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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-24
(45)【発行日】2023-02-01
(54)【発明の名称】スパークプラグ
(51)【国際特許分類】
   H01T 13/20 20060101AFI20230125BHJP
   H01T 13/32 20060101ALI20230125BHJP
【FI】
H01T13/20 B
H01T13/32
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021505934
(86)(22)【出願日】2020-11-19
(86)【国際出願番号】 JP2020043147
(87)【国際公開番号】W WO2021140756
(87)【国際公開日】2021-07-15
【審査請求日】2021-02-02
【審判番号】
【審判請求日】2022-06-02
(31)【優先権主張番号】P 2020002593
(32)【優先日】2020-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伴 謙治
(72)【発明者】
【氏名】後澤 達哉
【合議体】
【審判長】小川 恭司
【審判官】平田 信勝
【審判官】尾崎 和寛
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-46660(JP,A)
【文献】特開2017-111982(JP,A)
【文献】特開昭51-66945(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 13/00-13/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心電極と、
内側に前記中心電極を絶縁保持する筒状の金具と、
前記中心電極の先端部に対向する接地電極と、を備えるスパークプラグであって、
前記金具は、軸方向と交差する方向に貫通する貫通孔を有し、
前記接地電極は、前記貫通孔に挿入されて、前記金具に固定される固定部と、前記金具の内側に突出する突出部と、前記固定部と前記突出部との間に配され、前記貫通孔に挿通されて前記貫通孔の内面との間に隙間を形成する挿通部と、を一体に備え、
前記貫通孔の内面と前記挿通部の外面との間の角度αは、0°<α<90°の範囲である、スパークプラグ。
【請求項2】
中心電極と、
内側に前記中心電極を絶縁保持する筒状の金具と、
前記中心電極の先端部に対向する接地電極と、を備えるスパークプラグであって、
前記金具は、軸方向と交差する方向に貫通する貫通孔を有し、
前記接地電極は、前記貫通孔に挿入されて、前記金具に固定される固定部と、前記金具の内側に突出する突出部と、前記固定部と前記突出部との間に配され、前記貫通孔に挿通されて前記貫通孔の内面との間に隙間を形成する挿通部と、を備え、
前記貫通孔の内面と前記挿通部の外面との間の角度αは、0°<α<90°の範囲であり、
前記挿通部との間に隙間を形成する前記貫通孔の内面は、所定の角度の傾斜面である、スパークプラグ。
【請求項3】
前記挿通部との間に隙間を形成する前記貫通孔の内面は、曲面である、請求項1に記載のスパークプラグ。
【請求項4】
中心電極と、
内側に前記中心電極を絶縁保持する筒状の金具と、
前記中心電極の先端部に対向する接地電極と、を備えるスパークプラグであって、
前記金具は、軸方向と交差する方向に貫通する貫通孔を有し、
前記接地電極は、前記貫通孔に挿入されて、前記金具に固定される固定部と、前記金具の内側に突出する突出部と、前記固定部と前記突出部との間に配され、前記貫通孔に挿通されて前記貫通孔の内面との間に隙間を形成する挿通部と、を備え、
前記貫通孔の内面と前記挿通部の外面との間の角度αは、0°<α<90°の範囲であり、
前記挿通部は、前記貫通孔への挿通方向について外径が一定の形状であるスパークプラグ。
【請求項5】
前記挿通部は、前記金具の内側に向けて外径が小さくされている請求項1に記載のスパークプラグ。
【請求項6】
前記貫通孔は、前記軸方向と交差する方向について一定の内径である請求項5に記載のスパークプラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スパークプラグに関する。
【背景技術】
【0002】
