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特許7216877新規なCRISPR/Cas12f酵素およびシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-25
(45)【発行日】2023-02-02
(54)【発明の名称】新規なCRISPR/Cas12f酵素およびシステム
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20230126BHJP
   C12N 9/16 20060101ALI20230126BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20230126BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20230126BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230126BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20230126BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230126BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230126BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230126BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230126BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230126BHJP
   A61K 38/46 20060101ALI20230126BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20230126BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230126BHJP
   C12N 15/88 20060101ALN20230126BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N9/16 Z ZNA
C07K19/00
C12N15/11 Z
C12N15/63 Z
C12N15/62 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61P43/00 105
A61K38/46
A61K31/7088
A61K48/00
C12N15/88 Z
【請求項の数】 49
(21)【出願番号】P 2021525173
(86)(22)【出願日】2019-10-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-07
(86)【国際出願番号】 CN2019113996
(87)【国際公開番号】W WO2020088450
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-07-21
(31)【優先権主張番号】201811266209.7
(32)【優先日】2018-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】506284418
【氏名又は名称】中国▲農▼▲業▼大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】頼錦盛
(72)【発明者】
【氏名】周英思
(72)【発明者】
【氏名】朱金潔
(72)【発明者】
【氏名】易飛
(72)【発明者】
【氏名】張湘博
(72)【発明者】
【氏名】趙海銘
(72)【発明者】
【氏名】宋偉彬
【審査官】藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/098383(WO,A1)
【文献】Science (2018) Vol.362, pp.839-842
【文献】Nat. Rev. Microbiol. (2017) Vol.15, No.3, pp.169-182 (Author Manuscript pp.1-30)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
CAplus/REGISTRY(STN)
MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)配列番号1で示される配列;
(ii)配列番号1に対して、少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む配列;
(iii)配列番号1に対して、少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む配列;
v)配列番号1に対して、少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む配列
から選択されるアミノ酸配列を含むタンパク質であって、
(ii)、(iii)、及び(iv)のいずれか1つに記載の配列を含むタンパク質が、CRISPR/Casシステムにおけるエフェクタータンパク質であって、DNAを標的配列とする場合、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)ドメインを認識し、ここで、PAMドメインが、5’-TTN構造を有し、NはA、G、T、Cから選ばれる、タンパク質
【請求項2】
配列番号1で示されるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のタンパク質。
【請求項3】
請求項1に記載のタンパク質および修飾部分を含む結合体。
【請求項4】
前記修飾部分は、別のタンパク質またはポリペプチド、検出可能な標識、およびこれらの任意の組み合わせから選択される、請求項3に記載の結合体。
【請求項5】
前記修飾部分は、任意に、リンカーを介して請求項1に記載のタンパク質のN末端またはC末端に連結する、
請求項3または4に記載の結合体。
【請求項6】
前記別のタンパク質またはポリペプチドは、エピトープタグ、レポーター遺伝子配列、核局在化シグナル(NLS)配列、ターゲティング部分、転写活性化ドメイン、転写抑制ドメイン、ヌクレアーゼドメイン、ヌクレオチドデアミナーゼ活性、メチラーゼ活性、デメチラーゼ活性、転写活性化活性、転写抑制活性、転写物放出因子活性、ヒストン修飾活性、ヌクレアーゼ活性、1本鎖RNA切断活性、2本鎖RNA切断活性、1本鎖DNA切断活性、2本鎖DNA切断活性および核酸結合活性から選ばれる活性を有するドメイン、ならびにこれらの任意の組み合わせから選択される、請求項3-5のいずれか1項に記載の結合体。
【請求項7】
前記結合体は、エピトープタグを含む、請求項3-6のいずれか1項に記載の結合体。
【請求項8】
前記結合体は、NLS配列を含む、請求項3-7のいずれか1項に記載の結合体。
【請求項9】
請求項1に記載のタンパク質と、別のタンパク質またはポリペプチドとを含む、融合タンパク質。
【請求項10】
前記別のタンパク質またはポリペプチドは、任意に、リンカーを介して前記タンパク質のN末端またはC末端に連結している、請求項9に記載の融合タンパク質。
【請求項11】
前記別のタンパク質またはポリペプチドは、エピトープタグ、レポーター遺伝子配列、核局在化シグナル(NLS)配列、ターゲティング部分、転写活性化ドメイン、転写抑制ドメイン、ヌクレアーゼドメイン、ヌクレオチドデアミナーゼ活性、メチラーゼ活性、デメチラーゼ活性、転写活性化活性、転写抑制活性、転写物放出因子活性、ヒストン修飾活性、ヌクレアーゼ活性、1本鎖RNA切断活性、2本鎖RNA切断活性、1本鎖DNA切断活性、2本鎖DNA切断活性および核酸結合活性から選ばれる活性を有するドメイン、ならびにこれらの任意の組み合わせから選ばれる、請求項9または10に記載の融合タンパク質。
【請求項12】
前記融合タンパク質は、エピトープタグを含む、請求項9-11のいずれか1項に記載の融合タンパク質。
【請求項13】
前記融合タンパク質は、NLS配列を含む、請求項9-12のいずれか1項に記載の融合タンパク質。
【請求項14】
前記融合タンパク質は、配列番号20で示されるアミノ酸配列を含む、請求項9-13のいずれか1項に記載の融合タンパク質。
【請求項15】
単離された核酸分子であって、
(i)配列番号7または13で示される配列;
(ii)配列番号7または13で示される配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有する配列;または
(iii)(i)または(ii)に記載の配列の相補配列
から選択される配列を含み、または該配列からなり、
さらに、(ii)または(iii)に記載の配列は、CRISPR-Casシステムにおける直接反復配列としての活性を維持する、
核酸分子。
【請求項16】
前記核酸分子は、1つまたは複数のステムループまたは最適化された二次構造を含む、請求項15に記載の単離された核酸分子。
【請求項17】
(a)配列番号7または13で示されるヌクレオチド配列;または
(b)配列番号7または13で示されるヌクレオチド配列の相補配列
から選択される配列を含む、または該配列からなる、
請求項15または16に記載の単離された核酸分子。
【請求項18】
(i)請求項1に記載のタンパク質、請求項3-8のいずれか1項に記載の結合体、請求項9-14のいずれか1項に記載の融合タンパク質、およびこれらの任意の組み合わせから選ばれる、タンパク質成分;および
(ii)5’から3’への方向において請求項15-17のいずれか1項に記載の単離された核酸分子および標的配列とハイブリダイズできるガイド配列を含む、核酸成分
を含む複合体であって、前記タンパク質成分および核酸成分は、相互に結合して複合体を形成する、複合体。
【請求項19】
前記ガイド配列は、前記核酸分子の3’末端に連結している、請求項18に記載の複合体。
【請求項20】
前記ガイド配列は、前記標的配列の相補配列を含む、請求項18または19に記載の複合体。
【請求項21】
(i)請求項1に記載のタンパク質または請求項9-14のいずれか1項に記載の融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列;
(ii)請求項15-17のいずれか1項に記載の単離された核酸分子をコードするヌクレオチド配列;および、
(iii)(i)および(ii)を含むヌクレオチド配列
からなる群から選択される、単離された核酸分子。
【請求項22】
請求項21に記載の単離された核酸分子を含むベクター。
【請求項23】
請求項21に記載の単離された核酸分子または請求項22に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項24】
(i)請求項1に記載のタンパク質、請求項3-8のいずれか1項に記載の結合体、請求項9-14のいずれか1項に記載の融合タンパク質、前記タンパク質または融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列、およびこれらの任意の組み合わせから選ばれる、第一成分;および
(ii)ガイドRNAを含むヌクレオチド配列、または前記ガイドRNAを含むヌクレオチド配列をコードするヌクレオチド配列である、第二成分
を含む組成物であって、
前記ガイドRNAは、5’から3’への方向において直接反復配列および標的配列とハイブリダイズできるガイド配列を含み、
前記ガイドRNAは、(i)に記載のタンパク質、結合体または融合タンパク質と複合体を形成することができ、
前記直接反復配列は、請求項15-17のいずれか1項で定義された単離された核酸分子である、
組成物。
【請求項25】
(i)請求項1に記載のタンパク質または請求項9-14のいずれか1項に記載の融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列であり、任意に、操作可能に第一調節エレメントに連結している、第一核酸;および
(ii)ガイドRNAを含むヌクレオチド配列をコードし、任意に、操作可能に第二調節エレメントに連結している、第二核酸
を含む1つまたは複数のベクターを含む組成物であって、
前記第一核酸と第二核酸は、同じまたは異なるベクターに存在し、
前記ガイドRNAは、5’から3’への方向において直接反復配列および標的配列とハイブリダイズできるガイド配列を含み、
前記ガイドRNAは、(i)に記載のタンパク質または融合タンパク質と複合体を形成することができ、
前記直接反復配列は、請求項15-17のいずれか1項で定義された単離された核酸分子である、
組成物。
【請求項26】
前記第一調節エレメントおよび/または第二調節エレメントは、プロモーターである、請求項25に記載の組成物。
【請求項27】
前記組成物における少なくとも一つの成分は、天然に存在しないものまたは修飾されたものである、請求項24-26のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項28】
