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特許7216861貝殻の表面処理剤及び貝殻の表面処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-24
(45)【発行日】2023-02-01
(54)【発明の名称】貝殻の表面処理剤及び貝殻の表面処理方法
(51)【国際特許分類】
   B44C 5/06 20060101AFI20230125BHJP
【FI】
B44C5/06 D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022145506
(22)【出願日】2022-09-13
【審査請求日】2022-10-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522364491
【氏名又は名称】村上 敏男
(74)【代理人】
【識別番号】100093148
【弁理士】
【氏名又は名称】丸岡 裕作
(72)【発明者】
【氏名】村上 敏男
【審査官】後藤 泰輔
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-278122(JP,A)
【文献】特開2016-149972(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B44C 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貝殻の表面を処理する貝殻の表面処理剤において、
銀杏の外皮の液状成分を70重量%以上含むことを特徴とする貝殻の表面処理剤。
【請求項2】
銀杏の外皮を90重量%以上含むことを特徴とする請求項1記載の貝殻の表面処理剤。
【請求項3】
貝殻の表面を処理する貝殻の表面処理方法において、
貝殻を洗浄して乾燥する前処理工程と、
該前処理工程後に、貝殻を、銀杏の外皮の液状成分を70重量%以上含む表面処理剤に所要時間浸漬する浸漬工程と、
該浸漬工程後に、貝殻を洗浄する後処理工程とを備えたことを特徴とする貝殻の表面処理方法。
【請求項4】
上記浸漬工程で用いる表面処理剤は、銀杏の外皮を90重量%以上含むことを特徴とする請求項3記載の貝殻の表面処理方法。
【請求項5】
貝殻は、真珠層を有している貝殻であり、上記浸漬工程において、貝殻を、2~3週間浸漬することを特徴とする請求項4記載の貝殻の表面処理方法。
【請求項6】
上記前処理工程後であって上記浸漬工程前に、貝殻の内表面を剥離可能なコーティング材で被覆するコーティング工程を備え、
上記後処理工程において、貝殻からコーティング材を除去することを特徴とする請求項3乃至5何れかに記載の貝殻の表面処理方法。
【請求項7】
貝殻は、アワビ貝の貝殻であることを特徴とする請求項6記載の貝殻の表面処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アワビ等の貝殻を装飾品として加工する技術に係り、特に、貝殻の表面を処理するための貝殻の表面処理剤及びこれを用いて貝殻の表面を処理する貝殻の表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、アワビ等の貝殻において、その表面から不要部分を除去する表面処理を行ない、光沢のある表面を露出させて装飾品として加工することを行っている。従来、この種の表面処理方法としては、例えば、特開2010-120357号公報に掲載された技術が知られている。これは、真珠層を有したアワビの貝殻を処理する技術であり、貝殻を、表面処理剤としての酢酸に浸漬し、外側層を溶解して真珠層を露出させる。この場合、未だ真珠層が露出しない部位と、真珠層が露出する部位とが生じ、そのまま、酢酸中で処理すると、真珠層の溶解が進行するので、一度、サラダ油を塗布し、再度酢酸中に浸漬して処理し、サラダ油により、一度露出した真珠層を保護して外側層を除去するようにしている。
【0003】
