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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-25
(45)【発行日】2023-02-02
(54)【発明の名称】温度校正器及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01K 15/00 20060101AFI20230126BHJP
【FI】
G01K15/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018178889
(22)【出願日】2018-09-25
(65)【公開番号】P2020051788
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-04-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000117814
【氏名又は名称】安立計器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】小林 生至朗
【審査官】吉田 久
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-198500(JP,A)
【文献】特開2002-75601(JP,A)
【文献】特開昭61-251763(JP,A)
【文献】特開昭63-248450(JP,A)
【文献】特開2010-7658(JP,A)
【文献】特開2001-138067(JP,A)
【文献】特開2007-232651(JP,A)
【文献】特開2004-344971(JP,A)
【文献】特開昭63-126602(JP,A)
【文献】特開昭55-151232(JP,A)
【文献】特開平7-92037(JP,A)
【文献】特開2004-294433(JP,A)
【文献】特開2016-191566(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 1/00-19/00
G01D 18/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準温度計と、加熱装置と、校正ブロックとを備え、校正ブロックは、前記基準温度計が挿入される挿入孔と、校正対象の温度計が測温する校正面とが形成され、前記加熱装置により加熱される温度校正器において、
前記校正ブロックは、本体部と被覆部とを備え、前記本体部に形成された前記挿入孔の内表面を含む前記本体部の全表面が前記被覆部に密封されるように覆われてなり、
前記被覆部の材料が前記本体部の材料よりも耐食性が高く、且つ、その線膨張係数が前記本体部の材料の線膨張係数の90%~110%の値であることを特徴とする温度校正器。
【請求項2】
前記挿入孔が前記校正面と前記加熱装置との間に配置されており、
前記校正面と前記本体部との間の前記被覆部の厚さは、前記加熱装置および前記基準温度計の間の距離ならびに前記加熱装置および前記校正面の間の距離の比と、前記加熱装置および前記基準温度計の温度差ならびに前記加熱装置および前記校正面の温度差の比と、が等しくなる厚さである請求項1に記載の温度校正器。
【請求項3】
前記挿入孔が前記校正面と前記加熱装置との間に配置されており、前記被覆部が、硬ろうを介して前記本体部に接合されていて、前記校正面と前記本体部との間の前記被覆部の厚さと前記硬ろうの厚さとの合計の厚さは、前記加熱装置および前記基準温度計の間の距離ならびに前記加熱装置および前記校正面の間の距離の比と、前記加熱装置および前記基準温度計の温度差ならびに前記加熱装置および前記校正面の温度差の比と、が等しくなる厚さである請求項1に記載の温度校正器。
【請求項4】
前記校正ブロックが前記被覆部よりも硬度の高い被覆膜を備え、
前記挿入孔が前記校正面と前記加熱装置との間に配置されており、前記被覆部が硬ろうを介して前記本体部に接合されていて、前記校正面が前記被覆部を覆う前記被覆膜で構成され、前記校正面と前記本体部との間の前記被覆膜の厚さと前記被覆部の厚さと前記硬ろうの厚さとの合計の厚さは、前記加熱装置および前記基準温度計の間の距離ならびに前記加熱装置および前記校正面の間の距離の比と、前記加熱装置および前記基準温度計の温度差ならびに前記加熱装置および前記校正面の温度差の比と、が等しくなる厚さである請求項に記載の温度校正器。
