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特許7216563グリース基油、および該グリース基油を含有するグリース組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-24
(45)【発行日】2023-02-01
(54)【発明の名称】グリース基油、および該グリース基油を含有するグリース組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 105/38 20060101AFI20230125BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20230125BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20230125BHJP
   C10N 30/08 20060101ALN20230125BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20230125BHJP
【FI】
C10M105/38
C10N20:02
C10N40:02
C10N30:08
C10N50:10
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019022657
(22)【出願日】2019-02-12
(65)【公開番号】P2020128516
(43)【公開日】2020-08-27
【審査請求日】2022-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000162423
【氏名又は名称】協同油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 辰也
(72)【発明者】
【氏名】金澤 裕太
(72)【発明者】
【氏名】小森谷 智延
(72)【発明者】
【氏名】石川 博之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雄太
【審査官】堀 洋樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-100369(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
C10N 20/00-80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール(A)とカルボン酸(B)の縮合エステルを含有するグリース基油であって、
前記アルコール(A)が、一般式(1):
【化1】
(式(1)中、RからRは、独立して、水素原子、メチル基、または水酸基を表し、かつRからRのうち、少なくとも2つは、水酸基を表す。)で表される多価アルコールを含有し、
前記カルボン酸(B)が、炭素数5以上9以下の脂肪酸(B-1)、炭素数15以上20以下の分岐脂肪酸(B-2)、炭素数4以上8以下のシクロアルカンモノカルボン酸(B-3)、および芳香族カルボン酸(B-4)を含有し、
前記カルボン酸(B)中、前記脂肪酸(B-1)の割合が30モル%以上50モル%以下、前記分岐脂肪酸(B-2)の割合が30モル%以上50モル%以下、前記シクロアルカンモノカルボン酸(B-3)が10モル%以上30モル%以下、および前記芳香族カルボン酸(B-4)が1モル%以上15モル%以下であることを特徴とするグリース基油。
【請求項2】
前記縮合エステルは、40℃での動粘度が80mm/秒以上110mm/秒以下、かつ100℃での動粘度が11mm/秒以上14mm/秒以下であることを特徴とする請求項1記載のグリース基油。
【請求項3】
前記シクロアルカンモノカルボン酸(B-3)および前記芳香族カルボン酸(B-4)のモル比((B-3)/(B-4))が、0.5以上20以下であることを特徴とする請求項1または2記載のグリース基油。
【請求項4】
前記グリース基油中、前記縮合エステルの割合が、50質量%以上100質量%以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のグリース基油。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のグリース基油を含有することを特徴とするグリース組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリース基油、および該グリース基油を含有するグリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑油は摩擦低減を求める様々な分野に用いられている。古くは天然油脂や石油精製物などが利用されてきたが、近年、合成潤滑油が用途に合わせて合成され、利用されるようになった。特に、合成エステルは熱安定性に優れ、具体的には、有機酸エステル、リン酸エステル、珪酸エステルなどが例示される。
【0003】
