(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-25
(45)【発行日】2023-02-02
(54)【発明の名称】ガス膜および燃料電池の用途のためのプロトン伝導性二次元非晶質炭素フィルム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/1004 20160101AFI20230126BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20230126BHJP
H01M 8/1016 20160101ALI20230126BHJP
H01M 8/1023 20160101ALI20230126BHJP
H01M 8/1039 20160101ALI20230126BHJP
C01B 32/00 20170101ALI20230126BHJP
【FI】
H01M8/1004
H01M8/10 101
H01M8/1016
H01M8/1023
H01M8/1039
C01B32/00
(21)【出願番号】P 2021505189
(86)(22)【出願日】2019-07-30
(86)【国際出願番号】 SG2019050373
(87)【国際公開番号】W WO2020027728
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2022-07-13
(32)【優先日】2018-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517435434
【氏名又は名称】ナショナル ユニバーシティー オブ シンガポール
【氏名又は名称原語表記】National University of Singapore
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エジルマズ、バルバロス
(72)【発明者】
【氏名】アンデルセン、ヘンリック
(72)【発明者】
【氏名】トー、チー タット
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0111180(US,A1)
【文献】特開2005-203216(JP,A)
【文献】特開2007-265916(JP,A)
【文献】特開2011-142082(JP,A)
【文献】Jin Zhao et al.,Synthesis of large-scale undoped and nitrogen-doped amorphous graphene on MgO substrate by chemical vapor deposition,Journal of Materials Chemistry,RSC Publishing,2012年10月07日,Vol.22 No.37,pp.19679-19683
【文献】Samantha Mattioli et al.,Nanostructured Polystyrene Films Engineered by Plasma Processes: Surface Characterization and Stem Cell Interaction,Journal of Applied Polymer Science,Wiley Periodicals, Inc.,2014年07月15日,Vol.131,pp.40427(1-10)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86- 4/98
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極触媒集合体と、
二次元(2D)非晶質炭素と、
プロトン交換膜
を含み、前記2D非晶質炭素が0.8以下の結晶化度(C)を有
するフィルムであり、
前記2D非晶質炭素が前記電極触媒集合体と前記プロトン交換膜との間に配置される、燃料電池。
【請求項2】
前記2D非晶質炭素が0.01~1000
Ω・cm(両端を含む)の抵抗率を有する、請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
前記電極触媒集合体が複数の電極触媒集合体を含み、
前記プロトン交換膜が前記複数の電極触媒集合体の間に配置され、かつ、前記2D非晶質炭素がそれぞれの電極触媒集合体と前記プロトン交換膜との間に配置される、請求項1に記載の燃料電池。
【請求項4】
前記電極触媒集合体が複数の電極触媒集合体を含み、
前記プロトン交換膜が複数のプロトン交換膜を含み、
前記2D非晶質炭素が前記複数のプロトン交換膜の間に配置され、かつ、前記複数のプロトン交換膜が前記複数の電極触媒集合体の間に配置される、請求項1に記載の燃料電池。
【請求項5】
前記プロトン交換膜がフルオロポリマーである、請求項1に記載の燃料電池。
【請求項6】
前記フルオロポリマーがNafion(登録商標)である、請求項
5に記載の燃料電池。
【請求項7】
アノード集合体及びカソード集合体と、
非六角形炭素環および六角形炭素環からなる原子構造を有する二次元(2D)非晶質炭素と
を含み、前記六角形炭素環の前記非六角形炭素環に対する比率が1.0未満であり、
前記2D非晶質炭素が1未満の結晶化度(C)を有し、かつ、sp
3/sp
2結合比が0.2以下であ
り、
前記2D非晶質炭素がフィルムであり、かつ、前記アノード集合体と前記カソード集合体の間に配置されている、燃料電池。
【請求項8】
前記2D非晶質炭素が0.01~1000
Ω・cm(両端を含む)の抵抗率を有する、請求項
7に記載の燃料電池。
【請求項9】
電極触媒集合体と
非六角形炭素環および六角形炭素環からなる原子構造を有する二次元(2D)非晶質炭素と、
プロトン交換膜と
を含み、前記六角形炭素環の前記非六角形炭素環に対する比率が1.0未満であり、
前記2D非晶質炭素が1未満の結晶化度(C)を有し、かつ、sp
3
/sp
2
結合比が0.2以下であり、
前記2D非晶質炭素がフィルムであり、かつ、前記電極触媒集合体と前記プロトン交換膜の間に配置されている、燃料電池。
【請求項10】
電極触媒集合体と
非六角形炭素環および六角形炭素環からなる原子構造を有する二次元(2D)非晶質炭素と、
プロトン交換膜と
を含み、前記六角形炭素環の前記非六角形炭素環に対する比率が1.0未満であり、
前記2D非晶質炭素が1未満の結晶化度(C)を有し、かつ、sp
3
/sp
2
結合比が0.2以下であり、
前記2D非晶質炭素がフィルムであり、
前記電極触媒集合体が複数の電極触媒集合体を含み、
前記プロトン交換膜が前記複数の電極触媒集合体の間に配置され、かつ、前記2D非晶質炭素がそれぞれの電極触媒集合体と前記プロトン交換膜との間に配置される
、燃料電池。
【請求項11】
電極触媒集合体と
非六角形炭素環および六角形炭素環からなる原子構造を有する二次元(2D)非晶質炭素と、
プロトン交換膜と
を含み、前記六角形炭素環の前記非六角形炭素環に対する比率が1.0未満であり、
前記2D非晶質炭素が1未満の結晶化度(C)を有し、かつ、sp
3
/sp
2
結合比が0.2以下であり、
前記2D非晶質炭素がフィルムであり、
前記電極触媒集合体が複数の電極触媒集合体を含み、
前記プロトン交換膜が複数のプロトン交換膜を含み、
前記2D非晶質炭素が前記複数のプロトン交換膜の間に配置され、かつ、前記複数のプロトン交換膜が前記複数の電極触媒集合体の間に配置される
、燃料電池。
【請求項12】
前記プロトン交換膜がフルオロポリマーである、請求項
9~11の何れか1項に記載の燃料電池。
【請求項13】
前記フルオロポリマーがNafion(登録商標)である、請求項
12に記載の燃料電池。
【請求項14】
前記2D非晶質炭素のsp
3/sp
2結合比が0.2以下である、請求項1に記載の燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は一般には二次元非晶質炭素(2DAC)被覆技術に関連する。より具体的には、本開示は、燃料電池、水素発生および重水素製造の用途のためのプロトン伝導性2DACフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
先行技術においては、燃料電池の用途のための改善された性能を開発し、提供する必要がある。
【発明の概要】
【0003】
第1の幅広い局面によれば、本発明は、電極触媒集合体と、二次元(2D)非晶質炭素とを含み、該2D非晶質炭素が0.8以下の結晶化度(C)を有する燃料電池を提供する。
【0004】
第2の幅広い局面によれば、本発明は、電極触媒集合体と、二次元(2D)非晶質炭素とを含み、該2D非晶質炭素が1未満の結晶化度(C)を有し、かつ、sp3/sp2結合比が0.2以下である燃料電池を提供する。
【0005】
第3の幅広い態様によれば、本発明は、電極触媒集合体と、非六角形炭素環および六角形炭素環からなる原子構造を有する二次元(2D)非晶質炭素とを含み、かつ、該六角形炭素環の該非六角形炭素環に対する比率が1.0未満である燃料電池を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
