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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-24
(45)【発行日】2023-02-01
(54)【発明の名称】膝継手部品、膝継手及び義足
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/64 20060101AFI20230125BHJP
   A61F 2/74 20060101ALI20230125BHJP
【FI】
A61F2/64
A61F2/74
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020519610
(86)(22)【出願日】2019-05-13
(86)【国際出願番号】 JP2019018858
(87)【国際公開番号】W WO2019221037
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2022-05-09
(31)【優先権主張番号】P 2018092712
(32)【優先日】2018-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390005751
【氏名又は名称】株式会社今仙技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100181250
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 信介
(72)【発明者】
【氏名】後藤 学
【審査官】細川 翔多
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-221093(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/64
A61F 2/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大腿部に装着されるソケットに結合されるシリンダチューブと、前記シリンダチューブの内部に形成される油室と、前記油室に充填されるオイルと、人工下腿部に結合されるロッドと、前記油室に配置され、前記油室を第1の油室と第2の油室に区画し、前記ロッドの移動に伴って移動するピストンと、を備えた油圧シリンダに装着する膝継手部品であって、
前記第1の油室と前記第2の油室とを連結し、前記ピストンが、前記第1の油室から前記第2の油室に向かって動くときに、前記オイルが通過する際の第1通過特性を有する第1油路と、
前記第1油路と並列となるように配置した、前記ピストンが、前記第1の油室から前記第2の油室に向かって動くときに、前記第1通過特性よりも前記オイルの油圧抵抗が大きい第2通過特性を有する第2油路と、
前記第1の油室と前記第2の油室とを連結し、前記ピストンが、前記第2の油室から前記第1の油室に向かって動くときに、前記オイルが通過する第3油路と、
前記オイルが前記第1油路又は前記第2油路のいずれを通過するかを切り替える切替機構と、
を備え、
前記第2油路は、
油路の途中に前記オイルの入出口を有し、
前記切替機構は、
第1回転軸周りに回動可能に取り付けられ、前記人工下腿部が傾いたときに、第1回転軸周りに回動する第1回動部材と、
前記第1回動部材の第2回転軸周りに回動可能に取り付けられ、前記人工下腿部が傾いたときに、前記第2回転軸周りに回動し、前記第2油路の入出口を開状態又は閉状態にすることにより、前記オイルが前記第1油路又は前記第2油路のいずれを通過するかを切り替える第2回動部材と、
を備えていることを特徴とする膝継手部品。
【請求項2】
請求項1に記載の膝継手部品において、
前記第3油路は、
前記第1通過特性及び前記第2通過特性よりも油圧抵抗が小さい第3通過特性を有し、
前記第1の油室において、前記第1の油室から前記第2の油室への前記オイルの入出口が、前記ピストンの移動方向に複数設けられていることを特徴とする膝継手部品。
【請求項3】
ソケットに結合されるシリンダチューブと、前記シリンダチューブの内部に形成される油室と、前記油室に充填されるオイルと、前記人工下腿部に結合されるロッドと、前記油室に配置され、前記油室を第1の油室と第2の油室に区画し、前記ロッドの移動に伴って移動するピストンと、を備えた油圧シリンダと、
請求項1又は請求項2に記載の膝継手部品と、
を備えたことを特徴とする膝継手。
【請求項4】
大腿部に装着されるソケットと、
人工下腿部と、
請求項3に記載の膝継手と、
を備えたことを特徴とする義足。
【請求項5】
(削除)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、義足の膝部分に用いられる膝継手部品、膝継手及び膝継手を用いた義足に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、切断脚の断端部に装着される義足の大腿ソケット内の内側面に、体重負荷と切断脚の断端部の筋肉の収縮運動とを検知する第1圧力センサを設け、大腿ソケット内の底面に体重負荷を主に検知する第2圧力センサを設け、第1圧力センサの圧力が第2圧力センサの圧力より所定圧力以上高いとき、膝継手部の屈曲伸展の抵抗を調整する液圧シリンダの可変バルブの絞り具合を、第1圧力センサ及び第2圧力センサの圧力差の検知情報により制御する義足があった(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-218778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記義足のように、大腿ソケット部の内側面及び大腿ソケット内の底面にそれぞれ圧力センサを配置し、それらで検知した圧力を制御装置に入力し比較処理を行って、その結果に基づいて、液圧シリンダを制御する義賊では、構成品も多く、電子的な処理や制御が必要となる。つまり、構造や制御が複雑であるという問題があった。
