(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-25
(45)【発行日】2023-02-02
(54)【発明の名称】海水処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/00 20230101AFI20230126BHJP
C02F 1/76 20230101ALI20230126BHJP
C02F 1/72 20230101ALI20230126BHJP
【FI】
C02F1/00 K
C02F1/76 Z
C02F1/72 Z
(21)【出願番号】P 2022093780
(22)【出願日】2022-06-09
(62)【分割の表示】P 2021106917の分割
【原出願日】2021-06-28
【審査請求日】2022-06-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000154727
【氏名又は名称】株式会社片山化学工業研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】505112048
【氏名又は名称】ナルコジャパン合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】大谷 武之
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雅敏
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-209859(JP,A)
【文献】特開2007-216181(JP,A)
【文献】特開平08-024870(JP,A)
【文献】特開2019-76813(JP,A)
【文献】特開2017-209679(JP,A)
【文献】特開2000-189945(JP,A)
【文献】特開2007-215552(JP,A)
【文献】特開平3-4918(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/00-78
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素含有海水のダイオキシン類の発生を抑制する海水処理方法であって、
前記塩素含有海水の残留塩素濃度が0.005mg/L以上0.1mg/L以下であり、
海水に過酸化水素及び/又は過酸化水素発生剤を添加する薬剤添加工程を有する
ことを特徴とする海水処理方法。
【請求項2】
過酸化水素発生剤は、過ホウ酸、過炭酸、ペルオキシ硫酸、過酢酸及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1記載の海水処理方法。
【請求項3】
塩素含有海水は、塩素系酸化剤が添加された海水又は電解法により海水中で塩素を発生させた海水である請求項1又は2記載の海水処理方法。
【請求項4】
塩素含有海水のダイオキシン類の発生を抑制するための剤であって、
前記塩素含有海水の残留塩素濃度が0.005mg/L以上0.1mg/L以下であり、
有効成分として、過酸化水素及び/又は過酸化水素発生剤を含有する
ことを特徴とするダイオキシン類の発生抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩素含有海水のダイオキシン類の発生を抑制する海水処理方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電所、原子力発電所や、製鉄所、化学工場、石油精製工場等の諸工場では、復水器用の冷却水として海水が多量に使用されている。このような海水を使用した冷却水系においては、例えば、海水取水路壁や配管内及び熱交換器内等に、フジツボ類、イガイ類やコケムシ類等の海生付着生物が多量に付着してその冷却機能を低下させている。具体的には、付着した上記の海生付着生物が付着部分の熱交換効率を低下させるだけでなく、水圧や水流などによりはぎ取られて熱交換器の冷却細管やストレーナの目塞まりを引き起こし、海水の通水を妨げてしまう。また、例えば、カンザシゴカイ類等は熱交換器の冷却細管内に付着して孔食腐食の原因にもなっている。これら海生付着生物の付着を防止するため、冷却水系に用いられる海水に、電解塩素等の塩素ガス又は次亜塩素酸ソーダ等の塩素系酸化剤が添加されている。しかしながら、次亜塩素酸ソーダ、塩素ガス及び塩素系酸化剤の添加はトリハロメタン類や、ダイオキシン類のような有害物質を生成する恐れがあるため環境上は好ましくない。
【0003】
