(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-25
(45)【発行日】2023-02-02
(54)【発明の名称】防音材
(51)【国際特許分類】
G10K 11/168 20060101AFI20230126BHJP
B32B 5/18 20060101ALI20230126BHJP
G10K 11/16 20060101ALI20230126BHJP
E04B 1/86 20060101ALI20230126BHJP
【FI】
G10K11/168
B32B5/18
G10K11/16 120
E04B1/86 D
E04B1/86 E
(21)【出願番号】P 2018196476
(22)【出願日】2018-10-18
【審査請求日】2021-09-09
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)展示日 2018年10月17日・18日 (2)展示会名、開催場所 大阪勧業展2018 マイドームおおさか(大阪市中央区本町橋2番5号) (3)公開者 松村工芸株式会社 (4)出品した物の内容 松村工芸株式会社が、大阪勧業展2018にて、田中邦明、柏原 聡ならびに松島秀典が発明した防音材を公開した。
(73)【特許権者】
【識別番号】593220410
【氏名又は名称】松村アクア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【氏名又は名称】松村 直都
(74)【代理人】
【識別番号】100079038
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100060874
【氏名又は名称】岸本 瑛之助
(72)【発明者】
【氏名】田中 邦明
(72)【発明者】
【氏名】柏原 聡
(72)【発明者】
【氏名】松島 秀典
【審査官】辻 勇貴
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-097261(JP,A)
【文献】特開2013-097345(JP,A)
【文献】特開2017-107214(JP,A)
【文献】特開2006-225923(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/168
B32B 5/18
G10K 11/16
E04B 1/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連通気泡を有するフェノール樹脂製フォームと、
前記フェノール樹脂製フォームの一面及び他面の少なくとも一面に接着剤によって貼り付けられた樹脂製のメッシュシートと、を有する防音材であって、
前記メッシュシートは、当該メッシュシートの厚みの一部が前記フェノール樹脂製フォームにほぼ一様にめり込んでおり、
前記接着剤は、前記フェノール樹脂製フォームの
連通気泡内部にしみ込んでいる、防音材。
【請求項2】
前記フェノール樹脂製フォームの一面に前記メッシュシートが接着され、他面に無孔の平板形状の遮音板が接着剤により接着された防音材であって、
前記接着剤は、前記フォームの連通気泡内部にしみ込んでいる請求項1に記載の防音材。
【請求項3】
前記フェノール樹脂製フォームにメッシュシート及び/または遮音板が貼り付けられた防音材の周縁に、補強するためのアングル材が取り付けられている請求項1または2に記載の防音材。
【請求項4】
前記メッシュシートの接着側と反対側の面に装飾用シートが貼られている請求項1~3のいずれか1項に記載の防音材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、室内・工事現場等で発生した音が外部に漏れるのを防止したり、逆に外部の音が室内等に伝わるのを防止したりするための遮音材、あるいは、音のエネルギーを吸収して音圧を調整するための吸音材として用いられる、パネル状の防音材に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の防音材として、ハニカム材の各セル内にフェノールフォーム等の合成樹脂発泡体を充填してなる芯材を備えたものが知られている。(例えば、下記の特許文献1参照)。フェノール樹脂製フォームは、ガラス繊維製の防音材と比べて吸音効果に優れ、ある程度の自立性があるために広く防音用パネルの材料として用いられている。
【0003】
特許文献1に記載の防音材は、通気性表面材、ハニカム材、非通気性表面材からなるサンドイッチパネル構造体を形成している。通気性表面材及び該非通気性表面材と該ハニカム材の頂部とは、それぞれエマルジョン系接着剤により接着され、該ハニカム材のセル空間内には、吸水性の連通気泡硬質フォーム材が充填され、該連通気泡硬質フォーム材とハニカム材の壁面とは、エマルジョン系接着剤により接着されている。
