(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-24
(45)【発行日】2023-02-01
(54)【発明の名称】顔料分散剤及びその製造方法、インクジェットインク用顔料分散液、及び水性インクジェットインク
(51)【国際特許分類】
C09D 11/38 20140101AFI20230125BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20230125BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20230125BHJP
【FI】
C09D11/38
B41M5/00 120
B41J2/01 501
(21)【出願番号】P 2020182754
(22)【出願日】2020-10-30
【審査請求日】2022-12-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100220205
【氏名又は名称】大西 伸和
(72)【発明者】
【氏名】嶋中 博之
(72)【発明者】
【氏名】村上 賀一
(72)【発明者】
【氏名】釜林 純
(72)【発明者】
【氏名】吉川 幸男
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/013651(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/135011(WO,A1)
【文献】特開2012-36251(JP,A)
【文献】特開2017-66316(JP,A)
【文献】特許第6886062(JP,B1)
【文献】特開2016-53097(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-10/00
C09D101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性のインクジェットインク用顔料分散液に用いられる顔料分散剤であって、
下記(1)~(5)の要件を満たす顔料分散剤。
(1)メタクリル酸系モノマーに由来する構成単位を90質量%以上含む、B鎖及び2つのA鎖を有するABAブロックコポリマーである。
(2)前記B鎖は、下記一般式(1)で表される基を主鎖に含み、酸価が30mgKOH/g以下であり、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸t-ブチルシクロヘキシル、メタクリル酸3,3,5-トリメチルシクロヘキシル、メタクリル酸ジシクロペンタニル、及びメタクリル酸イソボルニルからなる群より選択される少なくとも一種に由来する構成単位を80質量%以上含み、数平均分子量が5,000~15,000であり、分子量分布が1.1~1.7である。
(3)2つの前記A鎖は、メタクリル酸に由来する構成単位と、メタクリル酸メチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、及びメタクリル酸ヒドロキシエチルからなる群より選択される少なくとも一種に由来する構成単位と、をそれぞれ含み、酸価の合計が100~450mgKOH/gであり、数平均分子量の合計が500~10,000であるとともに、前記B鎖の数平均分子量以下である。
(4)前記ABAブロックコポリマーの数平均分子量が5,500~25,000であり、分子量分布が1.2~2.0である。
(5)メタクリル酸に由来するカルボキシ基の少なくとも一部が、アンモニア、有機アミン、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウムからなる群より選択される少なくとも一種で中和されてイオン化している。
(前記一般式(1)中、Rは、炭素数2~18の直鎖状、分岐状、若しくは環状のアルキレン基、又はジ、トリ、若しくはテトラアルキレン(炭素数2~4)グリコール基を示し、X及びYは、相互に独立に、O又はNHを示し、「*」はB鎖中の結合位置を示す)
【請求項2】
前記B鎖の酸価が0であり、
2つの前記A鎖の酸価の合計が200~400mgKOH/gである請求項1に記載の顔料分散剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の顔料分散剤の製造方法であって、
下記一般式(2)で表されるヨウ素を含む有機化合物を重合開始化合物として用いる重合工程を有する顔料分散剤の製造方法。
(前記一般式(2)中、Rは、炭素数2~18の直鎖状、分岐状、若しくは環状のアルキレン基、又はジ、トリ、若しくはテトラアルキレン(炭素数2~4)グリコール基を示し、X及びYは、相互に独立に、O又はNHを示す)
【請求項4】
2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)を重合開始助剤として使用し、50℃以下でリビングラジカル重合して、前記B鎖及び2つの前記A鎖をそれぞれ形成する請求項3に記載の顔料分散剤の製造方法。
【請求項5】
コハク酸イミド、N-アイオドコハク酸イミド、2,6-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-メチルフェノール、ジフェニルメタン、及びテトラブチルアンモニウムアイオダイドからなる群より選択される少なくとも一種の化合物を有機触媒として使用し、リビングラジカル重合して、前記B鎖及び2つの前記A鎖をそれぞれ形成する請求項3又は4に記載の顔料分散剤の製造方法。
【請求項6】
顔料、水、水溶性有機溶剤、及び顔料分散剤を含有し、
前記顔料分散剤が、請求項1又は2に記載の顔料分散剤であるインクジェットインク用顔料分散液。
【請求項7】
前記顔料が、キナクリドン系顔料及びフタロシアニン系顔料からなる群より選択される少なくとも一種の有機顔料である請求項6に記載のインクジェットインク用顔料分散液。
【請求項8】
前記顔料の含有量が5~60質量%であり、前記水の含有量が20~80質量%であり、前記水溶性有機溶剤の含有量が30質量%以下であり、前記顔料分散剤の含有量が0.5~20質量%である請求項6又は7に記載のインクジェットインク用顔料分散液。
【請求項9】
前記水溶性有機溶剤が、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、グリセリン、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、及び3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミドからなる群より選択される少なくとも一種である請求項6~8のいずれか一項に記載のインクジェットインク用顔料分散液。
【請求項10】
請求項6~9のいずれか一項に記載のインクジェットインク用顔料分散液を含有する水性インクジェットインク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料分散剤及びその製造方法、インクジェットインク用顔料分散液、及び水性インクジェットインクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタは、高機能化により、個人用、事務用、業務用、記録用、カラー表示用、カラー写真用と多岐にわたって使用されている。また、高速化及び高画質化に対応すべく、吐出液滴(インク液滴)の微小化が進んでいる。インク液滴を微小化するには、インク中の顔料(粒子)を微細化するとともに、微細化した顔料を分散媒体中に微分散させることが必要である。
【0003】
微細化された顔料を含有するインクを用いることで、画像等の印画物の鮮明性、色の冴え、及び色濃度等を向上させることができる。なかでも、微細化された顔料を含有するインクを用いることで、色の冴えを示す指標となる色彩値(彩度)が向上する。また、インクジェット記録用の加工紙(写真紙、ワイドフォーマット用紙当)に記録した場合には、記録される画像のグロス値が向上する。しかし、微細化した顔料を含有するインクは紙等の記録媒体に浸透しやすくなるので、得られる画像の色濃度(発色性)が低下する傾向にある。
【0004】
また、より鮮明な色合いや、くっきりとした黒を表現するとともに、乾燥時間を短縮すべく、炭酸カルシウム等の無機充填剤を通常の普通紙よりも多く配合したカラーロック紙が用いられている。しかし、従来の水性顔料インクをカラーロック紙に付与して記録した画像の発色性は、必ずしも十分ではなかった。
【0005】
