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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-24
(45)【発行日】2023-02-01
(54)【発明の名称】情報処理装置およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 40/12 20230101AFI20230125BHJP
【FI】
G06Q40/12 420
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022070830
(22)【出願日】2022-04-22
【審査請求日】2022-05-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】301017433
【氏名又は名称】有限責任監査法人トーマツ
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】弁理士法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 孝志
(72)【発明者】
【氏名】今井 伸太郎
(72)【発明者】
【氏名】三浦 伊織
(72)【発明者】
【氏名】吉見 脩平
(72)【発明者】
【氏名】山根 青雲
【審査官】新里 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-043840(JP,A)
【文献】特開2019-067086(JP,A)
【文献】不均衡データに対するClassification,Qiita,2017年07月15日,[online],[2022年6月21日検索],<URL>https://web.archive.org/web/20170715203402/https://qiita.com/ryouta0506/items/619d9ac0d80f8c0aed92
【文献】辻 孝辰,不均衡データに対する機械学習手法と税関不正検知への応用,令和2年度修士論文,滋賀大学,2021年03月26日,[online],[2022年6月21日検索],<URL>https://web.archive.org/web/20170715203402/https://qiita.com/ryouta0506/items/619d9ac0d80f8c0aed92
【文献】宮川 大介,AIによる不正会計検知・予測の可能性 -会計監査の未来を探る,企業会計,株式会社中央経済社,2019年11月01日,第71巻,第11号,第89-96頁,ISSN:0386-4448
【文献】不均衡データ,Qiita,2021年11月05日,[online],[2022年6月21日検索],<URL>https://web.archive.org/web/20211105105517/https://qiita.com/tk-tatsuro/items/10e9dbb3f2cf030e2119
【文献】市原 直通,FinTechで変わる会計の世界,企業会計,株式会社中央経済社,2017年06月01日,第69巻,第6号,第55-63頁,ISSN:0386-4448
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一の事業者についての複数の決算期に係る財務データを取得する取得手段と、
該取得した財務データに基づいて生成される勘定科目ごとに、当該勘定科目に係る値の推移を示す推移情報を抽出する抽出手段と、
該生成された情報に基づいて、前記一の事業者による会計処理における不適切性を判定する判定手段と
を有し、
前記判定手段は、
該抽出された推移情報に基づいてアンダーサンプリングを行って複数のデータセットを生成する前処理手段と、
前記前処理手段から出力された複数のデータセットがそれぞれ入力される複数の弱学習器であって、複数の事業者についての前記財務データに基づいて前記不適切性を示す指標を出力するための学習モデルを構築するための弱学習器と、
前記複数の弱学習器からの出力をバギングして前記不適切性を示す指標を算出するバギング手段と
を有し、
各勘定科目について算出された前記指標に基づいて、勘定科目ごとの貢献度を示すSHAP値を算出する、
情報処理装置。
【請求項2】
前記前処理手段は、市況データに基づいて前記推移情報を補正する
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記複数の弱学習器は、勾配ブースティングに基づいて動作する