スパークプラグとして、例えば特開2019-46660号公報に記載のものが知られている。このスパークプラグは、中心電極と、筒状の主体金具と、中心電極と主体金具との間を絶縁する絶縁体と、中心電極の先端部と対向する略円柱形状の接地電極チップと、を備えている。主体金具には、孔部が形成されている。接地電極チップは、筒状の主体金具の孔部に圧入され、主体金具の内側に突出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-46660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
筒状の主体金具の孔部に接地電極チップを圧入して主体金具の内側に突出させる構成では、車両の振動により、主体金具の孔部のエッジと接地電極チップの外面とが接触する部分にクラックが発生することが懸念される。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示のスパークプラグは、中心電極と、内側に前記中心電極を絶縁保持する筒状の金具と、前記中心電極の先端部に対向する接地電極と、を備えるスパークプラグであって、前記金具は、軸方向と交差する方向に貫通する貫通孔を有し、前記接地電極は、前記貫通孔に挿入されて、前記金具に固定される固定部と、前記金具の内側に突出する突出部と、前記固定部と前記突出部との間に配され、前記貫通孔に挿通されて前記貫通孔の内面との間に隙間を形成する挿通部と、を備え、前記貫通孔の内面と前記挿通部の外面との間の角度αは、0°<α<90°の範囲である。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、金具の貫通孔のエッジが接地電極の外面に接触することによるクラックの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は実施形態1のスパークプラグの断面図である。
図2図2図1のスパークプラグの先端部を拡大した断面図である。
図3図3は貫通孔に圧入された状態の接地電極を示す断面図である。
図4図4は主体金具における貫通孔の近傍を拡大して示す断面図である。
図5図5は主体金具の周壁の内面側における貫通孔の近傍を拡大して示す図である。
図6図6は、異なる拡径部を有する貫通孔に接地電極が圧入された状態を示す断面図である。
図7図7は実施形態2の貫通孔に圧入された状態の接地電極を示す断面図である。
図8図8は実施形態3のスパークプラグの先端部を拡大した断面図である。
図9図9は実施形態3の接地電極が貫通孔に圧入された状態を示す断面図である。
図10図9は実施形態3の接地電極を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
(1)本開示のスパークプラグは、中心電極と、内側に前記中心電極を絶縁保持する筒状の金具と、前記中心電極の先端部に対向する接地電極と、を備えるスパークプラグであって、前記金具は、軸方向と交差する方向に貫通する貫通孔を有し、前記接地電極は、前記貫通孔に挿入されて、前記金具に固定される固定部と、前記金具の内側に突出する突出部と、前記固定部と前記突出部との間に配され、前記貫通孔に挿通されて前記貫通孔の内面との間に隙間を形成する挿通部と、を備え、前記貫通孔の内面と前記挿通部の外面との間の角度αは、0°<α<90°の範囲である。
本構成によれば、金具における貫通孔の内面と接地電極における挿通部の外面との間の角度αは、0°<α<90°の範囲であるため、車両の振動等が生じた場合であっても金具の貫通孔のエッジの接地電極の外面への接触を抑制することができる。よって、金具の貫通孔のエッジが接地電極の外面に接触することによるクラックの発生を抑制することができる。
【0009】
(2)前記挿通部との間に隙間を形成する前記貫通孔の内面は、所定の角度の傾斜面である。
このようにすれば、貫通孔の内面の形成を容易に行うことができる。
【0010】
(3)前記挿通部との間に隙間を形成する前記貫通孔の内面は、曲面である。
このようにすれば、挿通部が挿通される貫通孔の内面と固定部が圧入される貫通孔の内面との境界部を滑らかにすることができるため、より一層、金具の貫通孔のエッジが接地電極の外面に接触することによるクラックの発生を抑制することができる。
【0011】
(4)前記挿通部は、前記貫通孔への挿通方向について外径が一定の形状である。
このようにすれば、挿通部が一定の外径であるため、接地電極の形成を容易に行うことができる。
【0012】
(5)前記挿通部は、前記金具の内側に向けて外径が小さくされている。
このようにすれば、貫通孔への接地電極の挿入作業を容易に行うことが可能になる。
【0013】
(6)前記貫通孔は、前記軸方向と交差する方向について一定の内径である。
このようにすれば、貫通孔の加工を容易に行うことができる。
【0014】
[本開示の実施形態1の詳細]
