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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-24
(45)【発行日】2023-02-01
(54)【発明の名称】スクロール圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/02 20060101AFI20230125BHJP
【FI】
F04C18/02 311F
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021513105
(86)(22)【出願日】2019-04-11
(86)【国際出願番号】 JP2019015731
(87)【国際公開番号】W WO2020208765
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2021-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】516299338
【氏名又は名称】三菱重工サーマルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 隆史
(72)【発明者】
【氏名】木全 央幸
(72)【発明者】
【氏名】堀田 陽平
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 創
【審査官】丹治 和幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-27406(JP,A)
【文献】国際公開第2014/196774(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線に沿って延びる回転軸と、
前記回転軸を回転させるモータと、
前記回転軸の回転によって冷媒を圧縮するスクロール圧縮部と、
前記回転軸、前記モータ、前記スクロール圧縮部を収容するハウジングと、
を備え、
前記スクロール圧縮部は、
前記ハウジングに固定された固定端板、及び前記固定端板から前記軸線の方向に突出する固定ラップを有する固定スクロールと、
前記回転軸に設けられて前記固定端板に前記軸線の方向に対向して配置された旋回端板、及び、前記旋回端板から前記固定端板に向かって突出して前記固定ラップとともに冷媒の圧縮室を形成する旋回ラップを有する旋回スクロールと、
前記固定端板と前記旋回端板との間に介在されて、前記旋回スクロールを自転することなく前記軸線を基準として旋回するように支持するオルダムリングと、
を有し、
前記オルダムリングは、
前記軸線を囲むように環状をなすリング本体と、
前記リング本体の表面から突出して、前記旋回端板と前記固定端板とに設けられたキー溝にそれぞれ挿入される複数のキーと、
を有し、
前記旋回端板は、
板状をなして前記旋回ラップが設けられた厚肉部と、
前記厚肉部の径方向外側に一体に設けられて環状をなし、前記厚肉部に比べて前記軸線の方向の厚さ寸法が小さく、前記厚肉部と比べて、前記固定端板側を向く端面が前記固定端板から離れた位置に配置された薄肉部と、
を有し、
前記薄肉部における前記端面上に前記リング本体が載置されて設けられているスクロール圧縮機。
【請求項2】
前記厚肉部における前記固定端板側を向く端面と前記薄肉部における前記固定端板側を向く端面との間の前記軸線の方向の距離よりも、前記リング本体の前記軸線の方向の厚さ寸法の方が大きくなっている請求項1に記載のスクロール圧縮機。
【請求項3】
前記ハウジングに設けられて前記回転軸を回転可能に支持するとともに、前記旋回端板に対して前記軸線の方向に前記圧縮室とは反対側に配置された軸受と、
前記軸受と前記旋回端板との間に設けられて前記旋回端板を前記軸線の方向に支持するスラストプレートと、
をさらに備え、
前記スラストプレートは、前記軸線を取り囲むように環状をなし、少なくとも一部が前記厚肉部を支持する位置に配置されている請求項1又は2に記載のスクロール圧縮機。
【請求項4】
前記旋回端板には前記キーが挿入されるキー溝が設けられ、
