(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-25
(45)【発行日】2023-02-02
(54)【発明の名称】水生生物の飛び出し防止装置
(51)【国際特許分類】
A01K 63/00 20170101AFI20230126BHJP
【FI】
A01K63/00 B
(21)【出願番号】P 2019180519
(22)【出願日】2019-09-30
(62)【分割の表示】P 2019534002の分割
【原出願日】2018-07-06
【審査請求日】2021-06-09
(31)【優先権主張番号】P 2017151082
(32)【優先日】2017-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】516193483
【氏名又は名称】古澤 洋将
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】古澤 洋将
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-072830(JP,A)
【文献】特開平3-58724(JP,A)
【文献】特開昭49-41185(JP,A)
【文献】実開昭55-140359(JP,U)
【文献】英国特許出願公開第2505992(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 63/00
A01K 61/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水生生物を飼育するための水槽の内周に設置された電極部と、
前記電極部に電気的に接続され、前記電極部に電気パルスを印加する電源部と、
を備えた、水生生物の飛び出し防止装置であって、
前記電極部は、前記水槽の前記内周の一部又は全部にわたって水平方向に延在し、前記水槽内の所定の水深領域に配置され、
前記電極部に電気パルスを印加する
ことによって、
前記電極部が配置されている所定の水深領域において、前記水槽の内周縁から内側に向かって膨出する領域に電界が形成される、
水生生物の飛び出し防止装置。
【請求項2】
前記電極部が、前記水槽の内周面に取り付けられている、請求項1記載の水生生物の飛び出し防止装置。
【請求項3】
水生生物を飼育するための水槽の内周に設置された電極部と、
前記電極部に電気的に接続され、前記電極部に電気パルスを印加する電源部と、
を備えた、水生生物の飛び出し防止装置であって、
前記電極部は、前記水槽の前記内周の一部又は全部にわたって水平方向に延在し、前記水槽内の所定の水深領域に配置され、
前記電極部に電気パルスを印加し、
水面に浮くことができる浮き部をさらに備え、
前記電極部が、前記浮き部の下方に取り付けられている、
水生生物の飛び出し防止装置。
【請求項4】
前記電極部が、前記水槽の高さ又は前記水槽内の水位の半分より上側の高さに設けられている、
請求項1
又は3記載の水生生物の飛び出し防止装置。
【請求項5】
水生生物の周囲を取り囲んで包囲する筒状の包囲部の内周に設置された電極部と、
前記電極部に電気的に接続され、前記電極部に電気パルスを印加する電源部と、
を備えた、水生生物の飛び出し防止装置であって、
前記電極部は、前記包囲部の前記内周の一部又は全部にわたって水平方向に延在し、前記包囲部の高さの半分より上側の所定の水深領域に配置され、
前記電極部に電気パルスを印加する
ことにより、
前記電極部が配置されている所定の水深領域において、前記包囲部の内周縁から内側に向かって膨出する領域に電界が形成される、
水生生物の飛び出し防止装置。
【請求項6】
水生生物の周囲を取り囲んで包囲する筒状の包囲部の内周に設置された電極部と、
前記電極部に電気的に接続され、前記電極部に電気パルスを印加する電源部と、
を備えた、水生生物の飛び出し防止装置であって、
前記電極部は、前記包囲部の前記内周の一部又は全部にわたって水平方向に延在し、前記包囲部の高さの半分より上側の所定の水深領域に配置され、
前記電極部に電気パルスを印加し、
水面に浮くことができる浮き部をさらに備え、
前記包囲部は、前記浮き部に取り付けられて、前記浮き部によって水中で支持されている、
水生生物の飛び出し防止装置。
【請求項7】
前記電極部は前記包囲部に取り付けられることにより、前記包囲部を介して前記浮き部によって支持される、請求項6記載の水生生物の飛び出し防止装置。
【請求項8】
前記電極部が、前記包囲部内の水位の半分より上側の高さに設けられている、
請求項5
又は6記載の水生生物の飛び出し防止装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水生生物の飛び出し防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、魚等の水生生物を観賞しながら飼育するために、水槽が用いられている。
近年では、水槽外への水生生物の飛び出しを防止するために、蓋で水面の上方を覆うことができる水槽が開発されている。(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
水槽に設けられる蓋は、水槽の上部を覆うことにより、水槽外への水生生物の飛び出しを防ぐことができる。しかしながら、大型の水生生物の場合や、飛び出しの勢いが強い場合等は、蓋に水生生物が衝突した勢いで蓋が持ち上がってしまい、水槽外への飛び出しを防ぐことが困難な場合がある。
【0004】
また、水面から上方に飛び出た水生生物が蓋等に接触すると、例え水槽外への飛び出しが防止されたとしても、水生生物の表面に傷が付いてしまい、水中の細菌が傷から水生生物の体内に侵入することによって細菌感染したり、商品価値が落ちたりする虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような問題に鑑み、水生生物に直接触れることなく水生生物の水槽外への飛び出しを防止することのできる、水生生物の飛び出し防止装置が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態による水生生物の飛び出し防止装置は、水生生物を飼育するための水槽の内周に設置された電極部と、前記電極部に電気的に接続され、前記電極部に電気パルスを印加する電源部と、を備えた、水生生物の飛び出し防止装置であって、前記電極部は、前記水槽の前記内周の一部又は全部にわたって水平方向に延在し、前記水槽内の所定の水深領域に配置され、前記電極部に電気パルスを印加する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、包囲部の内周の所定の水深領域において、電気パルスに起因する刺激を水生生物に与え、水生生物を水面に近づけさせないようにして、水生生物に直接触れることなく水生生物の水槽外への飛び出しを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態における水生生物の飛び出し防止装置を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図1の水生生物の飛び出し防止装置の縦断面図である。
