(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-25
(45)【発行日】2023-02-02
(54)【発明の名称】フジツボ類幼生の検出装置、及び薬剤濃度管理システム
(51)【国際特許分類】
A01M 29/00 20110101AFI20230126BHJP
A01K 61/90 20170101ALI20230126BHJP
E02B 1/00 20060101ALI20230126BHJP
【FI】
A01M29/00
A01K61/90
E02B1/00 301Z
(21)【出願番号】P 2022551326
(86)(22)【出願日】2022-06-21
(86)【国際出願番号】 JP2022024741
【審査請求日】2022-08-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507030863
【氏名又は名称】株式会社セシルリサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】西田 有理花
(72)【発明者】
【氏名】柳川 敏治
(72)【発明者】
【氏名】中村 昭史
(72)【発明者】
【氏名】林 義雄
(72)【発明者】
【氏名】神谷 享子
(72)【発明者】
【氏名】山下 桂司
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-304796(JP,A)
【文献】国際公開第2022/019110(WO,A1)
【文献】特開2020-032394(JP,A)
【文献】特開2010-230319(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 29/00
A01K 61/90
E02B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像データを取得する画像データ取得部と、
前記画像データから、所定の形状を有するフジツボ類幼生を検出する検出部と、を有し、
前記所定の形状を有するフジツボ類幼生は、キプリス幼生、及びノープリウス幼生のうち少なくとも何れかであり、
前記検出部は、少なくとも前記所定の形状を有するフジツボ類幼生に対してアノテーションが付与された前記画像データを学習データとして構築した学習済モデルに基づいて、前記所定の形状を有するフジツボ類幼生の検出及び計数を行
い、
前記検出部は、ノープリウス幼生をキプリス幼生とは別に検出及び計数する、フジツボ類幼生の検出装置。
【請求項2】
請求項
1に記載のフジツボ類幼生の検出装置と、薬剤濃度制御装置と、微生物撮影装置と、を有する薬剤濃度管理システムであって、
前記薬剤濃度制御装置は、海水利用プラントにおける薬剤注入部から海水に注入する薬剤量を制御する制御部を有し、
前記微生物撮影装置は、前記海水利用プラント付近の海水を採取するサンプル取得部と、及び前記サンプル取得部により取得した海水を撮影する撮像部と、を有し、
前記画像データ取得部は、前記撮像部により撮影された前記画像データを取得し、
前記制御部は、前記検出部による検出結果に基づき、前記海水に注入する薬剤量を制御する、薬剤濃度管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フジツボ類幼生の検出装置、及び薬剤濃度管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
冷却水として海水を利用する火力発電所や原子力発電所等においては、海から海水を取り入れて復水器に供給する取水路や、復水器を通った海水を海へ放出するための放水路の内部に、フジツボ類等の海洋生物が付着する場合がある。海洋生物の付着数が多くなると、冷却水の流路が塞がれて冷却性能が低下するなどの不具合を招くおそれがある。そこで、海洋生物の付着を抑制するために冷却水に塩素系薬剤等の生物付着抑制を目的とした薬剤を注入することが従来行われている。
【0003】