前記ガイド配列は、前記直接反復配列の3’末端に連結している、請求項24-27のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項29】
前記ガイド配列は、前記標的配列の相補配列を含む、請求項24-28のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項30】
前記標的配列がDNAである場合、前記標的配列はプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)の3’末端に位置し、かつ前記PAMは5’-TTNで示される配列を含み、ここで、NはA、G、T、Cから選択され、前記標的配列がRNAである場合、前記標的配列はPAMドメインの制限がない、請求項24-29のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項31】
前記標的配列は、原核細胞または真核細胞由来のDNAまたはRNA配列である、または、前記標的配列は、天然に存在しないDNAまたはRNA配列である、請求項24-30のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項32】
前記標的配列は、細胞内に存在する、請求項31に記載の組成物。
【請求項33】
前記標的配列は、核内または細胞質内に存在する、請求項32に記載の組成物。
【請求項34】
前記細胞は、真核細胞または原核細胞である、請求項32に記載の組成物。
【請求項35】
前記タンパク質は、1つまたは複数のNLS配列に連結しているか、または、前記結合体もしくは融合タンパク質は、1つもしくは複数のNLS配列を含む、請求項24-32のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項36】
前記NLS配列は、前記タンパク質のN末端またはC末端に結合される、請求項35に記載の組成物。
【請求項37】
前記NLS配列は、前記タンパク質のN末端またはC末端に融合される、請求項35に記載の組成物。
【請求項38】
請求項1に記載のタンパク質、請求項3-8のいずれか1項に記載の結合体、請求項9-14のいずれか1項に記載の融合タンパク質、請求項15-17のいずれか1項に記載の単離された核酸分子、請求項18-20のいずれか1項に記載の複合体、請求項21に記載の単離された核酸分子、請求項22に記載のベクター、請求項24-35のいずれか1項に記載の組成物から選択される1つまたは複数の成分を含むキット。
【請求項39】
送達担体、ならびに請求項1に記載のタンパク質、請求項3-8のいずれか1項に記載の結合体、請求項9-14のいずれか1項に記載の融合タンパク質、請求項15-17のいずれか1項に記載の単離された核酸分子、請求項18-20のいずれか1項に記載の複合体、請求項21に記載の単離された核酸分子、請求項22に記載のベクター、請求項24-35のいずれか1項に記載の組成物からなる群から選択される1つまたは複数を含む、送達組成物。
【請求項40】
標的遺伝子を修飾するための方法であって、請求項18-20のいずれか1項に記載の複合体または請求項24-35のいずれか1項に記載の組成物を前記標的遺伝子と接触させること、または前記標的遺伝子を含む細胞の中に送達すること、を含み、前記標的配列は、前記標的遺伝子中に存在し、前記細胞は、哺乳動物細胞または植物細胞であり、前記哺乳動物細胞は、ヒト細胞ではない、方法。
【請求項41】
前記標的遺伝子は、in vitroの核酸分子中に存在する、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記修飾は、前記標的配列の断裂である、請求項40または41に記載の方法。
【請求項43】
遺伝子産物の発現を改変する方法であって、請求項18-20のいずれか1項に記載の複合体または請求項24-35のいずれか1項に記載の組成物を前記遺伝子産物をコードする核酸分子と接触させること、または前記核酸分子を含む細胞の中に送達すること、を含み、前記標的配列は、前記核酸分子中に存在し、前記細胞は、哺乳動物細胞または植物細胞であり、前記哺乳動物細胞は、ヒト細胞ではない、方法。
【請求項44】
前記核酸分子は、in vitroの核酸分子中に存在する、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記遺伝子産物の発現が改変される、請求項43または44に記載の方法。
【請求項46】
前記タンパク質、結合体、融合タンパク質、単離された核酸分子、複合体、ベクター、または組成物は、送達担体に含まれる、請求項40-45のいずれか1項に記載の方法。
【請求項47】
標的遺伝子または標的遺伝子産物をコードする核酸分子における1つまたは複数の標的配列を改変することによって細胞、細胞系または生物体を修飾することに使用される、請求項40-46のいずれか1項に記載の方法。
【請求項48】
請求項40-47のいずれか1項に記載の方法により得られた、in vitro、単離された、またはin vivoの細胞または細胞系またはこれらの子世代であって、
請求項1に記載のタンパク質、請求項3-8のいずれか1項に記載の結合体、請求項9-14のいずれか1項に記載の融合タンパク質、請求項15-17のいずれか1項に記載の単離された核酸分子、請求項18-20のいずれか1項に記載の複合体、請求項21に記載の単離された核酸分子、請求項22に記載のベクター、請求項24-35のいずれか1項に記載の組成物を含み、
前記細胞は、動物細胞または植物細胞であり、前記動物細胞は、ヒト細胞ではない、
細胞または細胞系またはこれらの子世代。
【請求項49】
(i)単離された遺伝子またはゲノムの編集;
(ii)単離された1本鎖DNAの検出;
(iii)標的遺伝子座における標的配列の編集による生物またはヒト以外の生物の修飾;または
(iv)標的遺伝子座における標的配列の欠陥による病症の治療
のための製剤の製造における、請求項1に記載のタンパク質、請求項3-8のいずれか1項に記載の結合体、請求項9-14のいずれか1項に記載の融合タンパク質、請求項15-17のいずれか1項に記載の単離された核酸分子、請求項18-20のいずれか1項に記載の複合体、請求項21に記載の単離された核酸分子、請求項22に記載のベクター、請求項24-35のいずれか1項に記載の組成物または請求項38に記載のキットの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸編集の分野に関し、特に、クラスター化規則的間隔短鎖回文リピート(CRISPR)の技術分野に関する。具体的に、本発明はCasエフェクタータンパク質に関し、このようなタンパク質の融合タンパク質、およびこれらをコードする核酸分子を含む。また、本発明は核酸編集(たとえば、遺伝子またはゲノム編集)のための複合体および組成物であって、本発明のタンパク質または融合タンパク質、あるいはこれらをコードする核酸分子を含むものに関する。また、本発明は核酸編集(たとえば、遺伝子またはゲノム編集)のための方法であって、その使用に本発明のタンパク質または融合タンパク質が含まれる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CRISPR/Cas技術は、幅広く使用される遺伝子編集技術で、RNAでガイドしてゲノムにおける標的配列と特異的に結合してDNAを切断して二本鎖を断裂させ、生物の非相同末端結合または相同組み換えを利用して定点基因編集を行う。
【0003】
CRISPR/Cas9システムは、最も使用されるII型CRISPRシステムで、3'-NGGのPAMモチーフを認識し、標的配列に対して平滑末端切断を行う。V型CRISPR/Casシステムは、近年、新しく発見されたCRISPRシステムで、5'-TTNのモチーフを有し、標的配列に対して粘着末端切断を行い、たとえばCpf1、C2c1、CasX、CasYが挙げられる。しかし、既存の異なるCRISPR/Casはそれぞれ異なる利点と欠点がある。たとえば、Cas9、C2c1およびCasXはいずれもRNAのガイドに2本のRNAが必要であるが、一方、Cpf1は1本のガイドRNAのみが必要で、そして多重遺伝子編集に使用することができる。CasXは980アミノ酸の大きさを有するが、よく見られるCas9、C2c1、CasYおよびCpf1は、通常、大きさが1300アミノ酸程度である。また、Cas9、Cpf1、CasX、CasYのPAM配列はいずれも複雑で多様化しているが、C2c1は厳格に5'-TTNを認識するため、その標的部位がほかのシステムよりも予測しやすいことで、潜在のオフターゲット効果を低減させる。
【0004】
このように、現在、入手できるCRISPR/Casシステムはいずれも欠点によって制限されることに鑑み、より確実で、多くの面で優れた性能を有する新規なCRISPR/Casシステムの開発は生物技術の発展に重要な意義がある。
【発明の概要】
【0005】
本願の発明者は、大量の実験および試行錯誤を経て、意外に、新規なRNAにガイドされるエンドヌクレアーゼを見出した。この知見に基づき、本発明者は、新規なCRISPR/Casシステムおよびそのシステムに基づいた遺伝子編集方法を開発した。
【0006】
Casエフェクタータンパク質
そのため、第一の側面では、本発明は、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するか、配列番号1に対して少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を持つアミノ酸配列を有し、前記アミノ酸配列は基本的に配列番号1の生物学的機能を維持する、タンパク質を提供する。
【0007】
一部の実施形態において、本発明は、配列番号1で示されるアミノ酸配列またはそのオーソログ(ortholog)、ホモログまたはバリアントを有し、ここで、前記オーソログ、ホモログまたはバリアントは配列番号1に対して少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を持ち、かつ基本的に配列番号1の生物学的機能を維持する、タンパク質を提供する。
【0008】
本発明において、上記配列の生物学的機能はガイドRNAと結合する活性、エンドヌクレアーゼ活性、ガイドRNAのガイドで標的配列の特定の部位と結合して切断する活性を含むが、これらに限定されない。
【0009】
一部の実施形態において、前記タンパク質はCRISPR/Casシステムにおけるエフェクタータンパク質である。
【0010】
一部の実施形態において、本発明のタンパク質は配列番号1で示されるアミノ配列を有する。
【0011】
誘導されるタンパク質
本発明のタンパク質は、誘導化され、たとえば、別の分子(たとえば、別のポリペプチドやタンパク質)に連結されてもよい。通常、タンパク質の誘導化(たとえば、標識)は、当該タンパク質の所望の活性(たとえば、ガイドRNAと結合する活性、エンドヌクレアーゼ活性、ガイドRNAのガイドで標的配列の特定の部位と結合して切断する活性)に不利な影響を与えないものである。そのため、本発明のタンパク質は、このような誘導化の形態を含むことも望ましい。たとえば、本発明のタンパク質を1つまたは複数の別の分子団、たとえば、別のタンパク質またはポリペプチド、検出試薬、薬用試薬などに機能的に(化学的カップリング、遺伝子融合、非共役結合またはほかの手段を介して)連結してもよい。
【0012】
特に、本発明のタンパク質を別の機能性単位に連結してもよい。たとえば、それを核局在化シグナル(NLS)配列と連結することにより、本発明のタンパク質の細胞核に入る能力を向上させることができる。たとえば、それをターゲティング部分と連結することにより、本発明のタンパク質に標的指向性を付与することができる。たとえば、それを検出可能な標識と連結することにより、本発明のタンパク質が検出しやすいようにすることができる。たとえば、それをエピトープタグと連結することにより、本発明のタンパク質の発現、検出、追跡および/または精製がしやすいようにすることができる。
【0013】
結合体
そのため、第二の側面では、本発明は、上記のようなタンパク質および修飾部分を含む結合体を提供する。
【0014】
一部の実施形態において、前記修飾部分は、別のタンパク質またはポリペプチド、検出可能な標識またはこれらの任意の組み合わせから選ばれる。
【0015】
一部の実施形態において、前記別のタンパク質またはポリペプチドは、エピトープタグ、レポーター遺伝子配列、核局在化シグナル(NLS)配列、ターゲティング部分、転写活性化ドメイン(たとえば、VP64)、転写抑制ドメイン(たとえば、KRABドメインやSIDドメイン)、ヌクレアーゼドメイン(たとえば、Fok1)、ヌクレオチドデアミナーゼ活性、メチラーゼ活性、デメチラーゼ活性、転写活性化活性、転写抑制活性、転写物放出因子活性、ヒストン修飾活性、 ヌクレアーゼ活性、1本鎖RNA切断活性、2本鎖RNA切断活性、1本鎖DNA切断活性、2本鎖DNA切断活性および核酸結合活性から選ばれる活性を有するドメイン、ならびにこれらの任意の組み合わせから選ばれる。
【0016】
一部の実施形態において、本発明の結合体は、1つまたは複数のNLS配列、たとえば、SV40ウイルス大T抗原のNLSを含む。一部の例示的な実施形態において、前記NLS配列は配列番号19で示される。一部の実施形態において、前記NLS配列は本発明のタンパク質の末端(たとえば、N末端またはC末端)に位置するか、隣接するか、あるいは近い。一部の例示的な実施形態において、前記NLS配列は本発明のタンパク質のC末端に位置するか、隣接するか、あるいは近い。
