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特許7216555放熱性の高い絶縁電線及びそれを用いたコイル
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  • 特許-放熱性の高い絶縁電線及びそれを用いたコイル 図1
  • 特許-放熱性の高い絶縁電線及びそれを用いたコイル 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-24
(45)【発行日】2023-02-01
(54)【発明の名称】放熱性の高い絶縁電線及びそれを用いたコイル
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/02 20060101AFI20230125BHJP
   H01B 7/00 20060101ALI20230125BHJP
   H01F 5/06 20060101ALI20230125BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20230125BHJP
   B32B 15/02 20060101ALI20230125BHJP
【FI】
H01B7/02 A
H01B7/00 303
H01F5/06 P
B32B27/20 A
B32B15/02
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019007388
(22)【出願日】2019-01-18
(65)【公開番号】P2020119645
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000003414
【氏名又は名称】東京特殊電線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117226
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 俊一
(72)【発明者】
【氏名】依田 直人
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-079187(JP,A)
【文献】国際公開第2014/014044(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/02
H01B 7/00
H01F 5/06
B32B 27/20
B32B 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅又は銅合金からなる金属導体と、該金属導体の外周に設けられた絶縁層とを有する絶縁電線において、前記絶縁層が、導電性のない黒色顔料を1.0~5.0質量%の範囲内で含前記黒色顔料が、銅-クロム-マンガン複合酸化物又は鉄-クロム複合酸化物である、ことを特徴とする放熱性の高いコイル用絶縁電線。
【請求項2】
前記絶縁層の外周には、融着層が設けられている、請求項に記載の放熱性の高いコイル用絶縁電線。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の放熱性の高いコイル用絶縁電線を用いてなるコイル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放熱性の高い絶縁電線及びそれを用いたコイルに関する。さらに詳しくは、高耐熱で高出力のボイスコイルや、その他耐熱性が要求されるコイルに適用できる放熱性の高い絶縁電線、及びそれを用いたコイルに関する。
【背景技術】
【0002】
高耐熱で高出力のボイスコイルや、その他耐熱性が要求されるコイルでは、使用する絶縁電線の耐熱性や放熱性を向上させることが要請されている。こうした要請に対して、耐熱性を向上させる手段として、絶縁電線を構成する絶縁層を耐熱性の無機物や有機物で形成したり、絶縁層に耐熱性の無機物や有機物を含有させたりすることが検討されている。また、放熱性を向上させる手段として、絶縁電線を構成する絶縁層に熱伝導性フィラーや熱伝導性樹脂組成物を含有させることが検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、部分放電の発生を効果的に防止できるとともに、発熱による劣化を防止でき、かつ、機械的特性に優れた絶縁電線およびこれを用いた電気コイルが提案されている。この絶縁電線は、導体と、導体上に形成される高耐熱性の絶縁層と、絶縁層上に形成される半導電層とを有し、半導電層が、樹脂とカーボンブラックとの混合物で構成し、その半導電層の表面抵抗を10Ω以上1012Ω未満に設定している。こうすることにより、部分放電の発生を効果的に防止できるとともに、絶縁電線の表面が発熱により劣化するのを効果的に抑制できるというものである。
