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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-24
(45)【発行日】2023-02-01
(54)【発明の名称】炭化タングステンを含む粉末
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/949 20170101AFI20230125BHJP
【FI】
C01B32/949
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019554222
(86)(22)【出願日】2018-11-13
(86)【国際出願番号】 JP2018041953
(87)【国際公開番号】W WO2019098183
(87)【国際公開日】2019-05-23
【審査請求日】2021-08-20
(31)【優先権主張番号】P 2017219191
(32)【優先日】2017-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000220103
【氏名又は名称】株式会社アライドマテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】不動 貴之
(72)【発明者】
【氏名】笹谷 和男
(72)【発明者】
【氏名】林 武彦
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第1850595(CN,A)
【文献】特開2009-242181(JP,A)
【文献】特開2004-142993(JP,A)
【文献】特表2005-519018(JP,A)
【文献】特開平09-309715(JP,A)
【文献】特開2006-205354(JP,A)
【文献】特開昭48-034800(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106077668(CN,A)
【文献】国際公開第2018/050474(WO,A1)
【文献】ZHONG, Y. et al.,Journal of Materials Science,2010年10月30日,Vol.46,pp.6323-6331,<DOI:10.1007/s10853-010-4937-y>
【文献】MADHAV REDDY, K. et al.,Journal of Alloys and Compounds,2010年01月22日,Vol.494,pp.404-409,<DOI:10.1016/j.jallcom.2010.01.059>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00 - 32/991
B22F 1/00
C01G 41/00
C22C 1/05
C22C 29/08
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
DWPI(Derwent Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化タングステンを含む粉末であって、
Fsss粒度が0.3μm以上1.5μm以下であり、
前記炭化タングステンの含有率が90質量%以上であり、
前記炭化タングステンの結晶子サイズ(平均粒径)YがY≦0.1×X+0.20(X:前記炭化タングステンを含む粉末のFsss粒度)の関係式を満たし、
クロムを0.2質量%以上2.5質量%以下含有する、炭化タングステンを含む粉末。
【請求項2】
酸素を0.3質量%以下含有する、請求項1に記載の炭化タングステンを含む粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化タングステンを含む粉末に関する。本出願は、2017年11月14日に出願した日本特許出願である特願2017-219191号に基づく優先権を主張する。当該日本特許出願に記載された全ての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
従来、炭化タングステンを含む粉末は、たとえば、特開平9-309715号公報(特許文献1)、特開平11-21119号公報(特許文献2)、特開平3-208811号公報(特許文献3)、特開2005-335997号公報(特許文献4)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-309715号公報
【文献】特開平11-21119号公報
【文献】特開平3-208811号公報
【文献】特開2005-335997号公報
【発明の概要】
