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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-25
(45)【発行日】2023-02-02
(54)【発明の名称】プレス成形品の製造方法及びブランク
(51)【国際特許分類】
   B21D 22/22 20060101AFI20230126BHJP
   B21D 24/04 20060101ALI20230126BHJP
【FI】
B21D22/22
B21D24/04 A
B21D24/04 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022568532
(86)(22)【出願日】2022-08-23
(86)【国際出願番号】 JP2022031656
【審査請求日】2022-11-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】菅原 稔
(72)【発明者】
【氏名】田中 康治
(72)【発明者】
【氏名】野崎 貴行
(72)【発明者】
【氏名】山本 昂
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-170529(JP,A)
【文献】特開平4-28424(JP,A)
【文献】特開2017-192972(JP,A)
【文献】特開昭63-112029(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/22
B21D 24/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブランクを第一プレス金型の支持面と第三プレス金型の支持面とで挟むこと、
第二プレス金型を前記第一プレス金型に押し込んで前記ブランクを絞り成形すること、
を含み、
前記第一プレス金型のプレス穴の縁の稜線は湾曲して延在する湾曲領域を備え、
前記ブランクの垂直方向からみたとき、
前記湾曲領域の前記稜線の延在方向の第1の端部を通る第1の法線を直線L1、
前記湾曲領域の前記稜線の延在方向の第2の端部を通る第2の法線を直線L2、
前記直線L1と前記ブランクの端部との交点を交点M、前記直線L2と前記ブランクの端部との交点を交点N、
前記交点Mを通り、前記直線L1に垂直な直線を直線L4、
前記交点Nを通り、前記直線L2に垂直な直線を直線L3、
前記直線L3と前記直線L4の交点を交点O、
前記交点Mと前記交点Oを結ぶ線分を線分MO、
前記交点Nと前記交点Oを結ぶ線分を線分NO、
と定義したとき、
前記ブランクを前記第一プレス金型と前記第三プレス金型で挟んだとき、
前記ブランクの前記交点Mと前記交点Nの間の角端部11は前記線分MOと前記線分NOを全て含み、
前記角端部11の一部は前記線分MOと前記線分NOの間の領域の外側にある、
プレス成形品の製造方法。
【請求項2】
各辺がブランクの縁と外側のみを通る第1の長方形の角に隣接する、1辺の長さが前記第1の長方形の短辺の40%の正方形の領域において、前記ブランクは各辺が前記ブランクの縁と内側のみを通る第2の長方形の2つの辺の両方に接し、
前記第2の長方形の2つの辺と前記ブランクの2つの接点を通り、角が前記第1の長方形と重なる長方形の領域において、前記ブランクは前記第1の長方形の2つの辺の両方に接するブランク。
【請求項3】
前記第1の長方形の前記角から前記第1の長方形の短辺の長さの10%以内の範囲で前記第1の長方形の前記2つの辺の両方に接する請求項2に記載のブランク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス成形品の製造方法及びブランクに関する。
【背景技術】
【0002】
CAFE(Corporate Average Fuel Efficiency)に基づく規制等のCO排出量削減を目標として、電気自動車(Electric Vehicle)の展開が急速に進められている。現在は高価格帯の電気自動車が主流であるが、電気自動車の低価格化のためには鉄鋼材料等の金属を採用した部品の開発が必要である。その一例として、鉄鋼材料等を採用した、バッテリーボックス、フロントピラーロア、ドアインナー等の成形技術の開発が行なわれている。
【0003】
通常、これらの部品(例えば、トレー)は、底板部、縦壁部及びフランジ部を含むように構成され、縦壁部が湾曲した角部(コーナー部とも称する)を有し、複数の部材を溶接して組み立てることで製造される。しかし、従来の成形技術では角部の曲率半径が比較的小さい場合やプレス成形の深さが深い場合、角部近傍のフランジにおいてしわが生じることがあった。詳細には、トレーのような形状の製品を絞り成形で製造することは一般に行われている。トレーの角部に隣接するフランジは絞り成形された結果、しわが発生することがある。このフランジの成形は縮みフランジ成形と呼ばれる。成形に伴い、フランジの周長方向の幅が縮んでいくからである。フランジの周長方向の幅が縮んだ結果、しわが発生する。この傾向は加工対象が高強度材であるほど顕著になる。また、トレーの縦壁の高さが高くなる成形になるほどフランジの縮み量が増えるため、フランジにしわが発生しやすくなる。縮みフランジで発生したしわは、被加工材がフランジからトレーの縦壁に引き込まれても残留する。すなわち、トレーの縦壁にもしわが発生する。トレーの角部の曲率半径が小さくてもフランジと縦壁にしわが発生しやすくなる。更にトレーの角部の曲率半径が小さいと、トレーの角部から伸びる縦壁の稜線において、縦壁の稜線に沿った亀裂が発生することがある。この亀裂はトレーの角部の曲率半径が小さいほど発生しやすい。また、この亀裂は加工対象が高強度材であるほど発生しやすい。