しかし、冷却水に対して過剰に塩素系薬剤等の薬剤を添加することは、環境影響の観点、及び薬剤添加にかかるコストの観点から好ましいものとは言えず、適切な量の塩素系薬剤等の薬剤を添加することが求められる。例えば、海水中におけるフジツボ類等の付着生物の数を把握することができれば、その数に応じて塩素系薬剤等の薬剤の添加量を適切に調整することが可能となる。
【0004】
フジツボ類の調査方法としては、海中に浸漬した試験板に付着したフジツボ類の数を調査する方法が考えられるが、連続的な監視が困難であり、また、付着後の調査となるため付着を抑制するための対応が迅速に行えないという課題がある。フジツボ類の付着期幼生を検出する方法としては、フジツボ類の付着期幼生に特異的なモノクローナル抗体を用いた検出キットを用いる方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【0006】
特許文献1に開示された技術は、高い検出精度でフジツボ類の付着期幼生を検出することができる。一方でキットが使い捨てであるため、連続的な監視を行うことができず、検出に要するコストが高くなるという課題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、フジツボ類の付着期幼生を容易に検出でき、かつ連続的な監視を行えるフジツボ類幼生の検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1) 本発明は、画像データを取得する画像データ取得部と、前記画像データから、所定の形状を有するフジツボ類幼生を検出する検出部と、を有し、前記検出部は、少なくとも前記所定の形状を有するフジツボ類幼生に対してアノテーションが付与された前記画像データを学習データとして構築した学習済モデルに基づいて、前記所定の形状を有するフジツボ類幼生の検出及び計数を行う、フジツボ類幼生の検出装置。
【0009】
(2) 前記所定の形状を有するフジツボ類幼生は、キプリス幼生、及びノープリウス幼生のうち少なくとも何れかである、(1)に記載のフジツボ類幼生の検出装置。
【0010】
(3) (1)又は(2)に記載のフジツボ類幼生の検出装置と、薬剤濃度制御装置と、微生物撮影装置と、を有する薬剤濃度管理システムであって、前記薬剤濃度制御装置は、海水利用プラントにおける薬剤注入部から海水に注入する薬剤量を制御する制御部を有し、前記微生物撮影装置は、前記海水利用プラント付近の海水を採取するサンプル取得部と、及び前記サンプル取得部により取得した海水を撮影する撮像部と、を有し、前記画像データ取得部は、前記撮像部により撮影された前記画像データを取得し、前記制御部は、前記検出部による検出結果に基づき、前記海水に注入する薬剤量を制御する、薬剤濃度管理システム。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、フジツボ類の付着期幼生を容易に検出でき、かつ連続的な監視を行えるフジツボ類幼生の検出装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態に係るフジツボ類幼生の検出装置の検出対象であるキプリス幼生の外形及び器官の配置を示す模式図である。
【
図2】本実施形態に係る薬剤濃度管理システムの構成を示すブロック図である。
【
図3】本実施形態に係るフジツボ類幼生の検出装置の学習用データを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<フジツボ類幼生の検出装置>
本実施形態に係るフジツボ類幼生の検出装置は、フジツボ類幼生を含む可能性のある画像データから、所定の形状を有するフジツボ類幼生を検出する検出部を有する。
【0014】
フジツボ類とは、節足動物門(Arthropoda)、甲殻類(Crustacea)まん脚亜綱(Cirripedia)完胸上目(Thoracica)に分類されるものの総称であり、例えば、タテジマフジツボ、アメリカフジツボ、アカフジツボ、サンカクフジツボ、オオアカフジツボ、サラサフジツボ、イワフジツボ、シロスジフジツボ、ヨーロッパフジツボ等を含むフジツボ亜目(Balanomorpha)に属するものが含まれる。