【0005】
本発明は、こうした問題に鑑みなされたもので、簡易な構成で義足の膝関節を人体の膝の動きに近いものとすることができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の適用例として実現することが可能である。なお、本欄における括弧内の参照符号や補足説明等は、本発明の理解を助けるために、後述する実施形態との対応関係を示したものであって、本発明を何ら限定するものではない。
【0007】
<適用例1>
本発明に係る膝継手部品(4)は、大腿部(7)に装着されるソケット(8)に結合されるシリンダチューブ(12)と、前記シリンダチューブ(12)の内部に形成される油室(13)と、前記油室(13)に充填されるオイル(19)と、人工下腿部(9)に結合されるロッド(14)と、前記油室(13)に配置され、前記油室(13)を第1の油室(13a)と第2の油室(13b)に区画し、前記ロッド(14)の移動に伴って移動するピストン(15)と、を備えた油圧シリンダ(10)に装着する膝継手部品(4)であって、前記第1の油室(13a)と前記第2の油室(13b)とを連結し、前記ピストン(15)が、前記第1の油室(13a)から前記第2の油室(13b)に向かって動くときに、前記オイル(19)が通過する際の第1通過特性を有する第1油路(20)と、前記第1油路(20)と並列となるように配置した、前記ピストン(15)が、前記第1の油室(13a)から前記第2の油室(13b)に向かって動くときに、前記第1通過特性よりも前記オイル(19)の油圧抵抗が大きい第2通過特性を有する第2油路(30)と、前記第1の油室(13a)と前記第2の油室(13b)とを連結し、前記ピストン(15)が、前記第2の油室(13b)から前記第1の油室(13a)に向かって動くときに、前記オイル(19)が通過する第3油路(40)と、前記オイル(19)が前記第1油路(20)又は前記第2油路(30)のいずれを通過するかを切り替える切替機構(50)と、を備え、前記第2油路(30)は、油路の途中に前記オイル(19)の入出口(31,32)を有し、前記切替機構(50)は、第1回転軸(53)周りに回動可能に取り付けられ、前記人工下腿部(9)が傾いたときに、第1回転軸(53)周りに回動し、前記第2油路(30)の前記入出口(31,32)を開状態又は閉状態にすることにより、前記オイル(19)が前記第1油路(20)又は前記第2油路(30)のいずれを通過するかを切り替える第1回動部材(52)を備えていることを要旨とする。
【0008】
このような膝継手部品(4)では、簡易な構成で義足(1)の膝関節を人体の膝の動きに近い動きをさせることができる。つまり、膝継手部品(4)は、義足(1)において、大腿部(7)のソケット(8)と人工下腿部(9)との間に取り付けられる油圧シリンダ(10)に装着され、切替機構(50)によって、油圧シリンダ(10)内の第1の油室(13a)と第2の油室(13b)を連結する第1油路(20)と、第1油路(20)に並列に配置された第2油路(30)のいずれにオイル(19)と通過させるかを切り替える切替機構(50)を備えている。そして、切替機構(50)は、人工下腿部(9)が傾いたときに、第1回転軸(53)周りに回動し、第2油路(30)の途中に設けられた、オイル(19)の入出口(31,32)を開状態又は閉状態にすることによって、オイル(19)が第1油路(20)又は第2油路(30)のいずれを通過するかを切り替える。
【0009】
このように、第1回転軸(53)周りに回動し、人工下腿部(9)が傾いたときに、オイル(19)の経路を切り替えるという簡易な構造の切替機構(50)によって、オイル(19)の経路を第1油路(20)と第2油路(30)とで切り替えることができる。そして、第1油路(20)と第2油路(30)におけるオイル(19)の通過特性が異なっている。したがって、義足(1)を大腿部(7)に装着して、歩行した状態において、膝継手(2)が伸びた場合(人工下腿部(9)が傾いていない場合)と、膝継手(2)が屈折した場合(人工下腿部(9)が傾いた状態)とで、膝関節の動きを異なるようにすることができ、膝関節を人体の膝の動きに近いものにすることができる。
【0010】
<適用例2>
適用例1に記載の膝継手部品(4)において、前記切替機構(50)は、前記第1回動部材(52)の第2回転軸(56)周りに回動可能に取り付けられ、前記人工下腿部(9)が傾いたときに、前記第2回転軸(56)周りに回動し、前記第1回動部材(52)に代わり、前記第2油路(30)の入出口(31,32)を開状態又は閉状態にすることにより、前記オイル(19)が前記第1油路(20)又は前記第2油路(30)のいずれを通過するかを切り替える第2回動部材(55)を備えていることを要旨とする。
【0011】
このように、第1回転軸53周りに回動する第1回動部材(52)の第2回転軸(56)周りに回動可能に取り付けられた第2回動部材(55)により、第1回動部材(52)に代わり、第2油路(30)の入出口(31,32)を開状態又は閉状態にして、前記オイル(19)が第1油路(20)又は第2油路(30)のいずれを通過するかを切り替えるようにする。つまり、第1油路(20)と第2油路(30)の切替えを、いわゆる2重振り子のような形態で行うことにより、人工下腿部(9)の傾きに対し、より感度よく反応する切替機構(50)とすることができる。
【0012】
<適用例3>
適用例1又は適用例2に記載の膝継手部品(4,5)において、前記第3油路(40)は、前記第1通過特性及び前記第2通過特性よりも油圧抵抗が小さい第3通過特性を有し、前記第2の油室(13b)において、前記第2の油室(13b)から前記第1の油室(13a)への前記オイル(19)の入出口(75,76)が、前記ピストン(15)の移動方向に複数設けられていることを特徴とする膝継手部品(6)。
【0013】