前記有機酸エステルの中でも、1)低流動点、高粘度指数で使用温度範囲が広い、2)引火点が高く、蒸発量が少ない、3)熱・酸化安定性が優れている、4)潤滑性が良い、5)清浄分散作用がある、6)生分解性があるといった観点から、ポリオールエステル(多価アルコールとカルボン酸の縮合エステル)が利用され、特に、熱・酸化安定性に優れることからヒンダードエステルが多くの分野で利用されている。
【0004】
しかしながら、近年、産業技術の発展に伴い、高い生産性や操業安定性が常に求められ、より耐久性が高く、高耐熱性の潤滑油が求められるようになってきた。
【0005】
例えば、特許文献1には、水素原子、メチル基、または水酸基を持ち、水酸基が2~最高4個含有する多価アルコール(A)と炭素数4以上8以下のシクロアルカンモノカルボン酸(B)の縮合エステルを含有する潤滑油基油が耐熱性に優れることが開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、ペンタエリスリトールのエステル化合物において、少なくとも1つがカルボン酸残基であり,その他の基は、水素基,メチル基,ベンゾイルオキシ基,ナフトイルオキシ基から選択され、かつベンゾイルオキシ基またはナフトイルオキシ基である化合物の割合が、5~100モル%であるエステル化合物を含有する潤滑油基油が耐熱性に優れることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2018-95840号公報
【文献】特開2018-100369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
とくに、グリース基油などの潤滑油基油は、寒冷地において、長期保管しても流動性を維持できる(低温保管性を有する)ものが求められている。
【0009】
しかしながら、上記の特許文献1および2で具体的に開示された潤滑油基油は、低温保管性を十分に満足できるものではなかった。
【0010】
本発明は、上記の実情に鑑みてなされたものであり、耐熱性および低温保管性を有する縮合エステルを含有するグリース基油と、該グリース基油を含有するグリース組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は、アルコール(A)とカルボン酸(B)の縮合エステルを含有するグリース基油であって、
前記アルコール(A)が、一般式(1):
【化1】
(式(1)中、RからRは、独立して、水素原子、メチル基、または水酸基を表し、かつRからRのうち、少なくとも2つは、水酸基を表す。)で表される多価アルコールを含有し、
前記カルボン酸(B)が、炭素数5以上9以下の脂肪酸(B-1)、炭素数15以上20以下の分岐脂肪酸(B-2)、炭素数4以上8以下のシクロアルカンモノカルボン酸(B-3)、および芳香族カルボン酸(B-4)を含有し、
前記カルボン酸(B)中、前記脂肪酸(B-1)の割合が30モル%以上50モル%以下、前記分岐脂肪酸(B-2)の割合が30モル%以上50モル%以下、前記シクロアルカンモノカルボン酸(B-3)が10モル%以上30モル%以下、および前記芳香族カルボン酸(B-4)が1モル%以上15モル%以下であることを特徴とするグリース基油、に関する。
【0012】
また、本発明は、前記グリース基油を含有することを特徴とするグリース組成物、に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るグリース基油における効果の作用メカニズムの詳細は不明な部分があるが、以下のように推測される。但し、本発明は、この作用メカニズムに限定して解釈されなくてもよい。
【0014】
本発明は、前記一般式(1)で表される多価アルコールを含有するアルコール(A)とカルボン酸(B)の縮合エステルを含有するグリース基油であり、カルボン酸(B)が、特定量の、炭素数5以上9以下の脂肪酸(B-1)、炭素数15以上20以下の分岐脂肪酸(B-2)、炭素数4以上8以下のシクロアルカンモノカルボン酸(B-3)、および芳香族カルボン酸(B-4)を含有する。このシクロアルカンモノカルボン酸由来のエステル鎖は、シクロ環の環ひずみの効果により化学的に安定であり、構造由来の剛直さにより脆弱部位への熱劣化を受けにくいことから、耐熱性が高く、高温においても熱劣化することなく安定に存在するため、重合化や揮散することなくグリース基油、あるいはグリース組成物中に留まるものと推測される。また、芳香族カルボン酸由来のエステル鎖も当該エステル鎖の耐熱性が高く、高温においても熱劣化することなく安定に存在するため、重合化や揮散することなくグリース基油、あるいはグリース組成物中に留まるものと推測される。さらに、シクロアルカンモノカルボン酸由来のエステル鎖と芳香族カルボン酸由来のエステル鎖が共存することにより、極低温下でもエステル分子同士の結晶化が抑制されるため、本発明のグリース基油は、凝固せず流動性を維持するものと推測される。
【0015】