本開示のスパークプラグの具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0015】
<スパークプラグの全体構成>
図1は実施形態1のスパークプラグ100の断面図である。図2は、図1のスパークプラグ100の先端部を拡大した断面図である。図1図2の一点破線は、スパークプラグ100の軸線AXを示している。軸線AXと垂直な面上の円の径方向を単に「径方向」といい、当該円の周方向を単に「周方向」という。図1における下方向を先端方向FDといい、図1における上方向を後端方向BDという。図1図2における下側をスパークプラグ100の先端側といい、図1図2における上側をスパークプラグ100の後端側という。
【0016】
スパークプラグ100は内燃機関に取り付けられ、内燃機関の燃焼室内の混合気に着火するために用いられる。スパークプラグ100は、絶縁体10と、中心電極20と、接地電極30と、端子金具40と、主体金具50と、抵抗体70と、導電性のシール部材60、80と、を備える。
【0017】
<絶縁体>
絶縁体10は、軸線AXに沿って延び、絶縁体10を貫通する軸孔12を有する略円筒状の部材である。絶縁体10は、例えば、アルミナ等のセラミックスを用いて形成されている。絶縁体10は、鍔部19と、後端側胴部18と、先端側胴部17と、縮外径部15と、脚長部13と、を備えている。
【0018】
鍔部19は、絶縁体10における軸線方向の略中央に位置する部分である。後端側胴部18は、鍔部19よりも後端側に位置し、鍔部19の外径よりも小さな外径を有している。先端側胴部17は、鍔部19よりも先端側に位置し、後端側胴部18の外径よりも小さな外径を有している。脚長部13は、先端側胴部17よりも先端側に位置し、先端側胴部17の外径よりも小さな外径を有している。脚長部13の外径は、先端側ほど縮径され、スパークプラグ100が図示しない内燃機関に取り付けられた際には、その燃焼室に曝される。縮外径部15は、脚長部13と先端側胴部17との間に形成され、後端側から先端側に向かって外径が縮径した部分である。
【0019】
絶縁体10の内周側の構成は、後端側に位置する大内径部12Lと、大内径部12Lよりも先端側に位置し、大内径部12Lよりも内径が小さな小内径部12Sと、縮内径部16と、を備えている。縮内径部16は、大内径部12Lと小内径部12Sとの間に形成され、後端側から先端側に向かって内径が縮径した部分である。
【0020】
<主体金具50>
主体金具50は、全体として円筒形状であって、内燃機関のエンジンヘッドに固定可能とされ、導電性の金属材料(例えば、低炭素鋼材)で形成されている。主体金具50には、軸線AXに沿って貫通する通し孔59が形成されている。主体金具50は、絶縁体10の径方向の周囲に配置されている。すなわち、主体金具50の通し孔59内に、絶縁体10が挿入、保持されている。絶縁体10の後端は、主体金具50の後端よりも後端側に突出している。
【0021】
主体金具50は全体として、軸線AXを中心として円筒状をなすように設けられている。主体金具50の内部には、中心電極20が絶縁保持されている。主体金具50は、プラグレンチ等の工具が係合する六角柱形状の工具係合部51と、内燃機関に取り付けるための取付ネジ部52と、工具係合部51と取付ネジ部52との間に形成された鍔状の座部54と、を備えている。取付ネジ部52の呼び径は、例えば、M8~M18である。
【0022】
主体金具50の取付ネジ部52と座部54との間には、金属製の環状のガスケット5が嵌挿されている。ガスケット5は、スパークプラグ100が内燃機関に取り付けられた際に、スパークプラグ100と内燃機関のエンジンヘッドとの隙間を封止する。
【0023】
主体金具50は、さらに、工具係合部51の後端側に設けられた薄肉の加締部53と、座部54と工具係合部51との間に設けられた薄肉の圧縮変形部58と、を備えている。主体金具50における工具係合部51から加締部53に至る部位の内周面と、絶縁体10の後端側胴部18の外周面と、の間に形成される環状の領域には、環状の線パッキン6、7が配置されている。当該領域における2つの線パッキン6、7の間には、タルク(滑石)9の粉末が充填されている。加締部53の後端は、径方向内側に折り曲げられて、絶縁体10の外周面に固定されている。主体金具50の圧縮変形部58は、製造時において、絶縁体10の外周面に固定された加締部53が径方向内側に曲げられながら先端側に押圧されることにより、圧縮変形する。圧縮変形部58の圧縮変形によって、線パッキン6、7およびタルク9を介し、絶縁体10が主体金具50内で先端側に向け押圧される。主体金具50における取付ネジ部52の内周側の位置に段部57が形成されている。絶縁体10の縮外径部15は、環状の板パッキン8を介して段部57によって押圧され、板パッキン8は縮外径部15と段部57の間に挟持される。なお、板パッキン8を省略することは可能である。この結果、絶縁体10は、加締部53からの押圧力と段部57からの押圧力とで主体金具50に固定される。また、内燃機関の燃焼室内の混合気が、主体金具50の絶縁体10との隙間から外部に漏れることが、板パッキン8によって防止される。主体金具50の先端側には、絶縁体10の脚長部13及び中心電極20を円筒形状に包囲する周壁50Aが設けられている。
