(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-25
(45)【発行日】2023-02-02
(54)【発明の名称】鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20230126BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20230126BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20230126BHJP
C22C 18/00 20060101ALN20230126BHJP
【FI】
C22C38/00 301S
C22C38/00 301T
C22C38/60
C21D9/46 G
C21D9/46 J
C22C18/00
(21)【出願番号】P 2021570041
(86)(22)【出願日】2021-01-04
(86)【国際出願番号】 JP2021000036
(87)【国際公開番号】W WO2021141006
(87)【国際公開日】2021-07-15
【審査請求日】2022-02-01
(31)【優先権主張番号】P 2020001531
(32)【優先日】2020-01-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】川田 裕之
(72)【発明者】
【氏名】竹田 健悟
(72)【発明者】
【氏名】塚本 絵里子
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-2333(JP,A)
【文献】特開2008-156680(JP,A)
【文献】特開2010-285656(JP,A)
【文献】特開2014-141717(JP,A)
【文献】特開2007-239097(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
C21D 8/00 - 8/04
C21D 9/46 - 9/48
C23C 2/00 - 2/40
C22C 18/00 - 18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項7】
請求項1~3のいずれか一項に記載の鋼板を製造する方法であって、
請求項1に記載の成分組成を有する鋼片を1150~1320℃に加熱し、熱間圧延完了温度が850~930℃となるように熱間圧延を完了し、1.5s以上経過後に冷却を開始し、800~450℃の温度域の平均冷却速度が20℃/s以上となるように450℃未満の温度域まで冷却して熱延鋼板とする熱間圧延工程と、
前記熱延鋼板を、450~700℃の温度域まで加熱する再加熱工程と、
前記熱延鋼板を、室温まで冷却する冷却工程と、
前記熱延鋼板を、合計圧下率が30~80%、冷間圧延完了温度が120℃以上となるように冷間圧延して冷延鋼板とする冷間圧延工程と、
前記冷延鋼板を、720~850℃の焼鈍温度に加熱し、500℃以下の温度域まで冷却する焼鈍工程と、を有し、
前記熱間圧延工程では、
1000℃以下の温度域において、下記式(6)を満たし、
前記再加熱工程では、
450~700℃の前記温度域において、下記式(7-1)および下記式(8)を満たし、
前記焼鈍工程では、
前記焼鈍温度への加熱過程において、
550~720℃の温度域において、下記式(9)を満たし、
720℃~前記焼鈍温度の温度域において、15MPa以上の張力を付与し、且つ下記式(10)を満たし、
前記焼鈍温度からの冷却過程において、
720~500℃の温度域において、下記式(11)を満たす
ことを特徴とする鋼板の製造方法。
【数1】
上記式(6)において、f
nは熱間圧延工程の1000℃以下の前記温度域における微細炭化物の析出の進行度合いを示す指標である。上記式(6)中の各符号はそれぞれ以下を表す。
n:1000℃以下での圧延パス数
h:nパス目の圧延前の板厚[mm]
h*:nパス目の圧延後の板厚[mm]
NbおよびTi:NbおよびTiの含有量[質量%]
T
n:nパス目の圧延からn+1パス目の圧延までの平均鋼板温度[℃]
t
n:nパス目の圧延からn+1パス目の圧延までの時間[s]、またはnパス目の圧延から鋼板温度が低下して800℃に到達するまでの時間[s]の短い方
a
1~11:定数(a
1=2.28×100、a
2=1.25×100、a
3=7.86×10
-4、a
4=1.36×10
-3、a
5=6.76×10
-4、a
6=7.86×10
-4、a
7=2.13×10
-3、a
8=1.14×10
-3、a
9=6.70×10
-2、a
10=1.11×10
0、a
11=5.27×10
-1)
【数2】
上記式(7-1)において、各符号はそれぞれ以下を表す。
b
1~7:定数(b
1=6.82×10
6、b
2=1.00×10
3、b
3=8.70×10
1、b
4=1.25×10
2、b
5=1.00×10
2、b
6=-1.50×10
1、b
7=-2.50×10
1)
Nb:Nb含有量[質量%]
Ti*:Ti-42/14×Nで表される有効Ti量
ただし、TiおよびNは当該元素の質量%での含有量を示し、当該元素を含有しない場合は0を代入する。
T
max:最高加熱温度[℃]
t
20:450~700℃の前記温度域における滞在時間を20等分した場合の、20番目の区間における有効熱処理時間[s]
D
20:450~700℃の温度域における滞在時間を20等分した場合の、20番目の区間における有効拡散速度を表す指標
ただし、m番目の有効熱処理時間t
mおよびm番目の有効拡散速度の指標D
mは下記式(7-2)により表される。
【数3】
上記式(7-2)において、各符号はそれぞれ以下を表す。
m:1~20の整数
b
9~11:定数(b
8=6.81×10
1、b
9=2.61×10
5、b
10=5.60×10
0、b
11=2.86×10
5)
Nb:Nb含有量[質量%]
Ti*:Ti-42/14×Nで表される有効Ti量
ただし、TiおよびNは当該元素の質量%での含有量を示し、当該元素を含有しない場合は0を代入する。
T
m:450℃~700℃の前記温度域における滞在時間を20等分した場合の、m番目の区間における平均鋼板温度[℃]
t
m:450℃~700℃の前記温度域における滞在時間を20等分した場合の、m番目の区間における有効熱処理時間[s]
但し、t
1=t‘とする
t‘:450℃~700℃の前記温度域における全滞在時間の1/20[s]
【数4】
上記式(8)において、K
20は再加熱工程の450~700℃の前記温度域における温度履歴を時間に対して20等分した場合の、20番目の区間におけるセメンタイトの安定化度合いを示す指標である。上記式(8)中の各符号はそれぞれ以下を表す。
j:1~20の整数
Si、Mn、CrおよびMo:各元素の含有量[質量%]
T
j:450℃~700℃の前記温度域における滞在時間を20等分した場合の、j番目の区間における平均鋼板温度[℃]
s
j:450℃~700℃の前記温度域における滞在時間を20等分した場合の、j番目の区間における有効熱処理時間[s]
ただし、s
1=t‘とする。
t‘:450℃~700℃の前記温度域における全滞在時間の1/20[s]
【数5】
上記式(9)において、p
10は焼鈍工程の加熱過程の550~720℃の前記温度域における滞在時間を10等分した場合の、10番目の区間における再結晶の進行度合いを示す指標である。上記式(9)中の各符号はそれぞれ以下を表す。
d
1~4:定数(d
1=4.24×10
2、d
2=2.10×10
0、d
3=1.31×10
3、d
4=7.63×10
3)
h:冷間圧延前の板厚[mm]
h*:冷間圧延後の板厚[mm]
T
R:冷間圧延完了温度[℃]
Nb:Nbの含有量[質量%]
Ti*:Ti-42/14×Nで表される有効Ti量
ただし、TiおよびNは当該元素の質量%での含有量を示し、当該元素を含有しない場合は0を代入する。
K
2:式(7-1)により得られる値
n:1~10の整数
T
n’:550~720℃の前記温度域における滞在時間を10分割した場合の、n番目の区間における平均温度[℃]
Δ
t:鋼板温度が550℃に到達したときから720℃に到達したときまでの経過時間を10分割した時間[s]
ただし、t
1=Δtとする。
【数6】
上記式(10)において、y
mは720℃~前記焼鈍温度の前記温度域における滞在時間を10等分した場合の、m番目の区間における逆変態の進行度合いを示す指標である。上記式(10)中の各符号はそれぞれ以下を表す。
e
1~4:定数(e
1=4.50×10
2、e
2=2.85×10
4、e
3=2.24×10
0、e
4=8.56×10
-8)
K
2:式(7-1)の左辺の値
K
3:式(8)により得られるK
20の値
K
4:式(9)により得られるp
10の値
Ac
1:加熱中のオーステナイト変態開始温度[℃]
Ac
3:加熱中のオーステナイト変態完了温度[℃]
T
m:720℃~前記焼鈍温度の前記温度域における滞在時間を10分割した場合の、m番目の区間における平均温度[℃]
t
m:720℃~前記焼鈍温度の前記温度域における滞在時間を10分割した場合の、m番目の区間における有効熱処理時間[s]
【数7】
上記式(11)において、各符号はそれぞれ以下を示す。
i:1~10の整数
Δ
i:750-18×Si-17×Mn-10×Cr-8×Ni+15×Al-T
i
但し、各元素は質量%での含有量を示し、当該元素を含有しない場合は0を代入する。また、Δ
iの計算値が負の値となる場合、Δ
iは0とする。
g
1~6:定数(g
1=1.00×10
-1、g
2=1.46×10
-1、g
3=1.14×10
-1、g
4=2.24×10
0、g
5=4.53×10
0、g
6=4.83×10
3)
Nb、Mo、Si、Mn、Cr、NiおよびAl:各元素の含有量[質量%]
Ti*:Ti-42/14×Nで表される有効Ti量
ただし、TiおよびNは当該元素の質量%での含有量を示し、当該元素を含有しない場合は0を代入する。
K
4:式(9)により得られるp
10の値
Ac
1:加熱中のオーステナイト変態開始温度[℃]
Ac
3:加熱中のオーステナイト変態完了温度[℃]
T
max:焼鈍温度[℃]
T
i:720~500℃の前記温度域における滞在時間を10等分した場合の、i番目の区間における平均温度[℃]
Δt:720~500℃の前記温度域における全滞在時間を10等分した時間[s]
【請求項10】
前記焼鈍工程の前記冷却過程において、前記溶融亜鉛めっき処理後または前記溶融亜鉛合金めっき処理後に合金化処理を施すことを特徴とする、請求項8または9に記載の鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板およびその製造方法に関する。本願は、2020年1月8日に、日本に出願された特願2020-001531号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車には、車体を軽量化して燃費を高め、炭酸ガスの排出量を低減するため、また、衝突時、衝突エネルギーを吸収して、搭乗者の保護・安全を確保するため、高強度鋼板が多く使用されている。しかし、一般に、鋼板を高強度化すると、変形能(延性、曲げ性等)が低下する。鋼板の変形能が低下すると、プレス成形時の寸法精度が優れない場合がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、高い強度と優れた成形性とを両立できる引張強さが900MPa以上の高強度鋼板が開示されている。特許文献1では、鋼組織において、面積率で、フェライトを5%以上80%以下、オートテンパードマルテンサイトを15%以上とするとともに、ベイナイトを10%以下、残留オーステナイトを5%以下、焼入れままのマルテンサイトを40%以下とし、オートテンパードマルテンサイトの平均硬さをHV≦700、かつオートテンパードマルテンサイト中における5nm以上0.5μm以下の鉄系炭化物の平均析出個数を1mm2あたり5×104個以上としている。
【0004】
特許文献2には、引張強さ:900MPa以上を有し、かつ良好な溶接性を有し、伸びも良好である薄鋼板が開示されている。特許文献2の薄鋼板は、フェライトが面積率で25%以上65%以下、マルテンサイト粒内に鉄系炭化物が析出したマルテンサイトが面積率で35%以上75%以下、残部組織として前記フェライトおよび前記マルテンサイト以外を面積率が合計で20%以下(0%を含む)含み、前記フェライトおよび前記マルテンサイトの平均粒径がそれぞれ5μm以下であり、前記フェライトと前記マルテンサイトとの界面上のSiおよびMnの合計が原子濃度で5%以上である鋼組織を有することが開示されている。
