(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-24
(45)【発行日】2023-02-01
(54)【発明の名称】ベルト駆動装置、移送装置、及びベルトの張力推定方法
(51)【国際特許分類】
F16H 7/00 20060101AFI20230125BHJP
【FI】
F16H7/00 A
(21)【出願番号】P 2022158724
(22)【出願日】2022-09-30
【審査請求日】2022-10-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000138473
【氏名又は名称】株式会社ユーシン精機
(74)【代理人】
【識別番号】100167807
【氏名又は名称】笠松 信夫
(72)【発明者】
【氏名】南 航司
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-14041(JP,A)
【文献】特開平1-288656(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プーリーと、
前記プーリーに巻き付けられるベルトと、
前記プーリーを駆動する駆動部と、
前記プーリーの一方側に位置する前記ベルトの張力を検出する第1検出部と、
前記プーリーの他方側に位置する前記ベルトの張力を検出する第2検出部と、
前記駆動部にトルクが発生している状況下で前記第1検出部及び前記第2検出部がそれぞれ検出した前記ベルトの張力に基づいて前記ベルトに外力が作用していない状態における前記ベルトの張力を推定する張力推定部と、
を備えるベルト駆動装置。
【請求項2】
前記トルクは、外力に抗して前記ベルトを静止状態に維持するために駆動部が出力するトルクである、請求項1記載のベルト駆動装置。
【請求項3】
前記外力が当該ベルト駆動装置の駆動対象物に作用する重力である、請求項2記載のベルト駆動装置。
【請求項4】
移送対象物を保持する保持部と、
前記保持部を支持する移動体と、
前記移動体の進退方向を一次元方向に規制するガイド部と、
前記ガイド部に沿って前記移動体を駆動する、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のベルト駆動装置と、
を備える移送装置。
【請求項5】
前記ガイド部が規制する一次元方向が鉛直方向である、請求項4記載の移送装置。
【請求項6】
生産された物品を生産装置外へ移送する移送装置であって、
前記物品の移送方向に延びる第1フレームと、
前記第1フレームに沿って進退する第1移動体と、
前記第1移動体に支持されるとともに、水平面内で前記第1フレームと異なる方向に延びる第2フレームと、
前記第2フレームに沿って進退する第2移動体と、
前記第2移動体に、鉛直方向に沿って昇降可能に支持される昇降アームと、
前記昇降アームに支持されるとともに、移送対象の物品を把持する把持部と、
前記昇降アームを鉛直方向に沿って駆動する請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のベルト駆動装置と、
を備える移送装置。
【請求項7】
駆動部により駆動されるプーリーに巻き付けられるベルトの張力推定方法であって、
前記駆動部にトルクが発生している状況下で前記プーリーの一方側に位置する前記ベルトの張力及び前記プーリーの他方側に位置する前記ベルトの張力をそれぞれ検出するステップと、
検出された前記ベルトの張力に基づいて前記ベルトに外力が作用していない状態における前記ベルトの張力を推定するステップと、
を有するベルトの張力推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルトを介して駆動力を伝達するベルト駆動装置、当該ベルト駆動装置を備える移送装置、及びベルトの張力推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、様々な機械装置においてベルトを介して駆動力を伝達するベルト駆動装置が広く使用されている。このようなベルト駆動装置では、駆動プーリーからベルトに伝達された駆動力により駆動対象物を駆動する。
【0003】
このようなベルト駆動装置では、使用にともなうベルトの摩耗や伸び等に起因してベルトの張力が低下する。ベルトの張力が規定値よりも小さい状態である場合、駆動力の効率的な伝達ができなくなるとともに、異音の発生等の不具合が生じる。また、張力が著しく低下すると駆動力の伝達が不可能となり、機械装置が動作不能となる。一方、ベルトの張力が規定値よりも大きい状態である場合、ベルトに過度な負荷が付与される結果、寿命が短くなる等の不具合が生じる。そのため、ベルトの張力を定期的に測定することにより、規定値どおりに調整されているかを確認する必要がある。