【
図3】第1実施形態における電源部から電極部に印加される電気パルスの一例を示す図である。
【
図4】第1実施形態における水生生物の飛び出し防止装置の変形例を模式的に示す斜視図である。
【
図5】
図4の変形例において電源部から電極部に印加される電気パルスの一例を示す図である。
【
図6】第2実施形態における水生生物の飛び出し防止装置を模式的に示す斜視図である。
【
図7】
図6の水生生物の飛び出し防止装置の縦断面図である。
【
図8】第3実施形態における水生生物の飛び出し防止装置を模式的に示す斜視図である。
【
図9】
図8の水生生物の飛び出し防止装置の縦断面図である。
【
図10】第4実施形態における水生生物の飛び出し防止装置を模式的に示す斜視図である。
【
図11】
図10の水生生物の飛び出し防止装置の縦断面図である。
【
図12】第4実施形態における水生生物の飛び出し防止装置の変形例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。なお、説明の理解を容易にするため、各図面において実質的に同一の構成要素については可能な限り同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0011】
以下では、水生生物の飛び出し防止装置を飛び出し防止装置ともいう。また、水生生物は、水中に生息するあらゆる生物を含み、特に水中を移動しながら生息する生物を含む。例えば、魚類や、主に水中で生息する鯨やイルカ等の哺乳類、タガメやゲンゴロウのような水生昆虫類、クラゲ、イカ、タコ、エビ、サワガニ、ザリガニ等の生物を含む。魚類では、ハチェット、アフリカンランプアイ、プラティ、スネークヘッド、アロワナのような淡水魚、マグロのような海水魚、スズキやボラのような汽水魚を含む。
【0012】
また、水生生物とともに包囲部に収容される水は、淡水、汽水、海水を含む。海水には、自然の海水の組成を模して人工的に調製された人工海水も含まれる。また、必要に応じて水質を調整された水や、水に類似する液体又は流体であって、水生生物が生息できるように調整されているものも含むことができる。
【0013】
〔第1実施形態〕
第1実施形態における飛び出し防止装置について、
図1~5に基づき説明する。
図1は、本実施形態における飛び出し防止装置の概略を示す斜視図である。
図2は、
図1の飛び出し防止装置の縦断面図である。なお、各図面は見やすさに配慮して作図されているので、縦横のサイズは実際の縮尺とは異なる場合があり、部材ごとの縮尺も実際とは異なる場合がある。
【0014】
図1及び
図2に示すように、飛び出し防止装置10は、水生生物が収容されている水槽11内に設けられており、水槽11の内側であって、水面下(の特に水面近傍)に配置された電極部14と、電極部14に電気的に接続され、電気パルスを印加する電源部50とを有する。
【0015】
まず、電極部14が水槽11内にどのように配置されているか説明する。
【0016】
水槽11は、底部13と、底部13から上方へ向けて延在する筒状の側壁部12とを有しており、有底筒形状に形成されている。水槽11内にはもちろん水生生物1の他に水も収容されており、水面100が形成されている。底部13及び側壁部12は、水を通さない壁状部材から形成されている。本実施形態では、底部13及び側壁部12は板材から形成されており、底部13は略四角形状を有し、この四角形の各辺から同じく四角形状の側壁部12が延設されている。底部13と側壁部12との間及び側壁部12同士の間は、水を通さないように連結されている。このように、水槽11は、上端部が開口して、下端部が底部13によって閉塞している。そのため、水槽11に水を入れても、水槽11内の水は漏れない。従って、
図1に示すように、水槽11は、水中に生息する水生生物1とともに水を収容することができる。
【0017】
このような水槽11は主に陸上で使用される。ここでは、底部13及び側壁部12が板状部材から成る実施形態を示すが、水槽11は、例えば地中に埋め込まれていてもよい。養殖用などの比較的大型の水槽では、地面やコンクリート等から成る土台に凹部を形成し、コンクリート等で舗装して、底部及び側壁部を形成した水槽が知られている。本発明の飛び出し防止装置はこのような比較的大型の水槽であっても適用可能である。
【0018】
底部13及び側壁部12を構成する材料は、例えば、ガラス、樹脂、コンクリートのような絶縁材料が好ましい。水槽11が絶縁材料で構成されていると、後述する電極部14に印加される電気パルスが、水槽11側に漏れることがなく、水槽11内部に収容されている水側、すなわち水中に所期のように電界を形成することができる。
【0019】
電極部14は、相互に電気的に分離された、少なくとも2つの電極部材を有し、各電極部は、水槽11の側壁部12の内周すなわち内側に設けられる。例えば、本実施形態では、略四角形状の底部13の各辺から延設された2組の互いに向かい合う側壁部12、すなわち4つの側壁部の内側面、すなわち水槽11に水が入れられた時に水と接する面に、それぞれ1つの電極部材14a,14b,14c,14dが設けられている。各電極部材14a,14b,14c,14dは少なくとも相互に電気的に分離されている。各電極部材14a,14b,14c,14dはそれぞれ、側壁部12の高さの半分より上側、又は、水槽11に水を入れた時に所定の水深領域に相当する位置に配置されている。水槽11に水が入った状態では、電極部14は、水深の半分より上側であって、水面100の下側の所定の水深領域、本実施形態では、水面100の近傍に、水面100に対して略平行に配置される。
【0020】
図1に示されているように、各電極部材14a,14b,14c,14dは、直線状に形成されており、それぞれ取り付けられている側壁部の横方向(水平方向)の幅に対応する長さ、又は側壁部の幅より若干短い長さを有している。
図1では、電極部材14aと14bとがそれぞれ対向する側壁部12に取り付けられており、電極部材14cと14dとがそれぞれ対向する側壁部12に取り付けられている例を示す。
図1の例では、水槽11の高さ(又は深さ)全体の3分の2程度の高さに水面100があり、電極部14は底部13から水面100までの深さのうちの、水面から4分の1程度の深さ、の位置に設けられている。