前記キー溝は、前記薄肉部と前記厚肉部とにわたって設けられている請求項1から3のいずれか一項に記載のスクロール圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクロール圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載されているように、空気調和装置や冷凍装置等に用いられ、冷媒を圧縮するスクロール圧縮機が一般的に知られている。このスクロール圧縮機では、オルダムリングによって固定スクロールに対して旋回スクロールを旋回させることで、冷媒の圧縮を行う。
【0003】
ところで現在、環境保全の観点からノンフロン冷媒の使用が求められており、自然冷媒である二酸化炭素を用いた圧縮機の需要が高まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-030514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
冷媒に二酸化炭素を用いる場合には、冷媒を高圧まで圧縮する必要が生じるため圧縮機の構成部品に高圧対応が必要となる。また自然冷媒を用いた圧縮機の大容量化の要求も高まっている。しかしながら、単に高圧対応及び大容量化を図ると、各構成部品の外形寸法だけでなく重量も大きくなり、特に旋回部分である旋回スクロールの重量が重くなると振動増大や、動力増加となり運転効率の低下につながる。
【0006】
そこで本発明は、高圧対応かつ大容量化を図りつつも、効率向上が可能なスクロール圧縮機を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係るスクロール圧縮機は、軸線に沿って延びる回転軸と、前記回転軸を回転させるモータと、前記回転軸の回転によって冷媒を圧縮するスクロール圧縮部と、前記回転軸、前記モータ、前記スクロール圧縮部を収容するハウジングと、を備え、前記スクロール圧縮部は、前記ハウジングに固定された固定端板、及び前記固定端板から前記軸線の方向に突出する固定ラップを有する固定スクロールと、前記回転軸に設けられて前記固定端板に前記軸線の方向に対向して配置された旋回端板、及び、前記旋回端板から前記固定端板に向かって突出して前記固定ラップとともに冷媒の圧縮室を形成する旋回ラップを有する旋回スクロールと、前記固定端板と前記旋回端板との間に介在されて、前記旋回スクロールを自転することなく前記軸線を基準として旋回するように支持するオルダムリングと、を有し、前記オルダムリングは、前記軸線を囲むように環状をなすリング本体と、前記リング本体の表面から突出して、前記旋回端板と前記固定端板とに設けられたキー溝にそれぞれ挿入される複数のキーと、を有し、前記旋回端板は、円板状をなして前記旋回ラップが設けられた厚肉部と、前記厚肉部の径方向外側に一体に設けられて環状をなし、前記厚肉部に比べて前記軸線の方向の厚さ寸法が小さく、前記厚肉部と比べて前記固定端板側を向く端面が前記固定端板から離れた位置に配置された薄肉部と、を有し、前記薄肉部における前記端面上に前記リング本体が載置されて設けられている。
【0008】
このようなスクロール圧縮機によれば、旋回スクロールの旋回端板が厚肉部と薄肉部とを有している。また薄肉部は、旋回端板の径方向外側に設けられている。このため、旋回端板の径方向外側の端部の重量を低減することができ、旋回端板が回転軸の軸線回りに旋回した際の慣性モーメントを低減することができる。よってスクロール圧縮機を高圧対応及び大容量化するために旋回端板が大型化したとしても、振動増大や動力増加を抑えることができる。さらに旋回端板の径方向外側の端部では旋回端板の中心部に比べて冷媒を圧縮する際の圧縮荷重の影響が小さいため、薄肉部を設けても強度上も問題は生じにくい。
また、スクロール圧縮機を高圧対応及び大容量化するためにはオルダムリングの強度を上げる必要がある。この際、仮にオルダムリングの軸線の方向の厚さ寸法を大きくしたとしても、旋回端板の薄肉部にオルダムリングのリング本体を載置して設けることにより、オルダムリングが固定スクロール側に飛び出す量を少なくすることができ、固定端板を旋回端板に近づけることができる。よってオルダムリングの厚さ寸法を大きくして強度を確保しつつも、スクロール圧縮部の軸線の方向の寸法を小さくでき、スクロール圧縮部のコンパクト化が可能である。
【0009】
また、上記のスクロール圧縮機では、前記厚肉部における前記固定端板側を向く端面と前記薄肉部における前記固定端板側を向く端面との間の前記軸線の方向の距離よりも、前記リング本体の前記軸線の方向の厚さ寸法の方が大きくなっていてもよい。
【0010】