請求項1または2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記前処理手段は、
前記学習モデルとは異なる複数の学習モデルに前記財務データを入力して得られた特徴
量を、該抽出された推移情報に加えたデータを生成し、該生成されたデータに対してアン
ダーサンプリングを行うことによって前記複数のデータセットを生成する
請求項3に記載の情報処理装置。
【請求項5】
コンピュータに、
一の事業者についての複数の決算期に係る財務データを取得するステップと、
該取得した財務データに基づいて生成される勘定科目ごとに、当該勘定科目に係る値の推移を示す推移情報を抽出するステップと、
該生成された情報に基づいて、前記一の事業者による会計処理における不適切性を判定するステップと
を実行させるためのプログラムであって、
前記判定するステップは、
該抽出された推移情報に基づいてアンダーサンプリングを行って複数のデータセットを生成するステップと、
前記生成された複数のデータセットがそれぞれ入力される複数の弱学習器を用いて、複数の事業者についての前記財務データに基づいて前記不適切性を示す指標を出力するための学習モデルを構築するステップと、
前記複数の弱学習器からの出力をバギングして前記不適切性を示す指標を算出するステップと、
各勘定科目について算出された前記指標に基づいて、勘定科目ごとの貢献度を示すSHAP値を算出するステップと
を有する
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、会計処理の検査を行う情報処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
会計書類の改ざん等、不適切な会計を行っている企業の数は年々増加している。また、新型コロナウイルスの蔓延に起因する業績不振の影響等も加味すると、今後も不適切な会計が生じるリスクの高い状態が継続すると考えられる。このように、会計書類の検査の必要性は年々増している。一方、会計士など会計監査に関わる人手不足が問題となっている。このような状況において、近年では、機械学習またはディープラーニング等の高度なデータ分析技術が一般に普及しつつあることを踏まえ、これらのデータ分析技術を会計監査における財務分析に導入することも提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6345856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、会計処理において不正がなされたか否かを機械的に判定した場合の精度は十分とはいえないのが現状である。判定精度が上がらない一つの要因としては、不正を行う企業は全体からみればごく一部であり、結果として訓練データとして用いる財務データには不正がなされた財務データ(すなわち本来欲しいデータ)ごく一部しか含まれていないので、これが学習効率を上げるのを困難としている点が挙げられる。加えて、不正ありと判定した場合において、その根拠を客観的に提示することについて課題がある。不正の有無の判定はその企業の死活問題ともなりうる重要に事項であるから、機械学習システムを利用する者(会計監査人や企業内の担当者等)に対する信頼性を向上させることは非常に重要である。
【0005】
本発明は、会計処理上の不正の存在を高い精度で推定するとともに、不正と判定した根拠を客観的に提示できるようにする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一の態様に係る情報処理装置は、取得手段と、抽出手段と、判定手段と、を有する。取得手段は、一の事業者についての複数の決算期に係る財務データを取得する。抽出手段は、取得手段により取得された財務データに基づいて生成される勘定科目ごとに、当該勘定科目に係る値の推移を示す推移情報を抽出する。判定手段は、抽出手段により抽出された推移情報に基づいて、前記一の事業者による会計処理における不適切性を判定する。
この情報処理装置によれば、一の事業者による会計処理に不正がある場合、不正の事実を高い精度で推定できる。加えて、不正と判定する根拠を客観的に提示できるので、その後に人手による検証が効率化する。
【0007】
好ましい態様において、前記判定手段は、前処理手段と、複数の弱学習器と、バギング手段とを有する。前処理手段は、抽出手段により抽出された推移情報に基づいてアンダーサンプリングを行って複数のデータセットを生成する。複数の弱学習器には、前処理手段から出力された複数のデータセットがそれぞれ入力される。これら複数の弱学習器は、複数の事業者についての前記財務データに基づいて前記不適切性を示す指標を出力するための学習モデルを構築する。バギング手段は、複数の弱学習器からの出力をバギングして不適切性を示す指標を算出する。