本明細書中に組み込まれ、本明細書の一部を構成する添付された図面は、本発明の例示的な実施形態を例示しており、上記で示される一般的な記載および下記で示される詳細な記載と一緒になって、本発明の特徴を説明するために役立つ。
【
図1】本開示の1つの実施形態による、連続性および秩序を示すランダムな六角形環を示す原子的に薄いフィルムの開示された複合材(グラフェンでない)を示す概略図である。
【
図2】本開示の1つの実施形態による、六角形および非六角形を示す非晶質フィルムのTEM画像を例示する。
【
図3】本開示の1つの実施形態による、原子間力顕微鏡法(AFM)による窒化ホウ素上の開示された炭素フィルムの測定された厚さを例示する。
【
図4】本開示の1つの実施形態による、SiO
2上の非晶質フィルムおよびナノ結晶グラフェンのラマンスペクトルを例示する。
【
図5】本開示の1つの実施形態による原子的に薄い非晶質炭素(左側)と、グラフェン(右側)とのTEM回折を例示する。
【
図6】本開示の1つの実施形態による開示された炭素フィルムの透過率を例示する。
【
図7】本開示の1つの実施形態による2D非晶質フィルムの機械的特性および懸垂された炭素フィルムの実証を例示する。
【
図8】本開示の1つの実施形態による2DACの電気特性を例示する。
【
図9】本開示の1つの実施形態による、異なる基板において成長させられる複合材を例示する。
【
図10】本開示の1つの実施形態によるCu上の2DACのX線光電子分光法(XPS)を例示する。
【
図11】先行技術によるプロトン交換膜燃料電池(PEMFC)の従来構成を例示する。
【
図12】本開示の1つの実施形態による2DACを電極とプロトン交換膜との間のバリア層として履行する実施形態を例示する。
【
図13】本開示の1つの実施形態による2DACをアノード集合体とカソード集合体との間での構成で履行する実施形態を例示する。
【
図14】Nafion(登録商標)が本開示の1つの実施形態による例示的な2DACフィルムのどちら側にも形成され、燃料電池構成で電極層と触媒層との間に閉じ込められる実施形態を示す。
【
図15】本開示の1つの実施形態による2DAC層が電極/触媒集合体とプロトン/重陽子伝導膜との間にある例示的な燃料電池実施形態を例示する。
【
図16】本開示の1つの実施形態による改変された膜が、ガス混合物を分離するためにどのように使用され得るかの例示的な例である。
【発明の詳細な説明】
【0007】
(定義)
用語の定義が当該用語の一般的に使用されている意味から逸脱する場合、出願人は、具体的に示されていない限り、下記において提供される定義を利用することにする。
【0008】
前述の一般的な記載および以下の記載な説明は例示的かつ説明的であるにすぎず、請求項に記載される主題を何ら限定するものでないことが理解されなければならない。本出願において、別途具体的に明記される場合を除き、単数形の使用は、複数であることを包含する。本明細書および添付された請求項において使用される場合、“a”、“an”および“the”を伴う単数形態は、文脈がそうでないことを明確に示す場合を除き、複数である参照物を包含することに留意しなければならない。本出願において、“or”(または)の使用は、別途明記される場合を除き、“and/or”(および/または)を意味する。さらに、用語“including”(含む、包含する)ならびに他の形態(例えば、“include”、“includes”および“included”など)の使用は限定的ではない。
【0009】
本発明の目的のために、用語“comprising”(含む)、用語“having”(有する)、用語“including”(含む、包含する)、およびこれらの語の変化形は、制約がないことが意図され、列挙された要素とは異なるさらなる要素が存在してもよいことを意味する。
【0010】
本発明の目的のために、方向の用語、例えば、“top”(上部)、“bottom”(底部)、“upper”(上方)、“lower”(下方)、“above”(上方)、“below”(下方)、“left”(左)、“right”(右)、“horizontal”(水平)、“vertical”(垂直)、“up”(上方)、“down”(下方)などは、本発明の様々な実施形態を記載する際において便宜のためだけに使用される。本発明の実施形態は様々な様式で方向づけられる場合がある。例えば、図面に示される略図、装置などは、裏返し、いずれかの方向での90°回転、反転が行われる場合がある。
【0011】
本発明の目的のために、値または特性は、その値が、その値、特性または他の要因を使用して数学的計算または論理的決定を行うことによって導出されるならば、特定の値、特性、条件の充足、または他の要因に「基づく」。
【0012】
本発明の目的のために、より簡潔な記載を提供するために、本明細書中で示される量的表現のいくつかは用語「約」により修飾されないことに留意しなければならない。用語「約」が明示的に使用されるか否かにかかわらず、本明細書中に示されるどの量も、実際の示された値を示すことが意味され、また、そのような示された値についての実験条件および/または測定条件に起因する近似値を含めて、当該技術分野の通常の技能に基づいて合理的に推論されるであろうそのような示された値の近似値を示すこともまた意味されることが理解される。
【0013】
本発明の目的のために、用語「接着強さ」は、開示された2DACフィルムとその成長基板との間における結合の強さを示す。接着強さは、J/m2の単位で測定されることがあるこれら2つの材料の間の付着エネルギーに直接に依存している。
【0014】
本発明の目的のために、用語「非晶質」は、明確な形態を欠いていること、または具体的な形状を有していないこと、または無定形であることを示す。非結晶性固体として、非晶質は、結晶の特徴である長距離秩序を欠く固体を示す。
【0015】
本発明の目的のために、用語「非晶質炭素」は、長距離の結晶性構造を何ら有しない炭素を示す。
【0016】
本発明の目的のために、用語「原子的に薄い非晶質炭素」は、平面が炭素原子のおよそ1層~5層からなり、sp2結合がほとんどはこれらの炭素原子の間に存在し、したがって層を形成している非晶質炭素を示す。層が積み重ねられる場合があることが理解されなければならず、層のこの積み重なりは本発明の範囲内であると見なされる。
【0017】
本発明の目的のために、用語「炭素被膜」は、基板に堆積する炭素の層を示す。
【0018】
本発明の目的のために、用語「炭素環サイズ」は、炭素原子の環のサイズを示す。いくつかの開示された実施形態において、1つの炭素環における原子の数は4原子から9原子にまで変化し得る。
【0019】
本発明の目的のために、用語「ダイヤモンド様炭素」は、炭素原子間のほとんどにおいてsp3結合からなる非晶質炭素を示す。
【0020】
本発明の目的のために、用語「幹細胞を分化させる」は、専門化していない幹細胞を、機能的形質を有する特異的なタイプの細胞に向かわせるプロセスを示す。開示された実施形態において、分化が、化学的な要因と、基質誘発の要因との組み合わせに起因して生じる。
【0021】
本発明の目的のために、用語「D/G比」は、ラマンスペクトルにおけるDピークおよびGピークの強度比を示す。
【0022】
本発明の目的のために、用語「電気化学セル(EC)」は、電気エネルギーを化学反応から生じさせること、または、そうでなければ、それを容易にすることがどちらでも可能であるデバイスを示す。電流を生じさせる電気化学セルはボルタ電池またはガルバニ電池と呼ばれ、それ以外は、電気分解のような化学反応を行わせるために使用される電解セルと呼ばれる。ガルバニ電池の一般的な一例が消費者使用向けの標準的な1.5ボルトの電池である。バッテリーが、並列様式または直列様式のどちらでも接続される1つまたは複数のセルからなる場合がある。
【0023】
本発明の目的のために、用語「燃料電池」は、水素燃料と酸素または別の酸化剤との電気化学反応を介して燃料からの化学エネルギーを電気に変換する電気化学セルを示す。燃料電池は、その化学反応を維持するための燃料および酸素(通常の場合には空気由来の酸素)の連続した供給源を必要とすることにおいてバッテリーと異なる場合があり、これに対して、バッテリーでは、化学エネルギーが、バッテリーに既に存在している化学物質から生じる。燃料電池は、燃料および酸素が供給される限りは連続して電気をもたらすことができる。
【0024】
本発明の目的のために、用語「グラフェン」は、六方格子で配置される炭素原子の単層からなる炭素の同素体(形態)を示す。この単層は、炭素の多くの他の同素体(例えば、グラファイト、木炭、カーボンナノチューブおよびフラーレンなど)の基本的な構造要素である。この単層は、無限に大きい芳香族分子、すなわち、平らな多環芳香族炭化水素の一群の究極的な場合であると見なすことができる。グラフェンは、その強い材料特性、熱および電気を効率的に伝えることができることを含めて多くの並外れた特性を有しており、また、ほぼ透明でもある。
【0025】
本発明の目的のために、用語「膜」は、いくつかの元素が通過することを許し得るが、他のもの(例えば、分子、イオンまたは他の小さい粒子など)を阻止する選択的バリアとして作用する層を示す。
【0026】