【0015】
フジツボ類は、幼生の間は海中を浮遊しており、付着期幼生になると、適当な付着物に付着して変態し、成体となる。フジツボ類の生活史のうち、繁殖に関わるステージの概略は、以下のとおりである。すなわち、付着成体間で交尾し受精後、浮遊期であるノープリウス幼生を孵出し、このノープリウス幼生が脱皮を繰り返した後、付着期であるキプリス幼生(付着期幼生)となり、さらにキプリス幼生が基盤に付着し、幼フジツボヘと変態する。この繁殖時期は、各種に特有のものである。
【0016】
キプリス幼生は水中の構造物である、例えば、発電所の海水取水設備又は海水放水設備、沿岸水産養殖設備、漁業設備等に付着し、その後成長することで、これらの設備に悪影響を及ぼす可能性がある。従って、これらの設備が存在する海域に生息するキプリス幼生やノープリウス幼生の数を把握することで、薬剤の注入等、必要な対策を取ることが可能になる。キプリス幼生及びノープリウス幼生は特徴的な所定の形状を有するため、フジツボ類幼生の検出装置10による画像検出が可能である。
【0017】
キプリス幼生1は、
図1に示す所定の形状を有する。キプリス幼生1は、左右に側扁した紡錘形の透明の甲皮(殻)9をもった幼生であり、腹面前方には一対の第1触角2、腹面後半部には6対の胸肢3が甲皮9の内部から伸びている。第1触角2は、付着のために先端が吸盤状となった器官であり、セメント腺4からセメント管5を経て分泌される接着物質(キノン架橋結合蛋白質)は付着器官の表面に分泌されて基盤と固着する。なお、キプリス幼生は、基盤への接近と離脱を繰り返しながら基盤との適性を調べ、その間、離脱可能な一時付着をした後、最終的に決定された定着地点に永久固着する。なお、図中の符号6は油細胞、7は複眼、8は胸部を示している。
【0018】
本実施形態に係るフジツボ類幼生の検出装置は、例えば、
図2に示す薬剤濃度管理システム100の一構成をなすフジツボ類幼生の検出装置10である。
図2は、フジツボ類幼生の検出装置10が備え得る、主な機能の例を示すブロック図である。
【0019】
フジツボ類幼生の検出装置10は、画像データを取得する画像データ取得部14と、上記画像データから所定の形状を有するフジツボ類幼生を検出する検出部17と、を有する。フジツボ類幼生の検出装置10は、上記以外に、記憶部11と、入力部12と、出力部13と、画像処理部15と、機械学習部16と、通信部18と、を有していてもよい。
【0020】
記憶部11は、例えばハードディスクドライブ(HDD)、半導体ドライブ(SSD)等の記憶装置により構成され、画像処理部15により画像処理された画像や、機械学習部16により生成される学習済モデル等が保存される。
【0021】
入力部12は、例えばキーボード、マウス等により構成され、フジツボ類幼生の検出装置10のユーザによる入力を受け付ける。
【0022】
出力部13は、画像処理部15により画像処理された画像や、検出部17による検出結果を表示するディスプレイ等によって構成される。なお、入力部12及び出力部13は、タッチパネルのように表示機能と入力機能が一体的な構成であってもよい。
【0023】
画像データ取得部14は、画像データを取得する。上記画像データは、フジツボ類幼生が含まれる可能性のある画像データである。本実施形態において、画像データ取得部14は、微生物撮影装置30の撮像部32により撮影された、フジツボ類幼生を含む画像データを取得する。画像データ取得部14により取得される画像データの形式は何ら制限されず、静止画像であってもよく動画であってもよい。また、画像データ取得部14により取得される画像は、蛍光顕微鏡下で撮影された画像であってもよい。フジツボ類幼生は蛍光の位置が幼生によって異なり、蛍光の位置で幼生の種別を判別可能であるためである。
【0024】
画像処理部15は、画像データ取得部14により取得された画像データの画像処理を行う。画像処理としては、例えば、サイズ変換、回転、色彩変換、ノイズ除去等が挙げられる。画像データ取得部14及び画像処理部15の機能は、例えば、プロセッサによりメモリに格納されるコンピュータプログラムが実行されることにより実現される。