このような構成によって、リング本体が厚肉部における固定端板側を向く端面から軸線の方向にはみ出すようにオルダムリングを設けることができる。よって、オルダムリングの強度を向上するため、オルダムリングの軸線の方向の厚さ寸法を大きくすることが可能である。
【0011】
また、上記のスクロール圧縮機は、前記ハウジングに設けられて前記回転軸を回転可能に支持するとともに、前記旋回端板に対して前記軸線の方向に前記圧縮室とは反対側に配置された軸受と、前記軸受と前記旋回端板との間に設けられて前記旋回端板を前記軸線の方向に支持するスラストプレートと、をさらに備え、前記スラストプレートは、前記軸線を取り囲むように環状をなし、少なくとも一部が前記厚肉部を支持する位置に配置されていてもよい。
【0012】
このような位置にスラストプレートを設けることで、より圧縮荷重によるスラスト荷重を多く受ける厚肉部をスラストプレートで支持することができる。よって旋回端板に薄肉部を設けたとしても、圧縮荷重に対して十分対応できる。
【0013】
また、上記のスクロール圧縮機では、前記旋回端板における前記キーが挿入されるキー溝は、前記薄肉部と前記厚肉部とにわたって設けられていてもよい。
【0014】
このようにキー溝を設けることで、キーの径方向の寸法を大きくすることができる。従ってキーがキー溝に対して摺動する面の面圧を小さくすることができ、オルダムリングの強度を向上できる。また、キー溝が厚肉部にまで延びていても、厚肉部の軸線の方向の厚さ寸法は薄肉部に比べて大きいため、強度上問題は生じにくい。
【発明の効果】
【0015】
上記のスクロール圧縮機では、高圧対応かつ大容量化を図りつつも、効率化が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係るスクロール圧縮機の縦断面図である。
図2】本発明の実施形態に係るスクロール圧縮機におけるスクロール圧縮部を拡大して示す図である。
図3】本発明の実施形態に係るスクロール圧縮機における固定スクロールを示す平面図である。
図4】本発明の実施形態に係るスクロール圧縮機における旋回スクロールを示す平面図である。
図5】本発明の実施形態に係るスクロール圧縮機におけるオルダムリングを示す平面図である。
図6】本発明の実施形態に係るスクロール圧縮機におけるオルダムリングを示す図であって、図5のA-A断面図である。
図7】本発明の実施形態に係るスクロール圧縮機におけるオルダムリングを示す図であって、図5のB-B断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態におけるスクロール圧縮機1について説明する。
本実施形態ではスクロール圧縮機1として二つの圧縮部4、5を有する縦型の密閉型二段圧縮機を挙げて説明を行うが、スクロール圧縮機1はこのような圧縮機に限定されず、例えば一つのみの圧縮部を有する単段圧縮機であってもよいし、横置き型の圧縮機であってもよい。
【0018】
スクロール圧縮機1は、回転軸2と、回転軸2を回転させるモータ3と、回転軸2の回転によって冷媒を圧縮するロータリ圧縮部4及びスクロール圧縮部5と、を備えている。スクロール圧縮機1は、さらにこれら回転軸2、モータ3、ロータリ圧縮部4、及びスクロール圧縮部5を密閉して収容するハウジング6を備えている。
【0019】
回転軸2は、上下方向に延びる軸線O1を中心とした円柱状をなしている。回転軸2の上端には、軸線O1に対して径方向にずれた位置に配置された軸線O2を中心とした円柱状をなす偏心軸8が一体に設けられている。
【0020】
ハウジング6は、回転軸2の軸線O1に沿った上下方向に延在する筒状をなしている。ハウジング6は例えば鋳造によって形成されている。ハウジング6は、円筒状をなすハウジング本体10と、ハウジング本体10の上方の開口を閉塞する上蓋11と、ハウジング本体10の下方の開口を閉塞する下蓋12とを有する。これによりハウジング6は、上下方向に延びる密閉された空間Sを内部に有している。ハウジング本体10の下部から下蓋12の底部にわたって、油(潤滑油)が溜められて、この位置に油溜まりOLが形成されている。
【0021】
また、ハウジング6の下部には冷媒を外部から空間S内に導入するための吸入管13が接続されている。さらにハウジング6の上部には冷媒を空間Sから外部に吐出するための吐出管14が接続されている。
【0022】
ハウジング6の内部には、回転軸2をハウジング6に対して回転可能に支持するロータリ下部軸受20、ロータリ上部軸受21、及びスクロール軸受22が設けられている。ロータリ下部軸受20及びロータリ上部軸受21はロータリ圧縮部4に設けられ、スクロール軸受22はスクロール圧縮部5に設けられている。