近年、インクジェット用の水性顔料インクの紙への浸透を抑制するとともに、紙表面に対するインクの濡れを抑制し、紙の表面付近に微細化した顔料をとどめて印字濃度を向上することが検討されている。例えば、顔料をポリマーで被覆してカプセル化することで見掛けの粒子径を大きくするとともに、紙への親和性を高めて発色性を向上させる手法が提案されている(特許文献1)。また、顔料の粒子表面にカルシウムと親和性を有するリン酸基を導入して自己分散顔料とし、発色性を向上させる手法が提案されている(特許文献2)。さらに、ポリアルキレングリコール基を親水性基として有するスチレン-マレイン酸共重合体を顔料分散剤として用いたインクジェット用の白色インクが提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4157868号公報
【文献】特表2009-515007号公報
【文献】国際公開第2013/008691号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1~3で提案された手法等であっても、画像の発色性を十分に高めることは必ずしも容易ではなかった。なお、被印刷基材は、紙、プラスチックフィルム、繊維、セラミックス、木材、ガラス等の多岐にわたっている。そして、食品や日用品等のパッケージに用いるプラスチックフィルムへの印刷方法としては、グラビア印刷法が主流であった。しかし、いわゆる「版」を必要とせず、パソコン等に保存したデータからオンデマンドで容易に印刷することが可能なインクジェット記録方法が主流になりつつある。なかでも、環境保護の観点から、インクジェット用の水性インクを使用して高速印刷することが主流になりつつある。
【0008】
高速印刷に用いるインクジェット用の水性インクに対しては、インクジエット印刷適正、吐出安定性、及び液滴直進性等の特性を有することが要求される。そして、このような要求を満たすには、着色剤として用いる極めて微細な顔料をインク中に安定して分散させる必要がある。さらに、インクジェット用の水性インクに対しては、優れた再溶解性を示すことが求められる。印刷機の記録ヘッドにおいてインクが乾燥して固着する場合があるが、このような場合であっても、洗浄液等を付与することで容易に溶解又は分散して元の状態に戻る再溶解性が必要とされる。
【0009】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、顔料が高度に微分散されているとともに、分散安定性に優れており、かつ、再溶解性の良好な水性のインクジェットインク用顔料分散液を調製しうる顔料分散剤を提供することにある。また、本発明の課題とするところは、上記の顔料分散剤の製造方法、上記の顔料分散剤を用いたインクジェットインク用顔料分散液、及び水性インクジェットインクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明によれば、以下に示す顔料分散剤が提供される。
[1]水性のインクジェットインク用顔料分散液に用いられる顔料分散剤であって、下記(1)~(5)の要件を満たす顔料分散剤。
(1)メタクリル酸系モノマーに由来する構成単位を90質量%以上含む、B鎖及び2つのA鎖を有するABAブロックコポリマーである。
(2)前記B鎖は、下記一般式(1)で表される基を主鎖に含み、酸価が30mgKOH/g以下であり、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸t-ブチルシクロヘキシル、メタクリル酸3,3,5-トリメチルシクロヘキシル、メタクリル酸ジシクロペンタニル、及びメタクリル酸イソボルニルからなる群より選択される少なくとも一種に由来する構成単位を80質量%以上含み、数平均分子量が5,000~15,000であり、分子量分布が1.1~1.7である。
(3)2つの前記A鎖は、メタクリル酸に由来する構成単位と、メタクリル酸メチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、及びメタクリル酸ヒドロキシエチルからなる群より選択される少なくとも一種に由来する構成単位と、をそれぞれ含み、酸価の合計が100~450mgKOH/gであり、数平均分子量の合計が500~10,000であるとともに、前記B鎖の数平均分子量以下である。
(4)前記ABAブロックコポリマーの数平均分子量が5,500~25,000であり、分子量分布が1.2~2.0である。
(5)メタクリル酸に由来するカルボキシ基の少なくとも一部が、アンモニア、有機アミン、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウムからなる群より選択される少なくとも一種で中和されてイオン化している。
【0011】
(前記一般式(1)中、Rは、炭素数2~18の直鎖状、分岐状、若しくは環状のアルキレン基、又はジ、トリ、若しくはテトラアルキレン(炭素数2~4)グリコール基を示し、X及びYは、相互に独立に、O又はNHを示し、「*」はB鎖中の結合位置を示す)
【0012】
[2]前記B鎖の酸価が0であり、2つの前記A鎖の酸価の合計が200~400mgKOH/gである前記[1]に記載の顔料分散剤。
【0013】
また、本発明によれば、以下に示す顔料分散剤の製造方法が提供される。
[3]前記[1]又は[2]に記載の顔料分散剤の製造方法であって、下記一般式(2)で表されるヨウ素を含む有機化合物を重合開始化合物として用いる重合工程を有する顔料分散剤の製造方法。
【0014】
(前記一般式(2)中、Rは、炭素数2~18の直鎖状、分岐状、若しくは環状のアルキレン基、又はジ、トリ、若しくはテトラアルキレン(炭素数2~4)グリコール基を示し、X及びYは、相互に独立に、O又はNHを示す)
【0015】
[4]2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)を重合開始助剤として使用し、50℃以下でリビングラジカル重合して、前記B鎖及び2つの前記A鎖をそれぞれ形成する前記[3]に記載の顔料分散剤の製造方法。
[5]コハク酸イミド、N-アイオドコハク酸イミド、2,6-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-メチルフェノール、ジフェニルメタン、及びテトラブチルアンモニウムアイオダイドからなる群より選択される少なくとも一種の化合物を有機触媒として使用し、リビングラジカル重合して、前記B鎖及び2つの前記A鎖をそれぞれ形成する前記[3]又は[4]に記載の顔料分散剤の製造方法。
【0016】
さらに、本発明によれば、以下に示すインクジェットインク用顔料分散液が提供される。
[6]顔料、水、水溶性有機溶剤、及び顔料分散剤を含有し、前記顔料分散剤が、前記[1]又は[2]に記載の顔料分散剤であるインクジェットインク用顔料分散液。
[7]前記顔料が、キナクリドン系顔料及びフタロシアニン系顔料からなる群より選択される少なくとも一種の有機顔料である前記[6]に記載のインクジェットインク用顔料分散液。
[8]前記顔料の含有量が5~60質量%であり、前記水の含有量が20~80質量%であり、前記水溶性有機溶剤の含有量が30質量%以下であり、前記顔料分散剤の含有量が0.5~20質量%である前記[6]又は[7]に記載のインクジェットインク用顔料分散液。
[9]前記水溶性有機溶剤が、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、グリセリン、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、及び3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミドからなる群より選択される少なくとも一種である前記[6]~[8]のいずれかに記載のインクジェットインク用顔料分散液。
【0017】
また、本発明によれば、以下に示す水性インクジェットインクが提供される。
[10]前記[6]~[9]のいずれかに記載のインクジェットインク用顔料分散液を含有する水性インクジェットインク。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、顔料が高度に微分散されているとともに、分散安定性に優れており、かつ、再溶解性の良好な水性のインクジェットインク用顔料分散液を調製しうる顔料分散剤を提供することができる。また、本発明によれば、上記の顔料分散剤の製造方法、上記の顔料分散剤を用いたインクジェットインク用顔料分散液、及び水性インクジェットインクを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。なお、本明細書中の各種物性値は、特に断りのない限り、常温(25℃)における値である。
【0020】
<顔料分散剤>