本発明の目的のために、用語「Nafion(登録商標)」は、スルホン化されたテトラフルオロエチレン系フルオロポリマー共重合体を示す。Nafion(登録商標)は、イオノマーと呼ばれる、イオン性を有する合成ポリマーの部類の最初のものである。Nafion(登録商標)の特異なイオン性は、末端がスルホン酸基であるパーフルオロビニルエーテル基をテトラフルオロエチレン(Teflon)骨格に組み込むことの結果である。Nafion(登録商標)はプロトン交換膜(PEM)燃料電池のためのプロトン伝導体として働き、優れた熱安定性および機械的安定性を有している。
【0027】
本発明の目的のために、用語「プロトン交換膜」または用語「高分子電解質膜」(PEM)は、一般にはイオノマーから作製され、かつ、電子絶縁体かつ反応物バリアとして、例えば、酸素および水素ガスに対する電子絶縁体かつ反応物バリアとして作用しながらプロトンを伝達するように設計される半透膜を示す。いくつかの実施形態において、プロトン交換膜または高分子電解質膜はまた、プロトン伝導膜とも呼ばれる場合がある。PEMの不可欠な機能の一部として、反応物の分離およびプロトンの輸送、一方で、膜を通り抜ける直接的な電子経路の阻止が挙げられる場合がある。様々なPEMが、純粋な高分子膜から、または他の材料が高分子マトリックスに埋め込まれる複合膜からのどちらからでも作製され得る。いくつかの開示された実施形態において、PEMが、プロトン伝導率(σ)、メタノール透過性(P)および熱安定性によって主に特徴づけられる場合がある。PEM燃料電池では固体高分子膜(薄いプラスチックフィルム)が電解質として利用されることがあり、この場合、ポリマーは、水が飽和したときにはプロトンに対して透過性であり、しかし、電子を伝えない。
【0028】
本発明の目的のために、用語「プロトン交換膜燃料電池(PEMFC)」は、主として輸送用途のために、同様にまた、定置型燃料電池用途および可搬型燃料電池用途のために開発されているタイプの燃料電池を示す。それらの際立った特徴には、より低い温度/圧力範囲(50~100℃)と、プロトン伝導性の特殊な高分子電解質膜とが含まれる。PEMFCは、電気を消費する高分子電解質膜(PEM)電気分解とは逆の原理で電気を生じさせ、作動する。PEMFCは、老朽化したアルカリ燃料電池技術に取って代わる有力な候補である。いくつかの用途において、PEMFCはまた、高分子電解質膜燃料電池として知られている場合がある。
【0029】
本発明の目的のために、用語「プロトン輸送」は、電気絶縁膜を横切ってのプロトンの輸送を示す。
【0030】
本発明の目的のために、用語「ラマン分光法」は、系における振動モード、回転モードおよび他の低振動数モードを観測するために使用される分光技術を示す。ラマン分光法が、分子を特定することができる構造的フィンガープリントを提供するために化学では一般に使用される。ラマン分光法は、単色光の非弾性散乱、通常の場合には可視範囲、近赤外範囲または近紫外範囲のレーザー光からの非弾性散乱、すなわち、ラマン散乱に依拠する。レーザー光は、系における分子振動、フォノンまたはその他の励起状態と相互作用し、その結果、レーザー光子のエネルギーが上方または下方にシフトする。エネルギーにおけるこのシフトにより、系における振動モードに関する情報がもたらされる。
【0031】
本発明の目的のために、用語「ラマンスペクトル」は、分子の回転振動(rovibronic)状態に依存する振動数シフトの関数としての散乱強度の現象を示す。分子がラマン効果を示すためには、その電気双極子-電気双極子分極率における変化が、振動回転状態に対応する振動座標に関して存在しなければならない。ラマン散乱の強度はこの分極率変化に比例している。
【0032】
本発明の目的のために、用語「自己集合した」は、開示された2DAC表面を覆う規則的な格子構造でのポリマー鎖の自己組織化を示す。開示された実施形態において、自己集合は、バルク特性と比較して異なる特性を有する極薄フィルムの形成を可能にする。
【0033】
本発明の目的のために、用語「sp3/sp2の比率」は、2DACにおいて見出される炭素結合のタイプを示す。sp2結合は高次の成長因子結合を可能にする。
【0034】
本発明の目的のために、用語「基板」は、開示された二次元(2D)非晶質炭素フィルムのための構造的支持体を示す。選択された用途において、開示された実施形態は、例えば、2DACフィルムを機械的に支持するための基板を提供する。これは、そうでない場合には、2DACフィルムは薄すぎて、損傷を受けることなくその機能を果たすことができないことがあるからである。基板は、開示された2DACまたは2DACフィルムを基板の表面において成長させるために使用される材料と見なされる場合がある。
【0035】
本発明の目的のために、用語「二次元(2D)非晶質炭素フィルム」は、原子的に薄い非晶質炭素から、可能な限り薄い非晶質炭素(例えば、単原子の厚さの非晶質炭素)までのもので、例えば、低い融解温度を有し、非触媒性である基板を含む様々な基板、ならびに、金属、ガラスおよび酸化物の表面もまた含むそれらの基板において直接に成長させることができるものを示す。他の基板における成長が、開示された2DACフィルムが成長させられる低い温度のために可能となる。2DACフィルムの様々な開示された実施形態が、本明細書中に開示されるように、自立型フィルムとして、または基板における被膜として提示される場合がある。開示された2DACフィルムは非晶質であるにもかかわらず、炭素原子は平面内の複数の隣接する炭素原子に結合して、その成長基板から離されたとき(自立しているとき)でさえ非常に安定である強い網状組織を形成する。この炭素材料はまた、金属表面に十分に付着し、それにより、基板全体を完全に覆うことを保証するための特性を有している。開示された2DAC薄フィルムの固有の薄さおよび大きい強度はまた、2DAC薄フィルムが、破断することなく金属基板の曲げに耐えることを可能にする。
【0036】
本発明の目的のために、用語「二次元(2D)非晶質炭素被膜」は、基板において直接に成長および/または堆積する2DACフィルムを示す。開示された実施形態にはまた、2DAC被膜が基板に移される場合または基板から移される場合が含まれることがある。
【0037】
(説明)
本発明は様々な改変および代替形態が可能であるが、その具体的な実施形態が図面に例として示されており、下記において詳しく説明されることになる。しかしながら、本発明を開示される特定の形態に限定することは意図されるのではなく、それどころか、本発明は、本発明の精神および範囲の範囲内にあるすべての改変、同等物および代替に及ぶことになることが理解されなければならない。
【0038】
燃料電池は、電気出力と、廃棄物としての清浄な水とをもたらす水素源および酸素源の清浄かつ効率的なエネルギー変換を提供する。より有望なタイプの燃料電池の1つがプロトン交換膜燃料電池(PEMFC)であり、これは以前から商品化され続けている
1。従来の構成において、PEMFCは基本的には、3つの構成要素から、すなわち、アノードと、カソードと、プロトン交換膜とからなり得る。
図11には、例示的な従来型PEMFC(1100)の作動原理を例示される。水素がアノード(1106)においてプロトンと電子とに解離し、プロトンはプロトン交換膜(1104)を横断してカソード(108)に達し、一方、電子は外部回路(1110)を経由してカソード(1108)に到達する。カソード(108)において、プロトンは電子および酸素と相互作用し、これにより、水廃棄物(H
2O)が生じる。電力が外部回路(1110)において電子によって発生する。
【0039】
PEMFC(1100)の性能は、プロトンを伝え、かつ、系に存在している可能性のある水素、メタノール、酸素、窒素および他のガスが膜を通り抜けることを防止するためのプロトン交換膜(1104)に依存している。電極/触媒層または電極触媒集合体(1102)が、白金、ルテニウムまたは他の触媒活性材料から作製される触媒粒子が蒸着される、典型的には炭素から作製される電極からなる。電極触媒集合体(1102)は、これらのガスが拡散により層を通過することを許す多孔質構造を有する。アノード電極触媒集合体を拡散により通過する水素燃料は触媒粒子と反応し、プロトンと電子とに解離する。カソード電極触媒集合体において、酸素ガスは拡散により集合体を通過し続け、プロトンおよび電子と反応して水を形成し続ける。多くの場合、不活性ガス(例えば、窒素など)が、運転圧力、燃料供給を安定化するために、かつ、過剰なガスおよび液体を排気に搬送することを助けるために流され系内を通過する。
【0040】
プロトン交換膜(1104)を横断するガスは、正味の効率を低下させるだけでなく、電極における過酸化水素の形成をも引き起こし、これがプロトン交換膜(104)のピンホールおよび薄化の原因となるので、懸念される。これらの事象はガスの通り抜けを増強し、燃料電池の故障を加速させる2。
【0041】
ガスの通り抜けはまた、アノードおよびカソードにおける化学反応を促進させる触媒粒子の効率にも影響を与える可能性がある。プロトン交換膜(1104)はさらに、イオン性汚染物質(例えば、アルカリ金属およびアンモニウムイオンなど)によって損傷を受ける可能性がある2。
【0042】
