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  • 特許-原油予熱用熱交換器の洗浄方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-24
(45)【発行日】2023-02-01
(54)【発明の名称】原油予熱用熱交換器の洗浄方法
(51)【国際特許分類】
   C10G 75/00 20060101AFI20230125BHJP
   C10G 7/00 20060101ALI20230125BHJP
【FI】
C10G75/00
C10G7/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019085215
(22)【出願日】2019-04-26
(65)【公開番号】P2020180243
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2022-01-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行者 公益社団法人石油学会 刊行物名 公益社団法人石油学会 創立60周年記念東京大会 第48回石油・石油化学討論会予稿集 発行日 平成30年10月17日 集会名 公益社団法人石油学会 創立60周年記念東京大会 第48回石油・石油化学討論会 開催日 平成30年10月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000105567
【氏名又は名称】コスモ石油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深津 直矢
(72)【発明者】
【氏名】土屋 祐治
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 喜啓
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-213470(JP,A)
【文献】特表2012-509954(JP,A)
【文献】特開2013-249385(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原油予熱用熱交換器の洗浄方法であって、
15℃における密度が0.70~1.00g/cm、アスファルテン含有量が20.0質量%以下である原油を90~99容量%含有するとともに、
接触分解軽油、潤滑油を製造する際のフルフラール抽出工程により得られるエキストラクトおよび混合キシレンを蒸留分離する装置より得られるトルエン留分から選ばれる少なくとも1種以上の炭化水素油を含み、芳香族分含有量が40~80質量%である燃料油基材を1~10容量%含有する洗浄用原料油を、
原油予熱用交換器に流通する
ことを特徴とする原油予熱用熱交換器の洗浄方法。
【請求項2】
前記原油予熱用熱交換器に対し、原油のみを流通させた後、前記洗浄用原料油を流通させる処理を繰り返し行う請求項1に記載の洗浄方法。
【請求項3】
前記洗浄方法が以下の式(I)
{(V2×C)/V1}≧0.20 (I)
(ただし、V1は、洗浄用原料油を流通させる前に流通させた原油の流通量(L)、V2は前記洗浄用原料油を流通させたときの洗浄用原料油の流通量(L)、Cは前記洗浄用原料油中の燃料基材の含有割合(容量%)である。)
を満たすように洗浄用原料油を流通させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原油予熱用熱交換器の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
常圧蒸留装置は、常圧下で原油を蒸留し、異なる沸点範囲を有する石油留分に分離するための装置である。
【0003】
上記常圧蒸留装置の処理対象となる原油は、熱交換器や加熱炉で350℃付近まで予熱されてから常圧蒸留装置に投入されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平3-101801号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者が検討したところ、上述したとおり、常圧蒸留装置の処理対象となる原油は重質なものであることから、熱交換器を用いて予熱すると熱交換部位に堆積物(汚れ)が付着して熱交換効率が低下し易くなることが判明した。熱交換効率が低下すると常圧蒸留装置に投入される原油が十分に加温されないために、常圧蒸留装置で処理する際により大きなエネルギーが必要となり、急激な温度上昇に伴って触媒や反応装置の寿命を縮めたり、生産コストの上昇を招きやすくなる。