特許文献1には、工業用海水冷却水系に予め過酸化水素もしくは過酸化水素発生剤を所定濃度になるように分散された海水冷却水に、塩素ガスもしくは有効塩素発生剤をトリハロメタン類の生成を防止しうる濃度又はそれ以下の濃度で添加し、工業用海水冷却水系における海生付着生物の付着防止又は成長抑制することを特徴とする工業用海水冷却水の処理方法が記載されている。本文献において、海水に塩素剤を用いることでダイオキシンを生成する可能性があることは記載されているものの、塩素剤の使用量を抑えて過酸化水素と併用した処理を行うことによる、トリハロメタン類の生成を防止することが開示されているのみであって、過酸化水素及び/又は過酸化水素発生剤がダイオキシン類の発生を抑制するのに有効であることは、記載されていない。
【0004】
また特許文献2には、ダイオキシン類化合物を含有する廃水を酸性または活性の白土を含む吸着剤に接触させ、該吸着剤に廃水中のダイオキシン類化合物を吸着させることを特徴としており、吸着剤中のダイオキシン類化合物は、紫外線照射や、酸化剤添加による酸化分解により無毒化される方法が記載されている。しかしながら、本方法は、ダイオキシン類化合物含有廃水の量が所定量の場合には有効であると考えられるものの、例えば、発電、製鉄、化学、石油精製等の工業用の冷却水として、多量に使用されている海水から生じるダイオキシン類の処理に本方法を用いることは現実的ではない。
【0005】
また、従来は、ごみ処理場や燃焼炉を有する工場等から生じる排ガス中のダイオキシンの処理方法は検討されているものの、海水から生じるダイオキシンの処理方法については検討されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平08-024870号公報
【文献】特開平10-128315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上の通り、従来の海水冷却水系における海生付着生物の付着防止方法では、海水に塩素を添加することによるダイオキシン類の発生の可能性は示唆されているものの、その対応については何ら検討されていなかった。また、ダイオキシン類化合物を含有する排水の処理方法を、量的処理が必要とされる海水冷却水系等に転用することは現実的ではなく、量的処理が必要な海水に適した処理が求められていた。また排ガス中のダイオキシン類の処理方法を、液体中で発生するダイオキシン類に対して転用することはできなかった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、塩素含有海水のダイオキシン類の発生を抑制する海水処理方法を提供することを課題とする。また、本発明は、塩素含有海水のダイオキシン類の発生を抑制するダイオキシン類の発生抑制剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、塩素含有海水のダイオキシン類の発生を抑制するために、海水に過酸化水素及び/又は過酸化水素発生剤を添加することにより、塩素含有海水のダイオキシン類の発生を抑制できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、塩素含有海水のダイオキシン類の発生を抑制する海水処理方法であって、海水に過酸化水素及び/又は過酸化水素発生剤を添加する薬剤添加工程を有することを特徴とする海水処理方法である。
上記過酸化水素発生剤は、過ホウ酸、過炭酸、ペルオキシ硫酸、過酢酸及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
上記塩素含有海水は、塩素系酸化剤が添加された海水又は電解法により海水中で塩素を発生させた海水であることが好ましい。
【0011】
また、本発明は、塩素含有海水のダイオキシン類の発生を抑制するための剤であって、有効成分として、過酸化水素及び/又は過酸化水素発生剤を含有することを特徴とするダイオキシン類の発生抑制剤でもある。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、塩素含有海水のダイオキシン類の発生を抑制する海水処理方法を提供することができる。本発明の海水処理方法によると、効率的に塩素含有海水におけるダイオキシン類の発生を抑制することができる。
また、本発明によると、塩素含有海水のダイオキシン類の発生を抑制するためのダイオキシン類の発生抑制剤を提供することができる。本発明のダイオキシン類の発生抑制剤は、取扱が容易である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではない。
【0014】
本発明は、塩素含有海水のダイオキシン類の発生を抑制する海水処理方法であって、海水に過酸化水素及び/又は過酸化水素発生剤を添加する薬剤添加工程を有することを特徴とする海水処理方法である。
【0015】