【0023】
モータ3は、ハウジング6の空間S内のロータリ上部軸受21の上方で、かつスクロール軸受22の下方で、ハウジング本体10によって外周を囲まれるように設けられている。モータ3には、ハウジング6に設けられた端子15を通じて電源(不図示)が接続されている。モータ3は、電源からの電力によって回転軸2を回転させる。
【0024】
ロータリ圧縮部4は、モータ3の下方で、ロータリ下部軸受20とロータリ上部軸受21との間に挟まれて設けられている。より具体的にはロータリ圧縮部4はロータリ下部軸受20の上部で、かつ、ロータリ上部軸受21の下部に配置されたシリンダ30を有している。シリンダ30は、油溜まりOLの中に配置されている。シリンダ30には吸入管13が接続されている。シリンダ30は、吸入管13から導入された冷媒を圧縮する圧縮室C1を内側に有している。圧縮室C1には回転軸2が挿通されている。回転軸2にはピストン31が設けられている。回転軸2の回転にともなって圧縮室C1内でピストン31が回転することで冷媒が圧縮される。ロータリ圧縮部4の圧縮室C1で圧縮された冷媒は、ロータリ上部軸受21を通過してモータ3側に向けて上方に流出する。
【0025】
本実施形態のロータリ圧縮部4は、一例としてシリンダ30が上下に2段に設けられたツインロータリ構造を有しているが、例えばシリンダ30が一つのみ設けられたシングルロータリ構造を有していてもよい。またロータリ圧縮部4への吸入管13の接続位置も図1に示す場合に限定されない。
【0026】
次に、図2から図4を参照してスクロール圧縮部5について説明する。
スクロール圧縮部5は、空間S内でモータ3の上方に配置されている。より具体的には図2に示すようにスクロール圧縮部5は、スクロール軸受22の上方でハウジング6に固定された固定スクロール40と、固定スクロール40とスクロール軸受22とによって上下に挟まれるようにして設けられた旋回スクロール43とを有している。
さらにスクロール圧縮部5は、固定スクロール40及び旋回スクロール43に係合するオルダムリング50を有している。
【0027】
固定スクロール40は、吐出管14の下方でハウジング6に固定されて軸線O1を中心として円板状をなす固定端板41と、固定端板41から下方に突出するとともに軸線O1を基準とした渦巻状の固定ラップ42とを有している。
【0028】
図3に示すように固定端板41は、固定ラップ42の径方向の外側で軸線O1の方向に下方を向くとともに、スクロール軸受22に面接触する合わせ面41aを有している。固定ラップ42と合わせ面41aとの間には軸線O1を中心とした環状をなす環状溝41bが設けられている。環状溝41bは、合わせ面41aと固定ラップ42の先端の刃先42aに対して軸線O1の方向に上方に凹んでいる。本実施形態では、固定端板41の合わせ面41aと、固定ラップ42の刃先42aとは同一平面上に配置されている。ただし圧縮機1の運転時には固定ラップ42は熱伸びするため、この熱伸びを許容するように合わせ面41aと固定ラップ42の刃先42aとは完全に同一平面上に配置されず、若干、固定ラップ42の刃先42aが合わせ面41aよりも上方に配置されてもよい。
【0029】
さらに固定端板41には、周方向に180度間隔をあけて一対の固定側キー溝41cが設けられている。固定側キー溝41cは、固定ラップ42に近接する位置から、合わせ面41aの途中の位置まで径方向に延びている。さらに固定側キー溝41cは環状溝41bよりもさらに軸線O1の方向に上方に凹んで形成されている。各々の固定側キー溝41cは径方向に直交する断面が矩形状をなしている。各々の固定側キー溝41cは、周方向に間隔をあけて平行に配置されて軸線O1の方向及び径方向に沿って広がる一対の平面であるキー摺動面41dを有している。
【0030】
また固定端板41には、固定ラップ42によって形成された後述する圧縮室C2に連通する一対の吸入流路41eが形成されている。一対の吸入流路41eは、一対の固定側キー溝41c同士の間でこれらに干渉しない位置に設けられている。即ち、各々の吐出流路41eは、一対の固定側キー溝41cと周方向に離れた位置で、各々の固定側キー溝41cの間に一つずつ設けられている。各々の吸入流路41eは、軸線O1の方向に環状溝41bよりもさらに上方に凹むとともに、固定ラップ42から環状溝41bを通過して合わせ面41aまで延び、固定端板41の外周面に開口している。
