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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-25
(45)【発行日】2023-02-02
(54)【発明の名称】魚節及び魚節の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 17/00 20160101AFI20230126BHJP
   A23B 4/00 20060101ALI20230126BHJP
【FI】
A23L17/00 A
A23B4/00 505Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021065314
(22)【出願日】2021-04-07
(65)【公開番号】P2022160846
(43)【公開日】2022-10-20
【審査請求日】2021-04-08
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-738
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-03338
(73)【特許権者】
【識別番号】000114732
【氏名又は名称】ヤマキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】桑田 光作
(72)【発明者】
【氏名】来島 壮
(72)【発明者】
【氏名】都倉 孝之
(72)【発明者】
【氏名】井上 岳人
(72)【発明者】
【氏名】稲田 明宏
(72)【発明者】
【氏名】河野 竜一
【審査官】山村 周平
(56)【参考文献】
【文献】特許第7057002(JP,B1)
【文献】特開2016-082930(JP,A)
【文献】特開2010-273548(JP,A)
【文献】特開2004-041015(JP,A)
【文献】特開2021-048830(JP,A)
【文献】特開2010-273550(JP,A)
【文献】特開昭62-091140(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00-35/00
A23B 4/00-4/32
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、ユーロチウム属(Eurotium属)菌によるカビ付けにより魚節の乳酸含有量を制御する方法:
原料荒節又は裸節の乳酸含有量から低減する乳酸低減量を決定する工程;及び
前記乳酸低減量に応じて、原料荒節又は裸節の質量とカビ付け期間を制御する工程。
【請求項2】
ユーロチウム属(Eurotium属)菌を含有する魚節の乳酸低減剤。
【請求項3】
ユーロチウム属(Eurotium属)菌を用いて得られるカビ付け魚節であって、
該魚節に占める乳酸含有量が、2800mg/100g以下であり、
水分量が15~24質量%であり、かつ
乳酸含有量に対するイノシン酸ナトリウム含有量(イノシン酸ナトリウム含有量/乳酸含有量)が、質量部比率で0.3以上である魚節。
【請求項4】
前記ユーロチウム属(Eurotium属)菌が、以下の特性を有する、請求項3に記載の魚節:
裸節上における乳酸デヒドロゲナーゼ活性/M40Y上での乳酸デヒドロゲナーゼ活性が0.9以上。
【請求項5】
質量が115g以下である、請求項3又は4に記載の魚節。
【請求項6】
請求項3~5のいずれかに記載のカビ付け魚節を製造する方法であって:
原料魚を凍結する工程;
該原料魚を解凍する工程;
荒節又は裸節を製造する工程;及び
該荒節又は裸節にユーロチウム属(Eurotium属)菌によるカビ付けをする工程;
を含み、
ここで、該ユーロチウム属(Eurotium属)菌は、裸節上における乳酸デヒドロゲナーゼ活性/M40Y上での乳酸デヒドロゲナーゼ活性が0.9以上の特性を有する、製造方法。
【請求項7】
前記原料魚の質量が、1.8kg以下である、請求項6に記載の魚節の製造方法。
【請求項8】
前記カビ付けをする工程に供される荒節又は裸節の質量が、115g以下である、請求項6又は7に記載の魚節の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚節及び魚節の製造方法に関する。さらに詳細には、本発明は、乳酸含有量が制御された魚節、そのような魚節の製造方法、及び魚節の乳酸含有量を制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