また、本発明は、塩素含有海水のダイオキシン類の発生を抑制するための剤であって有効成分として、過酸化水素及び/又は過酸化水素発生剤を含有することを特徴とするダイオキシン類の発生抑制剤でもある。
【0016】
本発明の、塩素含有海水のダイオキシン類の発生を抑制する海水処理方法、及び、ダイオキシン類の発生抑制剤について、共通する説明については、単に「本発明」と記載して説明をする。
【0017】
本発明は、塩素含有海水におけるダイオキシン類の発生を抑制するための海水処理方法、又は、塩素含有海水のダイオキシン類の発生抑制剤に関する。
従来、塩素系酸化剤及び/又は塩素ガス等が海水に添加された塩素含有海水においてダイオキシン類が発生する可能性があることは知られていたものの、その量は少なく、海水から生じるダイオキシン類に対し、対策が必要な程度とは考えられていなかった。しかしながら、本発明者らは、大量処理が必要な海水から生じるダイオキシン類の発生量を抑制することを課題とし鋭意検討を行い、本発明を完成するに至った。本発明において、過酸化水素及び/又は過酸化水素発生剤が塩素含有海水から生じるダイオキシン類の発生を抑制するメカニズムは明らかになっていない。しかしながら、過酸化水素及び/又は過酸化水素発生剤を海水へ添加することにより、塩素含有海水から生じるダイオキシン類の発生量が、塩素を含まない海水に含まれる微量ダイオキシン類と同程度まで抑えられていることから、過酸化水素及び/又は過酸化水素発生剤には、塩素含有海水におけるダイオキシン類の発生の抑制作用、及び、塩素含有海水から生じるダイオキシン類の分解作用があると考えるに至った。本明細書において塩素含有海水におけるダイオキシン類の発生を抑制するとの表現は、塩素含有海水におけるダイオキシン類の発生を抑制及び分解すると読み替えることができる。
【0018】
本発明において、塩素含有海水は、塩素系酸化剤が添加された海水又は電解法により海水中で塩素を発生させた海水であることが好ましい。海水中には通常、溶存有機物が含まれており、溶存有機物量は海域により異なるものの、どの海域においても溶存有機物の存在は認められる。溶存有機物を含む海水に塩素が添加されると、海水中で溶存有機物と塩素とが反応し、ダイオキシン類が生じると考えられている。後述する実施例においても、海水に塩素系酸化剤や塩素ガス(次亜塩素酸ナトリウム、二酸化塩素又はモノクロラミン)が添加された結果、これらの薬剤を海水に添加した後のダイオキシン類の濃度が顕著に上昇している。本結果からも、塩素含有海水はダイオキシン類を発生することが確認できる。
【0019】
本発明において、ダイオキシン類とは、ポリ塩化ジベンゾパラジオキシン(PCDD)、ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)、ダイオキシン様ポリ塩化ビフェニル(DL-PCB)の総称であり、これらは塩素で置換された2つのベンゼン環という共通の構造を持ち、類似した毒性を示す。
【0020】
本発明において塩素含有海水のダイオキシン類の発生を抑制するとは、塩素含有海水から生じるダイオキシン類の濃度が、塩素が含まれる前の海水から生じるダイオキシン類の濃度に対し、1.1倍以下に抑制されていることをいう。塩素含有海水から生じるダイオキシン類の濃度は、塩素が含まれる前の海水から生じるダイオキシン類の濃度に対し、1.05倍以下であることが好適である。ダイオキシン類の濃度は公知の測定方法を用いて測定することができ、具体的には、JIS K 0312の方法に準拠して測定する。
【0021】
上述の通り海水中には溶存有機物(DOC)が含まれる。本発明における塩素含有海水は、溶存有機物濃度(以下、DOC量ともいう。)が、0.1~5mg/Lであることが好ましい。DOC量を上記範囲で含む海水は、ダイオキシン類が発生しやすいと考えられるためである。塩素含有海水におけるDOC量は、0.2~4mg/Lであることがより好ましく、0.5~2mg/Lであることがさらに好ましい。
【0022】
上記塩素系酸化剤としては、例えば、(a)塩素ガス、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸ナトリウム、塩素化イソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム、ジクロロイソシアヌル酸カリウム、モノクロロイソシアヌル酸ナトリウム、モノクロロイソシアヌル酸カリウム、トリクロロイソシアヌル酸ナトリウムおよびトリクロロイソシアヌル酸カリウムの中から選択される一種以上の水中で次亜塩素酸を生成する物質、(b)モノクロラミン、ジクロラミン、トリクロラミン、及び、N-クロロスルファマートから選択される一種以上の結合塩素、(c)二酸化塩素及び/又は二酸化塩素発生源等が挙げられる。塩素系酸化剤が添加された海水は、上記の(a)水中で次亜塩素酸を生成する物質、上記の(b)結合塩素からなる群より選択される少なくとも1種及び上記の(c)二酸化塩素及び/又は二酸化塩素発生源が添加された海水であることが好ましい。塩素含有海水は、上記塩素系酸化剤を、海水や淡水で適宜希釈して海水に添加したものであってもよい。