このような膝継手部品(6)では、第3油路(40)に第1通過特性及び第2通過特性よりも油圧抵抗が小さい第3通過特性を持たせ、第2の油室(13b)において、第2の油室(13b)から第1の油室(13a)へのオイル(19)の入出口(75,76)を、ピストン(15)の移動方向に複数設ける。これにより、ピストン(15)が縮まる方向に移動する際には、オイル(19)が、第2の油室(13b)から第1油路(20)や第2油路(30)を介して第1の油室(13a)に流入する。また、ピストン(15)が延びる方向に移動する際には、オイル(19)が、第1の油室(13a)から第3油路(40)を介して第2の油室(13b)に流入する。このとき、第1油路(20)、第2油路(30)及び第3油路(40)の通過特性が異なっているため、より実際の脚の動きに近い義足(1)の動きとすることができる。
【0014】
<適用例4>
本発明に係る膝継手(2)は、ソケット(8)に結合されるシリンダチューブ(12)と、前記シリンダチューブ(12)の内部に形成される油室(13)と、前記油室(13)に充填されるオイル(19)と、前記人工下腿部(9)に結合されるロッド(14)と、前記油室(13)に配置され、前記油室(13)を第1の油室(13a)と第2の油室(13b)に区画し、前記ロッド(14)の移動に伴って移動するピストン(15)と、を備えた油圧シリンダ(10)と、適用例1~適用例3のいずれか1項に記載の膝継手部品(4,5,6)と、を備えたことを要旨とする。このような膝継手(2)は、適用例1~適用例3のいずれか1項に記載の膝継手部品(4,5,6)の特徴を有する膝継手(2)とすることができる。
【0015】
<適用例5>
本発明に係る義足(1)は、大腿部(7)に装着されるソケット(8)と、人工下腿部(9)と、適用例4に記載の膝継手(2)と、を備えたことを要旨とする。このような義足(1)は、適用例4に記載の膝継手(2)の特徴を有する義足(1)とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】義足の概略の構成を示す図である。
図2】膝継手の概略の構成を示す図である。
図3】(A)は膝継手部品の概略の構成を示す側面図であり、(B)は膝継手部品の概略の構成を示す正面図である。
図4】(A)は切替機構の概略の構成を示す図であって、義足が直立している状態の切替機構の様子を示す図であり、(B)は切替機構の概略の構成を示す図であって、義足が傾いた状態の切替機構の様子を示す図である。
図5】膝継手部品を含めた膝継手の油圧回路図である。
図6】(A)は第2実施形態における切替機構の概略の構成を示す図であって、義足が直立している状態の切替機構の様子を示す図であり、(B)は第2実施形態における切替機構の概略の構成を示す図であって、義足が傾いた状態の切替機構の様子を示す図である。
図7】(A)~(C)は第3実施形態における膝継手部品を適用した膝継手の構成を示す図である。
図8】第3実施形態における膝継手部品を適用した膝継手の油圧回路図である。
図9】第3実施形態における義足を装着した使用者が歩行を行う際の義足の動きを示す図である。
図10】(A)~(D)は第3実施形態における立脚相の踵接地期から足底接地期の間の膝継手の作動の様子を示す図である。
図11】(A)~(D)は第3実施形態における立脚相の踵離地期、踏み切り期及び遊脚相の加速期の間の膝継手の作動の様子を示す図である。
図12】(A)~(D)は第3実施形態における遊脚相の遊脚中期から減速期の間の膝継手の作動の様子を示す図である。
図13】(A)~(D)は第3実施形態における減速期から踵接地期の間の膝継手の作動の様子を示す図である。
図14】(A)~(F)は第4実施形態における膝継手の概略の外観図と膝継手部品の油路のモード切り替えをした場合のレバーの位置と屈曲抵抗との関係及びロック状態とした場合を示す図である。
図15】(A)~(D)は第4実施形態での、各モードにおける膝継手部品の内部の作動状態を示す図である。
図16】第4実施形態での、各モードにおける油圧回路の状態を模式的に示す図である。
図17】(A)は第4実施形態における膝継手の構成を示す図であり、(B)は第4実施形態におけるロック機構の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明が適用された実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明の実施の形態は、下記の実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採りうる。
【0018】
[第1実施形態]
図1図5に基づき、第1実施形態について説明する。
<義足の構成>
まず、図1に基づき、義足1全体の構成について説明する。図1は、本発明が適用された義足1の概略の構成を示す図である。
【0019】
図1に示すように、義足1は、ソケット8、人工下腿部9、膝継手2を備えている。ソケット8は、義足1を使用者の大腿部7に装着するための部分であり、樹脂などの弾力性のある材料を使用者の大腿部7の形状にフィットするように形成することによって、使用者の大腿部7に負担をかけないようになっている。
【0020】
また、ソケット8の下端部分には、人工下腿部9及び膝継手2と連結するための連結部8aが設けられている。連結部8aの下端はリンク機構になっており、ソケット8の中心部に近い部分でボルト8bにより人工下腿部9の上端部と連結されており、このボルト8bを中心に、人工下腿部9がソケット8に対して屈折するようになっている。
【0021】
また、連結部8aの下端の先端部に膝継手2のロッド14の先端がボルト8cにより連結されている。ソケット8の連結部8aとロッド14とがこのように連結されることにより、ロッド14が伸縮すると、ソケット8(大腿部7)と人工下腿部9とが屈折動作をする。膝継手2の油圧シリンダ10及び膝継手部品4(詳細は、後述する)は一体化されて、人工下腿部9に内包された状態で人工下腿部9に図示しないボルトなどで固定されている。
