(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-24
(45)【発行日】2023-02-01
(54)【発明の名称】誘電加熱システム
(51)【国際特許分類】
H05B 6/48 20060101AFI20230125BHJP
【FI】
H05B6/48
(21)【出願番号】P 2019111358
(22)【出願日】2019-06-14
【審査請求日】2022-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】上田 雅哉
【審査官】西村 賢
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-087528(JP,A)
【文献】特開2004-340471(JP,A)
【文献】特開2002-056964(JP,A)
【文献】特開2008-270112(JP,A)
【文献】特開2011-103182(JP,A)
【文献】特開昭62-195892(JP,A)
【文献】特開2005-056781(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104063005(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/48- 6/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波の電力を出力する電源部と、
上記電源部から出力された電力が印加されることにより対象物を加熱する加熱部と、
上記電源部と、上記加熱部との間に介設され、自らのインピーダンスを変更可能である可変部と、
上記電源部と、上記可変部との間に介設され、上記電源部から上記可変部に出力される出力電力と、当該出力電力が上記可変部に反射されて上記電源部に戻る反射電力とを検出する検出部と、
上記電源部が負荷に印加する電力である定常電力を出力するときに当該電源部の出力インピーダンスである電源インピーダンスに整合する負荷インピーダンスであって、上記対象物、上記加熱部、および、上記可変部を含む上記負荷の入力インピーダンスである負荷インピーダンスを調整する制御部と、
を備え、
上記制御部は、
上記出力電力を、所定値よりも小さい値である初期値から上記定常電力の値である最終値まで段階的に大きくしながら、各出力電力における上記電源インピーダンスに整合する上記負荷インピーダンスを調整する
ことを特徴とする誘電加熱システム。
【請求項2】
上記可変部は、離散的にインピーダンスを変更可能であり、
上記制御部は、
(1)上記出力電力を上記初期値に設定し、
(2)上記可変部の各インピーダンスについて、上記出力電力および上記反射電力を取得し、
(3)上記出力電力が最大であり、かつ、上記反射電力が最小である上記可変部のインピーダンスを選択し、
(4)上記出力電力を1段階大きくし、
(5)(3)の処理で選択した上記可変部のインピーダンス、および、当該インピーダンスの近傍のインピーダンスについて、上記出力電力および上記反射電力を取得し、
(6)上記出力電力が最大であり、かつ、上記反射電力が最小である上記可変部のインピーダンスを選択し、
(7)上記出力電力が上記最終値よりも小さい場合に、上記出力電力を1段階大きくし、(6)の処理で選択した上記可変部のインピーダンス、および、当該インピーダンスの近傍のインピーダンスについて、上記出力電力および上記反射電力を取得し、(6)の処理に戻り、
(8)上記出力電力が上記最終値である場合に、(6)の処理で選択した上記可変部のインピーダンスを含む上記負荷インピーダンスが、上記電源部が定常電力を出力するときの上記電源インピーダンスに整合すると判断する
ことを特徴とする請求項1に記載の誘電加熱システム。
【請求項3】
上記可変部は、離散的にインピーダンスを変更可能であり、
上記制御部は、
(1)上記出力電力を上記初期値に設定し、
(2)上記可変部の各インピーダンスの一部について、上記出力電力および上記反射電力を取得し、
(3)上記出力電力が最大であり、かつ、上記反射電力が最小である上記可変部のインピーダンスを選択し、
(4)上記出力電力を1段階大きくし、
(5)(3)の処理で選択した上記可変部のインピーダンス、および、当該インピーダンスの近傍のインピーダンスについて、上記出力電力および上記反射電力を取得し、