【0021】
すなわち、電極部14は、側壁部12の内面の、(側壁部12の高さの半分より上側の領域であって)所定の水深領域に相当する位置、例えば水面100の近傍に相当する位置において、水槽11の内周の一部又は全部にわたって、本実施形態においては水槽11の内周を電極部14全体で取り囲むように、水平方向に延在している。
【0022】
図2に示すように、電極部14の外側は側壁部12の内面に直接固定されることができる。例えば不図示の接着剤によって、電極部14が水槽11に固定される。電極部14は、水槽11内に収容される水に接触するように設けられており、水槽11の側壁部12の高さの半分より上方の高さに設けられている。さらに詳しくは、水槽11内に水を入れた時の水位の半分より上方の高さに設けられている。
【0023】
また、
図1に示すように、電極部14は、面100に対して略平行に延設されることができる。しかし、水面100に対して傾いて、又は、階段状に深さ方向の位置を異ならせて配置されることもできる。
【0024】
電極部14は、その表面の一部又は全部が導電性を有する。そして、電極部14が水面100の下、すなわち水中に配置された状態で、この導電性の表面が水に接触するように構成されている。また、電極部14の表面は、さらに、耐食性を有していると好ましい。電極部14を構成する材料として、種々の導電性材料が適用でき、例えば、ステンレス鋼、白金、イリジウム、ルテニウム、ロジウム、チタン、銅、クロム及び/又はこれらを含む合金等のような金属材料、カーボンのような非金属材料、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン等からなる導電性の高分子材料、これらの高分子材料に無機及び/又は有機(例えば、カーボン等)の導電性材料を添加した複合材料等を適用することもできる。
【0025】
電極部14の形状は、特に限定されるものではない。電極部14の形状として、
図1に示すような帯状でもよいし、線状でもよい。また、電極部14は、メッシュ状でもよい。上述の導電性材料等からなる、複数の線状材料をから構成された、編素線又は撚り線であってもよい。
【0026】
電極部14の延設方向に垂直な断面の大きさは、特に限定されるものではない。例えば、電極部14を構成する材料に応じて、電極部14の断面の大きさを設定してもよい。電極部14がステンレス鋼で構成される場合には、電極部14の幅が0.20mm以上0.60mm以下、電極部14がカーボンで構成される場合には、電極部14の幅が0.02mm以上0.06mm以下であることが好ましい。電極部14の大きさが当該範囲内であると、電極部14を目視することが容易ではないため、飛び出し防止装置10のインテリア性が向上する。
【0027】
又は、側壁部12の表面に、例えば、ITO、IZO、AZO、GZO、ATO等からなる、透明の導電性材料をコーティングして、電極部14を形成することができる。このコーティングは筋状又は帯状に所定の位置にのみ塗布してもよいし、側壁部12の上側半分又は水面から所定の水深領域に相当する高さまで全体的に塗布してもよい。
【0028】
次に、電源部50について説明する。
【0029】
電源部50には、配線部51及び不図示のコネクタ及び/又は電気接点等を介して電極部14が電気的に接続されており、電極部14に電気パルスを印加することができるように構成されている。より詳しくは、
図1に示すように、電源部50に電極部材14a,14b,14c,14dが、配線部51を介して、それぞれ電気的に接続されている。例えば、電源部50は蓄電池及び/又は外部からの電源供給部、及び、各電極部材14a,14b,14c,14dのそれぞれに対して選択的に、以下に説明するような電気パルスを印加できるように構成された制御部50a等を含む。
図1の例では、電源部50に制御部50aが内蔵されている例を示したが、制御部50aは電源部50の外部に設けられており、有線又は無線によって電源部50と通信可能に接続されていてもよい。
【0030】
図3は、電極手段に印加される電気パルスを例示する図である。
図3(a)は方形波の例、
図3(b)(c)はサイン波の例を示している。
図3(a)乃至(c)はいずれも、周期T[sec]内において期間t[sec]の間だけ、波高値A[V]の電気パルスを印加する例を示している。すなわち、この場合のデューティ比はD=t/Tとなる。なお、
図3(c)は、期間tの中で、波高値Aが徐々に小さくなるサイン波が印加される例を示している。
図3(c)では、最大波高値を波高値Aの代表値として示している。このように、波高値Aが期間t内で変化してもよい。また、波高値Aがマイナスになる場合があってもよい。
【0031】
また、
図3(a)の例において、期間tの間により高周波の電気パルスが印加されるようにすることもできる。すなわち、
図3(a)の電気パルスは、高周波の電気パルスが間欠的に印加されるものであってもよい。この場合、この間欠的に印加される高周波電気パルスの繰り返される頻度が周期Tとなり、1つの電気パルス内で印加される高周波の周波数を周波数と称する場合がある。
【0032】
また、
図3(a),(b),(c)の例において、周期Tのうちの電気パルスが印加されていない期間の電圧/電流値は、0であってもよいし、直流又は交流のバイアス電圧/電流がかけられていてもよい。また、微弱な、直流又は交流の電流/電圧成分が重畳しているような場合も考えられる。
【0033】
本実施形態では、このような電気パルスを、電極部材14a,14b,14c,14dに選択的に印加することができる。
【0034】
例えば、電源部50の制御部50aは、電極部材14a,14b,14c,14dのうち、隣り合う電極部材に上記のような電気パルスを印加し(+側)、電気パルスが印加された電極部材に対向して配置された電極部材をアース側(-側)とすることができる。又は、対向する電極部材に電気パルスを印加し(+側)、その電極部材に隣接する電極部材をアース側(-側)にすることもできる。このとき、例えば周期Tごとに、+側になる電極部材と-側になる電極部材とが入れ替わるように、電極部材を選択することもできる。
【0035】
また、複数の電極部材14a,14b,14c,14dのうち、1つ又は複数の電極部材だけに電気パルスを印加し、その他の電極部材はアース側にすることもできる。この場合は、複数の電極部材14a,14b,14c,14dから、1つ又は複数の電極部材を順次選択して、電気パルスを印加していくようにすることができる。このような場合は、電気パルスが印加されている電極部材の周辺に電界が形成されることになるため、水生生物の移動に対して十分早い速度で電気パルスを印加する電極部材を入れ替えるようにすると良い。