【0017】
一部の実施形態において、本発明の結合体は、エピトープタグ(epitope tag)を含む。このようなエピトープタグは、当業者に熟知のもので、その実例はHis、V5、FLAG、HA、Myc、VSV-G、Trxなどを含むが、これらに限定されず、そして当業者には、どのように所望の目的(たとえば、精製、検出または追跡)によって適切なエピトープタグを選択するかというのが既知のことである。
【0018】
一部の実施形態において、本発明の結合体は、レポーター遺伝子配列を含む。このようなレポーター遺伝子配列は、当業者に熟知のもので、その実例はGST、HRP、CAT、GFP、HcRed、DsRed、CFP、YFP、BFPなどを含むが、これらに限定されない。
【0019】
一部の実施形態において、本発明の結合体は、DNA分子または細胞内における分子と結合できるドメイン、マルトース結合タンパク質(MBP)、Lex AのDNA結合ドメイン(DBD)、GAL4のDBDなどを含む。
【0020】
一部の実施形態において、本発明の結合体は、検出可能な標識、たとえば蛍光色素、たとえばFITCやDAPIを含む。
【0021】
一部の実施形態において、本発明のタンパク質は、任意に、リンカーを介して前記修飾部分とカップリング、結合または融合している。
【0022】
一部の実施形態において、前記修飾部分は、直接本発明のタンパク質のN末端またはC末端に連結している。
【0023】
一部の実施形態において、前記修飾部分は、リンカーを介して本発明のタンパク質のN末端またはC末端に連結している。このようなリンカーは本分野で熟知のもので、その実例は1個または複数個(たとえば、1個、2個、3個、4個または5個)のアミノ酸(たとえば、GluまたはSer)またはアミノ酸誘導体(たとえば、Ahx、β-Ala、GABAまたはAva)のリンカー、あるいはPEGなどを含むが、これらに限定されない。
【0024】
融合タンパク質
第三の側面では、本発明は、本発明のタンパク質と、別のタンパク質またはポリペプチドとを含む融合タンパク質を提供する。
【0025】
一部の実施形態において、前記別のタンパク質またはポリペプチドは、エピトープタグ、レポーター遺伝子配列、核局在化シグナル(NLS)配列、ターゲティング部分、転写活性化ドメイン(たとえば、VP64)、転写抑制ドメイン(たとえば、KRABドメインやSIDドメイン)、ヌクレアーゼドメイン(たとえば、Fok1)、ヌクレオチドデアミナーゼ活性、メチラーゼ活性、デメチラーゼ活性、転写活性化活性、転写抑制活性、転写物放出因子活性、ヒストン修飾活性、 ヌクレアーゼ活性、1本鎖RNA切断活性、2本鎖RNA切断活性、1本鎖DNA切断活性、2本鎖DNA切断活性および核酸結合活性から選ばれる活性を有するドメイン、ならびにこれらの任意の組み合わせから選ばれる。
【0026】
一部の実施形態において、本発明の融合タンパク質は、1つまたは複数のNLS配列、たとえば、SV40ウイルス大T抗原のNLSを含む。一部の実施形態において、前記NLS配列は本発明のタンパク質の末端(たとえば、N末端またはC末端)に位置するか、隣接するか、あるいは近い。一部の例示的な実施形態において、前記NLS配列は本発明のタンパク質のC末端に位置するか、隣接するか、あるいは近い。
【0027】
一部の実施形態において、本発明の融合タンパク質は、エピトープタグを含む。
【0028】
一部の実施形態において、本発明の融合タンパク質は、レポーター遺伝子配列を含む。
【0029】
一部の実施形態において、本発明の融合タンパク質は、DNA分子または細胞内における分子と結合できるドメインを含む。
【0030】
一部の実施形態において、本発明のタンパク質は、任意に、リンカーを介して前記別のタンパク質またはポリペプチドと融合している。
【0031】
一部の実施形態において、前記別のタンパク質またはポリペプチドは、直接本発明のタンパク質のN末端またはC末端に連結している。
【0032】
一部の実施形態において、前記別のタンパク質またはポリペプチドは、リンカーを介して本発明のタンパク質のN末端またはC末端に連結している。
【0033】
一部の例示的な実施形態において、本発明の融合タンパク質は配列番号20で示されるアミノ配列を有する。
【0034】
本発明のタンパク質、本発明の結合体または本発明の融合タンパク質はその生成方法によって限定されず、たとえば、遺伝子工学的方法(組み換え技術)によって生成してもよく、化学合成方法によって生成してもよい。
【0035】
直接反復配列
第四の側面では、本発明は、単離された核酸分子であって、以下から選ばれる配列を含むか、または以下から選ばれる配列からなるもので:
(i) 配列番号7または13で示される配列;
(ii) 配列番号7または13で示される配列に対して1個または複数個の塩基の置換、欠失または付加(たとえば1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個または10個の塩基の置換、欠失または付加)を有する配列;
(iii) 配列番号7または13で示される配列に対して少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%の配列同一性を持つ配列;
(iv) 厳格な条件において(i)-(iii)のいずれかに記載の配列とハイブリダイズする配列;あるいは
(v) (i)-(iii)のいずれかに記載の配列の相補配列;
かつ、(ii)-(v)のいずれかに記載の配列は基本的にその由来の配列の生物学的機能を維持し、前記配列の生物学的機能とは、CRISPR-Casシステムにおける直接反復配列としての活性である
核酸分子を提供する。
【0036】
一部の実施形態において、前記単離された核酸分子はCRISPR-Casシステムにおける直接反復配列である。
【0037】
一部の実施形態において、前記核酸分子は、以下から選ばれる配列を含むか、または以下から選ばれる配列からなるものである:
(a) 配列番号7または13で示されるヌクレオチド配列;
(b) 厳格な条件において(b)に記載の配列とハイブリダイズする配列;あるいは
(c) 配列番号7または13で示されるヌクレオチド配列の相補配列。
一部の実施形態において、前記単離された核酸分子はRNAである。
【0038】
CRISPR/Cas複合体
第五の側面では、本発明は、
(i) 本発明のタンパク質、結合体または融合タンパク質、およびこれらの任意の組み合わせから選ばれる、タンパク質成分、ならびに
(ii) 5'から3'への方向において第四の側面に記載の単離された核酸分子および標的配列とハイブリダイズできるガイド配列を含む、核酸成分を含み、
ここで、前記タンパク質成分と核酸成分は相互に結合して複合体になっている
複合体を提供する。
【0039】
一部の実施形態において、前記ガイド配列は前記核酸分子の3'末端に連結している。
【0040】
一部の実施形態において、前記ガイド配列は前記標的配列の相補配列を含む。
【0041】
一部の実施形態において、前記核酸成分はCRISPR-CasシステムにおけるガイドRNAである。
【0042】
一部の実施形態において、前記核酸分子はRNAである。
【0043】
一部の実施形態において、前記複合体はトランス活性化型crRNA(tracrRNA)を含まない。
【0044】
一部の実施形態において、前記ガイド配列は長さが少なくとも5個、少なくとも10個で、一部の実施形態において、前記ガイド配列は長さが10-30個、または15-25個、または15-22個、または19-25個または19-22個のヌクレオチドである。
【0045】
一部の実施形態において、前記ガイド配列は長さが55-70個のヌクレオチド、たとえば55-65個、たとえば60-65個、たとえば62-65個、たとえば63-64個のヌクレオチドである。一部の実施形態において、前記ガイド配列は長さが15-30個のヌクレオチド、たとえば15-25個、たとえば20-25個、たとえば22-24個、たとえば23個のヌクレオチドである。
【0046】
具体的な実施様態において、本発明は、
a) 5'から3'への方向において直接反復配列および標的配列とハイブリダイズできるガイド配列を含む、ガイドRNA、ならびに
b) Cas12fエフェクタータンパク質を含み、
前記ガイドRNAと前記Cas12fエフェクタータンパク質は複合体を形成しており、
ここで、前記Cas12fタンパク質の大きさは900-1200アミノ酸で、そのC末端の近くに1つのRuvC-I、RuvC-IIおよびRuvC-IIIモチーフで構成されるRuvCドメインが存在し、
ここで、前記Cas12fタンパク質は細菌ゲノムにおけるCRISPR座位の500bp以内に位置し、
好ましくは、前記直接反復配列の長さは21nt-36ntで、前記ガイド配列の長さは1-80ntで、かつ前記直接反復配列の最後の16または17個の塩基はループの大きさが8または9ntで、ステムが5対の相補塩基で構成される1つのステムループを形成してもよい
CRISPR-Casシステムを提供する。
【0047】
コード核酸、ベクターおよび宿主細胞
第六の側面では、本発明は、単離された核酸分子であって、
(i) 本発明のタンパク質または融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列、
(ii) 第四の側面に記載の単離された核酸分子を含むか、あるいは
(iii) (i)および(ii)のヌクレオチド配列を含む
核酸分子を提供する。
【0048】
一部の実施形態において、(i)-(iii)のいずれかに記載のヌクレオチド配列はコドン最適化を経て原核細胞における発現に使用される。一部の実施形態において、(i)-(iii)のいずれかに記載のヌクレオチド配列はコドン最適化を経て真核細胞における発現に使用される。
【0049】
第七の側面では、本発明は、第六の側面に記載の単離された核酸分子を含むベクターを提供する。本発明のベクターはクローニングベクターでも、発現ベクターでもよい。一部の実施形態において、本発明のベクターは、たとえば、プラスミド、コスミド、ファージ、cosプラスミドなどである。一部の実施形態において、前記ベクターは被験者(たとえば、哺乳動物、たとえばヒト)の体内において本発明のタンパク質、融合タンパク質、第四の側面に記載の単離された核酸分子または第五の側面に記載の複合体を発現することができる。
【0050】
第八の側面では、本発明は、上記のような単離された核酸分子またはベクターを含む宿主細胞を提供する。このような宿主細胞は、原核細胞、たとえば大腸菌細胞、ならびに真核細胞、たとえば酵母細胞、昆虫細胞、植物細胞および動物細胞(たとえば哺乳動物細胞、たとえばマウス細胞、ヒト細胞など)を含むが、これらに限定されない。本発明の細胞は、細胞系、たとえば293T細胞でもよい。
【0051】
組成物およびベクター組成物
また、第九の側面では、本発明は、
(i) 本発明のタンパク質、結合体、融合タンパク質、前記タンパク質または融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列、およびこれらの任意の組み合わせから選ばれる、第一成分、ならびに
(ii) ガイドRNAを含むヌクレオチド配列、または前記ガイドRNAを含むヌクレオチド配列をコードするヌクレオチド配列である、第二成分を含み、
前記ガイドRNAは5'から3'への方向において直接反復配列および標的配列とハイブリダイズできるガイド配列を含み、
前記ガイドRNAは(i)に記載のタンパク質、結合体または融合タンパク質と複合体を形成することができる
組成物を提供する。
【0052】
一部の実施形態において、前記直接反復配列は第四の側面で定義された単離された核酸分子である。
【0053】
一部の実施形態において、前記ガイド配列は前記直接反復配列の3'末端に連結している。一部の実施形態において、前記ガイド配列は前記標的配列の相補配列を含む。
【0054】
一部の実施形態において、前記組成物はtracrRNAを含まない。
【0055】
一部の実施形態において、前記組成物は天然に存在しないものまたは修飾されたものである。一部の実施形態において、前記組成物における少なくとも一つの成分は天然に存在しないものまたは修飾されたものである。一部の実施形態において、前記第一成分は天然に存在しないものまたは修飾されたもので、ならびに/あるいは、前記第二成分は天然に存在しないものまたは修飾されたものである。
【0056】
一部の実施形態において、前記標的配列がDNAである場合、前記標的配列はプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)の3'末端に位置し、かつ前記PAMは5'-TTNで示される配列を有し、ここで、NはA、G、T、Cから選ばれる。一部の実施形態において、NはA、T、Cから選ばれる。
【0057】
一部の実施形態において、前記標的配列がRNAである場合、前記標的配列はPAMドメインの制限がない。
【0058】
一部の実施形態において、前記標的配列は原核細胞または真核細胞由来のDNAまたはRNA配列である。一部の実施形態において、前記標的配列は天然に存在しないDNAまたはRNA配列である。
【0059】
一部の実施形態において、前記標的配列は細胞内に存在する。一部の実施形態において、前記標的配列は細胞核内または細胞質(たとえば、細胞内小器官)内に存在する。一部の実施形態において、前記細胞は真核細胞である。一部の実施形態において、前記細胞は原核細胞である。