【0004】
ベルトの張力を測定する手法としては、ベルトの振動周波数を、音響的、機械的、電気的、あるいは、光学的に取得し、取得した周波数に基づいて張力を算出する方法が一般的に使用されている(例えば、特許文献1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ベルト駆動装置において、ベルトの張力は、ベルトに外力が作用していない無負荷状態で測定される。このとき、駆動プーリーはトルクを発生していない状態(トルク非発生状態)である。駆動プーリーがトルクを発生している状態では、駆動プーリーに巻き掛けられたベルトに当該トルクが外力として作用し、ベルトの張力が本来取得すべき値と異なる値になってしまうからである。
【0007】
また、例えば、ベルトの駆動によりベルトに固定された駆動対象物が移動するベルト駆動装置では、駆動対象物の移動に伴って測定対象となるベルト部分のスパン(振動する部分の長さ)が変動する構成を有するものがある。このような構成では、測定精度や測定確度、測定データの一貫性を確保する観点から、駆動対象物がベルトの張力測定に適した位置、すなわち、測定対象となるベルト部分のスパンが特定の長さになる位置に配置された状態で張力測定が行われる。しかしながら、駆動対象物の移動方向が鉛直方向である場合、駆動プーリーをトルク非発生状態にすると駆動対象物が自重により移動下限位置まで落下してしまい、測定対象となるベルト部分のスパンが張力測定のための特定の長さとは異なる長さになってしまう。
【0008】
この対策として、このような構成のベルト駆動装置では、台座を設置し、駆動プーリーをトルク非発生状態としたときに駆動対象物が台座に支持されて、駆動対象物が所定の位置(ベルトの張力測定に適した位置)に維持される状態を実現した上で張力を測定している。台座の準備、駆動プーリーのトルク非発生化(駆動源からの分離)、張力の測定等の
手順が必要となるこの種の作業は作業者にとって煩雑である。また、台座が倒れたりした場合には、駆動対象物が移動下限位置まで一気に落下する状態であるため事故リスクもあり、作業者は慎重に作業を進める必要もある。一方、張力測定の間は機械装置を稼働できず稼働率が低下するため、できるだけ短時間での作業が求められている。このような機械装置の稼働率が低下するという課題は、駆動対象物の移動方向が水平方向等の鉛直方向以外の方向であっても同様に存在している。また、このような課題は、本発明に一見近似する上記特許文献1が開示する技術でも解決できない。
【0009】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、ベルトを無負荷状態にすることなく無負荷状態におけるベルトの張力を取得できる、ベルト駆動装置、移送装置、及びベルトの張力推定方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を達成するために、本発明は以下の技術的手段を採用している。すなわち、本発明に係るベルト駆動装置は、プーリー、ベルト、駆動部、第1検出部、第2検出部及び張力推定部を備える。ベルトはプーリーに巻き付けられる。駆動部はプーリーを駆動する。第1検出部はプーリーの一方側に位置するベルトの張力を検出する。また、第2検出部はプーリーの他方側に位置するベルトの張力を検出する。そして、張力推定部は、駆動部にトルクが発生している状況下で第1検出部及び第2検出部がそれぞれ検出したベルトの張力に基づいてベルトに外力が作用していない状態におけるベルトの張力を推定する。このベルト駆動装置において、駆動部が発生するトルクは、例えば、外力に抗してベルトを静止状態に維持するために駆動部が出力するトルクである。当該外力がベルト駆動装置の駆動対象物に作用する重力である場合、特に好適である。
【0011】
このベルト駆動装置によれば、駆動部により駆動されるプーリーがトルクを発生している状況下で当該プーリーの両側に位置するベルトの張力を取得するだけで、ベルトに外力が作用していない無負荷状態におけるベルトの張力を取得することができる。そのため、装置の稼働中にベルトの張力も取得することも可能であり、作業者がベルトの張力を取得するために従来必要であった様々の作業も不要となる。したがって、装置の稼働率を高めることができるとともに、作業者の負荷を軽減することができる。特に、鉛直方向に駆動対象物を駆動するベルト駆動装置では、張力取得の際に駆動対象物を支持するための台座の準備等の煩雑さを解消できるため極めて有効である。