(6)上記出力電力が最大であり、かつ、上記反射電力が最小である上記可変部のインピーダンスを選択し、
(7)上記出力電力が上記最終値よりも小さい場合に、上記出力電力を1段階大きくし、(6)の処理で選択した上記可変部のインピーダンス、および、当該インピーダンスの近傍のインピーダンスについて、上記出力電力および上記反射電力を取得し、(6)の処理に戻り、
(8)上記出力電力が上記最終値である場合に、(6)の処理で選択した上記可変部のインピーダンスを含む上記負荷インピーダンスが、上記電源部が定常電力を出力するときの上記電源インピーダンスに整合すると判断する
ことを特徴とする請求項1に記載の誘電加熱システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電加熱システムに関する。
【背景技術】
【0002】
高周波誘電加熱システムによる解凍及び加熱では、高周波電源のインピーダンスと、負荷のインピーダンスとを整合させる必要がある。そのため、高周波電源と、負荷との間には、整合器が設けられる。そして、加熱は、高周波電源の出力インピーダンスと、負荷の入力インピーダンスとを整合させる動作モード(以下、整合点探索モードという)と、負荷6に電力を印加する動作モード(以下、定常電力印加モードという)とを繰り返すことで行われる。
【0003】
整合点探索モードでは、高周波電源への反射電力が大きくなり、高周波電源に使用される半導体スイッチング素子が破壊されてしまう虞がある。その解決法として、整合点探索モードでの電力を、定常電力印加モードでの電力よりも低くする方法が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、単に電力を小さくしてインピーダンスを整合させると、定常電力印加モードにおいて整合がずれてしまい、効率的な加熱ができないだけでなく、半導体スイッチング素子が破壊されるという問題が生じる。
【0006】
インピーダンスが整合している状態とは、高周波電源と、負荷との間の整合面において、高周波電源の出力インピーダンスと、負荷の入力インピーダンスとが一致している状態を指す。整合点探索モードでは、負荷の入力インピーダンスを変化させることにより、高周波電源の出力インピーダンスに一致する点を探索することになる。つまり、整合点探索モードでは、電力を小さくした状態の高周波電源の出力インピーダンスに負荷の入力インピーダンスを合わせることになる。そのため、整合点探索モードでの出力インピーダンスと、定常電力印加モードでの出力インピーダンスとが異なる場合には、定常電力印加モードで整合ずれが発生する。
【0007】
図7は、高周波電源の一例を示す図である。本例では、高周波電源2の出力電力は電源電圧を変化させることで実現される。
図8は、半導体スイッチング素子の出力容量特性を示すグラフである。
図8に示すように、半導体スイッチング素子の出力容量はドレイン-ソース間の電圧、すなわち、高周波電源2の電源電圧によって変化することが分かる。このため、
図7の高周波電源では、出力電力により出力インピーダンスが変化することになる。
【0008】
なお、特許文献1の技術は、加熱調理開始時のインピーダンス不整合時において、半導体スイッチ素子の耐圧破壊を防止する高周波加熱装置を提供するものである。ただし、特許文献1の技術では、初期整合時において主電力増幅器に供給される直流電圧が、定常出力時よりも低くなるように制御した場合、定常出力時とは出力インピーダンスが異なる点が問題になる。すなわち、
図9に示すように、整合点探索モードと、定常電力印加モードとでは、高周波電源の出力電力が大きく異なるので、出力インピーダンスも大きく変化する。
【0009】
本発明の一態様は、高周波電源から負荷に電力を印加する場合に、電源インピーダンスに整合する負荷インピーダンスを正確かつ円滑に調整することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る誘電加熱システムは、高周波の電力を出力する電源部と、上記電源部から出力された電力が印加されることにより対象物を加熱する加熱部と、上記電源部と、上記加熱部との間に介設され、自らのインピーダンスを変更可能である可変部と、上記電源部と、上記可変部との間に介設され、上記電源部から上記可変部に出力される出力電力と、当該出力電力が上記可変部に反射されて上記電源部に戻る反射電力とを検出する検出部と、上記電源部が負荷に印加する電力である定常電力を出力するときに当該電源部の出力インピーダンスである電源インピーダンスに整合する負荷インピーダンスであって、上記対象物、上記加熱部、および、上記可変部を含む上記負荷の入力インピーダンスである負荷インピーダンスを調整する制御部と、を備え、上記制御部は、上記出力電力を、所定値よりも小さい値である初期値から上記定常電力の値である最終値まで段階的に大きくしながら、各出力電力における上記電源インピーダンスに整合する上記負荷インピーダンスを調整する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、高周波電源から負荷に電力を印加する場合に、電源インピーダンスに整合する負荷インピーダンスを正確かつ円滑に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態1に係る高周波誘電加熱システムの構成を示す図である。
【
図2】本発明の実施形態1に係る出力電力の制御イメージを示す図である。
【
図3】(a)は本発明の実施形態1に係る整合器の構成例を示す図であり、(b)は本発明の実施形態1に係るスイッチの開閉と、整合器の状態との関係を示す表である。
【
図4】本発明の実施形態1に係る整合点探索モードにおける制御器の処理概要を示すフローチャートである。
【
図5】本発明の実施形態1に係る整合点探索モードにおける制御器の処理例を示すフローチャートである。
【
図6】本発明の実施形態2に係る整合点探索モードにおける制御器の処理例を示すフローチャートである。
【
図7】従来技術に係る高周波電源の一例を示す図である。
【
図8】従来技術に係る半導体スイッチング素子の出力容量特性を示すグラフである。
【
図9】従来技術に係る高周波電源の出力電力の時間的変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔実施形態1〕
以下、本発明の実施形態1について、詳細に説明する。
【0014】
(実施形態1の概要)
図2は、本実施形態に係る出力電力の制御イメージを示す図である。本実施形態では、
図2に示すように、整合点探索モードにおいて、高周波電源2の出力電力に関して、小電力から、電源インピーダンスと、負荷インピーダンスとが整合する整合点の探索を始め、その電力における整合点から少し電力を大きくして整合点の探索を再度行う。このように、高周波電源2の出力電力を段階的に少しずつ上げて、定常電力に徐々に近づけていきながら、整合点の探索を繰り返す。なお、定常電力は、負荷6に印加する電力である。
【0015】
さらに一例として、初期の電力を小さくした状態での探索は、小電力の範囲であれば、疎に行ってもよい。なお、小電力とは、反射比率を正確に測定可能な程度の最小電力である。
【0016】
上記により、高周波電源2の出力インピーダンスと、負荷6の入力インピーダンスとが整合していない場合には、高周波電源2の出力電力が小さいため、反射波によるスイッチング半導体の破壊を防ぐことができる。そして、各電力での整合点の近傍での探索により、徐々に定常電力に近付けるため、整合点探索モードから定常電力印加モードに移行した場合に、高周波電源2の出力インピーダンスが大きく変化して、負荷6の入力インピーダンスとの整合がずれることが発生しなくなる。
【0017】
従って、効率的な加熱を行い、かつ、スイッチング半導体の破壊を防ぎながら、定常出力印加モードにおける整合点を正確かつ円滑に探索することができる。
【0018】
(高周波誘電加熱システム1の構成)
図1は、本実施形態に係る高周波誘電加熱システム(以下、誘電加熱システムという)1の構成を示す図である。誘電加熱システム1は、高周波電源(電源部)2と、検波器(検出部)3と、整合器(可変部)4と、制御器(制御部)5と、2つの電極(加熱部)61とを備えている。なお、高周波電源2、検波器3、整合器4、および、下側の電極61は、接地7に接続されている。
【0019】
2つの電極61は対向しており、当該電極61の間には、ターゲット(対象物)Tが介設されている。ターゲットTは、加熱または解凍の対象である。2つの電極61は、高周波電源2から出力された電力が印加されることによりターゲットTを加熱する。
【0020】