【0060】
一部の実施形態において、前記タンパク質は、1つまたは複数のNLS配列が連結している。一部の実施形態において、前記結合体または融合タンパク質は、1つまたは複数のNLS配列を含む。一部の実施形態において、前記NLS配列は、前記タンパク質のN末端またはC末端に連結している。一部の実施形態において、前記NLS配列は、前記タンパク質のN末端またはC末端に融合している。
【0061】
また、第十の側面では、本発明は、1つまたは複数のベクターを含み、前記1つまたは複数のベクターは、
(i) 本発明のタンパク質または融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列であって、任意に、操作可能に第一調節エレメントに連結している、第一核酸、ならびに
(ii) ガイドRNAを含むヌクレオチド配列をコードし、任意に、操作可能に第二調節エレメントに連結している、第二核酸を含み、
ここで、
前記第一核酸と第二核酸は同様か異なるベクターに存在し、
前記ガイドRNAは5'から3'への方向において直接反復配列および標的配列とハイブリダイズできるガイド配列を含み、
前記ガイドRNAは(i)に記載のエフェクタータンパク質または融合タンパク質と複合体を形成することができる
組成物を提供する。
【0062】
一部の実施形態において、前記直接反復配列は第四の側面で定義された単離された核酸分子である。
【0063】
一部の実施形態において、前記ガイド配列は前記直接反復配列の3'末端に連結している。一部の実施形態において、前記ガイド配列は前記標的配列の相補配列を含む。
【0064】
一部の実施形態において、前記組成物はtracrRNAを含まない。
【0065】
一部の実施形態において、前記組成物は天然に存在しないものまたは修飾されたものである。一部の実施形態において、前記組成物における少なくとも一つの成分は天然に存在しないものまたは修飾されたものである。
【0066】
一部の実施形態において、前記第一調節エレメントはプロモーター、たとえば誘導型プロモーターである。
【0067】
一部の実施形態において、前記第二調節エレメントはプロモーター、たとえば誘導型プロモーターである。
【0068】
一部の実施形態において、前記標的配列がDNAである場合、前記標的配列はプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)の3'末端に位置し、かつ前記PAMは5'-TTNで示される配列を有し、ここで、NはA、G、T、Cから選ばれる。一部の実施形態において、NはA、T、Cから選ばれる。
【0069】
一部の実施形態において、前記標的配列がRNAである場合、前記標的配列はPAMドメインの制限がない。
【0070】
一部の実施形態において、前記標的配列は原核細胞または真核細胞由来のDNAまたはRNA配列である。一部の実施形態において、前記標的配列は天然に存在しないDNAまたはRNA配列である。
【0071】
一部の実施形態において、前記標的配列は細胞内に存在する。一部の実施形態において、前記標的配列は細胞核内または細胞質(たとえば、細胞内小器官)内に存在する。一部の実施形態において、前記細胞は真核細胞である。一部の実施形態において、前記細胞は原核細胞である。
【0072】
一部の実施形態において、前記タンパク質は、1つまたは複数のNLS配列が連結している。一部の実施形態において、前記結合体または融合タンパク質は、1つまたは複数のNLS配列を含む。一部の実施形態において、前記NLS配列は、前記タンパク質のN末端またはC末端に連結している。一部の実施形態において、前記NLS配列は、前記タンパク質のN末端またはC末端に融合している。
【0073】
一つの実施形態において、1種のベクターはプラスミドで、前記プラスミドとはその中にたとえば標準分子クローニング技術によって別のDNA断片を挿入することができる環状2本鎖DNAループを指す。もう1種のベクターはウイルスベクターで、ここで、ウイルスから誘導されたDNAまたはRNA配列がウイルス(たとえば、レトロウイルス、複製欠損型レトロウイルス、アデノウイルス、複製欠損型アデノウイルス、およびアデノ随伴ウイルス)をパッケージングするためのベクターに存在する。ウイルスベクターは、さらに、1種の宿主細胞に形質移入するためのウイルスが持つポロヌクレオチドを含む。一部のベクター(たとえば、細菌複製開始点を有する細菌ベクターおよび付加型哺乳動物ベクター)はそれらが導入された宿主細胞において自己複製することができる。ほかのベクター(たとえば、非付加型哺乳動物ベクター)は宿主細胞に導入されると、当該宿主細胞のゲノムに組み込み、かつこれによって当該宿主ゲノムとともに複製される。そして、一部のベクターはそれらが操作可能に連結した遺伝子の発現をガイドすることができる。ここで、このようなベクターは「発現ベクター」と呼ばれる。組み換えDNA技術で使用される一般的な発現ベクターは、通常、プラスミドの形態である。
【0074】
組み換え発現ベクターは、宿主細胞における核酸発現に適する形態である本発明の核酸分子を含んでもよいが、これはこれらの組み換え発現ベクターが発現に使用される宿主細胞によって選ばれる1つまたは複数の調節エレメントを含み、前記調節エレメントは操作可能に発現される核酸配列に連結していることを意味する。
【0075】
送達および送達組成物
本発明のタンパク質、結合体、融合タンパク質、第四の側面に記載の単離された核酸分子、本発明の複合体、第六の側面に記載の単離された核酸分子、第七の側面に記載のベクター、第九の側面および第十の側面に記載の組成物は、本分野で既知の任意の方法によって送達することができる。このような方法は、エレクトロポレーション、リポフェクション、ヌクレオフェクション、マイクロインジェクション、ソノポレーション効果、パーティクルガン、リン酸カルシウムによる形質移入、カチオントランスフェクション、リポソーム形質移入、デンドリマー形質移入、熱ショック形質移入、ヌクレオフェクション、マグネトフェクション、リポフェクション、インパレフェクション、光学的形質移入、試薬増強性核酸の取り込み、およびリポソーム、免疫リポソーム、ウイルス粒子、人工ウイルス体などよる送達を含むが、これらに限定されない。
【0076】
そのため、もう一つの側面では、本発明は、送達担体、ならびに本発明のタンパク質、結合体、融合タンパク質、第四の側面に記載の単離された核酸分子、本発明の複合体、第六の側面に記載の単離された核酸分子、第七の側面に記載のベクター、第九の側面および第十の側面に記載の組成物から選ばれる1つまたは複数を含む、送達組成物を提供する。
一部の実施形態において、前記送達担体は粒子である。
【0077】
一部の実施形態において、前記送達担体は脂質粒子、糖粒子、金属粒子、タンパク質粒子、リポソーム、エクソソーム、マイクロバブル、パーティクルガンまたはウイルス粒子(たとえば、複製欠損型レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルスまたはアデノ随伴ウイルス)から選ばれる。
【0078】
キット
もう一つの側面では、本発明は、上記のような成分のうちの1つまたは複数を含むキットを提供する。一部の実施形態において、前記キットは、本発明のタンパク質、結合体、融合タンパク質、第四の側面に記載の単離された核酸分子、本発明の複合体、第六の側面に記載の単離された核酸分子、第七の側面に記載のベクター、第九の側面および第十の側面に記載の組成物から選ばれる1つまたは複数の成分を含む。
【0079】
一部の実施形態において、本発明のキットは、第九の側面に記載の組成物を含む。一部の実施形態において、前記キットは、さらに、前記組成物の使用説明書を含む。
【0080】
一部の実施形態において、本発明のキットは、第十の側面に記載の組成物を含む。一部の実施形態において、前記キットは、さらに、前記組成物の使用説明書を含む。
【0081】
一部の実施形態において、本発明のキットに含まれる成分は任意の適切な容器の中で提供されてもよい。
【0082】
一部の実施形態において、前記キットは、さらに、1つまたは複数の緩衝液を含む。緩衝液は任意の緩衝液でもよく、炭酸ナトリウム緩衝液、炭酸水素ナトリウム緩衝液、ホウ酸塩緩衝液、Tris緩衝液、MOPS緩衝液、HEPES緩衝液およびこれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない。一部の実施形態において、当該緩衝液は塩基性のものでる。一部の実施形態において、当該緩衝液は約7~約10のpHを有する。
【0083】
一部の実施形態において、当該キットは、さらに、1つまたは複数のオリゴヌクレオチドを含み、当該1つまたは複数のオリゴヌクレオチドはベクターに挿入するためのガイド配列に相応し、操作可能に当該ガイド配列および調節エレメントを連結するようになっている。一部の実施形態において、当該キットは相同組み換え鋳型のポリヌクレオチドを含む。
【0084】
方法および用途
もう一つの側面では、本発明は、標的遺伝子を修飾する方法であって、第五の側面に記載の複合体、第九の側面に記載の組成物または第十の側面に記載の組成物を前記標的遺伝子と接触させるか、前記標的遺伝子を含む細胞の中に送達することを含み、前記標的配列は前記標的遺伝子に存在する方法を提供する。
【0085】
一部の実施形態において、前記標的遺伝子は細胞内に存在する。一部の実施形態において、前記細胞は原核細胞である。一部の実施形態において、前記細胞は真核細胞である。一部の実施形態において、前記細胞は哺乳動物細胞である。一部の実施形態において、前記細胞はヒト細胞である。一部の実施形態において、前記細胞はヒト以外の霊長類動物、ウシ、ブタまたはげっ歯類動物の細胞である。一部の実施形態において、前記細胞は哺乳動物以外の真核細胞、たとえば家禽または魚などである。一部の実施形態において、前記細胞は植物細胞、たとえば栽培植物(たとえばタピオカ、トウモロコシ、モロコシ、コムギまたはイネ)、藻類、木または野菜が有する細胞である。
【0086】
一部の実施形態において、前記標的遺伝子は体外の核酸分子(たとえば、プラスミド)に存在する。一部の実施形態において、前記標的遺伝子はプラスミドに存在する。
【0087】
一部の実施形態において、前記修飾とは前記標的配列の断裂、たとえばDNAの2本鎖の断裂またはRNAの2本鎖の断裂である。
【0088】
一部の実施形態において、前記断裂によって標的遺伝子の転写が低下する。
【0089】
一部の実施形態において、前記方法は、さらに、編集鋳型を前記標的遺伝子と接触させるか、あるいは前記標的遺伝子を含む細胞の中に送達することを含む。このような実施形態において、前記方法は、外因性鋳型ポリヌクレオチドとの相同組み換えによって前記断裂した標的遺伝子を修復し、ここで、前記修復は前記標的遺伝子の1つまたは複数のヌクレオチドの挿入、欠失、または置換を含む1つの突然変異につながる。一部の実施形態において、前記突然変異は、当該標的配列の遺伝子発現を含むタンパク質における1つまたは複数のアミノ酸の改変につながる。
【0090】
そのため、一部の実施形態において、前記修飾は、さらに、編集鋳型(たとえば外因性核酸)を前記断裂に挿入することを含む。
【0091】
一部の実施形態において、前記のタンパク質、結合体、融合タンパク質、単離された核酸分子、複合体、ベクターまたは組成物は送達担体に含まれる。
【0092】
一部の実施形態において、前記送達担体は脂質粒子、糖粒子、金属粒子、タンパク質粒子、リポソーム、エクソソーム、ウイルス粒子(たとえば、複製欠損型レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルスまたはアデノ随伴ウイルス)から選ばれる。
【0093】
一部の実施形態において、前記方法は、標的遺伝子または標的遺伝子産物をコードする核酸分子における1つまたは複数の標的配列を改変することによって細胞、細胞系または生物体を修飾することに使用される。
【0094】
もう一つの側面では、本発明は、遺伝子産物の発現を改変する方法であって、第五の側面に記載の複合体、第九の側面に記載の組成物または第十の側面に記載の組成物を前記遺伝子産物をコードする核酸分子と接触させるか、前記核酸分子を含む細胞の中に送達することを含み、前記標的配列は前記核酸分子に存在する方法を提供する。
【0095】
一部の実施形態において、前記核酸分子は細胞内に存在する。一部の実施形態において、前記細胞は原核細胞である。一部の実施形態において、前記細胞は真核細胞である。一部の実施形態において、前記細胞は哺乳動物細胞である。一部の実施形態において、前記細胞はヒト細胞である。一部の実施形態において、前記細胞はヒト以外の霊長類動物、ウシ、ブタまたはげっ歯類動物の細胞である。一部の実施形態において、前記細胞は哺乳動物以外の真核細胞、たとえば家禽または魚などである。一部の実施形態において、前記細胞は植物細胞、たとえば栽培植物(たとえばタピオカ、トウモロコシ、モロコシ、コムギまたはイネ)、藻類、木または野菜が有する細胞である。
【0096】
一部の実施形態において、前記核酸分子は体外の核酸分子(たとえば、プラスミド)に存在する。一部の実施形態において、前記核酸分子はプラスミドに存在する。
【0097】