【0004】
本発明の一態様に係る炭化タングステンを含む粉末は、Fsss粒度が0.3μm以上1.5μm以下であり、炭化タングステンの含有率が90質量%以上であり、結晶子サイズ(平均粒径)YがY≦0.1×X+0.20(X:炭化タングステンを含む粉末のFsss粒度)の関係式を満たす。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1図1は、試料番号8の実施例の炭化タングステンを含む粉末の外観を示すSEM写真である。
図2図2は、試料番号27の従来製法1の炭化タングステンを含む粉末の外観を示すSEM写真である。
図3図3は、試料番号8の実施例の炭化タングステンを含む粉末の結晶子マッピング像である。
図4図4は、試料番号27の従来製法1のタングステン粉末の結晶子マッピング像である。
図5図5は、試料番号1~14,26~29,30~32の各々における、炭化タングステンを含む粉末のFsss粒度と、EBSD法による炭化タングステンを含む粉末の断面の結晶子サイズ(平均粒径)との関係を示したグラフである。
図6図6は、試料番号1~17,26~29,30~32の各々における、炭化タングステンを含む粉末のFsss粒度とHc(抗磁力)の関係を示したグラフである。
図7図7は、試料番号8の実施例の炭化タングステンを含む粉末から製造した超硬合金の金属組織写真である。
図8図8は、試料番号27の従来製法1の炭化タングステンを含む粉末から製造した超硬合金の金属組織写真である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
しかしながら、従来の技術では、取り扱いが容易で、かつ、超微粒の超硬合金を製造することができる炭化タングステンを含む粉末を提供することができなかった。
【0007】
そこで、この発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、取り扱いが容易で、かつ、超微粒の超硬合金を製造することができる炭化タングステンを含む粉末を提供することを目的とするものである。
[本開示の効果]
上記によれば、取り扱いが容易で、かつ、超微粒の超硬合金を製造することができる炭化タングステンを含む粉末を提供することができる。
【0008】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
【0009】
1.全体構成
本発明の一態様に係る炭化タングステンを含む粉末は、Fsss粒度が0.3μm以上1.5μm以下であり、結晶子サイズ(平均粒径)YがY≦0.1×X+0.20(X:炭化タングステンを含む粉末のFsss粒度)の関係式を満たす。
【0010】
結晶子とは、単結晶とみなせる最大の集まりをいい、一個の炭化タングステンを含む粉末は複数の結晶子によって構成されている。
【0011】
本発明者は、取り扱いが容易で、かつ、超微粒の超硬合金を製造することができる炭化タングステンを含む粉末を提供するために鋭意検討した結果、炭化タングステンを含む粉末の結晶子の大きさに着目した。
【0012】
炭化タングステンを含む粉末を用いた超硬合金製造において、一般に微粒子になると粉末の嵩密度が小さくなり、プレス成型が容易でなくなり、また、酸素量が多くなるため焼結し難くなる。すなわち炭化タングステンを含む粉末の粒径が適度に粗く、かつ、超微粒合金が製造できることが望ましい。本発明者は、炭化タングステンを含む粉末を構成する結晶子のサイズを小さくすることで、この炭化タングステンを含む粉末を用いて製造した超硬合金の炭化タングステン粒度を微細化することができることを見出した。その結果、従来の超微粒炭化タングステン粉末と比較し、粒径が大きくても結晶子が小さい炭化タングステンを含む粉末であれば従来と同程度の超微粒の超硬合金を製造することができる。
【0013】
また、炭化タングステンを含む粉末の表面に吸着する酸素量は、粉末の粒径が細かくなるほど多くなる。酸素量が多いと超硬合金を製造する際の焼結工程でガスの発生量が多くなり合金中に空孔を生じやすくなるという問題点がある。加えて酸素が多い故に超硬合金の炭素量の変動幅も大きくなるので、健全な組織が得られ難く、機械的特性が上がらないといった問題点が生じる。粒径の大きな炭化タングステンを含む粉末であればそのような問題は生じにくい。
【0014】
好ましくは、クロムを0.2質量%以上2.5質量%以下含有する。クロムは超硬合金の粒成長抑制剤として使用される元素である。
【0015】
好ましくは、酸素を0.3質量%以下含有する。