【0022】
また、図1に示すように、人工下腿部9は、人間の脚の下腿を模擬した形状に形成されている。そして、上部(以下、上部下腿9aと呼ぶ)は、ソケット8と連結されるとともに、油圧シリンダ10及び膝継手部品4を内蔵する構造となっており、アルミなどの軽金属やCFRPなどの強度の高い樹脂を用いて形成されている。
【0023】
また、人工下腿部9のうち、上部下腿9aの下方の、いわゆる脛に当たる部分(以下、脛部9bと呼ぶ)は、アルミなどの軽金属やCFRPなどの強度の高い樹脂を用いて形成されている。さらに、脛部9bの下方の、足に相当する部分は、脛部9bに連結される金属部分の結合部9cとウレタンなどの樹脂で被覆された足部9dとで構成されている。
【0024】
<膝継手の構成>
次に、図2に基づき、膝継手2の構成について説明する。図2は、膝継手2の概略の構成を示す図である。
【0025】
図2に示すように、膝継手2は、油圧シリンダ10及び膝継手部品4を備えている。油圧シリンダ10は、シリンダチューブ12、油室13、ロッド14、ピストン15を備えている。また、油室13にはオイル19(作動油)が充填されている。
【0026】
シリンダチューブ12は、アルミなどの金属を円筒状に形成し、両端面12a、12bを円筒部分と同じ材料で塞いだ油圧シリンダである。また、端面12aには、ロッド14を挿通するための穴が設けられている。シリンダチューブ12の外形は、略直方体になっており、その1側面に膝継手部品4が図示しないボルトなどで固定されている(膝継手部品4については詳細を後述する)。
【0027】
油室13は、シリンダチューブ12の内部に形成された空間であり、作動油であるオイル19が充填されている。また、油室13にはピストン15が配置されており、油室13を第1の油室13aと第2の油室13bに区画している。
【0028】
ピストン15には、アルミなどの金属を棒状に形成したロッド14が取り付けられている(ピストン15とロッド14は一体成形されていてもよい)。また、ロッド14の端部には、ソケット8の連結部8aと結合するための孔部14aが設けられており、連結部8aとボルト8cで連結されている。そして、ピストン15は、ロッド14の移動(膝の曲げに伴う伸縮)に伴って移動する(シリンダチューブ12の中心軸の軸方向(図2中上下の矢印方向)にスライドする)。
【0029】
<膝継手部品の構成>
次に、図3(A)および(B)に基づき、膝継手部品4の構成について説明する。図3(A)および(B)は、膝継手部品4の概略の構成を示す図であり、図3(A)は膝継手部品4の側面図、図3(B)は正面図である。
【0030】
図3(A)および(B)に示すように、膝継手部品4は、ボディ60及びボディ60内部に設けられた第1油路20,第2油路30、切替機構50を備えている。ボディ60は、油圧シリンダ10の側面に取り付けられる部品であり、樹脂製の略直方体状のブロックである。油圧シリンダ10には、図示しない複数のボルトで結合されている。ボディ60の内部には、第1油路20、第2油路30、第3油路40、油室62、入出口74,75が形成されている。また、油室62の内部に切替機構50が設けられている。ボディ60と油圧シリンダ10とは、ボディ60の入出口74,75を油圧シリンダの油室13a,13bに連結することにより油圧回路が形成されるように結合されている。
【0031】
第1油路20は、シリンダチューブ12の第1の油室13aと第2の油室13bとを連結する油路であり、図3(A)および(B)中に実線の矢印で示してある。また、第1油路20の途中に、オリフィス20aが設けられている。このオリフィス20aは、第1油路20の一部にボルト20bを装着できる穴部を設けることにより、ボルト20bの穴部に対する挿入深さを調整することによって、オイル19の通過面積の大きさを調整できるようになっている。
【0032】
第2油路30は、第1油路20と並列となるように第1油路20から分岐した、第1油路20とはオイル19の通過特性が異なる油路である。第1油路20から分岐した第2油路30を図3(A)および(B)中に破線の矢印で示してある。また、第2油路30の途中にオリフィス30aが設けられている。
【0033】
第1油路20と第2油路におけるオイル19の通過特性は、それぞれの油路のオリフィス20aとオリフィス30aのオイル19の通過面積の違いによって実現されている。本実施形態では、オリフィス30aのオイル19通過面積の方がオリフィス20aのオイル19の通過面積よりも小さくなっているため、第2油路30の方が第1油路20よりもオイル19が通過し難くなっている(第2油路30の油圧抵抗(第2通過特性)の方が第1油路20の油圧抵抗(第1通過特性)よりも大きい)。
【0034】
第3油路40は、第1の油室13aと第2の油室13bとを直結する油路である。また、第3油路40には、第2の油室13bから第1の油室13aへのオイル19の流れを阻止するチェック弁70が設けられている。
【0035】
また、油室62の一部(図3(A)および(B)中油室62の左下)には、オイル19の入出口31,32が設けられており、第1油路20及び第2油路30の一部となっている。切替機構50は、オイル19が第1油路20又は第2油路30のいずれを通過するかを切り替える機構である。
【0036】
<切替機構の構成>
次に、図4(A)および(B)に基づき、切替機構50の構成について説明する。図4(A)および(B)は、切替機構50の概略の構成を示す図である。図4(A)は、義足1が直立している状態の切替機構50の様子を示す図であり、図4(B)は、義足1が傾いた状態の切替機構50の様子を示す図である。
【0037】
