覆う炭素層5と、を備える。
複合繊維1は、酸素含有率が、1.2重量%以下である。炭素層5は、グラフェンからなる。複合繊維1の長手方向に30μmの区間を区切って観察したときに、少なくとも一つの区間では、異なる層数のグラフェンが同一区間内に観察される。
【0014】
(1)平均繊維径、アスペクト比
複合繊維1の平均繊維径は、特に限定されない。平均繊維径は、強度と柔軟性の観点から、6μm~50μmであることが好ましく、10μm~30μmであることがより好ましい。
複合繊維1の平均長さは、特に限定されない。平均長さは、通常200μm以上であり、1mm以上であることが好ましい。
複合繊維1のアスペクト比は、特に限定されない。アスペクト比は、通常20以上である。
【0015】
(2)複合繊維1の折り曲げ時の特徴
本発明の複合繊維1は、折り曲げ角度が60°になるまで折り曲げても折れないという性質を有していることが好ましい。
【0016】
(3)金属炭化物
金属炭化物は、金属の炭化物であれば特に限定されない。金属の炭化物を構成する金属は、Si(ケイ素)、Zr(ジルコニウム)、及びTi(チタン)からなる群より選ばれた1種以上が好ましい。金属炭化物は、複合繊維1の耐熱性及び強度向上の観点から、SiC、ZrC、及びTiCからなる群より選ばれた1種以上が好ましく、特にSiCが好ましい。なお、金属炭化物含有繊維3に含有される金属炭化物の種類は、EPMA(電子プローブマイクロアナライザ)による組成分析の結果と、XRD測定の結果との組み合わせから特定できる。なお、金属炭化物がSiCである場合には、金属炭化物含有繊維3は、柔軟性を有するという観点から、3nm~25nmのSiC粒子が結合されて形成されていることが好ましい。このような金属炭化物含有繊維3は、粒界を有している。
金属炭化物含有繊維3が、複数の金属炭化物粒子の集合体の場合には、金属炭化物含有繊維3は、しなやかさを有している。他方、ウィスカーは、1つの粒子が成長した単結晶でかたい(しなやかさがない)。このように、金属炭化物粒子の集合体である金属炭化物含有繊維3と、ウィスカーとは異なる。
金属炭化物含有繊維3における金属炭化物の含有率、すなわち、金属炭化物含有繊維3における金属炭化物の純度は、92重量%以上である。金属炭化物含有繊維3における金属炭化物の含有率は、95重量%以上であることが好ましい。金属炭化物の含有率は、100重量%であってもよい。
なお、金属炭化物含有繊維3における金属炭化物の含有量は、次のようにして求めることができる。金属炭化物含有繊維3における金属量をICP発光分光分析法によって測定する。金属炭化物含有繊維3における炭素量を炭素含有量分析によって測定する。この炭素含有量分析は、JIS1616の炭化ケイ素の化学分析に準じて行う。
これらの測定結果から、金属炭化物含有繊維3に含まれる金属原子数、及び炭素原子数が求まる。そして、金属炭化物の組成式における金属原子数と炭素原子数の比を考慮して、金属炭化物含有繊維3において金属炭化物の構成に関与する金属原子と炭素原子を求めて、金属炭化物含有繊維3内の金属炭化物の含有量を決定する。例えば、金属炭化物含有繊維3に含まれる金属炭化物がSiCの場合には、SiCを構成する金属原子数(Siの原子数)と炭素原子数の比は「1:1」である。ここで、測定により数が求められた金属炭化物含有繊維3に含まれる金属原子(Si原子)、及び炭素原子のうち、金属炭化物の構成に関与するものは、金属原子(Si原子)1つに対して、炭素原子1つであって、金属原子(Si原子)と炭素原子とが対になるものである。よって、金属原子(Si原子)と炭素原子とが対を構成できずに、余剰となる原子は、金属炭化物を構成しないと考える。具体的には、例えば、測定によって求まった金属原子数(Siの原子数)が100、炭素原子数が105とすると、100の金属原子(Si原子)と100の炭素原子とがSiCを形成しており、余剰の5の炭素原子は、SiCを形成しないと考える。このようにして、SiCを構成する金属原子(Si原子)と炭素原子の量が分かるから、金属炭化物含有繊維3に含まれる金属炭化物(SiC)の含有量が計算できる。そして、この金属炭化物の含有量と、金属炭化物含有繊維3の重量から、金属炭化物の含有率が計算される。