このように、酢酸の処理の過程で、未だ真珠層が露出しない部位と、真珠層が露出する部位とが生じるのは、アワビ等の貝殻の表面には、石灰質の付着物、あるいは、フジツボ等の甲殻類,ゴカイ等の多毛類,ヒドロ虫類等の生物の付着物が付着しており、これらが邪魔をして貝殻の溶解にムラができ易くなることに起因すると考えられる。また、酢酸は、一度露出した真珠層に対しても、外側層と同様に作用することにも起因していると考えられる。真珠層の溶解が進行すると、貝殻に孔が空いたり、孔が空かないとしても真珠層の内部の光沢は外面側に比較して劣り、その分、品質を低下させる。そのため、従来においては、サラダ油を用いて、一度露出した真珠層を保護するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-120357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の貝殻の表面処理方法においては、酢酸の処理の過程で、未だ真珠層が露出しない部位と、真珠層が露出する部位とが生じやすいことから、一度、サラダ油を塗布し、再度酢酸中に浸漬して処理し、サラダ油により、一度露出した真珠層を保護して外側層を除去するようにしているが、サラダ油を塗布する工程がある分、工数が多くなり、処理効率が悪いという問題があった。
【0006】
本発明は上記の点に鑑みて為されたもので、貝殻の外側層をムラなく溶解できるようにして、処理工数を低減し、処理効率の向上を図った貝殻の表面処理剤及び貝殻の表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者は、長年の研究により、イチョウの種子である銀杏の外皮が、貝殻の表面処理に極めて有効であることを見出して本発明を完成させた。イチョウの種子である銀杏は、悪臭のある肉質黄褐色の外皮と、これに覆われ硬い殻を形成する内皮と、これに覆われ可食の胚乳(さね、核あるいは仁とも言う)とからなる。外皮には、酪酸(ブタン酸),へプタン酸(エナント酸,ヘプチル酸),カプロン酸(ヘキサン酸),有毒成分のギンコール酸,ヒドロギンコール酸,ヒドロギンコリン酸,ギンノール,ビロボールやイチョウ酸が含まれている。また、中毒性の4’-メトキシピリドキシンの存在も知られている。
【0008】
即ち、本発明の貝殻の表面処理剤は、貝殻の表面を処理する貝殻の表面処理剤において、銀杏の外皮の液状成分を70重量%以上含む構成としている。外皮は、果肉様であり、熟成したものを用いる。外皮の液分量は、75重量%以上であり、これを果肉様部分とともにそのまま用い、あるいは、搾汁して液状にしたものを用いることができる。また、これらに、水を添加してある程度希釈しても良い。その酸性度pHは、pH=4~6である。
【0009】
貝殻はどのような種類の貝殻であっても良い。装飾品の目的で利用する代表的な資源を挙げると、真珠層を有した貝殻が挙げられる。例えば、ウグイスガイ科の真珠貝類、イシガイ科,カワシンジュガイ科といった淡水産二枚貝類、アワビ,アコヤガイやヤコウガイ等を挙げることができる。真珠層を持たない例えばアサリやホタテガイも挙げることができる。ここでは、貝殻の種類は限定されない。
【0010】
これにより、貝殻を表面処理剤に浸漬すると、銀杏の外皮の液状成分により、貝殻の表面が溶解していく。この場合、その溶解の度合いは比較的緩慢であり、しかも、貝殻の表面には、石灰質の付着物、あるいは、フジツボ等の甲殻類,ゴカイ等の多毛類,ヒドロ虫類等の生物の付着物が付着していることが多いが、この付着物があっても、この付着物に浸透して溶解して脆くするとともに、付着物と貝殻の外側層との間に浸入して外側層を溶解していく。そのため、貝殻の外側層が、比較的均等に溶解していき、例えば、真珠層のある貝殻の場合では、ほとんどムラなく外側層を溶解して真珠層を露出させるようになる。
【0011】
これは、銀杏の外皮に含まれる上記の酪酸,へプタン酸,カプロン酸,ギンコール酸,ヒドロギンコール酸,ヒドロギンコリン酸,ギンノール,ビロボールやイチョウ酸の成分に起因していると考えられる。即ち、銀杏の外皮に含まれる成分は、付着物と貝殻の外側層との間に浸透し易く、また、真珠層のある貝殻においては、先に真珠層が露出する部位があっても、微細構造の真珠層に対しては反応が遅く、主に、外側層への反応性が勝ることに起因するものと考えられる。このため、貝殻の外側層をムラなく溶解できるようになり、従来に比較して、処理工数を低減し、処理効率の向上を図ることができる。
【0012】
そして、必要に応じ、銀杏の外皮を90重量%以上含む構成としている。外皮は、果肉様であり、熟成したものを用いる。ここでは、果肉様部分とともにそのまま用いている。これに、水を添加してある程度希釈しても良い。これにより、例えば、貝殻をこの表面処理剤に浸漬すると、貝殻には、外皮の液状成分が作用するとともに銀杏の外皮の果肉様部分が付着するので、上述の液状成分の作用に加えて、果肉様部分の付着による溶解も行われることから、その溶解の度合いをより緩慢にすることができ、ムラのない溶解を行うことができる。
【0013】