この態様によれば、不正の事実をさらに高い精度で推定することができる。また、不正をした訓練データを集めるのが困難という状況に適した学習手法を提供することができる。
【0008】
好ましい態様において、本発明に係る情報処理装置は、複数の弱学習器が勾配ブースティングに基づいて動作する。
この態様によれば、会計処理における不正の有無の判定精度が向上する。
【0009】
好ましい態様において、前記前処理手段は、前記学習モデルとは異なる複数の学習モデルに前記財務データを入力して得られた特徴量を、抽出手段により抽出された推移情報に加えたデータを生成する。そして、前記前処理手段は、該生成されたデータに対してアンダーサンプリングを行うことによって前記複数のデータセットを生成する。
この態様によれば、会計処理における不正の有無の判定精度が向上する。
【0010】
好ましい態様において、前記判定手段は、各勘定科目について算出された前記指標に基づいて、勘定科目ごとの貢献度を示すSHAP値を算出することを特徴とする。
この態様によれば、不正と判定する根拠が可視化される。
【0011】
好ましい態様において、前記前処理手段は、市況データに基づいて前記推移情報を補正することを特徴とする。
この態様によれば、会計処理における不適切性を判定する際の基準となる推移情報が市況データに基づいて補正されるので、判定精度が向上する。
本発明は、他の観点において、コンピュータに、一の事業者についての複数の決算期に係る財務データを取得するステップと、該取得した財務データに基づいて生成される勘定科目ごとに、当該勘定科目に係る値の推移を示す推移情報を抽出するステップと、該生成された情報に基づいて、前記一の事業者による会計処理における不適切性を判定するステップとを実行させるためのプログラムを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態による情報処理装置10の構成例を示す図である。
図2】情報処理装置10の制御部100が財務分析プログラムPAに従って実現する機能を示す機能ブロック図である。
図3】情報処理装置10の制御部100が財務分析プログラムPAに従って実行する財務分析方法の流れを示すフローチャートである。
図4】情報処理装置10の表示部130に表示されるSHAP値の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に述べる各実施形態には技術的に好ましい種々の限定が付されている。しかし、本発明の実施形態は、以下に述べる形態に限られるものではない。
【0014】
A.実施形態
図1は、本発明の一実施形態による情報処理装置10の構成例を示す図である。情報処理装置10は、例えば監査法人によって所有・管理されるコンピュータ装置であるが、コンピュータ装置の管理者や使用者は問わない。本実施形態における情報処理装置10は、例えばパーソナルコンピュータである。図1に示されるように、情報処理装置10は、制御部100、通信I/F部110、操作入力部120、表示部130、記憶部140、およびこれら構成要素間のデータ授受を仲介するバス150を備える。
【0015】
制御部100は、例えばCPU(Central Processing Unit)である。制御部100は、記憶部140に記憶されている財務分析プログラムPAを実行することにより、情報処理装置10の制御中枢として機能する。
【0016】
通信I/F部110は、インターネット等の電気通信回線に無線または有線で接続される。通信I/F部110は、電気通信回線経由で送られてくるデータを受信し、受信したデータを制御部100へ引き渡す。また、通信I/F部110は、制御部100から与えられたデータを電気通信回線へ送出する。
【0017】
操作入力部120は、マウス等のポインティングデバイスとキーボードとのいずれか一方、または両方を含む。操作入力部120に対して情報処理装置10のユーザによる操作が為されると、操作入力部120は、ユーザの操作内容を示す操作内容データを制御部100へ出力する。これにより、ユーザの操作内容が制御部100へ伝達される。
【0018】
表示部130は、液晶パネルとその駆動回路とを含む表示装置である。表示部130は、制御部100による制御の下、各種画像を表示する。
【0019】