【0031】
旋回スクロール43は、固定端板41よりも下方に配置されて固定端板41に対して軸線O1の方向に対向する旋回端板44と、旋回端板44から軸線O1の方向に上方に固定端板41に向かって突出する旋回ラップ45とを有している。
【0032】
旋回端板44は、偏心軸8の軸線O2を中心として円板状をなし、偏心軸8に取り付けられている。図2及び図4に示すように旋回端板44は、偏心軸8の軸線O2を中心として円板状をなす厚肉部44aと、厚肉部44aと一体に厚肉部44aから径方向外側に突出するフランジ状の薄肉部44bとを有している。
【0033】
厚肉部44aは偏心軸8に対して回転可能に偏心軸8に接続されている。具体的には厚肉部44aの下部には偏心軸8を外周から覆う円筒部46が一体に設けられている。円筒部46の内側には図1に示すように軸受46aが設けられており、偏心軸8の軸線O2回りに円筒部46とともに厚肉部44aが回転するようになっている。
【0034】
薄肉部44bは、偏心軸8の軸線O2を中心とした環状をなしている。そして薄肉部44bは、厚肉部44aに比べて軸線O1、O2の方向の厚さ寸法が小さく、厚肉部44aと比べて、固定端板41側を向く端面(上面)が固定端板41から離れた位置に配置されている。これにより、旋回端板44は径方向の外側の端部に径方向を向く面を有し、旋回端板44の径方向外側の端部には段差が設けられている。
【0035】
旋回端板44には、周方向に180度間隔をあけて、一対の旋回側キー溝44cが設けられている。旋回側キー溝44cは、薄肉部44bの外周面に開口するとともに薄肉部44bの外周面から径方向内側に向かって厚肉部44aまで延びている。よって旋回側キー溝44cは、薄肉部44bと厚肉部44aとの間にわたって設けられている。旋回側キー溝44cは、薄肉部44bを軸線O1の方向に貫通し、かつ、薄肉部44bの軸線O1方向の厚さ寸法と同じ軸線O1の方向の寸法を有して、厚肉部44aまで径方向に延びている。よって、旋回端板44を上方から見た場合、旋回側キー溝44cが厚肉部44aの裏側に潜り込むようにして設けられている。各々の旋回側キー溝44cは径方向に直交する断面が矩形状をなしている。各々の旋回側キー溝44cは、周方向に間隔をあけて平行に配置されて軸線O1の方向及び径方向に沿って広がる一対の平面であるキー摺動面44dを有している。
【0036】
旋回端板44とスクロール軸受22との間には、スクロール圧縮部5からの軸線O1方向の荷重、即ち、スラスト荷重を受けるスラストプレート47が設けられている。スラストプレート47は、図2に示すように回転軸2の軸線O1を取り囲むように環状をなしている。スラストプレート47は薄肉部44bと厚肉部44aとの間にわたって設けられている。即ち、スラストプレート47の少なくとも一部は厚肉部44aを軸線O1方向の下方から支持する位置に設けられている。
【0037】
より具体的には、スラストプレート47の内径をdinとし、外径をdoutとし、厚肉部44aの外径をDとした場合、din<D≦doutの関係が成立している。
【0038】
旋回ラップ45は、固定ラップ42に対して径方向に対向するように径方向に重なって設けられている。旋回ラップ45と固定ラップ42との間の空間は、冷媒が圧縮される圧縮室C2となっている。圧縮室C2へは、ロータリ圧縮部4の圧縮室C1から流出した冷媒が、モータ3周り、及びスクロール軸受22を通過した後に導入される。
【0039】
次に図5から図7を参照してオルダムリング50について説明する。
オルダムリング50は、回転軸2の軸線O1を囲むように環状をなすリング本体51と、リング本体51に設けられた一対の固定側キー52及び一対の旋回側キー53とを有している。
【0040】
リング本体51は、ほぼ一定の厚さ、即ちほぼ一定の軸線O1方向の寸法を有している。リング本体51は、旋回端板44の薄肉部44bの固定端板41側を向く端面(上面)に載置されて設けられている。リング本体51が旋回端板44の薄肉部44bに載置された状態では、リング本体51における固定端板41側を向く表面(上面)が厚肉部44aの固定端板41側を向く表面(上面)よりも上方に位置していることで、リング本体51の一部が厚肉部44aから上方にはみ出した状態となっている。
【0041】
厚肉部44aから上方にはみ出したリング本体51の一部は、固定端板41の環状溝41b内に配置されている。またリング本体51の固定端板41側を向く表面(上面)と、環状溝41bの底面との間には微小隙間SSが設けられていることで、リング本体51の表面と環状溝41bの底面とは間隔をあけて設けられている。