プロトン交換膜のガス通り抜けおよび劣化を防止するために、開示された発明の様々な実施形態により、ガス通り抜け防止層として導入され得る2DAC層が提供される。いくつかの実施形態において、開示された2DACはフィルム層として提供される。例示的な構成において、開示された2DACフィルムはプロトン交換膜(1104)に取り付けられる場合がある。開示された2DACフィルムはプロトン伝導率をその優れたプロトン伝導率および究極的薄さのために制限しない。開示された2DACフィルムは、すべての他のガスおよびイオンに対するバリアであり、それにより、用いられたPEMFCの寿命を増大させる。開示された2DACフィルムのさらなる議論が下記のように提供される。
【0043】
開示された実施形態は、基板(金属、ガラス、酸化物)の上における原子的に薄い(単層の)非晶質炭素から構成される新しい複合材に関する。この非晶質炭素は、該非晶質炭素が成長する基板に非常によく付着する。したがって、この非晶質炭素材は特異な特徴を提供する。例えば、開示された非晶質炭素材は、具体的な目的(1つまたは複数)のための被膜を必要とする基板を利用する用途に適している。例示的な用途には、限定されないが、生物医学的用途が含まれる場合がある。
【0044】
本開示は、二次元(2D)非晶質炭素(2DAC)と呼ばれる炭素の新しい形態を提供する。開示された実施形態により、例えば、低い融解温度を有し、非触媒性である基板、ならびにガラスおよび酸化物の表面もまた含む基板を含めて様々な金属基板において直接に成長させることができる2DACの内部での可能な限り薄い非晶質炭素(例えば、およそ単原子の厚さの非晶質炭素)が提供される。1つの選択された実施形態において、単原子の厚さを有することが、好ましい材料であり、2DACについての下方の厚さ限界となる場合がある。開示された実施形態には、数原子の厚さ(例えば、10原子の厚さまたは約3+nm)にまで及ぶことがある厚さが含まれる場合がある。開示された2DACは二次元(2D)非晶質炭素フィルムとして提供される場合がある。しかしながら、開示された2DACの厚さが増大するにつれ、開示された2DACは依然として、本明細書中に開示されるように、どのような非晶質炭素材であれ他の存在するかもしれない非晶質炭素材の厚さと構造的に異なっていること(例えば、sp3対sp2比)に留意することは依然として重要である。
【0045】
他の基板における成長が、開示された2DACフィルムが成長させられる低い温度のために可能となる。開示された2DACフィルムは非晶質であるにもかかわらず、炭素原子は平面内の複数の隣接する炭素原子に結合して、その成長基板から離されたとき(自立しているとき)でさえ非常に安定である強い網状組織を形成する。したがって、それぞれの炭素原子が、高密度の結合(連結)が存在するように複数の炭素原子に結合する。開示された2DACはまた、金属表面に十分に付着し、それにより、完全に覆うことを保証するための特性を有している。材料特性(例えば、下記で開示される材料特性)、例えば、開示された2DAC薄フィルムの固有の薄さおよび大きい強さなどもまた、2DAC薄フィルムが、破断することなく金属基板の曲げに耐えることを可能にする。
【0046】
開示された実施形態によれば、非晶質炭素は、長距離の構造的秩序を有しない形態の炭素として定義される場合がある。非晶質炭素はいくつかの形態で存在し、その形態に依存して、ダイヤモンド様炭素、ガラス状炭素、すすなどのような異なる名前で呼ばれることが多い。非晶質炭素が、例えば、とりわけ、化学蒸着、スパッタ堆積および陰極アーク蒸着を含むいくつかの技術によって作製される場合がある。従来の用途では、非晶質炭素はこれまで常に三次元形態で(またはバルクで)存在している。炭素の二次元の等価形態がグラフェンであり、しかしながら、グラフェンは、(単結晶または多結晶性のどちらであれ)結晶性材料として存在するだけである。グラフェンが合成されるには、グラフェンは高温を必要とし、ほとんどの場合、銅表面において成長させられる。本開示により、開示された実施形態は、はるかにより低い温度で、かつ任意の基板において成長する連続した二次元形態の非晶質炭素を作り出すことを成し遂げている。開示された2DACフィルムと基板との複合材は、バルク状の非晶質炭素とは大幅に異なる特性、それどころか、単層グラフェンに対して大幅に異なる特性を有する。
【0047】
開示された2DACの様々な実施形態が、フィルム、例えば、基板を被覆するフィルム、多孔質構造体の内側表面を被覆するフィルム、懸垂されたフィルム、巻かれたフィルム、チューブ、ファイバー、または中空ボールとして存在する場合がある。開示された2DACの機械的特性、電気特性、光学特性、熱特性および他の特性は、例えば、2DACの形状に依存して、様々であることが予想される。例えば、開示された2DACを含むチューブは、軸方向での大きい機械的強度と、半径方向でのより穏やかな応答とを有するであろう。開示された2DACは、別個の用途のための異なる特性を利用するために様々な形態に調製され得る。
【0048】
図1には、開示された複合材の概略図(100)が基板の上部表面における炭素材料のTEM画像とともに例示される。開示された物質の組成物は、基板(104)(例えば、金属またはガラス、酸化物)の上における原子的に薄い非晶質炭素(102)の新しい複合材である。
【0049】
開示された複合材は、任意の基板の上における原子的に薄い2D非晶質炭素(2DAC)を示す場合がある。開示された実施形態によれば、開示された基板の上における開示された2DACフィルムは、その原子構造およびその特性に関して規定される場合がある。
【0050】
原子構造についてのより厳密な試験および定義が下記のように表される場合がある。
図2には、本開示の1つの実施形態による、六角形および非六角形を示す非晶質フィルムのTEM画像が例示される。
図2の左上の画像は、六角形および非六角形を含む開示された2DACフィルムの高解像度TEM画像を例示する。左上画像のTEM画像の左下の概略図が、見やすくするために提供される。六角形が緑色で着色され、一方、非六角形が赤色または青色のどちらかで着色される。右上の表示は、明確な回折パターンを有しない環構造をどちらが示すかを例示するFFTである。
【0051】
図2のTEM画像を参照すると、2DACフィルムは、六角形の環と非六角形の環との混合をその構造において有する単原子厚さの炭素フィルムである。これらの環は相互に完全に連結され、これにより、規模が少なくともミクロン単位である大面積フィルムにおける様々な多角形の網状組織を形成する。六角形の非六角形に対する比率が結晶化度(または非晶質性)Cの尺度である。非六角形は、4員環、5員環、7員環、8員環、9員環の形態である。2D非晶質フィルムは、およそ8.0nm
2の最小画像化面積に関して撮影されたとき、Cが0.8以下である。
図2におけるC値はおよそ0.65である。開示された実施形態により、0.5~0.8の間のC値範囲(両端を含む)が裏付けられ得る。これは、純粋な六角形網状組織についてはC=1であるグラフェンとは異なっている。非六角形は六角形マトリックス内にランダムに分布することができ、または六角形ドメインの境界に沿って生じることができる。ドメインは5nmを超えてはならない。画像の高速フーリエ変換(FFT)は回折点を示してはならない(
図2、右上)。2DACは、自立するように基板から離すことができ、または他の基板に移すことができる。したがって、いくつかの実施形態において、開示された2DACは、自立型2DACフィルムを得るために基板の表面から分離される場合がある。
【0052】
図3には、窒化ホウ素(BN)上の単離されている開示された2DACフィルムのAFMによる測定された厚さ(すなわち、高さ)が例示される。開示された発明に基づいて、以下の特性が当てはまる:
図3は、窒化ホウ素(BN)への開示された移送されている2DACフィルムのAFMを示す。2DACの開示された厚さはおよそ6Åであり、ほんの原子1個の厚さにすぎないグラフェンに匹敵している(厚さが、BN上で測定されるときには3.3Å~10Åの範囲(両端を含む)である)。厚さはまた、
図1におけるTEM画像によっても裏付けられる。さらに、フィルムは均質であることが見出される。
【0053】
図4には、SiO
2上の非晶質フィルムおよび
ナノ結晶性グラフェンのラマンスペクトル(400)が例示される。単離されたフィルムのラマン分光法は2Dピーク(~2700cm-1)を示さなかったが、代わりに、幅広いGピーク(~1600cm-1において)およびDピーク(~1350cm-1において)を示した。DピークおよびGピークの広がりは通常、以前に報告されたように、ナノ結晶性グラフェンから非晶質フィルムへの転移を示している
3。DピークとGピークとの強度比から、ドメインサイズが1~5nmの程度であることが推定される3。ラマン分光法は、
図2でのTEM画像を大面積で表すための特徴づけツールとして役立つ。
【0054】
図5には、本開示の1つの実施形態による原子的に薄い非晶質炭素(左側)と、グラフェン(右側)とのTEM回折の比較(500)が提供される。開示された単離されているフィルムの非晶質性に関するさらなる証拠が、結晶性を示す回折点が明確に見られるグラフェンとは対照的である、明確な回折点が検出されないTEM回折によって裏付けられる。
図7(上)における回折リングは、ドメインサイズが5nm未満であることを示している。非晶質フィルム2DACの回折データは
図2におけるFFT画像と一致している。この場合、2DACフィルムは自立型である。
【0055】