好ましくは、炭化タングステンを含む粉末において、結晶子サイズがY±0.5Yの範囲内である結晶子の存在比率が、85%を超えている。結晶子サイズがY±0.5Yの範囲内の結晶子の存在比率が85%を超えると、炭化タングステンの粒子が均粒化され、炭化タングステンを焼結して超硬合金を形成する際に異常な粒成長が起きることを抑制することができ、超硬合金中の粒子を均粒化して抗磁力Hcを高くすることができる。より好ましくは、炭化タングステンを含む粉末において、結晶子サイズがY±0.5Yの範囲内である結晶子の存在比率が、90%を超えている。
【0016】
2.従来の技術との比較
特許文献1は、炭化タングステン粉末の製造方法として、従来製法1を開示している。従来製法1とは、タングステン粉末を用いて炭化タングステン粉末を製造する方法である。Cr、Ta、Mo、Nb、Zr、V等の拡散層を形成し、炭化タングステンの微細一次結晶(粉末時)からなる複合炭化物が形成される。
【0017】
特許文献2は、炭化タングステンの製造方法として、従来製法1を開示している。タングステン粉末にCおよびCrあるいはクロム酸化物、クロム化合物を配合し、クロムを0.2~2.5質量%の範囲で含有する微細一次結晶(粉末時)からなる炭化タングステンによって構成される炭化タングステン系複合炭化物であって、フィッシャー(Fsss)法による平均粒径が1μm以上で、X線回折による炭化タングステン結晶の211面(JCPDSカード25-1047,d:0.9020)の半値幅をY、Fsss法による粒径をXとした場合、Y>0.61-0.33log(X)の関係式を満たし、超硬合金を製造した場合の収縮率が16.7%以上20%未満であることを特徴とする複合炭化物を開示している。
【0018】
特許文献3は、従来製法2を開示している。従来製法2とは、酸化タングステン粉末を炭素粉末で還元して炭化タングステン粉末を製造する方法である。WO粉末と炭素粉を混合し、N雰囲気およびH雰囲気で加熱し、0.5μm以下の均一な粒径(粉末)を有する超微粒炭化タングステン粉末の製造方法が開示されている。
【0019】
特許文献4は、従来製法2を開示している。炭化工程中に中間生成物を粉砕する工程を追加し、平均粒径(粉末)が100nm以下のナノ粒径を備えている炭化タングステン粉末を得ている。
【0020】
超硬合金を切削工具に用いる業界では、微粒超硬合金を製造するときの炭化タングステン粒子の粒径を微細化することにより機械特性が優れた合金を得ようとする技術動向にある。超硬合金中の炭化タングステン粒径は、原料となる炭化タングステン粉末の炭化タングステン粒子を構成する結晶子の大きさと相関がある。
【0021】
一方、超硬合金の原料となる炭化タングステン粉末は、主に上記の従来製法1および従来製法2の2種類の製造法が知られているが、それぞれ以下の様な問題点があった。
【0022】
特許文献1および2の従来製法1では、W酸化物を還元雰囲気炉で加熱しWに還元し、得られたタングステンと炭素とを混合した後に再び熱処理炉で加熱し炭化タングステンに炭化することで炭化タングステン粉末を得る。こうして得られた炭化タングステン粉末の粒径は、超硬合金を製造する上でハンドリングの容易な適度に粗い粒度の範囲の粒径となる半面、結晶子のサイズは他の製法に比べて大きい。結晶子の大きい炭化タングステン粉末を用いて製造した超硬合金は、炭化タングステン粒径が大きくなるという問題点があった。即ち、従来製法1では、微粒のWC粉末が得られ難く、且つ結晶子サイズが小さな粗粒WC粉末が得られ難い。
【0023】
特許文献3、4の従来製法2では、タングステン酸化物と炭素とを混合した物を熱処理炉で加熱し、炭化タングステン粉末を得る。こうして得られた炭化タングステン粉末は、結晶子のサイズは小さく、この炭化タングステン粉末を用いて製造した超硬合金は炭化タングステン粒径を微細化させることができる。ところが炭化タングステン粉末の粒径が小さく比表面積が大きくなるため、吸着酸素量が多くなり、超硬合金の健全相を得ることが困難となる。また、粉末の嵩密度が低くプレス成型がしにくいなどの問題があった。
【0024】
3.本発明の一態様に係る炭化タングステンを含む粉末
本発明の一態様に係る炭化タングステンを含む粉末は、結晶子が微細な多結晶体である。各々の結晶の結晶子サイズが非常に小さく、且つ炭化タングステンを含む粉末のFsss粒度は適度に粗い。すなわち、本発明の一態様に係る炭化タングステンを含む粉末を用いて超硬合金を作製すると超微粒の合金組織が得られるとともに、炭化タングステンを含む粉末状態での取り扱い(ハンドリング性)が容易であるという効果を併せ持つものである。炭化タングステンを含む粉末は90質量%以上の炭化タングステンを含む。炭化タングステン以外に、コバルト、クロムなどを含んでいてもよい。より好ましくは、炭化タングステンを含む粉末は95質量%以上の炭化タングステンを含む。
【0025】
3-1:炭化タングステンの結晶子サイズ(単位:μm)