【0004】
また、特許文献2には、放熱用部材を介した放熱性に優れる絶縁電線が提案されている。この絶縁電線は、線状の導体と、この導体の外周面側に被覆される融着層とを備え、上記融着層が、絶縁性を有する高熱伝導性フィラーと、この高熱伝導性フィラーのバインダーとを有し、その融着層のバインダーの主成分をフェノキシ樹脂又はエポキシ樹脂とし、高熱伝導性フィラーを窒化ホウ素を主成分とする鱗片状フィラーとしている。この技術は、融着層が導体の外周面側に被覆されているので、金属製ケース等に接触させて加熱することにより、融着層のバインダーが融解して金属ケースとの空間ギャップが縮小又は消滅する。そのため、絶縁電線を用いたコイルは、放熱用部材との密着性に優れるので、放熱用部材に容易かつ確実に固定できる。さらに、絶縁電線は、融着層が高熱伝導性フィラーにより高い熱伝導性を有しているので、これらの相乗効果で優れた放熱性が得られるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-294312号公報
【文献】特開2016-046061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1で用いるカーボンブラックは導電性があるので、半導電層の構成材料として用いることできるが、絶縁層の構成材料として用いるのは向いていない。
【0007】
特許文献2の絶縁電線は、放熱用部材と密着性を高めて放熱性を得るものであるが、放熱用部材を持たない単体のコイルの放熱性を高める効果はない。また、融着層へ高熱伝導性フィラーを添加しているため、コイルを自己融着させた時に融着層が一度に溶融するので、高熱伝導性フィラーの分布が均一とならず、コイルの場所による放熱性にバラツキが生じるおそれがある。さらに、カーボンや金属微粉等の熱伝導性フィラーは、電気伝導性も有しているため、絶縁層に含有させるのは適していない。
【0008】
絶縁性のフィラーを使用することも考えられるが、絶縁性を担保するためには、大量の添加が必要であり、絶縁層の可撓性が著しく低下してしまう。また、無機系の絶縁層では可撓性が低く、コイル巻線工程での作業性が悪く、コイルの品質も安定しない。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、高耐熱で高出力のボイスコイルや、その他耐熱性が要求されるコイルに適用できる放熱性の高い絶縁電線、及びそれを用いたコイルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明に係る絶縁電線は、銅又は銅合金からなる金属導体と、該金属導体の外周に設けられた絶縁層とを有する絶縁電線において、前記絶縁層が、導電性のない黒色顔料を1.0~5.0質量%の範囲内で含むことを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、絶縁層が導電性のない黒色顔料を上記範囲内で含むので、その黒色顔料が放熱要素となり、放熱性の高い絶縁電線とすることができる。黒色顔料は絶縁層中への分散性が高いので、放熱性にバラツキがなく、コイルとした後の特性を安定化させることができる。また、高価な耐熱性樹脂に比べて安価な黒色顔料を含有した絶縁層は、可撓性もあるので、コイル用線材として好ましく、コストメリットのあるコイルとすることができる。
【0012】
本発明に係る絶縁電線において、前記黒色顔料が、銅-クロム-マンガン複合酸化物、鉄-クロム複合酸化物等の酸化物系黒色顔料、又は、非カーボンブラック系有機顔料であることが好ましい。
【0013】
本発明に係る絶縁電線において、前記絶縁層の外周には、融着層が設けられていることが好ましい。
【0014】
(2)本発明に係るコイルは、上記本発明に係る放熱性の高い絶縁電線を用いたコイルである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高耐熱で高出力のボイスコイルや、その他耐熱性が要求されるコイルに適用できる放熱性の高い絶縁電線、及びそれを用いたコイルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る絶縁電線の一例を示す模式的な断面図である。