【0006】
このような状況下、本発明は、原油予熱用熱交換器への汚れの付着を運転中に低減することができ、原油予熱用熱交換器への汚れの付着を十分にかつ簡便に抑制し得る洗浄方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記技術課題を解決するために本発明者等が鋭意検討したところ、予熱用熱交換器に付着する汚れ分の原因成分に対して溶解性を示す原料油基材を一定程度含む組成物であれば、熱交換器の壁面への汚れ分の付着を抑制するか、一旦付着した汚れ分を好適に溶解し得ることを着想した。
【0008】
上記知見に基づいて本発明者等がさらに検討したところ、原油予熱用熱交換器の洗浄方法であって、15℃における密度が0.70~1.00g/cm、アスファルテン含有量が20.0質量%以下である原油を90~99容量%含有するとともに、接触分解軽油、潤滑油を製造する際のフルフラール抽出工程により得られるエキストラクトおよび混合キシレンを蒸留分離する装置より得られるトルエン留分から選ばれる少なくとも1種以上の炭化水素油を含み、芳香族分含有量が40~80質量%である燃料油基材を1~10容量%含有する洗浄用原料油を、原油予熱用熱交換器に流通する洗浄方法により、上記目的を達成し得ることを見出し、本知見に基づいて本発明を完成するに至ったものである。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)原油予熱用熱交換器の洗浄方法であって、
15℃における密度が0.70~1.00g/cm、アスファルテン含有量が20.0質量%以下である原油を90~99容量%含有するとともに、
接触分解軽油、潤滑油を製造する際のフルフラール抽出工程により得られるエキストラクトおよび混合キシレンを蒸留分離する装置より得られるトルエン留分から選ばれる少なくとも1種以上の炭化水素油を含み、芳香族分含有量が40~80質量%である燃料油基材を1~10容量%含有する洗浄用原料油を、
原油予熱用熱交換器に流通する
ことを特徴とする原油予熱用熱交換器の洗浄方法、
(2)前記原油予熱用熱交換器に対し、原油のみを流通させた後、前記洗浄用原料油を流通させる処理を繰り返し行う上記(1)に記載の洗浄方法、
(3)前記洗浄方法が以下の式(I)
{(V2×C)/V1}≧0.20 (I)
(ただし、V1は、洗浄用原料油を流通させる前に流通させた原油の流通量(L)、V2は前記洗浄用原料油を流通させたときの洗浄用原料油の流通量(L)、Cは前記洗浄用原料油中の燃料基材の含有割合(容量%)である。)
を満たすように洗浄用原料油を流通させることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の洗浄方法
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、原油予熱用交換器への汚れの付着を運転中に低減することができ、原油予熱用熱交換器への汚れの付着を十分にかつ簡便に抑制し得る洗浄方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施例および比較例で使用した熱交換器の汚れ評価装置の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る原油予熱用熱交換器の洗浄方法は、原油予熱用熱交換器の洗浄方法であって、
15℃における密度が0.70~1.00g/cm、アスファルテン含有量が20.0質量%以下である原油を90~99容量%含有するとともに、
接触分解軽油、潤滑油を製造する際のフルフラール抽出工程により得られるエキストラクトおよび混合キシレンを蒸留分離する装置より得られるトルエン留分から選ばれる少なくとも1種以上の炭化水素油を含み、芳香族分含有量が40~80容量%である燃料油基材を1~10容量%含有する洗浄用原料油を、
原油予熱用熱交換器に流通する
ことを特徴とするものである。
【0013】