図6を参照すると、グラフ(600)は、本開示の1つの実施形態による開示された炭素フィルムの透明性を例示する。光学的透明性が550nmの光波長において~98%であり、透明性が波長の増大とともに増大している。したがって、選択された実施形態により、550nm以上の波長において98%またはそれより高い光学的透明性が提供される。再度ではあるが、開示された炭素フィルムはグラフェンと異なる:これは、単層でのグラフェンの透明性が可視波長(400nm~700nm、両端を含む)全体を通して最大で97.7%であり、層の数が増えるにつれて低下するからである。注目すべきことに、2DACフィルムの透明性は、グラフェンにおいて見られるような短波長(400nm未満)での急速な低下がない。
【0056】
懸垂されたフィルムの弾性係数Eが200GPaを超えており、これはバルク状のガラス状炭素(E=60GPa)よりも大きい
4。機械的破損前の極限ひずみが10%であり、これは、報告される他の非晶質炭素の極限ひずみよりもはるかに大きい。
図7には、懸垂された炭素フィルムと、極限応力を原子間力顕微鏡(AFM)(例えば、Brukerモデル番号:MPP-11120)のチップによってかけた後の懸垂された炭素フィルムとの表面における
ナノ圧痕が例示される。開示された2DACフィルムの非晶質性は
図7(下)における懸垂フィルムの圧壊を妨げている。その代わり、このフィルムは極限応力のレベルにまでの延性応答を示す。
【0057】
開示された発明の2DAC薄フィルムは電気抵抗が大きく、電気抵抗率が、Cの値(これは成長条件によって調整される)に依存して、0.01Ω
・cmから1000Ω
・cmにまで及ぶ。
図8は2D非晶質炭素の電気特性の概略図(800)であり、2D非晶質フィルムのI-V曲線(802)と、特定のC値についての測定された抵抗率値のヒストグラム(804)とが示される。抵抗率値をもたらすことを目的とする測定技術/方法が使用される。比率が、ヒストグラム(804)におけるそれぞれの抵抗率データ点を得るためにI-V曲線(802)のデータからの計算の範囲内で使用される。したがって、
図8(左)における2D非晶質炭素についての長さ:幅の比が1:100である。比較において、グラフェンは抵抗率値が~10
-6Ω
・cmであり、一方、バルク状のガラス状炭素
(これもまた、100%のC-C間sp
2)は、0.01Ω
・cmから0.001Ω
・cmにまで及ぶ値を有する。
【0058】
単層フィルムは、6超のn員の環を含有する場合には、当然のことながら、その7員環、8員環、9員環を通過するにはサイズが十分に小さい気体、イオン、液体または他の化学種を選択的に通すことができる膜である。特に、開示された2DACフィルムはプロトンを室温において結晶性単層窒化ホウ素よりも10倍効率的に通過させることができる5。開示された2DACフィルムについて、膜を横切るプロトン流に対する抵抗率が室温において1~10Ω・cm2である。
【0059】
図9には、本開示の1つの実施形態による、異なる基板において成長させられる複合材が例示される。原子的に薄い非晶質炭素により被覆されるチタン、ガラスおよび銅の写真が左側に例示される。右上には、類似する応答を基板にかかわらず示す被覆領域からのラマンスペクトルが示される。最後に、右下には、完全に覆われていることを示す、チタンの上における2DACフィルムのG/Dピーク比のラマンマップが示される。開示された複合材(すなわち、開示された2DACおよびその基板)は、どのような金属(触媒性または非触媒性)からでも、あるいはガラスまたは酸化物において作製することができる。したがって、開示された実施形態は、2DACが、開示された所望の基板材料のいずれかにおいて直接に成長させられ得ることを規定する。このことは、触媒性基板(例えば、銅)において成長させることができるだけであり、かつ、すべての他の基板への移送を必要とするグラフェンとは異なっている。したがって、連続であると依然として見なされるためには厚さが1nm未満は存在し得ない非晶質炭素またはダイヤモンド様炭素の堆積方法と比較して、開示された複合材は、ホスト基板に強く結合する二次元非晶質炭素の原子的に薄い(1nm未満)かつ連続した層を含む。
【0060】
一般に、基板上のフィルムが付着不良であるときには、フィルムの様々な領域が基板から剥がれる場合があり、したがって、これらの領域は基板の保護が不十分となることになるか、またはほとんどないことになる。したがって、本開示の実施形態により、基板の施された表面全体にわたる均一性および強い付着をもたらす改良されたフィルムが提供される。したがって、開示された2DACフィルムは、好ましくは実質的に基板表面全体または少なくとも施された表面にわたる連続フィルムとして形成される。従来設計とは異なり、例えば、容易に剥がすことができる(例えば、接着力が10~100J/m2である)Cuの場合でのグラフェンなどとは異なり、例えば、Cuに配置される開示された原子的に薄い2DACフィルムは、200J/m2を超える付着エネルギーにより基板に非常によく付着する6。この例は、開示された2DACフィルムをグラフェンと区別するためのさらなる証拠を提供している。(Cu基板の例示的な実施形態が記載されるが、開示された2DACをどのような基板に対してでも施す様々な実施形態が本発明の開示された実施形態に従って適用され得る。)さらに、付着エネルギーが、例えば、ステンレス鋼、チタン、ガラス、ニッケルおよびアルミニウムの基板を含めて、開示された2DACフィルムが成長するすべての基板材料において明らかである。上記の基板は例示であること、および、本開示の教示は、どのような基板であれ所望される基板に適用され得ることが理解されなければならない。
【0061】
一般に、どのような2D材料であれ2D材料を従来の材料およびプロセスによって材料に移送するための試みはどれも以前には、例えば、移送された材料における欠陥および亀裂、そしてまた、基板での被覆率の低下を引き起こしている。このことは少なくとも部分的には、移送プロセスでは一般には多くの機械的工程が用いられており、亀裂および欠陥を従来のフィルム用途において誘発する化学物質が使用され得るという事実に起因している。しかしながら、開示された2DACフィルムは、例えば、成長基板から目的の基板に移送される必要がない。開示された2DACフィルムの改善された付着特性に加えて、開示された2DACフィルムの強化された特性により、直接に基板全体にわたって/基板を覆ってむらなく、かつ完全に覆うことがもたらされ、保証される。したがって、むらなく、かつ完全に覆われることが得られ、これは少なくとも、開示された2DACフィルムは、そのホスト基板において直接にむらなく、かつ首尾よく成長させることが完全に可能であるので、移送する必要がないからである。
【0062】
開示された2DACフィルムは、基板(例えば、炭素など)に付着するためのその優れた機械的特性とともに、そのような信頼できる被覆をもたらすように設計されており、2DACフィルムおよび2DAC複合体のさらなる物理的特性/要件を必要とする用途のためには非常に適しており、信頼できる。そのような物理的特性には、開示された2DACフィルムおよび/または2DAC複合体は曲げることおよび/または伸ばすことができることが含まれる場合がある。基板に対する開示された2DACの付着特性および付着能は、このことが当てはまることを保証している。移送されたフィルムの場合のように、基板に対する不均一な付着が存在するならば、フィルムにおける亀裂が付着不良の領域で生じることになり、破損しやすい原因である。
【0063】
したがって、開示された発明の実施形態は、非晶質炭素フィルムが成長させられる基板(104)全体を覆い(
図9のラマンマップ)、これにより、例えば、炭素被覆を必要とする用途には非常に有用になる上部の非晶質炭素フィルム(102)を提供する。上部の非晶質炭素フィルム(102)はまた、欠陥のない拡散バリアとして働き、それにより、下にある基板の酸化および腐食を防止する。電気絶縁特性のために、開示された非晶質炭素フィルム(102)は基板(104)のガルバニック腐食をどのようなものであれ防止する。開示された2DACの低い電気伝導率は、最近の報告で認められるように細胞接着および細胞増殖に対して有益である
7。導電性基板上の細胞は、接着斑をもたらすことなく、静電相互作用を介して表面に付着する。接着斑は細胞増殖および細胞成長にとって非常に重要であり、低い電気伝導率が接着斑発達および細胞増殖のためには好ましい。低い電気伝導率は、ラマン分光法のD/Gピーク強度と、sp
3/sp
2比とにより認められるような開示された2DACの非晶質性の結果である。
【0064】
対照的に、グラフェンは、長期の腐食を悪化させることが知られている8。グラフェンの移送は、表面に沿う亀裂および欠陥を生じさせることなく平坦な連続したフィルムを作製することをほぼ不可能にする。開示された非晶質炭素フィルム(102)材は基板(104)との複合体であり、これにより、移送の必要性が排除され、同様にまた、フィルム(102)における亀裂の危険性が除かれる。
【0065】
開示された2DACフィルムは、ガラス状炭素に類似するsp
2結合した炭素からなる;しかしながら、厚さは、およそ1原子の層厚さ(6Å)でしかなく、これは従来の報告されたどのような非晶質炭素構造よりも薄い。