【0005】
特許文献3には、フェライトおよびベイナイトを合計で60面積%以上、並びに残留オーステナイトを3面積%以上、20面積%以下含有し、前記フェライト及びベイナイトの平均粒径が0.5μm以上、6.0μm以下、前記残留オーステナイト中のC濃度が0.5質量%以上、1.2質量%以下である鋼組織を有し、鋼板表面から50μm深さ位置における圧延方向に展伸したMn濃化部及びSi濃化部の圧延直角方向の平均間隔が1000μm以下である元素濃度分布を有し、鋼板表面のクラックの最大深さが4.5μm以下であり、かつ、幅6μm以下で深さ2μm以上のクラックの数密度が10個/50μm以下である表面性状を有し、引張強度(TS)が800MPa以上、1200MPa以下、3%以上、8%以下の塑性ひずみ域における加工硬化指数(n3-8)が0.10以上、曲げ性が式(R/t≦1.5)を満たす機械特性を有する冷延鋼板が開示されている。
【0006】
特許文献4には、質量%で、C:0.03%以上0.15%以下、Si:1.5%以下、Mn:0.6%以下、P:0.05%以下、S:0.01%以下、Al:0.08%以下、N:0.0080%以下、Ti:0.04%以上0.18%以下を含有する組成を有し、フェライト相の面積率が90%以上、コイル面内における該フェライト相の面積率のばらつきが3%以下、前記フェライト相に対する加工フェライトの面積率が15%以下、前記フェライト相の結晶粒内のTiを含む炭化物の平均粒子径が10nm以下、含有するTi量に対しマトリックス中に固溶状態として存在するTi量の割合が10%未満である高強度冷延鋼板が開示されている。
【0007】
しかしながら、本発明者らが検討を行った結果、特許文献1~4では、プレス成形時の寸法精度が十分でない場合があることが分かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2009/096596号
【文献】国際公開第2018/030503号
【文献】日本国特許第5659929号公報
【文献】日本国特開2015-147967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述の通り、高強度鋼板において、成形性および強度の向上に加え、プレス成形時の寸法精度の向上が求められていることに鑑みてなされた。本発明は、高強度鋼板(亜鉛めっき鋼板、亜鉛合金めっき鋼板、合金化亜鉛めっき鋼板、合金化亜鉛合金めっき鋼板を含む)において、成形性、強度およびプレス成形時の寸法精度に優れる鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明者らが検討した結果、本発明者らは以下の知見を得た。
成形性、強度およびプレス成形時の寸法精度に優れる鋼板を得るためには、プレス成形時の寸法精度のバラツキを大きくする、鋼板の板幅方向における特性変動を抑制する必要がある。具体的には、鋼板の板幅方向において、フェライトの面積率、フェライトの平均結晶粒径、未再結晶フェライトの面積率、炭窒化物の平均径の変動を抑制することが重要である。
【0011】
上記知見に基づいてなされた本発明の要旨は以下の通りである。
[1]本発明の一態様に係る鋼板は、
成分組成が、質量%で、
C:0.035~0.150%、
Si:0.010~1.500%、
Mn:0.10~3.00%、
Al:0.005~1.000%、
P:0.100%以下、
S:0.0200%以下、
N:0.0150%以下、
O:0.0100%以下、
V:0~0.50%、
Cr:0~1.00%、
Ni:0~1.00%、
Cu:0~1.00%、
Mo:0~1.00%、
W:0~1.00%、
B:0~0.0100%、
Sn:0~1.00%、
Sb:0~0.20%、
Nb:0~0.060%、
Ti:0~0.100%、
Ca:0~0.0100%、
Mg:0~0.0100%、
Zr:0~0.0100%、
REM:0~0.0100%、及び
残部:Feおよび不純物であり、
下記式(1-1)~(1-3)を満たし、
板幅方向端部から板幅方向に板幅の1/4位置且つ表面から板厚方向に板厚の1/4位置である1/4幅部におけるミクロ組織と、板幅方向端部から板幅方向に板幅の1/2位置且つ表面から板厚方向に板厚の1/4位置である1/2幅部におけるミクロ組織と、板幅方向端部から板幅方向に板幅の3/4位置且つ表面から板厚方向に板厚の1/4位置である3/4幅部におけるミクロ組織とが、
面積%で、フェライト:80%以上、マルテンサイト:2%以下および残留オーステナイト:2%以下、及び、残部組織であり、
前記フェライトに占める未再結晶フェライトの割合が5~60%であり、
炭窒化物の平均径が6.0~30.0nmであり、
下記式(2)~(5)を満たし、
0.2%耐力が280~600MPaであり、
引張強さが450~800MPaであり、
降伏比が0.50~0.90であり、及び
均一伸びが10.0%以上である
ことを特徴とする鋼板。
1.5×Nb+Ti≧0.015…(1-1)
0.03≦{(Ti/48-N/14)+Nb/93}/(C/12)≦0.40…(1-2)
Ca+Mg+Zr+REM≦0.0100…(1-3)
Δ
SF/μ
SF≦0.10 …(2)
Δ
dF/μ
dF≦0.20 …(3)
Δ
SUF≦20 …(4)
Δ
dC/μ
dC≦0.50 …(5)
なお、上記式(1-1)~(1-3)中のTi、N、Nb、C、Ca、Mg、Zr及びREMは各元素の質量%での含有量を示し、当該元素を含有しない場合は0%を代入し、前記(Ti/48-N/14)の値が負となる場合、前記(Ti/48-N/14)の値として0を代入し、
前記式(2)中のμ
SFは、前記1/4幅部における前記ミクロ組織中のフェライトの面積率、前記1/2幅部における前記ミクロ組織中のフェライトの面積率、および前記3/4幅部における前記ミクロ組織中のフェライトの面積率の平均値であり、Δ
SFは前記1/4幅部、前記1/2幅部および前記3/4幅部における前記ミクロ組織中のフェライトの面積率の最大値と最小値との差であり、
前記式(3)中のμ
dFは、前記1/4幅部における前記ミクロ組織中のフェライトの平均結晶粒径、前記1/2幅部における前記ミクロ組織中のフェライトの平均結晶粒径、および前記3/4幅部における前記ミクロ組織中のフェライトの平均結晶粒径の平均値であり、Δ
dFは前記1/4幅部、前記1/2幅部および前記3/4幅部における前記ミクロ組織中のフェライトの平均結晶粒径の最大値と最小値との差であり、
前記式(4)中のΔ
SUFは前記1/4幅部、前記1/2幅部および前記3/4幅部における前記ミクロ組織中の未再結晶フェライトの面積率の最大値と最小値との差であり、
前記式(5)中のμ
dCは、前記1/4幅部における前記ミクロ組織中の炭窒化物の平均径、前記1/2幅部における前記ミクロ組織中の炭窒化物の平均径、および前記3/4幅部における前記ミクロ組織中の炭窒化物の平均径の平均値であり、Δ
dCは前記1/4幅部、前記1/2幅部および前記3/4幅部における前記ミクロ組織中の炭窒化物の平均径の最大値と最小値との差である。
[2]上記[1]に記載の鋼板は、前記成分組成が、質量%で、Mn:0.70~3.00%、であってもよい。
[3]上記[1]または[2]に記載の鋼板は、前記1/4幅部、前記1/2幅部および前記3/4幅部における前記フェライトの平均結晶粒径が5.0~15.0μmであってもよい。
[4]上記[1]~[3]のいずれか一項に記載の鋼板は、前記表面に亜鉛めっき層を有してもよい。
[5]上記[1]~[3]のいずれか一項に記載の鋼板は、前記表面に亜鉛合金めっき層を有してもよい。
[6]上記[4]または[5]に記載の鋼板は、前記亜鉛めっき層または前記亜鉛合金めっき層中のFe含有量が、質量%で、7.0~13.0%であってもよい。
[7]本発明の別の態様に係る鋼板の製造方法は、上記[1]~[3]のいずれか一項に記載の鋼板を製造する方法であって、
上記[1]に記載の成分組成を有する鋼片を1150~1320℃に加熱し、熱間圧延完了温度が850~930℃となるように熱間圧延を完了し、1.5s以上経過後に冷却を開始し、800~450℃の温度域の平均冷却速度が20℃/s以上となるように450℃未満の温度域まで冷却して熱延鋼板とする熱間圧延工程と、
前記熱延鋼板を、450~700℃の温度域まで加熱する再加熱工程と、
前記熱延鋼板を、室温まで冷却する冷却工程と、
前記熱延鋼板を、合計圧下率が30~80%、冷間圧延完了温度が120℃以上となるように冷間圧延して冷延鋼板とする冷間圧延工程と、
前記冷延鋼板を、720~850℃の焼鈍温度に加熱し、500℃以下の温度域まで冷却する焼鈍工程と、を有し、
前記熱間圧延工程では、
1000℃以下の温度域において、下記式(6)を満たし、
前記再加熱工程では、
450~700℃の前記温度域において、下記式(7-1)および下記式(8)を満たし、
前記焼鈍工程では、
前記焼鈍温度への加熱過程において、
550~720℃の温度域において、下記式(9)を満たし、
720℃~前記焼鈍温度の温度域において、15MPa以上の張力を付与し、且つ下記式(10)を満たし、
前記焼鈍温度からの冷却過程において、
720~500℃の温度域において、下記式(11)を満たす
ことを特徴とする鋼板の製造方法。
【数1】
上記式(6)において、f
nは熱間圧延工程の1000℃以下の前記温度域における微細炭化物の析出の進行度合いを示す指標である。上記式(6)中の各符号はそれぞれ以下を表す。
n:1000℃以下での圧延パス数
h:nパス目の圧延前の板厚[mm]
h*:nパス目の圧延後の板厚[mm]
NbおよびTi:NbおよびTiの含有量[質量%]
T
n:nパス目の圧延からn+1パス目の圧延までの平均鋼板温度[℃]
t
n:nパス目の圧延からn+1パス目の圧延までの時間[s]、またはnパス目の圧延から鋼板温度が低下して800℃に到達するまでの時間[s]の短い方
a
1~11:定数(a
1=2.28×100、a
2=1.25×100、a
3=7.86×10
-4、a
4=1.36×10
-3、a
5=6.76×10
-4、a
6=7.86×10
-4、a
7=2.13×10
-3、a
8=1.14×10
-3、a
9=6.70×10
-2、a
10=1.11×10
0、a
11=5.27×10
-1)
【数2】
上記式(7-1)において、各符号はそれぞれ以下を表す。
b
1~7:定数(b
1=6.82×10
6、b
2=1.00×10
3、b
3=8.70×10
1、b
4=1.25×10
2、b
5=1.00×10
2、b
6=-1.50×10
1、b
7=-2.50×10
1)
Nb:Nb含有量[質量%]
Ti*:Ti-42/14×Nで表される有効Ti量
ただし、TiおよびNは当該元素の質量%での含有量を示し、当該元素を含有しない場合は0を代入する。
T
max:最高加熱温度(℃)
t
20:450~700℃の前記温度域における滞在時間を20等分した場合の、20番目の区間における有効熱処理時間(s)
D
20:450~700℃の温度域における滞在時間を20等分した場合の、20番目の区間における有効拡散速度を表す指標
ただし、m番目の有効熱処理時間t
mおよびm番目の有効拡散速度の指標D
mは下記式(7-2)により表される。
【数3】
上記式(7-2)において、各符号はそれぞれ以下を表す。
m:1~20の整数
b
9~11:定数(b
8=6.81×10
1、b
9=2.61×10
5、b
10=5.60×10
0、b
11=2.86×10
5)
Nb:Nb含有量[質量%]
Ti*:Ti-42/14×Nで表される有効Ti量
ただし、TiおよびNは当該元素の質量%での含有量を示し、当該元素を含有しない場合は0を代入する。
T
m:450℃~700℃の前記温度域における滞在時間を20等分した場合の、m番目の区間における平均鋼板温度[℃]
t
m:450℃~700℃の前記温度域における滞在時間を20等分した場合の、m番目の区間における有効熱処理時間[s]
但し、t
1=t‘とする
t‘:450℃~700℃の前記温度域における全滞在時間の1/20[s]
【数4】
上記式(8)において、K
20は再加熱工程の450~700℃の前記温度域における温度履歴を時間に対して20等分した場合の、20番目の区間におけるセメンタイトの安定化度合いを示す指標である。上記式(8)中の各符号はそれぞれ以下を表す。
j:1~20の整数
Si、Mn、CrおよびMo:各元素の含有量[質量%]
T
j:450℃~700℃の前記温度域における滞在時間を20等分した場合の、j番目の区間における平均鋼板温度[℃]
s
j:450℃~700℃の前記温度域における滞在時間を20等分した場合の、j番目の区間における有効熱処理時間[s]
ただし、s
1=t‘とする。
t‘:450℃~700℃の前記温度域における全滞在時間の1/20[s]