また、本発明のグリース基油に含まれる前記縮合エステルは、40℃での動粘度が80mm/秒以上110mm/秒以下、かつ100℃での動粘度が11mm/秒以上14mm/秒以下である場合、グリース基油として取り扱いやすい上に、潤滑面での油膜厚さを確保でき、グリースとして高い潤滑性を発揮するものと推測される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のグリース基油は、アルコール(A)とカルボン酸(B)の縮合エステルを含有し、前記アルコールが、一般式(1):
【化2】
(式(1)中、RからRは、独立して、水素原子、メチル基、または水酸基を表し、かつRからRのうち、少なくとも2つは、水酸基を表す。)で表される多価アルコールを含有し、前記カルボン酸が、炭素数5以上9以下の脂肪酸(B-1)、炭素数15以上20以下の分岐脂肪酸(B-2)、炭素数4以上8以下のシクロアルカンモノカルボン酸(B-3)、および芳香族カルボン酸(B-4)を含有する。
【0017】
<アルコール(A)>
前記アルコール(A)は、前記一般式(1)で表される多価アルコールを含有する。
【0018】
前記一般式(1)中のRからRは、RからRのうち、少なくとも2つは、水酸基であり、3つ以上の水酸基が好ましい。多価アルコールとしては、例えば、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ネオペンチルグリコールなどが挙げられる。多価アルコールは、縮合エステルの耐熱性および潤滑性向上の観点から、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ネオペンチルグリコールが好ましく、そして、ペンタエリスリトールがより好ましい。
【0019】
なお、前記アルコール(A)では、前記多価アルコール以外のアルコール成分として、各種の1価アルコールまたはポリオールを適宜用いることができる。1価アルコールの炭素数は、通常、1~24であり、炭素鎖は直鎖または分岐のいずれでもよく、また、飽和または不飽和のいずれであってもよい。ポリオールとしては、通常、2~10価のものが用いられる。
【0020】
前記ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオールなどのジオール化合物;1,2,4-ブタントリオール、1,3,5-ペンタントリオール、1,2,6-ヘキサントリオールなどのトリオール化合物;ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトールなどのトリメチロールアルカンの多量体;グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリンなどのポリグリセリン;ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール、キシロース、アラビノース、リボース、ラムノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、セロビオース、マルトース、イソマルトース、トレハロース、スクロースなどの糖類などが挙げられる。
【0021】
<カルボン酸(B)>
前記カルボン酸(B)は、炭素数5以上9以下の脂肪酸(B-1)、炭素数15以上20以下の分岐脂肪酸(B-2)、炭素数4以上8以下のシクロアルカンモノカルボン酸(B-3)、および芳香族カルボン酸(B-4)を含有する。
【0022】
前記炭素数5以上9以下の脂肪酸(B-1)は、炭素鎖が不飽和でも飽和でもよいが、縮合エステルの耐熱性向上の観点から、飽和が好ましい。また、前記脂肪酸(B-1)は、縮合エステルの耐熱性および潤滑性向上の観点から、炭素数6以上8以下が好ましく、7がより好ましい。
【0023】
前記脂肪酸(B-1)としては、例えば、吉草酸、2-メチル吉草酸、4-メチル吉草酸、n-ヘキサン酸、2-メチルヘキサン酸、5-メチルヘキサン酸、4,4-ジメチルペンタン酸、n-ヘプタン酸、2-メチルヘプタン酸、2-エチルヘキサン酸、2,2-ジメチルヘキサン酸、n-オクタン酸、3,5,5-トリメチルヘキサン酸、n-ノナン酸などが挙げられる。前記脂肪酸(B-1)は、耐熱性の観点から、直鎖の吉草酸、n-ヘキサン酸、n-ヘプタン酸、n-オクタン酸、n-ノナン酸が好ましく、n-ヘプタン酸がより好ましい。
【0024】
前記炭素数15以上20以下の分岐脂肪酸(B-2)は、炭素鎖が不飽和でも飽和でもよいが、縮合エステルの耐熱性向上の観点から、飽和が好ましい。また、前記分岐脂肪酸(B-2)は、縮合エステルの耐熱性および潤滑性向上の観点から、炭素数18以上20以下が好ましく、18がより好ましい。
【0025】
前記分岐脂肪酸(B-2)としては、例えば、13-メチルテトラデカン酸、12-メチルテトラデカン酸、15-メチルヘキサデカン酸、14-メチルヘキサデカン酸、10-メチルヘキサデカン酸、2-ヘキシルデカン酸、イソパルミチン酸、イソステアリン酸、イソアラキン酸、フィタン酸などが挙げられる。前記分岐脂肪酸(B-2)は、縮合エステルの耐熱性および潤滑性向上の観点から、2-ヘキシルデカン酸、イソパルミチン酸、イソステアリン酸、イソアラキン酸が好ましく、イソステアリン酸、イソパルミチン酸がより好ましい。