【請求項5】
前記硬ろうが、前記本体部の全表面を覆う請求項3または4に記載の温度校正器。
【請求項6】
前記校正ブロックが柱体を成し、柱軸方向の一端面に前記校正面が形成されると共に、柱体の側面を貫通する前記挿入孔が形成され、
前記被覆部が、
前記校正面を構成する校正面用板と、前記一端面とは反対側の端面を構成する端面用板と、前記柱体の側面を構成する柱面用筒状体と、前記挿入孔の内表面を構成する挿入孔用筒状体とで構成される請求項1~のいずれか1項に記載の温度校正器。
【請求項7】
基準温度計と、加熱装置と、校正ブロックとを備え、校正ブロックは、前記基準温度計が挿入される挿入孔と、校正対象の温度計が測温する校正面とが形成され、前記加熱装置により加熱される温度校正器の製造方法において、
柱体の本体部の全表面を被覆部で密封するように覆って前記校正ブロックを作成する工程が、
前記被覆部の厚さをろう付けにおける加熱圧縮での変形を抑制可能な厚さにした状態で、前記本体部と前記被覆部をろう付けして、前記本体部の全表面を前記被覆部で覆う工程と、
前記本体部の柱軸方向の両端面を覆う部分の前記被覆部のうちの前記校正面を形成する側の前記被覆部を前記柱軸方向に切削して、その厚さを前記変形を抑制可能な厚さから前記校正面として機能する厚さまで薄くする工程と、を含むことを特徴とする温度校正器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度校正器及びその製造方法に関し、更に詳しくは、繰り返し精度を向上した温度校正器及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被測温体に接触させてその温度を測定する接触式温度計を校正する装置として、基準温度計と、加熱装置と、校正ブロックとを備える温度校正器が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この温度校正器は、校正ブロックが銅又は銅合金で構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許第6,527,437号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、銅及び銅合金は、空気中で徐々に酸化されて、表面に酸化皮膜が形成される性質を有している。このような酸化皮膜は比較的高い温度状態になる場合に生じやすい。
【0005】
それ故、校正ブロックが銅又は銅合金で構成された特許文献1に記載の温度校正器では、接触式温度計の校正時に温度校正器が比較的高い温度(例えば、450℃)になると、校正ブロックが熱膨張すると共に、その表面に酸化被膜が形成される。校正ブロックの温度が常温に戻ると、熱膨張時に形成された酸化被膜が収縮し、校正ブロックの表面から剥離し易くなる。また酸化被膜が剥れ、校正ブロックの表面が凹凸になると温度計との接触状態が変化し、校正の繰り返し精度が低下する要因となっている。
【0006】
本発明の目的は、校正ブロックの表面の酸化を防止して、繰り返し精度を向上する温度校正器及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する温度校正器は、基準温度計と、加熱装置と、校正ブロックとを備え、校正ブロックは、前記基準温度計が挿入される挿入孔と、校正対象の温度計が測温する校正面とが形成され、前記加熱装置により加熱される温度校正器において、前記校正ブロックは、本体部と被覆部とを備え、前記本体部に形成された前記挿入孔の内表面を含む前記本体部の全表面が前記被覆部に密封されるように覆われてなり、前記被覆部の材料が前記本体部の材料よりも耐食性が高く、且つ、その線膨張係数が前記本体部の材料の線膨張係数の90%~110%の値であることを特徴とする。
【0008】