【0024】
<中心電極>
中心電極20は、軸線AXに沿って延びる棒状の中心電極本体21と、発火部29と、を備えている。中心電極本体21は、絶縁体10の軸孔12の内部の先端側の部分に保持されている。すなわち、中心電極20の後端側は、軸孔12内に配置されている。中心電極本体21は、耐腐食性と耐熱性が高い金属、例えば、ニッケル(Ni)製またはニッケル(Ni)が一番多く含まれる合金(例えば、NCF600、NCF601等のNi合金)製とされている。中心電極本体21は、NiまたはNi合金で形成された母材と、その母材の内部に埋設された芯部と、を含む2層構造を有してもよい。この場合には、芯部は、例えば、母材よりも熱伝導性に優れる銅(Cu)製または銅(Cu)が一番多く含まれる合金で形成される。
【0025】
中心電極本体21は、軸線方向の所定の位置に設けられた鍔部24と、鍔部24よりも後端側の部分である頭部23と、鍔部24よりも先端側の部分である脚部25と、を備えている。鍔部24は、絶縁体10の縮内径部16によって、先端側から支持されている。すなわち、中心電極本体21は、縮内径部16に係止されている。脚部25の先端側、すなわち、中心電極本体21の先端側は、絶縁体10の先端よりも前方側に突出している。発火部29は、中心電極本体21の先端に接合されている。発火部29は、イリジウム(Ir)や白金(Pt)などの高融点の貴金属または貴金属が一番多く含まれる合金で形成されている。なお、発火部29を省略して、中心電極本体部21の先端を発火部とすることは可能である。
【0026】
<端子金具>
端子金具40は、軸線方向に延びる棒状の部材である。端子金具40は、絶縁体10の軸孔12に後端側から挿通され、軸孔12内において、中心電極20よりも後端側に位置している。端子金具40は、導電性の金属材料(例えば、低炭素鋼)で形成され、端子金具40の表面には、例えば、防食のために、Niなどのめっきが形成されている。
【0027】
端子金具40は、軸線方向の所定位置に形成された鍔部42と、鍔部42よりも後端側に位置するイグニッションコイル接続部41と、鍔部42よりも先端側の脚部43と、を備えている。端子金具40のイグニッションコイル接続部41は、絶縁体10よりも後端側に露出している。端子金具40の脚部43は、絶縁体10の軸孔12に挿入されている。イグニッションコイル接続部41には、図示しないイグニッションコイルが電気的に接続され、放電を発生するための高電圧が印加される。
【0028】
<抵抗体>
抵抗体70は、絶縁体10の軸孔12において端子金具40の先端と中心電極20の後端との間に配置されている。抵抗体70は、例えば、1[kΩ]以上の抵抗値(例えば、5[kΩ])を有し、火花発生時の電波ノイズを低減する機能を有する。抵抗体70は、例えば、主成分であるガラス粒子と、ガラス以外のセラミック粒子と、導電性材料と、を含む組成物で形成されている。
【0029】
軸孔12における抵抗体70の先端と中心電極20の後端部との間には隙間が設定されており、この隙間は導電性のシール部材60によって埋められている。一方、軸孔12における抵抗体70の後端と端子金具40の先端部との間には隙間が設定されており、この隙間は導電性のシール部材80によって埋められている。すなわち、シール部材60は、中心電極20と抵抗体70とにそれぞれ接触し、中心電極20と抵抗体70とを離間している。シール部材80は、抵抗体70と端子金具40とにそれぞれ接触し、抵抗体70と端子金具40とを離間している。このように、シール部材60、80は、中心電極20と端子金具40とを抵抗体70を介して電気的、かつ、物理的に接続している。シール部材60、80は、導電性を有する材料、例えば、B2O3-SiO2系等のガラス粒子と金属粒子(Cu、Feなど)とを含む組成物で形成されている。
【0030】
<貫通孔>