【0042】
一対の固定側キー52は、周方向に180度間隔をあけて、リング本体51の上方を向く表面から上方に突出する断面矩形状の部材である。各々の固定側キー52は、リング本体51の径方向の幅寸法と同等の径方向の寸法を有し、リング本体51から径方向に、ほぼはみ出さない状態でリング本体51と一体に設けられている。一対の固定側キー52は、固定端板41に設けられた一対の固定側キー溝41cにそれぞれ挿入されて係合している。各々の固定側キー52は、固定側キー溝41cのキー摺動面41dに対して摺動する平面状の側面52aを周方向の両側に有している。固定側キー52は固定側キー溝41c内で径方向に往復動するようになっている。
【0043】
一対の旋回側キー53は、周方向に180度間隔をあけて、かつ、固定側キー52とは周方向に90度ずれた位置で、リング本体51の下方を向く表面から下方に突出する断面矩形状の部材である。各々の旋回側キー53は、リング本体51の径方向の幅寸法よりも大きな径方向の寸法を有し、リング本体51から径方向内側にはみ出した状態でリング本体51と一体に設けられている。各々の旋回側キー53の径方向外側の端面とリング本体51の径方向外側の端面とはほぼ同じ位置に配置されている。よって、各々の旋回側キー53はリング本体51から径方向外側には、ほぼはみ出さない状態でリング本体51に設けられている。一対の旋回側キー53は、旋回端板44に設けられた一対の旋回側キー溝44cにそれぞれ挿入されて係合している。各々の旋回側キー53は、旋回側キー溝44cのキー摺動面44dに対して摺動する平面状の側面53aを周方向の両側に有している。旋回側キー53は旋回側キー溝44c内で径方向に往復動するようになっている。
【0044】
そして旋回側キー53と旋回側キー溝44cとの往復動、及び固定側キー52と固定側キー溝41cとの往復動によって旋回スクロール43が自転することなく、回転軸2の軸線O1回りに旋回し、固定ラップ42と旋回ラップ45との相対移動により圧縮室C2内の冷媒が圧縮されるようになっている。
【0045】
以上説明した本実施形態のスクロール圧縮機1では、旋回スクロール43の旋回端板44が厚肉部44aと薄肉部44bとを有している。また薄肉部44bは、旋回端板44の径方向外側に設けられている。このため、旋回端板44の径方向外側の端部の重量を低減することができ、旋回端板44が回転軸2の軸線O1回りに旋回した際の慣性モーメントを低減することができる。よってスクロール圧縮機1を高圧対応及び大容量化するために旋回端板44が大型化したとしても、モータ3の大型化を抑えることができる。この結果、スクロール圧縮機1の高圧対応かつ大容量化を図りつつも、効率向上を図ることができる。
【0046】
ここで旋回端板44の径方向外側の端部では旋回端板44の中心部に比べて圧縮荷重の影響が小さい。このため、旋回端板44に薄肉部44bを設けても強度上も問題は生じにくい。
【0047】
また、スクロール圧縮機1を高圧対応及び大容量化するためにはオルダムリング50の強度を上げる必要がある。この際、仮にオルダムリング50の軸線O1の方向の厚さ寸法を大きくしたとしても、旋回端板44の薄肉部44bにオルダムリング50のリング本体51を載置して設けることにより、オルダムリング50が旋回端板44から固定スクロール40側に飛び出す量を少なくすることができる。よって固定端板41を旋回端板44に近づけることができる。このため、オルダムリング50の厚さ寸法を大きくして強度を確保しつつも、スクロール圧縮部5の軸線O1の方向の寸法を小さくでき、スクロール圧縮部5のコンパクト化が可能である。よって高圧対応かつ大容量化を図りつつも、スクロール圧縮機1全体のコンパクト化を図ることが可能である。
【0048】
特に本実施形態では、リング本体51が厚肉部44aにおける固定端板41側を向く端面から軸線O1の方向にはみ出すようにオルダムリング50を設け、さらに固定端板41の環状溝41b内に前記リング本体51の一部が配置されている。このため、高圧対応かつ大容量化のためにオルダムリング50の軸線O1の方向の厚さ寸法を大きくしたとしても、固定端板41を旋回端板44にさらに近づけて配置することができる。よってスクロール圧縮部5を軸線O1の方向にさらにコンパクトにすることができる。
【0049】