図10には、Cu上の2D非晶質炭素のX線光電子分光法(XPS)測定が例示され、測定では、ピーク位置がsp
2またはsp
3の結合タイプを示しており、一方、ピーク強度がそれぞれのタイプの結合の割合を示している。C-C間のsp
2結合およびsp
3結合の混合濃度もまた、厚さを犠牲にすることなく可能であり、だが、C-C間の最大sp
3含有量は20%に設定される。開示された2DACの薄い構造および強い付着は本質的に、下にある基板を常に保護しており、このことは、剥がれ落ちる可能性が明白であるより厚いフィルムでは異なっている
9。
【0066】
開示された実施形態によれば、レーザーに基づく成長プロセスにより、前駆体としての炭化水素(例えば、CH4、C2H2など)を使用して、開示された複合フィルムが作製される。水素ガス(H2)およびアルゴンガス(Ar)もまた前駆体と混合される場合がある。このプロセスにおいて、レーザーには2つの役割がある:(1)光分解と呼ばれるプロセスで前駆体ガスを分解するためのエネルギー源、および(2)局所的熱源として。一方または両方の前述の役割により、開示された2DACフィルムが作製されることを仮定すると、第1の場合において、基板(104)は、成長期間中を通して室温にあると言われ、第2の場合において、レーザーは基板(104)を500℃にまで加熱することができる。典型的には、パルスエキシマUVレーザー(例えば、193nm、248nmまたは308nm)を、用いられた基板に依存して、種々の成長時間で、約50~1000mJ/cm2のフルエンスで基板表面に、または基板と平行に向けることができる。開示された複合体を製造するための他の可能な組み合わせには、レーザー、プラズマおよび/または基板ヒーターのどのような組み合わせも含まれ得る。ヒーターが、基板(104)を500℃にまで加熱するために用いられる場合がある。プラズマ出力が1~100Wの範囲(両端を含む)で使用される場合がある。前駆体としての炭化水素を使用する典型的な組み合わせが下記の通りであろう:(i)レーザーのみ;(ii)レーザー+低出力プラズマ(5W);(iii)レーザー+低出力プラズマ(5W)+ヒーター(300℃~500℃);(iv)低出力プラズマ(5W)+500℃ヒーター;(v)高出力プラズマ(100W)のみ。
【0067】
開示された実施形態によれば、開示された2DACおよび2DAC複合体の完全な成長/堆積がチャンバー内で成し遂げられる場合がある。加熱、プラズマ、ガス流および圧力制御のための様々なモジュールがすべて、制御された成長環境のためのチャンバーの内部に設定および確立される場合がある。1つの実施形態によれば、チャンバーのプロセス圧力が10~1E-4mbarの範囲(両端を含む)で確立される場合がある。
【0068】
開示された2DACのためのプロセスパラメータには、下記のものが含まれる場合がある:(i)プロセスガス:CH4;(ii)チャンバー圧力:2.0 E-2mbar;(iii)レーザーフルエンス:70mJ/cm2;(iv)成長時間:1分;(v)プラズマ出力:5W;(vi)基板:Cu箔。
【0069】
開示された2DACフィルムを製造するためのプロセスでは、メタン(CH4)が成長プロセスのための成長チャンバーの内部で使用されることが用いられる場合がある。成長期間中のチャンバー内のガス圧力が期間中を通して2E-2mbarで制御される。このガスは、5Wの出力で稼働するプラズマ発生器の存在下にある。成長が、248nmのエキシマレーザーによる露光が50Hzのパルス周波数とともに70mJ/cm2のフルエンスにより銅箔基板の表面に行われるときに始まる。レーザー露光時間(すなわち、成長持続時間)が、基板における連続した2DAC被膜を得るために1分で設定される。この成長では、ステージヒーターが使用されない。本明細書中に開示される複数のパラメータが、前駆体としての炭化水素、前駆体混合物、光分解プロセスおよび光分解装置に対する調節、温度調整、基板温度調節、C値における変化、原子層の数における変化、sp2対sp3比における変化、ならびに基板に対する付着における変化(これらに限定されない)を含めて、開示された2DACの特性を制御するために、および/または変化させるために調節される場合がある。
【0070】
開示された炭素フィルムは、基板の開示された金属表面が、適用された使用法の寿命の期間中むらなくかつ完全に覆われることを保証する最小の厚さにより構築され得る。1つの例示的な実施形態において、開示された2DACの厚さが、およそ1原子層の厚さで設計される場合がある。開示された炭素フィルム(102)は、いくつかの基板(104)において、例えば、ステンレス鋼およびチタンなどの材料において直接に成長させられる場合がある。成長が、例えば、グラフェン合成の場合よりもはるかに低い温度で行われるので、開示された2DACは、ガラスおよびハードディスクのような、高温に耐えることができない他の基板(104)に対して直接に成長させられ得る10。開示された2DACフィルム(102)は超強靱であり、基板(104)に強く結合し、このため、曲げおよび伸びなどの変形を必要とし得る用途に適している。開示された2DACフィルムの強い機械的特性は、粒界がないためである。開示された炭素フィルム(102)の絶縁特性により、基板(104)のガルバニック腐食が、この腐食を増強するグラフェンとは異なり防止される。TEM画像において見られるような炭素フィルムの7員環、8員環および9員環は、様々なガスのための、またはプロトン輸送のための効率的な膜として有用である5。
【0071】
開示された発明の選択された実施形態によれば、開示された2DACは、例えば、基板が成長には適していない、したがって、開示された2DACを移送する必要があるときには、自立型の事例として生じさせられる場合がある。開示された2DAC(1202)を移送するための好適な方法および技術、例えば、下記の特許出願に記載されるような乾式移送などが用いられる場合がある:分極した強誘電ポリマーを使用するcvdグラフェンの無欠陥直接乾式剥離(国際公開WO2016126208A1)。他の移送方法には、熱剥離テープ、感圧接着剤、スピンコーティング、スプレーコーティング、およびラングミュア・ブロジェット技術が含まれ得るが、これらに限定されない。
【0072】
しかしながら、本開示の様々なさらなる長所により、いくつかの実施形態において、開示された2DAC(1202)は基板において直接に成長させられ得ることが規定される。開示された2DACフィルムのそのような利点は、例えば、移送プロセスについてグラフェンと比較した場合、開示された2DACフィルムは(グラフェンとは異なり)移送のための犠牲支持体層を必要としないことである。グラフェンに関して、フィルム層は、移送期間中の亀裂および欠陥を防止することが要求され、そして、フィルム層は、移送後に除かれる必要がある。除去に関してさえ、完全に除くことができない犠牲層からの残渣が残っている。開示された2DACに関しては、移送を、犠牲層を用いることなく、欠陥を誘発することなく、そして残渣を処理することなく、または構造を損なうことなく行うことができる。
【0073】
2DAC層の開示された実施形態の様々な長所が、燃料電池、水素発生および重水素製造の用途(これらに限定されない)を含めて広範囲の様々な用途において履行され得る。そのような用途では、例えば、C値が0.8以下である非結晶性構造での炭素原子の例示的な単層を含めて、開示された2DAC層の長所が使用される。再度ではあるが、開示された2DAC層(例えば、
図2に示される2DACフィルムなど)の非晶質性を参照すると、炭素の連続フィルムは、およそ0.1~10S/cm
2の間でのプロトンの極めて大きい横方向コンダクタンスを可能にするランダムなパターンで配置される。重陽子(重水素の原子核)のコンダクタンスは0.01~1S/cm
2であり、これは大雑把にはプロトンのコンダクタンスよりも1桁小さい。トリトン(トリチウムの原子核)のコンダクタンスはおよそ0.003~0.3S/cm
2である。輸送速度における違いにより、開示された2DACは水素同位体のための効率的な分離膜になる。同時に、この膜は、他の分子(例えば、H
2、O
2およびCH
4など)に対して不透過性である。
【0074】
フィルムを通り抜けるプロトン輸送は電子雲密度によって制限される5。C値は、開示された2DACの結晶化度を表しており、成長パラメータを変化させることによっておよそ0.5~0.8の間で制御/調節することができる。C値を変更することによって、フィルムにおける電子雲は変更され、プロトンコンダクタンスを増減させることができる。例えば、適用された技術には、用いられたレーザーの出力、パルスおよび/または角度を開示された2DACに合わせて調節することが含まれる場合がある。
【0075】
選択された実施形態において、開示された2DAC懸垂フィルムの弾性係数Eが200GPaを超えており、破壊エネルギーが20J/m
2
を超え、これはグラフェンの破壊エネルギーの2倍を超えている。同じことの証拠が、例えば、図7に例示される。図7では、開示された懸垂2DACフィルムにおけるナノ圧痕は、弾性係数Eが200GPaを超えていることを示し(右)、極限応力をAFMチップによってかけた後の懸垂2DACフィルムは、破壊エネルギーが20J/m2を超えていることを示している。したがって、開示された2DAC層のこれらの機械的特性の特徴により、用途の寿命が増大する。例えば、開示されたバリアはガス通り抜けを防止し、それにより、電解質・触媒層の腐食を防止する。開示された2DAC層の強い機械的特性、具体的にはその大きい破壊靭性は、用いられたバリアの長い寿命を保証し、それにより、燃料電池のより長期の全体的性能をもたらす。