魚節の製造では、まき網や竿釣で捕獲された原料魚(かつお、宗田かつお、さば、いわし、ムロあじ、まぐろなど)が用いられる。近年は、捕獲後に船上でブライン凍結等によって処理された冷凍魚や、陸揚げ後に凍結された冷凍魚も原料魚として使用される。魚は、冷凍されていない場合はそのまま、冷凍魚の場合は解凍してから、魚節の製造に供される。魚節の製造では、魚の頭や内臓を除去し、煮熟し、場合によっては骨を除去して、焙乾する。このようにして得られた魚節を「荒節」と呼ぶ。さらに、場合によって荒節の表面に付着した燻煙成分を研磨機などによって取除き裸節とすることができる。荒節や裸節にカビを接種して、魚節上でカビを増殖させる「カビ付け」を2回以上繰り返した魚節を「枯節」と呼ぶ。
【0003】
荒節が枯節に加工されることで、枯節は荒節に比べて水分や脂肪分が少なく、香りとしては、燻煙臭や生臭臭が少なく特有の香気が付与され、旨味が強く上品な風味になると言われている。
【0004】
魚節は調味料の原料として使用される(例えば、特許文献1)。しかしながら、魚節の味は変動することも多い。魚節に乳酸が豊富に含まれることでエキス分が高まりコクが強化されるとの知見もある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-201362号公報
【文献】特開2016-082930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
魚節の味はばらつきが大きく、偶発的な要因で変動するとも考えられておりその調整は困難である。
本発明の課題は、味に影響があると考えられる乳酸含有量を制御した魚節やその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
味の変動が大きい魚節を調味料の原料として用いる際に、旨味物質量を魚節だけで賄えない場合は、イノシン酸ナトリウムなどの旨味調味料を使用することで呈味制御が可能である。これに対して、魚節由来の乳酸量が多過ぎる場合には、乳酸に起因するような呈味の制御は困難であり、このような点で、魚節中の乳酸量の制御は大変重要であると考えられる。
【0008】
一方、魚節だしを含有する食品を、旨味調味料を使用せずに制御しようとする場合などでは、もともとイノシン酸ナトリウム含有量が豊富で、かつ乳酸含有量が制御されている魚節を使用することが好ましい。
【0009】
本発明者らは、このように、まず、乳酸含有量が、魚節の風味、特に酸味に影響を与えることに着目し、鋭意検討の結果、魚節の乳酸含有量がカビ付け工程によって低減されることを見出し、このような知見に基づき、本発明の1つの態様を完成させた。
【0010】
さらに、本発明者らは、場合によって魚節中のイノシン酸ナトリウムの量も重要な要素となることに鑑み、本発明の別の1つの態様を完成させた。
【0011】
本発明は、次の各項に記載の態様を含む。
項1.
以下の工程を含む、ユーロチウム属(Eurotium属)菌によるカビ付けにより魚節の乳酸含有量を制御する方法:
原料荒節又は裸節の乳酸含有量から低減する乳酸低減量を決定する工程;及び
前記乳酸低減量に応じて、原料荒節又は裸節の質量とカビ付け期間を制御する工程。
項2.
ユーロチウム属(Eurotium属)菌を含有する魚節の乳酸低減剤。
項3.
ユーロチウム属(Eurotium属)菌を用いて得られるカビ付け魚節であって、
該魚節に占める乳酸含有量が、2800mg/100g以下であり、
水分量が15~24質量%であり、かつ
乳酸含有量に対するイノシン酸ナトリウム含有量(イノシン酸ナトリウム含有量/乳酸含有量)が、質量部比率で0.3以上である魚節。
項4.
前記ユーロチウム属(Eurotium属)菌が、以下の特性を有する、項3に記載の魚節:
裸節上における乳酸デヒドロゲナーゼ活性/M40Y上での乳酸デヒドロゲナーゼ活性が0.9以上。
項5.
質量が115g以下である、項3又は4に記載の魚節。
項6.
項3~5のいずれかに記載のカビ付け魚節を製造する方法であって:
原料魚を凍結する工程;
該原料魚を解凍する工程;
荒節又は裸節を製造する工程;及び
該荒節又は裸節にユーロチウム属(Eurotium属)菌によるカビ付けをする工程;
を含み、
ここで、該ユーロチウム属(Eurotium属)菌は、裸節上における乳酸デヒドロゲナーゼ活性/M40Y上での乳酸デヒドロゲナーゼ活性が0.9以上の特性を有する、製造方法。
項7.
前記原料魚の質量が、1.8kg以下である、項6に記載の魚節の製造方法。
項8.