【0036】
このような電気パルスが電極部に印加されたときの作用について、説明する。
【0037】
このような電気パルスが電極部に印加されると、電極部材の表面、特に導電性の表面を介して水中を電気が伝搬し、印加された電気パルスに応じた電界が水中に形成される。
図2にはこの電界のイメージが点線eによって表されている。
図2に示されるように、この電eは、電極部14の周囲、すなわち電極部が配置されている所定の水深領域において、水槽11の内周縁から内側に向かって膨出する領域に形成される。
【0038】
電極部14に電気パルスを印加することにより、水中に電界eが生じると、その電界eが生じている領域において水生生物1は、そこに生じている電界eに応じた刺激を感じる。この電界を生じさせる電気パルスの強度、周期、周波数等を調節することで、特に、対象となる水生生物1が嫌うタイプの刺激を与えることができる。換言すれば、水生生物1が嫌う電気刺激を与える電界が生ずるような電気パルスを電極部材に印加して、その電極部14の周囲に、水生生物1が寄りつかない領域を生じさせることができる。
【0039】
水生生物1が底部13側から水面100に向かって移動し、電界領域eに進入すると、電気的な刺激を受ける。このような刺激は、電極部14との距離が小さくなるにつれて大きくなるため、底部13側から移動してくる水生生物1は、電界領域eを縦断せずに、底部13側に戻るように電界領域から逃げる。そのため、水生生物1が水槽11の内側の水面100から側壁部12を飛び越す、すなわち水槽11の外部に飛び出すことを防止することができる。ここで、水生生物1が電界領域を縦断するとは、水生生物1が電界領域を底部13側から進入して水面100側から出ることをいう。
【0040】
このように、水生生物1に接触することなく、水生生物1が水槽11の外側に飛び出すことを防止できる。そのため、水生生物1の飛び出しに起因する、水槽11からの落下による水生生物1の死亡を抑制すると共に、水槽11内に収容される水生生物1の数の減少を抑制することができる。
【0041】
以上のように、本実施形態における飛び出し防止装置は、水槽11の内側に設けられる電極部14によって、水槽11内の所望の領域に電界領域を形成する。水生生物1が底部13側から電界領域に進入すると、水生生物1は、電界領域を縦断せずに、底部13側に戻るように電界領域を出る。そのため、水槽11の内部から外部への水生生物1の飛び出しを防止することができる。
【0042】
なお、上記の「所定の水深領域」とは、水槽、より詳しくは側壁部(又は後述する包囲部)の高さ、すなわち水槽(又は包囲部)の水深方向における長さの半分より上側(水面側)の高さの範囲(位置)を指す。この高さ/位置に電極部14が配置されていれば、水槽11内(又は包囲部内)に電極部14の高さまで水が入っているときには、電極部14は常に水深の半分より上側に配置されることになる。
【0043】
なお、本実施形態では、飛び出し防止装置10が水生生物1の飛び出しを防止することができれば、例えば水槽11内の水面100の中心部M周辺等、電界の形成されない領域が存在してもよい。電界領域は、水生生物1が水槽11の内側から水槽11の外側に飛び出すことが困難な領域に形成されれば十分だからである。水槽11内の水面100の中心部M周辺においては、たとえ水生生物1が電界の形成されない領域を通って水槽11内の水面100から飛び出たとしても、水生生物1が側壁部12を越えて水槽11の外に飛び出すことは困難である。
【0044】
また、電気パルスに起因して水生生物に与えられる刺激の強さ又は水生生物が感じる刺激の強さは、電気パルスの波高値や平均値等の強度に依存しているが、周波数等のその他のパラメータにも強く依存している。すなわち、水生生物の刺激に対する感受性には強度依存性だけでなく、周波数依存性もある。従って、水生生物に対して所望の影響を与えうる強さの刺激を得るために、印加する電気パルスの強度、周波数、周期、デューティ比等種々のパラメータを調節するとよい。また、その依存性は、水生生物のサイズ、種類等に応じて異なる。従って、誘導しようとする水生生物の感受性の依存性、例えば周波数依存性を考慮して、最も感度の高い周波数を選択すれば、比較的低い強度の電気パルスであっても、十分な強さの刺激を与えることができる。電気パルスの強度、例えば電圧値又は電流値を抑えることができれば、システム全体の消費電力を低減することができる。また、飛び出しを防止すべき水生生物への不所望な影響、例えば過大な強度の電圧/電流によるショックや、皮膚、筋肉、内臓等の損傷のような影響を最低限に抑えることができる。また、電極への電蝕等による影響も低減することができる。すなわち、飛び出しを防止すべき水生生物に対して最適なパラメータ、例えば最適な周波数等を選択することによって、より小さい強度の電界によって、十分な刺激を与えて、水生生物の飛び出しを防止することが可能になる。
【0045】
電極部14に印加される電気パルスのより具体的なパラメータは、水中の所望の領域に電界を形成することができれば、特に限定されるものではない。また、電極部14に印加される電気パルスのパラメータは、水槽の形状、水槽の大きさ、水生生物の種類、水生生物の大きさ、及び水質等に依存して決定される。例えば、電極部14に印加される電気パルスの電圧は、9V以上16V以下であることができる。また、電気パルスの周波数は、0.1kHz以上10.0kHz以下であることが好ましく、0.1kHz以上5.0kHz以下であることがより好ましく、0.5kHz以上1.5kHz以下であることがさらに好ましい。
また、電気パルスの周波数を、時間ごとに所定の周波数範囲の中で異ならせて印加することもできる。この周波数範囲としては、例えば、0.1~2.0kHz、0.5~1.5kHz、0.8~1.1kHz、0.5~1.0kHz等の範囲を適用することができる。周波数は、この周波数範囲の中を時間に応じて周期的に変化するように掃引されてもよいし、この周波数範囲の中からランダムに選択されるようにしてもよい。このように周波数を変化させて電極部14に電気パルスを印加すると、水生生物の種類や大きさによらず、飛び出しを防止することが可能になる。
同様に、電気パルスの電圧やデューティ比等の各パラメータを変化させながら、電気パルスを電極部14に印加することができる。
【0046】
例えば、水槽が波の生じない静かな水面が形成される環境であれば、電極部14は水深3cm以上5cm以下に設けられると好ましく、波の生じやすい環境の場合は、電極部14は、波の高さより深い水深に配置されることが好ましく、電極部14が水面より上に出ないように配置されると好ましい。水生生物1の飛び出しをより確実に抑制することができる。