【0026】
前記炭素数4以上8以下のシクロアルカンモノカルボン酸(B-3)は、アルキル鎖で置換されていてもよく、当該アルキル鎖は直鎖でも分岐鎖でもよい。
【0027】
前記シクロアルカンモノカルボン酸(B-3)のシクロ環は、縮合エステルの耐熱性向上の観点から、5から7員環が好ましく、6員環がより好ましい。
【0028】
前記シクロアルカンモノカルボン酸(B-3)としては、例えば、シクロプロパンカルボン酸、シクロブタンカルボン酸、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロヘプタンカルボン酸、メチルシクロヘキサンカルボン酸などが挙げられる。前記シクロアルカンモノカルボン酸(B-3)は、縮合エステルの耐熱性向上の観点から、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロヘプタンカルボン酸、メチルシクロヘキサンカルボン酸が好ましく、シクロヘキサンカルボン酸、シクロヘプタンカルボン酸、メチルシクロヘキサンカルボン酸がより好ましく、シクロヘキサンカルボン酸がさらに好ましい。
【0029】
前記芳香族カルボン酸(B-4)は、アルキル鎖で置換されていてもよく、当該アルキル鎖は直鎖でも分岐鎖でもよい。
【0030】
前記芳香族カルボン酸(B-4)の芳香環は、縮合エステルの耐熱性向上の観点から、ベンゼン環及びナフタレン環が好ましく、ベンゼン環がより好ましい。
【0031】
前記芳香族カルボン酸(B-4)としては、例えば、安息香酸、トルイル酸、ジメチル安息香酸、トリメチル安息香酸、ナフトエ酸などが挙げられ、縮合エステルの耐熱性向上の観点から、安息香酸が好ましい。
【0032】
なお、前記カルボン酸(B)では、前記(B-1)~(B-4)成分以外のカルボン酸成分として、各種のカルボン酸(以下、その他のカルボン酸化合物とも称す)を適宜用いることができる。その他のカルボン酸化合物としては、例えば、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸などが挙げられる。
【0033】
以下、本発明の各成分の配合量について説明する。
【0034】
前記アルコール(A)中、前記一般式(1)で表される多価アルコールの割合は、80モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましく、95モル%以上がさらに好ましく、98モル%以上がよりさらに好ましく、100モル%がよりさらに好ましい。
【0035】
前記カルボン酸(B)中、前記脂肪酸(B-1)の割合は、30モル%以上50モル%以下である。前記カルボン酸(B)中、前記脂肪酸(B-1)の割合は、縮合エステルの耐熱性を向上し動粘度を低くする観点から、35モル%以上が好ましく、そして、縮合エステルの動粘度を高くする観点から、40モル%以下が好ましい。
【0036】
前記カルボン酸(B)中、前記分岐脂肪酸(B-2)の割合は、30モル%以上50モル%以下である。前記カルボン酸(B)中、前記分岐脂肪酸(B-2)の割合は、縮合エステルの耐熱性を向上し動粘度を高くする観点から、35モル%以上が好ましく、そして、縮合エステルの動粘度を低くする観点から、40モル%以下が好ましい。
【0037】
前記カルボン酸(B)中、前記シクロアルカンモノカルボン酸(B-3)の割合は、10モル%以上30モル%以下である。前記カルボン酸(B)中、前記シクロアルカンモノカルボン酸(B-3)の割合は、縮合エステルの耐熱性向上の観点から、12モル%以上が好ましく、そして、縮合エステルの潤滑性向上の観点から、25モル%以下が好ましい。
【0038】
前記カルボン酸(B)中、前記芳香族カルボン酸(B-4)の割合は、1モル%以上15モル%以下である。前記カルボン酸(B)中、前記芳香族カルボン酸(B-4)の割合は、縮合エステルの耐熱性を向上し、動粘度を高くする観点から、2モル%以上が好ましく、そして、縮合エステルの動粘度を低くする観点から、13モル%以下が好ましい。
【0039】
前記カルボン酸(B)中、前記シクロアルカンモノカルボン酸(B-3)および前記芳香族カルボン酸(B-4)のモル比((B-3)/(B-4))は、縮合エステルの低温保管性向上の観点から、0.5以上20以下であることが好ましい。前記カルボン酸(B)中、前記シクロアルカンモノカルボン酸(B-3)および前記芳香族カルボン酸(B-4)のモル比((B-3)/(B-4))は、縮合エステルの低温保管性向上の観点から、0.8以上であることが好ましく、そして、15以下であることが好ましく、12以下であることがより好ましい。
【0040】
前記カルボン酸(B)中、前記脂肪酸(B-1)、前記分岐脂肪酸(B-2)、前記シクロアルカンモノカルボン酸(B-3)、および前記芳香族カルボン酸(B-4)の合計の割合は、縮合エステルの耐熱性および潤滑性向上の観点から、80モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましく、95モル%以上がさらに好ましく、98モル%以上がよりさらに好ましく、100モル%がよりさらに好ましい。