図4(A)および(B)に示すように、切替機構50は、第1回動部材52及び第2回動部材55を備えている。第1回動部材52は、真鍮などの金属製の立方体状の部材であり、長手方向の一端(鉛直上方向側の端部)近傍に第1回転軸53が設けられており、第1回転軸53周りに回動可能となるように、真鍮などの金属製のピンでボディ60に取り付けられている。また、第1回動部材52の他端側近傍(第1回転軸53が設けられている端部と反対端近傍)に第2回転軸56が設けられており、第2回転軸56に第2回動部材55が回動可能に、真鍮などの金属製のピンで取り付けられている。
【0038】
第2回動部材55は、第1回動部材52よりも軽いアルミニウムなどの金属製の立方体状の部材であり、長手方向の一端がピンにより第2回転軸56に取り付けられている。また、第2回動部材55の一端側側面(図4(A)中の左側側面)には、第2油路30の入出口31に対向する部分に、金属ボール57が凸部を形成するように圧入されている。そして、圧入された金属ボール57の先端(凸部)が入出口31に密着すると入出口31を閉鎖するようになっている。
【0039】
このように、切替機構50は、第1回動部材52がボディ60に対して回動可能に取り付けられ、第1回動部材52の先端に第2回動部材55が回動可能に取り付けられ、いわゆる二重振り子のようになっている。したがって、義足1が作動し、膝継手2つまりボディ60が鉛直方向に対して傾くと、第1回動部材52及び第2回動部材55が自重で第1回転軸53及び第2回転軸56周りに回動する。すると、第2回動部材55の側面に貼り付けられている金属ボール57が、第2油路30の入出口31を閉鎖することとなり、後述するようにオイル19の流路を切り替えることができる。また、第2回動部材55の方が第1回動部材52よりも軽いので、1個の回動部材が回動する場合にくらべ、第2回動部材55の先端が、より感度よく振れることとなる。
【0040】
<膝継手の作動>
次に、図3(A)、(B)及び図5に基づき、膝継手部品4が取り付けられた膝継手2の作動について説明する。図5は、膝継手部品4を含めた膝継手2の油圧回路図である。
【0041】
膝継手2が伸びた状態の場合(人工下腿部9が傾いていない又は傾きが少ない場合)には、切替機構50が垂直状態又は垂直状態に近いため、切替機構50により入出口31,32が共に開状態となる。この場合、オリフィス30aの方のオイル19の通過面積が小さいため、第2油路30の油圧抵抗が第1油路20の油圧抵抗よりも大きい。したがって、オイル19は、図3(A),(B)、および図5中に実線で示すように第1油路20を通過こととなる。すると、油圧シリンダ10のピストン15は、速く移動することになる。
【0042】
膝継手2の屈折が大きくなった状態の場合(人工下腿部9が傾きが大きくなった場合)には、切替機構50によって、入出口31が閉鎖され閉状態となり、入出口32は開状態となる。すると、オイル19は、図3(A),(B)、および図5中に破線で示すように第2油路30を通ることとなる。この場合、上述のように、第2油路30の油圧抵抗の方が第1油路20の油圧抵抗よりも大きいため、油圧シリンダ10のピストン15の動きは遅くなる。
【0043】
さらに、膝継手2が屈折した状態から伸張する場合には、チェック弁22が閉状態、チェック弁70が開状態となるため、オイル19は、第1油路20及び第2油路30に流れず、図3(A),(B)、および図5中に一点鎖線で示すように、オイル19は油室13bから油室13aに流れるようになる。この場合の第3油路40は、第1の油路13aと第2の油路13bとを直結しているため、その油圧抵抗は、第1油路20及び第2油路30よりも小さい、したがって、油圧シリンダ10のピントン15は、速く移動することになる。
【0044】
このように、膝継手2により、義足1の膝の部分が伸びた状態から屈折する場合には、膝の部分は徐々に屈折し難くなり、屈折した状態から伸張する場合にはスムーズに伸びるようになる。
【0045】
<義足の特徴>
以上のような義足1では、簡易な構成で義足1の膝関節を人体の膝の動きに近い動きをさせることができる。つまり、膝継手部品4は、義足1において、大腿部7のソケット8と人工下腿部9との間に取り付けられる油圧シリンダ10に装着され、切替機構50によって、油路を切り替えている。
【0046】
切替機構50は、人工下腿部9が傾いたときに、自重によって第1回動部材52が第1回転軸53周りに回動するとともに、第2回動部材55が第2回動軸56周りに回動することによって、第2油路30の途中に設けられた、オイル19の入出口31を開状態又は閉状態にする。これにより、オイル19が第1油路20又は第2油路30のいずれを通過するかを切り替える。このように、第1回動部材52及び第2回動部材55が、第1回転軸53周り及び第2回動軸56周りに回動し、第1回動部材52及び第2回動部材55が二重振り子のように作動して、人工下腿部9が傾いたときに自重によってオイル19の経路を切り替えるという簡易な構造の切替機構50によって、オイル19の経路を第1油路20と第2油路30とで切り替えることができる。
【0047】
そして、第1油路20と第2油路30におけるオイル19の通過特性が異なっている。したがって、義足1を大腿部7に装着して、歩行した状態において、膝継手2が伸びた場合(人工下腿部9が傾いていない場合)と、膝継手2が屈折した場合(人工下腿部9が傾いた状態)とで、膝関節の動きを異なるようにすることができ、膝関節を人体の膝の動きに近いものにすることができる。
【0048】
さらに、第1回転軸53周りに回動する第1回動部材52の第2回転軸56周りに回動可能に取り付けられた第2回動部材55により、第1回動部材52に代わり、第2油路30の入出口31,32を開状態又は閉状態にして、オイル19が第1油路20又は第2油路30のいずれを通過するかを切り替えるようにする。つまり、第1油路20と第2油路30の切替えを、いわゆる2重振り子のような形態で行うことにより、人工下腿部9の傾きに対し、より感度よく反応する切替機構50とすることができる。
【0049】
[第2実施形態]
次に、図6(A)および(B)に基づき、第2実施形態について説明する。第2実施形態では、義足1、膝継手2の構造は第1実施形態におけるものと同じであるため、その説明を省略し、第1実施形態と異なる膝継手部品5について説明する。