【0023】
二酸化塩素発生源としては、例えば、(1)次亜塩素酸ナトリウムと塩酸と亜塩素酸ナトリウムとの組み合わせ、(2)亜塩素酸ナトリウムと塩酸との組み合わせ、又は、(3)塩素酸ナトリウム、過酸化水素および硫酸との組み合わせ等が挙げられる。
【0024】
また、電解法により海水中で塩素を発生させる方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、海水を電解槽で電解することにより次亜塩素酸などの活性塩素種を発生させることにより、海水中で塩素を発生させる方法等が挙げられる。
【0025】
本発明で処理される海水は、例えば、工業用水、バラスト水、養殖・漁業用水として用いられる海水であり、特に、発電所、製鉄所、化学工場、製油所、製紙工場等の洗浄水や原料の一部である工業用水として使用される海水や、設備、製品若しくは原料の加温用又は冷却用の海水であることが好ましい。本明細書において単に「海水」と記載されている場合、上記用途のために取水された無処理の海水、並びに、工業用水、冷却用水及び加温用水として用いるために薬剤添加された海水のいずれも含む。なお、薬剤添加された海水は、塩素含有海水を含み、塩素含有海水は、塩素系酸化剤が添加された海水又は電解法により海水中で塩素を発生させた塩素含有海水であることが好ましい。上記用途に供される海水は、工業規模や水産規模が大きくなるほど、使用される海水量が多くなるため、本発明のように、効率的に塩素含有海水から生じるダイオキシン類の発生を抑制する海水処理方法、及び、取扱が容易なダイオキシン類の発生抑制剤が好適に使用される。
【0026】
本発明における塩素含有海水は、ダイオキシン類の発生を効果的に抑制する観点から、取水される海水の塩素要求量を超える塩素濃度であることが好ましい。例えば、塩素含有海水の残留塩素濃度(遊離残留塩素濃度)は、0.005mg/L以上であることが好ましく、0.01mg/L以上であることがより好ましく、0.05mg/L以上であることがさらに好ましい。。塩素含有海水の残留塩素濃度が0.005mg/L以上であると、塩素含有海水からダイオキシン類が生じると考えられるためである。
また、塩素含有海水の残留塩素濃度は、2mg/L以下であることが好ましく、1mg/L以下であることがより好ましく、0.5mg/L以下であることがさらに好ましく、0.1mg/L以下であることがよりさらに好ましい。
本発明の塩素含有海水において、上記残留塩素濃度の下限と上限は適宜組み合わせることができる。
【0027】
塩素含有海水における残留塩素濃度の測定は、公知の方法により測定することができ、例えば、DPD法残留塩素計(笠原理化工業株式会社製、型式:DP-3F)を用いて、DPD試薬発色による吸光光度法によって計測を行うことができ、また、ポーラグラフ法、ガルバニ電極法(極低濃度残留塩素系)により計測を行うことができる。
【0028】
本発明において、過酸化水素発生剤は、過ホウ酸、過炭酸、ペルオキシ硫酸、過酢酸及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0029】
本発明で用いられる過酸化水素としては、工業用として市販されている3~60%濃度のものが好適に使用される。さらに、現地で電気分解等により発生させた過酸化水素を使用してもよい。また、過酸化水素発生剤としては、過ホウ酸、過炭酸、ペルオキシ硫酸、過酢酸及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、これらの過酸化水素発生剤を用いる場合にも、過酸化水素換算で3~60%濃度となるように、過酸化水素発生剤を用いることが好ましい。
【0030】
本発明に係る方法において、過酸化水素及び/又は過酸化水素発生剤は、海水に添加されていればよく、過酸化水素及び/又は過酸化水素発生剤が添加される海水が、塩素含有海水であるか否かは問わない。すなわち、過酸化水素及び/又は過酸化水素発生剤は、取水された海水であって塩素が人為的に添加される前の海水(すなわち、塩素が含まれる前の海水)に添加されてもよく、塩素が人為的に添加された塩素含有海水に添加されてもよい。過酸化水素及び/又は過酸化水素発生剤は、取水された海水であって、塩素系酸化剤の添加若しくは電解法により塩素が含まれる前の海水、及び/又は、塩素系酸化剤の添加若しくは電解法により塩素が含まれた海水に対し添加されることが好ましい。