本発明において、洗浄用原料油は、原油として、15℃における密度が0.70~1.00g/cm、アスファルテン含有量が20.0質量%以下であるものを含有する。
【0014】
本発明おいて、洗浄用原料油を構成する原油の15℃における密度は、0.70~1.00g/cmであり、好ましくは0.71~1.00g/cm、より好ましくは0.72~1.00g/cmである。
【0015】
なお、本出願書類において、15℃における密度は、JIS K2249-1:2011により測定される値を意味する。
【0016】
本発明において、洗浄用原料油を構成する原油のアスファルテン含有量は、20.0質量%以下であり、18.0質量%以下であることが好ましく、15.0質量%以下であることがより好ましい。
洗浄用原料油を構成する原油のアスファルテン含有量が上記範囲内にあることにより、熱交換器に付着する汚れを低減または抑制し易くなる。
【0017】
なお、本出願書類において、アスファルテン含有量は、JPI-5S-22-83に準じて測定される値を意味する。
【0018】
本発明において、洗浄用原料油を構成する原油の芳香族分含有量は、5~30質量%であることが好ましく、8~30質量%であることより好ましく、10~30質量%であることがさらに好ましい。
【0019】
なお、本出願書類において、芳香族分含有量は、JPI-5S-49-97で測定される値を意味する。
【0020】
本発明において、洗浄用原料油を構成する原油の沸点範囲は、10~750℃であることが好ましく、15~750℃であることがより好ましく、20~750℃であることがさらに好ましい。
なお、本出願書類において、沸点範囲は、JIS K2254:1998により測定される値を意味する。
【0021】
本発明において、洗浄用原料油を構成する原油の90容量%留出温度は、450~700℃であることが好ましく、455~700℃であることがより好ましく、460~700℃であることがさらに好ましい。
原油の90容量%留出温度が上記範囲内であることにより、熱交換器の汚れ原因と考えられる重質なワックス留分の含有量が抑制され、効果的に汚れを低減することができる。
なお、本出願書類において、90容量%留出温度は、JIS K2254:1998で測定される値を意味する。
【0022】
本発明において、洗浄用原料油を構成する原油としては、上記特性を有するものであれば特に制限されないが、例えば、マヤ(Maya)原油、マーズ(Mars)原油等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0023】
本発明において、洗浄用原料油は、接触分解軽油、潤滑油を製造する際のフルフラール抽出工程により得られるエキストラクトおよび混合キシレンを蒸留分離する装置より得られるトルエン留分から選ばれる少なくとも1種以上の炭化水素油を含み、芳香族分含有量が40~80質量%である燃料油基材を含有する。
【0024】
本発明において、燃料油基材の芳香族分含有量は、40~80質量%であり、42~80質量%であることが好ましく、45~80質量%であることがより好ましい。
燃料油基材の芳香族分含有量が上記範囲内にあることにより、洗浄用原料油が優れた溶解力を発揮して、より効果的に熱交換器の汚れを低減することができる。
【0025】
本発明において、燃料油基材の90容量%留出温度は、70~600℃であることが好ましく、72~600℃であることがより好ましく、75~600℃であることがさらに好ましい。
燃料油基材の90容量%留出温度が上記範囲内にあることにより、熱交換器の汚れ原因と考えられる重質なワックス留分の含有量が抑制され、効果的に汚れを低減することができる。
【0026】
本発明において、燃料油基材のアスファルテン含有量は、1.0質量%以下であることが好ましく、0.8質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。
燃料油基材のアスファルテン含有量が上記範囲内であることにより、原油予熱用熱交換器に付着する汚れを容易に低減または抑制することができる。
【0027】
本発明において、燃料油基材は、接触分解軽油、潤滑油を製造する際のフルフラール抽出工程により得られるエキストラクトまたは混合キシレンを蒸留分離する装置より得られるトルエンから選ばれる少なくとも1種以上の留分を含む。