一部の実施形態において、前記遺伝子産物の発現は改変(たとえば、増強または低下)されている。一部の実施形態において、前記遺伝子産物の発現は増強されている。一部の実施形態において、前記遺伝子産物の発現は低下されている。
【0098】
一部の実施形態において、前記遺伝子産物はタンパク質である。
【0099】
一部の実施形態において、前記のタンパク質、結合体、融合タンパク質、単離された核酸分子、複合体、ベクターまたは組成物は送達担体に含まれる。
【0100】
一部の実施形態において、前記送達担体は脂質粒子、糖粒子、金属粒子、タンパク質粒子、リポソーム、エクソソーム、ウイルス粒子(たとえば、複製欠損型レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルスまたはアデノ随伴ウイルス)から選ばれる。
【0101】
一部の実施形態において、前記方法は、標的遺伝子または標的遺伝子産物をコードする核酸分子における1つまたは複数の標的配列を改変することによって細胞、細胞系または生物体を修飾することに使用される。
【0102】
もう一つの側面では、本発明は核酸編集における第一の側面に記載のタンパク質、第二の側面に記載の結合体、第三の側面に記載の融合タンパク質、第四の側面に記載の単離された核酸分子、第五の側面に記載の複合体、第六の側面に記載の単離された核酸分子、第七の側面に記載のベクター、第九の側面に記載の組成物、第十の側面に記載の組成物、本発明のキットまたは送達組成物の使用に関する。
【0103】
一部の実施形態において、前記核酸編集は遺伝子またはゲノムの編集、たとえば遺伝子修飾、遺伝子ノックアウト、遺伝子産物の発現の改変、突然変異の修復、および/またはポリヌクレオチドの挿入を含む。
【0104】
もう一つの側面では、本発明は製剤の製造における第一の側面に記載のタンパク質、第二の側面に記載の結合体、第三の側面に記載の融合タンパク質、第四の側面に記載の単離された核酸分子、第五の側面に記載の複合体、第六の側面に記載の単離された核酸分子、第七の側面に記載のベクター、第九の側面に記載の組成物、第十の側面に記載の組成物、本発明のキットまたは送達組成物の使用であって、前記製剤は以下のための使用に関する:
(i) インビトロにおける遺伝子またはゲノムの編集;
(ii) インビトロにおける1本鎖DNAの検出;
(iii) 標的遺伝子座における標的配列の編集による生物またはヒト以外の生物の修飾;
(iv) 標的遺伝子座における標的配列の欠陥による病症の治療。
【0105】
細胞および細胞の子世代
一部の場合、本発明の方法によって細胞に導入された修飾により、細胞およびその子世代が改変されることで、その生物産物(たとえば抗体、デンプン、エタノールまたはほかの所望の細胞放出物)の生成が改良される。一部の場合、本発明の方法によって細胞に導入された修飾により、細胞およびその子世代が生産する生物産物が変化する改変を含むようになる。
【0106】
そのため、もう一つの側面では、本発明は、さらに、上記のような方法によって得られる細胞またはその子世代に関し、ここで、前記細胞はその野生型に存在しない修飾を含有する。
【0107】
また、本発明は、上記のような細胞またはその子世代の細胞産物に関する。
【0108】
また、本発明は体外、インビトロまたは体内の細胞または細胞系またはこれらの子世代に関し、前記細胞または細胞系またはこれらの子世代は、第一の側面に記載のタンパク質、第二の側面に記載の結合体、第三の側面に記載の融合タンパク質、第四の側面に記載の単離された核酸分子、第五の側面に記載の複合体、第六の側面に記載の単離された核酸分子、第七の側面に記載のベクター、第九の側面に記載の組成物、第十の側面に記載の組成物、本発明のキットまたは送達組成物を含む。
【0109】
一部の実施形態において、前記細胞は原核細胞である。
【0110】
一部の実施形態において、前記細胞は真核細胞である。一部の実施形態において、前記細胞は哺乳動物細胞である。一部の実施形態において、前記細胞はヒト細胞である。一部の実施形態において、前記細胞はヒト以外の哺乳動物細胞、たとえばヒト以外の霊長類動物、ウシ、ヒツジ、ブタ、イヌ、サル、ウサギ、げっ歯類(たとえばラットまたはマウス)の細胞である。一部の実施形態において、前記細胞は哺乳動物以外の真核細胞、たとえば家禽・鳥類(たとえばニワトリ)、魚類または甲殻動物(たとえばハマグリ、エビ)の細胞である。一部の実施形態において、前記細胞は植物細胞、たとえば単子葉植物または双子葉植物が有する細胞、あるいは栽培植物または食糧作物、たとえばタピオカ、トウモロコシ、モロコシ、ダイズ、コムギ、オートムギまたはイネが有する細胞、たとえば藻類、木または生産植物、果実または野菜(たとえば、木類、たとえば柑橘の木、ナッツの木、ナス属植物、ワタ、タバコ、トマト、ブドウ、コーヒー、ココアなど)である。
【0111】
一部の実施形態において、前記細胞は幹細胞または幹細胞系である。
【0112】
用語の定義
本発明において、別途に説明しない限り、本明細書で使用される科学および技術名詞は当業者に理解される通常の意味を有する。そして、本明細書で使用される分子遺伝学、核酸化学、化学、分子生物学、生化学、細胞培養、微生物学、細胞生物学、ゲノム学および組み換えDNAなどの操作手順はいずれも関連分野で幅広く使用される通常の手順である。同時に、本発明がより良く理解されるように、以下に関連用語の定義および解釈を提供する。
【0113】
本発明において、表記「Cas12f」とは、本発明者が、初めて、発見して同定した1種のCasエフェクタータンパク質で、以下から選ばれるアミノ酸配列を有するものである:
(i) 配列番号1、2、3のいずれかで示される配列;
(ii) 配列番号1、2、3のいずれかで示される配列に対して1個または複数個のアミノ酸の置換、欠失または付加(たとえば1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個または10個のアミノ酸の置換、欠失または付加)を有する配列;あるいは
(iii) 配列番号1、2、3のいずれか3で示される配列に対して少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%の配列同一性を持つ配列。
【0114】
本発明のCas12fはガイドRNAのガイドによって標的配列の特定の部位と結合して切断するエンドヌクレアーゼであって、同時にDNAおよびRNAの制限酵素活性を有する。
【0115】
本明細書で用いられるように、用語「クラスター化規則的間隔短鎖回文リピート(CRISPR)-CRISPR-関連(Cas) (CRISPR-Cas)システム」または「CRISPRシステム」は入れ替えて使用することができ、かつ当業者に理解される通常の意味を有し、通常、CRISPR関連(「Cas」)遺伝子の発現に関わる転写産物またはほかのエレメントを含むか、あるいは前記Cas遺伝子活性の転写産物またはほかのエレメントををガイドすることができる。このような転写産物またはほかのエレメントは、Casエフェクタータンパク質をコードする配列およびCRISPR RNA(crRNA)を含むガイドRNA、ならびにCRISPR-Cas9システムに含まれるトランス活性化型crRNA(tracrRNA)配列、あるいはCRISPR遺伝子座由来のほかの配列または転写産物を含んでもよい。本発明に記載のCas12fに基づいたCRISPRシステムには、tracrRNA配列が必要ではない。
【0116】
本明細書で用いられるように、用語「Casエフェクタータンパク質」、「Casエフェクター酵素」は入れ替えて使用することができ、かつCRISPR-Casシステムにおいて現れる任意の1つの長さが900アミノ酸超のタンパク質を指す。一部の場合、このようなタンパク質はCas遺伝子座から同定されたタンパク質を指す。
【0117】
本明細書で用いられるように、用語「ガイドRNA(guide RNA)」、「成熟crRNA」は入れ替えて使用することができ、かつ当業者に理解される通常の意味を有する。一般的に、ガイドRNAは直接(direct)反復配列およびガイド配列(guide sequence)を含むか、あるいは基本的に直接反復配列およびガイド配列(内因性CRISPRシステムの背景においてスペーサー(spacer)とも呼ばれる)からなるか、直接反復配列およびガイド配列からなる。一部の場合、ガイド配列は標的配列に対して十分な相補性を有することで、前記標的配列とハイブリダイズしてCRISPR/Cas複合体と前記標的配列の特異的結合をガイドする任意のポリヌクレオチド配列である。一部の実施形態において、最適なアラインメントの場合、ガイド配列とその相応する標的配列の間の相補の程度は少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%である。最適なアラインメントの決定は当業者の能力の範囲内である。たとえば、公開および購入可能なアラインメントのアルゴリズムおよびプログラムが存在し、たとえばClustalW、matlabにおけるスミス-ウォーターマンアルゴリズム(Smith-Waterman)、Bowtie、Geneious、BiopythonおよびSeqManがあるが、これらに限定されない。
【0118】
一部の場合、前記ガイド配列は長さが少なくとも5個、少なくとも10個、少なくとも15個、少なくとも16個、少なくとも17個、少なくとも18個、少なくとも19個、少なくとも20個、少なくとも21個、少なくとも22個、少なくとも23個、少なくとも24個、少なくとも25個、少なくとも26個、少なくとも27個、少なくとも28個、少なくとも29個、少なくとも30個、少なくとも35個、少なくとも40個、少なくとも45個または少なくとも50個のヌクレオチドである。一部の場合、前記ガイド配列は長さが50個、45個、40個、35個、30個、25個、24個、23個、22個、21個、20個、15個、10個以下またはそれよりも少ないヌクレオチドである。一部の実施形態において、前記ガイド配列は長さが10-30個、または15-25個、または15-22個、または19-25個または19-22個のヌクレオチドである。
【0119】
一部の場合、前記直接反復配列は長さが少なくとも10個、少なくとも15個、少なくとも16個、少なくとも17個、少なくとも18個、少なくとも19個、少なくとも20個、少なくとも21個、少なくとも22個、少なくとも23個、少なくとも24個、少なくとも25個、少なくとも26個、少なくとも27個、少なくとも28個、少なくとも29個、少なくとも30個、少なくとも35個、少なくとも40個、少なくとも45個、少なくとも50個、少なくとも55個、少なくとも56個、少なくとも57個、少なくとも58個、少なくとも59個、少なくとも60個、少なくとも61個、少なくとも62個、少なくとも63個、少なくとも64個、少なくとも65個または少なくとも70個のヌクレオチドである。一部の場合、前記直接反復配列は長さが70個、65個、64個、63個、62個、61個、60個、59個、58個、57個、56個、55個、50個、45個、40個、35個、30個、29個、28個、27個、26個、25個、24個、23個、22個、21個、20個、15個、10個以下またはそれよりも少ないヌクレオチドである。一部の実施形態において、前記直接反復配列は長さが55-70個のヌクレオチド、たとえば55-65個、たとえば60-65個、たとえば62-65個、たとえば63-64個のヌクレオチドである。一部の実施形態において、前記直接反復配列は長さが15-30個のヌクレオチド、たとえば15-25個、たとえば20-25個、たとえば22-24個、たとえば23個のヌクレオチドである。
【0120】
本明細書で用いられるように、用語「CRISPR/Cas複合体」とは、ガイドRNA(guide RNA)または成熟crRNAとCasタンパク質が結合してなるリボ核タンパク質複合体で、標的配列にハイブリダイズしてかつCasタンパク質と結合したガイド配列を含む。当該リボ核タンパク質複合体は、当該ガイドRNAまたは成熟crRNAとハイブリダイズするポリヌクレオチドを認識して切断することができる。
【0121】
そのため、CRISPR/Casを形成する場合、「標的配列」とは、標的指向性を有するガイド配列にターゲティングされるポリヌクレオチド、たとえば当該ガイド配列に対して相補性を有する配列として設計され、中では、標的配列とガイド配列の間のハイブリダイゼーションはCRISPR/Cas複合体の形成を促進する。必ずしも完全な相補性が必要ではなく、ハイブリダイゼーションを起こしてCRISPR/Cas複合体の形成を促進するのに十分な相補性があればよい。標的配列は任意のポリヌクレオチド、たとえばDNAまたはRNAを含んでもよい。一部の場合、前記標的配列は細胞の細胞核または細胞質に位置する。一部の場合、当該標的配列は真核細胞の1つの細胞内小器官、たとえばミトコンドリアまたは葉緑体の中に位置する。当該標的配列を含む標的遺伝子座への組み換えに使用可能な配列または鋳型は「編集鋳型」または「編集ポリヌクレオチド」または「編集配列」と呼ばれる。一部の実施形態において、前記編集鋳型は外因性核酸である。一部の実施形態において、当該組み換えは相同組み換えである。
【0122】