図2】本発明に係るコイルの例を示す模式的な斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る放熱性の高い絶縁電線及びそれを用いたコイルについて図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は図示の実施形態に限定されるものではない。
【0018】
[絶縁電線]
本発明に係る絶縁電線10は、図1に示すように、銅又は銅合金からなる金属導体1と、金属導体1の外周に設けられた絶縁層2とを有する放熱性の高い絶縁電線である。そして、その絶縁層2が、導電性のない黒色顔料3を1.0~5.0質量%の範囲内で含むことに特徴がある。この絶縁電線10は、絶縁層2が導電性のない黒色顔料3を上記範囲内で含むので、その黒色顔料3が放熱要素となり、放熱性の高い絶縁電線10とすることができる。黒色顔料3は絶縁層2中への分散性が高いので、放熱性にバラツキがなく、図2に示す形態のコイル20とした後の特性を安定化させることができる。また、高価な耐熱性樹脂に比べて安価な黒色顔料3を含有した絶縁層2は、可撓性もあるので、コイル用線材として好ましく、コストメリットのあるコイル20とすることができる。
【0019】
以下、絶縁電線の構成要素について詳しく説明する。
【0020】
(金属導体)
金属導体1は、銅又は銅合金からなるものである。本願は、高耐熱で高出力のボイスコイルや、その他耐熱性が要求されるコイルに適用できるコイル用線材であるので、例えば、タフピッチ銅、無酸素銅、銅-錫合金、銅-銀合金、銅-ニッケル合金、銅クラッドアルミニウム、銅クラッドマグネシウム等から選ばれることが好ましい。これらの金属導体1は、導電率60%IACS以上、好ましくは96%IACS以上の低抵抗な良導電性であるので、コイル用線材として好ましい。金属導体1の直径は特に限定されないが、例えば0.05~0.60mm程度の範囲内である。
【0021】
(絶縁層)
絶縁層2は、図1に示すように、金属導体1の外周上に設けられている。絶縁層2の材質は、特に限定されないが、一般的な絶縁電線に用いられている樹脂材料であればよい。例えば、汎用ポリウレタン、変性ポリウレタン、ポリエステルイミド等のはんだ付け可能な絶縁層形成用樹脂材料であってもよいし、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエステル等のはんだ付けできない絶縁層形成用樹脂材料であってもよい。また、ポリフェニルサルファイド(PPS)、エチレン-四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、四フッ化エチレン-六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、フッ素化樹脂共重合体(ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂:PFA)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド(PA)、ポリフェニルサルファイド(PPS)、四フッ化エチレン-六フッ化プロピレン共重合体(FEP)等のフッ素樹脂であってもよい。絶縁2は、単層であってもよいし積層であってもよい。絶縁層2を積層形態とする場合、前記した同一又は異なる樹脂層を設けることができる。
【0022】
黒色顔料3は、銅-クロム-マンガン複合酸化物、鉄-クロム複合酸化物等の酸化物系黒色顔料、又は、非カーボンブラック系有機顔料であることが好ましい。特に、銅-クロム-マンガン複合酸化物等の酸化物系黒色顔料は、カーボンブラック等の炭素系黒色顔料とは異なり、導電性を持たないので、絶縁性を阻害し難いという利点がある。本発明では、絶縁層2に含有させる黒色顔料3の含有量を適正に選択することで、放熱性を向上させ、また所定の温度で熱処理(168時間)をした後の絶縁破壊電圧値の残率(BDV残率)が向上したことを見いだし、本発明に至った。
【0023】
黒色顔料3の含有量は、1.0~5.0質量%の範囲内である。この範囲内で含まれることにより、黒色顔料3が黒体輻射の放熱要素として作用し、放熱性の高い絶縁層2となるとともに、絶縁層中への分散性が高いので、放熱性にバラツキがなく、コイルとした後の特性を安定化させることができる。黒色顔料3の含有量が1.0質量%未満では、色相が不安定で、十分な放熱性が得られないことがあり、黒色顔料3の含有量が5.0質量%を超えると、ピンホールが発生し易くなって絶縁層2の絶縁破壊電圧が下がってしまうことがある。
【0024】