記憶部140は、揮発性記憶部142と不揮発性記憶部144とを含む記憶装置である。揮発性記憶部142は、例えばRAM(Random Access Memory)である。揮発性記憶部142は、各種プログラムを実行する際のワークエリアとして制御部100によって利用される。不揮発性記憶部144は、例えばハードディスクである。不揮発性記憶部144には、各種プログラムおよび各種データが予め記憶(インストール)されている。
【0020】
不揮発性記憶部144に記憶されているプログラムの一例としては、OS(Operating System)を制御部100に実現させるためのカーネルプログラム、および財務分析プログラムPAが予め記憶されている。なお、図1では、カーネルプログラムの図示は省略されている。財務分析プログラムPAは、本発明に係る財務分析方法を制御部100に実行させるプログラムである。
【0021】
情報処理装置10の電源(図1では図示略)が投入されると、制御部100は、カーネルプログラムを不揮発性記憶部144から揮発性記憶部142に読み出し、当該カーネルプログラムの実行を開始する。カーネルプログラムに従って作動している制御部100は、他のプログラムの実行開始を指示する操作内容データを操作入力部120から受け取ったことを契機として、当該他のプログラムを不揮発性記憶部144から揮発性記憶部142に読み出してその実行を開始する。以下では、財務分析プログラムPAの実行を指示する操作が操作入力部120に為された場合を中心に説明する。
【0022】
財務分析プログラムPAの実行開始を指示する操作内容データを操作入力部120から受け取ると、制御部100は、財務分析プログラムPAを不揮発性記憶部144から揮発性記憶部142に読み出してその実行を開始する。財務分析プログラムPAに従って作動している制御部100は、本発明の機能を実現する。
【0023】
図2は、制御部100が財務分析プログラムPAに従って実現する機能を示す機能ブロック図である。図2に示されるように、財務分析プログラムPAに従って作動している制御部100は、取得手段1002、抽出手段1004、および判定手段1006として機能する。つまり、図2に示される取得手段1002、抽出手段1004、および判定手段1006は、CPU等のコンピュータをソフトウェア(財務分析プログラムPA)に従って作動させることにより実現されるソフトウェアモジュールである。取得手段1002、抽出手段1004、および判定手段1006の各々の機能は次の通りである。
【0024】
取得手段1002は、リスク管理の対象となる一の事業者(以下、対象事業者)について、例えば5期分などの複数の決算期に係る財務データD1を取得する。なお、事業者とは、法人その他の団体、個人事業主など、何らかの事業活動を行い、会計情報を作成・管理するものであればよく、法律上の定義や区分とは必ずしも一致する必要はない。連結子会等を含むいわゆるグループ企業を一つの事業者とみなしてもよいし。要するに、一つの財務データD1に記載された取引に関係する事業体を一つの事業者であるとみなすことができる。
【0025】
取得手段1002は、対象事業者において財務管理を司るサーバと通信I/F部110を介して通信することにより、当該サーバから財務データD1を取得する。一決算期の財務データは、典型的には、売上原価、売上高、および棚卸資産といった勘定科目ごとに決算期における値を記載した決算書を表す。換言すると、財務データD1は、複数の決算期の各々における決算書を表す。ただし、財務データD1その事業者が作成した帳簿ないし決算書の内容そのものを示す必要はなく、当該決算書ないし帳簿などの記録に基づいて作成されたものであればよい。例えば、決算書上は売上高と利益額という勘定しか存在しない場合に、財務データD1売上高利益率という複数の勘定科目の情報を用いて生成される情報が含まれていてもよい。
【0026】
なお、財務データD1は、金融庁などの監督官庁や証券取引所等の法律で定められている機関によって要請された形式のものであってもよいし、当該対象企業独自の形式のものであってもよい。要するに、財務データD1とは、その事業者が行った過去の取引の内容が記載された帳簿であって、見出し(勘定科目、表示科目)とその内容とで構成されたものであればよく、公開・非公開であるかも問わない。なお、財務データD1には、実際に不正が発覚したか否か示す情報が紐づけられていてもいなくてもよい。
また、決算期とは、必ずしもその事業者の定款や法律等で要求されたものと一致する必要はなく、上記の帳簿の区切りとして定められたものであればよい。
なお、財務データD1が監督官庁や証券取引所にて公開されている場合、取得手段1002は、対象事業者のサーバからではなく、監督官庁や証券取引所等から財務データD1を取得してもよい。
【0027】