【0012】
また、他の観点では、本発明は、移送装置を提供することもできる。すなわち、本発明に係る移送装置は、移送物を保持する保持部と、保持部を支持する移動体と、移動体の進退方向を一次元方向に規制するガイド部と、当該ガイド部に沿って移動体を駆動する上述のベルト駆動装置を備える。本構成において、ガイド部が規制する一次元方向が鉛直方向である構成を採用することができる。また、本発明に係る他の移送装置は、生産された物品を生産装置外へ移送する移送装置であって、第1フレーム、第1移動体、第2フレーム、第2移動体、昇降アーム、把持部及び上述のベルト駆動装置を備える。第1フレームは、移送対象物品の移送方向に延びる状態で配置される。第1移動体は第1フレームに沿って進退する。第2フレームは第1移動体に支持されるとともに、水平面内で第1フレームと異なる方向に延びる状態で配置される。第2移動体は第2フレームに沿って進退する。昇降アームは、鉛直方向に沿って昇降可能な状態で第2移動体に支持される。把持部は昇降アームに支持されるとともに移送対象物品を把持する。そして、昇降アームが上述のベルト駆動装置により駆動される。
【0013】
さらに他の観点では、本発明は、ベルトの張力推定方法を提供することもできる。本発明は、駆動部により駆動されるプーリーに巻き付けられるベルトの張力推定方法を前提としている。そして、本発明に係るベルトの張力推定方法では、まず、駆動部にトルクが発
生している状況下でプーリーの一方側に位置するベルトの張力及びプーリーの他方側に位置するベルトの張力がそれぞれ検出される。次いで、検出されたベルトの張力に基づいてベルトに外力が作用していない無負荷状態におけるベルトの張力が推定される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ベルトを無負荷状態にすることなく無負荷状態におけるベルトの張力を取得でき、装置の稼働率を高めることができるとともに、作業者の負荷を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る移送装置の一例を模式的に示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るベルト駆動装置の一例を模式的に示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るベルト駆動装置の一例を模式的に示す要部拡大図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る移送装置におけるベルトの張力推定手順の一例を示すフロー図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係るベルト駆動装置の他の例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながらより詳細に説明する。以下では、物品を移送するトラバース型の移送装置の昇降アームに適用した事例により本発明を具体化する。
【0017】
図1は、本実施形態に係る移送装置10を模式的に示す図である。この移送装置10は、樹脂成形装置から装置外への成形品の搬出に使用され、例えば、樹脂成形装置の上面に設置される。
【0018】
図1に示すように、移送装置10は、取付台11、横行フレーム12、第1走行体13、引抜フレーム14、第2走行体15、把持部16、昇降アーム17を備えている。横行フレーム12は、移送対象である成形品の搬出方向に延びる状態で配置される。第1走行体13は横行フレーム12に支持されており、サーボモータを駆動源として横行フレーム12に沿って進退する。なお、横行フレーム12の基端部が取付台11を介して樹脂成形装置に固定される。
【0019】
引抜フレーム14は基端部が走行体13に固定されており、横行フレーム12と直交する方向に延びる状態で配置されている。第2走行体15は引抜フレーム14に支持されており、サーボモータを駆動源として引抜フレーム14に沿って進退する。把持部16は昇降アーム17の下端に支持されている。昇降アーム17は鉛直方向に沿って配置されており、第2走行体15が備えるサーボモータを駆動源として鉛直方向に沿って進退する。当該昇降アーム17の鉛直方向の移動に伴って把持部16は鉛直方向に沿って昇降する。