【0025】
機械学習部16は、例えば、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)等のモデルを構築する。CNNは、入力層、中間層、及び出力層を備える。入力層には、学習対象である学習データ(正解データ)が入力される。中間層は、入力層に入力された画像から特徴を検出する層である。出力層は、中間層により抽出された特徴に基づいて、画像中の異常箇所の有無の認識結果を出力する層である。CNNは、複数のレイヤー構造を有し、複数の重みパラメータを保持している。上記重みパラメータが初期値から最適値に更新されることで、学習前モデルは学習済モデルに変化する。
【0026】
機械学習部16は、画像処理部15により画像処理された画像に対し、少なくとも所定の形状を有するフジツボ類幼生に対してアノテーションが付与された画像データを学習データとして構築した学習済モデルを出力する。上記出力される学習済モデルは、キプリス幼生のみを検出及び計数する学習済モデルであってもよく、キプリス幼生及びノープリウス幼生を検出及び計数する学習済モデルであってもよい。
【0027】
図3は、アノテーションが付与された学習データの一例である。
図3の例では、ノープリウス幼生1b、小型キプリス幼生1a、及び大型キプリス幼生1cの3種のフジツボ類幼生をそれぞれバウンディングボックスで囲みアノテーションが付与された状態を示す。アノテーションの付与は、フジツボ類幼生の検出装置10のユーザの操作に応じて行われる。
【0028】
検出部17は、画像処理部15により画像処理された画像データを元に、所定の形状を有するフジツボ類幼生を検出及び計数する。所定の形状を有するフジツボ類幼生としては、キプリス幼生であることが好ましく、更にノープリウス幼生をキプリス幼生とは別に検出及び計数できることが好ましい。検出部17の機能は、機械学習部16により出力される学習済モデルに基づいて実現される。
【0029】
検出部17により、機械学習部16により出力された学習済モデルを用いて、フジツボ類幼生の検出を行った例を以下に示す。
【0030】
(機械学習条件1)
プランクトンネットで採取したサンプルから、フジツボ類幼生の走光性を利用してフジツボ類幼生のみを誘引及び回収した回収サンプルに対して3倍量の水道水を加えて幼生の遊泳を止め、沈殿させた。次に沈殿した幼生をシャーレに回収し、デジタルカメラ(オリンパス社製)でシャーレの下側から拡大写真を撮影した。撮影した画像に対して
図3に示すようなアノテーションの付与を行い、学習データとした。なお、サンプル採取地点における成体の発生状況等からキプリス幼生はアカフジツボ、サンカクフジツボと想定される個体を大型キプリス幼生、サラサフジツボ、ドロフジツボ、アメリカフジツボと想定される幼生を小型キプリス幼生として区分し、ノープリウス幼生については、種類を区分せずにアノテーションを実施した。
【0031】
上記学習データを1080枚用意し、機械学習を行うことで学習済モデルを生成した。生成した学習済モデルを用い、テスト画像180枚を用いてフジツボ類幼生の検出を行った。結果は、小型キプリス幼生AP(平均適合率)=0.84、大型キプリス幼生AP(平均適合率)=0.39、ノープリウス幼生AP(平均適合率)=0.39、APの平均値mAP=0.54であった。
【0032】
(機械学習条件2)
上記学習データを90°ずつ回転させて画像を複製し、4320枚の学習データを用意したこと以外は、機械学習条件1と同様の条件で学習済モデルを生成した。生成した学習済モデルを用い、テスト画像180枚を用いてフジツボ類幼生の検出を行った。結果は、小型キプリス幼生AP(平均適合率)=0.85、大型キプリス幼生AP(平均適合率)=0.39、ノープリウス幼生AP(平均適合率)=0.36、APの平均値mAP=0.53であった。
【0033】
(機械学習条件3)
機械学習条件1と同様の条件で学習済モデルを生成した。生成した学習済モデルを用い、テスト画像180枚を用いて大小の区別なくキプリス幼生の検出を行った。結果は、AP(平均適合率)の平均値mAP=0.87であり、フジツボ類のキプリス幼生の画像検出用途に実用可能な結果であることを確認した。