【0004】
特許文献1に記載の防音材は、ハニカム材の一端面に通気性表面材が、他端面に非通気性表面材が接着剤で接着されており、ハニカム材のセル内部に連通気泡硬質フォーム材が充填されており、この連通気泡硬質フォーム材にフェノール樹脂製フォームが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ハニカム材の各セルから合成樹脂発泡体が抜け落ちるおそれがあるため、上記の防音材の場合、ハニカム材と合成樹脂発泡体とを加圧して一体化する工程に先立って、ハニカム材のセル端面の表面に接着剤を塗布し、加圧一体化の際に同接着剤が引き延ばされてハニカム材の各セルの内壁に付着し、この引き延ばされた接着剤がセルと合成樹脂発泡体とを接着をすることがなされてきた。
【0007】
防音パネル材等に用いる防音材として、軽量で、かつ、設置場所において容易にカットを行うことができる防音材が求められている。また、防音パネルの製造においても容易に製造できる防音パネルが求められている。
【0008】
特許文献1に記載の防音材では、通気性表面材、ハニカム材、非通気性表面材及び連通気泡硬質フォーム材からなり、構造が複雑であるので、軽量化と設置現場におけるカット容易性の妨げとなっている。また、ハニカム材を連通気泡硬質フォーム材に押し込む工程において、接着作業を同時に行わなければならないので、接着剤が乾燥する間に作業を完了する必要がある。
【0009】
これらの問題の原因となっているのがハニカム材の存在であり、フェノール樹脂製フォームの少なくとも一端面に補強材を貼り付けて補強することができ、吸音性能も維持することができれば、軽量で、かつ、設置場所において容易にカットを行うことができる防音材を提供することができる。
【0010】
しかしながら、フェノール樹脂製フォームは、押圧により塑性変形しやすく表面に微粉が発生しやすい材料であり、フェノール樹脂製フォームの表面と補強材との間に接着剤を介在させても、接着剤はフェノール樹脂製フォーム表面の微粉層に接着するのみで、補強材の接着が非常に困難である。
【0011】
この発明は、上記の課題に鑑みて発明されたものであって、フェノール樹脂製のフォームと補強材とを組み合わせたパネル状の防音材として、製造が容易であって、軽量で、かつ接地現場におけるカットが容易なものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は、上記の目的を達成するために、以下の態様からなる。
【0013】
[1]連通気泡を有するフェノール樹脂製フォームと、前記フェノール樹脂製フォームの一面及び他面の少なくとも一つの面に接着剤によって貼り付けられた樹脂製のメッシュシートと、を有する防音材であって、前記メッシュシートは、当該メッシュシートの厚みの一部が前記フェノール樹脂製フォームにほぼ一様にめり込んでおり、前記接着剤は、前記フェノール樹脂製フォームの連通気泡内部にしみ込んでいる、防音材。
【0014】
[2] 前記フェノール樹脂製フォームの一面に前記メッシュシートが接着され、他面に無孔の平板形状の遮音板が接着剤により接着された防音材であって、前記接着剤は、前記フェノール樹脂製フォームの連通気泡内部にしみ込んでいる[1]の防音材。
【0015】
[3] 前記フェノール樹脂製フォームにメッシュシート及び/または遮音板が貼り付けられた防音材の周縁に、補強するためのアングル材が取り付けられている[1]または[2]の防音材。
【0016】
[4] 前記メッシュシートの接着側と反対側の面に装飾用シートが貼られている[1]~[3]のいずれかの防音材。
【発明の効果】
【0017】
上記[1]の防音材にあっては、フェノール樹脂製フォームの一面及び他面の少なくとも一つの面に接着剤によって貼り付けられた樹脂製のメッシュシートによって、フェノール樹脂製フォームが補強されており、メッシュシートは、その厚みの一部がフェノール樹脂製フォームにほぼ一様にめり込んでいる。接着剤は、前記フェノール樹脂製フォームの連通気泡内部にしみ込んでいるのでフェノール樹脂製フォームとメッシュシートとは強固に接着されている。これにより、防音材は、製造が容易であって、軽量で、かつ接地現場におけるカットが容易なものとなっている。
【0018】
上記[1]の防音材において、フェノール樹脂製フォームとメッシュシートとが強固に接着されているのは、メッシュシートの厚みの一部がフェノール樹脂製フォームにほぼ一様にめり込むように接着段階で加圧されていることと、接着剤がフェノール樹脂製フォームの連通気泡内部に毛細管現象でしみ込むようになされているからである。
【0019】