【数5】
上記式(9)において、p
10は焼鈍工程の加熱過程の550~720℃の前記温度域における滞在時間を10等分した場合の、10番目の区間における再結晶の進行度合いを示す指標である。上記式(9)中の各符号はそれぞれ以下を表す。
d
1~4:定数(d
1=4.24×10
2、d
2=2.10×10
0、d
3=1.31×10
3、d
4=7.63×10
3)
h:冷間圧延前の板厚[mm]
h*:冷間圧延後の板厚[mm]
T
R:冷間圧延完了温度[℃]
Nb:Nbの含有量[質量%]
Ti*:Ti-42/14×Nで表される有効Ti量
ただし、TiおよびNは当該元素の質量%での含有量を示し、当該元素を含有しない場合は0を代入する。
K
2:式(7-1)により得られる値
n:1~10の整数
T
n’:550~720℃の前記温度域における滞在時間を10分割した場合の、n番目の区間における平均温度[℃]
Δ
t:鋼板温度が550℃に到達したときから720℃に到達したときまでの経過時間を10分割した時間[s]
ただし、t
1=Δtとする。
【数6】
上記式(10)において、y
mは720℃~前記焼鈍温度の前記温度域における滞在時間を10等分した場合の、m番目の区間における逆変態の進行度合いを示す指標である。上記式(10)中の各符号はそれぞれ以下を表す。
e
1~4:定数(e
1=4.50×10
2、e
2=2.85×10
4、e
3=2.24×10
0、e
4=8.56×10
-8)
K
2:式(7-1)の左辺の値
K
3:式(8)により得られるK
20の値
K
4:式(9)により得られるp
10の値
Ac
1:加熱中のオーステナイト変態開始温度[℃]
Ac
3:加熱中のオーステナイト変態完了温度[℃]
T
m:720℃~前記焼鈍温度の前記温度域における滞在時間を10分割した場合の、m番目の区間における平均温度[℃]
t
m:720℃~前記焼鈍温度の前記温度域における滞在時間を10分割した場合の、m番目の区間における有効熱処理時間[s]
【数7】
上記式(11)において、各符号はそれぞれ以下を示す。
i:1~10の整数
Δ
i:750-18×Si-17×Mn-10×Cr-8×Ni+15×Al-T
i
但し、各元素は質量%での含有量を示し、当該元素を含有しない場合は0を代入する。また、Δ
iの計算値が負の値となる場合、Δ
iは0とする。
g
1~6:定数(g
1=1.00×10
-1、g
2=1.46×10
-1、g
3=1.14×10
-1、g
4=2.24×10
0、g
5=4.53×10
0、g
6=4.83×10
3)
Nb、Mo、Si、Mn、Cr、NiおよびAl:各元素の含有量[質量%]
Ti*:Ti-42/14×Nで表される有効Ti量
ただし、TiおよびNは当該元素の質量%での含有量を示し、当該元素を含有しない場合は0を代入する。
K
4:式(9)により得られるp
10の値
Ac
1:加熱中のオーステナイト変態開始温度[℃]
Ac
3:加熱中のオーステナイト変態完了温度[℃]
T
max:焼鈍温度[℃]
T
i:720~500℃の前記温度域における滞在時間を10等分した場合の、i番目の区間における平均温度[℃]
Δt:720~500℃の前記温度域における全滞在時間を10等分した時間[s]
[8]上記[7]に記載の鋼板の製造方法は、前記焼鈍工程の前記冷却過程において、前記冷延鋼板に溶融亜鉛めっき処理を施してもよい。
[9]上記[7]に記載の鋼板の製造方法は、前記焼鈍工程の前記冷却過程において、前記冷延鋼板に溶融亜鉛合金めっき処理を施してもよい。
[10]上記[8]または[9]に記載の鋼板の製造方法は、前記焼鈍工程の前記冷却過程において、前記溶融亜鉛めっき処理後または前記溶融亜鉛合金めっき処理後に合金化処理を施してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る上記態様によれば、成形性、強度およびプレス成形時の寸法精度に優れる鋼板およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本実施形態に係る鋼板およびその製造条件について、順次説明する。まず、本実施形態に係る鋼板の成分組成(化学組成)の限定理由について説明する。以下に記載する「~」を挟んで記載される数値限定範囲には、下限値および上限値がその範囲に含まれる。「未満」、「超」と示す数値には、その値が数値範囲に含まれない。成分組成についての%は全て質量%を示す。
【0014】
本実施形態に係る鋼板は、成分組成が、質量%で、C:0.035~0.150%、Si:0.010~1.500%、Mn:0.10~3.00%、Al:0.005~1.000%、P:0.100%以下、S:0.0200%以下、N:0.0150%以下、O:0.0100%以下、V:0~0.50%、Cr:0~1.00%、Ni:0~1.00%、Cu:0~1.00%、Mo:0~1.00%、W:0~1.00%、B:0~0.0100%、Sn:0~1.00%、Sb:0~0.20%、Nb:0~0.060%、Ti:0~0.100%、Ca:0~0.0100%、Mg:0~0.0100%、Zr:0~0.0100%、REM:0~0.0100%、及び残部:Feおよび不純物であり、式(1-1)~(1-3)を満たす。
1.5×Nb+Ti≧0.015…(1-1)
(0.03≦{(Ti/48-N/14)+Nb/93}/(C/12)≦0.40)…(1-2)
Ca+Mg+Zr+REM≦0.0100…(1-3)
以下、各元素について説明する。
【0015】
C:0.035~0.150%
Cは、鋼板の強度を大きく高める元素である。C含有量が0.035%以上であると、十分な引張強さが得られるので、C含有量は0.035%以上とする。鋼板の引張強度をより高めるため、C含有量は、好ましくは0.040%以上、より好ましくは0.050%以上である。
一方、C含有量が0.150%以下であると、熱処理(焼鈍)後に多量の残留オーステナイトが生成することを抑制でき、所望のミクロ組織を得ることができる。そのため、C含有量は0.150%以下とする。C含有量は、0.130%以下が好ましく、0.110%以下または0.090%以下がより好ましい。
【0016】
Si:0.010~1.500%
Siは、鉄系炭化物を微細化し、鋼板の強度-成形性バランスの向上に寄与する元素である。鋼板の強度-成形性バランスを向上するために、Si含有量は0.010%以上とする。好ましくは、0.050%以上であり、強度を上昇させるには0.100%以上であることが好ましい。
また、Si含有量が1.500%以下であると、破壊の起点として働く粗大なSi酸化物が形成されることを抑制でき、割れが発生しにくくなり、鋼の脆化を抑制できる。そのため、Si含有量は1.500%以下とする。Si含有量は1.300%以下または1.000%以下が好ましく、0.800%以下、0.600%以下または0.400%以下がより好ましい。
【0017】
Mn:0.10~3.00%
Mnは、鋼の焼入れ性を高めて、強度の向上に寄与する元素である。所望の強度を得るために、Mn含有量は0.10%以上とする。好ましくは、0.50%以上である。強度に加え、より高度なプレス成形後の寸法精度を得るために、より好ましくは、0.60%超である。さらに好ましくは、0.70%以上または1.00%以上である。
また、Mn含有量が3.00%以下であると、鋳造時のMnの偏在により鋼板内のマクロな均質性が損なわれることを抑制でき、鋼板の成形性を確保することができる。そのため、Mn含有量は3.00%以下とする。より良好な成形性を得るために、Mn含有量は、2.80%以下または2.60%以下が好ましく、2.30%以下、2.00%以下または1.70%以下がより好ましい。
【0018】
Al:0.005~1.000%
Alは、脱酸材として機能する元素である。Al含有量が0.005%以上であると、脱酸効果を十分に得ることができるので、Al含有量は0.005%以上とする。好ましくは0.010%以上であり、より好ましくは0.020%以上である。
また、Alは破壊の起点となる粗大な酸化物を形成し、鋼を脆化する元素でもある。Al含有量が1.000%以下であると、破壊の起点として働く粗大な酸化物の生成を抑制でき、鋳片が割れ易くなることを抑制できる。そのため、Al含有量は1.000%以下とする。Al含有量は0.800%以下または0.6000%以下が好ましく、0.300%以下、0.150%以下または0.080%以下がより好ましい。
【0019】
P:0.100%以下
Pは、鋼を脆化し、また、スポット溶接で生じる溶融部を脆化する元素である。P含有量が0.100%以下であると、鋼板が脆化して生産工程において割れ易くなることを抑制できる。そのため、P含有量は0.100%以下とする。生産性の観点から、P含有量は0.050%以下が好ましく、0.030%以下がより好ましい。
不純物であるP含有量の下限は0%である。P含有量を0.001%未満となることはほとんどなく、0.001%を下限としてもよい。
【0020】
S:0.0200%以下
Sは、Mn硫化物を形成し、延性、穴拡げ性、伸びフランジ性および曲げ性などの成形性を劣化させる元素である。S含有量が0.0200%以下であると、鋼板の成形性が著しく低下することを抑制できるので、S含有量は0.0200%以下とする。S含有量は0.0100%以下が好ましく、0.0080%以下がより好ましい。
不純物であるS含有量の下限は0%である。S含有量を0.0001%未満となることはほとんどなく、0.0001%を下限としてもよい。
【0021】
Nb:0~0.060%、
Ti:0~0.100%及び
1.5×Nb+Ti≧0.015…(1-1)
本実施形態に係る鋼板の化学組成は、Nb:0~0.060%Ti:0~0.100%、及び上記式(1-1)を満たす。Nbは、析出物による強化、フェライト結晶粒の成長抑制による細粒化強化及び再結晶の抑制による転位強化によって、鋼板強度の向上に寄与する元素である。Tiは、破壊の起点として働く粗大な介在物を発生させるS、NおよびOを低減する効果を有する元素である。また、Tiは組織を微細化し、鋼板の強度-成形性バランスを高める効果がある。これらの効果を得るために、本実施形態に係る鋼板の化学組成は、上記式(1-1)を満たす。つまり、1.5×Nb+Ti≧0.015とする。なお、必要に応じて、上記式(1-1)の右辺、つまり「1.5×Nb+Ti」の下限を、0.020%又は0.025%としてもよい。
【0022】
Nb含有量が0.060%以下であると、再結晶を促進して未再結晶フェライトが残存することを抑制でき、鋼板の成形性を確保することができる。そのため、Nb含有量は0.060%以下とする。Nb含有量は好ましくは0.050%以下であり、より好ましくは0.040%以下である。Ti含有量が0.100%以下であると、粗大なTi硫化物、Ti窒化物、Ti酸化物の形成を抑制でき、鋼板の成形性を確保することができる。そのため、Ti含有量は0.100%以下とする。Ti含有量は0.075%以下とすることが好ましく、0.060%以下とすることがより好ましい。上記式(1-1)を満足する限り、Nb含有量又はTi含有量の下限は0%である。上記式(1-1)を削除し、Nb含有量の下限を0.010%とし、Ti含有量の下限を0.015%とし、Nb又はTiのいずれかがこの下限以上であることとしてもよい。なお、上記式(1-3)中のNbおよびTiは各元素の質量%での含有量を示し、当該元素を含有しない場合は0を代入する。
【0023】
0.03≦{(Ti/48-N/14)+Nb/93}/(C/12)≦0.40…(1-2)
本実施形態に係る鋼板の化学組成は、上記式(1-2)を満たす。上記式(1-2)を満たすことで、ミクロ組織中のセメンタイト量が増加して鋼板の成形性が劣化することを抑制できる。
なお、上記式(1-2)中のTi、N、NbおよびCは各元素の質量%での含有量を示し、当該元素を含有しない場合は0を代入する。また、TiとNを含むカッコ内の値(Ti/48-N/14)が負となる場合、当該カッコ内の値として0を代入する。
【0024】
N:0.0150%以下
Nは、窒化物を形成し、延性、穴拡げ性、伸びフランジ性および曲げ性などの成形性を劣化させる元素である。N含有量が0.0150%以下であると、鋼板の成形性が低下することを抑制できので、N含有量は0.0150%以下とする。また、Nは、溶接時に溶接欠陥を発生させて生産性を阻害する元素でもある。そのため、N含有量は、好ましくは0.0120%以下であり、より好ましくは0.0100%以下または0.0070%以下である。
不純物であるN含有量の下限は0%である。N含有量を0.0005%未満となることはほとんどなく、0.0005%を下限としてもよい。
【0025】
O:0.0100%以下