図2に示すように、主体金具50の先端側の周壁50Aには、主体金具50の径方向に貫通する貫通孔55が形成されている。接地電極30は、この貫通孔55に圧入されることで固定されている。貫通孔55は、図4図5に示すように、例えば真円形状であって、貫通孔55の内周面は、一定の径の定径部55Aと、中心電極20側の開口縁部に配され、全周に亘って拡径された拡径部56Aと、を備える。定径部55Aは、貫通孔55の軸線CLの方向について概ね全長(拡径部56A以外の全長)に亘って設けられている。拡径部56Aは、定径部55Aの端部から全周に亘ってテーパ状に拡径されている。貫通孔55の軸線CLと、拡径部56Aの内面との間の角度α1(α)は、本実施形態では、45°とされている。なお、角度α1は、これに限られず、例えば、図6に示すように、挿通部32の外面32Aとの間の角度α1を30°とする拡径部56Bを設けてもよい。即ち、角度α1は、少なくとも貫通孔55の内面の開口縁にエッジが形成されず、貫通孔55の開口縁と挿通部32との間に隙間が形成される角度(0°<α1<90°)であればよい。
【0031】
<接地電極>
接地電極30は、真円の円柱形状であって、貴金属を含んで構成とされた接地電極チップとされ、例えば、イリジウム(Ir)や白金(Pt)などの高融点の貴金属または貴金属が一番多く含まれる合金で形成されている。接地電極30は、軸線AXの方向において主体金具50の先端と中心電極20の先端との間の位置に配されている。
【0032】
接地電極30は、図3に示すように、貫通孔55に圧入される圧入部31と、主体金具50の内側に突出する突出部33と、圧入部31と突出部33との間に配され、貫通孔55に挿通されて貫通孔55の内面との間に隙間を形成する挿通部32と、を備える。圧入部31は貫通孔55に挿入されて、周方向の全周にわたって、かつ、接地電極30の軸線方向の全長にわたって貫通孔55の内周面に隙間なく接触している。圧入部31が請求項の「固定部」に対応する。
【0033】
突出部33は、図2に示すように、主体金具50の周壁50A内に配され、先端部が中心電極20の先端部と対向する。中心電極20と突出部33の内面との間には、間隙Gが形成されている。間隙Gは、放電が発生するいわゆる火花ギャップである。
【0034】
挿通部32は、図3に示すように、貫通孔55における拡径部56Aの内側に配され、挿通部32の外面32Aと、拡径部56Aの内面との間の角度がα1(0°<α1<90°)とされ、挿通部32と拡径部56Aとの間に隙間Sが形成される。
【0035】
<実施形態1の作用、効果>
以上説明した本実施形態のスパークプラグ100によれば、主体金具50の貫通孔55における拡径部56Aの内面と接地電極30における挿通部32の外面との間の角度α1は、0°<α1<90°の範囲となるため、貫通孔55の開口縁にはエッジが形成されない。これにより、エンジンの振動等が生じた場合であっても主体金具50の貫通孔55のエッジが接地電極30の外面に接触することによるクラックの発生を抑制することができる。
【0036】
[本開示の実施形態2の詳細]
次に、実施形態1の貫通孔55の拡径部56A,56Bの構成を変更した実施形態2について図7を参照しながら説明する。以下では、実施形態1と同じ構成については同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0037】
貫通孔110の拡径部111は、主体金具50の周壁50Aを径方向に貫通する形態で設けられている。貫通孔110の内周面(内面)は、一定の径の定径部110A(内周面)と、中心電極20側(の開口縁部)において全周に亘って拡径された拡径部111と、を備える。拡径部111の内面は曲面とされ、拡径部111の孔径は、中心電極20側(開口縁側)に向けて円弧状に拡径されている。拡径部111の円弧の曲率半径Rは、例えば、0.1[mm]とすることができる。接地電極30の挿通部32が拡径部111の内側に配されることで、挿通部32の外面32Aと、拡径部111の内面との間に0°より大きく、90°より小さい角度が形成される。
【0038】
実施形態2によれば、挿通部32が挿通される拡径部111の内面と、貫通孔110における圧入部31が圧入される部分の内面110Aとの境界部110Bを滑らかにすることができるため、より一層、主体金具50の貫通孔110のエッジが接地電極30の外面に接触することによるクラックの発生を抑制することができる。
【0039】
[本開示の実施形態3の詳細]
次に、上記実施形態の接地電極30の構成を一部変更した実施形態3について図8図10を参照しながら説明する。以下では、上記実施形態と同じ構成については同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0040】
図8に示すように、主体金具50の周壁50Aには径方向に延びる貫通孔120が設けられており、この貫通孔120に接地電極130が圧入により固定されている。貫通孔120は、貫通孔120の軸線方向の全長に亘って一定の内径を有する真円孔状とされている。主体金具50の先端は、中心電極20の先端よりも前方側に位置している。