【0047】
また、電源部50の設置数は、特に限定されるものではなく、
図1に示すように複数の電極部材に対して1つの電源部を設置してもよいし、複数の電極部材ごとに複数の電源部を設置してもよい。
【0048】
また、水槽11の深さ方向に垂直な断面の形状は、
図1に示すような正方形でもよいし、長方形、円形、楕円形等でもよい。水槽11の当該断面形状に応じて、電極部14の設置構成は適宜設定される。
【0049】
また、電極部14は、電極部材14a,14b,14c,14dを有しているが、電極部14が少なくとも2つの電極部材を有していれば、電極部14の設置構成は特に限定されるものではない。電極部材14a,14b,14c,14dのいずれか2つ又は3つを組み合わせて、電気的及び/又は構造的に連結させて一体的に構成してもよい。また、例えば、電極部材14a,14b,14c,14dをそれぞれ、2つ以上に分割してもよい。このように電極部材を多数に分割すると、水槽11内の内周の各部位において、個別に電気パルスのオンオフやパラメータを調節することができるという利点を有する。また、複数の電極部材を、(電気的には切り離したままで)構造的に連結して形成することもできる。このような構成によれば、電極部材の取り付けの作業が簡略化される、という利点を有する。さらに、上記の実施形態では電極部材14a,14b,14c,14dを同一形状としたが、異なる形状の電極装置を組み合わせることもできる。
【0050】
図4は、本実施形態における飛び出し防止装置の変形例を概略的に示す斜視図である。
図4に示すように、飛び出し防止装置10aは、
図1の飛び出し防止装置10の電極部14の代わりに、電極部114を有する。電極部114は、第1電極部材114a及び第2電極部材114bを有する。
【0051】
図4に示される第1電極部材114a及び第2電極部材114bはそれぞれ、一部が開放された略環状の形状を有しており、水槽11の内周面において、水面100に対して略平行に配置されている。この電極部材114a,114bは、その一部が少なくとも電気的に切断されている。
図4では、電極部材114a,114bが構造的にも分断されている形状を有しているが、電気的にのみ切断されて、構造的には閉じられた環状に形成されていてもよい。第1電極部材114aの下方には、第2電極部材114bが設置される。第1電極部材114a及び第2電極部材114bは、深さ方向に所定の間隔を開けて設けられており、互いに少なくとも電気的に分離している。例えば、閉じられた環状に形成された絶縁性の1つの基材の表面に第1電極部材114a及び第2電極部材114bが形成されており、電極部114が一体的に構成されていてもよい。
【0052】
電源部50を介して、電極部材114a,114bに印加される電気パルスの一例を
図5に示す。電源部50は、電極部材114a,114bにそれぞれ、
図3(a)に示したような電気パルスを、相互にタイミングをずらして印加することができる。すなわち、第1電極部材114aに
図5(a)に示す電気パルスを、第2電極部材114bに
図5(b)に示した電気パルスを印加することができる。このようにすると、第1の周期Tにおいては、第1電極部材114aがハイ状態(+側)の時に、第2電極部材114bがロー状態(-側)になり、次の周期Tにおいては、逆になる。このように、電極部材114a,114bを上下に配置し、両電極部材に交互に電気パルスを印加すると、電極部材114a,114bそれぞれの周囲に、特に両電極部材114a,114bの間に強い、電界を生じさせることができる。そうすると、
図2で模式的に示した電界eと同じように、電極部材114a,114bの周囲において、水面下の水面近傍で、水槽11の内周面から内側に向けて膨出する所定の領域に、水生生物1に刺激を与える電界eを形成させることができる。従って、水生生物はこの領域を避け、通り抜けることができなくなるため、水生生物1の水槽11外への飛び出しを防止することができる。
【0053】
また、両電極部材114a,114bに交互に電気パルスを印加するようにすると、周期Tを保ちながら、各電極部材に電圧/電流が印加される総時間(ハイ状態になる総時間)を半分にすることができるので、各電極部材114a,114bへの通電による電蝕やイオンの流出等の劣化を低減することができる。
【0054】
さらに、本実施形態では、2本の電極部材114a,114bが上下に並べられた例を示したが、より多くの電極部材が上下に配列され、各電極部材が制御部50aに電気的に接続されており、制御部50aによって、これらの多数の電極部材から所望の電極部材を選択して電気パルスを印加するようにすることもできる。その際、制御部50aは、水面100、及び/又は水生生物1の位置、水質、水槽11の形状等の要因、及び/又は、ユーザの指定に応じて、電気パルスを印加する電極部材を選択することができる。
【0055】
〔第2実施形態〕
次に、第2実施形態における飛び出し防止装置について、
図6及び
図7に基づき説明する。
図6は、本実施形態における飛び出し防止装置を示す斜視図である。
図7は、
図6の飛び出し防止装置の縦断面図である。
【0056】
本実施形態における飛び出し防止装置20では、
図1及び
図2に示すように電極部14が水槽11に直接取り付けられるのではなく、電極部14が浮き部25を介して水槽11内に配置されている点で、第1実施形態における飛び出し防止装置10と異なる。
【0057】
図6及び
図7に示すように、飛び出し防止装置20は、水槽11と、電極部14と、電源部50と、水槽11の内側に設けられる浮き部25とを有する。浮き部25は、水面100に浮くことができ、水槽11の内面に配置される。また、浮き部25は、例えば発砲ポリスチレンやバルーン等のように、水に浮くことができる部材から構成される。そして、浮き部25は、水面100に浮きながら、その下方で水面下に電極部14を保持する。
【0058】
例えば、
図7に示すように、浮き部25は、第1側壁部材12aの内面近傍に配置されると共に第1電極部材14aを保持する角柱状の第1浮き部材25aと、第2側壁部材12bの内面近傍に配置されると共に第2電極部材14bを保持する角柱状の第2浮き部材25bと、第3側壁部材12cの内面近傍に配置されると共に第3電極部材14cを保持する角柱状の第3浮き部材25cと、第4側壁部材12dの内面近傍に配置されると共に第4電極部材14dを保持する角柱状の第4浮き部材25dとを備える。そして、浮き部25は、水面100に浮きながら、電極部14の水中姿勢を維持する。例えば、浮き部25は、水面100に対して平行に延設される。
【0059】