高周波電源2は、例えば、13.56MHz、40.68MHz等の高周波の交流電力を出力する。なお、当該交流電力の電力レベルは、制御器5により制御可能である。
【0021】
高周波電源2から出力される電力は、検波器3、および、整合器4を通過して、電極61間に印加される。電力の印加により電極61間に発生した電界は、ターゲットTに作用する。すなわち、当該電界により、ターゲットTは、加熱または解凍される。
【0022】
検波器3は、高周波電源2と、整合器4との間に介設される。検波器3は、高周波電源2から整合器4の方向に進む進行波の電力レベル(整合器4に出力される出力電力)と、当該進行波(出力電力)が整合器4に反射されて高周波電源2に戻る反射波の電力レベル(反射電力)とを検出し、それぞれに対応した信号を出力する。なお、検波器3は、進行波と、反射波との比である反射率に応じた信号を出力するものであってもよい。
【0023】
整合器4は、高周波電源2と、2つの電極61との間に介設され、自らのインピーダンスを変更可能である。すなわち、整合器4は、コイルと、コンデンサとを備えており、一部またはすべての、コイルのインダクタンスと、コンデンサのキャパシタンスとを変化させることができる。整合器4は、当該インダクタンスと、当該キャパシタンスとを変化させることにより、負荷6のインピーダンスを変化させることが可能である。なお、整合器4は、コイルのみの構成であってもよいし、コンデンサのみの構成であってもよい。
【0024】
制御器5は、電力値モニタ部51と、出力パワー制御部52と、整合調整部53とを備えている。電力値モニタ部51は、検波器3の電力値を取得する。出力パワー制御部52は、検波器3が取得した電力値を参照して、高周波電源2の電力レベルを制御する。整合調整部53は、整合器4のインダクタンスおよびキャパシタンスの少なくとも一方を変化させることにより、負荷6のインピーダンスを制御する。
【0025】
制御器5は、高周波電源2が定常電力を出力するときに高周波電源2の出力インピーダンスである電源インピーダンスに整合する負荷インピーダンスであって、負荷6の入力インピーダンスである負荷インピーダンスを調整する。
図1に示すように、負荷6は、ターゲットT、2つの電極61、および、整合器4を含む。
【0026】
制御器5は、出力電力を、所定値よりも小さい値である初期値から定常電力の値である最終値まで段階的に大きくしながら、各出力電力における電源インピーダンスに整合する負荷インピーダンスを調整する。
【0027】
(整合器4の構成例)
図3(a)は、本実施形態に係る整合器4の構成例を示す図である。
図3(a)に示すように、整合器4において、並列接続されたコイルL(L1、L2、L3)と、スイッチS(S1、S2、S3)とを一つの構成要素とし、複数の当該構成要素が入出力回路内に直列または並列に接続されている。
【0028】
コイルLと並列に接続されたスイッチSをオンすると、コイルLの両端は短絡するので、上記構成要素のインダクタンスはゼロ(0)になる。そして、スイッチSをオフすると、上記構成要素のインダクタンスはコイルLのインダクタンスに等しくなる。
【0029】
なお、上記構成要素に用いるものは、コイルLではなく、コンデンサCであってもよい。また、コイルLまたはコンデンサCとセットで用いるスイッチSは、コイルLまたはコンデンサCに対して直列に接続されてもよい。
【0030】
整合器4は、複数配置された構成要素のスイッチSのオン、オフの組み合わせを変えることにより、離散的にインピーダンスを変更可能であり、負荷6のインピーダンスを調整することが可能になる。この場合、負荷6のインピーダンスは、2の「スイッチの個数」乗通りのインピーダンスが実現できることになる。本実施形態では、説明のため、3つの上記構成要素を用いた整合回路を扱うものとする。この場合、8(=2の3乗)通りのインピーダンスが実現可能である。
【0031】
なお、スイッチSは、半導体スイッチであってもよいし、メカニカルリレーであってもよい。
【0032】
図3(b)は、本実施形態に係る3つのスイッチSの開閉と、整合器4の状態との関係を示す表である。以下の説明のため、
図3(b)に示すように、3つのスイッチSをそれぞれS1、S2、S3とし、それぞれのスイッチSの開閉の組み合わせによる整合器4の状態1~8を定義する。例えば、スイッチS1、S2、および、S3がすべて閉である場合、整合器4のインピーダンスの状態は状態1になる。整合器4の状態1~8は、それぞれ異なるインピーダンスに対応する。