【0034】
通信部18は、フジツボ類幼生の検出装置10が、通信回線41等の通信手段を通じて他の装置との間で通信を行うための装置である。通信回線41は有線又は無線の通信手段であり、例えばインターネット40と接続可能に構成される。
【0035】
フジツボ類幼生の検出装置10は、所定の形状を有するキプリス幼生、ノープリウス幼生の形状に着目して、画像データ取得部14により取得された画像データを学習用データとして構築した学習済モデルを元に、フジツボ類幼生の検出を行うものであるため、フジツボ類幼生を容易に検出でき、かつフジツボ類幼生の有無及び数を連続的に監視することが可能となる。
【0036】
図2に示した構成はあくまでフジツボ類幼生の検出装置10の一例であり、特に
図2に示す構成には限定されない。例えば、フジツボ類幼生の検出装置10は記憶部11を有さず、記憶部11がフジツボ類の検出装置10と通信可能な外部の装置に設けられていてもよい。又は、フジツボ類幼生の検出装置10は通信部18を有さずに構成されていてもよい。
【0037】
<薬剤濃度管理システム>
次に、上記フジツボ類の検出装置10を有する薬剤濃度管理システム100について説明する。薬剤濃度管理システム100は、海水利用プラントにおける薬剤注入濃度を管理するシステムであり、
図2に示すように、フジツボ類幼生の検出装置10と、薬剤濃度制御装置20と、微生物撮影装置30と、を有する。薬剤濃度管理システム100は、微生物撮影装置30により撮影された微生物画像を元にフジツボ類の検出装置10においてフジツボ類幼生の検出及び計数を行い、上記検出及び計数結果に基づき、薬剤濃度制御装置20における薬剤注入濃度を管理するので、効果的なタイミングかつ適切な量で薬剤を注入することができる。
【0038】
薬剤濃度管理システム100により注入濃度が管理される薬剤は、水中の構造物(海水利用プラント)に対する生物付着抑制を目的とした薬剤である。このような薬剤としては、特に制限されず、公知の薬剤を用いることができる。上記薬剤としては、例えば、次亜塩素酸ソーダ、二酸化塩素等の塩素系薬剤、過酸化水素水、オゾン、過酢酸等の酸化剤が挙げられる。また、上記以外に、非酸化系薬剤である、第4級アンモニウム化合物又はポリ4級アンモニウム化合物、芳香族炭化水素、アルキルジアミン類等の有機化合物、銅イオン等の供給源となる金属塩、硝酸アンモニウム、メタ重亜硫酸塩、酸化防止剤、触媒酵素等が挙げられる。なお、本実施形態に係る薬剤濃度管理システムは、残留薬剤濃度が所定の閾値を上回らないような制御が可能である。従って、薬剤としては、水産資源保護の観点から地域との取り決め等により残留濃度が制限される、塩素系薬剤であることが好ましい。
【0039】
薬剤濃度管理システムが適用できる海水利用プラントとしては、特に限定されないが、例えば、火力発電所、原子力発電所等の発電所が挙げられる。
【0040】
(薬剤濃度制御装置)
薬剤濃度制御装置20は、例えば、
図2に示すように、記憶部21と、入力部22と、出力部23と、制御部24と、残留薬剤濃度測定部25と、薬剤注入部26と、通信部27と、を有する。
【0041】
記憶部21、入力部22、及び出力部23の構成については、それぞれ上記記憶部11、入力部12、及び出力部13と同様の構成を適用できる。記憶部21には、残留薬剤濃度測定部25により測定される残留薬剤濃度の測定値やフジツボ類幼生の検出装置10から受信したフジツボ類幼生の検出及び計数結果が記憶される。
【0042】
制御部24は、薬剤注入部26によって海水利用プラントの海水系統の所定の箇所から注入する薬剤の、注入薬剤量を制御する。制御部24はフジツボ類幼生の検出装置10から受信したフジツボ類幼生の検出及び計数結果に基づき、上記注入薬剤量を制御する。具体的には、フジツボ類幼生の検出装置10から受信したフジツボ類幼生の検出及び計数結果を、所定の体積の海水に対するフジツボ類幼生の検出数として求めておき、上記検出数が所定の閾値を上回った場合に、通常よりも注入薬剤量を増加させる制御を行ってもよい。又は、上記検出数が所定の閾値を下回った場合に、通常よりも注入薬剤量を低減させる制御を行ってもよい。制御部24は、上記に加え、残留薬剤濃度測定部25により測定される残留薬剤濃度が所定の閾値を上回らないように注入薬剤量を制御してもよい。制御部24の上記機能は、上記検出数等に基づき少なくとも一部が人手により実現されてもよいし、記憶部21に記憶されたプログラムを実行することにより実現されてもよい。