本発明において、表記「標的配列」または「標的ポリヌクレオチド」は細胞(たとえば、真核細胞)にとって任意の内因性または外因性のポリヌクレオチドでもよい。たとえば、当該標的ポリヌクレオチドは真核細胞の細胞核に存在するポリヌクレオチドでもよい。当該標的ポリヌクレオチドは遺伝子産物(たとえば、タンパク質)をコードする配列または非コード配列(たとえば、調節ポリヌクレオチドまたはジャンクDNA)でもよい。一部の場合、当該標的配列はプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)と関連するとされる。PAMの正確な配列および長さに対する要求は使用されるCasエフェクター酵素によって決まるが、PANは典型的にプロトスペーサー(すなわち、標的配列)に隣接する2-5塩基対の配列である。当業者は、所定のCasエフェクタータンパク質とともに使用されるPAM配列を同定することができる。
【0123】
一部の場合、標的配列または標的ポリヌクレオチドは複数の疾患関連遺伝子およびポリヌクレオチドならびにシグナル伝達生化学経路関連遺伝子およびポリヌクレオチドを含んでもよい。このような標的配列または標的ポリヌクレオチドの非限定的な実例は、それぞれ2012年12月12日および2013年1月2日に提出された米国仮特許出願61/736,527および61/748,427、2013年12月12日に提出された国際出願PCT/US2013/074667で挙げられたものを含み、その全部は引用を通して本明細書に取り入れる。
【0124】
一部の場合、標的配列または標的ポリヌクレオチドの実例はシグナル伝達生化学経路に関連する配列、たとえばシグナル伝達生化学経路関連遺伝子またはポリヌクレオチドを含む。標的ポリヌクレオチドの実例は疾患関連遺伝子またはポリヌクレオチドを含む。「疾患関連」遺伝子またはポリヌクレオチドとは非疾患対照の組織または細胞と比べ、疾患が影響する組織由来の細胞において異常なレベルまたは異常な形態で転写または翻訳産物が生成する任意の遺伝子またはポリヌクレオチドである。変わった発現が疾患の出現および/または進行に関連する場合、異常に高いレベルで発現される遺伝子でもよく、あるいは、異常に低いレベルで発現される遺伝子でもよい。また、疾患関連遺伝子は1つまたは複数の突然変異あるいは1つまたは複数の疾患の病因学の遺伝子に直接関与するか、それと連鎖不平衡の遺伝変異がある遺伝子も指す。転写または翻訳産物は既知のものでも未知のものでもよく、かつ正常レベルでも異常レベルでもよい。
【0125】
本明細書で用いられるように、用語「野生型」は当業者に理解される通常の意味を有し、生物、菌株、遺伝子の典型的な形態または自然界に存在する場合、突然変異体またはバリアントと異なる形態の特徴を表し、自然における由来から単離され、かつ人工的に修飾されていないものでもよい。
【0126】
本明細書で用いられるように、用語「天然に存在しない」または「工学化された」は入れ替えて使用することができ、かつ人工的関与を表す。これらの用語が核酸分子またはポリペプチドの記述に使用される場合、当該核酸分子またはポリペプチドは少なくとも基本的に自然界に存在するか、自然界で発見されたそれと結合する別の少なくとも1つの成分から遊離したものである。
【0127】
本明細書で用いられるように、用語「オーソログ(orthologue、ortholog)」、「成熟crRNA」は当業者に理解される通常の意味を有する。さらなる掲示として、本明細書に記載のようなタンパク質の「オーソログ」とは異なる種に属するタンパク質で、当該タンパク質はそのオーソログであるタンパク質と同様または近似の機能を執行する。
【0128】
本明細書で用いられるように、用語「同一性」は2つのポリペプチドの間または2つの核酸の間の配列のマッチ具合を表すためのものである。比較する2つの配列におけるある位置がいずれも同様の塩基またはアミノ酸の単独のサブユニットに占められている場合(たとえば、2つのDNA分子のいずれのある位置もアデノシンで占められている場合、または2つのポリペプチドのいずれのある位置もリシンで占められている場合)、各分子は当該位置において同一である。2つの配列の間の「百分率同一性」はこの2つの配列が共有するマッチ位置数を比較の位置数で割って100を掛ける関数である。たとえば、2つの配列の10個の位置のうち6個マッチすると、この2つの配列は60%の同一性を有する。たとえば、DNA配列CTGACTとCAGGTTは50%の同一性を有する(合計6個の位置のうち3個マッチする)。通常、2つの配列をアラインメントして最大の同一性になる場合、比較する。このようなアラインメントは、たとえばコンピュータープログラム、たておばAlignプログラム(DNAstar, Inc.)によって簡便にできるNeedlemanら(1970)J. Mol. Biol. 48:443-453の方法によって実現することができる。また、ALIGNプログラム(バージョン2.0)が組み込まれたE. MeyersおよびW. Miller(Comput. Appl Biosci.,4:11-17 (1988))アルゴリズムにより、PAM120重み残基表(weight residue table)、12のギャップ長ペナルティおよび4のギャップペナルティで2つのアミノ酸配列の間の百分率同一性を測定することができる。また、GCGソフトパッケージ(www.gcg.comから入手可能)が組み込まれたGAPプログラムにおけるNeedlemanおよびWunsch (J MoI Biol. 48:444-453 (1970))アルゴリズムにより、Blossum 62マトリックスまたはPAM250マトリックスおよび16、14、12、10、8、6または4のギャップ重み(gap weight)および1、2、3、4、5または6の長さ重みで2つのアミノ酸配列の間の百分率同一性を測定することができる。
【0129】
本明細書で用いられるように、用語「ベクター」とは、ポリヌクレオチドをその中に挿入できる核酸輸送ツールである。ベクターは挿入されるポリヌクレオチドがコードするタンパク質を発現させる場合、ベクターは発現ベクターと呼ばれる。ベクターは、担持する遺伝物質エレメントが宿主細胞において発現されるように、形質転換、形質導入または形質移入によって宿主細胞に導入することができる。ベクターは当業者に公知のもので、プラスミド、ファージミド、コスミド、人工染色体、たとえば酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC)またはP1由来の人工染色体(PAC)、ファージ、たとえばλファージまたはM13ファージおよび動物ウイルスなどを含むが、これらに限定されない。ベクターとして使用できる動物ウイルスは、レトロウイルス(レンチウイルスを含む)、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス(たとえば単純ヘルペスウイルス)、ポックスウイルス、バキュロウイルス、パピローマウイルス、パポーバウイルス(たとえばSV40)を含むが、これらに限定されない。ベクターは複数の発現を制御するエレメントを含んでもよく、プロモーター配列、転写開始配列、エンハンサー配列、選択エレメントおよびレポーター遺伝子を含むが、これらに限定されない。さらに、ベクターは複製開始部位を含んでもよい。
【0130】
本明細書で用いられるように、用語「宿主細胞」とは、ベクターに導入するための細胞で、たとえば大腸菌や枯草菌などの原核細胞、たとえば酵母細胞やアスペルギルス菌などの真菌細胞、たとえばS2ショウジョウバエ細胞やSf9などの昆虫細胞、あるいはたとえば線維芽細胞、CHO細胞、COS細胞、NSO細胞、HeLa細胞、BHK細胞、HEK293細胞またはヒト細胞などの動物細胞を含むが、これらに限定されない。
【0131】
当業者には、発現ベクターの設計はたとえば形質転換される宿主細胞の選択、所望の発現レベルなどの要素によって決まることがわかる。ベクターは宿主細胞に導入されることによって転写物、タンパク質、またはペプチドが生成することができ、本明細書に記載のタンパク質、融合タンパク質、単離された核酸分子など(たとえば、CRISPR転写物、たとえば核酸転借物、タンパク質、または酵素)が含まれる。
【0132】
本明細書で用いられるように、用語「調節エレメント」とはプロモーター、エンハンサー、内部リボソーム進入部位(IRES)、およびほかの発現制御エレメント(たとえば転写終止シグナル、たとえばポリアデニル化シグナルやポリU配列)を含み、その詳細はゴーデル(Goeddel),『遺伝子発現技術:酵素学の方法(GENE EXPRESSION TECHNOLOGY:METHODS IN ENZYMOLOGY)』185,アカデミックプレス(Academic Press),サンディエゴ(San Diego),カリフォルニア州(1990)を参照する。一部の場合、調節エレメントはヌクレオチド配列の多くの種類の宿主細胞における構成的発現をガイドする配列および当該ヌクレオチド配列の一部の宿主細胞のみにおける発現をガイドする配列(たとえば、組織特異的調節配列)を含む。組織特異的プロモーターは主に関心のある所望の組織における発現をガイドし、前記組織は、たとえば筋肉、ニューロン、骨、皮膚、血液、特定の器官(たとえば肝臓、膵臓腺)、または特殊な細胞種類(たとえばリンパ球)である。一部の場合、調節エレメントは時系列依存性の様態(たとえば細胞周期依存性または発育段階依存性の様態)で発現をガイドすることもできるが、当該様態は組織または細胞種類特異的なものでもそうでなくてもよい。一部の場合、用語「調節エレメント」には、エンハンサーエレメント、たとえばWPRE、CMVエンハンサー、HTLV-IのLTRにおけるR-U5'断片( (Mol.Cell.Biol.,第8(1)巻,第466-472頁,1988)、SV40エンハンサー、およびウサギβ-グロビンのエクソン2と3の間のイントロン配列(Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,第78(3)巻,第1527-31頁,1981)が含まれる。
【0133】
本明細書で用いられるように、用語「プロモーター」は当業者に公知の意味を有し、遺伝子の上流に位置する、下流の遺伝子の発現を開始させることができる非コードヌクレオチド配列を指す。構成的(constitutive)プロモーターは、遺伝子産物をコードまたは限定するポリヌクレオチドと操作可能に連結している場合、細胞の大半または全部の生理条件において、細胞における遺伝子産物の生成につながるヌクレオチド配列である。誘導型プロモーターは、遺伝子産物をコードまたは限定するポリヌクレオチドと操作可能に連結している場合、基本的に、前記プロモーターに相応する誘導物が細胞に存在するときのみ、前記遺伝子産物の細胞内における生成につながるヌクレオチド配列である。組織特異的プロモーターは、遺伝子産物をコードまたは限定するポリヌクレオチドと操作可能に連結している場合、基本的に、細胞が当該プロモーターに相応する組織の種類の細胞であるときのみ、遺伝子産物の細胞内における生成につながるヌクレオチド配列である。
【0134】
本明細書で用いられるように、用語「操作可能に連結する」とは、関心のあるヌクレオチド配列が当該ヌクレオチド配列の発現が許容される様態で1つまたは複数の調節エレメントに連結すること(たとえば、体外転写/翻訳システムにあるか、当該ベクターが宿主細胞に導入されたとき、当該宿主細胞の中にある)である。
【0135】
本明細書で用いられるように、用語「相補性」とは、核酸がもう1つの核酸配列と従来のワトソン-クリックまたはほかの従来と異なる様態で1つまたは複数の水素結合を形成する能力である。相補百分率は、1つの核酸分子における1つの第二核酸配列と水素結合(たとえば、ワトソン-クリック型塩基対)を形成する残基の百分率を表す(たとえば、10個のうち、5、6、7、8、9、10個の場合、50%、60%、70%、80%、90%、および100%相補となる)。「完全に相補」は、1つの核酸配列の全部の連続残基が1つの第二核酸配列の同様の数の連続残基と水素結合を形成することを表す。本明細書で用いられる「基本的に相補」とは、1つの8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、30、35、40、45、50個またはそれ以上のヌクレオチドを有する領域における少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、99%、または100%の相補の程度、あるいは厳格な条件においてハイブリダイズする2つの核酸を指す。
【0136】
本明細書で用いられるように、ハイブリダイズの「厳格な条件」とは、標的配列に対して相補性を有する1つの核酸が主に当該標的配列とハイブリダイズし、かつ基本的に非標的配列とハイブリダイズしない条件である。厳格な条件は、通常、配列依存性で、かつ多くの要素によって変わる。一般的に、当該配列が長いほど、当該配列が得意的にその標的配列とハイブリダイズする温度が高くなる。厳格な条件の非限定的な実例は、ティッセン(Tijssen)(1993)の『生化学および分子生物学における実験室技術-核酸プローブによるハイブリダイゼーション(Laboratory Techniques In BiochemistryAnd Molecular Biology-Hybridization With Nucleic Acid Probes)』,第I部分,第二章,「ハイブリダイゼーション原理の概述および核酸プローブの分析策(Overview of principles of hybridization andthe strategy of nucleic acid probe assay)」,エルゼビア(Elsevier),ニューヨークに記載されている。
【0137】