【0033】
(整合点探索モードの処理)
図4は、本実施形態に係る整合点探索モードにおける制御器5の処理概要を示すフローチャートである。
【0034】
本実施形態に係る整合方法は、整合点探索モードにおいて、小電力から探索を始め、小電力における整合点の近傍を、少し電力を上げて再び探索を行う。電力を段階的に上げて定常出力に徐々に近づけていきながら探索を繰り返すことにより、半導体スイッチング素子の破壊を防ぎながら、定常出力における整合点を正確かつ円滑に探索する。
【0035】
制御器5は、高周波電源2の出力を制御する信号である出力パワー制御信号をV1~Vx(xは任意の数)の値で出力する。出力パワー制御信号は、例えば、V1<V2<V3・・・<Vxであり、最大値であるVxは、定常電力印加モード時における出力値と同等である。なお、例えば、V1およびV2の差分と、V2およびV3の差分との差が均一であってもよいし、不均一であってもよい。
【0036】
以下、説明の便宜上、出力パワー制御信号はV1~V4まで設定されているとする。
【0037】
(ステップS401)
制御器5は、出力パワー制御信号を最小値であるV1に設定する。
【0038】
(ステップS402)
制御器5は、整合器4の状態(
図3(b)参照)のうち、整合器4の各状態における進行波電力および反射波電力を取得する。なお、ステップS401で出力パワー制御信号を最小値V1に設定しているため、整合器4の各状態において探索を行っても、半導体スイッチング素子を破壊する程、反射波電力が大きくなることはない。
【0039】
(ステップS403)
制御器5は、ステップS402で取得した整合器4の各状態における進行波電力および反射波電力のうち、進行波電力が最大で、かつ、反射波電力が最小である整合器4の状態を選択する。
【0040】
(ステップS404)
制御器5は、出力パワー制御信号をV1よりも大きい電圧値V2に設定する。
【0041】
(ステップS405)
制御器5は、ステップS403で選択した整合器4の状態と、当該整合器4の状態の近傍とにおける進行波電力および反射波電力を取得する。例えば、ステップS403で状態4が選択された場合、制御器5は、状態4の近傍である状態3および状態5を併せて選択し、それぞれの状態における進行波電力および反射波電力を取得する。
【0042】
(ステップS406)
制御器5は、ステップS405で取得した、整合器4の各状態における進行波電力および反射波電力のうち、進行波電力が最大で、かつ、反射波電力が最小である整合器4の状態を新たに選択する。
【0043】
(ステップS407)
制御器5は、出力パワー制御信号をV2よりも大きい電圧値V3に設定する。
【0044】
(ステップS408)
制御器5は、ステップS406で選択した整合器4の状態と、当該整合器4の状態の近傍と、における進行波電力および反射波電力を取得する。
【0045】
(ステップS409)
制御器5は、ステップS408で取得した整合器4の各状態における進行波電力および反射波電力のうち、進行波電力が最大で、かつ、反射波が最小である整合器4の状態を新たに選択する。
【0046】
(ステップS410)
制御器5は、出力パワー制御信号をV3よりも大きい電圧値V4に設定する。
【0047】
(ステップS411)
制御器5は、ステップS409で選択した整合器4の状態と、当該整合器4の状態の近傍と、における進行波電力および反射波電力を取得する。
【0048】
(ステップS412)
制御器5は、ステップS411で取得した整合器4の状態における進行波電力および反射波電力のうち、進行波電力が最大で、かつ、反射波電力が最小である整合器4の状態を新たに選択する。
【0049】
図5は、本実施形態に係る整合点探索モードにおける制御器5の処理例を示すフローチャートである。ここで、出力パワー制御信号は、高周波電源2の出力を制御するための信号である。
【0050】
ここでは、説明のため、制御器5は、V1、V2、V3、および、V4の4つの値を出力し、V1<V2<V3<V4の関係があるものとする。出力パワー制御信号と、高周波電源2の出力レベルとは比例し、高周波電源はV4の時定常電力印加モードとなるものとし、これをVx(x=1~4の自然数)と表記する。また、