【0017】
(4)炭素層5
本発明の複合繊維1では、炭素層5は、金属炭化物含有繊維3の表面3Aを覆っている。炭素層5は、熱伝導率及び電気伝導率をより高めるとの観点から、金属炭化物含有繊維3の表面3Aの90%以上を覆っていることが好ましく、95%以上を覆っていることがより好ましい。炭素層5は、金属炭化物含有繊維3の表面3Aの100%を覆っていてもよい。
炭素層5は、グラフェンからなる。炭素層5を構成するグラフェンは、炭素原子が蜂の巣状に配列した構造を有する。すなわち、グラフェンは、炭素原子によって形成される六員環ネットワークを有している。グラフェンは、炭素原子によって形成される六員環のみならず、炭素原子によって形成される5員環や、炭素原子によって形成される7員環を含んでもよい。
【0018】
本発明の複合繊維1では、金属炭化物含有繊維3の長手方向に30μmの区間を区切って観察したときに、少なくとも一つの区間では、異なる層数のグラフェンが同一区間内に観察される。この構造の概念が
図3に示されている。
図3では、30μmの区間内に、左から順に、5層のグラフェン、4層のグラフェン、7層のグラフェン、2層のグラフェン、3層のグラフェンが順に並んでいる様子を示している。30μmの区間内に観察される層数は、2種以上であればよい。
図3は、5種が観察されている例である。また、異なる層数のグラフェンの並び順は、特に限定されない。
異なる層数のグラフェンが30μmの同一区間内に観察される構成では、複合繊維1の変位に対する追従性が向上する。より詳細に説明すると、次の現象が起きるものと推測される。まず、この要件を満たさない場合、すなわち、グラフェンの層数が複合繊維1の長手方向で同じ場合には、複合繊維1に曲げ応力をかけると、曲げ応力はグラフェンにそのままかかり、グラフェンの構造が破壊されやすいと推測される。他方、異なる層数のグラフェンが30μmの同一区間内に観察される構成では、曲げ応力を、異なる層数のグラフェンの境目に逃がすことができるから、グラフェンの構造が破壊されにくくなるものと推測される。
同一区間内に観察される異なる層数のグラフェンのうち、最小層数を有するグラフェンと、最大層数を有するグラフェンとの層数の差は、特に限定されないが、例えば3層以上が好ましい。なお、この層数の差の上限値は、限定されないが、通常100層である。
【0019】
グラフェンにおける炭素原子が蜂の巣状に配列した構造である六員環ネットワークのなす面は、金属炭化物含有繊維3の表面3Aと略平行になっていることが好ましい。
すなわち、炭素層5のグラフェンのシート面は、金属炭化物含有繊維3の表面3Aと略平行になっていることが好ましい。
図3は、グラフェンのシート7のシート面が、金属炭化物含有繊維3の表面3Aと略平行になっているようすを模式的に示している。なお、
図3では、グラフェンのシート7が金属炭化物含有繊維3の長手方向に伸張している様子も示されている。この構造は、複合繊維1の熱伝導率及び電気伝導率の向上に寄与する。
【0020】
炭素層5の複合繊維1の径方向の平均厚みは、特に限定されない。この径方向の平均厚みは、10nm~500nmであることが好ましく、30nm~100nmであることがより好ましい。この範囲内では、複合繊維1を折り曲げた際の、炭素層5の破損が抑制される。また、平均厚みがこの範囲では、炭素層5が厚すぎることに起因する、炭素層5と金属炭化物含有繊維3の界面でのクラック(剥がれ)が抑制される。
【0021】
(5)複合繊維1の酸素含有率
複合繊維1の酸素含有率は、1.2重量%以下であり、0.8重量%以下であることがより好ましい。複合繊維1の酸素含有率は、0重量%であってもよい。