各浮き部25は側壁部12に対して所定の位置に配置されるように、すなわち、水槽11の中心方向へ流されていってしまわないように、次のような構成を備えることができる。例えば、次のようにして、浮き部25の外側が側壁部12の内面に取り付けられる。側壁部12の内面には、深さ方向の所定の位置に不図示の係止部が設けられる。また、浮き部25の外側には、不図示の係合部が設けられる。そして、浮き部25の係合部が側壁部12の係止部に係り合うことによって、浮き部25の外側が側壁部12の内面に取り付けられる。係止部と係合部は、相互に係り合うフック状又はコネクタ状の部材として形成されていてもよい。また、側壁12と係止部との間及び/又は浮き部25と係合部との間に、チェーン又は紐状の部材が設けられていてもよい。このような構成によって、側壁部12に取り付けられた浮き部25は、水面100の下降や上昇に伴い、水面100に浮きながら、深さ方向に移動することができる。また、単に各浮き部に、アンカーのような重りを設けてもよい。
【0060】
また、
図6に示すように、電極部14は浮き部25の下方に取り付けられており、浮き部25によって支持されている。
図7に示すように、電極部14の全体は、水に完全に浸漬している。電極部14は、水と接触している浮き部25の部分である浮き部25の下半側、例えば
図7に示すように浮き部25の下部に取り付けられる。また、上述のように、浮き部25は、側壁部12に取り付けられると共に電極部14を保持する。そのため、電極部14は、水面100の下降や上昇に伴って、水に浸漬しながら、浮き部25と共に深さ方向に沿って移動することができる。
【0061】
このように、浮き部25に取り付けられる電極部14は、浮き部25と一体的に深さ方向に移動するので、電極部14は、水面100の変動に応じて深さ方向に移動する。そのため、水面100が下降や上昇をしても、電極部14によって形成される電界領域と水面100との間の深さ方向の所望の相対的な位置関係は維持される。従って水面100が変動しても、飛び出し防止装置20は、水生生物1の飛び出しを防止する効果を発揮することができる。
【0062】
なお、浮き部25が電極部14の水中姿勢を維持しながら保持することができれば、浮き部の形状、大きさ、設置数等は、特に限定されるものではなく、電極部14の大きさや設置数に応じて適宜設定してもよい。
【0063】
また、電極部14自身が、両端が閉じられた中空筒状の形状を有しており、水面に浮くように構成されていてもよい。その際、水面下に向けられるべき側の表面のみが導電性に形成されていてもよい。また、中空筒状の電極部14の上下方向の向きを定められるように、水面下に向けられるべき側の壁面の密度を高くしたり、水面下に向けられるべき側に重りを設けたりすることで、電極部14の導電性の部分が確実に水面下に配置されるように構成することができる。
【0064】
〔第3実施形態〕
次に、第3実施形態における飛び出し防止装置について、
図8及び
図9に基づき説明する。
図8は、本実施形態における飛び出し防止装置を示す斜視図である。
図9は、
図8の飛び出し防止装置の縦断面図である。
【0065】
本実施形態における飛び出し防止装置30は、
図4の第2の実施形態に示した電極部材114aと同様の形状を有する電極部材34aと、別の電極部として、水槽11の電極部材34aのさらに内側に配置された第2電極部材34bとを有する電極部34を備えている点で、第1実施形態における飛び出し防止装置10と異なる。
【0066】
図8及び
図9に示すように、飛び出し防止装置30は、水槽11と、水槽11の内周に設けられる第1電極部材34a及び第1電極部材34aのさらに内側に配置される第2電極部材34bを有する電極部34と、電極部34の第1及び第2電極部材34a,34bにのそれぞれに電気的に接続される電源部50とを有する。
【0067】
第1電極部材34aは、水槽11の側壁部12の近傍において水面下に配置されている。この第1電極部材34aは、上述した実施形態のいずれかの方法によって水槽11内に配置されることができる。例えば、
図8及び
図9に示すように、第1電極部材34aは、側壁部12の内面に取り付けられることができる。第1電極部材34aは、
図6に示す第1電極部材114aと同じ構成であり、水槽11の内周に配置されるとともに水槽11内の水面100に対して平行に設けられる。
【0068】
第2電極部材34bは、第1電極部材34aの内側に設けられ、少なくとも水面100に接触している。例えば、第2電極部材34bは、点状であり、
図9に示すように、浮き部35に保持されながら第1電極部材34aの内側に設けられることができる。
図9に示すように、第2電極部材34bは、浮き部35の下半側に取り付けられてもよい。
【0069】
浮き部35は、水面100に浮くことができる材料から構成され、水槽11の内側に設けられる。例えば、浮き部35は、円柱状であり、水槽11内の水面100の中央近傍に配置される。そして、浮き部35は、
図6に示す浮き部25と同様に、水面100に浮きながら、第2電極部材34bを保持し、第2電極部材34bの水中姿勢を維持する。そのため、浮き部35に取り付けられる第2電極部材34bは、浮き部35と一体的に深さ方向に移動する。また、浮き部35の水面100に平行な面内の動きを抑制するために、水面100に浮いている浮き部35と水槽11の底部13とをつなぐ不図示のつなぎ部材を設けてもよい。
【0070】
本実施形態において、電源部50は、外側の第1電極部材34aに、上述した
図3に示したような電気パルスを印加し(+側)、内側の第2電極部材32bは、-側(アース)にする。従って第1電極34aの周囲に前述したような、水面近傍の内周面近傍であって、水槽11の内周面から内側に向けて膨出する所定の領域に、水生生物に刺激を与える電界eを形成することができ、上述したような飛び出しを防止すべき水生生物を寄せ付けない領域を形成することができる。従って、水生生物をこのような領域に近づかせないことにより、水生生物が水槽11から飛び出すのを防ぐことが可能になる。
【0071】
以上のように、本実施形態における飛び出し防止装置は、側壁部12に設けられる第1電極部材34aと第1電極部材34aの内側に設けられる第2電極部材34bとを有する。このように、第1及び第2の電極部材34a,34bのうち、第2電極部材34bは水面に浮かせるだけで配置することができるので、電極部34の設置を容易に行うことができる。
【0072】
なお、水中の所望の領域に電界領域を形成できれば、第1電極部材34a及び第2電極部材34bの形状は、特に限定されるものではない。例えば、