また、上記目的を達成する温度校正器の製造方法は、基準温度計と、加熱装置と、校正ブロックとを備え、校正ブロックは、前記基準温度計が挿入される挿入孔と、校正対象の温度計が測温する校正面とが形成され、前記加熱装置により加熱される温度校正器の製造方法において、柱体の本体部の全表面を被覆部で密封するように覆って前記校正ブロックを作成する工程が、前記被覆部の厚さをろう付けにおける加熱圧縮での変形を抑制可能な厚さにした状態で、前記本体部と前記被覆部をろう付けして、前記本体部の全表面を前記被覆部で覆う工程と、前記本体部の柱軸方向の両端面を覆う部分の前記被覆部のうちの前記校正面を形成する側の前記被覆部を前記柱軸方向に切削して、その厚さを前記変形を抑制可能な厚さから前記校正面として機能する厚さまで薄くする工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、挿入孔の内表面及び校正面を含む校正ブロックの本体部の全表面を、本体部よりも耐食性が高く酸化され難く、本体部と熱膨張時の変形度合いが同程度の被覆部で密封するように構成することで本体部の全表面の酸化を防止することができる。これにより、校正対象の温度計と校正面との接触状態を維持するには有利になり、校正ブロックを交換しなくても繰り返し精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の温度校正器の実施形態を例示する斜視図である。
図2図1の温度校正器をA断面から視た透視図である。
図3図1の温度校正器の製造方法の一例の説明図である。
図4】本発明の温度校正器の別の実施形態を例示する図である。
図5】本発明の温度校正器の更に別の実施形態を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の温度校正器について説明する。
【0012】
図1図2に例示するように、本発明の実施形態の温度校正器1は、基準温度計2と、加熱装置3と、校正ブロック4とを備える。なお、図1では、煩雑さを避けるために、基準温度計2と加熱装置3を校正ブロック4の外側に示している。また、本実施形態では、柱体である校正ブロック4の柱軸方向の端面に平行な方向をX方向、この端面に平行でかつX方向に垂直な方向をY方向、X方向及びY方向に垂直な方向である柱軸方向(鉛直方向)をZ方向と定義する。
【0013】
基準温度計2は、1990年国際温度目盛(ITS-90ともいう)の条件を満たすとともに、国際温度目盛が定義する方法に沿って校正されている装置である。基準温度計2としては、測温抵抗体が例示される。基準温度計2は直管形状の装置で、校正ブロック4に挿入される。
【0014】
加熱装置3は、校正ブロック4を加熱する装置である。加熱装置3は直管形状の装置で、基準温度計2の挿入位置よりZ方向下側の位置で校正ブロック4に挿入される。加熱装置3は、例えば、セラミックス等で形成される棒状の芯部材の周囲にニクロム線(発熱体)をコイル状に巻くとともに、この芯部材及び発熱体の全体をステンレス鋼の保護管に収納して構成される。
【0015】
加熱装置3は、校正ブロック4の周囲に基準温度計2の挿入位置よりZ方向下側の位置で本体部6の外周面に螺旋状に巻いてもよいが、本実施形態のように校正ブロック4の内部に加熱装置3を配置する構成とすると必要な材料が少なく低コストであるため好ましい。
【0016】
校正ブロック4は、本体部6と被覆部7を有し、本体部6の全表面が被覆部7に密封されるように覆われてなる。校正ブロック4は、全体として円柱体をなす装置で、その柱軸方向の上端面(一端面)に校正面5を有する。校正ブロック4には、その柱体の側面を貫通する挿入孔8、9がZ方向上側より順に形成される。本開示で、本体部6の全表面とは、本体部6に形成される挿入孔8、9の内表面を含む。
【0017】
本体部6は、加熱装置3から基準温度計2及び校正面5に伝熱可能な熱伝導性を有する材料で形成される円柱体の部材である。本体部6の材料としては、銅または銅合金が例示される。なお、校正ブロック4や本体部6の形状は、円柱体に限定されず、角柱体等の他の柱体でもよい。
【0018】