Oは、酸化物を形成し、延性、穴拡げ性、伸びフランジ性および曲げ性などの成形性を阻害する元素である。O含有量が0.0100%以下であると、鋼板の成形性が著しく低下することを抑制できるので、O含有量は0.0100%以下とする。好ましくは0.0080%以下、より好ましくは0.0050%以下または0.0030%以下である。
不純物であるO含有量の下限は0%である。O含有量を0.0001%未満となることはほとんどなく、0.0001%を下限としてもよい。
【0026】
本実施形態に係る鋼板は、任意元素として、以下の元素を含有してもよい。以下の任意元素を含有しない場合の含有量、つまり以下の元素の含有量の下限は0%である。
【0027】
V:0~0.50%
Vは、析出物による強化、フェライト結晶粒の成長抑制による細粒化強化及び再結晶の抑制による転位強化によって、鋼板強度の向上に寄与する元素である。Vは必ずしも含有させなくてよいので、V含有量の下限は0%を含む。Vによる強度向上効果を十分に得るには、V含有量は、0.01%以上が好ましく、0.03%以上がより好ましい。
また、V含有量が0.50%以下であると、炭窒化物が多量に析出して鋼板の成形性が低下することを抑制できる。そのため、V含有量は、0.50%以下とする。
【0028】
Cr:0~1.00%
Crは、鋼の焼入れ性を高め、鋼板強度の向上に寄与する元素であり、Mnの一部に替わり得る元素である。Crは必ずしも含有させなくてよいので、Cr含有量の下限は0%を含む。Crによる強度向上効果を十分に得るには、Cr含有量は、0.05%以上が好ましく、0.20%以上がより好ましい。
また、Cr含有量が1.00%以下であると、破壊の起点となり得る粗大なCr炭化物が形成されることを抑制できる。そのため、Cr含有量は1.00%以下とする。
【0029】
Ni:0~1.00%
Niは、高温での相変態を抑制し、鋼板強度の向上に寄与する元素であり、Mnの一部に替わり得る元素である。Niは必ずしも含有させなくてよいので、Ni含有量の下限は0%を含む。Niによる強度向上効果を十分に得るには、Ni含有量は、0.05%以上が好ましく、0.20%以上がより好ましい。
また、Ni含有量が1.00%以下であると、鋼板の溶接性が低下することを抑制できるので、Ni含有量は1.00%以下とする。
【0030】
Cu:0~1.00%
Cuは、微細な粒子で鋼中に存在し、鋼板強度の向上に寄与する元素であり、Cおよび/またはMnの一部に替わり得る元素である。Cuは必ずしも含有させなくてよいので、Cu含有量の下限は0%を含む。Cuによる強度向上効果を十分に得るには、Cu含有量は、0.05%以上が好ましく、0.15%以上がより好ましい。
また、Cu含有量が1.00%以下であると、鋼板の溶接性が低下することを抑制できるので、Cu含有量は1.00%以下とする。
【0031】
Mo:0~1.00%
Moは、高温での相変態を抑制し、鋼板強度の向上に寄与する元素であり、又はMnの一部に替わり得る元素である。Moは必ずしも含有させなくてよいので、Mo含有量の下限は0%を含む。Moによる強度向上効果を十分に得るためには、Mo含有量は、0.03%以上が好ましく、0.06%以上がより好ましい。
また、Mo含有量が1.00%以下であると、熱間加工性が低下して生産性が低下することを抑制できる。そのため、Mo含有量は、1.00%以下とする。
【0032】
W:0~1.00%
Wは、高温での相変態を抑制し、鋼板強度の向上に寄与する元素であり、Cおよび/またはMnの一部に替わり得る元素である。Wは必ずしも含有させなくてよいので、W含有量の下限は0%を含む。Wによる強度向上効果を十分に得るには、W含有量は、0.03%以上が好ましく、0.10%以上がより好ましい。
また、W含有量が1.00%以下であると、熱間加工性が低下して生産性が低下することを抑制できるので、W含有量は1.00%以下とする。
【0033】
B:0~0.0100%
Bは、高温での相変態を抑制し、鋼板強度の向上に寄与する元素であり、Mnの一部に替わり得る元素である。Bは必ずしも含有させなくてよいので、B含有量の下限は0%を含む。Bによる強度向上効果を十分に得るには、B含有量は、0.0005%以上が好ましく、0.0010%以上がより好ましい。
また、B含有量が0.0100%以下であると、B析出物が生成して鋼板の強度が低下することを抑制できるため、B含有量は0.0100%以下とする。
【0034】
Sn:0~1.00%
Snは、結晶粒の粗大化を抑制し、鋼板強度の向上に寄与する元素である。Snは必ずしも含有させなくてよいので、Sn含有量の下限は0%を含む。Snによる効果を十分に得るには、Sn含有量は、0.01%以上がより好ましい。
また、Sn含有量が1.00%以下であると、鋼板が脆化して圧延時に破断することを抑制できるので、Sn含有量は1.00%以下とする。
【0035】
Sb:0~0.20%
Sbは、結晶粒の粗大化を抑制し、鋼板強度の向上に寄与する元素である。Sbは必ずしも含有させなくてよいので、Sb含有量の下限は0%を含む。上記効果を十分に得るには、Sb含有量は、0.005%以上が好ましい。
また、Sb含有量が0.20%以下であると、鋼板が脆化して圧延時に破断することを抑制できるので、Sb含有量は0.20%以下とする。
本実施形態に係る鋼板の成分組成は、必要に応じて、Ca、Ce、Mg、Zr、LaおよびREMの1種又は2種以上を含んでもよい。
Ca、Ce、Mg、Zr、LaおよびREMの1種又は2種以上:合計で0~0.0100%
Ca、Ce、Mg、Zr、LaおよびREMは、鋼板の成形性の向上に寄与する元素である。Ca、Ce、Mg、Zr、LaおよびREMの1種又は2種以上の合計の下限は0%を含むが、成形性向上効果を十分に得るには、合計で0.0001%以上が好ましく、0.0010%以上がより好ましい。
また、Ca、Ce、Mg、Zr、La、REMの1種又は2種以上の含有量の合計が0.0100%以下であると、鋼板の延性が低下することを抑制できる。そのため、上記元素の含有量は、合計で0.0100%以下とする。好ましくは0.0050%以下である。
REM(Rare Earth Metal)は、ランタノイド系列に属する元素群のうち、個別に特定するLa、Ceを除く元素群を意味する。これらは、多くの場合、ミッシュメタルの形態で添加するが、La、Ceの他に、ランタノイド系列の元素を不可避的に含有していてもよい。
【0036】
Ca:0~0.0100%、
Mg:0~0.0100%、
Zr:0~0.0100%、
REM:0~0.0100%、及び
Ca+Mg+Zr+REM≦0.0100…(1-3)
Ca、Mg、Zr、およびREMは、鋼板の成形性の向上に寄与する元素であり、含有することができる。これらの元素の含有量がそれぞれ0.0100%を超えると、成形性が劣化する懸念があり、これらの元素の含有量はそれぞれ0.0100%以下とする。
本実施形態に係る鋼板の化学組成は、上記式(1-3)を満たす。Ca、Mg、ZrおよびREMは必ずしも含有させなくてもよいので、Ca、Mg、ZrおよびREMの1種又は2種以上の合計の下限は0%を含む。一方、Ca、Mg、ZrおよびREMは、鋼板の成形性の向上に寄与する元素である。そのため、「Ca+Mg+Zr+REM」の下限は0.0001%であってもよい。成形性向上効果を十分に得るには、好ましくは「Ca+Mg+Zr+REM」の下限は0.0005%以上であり、より好ましくは0.0010%以上である。
また、上記式(1-3)つまり「Ca+Mg+Zr+REM≦0.0100」を満たすことで、鋼板の延性が低下することを抑制できる。好ましくは「Ca+Mg+Zr+REM」の上限は0.0070%又は0.0050%である。
REM(Rare Earth Metal)は、ランタノイド系列に属する元素群を意味する。これらは、多くの場合、ミッシュメタルの形態で添加するが、ランタノイド系列の元素を不可避的に含有していてもよい。REMとして例えば、Ce及びLaが挙げられる。
なお、上記式(1-3)中のCa、Mg、ZrおよびREMは各元素の質量%での含有量を示し、当該元素を含有しない場合は0を代入する。
【0037】
本実施形態に係る鋼板の成分組成の残部は、Fe及び不純物であってもよい。不純物としては、鋼原料もしくはスクラップから及び/又は製鋼過程で不可避的に混入し、本実施形態に係る鋼板の特性を阻害しない範囲で許容される元素が例示される。不純物として、H、Na、Cl、Co、Zn、Ga、Ge、As、Se、Y、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Te、Cs、Ta、Re、Os、Ir、Pt、Au、Pb、Bi、Poが挙げられる。不純物は、合計で0.100%以下含んでもよい。
【0038】
次に、本実施形態に係る鋼板のミクロ組織について説明する。
本実施形態に係る鋼板は、板幅方向端部から板幅方向に板幅の1/4位置且つ表面から板厚方向に板厚の1/4位置である1/4幅部におけるミクロ組織と、板幅方向端部から板幅方向に板幅の1/2位置且つ表面から板厚方向に板厚の1/4位置である1/2幅部におけるミクロ組織と、板幅方向端部から板幅方向に板幅の3/4位置且つ表面から板厚方向に板厚の1/4位置である3/4幅部におけるミクロ組織とにおいて、面積%で、フェライト:80%以上、マルテンサイト:2%以下、残留オーステナイト:2%以下、および残部組織であり、前記フェライトに占める未再結晶フェライトの割合が5~60%であり、炭窒化物の平均径が6.0~30.0nmであり、下記式(2)~(5)を満たすことを特徴とする。
本実施形態において、表面から板厚方向に板厚の1/4位置におけるミクロ組織を規定するのは、この位置のミクロ組織が鋼板の代表的なミクロ組織を示し、鋼板の機械特性との相関が強いからである。なお、ミクロ組織における下記組織の割合は、いずれも面積率(面積%)である。
【0039】
ΔSF/μSF≦0.10 …(2)
ΔdF/μdF≦0.20 …(3)
ΔSUF≦20 …(4)
ΔdC/μdC≦0.50 …(5)
【0040】
上記式(2)中のμSFは、前記1/4幅部における前記ミクロ組織中のフェライトの面積率、前記1/2幅部における前記ミクロ組織中のフェライトの面積率、および前記3/4幅部における前記ミクロ組織中のフェライトの面積率の平均値(3つの面積率の平均値)であり、ΔSFは前記1/4幅部、前記1/2幅部および前記3/4幅部における前記ミクロ組織中のフェライトの面積率の最大値と最小値との差であり、
上記式(3)中のμdFは、前記1/4幅部における前記ミクロ組織中のフェライトの平均結晶粒径、前記1/2幅部における前記ミクロ組織中のフェライトの平均結晶粒径、および前記3/4幅部における前記ミクロ組織中のフェライトの平均結晶粒径の平均値(3つの平均値の平均値)であり、ΔdFは前記1/4幅部、前記1/2幅部および前記3/4幅部における前記ミクロ組織中のフェライトの平均結晶粒径の最大値と最小値との差である。
上記式(4)中のΔSUFは前記1/4幅部、前記1/2幅部および前記3/4幅部における前記ミクロ組織中の未再結晶フェライトの面積率の最大値と最小値との差である。
上記式(5)中のμdCは、前記1/4幅部における前記ミクロ組織中のTiおよび/またはNbを含有する炭窒化物の平均径、前記1/2幅部における前記ミクロ組織中の炭窒化物の平均径、および前記3/4幅部における前記ミクロ組織中の炭窒化物の平均径の平均値(3個の平均値の平均値)であり、ΔdCは前記1/4幅部、前記1/2幅部および前記3/4幅部における前記ミクロ組織中の炭窒化物の平均径の最大値と最小値との差である。
【0041】
フェライト:80%以上
フェライトは、成形性に優れた組織である。前記1/4幅部、前記1/2幅部および前記3/4幅部における前記ミクロ組織中のフェライトの面積率がそれぞれ80%以上であると、所望の成形性を得ることができる。そのため、フェライトの面積率は80%以上とする。フェライトの面積率は、85%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。フェライトは多い方が好ましいため、フェライトの面積率は100%であってもよい。
【0042】
フェライトに占める未再結晶フェライトの割合:5~60%
未再結晶フェライトは、内部に冷間圧延等によって導入されたひずみが残存したフェライトであり、通常のフェライトと比べて強度は高いが延性は劣位である。前記1/4幅部、前記1/2幅部および前記3/4幅部における前記ミクロ組織中のフェライトに占める未再結晶フェライトの面積率がそれぞれ5%以上であると十分な強度が得られるため、フェライトに占める未再結晶フェライトの面積率は5%以上とする。好ましくは10%以上である。また、フェライトに占める未再結晶フェライトの面積率が60%以下であると、成形性を確保することができるため、フェライトに占める未再結晶フェライトの面積率は60%以下とする。好ましくは50%以下である。