複合繊維1の酸素含有率をこの範囲内にすると、複合繊維1が発熱体に使用されて、実際に発熱した際に抵抗値変化が起きにくくなる。
【0022】
(6)金属炭化物含有繊維3の気孔率
金属炭化物含有繊維3の気孔率は、特に限定されない。金属炭化物含有繊維3の気孔率は、金属炭化物含有繊維3の強度と変位性の観点から5%~20%であることが好ましく、8%~15%であることがより好ましい。
金属炭化物含有繊維3の気孔率は、JIS R 7603:1999 炭素繊維-密度の試験方法によって測定される。
【0023】
2.繊維束
本発明の繊維束は、上述の複合繊維1を15本以上束ねてなる。繊維束を構成する複合繊維1の本数の上限値は限定されないが、通常50本である。
【0024】
3.複合繊維1の製造方法
本発明の複合繊維1は、例えば次の方法で製造できる。複合繊維1は、金属炭化物を含有した原料繊維(金属炭化物含有繊維)を、減圧下にて加熱する製造方法で製造できる。
減圧条件としては、例えば、真空度が10-2Torr~10-4Torrの条件を好適に採用できる。真空度は、好ましくは10-3Torr~10-4Torrとすることができる。
加熱温度は、例えば、1650℃~1950℃が好ましく、1700℃~1800℃が好ましい。
なお、複合繊維1を製造する雰囲気中には、酸素が含まれないことが望ましい。
上記加熱温度での保持時間は、1分間~300分間で適宜調整される。複合繊維1の長手方向の30μmの区間内に観察される層数の種類数は、上記真空度及び上記保持時間によって影響される。真空度が高く、かつ保持時間が短くなると、層数の種類数が減少する傾向にある。
複合繊維1を製造する際に、単数(1本)の原料繊維を減圧下で加熱してもよいし、複数の原料繊維を束ねて減圧下で加熱してもよい。また、原料繊維をカーボン製の棒状体に巻き付けた状態とし、減圧下で加熱してもよい。
【実施例】
【0025】
実施例により本発明を更に具体的に説明する。
なお、実験例1~20が実施例に相当し、実験例21~25は比較例である。比較例については、表1において、実験例の番号を示す数字の後に「21*」のように「*」を付している。
【0026】
1.複合繊維1の調製
(1)実験例1~25
実験例1~25では、表1に記載の各種原料繊維12(金属炭化物含有繊維)を
図4に示すように、SiCのバルク10で保持した。この状態で、原料繊維12を高温炉に入れ、真空度1×10
-4Torr、1750℃の条件で加熱し、各実験例の複合繊維1を得た。
表1に記載の各原料繊維の詳細は、以下の通りである。
「TiC繊維」は、平均繊維径30μmのTiC繊維を意味する。
「ZrC繊維」は、平均繊維径30μmのZrC繊維を意味する。
「CrC繊維」は、平均繊維径30μmのCrC繊維を意味する。
「SiC繊維」は、平均繊維径30μmのSiC繊維を意味する。
なお、これらの各原料繊維は、表1の「金属炭化物含有繊維を構成する粒子の粒子径」の欄に記載された平均粒子径を有する粒子の結合体である。
【0027】
2.評価方法
(1)複合繊維1のうち、炭素層5よりも内側部分(金属炭化物含有繊維3)における金属炭化物の含有率は、上述の「(3)金属炭化物」の欄で記載の方法により求めた。この金属炭化物の含有率(%)は、実験例1~25では、いずれも92重量%以上であった。
(2)炭素層5が金属炭化物含有繊維3の表面を覆っている割合たる被覆率は、複合繊維1 10本をSEMにて観察し、画像解析によって平均被覆率として算出した。
(3)複合繊維1の酸素含有率は、JIS1616:2007の13項記載の方法を用いて求めた。
(4)金属炭化物含有繊維3を構成する粒子の粒子径は、以下の要領で求めた。SEM観察により0.5μm×0.5μmの視野で観察し、観察画像の対角線を結ぶ。対角線上に存在する粒子の長辺と短辺を足し2で割ったものを粒子径とする。対角線上に存在する粒子全てにそれをおこない平均化したものを平均粒径とする。
(5)金属炭化物含有繊維3の気孔率は、JIS R 7603:1999 炭素繊維-密度の試験方法によって測定した。