本発明の顔料分散剤の一実施形態は、水性のインクジェットインク用顔料分散液に用いられる顔料分散剤であり、下記(1)~(5)の要件を満たすものである。以下、本発明の一実施形態である顔料分散剤の詳細について説明する。
(1)メタクリル酸系モノマーに由来する構成単位を90質量%以上含む、B鎖及び2つのA鎖を有するABAブロックコポリマーである。
(2)B鎖は、下記一般式(1)で表される基を主鎖に含み、酸価が30mgKOH/g以下であり、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸t-ブチルシクロヘキシル、メタクリル酸3,3,5-トリメチルシクロヘキシル、メタクリル酸ジシクロペンタニル、及びメタクリル酸イソボルニルからなる群より選択される少なくとも一種に由来する構成単位を80質量%以上含み、数平均分子量が5,000~15,000であり、分子量分布が1.1~1.7である。
(3)2つのA鎖は、メタクリル酸に由来する構成単位と、メタクリル酸メチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、及びメタクリル酸ヒドロキシエチルからなる群より選択される少なくとも一種に由来する構成単位と、をそれぞれ含み、酸価の合計が100~450mgKOH/gであり、数平均分子量の合計が500~10,000であるとともに、B鎖の数平均分子量以下である。
(4)ABAブロックコポリマーの数平均分子量が5,500~25,000であり、分子量分布が1.2~2.0である。
(5)メタクリル酸に由来するカルボキシ基の少なくとも一部が、アンモニア、有機アミン、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウムからなる群より選択される少なくとも一種で中和されてイオン化している。
【0021】
(前記一般式(1)中、Rは、炭素数2~18の直鎖状、分岐状、若しくは環状のアルキレン基、又はジ、トリ、若しくはテトラアルキレン(炭素数2~4)グリコール基を示し、X及びYは、相互に独立に、O又はNHを示し、「*」はB鎖中の結合位置を示す)
【0022】
(ABAブロックコポリマー)
本実施形態の顔料分散剤は、メタクリル酸系モノマーに由来する構成単位を90質量%以上、好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上含む、B鎖及び2つのA鎖を有するABAブロックコポリマーである。このABAブロックコポリマーは、2つのA鎖がB鎖の両末端に結合している、いわゆるABA型のトリブロックコポリマーである。両末端にある2つのA鎖は、モノマー組成は同一であるが、モノマー組成比及び分子量は同一であってもよく、異なっていてもよい。本明細書における「メタクリル酸系モノマー」の概念には、「メタクリル酸」及び「メタクリル酸エステル」が包含される。メタクリル酸エステルは第3級カルボン酸のエステルであるため、アルカリ条件下であっても加水分解等の副反応が生じにくい。また、アクリル酸系モノマーに比して、得られるポリマーのガラス転移温度(Tg)を高めることができる。さらに、メタクリル酸系モノマーを用いてリビングラジカル重合する場合、得られるポリマーの分子量及び構造を容易に制御することができる。
【0023】
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるABAブロックコポリマーのポリスチレン換算の数平均分子量は、5,500~25,000であり、好ましくは6,100~18,000、さらに好ましくは7,000~14,000である。数平均分子量を上記の範囲内とすることで、顔料分散剤としての機能が有効に発揮され、なかでも、再溶解性に優れた顔料分散液を調製することができる。
【0024】
ABAブロックコポリマーの分子量分布(PDI=重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は、1.2~2.0であり、好ましくは1.3~1.8、さらに好ましくは1.4~1.7である。ABAブロックコポリマーを、例えば後述するリビングラジカル重合によって製造する場合、分子量分布(PDIの値)を1.2未満にすることは実質的に困難である。一方、分子量分布が2.0超であると、分散性が低下することがある。
【0025】
顔料分散剤(ABAブロックコポリマー)中のメタクリル酸に由来するカルボキシ基の少なくとも一部は、特定のアルカリで中和されてイオン化している。カルボシキ基の一部又は全部が中和されてイオン化していることで、ABAブロックコポリマーは水に親和して溶解しうる。なかでも、カルボシキ基の全部が中和されてイオン化していることが好ましい。アルカリは、アンモニア、有機アミン、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウムからなる群より選択される少なくとも一種である。有機アミンとしては、トリエチルアミン、N,N-ジメチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、アミノメチルプロパノール、ピリジン、モルホリン、テトラメチルアンモニウムハイドライド等の脂肪族アミン、脂環族アミン、及び複素環構造を有する有機アミン等を挙げることができる。
【0026】
B鎖は、実質的に水に溶解しない疎水性のポリマーブロックであり、顔料と親和し、吸着、堆積、及びカプセル化する機能を有する。一方、A鎖は、アルカリでイオン化して水に溶解する、酸基を有する親水性のポリマーブロックである。B鎖が顔料に吸着するとともにA鎖が水に溶解し、イオン化したA鎖による電気的反発と立体反発によって、顔料を水系媒体中に分散させることができる。さらに、A鎖は中和される酸基を有するので、水への親和性が高い。このため、乾燥した場合であっても、水を付与することでA鎖が速やかに溶解し、顔料の分散状態を容易に元に戻すことができる。そして、B鎖の両末端に2つのA鎖がそれぞれ結合しているので、B鎖の水に対する親和性が向上している。このため、AB型のジブロックコポリマー(A鎖が親水性のポリマーブロックであり、B鎖が疎水性のポリマーブロック)を用いる場合に比して、ABA型のトリブロックコポリマーである本実施形態の顔料分散剤を用いることで、顔料の再溶解性を向上させることができる。AB型のジブロックコポリマーの場合、A鎖が結合したB鎖の片末端付近は水への親和性が高いが、A鎖が結合していないB鎖のもう一方の末端付近は水への親和性が低いので、顔料の再溶解性を向上させることが困難である。
【0027】
(B鎖)
B鎖は、下記一般式(1)で表される基を主鎖に含む。一般式(1)で表される基は、例えば後述するリビングラジカル重合によりABAブロックコポリマーを製造する場合に用いる重合開始化合物の残基である。すなわち、特定の重合開始化合物を用いてメタクリル酸系モノマーをリビングラジカル重合することで、一般式(1)で表される基をB鎖の主鎖に導入することができる。一般式(1)で表される基は、3級炭素原子を持ったエステル結合を有する、加水分解しにくい基である。このため、一般式(1)で表される基は、アルカリを含有するpHの高い条件下であっても加水分解しにくく、比較的安定に存在しうる基である。このため、一般式(1)で表される基を主鎖に含むB鎖を有するABAブロックコポリマーを顔料分散剤として用いることで、長期間の保存安定性等の耐久性に優れた顔料分散液を調製することができる。なお、一般式(1)で表される基はエステル結合を含む基であることから、半永久的に安定して存在する基ではなく、特定の環境に曝されることで加水分解しうる基である。このため、一般式(1)で表される基を主鎖に含むB鎖を有するABAブロックコポリマーは、環境にやさしい顔料分散剤でもある。
【0028】
(前記一般式(1)中、Rは、炭素数2~18の直鎖状、分岐状、若しくは環状のアルキレン基、又はジ、トリ、若しくはテトラアルキレン(炭素数2~4)グリコール基を示し、X及びYは、相互に独立に、O又はNHを示し、「*」はB鎖中の結合位置を示す)
【0029】
一般式(1)中、Rとしては、エチレン基、プロピレン基、メチルエチレン基、ブチレン基、ヘキシレン基、シクロヘキシレン基、ヘキシレルジメチレン基、フェニルジメチレン基、デカメチレン基、オクタメチレン基、ジエチレングリコール基、トリエチレングコール基、テトラエチレングリコール基、ジプロピレングリコール基、トリプロピレングリコール基、テトラプロピレングリコール基、ジテトラメチレングリコール基等を挙げることができる。Rで表される基の炭素数が多すぎると、顔料へのB鎖の吸着性等の特性が変化する場合がある。Rで表される基としては、エチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基が好ましい。なお、一般式(1)中、X及びYは、いずれもOであることが好ましい。