被覆部7は、本体部6の材料よりも耐食性が高く、且つ、その線膨張係数が本体部6の材料の線膨張係数の90%~110%の値である材料で形成される部材である。被覆部7の材料としては、本体部6に銅又は銅合金を用いた場合はステンレス鋼が例示される。被覆部7の材料の線膨張係数が本体部6の材料の線膨張係数の90%未満であると、本体部6の熱膨張量が被覆部7に比して過大となり、本体部6の熱膨張により被覆部7の一部が破損する懸念がある。被覆部7の材料の線膨張係数が本体部6の材料の線膨張係数の110%を超えると、被覆部7の熱膨張量が本体部6に比して過大となり、被覆部7と本体部6の接合強度が低下する懸念がある。そこで、被覆部7の材料の線膨張係数を本体部6の材料の線膨張係数の90%~110%の値である材料で形成する。なお、線膨張係数とは予め設定された設定温度範囲(例えば0℃~800℃)で物体が温度上昇したときにこの物体の長さが膨張する割合を温度あたりで示したものである。また、耐食性とは周辺の環境の成分との酸化還元反応による物体の酸化し難さを表す指標である。耐食性が高いと、物体は酸化し難い。
【0019】
校正面5は、校正対象の接触式温度計の感温部が接触する部位である。本体部6の上面と校正面5との間の厚さHtは、接触式温度計の接触で不可逆に変形することなく、かつ、加熱装置3と基準温度計2と校正面5との位置関係と熱伝導に基づいて校正面5として機能する厚さが望ましい。本開示で本体部6の上面と校正面5との間の厚さHtは被覆部7の厚さと硬ろう10の厚さの合計値である。
【0020】
挿入孔8は基準温度計2がX方向に挿入される孔で、挿入孔9は加熱装置3がX方向に挿入される孔である。挿入孔8、9は共に本体部6及び被覆部7を貫通する筒形状の孔で、例えば穿孔により形成される。挿入孔8には、その延在長さの半分の位置(校正ブロック4のX方向略中央の位置)に基準温度計2の先端の感温部2tが位置するように、基準温度計2が挿入配置される。挿入孔9には、その延在長さ全体に亘って加熱装置3が挿入配置されている。
【0021】
なお、挿入孔8、9は、校正ブロック4の内部の途中まで穿孔により形成される有底の筒形状の孔としてもよいが、校正ブロック4をその柱体の側面方向に貫通する孔として形成されることが望ましい。貫通孔として形成すると、校正ブロック4の側面に形成された2つの孔の何れか一方から基準温度計2や加熱装置3を押し引きして取り出すことができるので、基準温度計2や加熱装置3の破損時や交換時に有効である。特に、加熱装置3は、校正ブロック4との間の空気による熱抵抗の増加を抑制するために挿入孔9内に殆ど隙間なく挿入されているので挿入、取出しが難しく、挿入孔9を貫通孔として形成する有効度は大きい。
【0022】
被覆部7は、硬ろう10を介して本体部6にろう付けで接合されている。硬ろう10としては銀ろうが例示される。硬ろう10が本体部6の全表面を覆うようにすると、本体部6を被覆部7と硬ろう10の両方で密封するので、本体部6の密封性を確保するには有利になる。
【0023】
被覆部7は、本体部6の各表面を覆う別体の各部材11~15を組み合わせて構成される。校正面用板11は、本体部6の柱軸方向の上端面を覆って、校正面5を構成する円柱体である。端面用板12は、本体部6の柱軸方向の下端面を覆って、校正面5とは柱軸方向反対側の校正ブロック4の端面を構成する円柱体である。校正面用板11の端面の面積は端面用板12の端面の面積と略同一である。柱面用筒状体13は、本体部6の側面を覆って、校正ブロック4の側面を構成する中空円柱体である。挿入孔用筒状体14、15は、それぞれ、挿入孔8、9に挿入されて、校正ブロック4の内表面の全体を構成する筒形状の部材である。挿入孔用筒状体14、15は、それぞれ、硬ろう10により挿入孔8、9の内表面全体に接合されている。基準温度計2は挿入孔用筒状体14の中空部14aに挿入される。加熱装置3は、挿入孔用筒状体15の中空部15aに挿入される。なお、挿入孔8、9を校正ブロック4の内部の途中まで穿孔により形成される有底の筒形状の孔とする場合は、挿入孔用筒状体14、15は、有底の筒形状の部材として形成される。
【0024】
厚さHtは、接触式温度計の校正に適した厚さである。校正面5は、接触式温度計が接触する面であり、空気に対して露出した面である。つまり、厚さHtは、熱抵抗の大きい空気の存在を考慮して、本体部6の上面と校正面5との間の熱抵抗が無視できる範囲であればよい。
【0025】
校正面用板11の厚さ(柱軸方向の長さ)hは、本体部6の上面と校正面5との間の厚さHtから硬ろう10の厚さを減算した厚さと同じである。校正面用板11の厚さhは、端面用板12の厚さHよりも小さい。また、校正面用板11と挿入孔用筒状体14、15の厚さは、端面用板12及び柱面用筒状体13と比較して、薄く形成される。