なお、黒色顔料3を含有する絶縁層2は、耐熱性に優れ、高温雰囲気下でも絶縁性を保持し、高耐久化が図れるという利点がある。さらに、絶縁層2のレーザー剥離がし易いという効果もあり、さらに絶縁層2の補強効果もある。
【0025】
黒色顔料3を含有する絶縁層2の厚さは特に限定されないが、例えば0.002~0.025mmの範囲内であればよく、良好な絶縁性を保持することができる。絶縁層2は、エナメル塗料を塗布焼付けして形成できる。これらの被膜は、通常のエナメル線の製造装置を用いて製造できる。
【0026】
(融着層)
融着層4は、絶縁層2の外周に必要に応じて設けられていてもよい。融着層4の厚さは特に限定されないが、例えば0.002~0.020mmの範囲内であればよく、良好な融着性を付与することができる。融着層4は、例えばナイロンやエポキシ等の融着エナメル塗料を塗布焼付けして形成できる。これらの被膜は、通常のエナメル線の製造装置を用いて製造できる。
【0027】
(絶縁電線)
こうして構成された絶縁電線10は、その直径が0.05~0.6mm程度の範囲内とすることが好ましく、小型コイル部品に使用されるコイル用エナメル被覆線として好ましく利用でき、主にヘッドホンやスピーカー等のボイスコイルとして有用な銅被覆マグネシウム線として好ましく用いることができる。また、耐熱性や放熱性が要求される高耐熱・高出力ボイスコイル、高出力小型コイル、車載用コイル等のコイル用線材として好ましく適用することができる。また、こうした絶縁電線10は、単線として用いてもよいし、リッツ線等の複合線として用いてもよい。
【0028】
[コイル]
本発明に係るコイル20は、上記した本発明に係る放熱性の高い絶縁電線10を用いて構成されている。コイルとしては、高周波コイル等の巻線部品、高周波コイル等の巻線部品を備えた回路基板等を挙げることができる。
【実施例
【0029】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0030】
[実施例1]
直径0.31mmの銅線を金属導体1として用い、その外周にポリアミドイミド樹脂(東特塗料株式会社製、品名:AI-30C)に固形分比で3.0質量%の黒色顔料3(アサヒ化成工業株式会社製、銅-クロム-マンガン複合酸化物、平均粒径:0.7μm)を配合し、溶剤(クレゾール/キシレン)中で十分に分散させたエナメル絶縁塗料を塗布して、黒色顔料3を含有した厚さ13μmの絶縁層2となるようにエナメル焼き付けした。その上に、融着塗料(リツ陽佳山電子材料有限公司製、品名:JY-20)を厚さ12μmの融着層4となるようにエナメル焼き付けした。得られた絶縁電線10の外径は0.35mmであった。なお、得られた絶縁電線10は、ピンホール:0個/5m、絶縁破壊電圧値:8.2kV、伸び:35%、耐軟化:380℃であった。
【0031】
[実施例2]
黒色顔料3の含有量を1.5質量%とした他は、実施例1と同様にして絶縁電線10を得た。
【0032】
[実施例3]
黒色顔料3の含有量を5.0質量%とした他は、実施例1と同様にして絶縁電線10を得た。
【0033】
[比較例1]
黒色顔料を含有させない他は、実施例1と同様にして絶縁電線を得た。
【0034】
[絶縁電線の耐熱性の評価]
耐熱性は、実施例1と比較例1の絶縁電線を用い、表1に示す各温度(220℃、240℃、260℃)で168時間の熱処理を行い、絶縁破壊電圧値(BDV:kV)を測定し、残率(%)を算出した。なお、表1中の「Ref」は熱処理しない場合であり、残率(%)はRefのBDV(kV)に対する割合である。その結果を表1に示す。表1に示すように実施例1の絶縁電線10は、比較例1の絶縁電線に比べてBDV残率が高く、耐熱性に優れ、高温雰囲気でも絶縁性を保持していた。なお、JIS C 3216-6に準拠した方法で測定した温度指数(推定値)では約50℃向上していることが確認できた。
【0035】
【表1】
【0036】
[放熱性の評価]
コイルの放熱性の評価は、実施例1と比較例1の絶縁電線を用いて作製したコイルで行った。コイルは、層数を2とし、合計ターン数を106として図2に示す態様で作製した。試験は、実施例1と比較例1のコイルに直流電圧を印加したときに流れた電流を測定して入力電力(W)を算出し、IEC-J60950-1に準拠した抵抗法によりコイルの表面温度を換算した。その結果を表2に示す。表2からわかるように、同程度の条件では、実施例1の方が比較例1に比べて低い温度になっており、放熱性が高いことがわかった。
【0037】
【表2】
【符号の説明】
【0038】
1 金属導体
2 絶縁層
3 黒色顔料
4 融着層
10 絶縁電線
20 コイル

図1
図2