【0041】
前記グリース基油中、前記縮合エステルの割合は、縮合エステルの耐熱性および潤滑性向上の観点から、50質量%以上100質量%以下であることが好ましく、そして、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましく、80質量%以上がよりさらに好ましく、90質量%以上がよりさらに好ましく、100質量%がよりさらに好ましい。
【0042】
<縮合エステルの調製方法>
前記縮合エステルは、前記アルコール(A)と前記カルボン酸(B)を、公知の方法に従って、エステル化反応を行うことにより調製することができる。
【0043】
前記アルコール(A)と前記カルボン酸(B)との反応に際して、両者の当量比は、エステル化反応促進の観点から、通常、アルコール(A)のアルコール成分の水酸基1当量に対して、カルボン酸(B)のカルボン酸成分のカルボキシ基が、好ましくは1.05~1.5当量、より好ましくは1.1~1.3当量となるように調整する。なお、カルボン酸(B)のカルボン酸成分のカルボキシ基の比率を高くすると、前記アルコール成分と前記カルボン酸成分との反応性が良好となる反面、反応終了後、過剰のカルボン酸(B)を除去する必要がある。この除去方法としては、例えば、減圧留去、スチーミング、吸着剤を用いた吸着、除去などが挙げられる。
【0044】
なお、本発明の縮合エステルは、耐熱性向上の観点から、後述する40℃動粘度が、80mm/s以上であることが好ましく、90mm/s以上であることがより好ましく、そして、110mm/s以下であることが好ましく、100mm/s以下であることがより好ましい。また、本発明の縮合エステルは、高温時の潤滑性向上の観点から、後述する100℃動粘度が、11mm/s以上であることが好ましく、11.5mm/s以上であることがより好ましく、そして、14mm/s以下であることが好ましく、13mm/s以下であることがより好ましい。
【0045】
また、本発明の縮合エステルは、後述する粘度指数が、110以上であることが好ましく、115以上であることがより好ましい。
【0046】
<グリース組成物>
本発明のグリース組成物は、前記グリース基油を含有する。
【0047】
前記グリース組成物は、増ちょう剤を含有することが好ましい。前記増ちょう剤は、特に制限されないが、例えば、石けん系増ちょう剤、ウレア系増ちょう剤、ベントン、シリカゲルなどが挙げられる。これらの中でも、機械部品の損傷防止効果、耐熱性の観点から、ウレア系増ちょう剤を使用することが好ましい。また、ウレア系増ちょう剤としては、ジウレア化合物が好ましい。
【0048】
前記ジウレア化合物としては、例えば、以下の一般式(2)で表される化合物が挙げられる。
一般式(2):R-NHC(=O)NH-R-NHC(=O)NH-R
(式(2)Rは炭素数6~15の2価の芳香族炭化水素基を示す。R、Rは互いに同一又は異なる基であり、シクロヘキシル基、炭素数8~22のアルキル基又は炭素数6~12の芳香族炭化水素基である。)
【0049】
本発明のグリース組成物において、前記増ちょう剤を使用する場合、増ちょう剤の配合割合は、組成物中、2~30質量%であることが好ましい。増ちょう剤の配合割合が2質量%未満であると、増ちょう剤の添加効果が不十分となり、グリース組成物を十分にグリース状にすることができなくなる。同様の理由から、増ちょう剤の配合割合は、組成物中、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上である。また、増ちょう剤の配合割合が30質量%を超えると、グリース組成物が過剰に硬くなって十分な潤滑性能を得ることができなくなる。同様の理由から、増ちょう剤の配合割合は、組成物中、好ましくは25質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。
【0050】
前記グリース組成物には、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の添加剤を配合することができる。その他の添加剤としては、例えば、清浄剤、分散剤、酸化防止剤、油性向上剤、摩耗防止剤、極圧剤、防錆剤、腐食防止剤、金属不活性化剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、消泡剤、乳化剤、抗乳化剤、カビ防止剤、固体潤滑剤などが挙げられる。
【0051】
前記その他の添加剤の合計の配合量は、グリース組成物100質量部に対して、通常、10質量部以下である。
【0052】
本発明のグリース基油およびグリース組成物は、耐熱性および低温保管性に優れるため、高温および低温環境下においても好適に用いられ、エアコンファンモーター用軸受、自動車用軸受、音響機器用軸受、コンピューター用軸受、スピンドルモーター軸受等の、耐熱性および低温特性が要求される部品に使用されるグリースとして好適である。
【実施例