【0030】
例えば、一般式(1)で表される基を有する重合開始基化合物を用いて、後述するリビングラジカル重合によりABAブロックコポリマーを製造する場合、一般式(1)で表される基の両端(一般式(1)中の「*」の部分)からポリマー鎖が延伸する。両端から延伸する2つのポリマーの分子量は、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0031】
GPCにより測定されるB鎖のポリスチレン換算の数平均分子量は5,000~15,000であり、好ましくは5,500~10,000、さらに好ましくは6,000~8,000である。B鎖の数平均分子量が5,000未満であると、顔料への吸着性が乏しくなったり、顔料から脱離しやすくなったりして、顔料の分散安定性が不十分になる。
一方、B鎖の数平均分子量が15,000超であると、B鎖の水不溶性が高くなり過ぎてしまい、水中で粒子が形成されやすくなって顔料にうまく吸着しなくなる。
【0032】
B鎖の分子量分布(PDI=重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は1.1~1.7であり、好ましくは1.2~1.65、さらに好ましくは1.3~1.6である。例えば、後述するリビングラジカル重合によりABAブロックコポリマーを製造する場合、B鎖の分子量分布(PDIの値)を1.1未満とすることは困難である。一方、B鎖の分子量分布が1.7超であると、顔料の分散性及び保存安定性が不十分になる。
【0033】
B鎖は、疎水性の高いポリマーブロックであることが好ましい。具体的には、B鎖の酸価は30mgKOH/g以下である。B鎖の酸価が30mgKOH/g超であると、アルカリで中和されたB鎖が水と親和し、顔料から脱離してしまう。B鎖は、メタクリル酸に由来する構成単位を実質的に有しないことが好ましく、B鎖の酸価は0であることが好ましい。
【0034】
B鎖は、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸t-ブチルシクロヘキシル、メタクリル酸3,3,5-トリメチルシクロヘキシル、メタクリル酸ジシクロペンタニル、及びメタクリル酸イソボルニルからなる群より選択される少なくとも一種に由来する構成単位を80質量%、好ましくは90質量%以上含む。上記の構成単位を所定の割合で含有することで、B鎖の疎水性が十分に高くなり、疎水性相互作用によって顔料に吸着することができる。また、B鎖のガラス転移温度が高くなる、すなわちB鎖が硬質になるので、顔料に吸着してカプセル化しやすくなり、脱離しにくくなる。
【0035】
B鎖は、上記のメタクリル酸エステル以外のメタクリル酸エステル(その他のメタクリル酸エステル)に由来する構成単位を含んでいてもよい。その他のメタクリル酸エステルとしては、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸デシル、メタクリル酸イソデシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸セチル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸イソステアリル、メタクリル酸ベヘニル等のメタクリル酸アルキルエステル;メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ナフチル、メタクリル酸フェノキシエチル等の芳香環含有メタクリレート;メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、グリセリルモノメタクリレート、メタクリル酸ポリエチレングコリール、メタクリル酸ポリプロピレングリコール等の水酸基含有メタクリレート;メタクリル酸メトキシエチル、メタクリル酸エトキシエチル、メタクリル酸エトキシエトキシエチル、メタクリル酸ブトキシエチル、メタクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル等のグリコールモノエーテルのメタクリレート;メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸t-ブチルアミノエチル、メタクリル酸トリメチルエチルアンモニウムクロライド等のアミノ基や第4級アンモニウム塩基を含有するメタクリレート;等を挙げることができる。なお、アミノ基を含有するメタクリレートに由来する構成単位を含むB鎖とすることで、表面に酸基を有する顔料、酸性カーボンブラック、及び酸性シナジストで処理した有機顔料等を分散させる場合に、イオン結合による吸着も期待されるために好ましい。
【0036】
(A鎖)
2つのA鎖は、メタクリル酸に由来する構成単位をそれぞれ含む。すなわち、2つのA鎖はメタクリル酸に由来するカルボキシ基を有しており、カルボキシ基がアルカリで中和されてイオン化することで、A鎖は水に溶解する。2つのA鎖の酸価の合計は100~450mgKOH/gであり、好ましくは200~400mgKOH/gである。酸価の合計が100mgKOH/g未満であると、ABAブロックコポリマー全体の水溶解性が低下し、顔料の分散性や再溶解性を向上させることが困難になる。一方、酸価の合計が450mgKOH/g超であると、耐水性が低下するとともに、重合中の粘度が高くなりすぎてしまい、ブロック構造を形成することが困難になる。
【0037】
2つのA鎖は、メタクリル酸メチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、及びメタクリル酸ヒドロキシエチルからなる群より選択される少なくとも一種に由来する構成単位をそれぞれ含む。この構成単位を含むことで、再溶解性を高めることができる。なお、2つのA鎖は、いずれも、アミノ基を有するモノマーに由来する構成単位を含まないことが好ましい。アミノ基を有するモノマーに由来する構成単位がA鎖に導入されていると、顔料の酸性基や顔料分散剤中のカルボキシ基と、A鎖中アミノ基とがイオン結合してしまい、A鎖の水溶解性が不十分になる場合がある。
【0038】
2つのA鎖の数平均分子量の合計は500~10,000であり、好ましくは600~8,000、さらに好ましくは1,000~6,000である。数平均分子量の合計が500未満であると、A鎖の親水性が不足し、ABAブロックコポリマーが水に溶解しなくなることがある。一方、数平均分子量の合計が10,000超であると、A鎖の親水性が高くなり過ぎてしまい、顔料から脱離して分散安定性が低下する。
【0039】
本明細書における「2つのA鎖の数平均分子量の合計」は、ABAブロックコポリマーの数平均分子量からB鎖の数平均分子量を差し引くことで算出される計算値である。例えば、ABAブロックコポリマーの数平均分子量が10,000であり、B鎖の数平均分子量が6,000である場合、2つのA鎖の数平均分子量の合計は「10,000-6,000=4,000」である。
【0040】
2つのA鎖の数平均分子量の合計は、B鎖の数平均分子量以下である。A鎖の分子量が大きすぎると、ABAブロックコポリマー中の親水性部分が大きくなりすぎるとともに、顔料に吸着する疎水性部分であるB鎖が相対的に小さくなるので、顔料の分散安定性が低下する。なお、2つのA鎖の数平均分子量の合計は、B鎖の数平均分子量の半分以下であることが好ましい。親水性のA鎖がB鎖の片末端だけでなく両端に結合しているために、2つのA鎖の数平均分子量の合計がB鎖の数平均分子量の半分以下であっても、ABAブロックコポリマー全体としての親水性は十分である。
【0041】
<顔料分散剤の製造方法>
次に、上述の顔料分散剤を製造する方法について説明する。本発明の顔料分散剤の製造方法の一実施形態は、下記一般式(2)で表されるヨウ素を含む有機化合物を重合開始剤として用いる重合工程を有する。以下、顔料分散剤の製造方法の詳細について説明する。
【0042】
(前記一般式(2)中、Rは、炭素数2~18の直鎖状、分岐状、若しくは環状のアルキレン基、又はジ、トリ、若しくはテトラアルキレン(炭素数2~4)グリコール基を示し、X及びYは、相互に独立に、O又はNHを示す)
【0043】
(重合工程)
重合工程では、例えば、有機溶媒中、B鎖、A鎖の順にリビングラジカル重合する。これにより、ABA型のトリブロックコポリマーである顔料分散剤を得ることができる。リビングラジカル重合には、例えば、原子移動ラジカル重合(ATRP法)、ニトロキサイドを介したラジカル重合(NMP法)、可逆的付加開裂連鎖移動重合(RAFT法)、有機テルル系リビングラジカル重合(TERP法)、可逆的移動触媒重合(RTCP法)、可逆的触媒媒介重合(RCMP法)等がある。なかでも、有機化合物を触媒として用いるとともに、有機ヨウ化物を重合開始化合物として用いるRTCP法やRCMP法が好ましい。