メッシュシートを貼り付けることで、フェノール樹脂製フォームはパネル化され、自立性が向上し、治具による設置、吊り下げ等のフレキシブルな使用形態が可能となる。両面にメッシュシートを貼り付けると、両面吸音材としても使用でき、使用場所に合わせて自由なサイズにカットすることができる。
【0020】
上記[2]の防音材にあっては、前記フェノール樹脂製フォームの一面に前記メッシュシートが接着され、他面に無孔の平板形状の遮音板が接着されているので、メッシュシート側から入ってきた音は、フェノール樹脂製フォーム内で吸音され、他面に遮音板が貼られているので、遮音板でも反射されて防音効果が上がる。
【0021】
上記[3]の防音材によれば、前記フェノール樹脂製フォームにメッシュシート及び/または遮音板が貼り付けられた防音材の周縁に、補強するためのアングル材が取り付けられているので、防音材の縁部が補強されており、強固な防音材とすることができる。
【0022】
上記[4]の防音材によれば、メッシュシートの接着側と反対側の面に装飾用シートが貼られているので、メッシュシートを装飾用シートで見えなくすることができ、装飾用シートによって意匠性をあげることができる。装飾用シートとして、紙、フィルム、布等の種々のものを用いることができる。中でも、耐久性、意匠性、コスト面から不織布が好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】この発明による第1の実施形態に係る防音材の斜視図である。
【
図4】この発明による第2の実施形態に係る防音材の斜視図である。
【
図7】この発明による第3の実施形態に係る防音材の断面図である。
【
図8】実施例1の防音材の残響室法吸音率の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、この発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0025】
[第1の実施形態]
図1及び
図2は、この発明による第1の実施形態の防音材を示すものである。図示の防音材(1)は、板状に成形されたフェノール樹脂製フォーム(10)と、フェノール樹脂製フォーム(10)上下面にメッシュシート(20)が貼り付けられている。このメッシュシート(20)は、その厚みの約半分ほどがフェノール樹脂製フォーム(10)に加圧によりめり込んで接着されている。
【0026】
メッシュシート(20)は、特に材質を特定することはないが、汎用に用いられる合成樹脂製メッシュシートがカットのし易さから好ましい。合成樹脂の中でもナイロンやポリエステル製のメッシュシートは、コストが安いのでより好ましい。
【0027】
図2は、実施例1(
図1)の断面図であり、フェノール樹脂製フォーム(10)とメッシュシート(20)とが接着されている状態を示している。メッシュシート(20)の片面に塗られた接着剤(21)は、毛細管現象によってフェノール樹脂製フォーム(10)の内部に浸透し、浸透した部分が接着剤浸み込み部(22)となっている。
【0028】
接着剤は、水溶性のエマルジョン系接着剤が毛細管現象の起こりやすさから好ましく、酢酸ビニル樹脂系エマルション形接着剤、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂、α-オレフィン(イソブテン-無水マレイン酸樹脂)系接着剤、アクリル樹脂系エマルション形接着剤及びスチレン・ブタジエンゴム系ラテックス形接着剤が溶剤を水とすることができるので好ましい。中でも、酢酸ビニル樹脂系エマルション形接着剤は、木工用の接着剤として汎用されており、コスト面や取扱い易さの面からもより好ましい。
【0029】
メッシュシート(20)の厚みの約半分ほどを、フェノール樹脂製フォーム(10)にめり込ませる方法として、接着剤(21)を片面に塗った側のメッシュシート(20)をフェノール樹脂製フォーム(10)にかぶせて、接着剤(21)を塗った側と反対側のメッシュシート(20)上に荷重を付加して行うことができる。付加する荷重は、1m2当たり24kg程度が好ましい。付加する方法は、錘による方法やプレス機による方法のいずれでも良い。
【0030】
図3は遮音板(30)の斜視図である。遮音板の材質は、音を遮るものであればなんでも良い。現場でのカット性をよくするために合成樹脂製が好ましい。例えば、ポリカーボネート樹脂製やアクリル樹脂製の合成樹脂製遮音板が好ましい。
【0031】
[第2の実施形態]
図4及び
図5は、この発明による第1の実施形態の防音材を示すものである。