燃料油基材が上記留分を含むことにより、常圧蒸留処理への影響を抑制しつつ、原油の処理量をさほど落とすことなく、常圧蒸留装置の連続運転を止めずに原油予熱用熱交換器に付着した汚れを低減させることができる。
【0028】
本発明において、接触分解軽油とは、重質油を接触分解処理したときに中間留分として得られる接触分解軽油、すなわちライトサイクルオイル(LCO)を意味する。
【0029】
本発明において、接触分解軽油の芳香族分含有量は、40~80質量%であることが好ましく、42~80質量%であることがより好ましく、45~80質量%であることがさらに好ましい。
接触分解軽油の芳香族分含有量が上記範囲内であることにより、混合された原油の溶解力が向上し、効果的に原油予熱用熱交換器に付着した汚れを低減することができる。
【0030】
本発明において、接触分解軽油の90容量%留出温度は、280~390℃であることが好ましく、290~390℃であることがより好ましく、300~390℃であることがさらに好ましい。
接触分解軽油の90容量%留出温度が上記範囲内にあることにより、原油に混合する際、重質なワックスの含有量が容易に抑制され、効果的に汚れを低減できる。
【0031】
本発明において、接触分解軽油のアスファルテン含有量は、0.1質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以下であることがさらに好ましい。
接触分解軽油のアスファルテン含有量が上記範囲内にあることにより、原油予熱用熱交換器に付着する汚れを容易に低減または抑制することができる。
【0032】
本発明において、エキストラクトとは、原油の常圧蒸留残渣油を減圧蒸留して得られる中質・重質の減圧蒸留留出油あるいは減圧蒸留残渣油の脱歴油(ブライトストック油)をフルフラール等で抽出分離した油を意味する。
上記フルフラール等で抽出した残分は、ラフィネートと称される潤滑油基油として使用されることから、エキストラクトは工業的には潤滑油製造工程で得られるものである。
【0033】
本発明において、エキストラクトの芳香族分含有量は、40~70質量%であることが好ましく、45~70質量%であることがより好ましく、50~70質量%であることがさらに好ましい。
エキストラクトの芳香族分含有量が上記範囲内にあることにより、混合された原油の溶解力が向上し、効果的に原油予熱用熱交換器に付着した汚れを低減することができる。
【0034】
本発明において、エキストラクトの90容量%留出温度は、500~600℃であることが好ましく、510~600℃であることがより好ましく、520~600℃であることがさらに好ましい。
エキストラクトの90容量%留出温度が上記範囲内にあることにより、原油に混合する際、重質なワックスの含有量が容易に抑制され、効果的に汚れを低減できる。
【0035】
本発明において、エキストラクトのアスファルテン含有量は、1.0質量%以下であることが好ましく、0.8質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。
エキストラクトのアスファルテン含有量が上記範囲内であることにより、原油予熱用熱交換器に付着する汚れを低減または抑制することができる。
【0036】
本発明において、トルエン留分は、混合キシレンを蒸留分離する装置より得られるトルエンを主成分とした留分を意味し、沸点範囲が、70~130℃であるものが好ましく、72~130℃であるものがより好ましく、75~130℃であるものがさらに好ましい。
混合キシレンを蒸留分離する装置とは、重質改質ナフサを蒸留して、o-キシレン及びp-キシレンを主成分とした混合キシレンを得るための装置であり、副生物としてトルエンを蒸留分離することができる。
【0037】
本発明において、トルエン留分の芳香族分含有量は、60~80質量%であることが好ましく、62~80質量%であることがより好ましく、65~80質量%であることがさらに好ましい。
トルエン留分の芳香族分含有量が上記範囲内にあることにより、混合された原油の溶解力が容易に向上し、効果的に原油予熱用熱交換器に付着した汚れを低減することができる。
【0038】
本発明において、洗浄用原料油を構成する原油の含有割合は、90~99容量%であり、90~98.5容量%であることが好ましく、90~98容量%であることがより好ましい。
【0039】
また、本発明において、洗浄用原料油を構成する燃料油基材の含有割合は、1~10容量%であり、1.5~10容量%であることが好ましく、2~10容量%であることがより好ましい。