前記カビ付けをする工程に供される荒節又は裸節の質量が、115g以下である、項6又は7に記載の魚節の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、魚節の乳酸含有量を制御することができる。さらに所望の乳酸含有量を有する魚節及びその製造方法の提供が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(水分)
本明細書において、「水分」とは、魚節を切削して得た厚削り、または魚節を目開き5mmの篩を通過するように粉砕して得た粗粉砕物を、「削りぶしの日本農林規格」(平成25年11月12日改正農林水産省告示第2770号)6条に規定する「水分」の「測定方法」に従って測定して得られる値を指す。
【0014】
(乳酸含有量)
本明細書において、「乳酸含有量」とは、「日本食品標準成分表2015年版(七訂)分析マニュアル」の第6章「炭水化物及び有機酸」に記載のHPLC法に準じて分析した値である。なお乳酸含有量は、水分15質量%含有換算値(mg/100g)で表わす。
【0015】
(イノシン酸ナトリウム含有量 )
本明細書において、「イノシン酸ナトリウム含有量」とは、魚節を目開き850μm の篩を通過するように粉砕機で粉砕して得られた魚節粉末50gを蒸留水1000mLで99-100℃で15分間抽出して得られた抽出液について、HPLC法(カラム:MCI GEL CDR-10,φ4.6mm×250mm(三菱ケミカル社製)、移動相:1M 酢酸アンモニウム緩衝液(pH3.3)、流速:1.5mL/分、カラム温度:60℃、検出波長:260nm、標品試薬:5′-イノシン酸二ナトリウム塩水和物(Sigma-Aldrich社製))にて分析した値から、魚節100g(水分15質量%含有換算)あたりの5’-イノシン酸二ナトリウム塩水和物(mg)として求めた値である。なおイノシン酸ナトリウム含有量は、水分15質量%含有換算値(mg/100g)で表わす。
【0016】
(魚節の種類)
本明細書において、「魚節」とは、枯節、荒節、又は裸節を包含し、カビ付けした節も含む。ここで、魚種は限定されず、鰹節、宗田鰹節、鮪節、鯖節、鯵節、鰯節、鮭節が含まれる。カビ付け魚節は、枯節又は本枯節であっても良いが、枯節でなくても良い。
【0017】
(荒節又は裸節)
本発明において、荒節をそのままカビ付けに供することができる。さらに、荒節の表面部分を研磨等によって除去して裸節にした後にカビ付けに供しても良い。本発明では限定はされないが、裸節を用いることが好ましい。ここで、荒節の製造方法は特に限定はされず、常法にて行うことができる。すなわち、限定はされないが典型的には以下の方法がある。
【0018】
捕獲後に冷凍された原料魚を解凍後、生切りし、頭と内蔵を取り除き、3枚におろし、おろした身はそれぞれ身割りし半分にする。おろしたかつおの身を篭に入れ、熱湯につけ、煮熟し、熱湯につけた後は放冷し、なまり節(生利節)を製造する。その後、骨抜きを行い、焙乾工程を経て、荒節を製造することができる。
【0019】
(魚節の水分調節方法)
本発明において、魚節の水分調節方法は、限定はされず、魚節を水や水溶液に浸漬する方法、魚節に水や水溶液を噴霧する方法などが例示される。魚節へ所望の量の水分が吸水されれば、いずれの方法を採用してもよい。
【0020】
(荒節又は裸節の質量調整方法)
本発明において、荒節又は裸節の質量調整の方法は、限定はされず、例えば、節を調製後に、切断機、破砕機、又は粉砕機などを用いて切り、質量を調整することができる。あるいはまた、荒節を製造する過程において、例えば生魚の切断や煮熟後の魚の切断等によって、質量調整が可能となる。切断は、例えば、パイプカッター又はカッターミル等を使用して行うことができる。
【0021】
(カビ付け用カビ)