図8及び9では第2電極部材34aは、点状又は円盤状の形状を有しているが、第2電極部材は、線状部材を円形又は多角形状の環状に成形して構成されていてもよい。第2電極部材34aの形状によって、第1電極部材34aと第2電極部材34bとの間の距離を変化させることができる。例えば、第2電極部材34bの外径を、水槽11の大きさに応じて変化させ、第1及び第2電極部材34a,34bの間の距離を所期のように設定することができる。両電極部材間の距離を短くすることができれば、例えば水槽11が大きい場合でも、第1電極部材に印加する電気パルスの強度を制限しつつ、必要な強さの電界を形成することができる。また、本実施形態では第2電極部材34bが1つの部材として構成された例を示したが、複数の第2電極部材が、水槽11内の異なる位置に設けられていてもよい。
【0073】
また、第2電極部材34bは、浮き部なしで、電源50に接続された配線51そのものを介して上方又は下方から支持されることもできる。この場合には、第2電極部材34bは、線状の形状を有し、水面と交差する向きに配置され、少なくとも水面付近の表面が導電性に構成されているとよい。このように構成することで、この導電性の表面の少なくとも一部が水面下に配置されれば、導電性の表面と水が接触して第2電極部材34bとして機能させることができる。
【0074】
なお、上記の第1乃至第3の実施形態において示した水槽11は、陸上に配置され、本発明に係る飛び出し防止装置の他に、水槽11内の水の水質及び酸素の量等の水生生物の生育環境を整えるための種々の装置等が設けられることができる。
【0075】
〔第4実施形態〕
次に、第4実施形態における飛び出し防止装置について、
図10及び
図11に基づき説明する。
図10は、本実施形態における飛び出し防止装置を示す斜視図である。
図11は、
図10のび出し防止装置の縦断面図である。
【0076】
本実施形態における飛び出し防止装置40は、
図1及び
図2に示すように水槽11内に設けられるのではなく、
図10及び
図11に示すように、水中に設置された囲み部42内に設けられる点で、第1実施形態における飛び出し防止装置10と異なる。なお、囲み部42は、1匹以上の水生生物1を水平方向又は横方向から包囲する包囲部として機能するものであって、包囲部の下端を覆う底蓋部を備える場合と、備えない場合がある。ただし囲み部42である包囲部は、水生生物1は通り抜けられないが、液体は透過することができる程度の大きさの網目を有する網状部材によって形成され、水中に設置される。例えば海等に網で形成される、いわゆる小割式の養殖用の生簀等である。また、水槽内を網などで区切る場合も囲み部に相当する。
【0077】
図10及び
図11に示すように、飛び出し防止装置40は、中心軸X42を取り囲むように形成された囲み部42の内側に設けられる電極部44と、電極部44に接続される電源部50とを有する。
【0078】
まず、浮き部46について説明する。
【0079】
浮き部46は、水面100に浮くことができるように構成され、下端に囲み部42を取り付けられるように、囲み部42の上端開口に対応する外形を有する。例えば、
図10及び
図11に示した例では、浮き部46は、発泡プラスチックなどの水面100に浮くことができる材料から形成されており、中実の断面略四角形の円環形状を有している。浮き部46の下端には、囲み部42が取り付けられており、浮き部46は、水面100に浮きながら、囲み部42を保持することができる。また、後述のように囲み部42が底蓋部43をさらに有する場合には、浮き部46は、水面100に浮きながら、底蓋部43も保持する。また、浮き部46は、バルーン等のように、中空状に形成されていることにより、水面100に浮くように構成されていてもよい。
【0080】
次に、囲み部42について説明する。
【0081】
囲み部42は、網状の部材からなる筒状に形成されており、例えば
図11に示すように円筒状である。囲み部42の上部開口端42aは、浮き部46の下部に取り付けられる。そして、水面100に浮いている浮き部46によって保持される囲み部42は、水中に所定の形状をある程度保った状態で水中に浮いて保持されている。囲み部42は、囲み部42の上部開口端42aが浮き部46によって水面近傍に支持され、囲み部42の下部開口端42bに向かって水面100から下方に延在する。
【0082】
このように、囲み部42は、深さ方向に亘って水中の所定の領域70(以下、内部空間70ともいう)を取り囲んで包囲する。例えば、囲み部42は、内部空間70内に1匹以上の水生生物1を取り囲むことができる。
【0083】
囲み部42は生簀用の網等から形成され、囲み部42の網目は水生生物1の大きさよりも小さい。そのため、囲み部42は、内部空間70と内部空間70の外部71(以下、外部空間71ともいう)とを水(又は液体/流体)を通過させるように連通しつつ、囲み部42を介した内部空間70と外部空間71との間の水生生物1の移動を遮る。具体的には、水は、囲み部42を通過して、内部空間70から外部空間71へ流出し、外部空間71から内部空間70へ流入する。そのため、囲み部42の内側の水面の高さと囲み部42の外側の水面の高さとは同じである。また、水生生物1は、囲み部42を通って内部空間70と外部空間71とを行き来することはできない。
【0084】
また、水生生物1が囲み部42の下端側から内部空間70と外部空間71とを行き来する場合、
図10及び
図11に示すように、囲み部42は、その下端に取り付けられる底蓋部43をさらに有してもよい。底蓋部43は、囲み部42の下部開口端42bに取り付けられ、囲み部42の下端を閉塞する。底蓋部43は、囲み部42と同様に、生簀用の網等から形成される。そのため、底蓋部43が囲み部42に設けられると、水生生物1は内部空間70と外部空間71との間の移動をすることができない。
【0085】
次に、電極部44について説明する。
【0086】
電極部44は、少なくとも2つの電極部材を有し、囲み部42の囲み部42の内側、特に内周に沿って設けられる。また、電極部44は、囲み部42の上端と下端の間の長さの半分より上側であって、水面下の所定の水深領域に設けられ、水面100と略平行に配置される。例えば、
図11に示すように、電極部44は、囲み部42の深さ方向に垂直な断面の形状に沿って湾曲している、半円状の第1電極部材44aと半円状の第2電極部材44bとを備える。
【0087】
第1電極部材44aの外側及び第2電極部材44bの外側はそれぞれ囲み部42の内面に取り付けられ、第1電極部材44a及び第2電極部材44bは互いに対向して配置される。第1電極部材44a及び第2電極部材44bは、電気的に分離されており、例えば水面100から同じ深さに設けられる。
【0088】