【0040】
洗浄用原料油を構成する燃料油基材の含有割合が上記範囲内にあることにより、常圧蒸留装置の連続運転を止めずに原油予熱用熱交換器に付着した汚れを低減させることができ、常圧蒸留装置の連続運転を停止して熱交換器を解放洗浄するまでの期間を延長することができる。また、原油の処理量をさほど落とすことなく、さらに洗浄のために使用する付加価値の高い燃料油基材の使用量を抑えつつ、経済的に洗浄処理することができる。
【0041】
本発明に係る洗浄方法においては、上記原油予熱用熱交換器に対し、常圧蒸留装置用被処理油(原油)のみを流通させた後、前記洗浄用原料油を流通させる処理を繰り返し行うことが好ましい。
常圧蒸留装置用被処理油としては、上述したものと同様の原油を挙げることができる。
常圧蒸留装置用被処理油(原油)流通後の洗浄用原料油の流通は定期的に行ってもよいし、非定期的に行ってもよいが、定期的に行うことが好ましい。
このように、常圧蒸留装置用被処理油(原油)の流通と、洗浄用原料油の流通を交互に行うことにより、常圧蒸留装置装置の連続運転を止めずに原油予熱用熱交換器に付着した十分にかつ簡便に低減することができる。
【0042】
本発明に係る洗浄方法においては、以下の式(I)
{(V2×C)/V1}≧0.20 (I)
(ただし、V1は、洗浄用原料油を流通させる前に流通させた原油の流通量(L)、V2は前記洗浄用原料油を流通させたときの洗浄用原料油の流通量(L)、Cは前記洗浄用原料油中の燃料基材の含有割合(容量%)である。)
を満たすように洗浄用原料油を流通させることが好ましい。
【0043】
式(I)において、常圧蒸留装置用被処理油である原油の流通と、洗浄用原料油の流通を各々1回づつ行ったときは、V1およびV2は、各々の流通量(L)である。
式(I)において、原油のみを流通させた後、洗浄用原料油を流通させる処理を繰り返し行ったときは、原油のみの流通とその直後の洗浄用原料油の流通を1つの処理として、各処理時における、原油の流通量をV1(L)、洗浄用原料油の流通量をV2(L)として、上記比を算出する。
【0044】
上記式{(V2×C)/V1}で表される値は、0.20以上であり、0.22以上が好ましく、0.25以上がより好ましい。
【0045】
本発明に係る洗浄方法において式(I)を満たすように定期的ないし非定期的に洗浄用原料油を流通させることにより、常圧蒸留装置装置の連続運転を止めずに原油予熱用熱交換器に付着した汚れを低減させることができ、常圧蒸留装置の連続運転を停止して熱交換器を解放洗浄するまでの期間を延長することができる。また、原油の処理量をさほど落とすことなく、さらに洗浄のために使用する付加価値の高い燃料油基材の使用量を抑えることができ、経済的な処理が可能となる。
【0046】
本発明によれば、原油予熱用熱交換器への汚れの付着を運転中に低減することができ、原油予熱用熱交換器への汚れの付着を十分にかつ簡便に抑制し得るの洗浄方法を提供することができる。
【実施例
【0047】
次に、本発明を実施例および比較例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例により何ら制限されるものではない。
【0048】
(実施例1)
(1)基材
常圧蒸留装置の被処理油として、表1に示す物性を有する原油を用意するとともに、洗浄用原料油を構成する基材として、表1に示す物性を有する接触分解軽油(LCO)を用意した。
上記原油を90容量%、LCOを10容量%の割合で混合して洗浄用原料油とした。
【0049】
【表1】
【0050】
(2)洗浄方法
図1に概略断面図で示すように、原料油タンクT1に貯蔵されホットプレートHPにより70℃に加温された1.2Lの上記原油を、同じく(図示しない)リボンヒーターにより流路全体が70℃に維持された流通配管c(直径6.5mm)内に毎分10mLで送液しつつ、上記原料油の流通配管内に各々ヒーターロッドR(ステンレス鋼製、長さ200mm、直径6mm)を配置した加熱ヒーターHT1および加熱ヒーターHT2でそれぞれ設定温度T1(170℃)、T2(300℃)で順次加熱して上記原料油タンクT1に返送する操作を370分間継続した後、バルブV1を切り替え、洗浄タンクT2に貯蔵された洗浄用原料油を毎分10mLで10分間通油した。この際バルブV2を開くことで洗浄用原料油が原料タンクに混入しないようにした。10分後バルブV1を原料油タンクT1側に戻し、流路内の洗浄油が完全に排出されたのちバルブV2を閉じ、原料油の通油を再開し、260分間継続した。上記加熱ヒーターHT2の原料油出口に配置された原料油温度計測手段TM2outで原料油のヒーター出口温度T3を測定したときの結果を表2に示す。