【0004】
フランジ部のしわを抑制する手法として、例えば特許文献1の技術では、金型の押さえ面にビードを設け、絞り成形時の材料の流れる方向を制御しようと試みている。しかしながら、特許文献1の技術では、プレス成形後の製品にビードの跡や疵がつく可能性が高く、外観を損なう虞がある。また特許文献1の技術では、高強度の鉄鋼材料等をプレス成形する場合、所望の効果が発揮できない可能性が高く、安定した生産を行うことが難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本国特許第2560416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明者らは、しわやき裂の発生を抑制する原因について鋭意検討した。
幾何学的にはトレーの角部の外側のフランジは、縦壁に向かって引き込まれるに従い幅が狭くなるので縮む。また、トレーの角部の外側のフランジにしわの発生した成形品では、成形品の縁にもしわが発生している。このことからトレーの角部の外側のフランジは全体が縮み変形をしていると考えがちである。
トレーのフランジと縦壁の間の稜線が真直ぐな箇所と角部とではフランジから縦壁に向かう流入抵抗が異なるため、成形前後で稜線が真直ぐな箇所に隣接するフランジと角部の稜線に隣接するフランジの相対的な位置に着目すると、成形後は角部の稜線に隣接するフランジとその周辺が稜線から離れるように膨らんでいる。このことから、実際にはフランジの端部(被加工材の縁)は引き伸ばされているのではないかと発明者らは考えた。この仮説は、有限要素解析や実際にブランクに傷をつけて成形した結果、正しいと確認できた。
発明者らは更に検討を重ね、ブランクの中にブランクの角の2等分線を垂直に横切る長方形の領域を想定したとき、成形時に長方形の領域が成形に伴いブランクの角に向かって凸のアーチ形状に変形すると発明者らは考えた。アーチ形状の凹側が圧縮変形してしわが発生すると発明者らは考えた。アーチ形状の凸側は引張変形するが、この引張変形を緩和すればアーチ形状への変形が緩和され、その結果アーチ形状の凹側の圧縮変形も緩和されてしわの発生が抑制できると発明者らは考えた。具体的には、発明者らは、真直ぐに延在するダイ穴の縁とブランクの縁の間隔に比べ、ダイ穴の角部の縁とブランクの縁の間隔を従来に比べ広くすることで、アーチ形状への変形を抑制できることに想到した。発明者らは、ダイ穴の縁とブランクの縁の位置関係をこのようにすることによってしわの発生を抑制できることに想到した。更に、発明者らは、上述のトレーの角部の曲率半径が小さい場合にトレーの角部から伸びる縦壁の稜線で発生する亀裂を抑制することに想到した。
【0007】
ここで、プレス成形前後の加工対象の点の移動について説明する。
図17A及び図17Bは、有限要素解析結果に基づく、従来のプレス成形前後の加工対象の点(a,b,c,d)の移動を説明するための説明図である。図17Aは、有限要素解析結果に基づく、従来のプレス成形前の加工対象の点を示す説明図である。図17Bは、有限要素解析結果に基づく、プレス成形後の加工対象の点を示す説明図である。
点aと点bは成形後に金型の稜線(ダイ穴の縁)の湾曲部の端部にあった点である。点cと点dは成形後に金型の湾曲部の端部を通る金型の稜線の延在方向に垂直な線上にあるプレス成形品の端部の点である。有限要素解析ソフトに備えられた製品形状から展開図のようにブランク形状を逆算する機能を用いると、図17Bの加工対象の点(a,b,c,d)は成形前の図17Aの位置になる。
成形に伴う加工対象の流入には、真直ぐな金型の稜線に吸い込まれる流入Fと金型の稜線の湾曲部に吸い込まれる流入Fがある。流入Fには加工対象が金型の稜線で曲げられる変形抵抗がある。流入Fには加工対象が金型の稜線で曲げられる変形抵抗に加え、加工対象が金型の稜線の湾曲部に近づくほど流入方向を横断する向きに加工対象が圧縮される変形抵抗がある。すなわち、流入Fより流入Fの方が変形抵抗は高い。このため、流入Fと流入Fの流入量は均一ではない。流入Fと流入Fの流入量が均一ではない結果、成形品のフランジの幅(金型の稜線から成形品の縁までの幅)は流入Fの発生する箇所で広くなる。また、流入Fの発生する箇所の周囲の流入Fの発生する箇所でも流入Fの発生する箇所から押し出された加工対象により成形品のフランジの幅は広くなる。別の観点では、流入Fの発生する箇所の周囲の流入Fの発生する箇所でも流入Fの発生する箇所から流入Fに巻き込まれて引っ張り出された加工対象により成形品のフランジの幅は広くなる。
点a,点b,点c,点dに囲まれた領域Hは成形により金型の稜線の湾曲部が凸に湾曲する向きと同じ方向にアーチ状に凸に変形する。図17Aで斜線で示す領域Hは、成形後のコーナー部フランジに相当する範囲である。図17Aの領域Hは、成形後、図17Bで斜線で示す領域Hに変形する。図17A及び図17Bに示すように、成形に伴い点a,点b,点c,点dは移動する。例えば、点aは、図17Bに示すような流入軌跡となる。
成形により点a,点bの間が接近するため成形品にしわが発生する。発明者は点a,点b,点c,点dに囲まれた領域Hがアーチ状に変形するのを緩和できればしわの発生が抑制できると考えた。点c,点d間が伸びるのを抑制できればアーチ状に変形するのを緩和できると考えられる。
【0008】