【0020】
図2は、本実施形態に係る移送装置10の昇降アーム17を昇降させるベルト駆動装置1の構成を模式的に示す図である。また、
図3は、本実施形態に係るベルト駆動装置1の駆動プーリー2の近傍を模式的に示す拡大図である。なお、
図2及び
図3では、第2走行体15に設けられた構成要素を明示する意図で、第2走行体15を破線で表示している。
図2に示すように、ベルト駆動装置1は、第2走行体15に設けられた駆動プーリー2と従動プーリー3、4、及び昇降アーム17に設けられたベルト5を備える。ベルト5は、昇降アーム17の長手方向に沿って配置され、当該ベルト5の両端が昇降アーム17の両端に設けられたクランパ等の固定部材6により固定されている。なお、ベルト5は可撓性の歯付きベルトであり、弾性を有している。
【0021】
図2及び
図3に示すように、駆動プーリー2は第2走行体15に回転自在に設置され、第2走行体15に搭載された上述の駆動源により回転駆動される。駆動プーリー2は歯付きプーリーであり、ベルト5は駆動プーリー2の半周以上(本実施形態では3/4週程度)に巻き掛けられた状態に噛み合う。このような噛み合いが維持されるように、2つの従動プーリー3、4がベルト5の裏面(歯が形成されていない面)に接して案内する位置に配置されている。本構成では、例えば、駆動プーリー2を
図2において時計回りに回転させると昇降アーム17が下降する。また、駆動プーリー2を
図2において反時計回りに回転させると昇降アーム17が上昇する。なお、
図2及び
図3では、便宜上、上述の駆動源を含む駆動プーリー2の駆動機構を機能ブロックである駆動部2aとして示している。
【0022】
また、ベルト駆動装置1はベルト5の張力を検出する第1検出部7及び第2検出部8を備える。さらに、ベルト駆動装置1は第1検出部7及び第2検出部8がそれぞれ検出した張力に基づいてベルト5の張力を推定する張力推定部9を備える。なお、後述のとおり、第1検出部7及び第2検出部8は駆動部2aにトルクが発生している状況下でベルト5の張力を検出する。また、張力推定部9は、第1検出部7及び第2検出部8がそれぞれ検出したベルト5の張力に基づいて、外力が作用していない状態におけるベルト5の張力を推定する。
【0023】
第1検出部7及び第2検出部8は駆動プーリー2の両側に位置するベルト5の張力をそれぞれ検出する。特に限定されないが、本実施形態では、第1検出部7は駆動プーリー2の一方側に配置された従動プーリー3と駆動プーリー2との間に位置するベルト5(以下、適宜、上流側という。)の張力を検出する。また、第2検出部8は駆動プーリー2の他方側に配置された従動プーリー4と駆動プーリー2との間に位置するベルト5(以下、適宜、下流側という。)の張力を検出する。
【0024】
第1検出部7及び第2検出部8は、ベルト5の振動周波数を、音響的、機械的、電気的、あるいは、光学的に取得し、取得した周波数に基づいて張力を検出する。すなわち、第1検出部7及び第2検出部8は、上述のそれぞれの位置でベルト5の振動周波数を取得するために配置されたセンサ7a、8aを介して取得した振動データに基づいてベルト5の張力を算出する。特に限定されないが、本実施形態では、センサ7a、8aとして、上述のそれぞれの位置でベルト5と対向する状態で配置されたマイクを備え、当該マイクを通じて入力された音データに基づいて第1検出部7及び第2検出部8はベルト5の振動周波数を取得している。
【0025】
第1検出部7、第2検出部8及び張力推定部9は、例えば、専用の演算回路、あるいは、プロセッサとRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等のメモリとを備えたハードウェア、及び当該メモリに格納され、プロセッサ上で動作するソフトウェアにより実現することができる。なお、第1検出部7及び第2検出部8は、センサ7a、8aからデータを入力可能であれば任意の位置に配置することができる。本実施形態では、第1検出部7及び第2検出部8は、ベルト駆動装置1を含む移送装置10の動作を制御するコントローラに配置されている。
【0026】
以上の構成を有するベルト駆動装置1では、駆動部2aは駆動プーリー2の回転駆動時だけでなく、駆動プーリー2の回転を停止している状況下でもトルクを発生している。すなわち、駆動部2aは、駆動プーリー2の回転を停止しているときは、駆動対象物である昇降アーム17が自重で移動下限位置まで落下することがないように、昇降アーム17の位置を保持するためのトルクを発生している。