【0051】
(実施例2)
原油の送液を運転開始から500分間継続した後に、洗浄用原料油を毎分10mLで10分間通油した以外は実施例1と同じ条件でヒーター出口温度T3を測定した。結果を表2に示す。
【0052】
(実施例3)
原油の送液を運転開始から300分間継続した後に、洗浄用原料油を毎分10mLで10分間通油し、その後原油を60分間通油した。その後、洗浄油原料油を毎分10mLで10分間通油し、原油を60分間通油した。さらにその後、洗浄用原料油を毎分10mLで10分間通油し、原油を60分間通油した。さらにその後、洗浄用原料油を毎分10mLで通油し、原油を120分間通油した以外は実施例1と同じ条件でヒーター出口温度T3を測定した。結果を表2に示す。
【0053】
(比較例1)
洗浄用原料油を通油しない以外は実施例1と同じ条件でヒーター出口温度T3を測定した。結果を表2に示す。
【0054】
また、各実施例および比較例における式{(V2×C)/V1}の算出結果を表3に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
【表3】
【0057】
表2より、実施例1は測定開始後370~380分の間に、実施例2は測定開始後500~510分の間に、実施例3は測定開始後300~310分、370~380分、440~450分、510~520分の間に洗浄用原料油が通油されたことにより、ヒーター出口温度T3がその前後で下降傾向から上昇傾向に転じていることが分かる。
一方、表2より、比較例1は洗浄用原料油を混合しないために、ヒーター出口温度が測定期間中にほぼ減少傾向にあり、測定開始時点から約30℃も低下していることが分かる。
【0058】
洗浄用原料油を混合した実施例1~実施例3では、測定終了時において比較例1と比べ、ヒーター出口温度が高いことから、原料油の通油によりヒーターロッドRに付着した汚れが10分間程度洗浄用原料油を流通させる洗浄により低減されたことを示している。
このため、原油予熱用熱交換器への原油の供給を極く短時間だけ洗浄用原料油に切り替えることにより、汚れの付着を運転中に低減することができ、原油予熱用熱交換器への汚れの付着を十分にかつ簡便に抑制し得ることが分かる。
また実施例3のように洗浄用原料油を繰り返し通油することで、熱交換器による汚れ付着がより効果的に軽減され、常圧蒸留装置および原油予熱用熱交換器の連続運転の期間を容易に延長することができることが分かる。
【0059】
また表2および表3より、式{(V2×C)/V1}≧0.20を満たすように洗浄用原料油を流通した実施例1~実施例3は、ヒーター出口温度が洗浄用原料油の流通後すぐに上昇していることから、洗浄用原料油の流通前に付着した汚れを効果的に低減できていることがわかる。また最も汚れが付着している実施例2の式{(V2×C)/V1}により算出される値が0.20であり所望の効果が得られていること、汚れの原因となる原料油の流通量がより少なく式{(V2×C)/V1}により算出される値が実施例2より大きい実施例1や実施例3でも所望の効果が得られていることから、洗浄用原料油の流通量と原料油の比である式{(V2×C)/V1}により算出される値が0.20以上であれば所望の効果が得られることがわかる。
一方、比較例1では、洗浄油原料油を投入していないことにより、原料油の流通量が増えるとともに付着した汚れが低減されることなく、その結果、ヒーター出口温度が下降していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、原油予熱用熱交換器への汚れの付着を運転中に低減することができ、原油予熱用熱交換器への汚れの付着を十分にかつ簡便に抑制し得る洗浄方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0061】
T1、T2 :タンク
V1、V2 :切り替えバルブ
HP :ホットプレート
c :流通配管
HT1、HT2 :加熱ヒーター
R :ヒーターロッド
P :ポンプ
図1