発明者らは、ブランクの角部を外側に引き伸ばせば、点c,点d間が伸びるのを抑制できると考えた。図18A及び図18Bは、有限要素解析結果に基づく、本開示のプレス成形前後の加工対象の点(a,b,c,d)の移動を説明するための説明図である。図18Aは、有限要素解析結果に基づく、本開示のプレス成形前の加工対象の点を示す説明図である。図18Bは、有限要素解析結果に基づく、本開示のプレス成形後の加工対象の点を示す説明図である。
図18Aの点線は従来のブランクの形状を示す。点eは点b,点cを通る直線とブランクの縁の交点である。同様に、点fは点a,点dを通る直線とブランクの縁の交点である。図18Aに示すように、点c,点dより外側にブランク(被加工材)が広がっている。これにより、成形により点cと点dとの間が伸びることが緩和されることを見出した。その理由は主に2つある。第1に、加工対象が金型の稜線の湾曲部に同じ長さ引き込まれたとしても、点cと点dとの間隔の接近する割合より点eと点fとの間隔の接近する割合は小さい。すなわち、ブランクの点cと点dより端にある箇所はブランクの点cと点dが接近するのを阻害する。第2に、点cと点eとの間(点dと点fとの間)の分、流入Fにより引き込まれる箇所が増えたため、点cと点dとの間を伸ばす応力が緩和される。応力が緩和されると伸び変形も緩和される。
【0009】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであり、プレス成形品のフランジ部におけるしわやコーナー部とその近傍における割れの発生を抑制できる、プレス成形品の製造方法及びブランクを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本開示の一態様に係るプレス成形品の製造方法は、ブランクを第一プレス金型の支持面と第三プレス金型の支持面とで挟むこと、第二プレス金型を前記第一プレス金型に押し込んで前記ブランクを絞り成形すること、を含み、前記第一プレス金型のプレス穴の縁の稜線は湾曲して延在する湾曲領域を備え、前記ブランクの垂直方向からみたとき、前記湾曲領域の前記稜線の延在方向の第1の端部を通る第1の法線を直線L1、前記湾曲領域の前記稜線の延在方向の第2の端部を通る第2の法線を直線L2、前記直線L1と前記ブランクの端部との交点を交点M、前記直線L2と前記ブランクの端部との交点を交点N、前記交点Mを通り、前記直線L1に垂直な直線を直線L4、前記交点Nを通り、前記直線L2に垂直な直線を直線L3、前記直線L3と前記直線L4の交点を交点O、前記交点Mと前記交点Oを結ぶ線分を線分MO、前記交点Nと前記交点Oを結ぶ線分を線分NO、と定義したとき、前記ブランクの前記交点Mと前記交点Nの間の角端部は前記線分MOと前記線分NOを全て含み、前記角端部の一部は前記線分MOと前記線分NOの間の領域の外側にある。
【0011】
上記の構成からなるプレス成形品の製造方法では、ブランクに対して適切な流動制御領域を定義することができるため、プレス成形品のフランジ部におけるしわやコーナー部とその近傍における割れの発生を抑制できる。
【0012】
(2)本開示の一態様に係るブランクは、各辺がブランクの縁と外側のみを通る第1の長方形の角に隣接する、1辺の長さが前記第1の長方形の短辺の40%の正方形の領域において、前記ブランクは各辺が前記ブランクの縁と内側のみを通る第2の長方形の2つの辺の両方に接し、前記第2の長方形の2つの辺と前記ブランクの2つの接点を通り、角が前記第1の長方形と重なる長方形の領域において、前記ブランクは前記第1の長方形の2つの辺の両方に接する。
(3)上記(2)に記載のブランクは、前記第1の長方形の前記角から前記第1の長方形の短辺の長さの10%以内の範囲で前記第1の長方形の前記2つの辺の両方に接してもよい。
【0013】
上記の構成からなるブランクでは、金型のコーナー領域に対応するブランクの角部の板面において流動制御領域が規定されているため、プレス成形品のフランジ部におけるしわやコーナー部とその近傍における割れの発生を抑制できる。
【発明の効果】
【0014】
本開示のプレス成形品の製造方法及びブランクによれば、プレス成形品のフランジ部におけるしわやコーナー部とその近傍における割れの発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本開示の一実施形態に係る第一プレス金型のコーナー領域の付近を示す概略的な斜視図である。
図2】本開示の一実施形態に係る第一プレス金型のコーナー領域の付近を示す図であって、底面に垂直な方向の平面視での概略的な平面図である。
図3図2のA-A’の位置を通る平面で第一プレス金型を断面視した概略的な断面図である。
図4】本開示の一実施形態に係る一組のプレス金型を説明するための概略的な斜視図である。
図5A】本開示の一実施形態に係るプレス成形品の製造方法を説明するための概略的な平面図である。
図5B図5Aで示す角端部のうちの一部の角端部付近を示す平面図である。
図5C】比較例のプレス成形品の製造方法を説明するための概略的な平面図である。
図6】本開示の一実施形態に係るプレス成形品の製造方法の変形例を説明するための概略的な平面図である。
図7】本開示の一実施形態に係るブランクの変形例を説明するための概略的な平面図である。
図8】本開示の一実施形態に係るコーナー領域を説明するための概略的な斜視図である。
図9A】本開示を好ましく用いることができる製品の一例を示す図である。
図9B】本開示を好ましく用いることができる製品の一例を示す図である。
図10】本開示を好ましく用いることができる製品の一例を示す図である。
図11】本開示を好ましく用いることができる製品の一例を示す図である。
図12】本開示を好ましく用いることができる製品の一例を示す図である。
図13A】実験例1のブランクの概略的な平面図である。