【0026】
基準温度計2及び加熱装置3はそれぞれ、その一端部に配線16、17を介して温度調節器18が接続されている。温度調節器18は、基準温度計2に加わる電圧を測定すると共に、この測定した電圧に対応する基準温度計2の温度を取得する装置である。温度調節器18は加熱装置3に通電して、加熱装置3を発熱させることも行う。加熱装置3の発熱量は、温度調節器18から加熱装置3への通電量と正比例の関係にある。
【0027】
温度校正器1を用いた校正対象の接触式温度計の校正原理について説明する。この校正は、校正対象の接触式温度計の感温部を校正面5に接触させた状態で加熱装置3を加熱させて、温度調節器18により取得される基準温度計2の温度に基づいて推定される校正面5の温度と校正対象の接触式温度計に表示される温度が一致するように行われる。基準温度計2の温度の取得値をT1、加熱装置3の設定温度をT2、加熱装置3と基準温度計2のZ方向の離間距離をa、加熱装置3と校正面5のZ方向の離間距離をbとして、校正面5の温度の推定値Tは、以下の数式(1)で算出される。
【0028】
【数1】
【0029】
加熱装置3の発熱量は、基準温度計2及び校正面5に校正ブロック4を介して伝達される。校正面5、基準温度計2及び加熱装置3は、Z方向上側よりこの順で配置されているため、基準温度計2と比較して校正面5に伝達される熱量は小さくなり、各装置2、3、5の温度関係は、加熱装置3、基準温度計2、校正面5の順に低温となる。加熱装置3から伝熱対象2、5に伝達される熱量は、加熱装置3と伝熱対象2、5の間の距離と正比例の関係にある。言い換えれば、加熱装置3と伝熱対象2、5の温度差は、加熱装置3と伝熱対象2、5の間の距離と正比例の関係にある。加熱装置3の設定温度T2と基準温度計2の温度の取得値T1との温度差ΔT(=T2-T1)は、加熱装置3と基準温度計2の離間距離aに応じた値である。上記の温度差と距離の正比例の関係を考慮して、校正面5の温度Tと加熱装置3の設定温度T2との温度差ΔT´は、校正面5と加熱装置3の離間距離bと上記の離間距離aの比率(=b/a)に上記の温度差ΔTを乗じて算出される値で、数式(1)の右辺の2番目の項となる。校正面5の温度Tは、数式(1)のように加熱装置3の設定温度T2から上記の温度差ΔT´を減算することで推定算出される。
【0030】
上記の数式(1)を用いた校正面5の温度Tの推定算出は、校正ブロック4にZ方向上側より順に校正面5、基準温度計2、加熱装置3を配置して、本体部6の上面と校正面5との間の厚さが数式(1)が成立する程度に加熱装置3から校正面5に熱伝達が可能な厚さである構成を前提として成立する。
【0031】
このような構成により、数式(1)のような簡易な計算式で校正面5の温度Tを推定算出することができる。
【0032】
なお、校正対象となる接触式温度計は、その感温部を被測温体と接触させることで被測温体の温度を測定する温度計であり、感温部が接触板で構成される温度計である。この接触式温度計は、被測温体からの放射を基に被測温体の温度を測定する非接触式温度計や挿入型温度計とは異なる。
【0033】
以上により、温度校正器1は、挿入孔8、9の内表面及び校正面5を含む校正ブロック4の全表面を被覆部7で覆う構造を有する。被覆部7は、本体部6よりも耐食性が高く酸化され難く、本体部6と熱膨張時の変形度合いが同程度であることから密封状態を維持することができる。それ故、温度校正器1は、本体部6の全表面の酸化を防止することができる。これにより、校正対象の温度計と校正面5との接触状態を維持するには有利になり、校正ブロック4を交換しなくても繰り返し精度を向上することができる。また、被覆部7により本体部6の全表面の酸化を防止することで、本体部6の表面に生じた酸化被膜が剥離することに起因して、本体部6の体積が徐々に減り熱容量が変化することも防ぐことができる。したがって、校正ブロック4の交換頻度が低減し、校正ブロック4の交換に要するコストを低減することができる。
【0034】
また、温度校正器1は被覆部7を本体部6の各表面を覆う別体の各部材11~15を組み合わせた構成とする。挿入孔用筒状体14、15により挿入孔8、9も含めて本体部6を密閉するので、つまり、本体部6の内表面を含む全表面を被覆部7で密閉するには有利になる。