【0043】
残留薬剤濃度測定部25は、海水利用プラントの海水系統の所定の箇所(例えば、復水器の入口)における残留薬剤濃度を測定する。残留薬剤濃度測定部25により、海水利用プラントの海水系統の放水口における環境保全協定値等の基準値を遵守する、制御部24による注入薬剤量の制御が可能になる。残留薬剤濃度測定部25の構成としては、特に限定されず、公知の残留塩素濃度計等の濃度計を用いることができる。
【0044】
薬剤注入部26は、海水利用プラントの海水系統の所定の箇所(例えば、復水器の上流側の任意の箇所)から薬剤(次亜塩素酸ソーダ等)を注入する。薬剤の注入手段としては特に限定されず、薬剤を注入してもよいし、海水を電気分解するものであってもよい。
【0045】
通信部27は、薬剤濃度制御装置20が、通信回線42等の通信手段を通じて他の装置との間で通信を行うための装置である。通信回線42は有線又は無線の通信手段であり、例えばインターネット40と接続可能に構成される。
【0046】
(微生物撮影装置)
微生物撮影装置30は、海水利用プラントの海水系統を流通する海水、又は海水利用プラント付近の海水を元に、フジツボ類幼生が含まれる可能性のある画像データを取得する。微生物撮影装置30は、
図2に示すように、サンプル取得部31と、撮像部32と、通信部33と、を含む。
【0047】
サンプル取得部31は、海水利用プラントの海水系統を流通する海水、又は海水利用プラント付近の海水を取水し、所定の体積の海水をプランクトンネット等でろ過したサンプルを取得する。サンプル取得部31において、撮像部32における撮影を補助するためにサンプルの希釈や分離、水道水の添加によるキプリス幼生の遊泳停止などの処理は任意に行うことができる。
【0048】
撮像部32は、サンプル取得部31により得られたサンプルを撮影し画像データを取得する。撮像部32により撮影された画像データは、通信部33を介してフジツボ類幼生の検出装置10に送信される。撮像部32は、上記サンプルを複数回に分けて撮影してもよい。撮像部32の具体的な構成は特に限定されないが、例えば、拡大画像の撮影機能を有するカメラ装置を使用することができる。
【0049】
通信部33は、微生物撮影装置30が、通信回線43等の通信手段を通じて他の装置との間で通信を行うための装置である。通信回線43は有線又は無線の通信手段であり、例えばインターネット40と接続可能に構成される。
【0050】
図2に示す薬剤濃度制御装置20、及び微生物撮影装置30の構成は一例であり、上記に制限されるものではない。上記の装置の各機能を実現する各装置は、必ずしも一体に設けられる必要はなく、各装置が通信可能に独立して設けられていてもよい。
【0051】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明した。本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0052】
1 キプリス幼生
10 フジツボ類幼生の検出装置
14 画像データ取得部
17 検出部
20 薬剤濃度制御装置
24 制御部
26 薬剤注入部
30 微生物撮影装置
32 撮像部
【要約】
フジツボ類の付着期幼生を容易に検出でき、かつ連続的な監視を行えるフジツボ類幼生の検出装置を提供する。
画像データを取得する画像データ取得部と、画像データから、所定の形状を有するフジツボ類幼生を検出する検出部と、を有し、検出部は、少なくとも所定の形状を有するフジツボ類幼生に対してアノテーションが付与された画像データを学習データとして構築した学習済モデルに基づいて、所定の形状を有するフジツボ類幼生の検出及び計数を行う、フジツボ類幼生の検出装置。