図3(b)の整合器4の8つの状態をMy(y=1~8の自然数)と表記する。なお、変数x、y、電力出力値Vx、および、整合器4の状態Myは、メモリに格納されているものとする。
【0051】
(ステップS501)
制御器5は、変数xに1を代入し、変数yに1を代入する。
【0052】
(ステップS502)
制御器5において、出力パワー制御部52は、出力パワー制御信号をVxに設定する。これにより、制御器5は、高周波電源2の出力電力を初期値に設定することになる。
【0053】
(ステップS503)
整合調整部53は、整合器4の状態をMyに設定する。
【0054】
(ステップS504)
電力値モニタ部51は、検波器3から電力値を取得し、当該電力値から進行波電力と、反射波電力とを読み取り、整合器4の状態Myに対応付けて記録する。例えば、電力値モニタ部51は、進行波電力および反射波電力の値をメモリ上の、状態Myに対応するアドレスに記憶させる。
【0055】
(ステップS505)
制御器5は、変数yに1を加算する。
【0056】
(ステップS506)
制御器5は、変数yが8よりも大きいか否かを判定する。変数yが8よりも大きい場合(ステップS506のYES)、整合器4の各インピーダンスについて、進行波電力および反射波電力を取得したことになるので、次に、制御器5は、ステップS507の処理を実行する。変数yが8よりも大きくない(8以下である)場合(ステップS506のNO)、制御器5は、ステップS503の処理を再度実行する。
【0057】
(ステップS507)
制御器5は、以上の結果により、進行波電力が最大であり、かつ、反射波電力が最小である状態My’を探して(整合器4のインピーダンスを選択して)、この状態My’のy’を、変数zに保存する。
【0058】
ステップS507までの処理が最小電力による第1回目の整合点探索である。次に、制御器5は、ステップS508以降の処理を実行する。
【0059】
(ステップS508)
制御器5は、変数xに2を代入し、変数yにz-1を代入する。ただし、変数zが1の場合には、制御器5は、変数yに1を代入する。変数zが8の場合には、制御器5は、変数zおよびyに7を代入する。
【0060】
(ステップS509)
制御器5において、出力パワー制御部52は、出力パワー制御信号をVxに設定する。
【0061】
(ステップS510)
整合調整部53は、整合器4の状態をMyに設定する。
【0062】
(ステップS511)
電力値モニタ部51は、検波器3から電力値を取得し、当該電力値から進行波電力と、反射波電力とを読み取り、整合器4の状態Myに対応付けて記録する。例えば、電力値モニタ部51は、進行波電力および反射波電力の値を、状態Myに対応する、メモリ上のアドレスに記憶させる。
【0063】
(ステップS512)
制御器5は、変数yに1を加算する。
【0064】
(ステップS513)
制御器5は、変数yがz+1よりも大きいか否かを判定する。変数yがz+1よりも大きい場合(ステップS506のYES)、制御器5は、ステップS514の処理を実行する。変数yがz+1よりも大きくない(z+1以下である)場合(ステップS506のNO)、制御器5は、ステップS510の処理を再度実行する。
【0065】
ステップS513の判定により、制御器5は、ステップS507またはステップS514で選択した整合器4のインピーダンス、および、当該インピーダンスの近傍のインピーダンスについて、進行波電力および反射波電力を取得することになる。
【0066】
(ステップS514)
制御器5は、以上の結果により、進行波電力が最大であり、かつ、反射波電力が最小である状態My’を探して(整合器4のインピーダンスを選択して)、当該状態My’のy’を変数zに保存する。
【0067】
(ステップS515)
制御器5は、変数xに1を加算し、変数yにz-1を代入する。ただし、変数zが1の場合には、制御器5は、変数yに1を代入する。変数zが8の場合には、制御器5は、変数zおよびyに7を代入する。変数xに1を加算することは、進行波電力を1段階大きくすることになる。
【0068】
(ステップS516)
制御器5は、変数xが4よりも大きいか否かを判定する。変数xが4よりも大きい(進行波電力が最終値よりも小さい)場合(ステップS516のYES)、制御器5は、処理を終了する。この場合に、変数zに記録された状態が、電源インピーダンスに負荷インピーダンスを整合させるための整合器4の状態を表している。すなわち、制御器5は、ステップS514で選択した整合器4のインピーダンスを含む負荷インピーダンスが、高周波電源2が定常電力を出力するときの電源インピーダンスに整合すると判断する。