【0044】
NMP法では、メタクリル酸系モノマーの重合制御が困難な場合がある。ATRP法では、酸を使用すると触媒が不活性化してしまうので、酸を保護して重合した後に保護基を外して酸を形成させる必要がある。RAFT法では、硫黄による悪臭を除去する必要がある。ATRP法やTERP法では、銅やテルルなどの金属を除去する必要がある。これに対して、有機ヨウ化物を重合開始化合物として用いるリビングラジカル重合では、酸をそのまま使用できるとともに、メタクリル酸系モノマーの重合制御が容易である。さらに、重合開始化合物中のヨウ素は低濃度であり、安全性も高い。
【0045】
本実施形態の顔料分散剤の製造方法では、下記一般式(2)で表される有機化合物を重合開始化合物として使用する。これにより、ABAブロックコポリマーである顔料分散剤を得ることができる。
【0046】
(前記一般式(2)中、Rは、炭素数2~18の直鎖状、分岐状、若しくは環状のアルキレン基、又はジ、トリ、若しくはテトラアルキレン(炭素数2~4)グリコール基を示し、X及びYは、相互に独立に、O又はNHを示す)
【0047】
一般式(2)中のR、X、及びYは、一般式(1)中のR、X、及びYと同義である。一般式(2)で表される化合物は、従来公知の方法で合成することができる。例えば、Rで表される基を有するジオール、アミノオール、及びジアミン(以下、纏めて「ジオール等」とも記す)を用意する。用意したジオール等と、ブロモイソ酪酸ブロミドを反応させて、ジブロモ体を得る。その後、ジブロモ体にヨウ化ナトリウム等の化合物を反応させてハロゲン交換することで、一般式(2)で表される化合物を得ることができる。また、上記のジオール等と、メタクリル酸クロライド又はメタクリル酸無水物とを反応させる、又はメタクリル酸メチルとエステル交換して水酸基やアミノ基をメタクリレート化する。その後、ヨウ化水素を付加することで、一般式(2)で表される化合物を得ることができる。
【0048】
一般式(2)で表される化合物(重合開始化合物)の使用量によって、得られる顔料分散剤の分子量を調整することができる。具体的には、重合開始化合物のモル数に対する、モノマーのモル数を適当に設定することで、任意の分子量に制御されたABブロックコポリマーを得ることができる。例えば、重合開始化合物0.5モル(重合開始基1.0モル)と、分子量100のモノマー500モルとを用いて重合した場合、「1×100×500=50,000」の理論分子量のポリマーを得ることができる。すなわち、ポリマーの理論分子量を下記式(A)により算出することができる。なお、上記の「(理論)分子量」は、数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)のいずれをも含む概念である。
「ポリマーの理論分子量」=「重合開始化合物1モル」×「モノマー分子量」×「モノマーのモル数/重合開始化合物のモル数」 ・・・(A)
【0049】
重合時には、アゾ系ラジカル開始剤又は過酸化物系ラジカル開始剤を重合開始助剤として用いることが好ましい。重合系中に発生させたラジカルがヨウ素を引き抜いて、重合反応を活性化することができる。アゾ系ラジカル開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル等を挙げることができる。過酸化物系ラジカル開始剤としては、過酸化ベンゾイル等を挙げることができる。
【0050】
重合開始助剤の使用量は、モノマーに対して0.001~0.1モル倍とすることが好ましく、0.002~0.05モル倍とすることがさらに好ましい。重合開始助剤の使用量が少なすぎると、重合反応が十分に進行しにくくなる場合がある。一方、重合開始助剤の使用量が多すぎると、リビングラジカル重合反応ではない通常のラジカル重合反応が副反応として進行しやすくなる場合がある。
【0051】
メタクリル酸をモノマーとして用いて重合する場合、温度が高いと重合が進行しない場合がある。これは、カルボキシ基との反応によって末端のヨウ素が脱離してしまい、重合末端が不活性化しやすくなるためと推測される。このため、重合温度を低くすることが好ましい。具体的には、50℃以下で重合することが好ましく、45℃以下で重合することがさらに好ましく、40℃以下で重合することが特に好ましい。
【0052】
さらに、重合温度が低くても機能する重合開始助剤を用いることが好ましい。具体的には、30℃での半減期が約10時間である2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)を重合開始助剤として使用し、50℃以下で重合することが好ましい。なお、この重合開始助剤を使用し、同様の低温条件下でA鎖を重合してもよい。
【0053】
ヨウ素を引き抜いてラジカルを発生させる触媒として、リン系、窒素系、又は酸素系の有機化合物や炭化水素を添加して重合してもよい。取り扱い性及び入手のしやすさ等の観点から、コハク酸イミド、N-アイオドコハク酸イミド、2,6-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-メチルフェノール、ジフェニルメタン、及びテトラブチルアンモニウムアイオダイドからなる群より選択される少なくとも一種の化合物を有機触媒として使用し、リビングラジカル重合して、B鎖及び2つのA鎖をそれぞれ形成することが好ましい。触媒の使用量(モル数)は、重合開始化合物の使用量(モル数)未満とすることが好ましい。触媒の使用量が多すぎると、重合が制御されて重合が進行しにくくなる場合がある。
【0054】
バルク重合、懸濁重合、乳化重合、分散重合、又は溶液重合等により、ABAブロックコポリマーを得ることができる。なかでも、溶液重合が好ましい。溶液重合とすることで、残留モノマーの量をより減ずることができるとともに、重合が途中で停止する等の不具合を生じにくくすることができる。溶液重合の際には、従来公知の溶液重合に用いる通常の有機溶媒を用いることができる。溶液重合の際のモノマー濃度は20~70質量%とすることが、重合率を高めることができるために好ましい。
【0055】
溶液重合の際に用いる有機溶媒としては、インクジェットインクに用いる有機溶媒と同じ種類の有機溶媒を用いることが好ましく、なかでも水溶性有機溶媒が好ましい。インクジェットインクに用いる有機溶媒と同じ種類の有機溶媒を用いて溶液重合することで、重合終了後のポリマーの取り出しや溶媒置換等が不要となり、重合終了後にアルカリで中和するだけで、顔料分散液やインクジェットインクを調製することができる。
【0056】
水溶性有機溶媒は、水に混和しうる有機溶媒である。水溶性有機溶媒としては、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド等を挙げることができる。
【0057】
<インクジェットインク用顔料分散液>
本発明のインクジェット用顔料分散液(以下、単に「顔料分散液」とも記す)の一実施形態は、顔料、水、水溶性有機溶剤、及び顔料分散剤を含有し、顔料分散剤が、前述の顔料分散剤である。
【0058】
(顔料)
顔料としては、有機顔料や無機顔料を用いることができる。有機顔料としては、溶性アゾ顔料、不溶性アゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、イソインドリン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、ジオキサジン顔料、アントラキノン顔料、ジアンスラキノニル顔料、アンスラピリミジン顔料、アンサンスロン顔料、インダンスロン顔料、フラバンスロン顔料、ピランスロン顔料、ジケトピロロピロール顔料等を挙げることができる。無機顔料としては、二酸化チタン、酸化鉄、五酸化アンチモン、酸化亜鉛、シリカ、硫化カドミウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、クレー、タルク、黄鉛、カーボンブラック等を挙げることができる。
【0059】
顔料の具体例をカラーインデックスナンバー(C.I.)で示すと、C.I.ピグメントブルー-15:3、15:4、15:6;C.I.ピグメントレッド-122、176、254、269、291;C.I.ピグメントバイオレット-19、23;C.I.ピグメントイエロー-74、155、180;C.I.ピグメントグリーン-36、58;C.I.ピグメントオレンジ-43、71;C.I.ピグメントブラック-7;及びC.I.ピグメントホワイト-6等の、通常のインクジェットインクに用いられる顔料を挙げることができる。