本発明に用いられるカビ付け用カビとしては、ユーロチウム属(Eurotium属)菌が使用される。限定はされないが、例えば、Eurotium repens、Eurotium rubrum、Eurotium herbariorum、Eurotium umbrosum、Eurotium amstelodami等を用いることができる。いずれの種由来でも用いることができるが、好ましくは、裸節上における乳酸デヒドロゲナーゼ活性/M40Y上での乳酸デヒドロゲナーゼ活性の比率が0.9以上の株を選択して使用する。より好ましくはこの比率が、1以上10以下の株である。具体的には、限定はされないが、例えば、ユーロチウム・ルーペンス(Eurotium repens)YM-1418(寄託番号NITE P-738、以下、YM1418という)、ユーロチウム・ルブラム(Eurotium rubrum)YM-1478(寄託番号NITE P-03338、以下、YM1478という)、従来の鰹節の製造に広く用いられるカビ菌株(以下、従来菌株という)、ユーロチウム・ヘルバリオラム(Eurotium herbariorum)JCM1575((独)理化学研究所バイオリソースセンターより入手、以下、JCM1575という)が用いられ得るが、特に好ましくは、YM1418、YM1478、又は従来菌株を用いることができる。
【0022】
ここで、裸節上で増殖したユーロチウム属菌の乳酸デヒドロゲナーゼ活性/M40Y上で増殖した同ユーロチウム属菌の乳酸デヒドロゲナーゼ活性は、以下のようにして求めた。カビ付け用のカビとしてYM1418を例に説明するが、他のカビについても同様である。
まき網で捕獲され船舶にてブライン凍結された質量2.5kgの冷凍カツオを、水温を調節した水中で12時間かけて、魚の中心温度が-4℃以上0℃以下の範囲になるように解凍し、得られたカツオを原料魚として常法で鰹荒節を製造した。この鰹荒節について、表面部を略均等に5質量%研磨し表面部を除去して、1本あたりの質量が150gの裸節を得た。この裸節の水分は19.0%、脂質は3.5%、乳酸含有量は3410mg/100g、イノシン酸含有量は818mg/100gであった。
【0023】
この裸節にカビ液を噴霧してカビを接種した。カビ液は次のように調整した。M40Y培地(φ8.8cm、深さ1.8cmのシャーレ使用)に、一白金線量のカビ(YM1418)胞子を接種し、25℃で10日間、静置培養した。培養後、培地に、滅菌した0.85%(w/v)塩化ナトリウム水溶液(0.05%(w/v Tween80含有)を添加し、コンラージ棒で胞子を回収し、カビ懸濁液を得た。懸濁液を滅菌水で希釈し、胞子数を2×10個/mL濃度に調整したカビ液を得た。
【0024】
このカビ液へ、ただちに上記の裸節(1本あたり150g)を浸漬して、裸節1本あたりカビ液を7.5mL付着させることで、胞子を1.5×10個(裸節1本あたり)接種した。またこの浸漬作業でカビ接種直後の裸節の水分は22.9%になった。
【0025】
このようにカビを接種した裸節を25℃、湿度85%下に14日間静置して裸節上でカビを増殖させ、節上で増殖したカビをナイロン刷毛とスパーテルで丁寧に回収して、裸節上で増殖したカビとした。
【0026】
回収したカビ15mgを2mL容のエッペンチューブへ入れ、0.5w/v%NaCl10mM酢酸緩衝液(pH5.0)600μLとガラスビーズ(φ1mm)150mgを加えてボルテックスし、12000rpmにて6分間遠心分離して上清を得、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)活性をCytotoxicity LDH Assay Kit-WST(同仁化学研究所製)を用いて測定(units/mg(カビ質量))して、裸節上で増殖したYM1418のLDH活性(units/mg(カビ質量))を求めた。
【0027】