Xを炭化タングステンのFsss粒度、Yを結晶子サイズ(平均粒径)とすると、これらの間には以下の関係式が成立する。
【0026】
Y≦0.1×X+0.2
なお、Fsss粒度は、Fisher Scientific製のFisher Sub-Sieve Sizer Model 95 を用いて測定可能である。
【0027】
結晶子サイズをこの範囲とすることにより、炭化タングステンを含む粉末から超硬合金を製造したときに超硬合金中の炭化タングステンの粒径を小さくできることを見出した。結晶子サイズYは0.05μm≦Y≦0.3μmが好ましい。
【0028】
なお、工業生産上の観点から、Y≧0.1×X+0.1であることが好ましい。これは、結晶子サイズが小さい炭化タングステンを含む粉末を低コストで製造することが困難であることを意味する。
【0029】
結晶子のサイズ(平均粒径)の測定方法はEBSD法またはリートベルト法(X線回折)による。
【0030】
EBSDとは、後方散乱電子回折(Electron BackScatter Diffraction)を意味する。EBSP(Electron BackScattering Pattern:EBSP)とも呼ばれる。SEM(Scanning Electron Microscope)に組み合わせ、電子線を操作しながら、擬菊池パターンを解析することで、ミクロな結晶方位および結晶系を測定する。平均情報が得られるX線回折と異なり、結晶粒毎の情報が得られる。また、結晶方位データから、結晶粒の方位分布(集合組織)、結晶相分布を解析できる。擬菊池パターンとは、試料に電子を照射した時、反射電子が試料中の原子面によって回折されることによるバンド状のパターンをいう。バンドの対称性が結晶系に対応し、バンドの間隔が原子面間隔に対応している。
【0031】
本発明における結晶子のサイズ(平均粒径)、結晶子サイズの測定範囲(Y±0.5Y)、および、結晶子サイズが(Y±0.5Y)の範囲内である結晶子の存在比率の各々は、EBSD法により測定される。具体的には、以下の機種を用いて測定する。
【0032】
【表1】
【0033】
その他の結晶子サイズの測定法として、リートベルト法がある。リートベルト法とは、粉末X線回折実験や粉末中性子回折実験により得られる回折パターンを結晶構造やピーク形状などに関するパラメーターから計算される回折パターンで最小二乗法を用いてフィッティングすることにより、結晶構造やピーク形状などに関するパラメーターを精密化する。リートベルト法ではX線回折装置(機種名:Panalytical Enpyrean、ソフト名:High Score Plus)を用いる。本発明ではEBSD法による数値にて記したが、リートベルト法においても同様に微細な結晶子が確認された。0.5μm以上の結晶子サイズはEBSD法で測定し、0.5μm未満の結晶子サイズはリートベルト法での値をEBSD法での値に換算している。具体的には、後述する試料番号7および13について、EBSD法およびリートベルト法の両方で結晶子の平均粒径を測定し、各々の測定結果同士の相関係数の平均値を換算係数とした。
【0034】
3-2:炭化タングステンFsss粒度
炭化タングステンを含む粉末のFsss粒度が0.3μm以上1.5μm以下であれば、炭化タングステンを含む粉末の取り扱い(ハンドリング性)が良く、かつ、炭化タングステン中の吸着酸素量が増加しない。吸着酸素量が多いと、炭化タングステンを含む粉末から合金を作製したとき、吸着酸素と炭化タングステン中の炭素が反応し、炭素が消費されるため、健全な超微粒合金組織が得られにくい。Fsss粒度が上記の範囲内であれば、吸着酸素量を増加させないため、そのような不具合も生じ難くなる。微粒合金が得られ且つハンドリング性をより向上させるためには、好ましくは、Fsss粒度が0.5μm以上1.2μm以下、最も好ましくは、Fsss粒度が0.5μm以上1.0μm以下である。
【0035】
3-3:クロム添加量(単位:質量%)
クロムの含有率は、0.2質量%以上が好ましい。クロムの含有率は、2.5質量%以下が好ましい。クロムの含有率が0.2質量%以上であれば、結晶子を微細化するためのクロムの必要量に達する。クロムの含有率が2.5質量%以上であれば、超硬合金の結合相におけるクロムの固溶限界を超え、強度の低下を招く第三相が結合相中に析出して脆くなるおそれがある。なお、「おそれがある」とは、僅かながらそのようになる可能性があることを示し、高い確率でそのようになることを意味するものではない。
【0036】
クロム存在下で炭化を行うと、タングステンの一部分がクロムに置換される。化学式は(W,Cr)Cと推察される。タングステンの低級炭化物にWCがあり、このタングステンの一部がクロムと置き換わったものが(W,Cr)Cであり、タングステンとクロムの複合炭化物の一種である。