また、潤滑油がスクロール圧縮部5に導入された際には、この環状溝41bに潤滑油を保持でき、スクロール圧縮部5の動作を円滑化でき、さらなる効率向上につながる。
【0050】
また、スラストプレート47の少なくとも一部が旋回端板44の厚肉部44aを支持する位置に設けられていることで、より圧縮荷重によるスラスト荷重を多く受ける厚肉部44aをスラストプレート47で支持することができる。よって旋回端板44に薄肉部44bを設けたとしても、薄肉部44bのみに荷重が作用することがなくなり、圧縮荷重に対して十分対応できる。
【0051】
また、旋回側キー溝44cを旋回端板44の薄肉部44bと厚肉部44aとにわたって設けることで、旋回側キー53の径方向の長さ寸法を大きくすることができる。従って、旋回側キー溝44cのキー摺動面44dに対して摺動する旋回側キー53の側面53aの面圧を小さくすることができ、オルダムリング50の強度を向上できる。本実施形態では旋回側キー溝44cが厚肉部44aにまで延びているが、厚肉部44aの軸線O1の方向の厚さ寸法は薄肉部44bに比べて大きいため、強度上問題は生じにくい。
【0052】
また固定側キー溝41cは、環状溝41bから固定端板41の環状溝41bの径方向外側まで延びて設けられている。このため、例えば環状溝41bの径方向外側の位置で固定端板41にドリルで穴をあけ、穴にエンドミルを挿入することで固定側キー溝41cを設ける場合には、エンドミルの加工開始点はドリルの外形にならって円弧状に形成されてしまう。しかし、環状溝41bの径方向外側の位置まで固定側キー溝41cを形成すれば、環状溝41bの中では固定側キー溝41cのキー摺動面41dは径方向に沿った平面状に形成できる。このため、環状溝41b内に平面状のキー摺動面41dを容易に形成することができる。
【0053】
固定側キー溝41cの加工開始点となる環状溝41bの径方向外側の位置では、固定端板41の軸線O1の方向の肉厚は、環状溝41bが形成された位置での軸線O1の方向の肉厚に比べて大きい。このため、固定側キー溝を環状溝41bの径方向外側にまで延びるように形成しても強度上の問題は生じにくい。
【0054】
また環状溝41bの底面とリング本体51の表面とは、軸線O1の方向に間隔をあけて設けられていている。このため、スクロール圧縮機1の運転中に環状溝41bの底面にリング本体51の表面が接触しにくくなる。よってオルダムリング50と固定端板41との間の摩擦損失を低減することができる。
【0055】
また固定端板41の合わせ面41aと、固定ラップ42の刃先42aとが同一平面上に配置されていることで、これらの加工が容易になる。
【0056】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本発明は実施形態によって限定されることはなく、請求の範囲によってのみ限定される。
【0057】
例えば、オルダムリング50のリング本体51は、厚肉部44aよりも軸線O1の方向に上方にはみださないような寸法を有していてもよい。
【0058】
旋回側キー溝44cは、薄肉部44bのみに形成されていてもよい。
【0059】
固定側キー溝は環状溝内のみに形成されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0060】
上記のスクロール圧縮機によれば、高圧対応かつ大容量化を図りつつも、効率向上が可能である。
【符号の説明】
【0061】
1 スクロール圧縮機
2 回転軸
3 モータ
4 ロータリ圧縮部
5 スクロール圧縮部
6 ハウジング
8 偏心軸
10 ハウジング本体
11 上蓋
12 下蓋
13 吸入管
14 吐出管
15 端子
20 ロータリ下部軸受
21 ロータリ上部軸受
22 スクロール軸受
30 シリンダ
31 ピストン
40 固定スクロール
41 固定端板
41a 合わせ面
41b 環状溝
41c 固定側キー溝
41d キー摺動面
41e 吸入流路
42 固定ラップ
42a 刃先
43 旋回スクロール
44 旋回端板
44a 厚肉部
44b 薄肉部
44c 旋回側キー溝
44d キー摺動面
45 旋回ラップ
46 円筒部
46a 軸受
47 スラストプレート
50 オルダムリング
51 リング本体
52 固定側キー
52a 側面
53 旋回側キー
53a 側面
S 空間
SS 微小隙間
OL 油溜まり
O1 軸線
O2 軸線
C1 圧縮室
C2 圧縮室
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7