図13B】実験例1のブランクをプレス成形した場合に有限要素解析して得られた最大主ひずみの分布を示す図である。
図14】実験例2のブランクの概略的な平面図である。
図15】実験例3のブランクの概略的な平面図である。
図16】実験例4のブランクの概略的な平面図である。
図17A】有限要素解析結果に基づく、従来のプレス成形前の加工対象の点を示す説明図である。
図17B】有限要素解析結果に基づく、従来のプレス成形後の加工対象の点を示す説明図である。
図18A】有限要素解析結果に基づく、本開示のプレス成形前の加工対象の点を示す説明図である。
図18B】有限要素解析結果に基づく、本開示のプレス成形後の加工対象の点を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者らは、プレス成形品のフランジ部に生じるしわを抑制するために、プレス成形されるブランクの形状を検討したところ、従来のブランクの形状に余剰部を設けることで、プレス成形時の材料の流動方向を制御でき、フランジ部のしわやコーナー部とその近傍における割れの抑制につながることを見出した。しかし一方、本発明者らは、単に余剰部を設けただけでは、このようなしわを効果的に抑制することができないことも見出した。そして、鋭意検討の結果、ブランクの形状や金型の形状に応じた適切な領域を設定することで、プレス成形品のフランジ部のしわを効果的に抑制できることを見出した。
【0017】
以下、本開示の実施形態について例を挙げて説明するが、本開示は以下で説明する例に限定されないことは自明である。以下の説明では、具体的な数値や材料を例示する場合があるが、本開示の効果が得られる限り、他の数値や材料を適用してもよい。また、以下の実施形態の各構成要素は、互いに組み合わせることができる。
【0018】
(プレス成形品の製造方法)
本実施形態に係るプレス成形品の製造方法は、ブランクを第一プレス金型の支持面と第三プレス金型の支持面とで挟むこと(ブランク挟持工程)、第二プレス金型を前記第一プレス金型に押し込んでブランクを絞り成形すること(ブランク絞り成形工程)、を含む。
先ず、ブランク挟持工程及びブランク絞り成形工程を実施可能なプレス金型の一例について説明する。
【0019】
(プレス金型)
図1に、本実施形態に係るプレス成形品の製造方法に採用可能なプレス金型(第一プレス金型100)の一例を示す。また、図2は、第一プレス金型100の側面120のコーナー領域121の付近を示す概略的な図であって、底面110に垂直な方向の平面視での平面図を示す。図1及び図2の例では、X軸は側面120の一方の平面領域(平面領域122a)が延在する方向と平行であり、Y軸は側面120の他方の平面領域(平面領域122b)が延在する方向と平行であり、Z軸は底面110の垂線に平行である。
【0020】
図1は第一プレス金型100の側面120のコーナー領域121の付近を示す概略的な斜視図である。図1に示す第一プレス金型100は、底面110と、底面110から立ち上がりかつ底面110に垂直な方向の平面視において湾曲するコーナー領域121を有する側面120と、稜線130を介して側面120と接続される支持面140とを備える。
【0021】
底面110は、略平面状の面であってもよい。底面110は、その外縁111において側面120と接続される。底面110の外縁111の全てが側面120と接続されていてもよく、外縁111の一部が側面120と接続されていてもよい。外縁111の一部は、側面120のコーナー領域121に対応する、角部111aを備えている。底面110と側面120とは、外縁111に沿って設けられた底面側稜線112を介して接続されていてもよい。底面側稜線112の各点における底面側稜線112の延在方向に垂直な断面視では、底面110と側面120とは底面側稜線112を介して滑らかに接続されている。底面側稜線112のうちで側面120のコーナー領域121と接続される部分を隅部112aと称する。底面110は、プレス成形品に凹凸部を設けるための、底面110の面外方向に向く凹部又は凸部を有していてもよい。
【0022】
側面120は、底面110に接続されかつ、底面110の面外方向に向けて立ち上がる。側面120の一部又は全部は、底面110の垂線と平行であってもよく、底面110の垂線に対して傾いていてもよい。側面120は、図1又は図2に示すように、底面110に垂直な方向の平面視において湾曲するコーナー領域121を有する。コーナー領域121は、終端部121a及び終端部121bにおいて側面120の平面領域122(平面領域122a及び平面領域122b)に接続されている。コーナー領域121は、底面110に垂直な方向の平面視において異なる曲率半径を有する他のコーナー領域、あるいは緩やかに湾曲する側面120の領域と接続されてもよい。あるいは、コーナー領域121の終端部は側面120の端部であってもよい。図1及び図2の例では、底面110に垂直な方向の平面視において平面領域122aと平面領域122bとは直交しているが、底面110に垂直な方向の平面視において平面領域122aと平面領域122bとがなす角は、これに限定されない。
【0023】
側面120は、底面110が接続される側の端部とは反対側の端部において、稜線130を介して支持面140と接続される。稜線130の各点における稜線130の延在方向に垂直な断面視で、支持面140は、側面120に対して底面110と反対側に設けられている。側面120のコーナー領域121と接続される稜線130の部分を湾曲領域131と称する。稜線130の湾曲領域131は、終端部131a及び終端部131bにおいて稜線130の直線領域132(直線領域132a及び直線領域132b)に接続されている。湾曲領域131は、底面110に垂直な方向の平面視において異なる曲率半径を有する他の湾曲領域、あるいは緩やかに湾曲する稜線130の領域と接続されてもよい。あるいは、湾曲領域131の終端部は稜線130の端部であってもよい。湾曲領域131の終端部(終端部131a及び終端部131b)は、後述する終端点(第1の端部)P1及び終端点(第2の端部)P2をそれぞれ含む。