(6)異なる層数のグラフェンが30μmの同一区間内に観察されることの確認は、TEM観察により行った。すなわち、複合繊維1の縦断面をTEMで観察して、複合繊維1の長手方向に30μmの区間を複数区切って観察した。区間の数は、3とした。表1では、観察したいずれかの区間内に異なる層数のグラフェンが観察された場合を「〇」、観察されない場合を「×」とした。「×」の場合は、いずれの区間でも同一区間内は特定の層数のグラフェンのみが観察された。
【0028】
(7)変位性
複合繊維1に、曲げ疲労を10回加えた後に抵抗値を測定した。曲げ疲労後の抵抗値について、初期の抵抗値に対する変化率を求め、これを変位性として評価した。評価は以下のようにした。なお、この変位性が少ないほど性能がよい。
「△」…20%以上
「〇」…10%以上20%未満
「◎」…5%以上10%未満
「★」…5%未満
【0029】
(8)引張強度、引張弾性率
引張強度、引張弾性率は、JIS7606:2000 炭素繊維-単繊維の引張特性の試験方法に準じて評価した。
評価は以下のようにした。
引張強度
「△」…2.1GPa以上2.4GPa未満
「〇」…2.4GPa以上2.7GPa未満
「◎」…2.7GPa以上3.0GPa未満
「★」…3.0GPa以上
引張弾性率
「△」…200GPa未満
「〇」…200GPa以上250GPa未満
「◎」…250GPa以上300GPa未満
「★」…300GPa以上
【0030】
3.評価結果
表1に評価結果を併記する。
【0031】
【0032】
実施例である実験例1~20は、次の〔1〕~〔4〕の全ての要件を満たしている。
〔1〕複合繊維1は、金属炭化物の含有率が92重量%以上の金属炭化物含有繊維3と、金属炭化物含有繊維3の表面3Aを覆う炭素層5と、を備える。
〔2〕酸素含有率は、1.2重量%以下である。
〔3〕炭素層5は、グラフェンからなる。
〔4〕複合繊維1の長手方向に30μmの区間を区切って観察したときに、少なくとも一つの区間では、異なる層数のグラフェンが観察される。
これに対して、比較例である実験例21~25は以下の要件を満たしていない。
実験例21~23では、〔2〕の要件を満たしてない。すなわち、実験例21~23では、酸素含有率が、1.2重量%よりも大きい。
実験例24~25では、〔4〕の要件を満たしてない。すなわち、実験例24~25では、30μmの区間を区切って観察したいずれの区間でも、同一区間内では特定の1種の層数のグラフェンのみが観察された。
【0033】
実施例である実験例1~20は、比較例である実験例21~23と比較して、引張強度及び引張弾性率が優れていた。
実施例である実験例1~20は、比較例である実験例24と比較して、変位性及び引張弾性率が優れていた。
実施例である実験例1~20は、比較例である実験例25と比較して、変位性が優れていた。
【0034】
また、実施例である実験例1~20のうち、金属炭化物含有繊維3がSiC繊維であり、3nm~25nmの粒子(SiC粒子)が結合されてなる実験例5~20は、変位性、引張強度、及び引張弾性率が特に優れていた。
【0035】
また、実施例である実験例1~20のうち、平均繊維径が6μm~50μmである実験例9~20は、変位性が極めて優れていた。
【0036】
また、実施例である実験例1~20のうち、被覆率が90%以上である実験例14~20は、変位性、引張強度、及び引張弾性率が極めて優れていた。
【0037】
<他の実施形態(変形例)>
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の複合繊維は、電気伝導、熱伝導の媒体として使用することができる。具体的には、複合繊維は、トランス、モーター、配線基板、放熱基板、線材等に利用可能である。
【符号の説明】
【0039】
1 …複合繊維
3 …金属炭化物含有繊維
3A…表面
5 …炭素層
7 …グラフェンのシート
10…SiCのバルク
12…原料繊維