また、上記の課題を解決するための本発明の貝殻の表面処理方法は、貝殻の表面を処理する貝殻の表面処理方法において、
貝殻を洗浄して乾燥する前処理工程と、
該前処理工程後に、貝殻を、銀杏の外皮の液状成分を70重量%以上含む表面処理剤に所要時間浸漬する浸漬工程と、
該浸漬工程後に、貝殻を洗浄する後処理工程とを備えた構成としている。
【0014】
これにより、前処理工程では、ある程度貝殻に付着した付着物を落とすことができるとともに、乾燥するので、その後の表面処理剤への接触作用を確実に行わせることができる。表面処理剤への浸漬工程では、上述したように、銀杏の外皮の液状成分により、貝殻の表面が溶解していく。この場合、その溶解の度合いは比較的緩慢であり、しかも、貝殻の表面には、石灰質の付着物、あるいは、フジツボ等の甲殻類,ゴカイ等の多毛類,ヒドロ虫類等の生物の付着物が付着していることが多いが、この付着物があっても、この付着物に浸透して溶解して脆くするとともに、付着物と貝殻の外側層との間に浸入して外側層を溶解していく。そのため、貝殻の外側層が、比較的均等に溶解していき、例えば、真珠層のある貝殻の場合では、ほとんどムラなく外側層を溶解して真珠層を露出させるようになる。
【0015】
これは、銀杏の外皮に含まれる上記の酪酸,へプタン酸,カプロン酸,ギンコール酸,ヒドロギンコール酸,ヒドロギンコリン酸,ギンノール,ビロボールやイチョウ酸の成分に起因していると考えられる。即ち、銀杏の外皮に含まれる成分は、付着物と貝殻の外側層との間に浸透し易く、また、真珠層のある貝殻においては、先に真珠層が露出する部位があっても、微細構造の真珠層に対しては反応が遅く、主に、外側層への反応性が勝ることに起因するものと考えられる。このため、貝殻の外側層をムラなく溶解できるようになり、従来に比較して、処理工数を低減し、処理効率の向上を図ることができる。
【0016】
その後、後処理工程で、貝殻を洗浄するが、付着物は脆くなっているので、貝殻の表面から容易に離脱するとともに、貝殻の外側層が、比較的均等に溶解しているので、例えば、真珠層のある貝殻の場合では、略均等に真珠層が露出する。この真珠層は、その外面側を露出できるので、内部まで溶解した場合に比較して、光沢が良く、品質を向上させることができる。
【0017】
そして、必要に応じ、上記浸漬工程で用いる表面処理剤は、銀杏の外皮を90重量%以上含む構成としている。上述もしたように、外皮は、果肉様であり、熟成したものを用いる。ここでは、果肉様部分とともにそのまま用いている。これに、水を添加してある程度希釈しても良い。これにより、例えば、貝殻をこの表面処理剤に浸漬すると、貝殻には、外皮の液状成分が作用するとともに銀杏の外皮の果肉様部分が付着するので、上述の液状成分の作用に加えて、果肉様部分の付着による溶解も行われることから、その溶解の度合いをより緩慢にすることができ、ムラのない溶解を行うことができる。
【0018】
この場合、貝殻は、真珠層を有している貝殻であり、上記浸漬工程において、貝殻を、2~3週間浸漬することが有効である。溶解の度合いを緩慢にしつつ、ムラのない溶解を確実に行うことができる。特に、真珠層のある貝殻の場合では、貝殻の真珠層の外面側を露出できるので、内部まで溶解した場合に比較して、光沢が良く、品質を確実に向上させることができる。
【0019】
また、必要に応じ、上記前処理工程後であって上記浸漬工程前に、貝殻の内表面を剥離可能なコーティング材で被覆するコーティング工程を備え、上記後処理工程において、貝殻からコーティング材を除去する構成としている。貝殻の内表面は、コーティング材に被覆されているので表面処理剤による溶解が行われないことから、貝殻の肉厚を適正に維持できるとともに、内表面の光沢を確保することができる。
【0020】
そして、必要に応じ、貝殻は、アワビ貝の貝殻である構成としている。アワビの貝殻は、内層としての真珠層と、その外側の中層及び外層からなる外側層とからなっている。中層は稜柱層(角柱層)といわれ、外層は殻皮(角質層)といわれる。真珠層は貝殻全体の50~60%を占め、白銀色で真珠光沢のある部分である。アワビの貝殻の内表面は、コーティング材に被覆されているので表面処理剤による溶解が行われないことから、貝殻の肉厚を適正に維持できるとともに、内表面の光沢を確保することができる。特に、アワビのように内表面の光沢が元々綺麗な貝殻においては有効である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、例えば、貝殻をこの表面処理剤に浸漬すると、銀杏の外皮の液状成分により、貝殻の表面が溶解していく。