【0069】
一方、変数xが4よりも大きくない(進行波電力が最終値よりも小さい)場合(ステップS516のNO)、制御器5は、ステップS509の処理を再度実行する。
【0070】
〔実施形態2〕
本発明の実施形態2について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。本実施形態では、最小電力による第1回目の整合点探索において、初期の電力を小さくした状態での探索を疎に行う。
【0071】
図6は、本実施形態に係る整合点探索モードにおける制御器5の処理例を示すフローチャートである。以下、実施形態1に係る制御器5の処理(
図5のフローチャート)との相違点を中心に、本実施形態に係る制御器5の処理について説明する。
【0072】
まず、
図5のステップS505の「y=y+1」(変数yに1を加算する)に対して、
図6のステップS605では「y=y+2」(変数yに2を加算する)になっている。変数yは、状態Myの添え字であり、状態番号を示す。したがって、ステップS604において、制御器5は、整合器4の各インピーダンスの一部について、進行波電力および反射波電力を取得することになる。
【0073】
これにより、本実施形態では、整合点探索モードにおいて設定する、整合器4の状態の個数を半分に減らして、整合器4のインピーダンスの間隔を空けることができる。すなわち、疎な整合点探索を実施することができる。
【0074】
次に、
図5のステップS508、S515には、「変数zが8の場合には、制御器5は、変数zおよびyに7を代入する。」との例外処理があったが、
図6のステップS608、S615には、そのような例外処理はない。
【0075】
これにより、本実施形態では、上記の例外処理を行わないので、確実な動作が行われることになる。
【0076】
なお、本実施形態において、限定する要件ではない点を、以下に示す。
(1)出力パワー制御信号と、出力電力との関係は、比例である必要はない。例えば、出力パワー制御信号を増加させることにより、出力電力が減少する関係でもよいし、線形比例する必要もない。
(2)出力制御信号は、アナログ信号である必要はない。例えば、パルス信号のデューティ比による制御でもよいし、何段階かのデジタル的な制御でもよい。
(3)整合器4の状態すべてについて反射率を確認する必要はなく、反射率の確認順序も重要ではない。反射率が規定値以下となった時点で探索を完了してもよいし、探索する状態の数を減らしても構わない。
【0077】
〔ソフトウェアによる実現例〕
誘電加熱システム1の制御器5の制御ブロック(特に、電力値モニタ部51、出力パワー制御部52、および、整合調整部53)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0078】
後者の場合、制御器5は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば少なくとも1つのプロセッサ(制御装置)を備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な少なくとも1つの記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などをさらに備えていてもよい。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0079】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係る誘電加熱システムは、高周波の電力を出力する電源部と、上記電源部から出力された電力が印加されることにより対象物を加熱する加熱部と、上記電源部と、上記加熱部との間に介設され、自らのインピーダンスを変更可能である可変部と、上記電源部と、上記可変部との間に介設され、上記電源部から上記可変部に出力される出力電力と、当該出力電力が上記可変部に反射されて上記電源部に戻る反射電力とを検出する検出部と、上記電源部が負荷に印加する電力である定常電力を出力するときに当該電源部の出力インピーダンスである電源インピーダンスに整合する負荷インピーダンスであって、上記対象物、上記加熱部、および、上記可変部を含む上記負荷の入力インピーダンスである負荷インピーダンスを調整する制御部と、を備え、上記制御部は、上記出力電力を、所定値よりも小さい値である初期値から上記定常電力の値である最終値まで段階的に大きくしながら、各出力電力における上記電源インピーダンスに整合する上記負荷インピーダンスを調整する。