【0076】
開示された2DAC層または2DACフィルムは、例えば、活性酸素イオンプラズマ、アルゴンスパッタリング、オゾン処理または電子ビーム露光を含めて他の限定されない技術によって成長期間中または後処理期間中にさらに改変することができる。開示された2DACの原子構造が、より大きい分子が通過することを許すように改変される場合がある。このことが、ガス分離器を作出するために利用される。
【実施例】
【0077】
[実施例]
ガス通り抜け防止層としての燃料電池における2DAC:
図12には、開示された2DACがプロトン伝導バリア層として働く、1つの開示された実施形態による改善されたPEMFC(1200)の例示的な実施形態が例示される。PEMFC(1200)は、電極触媒集合体(1102)とプロトン交換膜(1104)との間のバリア層として用いられる開示された2DAC(1202)を含む。開示された2DAC(1202)は、プロトンのみが2DAC層(1202)を横断することを許し、かつ、他の気体および液体がプロトン交換膜(1104)と接触することを防止する。
【0078】
この例示的な構成において、複数の電極触媒集合体(1102)が、開示された2DAC(1202)とプロトン交換膜(1104)とを閉じ込めるために配置される。開示された2DAC(1202)は、それぞれの電極触媒集合体(1102)とプロトン交換膜(1104)との間に配置される場合がある。バリアとして作用するので、2DAC(1202)は、燃料、廃物およびイオン混入物がプロトン交換膜(1104)内に漏れ、横断して反対側の電極触媒集合体(1102)に至ることを防止する。そのような漏出は、プロトン交換膜(1104)の破壊およびPEMFC性能の劣化を引き起こすことが知られている。開示された2DACはそのままで、または他の構成で、例えば、層、膜、フィルムなどで用いられ得ることが容易に理解される。
【0079】
プロトン伝導膜(1104)を横断する水素および酸素は、燃料の喪失および燃料電池効率に対する直接の喪失の直接的原因となる可能性がある。開示された2DAC(1202)はこの喪失を防止することになり、燃料電池の効率を大幅に改善し得る。2DAC(1202)がない場合、他のガス(例えば、窒素など)はまた、他の方法でプロトン伝導膜(1104)を通過する可能性がある。このことはその結果として、燃料欠乏を、例えば、触媒部位において引き起こすことがある。このような欠乏は、触媒劣化、したがって、性能および信頼性の喪失を引き起こすことが知られている11。開示された2DAC(1202)は、他のガスがプロトン伝導膜(1104)を横断することを防止することになり、かつ、前述の触媒劣化を防止することになる。
【0080】
プロトン交換膜(1104)は多くの場合、プロトンを伝えるために高レベルの水和を必要とする。プロトン伝導膜(1104)を非透過性バリアに閉じ込めることによって、プロトン伝導膜(1104)の脱水および乾燥を防止することができる。このことはPEMFC(1200)の性能の長期安定性をもたらすことになる。
【0081】
当業者は、開示された技術がPEMFC用途に限定されるのではなく、他の用途(例えば、レドックスフロー電池など)でもまた履行され得ることを容易に理解するであろう。
【0082】
[実施例2]
単原子層プロトン交換膜としての2DAC:
図13には、開示された2DACがプロトン伝導性の単原子膜として用いられる、開示された実施形態による改善されたPEMFC(1300)の例示的な実施形態が例示される。この実施形態では、開示された2DAC(1202)がアノード集合体とカソード集合体との間の構成で配置される。この構成において、プロトン交換膜は2DAC(1202)の単原子層によって置き換えられている。
【0083】
開示された2DAC(1202)の単原子層はプロトンを伝え、かつ、燃料ガスおよび液体が通り抜けることを防止する。これにより、従来型プロトン交換膜の水和の必要性が軽減される。極薄2DAC(1202)を横切っての大きいプロトン伝導率により、大きい出力が、従来型プロトン交換膜においてそうでない場合に達成および観察されるよりも少ない抵抗損を伴って生じる。2DAC層(1202)は機械的に強く、長期間の安定性をもたらす大きい破壊靭性を有している。2DAC(1202)の柔軟性により、薄い柔軟な燃料電池の新奇な作製が可能になる。
【0084】
[実施例3]
2DACにおける自己集合した極めて薄い均一なプロトン交換膜:
図14には、プロトン伝導膜(1104)が、開示された2DAC(1202)において形成される自己集合したNafion(登録商標)のプロトン伝導性の膜または被膜(1104)として用いられる、開示された実施形態による改善されたPEMFC(1400)の例示的な実施形態が例示される。したがって、プロトン交換膜(1104)は、Nafion(登録商標)などのフルオロポリマーから構成される場合がある。プロトン交換膜(1104)は通常、ガスの通り抜けを避けるためにおよそ数十ミクロンである最小の厚さ、かつ、プロトン交換膜(1104)を横切っての輸送損失を軽減するためにおよそ数百ミクロンである最大の厚さにより形成される。
【0085】
開示された2DAC(1202)は、その非占有π軌道のためにポリマー集合体のための鋳型として働く場合がある。開示された2DAC(1202)の非晶質構造は、Nafion(登録商標)ポリマーが薄フィルムを形成するための鋳型として作用する。開示された2DACがたとえ低い結晶化度を有するとしても、炭素環におけるπ軌道により、表面へのNafion(登録商標)ポリマーの整列が可能になる。したがって、2DAC(1202)が、Nafion(登録商標)被膜(1104)の極めて薄い均一な層を2DAC表面に作製するために利用される場合がある。前述のNafion(登録商標)被膜(1104)はピンホールがない。開示された2DAC(1202)における自己集合のために、極薄Nafion(登録商標)被膜(1104)のプロトン伝導率は増大し、一方、漏出およびガス通り抜けは低下する。
【0086】
したがって、
図14の例示的な実施形態において示されるように、電極触媒集合体(1102)は複数の電極触媒集合体を含む場合がある。プロトン交換膜(1104)は複数のプロトン交換膜を含む場合がある。開示された2DAC(1202)は複数のプロトン交換膜(1104)の間に配置される場合があり、また、複数のプロトン交換膜(1104)が複数の電極触媒集合体(1102)の間に配置される場合がある。
【0087】
プロトン交換膜(1104)として作用するので、
図14には、Nafion(登録商標)被膜が2DAC層(1202)または2DACフィルムのどちら側にも形成され、燃料電池構成で電極触媒集合体(1102)の間に閉じ込められるように構成されることが可能であることが例示される。したがって、開示された2DAC(1202)は、例えば、CVDグラフェンの湿式移送
12と類似する湿式移送によってNafion(登録商標)フィルムに移送することができる。
【0088】
別の例示的な実施形態において、開示された2DAC(1202)はまた、下記の特許出願に記載されるような乾式移送によってNafion(登録商標)膜に移送することができる:分極した強誘電ポリマーを使用するcvdグラフェンの無欠陥直接乾式剥離(国際公開WO2016126208A1)。上記で記されるように、他の移送方法には、熱剥離テープ、感圧接着剤、スピンコーティング、スプレーコーティング、およびラングミュア・ブロジェット技術が含まれ得るが、これらに限定されない。
【0089】
[実施例4]
水素同位体分離:
図15には、燃料電池(1500)が、逆の様式で作動するように構成され、それにより水素同位体を分離する、開示された実施形態による改善されたPEMFCの例示的な実施形態が例示される。開示された2DAC(1202)は、プロトン輸送よりもはるかに遅い速度ではあるが、水素同位体である重水素およびトリチウムの原子核の輸送を容易にする。2DAC(1202)を横切っての輸送速度における差が、水素同位体をプロチウム(標準の水素)から分離するために使用される。そのような分離は、重水製造のために、例えば、研究および原子炉における使用のための重水製造のために、同様にまた、トリチウムの除去のために、例えば、性能を維持するために原子炉で使用される重水からのトリチウムの除去のために使用することができる。
【0090】
図15には、2DAC(1202)が電極触媒集合体(1102)集合体とプロトン/重陽子伝導膜(1502)との間にある燃料電池(1500)が例示される。燃料電池(1500)は、バイアスをプロトン/重陽子伝導膜(1502)の両側で加えることによって逆モードで作動させられる。このモードでは、燃料電池(1500)は電気を消費し、水素および重水素を生成する。水素および重水素はプロトンおよび重陽子に解離し、開示された2DAC層(1202)およびプロトン/重陽子伝導膜(1502)を横切って輸送される。
【0091】