この場合、その溶解の度合いは比較的緩慢であり、しかも、貝殻の表面には、石灰質の付着物、あるいは、フジツボ等の甲殻類,ゴカイ等の多毛類,ヒドロ虫類等の生物の付着物が付着していることが多いが、この付着物があっても、この付着物に浸透して溶解して脆くするとともに、付着物と貝殻の外側層との間に浸入して外側層を溶解していく。そのため、貝殻の外側層が、比較的均等に溶解していき、例えば、アワビ等の真珠層のある貝殻の場合では、ほとんどムラなく外側層を溶解して真珠層を露出させるようになる。この結果、従来に比較して、処理工数を低減し、処理効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施の形態に係る貝殻の表面処理剤の構成を示す図である。
図2】本発明の実施の形態に係る貝殻の表面処理方法を示す工程図である。
図3】本発明の実施の形態に係る貝殻の表面処理方法においてコーティング工程を示す図である。
図4】本発明の実施の形態に係る貝殻の表面処理方法において浸漬工程を示す図である。
図5】本発明の実施の形態に係る貝殻の表面処理方法において前処理工程前の貝殻と後処理工程後の貝殻とを比較して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面に基づいて、本発明の実施の形態に係る貝殻の表面処理剤及び貝殻の表面処理方法について詳細に説明する。
【0024】
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る貝殻の表面処理剤Fは、貝殻Sの表面を処理する貝殻の表面処理剤Fにおいて、イチョウの種子である銀杏1の外皮2の液状成分を70重量%以上含む構成としている。
【0025】
銀杏1は、悪臭のある肉質黄褐色の外皮2と、これに覆われ硬い殻を形成する内皮3と、これに覆われ可食の図示外の胚乳(さね、核あるいは仁とも言う)とからなる。外皮2には、酪酸(ブタン酸),へプタン酸(エナント酸,ヘプチル酸),カプロン酸(ヘキサン酸),有毒成分のギンコール酸,ヒドロギンコール酸,ヒドロギンコリン酸,ギンノール,ビロボールやイチョウ酸が含まれている。また、中毒性の4’-メトキシピリドキシンの存在も知られている。
【0026】
即ち、外皮2は、果肉様であり、熟成したものを用いる。液分量(水分量)は、75重量%以上であり、これを果肉様部分とともにそのまま用い、あるいは、搾汁して液状にしたものを用いることができる。また、これらに、水を添加してある程度希釈しても良い。
好ましくは、表面処理剤Fは、銀杏1の外皮2を90重量%以上含む構成としている。実施の形態では、外皮2がある程度熟成したならば、内皮3から外皮2を分離し、この熟成した外皮2のみで表面処理剤Fを構成している。表面処理剤Fは、外皮2の果肉様部分を含む。ある程度撹拌して外皮2の果肉様部分を分散させている。その酸性度pHは、pH=4~6である。尚、胚乳の入った内皮3の粒(実)は、洗浄乾燥して食用の製品として供する。
【0027】
次に、図2乃至図5を用い、本発明の実施の形態に係る貝殻の表面処理方法について説明する。貝殻Sはどのような種類の貝殻Sであっても良いが、ここでは、アワビの貝殻Sを処理する場合を示す。図5に示すように、アワビの貝殻Sは、内層としての真珠層Saと、その外側の中層及び外層からなる外側層Sbとからなっている。中層は稜柱層(角柱層)といわれ、外層は殻皮(角質層)といわれる。真珠層Saは貝殻S全体の50~60%を占め、白銀色で真珠光沢のある部分である。貝殻Sの表面には、石灰質の付着物、あるいは、フジツボ等の甲殻類,ゴカイ等の多毛類,ヒドロ虫類等の生物の付着物が付着していることが多い。本例では、貝殻Sの表面にこれらの付着物Dが付着したもので説明する。
【0028】
実施の形態に係る貝殻の表面処理方法は、図2に示すように、貝殻Sを洗浄して乾燥する前処理工程(1)と、貝殻Sの内表面を剥離可能なコーティング材Cで被覆するコーティング工程(2)と、貝殻Sを上記の表面処理剤Fに所要時間浸漬する浸漬工程(3)と、貝殻Sを洗浄するとともにコーティング材Cを除去する後処理工程(4)とを備えて構成されている。以下、各工程について説明する。
【0029】
(1)前処理工程
貝殻Sを水で洗浄し、比較的大きな付着物Dを落とす。その後乾燥する。ある程度貝殻Sに付着した付着物Dを落とすことができるとともに、乾燥するので、その後の表面処理剤Fへの接触作用を確実に行わせることができる。
【0030】
(2)コーティング工程