【0080】
上記の構成によれば、出力電力を、所定値よりも小さい値である初期値から上記定常電力の値である最終値まで段階的に大きくすることにより、高周波電源から負荷に電力を印加する場合に、電源インピーダンスに整合する負荷インピーダンスを正確かつ円滑に調整することができる。
【0081】
本発明の態様2に係る誘電加熱システムは、上記態様1において、上記可変部が、離散的にインピーダンスを変更可能であり、上記制御部が、(1)上記出力電力を上記初期値に設定し、(2)上記可変部の各インピーダンスについて、上記出力電力および上記反射電力を取得し、(3)上記出力電力が最大であり、かつ、上記反射電力が最小である上記可変部のインピーダンスを選択し、(4)上記出力電力を1段階大きくし、(5)(3)の処理で選択した上記可変部のインピーダンス、および、当該インピーダンスの近傍のインピーダンスについて、上記出力電力および上記反射電力を取得し、(6)上記出力電力が最大であり、かつ、上記反射電力が最小である上記可変部のインピーダンスを選択し、(7)上記出力電力が上記最終値よりも小さい場合に、上記出力電力を1段階大きくし、(6)の処理で選択した上記可変部のインピーダンス、および、当該インピーダンスの近傍のインピーダンスについて、上記出力電力および上記反射電力を取得し、(6)の処理に戻り、(8)上記出力電力が上記最終値である場合に、(6)の処理で選択した上記可変部のインピーダンスを含む上記負荷インピーダンスが、上記電源部が定常電力を出力するときの上記電源インピーダンスに整合すると判断することとしてもよい。
【0082】
上記の構成によれば、出力電力を1段階ずつ大きくしながら、出力電力が最大であり、かつ、反射電力が最小である上記可変部のインピーダンスを選択するので、高周波電源から負荷に電力を印加する場合に、電源インピーダンスに整合する負荷インピーダンスを正確かつ円滑に調整することができる。
【0083】
本発明の態様3に係る誘電加熱システムは、上記態様1において、上記可変部が、離散的にインピーダンスを変更可能であり、上記制御部が、(1)上記出力電力を上記初期値に設定し、(2)上記可変部の各インピーダンスの一部について、上記出力電力および上記反射電力を取得し、(3)上記出力電力が最大であり、かつ、上記反射電力が最小である上記可変部のインピーダンスを選択し、(4)上記出力電力を1段階大きくし、(5)(3)の処理で選択した上記可変部のインピーダンス、および、当該インピーダンスの近傍のインピーダンスについて、上記出力電力および上記反射電力を取得し、(6)上記出力電力が最大であり、かつ、上記反射電力が最小である上記可変部のインピーダンスを選択し、(7)上記出力電力が上記最終値よりも小さい場合に、上記出力電力を1段階大きくし、(6)の処理で選択した上記可変部のインピーダンス、および、当該インピーダンスの近傍のインピーダンスについて、上記出力電力および上記反射電力を取得し、(6)の処理に戻り、(8)上記出力電力が上記最終値である場合に、(6)の処理で選択した上記可変部のインピーダンスを含む上記負荷インピーダンスが、上記電源部が定常電力を出力するときの上記電源インピーダンスに整合すると判断することとしてもよい。
【0084】
上記の構成によれば、出力電力を1段階ずつ大きくしながら、出力電力が最大であり、かつ、反射電力が最小である上記可変部のインピーダンスを選択するので、高周波電源から負荷に電力を印加する場合に、電源インピーダンスに整合する負荷インピーダンスを正確かつ円滑に調整することができる。特に、可変部の各インピーダンスの一部を用いるので、負荷インピーダンスの調整を効率的に行うことができる。
【0085】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。
【符号の説明】
【0086】
1 高周波誘電加熱システム
2 高周波電源(電源部)
3 検波器(検出部)
4、4a 整合器(可変部)
5 制御器(制御部)
6 負荷
T ターゲット(対象物)
61 電極(加熱部)