上記で開示されるように、開示された2DAC(1202)の原子構造および炭素環サイズは、(例えば、プラズマ、電子ビームまたは他の照射技術への曝露などにより)改変することができる。したがって、開示された2DAC(1202)の構造は、環サイズを改変して、それにより、開示された2DAC層(1202)を横切るプロトンおよび重陽子の異なる輸送速度に影響を及ぼすようにすることによって同調している場合がある。その結果には、水素の含有量が重水素と比較してより大きいことが含まれることがある。
【0092】
したがって、1つの実施形態において、H2/D2が50%である供給源比率が、H2/D2が90%である生成物比率になる場合がある。しかしながら、いくつかの開示された実施形態において、H2/D2の供給源比率および生成物比率は変化し得る。例えば、H+についての輸送速度がD+の輸送速度の10倍であるならば、H2/D2の供給源比率=1であり、H2/D2の生成物比率=10である。
【0093】
[実施例5]
ガス選択膜:
図16には、開示された実施形態による、開示された改変2DAC(1202)によるガス分離のための例示的なシステム(1600)が例示される。開示された2DAC(1202)は、より大きい分子が通過することを許し、それにより、ガス選択膜を可能にするために照射技術(例えば、電子ビームおよびイオンプラズマなど)によって改変することができる。したがって、開示された2DAC(1202)は、改変パラメータによって指定されるよりも大きいすべての分子に対するバリアのままである。
【0094】
図16には、開示された改変2DAC(1202)が、例えば、ガス混合物を分離するために利用される膜または層としてどのように用いられ得るかの一例が例示される。例えば、工程段階1(1604)と工程段階2(1606)との間の改変された2DAC膜(1602)が、H
2およびO
2が通過することを許すために改変される場合があり、工程段階2(1606)と工程段階3(1608)との間の改変された2DAC膜(1604)が、H
2のみが通過することを許すために改変される場合がある。工程段階1から工程段階3への負の圧力勾配を加え、ガスを再循環してシステム(1600)に通すことによって、工程段階1はCO
2を含有するだけになり、工程段階2はO
2を含有するだけになり、工程段階3はH
2を含有するだけになる。したがって、ガス分離がシステム(1600)において達成される。
【0095】
要約すると、開示された実施形態の二次元非晶質炭素(2DAC)は非結晶性非晶質構造での炭素原子の単原子層を含み得る。その最初の状態において、原子のランダムな配置により、大きい横方向プロトン伝導率、ならびにすべての大きい原子および分子(例えば、H2、O2、CH4など)のためのバリアが可能になる。この高プロトン伝導性膜は、例えば、燃料電池、水素発生および重水素製造の用途において履行することができる。
【0096】
開示された2DACの原子構造および炭素環サイズは、プラズマ、電子ビームまたは他の照射技術への曝露により改変することができる。これにより、より大きい分子が通過することが可能となり、それにより、開示された2DACの使用が数多くのガス分離用途に拡大される。開示された2DACは、単原子層の厚さのみを取り入れながら極めて大きいプロトン伝導率を有しているという点で無類のものである。機械的靭性は、例えば、他の二次元材料と比較した場合、開示された2DACは、亀裂が開示された2DACにおいて伝播するにはおよそ3倍多いエネルギーを必要とすることを意味している。開示された2DACは分子状水素およびより大きい分子に対して不透過性である。したがって、開示された2DACは、ガスがプロトン交換膜を横断すること、したがって、電極触媒集合体(1102)の機能喪失を防止する。開示された2DACは、およそ0.1~10S/cm2のプロトン輸送速度を有している。そのような大きい輸送速度は性能を従来の燃料電池を超えて増大させる。開示された2DACは水素原子核同位体の選択的輸送をもたらす。したがって、輸送速度における違いにより、開示された2DACは水素同位体のためのより効率的な分離膜になる。
【0097】
本開示の多くの実施形態が詳しく説明されているが、様々な改変および変形が、添付された請求項において定義される本発明の範囲から逸脱することなく可能であることは明らかであろう。さらに、本開示におけるすべての例は、本発明の多くの実施形態を例示する一方で、非限定的な例として提供されており、したがって、そのように例示される様々な局面を限定するものとして解釈してはならないことが理解されなければならない。
【0098】
[参考文献]
下記の参考文献は上記で参照されており、参照によって本明細書中に組み込まれる。
1.Sharaf,O.Z.&Orhan,M.F.“An overview of fuel cell technology:Fundamentals and applications”,Renewable and Sustainable Energy Reviews 32,810-853(2014)
2.Schmittinger,W.&Vahidi,A.“A review of the main parameters influencing long-term performance and durability of PEM fuel cells”,Journal of Power Sources 180,1-14(2008)
3.Ferrari,A.C.et al.“Interpretation of Raman spectra of disordered and amorphous carbon”,Physical Review B 61,14095-14107(2000)
4.Robertson,J.“Ultrathin carbon coatings for magnetic storage technology”,Thin Solid Films 383,81-88(2001)
5.Hu,S.et al.“Proton transport through one-atom-thick crystals”,Nature 516,227-230(2014)
6.Das,S.et al.“Measurements of adhesion energy of graphene to metallic substrates”,Carbon 59,121-129(2013)
7.Choi,W.J.et al.“Effects of substrate conductivity on cell morphogenesis and proliferation using tailored,atomic layer deposition-grown ZnO thin films”,Scientific Reports 5,9974(2015)
8.Schriver,M.et al.“Graphene as a Long-Term Metal Oxidation Barrier:Worse Than Nothing”,ACS Nano 7,5763-5768(2013)
9.Wang,J.S.et al.“The mechanical performance of DLC films on steel substrates”,Thin Solid Films 325,163-174(1998)
10.Marcon,et.al.“The head-disk interface roadmap to an areal density of 4 Tbit/in2”,Advances in Tribology 2013,1-8(2013)
11.Reiser,C.A.“A reverse-current decay mechanism for fuel cells”,J Electrochem Solid-State Letters 8,A273-A276(2005)
12.Li,X.S.et al.Large-Area Synthesis of High-Quality and Uniform Graphene Films on Copper Foils Science 324,1312-1314(2009)
【0099】
本出願において引用されるすべての文書、特許、雑誌論文および他の資料は参照によって本明細書中に組み込まれる。
【0100】
どのような刊行物であれ先行刊行物(または当該先行刊行物から導き出される情報)に対する、あるいはどのような事項であれ知られている事項に対する本明細書における言及は、その先行刊行物(または当該先行刊行物から導き出される情報)あるいは知られている事項が、本明細書が関連する努力の分野における共通する一般的知識の一部を形成することを認めるもの、または許すもの、またはどのような形態であれ示唆するものではなく、また、そのようなものとして解釈してはならない。
【0101】
本発明はある特定の実施形態に関連して開示されているが、記載された実施形態に対する数多くの改変、変更および変化が、添付された請求項において定義されるような本発明の領域および範囲から逸脱することなく可能である。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されないこと、しかし、本発明はその完全な範囲が下記請求項の文言およびその同等文言によって定義されていることが意図される。