【0027】
この場合、駆動プーリー2の上流側のベルト5の張力は、無負荷状態にある場合のベル
ト5の張力に比べて低下する。一方、駆動プーリー2の下流側のベルト5の張力は、無負荷状態にある場合のベルト5の張力に比べて増大する。なお、ここで無負荷状態とは、ベルト5に外力が作用していない状態、すなわち、昇降アーム17の重量に起因する力や、駆動部2aによるトルクがベルト5に作用していない状態を意味する。
【0028】
ここで、駆動プーリー2が昇降アーム17の位置を保持するために、
図2、
図3において反時計周りの方向に発生するトルクをP、駆動プーリー2の半径をR、無負荷状態におけるベルト5に張力をT
0とすると、駆動プーリー2の上流側に位置するベルト5の張力T
1は以下の式(1)で表すことができる。
【0029】
T1=T0-0.5P/R (1)
【0030】
また、駆動プーリー2の下流側に位置するベルト5の張力T2は以下の式(2)で表すことができる。
【0031】
T2=T0+0.5P/R (2)
【0032】
したがって、式(1)及び式(2)を加算して0.5倍すると、以下の式(3)を得ることができる。
【0033】
0.5(T1+T2)=T0 (3)
【0034】
すなわち、式(3)は、無負荷状態おけるベルト5の張力T0を、駆動プーリー2が駆動部2aによりトルクを発生している状況下で第1検出部7及び第2検出部8が取得した上流側のベルト5の張力T1及び下流側のベルト5の張力T2とから算出できることを意味している。本実施形態では、張力推定部9は、この式(3)に基づいて無負荷状態おけるベルト5の張力T0を推定する。
【0035】
表1は、同一の昇降アームについて、無負荷状態で測定したベルト5の張力T0(実測値)と、駆動プーリー2がトルクを発生している状況下で取得した上流側のベルト5の張力T1及び下流側のベルト5の張力T2とを使用して式(3)により算出したベルト5の張力T0(計算値)とを示している。また、表1では、張力T1及び張力T2も併せて記載している。表1から理解できるように、張力T0(計算値)と張力T0(実測値)とが実用上問題のないレベルで一致している(差2%程度)。
【0036】
【0037】
続いて、以上の構成を有する移送装置10の動作について説明する。
図4は、移送装置10における昇降アーム17が備えるベルト5の張力推定の手順を示すフロー図である。本実施形態の移送装置10は稼働中の適切なタイミングで張力推定を実行する。上述のとおり、本実施形態の移送装置10ではセンサ7a、8aとしてマイクを使用している。そ
のため、ベルト5の振動に起因する音以外の音の影響を低減する観点で、本実施形態では、移送装置10が稼働中に一時停止するときに張力推定を実行している。例えば、移送装置10が稼働中に、昇降アーム17の昇降により、把持部16が第1の位置と第2の位置との間を往復動する場合、昇降アーム17は、把持部16が第1の位置又は第2の位置に到達した状態で一旦停止する。移送装置10はこの第1の位置と第2の位置で停止したときに張力推定を実行している。なお、張力推定は、移送装置10の可動中に継続的に実施することも可能であるが、本実施形態では、作業者が図示しない上述のコントローラを介して開始指示を入力した際に、予め指定された回数のみ張力が測定される構成を採用している。
【0038】
手順開始指示が入力されると、第1検出部7及び第2検出部8は、昇降アーム17(把持部16)が予め定められた位置に到達するまで待機する(
図4 ステップS401No)。なお、手順開始指示が入力されたときに、昇降アーム17が予め定められた測定位置で停止していた場合には、第1検出部7及び第2検出部8は昇降アーム17が測定位置に到達する次のタイミングまで待機する。
【0039】
昇降アーム17が測定位置に到達すると、第1検出部7及び第2検出部8はマイク7a、8aによりベルト5の振動データを取得する(
図4 ステップS401Yes、S402)。なお、昇降アーム17が測定位置に到達したことは、昇降アーム17の動作を制御する動作制御部(図示せず)から、例えば、位置信号を取得することで容易に認識可能である。なお、稼働時において規定される停止時間の経過後に、昇降アーム17は移動を再開する。なお、ベルト5の振動周波数を取得するためにはベルト5に振動を付与する必要がある。本実施形態では、特に好ましい形態として、昇降アーム17が測定位置に停止した際に、当該測定位置までの昇降アーム17の移動に起因するベルト5の振動を検知する構成を採用している。しかしながら、ベルト5を振動させるための打撃手段を備える構成を採用し、ベルト5を打撃することで積極的にベルト5を振動させる構成を採用することも可能である。