一方、M40Y培地(φ8.8cm、深さ1.8cmのシャーレ使用)に、一白金線量のカビ(YM1418)胞子を接種し、25℃で14日間、静置培養し、培地上で増殖したカビをナイロン刷毛とスパーテルで丁寧に回収して、M40Y上で増殖したカビとした。回収したカビについて、裸節におけるカビのLDH測定方法と同様の方法でLDH活性を測定し、M40Y上で増殖したYM1418のLDH活性(units/mg(カビ質量))を求めた。
【0028】
その後、裸節上で増殖したYM1418のLDH活性の、M40Y上で増殖したYM1418のLDH活性に対する比を求めて、YM1418のLDH活性比を求めた。
【0029】
〔乳酸含有量の制御方法〕
本発明は、以下の工程を含む、ユーロチウム属菌によるカビ付けにより魚節の乳酸含有量を制御する方法に関する。
すなわち、原料となる荒節又は裸節の乳酸含有量から低減する乳酸低減量を決定する工程;及び
前記乳酸低減量に応じて、カビ付け期間を制御する工程を含む。
原料となる荒節又は裸節の乳酸含有量から低減する乳酸低減量の決定は、原料となる荒節又は裸節の乳酸含有量を測定する測定工程;及び目標とする乳酸含有量と前記測定工程で得た乳酸含有量の差を求めて決定することが可能である。
ここで、原料荒節又は裸節の質量は所定の範囲であることが好ましく、原料荒節又は裸節を所定の範囲の質量とするように制御することもできる。
【0030】
乳酸を定量的に低減する実際の手順としては、限定はされないが、具体的には以下が例示される。
(1)公知のいずれかの方法で得られる荒節又は裸節の水分と乳酸含有量を測定する。
(2)目標とする乳酸含有量と、(1)で得た実際の乳酸含有量の差を求め、目標乳酸低減量を決定する。
(3)(2)で決定した目標乳酸低減量に応じて、荒節又は裸節の質量と、カビ付け期間(日)を表1から決定する。
【表1】
【0031】
(4)荒節又は裸節を15~21%の範囲に入るように水分調節する(この範囲に入っている場合は省略)。
(5)(3)の表1から得られる質量の範囲に入るように荒節又は裸節の質量を調整する(この範囲に入っている場合は省略)。
(6)胞子濃度が1×10~5×10個/mLのカビ液(好ましくは胞子濃度1×10~4×10個/mLのカビ液)を噴霧して、カビを荒節又は裸節へ接種する。カビ液の付着量は、節100gあたり1~6.5mL(好ましくは2~5mL)付着させる。これによって、節の水分は16~26%に調整される。
(7)(3)で決定した日数に渡ってカビ付けを行う。
(7-1)カビ付け期間中のカビ付け庫の温度は、好ましくは20~30℃程度に保ち、表1のカビ付け期間経過直後の魚節の水分が15~24%になるように、カビ付け中の湿度を50~99%に調節して、カビ付けを行う。
ここで、対象とする魚節の乳酸の初期値が1300mg/100未満であり、魚節質量が10g以上60g未満の節を対象とする場合は、表1の(ロ)に従ってカビ付けし、乳酸量がほぼ0mg/100gの魚節を得ることができる。
なお、カビ付け期間の間に乾燥工程を挟んでも良いが乾燥工程がなくても良い。乾燥は乾燥機による乾燥でも、天日干による乾燥でも良い。乾燥工程は温度30℃~80 ℃になるように行う。天日干の場合の温度管理は成り行きで行う。乾燥工程が入る場合、乾燥工程は、限定はされないが、好ましくは1~5回、より好ましくは2~4回行う。乾燥工程の1回あたりの時間は、限定はされないが、好ましくは1~5時間、より好ましくは、2~4時間行う。
【0032】
〔魚節の乳酸低減剤〕
本発明はまた、ユーロチウム属菌を含有する魚節の乳酸低減剤をも包含する。本発明の魚節の乳酸低減剤において、ユーロチウム属菌の種類、乳酸低減剤としての使用方法等については、前記魚節の乳酸含有量を制御する方法で記載した内容に準じる。
【0033】
〔魚節〕
本発明の別の態様ではまた、ユーロチウム属菌のカビを用いて、以下の特性を示す魚節が得られる。
該魚節に占める乳酸含有量が、2800mg/100g以下であり、
水分量が15~24質量%であり、
乳酸含有量に対するイノシン酸ナトリウム含有量(イノシン酸ナトリウム含有量/乳酸含有量)が、質量部比率で0.3以上である。