【0050】
図6(A)および(B)に示すように、第2実施形態における膝継手部品5では、切替機構50の回動部材が第3回動部材80の1個のみとなっている。第3回動部材80は、第1回転軸53周りに回動可能に取り付けられ、人工下腿部9が傾いたときに、自重によって、第1回転軸53周りに回動し、第1実施形態と同様に第2油路30の入出口31,32を開状態又は閉状態にする。これにより、オイル19が第1油路20又は第2油路30のいずれを通過するかを切り替えることができるようになっている。
【0051】
第2実施形態における切替機構50では、回動部材が1個(第3回動部材80)のみであるため、第1実施形態における2個の回動部材(第1回動部材52,第2回動部材55)を用いた場合に比べ、作動感度は劣るものの、構造を非常に簡易にすることが可能であり、軽量化やコストの低減が可能である。
【0052】
[第3実施形態]
次に、図7図13に基づき、第3実施形態について説明する。図7(A)~(C)は、膝継手部品6を適用した膝継手2の構成を示す図であり、図8は、膝継手部品6を適用した膝継手2の油圧回路図である。また、第3実施形態においても、義足1の構造は第1実施形態におけるものと同じであるため、その説明を省略し、第1実施形態と異なる膝継手2及び膝継手部品6について説明する。
【0053】
<膝継手及び膝継手部品の構成>
図7(A)~(C)に示すように、第3実施形態における膝継手2では、ピストン15のリング部分が二重になっている(リング部分の一方をリング15a、他方をリング15bと呼ぶ)。このリング15aとリング15bとの間には空間が存在してもよいし存在しなくてもよい。また、ロッド14が、第1実施形態及び第2実施形態のものと異なり、ピストン15の両端側(図7(A)~(C)中で上下方向)に延伸されている。さらに、ロッド14はシリンダチューブ12の端面12aだけでなく端面12bも貫通するようになっている。
【0054】
そして、第3実施形態における膝継手部品6では、図8の油圧回路図に示すように、第3油路40は、入出口74と入出口75を介して第1の油室13aと第2の油室13bとを連結するとともに、入出口74と入出口76を介して第1の油室13aと第2の油室13bとを連結している。換言すれば、入出口74に接続されている油路が分岐して入出口75と入出口76に接続されている。
【0055】
また、第3油路40において、油路が入出口75と入出口76に分かれる分岐点よりも入出口74側にオリフィス40aが設けられている。このオリフィス40aは、第3油路40は、第1通過特性及び前記第2通過特性よりも油圧抵抗が小さい第3通過特性を有するように設定されている。また、第3実施形態における第3油路40では、第1の油室13aにおいて、第1の油室13aから第2の油室13bへのオイル19の入出口がピストン15の移動方向の異なる位置に2個(入出口75,76)設けられている。
【0056】
<膝継手の作動>
次に、図9図13に基づいて、膝継手2の作動について説明する。図9は、義足1を装着した使用者が歩行を行う際の義足1の動きを示す図である。また、図10図13は、歩行時の立脚相及び遊脚相における膝継手備品6の作動の様子を示す図である。
【0057】
図9に示すように、義足1の使用者である人間が歩行をする際、片側の足の踵が接地し、次に同踵が接地するまでの1歩行周期は、立脚相と遊脚相と呼ばれる動きで構成される。立脚相は、歩行中に、足が床面に着いて、体重がかかっている間のことであり、踵接地期(図9中(a)で示す)、足底接地期(図9中(b)で示す)、立脚中期(図9中(c)で示す)、踵離地期(図9中(d)で示す)、踏み切り期(図9中(e)で示す)の5つに細分される。また、遊脚相は、歩行中に、つま先が地面を離れてから、次の踵接地までの間のこと、つまり、足が地面から離れて、振られている間のことであり、加速期(図9中(f)で示す)、遊脚中期(図9中(g)で示す)、減速期(図9中(h)で示す)の3つに細分される。
【0058】
立脚相では、踵接地期(a)、足底接地期(b)の2つの状態(図9中(I)で示す)で、膝継手2において特に強い油圧抵抗を発生させて膝折れを抑制する。また、立脚相の踵離地期(d)、踏み切り期(e)及び遊脚相の加速期(f)までの間(図9中(II)で示す)では、膝継手2において適度な油圧抵抗を発生させて、素早く遊脚相へ移行させる。
【0059】
遊脚相の遊脚中期(g)から減速期(h)の間(図9中(III)で示す)では、膝継手2において、弱い油圧抵抗を発生させて素早く踵接地期(a)へ移行させる。また、減速期(h)から踵接地期(a)も間(図9中(IV)で示す)では、強い油圧抵抗を発生させて、完全伸展時(踵接地時(a))の衝撃を緩和する。
【0060】
このような立脚相、遊脚相での作動を実現するため、膝継手2は、図10図13に示すように作動する。なお、図10図13において、(A)は、歩行周期における立脚相と遊脚相における義足1の屈曲の様子を示し、(B)は膝継手2の正面から見た構成を示し、(C)は側面から見た構成を示し、(D)は背面から見た構成を示す。
【0061】
まず、立脚相の踵接地期(a)から足底接地期(b)の間(図10(A)中(I)で示す)においては、図10(B)に太い矢印で示すように、ピストン15が最上部近傍から下方へ移動する。このとき、膝継手部品6は、図10(A)に示すように、義足1の後方側に傾斜している。したがって、第1回動部材52及び第2回動部材55の自重により、第2回動部材55の側面に貼り付けられている金属ボール57が、図10(B)に示すように、第2油路30の入出口31を閉鎖する。すると、図10(B)~図10(D)中に細い矢印で示すように、オイル19は、第2油路30を通る。この場合、第2油路30の油圧抵抗の方が第1油路20の油圧抵抗よりも大きいため、油圧シリンダ10のピストン15はゆっくり移動(下降)する。また、この場合、第3油路40にチェック弁70があるため、オイル19は、第3油路40を介しては第2の油室13bから第1の油室13aには流れない。したがって、ピストン15は作動しない。