抽出手段1004は、取得手段1002により取得した財務データD1に基づいて抽出される勘定科目ごとに、複数の決算期に亙る値の推移を示す推移情報D2を財務データD1から抽出する。例えば、対象事業者における決算書にM(Mは2以上の整数)個の勘定科目が含まれている場合、抽出手段1004は、最大でM個の勘定科目を抽出する。M個の勘定科目が抽出された場合、推移情報D2は、M個の勘定科目の各々について複数の決算期に亙る値の推移を表す。
なお、抽出手段1004は、不正と判定する根拠を後日提示できるようにするため、抽出した推移情報D2を不揮発性記憶部144に記憶させてもよく、制御部100は、不揮発性記憶部144に記憶された推移情報に基づいて、対象事業者の複数の決算期に亙る勘定科目ごとの値の推移を示すグラフ等を表示部130に表示させてもよい。
【0028】
判定手段1006は、抽出手段1004により生成された推移情報D2に基づいて、対象事業者の会計処理における不適切性を判定する。図2に示されるように、本実施形態における判定手段1006は、前処理手段1006aと、弱学習器1006b(1)~1006b(N)と、バギング(bagging)手段1006cとを有する。なお、Nは2以上の整数である。以下では、弱学習器1006b(1)~1006b(N)の各々を区別する必要がない場合には、弱学習器1006b(1)~1006b(N)は弱学習器1006bと表記される。
【0029】
上記の通り、判定手段1006は複数の弱学習器1006bを有する。弱学習器とは、単体では高い予測精度を期待できないAIことをいう。弱学習器の具体例としては、決定木が挙げられる。決定木とは、ある事項に対する観察結果から、その事項の目標値に関する結論を導くための木構造のことをいう。本実施形態では、対象事業者とは異なる複数の事業者についての財務データに基づいて会計処理の不適切性を示す指標を勘定科目ごとに出力するための学習モデル(予測モデル)が、弱学習器1006b(1)~1006b(N)のアンサンブルの形で構築される。
【0030】
より詳細には、本実施形態における弱学習器1006b(1)~1006b(N)は勾配ブースティングに基づいて動作することで上記学習モデルとして機能する。勾配ブースティングとは、学習データからランダムに部分データを取得してモデル(決定木)を逐次的に構築し、各モデルの予測値の重み付き多数決で最終的な予測値とする手法のことをいう。
【0031】
前処理手段1006aは、抽出手段1004にて抽出された推移情報D2に基づいて、複数のデータセットを生成する。より詳細に説明すると、前処理手段1006aは、まず、弱学習器1006b(1)~弱学習器1006b(N)により構築される学習モデルとは異なる複数の学習モデルに財務データを入力して得られた特徴量を推移情報D2に加えたデータを生成する。本実施形態における複数の学習モデルの具体例としては、Isolation forest、またはCFO修正Jonesモデル等が挙げられる。次いで、前処理手段1006aは、複数の学習モデルに財務データD1を入力して得られた特徴量を推移情報D2に加えたデータに対してアンダーサンプリングを行うことによって複数のデータセット、即ちデータセットD3(1)~D3(N)を生成する。アンダーサンプリングとは、X(Xは2以上の整数)個のデータからランダムにY(X以下の正の整数)個のデータを抽出することをいう。本実施形態では、前処理手段1006aは、N回のアンダーサンプリングを行ってデータセットD3(1)~D3(N)を生成するが、各アンダーサンプリングにおいて抽出されるデータは互いに一部が重複してもよい。なお、アンダーサンプリングの際には、データセットD3(1)~D3(N)の中に、必ず過年度の不正事例の推移情報D2が全量含まれるようにする。
【0032】
次いで、前処理手段1006aは、データセットD3(1)~D3(N)を弱学習器1006b(1)~弱学習器1006b(N)に一つずつ入力する。具体的には、前処理手段1006aは、データセットD3(n)を弱学習器1006b(n)に入力する。
【0033】
バギング手段1006cは、データセットD3(1)~D3(N)の入力に応じた弱学習器1006b(1)~弱学習器1006b(N)の各々の出力についてバギング(本実施形態では、重み付き多数決)を行うことにより、不適切性を示す指標V1を勘定科目ごとに算出する。財務データD1からM個に勘定科目が抽出される場合、バギング手段1006cは、M個の勘定科目の各々について一つずつ、即ちM個の指標V1を算出する。判定手段1006は、指標V1に基づいて対象事業者及び勘定科目ごとに会計処理における不適切性を判定する。例えば、判定手段1006は、バギング手段1006cにより算出された指標が所定の閾値を上回れば、不適切な会計処理が行われている可能性が高いと判定する。なお、判定手段1006は、指標V1および指標V1に基づく判定結果を示すデータを不揮発性記憶部144に記憶させてもよく、また、指標V1および指標V1に基づく判定結果を表示部130に表示させてもよい。