【0034】
(乳酸含有量)
本発明のカビ付け魚節に占める乳酸含有量は、2800mg/100g以下であり、好ましくは、2700mg/100g以下であり、より好ましくは、2500mg/100g以下であり、さらに好ましくは、2000mg/100g以下、場合によって1600mg/100g以下、1000mg/100g以下、とすることもできる。乳酸量がほぼ0mg/100gの魚節とすることもできる。乳酸量は、所望により、50~2800mg/100g、500~2700mg/100g、1000~2500mg/100g程度とすることもできる。
【0035】
この値は、通常の鰹荒節の乳酸含有量が、3200~3300/100g程度(例えば、特開2016-82930号公報表2の比較例平均値)と見積もられることから、荒節よりも乳酸の影響がより少ないと感じさせるために必要な値と考えられた。一般的に、ウェーバー・フェヒナーの法則に基づき、人間は1.2倍の濃度差で味の差を感じることができるとされている。そこで仮に、通常より1/1.2倍以下の乳酸含有量と仮定すると、2750mg/100g(3300/1.2)以下、さらには、2640(3300/1.25)以下とすることもできる。場合によってはさらに乳酸含有量を低減することもできる。
【0036】
(質量)
本発明のカビ付け魚節の質量は115g以下であることが好ましく、用途等に応じて、60g以上115g以下、10g以上60g未満、1g以上10g未満、0.01g以上1g未満など、いずれの質量とすることもできる。
【0037】
(水分量)
本発明のカビ付け魚節水分量は、15~24質量%であり、好ましくは16~23質量%である。
【0038】
(イノシン酸ナトリウム含有量)
本発明のカビ付け魚節におけるイノシン酸ナトリウム含有量は、650~700mg/100g程度の通常範囲の値であっても良い(例えば、市販かつお削りぶし「氷温熟成かつおマイルド削り」(ヤマキ株製)商品裏面記載値)。しかし、上述のとおり、ウェーバー・フェヒナーの 法則に基づき、一般的に人間は1.2倍の濃度差で味の差を感じることができるとされていることから、一般的な荒節よりも強く旨味を感じるために、イノシン酸ナトリウム含有量が少なくとも780~840mg/100g(650×1.2~700×1.2)程度、あるいは840mg/100g以上とすることも好ましく、より好ましくは812~875mg/100g(650×1.25~700×1.25)程度、あるいは875mg/100g以上とすることができる。イノシン酸ナトリウム含有量の上限は限定はされないが、好ましくは、1500mg/100g以下、より好ましくは、1300mg/100g以下とすることができる。
【0039】
本発明のカビ付け魚節乳酸含有量に対するイノシン酸ナトリウム含有量(イノシン酸ナトリウム含有量/乳酸含有量)は、質量部比率で0.3以上であり、好ましくは0.3以上0.7以下である。
【0040】
〔魚節の製造方法〕
本発明のカビ付け魚節は、乳酸含有量が、2800mg/100g以下であり、水分量が15~24質量%であり、乳酸含有量に対するイノシン酸ナトリウム含有量(イノシン酸ナトリウム含有量/乳酸含有量)が、質量部比率で0.3以上のカビ付け魚節であり得る。本発明においては、このようなカビ付け魚節の製造方法を提供することができる。本発明の魚節の製造方法は以下の工程を含む。
原料魚を凍結する工程;
該魚を解凍する工程;
荒節又は裸節を製造する工程;
ユーロチウム属(Eurotium属)菌によるカビ付けをする工程;
ここで、該ユーロチウム属菌は、裸節上における乳酸デヒドロゲナーゼ活性/M40Y上での乳酸デヒドロゲナーゼ活性が0.9以上の特性を有する。
【0041】
ここで、捕獲する原料魚の質量は、1.8kg以下であることが好ましく、1.5kg以下であることがより好ましい。原料魚の質量は、0.5kg~1.8kgであり得る。また、ユーロチウム属(Eurotium属)菌によるカビ付けをする工程に供される荒節又は裸節の質量は、115g以下であることが好ましい。