【0062】
次に、立脚相の踵離地期(d)、踏み切り期(e)及び遊脚相の加速期(f)の間(図11(A)中(I)で示す)においては、図11(B)に太い矢印で示すように、ピストン15が下方へ移動する。このとき、膝継手部品6は、図11(A)に示すように、義足1の前方側に傾斜しているため、第2回動部材55の側面の金属ボール57は、図11(B)に示すように、第2油路30の入出口31を開放し、入出口32を閉塞する。すると、図11(B)~図11(D)中に細い矢印で示すように、オイル19は、第1油路20を通る。この場合、第1油路20の油圧抵抗の方が第2油路30の油圧抵抗よりも小さいため、油圧シリンダ10のピストン15は素早く移動(下降)する。また、この場合、第3油路40にチェック弁70があるため、オイル19は、第3油路40を介しては第2の油室13bから第1の油室13aには流れない。したがって、ピストン15は作動しない。
【0063】
次に、遊脚相の遊脚中期(g)から減速期(h)の間(図12(A)中(III)で示す)においては、図12(B)に太い矢印で示すように、ピストン15が上方へ移動する。このとき、膝継手部品6は、図12(A)に示すように、義足1の前方側に傾斜しているため、第2回動部材55の側面の金属ボール57は、図12(B)に示すように、第2油路30の入出口31を開放し、入出口32を閉塞する。すると、図12(B)~図12(D)中に細い矢印で示すように、オイル19は、第1の油室13aの入出口75と入出口76の両方の入出口を介して、第3油路40を通る。ここで、第3油路40の油圧抵抗は非常に小さいため、ピストン15は素早く移動(上昇)する。この場合、第1の油室13aのオイル19は、入出口75,76を介して第1油路20及び第2油路30に流出しようとするが、チェック弁22により第1油路20及び第2油路30のオイル19の流出は阻止される。したがって、オイル19は、第3油路40のみにより第1の油室13aから第2の油室13bへ流出する。
【0064】
次に、減速期(h)から踵接地期(a)の間(図13中(IV)で示す)では、図13(B)に太い矢印で示すように、ピストン15が上方へ移動する。このとき、膝継手部品6は、図13(A)に示すように、義足1の前方側に傾斜しているため、第2回動部材55の側面の金属ボール57は、図13(B)に示すように、第2油路30の入出口31を開放する。すると、図13(B)~図13(D)中に細い矢印で示すように、オイル19は、入出口75のみを介して第2油路30を通過しようとする。また、第2油路30は、チェック弁22で阻止されているため、結局、オイル19は、第1油路20及び第2油路30のいずれも通過することができない。つまり、オイル19は、入出口75のみから第3油路40を介して第1の油室13aから第2の油室13bに流出するため、図12(A)中(III)で示す遊脚相の遊脚中期(g)から減速期(h)の間に比べて、強い油圧抵抗がかかるため、完全伸展時(a)の衝撃を緩和することができる。
【0065】
このように、第3油路40の油圧抵抗が、第1油路20の油圧抵抗(第1通過特性)及び第2油路30の油圧抵抗(第3通過特性)よりも小さくなるようなオリフィス40aを第3油路40に設けるとともに、シリンダチューブ12に2つの入出口75及び入出口76を設けることにより、図9に示すように、義足1の動きを、より使用者の脚の動きに近いものとすることができる。
【0066】
[第4実施形態]
次に、図14図17に基づき、第4実施形態について説明する。図14(A)~(F)は、第4実施形態における膝継手2の概略の外観図と膝継手部品3の油路のモード切り替えをした場合のレバー90の位置と屈曲抵抗との関係及びロック状態とした場合を示す図である。また、第4実施形態においては、義足1の構造は第1実施形態におけるものと類似しているため、その同じ部品や同じ構造の部分は同じ符号を付して、その説明を省略する。
【0067】
第4実施形態における膝継手部品3は、第1実施形態~第2実施形態における膝継手部品4,5,6にレバー90を設け、油路のモード切り替えを行うようにするとともに、ストッパ100を設けて、膝継手部品4~6を、義足1の使用状態に拘わらず固定状態(「ロック状態」と呼ぶ。図14(E)参照。)にするようにした膝継手部品である。
【0068】
ここで、油路のモード切替とは、義足1を使用する際に、膝継手部品3~6を第1実施形態~第3実施形態の使用状態(「ノーマル状態」と呼ぶ。図14(A)参照。)となったり、使用状態に拘わらず自由に膝継手部品4~6が屈曲作動する状態(「フリー状態」と呼ぶ。図14(B)参照。)となったり、膝継手4~6が屈曲作動する際に、屈曲抵抗が一律に大きくなる状態(「イールディング状態」と呼ぶ。図14(C)参照。)となったりする状態を切り替えることをいう。
【0069】
次に、図15及び図16に基づき、モード切替を行った際の各モードにおける膝継手部品3の作動状態を説明する。図15(A)~(D)は、各モードにおける膝継手部品3の内部の作動状態を示す図であり、図16は、各モードにおける油圧回路の状態を模式的に示す図である。
【0070】
図15(A)に示すように、油路の入出口31,32とチェック弁22との間にレバー90により回転して油路を切り替える切替バルブ91が設けられている(図16参照)。この切替バルブ91をレバー90により回転させることにより油路を切り替えて、モードを切り替えることができる。各モードにおける膝継手部品3の作動状態及び油圧回路の状態は下記(V)~(VII)に示す。
【0071】
(V)ノーマル状態