【0037】
クロムの含有率の測定方法は、ICP(Inductively Coupled Plasma)である。ICPの分析条件を以下の表に示す。
【0038】
【表2】
【0039】
ICPではクロムの含有率は測定できるものの、タングステンの一部分がクロムに置換されているかどうかを検出することはできない。クロムがどのような形態で粉末中に含まれているかは、TEM(Transmission Electron Microscope)-EDX(Energy Dispersive X-ray spectrometry)を用いて確認することができる。
【0040】
3-4:酸素量(単位:質量%)
酸素の含有率は、0.3質量%以下が好ましい。より好ましくは酸素の含有率は、0.2質量%以下である。
【0041】
酸素の含有率が0.3質量%以下であれば、超硬合金焼結時に炭化タングステン中の炭素と、酸素との反応を抑制し易い。その結果、空孔が少ない健全な合金組織を得て抗折力を高くすることができる。酸素の含有率は理想的には0質量%であるが、粉末表面には酸化膜があるため現実的には難しい。工業生産上の観点から酸素の質量は0.02質量%以上存在する。測定方法は、赤外線吸収法である。たとえば、LECO社製 TC-600型の酸素・窒素分析装置を用いてJIS H 1403(2001)の13.4の「赤外線吸収法」により測定することができる。
【0042】
3-5:結晶子サイズの分布
炭化タングステン粉末の結晶子サイズ(平均粒径)をYとすると、結晶子サイズがY±0.5Yの範囲内の結晶子の存在比率が85%以下であれば、微粒と粗粒の結晶子が混在していることから、超硬合金焼結中に微粒子が粗粒子に取り込まれて異常成長するオストワルド成長が起こり、合金粒度が不均一となる。一方、結晶子サイズがY±0.5Yの範囲内の結晶子の存在比率が85%を超えると、均一な粒度の合金組織が得られる。
【0043】
炭化タングステンの結晶粒径の分布については前述のEBSD法を用いて得られた結晶方位データを画像解析することで、結晶子サイズの0.0μm以上1.5μm以下までの範囲で0.1μm間隔毎に結晶粒径の存在比率を示すヒストグラムを得ることができる。得られたヒストグラムから、結晶子サイズ(平均粒径)Y、および、(Y±0.5Y)を算出する。このとき、小数点第二位の数値まで算入する。(Y±0.5Y)の範囲内の結晶粒径の存在比率を算出する際には、(Y+0.5Y)が位置する階級、および、(Y-0.5Y)が位置する階級、の各々の度数を含めて算出する。
【0044】
炭化タングステンを含む粉末の組成は、クロムを0.2質量%以上2.5質量%以下、酸素を0.3質量%以下含み、残部が実質的に炭化タングステンと0.2質量%以下の遊離炭素と不可避不純物であることが好ましい。不可避不純物とは、製造工程中、原料および装置の少なくとも一方から不可避的に炭化タングステンを含む粉末に混入する不純物であり、具体的には、アルミニウム、カルシウム、銅、マグネシウム、マンガン、シリコンおよびスズである。これらの元素の含有率はICPを用いて測定することができる。超硬合金へ悪影響を及ぼさない範囲の含有率として、上記元素の含有率の総量が100ppm以下であることが好ましい。特に、カルシウムおよびシリコンなどは、超硬合金の特性に悪影響を与えやすい。遊離炭素量の含有率は、たとえば、硝酸とリン酸とからなる混酸にて炭化タングステンを含む粉末を溶解した際に発生する不溶解物を採取し、LECO社製炭素測定装置(WC230)を用いて上記不溶解物を検査することにより測定できる。
【0045】
また、炭化タングステンの割合が90質量%以上であれば、クロムおよび酸素以外の元素を含んでも同様の効果が得られる。炭化タングステンを含む粉末は、たとえば、従来の超硬合金の添加物である、チタン、バナジウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ハフニウム、タンタル、鉄、コバルトおよびニッケルの少なくとも一種の意図的に添加された添加元素を含むことができる。これらの添加元素の含有率はICPを用いて測定することができる。
【0046】
従って炭化タングステンの含有率(質量%)は、100-(クロムの含有率+酸素の含有率+不可避不純物の含有率+添加元素の含有率+遊離炭素の含有率)の関係式から算出可能である。すなわち、本明細書において、炭化タングステンの含有率とは、炭化タングステンのみの含有率ではなく、上記の関係式から算出された、クロム、酸素、不可避不純物、添加元素および遊離炭素を除いた組成の含有率を意味している。
【0047】