【0042】
限定はされないが、原料魚の凍結については、船舶にてブライン凍結したのちに-60℃以上-20℃以下で保存する態様が好ましい。原料魚の解凍は、好ましくは、-5℃以上0℃以下の温度範囲で8時間~20時間の間行う。ここで、予め乳酸含有量は、3350mg/100g以下となることが好ましい。
さらに、カビ付け条件については、上記表1の条件に従うことができる。
【0043】
ここで、本発明のカビ付け魚節の製造方法によって得られる魚節の乳酸含有量、イノシン酸含有量、乳酸含有量に対するイノシン酸ナトリウム含有量(イノシン酸ナトリウム含有量/乳酸含有量)、その他の条件は、上記〔魚節〕の項で記載した内容に準じる。
【実施例
【0044】
次に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0045】
カビ付け用のユーロチウム属の複数の株について、乳酸デヒドロゲナーゼ活性を測定した。
鰹荒節から調整した裸節を使用して、裸節上における乳酸デヒドロゲナーゼ活性/M40Y上での乳酸デヒドロゲナーゼ活性を測定したところ、以下の結果であった。
【表2】
【0046】
(実施例1)
(1)まき網で捕獲され船舶にてブライン凍結された質量約1.7kgの冷凍カツオを、水温を調節した水中で12時間かけて、魚の中心温度が-4℃以上0℃以下の範囲になるように解凍し、得られたカツオを原料魚として常法で鰹荒節を製造した。この鰹荒節について、両頭グラインダーを用いて鰹荒節の表面部を略均等に5質量%程度研磨し、表面部を除去して、1本あたりの質量が107.5gの裸節を得た。この裸節の水分は16.8%、乳酸含有量は3119mg/100gであった。
(2)次に、目的とする乳酸含有量と(1)で得た乳酸含有量の差を求め、乳酸の低減量を決定した。製造しようとするカビ付け魚節の目標乳酸含有量は2260mg/100gとした。(1)で求めた乳酸含有量との差を求めたところ、乳酸の目標低減量として859mg/100gと判明した。
(3)次に、(2)で決定した乳酸の目標低減量に応じて、裸節の質量(1片あたり質量(g))と、カビ付け期間(日)を表1に従って決定した。その結果、裸節の大きさ(細断後の1片あたりの質量(g))は、60g以上115g以下であり、カビ付け期間(日)は、35日間以上41日間以下と把握された。
(4)次に、(1)で取得した裸節の水分量を確認したところ、15~21%の範囲に入っていたため、加水は省略した。
(5)次に、(1)で取得した裸節の質量を確認したところ、質量は107.5gであり、(3)で決定した質量の範囲内であったため、裸節の細断処理は省略した。
(6)次に、接種用のカビ液を調節し、これを噴霧して、カビを魚節へ接種した。カビはYM1418を用いた。カビ液の胞子濃度は、4×10個/mLとなるように調整し、接種用カビ液とした。接種用カビ液を、魚節100gあたり約5mL噴霧して、接種した。この処理直後の魚節の水分は20.7%になった。
(7)次に、カビ付けを35日間行った。カビ付け庫は、温度を25~30℃に保ち、カビ付け終了時の魚節の水分が16.1%になるように湿度を85~99%に調節した。
(8)カビ付け開始14日目、21日目、28日目に3時間ずつ熱風乾燥処理を行った。乾燥機の温度設定は60℃とした。その後速やかにカビ付け庫へ戻した。
(9)35日目に回収し、得られたかび付け魚節の乳酸含有量を測定したところ、2254mg/100gであり、乳酸865mg/100gの低減を認め、目的の乳酸含有量の魚節を得ることができた。
【0047】
(実施例2~4、参考例1~3)
実施例1と同様の方法で、乳酸含有量の制御を行った。但し、それぞれの条件については、表3に記載の通りである。また、実施例2~4は、0.5kg以上4.5kg未満の原料魚を使用した。