本明細書で用いられるように、用語「ハイブリダイズ」とは、1つまたは複数のポリヌクレオチドが反応して複合体を形成する反応で、当該複合体はこれらのヌクレオチド残基の間の塩基の水素結合によって安定化している。水素結合はワトソン-クリック型塩基マッチング、フーグスティーン結合または任意のほかの配列特異的な様態で生じてもよい。当該複合体は1つの2本鎖体になる2本の鎖、多鎖複合体になる3本または複数本の鎖、単一の自己ハイブリダイズ鎖、またはこれらの任意の組み合わせを含んでもよい。ハイブリダイゼーション反応は、1つのより幅広い過程(たとえばPCRの開始、または酵素によるポリヌクレオチドの切断)における1つの工程を構成してもよい。1つの所定の配列とハイブリダイズできる配列は当該所定の配列の「相補物」と呼ばれる。
【0138】
本明細書で用いられるように、用語「発現」とは、DNA鋳型からポリヌクレオチドに転写される(たとえばmRNAまたはほかの転写物に転写される)過程および/または転写されたmRNAがその後にペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質に翻訳される過程である。転写物およびコードするポリペプチドは「遺伝子産物」と総称してもよい。ポリヌクレオチドがゲノムDNA由来である場合、発現は真核細胞におけるmRNAのスプライシングを含んでもよい。
【0139】
本明細書で用いられるように、用語「リンカー」とは、複数のアミノ酸残基がペプチド結合を介して連結してなる線形ポリペプチドである。本発明のリンカーは、人工的に合成されるアミノ酸配列、または天然に存在するポリペプチド配列でもよいが、たとえばヒンジ領域の機能を有するポリペプチドが挙げられる。このようなリンカーポリペプチドは本分野でよく知られるものである(たとえば、Holliger, P.ら(1993)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90 :6444-6448 ;Poljak, R. J.ら(1994) Structure 2:1121-1123を参照する)。
【0140】
本明細書で用いられるように、用語「治療」とは、病症を治療または治癒すること、病症の症状の発作を遅延させること、および/または病症の進行を遅延させることである。
【0141】
本明細書で用いられるように、用語「被験者」は様々な動物、たとえば哺乳動物、たとえばウシ科動物、ウマ科動物、ヒツジ科動物、ブタ科動物、イヌ科動物、ネコ科動物、ウサギ科動物、げっ歯類動物(たとえば、マウスまたはラット)、ヒト以外の霊長類動物(たとえば、アカゲザルまたはカニクイザル)またはヒトを含むが、これらに限定されない。一部の実施形態において、前記被験者(たとえばヒト)は病症(たとえば、疾患関連遺伝子欠陥による病症)に罹患している。
【0142】
発明の有益な効果
既存技術と比べ、本発明のCasタンパク質およびシステムは顕著な有利な面がある。たとえば、本発明のCasエフェクタータンパク質のPAMドメインは厳格な5'-TTN構造で、かつ標的配列の前から2番目および3番目の塩基の100%近くがTで、ほかの位置は任意の配列でもよく、現在すでに報告された最も厳格なPAMによって認識されるC2c1よりも厳格なPAM認識形態であるため、オフターゲット効果が顕著に低下する。たとえば、本発明のCasエフェクタータンパク質は真核生物の体内においてDNA切断が可能で、分子の大きさがCpf1およびCas9タンパク質よりも約200-300アミノ酸小さいため、形質移入効率が明らかにCpf1およびCas9よりも良い。
【0143】
以下、図面および実施例を合わせて本発明の実施形態を詳しく説明するが、当業者には、以下の図面および実施例は本発明を説明するためのものにすぎず、本発明の範囲に対する限定ではないことが理解される。図面および好適な実施形態の以下の詳しい説明により、本発明の各目的および有利な面は当業者にとって明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0144】
図1図1は、実施例2におけるCas12f.4、Cas12f.5およびCas12f.6のcrRNAの構造分析の結果で、反復配列の二次構造を示す。
図2図2は、実施例3におけるPAMドメインの分析結果である。
図3図3a-図3cは、実施例4におけるCas12f.4のヒト細胞系における切断活性の検出結果である。
図4図4a-図4cは、実施例5におけるCas12f.4のトウモロコシプロトプラスト細胞における切断活性の検出結果である。
【0145】
配列情報
本発明に係る一部の配列の情報を以下の表1に示す。
【0146】
具体的な実施形態
以下、以下の例を挙げて本発明を説明するための(本発明を限定するものではない)実施例を参照して本発明を説明する。
【0147】
特別に明言しない限り、基本的に、本分野で熟知のおよび各参考文献に記載の通常の方法によって実施例に記載の実験および方法を実施した。たとえば、本発明で使用される免疫学、生化学、化学、分子生物学、微生物学、細胞生物学、ゲノム学および組み換えDNAなどの通常の技術は、サムブルック(Sambrook)、フリッチュ(Fritsch)およびマニアティス(Maniatis),『モレキュラー・クローニング:研究室マニュアル(MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL)』,第2版(1989);『分子生物学カレント・プロトコル(CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY)』(F.M.オースベル(F.M.Ausubel)ら編,(1987));『酵素学における方法(METHODS IN ENZYMOLOGY)』シリーズ(アカデミックプレス):『PCR 2:実用手法(PCR 2:A PRACTICAL APPROACH)』(M.J.マクファーソン(M.J.MacPherson)、B.D.ヘイムズ(B.D.Hames)およびG.R.テイラー(G.R.Taylor)編(1995))、ハーロウ(Harlow)およびレーン(Lane)編(1988)『抗体:実験室マニュアル(ANTIBODIES,A LABORATORY MANUAL)』,および『動物細胞培養(ANIMAL CELL CULTURE)』(R.I.フレシュニー(R.I.Freshney)編(1987))を参照する。
【0148】
また、実施例において、具体的な条件が記載されていないものは、通常の条件またはメーカーのお薦めの条件で行われた。使用された試薬または装置はメーカーが未記載の場合、いずれも市販品として入手できる通常の製品である。当業者には、実施例は例を挙げる形で本発明を説明するが、本発明の保護を請求される範囲を制限するものではないことがわかる。本明細書で言及した全部の公開案およびほかの参考資料はその全文として引用によって本明細書に取り込まれる。
【0149】
以下の実施例に係る一部の試薬の由来は以下の通りである。
【0150】
LB液体培地:10gトリプトン(Tryptone)、5g酵母抽出物(Yeast Extract)、10g NaClを、容積が1Lになるようにし、滅菌した。抗生物質が必要な場合、培地が冷却した後、最終濃度が50μg/mlになるように入れた。
【0151】
クロロホルム/イソペンタノール:240mlのクロロホルムに10mlのイソペンタノールを入れ、均一に混合した。
【0152】
RNP緩衝液:100 mM 塩化ナトリウム、50 mM Tris-HCl、10 mM MgCl2、100 μg/ml BSA、pH 7.9。
【0153】
原核発現ベクターpACYC-Duet-1およびpUC19は京全式金生物技術有限公司から購入された。
【0154】
大腸菌感受性EC100はEpicentre社から購入された。
【0155】
実施例1. Cas12f遺伝子およびCas12fガイドRNAの獲得
1.CRISPRおよび遺伝子のアノテーション:ProdigalによってNCBIおよびJGIデータベースの微生物ゲノムおよびメタゲノムのデータに対して遺伝子アノテーションを行ってすべてのタンパク質を得、同時にPiler-CRによってCRISPR座のアノテーションを行ったが、パラメーターはいずれもデフォルトであった。
2.タンパク質のろ過:配列一致性によってアノテーションタンパク質に対して冗長部分をなくし、配列が完全に一致するタンパク質を除去し、同時に長さが800アミノ酸超のタンパク質を大分子タンパク質とした。現在発見されたすべてのII型CRISPR/Casシステムのエフェクタータンパク質の多くは長さが900アミノ酸超であるため、計算の複雑度を降下させるために、CRISPRエフェクタータンパク質を探すとき、大分子タンパク質のみを考えた。
3.CRISPR関連大分子タンパク質の獲得:各CRISPR座の上下流から10 Kbまで伸ばし、CRISPRの隣接領域内における非冗長大分子タンパク質を同定した。
4.CRISPR関連大分子タンパク質のクラスタリング:BLASTPによって非冗長大分子CRISPR関連タンパク質に対して内部の2つずつのアラインメントを行い、Evalue<1E-10のアラインメント結果を出力した。MCLによってBLASTPの出力結果に対してCRISPR関連タンパク質ファミリーのクラスタリング分析を行った。
5.CRISPR密集大分子タンパク質ファミリーの同定:BLASTPによってCRISPR関連タンパク質ファミリーのタンパク質に対してアラインメントを行うことにより、CRISPR関連タンパク質を除いた非冗長大分子タンパク質データベースを得、Evalue<1E-10のアラインメント結果を出力した。もし一つの非CRISPR関連タンパク質データベースで発見された相同タンパク質が100%未満の場合、このファミリーのタンパク質がCRISPR領域に密集していることが示され、このような方法によってCRISPR密集大分子タンパク質ファミリーを同定した。
6.タンパク質の機能およびドメインのアノテーション:Pfamデータベース、NRデータベースおよびNCBIから集めされたCasタンパク質を利用してCRISPR密集大分子タンパク質ファミリーに対してアノテーションを行い、新たなCRISPR/Casタンパク質ファミリーを得た。Mafftによって各CRISPR/Casファミリーのタンパク質に対して多重配列アラインメントを行い、さらにJPredおよびHHpredによって保存ドメインの分析を行い、RuvCドメインを含むタンパク質ファミリーを同定した。
【0156】
これに基づき、本発明者は新たなCasエフェクタータンパク質、すなわち、Cas12fを得たが、3つの活性ホモログ配列で、それぞれCas12f.4(配列番号1)、Cas12f.5(配列番号2)、Cas12f.6(配列番号3)と名付け、3つのホモログのコードDNAはそれぞれ配列番号4、5、6で示される。Cas12f.4、Cas12f.5、Cas12f.6が相応する原型直接反復配列(pre-crRNAに含まれる反復配列)はそれぞれ7、8、9で示される。Cas12f.4、Cas12f.5、Cas12f.6が相応する成熟直接反復配列(成熟crRNAに含まれる反復配列)はそれぞれ配列番号13、14、15で示される。
【0157】
実施例2. Cas12f遺伝子の成熟crRNAに対する加工
1.配列番号4で示される2本鎖DNA分子を人工合成し、同時に配列番号10で示される2本鎖DNA分子を人工合成した。
2.工程1で合成された2本鎖DNA分子を原核発現ベクターpACYC-Duet-1に連結し、組み換えプラスミドpACYC-Duet-1+CRISPR/Cas12fを得た。
組み換えプラスミドpACYC-Duet-1+CRISPR/Cas12fをシークエンシングした。シークエンシングの結果から、組み換えプラスミドpACYC-Duet-1+CRISPR/Cas12fに配列番号4および配列番号10で示される配列が含まれ、かつ配列番号1で示されるCas12f.4タンパク質および配列番号7で示されるCas12f.4原型直接反復配列を発現することが示された。組み換えプラスミドpACYC-Duet-1+CRISPR/Cas12fを大腸菌EC100に導入し、組み換え菌を得たが、当該組み換え菌をEC100-CRISPR/Cas12fと名付けた。
3、EC100-CRISPR/Cas12fの単一クローンを取り、100mLのLB液体培地(含50μg/mL アンピシリン)に接種し、37℃、200rpmで12h振とう培養し、培養菌液を得た。
4、細菌RNAの抽出:1.5 mLの細菌培養物を予め冷却された微量遠心管に移し、4℃、6000×gで5分間遠心した。遠心後、上清液を捨て、細胞沈殿を予め95℃に加熱された200μLのMax Bacterial Enhancement Reagentに再懸濁させ、均一に混合した。95℃で4分間インキュベートした。溶解産物に1 mLのTRIzol(登録商標)Reagentを入れて均一に混合し、室温で5分間インキュベートした。0.2mLの冷クロロホルムを入れ、手で管を振って15秒混合し、室温で2-3分間インキュベートした。4℃、12,000×gで15分間遠心した。600μLの上清を新たな管に取り、0.5mLの冷イソプロパノールを入れてRNAを沈殿させ、引っくり返して均一に混合し、室温で10分間インキュベートした。4℃、15,000×gで10分間遠心し、上清を捨て、1 mLの75%アルコールを入れ、ボルテックスで均一に混合した。4℃、7500×gで5分間遠心し、上清を捨て、空気中で乾燥した。RNA沈殿を50μLの無RNase水に溶解させ、60℃で10分間インキュベートした。