【0035】
校正面用板11及び端面用板12は汎用仕様のステンレス板で、柱面用筒状体13及び挿入孔用筒状体14、15は汎用仕様のステンレスパイプで形成することが可能であるので、材料費を低減することができる。
【0036】
温度校正器1の製造方法について図3を参照しながら説明する。この製造方法は、以下の第1~6工程で構成されるが、少なくとも第4、6工程を含んでいればよい。第1工程では、本体部6と被覆部7を別々に製造する。被覆部7は各部材11~15毎に別々に製造される。この工程の段階では、校正面用板11は、その厚さが図2に示す完成時の校正面用板11の厚さhより大きくなるように製造される。この厚さは、後の工程で校正面板11を加熱及び加圧(加熱圧縮)しても校正面用板11の形状が歪んで変形しない厚さ、言い換えれば、ろう付けにおける加熱圧縮での変形を抑制可能な厚さに設定される。校正面用板11と端面用板12はともに円柱体であるので、この工程の段階の校正面用板11の厚さ及び底面積を端面用板12の厚さ及び底面積と同じ厚さ及び底面積とすると、これらの部材11、12の製造に要する時間を短縮できるので好ましい。
【0037】
端面用板12の厚さは図2に示す完成時の端面用板12の厚さHと同じ厚さにすると、後の工程で端面用板12を加工する手間が省けるので好ましい。
【0038】
また、校正ブロック4や本体部6の形状を円柱体とすると、例えば、銅の丸棒とステンレス鋼のパイプ(円筒)や板を組み合わせて校正ブロック4を製造することができる。それ故、製造に要するコストを抑制することができるので好ましい。
【0039】
この工程の段階で、本体部6及び柱面用筒状体13には、その内部に2つの挿入孔用筒状体14、15を挿入するための挿入孔8、9を形成しておく。
【0040】
第2工程では、図3に示すように、本体部6の周りに各部材11~15を配置する。このとき、校正面用板11を本体部6の柱軸方向の一端面よりZ方向下側に離間して配置し、端面用板12を本体部6の柱軸方向の他端面よりZ方向上側に離間して配置する。これは、後の工程でZ方向上側から被覆部7に対して圧縮力Fを加えるので、圧縮力Fが直接加わる対象を校正面用板11ではなく端面用板12にすることで圧縮力Fによる校正面用板11の変形を確実に防止するためである。柱面用筒状体13を本体部6の柱面全体を囲うように配置する。本体部6の周りに校正面用板11、端面用板12及び柱面用筒状体13を配置した後に、2つの挿入孔用筒状体14、15をそれぞれ挿入孔8、9に挿入して配置する。
【0041】
第3工程では、校正面用板11のZ方向上側の端面と本体部6の他端面に固体形状の硬ろう10を塗布する。
【0042】
第4工程では、本体部6、被覆部7及び硬ろう10の全体を別体のヒータ等を用いて加熱しながら、端面用板12に対してZ方向上側から圧縮力Fを加える。この加熱は、固体状態の硬ろう10を液体状態に変遷する温度(例えば450℃)まで上昇及び維持できる程度に行われる。この加熱中は液体状態となった硬ろう10が圧縮力Fにより拡散して本体部6と被覆部7の隙間に入り込んでいく。この加熱及び加圧は、本体部6の全表面が硬ろう10を介して被覆部7で覆われるのに十分な時間(例えば5分)行われる。被覆部7の厚さは被覆部7を加熱圧縮しても変形しない程度の厚さであるので、被覆部7は加熱圧縮により変形しない。
【0043】
第5工程では、本体部6、被覆部7及び硬ろう10の全体を常温(25℃)程度まで冷却する。この冷却は別体の冷却装置(例えばファン)を用いて行う。この冷却により、本体部6と被覆部7の隙間に入り込んだ硬ろう10は凝固し、被覆部7が本体部6の全表面に硬ろう10を介して接合される。
【0044】
言い換えれば、第4、5工程では、硬ろう10を用いて本体部6の全表面に被覆部7をろう付けしている。ろう付けとは、より詳細には、接合する本体部6と被覆部7の間にこれらの融点よりも低い硬ろう10を溶かして、毛細管現象で溶けた硬ろう10を浸透拡散させ、この硬ろう10を冷却及び凝固することによって本体部6と被覆部7を接合することである。このろう付けは他の接合方法と比較して、接合時に本体部6及び被覆部7に熱変形が発生しにくいため、校正ブロック4を凹凸のない円柱体として形成するには有利な接合方法である。
【0045】