【0024】
図3に、図2のA-A’の位置を通る平面で第一プレス金型100を断面視した概略的な断面図を示す。図3に示すように、底面110と側面120のコーナー領域121とは底面側稜線112の隅部112aを介して滑らかに接続され、側面120のコーナー領域121と支持面140とは稜線130の湾曲領域131を介して滑らかに接続されている。図3の例では、側面120のコーナー領域121は、底面110の垂線に対して傾いている。しかし、コーナー領域121は、底面110と直交する各断面において、底面110に対して垂直であってもよい。第一プレス金型100はプレス穴123を有する。第一プレス金型100と後述する第二プレス金型200が近接する方向に相対的に移動することで、第二プレス金型200がプレス穴123に押し込まれる。プレス穴123の縁(第二プレス金型200側の縁)の稜線130は、湾曲して延在する湾曲領域131を備える。
【0025】
第一プレス金型100は、コーナー領域121を一又は複数備えていてもよい。第一プレス金型100の底面110はプレス成形品の底板部と対応し、側面120はプレス成形品の縦壁部と対応し、支持面140はプレス成形品のフランジ部に対応する。
【0026】
上述した第一プレス金型100と、第二プレス金型200と、第三プレス金型300とを含む一組のプレス金型1000によってプレス成形が実施される。第一プレス金型100、第二プレス金型200及び第三プレス金型300を含む、一組のプレス金型1000の一例を図4に示す。図4では、4つのコーナー領域121を備える第一プレス金型100を含むプレス金型1000を例示するが、プレス金型としてはこの形状に限定されず、コーナー領域121の数や底面110の形状は特に限定されない。
【0027】
第二プレス金型200は、第一プレス金型100の底面110に対応する底面210と、第一プレス金型100の側面120に対応する側面220と、第一プレス金型100のコーナー領域121に対応するコーナー領域221を備えている。第二プレス金型200の底面210と側面220の外面形状は、第一プレス金型100の底面110と側面120の外面形状と対応する形状とされている。被加工材であるブランクを第一プレス金型100と第二プレス金型200の間に配置した状態で、第一プレス金型100の底面110と第二プレス金型200の底面210が近接する方向(プレス方向)に、第一プレス金型100と第二プレス金型200を相対的に移動させることで、第一プレス金型100と第二プレス金型200との間でブランクを塑性変形させる。第一プレス金型100は、ダイとも称される。第二プレス金型200は、パンチとも称される。
【0028】
第三プレス金型300は、第一プレス金型100の支持面140に対応する支持面340を備えている。第一プレス金型100の支持面140と第三プレス金型300の支持面340は対向して配置され、第一プレス金型100の支持面140と第三プレス金型300の支持面340によって、被加工材であるブランクを挟持できる。ブランクは、第一プレス金型100の支持面140と第三プレス金型300の支持面340によって、その面外方向に移動せず、面内方向で移動できるように挟持される。第一プレス金型100と第三プレス金型300とによってブランクを挟持した状態で第一プレス金型100と第二プレス金型200を相対的に移動させる際には、第二プレス金型200は第三プレス金型300と相対的に移動する。第三プレス金型300は、ホルダーとも称される。
【0029】
第一プレス金型100、第二プレス金型200及び第三プレス金型300は、それぞれが単一の部材から構成されてもよく、それぞれが分割された分割金型から構成されてもよい。またプレス金型1000は、これらの金型以外の金型を備えていてもよい。
【0030】
ブランク10の角端部11について説明する。図5Aは、本開示の本実施形態に係るプレス成形品の製造方法を説明するための概略的な平面図である。図5Aは、板状のブランク10の板面に垂直な方向の平面視である。図5Bでは、図5Aで示すブランク10の角端部11のうちの一部の角端部11付近を示している。図5Bは、ブランク10をダイ(第一プレス金型100)の上に置いてブランクホルダ(第三プレス金型300)で挟んだときのダイ穴(プレス穴123)の稜線130とブランク10の縁の位置を示す。
ブランク10の垂直方向からみたとき、湾曲領域131の稜線130の延在方向の第1の端部P1を通る第1の法線を直線L1、湾曲領域131の稜線130の延在方向の第2の端部P2を通る第2の法線を直線L2、L1とブランク10の端部との交点を交点M、直線L2とブランク10の端部との交点を交点N、交点Mを通り、直線L1に垂直な直線を直線L4、交点Nを通り、直線L2に垂直な直線を直線L3、直線L3と直線L4の交点を交点O、交点Mと交点Oを結ぶ線分を線分MO、交点Nと交点Oを結ぶ線分を線分NO、と定義する。ブランク10の交点Mと交点Nの間の端部を角端部11とする。角端部11は、交点Mと交点Nを結ぶ線分MNから、ブランク10の外側の部分である。図5Bに示すように、ブランク10を第一プレス金型100と第三プレス金型300で挟んだとき、角端部11は線分MOと線分NOを全て含み、角端部11の一部は線分MOと線分NOの間の領域の外側にある。なお、線分MOと線分NOは、従来のブランクの端部の形状である。線分MOと線分NOに挟まれる領域の外側にブランク10の角端部11の縁があり、ブランク10の角端部11の縁は線分MOと線分NOに挟まれる領域の内側にはない。