【0034】
また、財務分析プログラムPAに従って作動している制御部100は、本発明に係る財務分析方法を実行する。図3は、この財務分析方法の流れを示すフローチャートである。図3に示されるように、この財務分析方法は、取得処理SA110、抽出処理SA120、および判定処理SA130を含む。
【0035】
取得処理SA110では、制御部100は、取得手段1002として機能する。取得処理SA110では、制御部100は、対象事業者について複数の決算期に係る財務データを取得する。
【0036】
取得処理SA110に後続する抽出処理SA120では、制御部100は、抽出手段1004として機能する。抽出処理SA120では、制御部100は、取得処理SA110にて取得した財務データに基づいて抽出される勘定科目ごとに、複数の決算期に亙る当該勘定科目に係る値の推移を示す推移情報を生成する。
【0037】
抽出処理SA120に後続する判定処理SA130では、制御部100は、判定手段1006として機能する。判定処理SA130では、制御部100は、まず、弱学習器1006b(1)~弱学習器1006b(N)の各々に一つずつ入力するデータセット(即ちN個のデータセット)を、抽出処理SA120にて生成した推移情報に基づいて生成する。次いで、制御部100は、N個のデータセットの各々を弱学習器1006b(1)~弱学習器1006b(N)の各々に一つずつ入力し、弱学習器1006b(1)~弱学習器1006b(N)の各々からの出力をバギングして不適切性を示す指標を勘定科目ごとに算出する。算出された勘定科目ごとの指標および指標の合計値(不正が推定される確度示す推定値)の例を図4に示す。
【0038】
同図において、勘定科目ごとのSHAP値はその値が大きいほど、過去の不正事例と類似した動きを示している。また、SHAP値の合計値は、ロジット変換することでトータルのリスクスコアとして0~1の間で算出され、その値が大きいほど、対象事業者の会計処理が不適切である可能性が大きいことを示す。同図から、指標の合計を押し上げる要因として、「棚卸資産回転期間」や「棚卸資産純資産比率」等、棚卸資産と関係する指標に対する不適切性が高いことはわかる。よって、この結果をみた監査人等は、棚卸資産の過大計上が疑われるので、これらの項目を重点的にチェックするという判断をすることができる。加えて、棚卸資産の過大計上は利益水増しに繋がるが、実際、この例では利益関連の指標もSHAP値も高くなっていることが確認でき、棚卸資産の過大計上があるかもしれないという判断の根拠が示されている。
【0039】
上記実施形態によれば、複数の決算期に亙る勘定科目ごとの値の推移を機械学習により分析することで、会計処理の不適切性を示す指標が勘定科目ごとに算出される。例えば、直近の一年で特定の勘定科目の値が急減に(例えば前年比で所定の閾値以上)変化している場合、あるいは逆に、複数の決算期において特定の勘定科目が不自然と思われるほど一定であるような場合、当該勘定科目にかかるSHAP値に反映されることになる。
【0040】
具体的には、アンダーサンプリングと弱学習によるアンサンブル学習(バギング)を組み合わせることで、訓練データとして用いる大量の財務データのうち不正が行われた財務データはごく少数であるという本件分野に特有な状況においても、学習効率を向上させることができる。この結果、高い精度で会計処理の不適切性を推定することができる。加えて、不正と判定した根拠が勘定科目ごとのSHAP値として提示されるから、客観性および信頼性が向上する。
【0041】
財務データD1について、本発明に係るシステムの結果を監査人等があらためて検証を行う場合、事前に本発明に係るシステムを使用しない場合に比べて、チェックのポイント(どの勘定科目を優先的にチェックすべきか)を絞りこむことができるので、検証作業の効率化が期待される。
【0042】
B.その他の実施例
以上説明した実施形態は、以下のように変形されてもよい。
前処理手段1006aは、抽出手段1004により抽出された推移情報に基づいて複数のデータセットを生成する際に、市況を表す市況データに基づいて推移情報を補正し、補正後の推移情報に基づいて複数のデータセットを生成してもよい。市況とは、株式市場または商品市場等の各種市場における売買の状況のことをいう。