【0043】
マルテンサイト:2%以下
マルテンサイトは強度を高める組織であるが、成形時に微細なボイドの発生起点となる。成形時に微細なボイドが発生すると、所望の耐衝撃破壊特性を得ることができない。成形時の微細なボイドの発生を抑制するために、前記1/4幅部、前記1/2幅部および前記3/4幅部における前記ミクロ組織中のマルテンサイトの面積率はそれぞれ2%以下とする。マルテンサイトの面積率は1%以下が好ましく、0%がより好ましい。
【0044】
残留オーステナイト:2%以下
残留オーステナイトは鋼板の強度-延性バランスを向上させる組織であるが、成形時に微細なボイドの発生起点となる。成形時の微細なボイドの発生を抑制するために、前記1/4幅部、前記1/2幅部および前記3/4幅部における前記ミクロ組織中の残留オーステナイトの面積率はそれぞれ2%以下とする。残留オーステナイトの面積率は1%以下とすることが好ましく、0%とすることがより好ましい。
【0045】
残部組織
ミクロ組織中の残部組織としては、パーライト、セメンタイトおよびベイナイトが挙げられる。これらの組織の面積率の合計を20%以下とすることで、所望の耐衝撃破壊特性を得ることができるため、前記1/4幅部、前記1/2幅部および前記3/4幅部における前記ミクロ組織中において、これらの組織の面積率の合計は20%以下とすることが好ましく、15%以下とすることがより好ましく、10%以下とすることが更に好ましい。パーライトの面積率の下限は本来0%であるが、必要に応じて、2%又は5%としてもよく、その上限を15%、10%又は5%としてもよい。セメンタイトの面積率(ただし、パーライト中に存在するセメンタイトは除く。以下同様。)の下限は本来0%であるが、必要に応じて、その下限を0.5%又は1%としてもよく、その上限を3%、2.2%又は1%としてもよい。ベイナイトの面積率の下限は本来0%であるが、必要に応じて、2%又は5%としてもよく、その上限を15%、10%又は5%としてもよい。なお、必要に応じて、パーライトの面積率を0%とし、セメンタイトの面積率も0%としてもよい。
【0046】
以下に、ミクロ組織の面積率の測定方法について説明する。
鋼板の前記1/4幅部、前記1/2幅部および前記3/4幅部から、鋼板の圧延方向に平行、かつ、鋼板表面に垂直な断面を観察面とする試験片(計3個)を採取する。試験片の観察面を研磨した後、ナイタールエッチングし、表面から板厚方向に板厚の1/4位置付近において(ただし、観察範囲は、板厚の表面から1/8t~3/8t(tは板厚)の領域に限る。)、1以上の視野にて、観察倍率を1000~3000倍として、合計で2.0×10-9m2以上の面積を電界放射型走査型電子顕微鏡(FE-SEM:Field Emission Scanning Electron Microsope)で観察し、組織の形態(結晶粒の形状、結晶粒内の亜粒界、炭化物の生成状態など)に基づいて各組織を同定し、その面積率(面積%)を測定する。これにより、フェライト、未再結晶フェライト、マルテンサイト、MA(マルテンサイトと残留オーステナイトの両方よりなる領域)、パーライト、セメンタイトおよびベイナイトの面積率を得る。複数の視野を観察する場合、各視野で解析する面積はそれぞれ4.0×10-10m2以上とする。
【0047】
面積率の解析は、各視野においてポイントカウンティング法によって行い、圧延方向に平行に15本、圧延方向に直角に15本の線を引き、それらの線からなる225個の交点において組織を判別する。各組織の判別方法は、具体的には、内部にセメンタイトおよび亜粒界の存在しない塊状の領域をフェライトと判別し、内部にセメンタイトを含まず亜粒界が存在する塊状の領域を未再結晶フェライトと判別する。また、多量の固溶炭素を含むマルテンサイトおよびMAは他の組織と比べて輝度が高く白く見えることから、他の組織と区別することができる。以上の方法により、フェライトの面積率、未再結晶フェライトの面積率、「マルテンサイトおよびMA(マルテンサイトと残留オーステナイトの両方よりなる領域)」の面積率の合計を得る。未再結晶フェライトの面積率をフェライトの面積率で除することで、フェライトに占める未再結晶フェライトの割合を得る。ポイントカウンティング法で使用する視野は2以上であってもよい。
【0048】
残留オーステナイトの面積率は、X線回折法によって解析する。上記試験片(ただし、前記1/4幅部、前記1/2幅部および前記3/4幅部からの計3個の試験片)の板厚の表面から板厚方向に板厚の1/4位置付近において(ただし、測定範囲は、1/8t~3/8t(tは板厚)の領域に限る。)、鋼板表面に平行な面を鏡面に仕上げ、X線回折法によってFCC鉄の体積率を解析する。得られた体積率を残留オーステナイトの面積率とみなす。また、得られた残留オーステナイトの面積率を、FE-SEMによる上記観察によって求めた「マルテンサイトおよびMA」の面積率の合計から引くことで、マルテンサイトの面積率が得られる。
また、100%から、フェライトの面積率、マルテンサイトの面積率、残留オーステナイトの面積率を引くことで、残部組織の面積率を得る。
上述の測定を、圧延方向端部から板幅方向に板幅の1/4位置、1/2位置および3/4位置において行う。
【0049】
炭窒化物の平均径:6.0~30.0nm
前記1/4幅部、前記1/2幅部および前記3/4幅部において、炭窒化物の平均径は6.0~30.0nmとする。炭窒化物の平均径が6.0nm以上であると、析出強化が過剰に働くことを抑制でき、成形性を確保することができる。炭窒化物の平均径は、8.0nm以上が好ましく、10.0μm以上がより好ましい。一方、炭窒化物の平均径が30.0nm以下であると、十分な強度を得ることができる。炭窒化物の平均径は25.0nm以下または20.0nm以下が好ましく、17.0nm以下、15.0nm以下、12.5nm以下または11.0nm以下がより好ましい。
【0050】
炭窒化物の平均径は以下の方法により測定する。
ミクロ組織の面積率を求めたときと同様に、表面から板厚方向に板厚の1/4位置付近から試験片(ただし、前記1/4幅部、前記1/2幅部および前記3/4幅部からの計3個の試験片)を採取する(ただし、試験片を採取する板厚範囲は、上記試験片の板厚の表面から1/8t~3/8t(tは板厚)の領域に限る。)。採取された試験片から、切断および電解研磨法により、必要に応じて電解研磨法と併せて集束イオンビーム加工法を活用して針状試験片を作成し、三次元アトムプローブ測定を行う。得られたTiおよび/またはNb炭窒化物を含む三次元原子マップに対し、任意に30個以上のTiおよび/またはNb炭窒化物において長径を求め、それら平均値を算出することで、前記1/4幅部、前記1/2幅部および前記3/4幅部からの計3個の試験片毎に、Tiおよび/またはNbを含有する炭窒化物の平均径を得る。
【0051】
本実施形態における鋼板は、ΔSF/μSF≦0.10…(2)、ΔdF/μdF≦0.20…(3)、ΔSUF≦20…(4)およびΔdC/μdC≦0.50…(5)を満たす。
上記式(2)~(5)を満たすことは、鋼板の板幅方向におけるフェライトの面積率、フェライトの平均結晶粒径、未再結晶フェライトの面積率、Tiおよび/またはNbを含有する炭窒化物の平均径の変動が抑制されていることを示す。上記式(2)~(5)を満たすことで、プレス成形時の寸法精度のバラツキを大きくする、鋼板の板幅方向における特性変動を抑制することができ、結果として、成形性、強度およびプレス成形時の寸法精度に優れる鋼板を得ることができる。
【0052】
上記式(2)中のμSFは、上述の方法により、前記1/4幅部と、前記1/2幅部と、前記3/4幅部とにおけるフェライトの面積率を測定し、これらの面積率の平均値を算出することで得る。また、上記式(2)中のΔSFは、上述の方法により、上記1/4幅部、上記1/2幅部および上記3/4幅部におけるミクロ組織中のフェライトの面積率を測定し、得られたフェライトの面積率のうち、最大値と最小値との差を算出することで得る。
【0053】
上記式(4)中のΔSUFは、前記1/4幅部、前記1/2幅部および前記3/4幅部におけるミクロ組織中の未再結晶フェライトの最大値と最小値との差である。上述の方法により、前記1/4幅部、前記1/2幅部および前記3/4幅部におけるミクロ組織中の未再結晶フェライトの面積率を測定し、得られた未再結晶フェライトの面積率のうち、最大値と最小値との差を算出することで得る。
【0054】
上記式(3)中のμdFは、後述の方法により、前記1/4幅部、前記1/2幅部および前記3/4幅部におけるミクロ組織中のフェライトの平均結晶粒径を測定し、これらの平均結晶粒径の平均値を算出することで得る。また、上記式(3)中のΔdFは、後述の方法により、前記1/4幅部、前記1/2幅部および前記3/4幅部におけるミクロ組織中のフェライトの平均結晶粒径を測定し、得られたフェライトの平均結晶粒径のうち、最大値と最小値との差を算出することで得る。
【0055】
上記式(5)中のμdCは、後述の方法により、前記1/4幅部、前記1/2幅部および前記3/4幅部におけるミクロ組織中の炭窒化物の長径の平均値(平均径)を測定し、これらの平均径の平均値を算出することで得る。また、上記式(5)中のΔdCは、上述の方法により前記1/4幅部、前記1/2幅部および前記3/4幅部におけるミクロ組織中の炭窒化物の平均径を測定し、得られた炭窒化物の平均径のうち、最大値と最小値との差を算出することで得る。
【0056】
フェライトの平均結晶粒径は以下の方法により測定する。
フェライトの平均結晶粒径は線分法で求める。上述のミクロ組織の面積率を測定した視野において、圧延方向に合計で200μm以上となる直線を1本以上引き、直線とフェライト粒界との交点の数に1を足した数で直線の長さを除して得られる値を算出することで、フェライトの平均結晶粒径を得る。
【0057】
フェライトの平均結晶粒径:5.0~15.0μm
前記1/4幅部におけるミクロ組織と、前記1/2幅部におけるミクロ組織と、前記3/4幅部におけるミクロ組織とにおいて、フェライトの平均結晶粒径は5.0~15.0μmであることが好ましい。フェライトの平均結晶粒径を5.0~15.0μmとすることで、強度-成形性バランスをより向上することができる。強度向上のため、その上限を13.0μm、11.0μm又は9.5μmとしてもよい。
なお、フェライトの平均結晶粒径は上述の方法で測定する。
【0058】
本実施形態に係る鋼板は、鋼板の片面又は両面に、亜鉛めっき層又は亜鉛合金めっき層を有する鋼板であってもよい。また、本実施形態に係る鋼板は、亜鉛めっき層又は亜鉛合金めっき層に合金化処理を施した合金化亜鉛めっき層又は合金化亜鉛合金めっき層を有する鋼板でもよい。
本実施形態に係る鋼板の片面又は両面に形成するめっき層は、亜鉛めっき層、又は、亜鉛を主成分とする亜鉛合金めっき層が好ましい。亜鉛合金めっき層は、合金成分として、Niを含むものが好ましい。
【0059】
亜鉛めっき層及び亜鉛合金めっき層は、溶融めっき法、電気めっき法、又は蒸着めっき法で形成する。亜鉛めっき層のAl含有量が0.5質量%以下であると、鋼板表面と亜鉛めっき層の密着性を確保することができるので、亜鉛めっき層のAl含有量は0.5質量%以下が好ましい。亜鉛めっき層が、溶融亜鉛めっき層の場合、鋼板表面と亜鉛めっき層の密着性を高めるため、溶融亜鉛めっき層のFe量は3.0質量%以下が好ましい。
亜鉛めっき層が、電気亜鉛めっき層の場合、めっき層のFe量は、耐食性の向上の点で、0.5質量%以下が好ましい。
【0060】
亜鉛めっき層及び亜鉛合金めっき層は、Al、Ag、B、Be、Bi、Ca、Cd、Co、Cr、Cs、Cu、Ge、Hf、Zr、I、K、La、Li、Mg、Mn、Mo、Na、Nb、Ni、Pb、Rb、Sb、Si、Sn、Sr、Ta、Ti、V、W、Zr、REMの1種又は2種以上を、鋼板の耐食性や成形性を阻害しない範囲で、含有してもよい。特に、Ni、Al、Mgは、耐食性の向上に有効である。
【0061】
本実施形態に係る鋼板の表面の亜鉛めっき層又は亜鉛合金めっき層は、合金化処理が施された、合金化亜鉛めっき層又は合金化亜鉛合金めっき層であってもよい。溶融亜鉛めっき層又は溶融亜鉛合金めっき層に合金化処理を施す場合、鋼板表面と合金化めっき層との密着性向上の観点から、合金化処理後の溶融亜鉛めっき層(合金化亜鉛めっき層)又は溶融亜鉛合金めっき層(合金化亜鉛合金めっき層)のFe含有量を7.0~13.0質量%とすることが好ましい。溶融亜鉛めっき層又は溶融亜鉛合金めっき層を有する鋼板に合金化処理を施すことで、めっき層中にFeが取り込まれ、Fe含有量が増量する。これにより、Fe含有量を7.0質量%以上とすることができる。すなわち、Fe含有量が7.0質量%以上である亜鉛めっき層は、合金化亜鉛めっき層または合金化亜鉛合金めっき層である。
【0062】