図3にも示すように、貝殻Sの内表面を剥離可能なコーティング材Cで被覆する。コーティング材Cとしては、例えば、コーキング材として使用されるシリコーン樹脂製のものを用いる。コーティング材Cは、耐酸性のものであればこれに限定されない。
【0031】
(3)浸漬工程
図4にも示すように、貝殻Sを表面処理剤Fに所要時間(実施の形態では2~3週間)浸漬する。これにより、銀杏1の外皮2の液状成分により、貝殻Sの表面が溶解していく。この場合、その溶解の度合いは比較的緩慢であり、しかも、アワビ等の貝殻Sの表面には、石灰質の付着物、あるいは、フジツボ等の甲殻類,ゴカイ等の多毛類,ヒドロ虫類等の生物の付着物が付着していることが多いが、この付着物Dがあっても、この付着物Dに浸透して溶解して脆くするとともに、付着物Dと貝殻Sの外側層Sbとの間に浸入して外側層Sbを溶解していく。そのため、貝殻Sの外側層Sbが、比較的均等に溶解していき、真珠層Saのあるアワビの場合では、ほとんどムラなく外側層Sbを溶解して真珠層Saを露出させるようになる。
【0032】
これは、銀杏1の外皮2に含まれる上記の酪酸,へプタン酸,カプロン酸,ギンコール酸,ヒドロギンコール酸,ヒドロギンコリン酸,ギンノール,ビロボールやイチョウ酸の成分に起因していると考えられる。即ち、銀杏1の外皮2に含まれる成分は、付着物Dと貝殻Sの外側層Sbとの間に浸透し易く、また、真珠層Saのあるアワビの貝殻Sにおいては、先に真珠層Saが露出する部位があっても、微細構造の真珠層Saに対しては反応が遅く、主に、外側層Sbへの反応性が勝ることに起因するものと考えられる。このため、貝殻Sの外側層Sbをムラなく溶解できるようになり、従来に比較して、処理工数を低減し、処理効率の向上を図ることができる。
【0033】
この場合、表面処理剤Fは、銀杏1の外皮2のみで構成されているので、貝殻Sには、外皮2の液状成分が作用するとともに銀杏1の外皮2の果肉様部分が付着するので、上述の液状成分の作用に加えて、果肉様部分の付着による溶解も行われることから、その溶解の度合いをより緩慢にすることができ、ムラのない溶解を確実に行うことができる。
【0034】
また、この場合、貝殻Sの内表面は、コーティング材Cに被覆されているので表面処理剤Fによる溶解が行われないことから、貝殻Sの肉厚を適正に維持できるとともに、内表面の光沢を確保することができる。
【0035】
(4)後処理工程
図5にも示すように、貝殻Sを洗浄するとともにコーティング材Cを除去する。この洗浄においては、付着物Dは脆くなっているので、貝殻Sの表面から容易に離脱するとともに、貝殻Sの外側層Sbが、比較的均等に溶解しているので、真珠層Saのあるアワビの場合では、略均等に真珠層Saが露出する。この真珠層Saは、その外面側を露出できるので、内部まで溶解した場合に比較して、光沢が良く、品質を向上させることができる。また、コーティング材Cに被覆されていた貝殻Sの内表面は、表面処理剤Fによる溶解が行われないことから、内表面の光沢を確保することができる。尚、この工程においては、最後に、バフを用いて研磨する等して表面を仕上げることができる。
【0036】
尚、上記実施の形態においては、貝殻Sとしてアワビの貝殻の場合で説明したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、別の種類の貝殻Sであっても良いことは勿論である。本発明は、上述した本発明の実施の形態に限定されず、当業者は、本発明の新規な教示及び効果から実質的に離れることなく、これら例示である実施の形態に多くの変更を加えることが容易であり、これらの多くの変更は本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0037】
F 表面処理剤
1 銀杏
2 外皮
3 内皮
S 貝殻
Sa 真珠層
Sb 外側層
D 付着物
C コーティング材
(1)前処理工程
(2)コーティング工程
(3)浸漬工程
(4)後処理工程
【要約】
【課題】 貝殻の外側層をムラなく溶解できるようにして、処理工数を低減し、処理効率の向上を図る。
【解決手段】 貝殻Sの表面を処理する貝殻の表面処理方法において、貝殻Sを洗浄して乾燥する前処理工程(1)と、前処理工程後に貝殻Sの内表面を剥離可能なコーティング材Cで被覆するコーティング工程(2)と、コーティング工程後に、貝殻Sを、銀杏1の外皮2の液状成分を70重量%以上含む表面処理剤Fに所要時間浸漬する浸漬工程(3)と、浸漬工程後に、貝殻Sを洗浄するとともにコーティング材Cを除去する後処理工程(4)とを備えた。
【選択図】 図2
図1
図2
図3
図4
図5