【0031】
このように、ブランク10の角端部11の一部は線分MOと線分NOの間の領域の外側にある。すなわち、ブランク10は角端部11が外側に張り出した形状である。換言すれば、角端部11は、ブランク10の角の外側に向かって凸形状である。また、角端部11はブランク10の角の外側に向かってアーチ形状とも言える。ブランク10の角端部11をこのような形状とすることで、角端部11での引張変形が緩和され、しわの発生が抑制される。
【0032】
なお、ブランク10中の全ての角部において角端部11が設定される必要はなく、その一部のみに角端部11が設定されてもよい。
【0033】
本実施形態に係るプレス成形品の製造方法では、ブランクに対して適切な角端部11を定義することができるため、プレス成形品のフランジ部におけるしわやコーナー部とその近傍における割れの発生を抑制できる。コーナー部においては特に隅部112aの割れを抑制できる。隅部112aはプレス成形の開始から終了に亘って引き伸ばされ続ける箇所であって、最も割れが発生しやすい箇所である。
【0034】
(プレス成形品の製造方法の変形例)
図6は、本開示の一実施形態に係るプレス成形品の製造方法の変形例を説明するための概略的な平面図である。図6は、ブランク10をダイ(第一プレス金型100)の上に置いてブランクホルダ(第三プレス金型300)で挟んだときのダイ穴の稜線130とブランク10の縁の位置を示している。なお、図6では、ブランク10の角端部のうちの1箇所の角端部11付近を示している。
図6に示す変形例においても、図5Bと同様に、ブランク10の角端部11の一部は線分MOと線分NOの間の領域の外側にある。すなわち、ブランク10は角部が外側に張り出した形状である。換言すれば、角端部11は、ブランク10の角の外側に向かって凸形状である。また、角端部11はブランク10の角の外側に向かってアーチ形状とも言える。ブランク10の角端部11をこのような形状とすることで、角端部11での引張変形が緩和され、しわの発生が抑制される。
【0035】
(ブランク)
本実施形態に係るブランク10について詳述する。本実施形態では、長方形状(矩形状)であるブランク10について、図5A及び図5Bを用いて説明する。図5Bでは、ブランク10の角端部11のうちの一部の角端部11付近を示しているが、角端部11とはブランク10の板面に垂直な方向の平面視において、略直線状のブランク10の第1の辺S1と第2の辺S2が交わる箇所である。
図5A及び図5Bの視野は、各辺がブランク10の縁と外側のみを通る第1の長方形R1の角に隣接する、1辺の長さが長方形の切板の短辺の40%の正方形の領域A1を想定している。図5Cに示すような、この領域A1内に金型の稜線1300の角部が入らないほど深くブランク10を成形すると、本開示の知見を用いても割れの発生が懸念される。この領域A1内に金型の稜線1300の角部が入らずに割れの発生しない程度の成形を行う場合、フランジの幅が過剰になる。すなわち、歩留まりが悪い。上記領域A1において、ブランク10は各辺がブランク10の縁と内側のみを通る第2の長方形R2の2つの辺の両方に接し、第2の長方形R2の2つの辺とブランク10の2つの接点を通り、角が第1の長方形R1と重なる長方形の領域A2において、ブランク10は第1の長方形R1の2つの辺の両方に接する。図5Bに示すように、領域A2において、ブランク10は第1の長方形R1の2つの辺の両方において、2つの点X1,X2に接する。また、2つの点X1,X2から長方形の切板の角までブランク10の縁と長方形の切板の縁が一致していてもよい。更に、2つの点X1,X2は長方形の切板の角から長方形の切板の短辺の長さの10%以内の範囲内にあることが望ましい。これらのようにすることでブランク10の角端部11の引張変形をより緩和することができる。
【0036】
第1の長方形R1は、各辺がブランクの縁と外側のみを通る。第1の長方形R1は、長方形の切板の形状である。第2の長方形R2は、各辺がブランクの縁と内側のみを通る。第2の長方形は、交点Oを角にして交点Nと交点Mを通る。
第1の長方形R1の角に隣接する、1辺の長さが第1の長方形R1の短辺の40%の正方形の領域A1において、ブランク10は第2の長方形R2の2つの辺の両方に接する。図5Bで図示した領域において、ブランク10の縁は交点Mと交点Nを通る。
第2の長方形R2の2つの辺とブランクの2つの接点と第1の長方形R1と重なる長方形の領域A2において、ブランク10は第1の長方形R1の2つの辺の両方に接する。切板の縁と直線L1と直線L2に囲まれた領域において、ブランク10の縁は切板の縁に接する。但し、実際のブランク10の切り出しにおいては、切板の縁までブランクに使用する必要はない。
【0037】
このような形状のブランク10の交点Mと交点Nの位置とダイのダイ穴(プレス穴123)の稜線130を、上述したプレス成形品の製造方法で説明したように配置してプレス成形を行うと、本開示のプレス成形品の製造方法を実施できる。
【0038】
(ブランクの変形例)
図7は、本開示の一実施形態に係るブランクの変形例を説明するための概略的な平面図である。
【0039】
図5Aから図7の例では、長方形状(矩形状)のブランク10を示しているが、ブランク10の形状はこれに限定されず、課題達成の設定対象となる角部にのみ角端部11が設けられてもよい。角端部11の一部は、プレス成型後、プレス成形品のフランジの一部となってもよい。プレス成形品のフランジをトリミングして形状を整えてもよい。この場合、ブランク10は、ブランク10の角部において角端部11を包含する形状である。