合金化処理後の溶融亜鉛めっき層(合金化亜鉛めっき層)又は溶融亜鉛合金めっき層(合金化亜鉛合金めっき層)のFe含有量は、次の方法により得ることができる。インヒビターを添加した5%HCl水溶液を用いてめっき層のみを溶解除去する。ICP-AES(Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry)を用いて、得られた溶解液中のFe含有量を測定することで、亜鉛めっき層中のFe含有量(質量%)を得る。
【0063】
本実施形態に係る鋼板の板厚は、特定の範囲に限定されないが、汎用性や製造性を考慮すると、0.2~5.0mmが好ましい。板厚を0.2mm以上とすることで、鋼板形状を平坦に維持することが容易になり、寸法精度および形状精度を向上することができる。そのため、板厚は0.2mm以上が好ましい。より好ましくは0.4mm以上である。
一方、板厚が5.0mm以下であると、製造過程で、適正なひずみ付与および温度制御を行うことが容易になり、均質な組織を得ることができる。そのため、板厚は5.0mm以下が好ましい。より好ましくは4.5mm以下または3.2mm以下である。
【0064】
0.2%耐力:280~600MPa、引張強さ:450~800MPa、降伏比:0.50~0.90、均一伸び:10.0%以上
本実施形態に係る鋼板の引張特性の目標値は、0.2%耐力が280~600MPaであり、引張強さが450~600MPaであり、0.2%耐力/引張強さである降伏比が0.50~0.90であり、及び最大荷重時の塑性伸びである均一伸びが10.0%以上である。これにより、鋼板の成形性及び強度を向上させることができる。なお、「均一伸び」は「一様伸び」とも呼ばれ、均一伸びも一様伸びも英語ではuniform elongationと翻訳される。
【0065】
0.2%耐力、引張強さ、降伏比及び均一伸びは以下の方法により測定する。
0.2%耐力、引張強さ、降伏比および均一伸びは、引張試験を行うことで得る。JIS Z 2241:2011に準拠して、13B号試験片を作製し、引張軸を鋼板の圧延方向として、引張試験を行う。引張軸を鋼板の圧延方向として、板幅方向端部から板幅方向に板幅の1/4位置、板幅方向端部から板幅方向に1/2位置および板幅方向端部から板幅方向に3/4位置から引張試験片を採取する。この3つの引張試験片から得られた0.2%耐力、引張強さおよび均一伸びのそれぞれの平均値を算出することで、0.2%耐力、引張強さおよび均一伸びを得る。0.2%耐力を引張強さで除することで、降伏比を得る。
【0066】
次に、本実施形態に係る鋼板の製造方法について説明する。
本実施形態に係る鋼板は、製造方法に依らず、上記の特徴を有していればその効果が得られるが、以下の工程を含む製造方法によれば安定して製造できるので好ましい。
(I)所定の成分組成を有する鋼片を1150~1320℃に加熱し、熱間圧延完了温度が850~930℃となるように熱間圧延を完了し、1.5s以上経過後に冷却を開始し、800~450℃の温度域の平均冷却速度が20℃/s以上となるように450℃未満の温度域まで冷却して熱延鋼板とする熱間圧延工程、
(II)前記熱延鋼板を、450~700℃の温度域まで加熱する再加熱工程、
(III)前記熱延鋼板を、室温まで冷却する冷却工程、
(IV)前記熱延鋼板を、合計圧下率が30~80%、冷間圧延完了温度が120℃以上となるように冷間圧延して冷延鋼板とする冷間圧延工程、
(V)前記冷延鋼板を、720~850℃の焼鈍温度に加熱し、500℃以下の温度域まで冷却する焼鈍工程。
以下、各工程について好ましい条件を説明する。
【0067】
<熱間圧延工程>
まず、上述した本実施形態に係る鋼板の成分組成を有する鋼片を1150~1320℃に加熱する。加熱温度が1150℃以上であると、鋳造時に生成したTiおよび/またはNbの粗大な炭化物を十分に溶解することができ、炭窒化物の状態がばらつきやすくなることを抑制できる。また、鋼片の加熱温度が1320℃以下であると、過剰に粗大な母相オーステナイト粒が発生することを抑制でき、熱間圧延工程での再結晶挙動を均質とすることができる。なお、加熱する鋼片は、製造コストの観点から連続鋳造によって生産することが好ましいが、その他の鋳造方法(例えば造塊法)で生産しても構わない。
【0068】
鋼片を加熱した後、熱間圧延完了温度が850~930℃となるように熱間圧延を施す。熱間圧延完了温度が850℃以上であると、単相域で圧延がなされるため、金属組織の異方性を抑制できる。そのため、熱間圧延完了温度は850℃以上とする。また、熱間圧延完了温度が930℃以下であると、再結晶粒の成長が過剰に進むことを抑制でき、母相の粒径を均質とすることができる。そのため、熱間圧延完了温度は930℃以下とする。
【0069】
熱間圧延工程では、1000℃以下の温度域において下記式(6)を満たす必要がある。1000℃以下の温度域において下記式(6)を満たすようにパススケジュールを制御することで均一に再結晶を進行させ、鋼中に炭化物を微細且つ均質に析出させる。これにより、炭化物の偏析を抑制し、鋼板の板幅方向における特性変動を抑制できる。
【0070】
【0071】
上記式(6)中のfnは熱間圧延工程の1000℃以下の前記温度域における微細炭化物の析出の進行度合いを示す指標である。上記式(6)中の各符号はそれぞれ以下を表す。
n:1000℃以下での圧延パス数
h:nパス目の圧延前の板厚[mm]
h*:nパス目の圧延後の板厚[mm]
NbおよびTi:NbおよびTiの含有量[質量%]
Tn:nパス目の圧延からn+1パス目の圧延までの平均鋼板温度[℃]
tn:nパス目の圧延からn+1パス目の圧延までの時間[s]、またはnパス目の圧延から鋼板温度が低下して800℃に到達するまでの時間[s]の短い方
a1~11:定数(a1=2.28×100、a2=1.25×100、a3=7.86×10-4、a4=1.36×10-3、a5=6.76×10-4、a6=7.86×10-4、a7=2.13×10-3、a8=1.14×10-3、a9=6.70×10-2、a10=1.11×100、a11=5.27×10-1)
但し、fnは、f0を0とし、f1から順にfnまで計算することで得ることができる。
【0072】
なお、本願における平均鋼板温度とは、例えば幅約600mmから約2500mmの鋼帯の製造時に幅方向の温度分布が平均温度に対して±15℃以内であるように管理された鋼帯における幅方向の温度であり、板幅方向端部から板幅方向に1/4位置、板幅方向端部から板幅方向に1/2位置および板幅方向端部から板幅方向に3/4位置における温度の平均である。温度の管理範囲が前述の±15℃を超える場合、いわゆる常法による温度の管理範囲では、組織の僅かな差が生じ、プレス成形品の寸法精度の劣化を引き起こすおそれがある。換言すると、本発明の実施形態に係る製造方法によれば、製造時に幅方向の温度分布が平均温度に対して±15℃以内であるように管理されるだけで、幅方向の組織バラツキを低減できる。その結果、プレス成形時の寸法バラツキが少ない鋼板や鋼帯が得られる。
【0073】
熱間圧延完了後は、1.5s以上経過後に冷却を開始し、800~450℃の温度域の平均冷却速度が20℃/s以上となるように450℃未満の温度域まで冷却する。これにより、熱延鋼板を得る。
熱間圧延完了後、冷却開始までの時間を1.5s以上確保することで、再結晶を生じさせて均質な組織を得る。
【0074】
800~450℃の温度域の平均冷却速度を20℃/s以上とすることで、セメンタイトの安定化を抑制し、粗大なセメンタイトとなることを抑制する。上記温度域の平均冷却速度が20℃/s以上であると、セメンタイトが安定化することを抑制でき、最終的に得られる鋼板において所望のミクロ組織が得られる。
平均冷却速度の上限は特に設定しないが、200℃/sを超える冷却速度を得るには特殊な冷媒を要するので、生産コストの観点から、平均冷却速度は200℃/s以下とすることが好ましい。
【0075】
なお、本実施形態における、平均冷却速度とは、設定する範囲の始点と終点との温度差を、始点から終点までの経過時間で除した値とする。
【0076】
<再加熱工程>
再加熱工程では、得られた熱延鋼板を450~700℃の温度域まで加熱する。また、再加熱工程では、450~700℃の温度域における温度履歴は下記式(7-1)および下記式(8)を満たす必要がある。下記式(7-1)を満たすことで、鋼中に炭窒化物を析出させる。また、下記式(8)を満たすことで、セメンタイトが過剰に安定化することを防ぐことができる。これにより、最終的に所望のミクロ組織を得ることができる。
【0077】
なお、最高再加熱温度(再加熱工程における加熱温度の最大温度)が450℃以上であると、鋼中に炭窒化物が十分に析出させることができ、最終的に所望のミクロ組織を得ることができる。また、最高再加熱温度が700℃以下であると、炭窒化物やセメンタイトの一部が溶解し始めることを抑制でき、鋼板の均質性を確保することができる。
【0078】
【0079】
上記式(7-1)における各符号は、各符号はそれぞれ以下を表す。
b1~7:定数(b1=6.82×106、b2=1.00×103、b3=8.70×101、b4=1.25×102、b5=1.00×102、b6=-1.50×101、b7=-2.50×101)
Nb:Nb含有量[質量%]
Ti*:Ti-42/14×Nで表される有効Ti量
ただし、TiおよびNは当該元素の質量%での含有量を示し、当該元素を含有しない場合は0を代入する。
Tmax:最高加熱温度[℃]
t20:450~700℃の前記温度域における滞在時間を20等分した場合の、20番目の区間における有効熱処理時間[s]
D20:450~700℃の温度域における滞在時間を20等分した場合の、20番目の区間における有効拡散速度を表す指標
ただし、m番目の有効熱処理時間tmおよびm番目の有効拡散速度の指標Dmは下記式(7-2)により表される。
【0080】
【0081】
上記式(7-2)において、各符号はそれぞれ以下を表す。
m:1~20の整数
b9~11:定数(b8=6.81×101、b9=2.61×105、b10=5.60×100、b11=2.86×105)
Nb:Nb含有量[質量%]
Ti*:Ti-42/14×Nで表される有効Ti量
ただし、TiおよびNは当該元素の質量%での含有量を示し、当該元素を含有しない場合は0を代入する。
Tm:450℃~700℃の前記温度域における滞在時間を20等分した場合の、m番目の区間における平均鋼板温度[℃]
tm:450℃~700℃の前記温度域における滞在時間を20等分した場合の、m番目の区間における有効熱処理時間[s]
但し、t1=t‘とする。
t‘:450℃~700℃の前記温度域における全滞在時間の1/20[s]
【0082】
【0083】
上記式(8)中のK20は、再加熱工程の450~700℃の前記温度域における温度履歴を時間に対して20等分した場合の、20番目の区間におけるセメンタイトの安定化度合いを示す指標である。上記式(8)中の各符号はそれぞれ以下を表す。
j:1~20の整数
Si、Mn、CrおよびMo:各元素の含有量[質量%]
Tj:450℃~700℃の前記温度域における滞在時間を20等分した場合の、j番目の区間における平均鋼板温度[℃]
sj:450℃~700℃の前記温度域における滞在時間を20等分した場合の、j番目の区間における有効熱処理時間[s]
ただし、s1=t‘とする。
t‘:450℃~700℃の前記温度域における全滞在時間の1/20[s]
但し、t1=Δtとする。
【0084】
K20はセメンタイトの安定化度合を示す指標であり、この値が大きくなるほどセメンタイトは安定化する。上記式(8)を満たすことで、再加熱工程で、過剰に安定性なセメンタイトの生成を抑制することができる。これにより、炭素濃度の高いオーステナイトの生成を抑制できる。そのため、加熱後の冷却過程においてマルテンサイトの生成を抑制できる。その結果、鋼板の均質性を確保することができる。好ましくはK20≦18500である。これにより、加熱後の冷却過程においてマルテンサイトの生成をさらに抑制できる。
【0085】
<冷却工程>
再加熱工程の後は、熱延鋼板を室温まで冷却する。この時の冷却速度は特に限定されず、冷却方法は空冷等が挙げられる。
【0086】
<冷間圧延工程>
次に、冷却後の熱延鋼板に対し、合計圧下率が30~80%、冷間圧延完了温度が120℃以上となるように冷間圧延を施す。これにより、冷延鋼板を得る。合計圧下率が30%以上であると、その後の熱処理における再結晶を十分に進行させることができ、未再結晶フェライトが残存することを抑制でき、最終的に所望のミクロ組織を得ることができる。そのため、冷間圧延時の合計圧下率は30%以上とする。組織を微細化して強度-成形性バランスを高める観点から、合計圧下率は45%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましい。また、冷間圧延における合計圧下率が80%以下であると、鋼板の異方性が高まることを抑制でき、成形性を確保することができる。そのため、冷間圧延時の合計圧下率は80%以下とする。成形性をより高めるために、合計圧下率は75%以下が好ましい。