図1に示す電極部14と同様に、電極部44は、囲み部42の上端と下端の間の水深方向の長さの半分より、下端(底部)から遠い側、すなわち上端側に設けられる。より好ましくは、水面100から囲み部42の下端の半分の水深までの間に設けられる。さらに好ましくは、水面100から囲み部42の下端の3分の1の水深までの間に設けられる。電極部44は、好ましくは水深1m以下、より好ましくは、例えば、1cm以上、3cm以上、5cm以上、50cm以下、30cm以下、20cm以下、10cm以下、5cm以下、又はこれらを組み合わせた範囲に設けられる。水面100から電極部44までの深さが上記範囲内であると、飛び出し防止装置40は、囲み部42の外への水生生物1の飛び出しを抑制することができる。
【0089】
また、電極部44は、囲み部42を介して、浮き部46によって保持されている。そのため、電極部44は、水面100の下降や上昇に伴い、水に浸漬しながら、浮き部46及び囲み部42と共に深さ方向に沿って移動することができる。例えば、囲み部42を海中等に設置した場合には、このように電極部44が水面の変動に伴って移動することができると、潮位の変化や、波の強さによって、電極部44が水面に出てしまうことが防止できるので、より確実に水生生物が囲み部42の外に飛び出してしまうのを防ぐことができる。
【0090】
次に、電源部50について説明する。
【0091】
電源部50は、配線部51を介して電極部44に接続され、電極部44に電気パルスを印加する。電源部50は、第1電極部材44a及び第2電極部材44bに、例えば
図5に示したような電気パルスをそれぞれ印加することができる。このようにして、囲み部42の内周面から内側に向けて膨出する所定の領域に、水生生物に刺激を与える電界eを形成することができ、上述したような飛び出しを防止すべき水生生物を寄せ付けない領域を形成することができる。従って、水生生物をこのような領域に近づかせないことにより、水生生物が水槽11から飛び出すのを防ぐことが可能になる。
【0092】
また、電気パルスの各パラメータは、前述の実施形態と同様に、囲み部42の形状や大きさ、水生生物の種類や大きさ、水質等に依存して決定されることができる。また、各パラメータは時間に対して変化するよう調整されていてもよい。例えば、周波数が、所定の周波数範囲の中で周期的に又はランダムに変化してもよい。
【0093】
飛び出し防止装置40は、養殖場のように、海上等の屋外に設置される。
【0094】
次に、飛び出し防止装置40が水生生物の飛び出しを防止する流れについて説明する。
【0095】
電気パルスが電極部44に印加されると、電極部44は囲み部42に囲まれた水中の所望の領域に電界を形成する。電界は水生生物1に対して電気的なバリアとして作用する。そのため、水生生物1が囲み部42に囲まれた水面100から囲み部42の外側に飛び出すことを防止することができる。
【0096】
また、囲み部42に取り付けられる電極部44は、浮き部46及び囲み部42と一体的に深さ方向に移動するので、電極部44によって形成される電界領域と水面100との間の深さ方向の所望の相対的な位置関係は、維持される。そのため、水面100が変動しても、飛び出し防止装置40は、水生生物1の飛び出しを防止する効果を発揮することができる。
【0097】
以上のように、本実施形態における飛び出し防止装置は、囲み部42及び電極部44を保持する浮き部46を有する。そして、電極部44は、水に浸漬しながら、浮き部46及び囲み部42と共に深さ方向に沿って移動する。そのため、水面100が変動しても、水生生物1の飛び出しを抑制する効果を維持することができる。
【0098】
さらには、水は、囲み部42や底蓋部43を通って内部空間70と外部空間71とを行き来できるので、内部空間70内の水量、すなわち囲み部42の内側の領域内の水量は一定である。そのため、囲み部42の内側の領域への水の添加や領域からの水の除去等、囲み部42の内側の領域内の水量を調整することが不要である。
【0099】
なお、浮き部46が電極部44の水中姿勢を維持しながら囲み部42及び電極部44を保持することができれば、浮き部の形状、大きさ、設置数等は、特に限定されるものではない。
【0100】
また、電極部44は、第1電極部材44a及び第2電極部材44bを有しているが、電極部44が少なくとも2つの電極部材を有していれば、電極部44の設置構成は特に限定されるものではない。また、囲い部42の断面形状に応じて、電極部44の形状は適宜設定される。
【0101】
また、電極部44が水に接触していれば、
図12に示すように電極部44が囲み部42の内面に取り付けられてもよいし、電極部44が水と接触している浮き部46の部分に取り付けられてもよい。
【0102】
また、囲み部42の形状は、囲み部42の内側の空間に1匹以上の水生生物1を包囲可能であれば特に限定されるものではなく、
図11に示すように円筒状でもよいし、角筒状でもよい。
【0103】
また、本実施形態における飛び出し防止装置は、固定部をさらに有してもよい。
図12は、本実施形態における飛び出し防止装置の変形例を示す断面図である。
【0104】
図12に示すように、飛び出し防止装置は、浮き部46と、囲み部42と、電極部44と、電源部50と、囲み部42の下端に取り付けられる固定部47とを有する。固定部47は、水に沈む材料から構成され、水底101に設けられる。また、固定部47は、囲み部42の下部開口端42bの形状に沿って下部開口端42bに取り付けられる。例えば、固定部47は円環状である。
【0105】
固定部47は浮き部46の浮力では浮かずに、水底101に対する固定部47の設置状態が維持されるので、囲み部42は固定部47を介して水底101に固定される。そのため、固定部47は、飛び出し防止装置の漂流を回避することができる。また、水底101は、囲み部42に対して、
図11及び
図12に示す底蓋部43として機能する。そのため、水底101に固定された飛び出し防止装置は、底蓋部43を具備せずに、水生生物1が囲み部42の下端側から内部空間70と外部空間71とを行き来することを回避できる
【0106】
以上説明した実施形態によれば、蓋を設置しなくても、水槽や生簀のような装置から水生生物の飛び出しを防止することができる。
【0107】
以上、実施形態について詳述したが、上述した実施形態に制限されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施形態に種々の変形及び変更が可能である。また、上述した実施形態の構成の一部又は全部を他の実施形態と適宜組み合わせることができることは言うまでもない。
【0108】
本国際出願は2017年8月3日に出願された日本国特許出願2017-151082号に基づく優先権を主張するものであり、その全内容をここに援用する。
【符号の説明】
【0109】
1 水生生物
10 飛び出し防止装置
11 水槽
12 側壁部
13 底部
14 電極部
50 電源部
51 配線部
100 水面