上記の炭化タングステンを含む粉末とコバルトとを混合して超硬合金を作製すると、超硬合金中の炭化タングステンは、従来の同等粒度の粉末を用いた場合の超硬合金中の炭化タングステンより微細となる。このことは、超硬合金のHcの値からも示されている。ここでHc(抗磁力)とは磁化された磁性体を磁化されていない状態に戻すために必要な反対向きの外部磁場の強さを示す。したがって、超硬合金の場合、磁化されるのはコバルト相であり、炭化タングステンが微細なほどコバルト相が薄くなるため、磁化されたコバルト相を磁化されていない状態に戻すための外部磁場の強さが強くなる。そのため、合金粒度(コバルト相の厚み)とHcとの間に相関関係がある。炭化タングステンの粒度が小さいほどコバルト相の厚みが薄く(超硬合金が微細構造)なるため、Hcの値は高くなる。Hc(抗磁力)は、たとえば、FOERSTER社製のKOERZIMATCS-1.096を用いて測定可能である。Hc(抗磁力)の測定方法は、ISO 3326-1975に基づいている。
【0048】
4.製法概要
発明品の1つの製法(以下、実施例製法という)は、タングステン酸化物と炭素とを混合後に、水素雰囲気の炉で加熱し、還元および炭化を一連で行う。水素雰囲気の炉で加熱し、タングステン酸化物を水素還元することにより、特許文献1および2の従来製法1と同様な適度な粒度の炭化タングステンを含む粉末を得ることができる。また、還元および炭化を一連の工程で行うことにより、タングステン酸化物のタングステンへの還元とタングステンの炭化が連続して進行するため、タングステンが高温下でメタルとして存在する時間が短縮される。その結果、超微粒な結晶子を得ることができる。
【0049】
従来製法2と実施例製法の比較では、従来製法2では還元熱処理において、窒素雰囲気中でタングステン酸化物を炭素により還元するため、水素を還元剤とする実施例製法(および従来製法1)と比べ微細な粒度の炭化タングステンを含む粉末が得られる。
【0050】
従来製法1は還元と炭化の各工程を別々に行う手法である。この還元工程での条件を調整することにより、非常に微粒のタングステンを製造できるが、還元された微粒のタングステンは、大気中の酸素と反応し、表面の酸化反応により発火する可能性がある。一方、実施例製法では、あらかじめタングステン酸化物とカーボン粉末と混合し、還元と炭化とを連続的に行うため、酸化反応による発火の可能性がない。また、従来製法1と比べタングステン粒子が高温で保持される時間を極力短くしている。このことにより結晶子が再結晶により粗大化することが抑制され超微粒な結晶子を得ることができると推測される。
【0051】
また、実施例製法は従来製法2と比べ水素雰囲気を用いて適度な粒度に粒成長させることができると推測される。
【0052】
実施例製法、従来製法1および従来製法2を対比すると、以下の表の通りである。
【0053】
【表3】
【0054】
[本発明の実施形態の詳細]
実施例の炭化タングステンを含む粉末の製造
SEM観察にて平均粒径が約3.0μmのWOと、平均粒径が約1.0μmの炭素粉末と、平均粒径が約0.5μmのクロム酸化物(Cr)を用いた。WOと炭素粉末とクロム酸化物(Cr)との質量配合比は、試料番号1~17において93.6:5.2:1.2とし、試料番号18,20,22,24において94.7:5.0:0.3とし、試料番号19,21,23,25において90.3:6.1:3.6とした。撹拌羽根のある一般的な混合機で、表4~7における混合条件で混合した。タングステン酸化物と炭素粉末およびクロム酸化物の混合方法については、何れの方式の混合機を使用してもよく、均一に混合されていればよい。
【0055】
混合物を表4~7における「回転炉を用いた熱処理条件」に従い熱処理し、表4~7の「粉砕条件」に従って粉砕して表4~7の試料番号1~25を作製した。
【0056】
【表4】
【0057】
【表5】
【0058】
【表6】
【0059】
【表7】
【0060】
従来製法1での炭化タングステンを含む粉末の製造
試料番号26~29を作製するために、300gのWOを厚さ約5mmとなるように金属トレイ上で熱処理および還元(水素雰囲気、表8参照)してタングステン粉末を得た。表8は特に還元反応の最高温度域を示しており、昇温後は熱処理炉の冷却ゾーンにて冷却した。
【0061】
【表8】
【0062】
その後、表8の試料番号26~29で示す条件で還元したタングステン粉末と前述の炭素粉末およびクロム酸化物(Cr)とを質量比で92.2:6.4:1.4となるように秤量、前述の混合機を用いて500rpmで10分間混合した。混合物を水素雰囲気で厚さ20mmとしてカーボントレイ上で熱処理(水素雰囲気、1000~1800℃、30~300分)することでタングステンを炭化した。炭化タングステンを前述のボールミルで粉砕して表9の試料番号26~29の各々の炭化タングステンを含む粉末(従来製法1)を得た。表9の「熱処理条件」は特に炭化反応の最高温度域を示しており、昇温後は熱処理炉の冷却ゾーンにて冷却した。