【0087】
冷間圧延完了温度が120℃以上であると、未再結晶フェライトが残存することを抑制でき、最終的に所望のミクロ組織を得ることができる。そのため、冷間圧延完了温度は120℃以上とする。好ましくは、150℃以上であり、より好ましくは170℃以上である。成形性の観点から、再結晶を効率的に進めるには、冷間圧延完了温度は250℃以下であることが好ましい。
【0088】
<焼鈍工程>
[加熱過程]
続いて、冷間圧延後の鋼板(冷延鋼板)に熱処理(焼鈍)を施す。まず、冷延鋼板を720~850℃の焼鈍温度に加熱する。この加熱の際、550~720℃の温度域では、下記式(9)を満たす必要があり、720℃~焼鈍温度(720~850℃)の温度域では、15MPa以上の張力を付与し、且つ温度履歴が下記式(10)を満たす必要がある。
【0089】
550~720℃の温度域において式(9)を満たすように温度履歴を制御することで、再結晶を促進する。これにより、最終的に所望のミクロ組織を得ることができる。
【0090】
720℃~焼鈍温度の温度域において、15MPa以上の張力を付与することで、オーステナイトの核生成を促進し、均質な逆変態組織を形成する。オーステナイトの核生成を十分に促進し、組織を均質化するには、張力は20MPa以上とすることが好ましく、25MPa以上とすることが更に好ましい。張力が15MPa未満であると、逆変態の挙動がばらつき、組織の均質性が損なわれる。
【0091】
更に、720℃~焼鈍温度の温度域において、下記式(10)を満たすように温度履歴を制御することで、セメンタイトを溶解させる。温度履歴において、下記式(10)により得られるe4・ym・(K3・K4)-2/1が0.10以上であると、セメンタイトの溶解を十分に促進することができ、粗大なセメンタイトが残存することを抑制できる。粗大なセメンタイトが残存すると、その周辺のオーステナイトの固溶炭素量が高まり、加熱後の冷却過程において相変態を進めることが難しくなり、マルテンサイトが生成しやすくなる。また、温度履歴において、式(10)により得られるe4・ym・(K3・K4)-2/1が1.00以下であると、オーステナイト変態の核生成と成長とがバランスよく進行し、進行度合いが均質となり、鋼板の均質性を確保することができる。
【0092】
【0093】
上記式(9)中のp10は焼鈍工程の加熱過程の550~720℃の前記温度域における滞在時間を10等分した場合の、10番目の区間における再結晶の進行度合いを示す指標である。上記式(9)中の各符号はそれぞれ以下を表す。
d1~4:定数(d1=4.24×102、d2=2.10×100、d3=1.31×103、d4=7.63×103)
h:冷間圧延前の板厚[mm]
h*:冷間圧延後の板厚[mm]
TR:冷間圧延完了温度[℃]
Nb:Nbの含有量[質量%]
Ti*:Ti-42/14×Nで表される有効Ti量
ただし、TiおよびNは当該元素の質量%での含有量を示し、当該元素を含有しない場合は0を代入する。
K2:式(7-1)により得られる値
n:1~10の整数
Tn’:550~720℃の前記温度域における滞在時間を10分割した場合の、n番目の区間における平均温度[℃]
Δt:鋼板温度が550℃に到達したときから720℃に到達したときまでの経過時間を10分割した時間[s]
ただし、t1=Δtとする。
【0094】
【0095】
上記式(10)において、ymは720℃~前記焼鈍温度の前記温度域における滞在時間を10等分した場合の、m番目の区間における逆変態の進行度合いを示す指標である。上記式(10)中の各符号はそれぞれ以下を表す。
e1~4:定数(e1=4.50×102、e2=2.85×104、e3=2.24×100、e4=8.56×10-8)
K2:式(7-1)の左辺の値
K3:式(8)により得られるK20の値
K4:式(9)により得られるp10の値
Ac1:加熱中のオーステナイト変態開始温度[℃]
Ac3:加熱中のオーステナイト変態完了温度[℃]
Tm:720℃~前記焼鈍温度の前記温度域における滞在時間を10分割した場合の、m番目の区間における平均温度[℃]
tm:720℃~前記焼鈍温度の前記温度域における滞在時間を10分割した場合の、m番目の区間における有効熱処理時間[s]
【0096】
焼鈍工程における焼鈍温度は720℃以上とする。焼鈍温度が720℃以上であると、粗大なセメンタイトが溶け残ること、また再結晶が過剰に進行することを抑制でき、所望のミクロ組織を得ることができる。焼鈍温度は750℃以上であることが好ましく、780℃以上であることがより好ましい。また、焼鈍温度が850℃以下であると、逆変態が過剰に進行することを抑制でき、所望量の未再結晶フェライトを残すことができる。よって、焼鈍温度は850℃以下とする。フェライトの面積率を高めて成形性をより高める場合、焼鈍温度は830℃以下であることが好ましく、810℃以下であることがより好ましい。
【0097】
[保持過程]
焼鈍温度における保持時間、すなわち、加熱過程で720℃以上の焼鈍温度に到達してから、720~850℃の焼鈍温度を経て再び720℃に到達するまでの時間は3s以上とすることが好ましい。保持時間が3s以上であると、ミクロ組織の変化が安定化し、均質性を確保することができる。保持時間は10s以上とすることが好ましく、25s以上とすることがより好ましい。保持時間の上限は特に設定しないが、200sを超えて保持しても、鋼板の特性には影響しないことから、生産コストを鑑みて200s以下とすることが好ましい。
【0098】
[冷却過程]
焼鈍温度まで加熱し、保持時間を確保した後、冷却を施す。
500℃以下の温度域まで冷却する冷却過程では、720~500℃の温度域において、温度履歴が下記式(11)を満たす必要がある。720~500℃の温度域における温度履歴が下記式(11)を満たす冷却を行うことで、硬質相(マルテンサイトおよび残留オーステナイト)の生成を抑制する。これにより、最終的に所望のミクロ組織を得ることができる。
【0099】
【0100】
上記式(11)における各符号は、それぞれ以下を表す。
i:1~10の整数
Δi:750-18×Si-17×Mn-10×Cr-8×Ni+15×Al-Ti
但し、各元素は質量%での含有量を示し、当該元素を含有しない場合は0を代入する。また、Δiの計算値が負の値となる場合、Δiは0とする。
g1~6:定数(g1=1.00×10-1、g2=1.46×10-1、g3=1.14×10-1、g4=2.24×100、g5=4.53×100、g6=4.83×103)
Nb、Mo、Si、Mn、Cr、NiおよびAl:各元素の含有量[質量%]
Ti*:Ti-42/14×Nで表される有効Ti量
ただし、TiおよびNは当該元素の質量%での含有量を示し、当該元素を含有しない場合は0を代入する。
K4:式(9)により得られるp10の値
Ac1:加熱中のオーステナイト変態開始温度[℃]
Ac3:加熱中のオーステナイト変態完了温度[℃]
Tmax:焼鈍温度[℃]
Ti:720~500℃の前記温度域における滞在時間を10等分した場合の、i番目の区間における平均温度[℃]
Δt:720~500℃の前記温度域における全滞在時間を10等分した時間[s]
【0101】
焼鈍工程の後、500℃以下の温度域において、鋼板に溶融亜鉛めっき処理あるいは溶融亜鉛合金めっき処理を施しても構わない。この際、めっき浴への浸漬前に鋼板を再加熱しても構わない。また、めっき処理後の鋼板を加熱し、めっき層の合金化処理を施しても構わない。
【0102】
焼鈍工程後の鋼板に電気めっき処理または蒸着めっき処理を施し、鋼板の片面または両面に亜鉛めっき層を形成して、亜鉛めっき層を有する亜鉛めっき鋼板を製造してもよい。
焼鈍工程における雰囲気を制御し、鋼板の表面を改質しても構わない。例えば、脱炭雰囲気で加熱処理することで、鋼板表層部が適度に脱炭された曲げ性に優れる鋼板が得られる。
【0103】
<調質圧延工程>
焼鈍工程後、合計圧下率が0.05~2.00%となるように調質圧延を施してもよい。このような調質圧延を行うことで、表面形状の平坦化をすることおよび表面粗さを調整することができる。
【実施例】
【0104】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用する一条件例である。本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得る。
【0105】
表1-1および表1-2に示す化学組成の溶鋼を鋳造して鋼片を製造した。次に、鋼片に対して表2-1および表2-2に示す条件で熱間圧延を施すことで熱延鋼板を得た。表2-1および表2-2には、熱間圧延工程の1000℃以下における温度履歴と上述の式(6)とから得たfnを示す。
次に、表2-1および表2-2に示す条件で再加熱を施した。表2-1および表2-2には、再加熱工程の450~700℃の温度域における温度履歴と上述の式(7-1)および式(7-2)とから得た式(7-1)の左辺を示し、再加熱工程の450~700℃の温度域における温度履歴と上述の式(8)とから得たK20を示す。
【0106】
その後、熱延鋼板に対して、表3-1~表3-3に示す条件で、冷間圧延および熱処理(焼鈍)、並びに、必要に応じて調質圧延を施すことで鋼板を得た。焼鈍は、表3-1~表3-3に記載の焼鈍温度まで加熱して3~200s保持した後、冷却した。
表3-1~表3-3には、焼鈍工程の加熱過程の550~720℃の温度域における温度履歴と上述の式(9)とから得たp10を示し、焼鈍工程の加熱過程の720℃~焼鈍温度の温度域における温度履歴と上述の式(10)とから得たe4・ym・(K3・K4)-2/1を示す。
【0107】
なお、表3-1~表3-3のめっき処理はそれぞれ以下の通りである。
Zn合金:焼鈍工程において鋼板を500℃以下の温度域まで冷却した後、溶融亜鉛合金浴に浸漬し、室温まで冷却することで亜鉛合金めっき鋼板を得る処理である。
合金化Zn合金:焼鈍工程において鋼板を500℃以下の温度域まで冷却後に溶融亜鉛合金浴に浸漬し、更に580℃まで再加熱する合金化処理を施してから、室温まで冷却することで合金化亜鉛合金めっき鋼板を得る処理である。
GA:焼鈍工程において鋼板を500℃以下の温度域まで冷却後に溶融亜鉛浴に浸漬し、更に560℃まで再加熱する合金化処理を施してから、室温まで冷却することで合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)を得る処理である。
GI:焼鈍工程において鋼板を500℃以下の温度域まで冷却した後、溶融亜鉛浴に浸漬し、室温まで冷却することで溶融亜鉛めっき鋼板(GI)を得る処理である。
蒸着:焼鈍工程の後、蒸着めっき処理を施し、亜鉛めっき鋼板を得る処理である。
EG:焼鈍工程の後、電気亜鉛めっき処理を施し、電気亜鉛めっき鋼板(EG)を得る処理である。
【0108】
表4-1~表4-6に、表1-1~表3-3に記載の製造条件によって得られた鋼板の前記1/4幅部、前記1/2幅部および前記3/4幅部から、鋼板の圧延方向に平行、かつ、鋼板表面に垂直な断面を観察面とする試験片(計3個)を採取して、ミクロ組織の観察を行った。上述の方法により行った組織観察の結果として、表4-1~表4-6にフェライトの面積率、フェライトに占める未再結晶フェライトの割合、マルテンサイトの面積率、残留オーステナイトの体積率、炭窒化物の平均径、フェライトの平均結晶粒径、並びに、式(2)~(4)の左辺を示す。なお、鋼板の板厚は、表3-1表3-3の圧延後板厚と同じ値であった。
合金化処理を施した鋼板については、上述の方法により合金化処理後の溶融亜鉛めっき層(合金化亜鉛めっき層)又は溶融亜鉛合金めっき層(合金化亜鉛合金めっき層)のFe含有量を測定した。
【0109】
なお、表4-1~表4-6のめっき層はそれぞれ以下の通りである。
Zn合金:亜鉛合金めっき層
合金化Zn合金:合金化亜鉛合金めっき層
GA:溶融亜鉛浴に浸漬した後、合金化処理を施すことで形成された合金化溶融亜鉛めっき層
GI:溶融亜鉛浴に浸漬して形成された溶融亜鉛めっき層
蒸着:蒸着めっき処理により形成された亜鉛めっき層
EG:電気亜鉛めっき処理により形成された亜鉛めっき層
【0110】