【0040】
ブランク10は、鋼板、アルミ合金板、チタン合金板、又はこれらの複合材であってもよい。ブランク10としては、引張強度が270から440MPaの鋼板を用いることが、材料伸びの点からより好ましい。またブランク10は、高強度鋼板であってもよく、例えば、引張強度が980MPa以上の鋼板であってもよい。本実施形態に係るブランク10の引張強度が高い場合にも、しわや割れの抑制効果が得られる。また、ブランク10には、防錆、防食の目的で、めっき処理等の加工が施されていてもよい。
【0041】
本実施形態に係るブランク10では、ブランク10の角部の板面において角端部11が規定されている。そのため、このブランク10よりプレス成形されるプレス成形品のフランジ部におけるしわやコーナー部とその近傍における割れの発生を抑制できる。
【0042】
上記実施形態において、上記の角端部11を設定する対象とするコーナー領域は、第一プレス金型の底面に垂直な方向の平面視において、側面に対して底面側から支持面側へ凸となるコーナー領域とする。すなわち、第一プレス金型の底面に垂直な方向の平面視において、側面に対して支持面側から底面側へ凸となるコーナー領域は、上記実施形態の対象とはならない。例えば、図8に示す第一プレス金型の側面領域Bは、側面に対して支持面側から底面側へ凸となっており、本開示に係る角端部11の設定方法の対象とはならない。
【0043】
上記実施形態において、底面に垂直な方向の平面視において互いに異なる曲率半径を有する複数のコーナー領域が接続されている場合、これら複数のコーナー領域を一つのコーナー領域として、上記の角端部を設定する。例えば、図8に示す第一プレス金型の側面領域Cでは、コーナー領域121’とコーナー領域121’’という互いに異なる曲率半径を有する複数のコーナー領域を備える。図8に示す第一プレス金型の側面領域Cは、側面に対して底面側から支持面側へ凸となっており、本開示に係る角端部11の設定方法の設定対象とできる。
【0044】
上記実施形態に係るブランクの板厚は、ブランクをプレス成形して得られるプレス成形品に求められる特性によって適宜設定することがより好ましい。ブランクの板厚は、被加工材である金属板の平均板厚であってもよい。平均板厚は、金属板の複数の任意の点(例えば、縦壁部や底板部に成形される範囲における3点)における板厚の平均値としてもよい。また金属板の板厚は、予成形品の縦壁予成形部又は底板予成形部の板厚、又はプレス成形品の縦壁部又は底板部の板厚と実質的に同じであってもよい。また金属板の板厚は、第一金型と第二金型と間のクリアランス、又は第四金型と第五金型と間のクリアランスと実質的に同じであってもよい。
【0045】
角部の曲率半径が小さいと割れやしわの問題が顕在化する。そういった場合においても、本開示のプレス成形方法を実施すれば、割れやしわの発生を抑制できる。引張強さが980MPa以上のブランク10において、割れの問題が顕在化するダイのダイ穴(プレス穴123)の稜線130の延在方向の湾曲は、湾曲の最も小さな曲率半径が20mm以下である。この曲率半径は、ブランクの板厚の30倍に相当する。すなわち、引張強さが980MPa以上のブランクにおいて、ダイ穴の縁の稜線130の延在方向の湾曲の最も小さな曲率半径がブランクの30倍以下のとき、本開示のプレス成形方法を実施すれば、割れやしわの発生を抑制できる。
また、プレス深さが大きい場合も割れやしわの問題が顕在化する。その場合でも本開示のプレス成形方法によって割れしわの発生を抑制できる。
【0046】
上記実施形態において、終端点P1における稜線の接線と終端点P2における稜線の接線とのなす角度は特に限定されない。例えば、図6に示すような鋭角とすることができる。また、第一プレス金型の底面に垂直な方向の平面視において、終端点P1における稜線の接線と終端点P2における稜線の接線とのなす角度が30°以上150°以下であることがより好ましい。また、上記実施形態において、第一プレス金型の側面の平面領域は、底面に垂直な方向の平面視においてその曲率半径が500mm以上である領域とすることが好ましい。また、上記実施形態において、第一プレス金型の側面の高さがブランク10の板厚の20倍以上200倍以下であることがより好ましい。
【0047】
上記実施形態において、ブランク10のフランジ部の幅が非対称でもよい。すなわち、線分OMの長さと線分ONの長さが異なってもよい。このような場合においても、ブランク10に対して適切な流動制御領域を定義することができるため、プレス成形品のフランジ部におけるしわやコーナー部とその近傍における割れの発生を抑制できる。
【0048】
上記実施形態において、プレス成形品は、最終製品であってもよく、さらに加工(プレス成形、切削、曲げ、溶接、加熱・冷却、めっき、塗装)を施して最終製品とするための中間品であってもよい。
【0049】