【0060】
顔料としては、キナクリドン系顔料及びフタロシアニン系顔料からなる群より選択される少なくとも一種の有機顔料を用いることが好ましい。キナクリドン系顔料は、水素結合が強く、難分散性の顔料である。フタロシアニン系顔料は、その金属錯体構造による結晶化のため、比較的難分散性の顔料である。キナクリドン系顔料及びフタロシアニン系顔料は、いずれも疎水性が強く、顔料分散剤が強く吸着してしまい、インク液滴が乾燥して形成される膜の再溶解性が低い顔料である。本発明の一実施形態である前述の顔料分散剤を用いることで、難分散性の顔料であるキナクリドン系顔料やフタロシアニン系顔料を微分散することができる。さらには、再溶解性も付与することができるので、高速印刷適正を有する水性インクジェットインクを調製可能な顔料分散液とすることができる。
【0061】
キナクリドン系顔料としては、C.I.ピグメントレッド-122、209、202、;C.I.ピグメントオレンジ48、49;C.I.ピグメントバイオレット19等を挙げることができる。また、フタロシアニン系顔料としては、C.I.ピグメントブルー-15、15:3、15:4、15:6等を挙げることができる。
【0062】
有機顔料の数平均粒子径(一次粒子径)は150nm以下であることが好ましい。また、無機顔料の数平均粒子径(一次粒子径)は300nm以下であることが好ましい。数平均粒子径が上記範囲内の顔料を用いることで、記録される印字物の光学濃度、彩度、発色性、及び印字品質を向上させることができるとともに、インク中における顔料の沈降を適度に抑制することができる。顔料の数平均粒子径は、例えば、電子顕微鏡や光散乱粒度分布計などを使用して測定することができる。
【0063】
顔料は、顔料分散剤、シランカップリング剤、無機物(シリカ、ジルコニア、硫酸など)、顔料誘導体(シナジスト)などの表面処理剤で表面処理されていてもよい。例えば、顔料を合成する際、顔料化する際、又は顔料を微細化する際に、上記の表面処理剤を添加及び共存させて顔料を処理してもよい。また、キナクリドン系顔料については、異種顔料の混合結晶化物、固溶体顔料などの複合体も使用できる。
【0064】
(液媒体)
液媒体としては、水と水溶性有機溶剤の混合物(混合溶媒)が使用される。水溶性有機溶剤は、ヘッドでのインクの乾燥を防止したり、フィルムへのインクの濡れ性を向上させたりする機能を有する。水溶性有機溶剤としては、水100gへの溶解性が25℃で5g以上のものが好ましい。水溶性有機溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、プロピルアルコール、ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、ペンチルアルコール等のアルコール系溶剤;エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール等のグリコール系溶剤;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテルテトラエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール等のグリコールエーテル類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ピロリドン、N-メチルピロリドン、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、及び3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド等のアミド系溶剤;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート等のカーボネート系溶剤;ジメチルスルホキシド;テトラメチル尿素;ジメチルイミダゾリジノン;等を挙げることができる。
【0065】
高沸点の水溶性有機溶剤を用いることで、ヘッドの乾燥性防止、濡れ性向上、及び印字した紙のカール抑制等の効果を得ることができるために好ましい。さらに、環境に比較的やさしく、顔料分散剤との親和性が高く、インク乾燥時の再溶解性を向上させうる水溶性有機溶剤を用いることが好ましい。具体的には、水溶性有機溶剤として、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、グリセリン、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、及び3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミドからなる群より選択される少なくとも一種を用いることが好ましい。さらに、環境規制の対象である揮発性有機物質とならないような、沸点250℃以上の水溶性有機溶剤が好ましく、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミドが好ましい。
【0066】
(水性顔料分散液)
本実施形態のインクジェットインク用顔料分散液は、液媒体として水を含有するインクジェットインク用の水性顔料分散液である。顔料分散液中の顔料の含有量は、5~60質量%であることが好ましい。なお、有機顔料の含有量は5~30質量%であることが好ましく、10~25質量%であることがさらに好ましい。無機顔料は比重が大きいので、無機顔料の含有量は20~60質量%であることが好ましく、30~50質量%であることがさらに好ましい。
【0067】
顔料分散液中の水の含有量は、20~80質量%であることが好ましい。適当量の水を含有する水性顔料分散液とすることで、水性インクジェットインクを容易に調製することができる。
【0068】
顔料分散液中の水溶性有機溶剤の含有量は、30質量%以下であることが好ましく、0.5~20質量%であることがさらに好ましい。水溶性有機溶剤の含有量が30質量%超であると、画像が乾燥しにくくなることがある。
【0069】
顔料分散液中の顔料分散剤の含有量は、0.5~20質量%であることが好ましい。顔料分散剤の含有量が0.5質量%未満であると、顔料を安定的に分散させることが困難になる場合がある。一方、顔料分散剤の含有量が20質量%超であると、粘度が高くなりすぎるとともに、非ニュートニアン粘性を示してしまい、インクジェット方式で直線的に吐出しにくくなる場合がある。
【0070】
顔料分散剤の含有量は、顔料の種類、表面性質、及び粒子径等に応じて設定することが好ましい。具体的には、有機顔料100質量部に対して、顔料分散剤5~50質量部とすることが好ましく、10~30質量部とすることがさらに好ましい。また、無機顔料100質量部に対して、顔料分散剤1~20質量部とすることが好ましく、3~10質量部とすることがさらに好ましい。
【0071】
顔料分散液は、アルカリをさらに含有することが好ましい。アルカリは、顔料分散剤の中和やpH調整のために用いられる。アルカリとしては、アンモニア、有機アミン、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウム等を用いることができる。顔料分散液中のアルカリの含有量は、0.5~5質量%であることが好ましい。
【0072】
顔料分散液には、バインダー成分をさらに含有させることができる。バインダー成分としては、例えば、アクリル樹脂エマルジョン及びウレタン樹脂エマルジョンの少なくともいずれかのエマルジョンを用いることができる。顔料分散液中のエマルジョンの固形分換算の含有量は、5~20質量%とすることが好ましい。これらのエマルジョンを含有させることで、擦過性等の耐久性及び光沢性が向上した画像を記録しうる水性インクジェットインクを調製可能な顔料分散液とすることができる。
【0073】
アクリル樹脂エマルジョンとしては、例えば、界面活性剤の存在下、スチレン及びアクリル酸系モノマーを重合して得られる、分散粒子径(数平均粒子径)50~200nmのエマルジョン等を用いることができる。ウレタン樹脂エマルジョンとしては、例えば、イソホロンジイソシアネート等のジイソシアネート;ポリカーボネートジオール等のポリオール;ジエチレングリコール等のジオール;及びジメチロールプロパン酸等のジオールモノカルボン酸等を反応させ、イソホロンジアミンで鎖延長させつつ、アルカリ水にて自己乳化させて得られる、分散粒子径(数平均粒子径)50~200nmのエマルジョン等を用いることができる。
【0074】