本発明の方法において、過酸化水素及び/又は過酸化水素発生剤は、(1)取水された海水であって塩素が人為的に添加される前の海水に添加される、(2)取水された海水に塩素系酸化剤が添加されると同時若しくは電解法により取水された海水中で塩素が発生する位置で海水に添加される、又は、(3)海水中の残留塩素濃度(遊離残留塩素濃度)が0.001mg/L以上の海水に添加される、ことが好ましい。塩素含有海水から生じるダイオキシン類の発生を抑制するためには、海水中に塩素が添加される時点及び/又は海水中の残留塩素濃度(遊離残留塩素濃度)が0.001mg/L以上と高い状態において、過酸化水素及び/又は過酸化水素発生剤が添加されることが好適であるためである。また、上記(3)について、過酸化水素及び/又は過酸化水素発生剤は、海水中の残留塩素濃度が0.01mg/L以上の海水に添加されることがより好ましく、0.05mg/L以上の海水に添加されることがさらに好ましい。なお、上記(2)について、過酸化水素及び/又は過酸化水素発生剤と塩素系酸化剤とを、取水された海水系における同一箇所に、同時に添加してもよく、この場合、過酸化水素及び/又は過酸化水素発生剤と塩素系酸化剤とが予め混合された混合薬剤として添加してもよく、別々の薬剤として添加してもよい。
【0031】
海水に過酸化水素及び/又は過酸化水素発生剤を添加する方法は、特に限定されず、具体的には、取水された海水(塩素の有無を問わない)が流れる配管に接続された配管からポンプ等により送液することにより行うことが挙げられる。過酸化水素及び/又は過酸化水素発生剤の添加においては、海水や淡水で適宜希釈してもよい。
【0032】
過酸化水素又は過酸化水素発生剤は、塩素含有海水におけるダイオキシン類の発生を抑制及び分解する観点から、海水中の過酸化水素濃度(以下、残留過酸化水素濃度ともいう。)が、0.05mg/L以上2.5mg/L以下となるように添加されることが好ましく、0.1mg/L以上2mg/L以下となるように添加されることがより好ましく、0.1mg/L以上1.5mg/L以下となるように添加されることがさらに好ましく、0.1mg/L以上1.2mg/L以下となるように添加されることがよりさらに好ましい。
【0033】
海水中の残留過酸化水素濃度の測定は、公知の方法により測定することができ、例えば、多項目水質計(デジタルパックテスト 株式会社共立理化学研究所社製)を用いて、酵素法を用いた4-アミノアンチピリン法により測定することができる。
【0034】
なお、海水中の過酸化水素濃度とは、過酸化水素及び/又は過酸化水素発生剤が添加された後の海水中の過酸化水素濃度であり、海水中の過酸化水素濃度の測定位置は特に問われない。例えば、海水中の過酸化水素濃度の測定位置は、過酸化水素及び/又は過酸化水素発生剤が添加された後であれば、取水された海水に塩素が人為的に添加された位置より上流側(塩素添加位置より前)であっても、下流側(塩素添加位置よりも後)であってもよい。好ましくは、海水中の過酸化水素濃度は、海水中の残留塩素濃度(遊離残留塩素濃度)が0.001mg/L以上の位置で測定された値である。また、より好ましくは、海水中の過酸化水素濃度は、海水中の残留塩素濃度が0.01mg/L以上の位置で測定された値であり、さらに好ましくは、海水中の過酸化水素濃度は、海水中の残留塩素濃度が0.05mg/L以上の位置で測定された値である。
【0035】
また、海水に対する過酸化水素及び/又は過酸化水素発生剤の添加濃度は、一又は複数の実施形態において、取水された海水を放流する際の出口管理における残留過酸化水素濃度を参照して適宜調節されてもよく、また、塩素含有海水における残留塩素濃度及び残留過酸化水素濃度が上述の好適な範囲となるように適宜調節されてもよい。例えば、塩素含有海水におけるダイオキシン類の発生を抑制及び分解する観点から、過酸化水素及び/又は過酸化水素発生剤の添加濃度は、過酸化水素濃度換算で0.05mg/L以上3mg/L以下であることが好ましく、0.1mg/L以上3mg/L以下であることがより好ましく、0.1mg/L以上2.5mg/L以下であることがさらに好ましく、0.1mg/L以上2.0mg/L以下であることがよりさらに好ましい。
【0036】
なお、過酸化水素及び/又は過酸化水素発生剤の添加濃度が、取水された海水を放流する際の出口管理における残留過酸化水素濃度を参照して調節される場合、過酸化水素及び/又は過酸化水素発生剤は、出口管理における残留過酸化水素濃度が0.1mg/L以上0.7mg/L以下となるように添加されることが好ましい。
【0037】