5、DNAの消化:20μgのRNAを39.5μLのdH2Oに65℃、5minで溶解させた。氷の上で5min置き、0.5μLのRNAI、5μLの緩衝液、5μLのDNaseIを入れ、37℃で45min反応させた(50μL反応系)。50μLのdH2Oを入れ、体積を100μLに調整した。2mLのPhase-Lock tube、16000gで30s遠心した後、100μLのフェノール:クロロホルム:イソペンタノール(25:24:1)、100μLの消化されたRNAを入れ、15s振とうし、15℃、16000gで12min遠心した。上清を新たな1.5mL遠心管に取り、上清と等体積のイソプロパノール1/10 NaoACを入れ、1hか-20℃で一晩反応させた。4℃、16000gで30min遠心し、上清を捨てた。350μLの75%アルコールを入れて沈殿を洗浄し、4℃、16000gで10min遠心し、上清を捨てた。乾燥し、20μLの無RNase水を入れ、65℃で沈殿を5min溶解させた。NanoDropによって濃度を測定し、ゲル電気泳動を行った。
6、3'脱リン酸化および5'リン酸化:20μgの消化されたRNAに、それぞれ水を42.5μLまで入れ、90℃で2min置いた。氷の上で5min冷却した。5μLの10×T4 PNK緩衝液、0.5 μLのRNaI、2 μLのT4 PNKを入れ(50μL)、37℃で6h反応させた。1μLのT4 PNK、1.25μL(100mM)のATPを入れ、37℃で1h反応させた。47.75μLのdH2Oを入れ、体積を100μLに調整した。2mLのPhase-Lock tube、16000gで30s遠心した後、100μLのフェノール:クロロホルム:イソペンタノール(25:24:1)、100μLの消化されたRNAを入れ、15s振とうし、15℃、16000gで12min遠心した。上清を新たな1.5mL遠心管に取り、上清と等体積のイソプロパノール、合計体積1/10 NaoACを入れ、1hか-20℃で一晩反応させた。4℃、16000gで30min遠心し、上清を捨てた。350μLの75%アルコールを入れて沈殿を洗浄し、4℃、16000gで10min遠心し、上清を捨てた。乾燥し、21μLの無RNase水を入れ、65℃で沈殿を5min溶解させ、NanoDropによって濃度を測定した。
7、RNAの単リン酸化:20μLのRNAを、90℃で1min置き、氷の上で5min冷却した。2μLのRNA 5'ポリホスファターゼの10×反応緩衝液、0.5μLの阻害剤、1μLのRNA 5'ポリホスファターゼ(20単位)を入れ、無RNase水を20μLまで入れ、37℃で60min反応させた。80μLのdH2Oを入れ、体積を100μLに調整した。2mLのPhase-Lock tube、16000gで30s遠心した後、100μLのフェノール:クロロホルム:イソペンタノール(25:24:1)、100μLの消化されたRNAを入れ、15s振とうし、15℃、16000gで12min遠心した。上清を新たな1.5mL遠心管に取り、上清と等体積のイソプロパノール、合計体積1/10 NaoACを入れ、1hか-20℃で一晩反応させた。4℃、16000gで30min遠心し、上清を捨て、350μLの75%アルコールを入れて沈殿を洗浄し、4℃、16000gで10min遠心し、上清を捨てた。乾燥し、21μLの無RNase水を入れ、65℃で沈殿を5min溶解させ、NanoDropによって濃度を測定した。
8、cDNAライブラリーの準備:16.5μL 無RNase水。5μL ポリ(A)ポリメラーゼの10×反応緩衝液。5μL 10mM ATP。1.5μL RiboGuard RNase阻害剤。20μL RNA基質。2μL ポリ(A)ポリメラーゼ(4単位)。50μL 合計体積。37℃ 20min。50μLのdH2Oを入れ、体積を100μLに調整した。2mLのPhase-Lock tube、16000gで30s遠心した後、100μLのフェノール:クロロホルム:イソペンタノール(25:24:1)、100μLの消化されたRNAを入れ、15s振とうし、15℃、16000gで12min遠心した。上清を新たな1.5mL遠心管に取り、上清と等体積のイソプロパノール、合計体積1/10 NaoACを入れ、1hか-20℃で一晩反応させた。4℃、16000gで30min遠心し、上清を捨て、乾燥し、11μLの無RNase水を入れ、65℃で沈殿を5min溶解させ、NanoDropによって濃度を測定した。
9、cDNAライブラリーにシークエンシングのリンカーを付加した後、北京貝瑞合康に送ってシークエンシングを行った。
10、元データに対して質量によって選別し、塩基の平均質量の値が30未満の配列を除去した。配列からリンカーを除去した後、25 nt~50 ntのRNA配列を残し、bowtieによってアライメントしてCRISPRアレイの参照配列にした。
11、アライメントにより、Cas12f.4のpre-crRNAは大腸菌体内において45ntの成熟crRNAに加工され、ここで、23ntの反復配列および19-22ntのガイド配列からなるものであることが見出された。
12、ViennaRNAおよびVARNAによって成熟のcrRNAに対して構造の予測および可視化分析を行ったところ、crRNAの反復配列の3'末端に一つの大きさ8塩基のステムループが形成できることがわかった(図1)。
13、Cas12f.5およびCas12f.6のcrRNAの3'末端の23ntの配列に対して予測したところ、似たような二次構造が見出された(図1)。
【0158】
実施例3. Cas12f遺伝子のPAMドメインの同定
1.組み換えプラスミドpACYC-Duet-1+CRISPR/Cas12fを構築してシークエンシングした。シークエンシングの結果から、組み換えプラスミドpACYC-Duet-1+CRISPR/Cas12fに対して構造の説明をすると、ベクターpACYC-Duet-1の制限酵素Pml IおよびKpn I認識配列の間の小さい断片を配列番号4で示される配列における5'末端から1~3713番目で示される2本鎖DNA分子に置き換えた。組み換えプラスミドpACYC-Duet-1+CRISPR/Cas12fは配列番号1で示されるCas12f.4タンパク質および配列番号25で示されるCas12fガイドRNAを発現する。
2.組み換えプラスミドpACYC-Duet-1+CRISPR/Cas12fに発現カセットが含まれ、当該発現カセットのヌクレオチド配列は配列番号23で示される。配列番号23で示される配列において、5'末端から1~44番目はpLacZプロモーターのヌクレオチド配列で、45~3326番目はCas12f.4遺伝子のヌクレオチド配列で、3327~3412番目はターミネーターのヌクレオチド配列である(転写を終止するため)。5'末端から3413~3452番目はJ23119プロモーターのヌクレオチド配列で、3453~3628番目はCRISPRアレイのヌクレオチド配列で、3627~3713番目はrrnB-T1ターミネーターのヌクレオチド配列である(転写を終止するため)。
3.組み換え大腸菌の獲得:組み換えプラスミドpACYC-Duet-1+CRISPR/Cas12fを大腸菌EC100に導入し、組み換え大腸菌を得たが、EC100/pACYC-Duet-1+CRISPR/Cas12fと名付けた。組み換えプラスミドpACYC-Duet-1を大腸菌EC100に導入し、組み換え大腸菌を得たが、EC100/pACYC-Duet-1と名付けた。
4.PAMライブラリーの構築:配列番号24で示される配列を人工合成し、そしてpUC19ベクターに連結し、ここで、配列番号24で示される配列は5'末端の8個のランダムな塩基および標的配列を含む。PAMライブラリーの標的配列の5'末端の先端に8個のランダムな塩基を設計してプラスミドライブラリーを構築した。プラスミドをそれぞれCas12f.4遺伝子座を含む大腸菌およびCas.12f.4遺伝子座を含まない大腸菌に導入した。37℃で1時間処理した後、プラスミドを抽出し、そしてPAM領域の配列に対してPCR増幅およびシークエンシングを行った。
5.PAMライブラリーのドメインの獲得:それぞれ実験群および対照群における65,536種の組み合わせのPAM配列の出現回数を統計し、そして各群が有するPAM配列数で正規化した。任意の一つのPAM配列について、log2(対照群の正規化値/実験群の正規化値)が3.5超の場合、このPAMが顕著に消耗されたと見なし、計3,548本の顕著に消耗されたPAM配列が得られ、全部における比率が5.41%であった。Weblogoによって顕著に消耗されたPAM配列を予想したところ、Cas12f.4のPAMドメインは厳格な5'-TTN構造で(図2)、かつ標的配列の前から2番目および3番目の塩基のほぼ100%がTで、ほかの位置は任意の配列でもよいことがわかり、これは現在すでに報告された最も厳格なPAMによって認識されるC2c1よりも厳格なPAM認識形態である。
6.PAMライブラリーのドメインの検証:PAMライブラリー消耗実験により、Cas12f.4のPAMドメインを得たが、このドメインの厳密性を検証するため、10群のPAMを設けて体内実験を行い、Cas12fのこれらのPAMに対する編集活性を測定した。まず、30ntの標的およびPAM配列をプラスミドのカナマイシン耐性遺伝子の非保存位置に組み込み、さらにCRSPR/Cas12fおよびガイドRNAで形成された複合体を使用してそれと混合して8時間培養した。プレートに塗布して集落数を統計すると、Cas12fの異なるPAM配列に対する消耗活性を判断することができる。実験結果から、CRISPR/Cas12f.4システムは5'-TTA、5'-TTT、5'-TTCおよび5'-TTGのPAMを持つ標的配列のみに対して有効に編集することができ、5'-TAT、5'-TCT、5'-TCG、5'-ATT、5'-CTTおよび5'-GTTのPAMを持つ標的配列に対して編集活性がないことが見られ、よってCas12f.4のPAMドメインに対する認識の厳密性が検証された。異なるPAMの集落を統計したところ、CRISPR/Cas12f.4システムの5'-TTA、5'-TTTおよび5'-TTCに対する編集活性が5'-TTGよりも高いことが見出された。
【0159】
実施例4. Cas12f.4、Cas12f.5、Cas12f.6のヒト細胞系における切断
Cas12f.4遺伝子を含む真核発現ベクターおよびU6プロモーターとcrRNA(配列番号25)配列を含むPCR産物をリポソーム形質移入の方法によってヒトHEK293T細胞に導入し(図3a)、37℃、二酸化炭素濃度5%で72h培養した。全部の細胞のDNAを抽出し、そして標的部位700bpを含む配列を増幅し、PCR産物をTn5で第二世代シークエンシングライブラリーの構築を行い、シークエンシングは北京安諾優達基因科技有限公司によって完成され、シークエンシング結果をヒトゲノムのVEGFA遺伝子に対してアライメントし、Cas12f.4の目的の標的部位に対する切断様態を同定し(図3b)、CRISPR/Cas12f.4システムのVEGFAの編集効率が4.2%に達し、元のシークエンシングデータは図3cに示す(図3c)。
【0160】
同様の方法によってCas12f.5、Cas12f.6のVEGFAに対する切断活性を検出し、そのcrRNAはそれぞれ配列番号26、配列番号27で示される。図3cの結果から、CRISPR/Cas12f.5、CRISPR/Cas12f.6システムのVEGFAに対する編集効率がそれぞれ0.31%と0.19%であったことが示された。
【0161】
実施例5. Cas12f.4のトウモロコシプロトプラストにおける切断
精製されたCas12f.4タンパク質(60μg)および配列番号28または29で示されるガイドRNA(120μg)を37℃で混合してリボ核タンパク質複合体(RNP)にし、さらにPEG4000によるプロトプラストで形質転換してCRISPR/Cas12f.4のRNPをトウモロコシプロトプラスト細胞に導入し、37℃で24時間暗培養した(図4a)。培養終了後、遠心して上清を除去してプロトプラストを収集し、プロトプラストDNAを抽出し、標的部位の上下流の約600bpのDNA断片を増幅した。標的部位を含むDNA断片に対してT7エンドヌクレアーゼによる酵素切断の検出を行い、結果は図4bに示すように、CRISPR/Cas12f.4システムはPDI1、SEB2.2に対して効率的な切断活性を有する。標的部位を含むDNA断片をBlunt Simpleベクターに連結し、プレートに塗布し、サーモフィッシャーサイエンティフィック(中国)有限公司によって単一クローンに対してSangerシークエンシングを行われ、シークエンシング結果をトウモロコシ群のPDI1、SEB2.2遺伝子に対してアライメントし、結果は図4b-4cに示すように、Cas12f.4の目的の標的部位に対する切断効率がそれぞれ33.5%と16.7%であったと同定された。
【0162】
本発明の具体的な実施形態はすでに詳しく説明されたが、当業者には、すでに公開されたすべての教示は、細部に対して様々な修正および変更を行うことができ、そしてこれらの変化はいずれも本発明の保護範囲内に含まれることがわかる。本発明の全部分は付属の請求の範囲およびその任意の同等物によって与えられる。
図1
図2
図3a
図3b
図3c
図4a
図4b
図4c
【配列表】
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