第6工程では、校正面5を形成する側の被覆部7である校正面用板11の厚さが第1工程時の厚さHから図2に示す校正面用板11の厚さhとなるまで、校正面用板11を本体部6の柱軸方向の両端面に平行に厚さh1(=H-h)分だけ切削して薄くする。この切削は、温度校正器1全体を反転させて、作業台の上に端面用板12を接地した状態で行う。厚さhは、被覆部7により加熱装置3と校正面5の間の伝熱に影響を与えない程度の厚さ、より詳細には、上記の数式(1)が成立する程度の厚さに設定される。その他、硬ろう10が校正ブロック4の外表面より外側にはみ出ている場合には、このはみ出た部分を切削して、校正ブロック4を全体として円柱体に形成する。
【0046】
以上より、本発明の温度校正器の製造方法では、本体部6と被覆部7の接合の段階では校正面用板11の厚さを接合に要する加熱及び加圧に耐え得る厚さとして、校正面用板11の耐久性を向上させる。そして、この接合の完了後に、加熱装置3と校正面5の間の伝熱に影響を与えず、上記の数式(1)が成立する程度の厚さまで校正面用板11の厚さを薄くする。これにより、製造時における校正面用板11の変形を防止すると共に、校正時に校正面5としての機能を維持することができる。
【0047】
なお、本実施形態では、1つの基準温度計2を有する温度校正器1を例にしたが、図4に例示するように、複数(図4では3つ)の基準温度計21、22、23を有する温度校正器1に対しても本発明を適用可能である。この場合は、温度調節器18と配線16a、16b、16cを介して接続される各基準温度計21、22、23の対応する挿入孔8a、8b、8cのそれぞれに、対応する挿入孔用筒状体14a、14b、14cが挿入されることとなる。校正ブロック4に基準温度計がn(n≧1)個挿入配置されている場合に、基準温度計2k(k=1~n)の温度をT1、加熱装置3の設定温度をT2、加熱装置3と基準温度計2kのZ方向の離間距離をa、加熱装置3と校正面5の離間距離をbとして、校正面5の温度の推定値は、以下の数式(2)で算出される。
【0048】
【数2】
【0049】
基準温度計2を校正ブロック4に一つだけ設けた場合と同様に、加熱装置3と伝熱対象21、22、23、5の温度差は、加熱装置3と伝熱対象21、22、23、5の間の距離と正比例の関係にある。この関係を用いて、基準温度計2kと加熱装置3の間の温度差の平均を算出して、この算出した平均値に加熱装置3と校正面5の離間距離bを乗じて、校正面5と加熱装置3の温度差(数式2の右辺の第2項)を算出する。校正面5の温度Tは、数式(2)のように加熱装置3の設定温度T2から上記の温度差を減算することで推定算出される。
【0050】
この場合、複数の基準温度計2kと加熱装置3の温度差の平均値を基に校正面5と加熱装置3の温度差を算出するので、加熱装置3の温度T2を基にした校正面5の温度Tの推定精度を向上させることができる。
【0051】
また、図5に例示するように、校正面用板11の上端面全体を被覆部7と比較して耐久性の高いセラミックスで構成された被覆膜19で覆って、この被覆膜19を校正ブロック4の校正面5としてもよい。被覆膜19の厚さは、この厚さと校正面用板11の厚さhとろう付けの厚さの合計値Ht1が校正面5として機能する厚さ、言い換えれば、上記の数式(1)、(2)が成立する厚さに設定される。したがって、被覆膜19を形成する場合は、その厚さ分だけ校正面用板11がさらに薄くなるように上記の第6工程で切削される。さらに、校正面用板11は本体部6とろう付けで接合されていることから、このろうの厚さも考慮して、校正面用板11を切削して薄くすると好ましい。この場合は、校正面5としての機能を維持した状態で、校正対象の温度計の感温部と校正面5の接触に伴う校正面5の破損を被覆膜19により抑制することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 温度校正器
2 基準温度計
3 加熱装置
4 校正ブロック
5 校正面
6 本体部
7 被覆部
8 基準温度計用の挿入孔
9 加熱装置用の挿入孔
10 硬ろう
11 校正面用板
12 端面用板
13 柱面用筒状体
14 基準温度計用の挿入孔用筒状体
14a 中空部
15 加熱装置用の挿入孔用筒状体
15a 中空部
16、17 配線
18 温度調節器
19 被覆膜
図1
図2
図3
図4
図5