【0063】
【表9】
【0064】
従来製法2での炭化タングステンを含む粉末の製造
従来製法1で用いたWO、炭素粉末およびクロム酸化物(Cr)を質量比83.3:15.8:0.9で配合し、前述と同様撹拌羽根のある一般的な混合機にて回転数500rpmで5分間混合した。混合物を表10に示す様々な条件で還元熱処理および炭化熱処理した後、表10のボールミルで粉砕して比較例試料番号30~32を作製した。
【0065】
【表10】
【0066】
得られた炭化タングステンを含む粉末(試料番号1~32)において、粒子断面をSEMで観察した。結晶子サイズおよび結晶子サイズの分布を、EBSD法およびリートベルト法で解析した。炭化タングステンを含む粉末において、クロムの含有率、酸素の含有率および遊離炭素の含有率を測定し、これらの測定結果から炭化タングステンの含有率を算出した。それらの結果を表11~13に示す。なお上記粉末は、遊離炭素の含有率が0.2質量%以下になるように原料の配合が調整されている。さらに、実施例製法、従来製法1および従来製法2の各々で作製された粉末における上記の不可避不純物の含有率は、アルミニウム、銅、マグネシウムおよびマンガンの各々において10ppm以下、カルシウム、シリコンおよびスズの各々において20ppm以下であった。すなわち、上記不可避不純物の総含有率は100ppm以下であった。不可避不純物が合金組織中の異物となるようなサイズでなければ、不可避不純物の含有率が上記の範囲内であることにより健全な超硬合金を得ることができる。
【0067】
【表11】
【0068】
【表12】
【0069】
【表13】
【0070】
なお、試料番号1,2,18,19の結晶子サイズは、リートベルト法での値を上記換算係数を用いて換算した値である。リートベルト法では、結晶子サイズが(Y±0.5Y)の範囲内である結晶子の存在比率を測定することはできないが、試料番号1,2,18,19においては、結晶子サイズが(Y±0.5Y)の範囲内である結晶子の存在比率は、試料番号3~17および20~25の傾向から、85%以上になると類推される。
【0071】
図1は、試料番号8の実施例の炭化タングステンを含む粉末の外観を示すSEM写真である。図2は、試料番号27の従来製法1の炭化タングステンを含む粉末の外観を示すSEM写真である。図1および図2で示すように、試料番号8および27は、Fsss粒度が同等であるため、外観上区別することは困難である。
【0072】
さらに、クロムがどのような形態で粉末中に存在するかをX線回折装置を用いて調べたところ、タングステン-クロム-炭素からなると思われるピークが見られた。
【0073】
図3は、試料番号8の実施例の炭化タングステンを含む粉末の結晶子マッピング像である。図4は、試料番号27の従来製法1のタングステン粉末の結晶子マッピング像である。図3および図4で示すように、試料番号8の炭化タングステン粒子では試料番号27の炭化タングステン粒子と比較して、1つの炭化タングステン粒子が多くの結晶子で構成されていることが分かる。
【0074】
図5は、試料番号1~14,26~29,30~32の各々における、炭化タングステンを含む粉末のFsss粒度と、EBSD法およびリートベルト法による炭化タングステンを含む粉末の断面の結晶子サイズ(平均粒径)との関係を示したグラフである。従来製法1および従来製法2の各々の炭化タングステンを含む粉末に比べて、同じFsss粒度において実施例の形態の炭化タングステンを含む粉末は結晶子サイズが微粒であることが確認できる。従って、Fsss粒度が0.3~1.5μmの場合、実施例の炭化タングステンを含む粉末のFsss粒度Xと結晶子サイズYとの関係は、Y≦0.1×X+0.20の式で表わされる。
【0075】
また、試料番号1~32の各々の炭化タングステンを含む粉末に10質量%のCo粉末を配合してミキサーミルで5分混合し、98MPaの圧力でプレス成型、成型体を真空中、1380℃で1時間焼結した。得られた超硬合金について、抗磁力(Hc)を測定した。それらを表14,15に示す。試料番号1~17,26~29,30~32の各々の炭化タングステンを含む粉末のFsss粒度と抗磁力(Hc)との関係を図6に示す。
【0076】
【表14】
【0077】
【表15】
【0078】
図6は、試料番号1~17,26~29,30~32の各々における、炭化タングステンを含む粉末のFsss粒度とHc(抗磁力)の関係を示したグラフである。図6から、同程度のFsss粒径を有するサンプルを対比した場合には、実施例に従った超硬合金のHcは、従来製法1および2に従った超硬合金のHcよりも大きくなっていることが分かる。例えば、炭化タングステンを含む粉末のFsss粒度が0.6μm近傍の試料番号5および26について、従来製法1の炭化タングステン(試料番号26)で構成される超硬合金のHcは26.3kA/mに対し、実施例の炭化タングステン(試料番号5)で構成される超硬合金のHcは30.4kA/mであるため、実施例の炭化タングステンを含む粉末から製造された超硬合金の組織は微細化されているといえる。