【0053】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0054】
<実施例1>
<縮合エステルの調製>
攪拌機、温度計、窒素吹き込み管および冷却管を備えた1リットルの4つ口フラスコに、カルボン酸(B)として、n-ヘプタン酸(ヘプタン酸、東京化成工業株式会社製)189.3g、イソステアリン酸(Prisorine 3501、クローダジャパン株式会社製)413.7g、シクロヘキサンカルボン酸(東京化成工業株式会社製)111.8g、安息香酸(東京化成工業株式会社製)11.8gを加え、アルコール(A)として、ペンタエリスリトール(東京化成工業株式会社製)110gを添加した。なお、カルボン酸(B)の添加量は、ペンタエリスリトール(A)の水酸基1当量に対してカルボン酸(B)の総カルボキシ基が1.2当量になるようにした。
【0055】
次に、フラスコ内に、窒素ガスを吹き込み、攪拌しながら250℃まで昇温し、18時間250℃を維持し、留出する水分を冷却管を用いてフラスコ外へ除去した。反応終了後、0.13kPaの減圧下で過剰のカルボン酸成分を留去し、0.13kPaの減圧下で1時間スチーミングを行い、吸着剤(商品名:キョーワード500SH、協和化学工業株式会社製)に残存しているカルボン酸成分を吸着させた後、濾過を行い、実施例1の縮合エステルを得た。得られた縮合エステルについて、以下の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0056】
<耐熱性の評価>
耐熱性の評価は、示差熱熱重量同時測定装置(商品名:TG/DTA6200、セイコーインスツル株式会社製)を用い、窒素および空気250mL/分雰囲気下、35℃から10℃/分で550℃まで昇温し、550℃で10分間温度を保持する条件での縮合エステルの熱応答を測定し、残留率(質量%)を下式により算出した。残留率の値が大きいほど、耐熱性に優れることを示す。
式:残留率(質量%)=370℃時点での質量÷35℃時点での質量×100
【0057】
<動粘度の評価>
動粘度の評価は、ASTM D7042で要求される精度を満たしたスタビンガー動粘度計(商品名:SVM3000、Anton Paar社製)により、40℃動粘度および100℃動粘度(mm/s)を測定した。なお、粘度指数は粘度測定と同時に得られた結果である。
【0058】
<低温保管性>
ラボランスクリュー管瓶(アズワン株式会社製、No.7、50mL)に縮合エステルを30mL添加し、低温恒温器(PU-1KP、エスペック株式会社製)を用い-40℃で保管する。一定時間経過後における、スクリュー管瓶を横に倒した際の縮合エステルの流動性(凝固)の有無を目視にて確認した。
【0059】
<グリース組成物の調製>
上記で得られた縮合エステル中で、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)1molにアミン(シクロヘキシルアミン(CHA)とステアリルアミンをモル比5:1)2molを反応させ、混和ちょう度が280(JIS K2220)になるように、さらに上記で得られた縮合エステルで希釈して、ベースグリースを調製した。このベースグリースに以下の添加剤を加え、グリース組成物を調製し、以下の評価を行った(なお、グリース組成物中の増ちょう剤の割合は、13質量%である)。
(添加剤)
・酸化防止剤:アミン系酸化防止剤(アルキルジフェニルアミン)2.0質量%、およびフェノール系酸化防止剤(3-(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチルフェニル)プロピオン酸-n-オクタデシル)1.0質量%
【0060】
<低温での潤滑性の評価>
本試験は、上記の各グリース組成物を用い、JIS K2220 18.に規定する低温トルク試験に準拠して行った。なお、起動トルク、回転トルクいずれも低い方が低温での潤滑性に優れることを意味する。
(条件)
・軸受形式:6204
・試験温度:-40℃
・回転数:1rpm
・計測項目:起動トルク(測定開始時の最大トルク)、回転トルク(回転10分間の最後の15秒間における平均トルク)
【0061】
<高温での潤滑性の評価>
本試験は、上記の各グリース組成物を用い、ASTM D3336準拠して、高温下での軸受潤滑寿命を評価する内輪回転の試験である。下記の条件で転がり軸受を運転し、モータが過電流を生じるまで、または軸受温度が+15℃上昇するまでの時間を潤滑寿命とした。なお、運転時間が長いほど、高温での潤滑性に優れていることを意味する。
(条件)
・軸受形式:6204金属シール
・試験温度:180℃
・回転数:10,000rpm
・グリース量:1.8g
・試験荷重:アキシャル荷重 66.7N、ラジアル荷重 66.7N
【0062】
<実施例2~3、比較例1~3>
各原料の種類とその配合量を表1に示すように変えたこと以外は、実施例1と同様の方法で、縮合エステルおよびグリース組成物を調製し、同様の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0063】
【表1】