顔料分散液は、従来公知の方法にしたがって調製することができる。顔料の数平均粒子径(粒度分布)を所望の範囲とするには、例えば、用いる粉砕メディアのサイズを小さくする、粉砕メディアの充填率を大きくする、処理時間を長くする、吐出速度を遅くする、粉砕後フィルターや遠心分離機等で分級する;等の手法が採用される。また、ソルトミリング法等の従来公知の方法によって事前に微細化した顔料を用いることも好ましい。
【0075】
<水性インクジェットインク>
本発明の水性インクジェットインク(以下、単に「インク」とも記す)の一実施形態は、前述のインクジェットインク用顔料分散液を含有する。前述の顔料分散液を含有すること以外は、従来公知のインクと同様である。インク中の顔料の含有量は、4~20質量%であることが好ましい。
【0076】
インクには、通常の水性インクジェットインクに用いられる各種の添加剤を含有させることができる。添加剤としては、界面活性剤、有機溶媒・保湿剤、顔料誘導体、染料、レベリング剤、消泡剤、紫外線吸収剤、エマルジョン等のバインダー成分、防腐剤、抗菌剤等を挙げることができる。
【0077】
インクの物性は、インクジェットプリンタの性能等にあわせて適宜調整される。例えば、インクの表面張力は20~40mN/mであることが好ましい。
【0078】
本実施形態のインクは、民生用、産業用、捺染用等のインクジェットプリンタに適用することができる。印刷対象となるメディア(記録媒体)としては、普通紙、光沢紙、マット紙、PET等のポリエステルや塩化ビニル等のプラスチックフィルム、綿やポリエステル等の繊維、アルミ等の金属板等を挙げることができる。本実施形態のインクを用いれば、無機充填剤を多く含有する紙に対しても、発色性に優れた画像を高速記録することができる。さらに、本実施形態のインクは高速印刷に適したインクであることから、食品パッケージや包装材料等の大量印刷用のインクジエット印刷機に適用することができる。
【実施例】
【0079】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。成分量に関して「部」及び「%」と記載しているものは特に断らない限り質量基準である。
【0080】
<顔料分散剤の製造>
(実施合成例1:ABA-1)
撹拌機、逆流コンデンサー、温度計、及び窒素導入管を取り付けた反応容器に、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(BDG)410.9部、エチレングリコールビス(2-アイオドイソブチレート)(EBIB)4.5部、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)(AMDV)2.50部、メタクリル酸ベンジル(BzMA)105.6部、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEMA)13.0部、及びN-アイオドスクシンイミド(NIS)0.225部を入れた。40℃に加温して4時間重合し、B鎖を得た。反応液の一部をサンプリングし、テトラヒドロフラン(THF)を展開溶媒とするGPCにより測定したB鎖の数平均分子量(Mn)は7,700であり、分子量分布(PDI=重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は1.46であった。サンプリングした反応液の一部を恒量に達するまで180℃で加熱して測定した固形分は22.6%であり、この固形分から算出した重合率は約100%であった。サンプリングした反応液の一部を水に添加したが、溶解しなかった。これにより、B鎖は水に不溶な疎水性ポリマーであることを確認した。
【0081】
次いで、AMDV1部、BzMA105.6部、及びメタクリル酸(MAA)34.4部添加した。40℃で4時間重合してA鎖を形成し、ABAブロックコポリマーを得た。反応液の一部をサンプリングして測定及び算出した重合率は約100%であった。ABAブロックコポリマーのMnは12,000であり、PDIは1.62であった。すなわち、両方のA鎖の合計のMn(計算値)は4,300であり、B鎖の両末端には、親水性ポリマーであるA鎖(Mn2,150)がそれぞれ結合している。
【0082】
サンプリングした反応液0.5部をビーカーに入れ、トルエン/エタノール=1/1(質量比)40mLを加えて溶解させた。フェノールフタレインを添加し、0.1N水酸化カリウム-エタノール溶液で滴定して測定したABAブロックコポリマーの酸価は、86.6mgKOH/gであった。そして、組成比率より算出したA鎖の酸価は、160.3mgKOH/gであった。なお、配合からの算出したB鎖の酸価も160.3mgKOH/gであることがわかった。以下、ABAブロックコポリマーの酸価を測定し、組成比率からA鎖の酸価を算出した。
【0083】
水394.9部に水酸化ナトリウム16部を溶解させて調製した水酸ナトリウム水溶液を添加して中和し、微黄味でほぼ透明な水溶液を得た。適量のイオン交換水を添加して、ABAブロックコポリマーである顔料分散剤ABA-1の水溶液(固形分20%)を得た。得られたABA-1の水溶液を水で20倍に希釈したところ、ほぼ透明な水溶液となった。
【0084】
(実施合成例2~14:ABA-2~14)
表1~3に示す配合としたこと以外は、前述の実施合成例1と同様にして、ABA-2~14の水溶液を得た。表1~3中の略号の意味は以下に示す通りである。
・DPGM:ジプロピレングリコールジメチルエーテル
・PGP:プロピレングリコールモノプロピルエーテル
・PGM:プロピレングリコールモノメチルエーテル
・BTG:トリエチレングリコールモノブチルエーテル
・MDMPA:3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド
・CHMA:メタクリル酸シクロヘキシル
・DEGBIB:ジエチレングリコールビス(2-アイオドイソブチレート)
・CHDMBIB:シクロヘキサンジメタノール(2-アイオドイソブチレート)
・BHT:ジt-ブチルヒドロキシトルエン
・DPM:ジフェニルメタン
・TBCHMA:メタクリル酸t-ブチルシクロヘキシル
・TMCHMA:メタクリル酸トリメチルシクロヘキシル
・TCDMA:メタクリル酸ジシクロペンタニル
・IBXMA:メタクリル酸イソボルニル
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
(比較合成例1及び2:AB-1及び2)
EBIBに代えて、メチル2-アイオドイソブチレート(MIIB)を、それぞれ2.6部及び1.3部用いたこと以外は、前述の実施合成例1と同様にして、ABブロックコポリマーであるAB-1及び2の水溶液を得た。MIIBは、開始基を1つ有する重合開始化合物であり、このMIIBを用いることでABブロックコポリマーを得ることができる。便宜上、最初に形成されるポリマー鎖をB鎖とし、次に形成されるポリマー鎖をA鎖とした。得られたAB-1及び2の詳細を表4に示す。
【0089】
【0090】
(比較合成例3~6:ABA-15~18)
表5に示す配合としたこと以外は、前述の実施合成例1と同様にして、ABA-15~18の水溶液を得た。表5中の略号の意味は以下に示す通りである。
・2EHMA:メタクリル酸2-エチルヘキシル
・BMA:メタクリル酸ブチル
【0091】
【0092】
<顔料分散液の調製(1)>
(実施例1:IJD-1)
ABA-1の水溶液350部、プロピレングリコール70部、及び水195部を混合して透明な溶液を得た。得られた溶液にC.I.ピグメントブルー-15:3(PB-15:3、商品名「A-220JC」、大日精化工業社製)350部を添加し、ディスパーを使用して30分撹拌し、ミルベースを調製した。横型媒体分散機(商品名「ダイノミル0.6リットルECM型」、シンマルエンタープライゼス社製、ジルコニア製ビーズの径:0.5mm)を使用し、周速10m/sで分散処理してミルベース中に顔料を十分に分散させた後、水316部を添加して顔料濃度18%に調整した。ミルベースを遠心分離処理(7,500回転、20分間)した後、ポアサイズ10μmのメンブレンフィルターでろ過した。水で希釈して、pH8.3であり、顔料濃度14%である顔料分散液(IJD-1)を得た。
【0093】
(実施例2~5、比較例1~4)
表6及び7に示す種類の顔料分散剤を用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にして、顔料分散液(IJD-2~5、CIJD-1~4)を得た。
【0094】
(実施例6~10、比較例5及び6)
PB-15:3に代えてC.I.ピグメントレッド-122(PB-122、商品名「CFR130P」、大日精化工業社製)を用いたこと、及び表8に示す種類の顔料分散剤を用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にして、顔料分散液(IJD-6~10、CIJD-5及び6)を得た。