また、海水への過酸化水素及び/又は過酸化水素発生剤の添加(本発明の方法における薬剤添加工程)は、塩素含有海水における残留塩素濃度(遊離残留塩素濃度)が0.005mg/L以上2mg/L以下であり、残留過酸化水素濃度が0.05mg/L以上2.5mg/L以下となるように、行われることが好ましい。残留塩素濃度(遊離残留塩素濃度)が上記範囲内の塩素含有海水の過酸化水素濃度が上記範囲となるように、薬剤添加工程を設けることで、効果的に塩素含有海水から生じるダイオキシン類の発生を抑制及び分解できるためである。上記塩素含有海水における残留塩素濃度は、0.01mg/L以上1mg/L以下であってもよく、0.05mg/L以上1mg/L以下であってもよく、0.05mg/L以上0.5mg/L以下であってもよく、0.5mg/L以上0.1mg/L以下であってもよい。また、上記薬剤添加工程では、残留塩素濃度が上述の範囲の塩素含有海水における過酸化水素濃度が、0.1mg/L以上2mg/L以下となるように過酸化水素及び/又は過酸化水素発生剤が添加されることがより好ましく、0.1mg/L以上1.5mg/L以下となるように過酸化水素及び/又は過酸化水素発生剤が添加されることがさらに好ましく、0.1mg/L以上1.2mg/L以下となるように過酸化水素及び/又は過酸化水素発生剤が添加されることがよりさらに好ましい。上述の塩素含有海水における残留塩素濃度の範囲と、上述の海水中の残留過酸化水素濃度の範囲は、適宜組み合わせることができる。
【0038】
本発明の方法における薬剤添加工程において、過酸化水素及び/又は過酸化水素発生剤が、取水された海水であって塩素が人為的に添加される前の海水(すなわち、塩素が含まれる前の海水)に添加される場合、塩素含有海水における残留塩素濃度(遊離残留塩素濃度)が0.005mg/L以上2mg/L以下であり、残留過酸化水素濃度が0.05mg/L以上2.5mg/L以下となるように、塩素が含まれる前の海水に過酸化水素及び/又は過酸化水素発生剤を添加することが好ましい。残留塩素濃度が上記範囲内の塩素含有海水の残留過酸化水素濃度が上記範囲となるように、薬剤添加工程を設けることで、効果的に塩素含有海水から生じるダイオキシン類の発生を抑制及び分解できるためである。上記塩素含有海水における残留塩素濃度は、0.01mg/L以上1mg/L以下であってもよく、0.05mg/L以上1mg/L以下であってもよく、0.05mg/L以上0.5mg/L以下であってもよい。また、上記薬剤添加工程では、残留塩素濃度が上述の範囲の塩素含有海水における残留過酸化水素濃度が、0.1mg/L以上2mg/L以下となるように塩素が含まれる前の海水に過酸化水素及び/又は過酸化水素発生剤が添加されることがより好ましく、0.1mg/L以上1.5mg/L以下となるように塩素が含まれる前の海水に過酸化水素及び/又は過酸化水素発生剤が添加されることがさらに好ましく、0.1mg/L以上1.2mg/L以下となるように塩素が含まれる前の海水に過酸化水素及び/又は過酸化水素発生剤が添加されることがよりさらに好ましい。上述の塩素含有海水における残留塩素濃度の範囲と、上述の残留過酸化水素濃度の範囲は、適宜組み合わせることができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を用いて本発明をさらに説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0040】
[試験例 海水中のダイオキシン類の発生抑制効果確認試験]
採水した海水12リットルに、下記及び表1に示す各薬剤を、表1に示す添加濃度で添加し、各薬剤の添加の前後において海水から生じるダイオキシン類の濃度を、JIS K 0312の方法に準拠して測定した。測定結果を表1に示す。添加薬剤が2種の場合は、2種の添加薬剤を同時に添加した。なお、各薬剤が添加される前の海水から生じるダイオキシン類の濃度が試験例毎に異なるが、これは、採水した海水域が異なるためである。
【0041】
(薬剤)
過酸化水素(H2O2)
次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)
二酸化塩素(ClO2)
モノクロラミン(NH2Cl)
【0042】
(残留塩素濃度の測定)
塩素系酸化剤である次亜塩素酸ナトリウム、二酸化塩素、モノクロラミンを添加したサンプルについて、残留塩素濃度(遊離残留塩素濃度)を測定した。DPD法残留塩素計(笠原理化工業株式会社製、型式:DP-3F)を用いて、DPD試薬発色による吸光光度法によって計測を行い、得られた全残留塩素濃度を残留塩素濃度とした。
【0043】
【0044】
以上、表1の参考例1の結果から、塩素が添加されていない海水であっても、過酸化水素を添加することにより、ダイオキシン類の発生が抑制された(参考例1)。しかし、塩素が含まれていない海水におけるダイオキシン類の発生抑制効果は小さいものであった
そして、比較例1~3の結果から分るように、海水に塩素系酸化剤を添加することによりダイオキシン類の発生が顕著に増加したが、過酸化水素が添加されることにより、塩素含有海水におけるダイオキシン類の発生を効果的に抑制することができた(実施例1及び2)。