表5-1~表5-3に、表1-1~表3-3の製造条件によって得られた鋼板の特性を示す。引張特性は、0.2%耐力(YS:Yield Strength)、引張強さ(TS:Tensile Strength)、降伏比(YR:Yield Ratio)および均一伸び(uEl:uniform Elongation)を評価した。0.2%耐力、引張強さ、降伏比および均一伸びは、引張試験を行うことで得た。JIS Z 2241:2011に準拠して、13B号試験片を作製し、引張軸を鋼板の圧延方向として、引張試験を行った。引張軸を鋼板の圧延方向として、板幅方向端部から板幅方向に板幅の1/4位置、板幅方向端部から板幅方向に1/2位置および板幅方向端部から板幅方向に3/4位置から引張試験片を採取した。この3つの引張試験片から得られた0.2%耐力、引張強さおよび均一伸びのそれぞれの平均値を算出することで、0.2%耐力、引張強さおよび均一伸びを得た。引張強さの平均値を0.2%耐力の平均値で除することで、降伏比を得た。
【0111】
0.2%耐力が280~600MPaであり、降伏比が0.50~0.90であり、且つ、均一伸びが10.0%以上であった鋼板を、成形性に優れるとして合格と判定した。一方、0.2%耐力が280MPa未満または600MPa超である、降伏比が0.50未満または0.90超である、あるいは、均一伸びが10.0%未満であった鋼板を、成形性に劣るとして不合格と判定した。
引張強さが450~800MPaである鋼板を強度に優れるとして合格と判定した。一方、引張強さが450MPa未満である場合を強度に劣るとして不合格と判定した。
【0112】
鋼板の均質性は下記式(12)、式(13)及び式(14)によって評価した。下記式(12)、式(13)及び式(14)を満たす鋼板を、鋼板が均質であり、プレス成形時の寸法精度に優れるとして合格と判定した。一方、下記式(12)、式(13)及び式(14)のいずれか一方でも満たさない鋼板を、鋼板が不均質であり、プレス成形時の寸法精度に劣るとして不合格と判定した。
【0113】
下記式(12)中のYSは、上述の方法により得た、板幅方向端部から板幅方向に板幅の1/4位置、板幅方向端部から板幅方向に1/2位置、および板幅方向端部から板幅方向に3/4位置における0.2%耐力の平均値である。また、下記式(12)中のΔYSは、上述の方法により得た、板幅方向端部から板幅方向に1/4位置、板幅方向端部から板幅方向に1/2位置および板幅方向端部から板幅方向に3/4位置における0.2%耐力のうち、最大値と最小値との差を算出することで得た。
【0114】
下記式(13)中のuElは、上述の方法により得た、板幅方向端部から板幅方向に板幅の1/4位置、板幅方向端部から板幅方向に1/2位置、および板幅方向端部から板幅方向に3/4位置における均一伸びの平均値である。また、下記式(13)中のΔuElは、上述の方法により得た、板幅方向端部から板幅方向に1/4位置、板幅方向端部から板幅方向に1/2位置および板幅方向端部から板幅方向に3/4位置における均一伸びのうち、最大値と最小値との差を算出することで得た。
【0115】
下記式(14)中のαMは、板幅方向端部から板幅方向に1/4位置、板幅方向端部から板幅方向に1/2位置および板幅方向端部から板幅方向に3/4位置から1つずつ計3つの試験片を採取し、2010年12月版のドイツ自動車工業会(Verband der Automobilindustrie:VDA)の規格238-100の規定に準拠する曲げ試験において曲げ角度90°の変形を与えた後に荷重を除荷した後の試験片の塑性曲げ角度αの測定値のうち、90°に対して最も差が大きな試験片の角度である。つまり、αMは「α-90°」の絶対値の最大値であり、αM/90は塑性曲げ角度αMを90°で無次元化したプレス成型後の寸法ばらつきの大きさを示す指標である。また、VDA規格の曲げ試験では以下の条件を設定した。ロール径:φ30mm、ロール間距離:2×板厚+0.5±0.05mm、ポンチ形状:先端R=0.4mm、ポンチ押し込み速度:20mm/min、試験片寸法:板厚×60mm×60mm、曲げ方向:圧延方向に対して直角方向。なお、塑性曲げ角度は、曲げ試験によって「V字」の形状に変形した試験片の2つの平面部の延長線が成す角度のうち、曲げ内側の角度の測定値である。
【0116】
ΔYS/YS≦0.20…(12)
ΔuEl/uEl≦0.25…(13)
0.90≦αM/90≦1.10…(14)
【0117】
【0118】
【0119】
【0120】
【0121】
【0122】
【0123】
【0124】
【0125】
【0126】
【0127】
【0128】
【0129】
【0130】
【0131】
【0132】
【0133】
表1-1および表1-2に示すA~AHの鋼のうち、AA~AGの鋼は本発明に定める成分組成の範囲を逸脱した比較例である。
【0134】
AA鋼は、式(1-2)を満たさなかった。本鋼を用いて得られた実験例77の鋼板は、未再結晶フェライトが少なかったため、0.2%耐力、引張強さおよび降伏比が低かった。
【0135】
AB鋼は、式(1-2)を満たさなかった。本鋼を用いて得られた実験例78の鋼板は、未再結晶フェライトが多く、また式(4)を満たさなかったため、0.2%耐力および降伏比が高く、また式(12)および式(13)を満たさなかった。
【0136】
AC鋼は、Ti含有量が本発明の範囲よりも高かった。本鋼を用いて得られた実験例79の鋼板は、未再結晶フェライトが多かったため、0.2%耐力および降伏比が高く、また均一伸びが低かった。
【0137】
AD鋼は、Nb含有量が本発明の範囲よりも高かった。本鋼を用いて得られた実験例80の鋼板は、未再結晶フェライトが多かったため、0.2%耐力および降伏比が高かった。
【0138】
AE鋼は、C含有量が本発明の範囲よりも低かった。本鋼を用いて得られた実験例81の鋼板は、引張強さが低かった。
【0139】
AF鋼は、C含有量およびS含有量が本発明の範囲よりも高かった。本鋼を用いて得られた実験例82の鋼板は、フェライト量が少なかったため、均一伸びが低かった。
【0140】
AG鋼は、TiおよびNbの両方を含まなかった。本鋼を用いて得られた実験例83の鋼板は、未再結晶フェライトが少く、炭窒化物を含まず、また式(5)を満たさなかったため、0.2%耐力、引張強さおよび降伏比が低かった。
【0141】
実験例4、7、12、21、34、41および61は、熱間圧延工程の条件が本発明の範囲を逸脱した比較例である。
【0142】
実験例4は、熱間圧延完了温度が低かったため、式(2)および(3)を満たさず、式(12)および(13)を満たさなかった比較例である。
【0143】
実験例7は、鋼片加熱温度が低かったため、炭窒化物の平均径が大きくなり、0.2%耐力が低くなり、また式(12)を満たさなかった比較例である。
【0144】
実験例12は、800~450℃の温度域の平均冷却速度が低かったため、式(2)を満たさず、式(13)を満たさなかった比較例である。
【0145】
実験例21は、fnが大きく、1000℃以下の温度域において式(6)を満たさなかったため、式(3)および式(5)を満たさず、式(12)を満たさなかった比較例である。
【0146】
実験例34は、熱間圧延後、冷却開始までの時間が短かったため、式(3)を満たさず、式(12)を満たさなかった比較例である。
【0147】
実験例41は、鋼片加熱温度が高かったため、式(3)を満たさず、式(12)を満たさなかった比較例である。
【0148】
実験例61は、熱間圧延完了温度が高かったため、式(3)を満たさず、式(12)を満たさなかった比較例である。
【0149】
実験例38、47、71および76は、再加熱工程の条件が本発明の範囲を逸脱した比較例である。
【0150】
実験例38は、最高再加熱温度が高かったため、式(2)、式(4)および式(5)を満たさず、式(12)および式(13)を満たさなかった比較例である。
【0151】
実験例47は、最高再加熱温度が低かったため、未再結晶フェライト量が多く、炭窒化物の平均径が小さく、また式(4)および式(5)を満たさず、0.2%耐力および降伏比が高く、均一伸びが低く、式(12)および式(13)を満たさなかった比較例である。
【0152】
実験例71は、K20が高く、450~700℃の温度域において式(8)を満たさなかったため、マルテンサイト量が多く、式(5)を満たさず、式(12)および式(13)を満たさなかった比較例である。
【0153】
実験例76は、式(7-1)を満たさなかったため、炭窒化物の平均径が小さく、式(5)を満たさず、0.2%耐力および降伏比が高く、また式(13)を満たさなかった比較例である。
【0154】
実験例2、18および69は、冷間圧延工程の条件が本発明の範囲を逸脱する比較例である。
【0155】
実験例2は、冷間圧延完了温度が低かったため、未再結晶フェライト量が多く、式(4)を満たさず、0.2%耐力が高く、均一伸びが低くなり、また式(12)および式(13)を満たさなかった比較例である。
【0156】
実験例18は、合計圧下率が高かったため、式(3)を満たさず、式(12)を満たさなかった比較例である。
【0157】
実験例69は、合計圧下率が低かったため、未再結晶フェライト量が多く、0.2%耐力および降伏比が高く、均一伸びが低く、また式(12)および式(13)を満たさなかった比較例である。
【0158】
実験例9、10、19、32、37、46、49および50は、焼鈍工程の条件が本発明の範囲を逸脱する比較例である。
【0159】
実験例9は、P10が低く、式(9)を満たさなかったため、未再結晶フェライト量が多くなり、0.2%耐力が高かった比較例である。
【0160】
実験例10は、式(10)を満たさなかったため、式(2)を満たさず、式(12)および式(13)を満たさなかった比較例である。
【0161】
実験例19は、式(11)を満たさなかったため、残留オーステナイト量が多く、0.2%耐力および降伏比が低くなった比較例である。
【0162】
実験例32は、720℃~焼鈍温度の温度域において張力を付与しなかったため、式(2)を満たさず、式(13)を満たさなかった比較例である。
【0163】
実験例37は、式(10)を満たさなかったため、マルテンサイト量が多く、0.2%耐力および降伏比が低かった比較例である。
【0164】
実験例46は、焼鈍温度が高かったため、フェライト量および未再結晶フェライト量が少なくなり、均一伸びが低かった比較例である。
【0165】
実験例49は、焼鈍温度が低かったため、未再結晶フェライト量が少なくなり、0.2%耐力および降伏比が低かった比較例である。
【0166】
実験例50は、式(10)を満たさなかったため、マルテンサイト量が多くなり、0.2%耐力および降伏比が低かった比較例である。
【0167】
実験例84は、式(6)を満たさず、熱間圧延工程での冷却開始までの時間が短く、冷間圧延工程ので圧延完了温度が低かったため、式(2)~(5)を満たさなかった比較例である。
【0168】
上記の比較例を除く実験例が、本発明における実施例である。実施例として記載する鋼板は、本発明の製造条件を満足する製造方法により製造することで、優れた成形性、強度およびプレス成形後の寸法精度を有することが分かる。
【0169】
実験例5、11、13、15、20、24、30、39、40、43、45、48、52、54、57、62、67及び70は、めっき処理を施すことで本発明のめっき鋼板を得た実施例である。
【0170】
実験例15、24、43、45および62は、焼鈍工程において鋼板を500℃まで冷却した後、溶融亜鉛浴に浸漬し、室温まで冷却することで溶融亜鉛めっき鋼板(GI)を得た実施例である。
【0171】
実験例5、11、13、30、39および40は、焼鈍工程において鋼板を500℃まで冷却後に溶融亜鉛浴に浸漬し、更に560℃まで再加熱する合金化処理を施してから、室温まで冷却することで合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)を得た実施例である。
【0172】
実験例20および70は、焼鈍工程において鋼板を500℃まで冷却後に溶融亜鉛合金浴に浸漬し、室温まで冷却することで亜鉛合金めっき鋼板を得た実施例である。
【0173】
実験例48、52は、焼鈍工程において鋼板を500℃まで冷却した後、溶融亜鉛合金浴に浸漬し、更に580℃まで再加熱する合金化処理を施してから、室温まで冷却することで合金化亜鉛合金めっき鋼板を得た実施例である。
【0174】
実験例57は、調質圧延後に蒸着めっき処理を施し、亜鉛めっき鋼板を得た実施例である。
【0175】
実験例54および67は、焼鈍工程の後、電気亜鉛めっき処理を施し、電気亜鉛めっき鋼板(EG)を得た実施例である。
【産業上の利用可能性】
【0176】
本発明に係る上記態様によれば、成形性、強度およびプレス成形時の寸法精度に優れる鋼板およびその製造方法を提供することができる。上記態様に係る鋼板は、自動車の大幅な軽量化と、搭乗者の保護・安全の確保に好適な鋼板である。そのため、本発明は、鋼板製造産業及び自動車産業において利用可能性が高い。