【0048】
まず、目標乳酸低減量を850mg/100g以上1300mg/100g未満として設計した。
【表3】
【0049】
この結果、表1の(イ)に従って調整することで実施例1~4に示す通り、目標乳酸低減量を達成できることが示された。一方、質量調整を行わなかった参考例1~2、及び、JCM1575を用いた参考例3では、乳酸は低減されてはいるものの、目標値には届かなかった。
【0050】
(実施例5~10、参考例4~6)
実施例1~4と同様の方法で、乳酸含有量の制御を行った。但し、それぞれの条件については、表4に記載の通りである。
【0051】
まず、目標乳酸低減量を1300mg/100g以上2100mg/100g未満として設計した。
【0052】
【表4】
【0053】
この結果、表1の(ロ)に従って調整することで実施例5~10に示す通り、目標乳酸低減量を達成できることが示された。一方、質量調整を行わなかった参考例4~6では、乳酸は低減されてはいるものの、目標値には届かなかった。
【0054】
(実施例11~14、参考例7~8)
実施例1~4と同様の方法で、乳酸含有量の制御を行った。但し、それぞれの条件については、表5に記載の通りである。
【0055】
目標乳酸低減量を2100mg/100g以上2900mg/100g未満として設計した。
【表5】
【0056】
この結果、表1の(ハ)に従って調整することで実施例11~14に示す通り、目標乳酸低減量を達成できることが示された。一方、質量調整について(ハ)に従わなかった参考例7~8では、乳酸は低減されてはいるものの、目標値には届かなかった。
【0057】
(実施例15~19、参考例9~10)
実施例1~4と同様の方法で、乳酸含有量の制御を行った。但し、それぞれの条件については、表6に記載の通りである。
【0058】
目標乳酸低減量を2900mg/100g以上3700mg/100g未満として設計した。
【0059】
【表6】
【0060】
この結果、表1の(ニ)に従って調整することで実施例15~19に示す通り、目標乳酸低減量を達成できることが示された。一方、JCM1575を用いた参考例9及び質量調整について(ニ)に従わなかった参考例10では、乳酸は低減されてはいるものの、目標値には届かなかった。
【0061】
(実施例20~23、参考例11~13)
次に、鰹荒節の製造にあたって、魚体全体の質量が1.8kg以下、又は1.8kg超であり、ブライン凍結処理を行った原料魚を用いた例を表7に示す。実施例1と同様の方法で、乳酸含有量の制御を行った。但し、それぞれの条件については、表7に記載の通りである。
【0062】
目標乳酸低減量を850mg/100g以上1300mg/100g未満として設計した。
【0063】
【表7】
【0064】
この結果、表1の(イ)に従って調整することで実施例20~23に示す通り、目標乳酸低減量を達成できることが示された。一方、質量調整について(イ)に従わなかった参考例12~13では、乳酸は低減されてはいるものの、目標値には届かなかった。未凍結の原料魚を用いた参考例11では、乳酸の低減はされているものの、イノシン酸ナトリウム含有量/乳酸含有量の比率が0.098となり、調味料として用いることができるような魚節の調製はできなかった。
【0065】
(実施例24~25、参考例14~15)
次に、魚節の製造にあたって、鰹以外の原料魚で、実施例1~4と同様の方法で、乳酸含有量の制御を行った。但し、それぞれの条件については、表8に記載の通りである。
【0066】
目標乳酸低減量を1300mg/100g以上2100mg/100g未満として設計した。
【0067】
【表8】
【0068】
この結果、表1の(ロ)に従って調整することで実施例24~25に示す通り、目標乳酸低減量を達成できることが示された。一方、質量調整について(ロ)に従わなかった参考例12~13では、乳酸は低減されてはいるものの、目標値には届かなかった。