【0079】
また、炭化タングステンを含む粉末のFsss粒度(μm)Xが1.2μm以下の試料番号1~12,15,16,18~23では、特にHcが大きいことが分かる。すなわち、従来製法1、2に比較し、実施例製法においては、より微粒の合金が得られたことが分かる。
【0080】
試料番号1とはクロムの添加量が異なる試料番号18,19、試料番号3とはクロムの添加量が異なる試料番号20,21、試料番号8とはクロムの添加量が異なる試料番号22,23、および、試料番号13とはクロムの添加量が異なる試料番号24,25の各々において、Hc(抗磁力)が、図6に示す従来製法1および従来製法2の各々において同程度のFsss粒度を有する炭化タングステンを含む粉末に比べて、大きくなっていた。すなわち、クロムの含有率が0.2質量%以上2.5質量%以下の範囲において、Hc(抗磁力)を高くできることが確認できた。また、熱処理温度が高くなるにしたがって、Fsss粒度およびHc(抗磁力)の各々が低下することが確認できた。
【0081】
さらに、試料番号8および27の各々の炭化タングステンを含む粉末から超硬合金を作製した。具体的には、試料番号8および27の各々の炭化タングステンを含む粉末に10質量%のCo粉末を配合してアトライターでエタノール中にて8時間湿式混合した。混合粉末を乾燥させて、乾燥した粉末を98MPaの圧力でプレス成型し、縦10mm、横30mm、高さ5mmの成型体を作製した。成型体を真空中、1380℃で1時間焼結した。焼結後の超硬合金の硬度および抗折力を評価した。その結果を表16に示す。
【0082】
【表16】
【0083】
表16から、実施例(試料番号8)の炭化タングステンを含む粉末から製造した超硬合金は、従来製法1(試料番号27)の炭化タングステンを含む粉末から製造した超硬合金と比較して、硬度および抗折力が大きいことが分かった。これは、実施例の炭化タングステンを含む粉末では結晶子のサイズが小さいため超硬合金の組織が超微粒化するからであると考えられる。
【0084】
試料番号8の実施例の炭化タングステンを含む粉末から製造した超硬合金と、試料番号27の従来製法1の炭化タングステンを含む粉末から製造した超硬合金とを観察した。その結果を図7および図8で示す。
【0085】
図7は、試料番号8の実施例の炭化タングステンを含む粉末から製造した超硬合金の金属組織写真である。図8は、試料番号27の従来製法1の炭化タングステンを含む粉末から製造した超硬合金の金属組織写真である。図7および図8で示すように、実施例の炭化タングステンを含む粉末から製造した超硬合金の金属組織は、試料番号27の従来製法1の炭化タングステンを含む粉末から製造した超硬合金の金属組織よりも微細であった。
【0086】
さらに、試料番号1および30の各々の炭化タングステンを含む粉末から超硬合金を作製した。具体的には、試料番号1および30の各々の炭化タングステンを含む粉末に10質量%のCo粉末を配合してアトライターでエタノール中にて8時間湿式混合した。混合粉末を乾燥させて、乾燥した粉末を98MPaの圧力でプレス成型し、縦10mm、横30mm、高さ5mmの成型体を作製した。成型体を真空中、1380℃で1時間焼結した。焼結後の超硬合金の硬度および抗折力を評価した。その結果を表17に示す。
【0087】
【表17】
【0088】
表17に示すように、実施例製法で得られた炭化タングステンを含む粉末においては、従来製法2で得られた炭化タングステンを含む粉末に比較して、粉末のFsss粒度が大きく、且つ、酸素含有率が低く、合金特性としては、硬度および抗折力ともに上回っていることから、健全な合金組織が得られ、特性が向上したといえる。
【0089】
試料番号3および15の各々の炭化タングステンを含む粉末を用いて同様の条件で超硬合金を作製したところ、超硬合金組織は試料番号15の方が均質であった。試料番号3および15の各々の炭化タングステンを含む粉末は、ともに実施例製法で得られた炭化タングステンを含む粉末であるが、粉末のFsss粒度および結晶子サイズが同等であっても、結晶子サイズの均一性の差異によって超硬合金組織の均質性が異なったものと推察された。一般的に、超硬合金組織が均一である場合、抗折力のばらつきが少なくなるため、粉末の結晶子サイズがより均一な場合、超硬合金の特性が良好となる。
【0090】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8