【0041】
接地電極130は、図10に示すように、貫通孔120に圧入される円柱状の圧入部31と、圧入部31に連なる円錐状の径小部131とを備える。圧入部31は、図9に示すように、周方向の全周にわたって、かつ、圧入部31の軸線方向の全長にわたって貫通孔120の内周面に隙間なく接触している。
【0042】
径小部131は、貫通孔120に挿通される挿通部132と、主体金具50の内側に突出する突出部133とを備える。挿通部132は、貫通孔120内における中心電極20側(の開口縁部)に配され、貫通孔120の内面との間には隙間Sが形成されている。挿通部132の外周面132Aは、全周に亘って貫通孔120の軸線CLに平行な方向に対して所定の角度α2(α)が形成されている。本実施形態では、角度α2は、30°とされている。角度α2は、これに限られず、少なくとも貫通孔120の内面の開口縁にエッジが形成されず、貫通孔120の開口縁と挿通部132との間に隙間が形成される角度α(0°<α<90°)であればよい。
【0043】
突出部133は、主体金具50内に配されて中心電極20と対向する部分とされる。中心電極20と突出部133の先端部との間には、間隙Gが形成されている。間隙Gは、放電が発生するいわゆる火花ギャップである。
【0044】
実施形態3によれば、挿通部132は、主体金具50の内側に向けて外径が小さくされているため、貫通孔120への接地電極130の挿入作業を容易に行うことが可能になる。
【0045】
[他の実施形態]
(1)接地電極30,130は、全体が貴金属チップとしたが、これに限られず、例えば、少なくとも圧入部31を含む接地電極本体を耐腐食性と耐熱性が高い金属、例えば、ニッケル(Ni)製またはニッケル(Ni)が一番多く含まれる合金(例えば、NCF600、NCF601等のNi合金)製とし、接地電極本体の先端部に、例えば、イリジウム(Ir)や白金(Pt)などの高融点の貴金属または貴金属が一番多く含まれる合金で形成された貴金属チップ(発火部)をレーザ溶接等の溶接によって接合してもよい。
【0046】
(2)貫通孔55,110,120は、真円形状としたが、これに限られず、長径及び短径を有する長円形状や多角形状としてもよい。また、接地電極30は、真円の円柱状としたが、これに限られず、真円以外の円柱状や、多角形の柱状としてもよい。
【0047】
(3)貫通孔55,110,120の軸線CLは、主体金具50(及び中心電極20)の軸線AXと直交する方向とされているが、これに限られず、軸線AXと交差する方向としてもよい。
(4)主体金具50は先端が開放された形態としたが、これに限られず、先端がキャップで覆われた形態であってもよい。
(5)突出部33の先端部の側面と中心電極20の先端面とが対向していたが、これに限られず、突出部33の先端面と中心電極20の側面とが対向する形態であってもよい。
(6)接地電極30は圧入(圧入部31)によって貫通孔55の内周面に固定される形態としたが、これに限られず、接地電極が溶接によって貫通孔55の内周面に固定される形態であってもよい。その場合、接地電極30は貫通孔55の内周面に対して全周にわたって接触しておらず、貫通孔55の内周面の一部に接触している形態であってもよい。
【符号の説明】
【0048】
5:ガスケット 6、7:線パッキン 8:板パッキン 9:タルク 10:絶縁体 12:軸孔 12L:大内径部 12S:小内径部 13:脚長部 15:縮外径部 16:縮内径部 17:先端側胴部 18:後端側胴部 19:鍔部 20:中心電極 21:中心電極本体 23:頭部 24:鍔部 25:脚部 29:発火部 30,130:接地電極 31:圧入部(固定部) 32,132:挿通部 32A:外面 33,133:突出部 40: 端子金具 41: イグニッションコイル接続部 42:鍔部 43:脚部 50:主体金具 50A:周壁 51:工具係合部 52:取付ネジ部 53:加締部 54:座部 55,110,120:貫通孔 55A、110A:定径部 56A,56B,111:拡径部 110B:境界部 57:段部 58:圧縮変形部 59:通し孔 60,80:シール部材 70:抵抗体 100:スパークプラグ 131:径小部 132A:外周面 AX:軸線 BD:後端方向 CL:中心軸 FD:先端方向 G:間隙 R:曲率半径 S:隙間
図1
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図3
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図9
図10