市況データは、株価指数、国内企業物価指数、アメリカドルに対する為替レート(或いは当該為替レートの平均値)、与信の伸び率、現金通貨(銀行券発行高+貨幣流通高)と国内銀行等に預けられた預金の合計、貸出利率、および長期債券利回り、のうちのいずれか一つ、または複数を表すデータである。株価指数とは、株価の対前年増減率のことである。国内企業物価指数とは、国内で新しく生産された商品およびサービスの付加価値の総計の増減比率のことである。
【0043】
市況を会計処理の不適切性を示す指標に反映させることで、例えば、財務データD1において売上高が直近1年で極端に落ち込んでいる一方でここ1年は景気が急激に悪化している場合、学習結果から、この売上高の落ち込みは景気の悪化に起因するものであって不正の直接証拠とはいえないとの結果を導くことができる。他方、仮にここ1年の景気が好調であった場合、売上高の落ち込みは、帳簿の改ざん、虚偽の申告といった不正会計処理が行われたことに起因するものであるとの結果が得られることが想定される。
【0044】
前処理手段1006aは、市況データに替えてまたは加えて、事業者の業種、業態、属する業界その他の属性に基づいて、推移情報を補正してもよい。事業内容に応じて財務データの特徴・傾向は異なりうるから、判定精度の向上が期待される。
【0045】
判定手段1006は、各勘定科目について算出された指標に基づいて、不適切性に対する各勘定科目の寄与の程度(貢献度)を示すSHAP値を勘定科目ごとに算出してもよい。この場合、SHAP値を不揮発性記憶部144へ記憶するとともに表示部130に表示してもよい。
【0046】
上記実施形態における取得手段1002、抽出手段1004、および判定手段1006はソフトウェアモジュールであったが、取得手段1002、抽出手段1004、および判定手段1006のうちのいずれか一つ、複数、または全部はASIC等のハードウェアモジュールであってもよい。取得手段1002、抽出手段1004、および判定手段1006のうちのいずれか一つ、複数、または全部がハードウェアモジュールであっても、上記実施形態と同一の効果が奏される。
【0047】
上記実施形態では、本発明の財務分析方法をCPU等のコンピュータに実行させる財務分析プログラムPAが情報処理装置10の記憶部140に予め記憶させていた。しかし、財務分析プログラムPAが単体で製造、または、有償或いは無償で譲渡(即ち、提供)されてもよい。財務分析プログラムPAを提供する際の具体的な態様としては、フラッシュROM等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に財務分析プログラムPAを書き込んで配布する態様、またはインターネット等の電気通信回線経由のダウンロードにより配布する態様が挙げられる。これらの態様により配布される財務分析プログラムPAに従って一般的なコンピュータを作動させることで、当該コンピュータに本発明の財務分析方法を実行させることが可能になり、上記実施形態と同一の効果が得られる。
【0048】
要するに、本発明に係る情報処理システムにおいて、一の事業者についての複数の決算期に係る財務データを取得するステップと、該取得した財務データに基づいて生成される勘定科目ごとに、当該勘定科目に係る値の推移を示す推移情報を抽出するステップと、該生成された情報に基づいて、前記一の事業者による会計処理における不適切性を判定するステップとが実行されていればよい。
【符号の説明】
【0049】
10…情報処理装置、100…制御部、110…通信I/F部、120…操作入力部、130…表示部、140…記憶部、150…バス、1002…取得手段、1004…抽出手段、1006…判定手段、1006a…前処理手段、1006b,1006b(1)~1006b(N)…弱学習器、1006c…バギング手段、PA…財務分析プログラム。
【要約】
【課題】会計処理に不正がある場合に不正の事実を高い精度で推定することを可能にし、且つ、不正と判定する根拠を客観的に提示できるようにする。
【解決手段】情報処理装置10は、取得手段1002と、抽出手段1004と、判定手段1006と、を有する。取得手段1002は、対象事業者についての複数の決算期に係る財務データを取得する。抽出手段1004は、取得手段1002により取得した財務データに基づいて生成される勘定科目ごとに、当該勘定科目に係る値の推移を示す推移情報を抽出する。判定手段1006は、抽出手段1004により抽出された推移情報に基づいて、対象事業者による会計処理における不適切性を判定する。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4