上記実施形態に係るプレス成形品は、第一プレス金型のコーナー領域に対応するコーナー部を有する、車両用のバッテリーボックスに代表されるバッテリーボックス、フロントピラーロア、ドアインナー、等の車両用の部品に好ましく用いることができる。図9A図12は、本開示に係るプレス成形品の製造方法及びブランクを好ましく用いることができる製品の一例を説明するための図である。図9Aに例示するプレス成形品はバッテリーボックスのコーナー部品301であり、二つのコーナー部331及び331’を有している。図9Bに例示するプレス成形品はバッテリーボックスのコーナー部品302であり、コーナー部332を有している。これらのプレス成形品を他の部材と接合するなどして、バッテリーボックス全体を形成するようにしてもよい。図10に例示するプレス成形品は、コーナー部333を有するフロントピラー303である。このような全体がL字形状に湾曲した部材にも本開示は好ましく適用できる。図11に例示するプレス成形品は、Cピラーのスティフナー304であり、コーナー部334近傍において縦壁が高くなっている。このように、縦壁の高さが均一ではない部材にも本開示は好ましく適用できる。図12に例示するプレス成形品は、ドアインナー305である。本開示は、ドアインナー305のような曲率半径や開き角が異なる複数のコーナー部335及び335’を有するプレス成形品にも好ましく適用できる。
【実施例
【0050】
以下に、本開示の実施例について説明する。
本実施例では、図13A図14図15図16に示すような形状の角部を有する各ブランクについてプレス成形を行い、プレス成形品のフランジ部における有限要素解析によるひずみ分布を検証した。図13A図14図15図16で示す図では、各ブランクの一部の角部付近を示している。全てのブランクに共通して、ブランクの引張強度は270MPa、板厚は0.8mmとした。
【0051】
各ブランク500,600,700,10について、プレス成形をした場合を有限要素解析して得られた最大主ひずみの分布を検証した。主ひずみとは、せん断ひずみがゼロになる座標系Cpを基準としたときの垂直ひずみ3成分である。この主ひずみは、値の大きい方から順に「最大主ひずみ(ε1)」、「中間主ひずみ(ε2)」、「最小主ひずみ(ε3)」と定義さる。最大主ひずみは、一般に材料にかかる最大の引張りひずみの評価に使用される。この最大主ひずみが大きければ割れやすいと判断することができる。なお、最大主ひずみは一般の有限要素解析ソフトで求められる。一般に成形解析で用いられているソフトの機能として、製品形状から展開図のようにブランク形状を逆算する機能(展開ブランク解析)がある。この機能を使って解析することで、展開ブランクの形状を基準に検討するのが当業者の一般的なブランク設計である。
【0052】
(実験例1)
図13Aは、実験例1のブランク500の概略的な平面図である。ブランク500の角端部511は線分MOと線分NOの間の領域の内側にある。すなわち、ブランク500は従来例である。
図13Bにおいて、ブランク500を二点鎖線、成形後の形状を実線で示す。実験例1の最大主ひずみの最大値を示した箇所は図13Bの点線で示す丸で囲まれる箇所(湾曲領域付近)であり、最大値は0.85であった。
(実験例2)
図14は、実験例2のブランク600の概略的な平面図である。ブランク600の角端部611は線分MOと線分NOの間の領域の内側にある。すなわち、ブランク600は従来例である。
実験例2の最大主ひずみの最大値を示した箇所は図13Bの点線で示す丸で囲まれる箇所に相当する箇所であり、最大値は1.09であった。つまり、当業者の一般的なブランク設計ではプレス成形品が割れやすくなることが分かった。
(実験例3)
図15は、実験例3のブランク700の概略的な平面図である。ブランク700の角端部711の一部は線分MOと線分NOの間の領域の外側にあるが、角端部711は線分MOと線分NOを全て含んでいない。
実験例3の最大主ひずみの最大値を示した箇所は図13Bの点線で示す丸で囲まれる箇所に相当する箇所であり、最大値は0.92であった。つまり、角端部711の一部が線分MOと線分NOの間の領域の外側にあったとしても、角端部711が線分MOと線分NOを全て含んでいないと、プレス成形品が割れやすくなることが分かった。
(実験例4)
図16は、実験例4のブランク10の概略的な平面図である。ブランク10の角端部11の全ては線分MOと線分NOの間の領域の外側にある。すなわち、ブランク10は発明例である。
実験例4の最大主ひずみの最大値を示した箇所は図13Bの点線で示す丸で囲まれる箇所に相当する箇所であり、最大値は0.73であった。ブランク10は、従来例に比べ最大主ひずみに改善が見られた。
【0053】
実施例より、従来例に比べ改善するには、角端部11が線分MOと線分NOを全て含み、且つ、角端部11の一部が線分MOと線分NOの間の領域の外側にあることが必要であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本開示のプレス成形品の製造方法及びブランクによれば、プレス成形品のフランジ部におけるしわやコーナー部とその近傍における割れの発生を抑制できるため、産業上極めて有用である。
【符号の説明】
【0055】
10 ブランク
11 角端部
12 縁部
100 第一プレス金型
110 底面
120 側面
121 コーナー領域
130 稜線
131 湾曲領域
140 支持面
200 第二プレス金型
300 第三プレス金型
【要約】
このプレス成形品の製造方法は、ブランク(10)を第一プレス金型(100)の支持面(140)と第三プレス金型(300)の支持面(340)とで挟むこと、第二プレス金型(200)を第一プレス金型(100)に押し込んでブランク(10)を絞り成形すること、を含み、第一プレス金型(100)のプレス穴(123)の縁の稜線(130)は湾曲して延在する湾曲領域(131)を備え、所定の角端部(11)を定義したとき、ブランク(10)の交点Mと交点Nの間の角端部(11)は線分MOと線分NOを全て含み、角端部(11)の一部は線分MOと線分NOの間の領域の外側にある。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13A
図13B
図14
図15
図16
図17A
図17B
図18A
図18B