【0095】
<評価>
(分散性・保存安定性)
粒度測定機(商品名「NICOMP 380ZLS-S」、インターナショナル・ビジネス社製)を使用し、調製直後及び70℃で1週間保存後の顔料分散液中の顔料の数平均粒子径をそれぞれ測定した。また、調製直後及び70℃で1週間保存後の顔料分散液の粘度を測定した。測定結果を表6~8に示す。さらに、以下に示す評価基準にしたがって顔料分散液の分散性・保存安定性を評価した。結果を表6~8に示す。
○:顔料を微分散することができるとともに、保存安定性が良好であった。
×:顔料を微分散することができず、保存安定性も不良であった。
【0096】
(再分散性)
調製した顔料分散液の一滴をガラスプレート上に滴下した。60℃の乾燥機中に24時間放置して乾燥皮膜を形成した。形成した乾燥皮膜にスポイトで水を滴下して乾燥皮膜の状態を目視で観察し、以下に示す評価基準にしたがって顔料分散液の再分散性を評価した。結果を表6~8に示す。
○:水を滴下した直後に溶解しはじめ、最終的にほぼ元の分散液の状態に戻った。
△:水を滴下して数秒後に徐々に溶解しはじめ、最終的にほぼ元の分散液の状態に戻った。
×:水を滴下して数秒後に徐々に溶解しはじめるが、「ブツ」が生じ、顔料の粒子径が元に戻らなかった。
××:水を滴下して数秒後に徐々に溶解しはじめるが、膜状にはがれてしまい、元の分散液の状態に戻らなかった。
×××:水を滴下しても溶解しなかった。
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
<顔料分散液の調製(2)>
(実施例11:IJD-11)
ABA-8の水溶液125.0部、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール50部、及び水325部を混合した。C.I.ピグメントホワイト-6(白色顔料、商品名「JR-405」、テイカ社製)500部を添加し、ディスパーを使用して撹拌した後、横型媒体分散機を使用して顔料を十分に分散させてミルベースを得た。ポアサイズ10μmのメンブレンフィルターでミルベースをろ過した後、水で希釈して、顔料濃度14%である顔料分散液(IJD-11)を得た。
【0101】
IJD-11中の顔料の数平均粒子径は183nmであった。IJD-11の粘度は14.3mPa・sであり、pHは9.1であった。IJD-11をサンプル瓶に入れて70℃で1週間保存したところ、顔料が沈降した。サンプル瓶を10回振とうしたところ、顔料は再度分散し、顔料の数平均粒子径は203nmとなってサンプル瓶の内壁には「ブツ」も生じていなかった。酸価の高いA鎖が水と親和し、顔料の粒子間に水和層を形成して顔料同士の凝集を防止したとともに、撹拌によって容易に元の分散状態に戻ることができたと考えられる。
【0102】
<水性インクの調製(1)>
(実施例11:IJI-1)
以下に示すインク処方にしたがって、インクジェット用の水性インクを調製した。
[インク処方]
・IJD-11:20部
・水:53部
・グリセリン:26部
・界面活性剤(商品名「サーフィノール465」、エアープロダクト社製):1部
【0103】
上記処方の配合物を十分撹拌した後、ポアサイズ10μmのメンブランフィルターでろ過して、水性インク-1(IJI-1)を得た。IJI-1の粘度は3.6mPa・sであった。
【0104】
IJI-1を水で2倍に希釈して得た希釈物1.5gを2mL容量のポリプロピレン製マイクロチューブに入れた。小型遠心機(商品名「ディスクボーイFB-4000」、倉敷紡績社製)を使用し、9,000回転で1分間遠心処理して、マイクロチューブの底部にハードケーキを形成させた。形成したハードケーキが下側になるようにマイクロチューブを鉛直に保持して30分間室内に静置した後、手操作にて振とう混合した。その結果、ハードケーキが再分散して消失した。顔料分散剤として用いたABAブロックコポリマーの両末端のA鎖は、分子量が比較的小さいとともに、高酸価であるカルボキシ基が密な状態で存在している。このため、凝集や分子の絡み合いが生じにくく、容易に再分散したものと考えられる。
【0105】
<顔料分散液の調製(3)>
(実施例12~16:IJD-12~16)
表9に示す種類の顔料分散剤及び顔料を用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にして、顔料分散液(IJD-12~16)を得た。表9に示す顔料のうち、PB-7及びPY-74の詳細を以下に示す。調製直後の顔料分散液中の顔料の数平均粒子径の測定結果、及び調製直後の顔料分散液の粘度の測定結果を表9に示す。
・PB-7:C.I.ピグメントブラック-7、カーボンブラック顔料(商品名「S170」、デグザ社製)
・PY-74:C.I.ピグメントイエロー-74、アゾ系黄色顔料(商品名「セイカファーストイエロー2016G」、大日精化工業社製)
【0106】
【0107】
<水性インクの調製(2)>
(実施例17~20:IJI-2~5)
顔料分散液(IJD-13~16)を使用し、以下に示すインク処方にしたがってインクジェット用の水性インクを調製した。
[インク処方]
・各顔料分散液:40部
・水:42.2部
・1,2-ヘキサンジオール:5部
・グリセリン:10部
・界面活性剤(商品名「サーフィノール465」、エアープロダクト社製):1部
【0108】
上記処方の配合物を十分撹拌した後、ポアサイズ10μmのメンブランフィルターでろ過して、水性インク(IJI-2~5)を得た。得られたIJI-2~5をカートリッジにそれぞれ充填し、インクジェットプリンタ(商品名「EM930C」、セイコーエプソン社製)に装着した。このインクジェットプリンタを使用し、普通紙(商品名「ColorLok紙」、ヒューレッドパッカード社製)に最大印刷物濃度でベタ域塗りつぶしを行って印画物を得た。いずれの水性インクについても、インクジェットのノズルから問題なく吐出可能であることを確認した。得られた印画物は、色濃度が高く、鮮やかであり、かつ、高発色であることを確認した。
【0109】
<水性インクの調製(3)>
(実施例21:IJI-6)
以下に示す処方にしたがって、インクジェット用の水性インクを調製した。ウレタンエマルジョンとしては、イソホロンジイソシアネート/ポリヘキサメチレンカーボネートジオール/ジメチロールブタン酸/ヒドラジンからなるポリウレタンをトリエチルアミンで中和した、酸価34.2mgKOH/g、光散乱により測定した平均粒子径42.2nm、固形分25.0%のウレタン水分散体を用いた。
[インク処方]
・IJD-12:20部
・ウレタンエマルジョン:20部
・水:33部
・プロピレングリコール:26部
・界面活性剤:商品名「サーフィノール465」(エアープロダクト社製):1部
【0110】
上記処方の配合物を十分撹拌した後、ポアサイズ10μmのメンブランフィルターでろ過して、水性インク(IJI-6)を得た。得られたIJI-6の粘度は3.7mPa・sであった。得られたIJI-6をカートリッジに充填し、インクジェットプリンタ(商品名「EM930C」、セイコーエプソン社製)に装着した。このインクジェットプリンタを使用し、PETフィルムに最大印刷物濃度でベタ域塗りつぶしを行った後、80℃で10分間乾燥して印画物を得た。インクジェットのノズルが詰まったり、吐出されるインク滴の直進性が低下したりすることはなく、良好に吐出して印刷することができた。印画物にセロファンテープ(商品名「セロテープ(登録商標)」、ニチバン社製)を十分に押し当てた後、セロファンテープを剥離した。剥離後の印画物を目視にて観察したところ、インクはほとんど剥離していなかった。また、学振型摩擦堅牢度試験機(商品名「RT-300」、大栄科学社製)を使用し、印画物の表面を、白布(乾摩擦)及び水で湿らせた白布(湿摩擦)によって、荷重500gでそれぞれ20往復する摩擦試験を実施した。その結果、インクはほとんど剥離しておらず、白布も汚染されていなかった。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明の一実施形態である顔料分散剤を用いれば、微細な顔料を微分散させて長期保存安定性のある顔料分散液を調製することができる。さらには、インクジェットヘッドで乾燥しても再分散及び再溶解が容易であり、吐出性に優れた水性インクジェットインクを提供することができる。そして、この水性インクジェットインクで記録した画像は高彩度、高グロス、高発色性、及び高耐光性である。このため、水性インクジェットインクは、屋外用途ディスプレイ印刷や大量高速インクジェット印刷に好適である。