図4は、フェノール樹脂製フォーム(10)の上面にメッシュシート(20)が接着され、フェノール樹脂製フォーム(10)の底面に遮音板(30)が接着された防音材(1)の斜視図を示している。フェノール樹脂製フォーム(10)と遮音板(30)との接着は、第1の実施形態の接着に用いた接着剤が好ましい。但し、遮音板(30)とフェノール樹脂製フォーム(10)との接着面積が、第1の実施形態の場合に比べて非常に広いため、第1の実施形態の防音材(1)を製作にする際に行った接着時の荷重付加は行わなくても接着をすることができる。
【0032】
図5は、
図4のV-V線に沿う断面図である。遮音板(30)とフェノール樹脂製フォーム(10)との間に介在する接着剤(31)からしみ出した接着剤浸み込み部(32)を介して強固に接着される。
【0033】
図6は、第1の実施形態と第2の実施形態では用いなかったハニカム材(40)の斜視図である。現場の設置における防音材のカットの容易性の観点から、ハニカム材をフェノール樹脂製フォーム(10)内に埋め込むことは好ましいことではないが、メッシュシート(20)や遮音板(30)によるよりもさらに強度を持たせたい場合、カットの容易性を阻害しないようにハニカム材(40)をフェノール樹脂製フォーム(10)内に埋め込むことが好ましい場合がある。
【0034】
このハニカム材(40)は、フェノール樹脂製フォーム(10)の強度を高める補強材として機能するとともに、セル構造による音の減衰等の効果を奏するものである。ハニカム材(40)としては、一般に、紙製のものが用いられるが、難燃性や高強度が要求される場合には、水酸化アルミニウム等を含浸した紙製のものや、アルミニウム等の金属製のものや、ポリ塩化ビニル・ポリプロピレン・FRP等の合成樹脂製のものが用いられる。
【0035】
ハニカム材(40)のセルの断面形状は、特に限定されず、図示のような六角形とする他、四角形や三角形等とすることも可能である。また、セルのサイズも、防音材(1)の用途等に応じて、適宜設定すればよい。
【0036】
図7に示す第3の実施形態の防音材(1)は、フェノール樹脂製フォーム(10)の上面側にメッシュシート(20)を接着剤(21)で接着し、プレス機を用いて、ハニカム材(40)をフェノール樹脂製フォーム(10)の内部に埋め込み、フェノール樹脂製フォーム(10)の下面側に遮音板(30)を接着剤(31)で接着したものである。接着剤(21)(31)はフェノール樹脂製フォーム(10)の内部の接着剤浸み込み部(22)(32)にまで毛細管現象でしみ込んで、フェノール樹脂製フォーム(10)とメッシュシート(20)及びフェノール樹脂製フォーム(10)と遮音板(30)とは強固に接合される。
【実施例】
【0037】
次に、この発明の具体的実施例について説明するが、この発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0038】
<実施例1>
第1の実施形態の防音材(1)を作成した。防音材(1)のフェノール樹脂製フォーム(10)として、連続気泡型で密度21kg/m3のフェノールフォーム材を用意した。サイズは、縦1000mm、横1000mm、厚さ25mmとした。メッシュシート(20)は、ポリエステル製で厚み0.5mm、メッシュ単位は、4mm四角で、メッシュ単位を構成している辺の幅は0.8mmのものを用いた。
【0039】
接着剤(21)は、酢酸ビニル樹脂系エマルション形接着剤である木工用接着剤(コニシ製)を使った。この接着剤に水を加えて濃度が約半分ほどになるように調製して用いた。こうすることで、フェノール樹脂製フォーム(10)の連通気泡内に毛細管現象で接着剤成分が侵入しやすくなるようにした。
【0040】
調整した接着剤(21)を、メッシュシート(29)の片面に塗布して、フェノール樹脂製フォーム(10)の片面にかぶせて、その上から1m2に24kgになるように錘荷重を付加して圧着した。荷重を10分間かけて、その後、錘荷重をはずして接着を完了した。フェノール樹脂製フォーム(10)の他方の面も同じ方法で、メッシュシート(20)を接着し、防音材(1)を完成した。
【0041】
<吸音性能測定試験>
実施例1及び比較例としてフェノール樹脂製フォーム(10)のみの防音材につき、公的機関(鳥取県産業技術センター)において、残響室法吸音率を測定した。測定は、JIS A 1409「残響室法吸音率の測定方法」に準拠して行った。測定結果を、
図8に示す。
図8から分かるように、実施例1の防音材(1)では、1/3オクターブバンド中心周波数が250Hz以上の範囲で大きな吸音効果が得られた。500Hz以上の領域では、実施例1の防音材(1)は比較例の防音材と比べて、大きな吸音効果が得られた。
【符号の説明】
【0042】
(1) :防音材
(10):フェノール樹脂製フォーム
(20):メッシュシート
(21):接着剤
(22):接着剤浸み込み部
(30):遮音板
(31):接着剤
(32):接着剤浸み込み部
(40):ハニカム材