【0040】
振動データを取得した第1検出部7及び第2検出部8は、取得した振動データからベルト5の振動周波数(ここでは、基準モード)を取得するとともに、当該振動周波数に基づいてベルト5の張力を算出する(
図4 ステップS403)。なお、ベルトの振動周波数から張力を算出する手法については公知であるためここでの詳細な説明は省略する。
【0041】
このとき、第1検出部7及び第2検出部8は算出した張力を張力推定部9に入力する。当該入力に応じて張力推定部9は上述の手法により無負荷状態におけるベルト5の張力を推定する(
図4 ステップS404)。
【0042】
張力の推定を完了した張力推定部9は、予め指定された回数の振動推定が完了したか否かを判断する(
図4 ステップS405)。張力推定部9は、指定回数の測定が完了していない場合、上述の手順を繰り返す(
図4 ステップS405No)。一方、指定回数の測定が完了している場合、張力推定部9は手順を終了する(
図4 ステップS405Yes)。
【0043】
以上説明したとおり、本実施形態の移送装置10によれば、駆動プーリー2がトルクを発生している状況下においても、無負荷状態におけるベルト5の張力を実用上問題ないレベルで推定することができる。また、移送装置10によれば、装置の稼働中にベルト5の張力推定を実施できるため装置の稼働率が低下することがなく、また、張力推定に際し作業者が実施する作業もないため、作業者の負担を著しく軽減することができる。特に、昇降アーム17を台座等に支持させる必要もないため、作業者の事故リスクをなくすことができる。加えて、上述のようにベルト5の張力を容易に取得できるため、上述の張力推定
を短期間に周期的に実施することで張力の経時変化を詳細に取得することも可能である。その結果、張力の調整やベルト5の交換を計画的に実施することも可能になる。
【0044】
なお、上述の実施形態では、理論上の式(3)により無負荷状態におけるベルト5の張力を推定する構成とした。しかしながら、例えば、装置の構造等に起因して、表1に示した実測値と推定値との間に実用上許容できない差がある場合には、経験則に基づく補正項を式(3)に適宜導入し、当該補正項を導入した式に基づいて無負荷状態におけるベルト5の張力を推定する構成を採用することもできる。
【0045】
また、上述の実施形態では、ベルト5に対して非接触のセンサ7a、8aを採用した構成について説明したが、ベルト5の振動を検出できるセンサであればよく、接触式のセンサを採用することも可能である。なお、接触式のセンサを採用する場合には、ベルト5との接触部分の摩擦を低減可能な材質や構造を適用することがより好ましい。
【0046】
また、上記実施形態では、鉛直方向に配置された昇降アーム17の駆動に適用されるベルト駆動装置1について説明したが、ベルト駆動装置1と同様の構造は、水平方向に配置された横行フレーム12上を往復移動する第1走行体13や、引抜フレーム14上を往復移動する第2走行体15にも適用可能である。この場合、第1走行体13や第2走行体15は、横行フレーム12や引抜フレーム14に支持されているため、上述の昇降アーム17に適用した事例とは異なり、ベルト駆動装置のベルトに重力に起因する外力は作用しないことになる。
【0047】
上述の実施形態では、両端が固定されたベルト5を使用したベルト駆動装置1に本発明を適用した事例について説明した。しかしながら、本発明は、駆動プーリーと従動プーリーとの間に架け渡されたベルトに固定された移動体を、駆動プーリーの回転によってベルトとともに移動させるベルト駆動装置に適用することも可能である。以下、このような構成に適用した具体体について説明する。
【0048】
図5は、本実施形態に係るベルト駆動装置21を模式的に示す図である。なお、
図5では、プーリー等が配置されるフレームや駆動対象物の移動を案内するガイド部等の記載を省略している。また、
図5において、ベルト駆動装置1と同様の作用効果を奏する構成要素には、
図2、
図3と同一の符号を付し、以下での詳細な説明は省略する。
【0049】
図5に示すように、本実施形態のベルト駆動装置21は、一方端に配置された駆動プーリー22、他方端に配置された従動プーリー23、及び駆動プーリー22と従動プーリー23との間に架け渡されたベルト25が設けられている。ベルト25は鉛直方向に沿って配置されている。駆動プーリー22と従動プーリー23との間に架け渡されたベルト25の一方側にはクランパ等の固定部材24を介して駆動対象物26が固定されている。なお、ベルト25は可撓性の歯付きベルトであり、弾性を有している。