ノーマル状態では、膝継手部品3の内部は、レバー90を下位置にすることにより、切替バルブ91が、図15(A)に示すように、入出口31をオープンにする位置となる。このときの油圧回路における切替バルブ91の状態は、図16中の「A」に示すようになる。このとき、油路が入出口31に通過するようになっている。これにより、ノーマル状態では、膝継手部品3は、実施形態1~3で説明した膝継手部品4~6と同じように作動する。つまり、図14(F)に示すように、ノーマル状態では、義足1が前傾している場合には、義足1が後傾している場合に比べ屈曲抵抗が弱く、義足1が後傾している場合には、義足1が前傾している場合に比べ、屈折抵抗が強いことになる。
【0072】
(VI)フリー状態
フリー状態では、膝継手部品3の内部は、レバー90を中央位置にすることにより、切替バルブ91が図15中で反時計周りに回転し、図15(C)に示す状態となりバイパス回路33が形成される。また、切替バルブ91の下端部には突起92が設けられているため、その突起92によって、切替機構50の第2回動部材55や第3回動部材80の金属ボール57が入出口31を閉状態とならないようになる。このとき油圧回路における切替バルブ91の状態は、ノーマル状態から右にずれて、図16中の「B」に示すようになる。すると、油路が入出口31,32から第1バイパス回路33を通過するようになっている。第1バイパス回路33は、第2バイパス回路34に比べ油圧抵抗が小さく設定されているため(オリフィス33aで示す)、フリー状態では、膝継手部品3は、屈折抵抗が小さく、容易に屈折できるようになっている。
【0073】
(VII)イールディング状態
イールディング状態では、膝継手部品3の内部は、レバー90を上位置にすることにより、切替バルブ91が図15中で更に反時計周りに回転し、図15(D)に示す状態となりバイパス回路34が形成される。このとき油圧回路における切替バルブ91の状態は、フリー状態から更に右にずれて、図16中の「C」に示すようになる。すると、油路が入出口31から第2バイパス回路34を通過するようになっている。第2バイパス回路34は、第1バイパス回路33に比べ油圧抵抗が非常に大きく設定されているため(オリフィス34aで示す)、イールディング状態では、膝継手部品3は、屈折抵抗が非常に大きく、不意に膝折れしないようになっている。
【0074】
次に、図17に基づき、ロック機構について説明する。図17(A)および(B)は、ロック機構の説明図であり、図17(A)に膝継手2の構成を示す図、図17(B)にロック100部分の拡大図を示す。
【0075】
図17(A)に示すように、ロック機構では、第4実施形態における膝継手2のシリンダチューブ12の端面12b側に、シリンダチューブ12の壁面を延伸させ、その壁面に2つの孔12c,12dが穿たれている。2つの孔12c,12はシリンダチューブ12の底面の直径上で対抗した位置に穿たれている。また、2つの孔12c,12dを貫通するように金属製の円柱状のロック100が設けられている。ロック100には、ロッド14が貫通する直径の孔101が穿たれている。
【0076】
このようなロック機構では、図17(A)に示すように、ロック100を図中右にスライドさせると、ロック100がロッド14の端面に当接するため、ロック状態となる。 ロック状態からロック100を図中左にスライドさせると、ロッド14が、ロック100の孔101を貫通するようになるため、膝継手2は通常の作動状態(非ロック状態)となる。
【0077】
また、第4実施形態における膝継手部品3では、図16に示すように、シリンダチューブ12の入出口74の近傍に入出口77が設けられている。この入出口77からは油路40のオリフィス40aの手前側で油路40に結合される油路が設けられている。この入出口77により、ロッド14が伸長している状態から収縮を開始した状態では、第1の油室13bの作動油が入出口74と入出口77の両方から排出されるため、油圧抵抗が小さく、ロッド14が速く収縮する。そして、ピストン15が入出口77の位置に到達すると、入出口74のみから作動油が排出されるようになるため、油圧抵抗が大きくなり、ロッド14の収縮速度が遅くなる。換言すれば、入出口74とシリンダチューブ12の底面との間にある作動油がクッションの役割を果たすようになる。本第4実施形態では、入出口77は、義足1の膝継手2における折れ曲がり角度が60度となる位置に設けられている。
【0078】
以上のような第4実施形態の膝継手部品3やそれを適用した膝継手2によれば、膝継手2を、使用者の意思に合わせて容易に屈折させたり、非常に屈折し難い状態にしたりすることや、ロック状態にして固定することができる。したがって、使用者が、膝部分に装着して通常に使用する場合や、非装着状態での取り扱いが便利になる。
【0079】
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、様々な形態を採ることができる。上記実施形態では、作動媒体としてオイル19(作動油)を用いたが、いわゆる作動油ではなくとも、他の液体によるものであってよいし、空気や窒素などの気体を作動媒体として用いてもよい。
【符号の説明】
【0080】
義足…1 膝継手…2 膝継手部品…3,4,5,6 大腿部…7 ソケット…8 連結部…8a ボルト…8b 人工下腿部…9 上部下腿…9a 油圧シリンダ…10 シリンダチューブ…12 端面…12a,12b 孔…12c,12d 油室…13 第1の油室…13a 第2の油室…13b ロッド…14 ピストン…15 リング…15a,15b オイル…19 第1油路…20 オリフィス…20a チェック弁…22 第2油路…30 オリフィス…30a 入出口…31,32 第1バイパス回路…33 オリフィス…33a 第2バイパス回路…34 オリフィス…34a 第3油路…40 オリフィス…40a 切替機構…50 第1回動部材…52 第1回転軸…53 第2回動部材…55 第2回転軸…56 金属ボール…57 ボディ…60 油室…62 チェック弁…70 入出口…74,75,76,77 第3回動部材…80 レバー…90 切替バルブ…91 ロック…100 孔…101。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17