【0050】
駆動プーリー22は駆動モータ等の駆動部22aにより回転駆動される。駆動プーリー22及び従動プーリー23は歯付きプーリーであり、ベルト25は両プーリー22、23と噛み合う状態で配置されている。なお、このようなベルト駆動装置21は、例えば、移送対象物を昇降移送するリフトのような移送装置に適用することができる。
【0051】
ベルト駆動装置21は、ベルト駆動装置1と同様に、第1検出部7、第2検出部8、張力推定部9、及びセンサ7a、8aを備える。センサ7aは駆動プーリー22の一方側に位置するベルト25と対向する状態で配置され、センサ8aは駆動プーリー22の他方側に位置するベルト25と対向する状態で配置されている。ベルト駆動装置1と同様に、センサ7a及びセンサ8aはマイクである。
【0052】
第1検出部7及び第2検出部8は、上述のそれぞれの位置でベルト25の振動周波数を取得するために配置されたセンサ7a、8aを介して取得した振動データに基づいてベルト25の張力を算出する。また、張力推定部9は、第1検出部7及び第2検出部8がそれぞれ検出したベルト25の張力に基づいて、外力が作用していない状態におけるベルト25の張力を推定する。なお、第1検出部7、第2検出部8、及び張力推定部9は、ベルト駆動装置21の動作を制御するコントローラに配置されている。
【0053】
ベルト駆動装置21においても、無負荷状態におけるベルト25の張力を推定する手順は、上述のベルト駆動装置1と同様である。なお、ベルト駆動装置21では、ベルト駆動装置1とは異なり、固定部材24の位置に応じてセンサ7aの計測対象となるベルト25のスパン(振動する部分の長さ)が変動することになる。そのため、第1検出部7aによる測定は、ベルト25のスパンが予め定められた特定の長さになるタイミングで実施されることが特に好ましい。
【0054】
以上のような構成を有するベルト駆動装置21においても、上述のベルト駆動装置1により得られる作用効果と同様の作用効果を得ることができる。
【0055】
以上説明したように、本発明によれば、ベルトを無負荷状態にすることなく無負荷状態におけるベルトの張力を取得でき、装置の稼働率を高めることができるとともに、作業者の負荷を軽減することができる。
【0056】
なお、上述の実施形態は本発明の技術的範囲を制限するものではなく、既に記載したもの以外でも、本発明の範囲内で種々の変形や応用が可能である。例えば、上述の実施形態では、張力取得のためのみに装置を停止することのない構成を説明したが、張力測定のためのみに移動体を停止する構成を排除するものではない。また、駆動プーリーや従動プーリーのサイズ、数量、配置等はあくまで例示であり、任意に変更することができる。また、上述した各要素の物理的な形状も、本発明の効果を奏する範囲内で任意に変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によれば、ベルトを無負荷状態にすることなく無負荷状態におけるベルトの張力を取得することができ、ベルト駆動装置、移送装置、及びベルトの張力推定方法として有用である。
【符号の説明】
【0058】
1、21 ベルト駆動装置
2、22 駆動プーリー
2a、22a 駆動部
3、4、23 従動プーリー
5、25 ベルト
7 第1検出部
8 第2検出部
9 張力推定部
10 移送装置
12 横行フレーム(ガイド部、第1フレーム)
13 第1走行体(移動体、第1移動体)
14 引抜フレーム(ガイド部、第2フレーム)
15 第2走行体(移動体、第2移動体)
16 把持部(保持部)
17 昇降アーム(駆動対象物)
24 固定部材(移動体)
26 駆動対象物(保持部)
【要約】
【課題】ベルトを無負荷状態にすることなく無負荷状態におけるベルトの張力を取得できる、ベルト駆動装置、移送装置、及びベルトの張力推定方法を提供する。
【解決手段】ベルト5は駆動プーリー2に巻き付けられる。駆動部2aは駆動プーリー2を駆動する。第1検出部7は駆動プーリー2の一方側に位置するベルト5の張力を検出する。また、第2検出部8は駆動プーリー2の他方側に位置するベルト5の張力を検出する。そして、張力推定部9は、駆動部2aにトルクが発生している状況下で第1検出部7及び第2検出部8がそれぞれ検出したベルト5の張力に基づいて、外力が作用していない状態におけるベルト5の張力を推定する。
【選択図】
図2